IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

特許7052529アクチュエータ及びステアバイワイヤ式操舵装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】アクチュエータ及びステアバイワイヤ式操舵装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/20 20060101AFI20220405BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20220405BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20220405BHJP
   F16D 41/08 20060101ALI20220405BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20220405BHJP
   F16D 41/10 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
F16H25/20 H
F16H25/20 E
F16H25/20 D
F16H25/22 Z
F16H25/24 B
F16D41/08 A
B62D5/04
F16D41/10
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018083369
(22)【出願日】2018-04-24
(65)【公開番号】P2019190561
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大黒 優也
【審査官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-195127(JP,A)
【文献】特開2011-027252(JP,A)
【文献】米国特許第03335831(US,A)
【文献】登録実用新案第3084635(JP,U)
【文献】特開2013-116705(JP,A)
【文献】特開2016-147513(JP,A)
【文献】特開2008-185043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/20
F16H 25/22
F16H 25/24
F16D 41/08
B62D 5/04
F16D 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆入力遮断クラッチと、回転直動変換機構と、を備え、
前記逆入力遮断クラッチは、入力部材と、出力部材と、被押圧部材と、係合子とを備えており、
前記入力部材と前記出力部材とは、互いに同軸に配置されており、
前記被押圧部材は、被押圧面を有しており、
前記係合子は、前記入力部材に回転トルクが入力されると、前記入力部材との係合に基づいて前記被押圧面から離れる方向に移動し、前記入力部材に入力された回転トルクを前記出力部材との係合に基づいて前記出力部材に伝達し、かつ、前記出力部材に回転トルクが逆入力されると、前記出力部材との係合に基づいて前記被押圧面に近づく方向に移動し、前記被押圧面に押し付けられることで、前記出力部材に逆入力された回転トルクを前記入力部材に伝達しないか又は前記出力部材に逆入力された回転トルクの一部を前記入力部材との係合に基づいて前記入力部材に伝達し残部を遮断するものであり、
前記入力部材は、回転中心から径方向に外れた部分に入力係合部を有しており、
前記出力部材は、前記入力係合部に対して径方向内側に位置する部分に出力係合部を有しており、
前記被押圧面は、前記入力係合部及び前記出力係合部の周囲を取り囲む前記被押圧部材の内周面に形成されており、
前記係合子は、前記被押圧面の径方向内側に配置され、前記入力係合部と係合する入力係合面と、前記出力係合部と係合する出力係合面と、前記被押圧面に押し付けられる押圧面とを有しており、
前記被押圧面が円弧状の凹面であり、前記係合子の押圧面が、前記被押圧面よりも曲率半径が小さくかつ周方向に離隔して設けられた1対の円弧状の凸面であり、
前記回転直動変換機構は、回転部材と直動部材とを有し、前記回転部材の回転運動を前記直動部材の直動運動に変換可能なものであり、
前記出力部材が前記回転部材に直接又は他の部材を介して回転トルクを伝達可能に接続されている、
アクチュエータ。
【請求項2】
逆入力遮断クラッチと、回転直動変換機構と、を備え、
前記逆入力遮断クラッチは、入力部材と、出力部材と、被押圧部材と、係合子とを備えており、
前記入力部材と前記出力部材とは、互いに同軸に配置されており、
前記被押圧部材は、被押圧面を有しており、
前記係合子は、前記入力部材に回転トルクが入力されると、前記入力部材との係合に基づいて前記被押圧面から離れる方向に移動し、前記入力部材に入力された回転トルクを前記出力部材との係合に基づいて前記出力部材に伝達し、かつ、前記出力部材に回転トルクが逆入力されると、前記出力部材との係合に基づいて前記被押圧面に近づく方向に移動し、前記被押圧面に押し付けられることで、前記出力部材に逆入力された回転トルクを前記入力部材に伝達しないか又は前記出力部材に逆入力された回転トルクの一部を前記入力部材との係合に基づいて前記入力部材に伝達し残部を遮断するものであり、
前記入力部材は、回転中心から径方向に外れた部分に入力係合部を有しており、
前記出力部材は、前記入力係合部に対して径方向内側に位置する部分に出力係合部を有しており、
前記被押圧面は、前記入力係合部及び前記出力係合部の周囲を取り囲む前記被押圧部材の内周面に形成されており、
前記係合子は、前記被押圧面の径方向内側に配置され、前記入力係合部と係合する入力係合面と、前記出力係合部と係合する出力係合面と、前記被押圧面に押し付けられる押圧面とを有しており、
前記係合子は、径方向中間部に、軸方向に貫通し、かつ、前記入力係合部を挿入した入力係合孔を有しており、
前記入力係合面は、前記入力係合孔の内面のうち径方向外側を向いた平坦面により構成されており、
前記回転直動変換機構は、回転部材と直動部材とを有し、前記回転部材の回転運動を前記直動部材の直動運動に変換可能なものであり、
前記出力部材が前記回転部材に直接又は他の部材を介して回転トルクを伝達可能に接続されている、
アクチュエータ。
【請求項3】
前記係合子が前記出力係合部を径方向両側から挟むように1対備えられている、
請求項1又は2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記係合子を前記被押圧面に近づく方向に付勢する弾性部材をさらに備える、
請求項1~のうちの何れか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記係合子が前記被押圧面に対して遠近動する方向に移動するのを案内するガイド部材をさらに備える、
請求項1~のうちの何れか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記被押圧部材を支持するハウジングをさらに備え、
前記被押圧部材は、凹凸面部が設けられた外周面を有しており、該外周面が前記ハウジングの内周面に圧入内嵌されている、
請求項1~のうちの何れか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記回転直動変換機構が、ピニオン歯を有するピニオン軸と、前記ピニオン歯と噛合したラック歯を有するラック軸とを備え、かつ、前記回転部材を前記ピニオン軸とし、前記直動部材を前記ラック軸とした、ラックアンドピニオン機構である、
請求項1~のうちの何れか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記回転直動変換機構が、内周面に雌側螺旋溝を有するナットと、外周面に雄側螺旋溝を有するねじ軸と、前記雌側螺旋溝と前記雄側螺旋溝との間に配置された複数のボールとを備え、かつ、前記回転部材を前記ナットと前記ねじ軸とのうちの一方とし、前記直動部材を前記ナットと前記ねじ軸とのうちの他方とした、ボールねじ機構である、
請求項1~のうちの何れか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項9】
前記回転直動変換機構が、内周面に雌ねじ部を有するナットと、外周面に前記雌ねじ部と螺合する雄ねじ部を有するねじ軸とを備え、かつ、前記回転部材を前記ナットと前記ねじ軸とのうちの一方とし、前記直動部材を前記ナットと前記ねじ軸とのうちの他方とした、滑りねじ機構である、
請求項1~のうちの何れか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項10】
前記回転直動変換機構が、内周面に雌ねじ部を有するナットと、外周面に雄ねじ部を有するねじ軸と、外周面に前記雌ねじ部及び前記雄ねじ部の双方に噛み合うローラねじ部を有する複数の遊星ローラとを備え、かつ、前記回転部材を前記ナットと前記ねじ軸とのうちの一方とし、前記直動部材を前記ナットと前記ねじ軸とのうちの他方とした、遊星ローラねじ機構である、
請求項1~のうちの何れか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項11】
