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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】分光器
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/18 20060101AFI20220405BHJP
   G01J 3/06 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
G01J3/18
G01J3/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018211532
(22)【出願日】2018-11-09
(65)【公開番号】P2020076712
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 智光
【審査官】大河原 綾乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-232447(JP,A)
【文献】特開平04-301527(JP,A)
【文献】特開昭60-007330(JP,A)
【文献】米国特許第05504576(US,A)
【文献】中国実用新案第201476879(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00 - G01J 4/04
G01J 7/00 - G01J 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口及び出口を有する筐体と、
前記筐体内に配置された、前記入口から入射した光を分光して設定波長の光を前記出口から出射する回折格子と、
前記回折格子から前記出口までの光路上に出し入れ可能に挿入される、前記設定波長から外れる波長帯域の光を除去するための光学フィルタと、
前記回折格子を回転する、ステッピングモータを駆動源とする回転駆動機構と、
所定の原点位置にある前記回折格子を、前記設定波長に対応する回転位置まで回転させるための情報である波長移動情報を設定する波長移動情報設定部と、
前記回転駆動機構を制御して、前記原点に達するまで前記回折格子を回転させた後、前記波長移動情報に基づいて前記回折格子を前記回転位置まで回転させる波長移動処理を行う波長移動制御部と
前記回折格子から前記出口までの光路上に前記光学フィルタが挿入されていることを検出するフィルタ検出部と、
前記光路上に前記光学フィルタが挿入されているときの波長移動情報、及び前記光学フィルタが挿入されていないときの波長移動情報をそれぞれ記憶している記憶部と
を備え、
前記波長移動情報設定部が、前記フィルタ検出部の検出結果に応じた波長移動情報を前記記憶部から読み出して設定することを特徴とする分光器。
【請求項2】
入口及び出口を有する筐体と、
前記筐体内に配置された、前記入口から入射した光を分光して設定波長の光を前記出口から出射する回折格子と、
前記回折格子から前記出口までの光路上に出し入れ可能に挿入される、前記設定波長から外れる波長帯域の光を除去するための光学フィルタと、
前記回折格子を回転する、ステッピングモータを駆動源とする回転駆動機構と、
所定の原点位置にある前記回折格子を、前記設定波長に対応する回転位置まで回転させるための情報である波長移動情報を設定する波長移動情報設定部と、
前記回転駆動機構を制御して、前記原点に達するまで前記回折格子を回転させた後、前記波長移動情報に基づいて前記回折格子を前記回転位置まで回転させる波長移動処理を行う波長移動制御部と
複数種類の前記光学フィルタを有しており、前記回折格子から前記出口までの光路上に前記光学フィルタのうちの一つを選択的に挿入することが可能なフィルタ挿入機構と、
前記回折格子から前記出口までの光路上に前記光学フィルタが挿入されていること、及び挿入されている光学フィルタの種類を検出するフィルタ検出部と、
前記光路上に前記複数種類の光学フィルタの各々が挿入されているときの波長移動情報、及び前記光学フィルタが挿入されていないときの波長移動情報をそれぞれ記憶している記憶部と
を備え、
前記波長移動情報設定部が、前記フィルタ検出部の検出結果に応じた波長移動情報を前記記憶部から読み出して設定することを特徴とする分光器。
【請求項3】
