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特許7052705有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/26 20060101AFI20220405BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220405BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20220405BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
H05B33/26 Z
H05B33/14 A
H05B33/02
H05B33/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018234046
(22)【出願日】2018-12-14
(65)【公開番号】P2020095890
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 茂
(72)【発明者】
【氏名】田中 勇作
(72)【発明者】
【氏名】中林 亮
(72)【発明者】
【氏名】岡庭 みゆき
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-330791(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0352841(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/26
H01L 51/50
H05B 33/02
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基板と、陽極と陰極によって挟持された有機機能層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陽極と前記陰極の少なくともどちらか一方の電極(K)が、金属粒子及び不揮発性の有機物を含有する金属薄膜層であり、
前記電極(K)の前記有機機能層側の界面から厚さ方向に10nmの範囲部分において、前記金属粒子の総含有量(A)に対する前記不揮発性の有機物の総含有量(B)の質量比率(B/A)が、0.01~0.10の範囲内であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記電極(K)が、前記有機機能層に対して基板から遠い側の電極であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記電極(K)の前記有機機能層側とは逆側の界面から厚さ方向に10nmの範囲部分において、前記質量比率(B/A)が、0.01~0.05の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記電極(K)が、1mm当たり20~300μgの範囲内の水を含有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記電極(K)が、1mm当たり4~100μgの範囲内の有機溶媒を含有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記金属粒子の金属が、銀であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記基板が、フレキシブル基板であることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記基板上に前記陽極又は陰極のいずれか一方と有機機能層とをこの順に形成する工程と、
前記金属粒子と前記不揮発性の有機物を含有する分散液を調製する工程と、
前記分散液を前記有機機能層上に塗布及び乾燥して前記電極(K)を形成する工程と、を有し、
前記分散液を、金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比が、1:0.01~1:0.10の範囲内となるように調製することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項9】
さらに、前記電極(K)を前記有機機能層側から第1の電極層(K1)及び第2の電極層(K2)の2層構成で形成する工程を有し、
当該工程において、
前記金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比が、1:0.01~1:0.10の範囲内となるように分散液を調製し、当該分散液を前記有機機能層上に塗布及び乾燥して第1の電極層(K1)を形成し、次いで、
前記金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比が、1:0.01~1:0.05の範囲内となるように分散液を調製し、当該分散液を前記第1の電極層(K1)上に塗布及び乾燥して第2の電極層(K2)を形成することを特徴とする請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項10】
前記分散液をディスペンサー又はインクジェット印刷法で塗布する工程と、
前記塗布した分散液を乾燥し、次いで焼成する工程と、を有することを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法に関し、低抵抗であり、有機機能層と電極の密着性に優れることにより、高温保存時の折り曲げ耐性や発光効率及び駆動寿命に優れる有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ともいう。)は、高効率化、大面積化、軽量化及びフレキシブル化等の様々な性能が要求されている。そのため、フレキシブル性やコストの面からポリエチレンテレフタレート(PET)基板といった安価な樹脂基板の使用、ロール・トゥ・ロールプロセスによる大量生産方式への適応等が求められている。
【0003】
従来、有機EL素子の電極や発光層を含む有機機能層は、透明基板上に真空蒸着法やスパッタリング法により作製してきた。しかしながら、当該真空蒸着法やスパッタリング法では、装置が大型化、複雑化するため、大型の有機EL素子を製造することは難しい。
【0004】
したがって、有機EL素子の製造プロセスでは、プロセスの簡略化や低コスト化の観点から、有機機能層や電極を塗布プロセスで形成する手法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
特に電極に関しては、金属細線とポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸からなる導電性ポリマー(PEDOT-PSS)とを基板上に塗布した透明電極が知られている。導電性ポリマーは、フレキシブル性に優れ、ロール・トゥ・ロールプロセスに用いることができる。しかし、導電性ポリマー自体の体積抵抗が高く、かつ可視光域に吸収があるため、高い透明性を維持しながら、低抵抗の電極を作製することは困難であった。
【0006】
一方、低抵抗化が期待できる銀粒子を有機EL素子の電極の作製に用いる検討もなされており、輝度向上を可能にする材料の提供を目的として、銀粒子、銀粒子に吸着した共役化合物及びイオン性化合物を含む複合体組成物によって、有機機能層上に塗布プロセスで電極を形成する技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
しかしながら、当該技術では、前記複合体組成物を調製するときに分散溶媒としてメタノールを用いているが、当該メタノールは塗布した場合に下層にある前記有機機能層を溶解しやすく、発光効率の低下や密着性の劣化などの問題がある。また、抵抗が未だ高いため、駆動電圧を大きくする必要があり、加えて高温高湿保存時に電圧上昇が大きくなるという問題がある。さらに、折り曲げ耐性等に係る記載はない。
【0008】
したがって、低抵抗であり、有機機能層と電極の密着性に優れ、高温保存時の折り曲げ耐性や発光効率及び駆動寿命に優れる有機EL素子の出現が待たれる状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2006-190759号公報
【文献】特開2012-238576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、低抵抗であり、有機機能層と電極の密着性に優れることにより、高温保存時の折り曲げ耐性や発光効率及び駆動寿命に優れる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、少なくとも、基板と、陽極と陰極によって挟持された有機機能層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記陽極又は陰極中に分散剤である有機物が含まれることで、隣接する有機機能層との密着性が向上し、高温保存時の折り曲げ耐性や発光効率及び駆動寿命に優れることを見出し、本発明を成すに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0013】
1.少なくとも、基板と、陽極と陰極によって挟持された有機機能層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陽極と前記陰極の少なくともどちらか一方の電極(K)が、金属粒子及び不揮発性の有機物を含有する金属薄膜層であり、
前記電極(K)の前記有機機能層側の界面から厚さ方向に10nmの範囲部分において、前記金属粒子の総含有量(A)に対する前記不揮発性の有機物の総含有量(B)の質量比率(B/A)が、0.01~0.10の範囲内であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0014】
2.前記電極(K)が、前記有機機能層に対して基板から遠い側の電極であることを特徴とする第1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0015】
3.前記電極(K)の前記有機機能層側とは逆側の界面から厚さ方向に10nmの範囲部分において、前記質量比率(B/A)が、0.01~0.05の範囲内であることを特徴とする第1項又は第2項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0016】
4.前記電極(K)が、1mm当たり20~300μgの範囲内の水を含有することを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0017】
5.前記電極(K)が、1mm当たり4~100μgの範囲内の有機溶媒を含有することを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0018】
6.前記金属粒子の金属が、銀であることを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0019】
7.前記基板が、フレキシブル基板であることを特徴とする第1項から第6項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0020】
