(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】無人搬送車の制御方法
(51)【国際特許分類】
G05D 1/02 20200101AFI20220405BHJP
【FI】
G05D1/02 X
(21)【出願番号】P 2018024649
(22)【出願日】2018-02-15
【審査請求日】2020-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179936
【氏名又は名称】金山 明日香
(72)【発明者】
【氏名】大森 保
(72)【発明者】
【氏名】石川 洋彦
(72)【発明者】
【氏名】港 智史
【審査官】藤崎 詔夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-120383(JP,A)
【文献】特開2003-316436(JP,A)
【文献】特開2013-125350(JP,A)
【文献】登録実用新案第3157948(JP,U)
【文献】特開平10-114201(JP,A)
【文献】特開平05-262251(JP,A)
【文献】特開2016-173634(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0137462(US,A1)
【文献】特開平09-095116(JP,A)
【文献】実開平06-030807(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4個以上の駆動輪を備え、コンテナを搬送する無人搬送車の制御方法であって、
レール領域と、前記レール領域の両側に形成されるレール溝領域とを有する段差領域の長手方向と前記無人搬送車の車体とのなすべき角度を取得するステップと、
前記角度を維持しつつ前記無人搬送車を走行させる、走行ステップと、
前記レール溝領域の端部を段差特徴点として検出するステップと、
前記段差特徴点及び前記レール領域のレールの幅情報に基づいて前記段差領域を決定または更新するステップと、
各前記駆動輪について、当該駆動輪が前記段差領域に対して所定の範囲内に存在する時に、当該駆動輪のサスペンションのロックを解除するかまたは当該駆動輪の位置を高くするステップと
を備える、方法。
【請求項2】
前記走行ステップは、前記角度を維持しつつ、前記段差領域の前記長手方向と直交する方向に前記無人搬送車を走行させるステップである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記角度を、
W
tc・sin(90°-θ)>d
m かつ
L
hb・sin(θ)-W
tc・sin(90°-θ)>d
m
を満たすθとして決定するステップをさらに備え、
ただし、L
hbは前記無人搬送車のホイールベースを表し、
W
tcは前記無人搬送車のトレッドを表し、
d
mは前記段差領域の幅方向の寸法を表す、
請求項1
または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無人搬送車およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外部からの搬送指示に基づいて走行する無人搬送車が公知である。無人搬送車の構成の例は特許文献1に記載される。特許文献1の例では、無人搬送車は、荷台を有する車体と、この車体に支持された4つの車輪と、各車輪をそれぞれ駆動する複数の走行モータ及び複数の操舵モータと、各走行モータ及び各操舵モータを制御する制御部とを備えている。このような無人搬送車は、たとえば港湾においてコンテナを載せて走行することによりコンテナを搬送する。
【0003】
なお、無人搬送車に関する技術ではないが、特許文献2には、多軸式の車両において駆動輪をリンクでつなぎ、ピッチ量を減らす試みが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-020514号公報
【文献】特開2004-161120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の無人搬送車では、走行経路中に存在する段差を乗り越えて走行するのが困難であるという問題があった。
【0006】
図10に、このような段差の例を示す。ガントリークレーン202のレール200に沿って段差領域210が形成されている。従来の無人搬送車300は、陸側から段差領域210を乗り越えてより海側に移動することができず、レール200より陸側(厳密には、レール200のうち最も陸側にあるものよりさらに陸側)で作業を行っている。