記波長移動情報が、前記ステッピングモータのパルス数であることを設定することを特徴とする請求項1又は2に記載の分光器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外可視光分光光度計や原子吸光分光光度計等の分光光度計に組み込まれる分光器に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の定性・定量分析を行う装置として紫外可視光分光光度計や原子吸光分光光度計等の分光光度計が知られている。分光光度計は、所定波長の光を試料に照射し、そのときの透過光量を測定することで所定波長における吸光度を求め、試料の定性・定量分析を行う。分光光度計では、所定波長の光を得るために通常、分光器(モノクロメータ)が用いられている。
【0003】
分光器は、入口スリット及び出口スリットを有する筐体、該筐体内に収容された回折格子(波長分散素子)、入口スリットから入射した光に対する回折格子の角度を変えるための回転駆動機構を備えており、入口スリットから入射した光を回折格子に照射し、該回折格子で波長分散された光のうち特定の方向に進む光のみを出口スリットから取り出す。回折格子の回転位置(角度)を適宜の位置に調整することにより目的とする任意の波長の光を取り出すことができ、回折格子を連続的に回転させることにより入射光のスペクトルを得ることができる。
【0004】
回折格子で波長分散され、特定の方向に進む光には、1次の回折光だけでなく高次回折光が含まれる。分光光度計においては、試料の定性・定量分析を正確に、且つ精度良く行うことができるよう、分光器の出口スリットから取り出される出力光から高次回折光をカットしている。また、波長の正確さ、検出光量の正確さ、及び直線性を確認するための性能チェック(バリデーション)が定期的に行われる。高次回折光のカットや性能チェックには所定の光学フィルタが用いられ、このような光学フィルタは、通常、分光器の出口スリットと検出器の間に配置される(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-343283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
定期的に行われる性能チェックのための光学フィルタと異なり、高次回折光をカットするための光学フィルタ(高次光カットフィルタ)は、分光光度計を用いて試料の定性・定量分析を行う際に常時使用される。高次光カットフィルタは設定波長に応じた種類の光学フィルタが用いられる。したがって、分光器と検出器の間に高次光カットフィルタを配置する構成では、設定波長に応じた種類の高次光カットフィルタを分光器の前後に配置しなければならず、フィルタの配置スペースが必要であった。
【0007】
これに対して、分光器に複数種類の高次光カットフィルタを内蔵し、回折格子と出口スリットの間に設定波長に応じた種類の光学フィルタを配置可能にすることが考えられる。ところが、この構成では、回折格子で波長分散された光が高次光カットフィルタを通過して出口スリットに向かう際に光軸のずれが生じる場合があった。分光光度計に用いられる分光器では、通常、高い波長分解能を確保するために幅の狭い出口スリットが採用されているため、高次光カットフィルタを通過した光の光軸がわずかにずれただけでも、出口スリットから出射する光の波長が設定波長からずれてしまうという問題があった。
【0008】
なお、ここでは、回折格子と出口スリットの間に高次光をカットするための光学フィルタを配置した場合について説明したが、上記問題は、迷光をカットするための光学フィルタ等、設定波長から外れる波長帯域の光をカットするための光学フィルを回折格子と出口スリットの間に配置する場合にも生じる。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、回折格子と出口の間の光路上に出し入れ可能に挿入される、設定波長から外れる波長帯域の光を除去するための光学フィルタを備えた分光器において、光学フィルタの挿入時における分光器の設定波長と出口スリットから取り出される光の波長のずれを無くすことである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係る分光器は、
入口及び出口を有する筐体と、
前記筐体内に配置された、前記入口から入射した光を分光して設定波長の光を前記出口から出射する回折格子と、
前記回折格子から前記出口までの光路上に出し入れ可能に挿入される、前記設定波長から外れる波長帯域の光を除去するための光学フィルタと、
