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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/87 20060101AFI20220405BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20220405BHJP
   C01B 32/963 20170101ALI20220405BHJP
   C01B 32/984 20170101ALI20220405BHJP
   C04B 35/84 20060101ALI20220405BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20220405BHJP
   C04B 35/80 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C04B41/87 G
C23C16/42
C01B32/963
C01B32/984
C04B35/84
C30B29/36
C04B35/80 600
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018106068
(22)【出願日】2018-06-01
(65)【公開番号】P2019210172
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】大塚 悠太
(72)【発明者】
【氏名】田中 康智
(72)【発明者】
【氏名】井上 飛怜
(72)【発明者】
【氏名】久保田 渉
(72)【発明者】
【氏名】石崎 雅人
(72)【発明者】
【氏名】福島 康之
(72)【発明者】
【氏名】松倉 いづみ
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-178443(JP,A)
【文献】特許第5906318(JP,B2)
【文献】特開2002-029846(JP,A)
【文献】中国実用新案第203200179(CN,U)
【文献】特開2014-47090(JP,A)
【文献】特開2015-137223(JP,A)
【文献】国際公開第2016/093360(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0130742(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0176990(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0319545(US,A1)
【文献】SUZUKI.K,NAKANO.K,CHOU T.W.,Fabrication and Characterization of 3D Carbon-fiber/SiC Composites by Slurry-Pulse CVI Joint Process,Key Engineering Materials,1999年,Vol.164-165,P.1-9
【文献】中川雅直,四塩化ケイ素の水素還元,工業化学雑誌,1959年,Vol.62 No.2,P.177-181
【文献】MELNYCHUK G et al.,Effect of HCl addition on gas-phase and surface reactions during homoepitaxial growth of SiC at low temparatures,journal of applied physics,2008年,VOl.104 No.053517,P.1~10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84,41/80-41/91
C23C 16/42
C01B 32/963
C01B 32/984
C30B 29/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材と、前記多孔質基材を構成する材料の表面上に形成された炭化ケイ素膜とを有する複合材料の製造方法であって、
固体状のSiにCl源のガスを接触させてSiCl またはSiClを含有するSi源のガスを生成させてから、前記SiClまたはSiClを含有するSi源のガスと、C原子を含有するC源のガスとを反応させて前記材料の表面上に炭化ケイ素膜を形成する、複合材料の製造方法。
【請求項2】
