(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】研削装置
(51)【国際特許分類】
B24B 41/04 20060101AFI20220405BHJP
B24B 5/00 20060101ALI20220405BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
B24B41/04
B24B5/00 Z
B24B49/10
(21)【出願番号】P 2018097273
(22)【出願日】2018-05-21
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】金箱 孝則
(72)【発明者】
【氏名】近藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】小林 久修
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-254303(JP,A)
【文献】特開2011-143503(JP,A)
【文献】特開2006-239854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 41/00-41/06
B24B 5/00- 5/50
B24B 49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物を回転駆動する主軸台と、
案内面を有する固定体と、
砥石を回転駆動すると共に前記案内面に対向する摺動面を有する砥石台と、
前記案内面と前記摺動面との間に流体を供給する流体供給部と、
前記固定体に対して前記流体を介して摺動可能に支持される前記砥石台を、前記主軸台に対して案内方向に沿って相対移動させる駆動部と、を備え、
前記工作物と前記砥石とをそれぞれ回転させながら前記工作物に対して前記砥石を相対移動させることによって、前記工作物を研削する研削装置において、
前記案内面及び前記摺動面の少なくとも一方には、複数の静圧ポケットが配置され、前記流体供給部から前記各静圧ポケットへ前記流体を供給して前記砥石台を摺動支持する静圧支持構造を有し、
前記砥石の上下方向の振動量を測定する振動量センサと、
前記流体供給部から前記各静圧ポケットへ供給される前記流体の流量を可変する流量可変部と、
前記振動量センサによって測定される前記砥石の上下方向振動量を低減させるように、前記流量可変部を制御して前記各静圧ポケットへの前記流体の流量を調整する制御部、を備える研削装置。
【請求項2】
前記砥石の位相を検知する位相センサを備え、
前記制御部は、前記位相センサの出力と前記振動量センサの出力とに基づいて、前記砥石のアンバランス位相及びアンバランス量を算出するアンバランス算出部を有し、前記アンバランス算出部によって算出された前記アンバランス位相及び前記アンバランス量と前記砥石の位相とに基づいて、前記流量可変部を制御する、請求項1に記載の研削装置。
【請求項3】
前記振動量センサは、前記砥石の上下方向の変位を測定する変位センサである、請求項1又は2に記載の研削装置。
【請求項4】
前記変位センサは、前記砥石を支持する砥石軸の上下方向変位を測定する砥石軸センサ、及び前記各静圧ポケットの近傍に設けられて前記摺動面の前記案内面からの上下方向変位を測定する浮き上がりセンサの少なくとも一方を含む、請求項3に記載の研削装置。
【請求項5】
前記変位センサは、前記砥石を支持する砥石軸の上下方向変位を測定する砥石軸センサ、及び前記各静圧ポケットの近傍に設けられて前記摺動面の前記案内面からの上下方向変位を測定する浮き上がりセンサの両方を含む、請求項3に記載の研削装置。
【請求項6】
前記流量可変部は、前記流体供給部から前記各静圧ポケットに至る前記流体の流路上に介装され、弁の開度を変更可能に構成された電磁可変絞り弁である、請求項1乃至5の何れか一項に記載の研削装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記各静圧ポケットに対応する前記電磁可変絞り弁を選択的に制御する、請求項6に記載の研削装置。
【請求項8】
