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特許7052501ラスレーダー用の音波発生装置、及び、ラスレーダー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】ラスレーダー用の音波発生装置、及び、ラスレーダー
(51)【国際特許分類】
   G01K 11/24 20060101AFI20220405BHJP
   G01S 13/95 20060101ALI20220405BHJP
   G01H 9/00 20060101ALI20220405BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20220405BHJP
   H04R 1/34 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
G01K11/24
G01S13/95
G01H9/00 C
H04R3/00 310
H04R1/34 330B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018072191
(22)【出願日】2018-04-04
(65)【公開番号】P2019184299
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100166958
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 喜代造
(72)【発明者】
【氏名】奥島 規志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英二
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-099036(JP,A)
【文献】特開2008-258863(JP,A)
【文献】特開2017-172982(JP,A)
【文献】特開平11-264773(JP,A)
【文献】米国特許第04222265(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
G01H 1/00-17/00
G01S 7/00- 7/42
13/00-13/95
H04R 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波と電波とを上空に向けて送波し、音波面によって反射する電波のドップラー効果による周波数シフト量から観測空域での音速を測定し、測定した音速から観測空域における気温を算出するラスレーダー用の音波発生装置であって、
傾斜して配置される第一反射板と、前記第一反射板と対向する位置に傾斜して配置される第二反射板と、前記第一反射板の上方に設けられた架台に、音波を下方に向けて出力する向きに設置されるパラメトリックスピーカーと、を備え、
前記パラメトリックスピーカーから出力された音波が、前記第一反射板で反射した後に前記第二反射板に向けて送波され、
前記第一反射板から前記第二反射板に向けた送波された音波が、前記第二反射板で反射した後に上空に向けて送波され、
前記第二反射板における、前記第一反射板と反対側の端部に、前記第二反射板に対して傾斜する二次反射板が設けられる、ラスレーダー用の音波発生装置。
【請求項2】
前記パラメトリックスピーカーから出力された音波が、前記第一反射板と前記第二反射板とで反射した後に、鉛直上向きに送波される、請求項1に記載のラスレーダー用の音波発生装置。
【請求項3】
前記パラメトリックスピーカーは、音波を鉛直下向きに出力する向きに設置される、請求項1又は請求項2に記載のラスレーダー用の音波発生装置。
【請求項4】
前記第一反射板と前記第二反射板とは、水平面から40度から50度の間の角度に傾斜して配置される、請求項3に記載のラスレーダー用の音波発生装置。
【請求項5】
前記パラメトリックスピーカーは、前記第一反射板の上方の領域内に設置される、請求項4に記載のラスレーダー用の音波発生装置。
【請求項6】
前記パラメトリックスピーカーは、中心部から前記第一反射板までの鉛直方向距離が、前記第一反射板の斜面方向における前記パラメトリックスピーカーの水平方向長さよりも小さくなる位置に設置される、請求項5に記載のラスレーダー用の音波発生装置。
【請求項7】
前記パラメトリックスピーカーは、中心部と、前記第一反射板の上方の領域と前記第二反射板の上方の領域との境界面と、の水平方向距離が、前記第一反射板の斜面方向における前記パラメトリックスピーカーの水平方向長さよりも小さくなる位置に設置される、請求項6に記載のラスレーダー用の音波発生装置。