前記出力部材が前記ナットに対して同軸に固定されている、
請求項10のうちの何れか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項12】
前記入力部材に入力される回転トルク、又は、前記出力部材から出力された回転トルクを増大するための減速機構を備えている、
請求項1~11のうちの何れか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項13】
前記入力部材に入力される回転トルクの発生源となる電動モータを備えている、
請求項1~12のうちの何れか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項14】
前記電動モータが前記直動部材の周囲に同軸に配置されている、
請求項13に記載のアクチュエータ。
【請求項15】
左右1組の前輪と左右1組の後輪とのうちの少なくとも一方の組を転舵輪として、該転舵輪の転舵角の調節をアクチュエータにより行うステアバイワイヤ式操舵装置であって、
前記アクチュエータが請求項13又は14に記載のアクチュエータである、
ステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項16】
前記転舵輪の転舵角の調節を、1つのアクチュエータにより行う構成を有している、
請求項15に記載のステアバイワイヤ式操舵装置。
【請求項17】
前記転舵輪の転舵角の調節を、該転舵輪のそれぞれに1つずつ設けられたアクチュエータにより行う構成を有している、
請求項15に記載のステアバイワイヤ式操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆入力遮断クラッチを備えたアクチュエータ及び該アクチュエータを組み込んだステアバイワイヤ式操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
逆入力遮断クラッチは、駆動源などの入力側機構に接続される入力部材と、減速機構などの出力側機構に接続される出力部材を備えており、入力部材に入力される回転トルクは出力部材に伝達するのに対し、出力部材に逆入力される回転トルクは完全に遮断して、入力部材に伝達しないか又はその一部のみを入力部材に伝達して残部を遮断する機能を有している。
【0003】
逆入力遮断クラッチは、出力部材に逆入力される回転トルクを遮断する機構の相違により、ロック式とフリー式に大別される。ロック式の逆入力遮断クラッチは、出力部材に回転トルクが逆入力された際に、出力部材の回転を防止又は抑制する機構を備えている。一方、フリー式の逆入力遮断クラッチは、出力部材に回転トルクが入力された際に、出力部材を空転させる機構を備えている。ロック式の逆入力遮断クラッチとフリー式の逆入力遮断クラッチとの何れを使用するかについては、逆入力遮断クラッチを組み込む装置の用途などによって適宜決定される。
【0004】
特開2007-232095号公報、特開2004-084918号公報などには、ロック式の逆入力遮断クラッチが記載されている。これらの公報に記載された逆入力遮断クラッチは、出力部材に回転トルクが逆入力された際に、内方部材と外方部材との間のくさび形空間に配置された転動体を、くさび形空間のうち径方向に関する幅の狭い側に移動させて、内方部材と外方部材との間で突っ張らせることにより、出力部材の回転を防止する機構を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-232095号公報
【文献】特開2004-084918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開2007-232095号公報、及び、特開2004-084918号公報に記載された逆入力遮断クラッチでは、出力部材に回転トルクが逆入力された際に、くさび形空間の径方向に関する幅の狭い部分に転動体が噛み込まれるが、この噛み込まれる力は、出力部材に逆入力された回転トルクに応じた大きさとなる。このため、この噛み込まれる力が大きくなった場合には、その後、入力部材にトルクが入力された際にも、くさび形空間の径方向に関する幅の狭い部分に転動体が噛み込まれた状態、すなわち、出力部材の回転を防止した状態が解除されにくくなる可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、出力部材の回転を防止又は抑制した状態を容易に解除することができる逆入力遮断クラッチを備えたアクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアクチュエータは、逆入力遮断クラッチと、回転直動変換機構とを備えている。
前記逆入力遮断クラッチは、入力部材と、出力部材と、被押圧部材と、係合子とを備えている。
前記入力部材と前記出力部材とは、互いに同軸に配置されている。
前記被押圧部材は、被押圧面を有している。
前記係合子は、前記入力部材に回転トルクが入力されると、前記入力部材との係合に基づいて前記被押圧面から離れる方向に移動し、前記入力部材に入力された回転トルクを前記出力部材との係合に基づいて前記出力部材に伝達し、かつ、前記出力部材に回転トルクが逆入力されると、前記出力部材との係合に基づいて前記被押圧面に近づく方向に移動し、前記被押圧面に押し付けられることで、前記出力部材に逆入力された回転トルクを前記入力部材に伝達しないか又は前記出力部材に逆入力された回転トルクの一部を前記入力部材との係合に基づいて前記入力部材に伝達し残部を遮断する。
前記回転直動変換機構は、回転部材と直動部材とを有し、前記回転部材の回転運動を前記直動部材の直動運動に変換可能なものである。
前記出力部材が前記回転部材に直接又は他の部材を介して回転トルクを伝達可能に接続されている。
【0009】
前記入力部材は、回転中心から径方向に外れた部分に入力係合部を有するものとすることができる。
前記出力部材は、前記入力係合部に対して径方向内側に位置する部分に出力係合部を有するものとすることができる。
前記被押圧面は、前記入力係合部及び前記出力係合部の周囲を取り囲む前記被押圧部材の内周面に形成することができる。
前記係合子は、前記被押圧面の径方向内側に配置され、前記入力係合部と係合する入力係合面と、前記出力係合部と係合する出力係合面と、前記被押圧面に押し付けられる押圧面とを有するものとすることができる。
【0010】
前記係合子が前記出力係合部を径方向両側から挟むように1対備えられたものとすることができる。
【0011】
前記被押圧面を円弧状の凹面とし、前記係合子の押圧面を、前記被押圧面よりも曲率半径が小さくかつ周方向に離隔して設けられた1対の円弧状の凸面とすることができる。
【0012】
前記係合子を前記被押圧面に近づく方向に付勢する弾性部材をさらに備えたものとすることができる。
【0013】
前記係合子が前記被押圧面に対して遠近動する方向に移動するのを案内するガイド部材を備えたものとすることができる。
【0014】
前記被押圧部材を支持するハウジングをさらに備えており、前記被押圧部材は、凹凸面部が設けられた外周面を有しており、該外周面が前記ハウジングの内周面に圧入内嵌されたものとすることができる。
【0015】
前記回転直動変換機構を、ピニオン歯を有するピニオン軸と、前記ピニオン歯と噛合したラック歯を有するラック軸とを備え、前記回転部材を前記ピニオン軸とし、前記直動部材を前記ラック軸とした、ラックアンドピニオン機構とすることができる。
【0016】
前記回転直動変換機構を、内周面に雌側螺旋溝を有するナットと、外周面に雄側螺旋溝を有するねじ軸と、前記雌側螺旋溝と前記雄側螺旋溝との間に配置された複数のボールとを備え、かつ、前記回転部材を前記ナットと前記ねじ軸とのうちの一方とし、前記直動部材を前記ナットと前記ねじ軸とのうちの他方とした、ボールねじ機構とすることができる。
【0017】
前記回転直動変換機構を、内周面に雌ねじ部を有するナットと、外周面に前記雌ねじ部と螺合する雄ねじ部を有するねじ軸とを備え、かつ、前記回転部材を前記ナットと前記ねじ軸とのうちの一方とし、前記直動部材を前記ナットと前記ねじ軸とのうちの他方とした、滑りねじ機構とすることができる。
【0018】
前記回転直動変換機構を、内周面に雌ねじ部を有するナットと、外周面に雄ねじ部を有するねじ軸と、外周面に前記雌ねじ部及び前記雄ねじ部の双方に噛み合うローラねじ部を有する複数の遊星ローラとを備え、かつ、前記回転部材を前記ナットと前記ねじ軸とのうちの一方とし、前記直動部材を前記ナットと前記ねじ軸とのうちの他方とした、遊星ローラねじ機構とすることができる。
【0019】
前記出力部材が前記ナットに対して同軸に固定されたものとすることができる。
【0020】
前記入力部材に入力される回転トルク、又は、前記出力部材から出力された回転トルクを増大するための減速機構を備えたものとすることができる。
【0021】
前記入力部材に入力される回転トルクの発生源となる電動モータを備えたものとすることができる。
【0022】
前記電動モータが前記直動部材の周囲に同軸に配置されたものとすることができる。
【0023】
本発明のステアバイワイヤ式操舵装置は、左右1組の前輪と左右1組の後輪とのうちの少なくとも一方の組を転舵輪として、該転舵輪の転舵角の調節をアクチュエータにより行う。
前記アクチュエータは、本発明のアクチュエータである。
【0024】