化学気相堆積法または化学気相含浸法を用いて前記反応により炭化ケイ素膜を形成する、請求項1に記載の複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記炭化ケイ素膜の膜形成の反応圧力を0.1~20Torr(13~2660Pa)とする、請求項1または2に記載の複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記C源が、CH、C、C、C、C、CおよびCClからなる群から選ばれる少なくとも1種の炭化水素である、請求項1~のいずれか一項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記多孔質基材が、複数の繊維を含む繊維基材である、請求項1~のいずれか一項に記載の複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記繊維が炭化ケイ素繊維である、請求項に記載の複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス基複合材料(CMC:Ceramic Matrix Composites)は、高強度の高温材料、軽量材料として知られ、ニッケル基合金の代替として期待されている。例えばCMCを航空用ジェットエンジンの高温部に適用することにより、エンジンの軽量化および低燃費化が期待できる。高温部への適用には、マトリックスとして耐熱性に優れる炭化ケイ素を用いることが有効である。
【0003】
CMCのような複合材料の製造方法としては、化学気相堆積(CVD)法又は化学気相含浸(CVI)法によって、繊維基材の各繊維の表面上に炭化ケイ素を堆積させて炭化ケイ素膜を形成する方法が知られている。特許文献1には、CHSiCl(MTS)、SiCl等の原料ガスと、H、He等のキャリアガスと、C、C等の添加ガスを反応炉に流し、CVD法又はCVI法により繊維の表面上に炭化ケイ素膜を形成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5906318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のような従来の方法においては、繊維基材への炭化ケイ素の含浸性が低いため、各繊維の表面上に形成する炭化ケイ素膜の均一性を確保するには、炭化ケイ素膜の成長速度を低くする必要がある。そのため、複合材料の製造には通常100~200時間程度を要し、生産性が低い。
【0006】
本発明は、繊維基材等の多孔質基材を構成する材料の表面上に形成される炭化ケイ素膜の均一性を確保しつつ、高い生産性で複合材料を製造できる複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]多孔質基材と、前記多孔質基材を構成する材料の表面上に形成された炭化ケイ素膜とを有する複合材料の製造方法であって、
SiClまたはSiClを含有するSi源のガスと、C原子を含有するC源のガスとを反応させて前記材料の表面上に炭化ケイ素膜を形成する、複合材料の製造方法。
[2]多孔質基材と、前記多孔質基材を構成する材料の表面上に形成された炭化ケイ素膜とを有する複合材料の製造方法であって、
Si原子を含有するSi源と、Cl原子を含有するCl源と、C原子を含有するC源とを反応させて前記材料の表面上に炭化ケイ素膜を形成する、複合材料の製造方法。
[3]前記Si源と前記Cl源とを接触させて生じた生成物を、前記C源のガスと反応させる、[2]に記載の複合材料の製造方法。
[4]前記生成物はSiClまたはSiClを含有するガスである、[3]に記載の複合材料の製造方法。
[5]前記Si源は固体状のSiであり、前記Cl源はClガスである、[2]~[4]のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
[6]化学気相堆積法または化学気相含浸法を用いて前記反応により炭化ケイ素膜を形成する、[1]~[5]のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
[7]前記炭化ケイ素膜の膜形成の反応圧力を0.1~20Torr(13~2660Pa)とする、[1]~[6]のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
[8]前記C源が、CH、C、C、C、C、CおよびCClからなる群から選ばれる少なくとも1種の炭化水素である、[1]~[7]のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
[9]前記多孔質基材が、複数の繊維を含む繊維基材である、[1]~[8]のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