【請求項8】
前記第一反射板と前記第二反射板とが硬質コンクリート、発泡コンクリート、又は、モルタルで形成される、請求項1から請求項7の何れか1項に記載のラスレーダー用の音波発生装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8の何れか1項に記載の音波発生装置と、
上空に向けて電波を送波し、前記音波発生装置から上空に向けて送波された音波の音波面による反射電波を受信し、ドップラー効果による周波数シフト量から観測空域での音速を測定するドップラーレーダーと、
前記ドップラーレーダーで測定した音速から観測空域における気温を算出する処理装置と、を備える、ラスレーダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラスレーダー用の音波発生装置、及び、ラスレーダーに関し、具体的には指向性の高い音波を発生させることが可能なラスレーダー用の音波発生装置及びラスレーダーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上層大気中の風向風速・気温高度分布を地上から連続的に遠隔測定するためのシステムとして、電波音波計測システム(ラス(RASS:Radio Acoustic Sounding System)レーダー)が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
ラスレーダーは、地上の音源から上空の観測空域に向けて音波を発射するとともに、ドップラーレーダーから観測空域に向けて電波を発射する。そして、音波の音波面(粗密波面)で反射されるとともにドップラー効果によって周波数がシフトした電波を地上で受信し、電波のドップラーシフト量から観測空域の音波の伝播速度を測定する。さらに、音波の伝播速度が媒質の温度によって変化する性質を利用して、観測空域における気温を算出するのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-172982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献には、上方に向けて設置された指向性スピーカーから上空に向かって音波を送波する技術が記載されている。しかし、このような構成では、降雨時や降雪時に指向性スピーカーに設けられた圧電素子が濡れてしまう。一方、指向性スピーカーを下方に向けて設置し、指向性スピーカーの真下に音波を反射する反射板を配置した場合には、反射板で反射した音が指向性スピーカーに当たってしまう。この場合、音波を適切に上空に送波することができなくなるとともに、指向性スピーカーに当たった音が周囲に伝搬することによる音漏れが大きくなる。
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、音波を適切に上空に送波できるとともに、周囲への音漏れを抑制することを可能とする、ラスレーダー用の音波発生装置、及び、ラスレーダーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前述の課題解決のために、以下のラスレーダー用の音波発生装置を構成した。
【0008】
(1)音波と電波とを上空に向けて送波し、音波面によって反射する電波のドップラー効果による周波数シフト量から観測空域での音速を測定し、測定した音速から観測空域における気温を算出するラスレーダー用の音波発生装置であって、傾斜して配置される第一反射板と、前記第一反射板と対向する位置に傾斜して配置される第二反射板と、前記第一反射板の上方に設けられた架台に、音波を下方に向けて出力する向きに設置されるパラメトリックスピーカーと、を備え、前記パラメトリックスピーカーから出力された音波が、前記第一反射板で反射した後に前記第二反射板に向けて送波され、前記第一反射板から前記第二反射板に向けた送波された音波が、前記第二反射板で反射した後に上空に向けて送波され、前記第二反射板における、前記第一反射板と反対側の端部に、前記第二反射板に対して傾斜する二次反射板が設けられる、ラスレーダー用の音波発生装置。
【0009】
(2)前記パラメトリックスピーカーから出力された音波が、前記第一反射板と前記第二反射板とで反射した後に、鉛直上向きに送波される、(1)に記載のラスレーダー用の音波発生装置。
【0010】
(3)前記パラメトリックスピーカーは、音波を鉛直下向きに出力する向きに設置される、(1)又は(2)に記載のラスレーダー用の音波発生装置。
【0011】
(4)前記第一反射板と前記第二反射板とは、水平面から40度から50度の間の角度に傾斜して配置される、(3)に記載のラスレーダー用の音波発生装置。
