IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許-遠心圧縮機 図1
  • 特許-遠心圧縮機 図2
  • 特許-遠心圧縮機 図3
  • 特許-遠心圧縮機 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】遠心圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/063 20060101AFI20220405BHJP
   F04D 29/053 20060101ALI20220405BHJP
   F16H 13/04 20060101ALI20220405BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20220405BHJP
【FI】
F04D29/063
F04D29/053 A
F16H13/04 A
F16H57/04 P
F16H57/04 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018245851
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020105985
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】國枝 享仁
(72)【発明者】
【氏名】福山 了介
(72)【発明者】
【氏名】中根 芳之
【審査官】田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-168828(JP,A)
【文献】特開2017-180830(JP,A)
【文献】特開2018-173028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/063
F04D 29/053
F16H 13/04
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低速側シャフトと、
前記低速側シャフトの回転に伴って回転するとともに環状部を有するリング部材と、
前記環状部の内側に配置される高速側シャフトと、
前記環状部と前記高速側シャフトとの間に設けられるとともに前記環状部及び前記高速側シャフトの双方に当接するローラと、
前記高速側シャフトと一体回転するインペラと、
前記低速側シャフトを回転させる電動モータと、
前記リング部材、前記ローラ、及び前記高速側シャフトの一部を収容するとともにオイルが貯留される増速機室、前記電動モータを収容するモータ室、及び前記増速機室と前記モータ室とを仕切る仕切壁を有する筒状のハウジングと、を備える遠心圧縮機であって、
前記増速機室内における前記リング部材と前記仕切壁との間に配置される隔壁と、
前記増速機室内における前記隔壁よりも前記リング部材側に位置する領域である撹拌領域のオイルを、前記増速機室内における前記隔壁よりも前記仕切壁側に位置する領域である貯留領域に導く導入路と、を備えていることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項2】
前記ハウジングの内周面には、前記増速機室内のオイルを前記増速機室外へ排出するオイル排出孔が形成されており、
前記隔壁は、前記環状部の径方向における前記ハウジングの内周面と前記環状部との間であって、且つ前記オイル排出孔に対して前記環状部の径方向で対向する位置に配置される突起を有していることを特徴とする請求項1に記載の遠心圧縮機。
【請求項3】
前記ハウジングの内周面における前記撹拌領域を形成する部分の少なくとも一部は、前記隔壁に向かうにつれて前記環状部に対して前記環状部の径方向外側に向けて離間するとともに前記導入路に対して前記ハウジングの軸線方向で少なくとも対向する傾斜面になっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の遠心圧縮機。
【請求項4】
前記ハウジングは、前記ハウジングの内周面における前記撹拌領域を形成する部分から前記環状部に向けて突出するとともに、少なくとも前記導入路に対して前記ハウジングの軸線方向で対向する堰き止め突起を有していることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の遠心圧縮機。
【請求項5】
前記仕切壁には、前記低速側シャフトが挿通されるシャフト挿通孔が形成されており、
前記シャフト挿通孔内には、前記低速側シャフトを回転可能に支持するベアリング、及び前記シャフト挿通孔と前記低速側シャフトとの間をシールするシール部材が設けられており、
前記シール部材は、前記ベアリングよりも前記モータ室側に位置しており、
前記仕切壁には、前記シャフト挿通孔内における前記シール部材と前記ベアリングとの間にオイルを供給するオイル供給通路が形成されていることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の遠心圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増速機を備えた遠心圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
増速機を備えた圧縮機としては、例えば、特許文献1に記載されている。増速機は、低速側シャフトの回転に伴って回転するリング部材と、リング部材の内側に配置された高速側シャフトと、リング部材と高速側シャフトとの間に設けられ、リング部材及び高速側シャフトの双方に当接した複数のローラと、これらを収容した増速機室とを備える。
【0003】
増速機においては、ローラとリング部材との接触箇所や、ローラと高速側シャフトとの接触箇所での摩耗や焼き付きを抑制するため、接触箇所にオイルを供給する必要がある。特許文献1に記載の圧縮機は、増速機室とは別にオイルが貯留された貯留室を備える。そして、ポンプによって貯留室のオイルを増速機室内に供給している。増速機室内に供給されたオイルは、リング部材の回転によって撹拌される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-186238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、貯留室をハウジングの外周面に増設しており、圧縮機の大型化を招いている。圧縮機の大型化を抑制するために増速機室を貯留室として兼用した場合、増速機室内に貯留されたオイルにリング部材が浸漬した状態となる。すると、リング部材の回転時に撹拌抵抗が増加してしまい、増速機の効率が低減してしまう。