前記制御部は、工作物に対する加工動作の開始前に、前記流量可変部による前記各静圧ポケットに対する流量調整パターンを決定し、その流量調整パターンに基づいて前記流量可変部を制御しつつ前記加工動作を行う、請求項1乃至7の何れか一項に記載の研削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、研削加工に用いられる砥石には、質量のアンバランスが存在する。このため、研削装置で砥石を高速回転させた場合、砥石の質量アンバランスに起因する振動により、加工品質が悪化したり、装置が故障したりすることが知られている。そこで、従来、砥石のバランスをとるために、砥石のアンバランスの方向および大きさを測定し、この測定結果に基づいて、砥石におもりを適宜付加することが行われている。
【0003】
さらに、砥石の内部におもりとこのおもりを移動させるモータなどの移動機構を備えるオートバランサを取付けることでバランスをとる装置が提案されている(例えば、特許文献1等参照。)。上述した砥石におもりを取り付ける方法では、バランス測定用の測定器を必要とする上、さらに高精度にバランスをとるには多くの経験が必要なので自動化が困難という問題があるが、オートバランサを用いた装置では、アンバランス振動を自動的に抑制することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したオートバランサを用いた従来技術においては、砥石軸にオートバランサを取り付ける構造であり、取り付け場所の確保が必要になったり、重量が大きくなったりするため、砥石軸の小型化・軽量化の妨げとなるという問題がある。さらに、オートバランサによるバランス修正では、修正質量の位置決め分解能以下の振動抑制はできないという問題もある。
【0006】
本発明は、静圧支持構造を利用した簡単な構成で振動を抑制可能な研削装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の研削装置は、工作物を回転駆動する主軸台と、案内面を有する固定体と、砥石を回転駆動すると共に前記案内面に対向する摺動面を有する砥石台と、前記案内面と前記摺動面との間に流体を供給する流体供給部と、前記固定体に対して前記流体を介して摺動可能に支持される前記砥石台を、前記主軸台に対して案内方向に沿って相対移動させる駆動部と、を備え、前記工作物と前記砥石とをそれぞれ回転させながら前記工作物に対して前記砥石を相対移動させることによって、前記工作物を研削する。
【0008】
さらに、研削装置は、前記摺動面には、複数の静圧ポケットが配置され、前記流体供給部から前記各静圧ポケットへ前記流体を供給して前記砥石台を摺動支持する静圧支持構造を有し、前記砥石の上下方向の振動量を測定する振動量センサと、前記流体供給部から前記各静圧ポケットへ供給される前記流体の流量を可変する流量可変部と、前記振動量センサによって測定される前記砥石の上下方向振動量を低減させるように、前記流量可変部を制御して前記各静圧ポケットへの前記流体の流量を調整する制御部、を備える。
【0009】
この構成によれば、摺動面に複数の静圧ポケットが配置され、流体供給部から各静圧ポケットへ流体を供給して砥石台を摺動支持する静圧支持構造において、制御部が流量可変部を制御して各静圧ポケットへの流体の流量を調整することにより、振動量センサによって測定される砥石の上下方向振動量を低減させる。よって、静圧支持構造を利用した簡単な構成で振動を抑制することができるという効果を奏する。特に、オートバランサを用いた従来構成と比較して、装置の小型化・軽量化を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実施形態に係る研削装置の静圧支持構造を示す一部断面側面図である。
【
図3】実施形態に係る静圧ポケットと電磁可変絞り弁の配置を模式的に示す砥石台の平面図である。
【
図4】実施形態に係る電磁可変絞り弁及び砥石台の静圧ポケット周辺を示す断面図である。
【
図5】実施形態に係る研削装置における動作の流れを示すフローチャートである。
【
図6】砥石のアンバランス位相及びアンバランス量を説明するための説明図である。
【
図7】浮き上がり量の変動及び流量調整パターンの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した研削装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0012】
