(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】電動ギヤポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 15/00 20060101AFI20220405BHJP
【FI】
F04C15/00 J
(21)【出願番号】P 2018019575
(22)【出願日】2018-02-06
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】香川 弘毅
【審査官】嘉村 泰光
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-207177(JP,A)
【文献】特開2017-025741(JP,A)
【文献】特開2014-147170(JP,A)
【文献】特開2013-113434(JP,A)
【文献】特開2006-345583(JP,A)
【文献】特開2004-044393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/08-2/28
F04C 11/00-15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ電流の供給を受けてモータシャフトが回転する電動モータと、
前記モータシャフトに連結されて回転する駆動ギヤと、
前記駆動ギヤとのギヤ歯同士の噛み合いにより回転する従動ギヤと、
前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤを収容するポンプハウジングと、
前記モータ電流を出力して前記電動モータを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記電動モータを停止状態から始動させる際及び前記電動モータの回転を反転させる際に、前記モータ電流を抑制して前記電動モータの回転速度を
所定値以下に制限する回転速度制限制御を
開始し、その後、前記駆動ギヤのギヤ歯と前記従動ギヤのギヤ歯とが前記電動モータの回転方向に当接するまでの空転期間の終了によって前記回転速度制限制御を終了し、
前記電動モータの回転速度に係る前記所定値は、前記空転期間が終了し、前記駆動ギヤのギヤ歯と前記従動ギヤのギヤ歯とが当接する時に発生する衝突音の大きさに基づいて定められた値である、
電動ギヤポンプ。
【請求項2】
前記制御部は、前記電動モータの回転速度指令値を受信する受信手段と、前記受信した回転速度指令値を
前記所定値以下に制限することが可能な速度制限手段と、前記受信した回転速度指令値又は前記速度制限手段により制限された回転速度指令値に応じた回転速度で前記電動モータが回転するように前記モータ電流をフィードバック制御するフィードバック制御手段とを有し、
前記速度制限手段が前記空転期間において前記受信した回転速度指令値を前記所定値以下に制限することにより前記回転速度制限制御を実行する、
請求項1に記載の電動ギヤポンプ。
【請求項3】
前記制御部は、前記電動モータの回転速度指令値を受信する受信手段と、前記回転速度指令値に基づいて前記モータ電流の目標値である電流指令値を演算する速度制御手段と、前記演算した電流指令値に基づいて前記電動モータに印加すべき電圧の目標値である電圧指令値を演算する電流制御手段とを有し、
前記回転速度制限制御は、前記空転期間において前記速度制御手段又は前記電流制御手段が演算した前記電流指令値又は前記電圧指令値を制限する制御である、
請求項1に記載の電動ギヤポンプ。
【請求項4】
車両に搭載され、
前記電動モータの回転速度に係る前記所定値は、前記衝突音の大きさと前記駆動ギヤの回転エネルギーとの関係に基づいて定められ、前記空転期間が終了する時の前記駆動ギヤの回転エネルギーが、前記車両の運転者等に聴取され得る音量の衝突音が発生するエネルギーよりも小さくなるように定められた値である、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の電動ギヤポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを駆動源とする電動ギヤポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動モータにより駆動される駆動ギヤと、駆動ギヤの回転により回転する従動ギヤとを備えた電動式のギヤポンプが、様々な用途に用いられている。このようなギヤポンプが例えば車両に搭載される場合には、ギヤポンプの始動時や回転方向反転時にギヤ歯同士が衝突することによって発生する騒音が問題となるおそれがある。
【0003】