8.第1項から第7項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記基板上に前記陽極又は陰極のいずれか一方と有機機能層とをこの順に形成する工程と、
前記金属粒子と前記不揮発性の有機物を含有する分散液を調製する工程と、
前記分散液を前記有機機能層上に塗布及び乾燥して前記電極(K)を形成する工程と、を有し、
前記分散液を、金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比が、1:0.01~1:0.10の範囲内となるように調製することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0021】
9.さらに、前記電極(K)を前記有機機能層側から第1の電極層(K1)及び第2の電極層(K2)の2層構成で形成する工程を有し、
当該工程において、
前記金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比が、1:0.01~1:0.10の範囲内となるように分散液を調製し、当該分散液を前記有機機能層上に塗布及び乾燥して第1の電極層(K1)を形成し、次いで、
前記金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比が、1:0.01~1:0.05の範囲内となるように分散液を調製し、当該分散液を前記第1の電極層(K1)上に塗布及び乾燥して第2の電極層(K2)を形成することを特徴とする第8項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0022】
10.前記分散液をディスペンサー又はインクジェット印刷法で塗布する工程と、
前記塗布した分散液を乾燥し、次いで焼成する工程と、を有することを特徴とする第8項又は第9項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の上記手段により、低抵抗であり、有機機能層と電極の密着性に優れることにより、高温保存時の折り曲げ耐性や発光効率及び駆動寿命に優れる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【0024】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0025】
発光層を含む有機機能層上に、前記陽極と前記陰極の少なくともどちらか一方の電極を塗布プロセスにて形成する場合、金属粒子の分散液を調製し金属薄膜層として塗布することができる。前記分散液中において、金属粒子は分散剤により保護され分散されている。本発明者らは、分散剤は、抵抗成分となり、できるだけ減らした方がよいと考えたが、前記電極中に前記分散剤である有機物が含まれることで、下層の有機機能層との密着性が向上し、折り曲げ耐性や高温保存時の発光効率及び駆動寿命に優れることを見出した。
【0026】
元来、無機物と有機物の界面の密着性は悪いことが多いが、金属電極中に微量の有機物が含まれることで、下層の有機機能層に対して、ファンデルワールス力が強くなったため密着性を向上できたものと推定している。さらに、金属粒子を用いて金属薄膜層を形成することで、密着性に加えて、低抵抗であり、高温保存時の発光効率及び駆動寿命に優れる有機エレクトロルミネッセンス素子が得られたものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】切削試料の断面図
図2】本発明の有機EL素子の層構成の一例を示す断面図
図3】本発明に係る電極(K)が2層構成の場合の断面図
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも、基板と、陽極と陰極によって挟持された有機機能層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陽極と前記陰極の少なくともどちらか一方の電極(K)が、金属粒子及び不揮発性の有機物を含有する金属薄膜層であり、前記電極(K)の前記有機機能層側の界面から厚さ方向に10nmの範囲部分において、前記金属粒子の総含有量(A)に対する前記不揮発性の有機物の総含有量(B)の質量比率(B/A)が、0.01~0.10の範囲内であることを特徴とする。この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0029】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記電極(K)が、前記有機機能層に対して基板から遠い側の電極であることが、本発明の効果を有効に活用する観点から、好ましい。
【0030】
また、前記電極(K)の前記有機機能層側とは逆側の界面から厚さ方向に10nmの範囲部分において、前記質量比率(B/A)が、0.01~0.05の範囲内であることが、電極内部で有機物が濃度勾配を有して、前記有機機能層側に有機物の濃度を高くすることができるため、密着性と低抵抗を両立する観点から、好ましい。
【0031】
前記電極(K)が、1mm当たり20~300μgの範囲内の水を含有することが、隣接層である有機機能層の溶解を抑制する観点から、好ましい。
【0032】
さらに、前記電極(K)が、1mm当たり4~100μgの範囲内の有機溶媒を含有することが、塗布性を向上し、均一な金属薄膜層を形成する観点から、好ましい。
【0033】
また、前記金属粒子の金属が銀であることが、発光効率及び駆動寿命に優れる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する観点から、好ましい。
【0034】
また、前記基板が、フレキシブル基板であることが、有機エレクトロルミネッセンス素子のフレキシブル化及び軽量化の観点から、好ましい。
【0035】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、前記基板上に前記陽極又は陰極のいずれか一方と有機機能層とをこの順に形成する工程と、前記金属粒子と前記不揮発性の有機物を含有する分散液を調製する工程と、前記分散液を前記有機機能層上に塗布及び乾燥して前記電極(K)を形成する工程と、を有し、前記分散液を、金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比が、1:0.01~1:0.10の範囲内となるように調製することを特徴とする。
【0036】
さらに、前記電極(K)を前記有機機能層側から第1の電極層(K1)及び第2の電極層(K2)の2層構成で形成する工程を有し、当該工程において、前記金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比が、1:0.01~1:0.10の範囲内となるように分散液を調製し、当該分散液を前記有機機能層上に塗布及び乾燥して第1の電極層(K1)を形成し、次いで、前記金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比が、1:0.01~1:0.05の範囲内となるように分散液を調製し、当該分散液を前記第1の電極層(K1)上に塗布及び乾燥して第2の電極層(K2)を形成することで、電極内部で有機物の濃度勾配を簡易に作製でき、前記有機機能層側の界面の有機物の濃度を高くすることができるため、密着性と低抵抗を両立する観点から、好ましい態様である。
【0037】
前記分散液は、ディスペンサー又はインクジェット印刷法で塗布する工程と、前記塗布した分散液を乾燥し、次いで焼成する工程と、を有することが、高生産性で低抵抗な有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する観点から、好ましい製造方法である。
【0038】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0039】
≪本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の概要≫
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも、基板と、陽極と陰極によって挟持された有機機能層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記陽極と前記陰極の少なくともどちらか一方の電極(K)が、金属粒子及び不揮発性の有機物を含有する金属薄膜層であり、前記電極(K)の前記有機機能層側の界面から厚さ方向に10nmの範囲部分において、前記金属粒子の総含有量(A)に対する前記不揮発性の有機物の総含有量(B)の質量比率(B/A)が、0.01~0.10の範囲内であることを特徴とする。
【0040】
上記電極(K)の有機機能層側の界面から厚さ方向に10nmの範囲部分の金属粒子と不揮発性の有機物の質量比率の測定は以下の方法にて行うことができる。
【0041】
図1は、本発明の有機EL素子を用いた切削試料の断面図である。
【0042】
有機EL素子(1)は、基板(2)上に有機機能層(4)を有し、当該有機機能層上に上記該当電極(K)(3)が積層され、かつ、有機機能層(4)と基板(2)の間に、他方の電極を有する。
【0043】
当該有機EL素子(1)を用いて、例えば、ダイプラ・ウィンテス社製斜め切削装置NN-04Tを用いて、有機EL素子試料を0.20度の角度で断面を作製する。
【0044】
切り出した断面の、有機機能層(4)と電極との界面(6)から、2.86μm部分(7)を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS:フィジカルエレクトロニクス(株)製)を用いて組成分析することで界面から厚さ方向に10nm部分の組成を求めることができる。
【0045】
なお、事前に金属粒子と有機物の質量比率を変えた試料を作製し、飛行時間型二次イオン質量分析装置において検出信号と質量を換算する検量線を作製する。
【0046】
また、有機機能層側とは逆側の界面から厚さ方向に10nmの範囲部分の金属粒子と不揮発性の有機物の含有量の質量比率は、同様な方法にて測定することができる。
【0047】
《有機EL素子の構成要素》
本発明の有機EL素子は、基板上に形成された有機機能層と接する陽極又は陰極の少なくともどちらか一方の電極(K)が、金属粒子及び不揮発性の有機物を含有する金属薄膜層であり、前記電極(K)の前記有機機能層側の界面から厚さ方向に10nmの範囲において、前記金属粒子の質量(A)に対する前記不揮発性の有機物の質量(B)の質量比率(B/A)が、0.01~0.10の範囲内であることを特徴とする。
【0048】
本発明に係る前記電極(K)は、陽極又は陰極の少なくともどちらか一方の電極であるが、本発明の好ましい実施態様は、本発明の効果を有効に活用する観点から、前記電極(K)が、前記有機機能層に対して基板から遠い側の電極であることが好ましい。基板側の電極は、例えば、基板としてガラス基材を用いた場合やガスバリアーフィルムを用いた場合は、基板表面とそれに接する電極との密着性は無機物同士の積層であるためあまり問題にならず、また、当該電極を塗布形成するのに溶媒を使用しても、下層への影響は小さい。
【0049】
