(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】端子付き電線およびワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
H01R 4/70 20060101AFI20220405BHJP
H01R 4/18 20060101ALI20220405BHJP
H01R 4/62 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
H01R4/70 K
H01R4/18 A
H01R4/62 A
(21)【出願番号】P 2018066579
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2020-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 卓也
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山野 能章
(72)【発明者】
【氏名】小野 純一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴章
【審査官】高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-028152(JP,A)
【文献】特開2003-162925(JP,A)
【文献】特開2010-218780(JP,A)
【文献】特開2013-251166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/70
H01R 4/18
H01R 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子金具と、導体の外周を電線被覆材で被覆した電線とが、電気接続部において電気的に接続され、前記電気接続部を被覆するとともに、前記電線被覆材に接触した樹脂被覆部を有する端子付き電線において、
前記電線被覆材は、可塑剤を含有する重合度3000以下のポリ塩化ビニルを主成分としてなり、
前記樹脂被覆部は、高分子成分と、可塑剤とを含有し、
前記電線被覆材および前記樹脂被覆部における可塑剤の含有量を、それぞれの高分子成分100質量部に対して、それぞれ
20質量部以上のa質量部および
20質量部以下のb質量部として、b/aで規定される可塑剤比率が、0.1以上
かつ0.50以下であり、
前記電線被覆材と前記樹脂被覆部との界面において、融着が生じていることを特徴とする端子付き電線。
【請求項2】
前記樹脂被覆部は、前記高分子成分として、熱可塑性エラストマーを含むことを特徴とする請求項1に記載の端子付き電線。
【請求項3】
前記熱可塑性エラストマーは、ポリエステル系エラストマーであることを特徴とする請求項2に記載の端子付き電線。
【請求項4】
前記可塑剤比率は、0.25以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の端子付き電線。
【請求項5】
前記ポリ塩化ビニルの重合度は、2000以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の端子付き電線。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の端子付き電線を有することを特徴とするワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子付き電線およびワイヤーハーネスに関し、さらに詳しくは、導体と端子金具の電気接続部に防食用の樹脂被覆部を有する端子付き電線、およびそれを用いたワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に配索される電線の端末においては、導体に端子金具が接続される。この場合に、端子金具と電線の導体とが電気的に接続された電気接続部において、腐食を防止することが求められる。特に、電気接続部において、異なる金属材料が接触する場合には、異種金属間腐食が起こる可能性がある。車両に用いられる電線においては、車両の軽量化などを目的として、導体の材料にアルミニウムやアルミニウム合金が用いられる場合がある。一方、端子金具の材料には銅や銅合金が用いられ、その表面にはスズなどによってめっきが施されることが多い。この場合に、アルミニウム系金属と銅系金属またはスズめっき層とが接触する電気接続部において、異種金属間腐食が問題となりやすい。このため、電気接続部を確実に防食することが求められる。
【0003】
電気接続部の防食を行うために、電気接続部を樹脂材料で被覆することが公知である。例えば、特許文献1には、端子付き電線の導体と圧着端子との接続部の周囲と、接続部に隣接する電線被覆材の周囲とに一体成型された防食剤として、熱可塑性エラストマーを主成分とし、圧着端子の端子材および電線被覆材との剥離接着強さが、それぞれ所定値以上であるものを用いることが、開示されている。
【0004】
また、電気接続部の防食を行うための別の形態として、特許文献2に、圧着端子において、電線導体の露出部分を圧着する圧着部の内表面の所定の位置に、止水材を備える構成が開示されている。この圧着端子を電線のアルミニウム芯線に接続すると、圧着部とアルミニウム芯線との間の隙間が、圧着部の内表面に配置された止水材によって封止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-214477号公報
