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特許7052384仮保護膜用樹脂組成物、およびこれを用いた半導体電子部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】仮保護膜用樹脂組成物、およびこれを用いた半導体電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20220405BHJP
   H01L 21/02 20060101ALI20220405BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C08G73/10
H01L21/02 C
H05K3/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018014720
(22)【出願日】2018-01-31
(65)【公開番号】P2019131704
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】有本 真治
(72)【発明者】
【氏名】岡沢 徹
(72)【発明者】
【氏名】藤原 健典
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/164103(WO,A1)
【文献】特開2009-235311(JP,A)
【文献】特開2010-285535(JP,A)
【文献】特開2014-040503(JP,A)
【文献】特開2015-151515(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158679(WO,A1)
【文献】特表2015-501065(JP,A)
【文献】特開2004-055813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08G 73/00-73/26
H05K 3/00
H01L 21/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(A)水酸基を樹脂全体の3.3~7.0質量%含むポリイミド樹脂および(B)溶媒を含有する仮保護膜用樹脂組成物であって、
前記(A)水酸基を樹脂全体の3.3~7.0質量%含むポリイミド樹脂が、一般式(1)で表されるジアミンの残基を含み、一般式(2)で表される酸二無水物の残基および/または一般式(5)で表される酸二無水物の残基を含む仮保護膜用樹脂組成物。
【化1】
(RおよびRはそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数1~30のフルオロアルキル基、水素、ハロゲン、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、フェニル基、スルホン基、ニトロ基およびシアノ基から選ばれる基を示す。aおよびbはそれぞれ1~3の整数を示す。Xは直接結合、または、下記の結合構造を示す。)
【化2】
【化3】
【請求項2】
前記(B)溶媒の大気圧下での沸点が150~180℃である請求項に記載の仮保護膜用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)溶媒が一般式(3)または一般式(4)で表される化合物を含む請求項1または2に記載の仮保護膜用樹脂組成物。
【化4】
(RおよびRはそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基または水素から選ばれる基を示す。Rは水素または水酸基を示す。RおよびRはそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基から選ばれる基を示す。)
【化5】
(R~R11はそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基または水素から選ばれる基を示す。)
【請求項4】
前記(B)溶媒がN,N,2-トリメチルプロピオンアミド、またはN,N,N’,N’-テトラメチルウレアのいずれかを含む請求項1~のいずれかに記載の仮保護膜用樹脂組成物。
【請求項5】
少なくとも(1)半導体電子回路形成基板の主面上に請求項1~のいずれかに記載の仮保護膜用樹脂組成物を塗布して仮保護膜を形成する工程、(2)前記半導体電子回路形成基板の裏面を加工する工程、(3)前記仮保護膜を有機溶媒またはアルカリ水溶液で除去する工程をこの順に有する半導体電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記(2)半導体電子回路形成基板の裏面を加工する工程に、200~500℃の熱処理工程を含む、請求項に記載の半導体電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記(2)半導体電子回路形成基板の裏面を加工する工程に、前記仮保護膜と200~500℃の熱板が接する工程を含む、請求項5または6に記載の半導体電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記有機溶媒がモノエタノールアミンを含有する請求項5~7のいずれかに記載の半導体電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記有機溶媒またはアルカリ水溶液の温度が20~70℃である請求項5~8のいずれかに記載の半導体電子部品の製造方法。
【請求項10】