[10]前記繊維が炭化ケイ素繊維である、[9]に記載の複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複合材料の製造方法によれば、繊維基材等の多孔質基材を構成する材料の表面上に形成される炭化ケイ素膜の均一性に優れ、高い生産性で複合材料を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の複合材料の製造方法に用いる製造装置の一例を示した模式図である。
図2】実施例1で得た複合材料の断面写真である。
図3】比較例1で得た複合材料の断面写真である。
図4】実施例2におけるHガスの流量と炭化ケイ素の含浸速度との相関を示した図である。
図5】実験例1における反応炉の温度と各ガスの分圧との相関を示した図である。
図6】実験例2におけるSi粉末の質量減少量のアレニウスプロットを示した図である。
図7】実験例2におけるSi粉末の質量減少量とClガスの投入量とのマスバランス変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の複合材料の製造方法は、多孔質基材と、前記多孔質基材を構成する材料の表面上に形成された炭化ケイ素膜(SiC膜)とを有する複合材料の製造方法である。本発明の複合材料の製造方法では、SiClまたはSiClを含有するSi源のガスと、C原子を含有するC源のガスとを反応させて前記材料の表面上に炭化ケイ素膜を形成する。
【0011】
本発明では、化学気相堆積(CVD)法又は化学気相含浸(CVI)法を用いて多孔質基材を構成する材料の表面上に炭化ケイ素膜を形成することが好ましい。
SiClまたはSiClを含有するSi源のガスは、例えば、Si原子を含有するSi源と、Cl原子を含有するCl源とを接触させることで得られる。
【0012】
以下、複合材料の製造方法の実施形態の一例について説明する。
本実施形態の複合材料の製造方法は、Si原子を含有するSi源と、Cl原子を含有するCl源と、C原子を含有するC源とを反応させて、多孔質基材を構成する材料の表面上に炭化ケイ素膜を形成する。
【0013】
多孔質基材を構成する材料としては、繊維、粉体等が挙げられる。多孔質基材を構成する材料は、繊維のみであってもよく、粉体のみであってもよく、繊維と粉体の混合材料であってもよい。
本発明の製造方法でCMCを製造する場合は、多孔質基材として、複数の繊維を含む繊維基材を用いる。繊維基材における繊維に粉体が付着したものでもよい。
【0014】
繊維としては、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、ガラス繊維等が挙げられる。繊維としては、耐熱性に優れる点から、炭化ケイ素繊維が好ましい。繊維としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
繊維基材の態様は、特に限定されず、例えば、織物が挙げられる。繊維基材には、複数の繊維が束ねられた繊維束を用いてもよく、繊維束を含まない繊維基材としてもよい。
繊維基材の形状は、特に限定されず、用途に応じて所望の形状とすることができる。
【0016】
多孔質基材を構成する粉体としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
本発明では、多孔質基材を構成する材料の表面上の炭化ケイ素膜の均一性と生産性を両立しやすい点から、Si源とCl源とを接触させ、それによって生じた生成物をC源のガスと反応させることが好ましい。ただし、Cl源と接触させるSi源は、Cl原子を含まない。Cl源は、Si原子やC原子を含んでいてもよい。
【0018】
Cl源としては、Clガス、SiClガス、MTSガス等のガスが挙げられる。Cl源としては、C原子を含まない(自由な量比でC源を別途供給できる)ことから、Clガスが好ましい。Cl源としては、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
Si源とCl源とを接触させて生じる生成物は、SiClまたはSiClを含有するガスであることが好ましい。このガスは、多孔質基材内の炭化ケイ素膜の膜形成におけるSi源のガスとして優れている。
SiClまたはSiClを含有するガスを生じさせる方法としては、固体状のSiにCl源のガスを接触させる方法が好ましい。固体状のSiのCl源のガスによるエッチングにより、SiClまたはSiClを含有するガスが生じる。SiClまたはSiClを含有するガスを生じさせる方法としては、固体状のSiにClガスを接触させる方法が特に好ましい。
【0020】