【文献】特開2016-164890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電線において、導体を被覆する電線被覆材としては、ポリ塩化ビニル(PVC)が用いられることが一般的である。PVCには、材料の柔軟性を向上させるために、可塑剤が添加されることが多い。特許文献1に示されるように、端子付き電線の電気接続部に、防食剤よりなる樹脂被覆部を設けた端子付き電線が、自動車のエンジンルーム内等に配置され、高温環境下に晒されると、樹脂被覆部と電線被覆材の接触部において、電線被覆材に含有される可塑剤が、樹脂被覆部へと移行しやすくなる。特に、樹脂被覆部が、熱可塑性エラストマーのように、結晶性の低い樹脂材料よりなる場合に、可塑剤の移行が起こりやすい。
【0007】
このように、電線被覆材から樹脂被覆部への可塑剤の移行が起こると、電線被覆材の弾性率が上昇して、電線被覆材に割れが発生しやすくなる。すると、発生した割れの部分に、水分等の腐食因子の侵入経路が形成されて、樹脂被覆部に覆われた電気接続部に腐食因子が侵入し、電気接続部の腐食につながる。つまり、端子付き電線の防食性能を長期にわたって維持することが、難しくなる。
【0008】
特許文献2に記載されるように、端子金具の圧着部の内表面に防食剤の層を設け、電線導体を封止する構造を用いれば、電線被覆材が防食剤に直接接触しないため、電線被覆材から防食剤への可塑剤の移行は実質的に起こらない。しかし、内表面に防食剤を配置した特殊な構造の端子金具を形成するためには、防食剤を内表面に配置しない、従来一般の端子金具と同じ設計を採用することができないため、端子金具の汎用性が低下し、端子金具の製造における経済性も低くなってしまう。
【0009】
本発明の解決しようとする課題は、端子金具と電線の間の電気接続部が樹脂被覆部で被覆された端子付き電線およびワイヤーハーネスにおいて、特殊な構造を用いなくても、電線被覆材に含有される可塑剤の樹脂被覆部への移行によって、電線被覆材に割れが発生するのを抑制することができる、端子付き電線およびワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明にかかる端子付き電線は、端子金具と、導体の外周を電線被覆材で被覆した電線とが、電気接続部において電気的に接続され、前記電気接続部を被覆するとともに、前記電線被覆材に接触した樹脂被覆部を有する端子付き電線において、前記電線被覆材は、可塑剤を含有する重合度3000以下のポリ塩化ビニルを主成分としてなり、前記樹脂被覆部は、高分子成分と、可塑剤とを含有し、前記電線被覆材および前記樹脂被覆部における可塑剤の含有量を、それぞれの高分子成分100質量部に対して、それぞれa質量部およびb質量部として、b/aで規定される可塑剤比率が、0.1以上である。
【0011】
ここで、前記樹脂被覆部は、前記高分子成分として、熱可塑性エラストマーを含むとよい。前記可塑剤比率は、0.25以上であるとよい。前記ポリ塩化ビニルの重合度は、2000以下であるとよい。前記電線被覆材と前記樹脂被覆部との界面において、融着が生じているとよい。
【0012】
本発明にかかるワイヤーハーネスは、上記のような端子付き電線を有するものである。
【発明の効果】
【0013】
上記発明にかかる端子付き電線においては、樹脂被覆部に可塑剤が含有され、電線被覆材における可塑剤の含有量との比である可塑剤比率が、0.1以上となっている。そのため、高温環境に晒されても、電線被覆材に含有される可塑剤が、樹脂被覆部に移行しにくくなっている。また、電線被覆材を構成するポリ塩化ビニルの重合度が3000以下となっていることで、高温環境下で、樹脂被覆部への可塑剤の移行によって、電線被覆材における可塑剤の含有量が低下することがあっても、電線被覆材が高い柔軟性を維持することができる。このように、可塑剤の移行自体を抑制することと、移行が起こった場合の影響を抑えることの効果により、電線被覆材から樹脂被覆部への可塑剤の移行によって、電線被覆材に割れが発生するのを、抑制することができる。その結果、樹脂被覆部による端子付き電線の防食性能を、長期にわたって維持することができる。
【0014】
ここで、樹脂被覆部が、高分子成分として、熱可塑性エラストマーを含む場合には、熱可塑性エラストマーが有する特性により、高い防食性能を有する樹脂被覆部を構成することができる。熱可塑性エラストマーは、その結晶性の低さにより、接触している材料からの可塑剤の移行を起こしやすい材料であるが、可塑剤比率および電線被覆材におけるポリ塩化ビニルの重合度が上記のように規定されていることの効果により、可塑剤の移行によって電線被覆材に割れが発生するのを、効果的に抑制することができる。
【0015】
可塑剤比率が、0.25以上である場合には、電線被覆材から樹脂被覆部への可塑剤の移行を、特に効果的に抑制することができる。
【0016】
ポリ塩化ビニルの重合度が、2000以下である場合には、ポリ塩化ビニルが高い柔軟性を有するため、可塑剤の移行が起こって、電線被覆材における可塑剤の含有量が減少したとしても、電線被覆材に割れが発生するのを、特に効果的に抑制することができる。
【0017】