【0007】
無人搬送車は重量物搬送を行うためのものであるため、従来の無人搬送車は平坦路のみを走行することを想定した設計となっていた。したがって、通常の走行路面程度の凹凸による振動には対応可能であるが、ガントリークレーンのレールに沿った段差を乗り越える際のような短時間衝撃を想定した設計はなされていない。
【0008】
たとえば、段差による衝撃を抑える方法として、最徐行にて侵入することが考えられるが、これは運行効率の面から採用できない場合がある。また、無人搬送車ではアクスル単位の独立駆動・独立操舵方式が採用されている場合があり、そのような場合には特許文献2のようなリンク機構を用いることも困難である。
【0009】
この発明はこのような問題点を解消するためになされたものであり、段差を乗り越えて走行することが可能な無人搬送車およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る、無人搬送車の制御方法は、4個以上の駆動輪を備え、コンテナを搬送する無人搬送車の制御方法であって、レール領域と、レール領域の両側に形成されるレール溝領域とを有する段差領域の長手方向と無人搬送車の車体とのなすべき角度を取得するステップと、角度を維持しつつ無人搬送車を走行させる、走行ステップと、各駆動輪について、当該駆動輪が段差領域に対して所定の範囲内に存在する時に、当該駆動輪のサスペンションのロックを解除するかまたは当該駆動輪の位置を高くするステップとを備える。
【0011】
この構成によれば、たとえば、駆動輪が段差領域に近づいた時に衝撃を抑えるという制御を、駆動輪ごとに実行することができる。
【0012】
特定の態様によれば、走行ステップは、角度を維持しつつ、段差領域の長手方向と直交する方向に無人搬送車を走行させるステップである。
【0013】
特定の態様によれば、段差特徴点を検出するステップと、段差特徴点に基づいて段差領域を決定または更新するステップとをさらに備える。
【0014】
特定の態様によれば、角度を、
Wtc・sin(90°-θ)>dm かつ
Lhb・sin(θ)-Wtc・sin(90°-θ)>dm
を満たすθとして決定するステップをさらに備え、ただし、Lhbは無人搬送車のホイールベースを表し、Wtcは無人搬送車のトレッドを表し、dmは段差領域の幅方向の寸法を表す。
【0015】
また、この発明に係る無人搬送車は、4個以上の駆動輪を備え、コンテナを搬送する無人搬送車であって、レールと、前記レール領域の両側に形成されるレール溝領域とを有する段差領域の長手方向と無人搬送車の車体とのなすべき角度を取得する機能と、角度を維持しつつ走行する機能と、各駆動輪について、当該駆動輪が段差領域に対して所定の範囲内に存在する時に、当該駆動輪のサスペンションのロックを解除するかまたは当該駆動輪の位置を高くする機能とを備える。
また、この発明に係る無人搬送車の制御方法は、4個以上の駆動輪を備え、コンテナを搬送する無人搬送車の制御方法であって、レール領域と、レール領域の両側に形成されるレール溝領域とを有する段差領域の長手方向と無人搬送車の車体とのなすべき角度を取得するステップと、角度を維持しつつ無人搬送車を走行させる、走行ステップと、レール溝領域の端部を段差特徴点として検出するステップと、段差特徴点及びレール領域のレールの幅情報に基づいて段差領域を決定または更新するステップと、各駆動輪について、当該駆動輪が段差領域に対して所定の範囲内に存在する時に、当該駆動輪のサスペンションのロックを解除するかまたは当該駆動輪の位置を高くするステップとを備える。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、駆動輪ごとに、段差領域との相対位置に基づいて衝撃を抑える制御を行うので、より容易に段差を乗り越えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る無人搬送車の構成の例を示す図である。
【
図2】
図1の走行ユニットの構成を模式的に示す図である。
【
図3】
図1の無人搬送車の周辺の構成の例を示す、レールの長手方向と直交する方向から見た概略図である。
【
図4】
図1の無人搬送車の周辺の構成の例を示す上面概略図である。
【
図5】
図1のレールを含む段差領域の構成の例を模式的に示す図である。
【
図6】
図1の無人搬送車が段差領域を通過する際の経路の一例を示す図である。
【
図7】
図1の無人搬送車が
図6に示すような経路に沿って段差領域を通過する際の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】