特許文献1に記載されたギヤポンプは、一対のギヤのうち両方又は一方のギヤの噛み合い歯面に被摩耗層を厚めに設けておき、使用開始当初にこの被摩耗層の一部が摩耗することで一対のギヤのバックラッシを略ゼロとし、騒音を低減するように構成されている。被摩耗層は、例えば二硫化モリブデンや四フッ化エチレン等からなる比較的柔らかい固体潤滑材である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたギヤポンプでは、バックラッシを略ゼロとすることにより騒音の低減が見込まれるが、被摩耗層を柔らかい固体潤滑材により構成する必要があるので、例えば吐出圧等によっては、使用開始当初に被摩耗層が摩耗した後にも被摩耗層の摩耗が進行するおそれがある。この場合、バックラッシが拡大してしまい、ギヤポンプの始動時やギヤの回転方向の反転時に歯当たりによる騒音が発生してしまうおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、電動モータと、電動モータにより駆動される駆動ギヤと、駆動ギヤの回転により回転する従動ギヤとを備え、駆動ギヤと従動ギヤとのバックラッシがある場合でも騒音を抑制することが可能な電動ギヤポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するため、モータ電流の供給を受けてモータシャフトが回転する電動モータと、前記モータシャフトに連結されて回転する駆動ギヤと、前記駆動ギヤとのギヤ歯同士の噛み合いにより回転する従動ギヤと、前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤを収容するポンプハウジングと、前記モータ電流を出力して前記電動モータを制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記電動モータを停止状態から始動させる際及び前記電動モータの回転を反転させる際に、前記モータ電流を抑制して前記電動モータの回転速度を所定値以下に制限する回転速度制限制御を開始し、その後、前記駆動ギヤのギヤ歯と前記従動ギヤのギヤ歯とが前記電動モータの回転方向に当接するまでの空転期間の終了によって前記回転速度制限制御を終了し、前記電動モータの回転速度に係る前記所定値は、前記空転期間が終了し、前記駆動ギヤのギヤ歯と前記従動ギヤのギヤ歯とが当接する時に発生する衝突音の大きさに基づいて定められた値である、電動ギヤポンプを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電動モータと、電動モータにより駆動される駆動ギヤと、駆動ギヤの回転により回転する従動ギヤとを備えた電動ギヤポンプにおいて、駆動ギヤと従動ギヤとのバックラッシがある場合でも騒音を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態に係る外接ギヤポンプを示す断面図である。
【
図2】外接ギヤポンプのポンプ部を示す分解斜視図である。
【
図3】電動モータが正回転する際の動作状態を説明する説明図である。
【
図4】電動モータが逆回転する際の動作状態を説明する説明図である。
【
図6】変形例に係る制御部の構成例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1乃至
図5を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0011】
(外接ギヤポンプの構造)
図1は、本発明の実施の形態に係る外接ギヤポンプを示す断面図である。
図2は、外接ギヤポンプのポンプ部を示す分解斜視図である。
図3は、電動モータが正回転する際の外接ギヤポンプの動作状態を説明する説明図である。
図4は、電動モータが逆回転する際の外接ギヤポンプの動作状態を説明する説明図である。
【0012】
外接ギヤポンプ1は、モータ電流の供給を受けてモータシャフト21が回転する電動モータ2と、モータシャフト21に連結されて回転する駆動ギヤ3と、駆動ギヤ3の回転により回転する従動ギヤ4と、樹脂からなる第1及び第2のサイドプレート51,52と、第1及び第2のサイドプレート51,52に保持された滑り軸受53~56と、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4を第1及び第2のサイドプレート51,52ならびに滑り軸受53~56と共に収容するポンプハウジング6と、モータ電流を出力して電動モータ2を制御する制御部7とを備えている。
【0013】
この外接ギヤポンプ1は、車両に搭載され、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4の回転によって車載装置の動作のための作動油を吸入側から吸入して吐出側に吐出する。この車載装置としては、例えばトランスミッションやパワーステアリング装置が挙げられる。
図3では、電動モータ2が正回転する場合の駆動ギヤ3及び従動ギヤ4の回転方向を矢印A
1,A
2で示し、作動油の吸入方向及び吐出方向を白抜きの矢印で示している。
図4では、電動モータ2が逆回転する場合の駆動ギヤ3及び従動ギヤ4の回転方向を矢印B