【0012】
(5)前記パラメトリックスピーカーは、前記第一反射板の上方の領域内に設置される、(4)に記載のラスレーダー用の音波発生装置。
【0013】
(6)前記パラメトリックスピーカーは、中心部から前記第一反射板までの鉛直方向距離が、前記第一反射板の斜面方向における前記パラメトリックスピーカーの水平方向長さよりも小さくなる位置に設置される、(5)に記載のラスレーダー用の音波発生装置。
【0014】
(7)前記パラメトリックスピーカーは、中心部と、前記第一反射板の上方の領域と前記第二反射板の上方の領域との境界面と、の水平方向距離が、前記第一反射板の斜面方向における前記パラメトリックスピーカーの水平方向長さよりも小さくなる位置に設置される、(6)に記載のラスレーダー用の音波発生装置。
【0015】
(8)前記第一反射板と前記第二反射板とが硬質コンクリート、発泡コンクリート、又は、モルタルで形成される、(1)から(7)の何れか一に記載のラスレーダー用の音波発生装置。
【0016】
また、本発明は、前述の課題解決のために、以下のラスレーダーを構成した。
【0017】
(1)から(8)の何れか一に記載の音波発生装置と、上空に向けて電波を送波し、前記音波発生装置から上空に向けて送波された音波の音波面による反射電波を受信し、ドップラー効果による周波数シフト量から観測空域での音速を測定するドップラーレーダーと、前記ドップラーレーダーで測定した音速から観測空域における気温を算出する処理装置と、を備える、ラスレーダー。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るラスレーダー用の音波発生装置、及び、ラスレーダーによれば、音波を適切に上空に送波できるとともに、周囲への音漏れを抑制することを可能とする、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係るラスレーダーのシステムを示した図。
図2】ラスレーダーにより上空の気温を測定する原理を説明する図。
図3】第一実施形態に係る音波発生部を示した前方斜視図。
図4】第一実施形態に係る音波発生部を示した後方斜視図。
図5】第一実施形態に係る音波発生部を示した側面図。
図6】(a)及び(b)はそれぞれ音波発生部における第一実験の実験条件を示した平面図及び側面図。
図7】(a)及び(b)はそれぞれ音波発生部における第二実験の実験条件を示した平面図及び側面図。
図8】第二実施形態に係る音波発生部を示した前方斜視図。
図9】第二実施形態に係る音波発生部を示した側面図。
図10】第二実施形態に係る音波発生部における第三実験の実験結果を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、図1及び図2を用いて、本発明に係るラスレーダーの概略構成を説明する。図1は、ラスレーダーのシステムを示している。また、図2はラスレーダーにより上空の気温を測定する原理を説明する図である。図1において、符号1は音波発生装置、符号2はドップラーレーダー、符号3は処理装置を示している。
【0021】
本実施形態におけるラスレーダーにおいて、音波発生装置1は、音波を上空に向けて送波するための構成として、第一実施形態に係る音波発生部40を備えている(図3及び図4を参照)。図3及び図4に示す如く、音波発生部40は、パラメトリックスピーカー4と、パラメトリックスピーカー4を支持する架台41と、架台41に設けられる制御ボックス42と、パラメトリックスピーカー4の下側に配置される第一反射板21及び第二反射板22と、第一反射板21及び第二反射板22を支持する第一支持部材23及び第二支持部材24と、を備える。
【0022】
制御ボックス42には、音波発生装置1を構成する発振器5、スイッチング手段6、位相制御器7、増幅器8等の各種の機器が、処理装置3及びパラメトリックスピーカー4と電気的に接続された状態で収容されている。そして、図1に示す如く、音波発生装置1は発振器5で音波信号を発生させる。そして、発振器5は発生した音波信号を、スイッチング手段6を介して位相制御器7に送り、増幅器8で所定出力に増幅した後、パラメトリックスピーカー4に入力する。パラメトリックスピーカー4は、入力された音波信号に基づいて、所定周波数、所定位相の音波を発生させ上空に送波するのである。
【0023】