前記転舵輪の転舵角の調節を、1つのアクチュエータにより行う構成を有するものとすることができる。
【0025】
前記転舵輪の転舵角の調節を、該転舵輪のそれぞれに1つずつ設けられたアクチュエータにより行う構成を有するものとすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、出力部材の回転を防止又は抑制した状態を容易に解除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、実施の形態の第1例に関するステアバイワイヤ式操舵装置の模式図である。
図2図2は、実施の形態の第1例に関する逆入力遮断クラッチの設置部の断面図である。
図3図3は、実施の形態の第1例に関する逆入力遮断クラッチを示す断面図である。
図4図4は、実施の形態の第1例に関する逆入力遮断クラッチの斜視図である。
図5図5は、実施の形態の第1例に関する逆入力遮断クラッチに関して、入力部材に回転トルクが入力された状態を示す図である。
図6図6は、実施の形態の第1例に関する逆入力遮断クラッチに関して、出力部材に回転トルクが逆入力された状態を示す図である。
図7図7は、実施の形態の第1例に関する逆入力遮断クラッチに関して、出力部材に回転トルクが逆入力された際に、出力部材から係合子に作用する力の関係を示す図6の部分拡大図である。
図8図8は、実施の形態の第1例に関する逆入力遮断クラッチに関して、出力部材に回転トルクが逆入力された際に、出力部材がロックする条件を説明するために示す図である。
図9図9は、実施の形態の第1例に関する逆入力遮断クラッチを構成する入力部材を取り出して示す斜視図である。
図10図10は、実施の形態の第1例に関する逆入力遮断クラッチを構成する出力部材を取り出して示す斜視図である。
図11図11は、実施の形態の第1例に関する逆入力遮断クラッチを構成する被押圧部材を取り出して示す斜視図である。
図12図12は、被押圧部材の外周面に設ける凹凸面部のローレット模様の別例を示す図である。
図13図13は、実施の形態の第2例に関するステアバイワイヤ式操舵装置を構成するアクチュエータの模式図である。
図14図14は、実施の形態の第3例に関する、図13に相当する図である。
図15図15は、実施の形態の第4例に関する、図13に相当する図である。
図16図16は、実施の形態の第5例に関する、図13に相当する図である。
図17図17は、実施の形態の第6例に関する、図13に相当する図である。
図18図18は、実施の形態の第7例に関する、図13に相当する図である。
図19図19は、実施の形態の第7例に関するステアバイワイヤ式操舵装置に関して、逆入力遮断クラッチ及びボールねじ機構を取り出して示す斜視図である。
図20図20は、実施の形態の第8例に関する、図13に相当する図である。
図21図21は、実施の形態の第9例に関する、図3に相当する図である。
図22図22は、図21のA-A断面図である。
図23図23は、実施の形態の第10例に関する、図3に相当する図である。
図24図24は、回転直動変換機構として採用することができる、滑りねじ機構の部分断面図である。
図25図25は、回転直動変換機構として採用することができる、遊星ローラねじ機構の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1図12を用いて説明する。
図1は、逆入力遮断クラッチ1を備えたアクチュエータ2を含んで構成される、自動車のステアバイワイヤ式操舵装置3を模式的に示している。
【0029】
本例のステアバイワイヤ式操舵装置3は、操舵部材であるステアリングホイール4と、左右1組の前輪である1対の転舵輪5とが機械的に切り離されており、ステアリングホイール4の回転量や回転力などをセンサで検知し、これらのセンサ情報に基づいてアクチュエータ2の動作を制御することにより、1対の転舵輪5の転舵角(タイヤ角)を調節する。
【0030】
ステアバイワイヤ式操舵装置3は、ステアリングホイール4と、操舵シャフト6と、反力付加装置7と、弾性部材8と、操舵角センサ9と、トルクセンサ10と、転舵角センサ11と、制御装置(ECU)12と、第1駆動回路13と、第2駆動回路14と、アクチュエータ2と、1対のタイロッド15とを備えている。
【0031】
ステアリングホイール4は、車体に対して回転可能に支持された操舵シャフト6の後端部(上端部)に結合されている。
【0032】
反力付加装置7は、ステアリングホイール4に操作反力を与えるためのもので、操舵シャフト6の軸方向中間部に組み付けられている。操作反力は、反力付加装置7を構成する図示しない電動モータを駆動源として発生する。
【0033】
弾性部材8は、渦巻きばねなどにより構成されたもので、操舵シャフト6の前端部(下端部)と車体との間に掛け渡されている。弾性部材8は、反力付加装置7がステアリングホイール4にトルクを付加していないときに、その弾性力によって、ステアリングホイール4を直進操舵位置に復帰させるものである。
【0034】
操舵角センサ9は、ステアリングホイール4の操舵角θhを検出するためのもので、操舵シャフト6の一部(図示の例では、反力付加装置7の後側に隣接する部分)に組み付けられている。
【0035】
トルクセンサ10は、ステアリングホイール4に加えられた操舵トルクTを検出するためのもので、操舵シャフト6の一部(図示の例では、反力付加装置7の前側に隣接する部分)に組み付けられている。
【0036】
転舵角センサ11は、1対の転舵輪5の転舵角δwを検出するためのものである。本例では、転舵角センサ11は、一方(図1における左方)の転舵輪5の近傍に配置されている。
【0037】
制御装置12には、操舵角センサ9、トルクセンサ10、転舵角センサ11のほか、車両の速度である車速Vを検出するための車速センサ16、運転者によるアクセルペダルの操作量Aを検出するためのアクセル操作量センサ17、運転者によるブレーキペダルの操作量Bを検出するためのブレーキ操作量センサ18、車両の上下加速度Gzを検出するための上下加速度センサ19、車両の横加速度Gyを検出するための横加速度センサ20、車両のヨーレートγを検出するためのヨーレートセンサ21の、それぞれの検出信号が入力されるようになっている。
【0038】
制御装置12は、操舵角センサ9によって検出された操舵角θh及び車速センサ16によって検出された車速Vに基づいて、目標転舵角を設定する。そして、この目標転舵角と転舵角センサ11によって検出された転舵角δwとの偏差に基づいて、第1駆動回路13を介し、アクチュエータ2を駆動制御(転舵制御)する。これにより、転舵輪5の転舵角δwが前記目標転舵角となるように調節する。また、制御装置12は、操舵角センサ9、トルクセンサ10、転舵角センサ11、車速センサ16、アクセル操作量センサ17、ブレーキ操作量センサ18、上下加速度センサ19、横加速度センサ20、ヨーレートセンサ21の、それぞれの検出信号に基づいて、第2駆動回路14を介し、反力付加装置7を駆動制御(反力制御)する。これにより、操舵シャフト6に対し、ステアリングホイール4の操舵方向と逆方向の適正な反力を付加する。
【0039】
アクチュエータ2は、車体に支持固定されたハウジング22と、駆動源である電動モータ23と、逆入力遮断クラッチ1と、減速機構24と、回転直動変換機構であるラックアンドピニオン機構25とを備えている。
【0040】
電動モータ23は、両方向の回転駆動が可能な駆動軸(出力軸)26を有するもので、ハウジング22に支持されている。上述した転舵制御は、駆動軸26の回転方向及び回転量などを制御することに基づいて行われる。
【0041】
逆入力遮断クラッチ1は、ロック式の逆入力遮断クラッチであり、ハウジング22内に収容されている。逆入力遮断クラッチ1は、入力部材32に入力される回転トルクはその全てを出力部材33に伝達するのに対し、出力部材33に逆入力される回転トルクは入力部材32に伝達しないか又はその一部のみを伝達し残部を遮断する、逆入力遮断機能を有している。このような逆入力遮断クラッチ1の具体的な構造及び動作については後述するが、本例では、入力部材32は、電動モータ23の駆動軸26にトルク伝達可能に接続されている。
【0042】
減速機構24は、入力部から入力された回転トルクを減速して出力部から出力するためのもので、ハウジング22内に収容されている。図示の例では、減速機構24は、それぞれの回転中心軸を互いに平行に配置された複数の歯車同士を噛合させることにより構成された平行軸歯車機構である。減速機構24の入力部は、逆入力遮断クラッチ1の出力部材33にトルク伝達可能に接続されている。
【0043】
なお、減速機構24としては、平行軸歯車機構のほか、遊星歯車機構、傘歯車機構、波動歯車機構、サイクロイド減速機構、ベルト駆動式減速機構、チェーン駆動式減速機構、ウェッジローラ式トラクションドライブ減速機構や、これらの組み合わせなど、各種の減速機構を採用することができる。
【0044】