電線被覆材と樹脂被覆部との界面において、融着が生じている場合には、融着によって、電線被覆材に対する樹脂被覆部の接着性を高め、高い防食性能を得ることができる。融着によって、電線被覆材から樹脂被覆部への可塑剤の移行が起こりやすくなるが、可塑剤比率および電線被覆材におけるポリ塩化ビニルの重合度が上記のように規定されていることの効果により、可塑剤の移行による電線被覆材の割れの発生を、効果的に抑制することができる。
【0018】
上記発明にかかるワイヤーハーネスは、上記のような端子付き電線を含んでいるため、高温環境に晒されても、電線被覆材から樹脂被覆部への可塑剤の移行によって、電線被覆材に割れが発生しにくい。よって、長期にわたって、防食性能を維持しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる端子付き電線を示す透視側面図である。
【
図3】本発明の一実施形態にかかるワイヤーハーネスを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0021】
[端子付き電線]
<全体の構成>
まず、本発明の一実施形態にかかる端子付き電線1の全体の構成を、
図1,2を参照しながら説明する。本発明の一実施形態にかかる端子付き電線1は、導体3が絶縁体よりなる電線被覆材4により被覆された電線2と、端子金具5が、電気接続部6において電気的に接続されてなる。そして、電気接続部6を含む部位を被覆して、樹脂材料よりなる樹脂被覆部7が形成されている。本明細書においては、端子付き電線1の長手方向に沿って、端子金具5が配置された側(
図1の左側)を前方、電線2が配置された側(
図1の右側)を後方とする。
【0022】
端子金具5は、接続部51を有する。また、接続部51の後端側に一体に延設形成されて、第一のバレル部52と第二のバレル部53とからなるバレル部を有する。接続部51は、雌型嵌合端子の箱型の嵌合接続部として構成されており、雄型接続端子(不図示)と嵌合可能となっている。
【0023】
電気接続部6では、電線2の端末の電線被覆材4が除去され、導体3が露出されている。この導体3が露出された電線2の端末部が、端子金具5のバレル部52,53の片面側(
図1の上面側)にかしめ固定されて、電線2と端子金具5が接続されている。具体的には、第一のバレル部52が、導体3と端子金具5を電気的に接続するとともに、端子金具5に導体3を物理的に固定している。一方、第二のバレル部53が、第一のバレル部52よりも後方において、第一のバレル部52が導体3を固定しているのよりも弱い力で電線2を固定し、端子金具5への電線2の物理的な固定を補助している。第二のバレル部53は、電線2の端末に露出された導体3を後方でかしめ固定していても、さらに後方の電線被覆材4に導体3が被覆された箇所において、電線2を電線被覆材4の外周からかしめ固定していてもよいが、図示した形態では、露出された導体3をかしめ固定している。
【0024】
樹脂被覆部7は、端子付き電線1の長手方向に関して、電線2の端末で露出された導体3の先端3aよりも前方の位置から、電線被覆材4の先端よりも後方までの領域にわたり、電気接続部6全体および電線被覆材4の端末側の一部の領域を被覆して形成されている。端子付き電線1の周方向に関して、樹脂被覆部7は、端子金具5の位置においては、底面(
図1下方の、導体3が固定されたのと反対側の面)を除く各面を被覆している。電線2の位置においては、樹脂被覆部7は、電線2の全周を被覆している。そして、樹脂被覆部7は、電線被覆材4を被覆している部位においては、電線被覆材4の表面に接触している。
【0025】
端子付き電線1において、電気接続部6を含む端子金具5の部分を、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の樹脂材料よりなる中空のコネクタハウジング(不図示)に挿入して、コネクタとしての使用に供することができる。上記のように、端子金具5の底面に樹脂被覆部7が設けられない場合には、小型のコネクタハウジングの中空部へも挿入を行いやすいが、中空部の寸法に余裕がある場合等には、端子金具5の底面に樹脂被覆部7を設けてもよい。
【0026】
本実施形態にかかる端子付き電線1は、次に詳しく述べるように、電線被覆材4と樹脂被覆部7の間の可塑剤含有量の比率が、所定の下限値以上となっている。また、電線被覆材4を構成するポリ塩化ビニル(PVC)の重合度が、所定の上限値以下となっている。それらの効果により、電線被覆材4から樹脂被覆部7への可塑剤の移行により、電線被覆材4に割れが発生するのが、抑制される。
【0027】
<各部の構成>
以下、端子付き電線1を構成する端子金具5、電線2の導体3および電線被覆材4、樹脂被覆部7の具体的構成について、説明する。
【0028】
(1)端子金具
端子金具5の材料(母材の材料)としては、一般的に用いられる黄銅の他、各種銅合金、銅などを挙げることができる。端子金具5の表面の一部(例えば接点)もしくは全体には、スズ、ニッケル、金またはそれらを含む合金など、各種金属によりめっきが施されていてもよい。
【0029】
(2)導体
電線2の導体3は、単一の金属線よりなってもよいが、複数の素線が撚り合わされた撚線よりなることが好ましい。この場合、撚線は、1種の金属素線より構成されていてもよいし、2種以上の金属素線より構成されていてもよい。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維よりなる素線などを含んでいてもよい。撚線中には、電線2を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれていてもよい。