しかしながら、前記有機機能層に対して基板から遠い側の電極は、有機物含有層と無機化合物含有電極の積層であることにより密着性の問題が発生しやすく、当該電極を塗布するのに溶媒を使用した場合、当該溶媒が有機機能層へ拡散して機能に影響する度合いは大きい。
【0050】
したがって、本発明に係る電極(K)は、前記有機機能層に対して基板から遠い側の電極に適用して、本発明の効果を十分に発現することが好ましい。通常、有機EL素子の一般的な構成の場合、基板から遠い側の電極は陰極であるため、以下、本発明に係る電極(K)を、陰極として説明するが、それに限定されるものではなく、層構成によっては陽極の場合もあり得る。
【0051】
図2は、本発明の有機EL素子の層構成の一例を示す断面図である。
【0052】
本発明の有機EL素子ELは、好ましくは可撓性を有する基板10上にガスバリアー層11を形成してガスバリアー性を有する基板として用いることが好ましい。当該基板上に陽極12を形成し、その上に正孔注入層/正孔輸送層/電子阻止層糖の第1の有機機能層13、発光層14及び正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層などの第2の有機機能層15を、この順に積層形成し、有機機能層ユニット16とする。次いで、当該第2の有機機能層15の上層として、本発明に係る電極(K)である陰極17を形成し、有機機能層と電極を封止用接着層18と介して封止基板19で封止し、有機EL素子を形成する。
【0053】
図3は、本発明に係る電極(K)が2層構成の場合の断面図である。
【0054】
下層である第2の有機機能層15上に、第1の電極層(K1)及び第2の電極層(K2)の2層構成の電極(K)を形成し陰極17とする。
【0055】
以下、本発明の有機EL素子の各要素について、その詳細を説明する。
【0056】
〔1〕基板
有機EL素子(EL)に適用可能な基板10としては、特に制限はなく、例えば、ガラス、プラスチック等の種類を挙げることができる。更には、基板がフレキシブル性を有していることが好ましい。本発明でいうフレキシブル性とは、直径5mmのABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエンースチレン共重合体樹脂)製の棒に10回巻きつけと開放を繰り返した後、目視確認にて基板に割れや欠け等の損傷がない特性をいう。
【0057】
本発明において、最表面(光放射面側)に配置される基板10は、透明基板であることが好ましく、「透明」とは、可視光領域における平均光線透過率が50%以上であることをいい、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上である。
【0058】
すなわち、本発明においては、基板10側から光Lを取り出す構成では、基板10は透明材料であることが必要であり、好ましく用いられる透明なフレキシブル基板10としては、ガラス、石英、樹脂基板を挙げることができ、更に好ましくは、フレキシブル性と安全性の観点から樹脂基板である。
【0059】
本発明に適用可能な樹脂基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(略称:PET)、ポリエチレンナフタレート(略称:PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(略称:TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(略称:CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類及びそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート(略称:PC)、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(略称:PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル及びポリアリレート類、アートン(商品名、JSR社製)及びアペル(商品名、三井化学社製)等のシクロオレフィン等を挙げることができる。
【0060】
これら樹脂基板のうち、コストや入手の容易性の点では、ポリエステルフィルムである、ポリエチレンテレフタレート(略称:PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(略称:PEN)等の透明樹脂フィルムが可撓性の樹脂基板として好ましく用いられる。
【0061】
ポリエステルフィルムを構成するポリエステルとしては、特に限定されるものではないが、ジカルボン酸成分とジオール成分を主要な構成成分とするフィルム形成性を有するポリエステルであることが好ましい。中でも透明性、機械的強度、寸法安定性等の点から、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸や2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジオール成分として、エチレングリコールや1,4-シクロヘキサンジメタノールを主要な構成成分とするポリエステルが好ましい
透明樹脂フィルムとしては、二軸配向ポリエステルフィルムであることが特に好ましいが、未延伸又は少なくとも一方に延伸された一軸延伸ポリエステルフィルムを用いることもできる。強度向上、熱膨張抑制の点から延伸フィルムが好ましい。
【0062】
透明基板として透明樹脂フィルムを用いる場合、取り扱いを容易にするために、透明性を損なわない範囲内で、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、シリカ、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン等の無機微粒子や、架橋高分子微粒子、シュウ酸カルシウム等の有機微粒子を含有することが好ましい。また、安定剤、潤滑剤、架橋剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、染料、顔料及び紫外線吸収剤等を含有することも好ましい。
【0063】
樹脂基板の厚さとしては、10~500μmの範囲内にある薄膜の樹脂基板であることが好ましいが、より好ましくは30~400μmの範囲内であり、特に好ましくは、50~300μmの範囲内である。厚さが10μm以上であれば、有機EL素子を安定して保持することができ、厚さが500μm以下であれば、薄型の有機EL素子を提供することができる。
【0064】
また、本発明に係る基板10上には、ガスバリアー層11を設けることができる。ガスバリアー層としては、気体や水分等の遮断効果を有していれば、特に制限はなく、従来公知のガスバリアー層を適宜選択して適用することができる。
【0065】
ガスバリアー層は、無機材料被膜だけでなく、有機材料との複合材料からなる被膜又はこれらの被膜を積層したハイブリッド被膜であってもよい。ガスバリアー層の性能としては、JIS(日本工業規格)-K7129(2008年)に準拠した水蒸気透過度(環境条件:25±0.5℃、相対湿度(90±2)%)が約0.01g/(m・24h)以下、JIS-K7126(2006年)に準拠した酸素透過度が約0.01mL/(m・24h・atm)以下、抵抗率が1×1012Ω・cm以上、光線透過率は可視光領域で約80%以上であるような、ガスバリアー性を有する光透過性を有する絶縁膜であることが好ましい。
【0066】
ガスバリアー層の形成材料としては、有機EL素子の劣化を招く、例えば水や酸素等のガスの有機EL素子への浸入を抑制できる材料であれば、任意の材料を用いることができる。
【0067】
例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸炭化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化モリブデン等の無機材料からなる被膜で構成することができ、好ましくは、窒化ケイ素や酸化ケイ素等のケイ素化合物を主原料とする構成である。
【0068】
ガスバリアー層の形成方法としては、従来公知の成膜方法を適宜選択して用いることができ、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、マグネトロンスパッタ法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法(特開2004-68143号公報参照)、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法、レーザーCVD法、熱CVD法、ALD(
原子層堆積)法、また、ポリシラザン等を用いた湿式塗布法を適用することもできる。
【0069】
〔2〕電極
本発明に係る電極(K)は、陽極と陰極の少なくともどちらか一方の電極であり、金属粒子及び不揮発性の有機物を含有する金属薄膜層であり、かつ、当該電極(K)の有機機能層側の界面から厚さ方向に10nmの範囲部分において、前記金属粒子の総含有量(A)に対する前記不揮発性の有機物の総含有量(B)の質量比率(B/A)が、0.01~0.10の範囲内であることを特徴とする。
【0070】
また、本発明に係る電極(K)は、有機機能層に対して基板から遠い側の電極に適用して、本発明の効果を十分に発現することが好ましい。通常、有機EL素子の一般的な構成の場合、基板から遠い側の電極は陰極であるため、以下、本発明に係る電極(K)を、陰極として説明する
〔2.1〕電極(K)(陰極)
本発明に係る電極(K)(以下、陰極という場合もある。)は、金属粒子及び不揮発性の有機物を含有する金属薄膜層である。
【0071】
陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)又は合金を電極物質とするものが用いられる。
【0072】
金属粒子は、その形状から金属ナノ粒子とも呼称される金属微粒子であることが好ましい。
【0073】
金属粒子とは、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、及び銅等などの微粒子で、特に、粒径が1μm以下の粒子をいう。中でも、金、銀、白金、及び銅が好ましく、特に銀であることが好ましい。
【0074】
金属粒子のアスペクト比は、1~5の範囲が好ましく、1~3の範囲がより好ましい。アスペクト比が1に近く真球に近いほうが、金属粒子からなる膜の密度が高くなり有機機能層との接触面積も高くなり、密着性や折り曲げ耐性が良くなる。
【0075】
また、金属粒子の平均粒径は、10~100nmの範囲であることが好ましく、15~80nmの範囲がより好ましく、20~60nmの範囲が最も好ましい。金属粒子の平均粒径は種々の方法で測定することができるが、本発明では動的光散乱法による粒径測定装置(Malvern Instruments社製、Zetasizer Nano S)を用いた粒度分布の測定から求めた値とする。
【0076】
次に、本発明に係る不揮発性の有機物とは、沸点が300℃以上の有機物をいう。
【0077】
当該不揮発性の有機物は、金属粒子の分散液中で、金属粒子の分散安定性を高め、又、有機EL素子中では有機機能層と金属粒子から形成されてなる電極の密着性を向上させるため添加される。
【0078】