1,B
2で示し、作動油の吸入方向及び吐出方向を白抜きの矢印で示している。
【0014】
電動モータ2は、モータハウジング20と、モータシャフト21と、モータハウジング20に保持された環状の固定子22と、固定子22の内側に配置された回転子23と、モータシャフト21を支持する転がり軸受24,25と、固定子22に対するモータシャフト21の回転角を検出する回転角センサ26とを有している。
【0015】
固定子22は、鉄心221と、鉄心221に取り付けられたインシュレータ222と、インシュレータ222に巻き付けられた巻線223とを有している。巻線223には、制御部7からモータ電流が供給される。回転子23は、モータシャフト21に固定されたコア231と、コア231の外周面に取り付けられた複数の永久磁石232とを有している。回転角センサ26は、モータシャフト21の一端部に設けられたフランジ211に固定され、複数の磁極を有する永久磁石261と、モータハウジング20に固定され、永久磁石261の磁極の磁界を検出する磁気センサ262とを有している。磁気センサ262の検出信号は制御部7に送られる。
【0016】
駆動ギヤ3は、複数の外歯31が設けられたギヤ部32と、ギヤ部32の中心部から軸方向一側に突出した第1の軸部33と、ギヤ部32の中心部から軸方向他側に突出した第2の軸部34とを一体に有している。第1の軸部33は、その先端部331がカップリング(軸継手)27によって電動モータ2のモータシャフト21に連結されている。電動モータ2は、制御部7からモータ電流の供給を受け、駆動ギヤ3を回転駆動するトルクを発生する。
【0017】
従動ギヤ4は、駆動ギヤ3と同様に、複数の外歯41が設けられたギヤ部42と、ギヤ部42の中心部から軸方向一側に突出した第1の軸部43と、ギヤ部42の中心部から軸方向他側に突出した第2の軸部44とを一体に有している。駆動ギヤ3の複数の外歯31及び従動ギヤ4の複数の外歯41は、本願の請求項に係る発明のギヤ歯に相当し、ポンプハウジング6のポンプ室600内で互いに噛み合っている。従動ギヤ4は、駆動ギヤ3との外歯31,41同士の噛み合いによって回転する。
【0018】
ポンプハウジング6は、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4の外歯31,41の歯先面31a,41a(
図3参照)に対向する内面60aを有する筒部60と、筒部60をその中心軸方向に挟む平板状の第1及び第2の側板部61,62とを有している。筒部60と第1及び第2の側板部61,62ならびにモータハウジング20とは、複数のボルト63によって締結されている。
【0019】
筒部60には、作動油が流通する第1及び第2の流通孔601,602が形成されている。電動モータ2が正回転するとき、第1の流通孔601からポンプ室600内に吸入された作動油が第2の流通孔602から吐出され、電動モータ2が逆回転するとき、第2の流通孔602からポンプ室600内に吸入された作動油が第1の流通孔601から吐出される。
【0020】
第1の側板部61には、駆動ギヤ3の第1の軸部33を挿通させる挿通孔611が形成されており、この挿通孔611の内周面と第1の軸部33の外周面との間にシール部材64が配置されている。第1のサイドプレート51は、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4のギヤ部32,42と第1の側板部61との間に配置され、第2のサイドプレート52は、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4のギヤ部32,42と第2の側板部62との間に配置されている。
【0021】
第1のサイドプレート51には、駆動ギヤ3の第1の軸部33を挿通させる挿通孔511、及び従動ギヤ4の第1の軸部43を挿通させる挿通孔512が形成されている。挿通孔511には駆動ギヤ3の第1の軸部33を支持する滑り軸受53が内嵌されており、挿通孔512には従動ギヤ4の第1の軸部43を支持する滑り軸受54が内嵌されている。また、第1のサイドプレート51における第1の側板部61との対向面には、凹溝513が形成され、この凹溝513にゴム等の弾性体からなるサイドシール65が収容されている。
【0022】
第2のサイドプレート52には、駆動ギヤ3の第2の軸部34を挿通させる挿通孔521、及び従動ギヤ4の第2の軸部44を挿通させる挿通孔522が形成されている。挿通孔521には駆動ギヤ3の第2の軸部34を支持する滑り軸受55が内嵌されており、挿通孔522には従動ギヤ4の第2の軸部44を支持する滑り軸受56が内嵌されている。また、第2のサイドプレート52における第2の側板部62との対向面には、凹溝523が形成され、この凹溝523にゴム等の弾性体からなるサイドシール66が収容されている。
【0023】
(外接ギヤポンプの動作)