【0030】
上記導体3を構成する金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料などを例示することができる。また、補強線となる金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレスなどを例示することができる。また、補強線となる有機繊維としては、ケブラーなどを挙げることができる。
【0031】
上記のように、導体3および端子金具5は、それぞれ、いかなる金属材料よりなってもよいが、端子金具5が、銅または銅合金よりなる母材にスズめっきを施された一般的な端子材料よりなり、導体3がアルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる素線を含んでいる場合のように、電気接続部6において異種金属が接触している場合には、水分等の腐食因子との接触によって電気接続部6に特に腐食が発生しやすい。しかし、樹脂被覆部7が、電気接続部6を被覆していることで、このような異種金属間腐食を抑制することができる。
【0032】
(3)電線被覆材
電線2を構成する電線被覆材4は、重合度が3000以下のポリ塩化ビニル(PVC)を主成分としてなっている。つまり、電線被覆材4を構成する高分子成分のうち、重合度が3000以下のPVCが、最も多くなっている。PVCの重合度が低いほど、電線被覆材4の柔軟性が高くなる。好ましくは、電線被覆材4を構成する高分子成分の50質量%以上、さらに好ましくは、電線被覆材4を構成する高分子成分の全体が、重合度3000以下のPVCよりなるとよい。電線被覆材4の主成分となるPVCの重合度は、2500以下、さらには2000以下であると、より好ましい。重合度の下限は特に設けられないが、電線被覆材4において、十分な引張破断強度を確保する観点から、主成分となるPVCの重合度は、1000以上であることが好ましい。
【0033】
電線被覆材4は、重合度3000以下のPVCを主成分としていれば、他の高分子成分を含有してもよい。他の高分子成分としては、重合度が3000を超えるPVC、あるいは、ゴム、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、熱可塑性エラストマーなど、PVC以外の高分子材料を挙げることができる。
【0034】
電線被覆材4は、高分子成分に加え、可塑剤を含有している。可塑剤の種類は、特に限定されるものではなく、一般的にPVCの柔軟化を目的として添加される可塑剤を適用することができる。そのような可塑剤として、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジオクチル等のフタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)(TOTM)等のトリメリット酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等を例示することができる。これらのうち、フタル酸エステル系可塑剤やトリメリット酸エステル系可塑剤等、低分子よりなる可塑剤の方が、高分子(重合体)よりなる可塑剤よりも、接触する材料への移行を起こしやすく、PVCの重合度および後述する可塑剤比率の規定によって、可塑剤の移行による電線被覆材4の割れを抑制することの効果が大きくなる。特に、DINPは、PVCを主成分とする電線被覆材に、最も一般的に添加される可塑剤であり、本実施形態においても、DINPを用いることが好ましい。可塑剤は、1種類のみを用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0035】
電線被覆材4における可塑剤の含有量は、樹脂被覆部7との間で、後述する可塑剤比率を満たしていれば、特に限定されるものではない。しかし、電線被覆材4に十分な柔軟性を付与する観点、また、可塑剤の移行や揮発が起こったとしても、可塑剤を多く残存させる観点から、高分子成分100質量部に対して、可塑剤の含有量を10質量部以上、さらには40質量部以上とすることが好ましい。一方、電線2の保管中に可塑剤が染み出すのを避ける観点等から、可塑剤の含有量は、70質量部以下とすることが好ましい。
【0036】
電線被覆材4を構成する材料には、可塑剤以外に、適宜、各種添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤、安定剤等を挙げることができる。
【0037】
(4)樹脂被覆部
上記のように、樹脂被覆部7は、端子付き電線1において、電気接続部6を含んで、導体3の先端3aから、導体3が電線被覆材4に被覆された部位の一部にまで及ぶ領域を、連続して被覆している。電気接続部6を樹脂被覆部7で被覆することで、樹脂被覆部7によって、外部から電気接続部6への水分等の腐食因子の侵入を抑制することができる。このように、樹脂被覆部7は、腐食因子による電気接続部6の腐食を抑制する役割を果たす。
【0038】
樹脂被覆部7は、高分子成分と、可塑剤とを含有する材料よりなっている。高分子成分および可塑剤の種類は、特に限定されるものではない。樹脂被覆部7が、可塑剤を含有することで、電線被覆材4から樹脂被覆部7に可塑剤が移行するのを、抑制することができる。
