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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】車両用操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 7/08 20060101AFI20220405BHJP
   B60G 3/28 20060101ALI20220405BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
B62D7/08 Z
B60G3/28
B62D5/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018078492
(22)【出願日】2018-04-16
(65)【公開番号】P2019182336
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 善晴
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0175009(US,A1)
【文献】特開平3-007670(JP,A)
【文献】特開2010-214986(JP,A)
【文献】特開2018-058484(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107444486(CN,A)
【文献】特開2005-145122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 7/08
B60G 3/28
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に対して転舵輪を懸架するとともに、前記転舵輪を転舵させる車両用操舵装置において、
路面状態に応じて前記転舵輪を介して車体に伝達される衝撃を緩和するダンパーと、前記ダンパーの外周に巻回されたスプリングと、前記ダンパーを収容するとともに前記転舵輪に連結されるナックルブラケットとを備え、
前記ダンパーは、前記転舵輪を転舵させるためのトルクに応じて回転する中空シャフトと、その軸方向に進退移動するピストンロッドとを備え、
前記中空シャフトと前記ナックルブラケットとの間には、前記中空シャフトに対して前記ナックルブラケットが前記軸方向に移動可能、かつ前記中空シャフトの回転を前記ナックルブラケットに伝達可能にしたトルク伝達部が設けられている車両用操舵装置。
【請求項2】
前記トルク伝達部は、前記ナックルブラケットの内面を覆うように設けられた円筒部と、前記中空シャフトの外面に設けられた内側凹部及び前記円筒部の内面に設けられた外側凹部に嵌る転動部材とを有し、
前記内側凹部は、前記転動部材の前記軸方向における長さよりも前記軸方向に長く延びている請求項1に記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
前記中空シャフトの内部空間には流体が充填され、
前記トルク伝達部は、前記中空シャフトの外面に設けられた内側凹部と前記ナックルブラケットの内面に設けられた外側凹部とに嵌る転動部材を有し、
前記内側凹部は、前記転動部材の前記軸方向における長さよりも前記軸方向に長く延びている請求項1に記載の車両用操舵装置。
【請求項4】
前記外側凹部は、前記軸方向における一方側に配置される第1外側凹部と他方側に配置される第2外側凹部とから構成され、
前記第1外側凹部と前記第2外側凹部とは離間している請求項2または3に記載の車両用操舵装置。
【請求項5】
前記ダンパーは、内部に流体が充填されるシリンダを備え、
前記ピストンロッド及び前記シリンダの少なくとも一方には、その一端部に支持部が設けられており、
前記支持部は、前記トルク伝達部に対して前記ピストンロッド及び前記シリンダの前記少なくとも一方を前記軸方向と直交する方向に揺動可能に支持する請求項1~4のいずれか一項に記載の車両用操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車体に対して転舵輪を懸架するとともに、転舵輪を転舵させるサスペンションが知られている(特許文献1)。サスペンションは、路面状態に応じて転舵輪を介して車体に伝達される衝撃を緩和するダンパーと、コイルスプリングとを備えている。ダンパーは、コイルスプリングとともに、車体と転舵輪に連結されるナックルアームとの間に設けられている。ダンパーは、その軸線まわりに回転できるようにベアリングによって支持されている。ステアリングホイールの回転がギヤボックスを介してダンパーに伝達されることにより、ダンパーはその軸線まわりに回転される。これにより、ダンパーに接続されるナックルアームを介して転舵輪が転舵される。
【0003】
ダンパーは、シリンダを備えている。シリンダはナックルアームに接続されている。シリンダの内部は作動液で満たされている。シリンダの内部には、車体側に取り付けられたピストンロッドが進退移動可能に挿入されている。ピストンロッドは、その外面に設けられたトルク伝達部材を介してシリンダの内面に組み付けられている。トルク伝達部材は、シリンダの内面に軸線に沿って設けられた溝とピストンロッドの外面に設けられた凹部との間に嵌め込まれるニードルローラを有している。ピストンロッドは、シリンダに対して軸線方向に移動できるように設けられ、かつピストンロッドの軸線まわりに回転した際にその回転をシリンダに対して伝達できるように設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-99054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、トルク伝達部材をシリンダの内部に配置したサスペンションの構造について開示されているだけであり、それ以外のサスペンションの構造については何ら開示されていない。また、それ以外のサスペンションの構造について何ら考慮もされていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する車両用操舵装置は、車体に対して転舵輪を懸架するとともに、前記転舵輪を転舵させる車両用操舵装置において、路面状態に応じて前記転舵輪を介して車体に伝達される衝撃を緩和するダンパーと、前記ダンパーの外周に巻回されたスプリングと、前記ダンパーを収容するとともに前記転舵輪に連結されるナックルブラケットとを備え、前記ダンパーは、前記転舵輪を転舵させるためのトルクに応じて回転する中空シャフトと、その軸方向に進退移動するピストンロッドとを備え、前記中空シャフトと前記ナックルブラケットとの間には、前記中空シャフトに対して前記ナックルブラケットが前記軸方向に移動可能、かつ前記中空シャフトの回転を前記ナックルブラケットに伝達可能にしたトルク伝達部が設けられている。
【0007】
この構成によれば、中空シャフトの外部において、中空シャフトとナックルブラケットとの間に配置されたトルク伝達部を採用するという、これまでにない配置のトルク伝達部を採用した車両用操舵装置を提供することができる。また、中空シャフトとナックルブラケットとの間にトルク伝達部を設けることから、ピストンロッドと中空シャフトとの間にトルク伝達部を設ける場合よりも、トルク伝達部をより外方へ配置することになる。このことから、路面状態に応じて転舵輪を介して車体へ伝達される衝撃について、単位面積あたりのトルク伝達部が受けることになる応力を小さくすることができ、トルク伝達部の摩耗を抑えることができるようになる。
【0008】
上記の車両用操舵装置において、前記トルク伝達部は、前記ナックルブラケットの内面を覆うように設けられた円筒部と、前記中空シャフトの外面に設けられた内側凹部及び前記円筒部の内面に設けられた外側凹部に嵌る転動部材とを有し、前記内側凹部は、前記転動部材の前記軸方向における長さよりも前記軸方向に長く延びていることが好ましい。
【0009】
上記の車両用操舵装置において、前記中空シャフトの内部空間には流体が充填され、前記トルク伝達部は、前記中空シャフトの外面に設けられた内側凹部と前記ナックルブラケットの内面に設けられた外側凹部とに嵌る転動部材を有し、前記内側凹部は、前記転動部材の前記軸方向における長さよりも前記軸方向に長く延びていることが好ましい。
【0010】