前記半導体電子回路形成基板主面の少なくとも一部が、耐熱性保護膜である請求項5~9のいずれかに記載の半導体電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は仮保護膜用樹脂組成物、およびこれを用いた半導体電子部品の製造方法に関する。より詳しくは、耐熱性に優れ、半導体電子回路形成基板の裏面を200℃~500℃で熱処理する工程において、熱処理装置に付着することなく、主面の破損を防止し、その後、温和な条件で除去する事ができる仮保護膜用樹脂組成物、およびこれを用いた半導体電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体電子部品では、高性能化や薄型化のため、基板の表裏両面を加工する製造方法が行われる場合がある。例えば、パワーデバイスの1つであるIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)では、半導体電子回路形成基板の主面に半導体電子回路を形成した後、裏面にイオン注入と活性化熱処理を行うことで、バッファ層およびコレクタ層を形成する。また、半導体チップをシリコン貫通電極(TSV:Through Silicon Via)によって接続しながら積層する半導体素子では、パッケージを薄くするため、半導体電子回路形成基板の裏面を研磨して薄化し、その後、この裏面に電極などを形成する工程がある。
【0003】
このように、半導体電子回路形成基板を裏面加工する場合、半導体電子回路を形成した主面を下側にして搬送や裏面加工をするため、主面の半導体電子回路が破損するおそれがある。そのため、一時的に主面を保護し、裏面加工後に温和な条件で除去できる仮保護膜が必要である。また、裏面加工に熱処理工程がある場合、仮保護膜には耐熱性が求められる。
【0004】
このような仮保護膜としては、アクリル系材料を塗布して仮保護し、その後、温水で除去するもの(例えば、特許文献1参照)や、ポリビニルピロリドン系の材料を塗布して仮保護し、その後、水または有機溶剤で除去するものが提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2009-139357号公報(特許請求の範囲)
【文献】WO2009-101938号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アクリル系や、ポリビニルピロリドン系材料の耐熱性は150℃程度であり、200℃~500℃の熱処理工程では、仮保護膜が熱処理装置に付着する問題や、熱処理工程で仮保護膜が変質して、その後に除去できない問題がある。
【0007】
かかる状況に鑑み、本発明の目的は、耐熱性に優れ、半導体電子回路形成基板の裏面を200℃~500℃で熱処理する工程において、主面の破損を防止し、熱処理装置に付着することなく、その後、温和な条件で除去する事ができる仮保護膜用樹脂組成物、およびこれを用いた半導体電子部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、少なくとも(A)水酸基を樹脂全体の2~30質量%含むポリイミド樹脂および(B)溶媒を含有質量%する仮保護膜用樹脂組成物である。
また、少なくとも(1)半導体電子回路形成基板の主面に仮保護膜用樹脂組成物を塗布して仮保護膜を形成する工程、(2)前記半導体電子回路形成基板の裏面を加工する工程、(3)前記仮保護膜を有機溶媒またはアルカリ水溶液で除去する工程をこの順に有する半導体電子部品の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性に優れ、半導体電子回路形成基板の裏面を200℃~500℃で熱処理する工程において、主面の破損を防止し、熱処理装置に付着することなく、その後、温和な条件で除去する事ができる仮保護膜用樹脂組成物、およびこれを用いた半導体電子部品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、仮保護膜とは、製造工程の一時的な保護に用い、最終製品である半導体電子部品に残らない保護膜のことを言う。より詳しくは、半導体電子回路形成基板を裏面加工する場合に、一時的に主面を保護し、その後、除去する保護膜である。 本発明は、少なくとも(A)水酸基を樹脂全体の2~30質量%含むポリイミド樹脂、(B)溶媒を含有質量%する仮保護膜用樹脂組成物である。
【0011】
本発明の(A)ポリイミド樹脂は、水酸基を樹脂全体の2~30質量%含む。水酸基の含有量が2質量%以上であると、仮保護膜を温和な条件で除去する事ができる。好ましくは3質量%以上、より好ましくは4質量%以上である。一方、30質量%以下であると、ポリイミド樹脂の構造が剛直になり、熱処理装置に仮保護膜が付着することを防ぐことができる。好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。ポリイミド樹脂中の水酸基の含有量は、合成に用いられる全成分中の水酸基の含有量から算出することができる。
また、(A)ポリイミド樹脂は、加熱により閉環しポリイミドとなるポリイミド前駆体であっても、加熱により閉環したポリイミドであっても、ポリイミド樹脂の一部が加熱により閉環したポリイミド前駆体であってもよい。
【0012】
また、(A)ポリイミド樹脂は、芳香族環を含むテトラカルボン酸二無水物残基と、芳香族環を含むジアミン残基を有することが好ましい。芳香族環を含むテトラカルボン酸二無水物残基とジアミン残基を有することで、ポリイミド樹脂の構造が剛直になり、耐熱性が向上するため、熱処理装置に仮保護膜が付着することを防ぐことができる。
【0013】