前記回折格子を回転する、ステッピングモータを駆動源とする回転駆動機構と、
所定の原点位置にある前記回折格子を、前記設定波長に対応する回転位置まで回転させるための情報である波長移動情報を設定する波長移動情報設定部と、
前記回転駆動機構を制御して、前記原点に達するまで前記回折格子を回転させた後、前記波長移動情報に基づいて前記回折格子を前記回転位置まで回転させる波長移動処理を行う波長移動制御部と
を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明において、設定波長から外れる波長帯域の光には、回折格子で波長分散された光のうち設定波長の光とは異なる方向に進む光、或いは設定波長の光と同じ方向に進む該光の高次回折光、入口から筐体内に入射した光が分光器内の各部において意図しない反射をすることによって生じた光(迷光)が含まれる。そのような光を除去するための光学フィルタとしては、例えば特定の波長帯域のみを透過させるバンドパスフィルタ、高次光をカットするためのハイパスフィルタ、又は、1次回折光のみを透過し、該1次回折光よりも短波長である高次回折光をカットする次数分離フィルタが挙げられる。前記光学フィルタは、設定波長に応じた種類の光学フィルタが用いられることから、本発明においては、前記光学フィルタを複数種類有しており、前記光学フィルタのうちの一つを前記回折格子から前記出口までの光路上に選択的に配置することが可能なフィルタ挿入機構を備えることが好ましい。
【0012】
また、分光器において、回折格子を回転する回転駆動機構の駆動源としては、比較的小形で、且つ、マイクロコンピュータによる制御が容易であることから、ステッピングモータが広く用いられている。分光器から取り出される光の波長が予め設定された波長(設定波長)と異なると分光光度計において試料の定性・定量分析を正確に行うことができないことから、分光器においては、設定波長に応じた回転位置に正確に回折格子を回転させることができるよう、ステッピングモータを次のように制御している。
【0013】
ステッピングモータの動作の基準となる原点(以下「機械原点」という)と回折格子の回転位置の基準となる原点(以下「波長原点」という)を設け、設定波長が切り替えられたときは、一旦、回折格子の回転位置を機械原点まで戻してから波長原点まで回転させ、その後、設定波長に対応する回転位置まで回折格子を回転させるという制御を行っている。回折格子が機械原点に達したことは、光電式センサやマイクロスイッチ等の原点センサによって検出される。また、回折格子が機械原点に達した後は、機械原点から波長原点までの回転角度に対応する駆動パルス数(後述するように、これは予め測定され、既知である。)がステッピングモータに対して与えられる。
【0014】
機械原点及び波長原点は分光器の個体毎に異なっていることから、工場から製品を出荷する前に、機械原点から波長原点までの回折格子の回転角度に対応するステッピングモータの駆動パルス数が個体毎に求められる。本発明者が調べたところ、分光器内の回折格子から出口までの光路上に前記光学フィルタが配置されているときと配置されていないときとでは、出口から出射される光の波長が設定波長とずれる場合があることが分かった。これは、回折格子からの光が前記光学フィルタを通過するとき(厳密には、回折格子からの光が光学フィルタに入射するとき及び光学フィルタから出射するとき)に生じる光の屈折により、出口に向かう光の光軸がずれることに起因し、その結果、出力光の波長と回折格子の回転位置の関係が変化するためであると考えられた。光学フィルタを挿入したことによる設定波長と出力光の波長とのずれは、光学フィルタの設置角度が設計上の設置角度からずれた場合に生じるものであり、機械原点から波長原点までのステッピングモータの駆動パルス数、及び/又は波長原点から設定波長に対応する回転位置までのステッピングモータの駆動パルス数を補正することで較正可能であるとの考えから、本発明に至ったものである。
【0015】