上記のように構成された外接ギヤポンプ1は、電動モータ2によって駆動ギヤ3が回転駆動される。また、駆動ギヤ3の外歯31に従動ギヤ4の外歯41が噛み合うことで、従動ギヤ4が駆動ギヤ3とは逆方向に回転する。駆動ギヤ3の周方向に隣り合う2つの外歯31の間、及び従動ギヤ4の周方向に隣り合う2つの外歯41の間には、それぞれ油室Cが形成されている。第1の流通孔601又は第2の流通孔602から吸入された作動油は、駆動ギヤ3及び従動ギヤ4の回転に伴い、油室Cによってポンプ室600内の低圧室側から高圧室側に移動する。高圧室側では、駆動ギヤ3の外歯31と従動ギヤ4の外歯41とが噛み合うことによる容積変化によって作動油の圧力が高められる。
【0024】
電動モータ2が正回転する場合には、
図3に示すように、駆動ギヤ3の外歯31における回転方向(矢印A
1方向)前方側の歯面31bと、従動ギヤ4の外歯41における回転方向(矢印A
2方向)後方側の歯面41bとが接触し、この接触部が低圧室側と高圧室側とを区画するシール部Sとなる。電動モータ2が正回転する場合には、シール部30の第1の流通孔601側が低圧室側となり、シール部Sの第2の流通孔602側が高圧室側となる。また、シール部Sを形成する従動ギヤ4の外歯41と、この外歯41の回転方向前方側における駆動ギヤ3の外歯31との間には、ギャップ(隙間)Gが形成される。
【0025】
一方、電動モータ2が逆回転する場合には、
図4に示すように、駆動ギヤ3の外歯31における回転方向(矢印B
1方向)前方側の歯面31cと、従動ギヤ4の外歯41における回転方向(矢印B
2方向)後方側の歯面41cとが接触し、この接触部が低圧室側と高圧室側とを区画するシール部Sとなる。そして、シール部Sの第2の流通孔602側が低圧室側となり、シール部30の第1の流通孔601側が高圧室側となる。また、シール部Sを形成する従動ギヤ4の外歯41と、この外歯41の回転方向前方側における駆動ギヤ3の外歯31との間には、ギャップGが形成される。
【0026】
電動モータ2の回転方向が反転する際、すなわち正回転から逆回転に切り替わる際ならびに逆回転から正回転に切り替わる際、駆動ギヤ3の回転速度によっては、「カチッ」という異音が発生する場合がある。この異音は、駆動ギヤ3の回転によってギャップGが詰まり、駆動ギヤ3の外歯31と従動ギヤ4の外歯41とが当接するときの衝突音である。この異音により、外接ギヤポンプ1が例えば車両に搭載された場合には、運転者や同乗者に不快感を与えてしまうおそれがある。また、このような異音は、モータシャフト21の回転が停止した停止状態から電動モータ2を始動させる際にも発生し得る。
【0027】
本実施の形態では、制御部7が、電動モータ2を停止状態から始動させる際及び電動モータ2の回転を反転させる際に、少なくとも駆動ギヤ3の外歯31と従動ギヤ4の外歯41とが電動モータ2の回転方向(駆動ギヤ3の回転方向)に当接するまでの空転期間において、モータ電流を抑制して電動モータ2の回転速度を制限する回転速度制限制御を実行することにより、このような異音の発生を抑制する。空転期間とは、電動モータ2が始動又は回転方向が反転してからギャップGが詰まって駆動ギヤ3の外歯31が従動ギヤ4の外歯41に当接するまでの期間をいう。以下、制御部7の構成及び制御方法について詳細に説明する。
【0028】
(制御部の構成及び制御内容)
図5は、制御部7の構成例を示す概略構成図である。制御部7は、CPUが予め記憶されたプログラムを実行することにより、速度制限部70、速度制御部71、電流制御部72、2相3相変換部73、PWM制御部74、位相算出部75、3相2相変換部76、及び速度算出部77として機能する。制御部7のCPUは、所定の演算周期ごとに後述する各処理を実行する。演算周期は、例えば5msである。
【0029】
また、制御部7は、上位コントローラ9からの回転速度指令値ω*を受信する受信回路80、複数のスイッチング素子を有するインバータ回路81、及びインバータ回路81から出力されるU相、V相、及びW相の各相電流をそれぞれ検出する3つの電流センサ82を有している。
【0030】
受信回路80、速度制限部70、速度制御部71、及び電流制御部72は、本願の請求項に係る発明の受信手段、速度制限手段、及び速度制御手段、及び電流制限手段にそれぞれ相当する。また、速度制御部71及び電流制御部72は、本願の請求項に係る発明のフィードバック制御手段に相当する。
【0031】
制御部7は、受信回路80において、上位コントローラ9から電動モータ2の回転速度指令値ω*を通信により受け付ける。速度制限部70は、受信回路80により受信した回転速度指令値ω*を所定値以下に制限することが可能である。具体的には、電動モータ2を停止状態から始動させる際及び電動モータ2の回転を反転させる際、少なくとも空転期間が経過して従動ギヤ4が駆動ギヤ3の回転に連れて回転し始めるまで、速度制限部70が回転速度指令値ω*を所定値以下に制限し、その後この制限を解除する。すなわち、速度制限部70は、空転期間において、受信した回転速度指令値ω*を所定値以下に制限することにより回転速度制限制御を実行する。