芳香族環を含むジアミンの具体例としては、2,5-ジアミノフェノール、3,5-ジアミノフェノール、3,3’-ジヒドロキシベンジジン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアミノフェニルプロパン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアミノフェニルヘキサフルオロプロパン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアミノフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアミノフェニルエーテル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアミノフェニルプロパンメタン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアミノベンゾフェノン、1,3-ビス(4-アミノ-3-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、ビス(4-(4-アミノ-3-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン)プロパン、ビス(4-(3-アミノ-4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン)スルホン、ビス(4-(3-アミノ-4-ヒドロキシフェノキシ))ビフェニル、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノトルエン、3,5-ジアミノ安息香酸、2,6-ジアミノ安息香酸、2-メトキシ-1,4-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,4’-ジアミノベンズアニリド、3,3’-ジアミノベンズアニリド、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノベンズアニリド、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3-メチル-4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3,5-ジメチル-4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3-メトキシ-4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン-4-カルボン酸、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン-4-メチル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン-4-メトキシ、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン-4-エチル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン-4-スルホン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン-3-カルボン酸、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン-3-メチル、1,3-ジアミノシクロヘキサン、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、2,4-ジアミノピリジン、2,6-ジアミノピリジン、1,5-ジアミノナフタレン、2,7-ジアミノフルオレン、p-アミノベンジルアミン、m-アミノベンジルアミン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルサルファイド、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンなどが挙げられる。上記芳香族ジアミンは単独でもよく、2種以上を使用してもよい。
【0014】
これら芳香族ジアミンの中でも、水酸基を有する芳香族ジアミンが好ましく、より好ましくは一般式(1)で表される化合物が好ましい。水酸基を有する芳香族ジアミンを含むことで、(A)ポリイミド樹脂に水酸基を導入する事ができ、仮保護膜の溶解性が向上し、仮保護膜を温和な条件除去する事ができる。
【0015】
【化1】
【0016】
(RおよびRはそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数1~30のフルオロアルキル基、水素、ハロゲン、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、フェニル基、スルホン基、ニトロ基およびシアノ基から選ばれる基を示す。aおよびbはそれぞれ1~3の整数を示す。Xは直接結合、または、下記の結合構造を示す。)
【0017】
【化2】
【0018】
また、一般式(1)で表される化合物のXの構造は、仮保護膜の溶解性の観点から下記の結合構造が好ましい。
【0019】
【化3】
【0020】
本発明の(A)ポリイミド樹脂では、芳香族環を含むジアミン残基の含有量は、耐熱性の観点から、全ジアミン残基中80モル%以上、100モル%以下が好ましい。
また、(A)ポリイミド樹脂の耐熱性を損なわない程度に脂環式ジアミンまたは、シリコン原子含有ジアミンの残基を有してもよい。これらのジアミンの例としては、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、3,3’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジシクロヘキシル、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3-ビス(4-アニリノ)テトラメチルジシロキサンなどを挙げることができる。これらのジアミンは単独でもよく、2種以上用いてもよい。