すなわち、本発明においては、波長移動情報設定部を設けて、所定の原点位置にある前記回折格子を、前記設定波長に対応する回転位置まで回転させるための情報である波長移動情報を設定できるようにしたため、回折格子と出口の間に光学フィルタが配置されていないとき、及び回折格子と出口の間に光学フィルタが配置されているときのいずれにおいても、設定波長に応じた適切な回転位置まで回折格子を回転させることができる。所定の原点は、上述した機械原点及び波長原点のいずれでも良い。波長移動情報の例としては、機械原点から波長原点までの回転角度及び/または波長原点から設定波長に対応する回転位置までの回転角度、前記回転角度だけ回折格子を回転させるために必要なステッピングモータの駆動パルス数、或いは前記回転角度や前記駆動パルス数を算出するための演算式が挙げられる。また、回折格子と出口の間に光学フィルタが配置されてないときの波長移動情報としては前記回転角度、前記駆動パルス数、又は前記演算式を設定するようにし、光学フィルタが配置されているときの波長移動情報としては、光学フィルタが挿入されてないときの前記回転角度、前記駆動パルス数、又は前記演算式を補正するための補正係数を設定するようにしても良い。
【0016】
波長移動情報は、分光器の使用者がキーボードやテンキー等の入力手段を用いて設定しても良く、或いは、予め記憶部に記憶しておき、波長移動制御部が波長移動処理を行うときに、波長移動情報設定部が前記記憶部から波長移動情報を読み出して設定するようにしても良い。
【0017】
使用者が波長移動情報を設定する構成においては、回折格子から出口までの光路上に光学フィルタが挿入されているときの波長移動情報、及び前記光学フィルタが挿入されていないときの波長移動情報をそれぞれ使用者が認識できるように、例えば分光器個体に貼り付けられるシリアル銘板や分光器の取扱説明書に各波長移動情報を記載しておくと良い。
【0018】
また、波長移動情報を記憶部に記憶しておく構成においては、前記回折格子から前記出口までの光路上に前記光学フィルタが挿入されていることを検出するフィルタ検出部を備え、
前記記憶部に、前記光路上に前記光学フィルタが挿入されているときの波長移動情報、及び前記光学フィルタが挿入されていないときの波長移動情報をそれぞれ記憶しておき、
前記波長移動情報設定部が、前記フィルタ検出部の検出結果に応じた波長移動情報を前記記憶部から読み出して設定することが好ましい。
【0019】
また、複数種類の前記光学フィルタを有しており、前記フィルタ挿入機構により、前記回折格子から前記出口までの光路上に前記光学フィルタのうちの一つを選択的に挿入する構成においては、
前記回折格子から前記出口までの光路上に前記光学フィルタが挿入されていること、及び挿入されている光学フィルタの種類を検出するフィルタ検出部と、
前記光路上に前記複数種類の光学フィルタの各々が挿入されているときの波長移動情報、及び前記光学フィルタが挿入されていないときの波長移動情報をそれぞれ記憶している記憶部と
を備え、
前記波長移動情報設定部が、前記フィルタ検出部の検出結果に応じた波長移動情報を前記記憶部から読み出して設定することが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、分光器内の回折格子から出口までの光路上に光学フィルタが挿入されている状態、及び光学フィルタが挿入されていない状態のそれぞれに適した、設定波長に応じた回転位置に回折格子を位置させる動作を自動で行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、回折格子と出口の間の光路上に出し入れ可能に挿入される、設定波長から外れる波長帯域の光を除去するための光学フィルタを備えた分光器において、該光学フィルタの挿入時における該分光器の設定波長と出口から取り出される光の波長のずれを少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る分光器の一実施例を示す概略構成図。
図2A】回折格子と出口の間に光学フィルタが挿入されていないときの、回折格子が機械原点にある状態を示す図。
図2B】回折格子と出口の間に光学フィルタが挿入されていないときの、回折格子が波長原点にある状態を示す図。
図2C】回折格子と出口の間に光学フィルタが挿入されていないときの、回折格子が波長λに対応する回転位置にある状態を示す図。
図3】回折格子と出口の間に光学フィルタが挿入されているときの、回折格子が波長λに対応する回転位置にある状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る分光器の一実施例について図面を参照して説明する。