路面状態に応じて転舵輪を介してダンパーへ衝撃が伝達されるとき、ナックルブラケットには中空シャフトに対して軸方向に移動する力が作用する。上記の各構成によれば、ナックルブラケットに中空シャフトに対して軸方向に移動する力が作用した場合、転動部材が内側凹部に沿って軸方向に移動するのに伴って、ナックルブラケットは中空シャフトに対して軸方向に移動することができる。一方、転舵輪を転舵させるためのトルクに応じて中空シャフトが回転した場合には、内側凹部及び外側凹部に嵌る転動部材を介して、ナックルブラケット側にも回転するトルクが作用することになる。このように、転動部材を用いることにより、中空シャフトに対してナックルブラケットが軸方向に移動可能、かつ中空シャフトの回転をナックルブラケットに伝達可能とすることができる。
【0011】
上記の車両用操舵装置において、前記外側凹部は、前記軸方向における一方側に配置される第1外側凹部と他方側に配置される第2外側凹部とから構成され、前記第1外側凹部と前記第2外側凹部とは離間していることが好ましい。
【0012】
仮に、第1外側凹部と第2外側凹部とが離間している箇所においても外側凹部を形成して、その箇所に転動部材を嵌めることは可能である。しかし、上記構成のように、第1外側凹部と第2外側凹部とを離間させ、その離間した箇所に外側凹部を形成しないようにすることによって、外側凹部に嵌められる転動部材をより少なくすることが可能となる。したがって、それだけ、トルク伝達部の軽量化を図ることができるようになる。
【0013】
上記の車両用操舵装置において、前記ダンパーは、内部に流体が充填されるシリンダを備え、前記ピストンロッド及び前記シリンダの少なくとも一方には、その一端部に支持部が設けられており、前記支持部は、前記トルク伝達部に対して前記ピストンロッド及び前記シリンダの前記少なくとも一方を前記軸方向と直交する方向に揺動可能に支持することが好ましい。
【0014】
上記構成では、路面状態に応じて転舵輪を介して車体へ伝達される衝撃に起因する曲げ荷重が作用した場合において、ピストンロッド及びシリンダの少なくとも一方に支持部が設けられることによって、ピストンロッド及びシリンダの当該少なくとも一方はトルク伝達部に対して揺動することができる。このことから、ピストンロッド及びシリンダの少なくとも一方が揺動できない場合と比べて、ピストンロッド及びシリンダの少なくとも一方を軸方向に滑らかに移動することができるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の車両用操舵装置によれば、ダンパーの外周にスプリングが巻回された車両用操舵装置のトルク伝達部の配置に関し、特許文献1に開示されたトルク伝達部の配置とは異ならせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態の車両用操舵装置の概略構成を示す構成図。
図2】第1実施形態の車両用操舵装置において、転舵輪の周辺を模式的に示した断面図。
図3】第1実施形態の車両用操舵装置において、転舵モータの周辺を模式的に示した断面図。
図4】(a)は、第1実施形態の車両用操舵装置において、出力軸の周辺を模式的に示した断面図、(b)は、第1実施形態の車両用操舵装置において、トルク伝達部の周辺を模式的に示した断面図。
図5】第2実施形態の車両用操舵装置において、出力軸の周辺を模式的に示した断面図。
図6】第3実施形態の車両用操舵装置において、出力軸の周辺を模式的に示した断面図。
図7】他の実施形態の車両用操舵装置において、出力軸の周辺を模式的に示した断面図。
図8】(a),(b)は、他の実施形態の車両用操舵装置において、ピストンロッドの下端の周辺を模式的に示した断面図。
図9】他の実施形態の車両用操舵装置において、出力軸の周辺を模式的に示した断面図。
図10】他の実施形態の車両用操舵装置において、出力軸の周辺を模式的に示した断面図。
図11】(a)は、他の実施形態の車両用操舵装置において、トルク伝達部の周辺を模式的に示した断面図、(b)は、他の実施形態の車両用操舵装置において、出力軸をその軸方向からみたときの周辺構造を模式的に示した断面図、(c)は、他の実施形態の車両用操舵装置において、トルク伝達部の周辺を模式的に示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
車両用操舵装置の第1実施形態について説明する。
図1に示すように、車両用操舵装置1は、左右独立転舵システムが採用されたステアバイワイヤシステムの構成を備えている。車両用操舵装置1は、運転者がステアリング操作するステアリングホイール2と、車両(自動車)の前方側に配置された左転舵輪3L及び右転舵輪3Rとを備えている。車両用操舵装置1は、車体に対して左転舵輪3L及び右転舵輪3Rを懸架するとともに、ステアリングホイール2の操作に応じて左転舵輪3L及び右転舵輪3Rを転舵している。
【0018】
車両用操舵装置1は、左転舵輪3Lを転舵させる左転舵機構5Lと、ステアリングホイール2の回転操作に応じて左転舵輪3Lを転舵させるためのトルク(駆動力)を発生させる左転舵モータ4Lと、左転舵モータ4Lからの回転を減速させる左減速機構6Lとを備えている。左転舵モータ4Lは、電動モータであり、左転舵輪3Lを転舵させるためのトルクを左転舵機構5Lに付与するアクチュエータの一例である。
【0019】
車両用操舵装置1は、右転舵輪3Rを転舵させる右転舵機構5Rと、ステアリングホイール2の回転操作に応じて右転舵輪3Rを転舵させるためのトルクを発生させる右転舵モータ4Rと、右転舵モータ4Rからの回転を減速させる右減速機構6Rとを備えている。右転舵モータ4Rは、電動モータであり、右転舵輪3Rを転舵させるためのトルクを右転舵機構5Rに付与するアクチュエータの一例である。
【0020】
ステアリングホイール2と左転舵機構5L及び右転舵機構5Rとの間には、ステアリングホイール2に加えられた操舵トルクが左転舵機構5L及び右転舵機構5Rに機械的に伝達されるような機械的な接続は設けられていない。左転舵輪3Lは、左転舵モータ4Lからのトルクによって転舵される。右転舵輪3Rは、右転舵モータ4Rからのトルクによって転舵される。
【0021】
左転舵モータ4L及び右転舵モータ4Rは、電子制御ユニット7(ECU:Electronic Control Unit)に接続されている。左転舵モータ4L及び右転舵モータ4Rは、ECU7によってその駆動が制御される。ECU7には、例えばステアリングホイール2の操舵角θを検出する操舵角センサ8からの信号が入力される。ECU7は、この信号に基づいて左転舵モータ4L及び右転舵モータ4Rを制御する。
【0022】
図2は、左転舵輪3Lの周辺を模式的に示した断面図である。図3は、左転舵モータ4Lの周辺を模式的に示した断面図である。以下では、左転舵モータ4L、左転舵機構5L、及び左減速機構6Lについて説明する。なお、右転舵モータ4R、右転舵機構5R、及び右減速機構6Rは、それぞれ左転舵モータ4L、左転舵機構5L、及び左減速機構6Lと同様の構成を有している。そのため、右転舵モータ4R、右転舵機構5R、及び右減速機構6Rの構成については、その説明を省略する。
【0023】
図3に示すように、左転舵機構5Lは、左転舵モータ4Lからのトルクが入力される入力軸30と、入力軸30からのトルクを左転舵輪3Lに出力する出力軸40と、入力軸30と出力軸40とを連結する連結機構50とを含む。入力軸30は、車体の上下方向Xに延びている。入力軸30は、上下方向Xに沿って延びる中心軸線C1を中心に回転する。中心軸線C1が延びる方向を入力軸30の軸方向X1とする。出力軸40は、上下方向Xにおいて、入力軸30よりも左転舵輪3L側に配置されている。出力軸40は、車両の上下方向Xに延びる中心軸線C2を中心に回転する。中心軸線C2が延びる方向を出力軸40の軸方向X2とする。
【0024】
図2に示すように、出力軸40は、路面状態に応じて左転舵輪3Lを介して車体に伝達される衝撃を緩和するダンパー41と、ダンパー41を収容するとともに左転舵輪3Lに連結されているナックル10に連結されるナックルブラケット42と、後述するトルク伝達部110(図4参照)とを有している。ダンパー41の中空シャフト43とナックルブラケット42とは、トルク伝達部110により軸方向X2に移動可能、かつ一体回転可能に連結されている。
【0025】
左転舵機構5Lは、出力軸40のナックルブラケット42の下端に連結されるとともに左転舵輪3Lに固定されるナックル10と、ナックル10に連結されたロアアーム12と、ロアアーム12及びナックル10を連結するガイドジョイント13とを有している。ガイドジョイント13は、左転舵輪3Lを回動させる際の中心軸線であるキングピン軸Kに沿って、ロアアーム12とナックル10とを連結している。ナックル10は、ハブ11を介して左転舵輪3Lを支持している。出力軸40のナックルブラケット42の下端はナックル10に連結され、出力軸40のダンパー41の上端は連結機構50に連結されている。出力軸40は、サスペンションSを構成している。このサスペンションSはいわゆるストラット式のサスペンションであり、ダンパー41はストラット式のサスペンションに用いられるストラットダンパである。なお、第1実施形態のダンパーは、いわゆる倒立式のダンパーである。