<実施形態>
(1.研削装置1の全体構成)
本実施形態の研削装置1は、
図1に示すように、ベッド10、テーブル11、主軸台13、心押台17、制御部30、砥石支持装置40、ポンプ50等を備えて構成される円筒研削盤である。
【0013】
ベッド10上には、テーブル11がZ軸サーボモータ12によってZ軸方向(
図1の左右方向)に移動可能に案内支持される。テーブル11上には、マスタ主軸Cmを回転可能に軸支する主軸台13が設置され、マスタ主軸Cmの先端に工作物Wの一端を支持するセンタ14が取付けられる。マスタ主軸Cmは、進退駆動装置15によって軸線方向に所定量進退されるとともに、マスタサーボモータ16によって回転駆動される。
【0014】
さらに、テーブル11上には、主軸台13と対向する位置に心押台17が設置される。この心押台17には、マスタ主軸Cmと同軸上にスレーブ主軸Csが回転可能に軸支され、スレーブ主軸Csの先端に工作物Wの他端を支持するセンタ18が取付けられる。スレーブ主軸Csは、センタ加圧制御用のサーボモータ19によって軸線方向に進退されるとともに、スレーブサーボモータ20によってマスタ主軸Cmと同期して回転駆動される。
【0015】
また、ベッド10上のテーブル11の後方位置には、砥石支持装置40が設けられている。砥石支持装置40は、ベース41と、砥石台42と、円板状の砥石43と、砥石回転用モータ44等とを備えている。ベース41は、矩形の平板状に形成されており、ベッド10の上面に配置されている。
【0016】
このベース41の上面には、砥石台42が摺動可能な一対のX軸ガイドレール41aが、X軸方向に延びるように、且つ、相互に平行に配置固定されている。本明細書では、一対のX軸ガイドレール41aの各々を区別する必要がある場合、砥石43に近い側を第1列X軸ガイドレール41a-1、遠い側を第2列X軸ガイドレール41a-2のように枝番を付すこととする。第1列X軸ガイドレール41a-1は、水平方向に延びる上面をなす第1水平案内面41h-1と、鉛直方向に延びる内側面をなす第1鉛直案内面41v-1とを有している。同様に、第2列X軸ガイドレール41a-2は、水平方向に延びる上面をなす第2水平案内面41h-2と、鉛直方向に延びる内側面をなす第2鉛直案内面41v-2とを有している。尚、第1水平案内面41h-1と第2水平案内面41h-2とは、両者を区別する必要がない場合、枝番を省略して水平案内面41hとも記すこととする。同様に、第1鉛直案内面41v-1と第2鉛直案内面41v-2とは、枝番を省略して鉛直案内面41vとも記すこととする。
【0017】
さらに、ベース41の上面の一対のX軸ガイドレール41a間には、永久磁石板ユニット22bが配置されている。この永久磁石板ユニット22bと、砥石台42下面に取付けられた電磁コイルユニット22aとから、リニアモータ22が構成される。砥石台42は、リニアモータ22の駆動によって、一対のX軸ガイドレール41aに沿って、Z軸方向と直交するX軸方向(
図1の上下方向)に移動可能に案内支持される。リニアモータ22は、図略の読取ヘッドで読み取るリニアスケールの位置情報に基づいて動作制御される。
【0018】
この砥石台42には、砥石軸45がZ軸回りに回転可能に支持されている。そして、この砥石軸45の一端には、円板状の砥石43が同軸で取り付けられている。砥石台42には、砥石回転用モータ44が砥石軸45と同軸に固定されている。砥石43は、砥石回転用モータ44によって回転駆動される。また、砥石台42には、砥石軸45に対向して砥石軸センサ36が設けられている。砥石軸センサ36は、公知の距離センサであって、砥石軸45の変位を測定する変位センサとして機能するものである。さらに、砥石台42には、砥石軸45と同軸に砥石軸45の回転角を絶対値検出できる位相センサ37を設けることができ、位相センサ37として例えば、非接触である光学式のエンコーダやポテンショメータを用いることができる。
【0019】
(2.静圧支持構造Aの機械的構成)
静圧支持構造Aは、
図1、