図1は、本実施例の分光器100の概略構成図である。分光器100は、入口11及び出口12を備える筐体1と、該筐体1の内部に配置された回折格子2、第1ミラー3、第2ミラー4、前記回折格子2を回転させる回転駆動機構5、前記回折格子の回転位置が機械原点位置にあることを検出する原点センサ6、制御部7と、入力部8とを備えている。
【0024】
回転駆動機構5は、ステッピングモータと該ステッピングモータの出力軸の回転を所定の減速比で減速させて回折格子2を回転駆動する減速機構を備える。
原点センサ6は例えば反射式の光電式スイッチから成り、これと回折格子2に設けられた突起61(図2参照)によって、回折格子2が機械原点に位置することが検出される。原点センサ6の検出信号は制御部7に出力される。
【0025】
筐体1の入口11及び出口12にはそれぞれスリット取付マウント13、14が設けられており、各マウントに入口スリット13a及び出口スリット14aがそれぞれ着脱可能に装着される。
【0026】
筐体1内の出口12の近傍にはフィルタ装置9が配置されている。詳しい図示は省略するが、フィルタ装置9は、円盤91と、該円盤91の外周縁に沿って配置された複数の開口と、これら複数の開口のうち1個を除く複数の開口のそれぞれに取り付けられた光学フィルタ92(図1では1個の光学フィルタのみ示す)と、円盤91を回転するための回転ダイヤル93と回転ダイヤル93の回転位置を検出する回転位置センサ94とを備えている。光学フィルタ92としては、回折格子2からの1次回折光を透過させ、該1次回折光よりも短波長の高次光をカットする次数分離フィルタが用いられる。複数の光学フィルタ92には、それぞれ透過波長帯域が異なる次数分離フィルタが選定される。回転位置センサ94の検出信号は制御部7に出力される。回転ダイヤル93は筐体1の外側に配置されており、該回転ダイヤル93を手動で回転させることにより円盤91が回転され、それにより、回折格子2から出口12に向かう光の光路上に光学フィルタ92のいずれかが配置された状態と開口が配置された状態に切り替えることができる。
【0027】
制御部7は回転駆動機構5の動作を制御するものであって、波長移動制御部71、初期化制御部72、係数設定部73、係数記憶部74、演算式記憶部75などを機能ブロックとして備える。係数記憶部74には、初期化制御部72による初期化処理に使用されるオフセットパルス数C1、並びに波長移動制御部71による波長移動処理に用いられる光学マウント補正係数C2及びフィルタ補正係数C3が記憶されている。また、演算式記憶部75には、波長原点にある回折格子2を目的波長に対応する回転角まで回転させるために必要なステッピングモータの駆動パルス数を算出するための演算式が記憶されている。この演算式は、波長移動制御部71による波長移動処理に用いられる。前記係数記憶部74及び演算式記憶部75が本発明の記憶部に相当する。
【0028】
なお、上記の制御部7の実体はパーソナルコンピュータであり、該コンピュータにインストールされた専用の制御ソフトウェアをコンピュータ上で動作させることで上記各機能ブロックの機能が実現される。したがって、入力部8はキーボードやマウス等のポインティングデバイスを含む。
【0029】
オフセットパルス数C1は、回折格子2を機械原点から波長原点まで移動させるために必要なステッピングモータの駆動パルス数である。オフセットパルス数C1は、装置個体毎に異なった値である。また、波長原点は、設定波長が0nmであると仮定したときの回折格子2の回転位置である。
【0030】
光学マウント補正係数C2及びフィルタ補正係数C3は、波長原点から設定波長に対応する回転位置まで回折格子2を回転駆動するために必要なパルス数の算出に用いられる。光学マウント補正係数C2及びフィルタ補正係数C3は装置個体毎に異なった値である。フィルタ補正係数C3は、光学フィルタ92の種類毎に異なった値であり、係数記憶部74には、円盤91が有する光学フィルタ92の種類と同じ数のフィルタ補正係数C3が記憶されている。図1に示すように、以下の説明では、円盤91は3種類の光学フィルタ92(以下、光学フィルタF1~F3)を有していることとし、各光学フィルタF1~F3に対応する3個のフィルタ補正係数C31~C33が係数記憶部74に記憶されていることとする。また、本実施例では、光学フィルタ92が挿入されていない場合のフィルタ補正係数として「1」が係数記憶部74に記憶されていることとする。
【0031】
波長原点から設定波長に対応する回転位置まで回折格子を移動させるために必要なステッピングモータの駆動パルス数は以下の演算式(1)を用いて算出される。
P=θ/Res ・・・ (1)