【0021】
一方、芳香族環を含むテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’ジメチル-3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、5,5’ジメチル-3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホキシドテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフィドテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルメチレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-イソプロピリデンジフタル酸無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3”,4,4”-パラターフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3”,4,4”-メタターフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。上記芳香族環を含むテトラカルボン酸二無水物は単独でもよく、2種以上使用してもよい。
【0022】
これら芳香族環を含むテトラカルボン酸二無水物の中でもさらに、一般式(2)で表される構造のテトラカルボン酸二無水物を含むことが、好ましい。一般式(2)で表される構造のテトラカルボン酸二無水物を含むことで、ポリイミド樹脂が剛直になり、耐熱性が向上するため、熱処理装置に仮保護膜が付着することを防ぐことができる。また、芳香族環を含むテトラカルボン酸二無水物の中で最も分子量が低いため、水酸基を有する芳香族ジアミンと組み合わせることで、ポリイミド樹脂の水酸基の含有量を高くすることができ、仮保護膜を温和な条件で除去する事ができる。
【0023】
【化4】
【0024】
本発明の(A)ポリイミド樹脂は、芳香族環を含むテトラカルボン酸二無水物の残基の含有量は、耐熱性の観点から、全テトラカルボン酸二無水物残基中80モル%以上、100モル%以下が好ましい。
【0025】
また、(A)ポリイミド樹脂の耐熱性を損なわない程度に脂肪族環を持つテトラカルボン酸二無水物を含有させることができる。脂肪族環を持つテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,5-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-ビシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-C]フラン-1,3-ジオンが挙げられる。上記テトラカルボン酸二無水物は単独でもよく、2種以上を使用してもよい。
【0026】
また、(A)ポリイミド樹脂の分子量の調整は、合成に用いるテトラカルボン酸成分およびジアミン成分を等モルにする、またはいずれかを過剰にすることにより行うことができる。テトラカルボン酸成分またはジアミン成分のどちらかを過剰とし、ポリマー鎖末端を酸成分またはアミン成分などの末端封止剤で封止することもできる。酸成分の末端封止剤としてはジカルボン酸またはその無水物が好ましく用いられ、アミン成分の末端封止剤としてはモノアミンが好ましく用いられる。このとき、酸成分またはアミン成分の末端封止剤を含めたテトラカルボン酸成分の酸当量とジアミン成分のアミン当量を等モルにすることが好ましい。
【0027】
テトラカルボン酸成分が過剰、あるいはジアミン成分が過剰になるようにモル比を調整した場合は、安息香酸、無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、アニリンなどのジカルボン酸またはその無水物、モノアミンを末端封止剤として添加してもよい。
【0028】
本発明において、ポリイミド共重合体およびポリイミド樹脂のテトラカルボン酸成分/ジアミン成分のモル比は、樹脂組成物の粘度が塗工等において使用し易い範囲になるように、適宜調整することができ、100/100~100/95、あるいは100/100~95/100の範囲でテトラカルボン酸成分/ジアミン成分のモル比を調整することが一般的である。モルバランスを崩していくと、樹脂の分子量が低下し、形成した膜の機械的強度が低くなり、粘着力も弱くなる傾向にあるので、粘着力が弱くならない範囲でモル比を調整することが好ましい。
【0029】
本発明の(A)ポリイミド樹脂を重合する方法には特に制限は無い。例えば、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を重合する時は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを有機溶剤中、0~100℃で1~100時間撹拌してポリアミド酸樹脂溶液を得る。ポリイミド樹脂が有機溶媒に可溶性となる場合には、ポリアミド酸を重合後、そのまま温度を120~300℃に上げて1~100時間撹拌し、ポリイミドに変換し、ポリイミド溶液を得る。この時、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンなどを反応溶液中に添加し、イミド化反応で出る水をこれら溶媒と共沸させて除去しても良い。
【0030】
本発明の仮保護膜用樹脂組成物に含有する(A)ポリイミド樹脂の濃度は、塗布性の観点から通常5~80質量%が好ましく、さらに好ましくは10~70質量%であることが好ましい。
【0031】
本発明の仮保護膜用樹脂組成物は、(B)溶媒を含有する。