不揮発性の有機物としては、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体、ポリビニルアルコール類、ゼラチン、セルロース類、増粘多糖類、アミンと脂肪族を有するポリマー(例えば、ポリエチレンイミン)などを用いることができる。
【0079】
また、特開平11-80647号公報の明細書段落〔0020〕~〔0037〕に記載の高分子量顔料分散剤、特開2018-81246号公報の明細書段落〔0030〕~〔0039〕に記載のラジカル重合性モノマー、及び特開2008-117656号公報の明細書段落〔0027〕及び〔0028〕記載の重合体又は界面活性剤等の材料なども用いることができる。
【0080】
金属粒子及び不揮発性の有機物を含有する分散液を調製する際には、水及び有機溶媒を下記所定の量を用いることが好ましい。
【0081】
陰極の塗布溶媒は水であることが、下層への溶媒の拡散による溶解等の影響を抑制する観点から好ましいが、有機溶媒等を少量添加すると、有機機能層に対する分散液の濡れ広がり性が良くなり、有機機能層と金属粒子及び不揮発性の有機物から形成される電極の密着性がより向上するため、好ましい。
【0082】
すなわち、本発明に係る電極(K)は、1mm当たり20~300μgの範囲内の水を含有することや、1mm当たり4~100μgの範囲内の有機溶媒を含有することが好ましく、当該含有量の範囲になるように、水及び有機溶媒を分散液の調製に用いることが好ましい。水と有機溶媒の混合比率は、水:有機溶媒が質量比で5:5~9:1の範囲であることが好ましく、6:4~8:2の範囲であることがより好ましい。
上記電極(K)における水分やアルコールの量は、ガスクロマトグラフ質量分析計や昇温熱脱離分析装置などで測定することができる。また、具体的な装置として、電子科学社製の昇温熱脱離分析装置により測定を行うことができる。
【0083】
有機溶媒としては、沸点が50~250℃の範囲の有機溶媒を用いることが好ましい。
【0084】
中でもアルコールが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチルプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、メトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、3-メトキシ-1-ブタノール、1-エトキシ-2-プロパノール、2-n-ブトキシエタノール、メチルプロピレンジグリコール、2-(2-n-ブトキシエトキシ)エタノールなどを用いることができる。
【0085】
本発明の有機EL素子の製造方法は、前記基板上に本発明に係る電極(K)以外の電極、好ましくは陽極と有機機能層とをこの順に形成する工程と、前記金属粒子と前記不揮発性の有機物を含有する分散液を金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比が、1:0.01~1:0.10の範囲内となるように調製する工程と、前記分散液を前記有機機能層上に塗布及び乾燥して前記電極(K)を形成する工程と、を有することを特徴とする。
前記分散液を調製するときの分散方法としては、前記金属粒子、前記不揮発性の有機物,及び溶媒を混合して、超音波分散、高剪断力分散やメディア分散等の分散方法により分散することができる。
金属粒子、不揮発性の有機物及び溶媒を含む分散液の塗布方法には制限はないが、ディスペンサー法やインクジェット印刷法、及びダイコート法などが膜厚を適切にコントロールできるため好ましい。中でも、ディスペンサー法やインクジェット印刷法であることが塗布における容易性と精度の観点から、好ましい。
【0086】
金属粒子及び不揮発性の有機物を含む分散液の塗布後の乾燥方法としては、特に制限はないが、赤外線乾燥や送風乾燥、温風乾燥で初期乾燥を行うことが好ましく、その後、恒温槽、ホットプレートなどで焼成することが好ましい。このように乾燥することで、金属粒子から形成されてなる電極の有機機能層側の界面から厚さ方向に10nmの範囲部位の不揮発性の有機物の濃度を適切にコントロールすることができる。
【0087】
本発明に係る電極(K)は、第1の電極層(K1)及び第2の電極層(K2)の2層構成で塗布、形成して、有機機能層との界面付近の不揮発性の有機物の含有量を調整することが好ましい。好ましい理由としては、金属粒子から形成されてなる電極に、不揮発性の有機物が加わることで導電性が下がるためである。有機機能層と接する金属粒子から形成されてなる電極は密着性に十分な不揮発性の有機物を添加し、その上層に不揮発性の有機物の含有量が少なく低抵抗な金属粒子から形成されてなる電極を設けることで、密着性に加えてより高い導電性を確保し、有機EL素子の電力効率を向上させることができる。
したがって、前記電極(K)の前記有機機能層側とは逆側の界面から厚さ方向に10nmの範囲部分において、前記質量比率(B/A)が、0.01~0.05の範囲内とすることが、好ましい。
【0088】
本発明の好ましい実施態様としては、本発明に係る電極(K)を前記有機機能層側から第1の電極層(K1)及び第2の電極層(K2)の2層構成で形成する工程を有し、当該工程において、前記金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比が、1:0.01~1:0.10の範囲内となるように分散液を調製し、当該分散液を前記有機機能層上に塗布及び乾燥して第1の電極層(K1)を形成し、次いで、前記金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比が、1:0.01~1:0.05の範囲内となるように分散液を調製し、当該分散液を前記第1の電極層(K1)上に塗布及び乾燥して第2の電極層(K2)を形成することが好ましい。
【0089】
陰極全体としてのシート抵抗は数百Ω/sq.以下が好ましく、厚さは通常10nm~5μm、好ましくは50~500nmの範囲で選ばれる。
【0090】
〔2.2〕陽極
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上、好ましくは4.5eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウム・スズ酸化物(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。
【0091】
陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、又はパターン精度を余り必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
【0092】
又は、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/sq.以下が好ましい。
陽極の膜厚は材料にもよるが、通常10nm~1μmの範囲、好ましくは10~200nmの範囲で選ばれる。
【0093】
〔3〕有機機能層
以下の構成説明では、便宜上、1つの発光層(14)による構成のみを示し、積層したタンデム構成についての記載は省略する。
【0094】
以下に、有機EL素子の構成の代表例を示す。陽極と陰極を除く層が有機機能層である。
【0095】
(i)陽極/有機機能層ユニット〔第1の有機機能層(正孔注入輸送層)/発光層/第2の有機機能層〕/陰極
(ii)陽極/有機機能層ユニット〔第1の有機機能層(正孔注入輸送層)/発光層/第2の有機機能層(正孔阻止層/電子注入輸送層)〕/陰極
(iii)陽極/有機機能層ユニット〔第1の有機機能層(正孔注入輸送層/電子阻止層)/発光層/第2の有機機能層(正孔阻止層/電子注入輸送層)〕/陰極
(iV)陽極/有機機能層ユニット〔第1の有機機能層(正孔注入層/正孔輸送層)/発光層/第2の有機機能層(電子輸送層/電子注入層)〕/陰極
(V)陽極/有機機能層ユニット〔第1の有機機能層(正孔注入層/正孔輸送層)/発光層/第2の有機機能層(正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層)〕/陰極
(Vi)陽極/有機機能層ユニット〔第1の有機機能層(正孔注入層/正孔輸送層/電子阻止層)/発光層/第2の有機機能層(正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層)〕/陰極
更に、複数の発光層を構成する場合には、発光層間に非発光性の中間層を有していてもよい。中間層は、電荷発生層であってもよく、マルチフォトンユニット構成であってもよい。
【0096】
本発明に適用可能な有機EL素子の概要については、例えば、特開2013-157634号公報、特開2013-168552号公報、特開2013-177361号公報、特開2013-187211号公報、特開2013-191644号公報、特開2013-191804号公報、特開2013-225678号公報、特開2013-235994号公報、特開2013-243234号公報、特開2013-243236号公報、特開2013-242366号公報、特開2013-243371号公報、特開2013-245179号公報、特開2014-003249号公報、特開2014-003299号公報、特開2014-013910号公報、特開2014-017493号公報、特開2014-017494号公報等に記載されている構成を挙げることができる。
【0097】
また、タンデム型の有機EL素子の具体例としては、例えば、米国特許第6337492号明細書、米国特許第7420203号明細書、米国特許第7473923号明細書、米国特許第6872472号明細書、米国特許第6107734号明細書、米国特許第6337492号明細書、特開2006-228712号公報、特開2006-24791号公報、特開2006-49393号公報、特開2006-49394号公報、特開2006-49396号公報、特開2011-96679号公報、特開2005-340187号公報、特許第4711424号公報、特許第3496681号公報、特許第3884564号公報、特許第4213169号公報、特開2010-192719号公報、特開2009-076929号公報、特開2008-078414号公報、特開2007-059848号公報、特開2003-272860号公報、特開2003-045676号公報、国際公開第2005/009087号、国際公開第2005/094130号等に記載の素子構成や構成材料等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0098】
更に、有機EL素子を構成する各層について説明する。
【0099】
(発光層)
有機EL素子(EL)を構成する発光層は、発光材料としてリン光発光化合物、又は蛍光性化合物を用いることができるが、本発明においては、特に、発光材料としてリン光発光化合物が含有されている構成が好ましい。
【0100】
この発光層は、電極又は電子輸送層から注入された電子と、正孔輸送層から注入された正孔とが再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接する層との界面であってもよい。
【0101】
このような発光層としては、含まれる発光材料が発光要件を満たしていれば、その構成には特に制限はない。また、同一の発光スペクトルや発光極大波長を有する層が複数層あってもよい。この場合、各発光層間には非発光性の中間層を有していることが好ましい。