図2に示すように、制御部30と、固定体としてのベース41及び移動体としての砥石台42を有する砥石支持装置40と、流体供給部としてのポンプ50と、流体の流路を固定の開口面積に絞る固定絞り弁69と、流量可変部としての電磁可変絞り弁60とを備えて構成され、砥石台42をベース41に対して流体である潤滑油を介して摺動可能に支持する機構である。
【0020】
砥石台42は、
図2、
図3に示すように、ベース41上面に設けられた一対のX軸ガイドレール41aの上面である第1、第2水平案内面41h-1,41h-2にそれぞれ対向する第1、第2水平摺動面42h-1、42h-2と、一対のX軸ガイドレール41aの内側面である第1、第2鉛直案内面41v-1、41v-2にそれぞれ対向する第1、第2鉛直摺動面42v-1、42v-2とを備えている。各摺動面42h-1、42h-2、42v-1、42v-2には、X軸方向の両端近傍にそれぞれ凹状の静圧ポケット42pが1つずつ形成されており、各静圧ポケット42pの凹状底部には流体の流出口42oが設けられている。流出口42oには流体通路が連通しており、固定絞り弁69又は電磁可変絞り弁60から供給される流体を静圧ポケット42p内に流出させるようになっている。
【0021】
また、水平摺動面42hに配置される静圧ポケット42p-1、42p-3、42p-5、42p-7の近傍には浮き上がりセンサ35がそれぞれ設けられている。浮き上がりセンサ35は、公知の距離センサであって、水平摺動面42hと水平案内面41hとの間の距離L、換言すれば、水平摺動面42hの水平案内面41hからの浮き上がり量Lの変位を測定する変位センサとして機能するものである。尚、各静圧ポケット42pを区別する必要がある場合、静圧ポケット42p-1~42p-8のように枝番を付すこととする。
【0022】
静圧ポケット42pに至る流体の通路を形成する流路53は、ポンプ50と静圧ポケット42pとの間を連通している。流路53はポンプ50に通じる共通流路53aと、共通流路53から静圧ポケット42p毎に分岐され、各静圧ポケット42pに通じる分岐流路53b,53c,53d,53e,53f,53g,53h,53iとからなる。水平摺動面42hに配置される静圧ポケット42p-1、42p-3、42p-5、42p-7に至る分岐流路53b、53f、53e、53iの途中には、電磁可変絞り弁60がそれぞれ介装されている。また、鉛直摺動面42vに配置される静圧ポケット42p-2、42p-4、42p-6、42p-8に至る分岐流路53c、53g、53d、53hの途中には、固定絞り弁69がそれぞれ介装されている。
【0023】
電磁可変絞り弁60は、制御部30と電気的に接続されており、制御部30により絞りの開度Dが制御される可変絞りとなっている。電磁可変絞り弁60は、制御部30の指令に応じて絞りの開度Dを変えて、各静圧ポケット42pへの供給流量を変化させることができる。そして、各静圧ポケット42p-1、42p-3、42p-5、42p-7への供給流量を変化させることにより、水平案内面41hと水平摺動面42hとの間の隙間の大きさは、例えば、1μm~30μmの間で可変できる。
【0024】
(3.電磁可変絞り弁60の構成)
電磁可変絞り弁60は、
図4に示すように、ハウジング68内に、流路61、流入口61a,61b、流出口62、ダイアフラム63、流体供給室64a、流体貯留室64b、弁座65、ボイスコイルモータ70を有して構成されるダイアフラム式可変絞り装置である。
【0025】
ハウジング68の下部中央には、弁座65となる突起部が形成され、弁座65の周囲には、円環状に凹設された流体供給室64aが形成されている。この弁座65には静圧ポケット42pと連通する流路67が形成されている。ハウジング68の上部には、流体供給室64aに対向して流体貯留室64bが形成されている。流体供給室64aおよび流体貯留室64bには、それぞれ流路61と連通する流入口61a,61bが形成されている。流体供給室64aおよび流体貯留室64bは、流入口61a,61bから供給された流体が充填されて、供給された流体の圧力と等しくなっている。
【0026】
ダイアフラム63は、外周部が流体供給室64aと流体貯留室64bとの間に把持されて流体供給室64aと流体貯留室64bとの間を仕切るとともに、
