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特許7052399水処理施設の運転支援装置及び運転支援方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】水処理施設の運転支援装置及び運転支援方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20220405BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C02F3/12 H
C02F3/34 101A
C02F3/34 101B
C02F3/34 101C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018026562
(22)【出願日】2018-02-19
(65)【公開番号】P2019141763
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】豊岡 和宏
(72)【発明者】
【氏名】中田 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】宮原 盛雄
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-109170(JP,A)
【文献】特開2017-100092(JP,A)
【文献】特開2007-229550(JP,A)
【文献】特開2016-140783(JP,A)
【文献】特開2006-095440(JP,A)
【文献】特開2001-334287(JP,A)
【文献】下水放流水に含まれる栄養塩類の能動的管理のための運転方法に係る手順書(案),日本,国土交通省水管理・国土保全局下水道部,2015年,第1-58頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00
C02F 3/12
C02F 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理施設を季節別に運転支援する水処理施設の運転支援装置であって、
水処理施設の年間の水質データを格納したデータベース部と、
前記データベース部に格納された水質データから国際水協会に準拠した活性汚泥モデルに基づく演算により前記水処理施設の季節別の運転管理指標を推定する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記水処理施設の栄養塩類放流濃度が上限目標値以下に制御される栄養塩類増加運転期から当該栄養塩類放流濃度が下限目標値以上に制御される通常運転期までの回復期の設定期間と、前記通常運転期に至るまでに必要なアンモニア性窒素濃度の低減量とから、前記活性汚泥モデルに基づく演算により前記運転管理指標として硝化菌量増加速度を推定することを特徴とする水処理施設の運転支援装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記通常運転期から前記栄養塩類増加運転期までの移行期の設定期間と、前記栄養塩類増加運転期までに必要なアンモニア性窒素濃度の増加量とから、前記活性汚泥モデルに基づく演算により前記運転管理指標として硝化菌量減少速度を推定すること
を特徴とする請求項に記載の水処理施設の運転支援装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記活性汚泥モデルにより推定される硝化菌量の増減速度と予め設定された目標硝化菌量増減速度との偏差に基づき前記水処理施設の余剰汚泥量の設定値を調整することを特徴とする請求項1または2に記載の水処理施設の運転支援装置。
【請求項4】
前記データベース部には前記水処理施設の操作情報が予め格納され、
前記制御部は、前記操作情報に基づき前記硝化菌量の増減速度を補正することを特徴とする請求項に記載の水処理施設の運転支援装置。
【請求項5】
前記運転管理指標を出力表示させる画面表示部をさらに備えたことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の水処理施設の運転支援装置。
【請求項6】
水処理施設を季節別に運転支援する水処理施設の運転支援方法であって、
水処理施設の年間の水質データから国際水協会に準拠した活性汚泥モデルに基づく演算により前記水処理施設の季節別の運転管理指標を推定するにあたり、