図1及び図2に示す如く、ドップラーレーダー2は、送信アンテナ9と受信アンテナ10を備え、レーダー送信器11から送信アンテナ9に信号を送って上空に向けて探査電波Dを送波する。そして、音波発生装置1で発生されて上空を進行中の音波の音波面A(詳細には、音波によって大気中に生じた粗密の境界面)で反射した反射電波Rを受信アンテナ10で受けてその信号をレーダー受信器12で検出する。さらに、その受信信号を周波数シフト量測定器13に入力して、ドップラー効果による周波数シフト量(ドップラーシフト)を検出し、それから観測空域における音波発生装置1から上空に向けて送波された音波の音速を測定する。
【0024】
そして、処理装置3は、ドップラーレーダー2で測定された音速データが入力されて、音波の伝播速度が媒質の温度によって変化する性質を利用して観測空域の気温を算出する。処理装置3は、典型的にはコンピュータで構成する。処理装置3は、スイッチング手段6を制御して音波を送波するタイミングを制御し、あるいは各種の初期データを入力し、また測定結果を出力することが可能である。
【0025】
通常、ドップラーレーダー2は測距機能を備えている。例えば、送信アンテナ9から送波された探査電波が音波面Aに反射され、その反射電波が受信アンテナ10で受信するまでの時間差から音波面Aまでの距離を算出できる。このように、本実施形態に係るラスレーダーによって、上空の気温高度分布を測定できるのである。
【0026】
図3及び図4に示す如く、本実施形態に係る音波発生部40は、パラメトリックスピーカー4と、パラメトリックスピーカー4の下側で傾斜して配置される第一反射板21と、第一反射板21と対向する位置に傾斜して配置される第二反射板22と、を備える。詳細には、パラメトリックスピーカー4は、第一反射板21の上方に設けられた架台41に、音波を下方に向けて出力する向きに設置されている。なお、本実施形態におけるパラメトリックスピーカー4の向きは第一反射板21に向かって下向きに設置されているが、音波が下方に出力される配置であれば、パラメトリックスピーカー4をやや斜めに設置しても差し支えない。
【0027】
パラメトリックスピーカー4は、電圧を印加して所定周波数で振動させることにより空気を振動させる圧電素子を備えており、直方体形状に形成される。パラメトリックスピーカー4は、出力する音波の一部として超音波を使うことにより、鋭い指向性を持たせることが可能となる。本実施形態において、パラメトリックスピーカー4はスイッチサイエンス(登録商標)社製のものを用いた。また、パラメトリックスピーカー4で出力する超音波の音圧は100db以上とし、圧電素子の数は5,000個以上20,000個以下のものを採用した。
【0028】
図3及び図4に示す如く、パラメトリックスピーカー4は第一反射板21の上方を跨いで架け渡された架台41に支持されている。架台41はH鋼等で形成されたスチールフレーム、又は、アルミフレームで構成されている。
【0029】
第一反射板21及び第二反射板22は、第一支持部材23及び第二支持部材24により傾斜した状態で支持される。第一支持部材23及び第二支持部材24は、架台41と同様に、スチールフレーム又はアルミフレームで構成される。第一反射板21及び第二反射板22の互いに対向する面には、それぞれ第一反射面21a及び第二反射面22aが形成されている。
【0030】
本実施形態において、第一反射板21及び第二反射板22は縦方向の寸法が1~3m、横方向の寸法が1~3m、厚さが20mm以上の平面状のコンクリート板が採用される。本実施形態において、第一反射板21及び第二反射板22は正方形の板状部材が用いられているが、第一反射板21及び第二反射板22を長方形としても良い。第一反射板21、第二反射板22の材質としては、硬質コンクリート、発泡コンクリート、コンクリートブロック、FPR、樹脂板、鉄板、アルミニウム板、ステンレス金蔵板等を採用することができる。ただし、板の裏側への音漏れを少なくするという観点から、第一反射板21及び第二反射板22は硬質コンクリート、発泡コンクリート、又は、モルタルで形成することが好ましい。
【0031】
上記の如く構成した音波発生部40において、パラメトリックスピーカー4が音波を出力すると、出力された音波は図5中の矢印Xに示す如く、第一反射板21の第一反射面21aと第二反射板22の第二反射面22aとで順に二回反射した後に上空に向けて送波される。
【0032】
上記の如く、本実施形態に係るラスレーダー用の音波発生装置1によれば、音波発生部40において、パラメトリックスピーカー4が音波を下方に向けて出力する向きに設置されている。これにより、降雨時や降雪時にパラメトリックスピーカー4に設けられた圧電素子が濡れることを防止できる。
【0033】