【0032】
この所定値は、ギャップGがゼロとなって空転期間が終了する時(駆動ギヤ3の外歯31と従動ギヤ4の外歯41とが当接する時)の駆動ギヤ3の回転エネルギーが、車両の運転者等に聴取され得る音量の衝突音が発生するエネルギーよりも小さくなるように定められた値である。駆動ギヤ3の回転エネルギーは、E:駆動ギヤ3の回転エネルギー、m:駆動ギヤ3の質量、v:駆動ギヤ3の回転速度としたとき、下記式(1)により求めることができる。
E=1/2×m×v2 ・・・(1)
【0033】
換言すれば、車両の運転者等に聴取される衝突音が発生する駆動ギヤ3の回転エネルギーの下限値をEminとしたとき、E<Eminとなるvの上限値を上記の所定値として定め、例えばプログラム中の定数として制御部7の不揮発性メモリに記憶する。
【0034】
速度制御部71及び電流制御部72は、受信回路80により受信した回転速度指令値ω*又は速度制限部70により所定値以下に制限された回転速度指令値ω*に応じた回転速度で電動モータ2が回転するように、モータ電流をフィードバック制御する。
【0035】
速度制御部71は、受信回路80により受信した回転速度指令値ω*又は速度制限部70により所定値以下に制限された回転速度指令値ω*に基づき、モータ電流の目標値である電流指令値を演算する。より詳細には、この回転速度指令値ω*と後述する速度算出部77によって演算される電動モータ2の実際の回転速度を示す実回転速度ωとの偏差(ω*-ω)に対して比例積分演算(PI演算)を行うことにより、電動モータ2に供給するモータ電流のトルク成分の目標値であるq軸電流指令値Iq*を演算する。
【0036】
電流制御部72は、速度制御部71によって演算されたq軸電流指令値Iq*に基づいて、電動モータ2に印加すべき電圧の目標値である電圧指令値を演算する。より詳細には、q軸電流指令値Iq*ならびに後述する3相2相変換部76によって演算されるq軸電流検出値Iq及びd軸電流検出値Idに基づいて比例積分演算を行い、q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*を演算する。
【0037】
2相3相変換部73は、後述する位相算出部75によって演算される回転角θを用いて、q軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*をU相、V相、及びW相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換する。PWM制御部74は、三相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*のそれぞれに対応するデューティのU相PWM制御信号、V相PWM制御信号、及びW相PWM制御信号を生成し、インバータ回路81に供給する。インバータ回路81は、各相のPWM制御信号に応じてスイッチング素子をオン又はオフさせ、電動モータ2に三相交流電流をモータ電流として供給する。
【0038】
位相算出部75は、電動モータ2の回転角センサ26の検出信号に基づいて、電動モータ2のモータシャフト21の回転角θを算出する。3相2相変換部76は、位相算出部75で算出される回転角θを用いて、3つの電流センサ82によって求められた各相の相電流をq軸電流検出値Iq及びd軸電流検出値Idに変換する。なお、U相,V,W相の相電流の総和がゼロになる関係性に基づき、3つの電流センサ82のうちの1つを省略することも可能である。速度算出部77は、前回の演算周期の回転角θと今回の演算周期の回転角θとの差に基づいて、所定の演算周期ごとに電動モータ2の実回転速度ωを算出する。
【0039】
速度制限部70は、受信回路80により受信した回転速度指令値ω*が正値(ω*>0)から負値(ω*<0)に変わった場合あるいは負値から正値に変わった場合、もしくはゼロからゼロでなくなった場合に、回転速度指令値ω*を所定値以下に制限する処理(回転速度制限制御)を開始し、空転期間が終了したと判定したとき、この処理を終了する。
【0040】
空転期間が終了したことの判定は、例えば回転速度指令値ω*を所定値以下に制限する処理を開始した時点からの電動モータ2の回転量が閾値以上となったことにより行うことができる。この閾値は、例えばギャップGの最大値に基づいて定められる。また、これに限らず、同処理を開始した時点からの経過時間によって空転期間が終了したことの判定を行ってもよい。あるいは、従動ギヤ4が駆動ギヤ3の回転に連れて回転し始めることによる負荷の増大に起因するモータ電流の増大によって空転期間が終了したことの判定を行ってもよい。つまり、空転期間中は電動モータ2のモータシャフト21の回転に伴って駆動ギヤ3のみが回転するので、電動モータ2の負荷が小さく、小さなモータ電流でも駆動ギヤ3が加速されやすいが、空転期間が終了すると電動モータ2の負荷が増大するので、フィードバック制御によってモータ電流が増大する。したがって、このモータ電流の増大により、空転期間が終了したことの判定を行うことができる。