前記水処理施設の栄養塩類放流濃度が上限目標値以下に制御される栄養塩類増加運転期から当該栄養塩類放流濃度が下限目標値以上に制御される通常運転期までの回復期の設定期間と、前記通常運転期に至るまでに必要なアンモニア性窒素濃度の低減量とから、前記活性汚泥モデルに基づく演算により前記運転管理指標として硝化菌量増加速度を推定することを特徴とする水処理施設の運転支援方法。
【請求項7】
前記通常運転期から前記栄養塩類増加運転期までの移行期の設定期間と、前記栄養塩類増加運転期までに必要なアンモニア性窒素濃度の増加量とから、前記活性汚泥モデルに基づく演算により前記運転管理指標として硝化菌量減少速度を推定することを特徴とする請求項に記載の水処理施設の運転支援方法。
【請求項8】
前記活性汚泥モデルにより推定される硝化菌量の増減速度と予め設定された目標硝化菌量増減速度との偏差に基づき前記水処理施設の余剰汚泥量の設定値を調整することを特徴とする請求項6または7に記載の水処理施設の運転支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理施設における季節毎の運転支援及び運転制御に関する。
【背景技術】
【0002】
地域の下水処理場では、下水処理水放流先の養殖業等に配慮し、冬季に下水処理水中の栄養塩類(窒素やりん)濃度を上げることで不足する窒素やりんを供給するなど、地域のニーズに応じ季節毎に水質を管理する季節別運転管理の取組が行われている。例えば、非特許文献1に記載の栄養塩類増加運転のように、水処理施設において、放流先水域(主に海域)の利用を鑑み、季節別または通年で栄養塩類の放流を増加させている。
【0003】
但し、栄養塩類増加運転を実施する場合でも、下水道法等の放流水質に係る法令・条例の遵守が必須であり、その制約下においては例えば図6に示された時期の栄養塩類放流量(濃度)の変化に応じた水処理施設の運転が行われている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】国土交通省水管理・国土保全局下水道部編,「栄養塩類の循環バランスに配慮した運転管理ナレッジに関する事例集」,平成26年3月
【文献】国土交通省水管理・国土保全局下水道部編,「下水放流水に含まれる栄養塩類の能動的管理のための運転方法に係る手順書(案)」,平成27年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図6に例示の移行期は、標準活性汚泥法に基づく多段の反応槽の一部を好気槽から嫌気槽への切替えや送風量(曝気量)の低減、反応槽への流入負荷を高めるため運転系列数を減少する等、水処理施設での運転経験に基づく運転管理が行われる。前記移行期は、運転方法を切り替える作業を行い、栄養塩類の放流濃度を徐々に増加させる期間である。
【0006】
そして、栄養塩類増加運転期では、一旦、反応槽の微生物の状態が悪くなると、水質悪化等、処理が不安定な時期が続くことがあるため、微生物の状態の変化に注意しながら、通常よりも高度な運転管理が必要とされている。
【0007】
また、回復期の作業では、1カ月程度の短い期間に栄養塩類の除去率を上げて運転を安定に維持する必要があることから、特に運転管理が難しいとされている。
【0008】
特に、季節別運転管理が実施されている水処理施設では、水処理施設の維持管理を容易にし、各期への円滑な移行を可能とする水処理施設の運転支援並びに運転制御システムが求められている。
【0009】
なお、通常運転期では、可能な限り栄養塩類を除去した栄養塩類放流濃度を下限目標値とし、これ以上の値に設定され制御される。一方、栄養塩類増加運転期では、法定基準値を遵守できる範囲内で、放流先水域の利用を鑑みて要求される高い栄養塩類放流濃度を上限目標値とし、これ以下の値に設定され制御される。
【0010】
また、水処理施設においては、各水処理施設の機器仕様や放流先の状況施設に適した運転を行うことが好ましく、各水処理施設に蓄積された運転管理情報を利用することも必要とされている。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑み、水処理施設における季節毎の運転支援及び運転制御を適切に行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明の一態様は、水処理施設を季節別に運転支援する水処理施設の運転支援装置であって、水処理施設の年間の水質データを格納したデータベース部と、このデータベース部に格納された水質データから国際水協会に準拠した活性汚泥モデルに基づく演算により前記水処理施設の季節別の運転管理指標を推定する制御部とを備える。