図1の無人搬送車におけるロック制御の具体例を示す図である。
【
図9】本発明の実施の形態2に係る無人搬送車が段差領域を通過する際の経路の一例を示す図である。
【
図10】従来の無人搬送車が乗り越えて走行するのが困難な段差の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1に、無人搬送車100の構成の例を示す。無人搬送車100は、港湾向けの無人搬送車を例として示している。無人搬送車100は、フレーム10(車体)と、少なくとも4個の走行ユニット30とを備える。フレーム10は、少なくとも4箇所において走行ユニット30に支持され、走行ユニット30が動作することによって無人搬送車100が移動する。
【0019】
また、無人搬送車100は、制御装置20、自己位置・方向認識手段21および走行速度算出用センサ22を備える。制御装置20、自己位置・方向認識手段21および走行速度算出用センサ22は、フレーム10に搭載される。
【0020】
制御装置20は演算・指令装置であり、演算手段および記憶手段を備える。制御装置20はコンピュータとして動作可能なものであってもよい。自己位置・方向認識手段21は、無人搬送車100の位置および方向を表す情報を取得するための構成要素であり、たとえば操舵角センサ、ジャイロ等である。走行速度算出用センサ22は、無人搬送車100の走行速度を表す情報を取得するための構成要素であり、たとえばサーボモータ回転数センサ等である。
【0021】
図2に、走行ユニット30の構成を模式的に示す。走行ユニット30は、駆動輪31と、アクスル32と、走行モータ33と、サスペンション用シリンダ34と、図示しないシリンダ駆動装置とを備える。
【0022】
駆動輪31はアクスル32に固定され、アクスル32と一体に運動する。また、アクスル32には走行モータ33が連結され、走行モータ33がアクスル32を駆動して回転させると、これに応じて駆動輪31が回転するように構成されている。また、アクスル32はフレーム10に回転可能に連結されており、駆動輪31の回転に応じて無人搬送車100が移動するように構成されている。本実施形態では、
図1に示すように8個の駆動輪31が設けられ、2個ずつが対となってアクスル32に取り付けられる。
【0023】
サスペンション用シリンダ34は、フレーム10とアクスル32とを連結し、これらの間のサスペンションを提供する。サスペンション用シリンダ34は、図示しないシリンダ駆動装置の動作に応じて、サスペンションのロックを実施しまたは解除する。サスペンションのロックは、たとえば、油圧用のオイルが収容されたアキュムレータへの経路を開閉するバルブを操作することによって、操作可能である。
【0024】
サスペンションのロックが実施された状態では、走行ユニット30は、平坦な路面において、より安定して積載物を支持することができる。しかしながら、ロックが実施された状態で段差を通過すると、駆動輪31からフレーム10を介して積載物に伝達される衝撃が比較的大きくなるおそれがある。
【0025】
一方、サスペンションのロックが解除された状態では、段差を通過しても、駆動輪31の衝撃がより吸収されやすく、積載物に伝達される衝撃を低減できる可能性がある。しかしながら、ロックが解除された状態で路面の走行を継続すると、積載物に対する安定性が低下する可能性がある。
【0026】
このように、平坦な路面を走行している場合と、段差を乗り越える場合とで、適切にサスペンションの制御を切り替えることができれば、積載物に対する安定性と、衝撃の緩和とをバランス良く実現できる可能性がある。
【0027】
走行ユニット30はそれぞれ、他の走行ユニット30から独立して動作可能である。たとえば、サスペンション用シリンダ34は、それぞれ独立してロックを実施または解除することができる。さらに、たとえば、アクスル32はそれぞれ独立して駆動可能であり、また、それぞれ独立して操舵可能である。
【0028】
なお、制御装置20は、本明細書に記載される制御方法に従って、自己位置・方向認識手段21、走行速度算出用センサ22および各走行ユニット30を含む無人搬送車100全体の動作を制御する。また、制御装置20は図示しない無線送信装置を有しており外部コンピュータからの搬送指示に基づいて無人搬送車を動作させる。
【0029】
図3および
図4に、この発明の実施の形態1に係る無人搬送車100の周辺の構成の例を示す。
図3はレール200の長手方向と直交する方向から見た概略図であり、
図4は上面概略図である。なお図中の各構成要素の寸法比率は正確ではない。
【0030】