【0026】
ハブ11には、等速ジョイント15を介してドライブシャフト16の一端が連結されている。ハブ11は、左転舵輪3Lをその回転中心である回転軸線Aまわりに回転可能に支持している。ドライブシャフト16には、エンジンEからの駆動力が伝達される。エンジンEからの駆動力がドライブシャフト16からハブ11を介して左転舵輪3Lに伝達されることにより、左転舵輪3Lは回転軸線Aまわりに回転される。また、ナックル10とハブ11との間には、左転舵輪3Lの回転軸線Aまわりにナックル10とハブ11とを相対回転させる軸受(図示略)が介在されている。ナックル10に連結されたロアアーム12は、車体9に支持されている。そのため、エンジンEからの駆動力に起因してナックル10が回転軸線Aまわりに回転することが規制されている。
【0027】
車両用操舵装置1は、車体に固定され、左転舵輪3Lを少なくとも上方から覆うカバー14を有している。カバー14は例えば車体の一部である。カバー14は、左転舵輪3L付近において、エンジンルームや車室と、車体の外側とを区画している。左転舵輪3Lは、エンジンルームや車室の外側に配置されている。左転舵モータ4L及び左減速機構6Lは、車室またはエンジンルームの内側に配置されている。すなわち、カバー14は、左転舵輪3Lと、左転舵モータ4L及び左減速機構6Lとの間に設けられた隔壁である。
【0028】
図2及び図3に示すように、ダンパー41の中空シャフト43は、カバー14を上下方向Xに貫通する貫通孔14aに挿通されている。中空シャフト43の上端は、カバー14から連結機構50側へ突出している。カバー14における貫通孔14aの周囲には、下端側に延びる固定部材17が固定されている。固定部材17は、貫通孔14aに挿通された中空シャフト43の上端の外面を取り囲むように配置されている。左減速機構6Lは、固定部材17の内面と中空シャフト43との間に設けられるストラットマウント18と、ストラットマウント18の内面に取り付けられる軸受19とを有している。ストラットマウント18は、固定部材17の内面に固定されている。中空シャフト43は、軸受19を介してストラットマウント18の内周面に対して回転可能に支持されている。これにより、中空シャフト43は、出力軸40の中心軸線C2まわりに回転可能に支持される。
【0029】
ストラットマウント18は、ゴム等の弾性体によって形成されている。ナックルブラケット42には、上下方向Xにおいて固定部材17と対向する対向部材20が設けられている。対向部材20と固定部材17との間には、中心軸線C2が延びる方向に沿って伸縮するスプリング21が配置されている。すなわち、スプリング21は、ダンパー41の中空シャフト43の外周に巻回されている。スプリング21は、対向部材20と固定部材17との間の原位置から変位した際に、原位置へと戻ろうとする弾性力を発生させる。なお、ストラットマウント18の下端側への抜け止めは、後述する連結機構50の第2自在継手52とカバー14との当接により行われる。対向部材20とストラットマウント18との間には、中心軸線C2が延びる方向に沿って伸縮する蛇腹状のブーツ22が設けられている。ブーツ22は、中空シャフト43とスプリング21との間に設けられている。ブーツ22は、その内部にダスト等の異物が侵入することを抑制している。
【0030】
左転舵モータ4Lからのトルクは、入力軸30及び連結機構50を介して、出力軸40に伝達される(図3参照)。そして、出力軸40に伝達された左転舵モータ4Lのトルクは、ナックル10を介して左転舵輪3Lに伝達される。これにより、左転舵輪3Lは、キングピン軸Kまわりに回動されることによって転舵される。左転舵輪3Lが転舵される際、出力軸40は、キングピン軸Kと中心軸線C2との交点を揺動中心Cとして、キングピン軸Kと直交する方向に揺動する。左転舵輪3Lが転舵する際、揺動中心Cは、出力軸40における軸受19によって回転可能に支持されている部分の中心である偏角中心Bと一致していることが好ましい。
【0031】
図3に示すように、左転舵モータ4Lは、その回転軸23と、回転軸23を回転させるモータ本体24とを有している。モータ本体24は、図示しないロータ及びステータを有している。左減速機構6Lは、回転軸23の回転を減速させる第1減速機構80と、第1減速機構80によって減速された回転をさらに減速して入力軸30に伝達する第2減速機構81と、第1減速機構80及び第2減速機構81の間を連結する中間軸82とを有している。
【0032】
車両用操舵装置1は、左転舵モータ4L及び左減速機構6Lを収容するハウジング90を備えている。ハウジング90は、左転舵モータ4Lのモータ本体24を収容するモータハウジング91と、回転軸23及び左減速機構6Lを収容するギヤハウジング92とを有している。ギヤハウジング92は、例えば複数のねじによって、車体の一部であるカバー14に固定されている。
【0033】
ギヤハウジング92は、モータハウジング91に上下方向Xと交わる方向において当接する第1部分92Aと、第1部分92Aに上下方向Xにおいて当接する第2部分92Bとを有している。第1部分92Aと第2部分92Bとにより、回転軸23及び左減速機構6Lが配置される収容空間93が区画されている。収容空間93は、モータハウジング91の内部空間と連通している。ギヤハウジング92の第1部分92Aとギヤハウジング92の第2部分92Bとは、複数のねじ94によって互いに固定されている。ギヤハウジング92の第1部分92Aとモータハウジング91とは、複数のねじ95によって互いに固定されている。
【0034】
回転軸23の軸方向における中央部分には、カップリング25が設けられている。ギヤハウジング92の第1部分92Aと回転軸23との間には、円筒状の軸受26が設けられている。これにより、回転軸23は、軸受26を介して第1部分92Aの内周面に対して回転可能に支持されている。ギヤハウジング92の第1部分92Aと中間軸82の上下方向Xにおける下端(左転舵輪3L側の端部)との間には、円筒状の軸受27が設けられている。また、ギヤハウジング92の第2部分92Bと中間軸82の上下方向Xにおける上端(左転舵輪3Lと反対側の端部)との間には、円筒状の軸受28が設けられている。これにより、中間軸82は、軸受27及び軸受28を介して第1部分92Aの内周面及び第2部分92Bの内周面に対して回転可能に支持されている。ギヤハウジング92の第2部分92Bと入力軸30の上端との間には、円筒状の軸受29が設けられている。入力軸30は、軸受29を介して第2部分92Bの内周面に対して回転可能に支持されている。
【0035】
第1減速機構80は、回転軸23の先端に設けられた第1歯車83と、中間軸82に設けられた第2歯車84とを有している。第1歯車83と第2歯車84とは噛み合っている。第2減速機構81は、中間軸82において第2歯車84よりも軸受28側に設けられた第3歯車85と、入力軸30と一体回転可能に設けられた第4歯車86とを有している。第3歯車85と第4歯車86とは噛み合っている。
【0036】
第1歯車83は、例えばベベルアンギュラーギヤ(かさ歯車)である。第2歯車84は、例えばゼロールベベルアンギュラーギヤである。回転軸23は、中間軸82の軸方向と交差する方向に延びている。第3歯車85及び第4歯車86は、例えば平歯車である。そのため、中間軸82は入力軸30の軸方向X1と平行な方向に延びている。したがって、回転軸23は、入力軸30の軸方向X1に対して交差する方向に延びている。
【0037】
第2歯車84の歯数は、第1歯車83の歯数よりも多く、第4歯車86の歯数は、第3歯車85の歯数よりも多い。言い換えると、第1減速機構80の減速比は1よりも大きく、第2減速機構81の減速比も1よりも大きい。そのため、回転軸23から中間軸82に伝達される回転が第1歯車83と第2歯車84との間で減速される。また、中間軸82から入力軸30に伝達される回転が第3歯車85と第4歯車86との間で減速される。このように、左転舵モータ4Lからの回転が、第1減速機構80及び第2減速機構81によって2段階で減速されて入力軸30に伝達される。なお、左減速機構6Lの全体の減速比は、50~100程度であることが好ましい。
【0038】
第1減速機構80がベベルアンギュラーギヤといった比較的伝達効率の高い歯車によって構成され、第2減速機構81が平歯車といった比較的伝達効率の高い歯車によって構成されているため、左転舵モータ4Lの回転を2段階で減速させつつ左減速機構6Lの伝達効率を向上させることができる。左減速機構6Lの伝達効率は、ウォームとウォームホイールとによって構成される減速機構と比較して格段に高くなる。