【0013】
本発明の一態様は、前記運転管理指標を出力表示させる画面表示部をさらに備える。
【0014】
本発明の一態様は、前記制御部は、前記運転管理指標として前記水処理施設の硝化菌量を推定する。
【0015】
本発明の一態様は、前記制御部は、前記水処理施設の季節別運転計画に基づき前記運転管理指標として硝化菌量の増減速度を推定する。
【0016】
本発明の一態様は、前記制御部は、前記水処理施設の栄養塩類放流濃度が上限目標値以下に制御される栄養塩類増加運転期から当該栄養塩類放流濃度が下限目標値以上に制御される通常運転期までの回復期の設定期間と、前記通常運転期に至るまでに必要なアンモニア性窒素濃度の低減量とから、前記活性汚泥モデルに基づく演算により前記運転管理指標として硝化菌量増加速度を推定する。
【0017】
本発明の一態様は、前記制御部は、前記通常運転期から前記栄養塩類増加運転期までの移行期の設定期間と、前記栄養塩類増加運転時期までに必要なアンモニア性窒素濃度の増加量とから、前記活性汚泥モデルに基づく演算により前記運転管理指標として硝化菌量減少速度を推定する。
【0018】
本発明の一態様は、前記データベース部には前記水処理施設の操作情報が予め格納され、前記制御部は、前記操作情報に基づき前記硝化菌量の増減速度を補正する。
【0019】
本発明の一態様は、前記制御部は、前記活性汚泥モデルにより推定される硝化菌量の増減速度と予め設定された目標硝化菌量増減速度との偏差に基づき前記水処理施設の余剰汚泥量の設定値を調整する。
【0020】
本発明の一態様は、水処理施設を季節別に運転支援を行うコンピュータが実行する水処理施設の運転支援方法であって、水処理施設の年間の水質データから国際水協会に準拠した活性汚泥モデルに基づく演算により前記水処理施設の季節別の運転管理指標を推定する。
【0021】
本発明の一態様は、前記運転支援方法において、前記運転管理指標として前記水処理施設の硝化菌量を推定する。
【0022】
本発明の一態様は、前記運転支援方法において、前記水処理施設の栄養塩類放流濃度が上限目標値以下に制御される栄養塩類増加運転期から当該栄養塩類放流濃度が下限目標値以上に制御される通常運転期までの回復期の設定期間と、前記通常運転期に至るまでに必要なアンモニア性窒素濃度の低減量とから、前記活性汚泥モデルに基づく演算により前記運転管理指標として硝化菌量増加速度を推定する。
【0023】
本発明の一態様は、前記運転支援方法において、前記通常運転期から前記栄養塩類増加運転期までの移行期の設定期間と、前記栄養塩類増加運転期までに必要なアンモニア性窒素濃度の増加量とから、前記活性汚泥モデルに基づく演算により前記運転管理指標として硝化菌量減少速度を推定する。
【0024】
本発明の一態様は、前記運転支援方法において、前記活性汚泥モデルにより推定される硝化菌量の増減速度と予め設定された目標硝化菌量増減速度との偏差に基づき前記水処理施設の余剰汚泥量の設定値を調整する。
【発明の効果】
【0025】
以上の本発明によれば、水処理施設において季節毎の運転支援及び運転制御を適切に行える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態における水処理施設の運転支援装置のブロック構成図。
図2】放流水アンモニア性窒素濃度と硝化菌量の関係を示した特性図。
図3】前記実施形態における放流水アンモニア性窒素濃度の調整の説明図。
図4】前記実施形態において増加する硝化菌量の制御の説明図。
図5】前記実施形態において減少する硝化菌量の制御の説明図。
図6】水処理施設における栄養塩類放流濃度の時期的な変化を説明した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0028】
本発明の水処理施設の運転支援方法及び運転支援装置の構築にあたり運転管理指標の選定し、この指標に基づいてシステム検討を行った。
【0029】
運転管理指標の選定では、季節別運転などを実施することを想定し、数か月に亘って水処理施設を安定運転するために有効な指標を選定することとした。
【0030】
運転管理指標の選定にあたり、活性汚泥モデルを活用して運転管理指標の評価を行った。この活性汚泥モデルは、IWA(国際水協会)に準拠した活性汚泥モデル(以下、ASM)であり、通常、水処理施設の反応槽(活性汚泥槽)における水質の推定に利用されている。そして、前記選定の過程では、ASMに基づき推定される各種水質項目の濃度値以外にもASMの各種演算パラメータも表示するように、さらに、これらの数値やパラメータ間でトレンドグラフ表示や相関図表示などを行えるようにした。