ラックアンドピニオン機構25は、回転部材であるピニオン軸27と、直動部材であるラック軸28とを含んで構成されたもので、ハウジング22内に収容されている。ピニオン軸27は、軸方向の一部にピニオン歯29を有している。ラック軸28は、軸方向中間部の側面にラック歯30を有している。また、ラック軸28は、その軸方向を車両の幅方向(図1の左右方向)に一致させた状態で、ハウジング22に対して軸方向の変位のみを可能に支持されている。また、ピニオン軸27は、その中心軸をラック軸28の中心軸に対してねじれの位置に配置すると共に、ピニオン歯29をラック歯30に噛合させた状態で、ハウジング22に対して自転のみを可能に支持されている。このような構成を有するラックアンドピニオン機構25は、ピニオン軸27の回転運動をラック軸28の直動運動(軸方向運動)に変換可能である。ピニオン軸27は減速機構24の出力部に、回転トルクの伝達を可能に接続されている。
【0045】
1対のタイロッド15は、それぞれの基端部をラック軸28の軸方向両端部に図示しない球面継手を介して結合されている。タイロッド15のそれぞれの先端部は、ハウジング22外に存在しており、左右1対のナックルアーム31の基端部に揺動可能に結合されている。左右1対のナックルアーム31のそれぞれの先端部は、図示しない左右1対のナックルに固定されている。また、左右1対のナックルは、それぞれが車体に対して、図示しないキングピンを中心とする揺動可能に支持されている。左右1対の転舵輪5のそれぞれは、ハブユニット軸受を介して、左右1対のナックルに対し回転可能に支持されている。
【0046】
本例のステアバイワイヤ式操舵装置3では、ステアリングホイール4の操作に伴い、制御装置12により目標転舵角が設定されて電動モータ23が駆動され、駆動軸26が回転すると、この回転が、逆入力遮断クラッチ1と減速機構24とを介して、ピニオン軸27に伝達される。そして、ピニオン軸27の回転がラック軸28の直動運動に変換されて、左右1対のタイロッド15が押し引きされる。この結果、左右1対のナックルアーム31が揺動変位することにより、左右1対のナックルがキングピンを中心として揺動変位することで、左右1対の転舵輪5の転舵角δwが前記目標転舵角となるように調節される。
【0047】
また、本例のステアバイワイヤ式操舵装置3では、転舵輪5が路面から受ける反力に基づいて、逆入力遮断クラッチ1の出力部材33に回転トルクが逆入力される場合に、逆入力遮断クラッチ1は、後述するように、出力部材33の回転を防止(出力部材33をロック)して、出力部材33に逆入力された回転トルクが入力部材32に伝達されないようにするか、又は、出力部材33の回転を抑制(出力部材33を半ロック)して、出力部材33に逆入力された回転トルクの一部のみが入力部材32に伝達され残部が遮断されるようにしている。この結果、運転者がステアリングホイール4から手を放したとしても、出力部材33をロックする場合は、転舵輪5の転舵角δwを保持することができ、出力部材33を半ロックする場合には、転舵輪5の転舵角δwが急激に変化することを防止できる。要するに、転舵輪5が路面から受ける反力に対して、転舵輪5の転舵角δwを保持したり、転舵輪5の転舵角δwが急激に変化することを防止したりするための力を、電動モータ23で発生させる必要がない。したがって、その分、電動モータ23の電力消費量を削減することができる。
【0048】
次に、図2図12を参照しつつ、逆入力遮断クラッチ1の具体的な構造及び動作について説明する。
【0049】
(逆入力遮断クラッチ1の構造の説明)
本例の逆入力遮断クラッチ1は、ロック式の逆入力遮断クラッチであり、入力部材32と、出力部材33と、被押圧部材34と、1対の係合子35を備えている。
なお、特に断らない限り、逆入力遮断クラッチ1に関して、軸方向とは、入力部材32の軸方向をいい、径方向(直径方向)とは、入力部材32の径方向(直径方向)をいう。
【0050】
入力部材32は、金属製で、入力軸部36と、それぞれが入力係合部である1対の入力係合凸部37とを有している。入力軸部36は、その基端部が電動モータ23の駆動軸26にトルク伝達可能に接続されている。なお、該接続のために、入力部材32と駆動軸26とを一体形成することもできる。1対の入力係合凸部37は、略楕円柱形状を有し、入力軸部36の先端面の直径方向反対側2個所位置から軸方向に伸長している。具体的には、1対の入力係合凸部37は、入力軸部36の先端面のうちで回転中心から径方向外方に外れた部分に、径方向に互いに離隔するようにしてそれぞれ設けられている。入力係合凸部37は、その径方向外側面が、入力軸部36の先端部外周面と同じ円筒面状の輪郭形状を有しており、その径方向内側面が、周方向中央部が径方向内方に突出した円弧状の凸面となっている。
なお、逆入力遮断クラッチ1に関して、特に断らない限り、軸方向とは、入力部材32の軸方向をいい、径方向とは、入力部材32の径方向をいう。
【0051】
出力部材33は、金属製で、入力部材32と同軸に配置されており、出力軸部38と、出力係合部である出力係合カム(出力係合凸部)39を有している。出力軸部38と出力係合カム39は、互いに同軸上に直列に配置されている。出力軸部38は、円柱形状を有し、その先端部が、減速機構24の入力部にトルク伝達可能に接続されている。なお、該接続のために、出力軸部38と減速機構24の入力部とを一体形成することもできる。出力係合カム39は、略長円柱形状を有し、出力軸部38の基端面の中央部から軸方向に伸長している。出力係合カム39の外周側面は、互いに平行な1対の平坦面と、1対の円弧状の凸面とから構成されている。具体的には、出力係合カム39の外周側面には、短軸方向両側に1対の平坦面が設けられており、長軸方向両側に1対の円弧状の凸面が設けられている。このため、出力係合カム39の回転中心から外周側面までの距離は、円周方向にわたり一定でない。出力係合カム39は、1対の入力係合凸部37の間部分に配置される。
【0052】
被押圧部材34は、金属製で、薄肉円環状に構成されており、ハウジング22に固定されて、その回転が拘束されている。被押圧部材34は、入力部材32及び出力部材33と同軸に、かつ、入力部材32及び出力部材33よりも径方向外側に配置されている。具体的には、逆入力遮断クラッチ1の組立状態で、被押圧部材34の径方向内側に、1対の入力係合凸部37及び出力係合カム39が配置される。また、被押圧部材34は、1対の入力係合凸部37及び出力係合カム39の周囲を取り囲む内周面に、円筒面状の凹面である被押圧面40が全周にわたり設けられている。また、被押圧部材34は、外周面に、ローレット加工により形成された凹凸面部49(図11参照)が設けられている。この凹凸面部49は、熱処理が施されることで、硬度が高められている。
【0053】
1対の係合子35のそれぞれは、金属製で、略半円形板形状(弓形板形状)を有し、被押圧部材34の径方向内側に配置されている。具体的には、1対の係合子35は、被押圧面40と出力係合カム39との間に、出力係合カム39を該出力係合カム39の短軸方向に相当する径方向両側(図3の上下両側)から挟むように配置されている。1対の係合子35は、互いに同形及び同大に造られた同一部品である。
【0054】
1対の係合子35のそれぞれは、被押圧面40に対向する径方向外側面(外周側面)に、円筒面状の凸面である押圧面41を有しており、出力係合カム39に対向する径方向内側面に、出力係合カム39と係合可能な底面42を有している。このため、1対の係合子35は、押圧面41を互いに反対側に向け、かつ、底面42を互いに対向させた状態で、被押圧部材34の径方向内側に配置されている。また、1対の係合子35を、被押圧部材34の径方向内側に配置した状態で、被押圧面40と押圧面41との間部分又は出力係合カム39と底面42との間部分に隙間が存在するように、被押圧部材34の内径寸法と係合子35の径方向寸法を規制している。
【0055】
1対の係合子35のそれぞれの径方向中間部には、それぞれの係合子35を軸方向に貫通するように入力係合孔43が設けられている。入力係合孔43は、係合子35の幅方向に長い矩形状の貫通孔であり、入力係合凸部37を緩く挿入できる大きさを有している。
【0056】
なお、係合子35の幅方向とは、係合子35の弦に相当する底面42の伸長方向をいい、出力係合カム39の長軸方向と略平行である。係合子35の幅方向は、図3においては左右方向であるが、係合子35が回転することに伴ってその向きが変化(回転)する。また、1対の係合子35の配設方向(底面42に直交する方向)を、1対の係合子35の遠近方向という。1対の係合子35の遠近方向は、径方向のうちの一方向であり、図3においては上下方向であるが、係合子35が回転することに伴ってその向きが変化(回転)する。また、本例では、遠近方向に直交する方向が幅方向となる。
【0057】
入力係合孔43の内側に入力係合凸部37を挿入した状態で、入力係合凸部37と入力係合孔43との間には、係合子35の幅方向及び該幅方向に直交する方向にそれぞれ隙間が存在する。このため、入力係合凸部37は、入力係合孔43に対し、入力部材32の回転方向に関する相対移動が可能であり、入力係合孔43は、入力係合凸部37に対し、係合子35の幅方向に直交する方向(図1における上下方向)の相対移動が可能である。
【0058】
押圧面41は、係合子35のその他の部分に比べて摩擦係数の大きい表面性状を有しており、その曲率半径は、被押圧面40の曲率半径と同じかこれよりも僅かに小さい。押圧面41は、係合子35の表面によって直接構成しても良いし、係合子35に貼着や接着などにより固定した摩擦材によって構成しても良い。
【0059】