【0039】
連結機構50の構成について説明する。連結機構50は、入力軸30に対して出力軸40の偏角を許容することにより、入力軸30と出力軸40とが歳差運動することを許容する歳差許容部として機能する。
【0040】
連結機構50は、入力軸30に対して出力軸40を2段階に偏角させた状態で、入力軸30の回転を出力軸40へと伝達することができる第1自在継手51及び第2自在継手52と、第1自在継手51及び第2自在継手52の間を連結する連結軸53とを有している。第1自在継手51は、入力軸30に対して連結軸53を偏角させた状態で、入力軸30の回転を連結軸53へと伝達することができる。第2自在継手52は、連結軸53に対して出力軸40を偏角させた状態で、連結軸53の回転を出力軸40へと伝達することができる。連結軸53は、車両の上下方向Xに延びる中心軸線C3を中心に回転する。中心軸線C3が延びる方向を連結軸53の軸方向X3とする。
【0041】
第1自在継手51は、入力軸30と中心軸線C1まわりに一体回転するように入力軸30に連結された外側環状部材54と、外側環状部材54に連結される内側環状部材55とを有している。内側環状部材55は、外側環状部材54の内側に配置されている。また、第1自在継手51は、連結軸53と中心軸線C3まわりに一体回転するように連結軸53に連結されたヨーク56を有している。ヨーク56は、内側環状部材55の内側に配置され、内側環状部材55と連結されている。
【0042】
外側環状部材54と内側環状部材55とは、入力軸30の中心軸線C1に対して直交する回転軸線A1まわりに相対回転可能に連結されている。内側環状部材55とヨーク56とは、連結軸53の中心軸線C3と回転軸線A1とに対して直交する回転軸線A2まわりに相対回転できるように連結されている。
【0043】
第1自在継手51は、外側環状部材54と内側環状部材55とを回転軸線A1まわりに相対回転可能に連結する一対の第1中心軸57と、内側環状部材55とヨーク56とを回転軸線A2まわりに相対回転可能に連結する一対の第2中心軸58とを有している。
【0044】
外側環状部材54は、入力軸30に対して例えば圧入状態で嵌め込まれることにより入力軸30に連結されている。これにより、第1自在継手51が入力軸30に取り付けられている。外側環状部材54は、入力軸30の上端に設けられたフランジ31によって、入力軸30の軸方向X1において位置決めされている。ヨーク56は、連結軸53の上端が固定された基部56Aと、基部56Aから第2自在継手52へ向けて延びる一対の腕部56Bとを有している。腕部56Bには第2中心軸58が挿通される挿通孔が形成されている。
【0045】
第2自在継手52は、出力軸40と中心軸線C2まわりに一体回転する外側環状部材60と、外側環状部材60に連結される内側環状部材61とを有している。内側環状部材61は、外側環状部材60の内側に配置されている。また、第2自在継手52は、出力軸40と中心軸線C3まわりに一体回転するように連結軸53に連結されたヨーク62を有している。ヨーク62は、内側環状部材61の内側に配置され、内側環状部材61と連結されている。
【0046】
外側環状部材60と内側環状部材61とは、出力軸40の中心軸線C2に対して直交する回転軸線A3まわりに相対回転可能に連結されている。内側環状部材61とヨーク62とは、連結軸53の中心軸線C3と回転軸線A3とに対して直交する回転軸線A4まわりに相対回転できるように連結されている。
【0047】
第2自在継手52は、外側環状部材60と内側環状部材61とを回転軸線A3まわりに相対回転可能に連結する一対の第1中心軸63と、内側環状部材61とヨーク62とを回転軸線A4まわりに相対回転可能に連結する一対の第2中心軸64とを有している。
【0048】
第2自在継手52は、第2自在継手52を出力軸40に取り付けるための取付部材65を有している。取付部材65は、外側環状部材60と一体的に設けられている。取付部材65に図示しないねじ等が捻じ込まれることによって出力軸40のダンパー41の上端を締め付けることにより、取付部材65は出力軸40に固定されている。
【0049】
ヨーク62は、連結軸53の下端が固定された基部62Aと、基部62Aから第1自在継手51に向けて延びる一対の腕部62Bとを有している。腕部62Bには、第2中心軸64が挿通される挿通孔が形成されている。
【0050】
連結軸53は、例えば連結軸53の軸方向X3に伸縮可能な伸縮軸である。連結軸53は、第1軸66及び第2軸67を有している。第1軸66と第2軸67とは、軸方向X3において互いに相対移動することができる。第1軸66の外径は、第2軸67の内径よりも小さく設定されている。第1軸66は、第2軸67の内部に上端から挿入されている。連結軸53は、第1軸66と第2軸67との間に配置される複数のボール68を有している。複数のボール68は、連結軸53の軸方向X3において並んで配置されている。複数のボール68が第1軸66と第2軸67との間で転動することにより、第1軸66と第2軸67とが軸方向X3に滑らかに相対移動することができる。連結軸53は、軸方向X3において、連結軸53に対して出力軸40を相対移動させる移動機構として機能する。
【0051】
出力軸40の構成について説明する。
図4(a),(b)に示すように、ダンパー41は、中空シャフト43と、中空シャフト43の内部に設けられる円筒状のシリンダ100と、シリンダ100に対して軸方向X2に進退移動可能に設けられるピストンロッド101とを有している。シリンダ100は、中空シャフト43の内面に固定されている。シリンダ100の下端側は、上下方向Xに開口している。シリンダ100の内部空間には、作動液及びガスなどの流体が充填されている。シリンダ100の内部空間には、ピストンロッド101よりも上端側にフリーピストン102bが配置されている。シリンダ100におけるフリーピストン102bよりも上端側の内部空間にはガスが充填され、シリンダ100におけるフリーピストン102bよりも下端側の内部空間には作動液が充填されている。
【0052】
シリンダ100の作動液が充填されている内部空間には、シリンダ100の下端側の開口部分を介してピストンロッド101の上端が収容されている。ピストンロッド101は、軸方向X2に一体的に移動するように設けられたピストン102を有している。ピストン102は、ピストンロッド101の上端に設けられた上端側小径部101aに取り付けられている。ピストン102は、ピストンロッド101の上端側小径部101aの外周面とシリンダ100の内周面との間に配置されている。ピストン102は、シリンダ100の作動液が充填されている内部空間を、上端側の第1室S1と下端側の第2室S2とに区画している。ピストン102には、減衰バルブ102aが設けられている。第1室S1の内部の作動液と第2室S2の内部の作動液とは、減衰バルブ102aを介して、第1室S1と第2室S2との間を移動する。ピストンロッド101がシリンダ100に対して軸方向X2に進退移動したとき、ピストン102の減衰バルブ102aを介して作動液が移動することにより、ピストンロッド101のシリンダ100に対する移動が減衰される。
【0053】
ダンパー41は、シリンダ100の内周面とピストンロッド101の外周面との間に設けられる環状のキャップ103及び環状のシール部材104を有している。キャップ103及びシール部材104は、シリンダ100の下端側の内周面に固定されている。キャップ103及びシール部材104は、シリンダ100の内部空間に充填されている流体が外部に漏れ出すことを規制している。キャップ103は、例えば金属等によって構成されている。シール部材104は、例えばゴム等の弾性体によって構成されている。
【0054】
ダンパー41は、当接部材105、弾性部材106、及びナット107を有している。当接部材105及び弾性部材106は、ピストンロッド101の下端に設けられた下端側小径部101bの外周面とナックルブラケット42の下端の内周面との間に設けられている。当接部材105の外周面には弾性部材106が固定されている。弾性部材106は、例えばゴム等の弾性体によって構成されている。当接部材105は、例えば金属等によって構成されている。当接部材105の内周面はピストンロッド101の下端側小径部101bに固定されている。ナックルブラケット42は、下端から上端へ向かうにつれて拡径するように形成されている。ナックルブラケット42は、下端側から上端側の順に、第1段差42a、第2段差42b、及び第3段差42cを有している。弾性部材106の外周面はナックルブラケット42の下端の第1段差42aの内周面に固定されている。当接部材105は、ピストンロッド101の下端側から挿入されるナット107とピストンロッド101の段差101cとにより挟み込まれることで、ピストンロッド101に固定されている。ピストンロッド101の下端はナックルブラケット42の第1段差42aに対して揺動可能に支持され、ピストンロッド101が中空シャフト43に対して軸方向X2に直交する方向に揺動可能に支持されることになる。当接部材105、弾性部材106、及びナット107は、ピストンロッド101を中空シャフト43に対して揺動可能に支持する支持部である。ナックルブラケット42の第2段差42bの外面は、ナックル10に連結されている。