図2の下方向の面が弁座65に所定の隙間を隔てて対向して配置されている。ダイアフラム63は、鋼材等からなる弾性部材であり、ダイアフラム63と弁座65で形成された隙間が、絞りの開度Dとなっている。流体供給室64aの流体は開度Dに絞られて静圧ポケット42pへ流出する。ダイアフラム63は、絞りの最小開度DLから最大開度DHまで変形させることが可能であり、最小開度DLから最大開度DHの中間位置を、無負荷状態での初期位置としている。
【0027】
ボイスコイルモータ70は、ハウジング68の上側部分に支持される固定子81と、固定子81に対し、
図4の上下方向に移動可能な可動子82とからなる。ボイスコイルモータ70は、ダイアフラム63を挟んで弁座65と反対側のハウジング68の上側部分の電磁可変絞り弁60本体に支持されている。
【0028】
固定子81は、円板状のヨーク基部76と、ヨーク基部76の外周部より円筒状に設けられた外部ヨーク75と、ヨーク基部76の中心部に円筒状に設けられたセンターヨーク77とから構成されている。このヨーク基部76、外部ヨーク75、センターヨーク77は、軟磁性材料からなり、磁束を良好に通すように構成されている。
【0029】
外部ヨーク75の内周側には、環状の永久磁石79が固定されている。この永久磁石79は、内周側をN極、外周側をS極として着磁されている。なお、この永久磁石79のN極とS極とを逆にしてもよい。
【0030】
可動子82は、円筒状をなすコイルボビン73と、コイルボビン73の外周に巻回されたボイスコイル71とから構成されている。ボイスコイル71は、センターヨーク77の外周に配置され、センターヨーク77とコイルボビン73との間は隙間を有しており、センターヨーク77とボイスコイル71との間は非接触となっている。
【0031】
コイルボビン73には、端部に円板状のコイルキャップ72が取り付けられている。コイルキャップ72には、軸方向に複数個の貫通孔74が形成されている。また、コイルキャップ72は、柱状の連結部材80を介してダイアフラム63と連結されている。コイルボビン73は軟磁性材料からなり、磁気を通しやすくしている。
【0032】
コイルキャップ72には、エンコーダーケース25の蓋部が取り付けられている。エンコーダーケース25の蓋部の内側には、エンコーダスケール28が固定されている。
【0033】
永久磁石79の内側のN極から出た磁束は、ボイスコイル71を通過してコイルボビン73、滑りガイド、センターヨーク77を通り、ヨーク基部76と外部ヨーク75を経由して永久磁石79の外側のS極に戻る。
【0034】
この磁気回路において、ボイスコイル71に対し電流を流すと、ボイスコイル71には、
図4の上下方向のいずれか一方の方向に推力が生じる。また、上記と逆向きの電流を流すことにより、
図4の上下方向のいずれか他方の方向に推力が生じる。
【0035】
このような構成によって、可動子82が上下方向に駆動され、可動子82に連結されたダイアフラム63が上下方向に変位する。ボイスコイルモータ70によるダイアフラム63の駆動は滑らかであり、ダイアフラム63の変形時において機械的振動が発生しにくい。
【0036】
そして、制御部30からの指令によりボイスコイルモータ70へ電流が印加されることによって、ダイアフラム63の位置が制御され、絞りの最小開度DLから最大開度DHまで可変される。摺動支持装置Aにおいて、ポンプ50により加圧された流体は、分岐流路53b~53iの途中に設けられた固定絞り弁69又は電磁可変絞り弁60により減圧され、静圧ポケット42pに流体を供給される。静圧ポケット42pに供給された流体により、案内面41v,41hと摺動面42v,42hの間に所定の厚さの流体膜が形成され、摺動面42v,42hが支持される。流体膜は動的に形成された後、ドレンへ排出されることを繰り返すことにより維持されている。
【0037】
(4.研削装置1における制御処理の流れ)
次に、制御部30によって実行される研削装置1における制御処理の流れについて、
図5のフローチャートを参照しつつ説明する。
図5に示すように、制御部30は、ステップ1(以下、S1と略記する。他のステップも同様。)において、運転準備開始処理を行う。続いて、S2で運転準備完了か否かを判定する。運転準備完了でない場合(S2:No)、S2を繰り返す。運転準備完了の場合(S2:Yes)、S3でセンサ検出を行う。
【0038】