1対の係合子35の底面42は、平坦面状に構成されており、幅方向中央部に、出力係合カム39と係合する略矩形状の凹部である出力係合凹部44が設けられている。出力係合凹部44は、その内側に出力係合カム39の短軸方向の先半部をがたつきなく配置できる大きさ及び形状を有している。具体的には、出力係合凹部44は、その開口幅が、出力係合カム39の長軸方向に関する寸法とほぼ同じであり、その径方向深さが、出力係合カム39の短軸方向に関する寸法の1/2よりも少しだけ小さくなっている。出力係合凹部44の底部は、底面42と平行な平坦面状の出力係合面51となっている。
【0060】
逆入力遮断クラッチ1は、その組立状態で、軸方向一方側(図2の右側)に配置した入力部材32の1対の入力係合凸部37を、1対の係合子35のそれぞれの入力係合孔43に軸方向に挿入し、かつ、軸方向他方側(図2の左側)に配置した出力部材33の出力係合カム39を、1対の出力係合凹部44同士の間に軸方向に挿入している。
【0061】
また、逆入力遮断クラッチ1は、図2に示すように、ハウジング22に設けられたクラッチ保持部45の内側に収容されている。クラッチ保持部45は、軸方向両側部に円筒面状の大径部46a、46bを有しており、軸方向中間部に円筒面状の小径部47を有している。大径部46a、46b及び小径部47は、それぞれが同軸に配置されている。ハウジング22のうち、クラッチ保持部45に対応する部分は、金属製である。特に、本例では、少なくとも小径部47は、被押圧部材34の外周面である凹凸面部49よりも軟質になっている。
【0062】
逆入力遮断クラッチ1がクラッチ保持部45の内側に収容された状態で、入力部材32の入力軸部36は、転がり軸受48aにより、クラッチ保持部45の軸方向一方側の大径部46aに対して回転のみ可能に支持されている。また、出力部材33の出力軸部38は、転がり軸受48bにより、クラッチ保持部45の軸方向他方側の大径部46bに対して回転のみ可能に支持されている。なお、図示の例では、転がり軸受48a、48bとして深溝玉軸受を使用しているが、これに限らず、多点接触玉軸受、アンギュラ玉軸受などの他の種類の転がり軸受を使用することもできる。
【0063】
また、逆入力遮断クラッチ1がクラッチ保持部45の内側に収容された状態で、被押圧部材34は、クラッチ保持部45の小径部47に圧入により内嵌されることで、ハウジング22に固定されて、その回転が拘束されている。特に、本例では、被押圧部材34の外周面である凹凸面部49を、クラッチ保持部45の小径部47に圧入することにより、熱処理が施された凹凸面部49を、凹凸面部49よりも軟質の小径部47に機械的に食い込ませることで、ハウジング22に対する被押圧部材34の固定力を高めている。図11に示した例では、凹凸面部49のローレット目の模様は、軸方向に平行な縞模様になっているが、これに限らず、図12(a)に示すような、周方向に平行な縞模様や、図12(b)に示すような、軸方向及び周方向に対して傾斜した縞模様や、図12(c)に示すような、軸方向及び径方向に対して傾斜していない格子模様や、図12(d)に示すような、軸方向及び径方向に対して傾斜した格子模様などを採用することもできる。なお、ハウジング22に対する被押圧部材34の固定方法は、特に限定されないが、本例のような圧入による固定方法によれば、ボルトなどの固定部材を用いた固定方法に比べて、部品点数を少なくでき、組立コストを削減することができる。
【0064】
(逆入力遮断クラッチ1の動作の説明)
逆入力遮断クラッチ1の動作について説明する。
先ず、電動モータ23の駆動軸26から入力部材32に回転トルクが入力された場合を説明する。
入力部材32に回転トルクが入力されると、図5に示すように、入力係合孔43の内側で、入力係合凸部37が入力部材32の回転方向(図5の例では時計方向)に回転する。すると、入力係合凸部37の径方向内側面が、入力係合孔43の内面のうち径方向外側を向いた入力係合面50を径方向内方に向けて押圧し、1対の係合子35を、被押圧面40から離れる方向にそれぞれ移動させる。つまり、1対の係合子35を、入力係合孔43(入力係合面50)と入力係合凸部37との係合に基づき、遠近方向に関して互いに近づくように径方向内側に(図5の上側に位置する係合子35を下側に、図5の下側に位置する係合子35を上側に)それぞれ移動させる。これにより、1対の係合子35の底面42が互いに近づく方向に移動し、1対の出力係合面51が出力係合カム39を径方向両側から挟持する。すなわち、出力部材33を、出力係合カム39の長軸方向が出力係合面51と平行になるように回転させつつ、出力係合カム39と1対の出力係合凹部44とをがたつきなく係合させる。したがって、入力部材32に入力された回転トルクは、1対の係合子35を介して、出力部材33に伝達され、出力部材33から出力される。本例の逆入力遮断クラッチ1は、入力部材32に回転トルクが入力されると、入力部材32の回転方向に関係なく、1対の係合子35を、被押圧面40から離れる方向にそれぞれ移動させる。そして、入力部材32に入力された回転トルクを、1対の係合子35を介して、出力部材33に伝達する。
【0065】
次に、減速機構24の入力部から出力部材33に回転トルクが逆入力された場合を説明する。
出力部材33に回転トルクが逆入力されると、図6に示すように、出力係合カム39が、1対の出力係合面51同士の内側で、出力部材33の回転方向(図6の例では時計方向)に回転する。すると、出力係合カム39の角部が出力係合面51を径方向外方に向けて押圧し、1対の係合子35を、被押圧面40に近づく方向にそれぞれ移動させる。つまり、1対の係合子35を、出力係合面51と出力係合カム39との係合に基づき、互いに離れるように径方向外側に(図6の上側に位置する係合子35を上側に、図6の下側に位置する係合子35を下側に)それぞれ移動させる。これにより、1対の係合子35のそれぞれの押圧面41を、被押圧面40に対して押し付ける。この際、押圧面41と被押圧面40とは、押圧面41の周方向に関する全範囲又は一部(例えば中央部)で接触する。本例の逆入力遮断クラッチ1は、出力部材33に回転トルクが逆入力されると、出力部材33の回転方向に関係なく、1対の係合子35を、被押圧面40に近づく方向にそれぞれ移動させる。そして、押圧面41と被押圧面40との当接(接触)に基づき、出力部材33に逆入力された回転トルクが入力部材32に伝達されないようにするか又はその一部のみが伝達され残部が遮断されるように機能する。出力部材33に逆入力された回転トルクが入力部材32に伝達されないようにするには、押圧面41が被押圧面40に対して摺動(相対回転)しないように、1対の係合子35を出力係合カム39と被押圧部材34との間で突っ張らせ、出力部材33をロックする。これに対し、出力部材33に逆入力された回転トルクのうちの一部のみが入力部材32に伝達され残部が遮断されるようにするには、押圧面41が被押圧面40に対して摺動するように、1対の係合子35を出力係合カム39と被押圧部材34との間で突っ張らせ、出力部材33を半ロックする。
【0066】
上述のように出力部材33に回転トルクが逆入力された場合に、出力部材33がロック又は半ロックする原理及び条件について、図7及び図8を参照して、より具体的に説明する。
出力部材33に回転トルクが逆入力されることで、出力係合カム39の角部が出力係合面51に当接すると、図7に示すように、出力係合カム39の角部と出力係合面51との当接部Xには、出力係合面51に対し垂直方向に法線力Fcが作用する。また、当接部Xには、出力係合カム39と出力係合面51との間の摩擦係数をμとすると、出力係合面51と平行な方向に摩擦力μFcが作用する。ここで、当接部Xに作用する接線力Ftの作用線の方向と出力係合面51との間のくさび角をθとすると、接線力Ftは、次の式(1)により表される。
Ft=Fc・sinθ+μFc・cosθ ・・・(1)
このため、法線力Fcは、接線力Ftを用いて、次の(2)式により表される。
Fc=Ft/(sinθ+μ・cosθ) ・・・(2)
【0067】
出力係合カム39の角部が出力係合面51に当接した際に、出力部材33から係合子35に伝達されるトルクTの大きさは、出力部材33の回転中心Oから当接部Xまでの距離をrとすると、次の(3)式で表される。
T=r・Ft ・・・(3)
【0068】
上述したように、当接部Xには法線力Fcが作用するため、図8に示すように、係合子35の押圧面41は、被押圧部材34の被押圧面40に対して法線力Fcの力で押し付けられる。このため、押圧面41と被押圧面40との間の摩擦係数をμ´とし、出力部材33の回転中心Oから押圧面41と被押圧面40との当接部Yまでの距離をRとすると、係合子35に作用するブレーキトルクT´の大きさは、次の(4)式で表される。
T´=μ´RFc ・・・(4)
したがって、より大きなブレーキ力を得るには、摩擦係数μ´、距離R、法線力Fcを大きくすれば良いことが分かる。
【0069】
また、出力部材33がロックするには、伝達トルクTとブレーキトルクT´とが、次の(5)式の関係を満たす必要がある。
T<T´ ・・・(5)
また、上記(5)式に上記(1)~(4)式を代入すると次の(6)式が得られる。
μ´R/(sinθ+μ・cosθ)>r ・・・(6)
上記(6)式からは、押圧面41と被押圧面40との間の摩擦係数μ´を大きくすれば、距離Rを小さくしても、出力部材33をロックさせられることが分かる。
また、摩擦係数μ及び摩擦係数μ´がそれぞれ0.1であると仮定すると、上記(6)式から次の(7)式が得られる。
R>10r(sinθ+0.1cosθ) ・・・(7)