【0055】
また、ダンパー41は、当接部材105a、弾性部材106a、及びナット107aを有している。当接部材105a及び弾性部材106aは、シリンダ100の上端に設けられた上端側小径部100aの外周面と中空シャフト43の内周面との間に設けられている。当接部材105aの外周面には弾性部材106aが固定されている。弾性部材106aは、例えばゴム等の弾性体によって構成されている。当接部材105aは、例えば金属等によって構成されている。当接部材105aの内周面はシリンダ100の上端側小径部100aに固定されている。当接部材105aは、シリンダ100の上端側から挿入されるナット107aとシリンダ100の段差100bとにより挟み込まれることで、シリンダ100に固定されている。シリンダ100の上端は中空シャフト43に対して揺動可能に支持され、シリンダ100が中空シャフト43に対して軸方向X2に直交する方向に揺動可能に支持されることになる。当接部材105a、弾性部材106a、及びナット107aは、シリンダ100を中空シャフト43に対して揺動可能に支持する支持部である。
【0056】
ダンパー41は、ピストンロッド101の外周面に取り付けられるバンプストッパ150を有している。バンプストッパ150は、上端側小径部101aと下端側小径部101bとの間の部分の外周面に取り付けられている。バンプストッパ150は、ピストンロッド101の下端に取り付けられた当接部材105に隣接して取り付けられている。バンプストッパ150は、例えばゴム等の弾性体によって構成されている。バンプストッパ150は、下端から上端へ向かうにつれて外径が縮径するように形成されている。
【0057】
中空シャフト43の外周面とナックルブラケット42の内周面との間には、トルク伝達部110が設けられている。トルク伝達部110は、ナックルブラケット42の内面を覆うように設けられた円筒状をなす第2円筒部112と、中空シャフト43の第1円筒部111と第2円筒部112との間に設けられた転動部材としての複数のボール113とを有している。中空シャフト43と第1円筒部111とは一体化している。第1実施形態のトルク伝達部110は、いわゆるボールスプライン嵌合により、中空シャフト43に対してナックルブラケット42が軸方向X2に移動可能、かつ中空シャフト43の回転(トルク)をナックルブラケット42に伝達可能としている。中空シャフト43の外周面には、第1円筒部111が設けられている。第2段差42bの内周面と第1円筒部111の外周面との間には、中空シャフト43に対してナックルブラケット42が滑らかに移動できるようにわずかに隙間が形成されている。第2円筒部112は、ナックルブラケット42の内周面に対し、ナックルブラケット42と軸方向X2に一体移動可能に固定されている。第2円筒部112は、第3段差42cの内周面と第1円筒部111の外周面との間に配置されている。第1円筒部111の軸方向X2における長さは、第2円筒部112の軸方向X2における長さよりも長い。また、第1円筒部111は、ナックルブラケット42の第3段差42cの軸方向X2における長さよりも長く設定されている。第3段差42cの上端には、対向部材20が設けられている。
【0058】
第1円筒部111の外周面には、複数の内側凹部111aが設けられている。複数の内側凹部111aは、軸方向X2に延びている。複数の内側凹部111aは、第1円筒部111の外周面において周方向に等間隔に配置されている。また、第2円筒部112の内周面には、複数の外側凹部112aが設けられている。複数の外側凹部112aは、軸方向X2に延びている。複数の外側凹部112aは、第2円筒部112の内周面において周方向に等間隔に配置されている。内側凹部111a及び外側凹部112aは、それぞれ同数設けられている。内側凹部111aと外側凹部112aとが軸方向X2と直交する方向において対向するように、内側凹部111a及び外側凹部112aの周方向の位相を調整した状態で、内側凹部111aと外側凹部112aとの間に、複数のボール113が転動可能に嵌め込まれている。内側凹部111aは、最も上端にあるボール113と最も下端にあるボール113との間の軸方向X2における長さ、すなわち複数のボール113すべての軸方向X2における長さよりも長く延びている。言い換えると、内側凹部111aは、外側凹部112aの軸方向X2における長さよりも軸方向X2に長く延びている。また、外側凹部112aは、最も上端にあるボール113と最も下端にあるボール113との間の軸方向X2における長さと同程度に軸方向X2に延びている。ボール113は、中空シャフト43に対してナックルブラケット42が軸方向X2に移動するのに伴って、その負荷を受けつつ転動する。これにより、ナックルブラケット42は、トルク伝達部110を介して中空シャフト43に支持された状態で、中空シャフト43に対して軸方向X2に移動することができる。
【0059】
複数のボール113は、内側凹部111aの軸方向X2の両端部に到達する前に、ダンパー41による衝撃の緩和及びスプリング21が原位置へ戻る際の弾性力及びバンプストッパ150の弾性力によって内側凹部111aの軸方向X2の両端部に到達することが抑制されている。これにより、ナックルブラケット42が中空シャフト43に対して移動することができる範囲が決められている。
【0060】
第2円筒部112には、外側凹部112aの上端側の1点と下端側の1点とを短絡する循環路Rが形成されている。循環路Rは、外側凹部112aごとに設けられている。循環路Rは、第2円筒部112の内部に設けられる孔である。外側凹部112aの上端側あるいは下端側の1点に到達したボール113は、循環路Rを通過することにより、外側凹部112aの下端側あるいは上端側の1点へと移動する。これにより、複数のボール113は、循環路Rを介して内側凹部111aと外側凹部112aとの間に配置された後、循環路Rを介して再び内側凹部111aと外側凹部112aとの間に戻されるというように無限循環する。
【0061】
また、内側凹部111a及び外側凹部112aの周方向における長さは、1つのボール113の外径よりもわずかに大きく設定されている。中空シャフト43が周方向に回転すると、内側凹部111aの周方向における壁面が、内側凹部111aと外側凹部112aとの間に配置された複数のボール113に当接する。これにより、ボール113は中空シャフト43の周方向における回転と同じ方向へ向けて移動することになる。周方向に向けて移動したボール113は、外側凹部112aの周方向における壁面に当接する。内側凹部111aとボール113との周方向における当接、及び外側凹部112aとボール113との周方向における当接により、中空シャフト43の周方向における回転はナックルブラケット42へと伝達される。
【0062】
第1実施形態の作用及び効果を説明する。
(1)中空シャフト43の外部において、中空シャフト43とナックルブラケット42との間に配置されたトルク伝達部110を採用するという、特許文献1に開示されたトルク伝達部の配置とは異なる配置のトルク伝達部110を採用した車両用操舵装置1を提供することができる。また、中空シャフト43とナックルブラケット42との間にトルク伝達部110を設けることから、ピストンロッド101と中空シャフト43との間にトルク伝達部を設ける場合よりも、トルク伝達部110を外方へ配置することになる。中空シャフト43はピストンロッド101を収容しているため、中空シャフト43の外径はピストンロッド101の外径よりも大きい。このため、トルク伝達部110と中空シャフト43とが対向する面積と、トルク伝達部110とナックルブラケット42とが対向する面積とを大きくすることができる。このことから、路面状態に応じて左転舵輪3Lを介して車体へ伝達される衝撃について、単位面積あたりのトルク伝達部110が受けることになる応力を小さくすることができ、トルク伝達部110の摩耗を抑えることができるようになる。
【0063】