具体的には、S3のセンサ検出では、非接触式の光学式ロータリエンコーダ等によって構成される位相センサ37により砥石軸45の回転位相を検出する。また、静圧ポケット42p-1、42p-3、42p-5、42p-7近傍に設けられた距離センサである浮き上がりセンサ35により各部の水平摺動面42hの水平案内面42vからの変位(浮き上がり量の変化)を検出する。さらに、砥石軸45に対向して設けられた距離センサである砥石軸センサ36により砥石軸45の変位を検出する。
【0039】
続いて、S4でアンバランス位相及びアンバランス量の算出を行う。すなわち、位相センサ37の検出結果と砥石軸センサ36の検出結果とに基づいて、砥石のアンバランス位相及びアンバランス量を算出する。ここで、アンバランス位相及びアンバランス量について、
図6を参照しつつ説明する。砥石軸45は、砥石43の質量アンバランスに起因して回転にアンバランスが生じる。
図6のグラフは、位相センサ37によって検出される砥石軸45の位相を横軸とし、砥石軸センサ36によって測定される砥石43の上下方向変位を縦軸で表している。砥石軸センサ36の出力は、0°~360°までの位相に応じて最大と最小の間で変位する。アンバランス位相θは、砥石軸センサ36の出力が最大値を示すときの位相であり、出力の最大と最小との差Δをアンバランス量と呼ぶ。
【0040】
次に、S5でアンバランス量Δが許容範囲内か否かを判定する。すなわち、アンバランス量Δが、砥石軸センサ36の出力の目標値を中心とする許容範囲の上限と下限との範囲内か否かを判定する。許容範囲内でない場合(S6)、S6で流量調整パターンの更新を行う。
【0041】
S6の流量調整パターンの更新では、静圧ポケット42p-1、42p-3、42p-5、42p-7のそれぞれについて、浮き上がりセンサ35の検出結果に基づいて浮き上がり量の変位を打ち消すべく、アンバランス位相θ°において流量を所定量減少させ且つアンバランス位相θ+180°で所定量増大させる流量調整パターンを更新して電磁可変絞り弁60を制御する。
【0042】
ここで、静圧ポケット42pの流量調整による振動抑制の一例について、
図7を参照しつつ説明する。
図7の上のグラフは浮き上がりセンサ35の出力を縦軸とし且つ砥石軸45の位相を横軸としており、流量調整前のセンサ出力を細実線で示し、流量調整後のセンサ出力を太実線で示している。一方、
図7の下のグラフは、電磁可変絞り弁60から静圧ポケット42pへ供給される流体の流量を縦軸とし且つ砥石軸45の位相を横軸としており、調整前の流量を細実線で示し、調整後の流量、すなわち流量調整パターンを太実線で示している。
【0043】
図7の下のグラフで細実線にて示すように流量調整前に静圧ポケット42pへの流量が一定であるとき、上のグラフで細実線にて示すように浮き上がりセンサ35の出力は大きく変動し、増大時は許容範囲上限を上回り、減少時は許容範囲下限を下回っている。このような初期状態に対し、電磁可変絞り弁60の制御により、
図7の下のグラフにおいて太実線で示す流量調整パターンに基づいて、浮き上がりセンサ35の出力増大のタイミングで流量を減少させ、出力減少のタイミングで流量を増大させる。これにより、
図7の上のグラフで太実線にて示すように、浮き上がりセンサ35の出力変動は縮小して許容範囲の上限と下限との範囲内に収まる。つまり、砥石43の振動が抑制されることになる。
【0044】
そして、S3へ戻って、再度、S3のセンサ検出とS4のアンバランス位相及びアンバランス量算出を行い、アンバランス量Δが許容範囲内にならなかった場合(S5:No)、再び、S6で流量調整パターンの更新を行う。例えば、流量調整パターンにおける流量の増減量を変更したり、位相を所定角度ずらしたりする。
【0045】
S5でアンバランス量Δが許容範囲内になった場合(S5:Yes)、S7で流量調整パターンの決定を行う。すなわち、現在の流量調整パターンの内容を、次に実行される加工動作で実施する流量調整パターンの内容として決定する。
【0046】
次に、S8で加工開始か否かを判定する。加工開始の場合(S8:Yes)、すなわち、加工開始を指示するボタン操作が行われている場合、S9で工作物の加工を実行する。S9では、S7で決定された流量調整パターンに基づいて各電磁可変絞り弁60を制御しつつ、工作物Wの加工を実行する。工作物Wの加工が終了すると、S3へ戻る。従って、次の工作物加工までの空き時間に、S3のセンサ検出からS7の流量調整の確定までが実施されることになる。