無人搬送車100が用いられる港湾には、ガントリークレーン202が設置される。また、ガントリークレーン202を移動させるためのレール200が配置される。図示の例ではレール200は2本設けられる。ガントリークレーン202はトロリー203を備え、トロリー203がコンテナ船201と無人搬送車100との間でコンテナを搬送する。
【0031】
トロリー203は、海側領域204と、レール間領域205と、陸側領域206とを移動可能であり、海側領域204においてコンテナ船201とコンテナの受け渡し作業を行い、レール間領域205において無人搬送車100とコンテナの受け渡し作業を行う。ここで、無人搬送車100の位置によっては、レール間領域205でなく陸側領域206において無人搬送車100との作業を行うことも可能であるが、レール間領域205において行うほうがガントリークレーン202の動作時間を短縮することができる。とくに、ガントリークレーン202が港湾輸送のボトルネックとなる場合が多く、そのような場合には、ガントリークレーン202の動作時間を短縮することにより、全体の作業効率が向上する可能性がある。
【0032】
無人搬送車100は、図示の位置に到達するために、陸側から走行して走行経路上に存在するレール200の一方を乗り越え、レール間領域205に進入する必要がある。レール200の周辺には、レール200自体を含む段差領域210が形成されており、レール200を乗り越えるためには段差領域210を通過することになる。
【0033】
図5に、レール200を含む段差領域210の構成の例を模式的に示す。この図はレール200の長手方向と垂直な断面によるものである。路面にレール溝211が形成されており、レール溝211にレール200が収容されている。レール200を固定するための構造等は図示を省略する。段差領域210とは、レール200およびレール溝211によって形成され、路面とは不連続な領域であるということができる。なお
図5の例では、レール200の上端面と路面との高さが異なっているが、これらの高さは一致してもよい。
【0034】
無人搬送車100は、陸側のヤードから
図3および
図4に示す位置へと(またはその逆に)移動するために、このレール溝211を横切る必要がある。すなわち、各駆動輪31が段差領域210を通過する必要がある。
【0035】
図6に、無人搬送車100が段差領域210を通過する際の経路の一例を示す。2台のガントリークレーン202が接近して停止しており、段差領域210上に、一方のガントリークレーンの脚部202aと、他方のガントリークレーンの脚部202bとが配置されているとする。無人搬送車100は、点Pを通る折れ線状の経路に沿って走行し、脚部202aと脚部202bとの間において段差領域210を通過する。
【0036】
なお、駆動輪31の寸法(径および幅等)は、図示の経路に沿って無人搬送車100が段差領域210を通過することが可能であるよう設計されているものとする。たとえば駆動輪31の直径は段差領域210の幅と同程度であるか、またはこれより大きい。
【0037】
図7は、無人搬送車100が
図6に示すような経路に沿って段差領域210を通過する際の処理の流れを示すフローチャートである。この処理は、たとえば制御装置20によって実行される。なお簡単のため、
図7では段差領域210を単に「段差」と表現している。
【0038】
まず無人搬送車100は、無人搬送車100の位置情報を取得する(ステップS1)。位置情報はたとえば自己位置・方向認識手段21を介して取得されるものである。より具体的には、たとえばGPSシステムまたはトランスポンダ等を介して取得されてもよく、無人搬送車100にカメラ等が搭載されている場合には、撮影された画像を解析することによって取得されてもよい。
【0039】
次に、無人搬送車100は、段差領域210のうち、無人搬送車100が通過することができる範囲(通過可能範囲)を表す情報を取得する(ステップS2)。この範囲は、たとえば外部のコンピュータ等から無線通信を介して受信してもよいし、無人搬送車100にカメラ等が搭載されている場合には、撮影された画像を解析することによって取得してもよいし、制御装置20の記憶手段に予め記憶されたものを取得してもよい。
【0040】
たとえば、
図6に示す状況では、脚部202aと脚部202bとの間を通過可能範囲としてもよい。
【0041】
この通過可能範囲を表す情報の形式は任意に設計可能であるが、たとえば段差領域210の長手方向および両端の位置を表す形式とすることができる。より具体的には、2次元座標系または3次元座標系において2点の座標を特定する形式としておけば、その2点を結ぶ直線の方向が段差領域210の長手方向を表し、その2点が段差領域210の両端を表すことになる。