上記(7)式からは、出力部材33の回転中心Oから当接部Xまでの距離rと、出力部材33の回転中心Oから当接部Yまでの距離Rと、接線力Ftの作用線の方向と出力係合凹部44の底面との間のくさび角θとを適切に設定することで、出力部材33をロックさせられることが分かる。
【0070】
これに対し、出力部材33が半ロックして、出力部材33に逆入力された回転トルクの一部のみが入力部材32に伝達され残部が遮断されるようにするためには、伝達トルクTとブレーキトルクT´とが、次の(8)式の関係を満たす必要がある。
T>T´ ・・・(8)
また、上記(6)式からも明らかな通り、出力係合カム39と出力係合面51との間の摩擦係数μ、押圧面41と被押圧面40との間の摩擦係数μ´、回転中心Oから当接部Xまでの距離r、回転中心Oから当接部Yまでの距離R、接線力Ftの作用線の方向と出力係合面51との間のくさび角θをそれぞれ適切に設定することで、出力部材33を半ロックさせることができる。
【0071】
また、出力部材33がロック又は半ロックした状態で、入力部材32に回転トルクが入力された場合、入力部材32から係合子35に作用する法線力が、出力部材33から係合子35に作用する法線力Fcよりも大きくなると、出力部材33のロック又は半ロックが解除される。つまり、係合子35は径方向内方に移動し、入力部材32から出力部材33に回転トルクが伝達される。
【0072】
なお、自動車の走行中、ステアリングホイール4を操作して自動車を曲線走行させると、転舵輪5には、路面から、転舵角δwを直進状態に戻すような反力、すなわち復元力が作用する。この復元力を利用すると、自動車を曲線走行から直線走行に戻す際のステアリングホイール4の操作が楽になるという第1の利点がある。本発明を実施する場合に、出力部材33が半ロックするように設定すると、第1の利点を得られることに加えて、路面から転舵輪5に作用する反力が大きくなった場合(たとえば、転舵輪5が縁石に乗り上げた場合)に、転舵輪5の転舵角δwが急激に変化することを防止できるといった第2の利点も得られる。
ただし、第1の利点は、出力部材33に逆入力した回転トルクの遮断量を多くするほど得られにくくなり、第2の利点は、出力部材33に逆入力した回転トルクの遮断量を少なくするほど得られにくくなるといった関係がある。
そこで、出力部材33が半ロックするように設定する場合には、第1の利点を得る観点から、出力部材33に逆入力した回転トルクの遮断量は、80%以下にするのが好ましく、20%以下にするのがより好ましい。同じく、第2の利点を得る観点から、出力部材33に逆入力した回転トルクの遮断量は、20%以上にするのが好ましく、80%以上にするのがより好ましい。同じく、第1の利点と第2の利点との双方を得る観点から、出力部材33に逆入力した回転トルクの遮断量は、20%~80%の範囲内に収めることが好ましい。
【0073】
上述したような本例の逆入力遮断クラッチ1では、係合子35に、入力部材32に入力された回転トルクを出力部材33に伝達する機能と、出力部材33に逆入力された回転トルクを遮断する機能(出力部材33をロック又は半ロックする機能)との両方の機能を持たせている。このため、逆入力遮断クラッチ1の部品点数を抑えることができ、かつ、両機能をそれぞれ別の部材に持たせる場合に比べて、動作を安定させることができる。たとえば、回転トルクを伝達する機能と回転トルクを遮断する機能とを別の部材に持たせる場合、出力部材に逆入力される回転トルクの遮断を解除するタイミングと、入力部材から出力部材に回転トルクの伝達を開始するタイミングとがずれる可能性がある。この場合、回転トルクの遮断を解除してから出力部材への回転トルクの伝達を開始するまでの間に出力部材に回転トルクが逆入力されると、出力部材が再びロックされてしまう。本例では、係合子35に、入力部材32に入力された回転トルクを出力部材33に伝達する機能と、出力部材33に逆入力された回転トルクを遮断する機能との両方の機能を持たせているため、このような不都合が生じることを防止できる。
【0074】
また、入力部材32から係合子35に作用する力の向きと、出力部材33から係合子35に作用する力の向きとを逆向きにしているため、両方の力の大小関係を規制することで、係合子35の移動方向を制御できる。このため、出力部材33のロック又は半ロック状態とロック解除状態との切り替え動作を容易に(安定して確実に)行うことができる。したがって、特開2007-232095号公報、及び、特開2004-084918号公報に記載された従来構造の逆入力遮断クラッチのように、くさび形空間の径方向に関する幅の狭い部分に転動体が噛み込まれたままとなり、ロックが解除されなくなる、といった不都合が生じることを防止できる。
【0075】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図13を用いて説明する。
本例のステアバイワイヤ式操舵装置では、アクチュエータ2aを構成する逆入力遮断クラッチ1の設置箇所が、実施の形態の第1例と異なる。
【0076】
本例では、逆入力遮断クラッチ1は、減速機構24とラックアンドピニオン機構25との間に設置されている。すなわち、本例では、電動モータ23の駆動軸26は、減速機構24の入力部に接続されており、減速機構24の出力部は、逆入力遮断クラッチ1の入力部材32に接続されており、逆入力遮断クラッチ1の出力部材33は、ラックアンドピニオン機構25のピニオン軸27に接続されている。
【0077】
本例のステアバイワイヤ式操舵装置では、転舵輪5側から逆入力される回転トルクは、その少なくとも一部が、減速機構24に伝達される前に逆入力遮断クラッチ1によって遮断される。このため、逆入力される回転トルクから減速機構24を保護する、すなわち、歯車同士の噛合などにおけるフレッチングを防止又は抑制することができる。
その他の構成及び作用は、実施の形態の第1例と同様である。
【0078】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、図14を用いて説明する。
本例のステアバイワイヤ式操舵装置では、アクチュエータ2bを構成する回転直動変換機構として、ラックアンドピニオン機構25(図1参照)に代えて、ボールねじ機構52を採用している点が、実施の形態の第1例と異なる。
【0079】
ボールねじ機構52は、ナット(ボールナット)53と、ねじ軸(ボールねじ軸)54と、複数のボール55とを含んで構成されたもので、ハウジング22内に収容されている。ナット53は、内周面に雌側螺旋溝56を有している。ねじ軸54は、軸方向中間部の外周面に雄側螺旋溝57を有している。複数のボール55は、雌側螺旋溝56と雄側螺旋溝57との間に螺旋状に配置されている。このようなボールねじ機構52は、ナット53とねじ軸54との相対回転運動を、ナット53とねじ軸54との相対直動運動(軸方向の相対移動運動)に変換可能である。また、ナット53には、雌側螺旋溝56と雄側螺旋溝57との間で移動する複数のボール55を循環させるための図示しない循環機構が設けられている。
【0080】
ボールねじ機構52は、ナット53及びねじ軸54の軸方向を車両の幅方向(図14の左右方向)に一致させた状態で、ハウジング22内に収容されている。この状態で、ナット53は、ハウジング22に対して回転のみ可能に支持されている。また、ねじ軸54は、ハウジング22に対して軸方向移動のみを可能に支持されている。すなわち、本例では、ナット53を回転側機構部材として機能させ、ねじ軸54を直動部材として機能させるようにしている。
【0081】
また、減速機構24の出力部は、ナット53に接続されている。このために、本例では、減速機構24の出力部である出力歯車70を、ナット53の外周部に同軸に固定している。また、1対のタイロッド15は、それぞれの基端部をねじ軸54の軸方向両端部に図示しない球面継手を介して結合されている。
【0082】
本例のステアバイワイヤ式操舵装置では、ステアリングホイール4(図1参照)の操作に伴い、制御装置12(図1参照)により制御される電動モータ23の駆動軸26が回転すると、この回転が、逆入力遮断クラッチ1と減速機構24とを介して、ナット53に伝達される。そして、ナット53の回転がねじ軸54の直動運動に変換されて、左右1対のタイロッド15が押し引きされることに基づき、左右1対の転舵輪5の転舵角δwが調節される。
【0083】
本例のステアバイワイヤ式操舵装置では、アクチュエータ2bを構成するボールねじ機構52のバックラッシュが、ラックアンドピニオン機構25(図1参照)のバックラッシュに比べて小さいため、その分、運転者の操舵感を良好にすることができる。また、本例では電動モータ23の出力をボールねじ機構52によっても減速できるため、電動モータ23側から入力された回転トルクを容易に大きな転舵力に変えることができる。したがって、その分、実施の形態の第1例の場合よりも、電動モータ23や減速機構24の小型化を図ることができる。
その他の構成及び作用は、実施の形態の第1例と同様である。
【0084】
[実施の形態の第4例]
実施の形態の第4例について、図15を用いて説明する。
本例のステアバイワイヤ式操舵装置では、左右1組の前輪である1対の転舵輪5のそれぞれに対して別々に、アクチュエータ2cが1つずつ設けられている。
【0085】