【0031】
運転管理指標の選定条件としては、(1)栄養塩類放流濃度との高い相関性、(2)降雨時などの水処理施設への流入負荷変動などによる外部要因の影響を直接受けにくいこと、(3)水処理施設側の運転条件により管理及び制御が可能であることとした。
【0032】
そして、以上の運転管理指標に基づく水処理施設の運転支援並びに運転制御のためのシステムを構築とその検証を行った。
【0033】
[運転管理指標の選定作業]
(1)選定方法
流入下水の水質や反応槽の運転条件を与え、反応槽内での処理工程をASMに基づくシミュレーションを行った。尚、対象施設は、季節別運転を行っている水処理施設とし、年間の水質および運転データを使用した。
【0034】
また、シミュレーションモデルには、ASMの一態様であるASM2d(有機物,窒素及びりんの除去を予測するモデル)を採用し、実際の水処理施設の処理過程に適用し、複数の反応槽を有する槽列モデルを設定した。
【0035】
(2)選定結果
シミュレーションによると、水処理施設の放流水のアンモニア性窒素濃度を含めて水処理施設の処理状況をよく表現できていることが確認された。また、他の水処理施設でも同様な結果が得られた。
【0036】
次いで、通常運転期および栄養塩類増加運転期の放流水の栄養塩類濃度が、上限目標値と下限目標値の範囲内となる条件下において栄養塩類を窒素として、放流水のアンモニア性窒素濃度と高い相関がある指標を鋭意調査し、図2に示されたような対象施設の水処理施設の放流水のアンモニア性窒素濃度とシミュレーションモデルの硝化菌量の演算値とが特徴的な関係を示すこと判明した。
【0037】
さらに、水処理施設の放流水のアンモニア性窒素濃度とシミュレーションモデル内での硝化菌量の演算値を詳細に調査したところ、図2に示すように、放流水NH4-N(実測)と硝化菌量(演算値)との相関が非常に高い結果となった。
【0038】
以上のことから、ASMに基づいて演算された硝化菌量の増減によって放流水NH4-N(実測)の増減が推定できることがわかる。
【0039】
硝化菌量は、外部要因の影響を短期で受けることがなく微生物の状態を表す指標であるので、運転管理指標として適すると判断し、硝化菌量を選定した。
【0040】
尚、季節別運転が実施される水処理施設においては、年間データを利用した長期間で評価したが、硝化抑制によって通年、栄養塩類の増加運転を行っている場合や、季節別運転を実施していない水処理施設であっても、図2に示された大きな変動が生じないので、硝化菌量は運転管理指標として同様に利用が可能であると考えられる。
【0041】
この運転管理指標を利用した運転を行うことで、季節別運転の回復期以外の通常運転期、移行期や栄養塩類増加運転期などにおいても、水処理施設の維持管理を容易にし、各期への円滑な移行を可能とすることが期待される。尚、栄養塩類増加運転期は図6に示されたように水処理施設の栄養塩類放流濃度が上限目標値以下に設定され制御される期間を意味する。通常運転期は、前記栄養塩類放流濃度が下限目標値以上に設定され制御される期間を意味する。
【0042】
尚、硝化菌量は、反応槽内の硝化菌量(kg)を表すが、反応槽容積に対する硝化菌量とすることで(mg/L)として表示することも可能である。
【0043】
以下の実施形態においては、硝化菌量は運転管理指標として適用した水処理施設の運転支援並びに運転制御する装置とそのシステムの態様例について説明する。
【0044】
[実施形態1]
実施形態1の水処理施設の運転支援システムは、運転管理指標として硝化菌量を利用者に提示する。
【0045】
図1に例示された運転支援装置1は、コンピュータのハードウェア資源とソフトウェア資源との協働により、データ入出力部10,データベース部11,制御部12,画面表示部13を実装する。
【0046】
データ入出力部10は、例えば、水処理施設2の過去と現在を含めた年間の計装データの収集や水質分析値(水質データ)などの入力データやASM2dに基づく推定結果を入出力する。制御部12による推定結果やデータベース部11から引き出されたデータは、外部、例えば、水処理施設2の運転管理を行う利用者の端末(PC、携帯情報端末など)に出力される。
【0047】
データベース部11は、前記入力データや前記演算処理の結果を格納する。尚、本実施形態のデータベース部11は、運転支援装置1の不揮発性の記憶領域(例えばHDD、SSD等の周知の不揮発性メモリ)に格納される態様となっているが、クラウドサーバから取得される態様としてもよい。