【0042】
次に、無人搬送車100は、段差領域210を通過する際の位置(通過目標位置)を決定する(ステップS3)。決定方法は任意に設計可能であるが、たとえば通過可能範囲の中央とすることができる。
【0043】
次に、無人搬送車100は、段差領域210を通過するための走行動作を開始する位置(開始目標位置)を決定する(ステップS4)。決定方法は任意に設計可能であるが、たとえば、
図6のように通過目標位置を通って段差領域210の長手方向と直交する直線的な経路を想定し、その経路の始点(位置P)を開始目標位置としてもよい。
【0044】
次に、無人搬送車100は、開始目標位置(位置P)に到達したか否かを判定する(ステップS5)。到達していない場合には、無人搬送車100は、開始目標位置に向かって走行を継続しながらステップS5の判定を繰り返す。
【0045】
到達した場合には、無人搬送車100は、操舵および速度調整を実施し、段差領域210を通過する経路に入る(ステップS6)。本実施形態では、段差領域210を通過する際の走行経路は直線状であり、段差領域210の長手方向と直交する。また、無人搬送車100のフレーム10は、段差領域210を通過する際の走行経路において、段差領域210の長手方向と一定の角度θをなす。
【0046】
θの定義は任意に決定可能である。たとえば、フレーム10に対して定義される特定の向き(たとえばフレーム10の正面)を基準の向きとし、この基準の向きと段差領域210の長手方向とがなす角度をθとしてもよい。
【0047】
このθの決定方法は任意であるが、たとえば、複数の走行ユニット30が同時に段差領域210内に存在することがないように決定してもよい(より厳密には、異なる走行ユニット30に含まれる駆動輪31が同時に段差領域210内に存在することがないように決定してもよい)。たとえば、θが小さすぎると右前輪と右後輪とが同時に段差領域210にかかる場合があり、θが大きすぎると左右の前輪が同時に段差領域210にかかる場合があるが、そのような状態にならないθが選択される。このようにして、無人搬送車100は、段差領域210の長手方向と、無人搬送車100のフレーム10とのなすべき角度を取得する。
【0048】
たとえば、無人搬送車100において4つの走行ユニット30が長方形の頂点をなすように配置されている場合を想定する。4つの走行ユニット30をそれぞれ右前輪、左前輪、右後輪および左後輪と呼ぶ。右前輪、左前輪、右後輪、左後輪の順で段差領域210を通過する場合には、右前輪が段差領域210を離れてから左前輪が段差領域210に入るまでに0でない時間が存在し、かつ、左前輪が段差領域210を離れてから右後輪が段差領域210に入るまでに0でない時間が存在すれば、同時に2つの走行ユニット30が段差領域210にかかることがない。
【0049】
具体的な数式としては、
θ≠ATAN(Wtc/Lhb)
を満たすθとして決定してもよい。ただしATANはtan関数の逆関数を表し、Lhbは無人搬送車100のホイールベース(m)を表し、Wtcは無人搬送車100のトレッド(m)を表す。なお、単位は例示である。「ホイールベース」および「トレッド」の値は、無人搬送車100の大きさ(体格)や最大積載重量の違いによる駆動輪31(タイヤ)の接地面の違い等を考慮した上で、適宜設定される。
【0050】
また、段差領域210の幅方向の寸法が無視できない場合には、幅dmを考慮し、
Wtc・sin(90°-θ)>dm かつ
Lhb・sin(θ)-Wtc・sin(90°-θ)>dm
を満たすθとして決定してもよい。ただし0°<θ<90°であり、dmは段差領域210の幅方向の寸法(m)を表す。段差領域210の幅方向の寸法は、予め制御装置20の記憶手段に記憶されていてもよいし、外部のコンピュータ等から無線通信を介して受信してもよいし、他の手段で取得されてもよい。
【0051】
一例として、ホイールベースとは、前後の駆動輪31またはアクスル32の間隔を意味し、より厳密には、無人搬送車100の走行方向前端の駆動輪31(またはアクスル32)と、後端の駆動輪31(またはアクスル32)との間の距離を意味する。
【0052】
また、一例として、トレッドとは、左右の駆動輪31またはアクスル32の間隔を意味し、より厳密には、無人搬送車100の走行方向において同じ位置に設けられた複数の駆動輪31間(または複数のアクスル32間)の距離を意味する。走行方向において同じ位置に3個以上の駆動輪31が配置されている場合には、それらのうち左右方向両端にあるものの距離を意味する。
【0053】
なお、「ホイールベース」および「トレッド」の値は、無人搬送車100の大きさ(体格)や最大積載重量の違いによる駆動輪31(タイヤ)の接地面の違い等を考慮して設定してもよい。