【0039】
上記のように、樹脂被覆部7に含有される可塑剤の種類は、特に限定されないが、樹脂被覆部7への添加によって、電線被覆材4からの可塑剤の移行を効果的に抑制する観点からは、電線被覆材4に含有される可塑剤と同系のものを用いることが好ましい。例えば、電線被覆材4に含有される可塑剤がフタル酸エステル系である場合には、樹脂被覆部7に含有される可塑剤もフタル酸エステル系であることが好ましい。電線被覆材4に含有される可塑剤と樹脂被覆部7に含有される可塑剤の種類が同一であれば、特に好ましい。電線被覆材4と同様、樹脂被覆部7においても、可塑剤は、1種類のみを用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0040】
樹脂被覆部7における可塑剤の含有量は、電線被覆材4における可塑剤の含有量との比率によって定められる。ここで、電線被覆材4における可塑剤の含有量を、電線被覆材4を構成する高分子成分100質量部に対して、a質量部とする。また、樹脂被覆部7における可塑剤の含有量を、樹脂被覆部7を構成する高分子成分100質量部に対して、b質量部とする。そして、b/aを、電線被覆材4に対する樹脂被覆部7の可塑剤比率とする。この可塑剤比率が、0.1以上となるように、樹脂被覆部7における可塑剤の含有量が定められる。
【0041】
電線被覆材4に対する樹脂被覆部7の可塑剤比率を0.1以上とすることで、電線被覆材4から樹脂被覆部7への可塑剤の移行を、効果的に抑制することができる。可塑剤比率は、0.25以上、さらには0.5以上であると、特に好ましい。なお、電線被覆材4および/または樹脂被覆部7に、2種類以上の可塑剤を混合して添加する場合には、各可塑剤の合計量に基づいて、可塑剤比率を規定すればよい。
【0042】
上記のように、樹脂被覆部7を構成する高分子成分の種類も、特に限定されるものではなく、1種類のみを用いても、2種類以上を混合してもよい。高分子成分の例としては、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴム等を挙げることができる。これらのうち、接触する材料からの可塑剤の移行を受けやすく、可塑剤比率の規定によって、電線被覆材4からの可塑剤の移行を抑制することの効果が大きくなるという観点からは、ポリスチレン系樹脂、アクリレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴムを用いることが好ましい。
【0043】
高い防食性能を得る観点から、樹脂被覆部7を構成する高分子成分は、高い引張弾性率および引張伸度、引張強度を有することが好ましい。例えば、引張弾性率が15MPa以上、さらには30MPa以上、引張伸度が100%以上、引張強度が5MPa以上、さらには10MPa以上であることが好ましい。高分子成分が、これらの特性を有することで、電気接続部6や電線被覆材4の表面に密着し、使用中に割れ等の損傷を生じにくい樹脂被覆部7を形成することができる。これらの値はいずれもJIS K 7161に準拠して室温にて測定されるものである。また、耐熱性の観点から、JIS K 7121に準拠して測定される融点が160℃以上、さらには180℃以上であることが好ましく、樹脂被覆部7を形成する際の広がりやすさの観点から、JIS K 7210に準拠して250℃にて測定される溶融時粘度が900dPa・s以下、好ましくは500dPa・s以下であることが好ましい。上記で列挙したうち、特に、熱可塑性エラストマーを用いれば、これら各物性を充足しやすいうえ、端子金具5の表面および電線被覆材4の表面の両方に高い接着性を示す点からも好適である。熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等を例示することができる。これらのうち、上記各物性と接着性に特に優れるポリエステル系エラストマーを用いることが、特に好適である。
【0044】
樹脂被覆部7は、可塑剤以外に、各種添加剤を含有してもよい。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤、安定剤等を挙げることができる。
【0045】
樹脂被覆部7の厚さは、特に限定されるものではないが、十分な防食性を確保する観点から、0.1mm以上であることが好ましい。一方、樹脂被覆部7の大型化を避ける観点から、0.2mm以下であることが好ましい。
【0046】
樹脂被覆部7と電線被覆材4との接触部においては、融着(溶着)が生じていることが好ましい。融着により、樹脂被覆部7が電線被覆材4に強固に密着するようになり、防食性能が向上する。融着は、樹脂被覆部7を構成する高分子材料と電線被覆材4を構成する高分子材料が、界面において、ともに溶融し、相互拡散して固化した状態であり、樹脂被覆部7と電線被覆材4の界面に、相互の高分子材料が混和または化学反応した融着層(接着層)が形成される。融着層の形成は、例えば、射出成形等によって樹脂被覆部7を形成する際に、樹脂被覆部7となる組成物を、電線被覆材4の融点以上の温度に加熱した状態で、電線被覆材4の表面に接触させることで、行うことができる。
【0047】