また、本実施形態においては、パラメトリックスピーカー4から出力された音波を、図5中の矢印Xに示す如く、第一反射板21と第二反射板22とで二回反射してから上空に送波している。これにより、反射した音がパラメトリックスピーカー4に当たることを防ぎ、音波を適切に上空に送波することができる。さらに、パラメトリックスピーカー4に当たって反射した音波が周囲に伝搬することによる音漏れを抑制することが可能となる。
【0034】
本実施形態において、第一反射板21及び第二反射板22はコンクリート板が採用されているが、第一反射板21及び第二反射板22における第一反射面21a及び第二反射面22aに平滑化やモルタル塗布等の表面処理をしても良い。また、第一反射板21及び第二反射板22の裏面に吸音材を設けても良い。
【0035】
また、第一反射板21及び第二反射板22の形状は平面に限定されず、曲面であっても差し支えない。ただし、第一反射板21及び第二反射板22の成形の容易性という観点からは、コンクリートで成形することが好ましい。なお、反射した音がパラメトリックスピーカー4に当たった音が水平方向に広がる事で生じる音漏れを防ぐ観点からは、第一反射板21及び第二反射板22を曲面板で形成することが好ましい。
【0036】
本実施形態に係る音波発生部40において、パラメトリックスピーカー4から出力された音波は、図5に示す如く、第一反射板21と第二反射板22とで反射した後に、鉛直上向きに送波される。これにより、ドップラーレーダー2が送波する電波の方向と音波の方向と重ね合わせることができるため、ドップラーレーダー2による音速の測定の精度、及び、観測空域における気温の算出の精度を高めることができる。
【0037】
また、音波発生部40において、第一反射板21と第二反射板22とのなす角は約90度となるように設置されている。これにより、パラメトリックスピーカー4を図3から図5に示す如く、音波を略鉛直下向きに出力する向きに設置するだけで、第一反射板21と第二反射板22とで反射した音波を鉛直上向きに送波することを可能としている。即ち、第一反射板21と第二反射板22とで反射した音波を鉛直上向きに送波するためのパラメトリックスピーカー4の設置方法を容易にすることが可能となる。
【0038】
また、音波発生部40において、第一反射板21と第二反射板22とは図5に示す如く、水平面からの傾斜角度が40度から50度の間(本実施形態においてはともに45度)となるように配置される。これにより、パラメトリックスピーカー4から出力して第一反射板21に当たる前の音波と、第二反射板22に当たった後に上空に送波される音波との距離を大きくすることができる。このため、第二反射板22で反射した音がパラメトリックスピーカー4に当たり難くしている。
【0039】
また、音波発生部40において、パラメトリックスピーカー4は、第一反射板21の上方の領域内に設置されている。詳細には図5に示す如く、パラメトリックスピーカー4は、第一反射板21と第二反射板22との境界線を通って地面と垂直となる仮想面Pよりも第一反射板21の側に、当該仮想面Pに交わらないように設置されている。このように、本実施形態によれば、パラメトリックスピーカー4を第二反射板22の上方の領域から退避して配置することにより、第二反射板22で反射した音がパラメトリックスピーカー4に当たり難くしている。
【0040】
次に、図6を用いて、本特許出願の出願人が行った、音波発生部40における音漏れに関する第一実験の実験条件について説明する。図6(a)及び(b)に示す如く、本実験においては、第一反射板21Eと第二反射板22Eとを備える実験用の音波発生部40を用意した。第一反射板21E及び第二反射板22Eは縦1.8m、横1.8m、厚さ50mmの平面状のコンクリート板で構成している。
【0041】
本実験においては図6(a)に示す如く、音波発生部40の第一反射板21Eに近接する位置に設置したパラメトリックスピーカー4Aと、第一反射板21Eから離間する位置に設置したパラメトリックスピーカー4Bをと、のそれぞれで音波を送波し、音波発生部40の周囲に配置した騒音計M1~M5で音量を計測することにより、音波が周囲の環境に与える影響を測定した。本実験におけるパラメトリックスピーカー4A・4Bについては、圧電素子の数が735個のものを用いた。
【0042】
図6(a)及び(b)に示す如く、本実験における騒音計は、第二反射板22Eの上方に配置した第一騒音計M1、第一反射板21Eの裏側(第二反射板22Eと反対の側)に配置した第二騒音計M2、第二反射板22Eの裏側(第一反射板21Eと反対の側)に配置した第三騒音計M3、第二反射板22Eから第一反射板21と第二反射板22との境界線方向に変位した位置にそれぞれ配置した第四騒音計M4及び第五騒音計M5の五個を用いた。それぞれの騒音計はリオン株式会社(登録商標)製の普通騒音計「NL-42K」を用いた。
【0043】