【0054】
このようなθが特定の値に定まらない場合には、該当するθの範囲のうちから任意の基準で特定の値を選択してもよい。該当するθの範囲は、無人搬送車100の構成等に応じて異なるが、たとえばθ≧17°である。このような該当するθの範囲のうち、最小の値を選択してもよいし、最大の値を選択してもよい。または、右前輪が段差領域210を離れてから左前輪が段差領域210に入るまでの時間と、左前輪が段差領域210を離れてから右後輪が段差領域210に入るまでの時間とが等しくなる値を選択してもよい。言い換えると、
Wtc・sin(90°-θ)=Lhb・sin(θ)-Wtc・sin(90°-θ)
となるθを選択してもよい。このようなθは、無人搬送車100の構成等に応じて異なるが、たとえばθ=23°である。
【0055】
なお、このようなθの値は、上述の式を用いて制御装置20が算出または決定してもよいし、予め制御装置20の記憶手段に記憶されていてもよいし、外部のコンピュータ等から無線通信を介して受信してもよいし、他の手段で取得されてもよい。
【0056】
なお、
図6の例では、操舵動作は一点のみにおいて完了するが、0でない距離をかけて走行しながら操舵動作を行ってもよい(その場合には、操舵動作中は曲線状の経路を走行することになる)。
【0057】
ステップS6の後、無人搬送車100は、段差領域210の長手方向と無人搬送車100のフレーム10とのなす角度をθに維持しつつ、段差領域210の長手方向と直交する方向に走行する(走行ステップ)。言い換えると、制御装置20は、角度θを維持しつつ無人搬送車100を走行させる。なお、ステップS6はこの走行動作の開始時点に対応し、走行動作そのものはステップS6以降も継続する。
【0058】
次に、無人搬送車100は、段差領域210を検出したか否かを判定する(ステップS7)。たとえば、無人搬送車100は、段差領域210を撮影するためのカメラを備えていてもよく、カメラによって撮影された画像に基づいて制御装置20が段差領域210を検出してもよい。より具体的には、制御装置20は、段差領域210に対応する段差特徴点212(
図5参照)を検出し、検出された段差特徴点212に基づいて段差領域210を決定してもよい(より厳密には、段差領域210の位置を、ステップS2またはS3において取得した位置から、ステップS7において決定された位置へと更新してもよい)。または、制御装置20は、レール200に対応する段差特徴点213を検出し、検出された段差特徴点213と、既知の幅情報とに基づいて(たとえばレール溝211の幅を加算して)段差領域210を決定してもよい。段差領域210を検出していない場合には、無人搬送車100は、走行を継続しながらステップS7の判定を繰り返す。
【0059】
次に、無人搬送車100は、各駆動輪31について、当該駆動輪31が段差領域210に対して所定の範囲内に存在する時に、当該駆動輪31のサスペンションのロックを解除する。また、当該駆動輪31が段差領域210に対して所定の範囲内に存在しない時に、当該駆動輪31のサスペンションのロックを実施してもよい。このような制御は、たとえば後述のステップS8およびS9のようにして実現可能である。
【0060】
ステップS8において、無人搬送車100は、各駆動輪31についてサスペンションのロックを切り替えるタイミングを算出する。このタイミングの算出方法は任意に設計可能である。たとえば、駆動輪31が段差領域210に進入する時刻にロックを解除し、駆動輪31が段差領域210から脱出する時刻にロックを再び実施するようなタイミングとしてもよい。または、所定の余裕時間を設け、駆動輪31が段差領域210に進入する時刻から余裕時間を減算した時刻にロックを解除し、駆動輪31が段差領域210から脱出する時刻に余裕時間を加算した時刻にロックを再び実施するようなタイミングとしてもよい。余裕時間は固定値であってもよいし、無人搬送車100の車速に基づいて(たとえば車速に比例するように)決定されてもよい。
【0061】
ステップS9において、無人搬送車100は、決定されたタイミングに従ってサスペンションのロックを切り替える。
図8に、無人搬送車100におけるロック制御の具体例を示す。無人搬送車100が速度Vで段差領域210を通過しようとしている。
図8(a)より前の時点では、すべての駆動輪31についてロックは実施されている(ON)。
図8(a)の時点で、右前輪のロックが解除される(OFF)。右前輪が段差領域210を通過し終わると、
図8(b)の時点で、右前輪のロックが再び実施されると同時に(またはそれより後に)左前輪のロックが解除される。左前輪が段差領域210を通過し終わると、