樹脂被覆部7の具体的な被覆部位および形状は、上記のようなものに限られず、少なくとも電気接続部6を被覆し、電線被覆材4に接触していれば、どのような形態をとっても構わない。例えば、樹脂被覆部7の外側に、樹脂被覆部7の保護等を目的として、別の樹脂材料の層を設けてもよい。また、端子金具5の表面に対する樹脂被覆部7の接着を補助する観点から、樹脂被覆部7が端子金具5を被覆する部位において、樹脂被覆部7の層と端子金具5の表面との間に、プライマー(接着剤)の層を設けてもよい。ただし、樹脂被覆部7を構成する高分子成分が、上記で好適な材料として挙げた熱可塑性エラストマーよりなる場合には、金属材料に対しても高い接着強度を示すことが多く、その場合には、プライマーを用いる必要はない。
【0048】
本端子付き電線1を製造する方法としては、最初に、電線被覆材4を皮剥した電線2の端末に、端子金具5のバレル部52,53をかしめて固定すればよい。そして、電線導体3と端子金具5の間の圧着部である電気接続部6を含む所定の位置に、射出成形、塗布等によって、樹脂被覆部7を形成すればよい。
【0049】
<可塑剤の移行>
本実施形態にかかる端子付き電線1においては、上記のように、電線被覆材4に対する樹脂被覆部7の可塑剤比率を、0.1以上としている。また、電線被覆材4を構成するPVCの重合度を、3000以下としている。これにより、端子付き電線1が高温に晒された際に、電線被覆材4と樹脂被覆部7の界面において、可塑剤が電線被覆材4から樹脂被覆部7に移行することで、電線被覆材4に割れが発生するのを、抑制することができる。
【0050】
もし、樹脂被覆部7に可塑剤が含有されないとすれば、あるいは、含有されても、電線被覆材4における含有量との比において、その含有量が少なすぎると、樹脂被覆部7と電線被覆材4が接触する部位が高温に晒された際に、電線被覆材4に含有される可塑剤が、樹脂被覆部7との接触界面から、樹脂被覆部7へと拡散し、移行する。このような可塑剤の移行が起こり、電線被覆材4に含有される可塑剤の量が減少すると、可塑剤による電線被覆材4の柔軟化の効果が損なわれる。すると、電線被覆材4の弾性率が上昇して、電線被覆材4が脆くなり、樹脂被覆部7と接触する部位、またその近傍で、電線被覆材4に割れが発生しやすくなる。このような割れが発生すると、割れの箇所に、腐食因子の侵入経路が形成されてしまう。すると、樹脂被覆部7に被覆された電気接続部6に、腐食因子が侵入し、電気接続部6の腐食を引き起こす可能性がある。
【0051】
しかし、樹脂被覆部7に、電線被覆材4に対する可塑剤比率で0.1以上、さらに好ましくは0.25以上、また0.5以上の含有量で、可塑剤が含有され、電線被覆材4と樹脂被覆部7の間の可塑剤含有量の差が小さくなると、高温に晒された際にも、電線被覆材4に含有される可塑剤が、樹脂被覆部7へと拡散しにくくなる。このように、可塑剤の移行が抑えられることで、高温環境下でも、電線被覆材4の柔軟性を維持することができ、柔軟性の低下に起因する電線被覆材4の割れを抑制することができる。その結果、長期にわたって、樹脂被覆部7による防食性能を維持することができる。
【0052】
また、本実施形態にかかる端子付き電線1においては、電線被覆材4を構成するPVCに、柔軟性の向上を目的として、可塑剤を添加しているが、高温に晒された際に、樹脂被覆部7への可塑剤の移行が起こり、電線被覆材4中の可塑剤の含有量が減少すると、PVC自体が十分な柔軟性を有していない場合には、電線被覆材4に割れが発生する可能性がある。電線被覆材4中の可塑剤の含有量の減少は、樹脂被覆部7への移行だけでなく、大気中への可塑剤の揮発によっても起こりうる。
【0053】
しかし、PVCをはじめとする樹脂材料は、重合度が低いほど、高い柔軟性を有する。そこで、電線被覆材4を構成するPVCの重合度を、3000以下、さらに好ましくは2500以下、また2000以下とし、PVC自体が高い柔軟性を有するようにしておくことで、高温環境下で、可塑剤の移行や揮発により、電線被覆材4中の可塑剤の含有量が減少することがあっても、電線被覆材4全体として、高い柔軟性を確保することができる。その結果、樹脂被覆部7と接触する部位、またその近傍で、電線被覆材4に割れが発生し、防食性能が低下するのを、抑制することができる。
【0054】
このように、本実施形態にかかる端子付き電線1においては、樹脂被覆部7に、電線被覆材4との比として、十分な量の可塑剤を添加することで、電線被覆材4から樹脂被覆部7への可塑剤の移行が起こること自体を抑制している。同時に、電線被覆材4を構成するPVCの重合度を低く抑えておくことで、もし樹脂被覆部7への可塑剤の移行が起こったとしても、可塑剤の移行によって生じる影響、つまり、電線被覆材4の柔軟性の低下を、小さく抑えることができる。このように、樹脂被覆部7と電線被覆材4の接触部が高温に晒された際に、電線被覆材4から樹脂被覆部7への可塑剤の移行を原因として、電線被覆材4に割れが発生し、腐食因子の侵入経路を形成する現象を、2つの機構によって、効果的に抑制することができる。その結果、端子付き電線1を、自動車のエンジンルーム等、高温に晒される環境で用いたとしても、樹脂被覆部7によって電気接続部6の腐食を防止する防食性能を、長期にわたって維持することができる。
【0055】
特に、電線被覆材4と樹脂被覆部7との界面において、融着が生じている場合には、電線被覆材4と樹脂被覆部7の間の密着により、融着が生じていない場合よりも、可塑剤の移行が起こりやすくなるが、上記のように、樹脂被覆部7に十分な量の可塑剤を添加することと、電線被覆材4を構成するPVCの重合度を低く抑えておくことによって、融着界面を介した可塑剤の移行による電線被覆材4の割れを、効果的に抑制することができる。よって、融着による電線被覆材4に対する樹脂被覆部7の接着強度の向上と、電線被覆材4の割れの抑制の効果により、優れた防食性能を達成することができる。