(2)路面状態に応じて左転舵輪3Lを介してダンパー41へ衝撃が伝達されるとき、ナックルブラケット42には中空シャフト43に対して軸方向X2に移動する力が作用する。この場合、ボール113が内側凹部111aに沿って軸方向X2に移動するのに伴って、ナックルブラケット42は中空シャフト43に対して軸方向X2に移動することができる。一方、ステアリングホイール2の回転操作に応じて左転舵モータ4Lが左転舵輪3Lを転舵させるためのトルクを発生させた場合、入力軸30及び連結機構50を介してこのトルクが出力軸40のダンパー41に伝達される。これにより、ダンパー41の中空シャフト43が回転することになる。そして、中空シャフト43が回転した場合には、内側凹部111a及び外側凹部112aに嵌るボール113を介して、ナックルブラケット42側にも回転するトルクが作用する。ナックルブラケット42に伝達されたトルクは、ナックル10を介して左転舵輪3Lに伝達されることにより、左転舵輪3Lが転舵されることになる。このように構成されたトルク伝達部110を用いることにより、中空シャフト43に対してナックルブラケット42が軸方向X2に移動可能、かつ中空シャフト43の回転をナックルブラケット42に伝達可能とすることができる。
【0064】
(3)路面状態に応じて左転舵輪3Lを介してダンパー41へ衝撃が伝達されるとき、ピストンロッド101の軸線方向を中空シャフト43の軸線方向と異ならせようとする曲げ荷重が作用することになる。第1実施形態では、ピストンロッド101を中空シャフト43に対して揺動可能に支持する支持部として、当接部材105、弾性部材106、及びナット107を採用している。したがって、ピストンロッド101が中空シャフト43に対して軸方向X2に直交する方向に揺動できることから、揺動できない場合に比べて、ピストンロッド101は中空シャフト43の内部空間を軸方向X2に滑らかに進退移動することができるようになる。
【0065】
(4)特許文献1に開示された発明では、シリンダ100の内部には、シリンダ100の内部空間に充填される流体が外に漏れ出すのを規制するために、シリンダ100の内周面とピストンロッド101との間にシール部材が設けられている。このことから、ピストンロッド101と中空シャフト43との間にトルク伝達部を設ける場合には、シリンダ100の内部にシール部材が配置される分、ピストンロッド101がシリンダ100に対して軸方向X2に進退移動できる範囲が制限されることになる。これは、中空シャフト43側にトルク伝達部のための凹部を軸方向X2においてシール部材と重なる位置まで設けると、シール部材によるシリンダ100のシール性を確保が困難になるためである。第1実施形態では、中空シャフト43とナックルブラケット42との間にトルク伝達部110を設けていることから、トルク伝達部110はシール部材104及びキャップ103によるシリンダ100のシール性の確保に何ら影響しない。このため、中空シャフト43の外周面側にトルク伝達部110のための内側凹部111aを設けることができる軸方向X2の範囲は、シール部材104及びキャップ103によってシリンダ100のシール性を確保する観点からは、制限されることがない。このことから、トルク伝達部110を設けることができる軸方向X2の範囲は、シール部材104及びキャップ103によって制限されることがない分、トルク伝達部110の設計の自由度が向上する。
【0066】
(5)比較例として、ピストンロッド101と中空シャフト43との間にトルク伝達部を設ける場合に、トルク伝達部として、循環路Rを介してボール113が循環する方式のものを採用すると、ピストンロッド101側または中空シャフト43側に循環路Rを形成する必要がある。この場合、循環路Rを設ける分だけ、中空シャフト43の軸方向X2に直交する方向における体格は大きくならざるをえない。この結果、出力軸40の軸方向X2に直交する方向における体格が大きくなる。第1実施形態では、循環路Rをナックルブラケット42側の第2円筒部112に設けていることから、中空シャフト43の軸方向X2と直交する方向における体格が大きくなることが抑制されている。したがって、中空シャフト43の体格が大きくなることを抑制して、循環路Rを介してボール113が循環する方式のトルク伝達部110を採用することができるようになる。
【0067】
(6)特許文献1に開示された発明のように、ピストンロッド101と中空シャフト43との間にトルク伝達部を設ける場合には、トルク伝達部が設けられた部分はシリンダ100内に満たされた流体が移動することのできない領域となる。この点、第1実施形態では、中空シャフト43とナックルブラケット42との間にトルク伝達部110を設けることから、シリンダ100内にトルク伝達部を設ける場合と比べて、シリンダ100内で流体が移動しやすくなる。また、シリンダ100内の流体の充填量を増やすこともできるようになる。
【0068】
<第2実施形態>
車両用操舵装置の第2実施形態について説明する。ここでは、第1実施形態との違いを中心に説明する。
【0069】
図5に示すように、トルク伝達部110は、中空シャフト43の外周面に設けられた複数の内側凹部111bとナックルブラケット42の内周面に設けられた複数の外側凹部112bとに嵌る転動部材としての複数のボール113を有している。複数の内側凹部111bは、軸方向X2に延びている。複数の内側凹部111bは、中空シャフト43の外周面において周方向に等間隔に配置されている。複数の外側凹部112bは、軸方向X2に延びている。複数の外側凹部112bは、ナックルブラケット42の内周面において周方向に等間隔に配置されている。内側凹部111b及び外側凹部112bは、それぞれ同数設けられている。内側凹部111bと外側凹部112bとが軸方向X2と直交する方向において対向するように、内側凹部111b及び外側凹部112bの周方向の位相を調整した状態で、内側凹部111bと外側凹部112bとの間に複数のボール113が転動可能に嵌め込まれている。
【0070】
第1実施形態では、中空シャフト43とシリンダ100とが別体で設けられていたが、第2実施形態では、シリンダ100を省略している。すなわち、第2実施形態では、中空シャフト43とシリンダ100とが一体化している。中空シャフト43の内部空間には、作動液及びガスなどの流体が充填される。また、第1実施形態では、ナックルブラケット42と外側凹部112aが設けられている第2円筒部112とが別体で設けられていたが、第2実施形態では、第2円筒部112を省略している。
【0071】
ナックルブラケット42は、下端から上端へ向かうにつれて拡径するように形成されている。ナックルブラケット42の内面には、下端側から上端側の順に、第1段差42a及び第2段差42bが設けられている。ナックルブラケット42の外面には、3つの段差が設けられていて、ナックルブラケット42における第2段差42bに対応した部位には、下端側から上端側の順に、小径部及び大径部が設けられている。外側凹部112bは、ナックルブラケット42の第2段差42bに対応する大径部の内周面に設けられている。内側凹部111bは、複数のボール113すべての軸方向X2における長さ及び外側凹部112aの軸方向X2における長さよりも長く延びている。また、外側凹部112aは、複数のボール113すべての軸方向X2における長さと同程度に軸方向X2に延びている。
【0072】
第2実施形態の作用及び効果を説明する。
(7)第1実施形態の作用(1)~(6)と同様の作用効果を有している。また、第2実施形態では、シリンダ100及び第2円筒部112を省略することから、出力軸40の部品点数を少なくすることができる。また、中空シャフト43に第1円筒部111を組み付ける場合に比べて、シリンダ100の径方向の厚さ分、中空シャフト43の外径を小さくすることが可能となる。また、中空シャフト43にシリンダ100を組み付ける必要がなくなるため、組み付け工数を少なくすることができる。同様に、第2円筒部112を省略する分、出力軸40の軽量化を図ることができるようになるとともに、組み付け工数を少なくすることができる。
【0073】
<第3実施形態>
車両用操舵装置の第3実施形態について説明する。ここでは、第1実施形態との違いを中心に説明する。
【0074】