ポリイミド樹脂の重合では、溶解性の観点から、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を使用することが多い。しかしながら、NMPは生体への影響が懸念され、さらに、大気圧下での沸点が202℃と高いため、熱硬化工程で仮保護膜から溶媒が十分に揮発せず、耐熱性が低下する問題がある。
【0032】
本発明の(B)溶媒は、大気圧下での沸点が150~180℃であることが好ましい。大気圧下での沸点が180℃以下であれば、熱硬化工程で仮保護膜から溶媒が十分に揮発し、耐熱性を向上することができる。また、(A)ポリイミド樹脂が前述のポリイミドである場合、大気圧下での沸点が150℃以上であれば、重合溶媒として好適に用いることができ、さらに、重合溶液を除去することなく、仮保護膜用樹脂組成物に含まれる(B)溶媒とすることもできる。
【0033】
また、(B)溶媒は、ポリイミド樹脂の溶解性の観点から、窒素含有極性溶媒が好ましく、さらに、生体への影響の観点から、一般式(3)または一般式(4)で表される溶媒を含むことが好ましい。
【0034】
【化5】
【0035】
(RおよびRはそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基または水素から選ばれる基を示す。Rは水素または水酸基を示す。RおよびRはそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基、炭素数1~30のアルコキシ基から選ばれる基を示す。)
【0036】
【化6】
【0037】
(R~R11はそれぞれ同じでも異なっていても良く、炭素数1~30のアルキル基または水素から選ばれる基を示す。)
一般式(3)で表される溶媒の具体例としては、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、N-エチル,N,2-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチル-2-メチルプロピオンアミド、N,N,2-トリメチル-2-ヒドロキシプロピオンアミド、N-エチル-N,2-ジメチル-2-ヒドロキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアミドなどが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を用いても良い。
【0038】
一般式(4)で表される溶媒の具体例としては、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア、N,N,N’,N’-テトラエチルウレアなどが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を用いても良い。
【0039】
本発明の仮保護膜用樹脂組成物に含まれる(B)溶媒は、一般式(3)または一般式(4)で示され、かつ大気圧下での沸点が150~180℃の溶媒がより好ましい。具体例としては、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド(沸点;175℃)、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア(沸点;177)などが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を用いても良い。
【0040】
また、(A)ポリイミド樹脂の溶解性を効果を損なわない範囲で、その他の溶媒を添加することができる。例えば、エチレングリゴールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、イソブチルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のアセテート類、アセチルアセトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、2-ヘプタノン等のケトン類、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、その他、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトンなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらは単独で用いても良いし、2種以上を用いても良い。
【0041】
本発明の仮保護膜用樹脂組成物に架橋剤を含む場合、架橋剤の含有量は、(A)ポリイミド樹脂に対して0.1質量%以下が好ましい。架橋剤が0.1質量%以下であると、ポリイミド樹脂に架橋が生じず、仮保護膜を温和な条件で除去する事ができる。より好ましくは0.01質量%以下であり、さらに好ましくは0.001質量%以下である。ここで言う架橋剤とは、(A)ポリイミド樹脂を架橋するものであれば特に制限はないが、具体的には、エチニル基、ビニル基、メチロール基、メトキシメチロール基、エポキシ基、オキセタン基などの基を1~6個有した化合物である。
【0042】
本発明の仮保護膜用樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、無機微粒子を含有してもよい。無機微粒子を含有することで樹脂組成物の耐熱性を向上させることができる。無機微粒子の具体例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、石英粉、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、硫酸バリウム、マイカ、タルクなどが挙げられる。
【0043】