【0056】
以上のような、可塑剤の移行による電線被覆材4の割れの抑制は、樹脂被覆部7および電線被覆材4の構成材料によって達成されるものであり、特殊な構造を必要とするものではない。
【0057】
[ワイヤーハーネス]
本発明の実施形態にかかるワイヤーハーネスは、上記本発明の実施形態にかかる端子付き電線1を含む複数の電線よりなる。ワイヤーハーネスを構成する電線の全てが本発明の実施形態にかかる端子付き電線1であってもよいし、その一部のみが本発明の実施形態にかかる端子付き電線1であってもよい。
【0058】
図3に、ワイヤーハーネスの一例を示す。ワイヤーハーネス10は、メインハーネス部11の先端部から、3つの分岐ハーネス部12が分岐した構成を有している。メインハーネス部11において、複数の端子付き電線が束ねられている。それらの端子付き電線は、3つの群に分けられて、それぞれの群が、各分岐ハーネス
部12において束ねられている。メインハーネス部11および分岐ハーネス部12において、粘着テープ14を用いて、複数の端子付き電線を束ねるとともに、曲げ形状を保持している。メインハーネス部11の基端部と各分岐ハーネス部12の先端部には、コネクタ13が設けられている。コネクタ13は、各端子付き電線の端末に取り付けられた端子金具を収容している。
【0059】
上記ワイヤーハーネス10を構成する複数の端子付き電線のうち、少なくとも1本が、上記本発明の実施形態にかかる端子付き電線1よりなっている。その端子付き電線1の端子金具5、および樹脂被覆部7に被覆された電気接続部6が、コネクタ13に収容されている。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明の実施例および比較例を示す。ここでは、端子付き電線において、可塑剤比率およびPVCの重合度と、防食性能との関係を評価した。なお、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0061】
(試料の作製)
端子付き電線における防食性能を評価するために、電線を作製した。具体的には、PVCに対して、可塑剤であるジイソノニルフタレート(DINP)と、充填剤としての重炭酸カルシウム、および安定剤としてカルシウム亜鉛系安定剤を混合し、電線被覆材用組成物を調整した。この際、PVCとして、重合度の異なるものを準備し、各実施例および比較例において、表1,2に示す重合度のものを用いた。また、可塑剤の含有量は、100質量部のPVCに対して、表1,2に示す量とした。100質量部のPVCに対して、重炭酸カルシウムの含有量は、20質量部、安定剤の含有量は、5質量部とした。
【0062】
電線被覆材用組成物の調製は、上記各成分を180℃で混合することによって行った。次いで、得られたポリ塩化ビニル組成物を、アルミニウム合金線を7本撚り合わせたアルミニウム合金撚線よりなる導体(断面積0.75mm)の周囲に0.28mm厚で押出被覆した。これにより電線を作製した。
【0063】
上記で作製した電線の端末を皮剥して電線導体を露出させた後、自動車用として汎用されているスズめっきされた黄銅よりなるメス形状の圧着端子金具を、電線の端末にかしめ圧着した。
【0064】
次いで、上記電線を用いて、端子付き電線を作成した。まず、樹脂被覆部を構成する防食剤組成物を調製した。つまり、ポリエステル系熱可塑性エラストマーに、可塑剤として、DINPを混合した。可塑剤の含有量は、後の表1,2に示すとおりとした。なお、ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、東洋紡製「バイロショット GM960-RK30」を用いており、この材料は、19MPaの引張弾性率、400%の引張伸度、4MPaの引張強度、160℃の融点、220℃で140dPa・sの溶融粘度を有している。
【0065】
上記で端子金具を圧着した電線に対して、
図1,2に示したように、露出した電線導体の先端よりも前方の部位から、電線被覆材に被覆された領域までにわたり、上記で調製した防食剤組成物の層を射出成形によって形成し、樹脂被覆部とした。樹脂被覆部の厚さは、場所に応じて、0.2~0.5mmとした。
【0066】
(試験方法)
上記で作製した各実施例および比較例にかかる端子付き電線に対して、高温放置を経た際の防食性能を評価した。
【0067】
まず、端子付き電線を、大気中、120℃にて保持した。120℃での保持時間は、各端子付き電線に対して、30時間、60時間、120時間の3とおりとした。そして、各時間の高温放置を経た端子付き電線を、室温に放冷後、樹脂被覆部が設けられた部位全体を水に浸漬し、端子金具が接続されていない側の電線端部から、50kPaで空気圧を10秒間印加した。その後、空気圧を200kPaに上昇させ、10秒間印加するエアリーク試験を行った。
【0068】
空気圧を印加した際に、目視にて、電線被覆材と樹脂被覆部の界面から気泡が発生するのが確認された場合には、エアリークが発生していると判定し、気泡の発生が見られなかった場合には、エアリークが発生していないと判定した。そして、200kPaの空気圧を印加してもエアリークが発生しなかった場合を、防食性能が特に優れている「A」と評価した。200kPaの空気圧ではエアリークが発生したが、50kPaの空気圧ではエアリークが発生しなかった場合を、防食性能が高い「B」と評価した。50kPaの空気圧でもエアリークが発生した場合は、防食性能が低い「C」と評価した。