式(1)において、Pは駆動パルス数を、θ(deg)は設定波長に対応する回折格子2の回転角を、Res(deg/pulse)は回折格子2の角度分解能を表している。
【0032】
また、回折格子2の回転角θは、以下の式(2)から求められる。
θ={arcsin(K ×(1+C2)× W1)/π × 180}×C3 ・・・(2)
式(2)中、Kは光学マウント定数を、W1は設定波長を、C2は光学マウント補正係数を、C3はフィルタ補正係数を表している。光学マウント定数Kは、回折格子2の偏角、溝本数等によって決まる、装置固有の値である。
【0033】
次に、本実施例の分光器100が組み込まれた分光光度計において、試料の測定を行う際の作業者の操作及び処理について説明する。
【0034】
まず、回折格子2と出口12の間に光学フィルタ92が存在しない状態で試料の測定を行う場合について図2A図2Cを参照して説明する。図2A図2Cでは第1及び第2ミラー3及び4を省略している。
作業者は回転ダイヤル93を操作して円盤91を回転し、出口12と回折格子2の間に円盤91上の開口を配置させる。そして、作業者が入力部8を用いて目的波長λを入力した上で、分光光度計による測定の開始を指示すると、目的波長λが設定波長W1として設定される。また、回転センサ94が回転ダイヤル93の回転位置を検出し、この検出信号に基づき係数設定部73はオフセットパルス数C1、光学マウント補正係数C2、及びフィルタ補正係数C3(この場合は「1」)を係数記憶部74から読み出し、C1を初期化制御部72による初期化処理に使用する駆動パルス数として、C2及び「1」を波長移動処理時に使用する係数として設定する。
【0035】
次に、初期化制御部72は回転駆動機構5に連続パルスを送信してステッピングモータを駆動し、回折格子2を矢印A方向(図2A参照)に回転させる。そして、原点センサ6によって回折格子2の回転位置が機械原点に達したことが検出されると、初期化制御部72は連続パルスの送信を停止する(図2Aに示す状態)。続いて、駆動パルス数C1を回転駆動機構5に送信する。これにより、ステッピングモータが駆動して回折格子2が矢印B方向(反矢印A方向)に角度θ0だけ回転し、波長原点に位置する(図2Bに示す状態)。なお、図2A及び図2Bにおいて符号Nv及びNv0は、それぞれ回折格子2が機械原点に位置しているとき、及び回折格子2が波長原点に位置しているときの該回折格子2の法線を示している。図2Bに示すように、法線Nvと法線Nv0のなす角度はθ0である。
【0036】
回折格子2が波長原点に到達すると、続いて、波長移動制御部71による波長移動処理が行われる。すなわち、演算式記憶部75に記憶されている演算式(2)に設定波長W1及び光学マウント補正係数C2が代入されて、該設定波長W1に対応する回折格子2の回転角θλが算出される。そして、この回転角θλと演算式(1)とからステッピングモータの駆動パルス数Pが算出される。算出された駆動パルス数Pは回転駆動機構5に送信され、これにより、ステッピングモータが駆動して回折格子2が矢印B方向に角度θλ回転し、設定波長に対応する回転位置に移動する。図2Cにおいて、符号Nvλは、回折格子2が設定波長に対応した回転位置にあるときの該回折格子2の法線を示している。法線Nvλと法線Nv0のなす角度はθλである。
【0037】
この状態で、光源から光が発せられると、その光の一部が入口スリット13a及び入口11を通過し、筐体1内の第1ミラー3で反射した後、回折格子2に入射する。回折格子2に入射した光は、該回折格子2によって分散し、分散した光のうち回折格子2の回転位置に対応する波長(すなわち、設定波長W1)の光が第2ミラー4で反射した後、出口12及び出口スリット14aから出射する。
【0038】
一方、分光器100の出口12と回折格子2の間の光路上に光学フィルタ92を挿入して試料の測定を行う場合の作業者の操作及び処理は以下の通りである。
【0039】
まず、作業者は回転ダイヤル93を操作して円盤91を回転し、出口12と回折格子2の間に円盤91上の適宜の光学フィルタ92を配置させる。ここではフィルタF1を配置することとする。この状態で、作業者が入力部8を用いて目的波長λを入力し、分光光度計による測定の開始を指示すると、目的波長λが設定波長W1として設定される。なお、この場合の目的波長λは、フィルタF1を透過する波長帯λ1-λ2内に含まれる。