本発明の(A)ポリイミド樹脂がポリアミド前躯体の場合は、ウエハやガラス等の基材に塗布、乾燥して塗工膜を形成した後に、熱処理してポリイミドに変換する。塗工後にポリイミド前駆体からポリイミドへの変換には240℃以上の温度が必要であるが、ポリアミド酸樹脂組成物中にイミド化触媒を含有することにより、より低温、短時間でのイミド化が可能となる。イミド化触媒の具体例としては、ピリジン、トリメチルピリジン、β-ピコリン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2,6-ルチジン、トリエチルアミン、m-ヒドロキシ安息香酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシフェニル酢酸、4-ヒドロキシフェニルプロピオン酸、p-フェノールスルホン酸、p-アミノフェノール、p-アミノ安息香酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
本発明の仮保護膜用樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でその他の樹脂を添加することができる。その他の樹脂としては、アクリル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂などの耐熱性高分子樹脂が挙げられる。また、接着性、耐熱性、塗工性、保存安定性などの特性を改良する目的で界面活性剤、シランカップリング剤などを添加しても良い。
【0045】
本発明の仮保護膜用樹脂組成物は、半導体電子部品の製造に用いることができる。詳しくは、少なくとも(1)半導体電子回路形成基板の主面に本発明の仮保護膜用樹脂組成物を塗布して仮保護膜を形成する工程、(2)前記半導体電子回路形成基板の裏面を加工する工程、(3)前記仮保護膜を有機溶媒またはアルカリ水溶液で除去する工程をこの順に有する半導体電子部品の製造に好適に用いることができる。
【0046】
このように、半導体電子回路形成基板を裏面加工する場合、半導体電子回路を形成した主面を下側にして搬送や裏面加工をするため、主面に形成した半導体電子回路が破損するおそれがある。本発明の仮保護膜用樹脂組成物は、半導体電子回路形成基板を裏面加工する際の、一時的な主面の仮保護膜として好適に用いることができ、裏面加工後に温和な条件で除去することができる。
【0047】
また、裏面加工に熱処理工程がある場合、仮保護膜には耐熱性が求められる。本発明の仮保護膜用樹脂組成物は、200~500℃の熱処理工程でも仮保護膜が熱処理装置に付着することなく、その後、温和な条件で除去する事ができる。
なお、本発明において、主面とは、先に半導体電子回路を形成する側の面を言う。裏面とは、その後に半導体電子回路を形成する側の面を言う。
【0048】
(1)半導体電子回路形成基板の主面上に本発明の仮保護膜用樹脂組成物を塗布して、仮保護膜を形成する工程について、説明する。
【0049】
半導体電子回路形成基板の主面上に本発明の仮保護膜用樹脂組成物を塗布する方法としては、スピンコーター、ロールコーター、スクリーン印刷、スリットダイコーターなどが挙げられる。また、樹脂組成物を塗布後100~150℃で乾燥させた後に、200~500℃で1時間~3時間連続的または断続的に熱硬化処理を行うことで、耐熱性の良好な仮保護膜を得ることができる。熱硬化処理の温度が、200℃以上であれば、(B)溶媒を十分に除去でき、耐熱性が向上する。より好ましくは250℃以上であり、さらに好ましくは300℃以上である。さらに、熱硬化処理の温度が、500℃以下であれば、(A)ポリイミド膜の酸化劣化を防止し、仮保護膜を温和な条件で除去することができる。より好ましくは430℃以下であり、さらに好ましくは410℃以下である。
【0050】
また、熱硬化処理は窒素雰囲気下で行うことが好ましい。窒素雰囲気下で熱硬化処理を行うことで、(A)ポリイミド膜の酸化劣化を防止し、仮保護膜を温和な条件で除去することができる。
【0051】
仮保護膜の厚みは、0.1μm以上60μm以下が好ましい。厚みが0.1μm以上であると半導体電子回路形成基板の主面の破損を防止することができる。より好ましくは、0.5μm以上であり、さらに好ましくは1.0μm以上である。また、厚みが60μm以下であると、仮保護膜の除去工程の時間が短くすることができる。より好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは40μm以下である。
【0052】
(2)前記半導体電子回路形成基板の裏面を加工する工程について、説明する。
【0053】
本発明では、半導体電子回路形成基板の裏面を加工する工程であれば特に制限はない。
半導体電子回路形成基板の裏面加工する場合、半導体電子回路を形成した主面を下側にして搬送や裏面加工をするため、主面に形成した半導体電子回路が破損するおそれがある。本発明の仮保護膜用樹脂組成物は、半導体電子回路形成基板の裏面加工する際の、一時的な主面の仮保護膜として用いることができる。特に、200~500℃の熱処理工程がある裏面工程の一時的な主面の仮保護膜として好適に用いることができる
200~500℃の熱処理装置は、特に制限はなく、オーブンのように高温雰囲気で加熱する装置や、ホットプレートのように仮保護膜と熱板が接して加熱する装置などに用いることができる。本発明の仮保護膜用樹脂組成物を用いることで、主面の破損を防止し、仮保護膜が熱処理装置に付着することなく、200~500℃の裏面工程行うことができる。
(3)前記仮保護膜を有機溶媒またはアルカリ水溶液で除去する工程について、説明する。
【0054】
本発明の仮保護膜は、有機溶媒またはアルカリ水溶液で除去することができる。