【0102】
発光層の厚さの総和は、1~100nmの範囲内にあることが好ましく、より低い駆動電圧を得ることができることから1~30nmの範囲内がさらに好ましい。なお、発光層の厚さの総和とは、発光層間に非発光性の中間層が存在する場合には、当該中間層も含む厚さである。
【0103】
以上のような発光層は、後述する発光材料やホスト化合物を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法(ラングミュア・ブロジェット、Langmuir Blodgett法)及びインクジェット法等の公知の方法により形成することができる。
【0104】
また発光層は、複数の発光材料を混合してもよく、リン光発光材料と蛍光発光材料(蛍光ドーパント、蛍光性化合物ともいう)とを同一発光層中に混合して用いてもよい。発光層の構成としては、ホスト化合物(発光ホスト等ともいう)及び発光材料(発光ドーパント化合物ともいう。)を含有し、発光材料より発光させることが好ましい。
【0105】
〈ホスト化合物〉
発光層に含有されるホスト化合物としては、室温(25℃)におけるリン光発光のリン光量子収率が0.1未満の化合物が好ましい。さらにリン光量子収率が0.01未満であることが好ましい。また、発光層に含有される化合物の中で、その層中での体積比が50%以上であることが好ましい。
【0106】
ホスト化合物としては、公知のホスト化合物を単独で用いてもよく、又は複数種のホスト化合物を用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機電界発光素子を高効率化することができる。また、後述する発光材料を複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。
【0107】
発光層に用いられるホスト化合物としては、従来公知の低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(蒸着重合性発光ホスト)でもよい。
【0108】
本発明に適用可能なホスト化合物としては、例えば、特開2001-257076号公報、同2001-357977号公報、同2002-8860号公報、同2002-43056号公報、同2002-105445号公報、同2002-352957号公報、同2002-231453号公報、同2002-234888号公報、同2002-260861号公報、同2002-305083号公報、米国特許出願公開第2005/0112407号明細書、米国特許出願公開第2009/0030202号明細書、国際公開第2001/039234号、国際公開第2008/056746号、国際公開第2005/089025号、国際公開第2007/063754号、国際公開第2005/030900号、国際公開第2009/086028号、国際公開第2012/023947号、特開2007-254297号公報、欧州特許第2034538号明細書等に記載されている化合物を挙げることができる。
【0109】
〈発光材料〉
本発明で用いることのできる発光材料としては、リン光発光性化合物(リン光性化合物、リン光発光材料又はリン光発光ドーパントともいう。)及び蛍光発光性化合物(蛍光性化合物又は蛍光発光材料ともいう。)が挙げられるが、特に、リン光発光性化合物を用いることが、高い発光効率を得ることができる観点から好ましい。
【0110】
〈リン光発光性化合物〉
リン光発光性化合物とは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましいリン光量子収率は0.1以上である。
【0111】
上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は、種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明においてリン光発光性化合物を用いる場合、任意の溶媒のいずれかにおいて、上記リン光量子収率として0.01以上が達成されればよい。
【0112】
リン光発光性化合物は、一般的な有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができるが、好ましくは元素の周期表で8~10族の金属を含有する錯体系化合物であり、さらに好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、白金化合物(白金錯体系化合物)又は希土類錯体であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
【0113】
本発明においては、少なくとも一つの発光層が、二種以上のリン光発光性化合物が含有されていてもよく、発光層におけるリン光発光性化合物の濃度比が発光層の厚さ方向で変化している態様であってもよい。
【0114】
本発明に使用できる公知のリン光発光性化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物等が挙げられる。
【0115】
Nature 395,151(1998)、Appl.Phys.Lett.78, 1622(2001)、Adv.Mater.19,739(2007)、Chem.Mater.17,3532(2005)、Adv.Mater.17,1059(2005)、国際公開第2009/100991号、国際公開第2008/101842号、国際公開第2003/040257号、米国特許出願公開第2006/835469号明細書、米国特許出願公開第2006/0202194号明細書、米国特許出願公開第2007/0087321号明細書、米国特許出願公開第2005/0244673号明細書等に記載の化合物を挙げることができる。
【0116】
また、Inorg.Chem.40,1704(2001)、Chem.Mater.16,2480(2004)、Adv.Mater.16,2003(2004)、Angew.Chem.lnt.Ed.2006,45,7800、Appl.Phys.Lett.86,153505(2005)、Chem.Lett.34,592(2005)、Chem.Commun.2906(2005)、Inorg.Chem.42,1248(2003)、国際公開第2009/050290号、国際公開第2009/000673号、米国特許第7332232号明細書、米国特許出願公開第2009/0039776号、米国特許第6687266号明細書、米国特許出願公開第2006/0008670号明細書、米国特許出願公開第2008/0015355号明細書、米国特許
第7396598号明細書、米国特許出願公開第2003/0138657号明細書、米国特許第7090928号明細書等に記載の化合物を挙げることができる。
【0117】
また、Angew.Chem.lnt.Ed.47,1(2008)、Chem.Mater.18,5119(2006)、Inorg.Chem.46,4308(2007)、Organometallics 23,3745(2004)、Appl.Phys.Lett.74,1361(1999)、国際公開第2006/056418号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2006/082742号、米国特許出願公開第2005/0260441号明細書、米国特許第7534505号明細書、米国特許出願公開第2007/0190359号明細書、米国特許第7338722号明細書、米国特許第7279704号明細書、米国特許出願公開第2006/103874号明細書等に記載の化合物も挙げることができる。
【0118】
さらには、国際公開第2005/076380号、国際公開第2008/140115号、国際公開第2011/134013号、国際公開第2010/086089号、国際公開第2012/020327号、国際公開第2011/051404号、国際公開第2011/073149号、特開2009-114086号公報、特開2003-81988号公報、特開2002-363552号公報等に記載の化合物も挙げることができる。
【0119】
本発明においては、好ましいリン光発光性化合物としてはIrを中心金属に有する有機金属錯体が挙げられる。さらに好ましくは、金属-炭素結合、金属-窒素結合、金属-酸素結合、金属-硫黄結合の少なくとも1つの配位様式を含む錯体が好ましい。
【0120】
上記説明したリン光発光性化合物(リン光発光性金属錯体ともいう)は、例えば、Organic Letter誌、vol3、No.16、2579~2581頁(2001)、Inorganic Chemistry,第30巻、第8号、1685~1687頁(1991年)、J.Am.Chem.Soc.,123巻、4304頁(2001年)、Inorganic Chemistry,第40巻、第7号、1704~1711頁(2001年)、Inorganic Chemistry,第41巻、第12号、3055~3066頁(2002年)、New Journal of Chemistry.,第26巻、1171頁(2002年)、European Journal of Organic Chemistry,第4巻、695~709頁(2004年)、さらにこれらの文献中に記載されている参考文献等に開示されている方法を適用することにより合成することができる。
【0121】
〈蛍光発光性化合物〉
蛍光発光性化合物としては、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素又は希土類錯体系蛍光体等が挙げられる。
【0122】
(その他有機機能層)
次いで、有機機能層ユニットを構成する各層について、電荷注入層、正孔輸送層、電子輸送層及び阻止層の順に説明する。
【0123】
〈電荷注入層〉
電荷注入層は、駆動電圧低下や発光輝度向上のために、電極と発光層の間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123~166頁)にその詳細が記載されており、正孔注入層と電子注入層とがある。
【0124】
電荷注入層としては、一般には、正孔注入層であれば、陽極と発光層又は正孔輸送層との間、電子注入層であれば陰極と発光層又は電子輸送層との間に存在させることができるが、本発明においては、透明電極に隣接して電荷注入層を配置させることを特徴とする。また、中間電極で用いられる場合は、隣接する電子注入層及び正孔注入層の少なくとも一方が、本発明の要件を満たしていれば良い。
【0125】
正孔注入層は、駆動電圧低下や発光輝度向上のために、透明電極である陽極に隣接して配置される層であり、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123~166頁)に詳細に記載されている。
【0126】
正孔注入層は、特開平9-45479号公報、同9-260062号公報、同8-288069号公報等にもその詳細が記載されており、それらの化合物を正孔注入層に用いることができる。
【0127】
また、特表2003-519432号公報や特開2006-135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体も同様に正孔輸送材料として用いることができる。
【0128】