図8(c)の時点で、左前輪のロックが再び実施されると同時に(またはそれより後に)右後輪のロックが解除される。右後輪が段差領域210を通過し終わると、
図8(d)の時点で、右後輪のロックが再び実施されると同時に(またはそれより後に)左後輪のロックが解除される。その後、図示しないが、左後輪が段差領域210を通過し終わると、左後輪のロックが再び実施される。
【0062】
以上説明するように、本発明の実施の形態1に係る無人搬送車100およびその制御方法によれば、駆動輪31ごとに、段差領域210との相対位置に基づいて衝撃を抑える制御を行うので、より容易に段差を乗り越えることができる。
【0063】
また、無人搬送車100が段差領域210を通過できるようになるので、従来のように
図10に示す無人搬送車300の位置でなく、
図3および
図4に示す無人搬送車100の位置においてコンテナ等の受け渡し作業を行うことができる。このため、ガントリークレーン202のトロリー203の移動距離を低減することができる。とくに、トロリー203の動作速度が港湾輸送のボトルネックとなるような状況においては、全体の作業効率を劇的に向上させることができる。
【0064】
また、段差領域210を通過する際の、積載物への衝撃を低減することができる。さらに、段差領域210を通過する際に比較的大きな速度を維持することができ、コンテナ等の搬送効率が向上する。
【0065】
また、段差領域210を通過する際には、段差領域210の長手方向と直交する経路に沿って走行するので、走行に必要なスペースを小さくできる。これは、無人搬送車100のフレーム10の角度θを維持したまま、各走行ユニット30(または各駆動輪31)を適切な向きに操舵することによって実現される。このため、たとえば
図6のように2台のガントリークレーン202が接近して配置されている場合であっても、より容易に走行スペースを確保することができる。
【0066】
また、無人搬送車100の構成によっては、θの値を選択する際の自由度が高くなるので、経路を決定する際の自由度を高くすることができる。
【0067】
実施の形態2.
実施の形態1では、
図6に示すように、無人搬送車100が段差領域210を通過する際には段差領域210の長手方向と直交する経路に沿って走行した。実施の形態2は、実施の形態1において、無人搬送車100が段差領域210を通過する際の経路が段差領域210の長手方向と直交しない方向となるようにするものである。
【0068】
図9に、実施の形態2において無人搬送車100が段差領域210を通過する際の経路の一例を示す。無人搬送車100は、点P’を通る折れ線状の経路に沿って走行し、脚部202aと脚部202bとの間において段差領域210を通過する。実施の形態2では、この点P’が目標開始位置となる。
【0069】
無人搬送車100が段差領域210を通過する際の走行経路は、段差領域210の長手方向と一定の角度φをなす。ただしθ<φ<90°である(実施の形態1ではφ=90°である)。φの値は、この範囲内から任意の基準を用いて選択しまたは取得することができる。
【0070】
実施の形態2においても、無人搬送車100の制御は、実施の形態1と同様にして実施することができる。このように、本発明の実施の形態2に係る無人搬送車100およびその制御方法によれば、実施の形態1と同様に、駆動輪31ごとに、段差領域210との相対位置に基づいて衝撃を抑える制御を行うので、より容易に段差を乗り越えることができる。
【0071】
また、実施の形態2においても、θ<φとすることにより、θ=φの場合(すなわち無人搬送車100を正面方向に走行させる場合)と比較すると、走行に必要なスペースを小さくできる。すなわち、たとえば
図9に示すガントリークレーン202の脚部202aおよび脚部202bが比較的接近している場合であっても、より容易に走行スペースを確保することができる。
【0072】
実施の形態1および2において、以下のような変形を施すことができる。
実施の形態1および2では、
図6および
図9に示すような折れ線状の経路を用いているが、経路の一部に曲線を含んでもよい。たとえば、段差領域210の長手方向と平行に走行する経路と、段差領域210を通過するための経路との間に、円弧等の曲線からなる経路を含んでもよい。このようにすると、無人搬送車100を一旦停止させずに段差領域210を通過させることが可能になる。
【0073】