有機溶媒には、アミン系溶媒を含むことが好ましい。具体的には、モノメタノールアミン、ジメタノールアミン、トリメタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミンなどが挙げられるが、これに限定されない。コストの観点から、モノエタノールアミンがより好ましい。アミン系溶媒は、ポリイミド樹脂のイミド基を開環させ有機溶剤に溶解しやすくする効果があり、洗浄時間を短縮することができる。
【0055】
有機溶媒の溶解性の効果を損なわない範囲でその他の溶媒を添加することができる。例えば、エチレングリゴールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、イソブチルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のアセテート類、アセチルアセトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、2-ヘプタノン等のケトン類、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、その他、N-メチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドンN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、N,N,2-トリメチルプロピオンアミド、N-エチル,N,2-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチル-2-メチルプロピオンアミド、N,N,2-トリメチル-2-ヒドロキシプロピオンアミド、N-エチル-N,2-ジメチル-2-ヒドロキシプロピオンアミド、N,N-ジエチル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアミドN,N,N’,N’-テトラエチルウレアなどが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を用いても良い。
【0056】
アルカリ水溶液として、具体的には、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどの水溶液などが挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を用いても良い。有機溶媒とアルカリ水溶液の混合液を用いても良い。
【0057】
仮保護膜を除去する際の有機溶媒またはアルカリ水溶液の温度は、20~70℃が好ましい。半導体電子回路形成基板の少なくとも一部が、耐熱性保護膜である場合、有機溶媒またはアルカリ水溶液の温度が70℃を超えると、耐熱性保護膜が破損するおそれがある。より好ましくは、60℃以下であり、さらに好ましくは、50℃以下である。有機溶媒またはアルカリ水溶液の温度が20℃未満の場合、有機溶媒またはアルカリ水溶液の冷却装置が必要であり、コストの観点から好ましくない。
【0058】
本発明において、耐熱性保護膜とは、最終製品である半導体電子部品に組み込まれる保護膜を言う。例えば、ポリイミド系耐熱性樹脂(東レ株式会社製セミコファインSPシリーズ等)や、ポリベンゾオキサゾール系耐熱性樹脂(旭化成株式会社製パイメルAM-270シリーズ等)が挙げられる。
【実施例
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
熱処理装置への付着評価、仮保護膜除去時間評価、仮保護膜除去後の目視評価、耐熱性保護膜の膜厚評価の評価方法について述べる。
【0060】
(1)熱処理装置への付着評価
厚さ750μmの8インチシリコンウエハ(信越化学工業(株)社製)上に、耐熱性保護膜であるポリイミドコーティング剤セミコファインSP-341(商品名、東レ(株)製)を硬化後の厚みが8μmになるようにスピンコーターで回転数を調整して塗布し、120℃で10分熱処理して乾燥した後、320℃で30分間熱処理して硬化を行い、耐熱性保護膜付きシリコン基板を得た。
【0061】
次に、耐熱性保護膜付きシリコン基板上に、下記合成例1~10、製造例1で作成した仮保護膜用樹脂組成物を、下記表2に記載の硬化後膜厚になるようにスピンコーターで回転数を調整して塗布し、120℃で10分熱処理して乾燥した後、窒素オーブンで下記表2に記載の硬化温度で60分間熱処理して硬化を行い、仮保護膜積層シリコン基板を得た。
【0062】
上記方法で作製した仮保護膜積層シリコン基板の仮保護膜面と、ホットプレートの熱板とが接するように設置し、10分間の熱処理を行い、その後、ウエハ用ピンセットで仮保護膜積層シリコン基板をピックアップした。熱処理温度は、下記表2に記載した。
このとき、仮保護膜積層シリコン基板をピックアップできれば熱処理装置への付着評価“A”、ホットプレートに接着してピックアップできなければ熱処理装置への付着評価“C”とした。
【0063】
また、評価後のホットプレートを肉眼で観察し、仮保護膜の残渣の有無を確認した。評価基準は下記のとおりである。
A:ホットプレートに仮保護膜の残渣無し
B:ホットプレートに仮保護膜の残渣有り。
【0064】
(2)仮保護膜除去時間評価
上記で熱処理装置への付着評価をした仮保護膜積層シリコン基板を、下記表2に記載の除去液、温度条件で浸漬し、仮保護膜を除去した。評価基準は下記のとおりである。なお、表2において、有機溶剤とあるのは後述する製造例1で製造した有機溶剤のことである。
A:10分以内に除去できた。
B:10分以上20分以内に除去できた。
C:20分以上30分以内に除去できた。
D:30分以内に除去できなかった。
【0065】
(3)仮保護膜除去後の目視評価
上記で仮保護膜除去評価をした耐熱性保護膜付きシリコン基板を肉眼で観察し、搬送時に付いたキズの有無を確認した。評価基準は下記のとおりである。