電子注入層は、駆動電圧低下や発光輝度向上のために、陰極と発光層との間に設けられる層のことであり、陰極が本発明に係る透明電極で構成されている場合には、当該透明電極に隣接して設けられ、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123~166頁)に詳細に記載されている。
【0129】
電子注入層は、特開平6-325871号公報、同9-17574号公報、同10-74586号公報等にもその詳細が記載されており、これらに記載されている材料を、電子注入層に好ましく用いることができる。電子注入層はごく薄い膜であることが望ましく、構成材料にもよるが、その層厚は1nm~10μmの範囲が好ましい。
【0130】
〈正孔輸送層〉
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層及び電子阻止層も正孔輸送層の機能を有する。正孔輸送層は単層又は複数層設けることができる。
【0131】
正孔輸送材料としては、正孔の注入又は輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。
【0132】
正孔輸送材料としては、上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物を用いることができ、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0133】
正孔輸送層は、上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法及びLB法(ラングミュア・ブロジェット、Langmuir Blodgett法)等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の層厚については特に制限はないが、通常は5nm~5μm程度、好ましくは5~200nmの範囲である。この正孔輸送層は、上記材料の一種又は二種以上からなる一層構造であってもよい。
【0134】
また、正孔輸送層の材料に不純物をドープすることにより、p性を高くすることもできる。その例としては、特開平4-297076号公報、特開2000-196140号公報、同2001-102175号公報及びJ.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0135】
このように、正孔輸送層のp性を高くすると、より低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
【0136】
〈電子輸送層〉
電子輸送層は、電子を輸送する機能を有する材料から構成され、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は、単層構造又は複数層の積層構造として設けることができる。
【0137】
単層構造の電子輸送層及び積層構造の電子輸送層において、発光層に隣接する層部分を構成する電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、カソードより注入された電子を発光層に伝達する機能を有していれば良い。このような材料としては、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン、アントロン誘導体及びオキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送層の材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した高分子材料又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0138】
また、8-キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8-キノリノール)アルミニウム(略称:Alq)、トリス(5,7-ジクロロ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7-ジブロモ-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(2-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、トリス(5-メチル-8-キノリノール)アルミニウム、ビス(8-キノリノール)亜鉛(略称:Znq)等及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送層の材料として用いることができる。
【0139】
電子輸送層は、上記材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法及びLB法等の公知の方法により、薄膜化することで形成することができる。電子輸送層の層厚については特に制限はないが、通常は5nm~5μm程度、好ましくは5~200nmの範囲内である。電子輸送層は上記材料の一種又は二種以上からなる単一構造であってもよい。
【0140】
〈阻止層〉
阻止層としては、正孔阻止層及び電子阻止層が挙げられ、上記説明した有機機能層ユニット3の各構成層の他に、必要に応じて設けられる層である。例えば、特開平11-204258号公報、同11-204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層等を挙げることができる。
【0141】
正孔阻止層とは、広い意味では、電子輸送層の機能を有する。正孔阻止層は、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、電子輸送層の構成を必要に応じて、正孔阻止層として用いることができる。正孔阻止層は、発光層に隣接して設けられていることが好ましい。
【0142】
一方、電子阻止層とは、広い意味では、正孔輸送層の機能を有する。電子阻止層は、正孔を輸送する機能を有しつつ、電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。本発明に適用する正孔阻止層の層厚としては、好ましくは3~100nmの範囲であり、さらに好ましくは5~30nmの範囲である。
【0143】
本発明に係る有機機能層の形成方法としては、特に制限はなく、従来公知の、例えば、真空蒸着法、湿式法(ウェットプロセスともいう。)等による形成方法を用いることができる。
【0144】
湿式法としては、スピンコート法、キャスト法、ディスペンサー法、インクジェット印刷法、印刷法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法(ラングミュア-ブロジェット法)等があるが、均質な薄膜が得られやすく、かつ高生産性の点から、ディスペンサー法、ダイコート法、インクジェット印刷法、スプレーコート法などのロール・トゥ・ロール方式適性の高い方法が好ましい。中でも、インクジェット印刷法であることが、塗布における容易性と精度の観点から、好ましい。
【0145】
例えば、本発明に適用可能なインクジェットヘッドは、例えば、特開2012-140017号公報、特開2013-010227号公報、特開2014-058171号公報、特開2014-097644号公報、特開2015-142979号公報、特開2015-142980号公報、特開2016-002675号公報、特開2016-002682号公報、特開2016-107401号公報、特開2017-109476号公報、特開2017-177626号公報等に記載されている構成からなるインクジェットヘッド及び印刷法を適宜選択して適用することができる。
【0146】
湿式法に用いる塗布液は、有機機能層を形成する材料が液媒体に均一に溶解される溶液でも、材料が固形分として液媒体に分散される分散液でも良い。分散方法としては、超音波、高剪断力分散やメディア分散等の分散方法により分散することができる。
【0147】
液媒体としては、特に制限はなく、例えば、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、ジクロロヘキサノン等のハロゲン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、n-プロピルメチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族系溶媒、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族系溶媒、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン、炭酸ジエチル等のエステル系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、メタノール、エタノール、1-ブタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒、ジメチルスルホキシド、水又はこれらの混合液媒体等が挙げられる。
【0148】
これらの液媒体の沸点としては、迅速に液媒体を乾燥させる観点から乾燥処理の温度未満の沸点が好ましく、具体的には60~200℃の範囲内が好ましく、さらに好ましくは、80~180℃の範囲内である。
【0149】
塗布液は、塗布範囲を制御する目的や、塗布後の表面張力勾配に伴う液流動(例えば、コーヒーリングと呼ばれる現象を引き起こす液流動)を抑制する目的に応じて、界面活性剤を含有することができる。
【0150】
界面活性剤としては、溶媒に含まれる水分の影響、レベリング性、基板f1への濡れ性等の観点から、例えばアニオン性又はノニオン性の界面活性剤等が挙げられる。具体的には、含フッ素系活性剤等、国際公開第08/146681号、特開平2-41308号公報等に挙げられた界面活性剤を用いることができる。
【0151】
塗布膜の粘度についても、膜厚と同様に、有機機能層として必要とされる機能と有機材料の溶解度又は分散性により、適宜選択することが可能で、具体的には例えば0.3~100mPa・sの範囲内で選択することができる。
【0152】
塗布膜の膜厚は、有機機能層として必要とされる機能と有機材料の溶解度又は分散性により適宜選択することが可能で、具体的には例えば1~90μmの範囲内で選択することができる。
【0153】
また、成膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50~450℃、真空度1×10-6~1×10-2Pa、蒸着速度0.01~50nm/秒、支持基板温度-50~300℃、厚さ0.1nm~5μm、好ましくは5~200nmの範囲内で適宜選ぶことが望ましい。
【0154】
有機機能層の形成は、1回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる成膜法を施しても構わない。その際は作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0155】
〔4〕封止部材
有機EL素子を封止するのに用いられる封止手段としては、例えば、フレキシブル封止部材と、陰極及び透明基板とを封止用接着剤で接着する方法を挙げることができる。
【0156】
封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されていればよく、凹板状でも、平板状でもよい。また透明性及び電気絶縁性は特に限定されない。
【0157】