【0047】
一方、加工開始でない場合(S8:No)、S10で非常停止操作が行われたか否かを判定する。非常停止操作が行われなかった場合(S10:No)、S8へ戻る。非常停止操作が行われた場合(S10:Yes)、S11で非常停止動作を行い、本ルーチンを終了する。
【0048】
(5.まとめ)
研削装置1によれば、水平摺動面42hに複数の静圧ポケット42pが配置され、ポンプ50から各静圧ポケット42pへ流体を供給して砥石台42を摺動支持する静圧支持構造Aにおいて、制御部30が流量可変部としての電磁可変絞り弁60を制御して各静圧ポケット42pへの流体の流量を調整することにより、振動量センサとしての浮き上がりセンサ35及び砥石軸センサ36によって測定される砥石の上下方向振動量を低減させる。よって、静圧支持構造Aを利用した簡単な構成で振動を抑制することができるという効果を奏する。特に、オートバランサを用いた従来構成と比較して、装置の小型化・軽量化を図ることができるという効果を奏する。
【0049】
また、砥石43の位相を検知する位相センサ37を備え、制御部30は、位相センサ37の出力と変位センサである浮き上がりセンサ35及び砥石軸センサ36の出力とに基づいて、砥石43のアンバランス位相θ°及びアンバランス量Δを算出するアンバランス算出部としてのS6の処理を実行し、アンバランス位相θ°及びアンバランス量Δと砥石43の位相とに基づいて、電磁可変絞り弁60を制御する。よって、砥石43の質量アンバランスに起因する振動を打ち消すように、電磁可変絞り弁60を制御して各静圧ポケット42pへの流体の流量を調整することができる。
【0050】
また、砥石43の変位を測定する変位センサとして、砥石43を支持する砥石軸45の上下方向変位を測定する砥石軸センサ36を設けたので、アンバランスが生じる原因である砥石43の近くで振動を直接測定した結果を用いて、流量調整により振動の抑制を図ることができる。さらに、各静圧ポケット42p-1、42p-3、42p-5、42p-7の近傍に設けられて水平摺動面42hの水平案内面41hからの浮き上がり量の変位を測定する浮き上がりセンサ35を設けたので、流量調整の対象である各静圧ポケット42pの近傍で振動を測定した結果を用いて、各静圧ポケット42pに対応する電磁可変絞り弁60を選択的に制御して、振動を効果的に抑制することができる。
【0051】
また、制御部30は、工作物Wに対する加工動作の開始前に、各電磁可変絞り弁60による各静圧ポケット42pに対する流量調整パターンを決定し(S7)、その流量調整パターンに基づいて各電磁可変絞り弁60を制御しつつ加工動作を行う(S9)。よって、研削装置1における加工インターバルの時間を利用して振動抑制のための流量調整パターンを決定した上で、振動を抑制しつつ加工動作を実行することができる。
【0052】
<変形例>
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々に変更を施すことが可能である。
【0053】
前記実施形態における静圧ポケット42p及び電磁可変絞り弁60の個数や配置は一例であり、任意の個数や配置に変更して実施することが可能である。
【0054】
また、前記実施形態では、砥石43の上下方向変位を測定する変位センサとして、浮き上がりセンサ35と砥石軸センサ36の両方を設けた例を示したが、これには限られず、どちらか一方であっても構わない。また、砥石43の上下方向変位を測定する変位センサに代えて、加速度センサを用いる構成としてもよい。加速度センサでは出力を2回積分することにより、距離を算出することができる。要するに、砥石43の上下方向振動量を測定可能な振動量センサとして機能するものであればよい。
【符号の説明】
【0055】
22…リニアモータ(駆動部)、30…制御部、35…浮き上がりセンサ(振動量センサ、変位センサ)、36…砥石軸センサ(振動量センサ、変位センサ)、37…位相センサ、41…ベース(固定体)、41h…水平案内面(案内面)、42…砥石台、42h…水平摺動面(摺動面)、50…ポンプ(流体供給部)、53…流路、60…電磁可変絞り弁(流量可変部)、42p…静圧ポケット、S4…アンバランス算出部。