図6に示すように、軸方向X2において、上端側第2円筒部121と下端側第2円筒部131とは、空間を挟んで離間している。上端側第2円筒部121の内周面には、複数の上端側外側凹部121aが設けられている。複数の上端側外側凹部121aは、軸方向X2に延びている。複数の上端側外側凹部121aは、上端側第2円筒部121の内周面において周方向に等間隔に配置されている。下端側第2円筒部131の内周面には、複数の下端側外側凹部131aが設けられている。複数の下端側外側凹部131aは、軸方向X2に延びている。複数の下端側外側凹部131aは、下端側第2円筒部131の内周面において周方向に等間隔に配置されている。上端側外側凹部121aは、下端側外側凹部131aと同数設けられている。複数の下端側外側凹部131aは、複数の上端側外側凹部121aとそれぞれ軸方向X2において並んで設けられている。すなわち、上端側外側凹部121a及び下端側外側凹部131aを軸方向X2に延ばした場合に、上端側外側凹部121aは下端側外側凹部131aと連通する。内側凹部111aと上端側外側凹部121aとが軸方向X2と直交する方向において対向するように、上端側外側凹部121a及び内側凹部111aの周方向の位相を調整した状態で、内側凹部111aと上端側外側凹部121aとの間に複数の上端側ボール122が転動可能に嵌め込まれている。また、内側凹部111aと下端側外側凹部131aとが軸方向X2と直交する方向において対向するように、下端側外側凹部131a及び内側凹部111aの周方向の位相を調整した状態で、内側凹部111aと下端側外側凹部131aとの間に複数の下端側ボール132が転動可能に嵌め込まれている。
【0075】
路面状態に応じて左転舵輪3Lを介してダンパー41へ衝撃が伝達されるとき、ナックルブラケット42の移動方向を中空シャフト43の軸方向と異ならせようとする曲げ荷重が作用することになる。この場合、第2円筒部112の外側凹部に配置される複数のボールのうち、上端側及び下端側に配置されるボールほど、曲げ荷重が作用する。一方、上端側と下端側との中間に配置されるボールには、ほとんど曲げ荷重が作用することはない。第3実施形態では、こうしたトルク伝達部110に対する曲げ荷重の作用を考慮して、外側凹部を、上端側外側凹部121aと下端側外側凹部131aとの2構成とし、それらを軸方向X2において離間するように構成している。
【0076】
上端側第2円筒部121には、上端側外側凹部121aの上端側の1点と下端側の1点とを短絡する上端側循環路R1が形成されている。上端側循環路R1は、上端側外側凹部121aごとに設けられている。上端側循環路R1は、上端側第2円筒部121に設けられる孔である。これにより、複数の上端側ボール122は、上端側外側凹部121aと内側凹部111aとの間に配置された後、上端側循環路R1を介して再び上端側外側凹部121aと内側凹部111aとの間に戻されるというように無限循環する。
【0077】
下端側第2円筒部131には、下端側外側凹部131aの上端側の1点と下端側の1点とを短絡する下端側循環路R2が形成されている。下端側循環路R2は、下端側外側凹部131aごとに設けられている。下端側循環路R2は、下端側第2円筒部131に設けられる孔である。これにより、複数の下端側ボール132は、下端側外側凹部131aと内側凹部111aとの間に配置された後、下端側循環路R2を介して再び下端側外側凹部131aと内側凹部111aとの間に戻されるというように無限循環する。
【0078】
第3実施形態の作用及び効果を説明する。
(8)第1実施形態の作用(1)~(6)と同様の作用効果を有している。また、仮に、上端側外側凹部121aと下端側外側凹部131aとが離間している箇所においても外側凹部を形成して、その箇所にボールを嵌めることは可能である。しかし、第3実施形態では、上端側外側凹部121aと下端側外側凹部131aとを軸方向X2において離間させ、その離間した箇所に外側凹部を形成しないようにしている。これにより、上端側外側凹部121aと下端側外側凹部131aとが離間している箇所において設けられた外側凹部にボールを嵌めなくてよい分、トルク伝達部110が用いるボールをより少なくすることが可能となる。したがって、それだけ、トルク伝達部110の軽量化を図ることができるようになる。また、上端側第2円筒部121と下端側第2円筒部131との間に第2円筒部を設けなくてよい分、トルク伝達部110の軽量化を図ることができるようになる。
【0079】
なお、各実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
・回転軸23にカップリング25を設けなくてもよい。
【0080】
・第1減速機構80は、ベベルアンギュラーギヤによって構成されたが、これに限らない。例えば、第1減速機構80は、直交軸ベベルギヤなどの歯車によって構成されてもよいし、ウォームとウォームホイールによって構成されてもよい。また、第2減速機構81は、平歯車によって構成されたが、これに限らない。例えば、第2減速機構81は、はすば歯車によって構成されてもよいし、ウォームとウォームホイールによって構成されてもよい。
【0081】
・第3実施形態では、軸方向X2において、上端側第2円筒部121と下端側第2円筒部131とが、空間を挟んで離間していたが、これに限らない。例えば、上端側第2円筒部121と下端側第2円筒部131との間に、第2円筒部112の材料よりも比重の軽い材料を配置することで、軽量化を図ってもよい。また、一部材としての第2円筒部112の内周面に、軸方向X2における上端側に配置される上端側外側凹部121aと軸方向X2における下端側に離間して配置される下端側外側凹部131aとを形成するようにしてもよい。
【0082】
・各実施形態では、中空シャフト43と第1円筒部111とを一体的に設けたが、これに限らない。例えば、円筒状をなす第1円筒部111を、中空シャフト43の外周面を覆うように設けてもよい。
【0083】
・第2実施形態では、ナックルブラケット42に対する第2円筒部112の固定を省略したが、これに限らない。例えば、図7に示すように、ナックルブラケット42に対して第2円筒部112を固定するようにしてもよい。
【0084】
・各実施形態では、当接部材105、弾性部材106、及びナット107によって、ピストンロッド101を中空シャフト43に対して揺動可能に支持したが、他の構成によって揺動可能に支持されてもよい。
【0085】
例えば図8(a)に示すように、ダンパー41は、内周面がピストンロッド101の下端に設けられた下端側小径部101bの外周面に接するとともに外周面が半球状をなすように突出した球状部108を有している。ダンパー41は、内周面が半球状をなすように凹んでいて球状部108に面接触するとともに、外周面がナックルブラケット42の第1段差42aの内周面に接するソケット109を有している。球状部108は、ピストンロッド101に、その下端から下端側小径部101bに挿入されるナット107とピストンロッド101の段差101cとにより挟み込まれることで、ピストンロッド101に固定されている。ダンパー41は、球状部108、ソケット109、及びナット107により、ピストンロッド101を中空シャフト43に対して軸方向X2に直交する方向に揺動可能に支持されている。なお、この場合、シリンダ100の上端も同様に揺動可能に支持する必要がある。
【0086】
・各実施形態では、当接部材105、弾性部材106、及びナット107によって、ピストンロッド101を中空シャフト43に対して揺動可能に支持したが、ピストンロッド101を中空シャフト43に対して揺動可能に支持しなくてもよい。
【0087】
・第1実施形態及び第3実施形態では、ピストンロッド101を中空シャフト43に対して揺動可能に支持するとともに、シリンダ100を中空シャフト43に対して揺動可能に支持したが、少なくとも一方で支持していてもよい。
【0088】
・第1実施形態及び第3実施形態では、当接部材105a、弾性部材106a、及びナット107aによって、シリンダ100を中空シャフト43に対して揺動可能に支持したが、他の構成によって揺動可能に支持してもよい。
【0089】
・第1実施形態及び第3実施形態では、当接部材105a、弾性部材106a、及びナット107aによって、シリンダ100を中空シャフト43に対して揺動可能に支持したが、シリンダ100を中空シャフト43に対して揺動可能に支持しなくてもよい。この場合、シリンダ100は中空シャフト43に対して固定されることになる。
【0090】
例えば図8(b)に示すように、当接部材105の内周面は、ピストンロッド101の下端に設けられた下端側小径部101bの外周面に接している。当接部材105の外周面は、ナックルブラケット42の第1段差42aの内周面に接している。当接部材105は、ピストンロッド101の下端から下端側小径部101bに挿入されるナット107とピストンロッド101の段差101cとにより挟み込まれることで、ピストンロッド101に固定されている。当接部材105は、例えば金属等により構成されるため、ピストンロッド101を中空シャフト43に対して軸方向X2と直交する方向に揺動しないように支持している。
【0091】