第一実験において、第一騒音計M1の測定結果は、パラメトリックスピーカー4Aで104.5db(A)であり、パラメトリックスピーカー4Bで104.0db(A)であった。このように、第一騒音計M1については、パラメトリックスピーカー4Aとパラメトリックスピーカー4Bとについて大きな違いはみられなかった。一方、第二~第五騒音計M2~M5の測定結果は順に、パラメトリックスピーカー4Aで43.1db(A)、56.7db(A)、48.5db(A)、48.7db(A)であり、パラメトリックスピーカー4Bで50.0db(A)、58.4db(A)、49.1db(A)、49.1db(A)であった。このように、第二~第五騒音計M2~M5については、パラメトリックスピーカー4Aの計測値の中で最も大きい値である56.7db(A)よりも、パラメトリックスピーカー4Bの計測値の中で最も大きい値である58.4db(A)の方が大きくなった。
【0044】
さらに、図7を用いて、本特許出願の出願人が行った、音波発生部40における音漏れに関する第二実験の実験条件について説明する。図7(a)及び(b)に示す如く、本実験においては、第二反射板22Eのみを用いて行った。
【0045】
本実験においては図7(a)に示す如く、第二反射板22Eに近接する位置に設置したパラメトリックスピーカー4Cと、第二反射板22Eから離間する位置に設置したパラメトリックスピーカー4Dをと、のそれぞれで音波を送波し、第二反射板22Eの周囲に配置した騒音計M6~M10で音量を計測することにより、音波が周囲の環境に与える影響を測定した。本実験におけるパラメトリックスピーカー4C・4Dについては、パラメトリックスピーカー4A・4Bと同じものを用いた。
【0046】
図7(a)及び(b)に示す如く、本実験における騒音計は、第二反射板22Eの上方に配置した第六騒音計M6、パラメトリックスピーカー4C・4Dの裏側(第二反射板22Eと反対の側)に配置した第七騒音計M7、第二反射板22Eの裏側(パラメトリックスピーカー4C・4Dと反対の側)に配置した第八騒音計M8、第二反射板22Eの側方にそれぞれ配置した第九騒音計M9及び第十騒音計M10の五個を用いた。それぞれの騒音計はリオン株式会社(登録商標)製の普通騒音計「NL-42K」を用いた。
【0047】
第二実験において、第六騒音計M6の測定結果は、パラメトリックスピーカー4Cで104.4db(A)であり、パラメトリックスピーカー4Dで104.8db(A)であった。このように、第六騒音計M6については、パラメトリックスピーカー4Cとパラメトリックスピーカー4Dとについて大きな違いはみられなかった。一方、第七~第十騒音計M7~M10の測定結果は順に、パラメトリックスピーカー4Cで52.8db(A)、54.4db(A)、47.0db(A)、49.6db(A)であり、パラメトリックスピーカー4Dで46.9db(A)、62.6db(A)、50.9db(A)、48.2db(A)であった。このように、第七~第十騒音計M7~M10については、パラメトリックスピーカー4Cの計測値の中で最も大きい値である54.4db(A)よりも、パラメトリックスピーカー4Dの計測値の中で最も大きい値である62.6db(A)の方が大きくなった。
【0048】
上記の如く、第一実験及び第二実験の双方において、パラメトリックスピーカー4を第一反射板21E又は第二反射板22Eから離間させて設置した場合(パラメトリックスピーカー4B・4D)は、第一反射板21E又は第二反射板22Eに近接させて設置した場合(パラメトリックスピーカー4A・4C)に対して音漏れが大きくなる結果となった。これは、パラメトリックスピーカー4から出力される音波が広がりながら(拡幅しながら)進むためと考えられる。
【0049】
上記の第一実験の結果より、音波発生部40においては、パラメトリックスピーカー4は第一反射板21に近接する位置に設置することが好ましい。例えば、パラメトリックスピーカー4は、中心部から第一反射板21までの鉛直方向距離(図5中のL1)が、第一反射板21の斜面方向(図5中の左右方向)におけるパラメトリックスピーカー4の水平方向長さ(図5中のL2)よりも小さくなる位置に設置されることが好ましい。
【0050】
また、第二実験の結果より、音波発生部40においては、パラメトリックスピーカー4が送波した音波が第一反射板21で反射する位置は、第二反射板22に近接することが好ましい。このため、パラメトリックスピーカー4は、中心部と、第一反射板21の上方の領域と第二反射板22の上方の領域との境界面である仮想面Pと、の水平方向距離(図5中のL3)が、第一反射板21の斜面方向におけるパラメトリックスピーカー4の水平方向長さL2よりも小さくなる位置に設置されることが好ましい。