アクチュエータ2cのそれぞれは、実施の形態の第4例のアクチュエータ2bと同様の構成を有しているが、実施の形態の第4例のアクチュエータ2bよりも、ボールねじ機構52aを構成するねじ軸54aの軸方向長さが短くなっている。また、転舵輪5ごとのアクチュエータ2cは、車両の幅方向に並べて配置されている。そして、転舵輪5ごとのタイロッド15の基端部は、自身に近い側のアクチュエータ2cを構成するねじ軸54aの外端部に図示しない球面継手を介して結合されている。
【0086】
また、本例のステアバイワイヤ式操舵装置では、転舵輪5の転舵角δwを検出するための転舵角センサ11(図1参照、図15では図示省略)は、転舵輪5ごとに1つずつ設けられている。制御装置12(図1参照)は、1対の転舵輪5のそれぞれの転舵角δwの調節を、転舵輪5ごとの転舵角センサ11を利用して、転舵輪5ごとのアクチュエータ2cを制御することにより実行する。したがって、車両の挙動をより緻密に制御することができる。
その他の構成及び作用は、実施の形態の第1例と同様である。
【0087】
[実施の形態の第5例]
実施の形態の第5例について、図16を用いて説明する。
本例のステアバイワイヤ式操舵装置では、転舵輪5ごとのアクチュエータ2dのそれぞれに関して、ナット53を直動側機構部材として機能させ、ねじ軸54aを回転部材として機能させるようにしている点が、実施の形態の第4例と異なる。
【0088】
すなわち、本例では、ねじ軸54aは、ハウジング22に対して回転のみ可能に支持されている。ナット53は、ハウジング22に対して軸方向移動のみを可能に支持されている。減速機構24の出力部は、ねじ軸54aの軸方向内端部に接続されている。タイロッド15の基端部は、ナット53の軸方向外端部に、図示しない球面継手を介して結合されている。
【0089】
本例のステアバイワイヤ式操舵装置では、ステアリングホイール4(図1参照)の操作に伴い、制御装置12(図1参照)により制御される電動モータ23の駆動軸26が回転すると、この回転が、逆入力遮断クラッチ1と減速機構24とを介して、ねじ軸54aに伝達される。そして、ねじ軸54aの回転がナット53の直動運動に変換されて、タイロッド15が押し引きされることに基づき、転舵輪5の転舵角δwが調節される。
【0090】
本例のステアバイワイヤ式操舵装置では、転舵輪5の転舵角δwを調節する際には、ねじ軸54aが軸方向に移動せず、ナット53がねじ軸54aの周囲で軸方向に移動する。すなわち、車両の幅方向に関するボールねじ機構52aの動作範囲を小さくすることができる。したがって、その分、アクチュエータ2dの小型化を図れる。
その他の構成及び作用は、実施の形態の第4例と同様である。
【0091】
[実施の形態の第6例]
実施の形態の第6例について、図17を用いて説明する。
本例のステアバイワイヤ式操舵装置では、アクチュエータ2eを構成する逆入力遮断クラッチ1の設置箇所が、実施の形態の第5例と異なる。
【0092】
本例では、逆入力遮断クラッチ1は、減速機構24とボールねじ機構52aとの間に設置されている。すなわち、本例では、電動モータ23の駆動軸26は、減速機構24の入力部に接続されており、減速機構24の出力部は、逆入力遮断クラッチ1の入力部材32に接続されており、逆入力遮断クラッチ1の出力部材33は、ボールねじ機構52aのねじ軸54aに接続されている。
【0093】
本例のステアバイワイヤ式操舵装置でも、転舵輪5側から逆入力される回転トルクの少なくとも一部を逆入力遮断クラッチ1により遮断することで、逆入力される回転トルクから減速機構24を保護することができる。
その他の構成及び作用は、実施の形態の第5例と同様である。
【0094】
[実施の形態の第7例]
実施の形態の第7例について、図18及び図19を用いて説明する。
本例のステアバイワイヤ式操舵装置では、アクチュエータ2fを構成する電動モータ23aは、筒状に構成された、いわゆる中空モータであり、かつ、ナット53aの軸方向一方側(図18の左側部)の周囲に同軸に配置されている。すなわち、電動モータ23aは、円筒状の固定子58の径方向内側に円筒状の回転子59を同軸に配置した構成を有しており、固定子58及び回転子59が、ナット53aの軸方向一方側の周囲に同軸に配置されている。
【0095】
また、アクチュエータ2fを構成する逆入力遮断クラッチ1aは、ナット53aの軸方向他方側部(図18の右側部)の周囲に同軸に配置されている。すなわち、本例では、逆入力遮断クラッチ1aを構成する出力部材33aは、出力軸部を備えておらず、出力係合カム39を、ナット53aの軸方向他方側部の外周部に固定している。具体的には、出力係合カム39を、ナット53aの軸方向他方側部の外周部に一体形成している。なお、別体に造られた出力部材を、ナットに結合固定することもできる。また、この状態で、電動モータ23aを構成する回転子59に固定された円筒状の駆動軸26aと、逆入力遮断クラッチ1aを構成する入力部材32aとをトルク伝達可能に接続している。なお、該接続のために、駆動軸26aと入力部材32とを一体形成することもできる。
【0096】
本例のステアバイワイヤ式操舵装置では、電動モータ23aと逆入力遮断クラッチ1とをナット53aの周囲に同軸に配置する構成を採用しているため、アクチュエータ2fをコンパクトに構成することができる。また、出力係合カム39をナット53aに固定しているため、出力係合カムを別部材を介してナットに接続する場合に比べて、逆入力遮断クラッチ1の回転方向のがたつきを小さくすることができ、電動モータ23aを駆動源とするアクチュエータ2fの制御精度を高めることができる。
その他の構成及び作用は、実施の形態の第3例と同様である。
【0097】
[実施の形態の第8例]
実施の形態の第8例について、図20を用いて説明する。
本例のステアバイワイヤ式操舵装置では、アクチュエータ2gを構成する電動モータ23は、ナット53aに対して非同軸に配置されている。電動モータ23の駆動軸26は、減速機構24の入力部に接続されており、減速機構24の出力部は、逆入力遮断クラッチ1aの入力部材32aに接続されている。
【0098】
本例のステアバイワイヤ式操舵装置では、電動モータ23がナット53aとは別軸に配置されているため、電動モータ23として、安価な汎用品を使用することができる。
その他の構成及び作用は、実施の形態の第7例と同様である。
【0099】
[実施の形態の第9例]
実施の形態の第9例について、図21及び図22を用いて説明する。
本例では、逆入力遮断クラッチ1bの構造を工夫している。
【0100】
本例では、1対の係合子35aのそれぞれの遠近方向外側面は、周方向に離隔した2個所部分が被押圧面40に対して押し付けられる押圧面41aになっており、これらの押圧面41a同士の間に挟まれた周方向中間部が被押圧面40に対して押し付けられない平坦面になっている。押圧面41aのそれぞれは、被押圧面40の曲率半径よりも小さな曲率半径を有する円筒面状の凸面である。このような構成を有する本例では、出力部材33bに回転トルクが逆入力され、出力係合カム39aにより係合子35aが被押圧面40に押し付けられる際に、くさび効果が発生して、被押圧面40と押圧面41aとの摩擦係合力を大きくすることができる。このため、係合子35aに作用するブレーキトルクT´を大きくすることができる。したがって、必要なブレーキトルクT´を得るための逆入力遮断クラッチ1bの径寸法を小さくすることができる。
【0101】
また、本例では、1対の係合子35aのそれぞれの底面42aの幅方向中央部に、出力係合カム39aを遠近方向両側から挟み込むための、遠近方向外方に凹んだ出力係合凹部44(図3参照)が設けられていない。底面42aの幅方向中央部は、その幅方向両側に隣接する部分と同一の仮想平面内に存在する、平坦面状の出力係合面51になっている。
【0102】
また、本例では、1対の係合子35aのそれぞれは、底面42aの幅方向中央部と入力係合孔43の内面(入力係合面50)とに開口する、遠近方向に形成されたガイド孔62を有している。また、出力係合カム39aは、出力係合カム39aの中心を通り、かつ、出力係合カム39aを短軸方向に貫通する挿通孔63を有している。そして、1対の係合子35aのそれぞれのガイド孔62に、ガイド部材であるガイド軸64の軸方向両端部が、径方向のがたつきなく、かつ、軸方向移動を可能に挿入されていると共に、出力係合カム39aの挿通孔63に、ガイド軸64の軸方向中間部が緩く挿通されている。このような構成を有する本例では、1対の係合子35aのそれぞれのガイド孔62とガイド軸64とにより構成されるガイド機構により、1対の係合子35aが互いに幅方向に相対移動したり、1対の出力係合面51が非平行になるように1対の係合子35aが互いに傾くことを防止し、1対の係合子35aが遠近方向に相対移動することのみを許容する。
【0103】
また、本例では、1対の係合子35aのそれぞれの底面42aの幅方向両側部に、底面42aに対して垂直方向に凹入した、円柱状のガイド凹部60が設けられている。そして、1対の係合子35aのそれぞれの底面42aを互いに対向させた状態で、同一直線上に存在する1対のガイド凹部60の内側に、これら1対のガイド凹部60に架け渡すように、弾性部材であるコイル状のばね61を配置している。そして、1対のばね61の弾力を利用して、1対の係合子35aを、被押圧面40に向けてそれぞれ付勢している。このような構成を有する本例では、1対の係合子35aのそれぞれの姿勢を同期させつつ安定させることで、1対の係合子35aの遠近方向移動を正確に行わせることができる。