【0069】
(試験結果)
下の表1,2に、実施例1~6および比較例1~6について、電線被覆材における可塑剤の含有量(a)および樹脂被覆部における可塑剤の含有量(b)と、可塑剤比率(b/a)、PVCの重合度とともに、防食性能試験の結果を示す。ここで、可塑剤の含有量は、電線被覆材および樹脂被覆部のそれぞれを構成する高分子成分を100質量部として示している。「0」と記載しているものは、可塑剤を添加していないことを示している。
【0070】
【0071】
【0072】
表1,2によると、可塑剤比率が0.1以上であり、かつ、電線被覆材を構成するPVCの重合度が3000以下となっている各実施例においては、120時間の高温放置を経た後でも、高い防食性能が維持されている。これは、電線被覆材との比において、樹脂被覆部に十分な量の可塑剤が含有されていることにより、電線被覆材から樹脂被覆部への可塑剤の移行が抑制されていること、また、電線被覆材を構成するPVCの重合度が低く抑えられており、可塑剤の移行や揮発が起こっても、電線被覆材が高い柔軟性を維持できることにより、高温での可塑剤の移行による電線被覆材の割れが抑制されていることの結果であると解釈される。
【0073】
実施例において、電線被覆材のPVCの重合度が同じになっている組(実施例1,3~5の組、実施例2,6の組)で、防食性能試験の結果を比較すると、可塑剤比率が大きい方が、高い防食性能を示す傾向が見られる。特に、電線被覆材の可塑剤含有量およびPVCの重合度が同じで、樹脂被覆部における可塑剤含有量が異なることにより、可塑剤比率が異なっている実施例1と実施例3の組、また実施例4と実施例5の組、実施例2と実施例6の組を比較すると、可塑剤比率の小さい実施例3,5,6よりも、可塑剤比率の大きい実施例1,4,2で、120時間の高温放置後の防食性能試験において、優れた結果が得られている。このことは、可塑剤比率が大きいほど、可塑剤の移行による防食性能の低下を、高度に抑制できることを示している。
【0074】
また、可塑剤比率と電線被覆材のPVCの重合度が同じで、電線被覆材および樹脂被覆部のそれぞれにおける可塑剤の含有量が異なっている実施例3と実施例4の組を比較すると、電線被覆材および樹脂被覆部における可塑剤の含有量が多い実施例4の方で、120時間の高温放置後の防食性能試験において、優れた結果が得られている。このことは、可塑剤比率が同じであっても、電線被覆材における可塑剤の含有量が多い方が、高温放置を経た後の電線被覆材において、可塑剤の含有量が多い状態が維持され、電線被覆材の柔軟性が確保されやすいことによると考えられる。
【0075】
これらに対し、各比較例においては、可塑剤比率が0.1未満となっている。そして、少なくとも120時間の高温放置を経た後で、防食性能が低くなっており、要求される防食性能が維持されていない。このことは、樹脂被覆部に可塑剤が含有されないか、含有されても、電線被覆材との比において、量が少なすぎることで、電線被覆材から樹脂被覆部への可塑剤の移行が起こりやすくなるため、高温放置を経て、電線被覆材に割れが発生するものと解釈できる。
【0076】
比較例3~6では、電線被覆材のPVCの重合度が異なっている。いずれも樹脂被覆部に可塑剤が含有されていないため、少なくとも120時間の高温放置後に、十分な防食性能が得られていない。しかし、電線被覆材のPVCの重合度が低い比較例3においては、高温放置時間が60時間までであれば、高い防食性能が保たれている。これは、PVCの重合度が低いことにより、可塑剤が樹脂被覆部に移行しても、電線被覆材の柔軟性を維持することができ、割れが防止されるためであると考えらえる。
【0077】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0078】
上記実施形態にかかる端子付き電線においては、可塑剤比率を0.1以上とし、かつ、電線被覆材の主成分であるPVCの重合度を3000以下とすることで、電線被覆材に含有される可塑剤の樹脂被覆部への移行によって、電線被覆材に割れが発生するのを抑制するという課題を解決し、優れた防食性能を達成している。しかし、端子付き電線の使用を想定している環境の温度が比較的低い場合等、要求される防食性能の程度が低い場合には、可塑剤比率を0.1以上とすること、または、電線被覆材の主成分であるPVCの重合度を3000以下とすることの一方によって、電線被覆材に含有される可塑剤の樹脂被覆部への移行によって、電線被覆材に割れが発生するのを抑制し、要求される防食性能を達成することができる。さらに、電線被覆材がPVC以外の高分子を主成分としてなる場合にも、可塑剤比率を0.1以上とすること、および/または、電線被覆材の主成分である高分子の重合度を所定の上限値以下とすることで、電線被覆材に含有される可塑剤の樹脂被覆部への移行によって、電線被覆材に割れが発生するのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 端子付き電線
2 電線
3 導体
4 電線被覆材
5 端子金具
52 第一のバレル部
53 第二のバレル部
6 電気接続部
7 樹脂被覆部