【0048】
制御部12は、ASM2dに基づく演算により水処理施設2の運転管理指標を推定する。運転管理指標としては、例えば、水処理施設2の季節別運転計画に基づき推定されるものであり、水処理施設2の反応槽の硝化菌量、硝化菌量の増減速度、余剰汚泥量や、放流水質(例えば、有機物,窒素及びりんの濃度)等が例示される。
【0049】
画面表示部13は、制御部12による推定結果やデータベース部11から引き出したデータを出力表示させる。例えば、水処理施設2の計装データや水質データ、制御部12により推定された硝化菌量の情報(数値、硝化菌量増減速度など)、データ表示期間を変更可能なトレンド表示などが可能であり、図2に例示の硝化菌量と他の表示項目との同一画面上への重ね合わせなどにより複数情報の画面表示も可能である。
【0050】
例えば、栄養塩類放流濃度の目標値を達成するための前記ASMに基づき演算で求めた目標とする硝化菌量と、水処理施設2の栄養塩類放流濃度と、水処理施設2のASMに基づいて演算された硝化菌量とを同一画面上への重ね合わることも可能である。
【0051】
このようにして図2に示された画面表示によれば、運転管理指標としての硝化菌量の数値とトレンド(長期、短期)を視覚的に把握して他の表示項目と比較できることになるため、これを前記利用者が確認しながら施設運転を行うことで安定した季節別運転を行える。
【0052】
本実施形態においては、水処理施設2の既設の監視装置とは別に設置するものとして説明したが、水処理施設2の既設の監視装置に本発明の機能を実装させてもよい。
【0053】
また、前記利用者が従来実行した水処理施設2の操作情報(例えば、バルブの操作、ポンプやブロアの運転時間、汚泥返送量、汚泥引抜量、原水の流量調整など)をルール化してデータベース部11に蓄積させるとよい。そして、このルール化された操作情報に基づきASMの演算結果を補正してデータベース部11に格納またはデータ入出力部10を介して画面表示部13により出力表示または前記利用者の端末に出力してもよい。または、前記ルール化された操作情報を例えばAI(人工知能)に学習させてASMの演算処理を実行させてもよい。以上のような水処理施設2の操作情報の活用により水処理施設2での運転経験を踏まえた運転操作のガイダンスが可能となる。
【0054】
[実施形態2]
実施形態2の運転支援装置1は「季節別運転の回復期」の水処理施設2の運転支援を行う。
【0055】
季節別運転の回復期とその後の通常運転期の期間では、1カ月程度の短い期間に栄養塩類の除去率を上げて運転を安定に維持する必要がある。
【0056】
回復期では硝化菌量が低いので余剰汚泥量を減らして硝化菌量を上げる運転管理が行われる。本実施形態は、この運転管理の際に硝化菌量を運転管理指標とした回復期における運転支援を行う。
【0057】
特に、本実施形態では、水処理施設2の運転管理を行う利用者が、運転支援装置1から出力された当該利用者の端末の画面に表示される硝化菌量やその変化を示す傾向線と、栄養塩類放流濃度の目標値を達成するための硝化菌量の増加を示す操作線とを対比しながら余剰汚泥量の設定値の調整を行う。尚、余剰汚泥量は、余剰汚泥に対する硝化菌量の存在比率(η)に基づいて、硝化菌量を換算して求められる。
【0058】
硝化菌量の増加を示す前記操作線は、回復期の期間と、通常運転開始時に到達すべき硝化菌の増加量(kg)とから、硝化菌量増加速度(硝化菌の増加量/回復期期間)(kg/日)として、予め求められる。
【0059】
以下、本実施形態の具体的な運転支援の手順S101~S105について説明する。
【0060】
(操作線(硝化菌量増加速度y)の算出)
S101:画面表示部13は現在までの運転状況を例えば図2の形式で画面表示させる。
【0061】
S102:制御部12は、図3の形式で画面表示された現在の放流水のアンモニア性窒素濃度a(mg/L)と回復期設定期間後に目標とするアンモニア性窒素濃度b(mg/L)との差に基づき、回復期の運転にて低減が必要なアンモニア性窒素濃度c(mg/L)を算出する。
【0062】
S103:制御部12は、別途、図2で示される放流水NH4-N(実測)(mg/L)と硝化菌量(演算値)(kg)との関係により予め求め設定される相関式から、前記低減が必要なアンモニア性窒素濃度c(mg/L)に対応する増加硝化菌量(kg)を求め、回復期終了時点での反応槽(m3)における硝化菌量の必要増加目標設定値X(kg)を算出する。
【0063】