また、回転位置センサ94が回転ダイヤル93の回転位置を検出し、この検出信号に基づき係数設定部73は、オフセットパルス数C1、光学マウント補正係数C2、及びフィルタF1に対応するフィルタ補正係数C31を係数記憶部74から読み出し、C1を初期化制御部72による初期化処理に使用する駆動パルス数として、C2及びC31を波長移動処理時に使用する係数としてそれぞれ設定する。
【0040】
次に、初期化制御部72は回転駆動機構5に連続パルスを送信してステッピングモータを駆動し、回折格子2を矢印A方向に回転させる。そして、原点センサ6によって回折格子2の回転位置が機械原点に達したことが検出されると、初期化制御部72は連続パルスの送信を停止する。続いて、駆動パルス数C1を回転駆動機構5に送信するこれにより、ステッピングモータが駆動して回折格子2が矢印B方向に角度θ0だけ回転し、波長原点に位置する。ここまでの動作は、光学フィルタ92が挿入されていない場合と同じである(図2A及び図2B参照)。
【0041】
回折格子2が波長原点に到達すると、続いて、波長移動制御部71による波長移動処理が行われる。すなわち、演算式記憶部75に記憶されている演算式(2)に設定波長W1、光学マウント補正係数C2、及びフィルタ補正係数C31が代入されて、該設定波長W1に対応する回折格子2の回転角が算出される。この回転角は、光学フィルタ92が挿入されていない場合の回転角θλと異なることから、「θλ’」と表す。そして、算出された回転角θλ’と演算式(1)から、ステッピングモータの駆動パルス数Pが算出される。算出された駆動パルス数Pは回転駆動機構5に送信され、これにより、ステッピングモータが駆動して回折格子2が矢印B方向に角度θλ’回転し、設定波長に対応する回転位置に移動する(図3参照)。
【0042】
この状態で、光源から光が発せられると、その光の一部が入口スリット13a及び入口11を通過し、筐体1内の第1ミラー3で反射した後、回折格子2に入射する。回折格子2に入射した光は、該回折格子2によって分散し、分散した光のうち回折格子2の回転位置に対応する波長(すなわち設定波長W1)の光が第2ミラー4で反射した後、光学フィルタ92(フィルタF1)を通過して出口12及び出口スリット14aから出射する。
【0043】
このように本実施例においては、回折格子2から出口12までの光路上に光学フィルタ92が挿入されていないときと挿入されているときとで、それぞれ異なる係数を用いて波長移動処理を行うようにした。したがって、回折格子2から出口12までの光路上に光学フィルタ92が挿入されている場合でも、作業者が入力した目的波長λの光を出口12から出射させることができる。
【0044】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、適宜の変更が可能である。
例えば上記実施例では、回転ダイヤルの回転位置を検出する手段(回転位置センサ94)を設けて、光学フィルタが挿入されていない状態と挿入されている状態、光学フィルタが挿入されている状態であるときはその種類を検出し、その結果に基づき係数を自動的に設定する構成としたが、作業者が入力部を用いて係数を設定するようにしても良い。また、作業者が入力部を用いて光学フィルタの種類を入力すると、その種類に応じた係数が設定されるようにしても良い。
【0045】
また、上記実施例では、波長原点から設定波長に対応する回転位置まで回折格子2を回転させるために必要な駆動パルス数の算出に、フィルタ補正係数を使用したが、機械原点から波長原点まで回折格子2を回転させるために必要な駆動パルス数の算出にフィルタ補正係数を使用しても良く、また、両駆動パルス数の算出にフィルタ補正係数を使用しても良い。
【0046】
さらにまた、上記実施例及び上記記載の変形例はいずれも本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲でさらに適宜の変更、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【符号の説明】
【0047】
1…筐体
11…入口
12…出口
13a…入口スリット
14a…出口スリット
2…回折格子
5…回転駆動機構
6…原点センサ
61…突起
7…制御部
71…波長移動制御部
72…初期化制御部
73…係数設定部(波長移動情報設定部)
74…係数記憶部
75…演算式記憶部
8…入力部
92…光学フィルタ
94…回転位置センサ(フィルタ検出部)
100…分光器
図1
図2A
図2B
図2C
図3