・各実施形態では、ナックルブラケット42に固定されたピストンロッド101が、中空シャフト43に固定されたシリンダ100に対して軸方向X2に進退移動可能に設けたが、これに限らない。
【0092】
図9に示すように、シリンダ100は、下端部に底壁100eを有している。シリンダ100の底壁100eは、ナックルブラケット42の下端に固定されている。シリンダ100は、ナックルブラケット42と軸方向X2に一体的に移動する。シリンダ100の内部空間には、上端側の開口部分を介してピストンロッド101の下端が収容されている。シリンダ100の内部空間には、ピストンロッド101よりも下端側にフリーピストン102bが配置されている。シリンダ100におけるフリーピストン102bよりも下端側の内部空間にはガスが充填され、シリンダ100におけるフリーピストン102bよりも上端側の内部空間には作動液が充填されている。ピストン102は、ピストンロッド101の下端に設けられた下端側小径部101dに取り付けられている。ピストン102は、ピストンロッド101の下端側小径部101dの外周面とシリンダ100の内周面との間に配置されている。ピストンロッド101は、上端側小径部101eを備え、上端側小径部101eには、円環状の当接部材105が挿入されている。当接部材105の外側には円環状の弾性部材106が挿入されている。これら当接部材105及び弾性部材106は、ピストンロッド101の上端側小径部101eに螺合されるナット107によって固定されている。弾性部材106の外周面は、中空シャフト43の内周面に固定されている。これにより、ピストンロッド101は、中空シャフト43と軸方向X2に一体的に移動する。シリンダ100の外周面と中空シャフト43の内周面との間には、中空シャフト43に対してシリンダ100が軸方向X2に移動できるようにわずかに隙間が設けられている。これにより、ピストンロッド101は、ナックルブラケット42に固定されたシリンダ100に対して軸方向X2に進退移動可能に設けられている。このような、いわゆる正立式のダンパー41に対しても上記の各実施形態のトルク伝達部110を適用することができる。
【0093】
・各実施形態では、循環路Rを介してボール113が循環する方式のトルク伝達部110が用いられたが、これに限らない。たとえば、ボール113が循環しない方式のトルク伝達部が用いられてもよい。
【0094】
例えば図10に示すように、ナックルブラケット42には、第1~第3実施形態でいう循環路Rに相当する構成は設けられていない。このため、複数のボール113は、内側凹部111aと外側凹部112cとの間に挟まれた状態のまま、中空シャフト43に対してナックルブラケット42が軸方向X2に移動するのに伴って、内側凹部111a及び外側凹部112cに対して負荷を受けつつ転がりながら移動する。これにより、ナックルブラケット42は、トルク伝達部110を介して中空シャフト43に支持された状態で、中空シャフト43に対して軸方向X2に移動することができる。
【0095】
・各実施形態では、ボール113を用いたボールスプライン嵌合を用いたトルク伝達部110を採用したが、これに限らない。
例えば、図11(a),(b)に示すように、トルク伝達部110としてニードルローラを用いたトルク伝達部を採用してもよい。この場合、中空シャフト43の外周面には、軸方向X2に一体移動可能に第1円筒部141が固定されている。第1円筒部141の外面には、6つの内側平面141aが設けられている。6つの内側平面141aは、第1円筒部141の周方向に等間隔に配置されている。また、ナックルブラケット42の内周面には、軸方向X2に一体移動可能に第2円筒部142が設けられている。第2円筒部142の内面には、6つの外側平面142aが設けられている。6つの外側平面142aは、第2円筒部142の周方向に等間隔に配置されている。6つの内側平面141aには、それぞれ内側凹部141bが設けられている。複数の内側凹部141bは、軸方向X2に延びている。6つの外側平面142aには、それぞれ外側凹部142bが設けられている。複数の外側凹部142bは、軸方向X2に延びている。内側凹部141bと外側平面142aとが軸方向X2と直交する方向において対向するように、内側凹部141b及び外側凹部142bの周方向の位相を調整した状態で、内側凹部141bと外側凹部142bとの間に、複数のニードル143が嵌め込まれている。このようなニードルローラを用いた場合においても、ナックルブラケット42は、トルク伝達部110を介して中空シャフト43に支持された状態で、中空シャフト43に対して軸方向X2に移動することができる。また、内側凹部141b及び外側凹部142bの周方向における長さは、1つのニードル143の軸方向における長さよりもわずかに長く設定されている。中空シャフト43が周方向に回転すると、内側凹部141bの周方向における壁面に複数のニードル143が当接し、これら複数のニードル143が外側凹部142bの周方向における壁面に当接する。これにより、中空シャフト43の周方向における回転は、ナックルブラケット42へと伝達される。なお、内側平面141a及び外側平面142aは6つの平面に限らず、3つ以上の平面によって構成されていればいくつの平面で構成されていてもよい。
【0096】
また、図11(c)に示すように、トルク伝達部110として採用されるニードルローラは、循環路Rを設けた循環方式のものであってもよい。この場合、第2円筒部142には、外側凹部142bの上端側の1点と下端側の1点とを短絡する循環路Rが形成されている。循環路Rは、外側凹部142bごとに設けられている。この循環路Rによって、ニードル143は無限循環する。
【0097】
・第1減速機構80及び第2減速機構81のうち一方は波動減速機(波動歯車装置)であってもよい。
・各実施形態では、左転舵輪3L及び右転舵輪3Rは車両の前方側に配置されたが、これに限らない。左転舵輪3L及び右転舵輪3Rは、車両の後方側に配置された転舵輪であってもよい。また、車両の前方側に配置された転舵輪及び車両の後方側に配置された転舵輪の両方に対して、転舵機構及び減速機構をそれぞれ設けてもよい。
【0098】
・各実施形態では、車両用操舵装置1を自動車に適用したが、これに限らない。例えば、車両用操舵装置1を自転車や車椅子に適用してもよい。例えば、車両用操舵装置1を自転車に適用する場合、その車両用操舵装置1には、左転舵モータ4L及び右転舵モータ4Rを設けなくてよいし、これらのトルクを伝達するための左減速機構6L及び右減速機構6Rも設けなくてよい。この場合、運転者が自転車のハンドルを操作したときのトルクが入力軸30に伝達されることになる。
【符号の説明】
【0099】
1…車両用操舵装置、2…ステアリングホイール、3L…左転舵輪、3R…右転舵輪、4L…左転舵モータ、4R…右転舵モータ、5L…左転舵機構、5R…右転舵機構、6L…左減速機構、6R…右減速機構、7…ECU、10…ナックル、12…ロアアーム、18…ストラットマウント、20…対向部材、21…スプリング、22…ブーツ、23…回転軸、24…モータ本体、30…入力軸、40…出力軸、41…ダンパー、42…ナックルブラケット、42a…第1段差、42b…第2段差、42c…第3段差、43…中空シャフト、50…連結機構、80…第1減速機構、81…第2減速機構、82…中心軸、90…ハウジング、91…モータハウジング、92…ギヤハウジング、100…シリンダ、101…ピストンロッド、101a…上端側小径部、101b…下端側小径部、101c…段差、101d…下端側小径部、101e…上端側小径部、102…ピストン、102…減衰バルブ、103…キャップ、104…シール部材、105,105a…当接部材、106,106a…弾性部材、107,107a…ナット、108…球状部、109…ソケット、110…トルク伝達部、111…第1円筒部、111a,111b…内側凹部、112…第2円筒部、112a,112b…外側凹部、113…ボール、121…上端側第2円筒部、121a…上端側外側凹部、122…上端側ボール、131…下端側第2円筒部、131a…下端側外側凹部、132…下端側ボール、141…第1円筒部、141a…内側平面、141b…内側凹部、142…第2円筒部、142a…外側平面、142b…外側凹部、143…ニードル、150…バンプストッパ、K…キングピン軸、S…サスペンション、X…上下方向、X1,X2,X3…軸方向、R…循環路、R1…上端側循環路、R2…下端側循環路、S1…第1室、S2…第2室。
図1
図2
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図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11