【0051】
なお、実際のラスレーダーに用いる音波発生装置1として、本実験の如く第二反射板22のみにパラメトリックスピーカー4Cの位置にパラメトリックスピーカー4を配置する構成は、降雨時や降雪時にパラメトリックスピーカー4に設けられた圧電素子が濡れる可能性が高くなるため実用的ではない。この際、パラメトリックスピーカー4に屋根を設けた場合でも、屋根に音波が当たって音漏れが生じるため適切ではない。また、本実験の如く第二反射板22のみにパラメトリックスピーカー4Dの位置にパラメトリックスピーカー4を配置する構成は、上記実験結果の如く音漏れが大きくなるため適切ではない。
【0052】
次に、図8及び図9を用いて、第二実施形態に係る音波発生部140について説明する。本実施形態に係る音波発生部140は、第一実施形態に係る音波発生部40に対して、第二反射板22の上端部に二次反射板31が設けられている点で異なる。本実施形態に係る音波発生部140については、第一実施形態に係る音波発生部40と同様の構成については詳細な説明を省略し、二次反射板31を中心に説明する。
【0053】
図8に示す如く、二次反射板31は、第二反射板22の上端に連続するとともに第二反射板22に対して傾斜した状態で、図示しない支持部材に支持される。二次反射板31は横方向の寸法が第二反射板22と同じ長さで形成され、縦方向の寸法が0.5~1m、厚さが20mm以上の平面状のコンクリート板が採用される。二次反射板31の材質としては、第一反射板21及び第二反射板22と同様に、硬質コンクリート、発泡コンクリート、コンクリートブロック、FPR、樹脂板、鉄板、アルミニウム板、ステンレス金蔵板等を採用することができる。ただし、板の裏側への音漏れを少なくするという観点から、二次反射板31は硬質コンクリート又はモルタルで形成することが好ましい。
【0054】
上記の如く構成した音波発生部140において、パラメトリックスピーカー4が音波を出力すると、出力された音波の一部は図9中の矢印Yに示す如く、二次反射板31で反射した後に上空に向けて送波される。
【0055】
次に、図10を用いて、本特許出願の出願人が行った、本実施形態に係る音波発生部140における音漏れに関する第三実験の実験結果について説明する。本実験においては、第一実験と同じ条件で、二次反射板31の水平面からの角度を可変とした音波発生部140を構成した。そして、二次反射板31の角度を変更して、音波発生部140の周囲に第一実験と同様に配置した第二騒音計M2~第五騒音計M5で音量を計測することにより、二次反射板31の角度と、音波が周囲の環境に与える影響と、の関係を調査した。
【0056】
図10に示す如く、各騒音計M2~M5の騒音レベルの最大値の近似曲線を二次曲線で描いた結果、二次反射板31の水平面からの角度が70度付近で最小となった。この実験結果より、二次反射板31と水平面とのなす角度が65度~70度となるように二次反射板31を配置することが好ましい。これにより、パラメトリックスピーカー4が送波した音波の音波発生部140からの音漏れを最小限にすることができ、音波を適切に上空に送波することができる。
【0057】
本実施形態においても、二次反射板31の表面に平滑化やモルタル塗布等の表面処理をしても良い。また、二次反射板31の裏面に吸音材を設けても良い。
【0058】
本実施形態に係る音波発生部140において、パラメトリックスピーカー4から出力された音波の一部は、図9に示す如く、二次反射板31で反射した後に、上方に向かって送波される。これにより、ドップラーレーダー2が送波する電波の方向と音波の方向と重ね合わせることができるため、ドップラーレーダー2による音速の測定の精度、及び、観測空域における気温の算出の精度をより高めることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 音波発生装置 2 ドップラーレーダー
3 処理装置 4 パラメトリックスピーカー
4A~4D パラメトリックスピーカー
5 発振器 6 スイッチング手段
7 位相制御器 8 増幅器
9 送信アンテナ 10 受信アンテナ
11 レーダー送信器 12 レーダー受信器
13 周波数シフト量測定器 21 第一反射板
21a 第一反射面 21E 第一反射板
22 第二反射板 22a 第二反射面
22E 第二反射板 23 第一支持部材
24 第二支持部材 31 二次反射板
41 架台 42 制御ボックス
A 音波面 D 探査電波
P 仮想面 R 反射電波
M1~M10 騒音計 X 矢印
Y 矢印
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10