【0041】
なお、空転期間が終了したときには、上位コントローラからの回転速度指令値ω*と実回転速度ωとの速度偏差が大きくなっているため、速度制限部70による回転速度指令値ω*の制限処理が解除されたときにモータ電流が急激に増大し得るが、このときには従動ギヤ4が駆動ギヤ3に連れて回転し始めているので、モータ電流が急激に増大しても、駆動ギヤ3の外歯31と従動ギヤ4の外歯41との当接によって大きな衝突音が発生することはない。
【0042】
以上説明した本発明の実施の形態によれば、駆動ギヤ3と従動ギヤ4とのバックラッシがある場合でも、外接ギヤポンプ1の騒音を抑制することが可能となる。また、制御部7の制御によって電動モータ2の反転時又は始動時の騒音を抑制するので、コストを増大させることなく騒音低減効果を得ることができる。
【0043】
[実施の形態の変形例]
次に、
図6を参照して本発明の実施の形態の変形例について説明する。
図6は、変形例に係る制御部7の構成例を示す概略構成図である。
【0044】
上記の実施の形態では、速度制限部70によって回転速度制限制御を行う場合について説明したが、以下の変形例では、空転期間において速度制御部71(速度制御手段)又は電流制御部72(電流制御手段)が演算した電流指令値又は電圧指令値を制限することで回転速度制限制御を行う場合について説明する。
図6において、
図5を参照して説明したものと機能が共通する構成要素については、
図5に付した符号と同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0045】
この変形例では、受信回路80が受信した回転速度指令値ω*を速度制御部71が取得し、q軸電流指令値Iq*を演算する。速度制御部71が演算した電流指令値を制限することで回転速度制限制御を行う場合、空転期間において速度制御部71が演算したq軸電流指令値Iq*が電流制限部710で所定値以下に制限され、電流制御部72に伝達される。電流制限部710の機能は、制御部7における電流制限手段として、例えばCPUがプログラムを実行することにより実現される。電流制限部710がq軸電流指令値Iq*を制限する際の所定値は、例えば駆動ギヤ3の外歯31と従動ギヤ4の外歯41とが当接する際の衝突音が運転者等に聴取されないように設定された値である。
【0046】
また、電流制御部72が演算した電圧指令値を制限することで回転速度制限制御を行う場合、空転期間において電流制御部72が演算したq軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*が電圧制限部720で所定値以下に制限され、2相3相変換部73に伝達される。電圧制限部720の機能は、制御部7における電圧制限手段として、例えばCPUがプログラムを実行することにより実現される。電圧制限部720がq軸電圧指令値Vq*及びd軸電圧指令値Vd*を制限する際の所定値は、例えば駆動ギヤ3の外歯31と従動ギヤ4の外歯41とが当接する際の衝突音が運転者等に聴取されないように設定された値である。
【0047】
なお、
図6では、便宜上、電流制限部710及び電圧制限部720を共に図示しているが、電流制限部710を設ける場合は電圧制限部720が不要であり、電圧制限部720を設ける場合は電流制限部710が不要である。すなわち、電流制限部710及び電圧制限部720は、いずれか一方が制御部7に備わっていればよい。
【0048】
このような変形によっても、上記と同様に、コストを増大させることなく、外接ギヤポンプ1の騒音を抑制することが可能となる。
【0049】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0050】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記の実施の形態及び変形例では、制御部7のCPUがプログラムを実行することにより各部の機能が実現される場合について説明したが、各部の機能の一部又は全部をASIC(特定用途向け集積回路)等のハードウェアにより実現してもよい。また、
図1乃至
図4に示した外接ギヤポンプ1の機械的な構成は、一例として示したものであり、駆動ギヤが電動モータにより駆動され、駆動ギヤとのギヤ歯同士の噛み合いにより従動ギヤが回転する構成であれば、様々な機械構成の電動ギヤポンプに本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…外接ギヤポンプ
2…電動モータ
21…モータシャフト
3…駆動ギヤ
31…外歯(ギヤ歯)
4…従動ギヤ
41…外歯(ギヤ歯)
6…ポンプハウジング
7…制御部
70…速度制限部(速度制限手段)
71…速度制御部(速度制御手段、フィードバック制御手段)
72…電流制御部(電流制限手段、フィードバック制御手段)
80…受信回路(受信手段)