生成物であるSi源のガスは、SiClガスを含有し、SiClガスを含有しないガスであってもよく、SiClガスとSiClガスの両方を含有するガスであってもよい。生成物がSiClガスを含有する場合、熱力学理論上、そのガスはSiClガスも含有する。なお、SiClまたはSiClを含有するガスには、SiCl、SiCl等のSiClおよびSiCl以外のSi源のガスが含まれていてもよい。
なお、Cl源としてMTSを用いる場合、それらの生成物にMTSが僅かに残存することがあるが、Si源と接触後におけるMTSの残存量は少なく、本発明の効果は損なわれない。
【0021】
生成物がSiClを含有するガスである場合、ガスの全圧を1atm(0.1MPa)としたときのSiClガスの分圧は、適宜設定でき、例えば、各繊維の表面上の炭化ケイ素膜の均一性の確保と生産性を両立する観点で設定することができる。SiClガスの分圧は、熱力学理論値の上限としてもよい。
【0022】
生成物がSiClを含有するガスである場合、ガスの全圧を1atm(0.1MPa)としたときのSiClガスの分圧は、適宜設定でき、例えば、各繊維の表面上の炭化ケイ素膜の均一性の確保と生産性を両立する観点で設定することができる。SiClガスの分圧は、熱力学理論値の上限としてもよい。
【0023】
生成物のガス中のSiClやSiClの分圧は、Si源とCl源とを接触させる温度により調節できる。
【0024】
C源としては、CH、C、C、C、C、C、CCl等の炭化水素が挙げられる。C源としては、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
C源としては、CH、C、C、C、C、CおよびCClからなる群から選ばれる少なくとも1種の炭化水素が好ましい。
【0025】
本発明における炭化ケイ素膜の膜形成の反応には、必要に応じて、キャリアガスを使用してもよい。キャリアガスとしては、Hガス、Nガス、Heガス、Arガス等の膜形成反応に対して不活性なガスが挙げられる。キャリアガスとしては、繊維基材への炭化ケイ素の含浸性が向上する点から、Hガスが好ましい。
キャリアガスとしては、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
炭化ケイ素膜の膜形成の反応温度は、適宜設定できる。例えば、反応温度の下限は、炭化ケイ素膜の成長速度の向上、複合材料の生産性の向上の観点で設定することができる。反応温度の上限は、多孔質基材を構成する材料の表面上に形成される炭化ケイ素膜の均一性の向上の観点で設定することができる。
【0027】
炭化ケイ素膜の膜形成の反応圧力は、0.1~20Torr(13~2660Pa)が好ましく、5~20Torr(670~2660Pa)がより好ましく、15~20Torr(2000~2660Pa)がさらに好ましい。反応圧力が前記範囲の下限値未満であれば、含浸速度が小さく、生産性を損なうおそれがある。反応圧力が前記範囲の上限値を超えると、多孔質基材への含浸性が損なわれ、高温強度が低下するおそれがある。
【0028】
本発明に用いる製造装置としては、特に限定されず、例えば、図1に例示した製造装置100が挙げられる。なお、以下の説明において例示される図は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0029】
製造装置100は、管状の反応炉110と、Cl源供給手段112と、C源供給手段114と、排気ユニット116とを備えている。反応炉110には、第1反応部118と第2反応部120がこの順に設けられている。
【0030】
第1反応部118は、Si源とCl源とを接触させて反応させる部分である。
この例の第1反応部118では、通気性を有する2つの仕切り部材122,122がガスの流れ方向に間隔をあけて設けられることで反応炉110内が仕切られ、それら仕切り部材122間に固体状のSi源300(Si粉末)を充填できるようになっている。仕切り部材122としては、Si粉末が通過せず、Cl源のガスおよび生成物であるSi源のガスが通過する部材であればよく、例えば、カーボンフェルトが挙げられる。
反応炉110の第1反応部118には、Si源とCl源とを接触させる温度を調節する第1ヒータ124が設けられている。
【0031】
第2反応部120は、Si源のガスとC源のガスとを反応させ、繊維基材200の各繊維の表面上に炭化ケイ素膜を形成する部分である。第2反応部120は、Si源のガスとC源のガスとの反応により繊維の表面上に炭化ケイ素膜が形成される位置に繊維基材200を設置できるようになっていれば、その態様は特に限定されない。
反応炉110の第2反応部120には、膜形成の反応温度を調節する第2ヒータ126が設けられている。