なお、複数の無人搬送車が同時に使用される場合には、各無人搬送車の走行経路が並列して、かつ段差領域210の長手方向と平行に延びるよう設計されることがある。このような場合には、段差領域210を通過する際の経路を、実施の形態1および2のように直線とすると、他の無人搬送車の経路と干渉する部分が少なく、路面を効率的に利用することができる。しかしながら、段差領域210を通過する際にも、角度θが一定に維持されていれば段差領域210を通過する経路は直線でなくともよく、自由度の高い経路設計が可能である。
【0074】
また、角度θについても、最初の駆動輪31(
図8の例では右前輪)が段差領域210を通過し始めてから、最後の駆動輪31(
図8の例では左後輪)が段差領域210を通過し終わるまでの間だけ一定に保たれていればよく、その前後では変化してもよい。
【0075】
実施の形態1および2では、衝撃を抑える制御としてサスペンションのロックを解除する制御を行うが、衝撃を抑える制御はこれに限らない。サスペンションのロックを解除する制御に代えて、またはこれに加えて、駆動輪31の位置を高くする制御を行ってもよい。たとえば、サスペンション用シリンダ34は、シリンダ駆動装置の動作に応じて、駆動輪31の位置を高くしまたは低くするよう動作可能であってもよい。駆動輪31の位置は、たとえば、サスペンション用シリンダ34の上側空間および下側空間にそれぞれ注入されるオイルの量を操作することによって、変更可能である。このような構成では、無人搬送車100は、各駆動輪31について、当該駆動輪31が段差領域210に対して所定の範囲内に存在する時に、当該駆動輪31の位置を所定位置より高くする。また、当該駆動輪31が段差領域210に対して所定の範囲内に存在しない時に、当該駆動輪31の位置を低くする(すなわち、所定位置に戻す)。
【0076】
実施の形態1および2では8個の駆動輪31が設けられるが、駆動輪は4個以上であればよい。その場合には、たとえば各アクスルに駆動輪が1個ずつ取り付けられてもよい。
【0077】
実施の形態1および2では走行ユニット30が4個(2対)設けられるが、5個以上の走行ユニットを設けてもよい。たとえば6個(3対)または8個(4対)としてもよい。5個以上の走行ユニットを用いる場合には、コンテナ等の積載により無人搬送車100の重心が偏った場合であっても、比較的安定した走行が可能である。
【0078】
また、5個以上の走行ユニットを用いる場合には、複数の走行ユニットについて同時にサスペンションのロックを解除することも可能である。たとえば、少なくとも3個の駆動輪についてロックが実施されており、それらの駆動輪によって形成される多角形の内部に無人搬送車の重心の投影点が存在するように制御すれば、同時に複数の駆動輪のロックを解除しても、無人搬送車を安定させつつ衝撃を緩和することが可能である。
【0079】
実施の形態1および2では、サスペンション用シリンダ34は油圧シリンダであるが、サスペンションの方式は任意に変更可能である。たとえば電動シリンダまたは空圧シリンダを用いてもよい。油圧シリンダ以外のシリンダを用いることにより、オイル漏洩対策が不要となる。
【0080】
実施の形態1および2では段差領域210はレール200およびレール溝211から構成されるが、段差領域210の構成は、長手方向が定義可能なもの(長手方向に一定の距離を持つ物)であればこれに限らない。レール溝211以外の溝であってもよく、例えば、雨水等を流すための溝であってもよい。一方、溝が設けられず路面から突出したレールであってもよい。
【0081】
実施の形態1および2では、駆動輪31の位置とアクスル32の位置とを区別していないが、これらを区別してもよい。たとえば、駆動輪31とアクスル32との位置関係を予め制御装置20の記憶手段に記憶しておき、アクスル32の位置でなく駆動輪31の位置に基づいてサスペンションの制御を行ってもよい。また、駆動輪31の位置は、点でなく範囲として扱ってもよい。たとえば、駆動輪31が接地する面積(接地領域)を取得または算出し、この接地領域と段差領域210とが少なくとも部分的に重複する場合にロックを解除してもよい。
【0082】
実施の形態1および2では、ステップS2において段差領域210の通過可能範囲を取得した後、さらにステップS7において段差領域210を検出する処理を行っている。このようにすると、段差領域210の位置をより正確に認識することができるが、ステップS2において十分な精度の位置情報を取得できる場合等には、ステップS7を省略することも可能である。その場合には、ステップS8およびS9のタイミング制御は、ステップS2で取得した情報に基づいて行われる。
【符号の説明】
【0083】
10 フレーム(車体)、31 駆動輪、100 無人搬送車、210 段差領域、θ 角度(段差領域の長手方向と無人搬送車の車体とのなすべき角度)。