その他の構成及び作用は、実施の形態の第1例と同様である。
【0104】
[実施の形態の第10例]
実施の形態の第10例について、図23を用いて説明する。
本例では、逆入力遮断クラッチ1cは、出力係合カム39aの挿通孔63の内周面と、ガイド軸64の軸方向中間部の外周面との間にも、1対の係合子35bを被押圧面40に向けて付勢するためのコイル状のばね61を備えている。また、1対の係合子35bのそれぞれの遠近方向外側面は、実施の形態の第1例と同様の押圧面41になっている。また、1対の係合子35bのそれぞれの底面42の幅方向中央部に、出力係合凹部44が設けられている。
その他の構成及び作用は、実施の形態の第9例と同様である。
【0105】
上述した実施の形態の各例の構造は、技術的な矛盾が生じない範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
たとえば、回転直動伝達機構としてラックアンドピニオン機構を使用している実施の形態では、ラックアンドピニオン機構に代えて、ボールねじ機構や、図24に例示するような滑りねじ機構65や、図25に例示するような遊星ローラねじ機構71を使用することができ、又、回転直動伝達機構としてボールねじ機構を使用している実施の形態では、ボールねじ機構に代えて、ラックアンドピニオン機構や、図24に例示するような滑りねじ機構65や、図25に例示するような遊星ローラねじ機構71を使用することができる。
【0106】
図24に例示した滑りねじ機構65は、ナット(滑りナット)66と、ねじ軸(滑りねじ軸)67とを備えている。ナット66は、内周面に雌ねじ部68を有している。ねじ軸67は、外周面に雄ねじ部69を有している。そして、雌ねじ部68と雄ねじ部69とを螺合させている。このような滑りねじ機構65は、ナット66とねじ軸67との相対回転運動が、ナット66とねじ軸67との相対直動運動に変換される。そして、ナット66とねじ軸67とのうち、一方を回転部材として使用し、他方を直動部材として使用することができる。
【0107】
図25に例示した遊星ローラねじ機構71は、ねじ軸72と、ナット73と、複数の遊星ローラ74と、2つのリングギヤ75と、2つの保持器76とを備えている。
【0108】
ねじ軸72は、外周面に雄ねじ部77を有している。ナット73は、軸方向中間部内周面に雌ねじ部78を有しており、ねじ軸72の周囲にねじ軸72と同軸に配置されている。遊星ローラ74のそれぞれは、軸方向中間部外周面にローラねじ部79を有し、かつ、軸方向両端寄り部外周面のそれぞれにギヤ部80を有している。遊星ローラ74は、それぞれがねじ軸72と平行に配置され、かつ、ねじ軸72の外周面とナット73の内周面との間に、周方向に関して等間隔に配置されている。遊星ローラ74のそれぞれのローラねじ部79は、雄ねじ部77及び雌ねじ部78の双方に対して噛み合っている。
【0109】
リングギヤ75のそれぞれは、円環形状を有し、かつ、内周面にギヤ部81を有している。リングギヤ75は、ナット73の軸方向両端寄り部に1つずつ内嵌固定されている。リングギヤ75のそれぞれのギヤ部81は、遊星ローラ74のそれぞれの軸方向両端寄り部に存在するギヤ部80と噛み合っている。保持器76のそれぞれは、円環形状を有し、かつ、周方向等間隔となる複数箇所に軸方向の支持孔82を有している。保持器76は、ねじ軸72の外周面とナット73の軸方向両端部内周面との間に1つずつ配置されている。保持器76のそれぞれの支持孔82には、遊星ローラ74の軸方向両端部が回転自在に挿通されている。保持器76のそれぞれは、ねじ軸72及びナット73の双方に対する回転を自在とされ、かつ、ナット73に対する軸方向の変位を阻止されている。
【0110】
このような遊星ローラねじ機構71は、ねじ軸72とナット73とが相対回転運動をすると、遊星ローラ74がねじ軸72とナット73との間で自転しつつ公転することに基づいて、ねじ軸72とナット73とが相対直動運動をする。そして、ねじ軸72とナット73とのうち、一方を回転部材として使用し、他方を直動部材として使用することができる。
【0111】
なお、上述した遊星ローラねじ機構71では、2つの保持器76のそれぞれが、ナット73に対して軸方向の変位を阻止されていることにより、遊星ローラ74のそれぞれが、ナット73に対して軸方向の変位を阻止されている。ただし、遊星ローラねじ機構に関しては、2つの保持器のそれぞれが、ねじ軸に対して軸方向の変位を阻止されていることにより、遊星ローラのそれぞれが、ねじ軸に対して軸方向の変位を阻止されている構成を採用することもできる。この場合には、2つのリングギヤをねじ軸に固定し、かつ、2つのリングギヤの外周面にギヤ部を設ける。
【0112】
上述した実施の形態の各例の構造のうち、アクチュエータに減速機構を組み込んだものについては、該減速機構を省略したり、該減速機構の設置箇所を変えたりすることができる。
上述した実施の形態の各例の構造のうち、アクチュエータに減速機構を組み込んでいないものについては、該減速機構を適宜の箇所に組み込むことができる。
【0113】
上述した実施の形態の各例では、ステアバイワイヤ式操舵装置によって転舵角を調節する転舵輪を、左右1組の前輪としているが、該転舵輪を、左右1組の前輪に代えて、左右1組の後輪とすることもできる。また、該転舵輪を、左右1組の前輪と左右1組の後輪との双方とし、左右1組の後輪に対しても、実施の形態の各例で示したような転舵用のアクチュエータを設けることができる。
【0114】
また、ステアバイワイヤ式操舵装置によって転舵角を調節する転舵輪を、前輪と後輪とのうちの何れか一方の車輪のみとする場合には、前輪と後輪とのうちの他方の車輪は、ステアリングホイールと機械的に接続された一般的なステアリング装置(たとえば電動式パワーステアリング装置)によって、その転舵角を調節する構成を採用することもできる。
【0115】
また、本発明を実施する場合には、逆入力遮断クラッチを構成する、入力部材、出力部材、被押圧部材、及び係合子の材質は、特に問わない。たとえば、これらの材質としては、鉄合金、銅合金、アルミニウム合金などの金属のほか、必要に応じて強化繊維を混入した合成樹脂などでも良い。また、入力部材、出力部材、被押圧部材、及び係合子のそれぞれで、同じ材質にしても良いし、異なる材質にしても良い。たとえば、ロック又は半ロック状態と解除状態との切り換え性などを向上させるために、入力部材、出力部材、及び被押圧部材と係合子との間で硬さや弾性などを異ならせることもできる。
また、出力部材に回転トルクが逆入力した場合に、出力部材がロック又は半ロックする条件さえ満たせば、入力部材、出力部材、被押圧部材、及び係合子が相互に接触する部分に、潤滑剤を介在させることもできる。このために、たとえば、入力部材、出力部材、被押圧部材、及び係合子のうちの少なくとも1つの部材を含油メタル製とすることもできる。
【0116】
本発明のアクチュエータは、自動車に限らず、建機、船舶などの各種輸送機器に搭載するステアバイワイヤ式操舵装置にも適用可能である。
【0117】
また、本発明のアクチュエータは、ステアバイワイヤ式操舵装置に限らず、たとえば、ジャッキ、工作機械の移動テーブル、プレス装置の金型支持台、スライドドア、マニュアルトランスミッションのクラッチ装置やシフトレバー装置、介護用ベッド、CTスキャナなどの各種機械装置に組み込んで使用することができる。
【符号の説明】
【0118】
1、1a~1c 逆入力遮断クラッチ
2、2a~2g アクチュエータ
3 ステアバイワイヤ式操舵装置
4 ステアリングホイール
5 転舵輪
6 操舵シャフト
7 反力付加装置
8 弾性部材
9 操舵角センサ
10 トルクセンサ
11 転舵角センサ
12 制御装置
13 第1駆動回路
14 第2駆動回路
15 タイロッド
16 車速センサ
17 アクセル操作量センサ
18 ブレーキ操作量センサ
19 上下加速度センサ
20 横加速度センサ
21 ヨーレートセンサ
22 ハウジング
23、23a 電動モータ
24 減速機構
25 ラックアンドピニオン機構
26、26a 駆動軸
27 ピニオン軸
28 ラック軸
29 ピニオン歯
30 ラック歯
31 ナックルアーム
32、32a 入力部材
33、33a、33b 出力部材
34 被押圧部材
35、35a、35b 係合子
36 入力軸部
37 入力係合凸部
38 出力軸部
39、39a 出力係合カム
40 被押圧面
41、41a 押圧面
42 底面
43 入力係合孔
44 出力係合凹部
45 クラッチ保持部
46a、46b 大径部
47 小径部
48a、48b 転がり軸受
49 凹凸面部
50 入力係合面
51 出力係合面
52、52a ボールねじ機構
53、53a ナット
54、54a ねじ軸
55 ボール
56 雌側螺旋溝
57 雄側螺旋溝
58 固定子
59 回転子
60 ガイド凹部
61 ばね
62 ガイド孔
63 挿通孔
64 ガイド軸
65 滑りねじ機構
66 ナット
67 ねじ軸
68 雌ねじ部
69 雄ねじ部
70 出力歯車
71 遊星ローラねじ機構
72 ねじ軸
73 ナット
74 遊星ローラ
75 リングギヤ
76 保持器
77 雄ねじ部
78 雌ねじ部
79 ローラねじ部
80 ギヤ部
81 ギヤ部
82 支持孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25