A:キズ無し
B:キズ有り
(4)耐熱性保護膜の膜厚評価
上記で仮保護膜除去後の目視評価をした耐熱性保護膜付きシリコン基板の耐熱性保護膜の膜厚を測定し、初期膜厚8μmと比較した。評価基準は下記のとおりである。
A:耐熱性保護膜の膜厚に変化無し
B:耐熱性保護膜の膜減りが1μm以下
C:耐熱性保護膜の膜減りが1μm以上。
【0066】
以下の合成例、製造例に示してある酸二無水物、ジアミン、架橋剤、および溶媒の略記号の名称は下記の通りである。
ODPA:3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BAHF: 2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン
ABPS:4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジアミノフェニルスルホン
FDA:9,9-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン
APB:1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン
SiDA:1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(3-アミノ プロピル)ジシロキサン
DMIB:N,N,2-トリメチルプロピオンアミド
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
GBL:γ-ブチロラクトン
DMM:ジプロピレングリコールジメチルエーテル。
【0067】
合成例1(ポリイミドの重合)
温度計、乾燥窒素導入口、温水・冷却水による加熱・冷却装置、および、撹拌装置を付した反応釜に、BAHF 347.9g(0.95mol)、SiDA 12.4g(0.05mol)をDMIB 1735.5gと共に仕込み、溶解させた後、PMDA 218.1g(1mol)を添加し、50℃で1時間、続いて160℃で4時間反応させて、仮保護膜用樹脂組成物である25質量%のポリイミド溶液(PA1)を得た。
【0068】
ポリイミド溶液を室温に戻し、析出物の有無を目視評価で確認し、結果を表1にまとめた。また、ポリイミド樹脂中の水酸基の含有量を下記のように計算し、結果を表1にまとめた。
<ポリイミド樹脂中の水酸基の含有量>
1.ポリイミド樹脂原料のトータル量を計算する。
【0069】
347.9g(BAHF)+12.4g(SiDA)+218.1g(PMDA)=578.4g
2.ポリイミド樹脂原料のトータル量から、イミド化反応による脱水量を引き、ポリイミド樹脂の重量を計算する。(脱水量は1.8molと仮定)
578.4g-(18.0g/mol×1.8mol)=546.0g(ポリイミド樹脂の重量)
3.ポリイミド樹脂中の水酸基重量を計算する。(BAHF中に2個有する。)
17.0g/mol×0.95mol×2=32.3g(ポリイミド樹脂中の水酸基重量)
4.ポリイミド樹脂中の水酸基含有量を計算する。
(32.3g/546.0g*100=5.9wt%
合成例2~10(ポリイミドの重合)
酸二無水物、ジアミン、溶媒の種類と仕込量を表1のように変えた以外は合成例1と同様の操作を行い、仮保護膜用樹脂組成物である25質量%のポリイミド溶液(PA2~PA10)を得た。
ポリイミド溶液を室温に戻し、析出物の有無を目視評価で確認し、結果を表1に記載した。また、ポリイミド樹脂中の水酸基の含有量を合成例1と同様に計算し、結果を表1に記載した。
【0070】
【表1】
【0071】
製造例1(有機溶剤の調整)
撹拌装置を付した反応釜に、モノエタノールアミン30g、DMM30g、N-メチル-2-ピロリドン30gを仕込み、室温で1時間撹拌して、有機溶剤を得た。
【0072】
実施例1
厚さ750μmの8インチシリコンウエハ(信越化学工業(株)社製)上に、耐熱性保護膜であるポリイミドコーティング剤セミコファインSP-341(商品名、東レ(株)製)を乾燥後の厚みが8μmになるようにスピンコーターで回転数を調整して塗布し、120℃で10分熱処理して乾燥した後、320℃で30分間熱処理して硬化を行い、耐熱性保護膜付きシリコン基板を得た。
【0073】
次に、耐熱性保護膜付きシリコン基板上に、合成例1で作成した仮保護膜用樹脂組成物を、4μmの硬化後膜厚になるようにスピンコーターで回転数を調整して塗布し、120℃で10分熱処理して乾燥した後、窒素オーブンで300℃60分間熱処理して硬化を行い、仮保護膜積層シリコン基板を得た。得られた仮保護膜積層シリコン基板を用いて熱処理装置への付着評価、仮保護膜除去時間評価、仮保護膜除去後の目視評価、耐熱性保護膜の膜厚評価を行い、結果を表2にまとめた。
【0074】
実施例2~25
仮保護膜樹脂組成物、仮保護膜の硬化後膜厚と硬化温度を表2のごとく変えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、仮保護膜積層シリコン基板を得た。
【0075】
得られた仮保護膜積層シリコン基板を用いて表2に記載の条件で、熱処理装置への付着評価、仮保護膜除去時間評価、仮保護膜除去後の目視評価、耐熱性保護膜の膜厚評価を行い、結果を表2にまとめた。
【0076】
比較例1~3
仮保護膜樹脂組成物、仮保護膜の硬化後膜厚と硬化温度を表2のごとく変えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、仮保護膜積層シリコン基板を得た。
【0077】
得られた仮保護膜積層シリコン基板を用いて熱処理装置への付着評価、仮保護膜除去時間評価、仮保護膜除去後の目視評価、耐熱性保護膜の膜厚評価を行い、結果を表2にまとめた。
【0078】
【表2】