S104:制御部12は、予め回復期に割り当てた設定期間T(日)と手順S103で算出された硝化菌量の必要増加目標設定値X(kg)とに基づき、硝化菌量増加速度y(kg/日)を算出する。これが硝化菌量の増加を示す操作線となる。
【0064】
次いで、制御部12は、余剰汚泥に対する硝化菌量の存在比率(η)で硝化菌量増加速度y(kg/日)を換算した余剰汚泥量増加速度Y(kg/日)を、現在の運転条件で設定されている余剰汚泥量の設定値(kg/日)から差し引き補正して、新たな余剰汚泥量の設定値Y1(kg/日)とする。前記利用者は、この余剰汚泥量の設定値Y1(kg/日)を参考にし、水処理施設2の運転設定値を変更する。
【0065】
尚、前記操作線は、利用者が栄養塩類放流濃度の目標値や回復期の期間などの設定条件をデータ入出力部10から入力することで算出や変更が可能である。
【0066】
(操作線に基づいた硝化菌量の増加操作)
S105:画面表示部13は、手順S104で算出された硝化菌量増加速度y(kg/日)を図2のグラフに反映させた図4に例示のグラフを出力表示させる。図4に示された硝化菌量増加速度y(kg/日)が示す操作線は、設定期間T(日)内で硝化菌量の必要増加目標設定値X(kg)とするための運転管理用の初期設定の操作線となる。
【0067】
そして、新たな余剰汚泥量の設定値Y1(kg/日)で水処理施設2の運転が開始される。硝化菌量の増加操作の調整の必要性は、前記利用者の端末の画面(例えば図4)に表示された前記操作線(硝化菌量増加速度y)と硝化菌量の情報(数値や硝化菌量増加速度など。図4に記載の回復期では略)との一致度合いを当該利用者が監視して判断する。その偏差が許容値以上となった場合には、当初設定した余剰汚泥量の設定値Y1(kg/日)の調整を行う。これにより、回復期を設定期間内にて計画的に実施でき通常運転期へと円滑な移行が可能となる。
【0068】
以上のように、前記利用者は、硝化菌量の増加を当該利用者の端末にて図4に例示された操作線(硝化菌量増加速度y(kg/日))を監視しながら、当初設定した余剰汚泥量の設定値Y1(kg/日)を調整できる。
【0069】
また、前記利用者の端末の画面においては、前記硝化菌量増加速度y(kg/日)の表示に代えて余剰汚泥に対する硝化菌量の存在比率(η)に基づき換算された余剰汚泥量増加速度を表示させてもよい。
【0070】
さらに、硝化菌量増加速度と当初設定した操作線(目標硝化菌量増減速度)との許容偏差を予め運転支援装置1に設定し、当該硝化菌量増加速度が許容偏差以上となった場合に当初設定された余剰汚泥量の設定値Y1(kg/日)を逐次補正する機能を制御部12に付加させてもよい。これにより、水処理施設2の「季節別の回復期」に対応した運転支援装置1による硝化菌量の自動制御が可能となる。
【0071】
以上のように硝化菌量を運転管理指標として利用した本実施形態の運転支援装置1においては、季節別運転の回復期において水処理施設2の維持管理を容易にし、各期への円滑な移行を可能とする。さらに、各水処理施設に蓄積された運転管理情報を利用することで、水処理施設の機器仕様や放流先の状況施設に適した運転を行うことが可能となる。また、後述の実施形態3のように、回復期以外の通常運転期や、移行期や栄養塩類増加運転期などにおいても個々の期間に対応した水処理施設2の維持管理が行える。
【0072】
[実施形態3]
実施形態3の運転支援装置1は「季節別運転の移行期」の水処理施設2の運転支援を行う。移行期においては、例えば、冬場のノリ養殖の開始時期に応じて上昇させた栄養塩類が有効利用されるので、できるだけ迅速に硝化抑制することで窒素を増加させることが好ましい。移行期はアンモニア性窒素濃度を増やすために余剰汚泥量を増やして硝化菌量を下げる運転操作が実行される。この操作の際に硝化菌量を運転管理指標とした移行期における運転支援の適応例について以下に説明する。
【0073】
本実施形態では、水処理施設2の運転管理を行う利用者が、運転支援装置1から出力された当該利用者の端末の画面に表示される硝化菌量やその変化を示す傾向線と、栄養塩類放流濃度の目標値を達成するための硝化菌量の減少を示す操作線とを対比しながら余剰汚泥量の設定値の調整を行う。
【0074】
前記硝化菌量を減少させる前記操作線は、移行期の期間と、栄養塩類増加期間開始時に到達すべき硝化菌の低減量とに基づき、硝化菌量減少速度(硝化菌の低減量/移行期期間)として、制御部12により予め算出されたものである。
【0075】
本実施形態の具体的な運転支援の手順S201~S205について以下説明する。
【0076】
(操作線(硝化菌量減少速度y’)の算出)