【0032】
Cl源供給手段112は、Cl源のガスを供給する手段であり、反応炉110の第1反応部118の上流側にCl源のガスを供給できるようになっている。
C源供給手段114は、C源のガスを供給する手段であり、反応炉110内の第1反応部118と第2反応部120の間にC源のガスを供給できるようになっている。C源供給手段114からは、C源のガスをキャリアガスとともに供給してもよい。
【0033】
排気ユニット116は、反応炉110の下流側に設けられており、調圧弁128と、真空ポンプ130とを備えている。排気ユニット116は、調圧弁128と真空ポンプ130により、反応炉110内を減圧して所望の圧力に調節できるようになっている。
【0034】
製造装置100を用いた複合材料の製造方法では、Cl源供給手段112から反応炉110にClガス等のCl源のガスを供給し、第1反応部118において固体状のSiと接触させる。第1反応部118では、Cl源のガスと固体状のSiとの接触により生成物としてSiClまたはSiClを含有するSi源のガスが発生し、第2反応部120に送られる。第2反応部120では、第1反応部118の生成物であるSi源のガスと、C源供給手段114から供給されるC源のガスとが反応し、繊維基材200の各繊維の表面上に炭化ケイ素が堆積して炭化ケイ素膜が形成される。繊維基材200に粉体が含まれている場合は、各繊維の表面と各粉体の表面に炭化ケイ素膜が形成される。
なお、製造装置100を用いて、粉体からなる多孔質基材の各粉体の表面上に炭化ケイ素膜を形成して複合材料を得てもよい。
【0035】
キャリアガスとしてHガスを用いる場合、反応炉に供給するHガスの流量は、適宜設定できる。例えば、Hガスの流量の下限は、多孔質基材を構成する材料の表面上に形成される炭化ケイ素膜の均一性の向上の観点で設定することができる。
【0036】
本発明の複合材料の製造方法では、CVD法またはCVI法による炭化ケイ素膜の膜形成を行った後、必要に応じて、さらに液相含浸(SPI)法や、溶融含浸(PIP)法により炭化ケイ素のマトリックスを形成してもよい。
【0037】
以上説明した本発明の複合材料の製造方法によれば、炭化ケイ素の多孔質基材への含浸性に優れ、多孔質基材を構成する材料の表面上に形成される炭化ケイ素膜の均一性を確保しつつ、高い生産性で複合材料を製造できる。このような効果が得られる要因は、以下のように考えられる。
従来方法において、Si源およびC源となる原料ガスとしてMTSを用いる場合は、MTSの熱分解によりメチルラジカルが生じる。この場合、メチルラジカルが不安定であるため、原料ガスが多孔質基材の内部まで十分に含侵される前に基材表面で膜形成反応が起きやすく、炭化ケイ素の含浸性が低くなる。これに対して、本発明では、Si源とC源と別々に供給して炭化ケイ素膜を形成するため、メチルラジカルの発生を抑制できる。そのため、反応温度を高めて膜形成速度を速くしても、炭化ケイ素膜の均一性を確保できる。
【0038】
また、SiClガスおよびSiClガスは、SiClガスに比べて、多孔質基材への含浸性に優れる。そのため、SiClまたはSiClを含有するSi源のガスを用いることで、多孔質基材への炭化ケイ素の含浸性が特に優れたものとなり、短時間で均一に炭化ケイ素膜を形成できる。
【0039】
また、従来の方法では、繊維束を含む繊維基材を用いる場合に特に繊維束の内部への炭化ケイ素の含浸性が低くなる傾向がある。しかし、本発明の製造方法によれば、繊維束の内部への炭化ケイ素の含浸性も優れているため、繊維束を用いる場合でも炭化ケイ素膜の均一性と生産性の両立が可能である。
【0040】
なお、本発明の複合材料の製造方法は、製造装置100を用いる方法には限定されない。例えば、製造装置100における第1ヒータ124と第2ヒータ126の代わりに、それらを兼ねるヒータを備えた製造装置を用いてもよい。また、第1反応部と第2反応部とが別々の反応炉になっている製造装置を用いてもよい。
【実施例
【0041】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[炭化ケイ素膜の膜厚、含浸速度]
光学顕微鏡により各例で得た複合材料の断面を観察し、任意に選択した20箇所について炭化ケイ素膜の膜厚を測定し、平均値を算出した。炭化ケイ素の含浸速度は、炭化ケイ素膜の膜厚を反応時間で除して求めた。
【0042】
[実施例1]
図1に例示した製造装置100を用いて、繊維基材200の各繊維の表面上に炭化ケイ素膜を形成して複合材料を得た。
繊維基材200として、炭化ケイ素繊維の平織物を16枚積層して成形した繊維成形体を用いた。