具体的には、フレキシブル性を備えた薄膜ガラス板、ポリマー板、フィルム、金属フィルム(金属箔)等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属フィルムとしては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる一種以上の金属又は合金が挙げられる。
【0158】
本発明においては、封止部材としては、有機EL素子を薄膜化することできる観点から、ポリマーフィルム及び金属フィルムを好ましく使用することができる。さらに、ポリマーフィルムは、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された温度25±0.5℃、相対湿度90±2%RHにおける水蒸気透過度が、1×10-3g/m・24h以下であることが好ましく、さらには、JIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10-3ml/m・24h・atm(1atmは、1.01325×10Paである)以下であって、温度25±0.5℃、相対湿度90±2%RHにおける水蒸気透過度が、1×10-3g/m・24h以下であることが好ましい。これらは、前述の水分や酸素に対して高い遮蔽能を有するガスバリアー層を設けることで達成することができる。
【0159】
有機EL素子と封止材の接着に用いる接着剤として具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2-シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(2液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
【0160】
なお、有機EL素子が熱処理により劣化する場合があるので、室温(25℃)から130℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。封止基板への接着剤の塗布は市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
【0161】
封止部材と有機EL素子の表示領域(発光領域)との間隙には、気相及び液相では窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することもできる。また、封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙を真空とすることや、間隙に吸湿性化合物を封入することもできる。
【0162】
また、有機EL素子における発光機能層ユニットを完全に覆い、かつ有機EL素子における陽極と、陰極の端子部分を露出させる状態で、透明基板上に封止膜を設けることもできる。
【実施例
【0163】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
〔金属粒子分散液の調製方法〕
<金属粒子分散液101の調製>
1000mM硝酸銀水溶液100mLをビーカーにとった。別のビーカーに分散剤として不揮発性の有機物(ディスパービック190(商品名):表中、BYK190と表記、ビックケミー社製、40%水溶液)を3gとり、そこに純水を100g加えた。
【0164】
硝酸銀水溶液が入ったビーカーに、別ビーカーで調製したディスパービック190水溶液を11g加えた。
【0165】
十分に撹拌したのちトリエタノールアミンを15g加え、60℃で3時間撹拌した。
【0166】
遠心分離精製を3回行った。得られた銀粒子に、純水を加えて合計50gとし、超音波分散して金属粒子分散液101を得た。
【0167】
金属粒子分散液101 50gを250℃30分間乾燥させたところ、10gの固体が得られた。この固体を熱質量・示差熱分析装置を用いて500℃まで加熱したところ、0.8%の質量が減少した。
【0168】
250℃の加熱で溶媒である水が蒸発し、500℃までの加熱で分散剤としての不揮発性の有機物が分解したとして、金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比を求めると、1:0.008となった。
【0169】
<金属粒子塗布液101の調製>
金属粒子分散液101 10gに、純水1.1g、2-プロパノール2.3gを加えよく撹拌し、金属粒子塗布液101を得た。この塗布液中の溶媒の質量比率は水0.8に対して2-プロパノール0.2となっている。また、金属粒子と不揮発性の有機物を合わせた濃度は15質量%である。
【0170】
この金属粒子塗布液101を水で100倍に希釈して、動的光散乱法による粒径測定装置(Malvern Instruments社製、Zetasizer Nano S)を用いて平均粒径を求めたところ、金属粒子の平均粒子径は100nmであった。
【0171】
〔有機EL素子101の作製〕
(基材の準備)
まず、ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人フィルムソリューション株式会社製)の陽極を形成する側の全面に、下記の成膜条件(プラズマCVD条件)で、酸化ケイ素膜を300nmの厚さで成膜した。
(プラズマCVD条件)
原料ガス(HMDSO)の供給量:50sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)
酸素ガス(O)の供給量:500sccm
真空チャンバー内の真空度:3Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:1.2kW
プラズマ発生用電源の周波数:80kHz
フィルムの搬送速度:0.5m/min
【0172】
(陽極の形成)
上記基材上に厚さ120nmのITO(インジウム・スズ酸化物)をスパッタ法により成膜し、フォトリソグラフィー法によりパターニングを行い、陽極を形成した。なお、パターンは発光領域の面積が5cm×5cmになるようなパターンとした。
【0173】
(正孔注入層の形成)
陽極を形成した基材をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。そして、陽極を形成した基材上に、特許第4509787号公報の実施例16と同様に調製したポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS)の分散液をイソプロピルアルコールで希釈した2質量%溶液をインクジェットプリント法にて塗布、80℃で5分乾燥し、層厚40nmの正孔注入層を形成した。
【0174】
(正孔輸送層の形成)
次に、正孔注入層を形成した基材を、窒素ガス(グレードG1)を用いた窒素雰囲気下に移し、下記組成の正孔輸送層形成用塗布液を用いて、インクジェットプリント法にて塗布、150℃で30分乾燥し、層厚30nmの正孔輸送層を形成した。
〈正孔輸送層形成用塗布液〉
正孔輸送材料 HT-3(重量平均分子量Mw=80000) 10質量部
パラ(p)-キシレン 3000質量部
(発光層の形成)
次に、正孔輸送層を形成した基材を、下記組成の発光層形成用塗布液を用い、インクジェットプリント法にて塗布し、130℃で30分間乾燥し、層厚50nmの発光層を形成した。
【0175】
〈発光層形成用塗布液〉
ホスト化合物 H-4 9質量部
金属錯体CD-2 1質量部
金属錯体CD-1 0.1質量部
酢酸ノルマルブチル 2000質量部
(電子輸送層の形成)
次に、下記組成の電子輸送層形成用塗布液を用い、インクジェットプリント法にて塗布し、120℃で30分間乾燥し、層厚30nmの電子輸送層を形成した。
〈電子輸送層形成用塗布液〉
ET-1 6質量部
2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール 2000質量部
(電子注入層の形成)
続いて、基板を大気に曝露することなく真空蒸着装置へ取り付けた。また、モリブデン製抵抗加熱ボートにフッ化ナトリウム及びフッ化カリウムを入れたものを真空蒸着装置に取り付け、真空槽を4×10-5Paまで減圧した。その後、ボートに通電して加熱し、フッ化ナトリウムを0.02nm/秒で前記電子輸送層上に蒸着し、膜厚1nmの薄膜を形成した。同様に、フッ化カリウムを0.02nm/秒でフッ化ナトリウム薄膜上に蒸着し、層厚1.5nmの電子注入層を形成した。
【0176】
なお、用いた化合物を下記に示す。
【0177】
【化1】
【0178】
(陰極の形成)
電子注入層まで成膜した基板に、ディスペンサーを用いて、上記金属粒子塗布液101を塗布し、陰極を形成した。なお、事前に乾燥後の膜厚が200nmになるように、液量と塗布速度を調節した。塗布後、120℃の恒温槽で30分間乾燥させた。
【0179】
上記膜厚の測定は、別途用意したガラス基板上に、塗布液を塗布し、一部を剥離し、剥離した部分と膜が残った部分の段差を、ブルカー社製触針式プロファイリングシステムDektakを用いて測定した。
【0180】
(封止層の形成)
厚さ20μmのアルミ箔と厚さ100μmのペットフィルムが積層されたフィルム(パナック社製)を酸素透過度0.001mL/(m・24h・atm)以下、水蒸気透過度0.00 1g/(m・24h)以下のガスバリアー性を有する可撓性のガスバリアーフィルムとした。このフィルムのアルミ箔の面に、封止樹脂層として熱硬化型の液状接着剤(エポキシ系樹脂)を厚さ25μmで形成した。そして、この封止樹脂層を設けたガスバリアーフィルムを、前記作製した陰極まで作製した素子に重ね合わせた。このとき、陽極及び陰極の取出し部の端部が外に出るように、ガスバリアーフィルムの封止樹脂層形成面を、有機EL素子の封止面側に連続的に重ね合わせた。
【0181】
次に、ガスバリアーフィルムを貼り合せた試料を減圧装置内に配置し、90℃で0.1MPaの減圧条件下で押圧をかけて5分間保持した。続いて、試料を大気圧環境に戻し、さらに90℃で30分間加熱して接着剤を硬化させた。
【0182】
上記封止工程は、大気圧下、含水率1ppm以下の窒素雰囲気下で、JIS B 9920に準拠し、測定した清浄度がクラス100で、露点温度が-80℃以下、酸素濃度0.8体積ppm以下の大気圧で行った。
【0183】
以上の工程により、有機EL素子101を作製した。
【0184】
〔有機EL素子102の作製〕
<金属粒子塗布液102の調製>
金属粒子塗布液101に、不揮発性の有機物(ディスパービック190(商品名)、ビックケミー社製、40%水溶液)を追加で添加して、表I記載のように、金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比を求めると、1:0.01となった。
【0185】
具体的には金属粒子塗布液101、100gに対して、不揮発性の有機物(ディスパービック190(商品名)、ビックケミー社製、40%水溶液)を0.1g添加した(固形分として0.04g)。
【0186】
さらに、金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量が表I記載の質量比になるように、また、金属粒子と不揮発性の有機物を合わせた濃度が15%となるように、純水と2-プロパノールを加え、金属粒子塗布液102を得た。
【0187】
この塗布液を有機EL素子101と同様に塗布して、有機EL素子102を作製した。
【0188】