具体的な運転支援の手順について以下説明する。
【0077】
S201:画面表示部13は現在までの運転状況を例えば図2の形式で画面表示させる。
【0078】
S202:制御部12は、図2の形式で画面表示された現在の放流水のアンモニア性窒素濃度a’(mg/L)と、移行期設定期間後の目標とするアンモニア性窒素濃度b’(mg/L)との差に基づき、移行期の運転にて増やすことが必要なアンモニア性窒素濃度c’(mg/L)を算出する。
【0079】
S203:制御部12は、別途、図2で示される放流水NH4-N(実測)(mg/L)と硝化菌量(演算値)(kg)との関係により予め求め設定される相関式から、前記の増やすことが必要なアンモニア性窒素濃度c’(mg/L)に対応する硝化菌量(kg)を求め、移行期終了時点での反応槽(m3)における硝化菌量の必要な削減目標設定値X’(kg)を算出する。
【0080】
S204:制御部12は、予め移行期に割り当てた設定期間T(日)と、手順S203で算出した硝化菌量の必要な削減目標設定値X’(kg)とに基づき、硝化菌量減少速度y’(kg/日)を算出する。これが硝化菌量の減少を示す操作線となる。
【0081】
次いで、制御部12は、余剰汚泥に対する硝化菌量の存在比率(η)で硝化菌量減少速度y’(kg/日)を換算した余剰汚泥量減少速度Y’(kg/日)を、現在の運転条件である余剰汚泥量の設定値(kg/日)に加算し補正して、新たな余剰汚泥量の設定値Y1’(kg/日)とする。前記利用者は、この余剰汚泥量の設定値Y1’(kg/日)を参照し、水処理施設2の運転設定値を変更する。
【0082】
尚、前記操作線は、実施形態2と同様に、利用者が栄養塩類放流濃度の目標値や移行期の期間などの設定条件をデータ入出力部10から入力することで算出や変更が可能である。
【0083】
(操作線に基づいた硝化菌量の減少操作)
S205:画面表示部13は、手順S204で算出された硝化菌量減少速度y’(kg/日)を図2のグラフに反映させた図5に例示のグラフを出力表示させる。図5に示された硝化菌量減少速度y’(kg/日)が示す操作線は、設定期間T(日)で、硝化菌量の削減目標設定値X’(kg)とするための運転管理用の初期設定の操作線となる。
【0084】
そして、新たな余剰汚泥量の設定値Y1’(kg/日)で水処理施設2の運転が開始される。硝化菌量の減少操作の調整の必要性は、前記利用者の端末の画面(例えば図5)に表示された前記操作線(硝化菌量減少速度y’)と硝化菌量の情報(数値、硝化菌量減少速度を示す傾向線など。図5に記載の移行期では略)との一致度合いを当該利用者が監視して判断する。その偏差が許容値以上となった場合には、当初設定した余剰汚泥量の設定値Y1’(kg/日)の調整を行う。これにより、移行期を設定期間内にて計画的に実施でき栄養塩類増加期間へと円滑な移行が可能となる。
【0085】
以上のように、前記利用者は、硝化菌量の減少を当該利用者の端末にて表示された図5に例示の操作線(硝化菌量減少速度y’(kg/日))を監視しながら、当初設定した余剰汚泥量の設定値Y1’(kg/日)を調整できる。
【0086】
また、前記利用者の端末の画面においては、前記硝化菌量減少速度の表示に代えて、余剰汚泥に対する硝化菌量の存在比率(η)に基づき換算された余剰汚泥量減少速度を表示させてもよい。
【0087】
さらに、硝化菌量減少速度と当初設定した操作線(目標硝化菌量増減速度)との許容偏差を予め運転支援装置1に設定し、当該硝化菌量減少速度が許容偏差以上となった場合に当初設定された余剰汚泥量の設定値Y1’(kg/日)を逐次補正する機能を制御部12に付加させてもよい。これにより、水処理施設2の「季節別運転の移行期」に対応した運転支援装置1による硝化菌量の自動制御が可能となる。
【0088】
以上のように硝化菌量を運転管理指標として利用した本実施形態の運転支援装置1によれば、季節別運転の移行期においても、水処理施設の維持管理を容易にし、各期への円滑な移行を可能とする。さらに、各水処理施設に蓄積された運転管理情報を利用することで、水処理施設の機器仕様や放流先の状況施設に適した運転を行うことが可能となる。
【0089】
尚、本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲内で様々な態様で実施が可能である。
【符号の説明】
【0090】
1…運転支援装置
2…水処理施設
10…データ入出力部
11…データベース部
12…制御部
13…画面表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6