Si源としてSi微粉末(商品名「SIE23PB」、高純度化学研究所製、最大粒径:5μm)、Cl源としてClガス、C源としてCHガス、キャリアガスとしてHガスを用いた。C源供給手段114によりCHガスをHガスとともに反応炉110に供給した。Clガスの流量は500SCCM、CHガスの流量は120SCCM、Hガスの流量は120SCCMとした。第1反応部118におけるSiとClガスとを接触させる温度は1200℃、第2反応部120における膜形成の反応温度は1160℃とした。反応炉110内の圧力は20Torr(2660Pa)とし、膜形成の反応時間は2時間とした。
得られた複合材料の断面写真を図2に示す。各繊維の表面上に形成された炭化ケイ素膜の膜厚の平均値は1.2μmであり、炭化ケイ素の含浸速度は0.6μm/hrであった。
【0043】
[比較例1]
以下に示す方法により、繊維基材の各繊維の表面上に炭化ケイ素膜を形成して複合材料を得た。
950℃、5Torr(670Pa)において、MTS及びHの混合ガスを、実施例1で使用したものと同じ繊維基材に接触させた。MTSとHの比率は、1:1であった。反応時間は100時間とした。
得られた複合材料の断面写真を図3に示す。各繊維の表面上に形成された炭化ケイ素膜の膜厚の平均値は0.6μmであり、炭化ケイ素の含浸速度は0.04μm/hrであった。
【0044】
実施例1および比較例1の結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
図2図3および表1に示すように、本発明の製造方法を用いた実施例1では、各繊維の表面上に均一に炭化ケイ素膜が形成された。また、実施例1では、従来の方法を用いた比較例1に比べて、より短時間でより厚い炭化ケイ素膜が形成され、炭化ケイ素の含浸性に優れていた。
【0047】
[実施例2]
炭化ケイ素繊維の平織物が1枚のみの繊維基材、または積層数が16枚の繊維基材を用い、Hガスの流量を60SCCM、120SCCM、または240SCCMに変更する以外は、実施例1と同様にして複合材料を製造した。
それぞれの繊維基材を用いた場合について、Hガスの流量に対する炭化ケイ素の含浸速度をプロットしたグラフを図4に示す。
図4に示すように、Hガスの流量が多いほど、炭化ケイ素の含浸速度が大きくなった。
【0048】
[実験例1]
反応炉内にSi粉末(商品名「SIE23PB」、高純度化学研究所社製、最大粒径:5μm)を充填し、Clガスを供給してSi粉末をエッチングし、反応後のガスを排気配管から採取して質量分析計により分析し、各ガス種の分圧を求めた。各ガス種の分圧の測定は、反応炉内の温度を400℃から1200℃まで変化させて行った。反応炉内の温度に対する各ガス種の分圧をプロットしたグラフを図5に示す。
【0049】
図5に示すように、反応炉の温度が400~500℃の範囲において、Clガスの分圧が二桁下がった。この結果から、Clガスは400~500℃の範囲に熱分解温度を持ち、500℃以上のガス生成場にはClが到達していると考えられる。
【0050】
[実験例2]
反応炉内のSi粉末の充填量、およびSi粉末とClガスとの接触時間を一定としたうえで、反応炉内の温度を800℃、1000℃、1100℃または1200℃として実験例1と同様にSi粉末をエッチングした。
各温度において反応前後のSi粉末の質量を測定し、Si粉末の質量減少量の温度依存性を確認した。Si粉末の質量減少量のアレニウスプロットを図6に示す。また、Cl投入量に対するSi粉末の質量減少量の割合と反応炉の温度との相関を図7に示す。Cl投入量に対するSi粉末の質量減少量の割合が100%である場合は、投入ClがすべてSiClとなったことを示す。
【0051】
図6に示すように、Si粉末の質量減少のプロットは、約1000℃を境に傾きが変化した。この結果は、Si粉末とClガスの接触によるSiClとSiClの生成においては、約1000℃の境界以下の温度ではSiClの生成が支配的であり、約1000℃の境界を超える温度ではSiClの生成が支配的であることを示していると考えられる。
また、図7に示すように、約1050℃以上の温度で、Cl投入量に対するSi粉末の質量減少量の割合が50%を超えていた。この結果は、この温度域での主生成ガスがSiClであることを示している。
【符号の説明】
【0052】
100…製造装置、110…反応炉、112…Cl源供給手段、114…C源供給手段、116…排気ユニット、118…第1反応部、120…第2反応部、122…仕切り部材、124…第1ヒータ、126…第2ヒータ、128…調圧弁、130…真空ポンプ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7