〔金属粒子塗布液103~106の調製及び有機EL素子103~106の作製〕
同様に、金属の含有量と不揮発性の有機物の含有量をそれぞれ変化させて、表Iに記載の金属粒子塗布液103~106を調製し、これを用いて有機EL素子103~106を作製した。
【0189】
〔金属粒子分散液の調製方法〕
<金属粒子分散液201>
1000mM硝酸銀水溶液100mLをビーカーにとった。別のビーカーに分散剤として不揮発性の有機物(ディスパービック190(商品名)、ビックケミー社製、40%水溶液)を3gとり、そこに純水を100g加えた。
【0190】
硝酸銀水溶液が入ったビーカーに、別ビーカーで調製したディスパービック190水溶液を21g加えた。
【0191】
十分に撹拌したのちトリエタノールアミンを15g加え、60℃で3時間撹拌した。
遠心分離精製を3回行った。得られた銀粒子に、純水を加えて合計50gとし、超音波分散して金属粒子分散液201を得た。
【0192】
金属粒子分散液101と同様に金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比を求めると、1:0.015となった。
【0193】
<金属粒子塗布液201>
金属粒子分散液201に、不揮発性の有機物(ディスパービック190(商品名)、ビックケミー社製、40%水溶液)を追加で添加して表Iの濃度になるようにした。
【0194】
さらに、金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量が表I記載の質量比になるように、また、金属粒子と不揮発性の有機物を合わせた濃度が15%となるように純水と2-プロパノールを加え、金属粒子塗布液102を得た。
【0195】
この金属粒子塗布液201を水で100倍に希釈して、動的光散乱法による粒径測定装置(Malvern Instruments社製、Zetasizer Nano S)を用いて平均粒径を求めたところ、金属粒子の平均粒子径は60nmであった。
【0196】
<金属粒子分散液202の調製>
1000mM硝酸銀水溶液100mlをビーカーにとった。別のビーカーに分散剤として不揮発性の有機物(ディスパービック190(商品名)、ビックケミー社製、40%水溶液)を6gとり、そこに純水を200g加えた。
【0197】
硝酸銀水溶液が入ったビーカーに、別ビーカーで調製したディスパービック190水溶液を42g加えた。
【0198】
十分に撹拌したのちトリエタノールアミンを15g加え、60℃で3時間撹拌した。次いで、遠心分離精製を3回行った。得られた銀粒子に、純水を加えて合計50gとし、超音波分散して金属粒子分散液202を得た。
【0199】
金属粒子分散液101と同様に金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比を求めると、1:0.03となった。
【0200】
<金属粒子塗布液202の調製>
金属粒子塗布液201の調製と同様にして、表Iに記載の金属粒子塗布液202を調製した。金属粒子の粒子径は、同様な測定をしたところ、30nmであった。
【0201】
〔有機EL素子201及び202の作製〕
有機EL素子101の作製と同様にして、金属粒子塗布液201及び202を用いて、有機EL素子201及び202を作製した。
【0202】
〔金属粒子分散液の調製方法〕
<金属粒子分散液301の調製>
ビーカーに分散剤として不揮発性の有機物(焙焼デキストリン 日澱化学(株)製、デキストリンNo.3)13gと純水115gを加え、約30分間撹拌し溶解した。その後、硝酸銀31gを加え、約30分間撹拌し溶解した。この液を氷浴中にて約5℃まで冷却し、水酸化カリウム15gを純水20gに溶解した10℃の液を添加し、氷浴中で1時間撹拌した。
【0203】
遠心分離精製を3回行った。得られた銀粒子に、純水を加えて合計50gとし、超音波分散して金属粒子分散液301を得た。
【0204】
金属粒子分散液101と同様に金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比を求めると、1:0.03となった。
【0205】
また、不揮発性の有機物のNMR、赤外分光により定性分析をしたところ、カルボン酸成分が検出された。デキストリンが酸化アルギン酸となることで銀が還元されていると推定できた。
【0206】
<金属粒子塗布液301の調製>
上記金属粒子塗布液202の調製と同様に金属粒子塗布液301を調製した。ただし、デキストリンではなく、アルギン酸カリウムの水溶液で不揮発性の有機物の質量を調整した。
【0207】
<金属粒子分散液302の調製>
ビーカーに分散剤として不揮発性の有機物、ポリエチレンイミン(シグマアルドリッチ製)を61g入れ、純水を219g入れた。90℃に加熱して撹拌した。
【0208】
硝酸銀31gを、水365gにとかし、ポリエチレンイミンを入れてビーカーに追加した。さらに、アスコルビン酸13gを水73gに溶かし、添加した。次いで、90℃で30分撹拌した。遠心分離精製を3回行った。得られた銀粒子に、純水を加えて合計50gとし超音波分散して金属粒子分散液302を得た。
【0209】
金属粒子分散液101と同様に金属の含有量に対する不揮発性の有機物の含有量の質量比を求めると、1:0.03となった。
【0210】
<金属粒子塗布液302の調製>
上記金属粒子塗布液301の調製と同様に金属粒子塗布液302を調製した。不揮発性の有機物としてはポリエチレンイミンを追加し、金属粒子塗布液302を得た。
【0211】
<金属粒子塗布液303及び304の調製>
金属粒子塗布液302と同様にして、金属粒子塗布液303及び304は表IIに記載の溶媒構成のみ変更し調製した。
【0212】
<金属粒子分散液305及び金属粒子塗布液305の調製>
上記金属粒子分散液202の調製において、硝酸銀水溶液を、塩化金酸水溶液に替えて行った以外は同様にして金属粒子分散液305及び金属粒子塗布液305を調製した。
【0213】
<金属粒子分散液306及び金属粒子塗布液306>
上記金属粒子分散液202の調製において、硝酸銀水溶液を、塩化パラジウム水溶液に替えて行った以外は同様にして、金属粒子分散液306及び金属粒子塗布液306を得た。
【0214】
〔有機EL素子301~306の作製〕
有機EL素子101の作製と同様にして、金属粒子塗布液301~306を用いて、有機EL素子301~306を作製した。
【0215】
〔有機EL素子401の作製〕
有機EL素子301の作製において、金属粒子塗布液を塗布したのち、120℃の温風を5分吹き付けたのち、120℃の恒温槽で30分間乾燥させた以外は同様にして、有機EL素子401を作製した。
【0216】
〔有機素子402の作製〕
有機EL素子301の作製において、金属粒子塗布液を塗布したのち、特許6319090号、段落〔0085〕のIR-2と同様の条件で、赤外線を5分照射したのち、120℃の恒温槽で30分間乾燥させた以外は同様にして、有機EL素子402を作製した。
【0217】
〔金属粒子塗布液の調製方法〕
<金属粒子塗布液501Aの調製>
金属粒子分散液301に、アルギン酸を加えずに、溶媒のみを加えて金属粒子塗布液501A塗布液を得た。
【0218】
〔有機EL素子501の作製〕
金属粒子分散液301を膜厚50nmとなるように塗布し、120℃の恒温槽で30分乾燥させたのち、上記金属粒子塗布液501Aを膜厚150nmとなるように塗布し、120℃の恒温槽で30分乾燥させ、2層構成の陰極を有する表III記載の有機EL素子501を作製した。
【0219】
≪評価≫
(1)電極(K)の有機機能層側の界面から厚さ方向に10nmの範囲部分の金属粒子と不揮発性の有機物の質量比率(B/A)の測定
上記作製した有機EL素子を用いて、ダイプラ・ウィンテス社製斜め切削装置NN-04Tを用いて、有機EL素子試料を0.20度の角度で断面を作製した。
切り出した断面の、有機機能層と電極との界面から、2.86μm部分を飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS:フィジカルエレクトロニクス(株)製)を用いて組成分析することで界面から厚さ方向に10nm部分の組成を求めた。
なお、事前に金属粒子と有機物の質量比率を変えた試料を作製し、飛行時間型二次イオン質量分析装置において検出信号と質量を換算する検量線を作製した。
また、有機機能層側とは逆側の界面から厚さ方向に10nmの範囲部分の金属粒子と不揮発性の有機物の含有量の質量比率は、同様な方法にて測定した。
(2)金属粒子からなる電極中の水及び有機溶媒の質量
上記有機EL素子とは別に、1cm×1cmのシリコンウエハ上に、各金属粒子塗布液を塗布した。
【0220】
各シリコンウエハを、電子科学社製の昇温熱脱離分析装置で、測定を行った。
【0221】
サンプルを加熱していき、80~200℃の間で観測された、水及び有機溶媒(2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、水:2-メトキシエタノール)の質量を求めた。なお、事前に、昇温熱脱離分析装置での検出感度と各溶媒の質量は検量線を求めた。
【0222】
また、別途求めてある金属粒子からなる電極の厚さと、面積(1cm×1cm)から金属粒子からなる電極の体積を求め、単位体積(mm)あたりの、水及び有機溶媒の量を求めた。
【0223】
(2)電力効率(発光効率の指標)
作製した有機EL素子に、ADC社製 直流電圧・電流源/モニタ6234を用いて、30A/mの電流を流し、その時の電圧を測定した。
【0224】
また、コニカミノルタ社製分光放射輝度計CS-2000を用いて輝度を測定した。以下の式に基づき、電力効率を算出した。
【0225】
(輝度)×円周率÷(電流密度×電圧) (lm/W)
有機EL素子101の電力効率を100として相対値を表I~表IIIに示す。
【0226】
(3)駆動寿命
有機EL素子に、100A/mの電流を流しながら、間欠的にコニカミノルタ社製分光放射輝度計CS-2000を用いて輝度を測定した。初期の輝度から、輝度が半分以下になった時間を駆動寿命とする。
【0227】
有機EL素子101の駆動寿命を100として相対値を表I~表IIIに示す。
【0228】
(4)折り曲げ耐性
各有機EL素子を直径100mmの円柱に巻き付け、60℃の恒温槽で100時間保管したのち、保管前後の電力効率の変化を測定した。値が大きい程、折り曲げ耐性に優れている。
【0229】
【表1】
【0230】
【表2】
【0231】
【表3】
【0232】
表I~表IIIより、本発明の構成の有機EL素子は、低抵抗であり、有機機能層と電極の密着性に優れることにより、高温保存時の折り曲げ耐性や発光効率及び駆動寿命に優れることが明らかである。中でも、本発明に係る電極を2層構成で形成することにより、密着性に加えてより高い導電性を確保し、有機EL素子の電力効率や駆動寿命を向上させることができることが分かった。
【符号の説明】
【0233】
1 斜め切削試料の断面
2 基板
3 該当電極(K)
4 有機機能層
5 他方の電極
6 界面
EL 有機EL素子
10 基板
11 ガスバリアー層
12 陽極
13 第1の有機機能層
14 発光層
15 第2の有機機能層
16 有機機能層ユニット
17 陰極、電極(K)
18 封止用接着層
19 封止基板
K1 第1の電極層
K2 第2の電極層
h 発光点
L 発光光
図1
図2
図3