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、リング部材の回転時の撹拌抵抗を低減させることができる遠心圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する遠心圧縮機は、低速側シャフトと、前記低速側シャフトの回転に伴って回転するとともに環状部を有するリング部材と、前記環状部の内側に配置される高速側シャフトと、前記環状部と前記高速側シャフトとの間に設けられるとともに前記環状部及び前記高速側シャフトの双方に当接するローラと、前記高速側シャフトと一体回転するインペラと、前記低速側シャフトを回転させる電動モータと、前記リング部材、前記ローラ、及び前記高速側シャフトの一部を収容するとともにオイルが貯留される増速機室、前記電動モータを収容するモータ室、及び前記増速機室と前記モータ室とを仕切る仕切壁を有する筒状のハウジングと、を備える遠心圧縮機であって、前記増速機室内における前記リング部材と前記仕切壁との間に配置される隔壁と、前記増速機室内における前記隔壁よりも前記リング部材側に位置する領域である撹拌領域のオイルを、前記増速機室内における前記隔壁よりも前記仕切壁側に位置する領域である貯留領域に導く導入路と、を備えている。
【0008】
リング部材の回転によって撹拌領域のオイルが撹拌されると、このオイルは、リング部材の遠心力によって環状部の径方向外側に向けて飛散し、ハウジングの内周面に衝突する。そして、ハウジングの内周面に衝突したオイルの一部は、隔壁に向かって流れて導入路を介して貯留領域に導かれる。貯留領域に貯留されたオイルは、リング部材の回転によって撹拌され難いため、リング部材によって撹拌されるオイルの絶対量が少なくなる。その結果、リング部材の回転時の撹拌抵抗を低減させることができる。
【0009】
上記遠心圧縮機において、前記ハウジングの内周面には、前記増速機室内のオイルを前記増速機室外へ排出するオイル排出孔が形成されており、前記隔壁は、前記環状部の径方向における前記ハウジングの内周面と前記環状部との間であって、且つ前記オイル排出孔に対して前記環状部の径方向で対向する位置に配置される突起を有しているとよい。
【0010】
リング部材の回転によって撹拌領域で撹拌されて、リング部材の遠心力によって環状部の径方向外側に向けて飛散したオイルの一部は、リング部材の回転によって環状部の径方向外側で環状部と連れ回る。そして、環状部の径方向外側で環状部と連れ回るオイルが、ハウジングの内周面におけるオイル排出孔の周囲に衝突する場合がある。このとき、環状部の径方向におけるハウジングの内周面と環状部との間であって、且つオイル排出孔に対して環状部の径方向で対向する位置に突起が配置されている。このため、ハウジングの内周面におけるオイル排出孔の周囲に衝突したオイルは、ハウジングの内周面におけるオイル排出孔の周囲ではね返った後、突起に衝突して、オイル排出孔から増速機室外へ排出される。したがって、ハウジングの内周面におけるオイル排出孔の周囲に衝突したオイルが、再び環状部の径方向外側で環状部と連れ回ることが抑制されるため、リング部材によって撹拌されるオイルの絶対量を少なくすることができ、リング部材の回転時の撹拌抵抗をさらに低減させることができる。
【0011】
上記遠心圧縮機において、前記ハウジングの内周面における前記撹拌領域を形成する部分の少なくとも一部は、前記隔壁に向かうにつれて前記環状部に対して前記環状部の径方向外側に向けて離間するとともに前記導入路に対して前記ハウジングの軸線方向で少なくとも対向する傾斜面になっているとよい。
【0012】
これによれば、リング部材の回転によって撹拌領域で撹拌されて、リング部材の遠心力によって環状部の径方向外側に向けて飛散したオイルが傾斜面に衝突すると、傾斜面に付着したオイルが傾斜面によって隔壁に向けて案内されるため、撹拌領域のオイルが導入路を介して貯留領域に導かれ易くなる。したがって、リング部材によって撹拌されるオイルの絶対量をさらに少なくすることができ、リング部材の回転時の撹拌抵抗をさらに低減させることができる。
【0013】
上記遠心圧縮機において、前記ハウジングは、前記ハウジングの内周面における前記撹拌領域を形成する部分から前記環状部に向けて突出するとともに、前記導入路に対して前記ハウジングの軸線方向で対向する堰き止め突起を有しているとよい。
【0014】
これによれば、リング部材の回転によって環状部の径方向外側で環状部と連れ回るオイルが堰き止め突起に衝突することで、堰き止め突起に衝突したオイルの一部が、隔壁に向かって流れて導入路を介して貯留領域に導かれる。したがって、リング部材によって撹拌されるオイルの絶対量をさらに少なくすることができ、リング部材の回転時の撹拌抵抗をさらに低減させることができる。
【0015】
上記遠心圧縮機において、前記仕切壁には、前記低速側シャフトが挿通されるシャフト挿通孔が形成されており、前記シャフト挿通孔内には、前記低速側シャフトを回転可能に支持するベアリング、及び前記シャフト挿通孔と前記低速側シャフトとの間をシールするシール部材が設けられており、前記シール部材は、前記ベアリングよりも前記モータ室側に位置しており、前記仕切壁には、前記シャフト挿通孔内における前記シール部材と前記ベアリングとの間にオイルを供給するオイル供給通路が形成されているとよい。
【0016】
これによれば、オイル供給通路からシャフト挿通孔内におけるシール部材とベアリングとの間に供給されたオイルは、シール部材及びベアリングを潤滑し、その後、ベアリングと低速側シャフトとの間を介して増速機室内における隔壁よりも仕切壁側に位置する領域である貯留領域に流出する。したがって、シール部材及びベアリングの潤滑に寄与して増速機室内に流出するオイルが、撹拌領域へ流出されないため、リング部材によって撹拌されるオイルの絶対量が多くなってしまうことが抑制され、リング部材の回転時の撹拌抵抗を低減させることができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、リング部材の回転時の撹拌抵抗を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態における遠心圧縮機を示す側断面図。
図2】増速機を拡大して示す断面図。
図3図1における3-3線断面図。
図4】増速機ハウジングの一部及び隔壁を示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、遠心圧縮機を具体化した一実施形態を図1図4にしたがって説明する。なお、本実施形態の遠心圧縮機は増速機を備えており、この遠心圧縮機は燃料電池を電力源として走行する燃料電池車両(FCV)に搭載され、燃料電池に対して流体としての空気を供給する。
【0020】
図1に示すように、遠心圧縮機10は、低速側シャフト11及び高速側シャフト12と、低速側シャフト11を回転させる電動モータ13と、低速側シャフト11の回転を増速させて高速側シャフト12に伝達する増速機60と、高速側シャフト12の回転によって空気を圧縮するインペラ52とを備えている。低速側シャフト11及び高速側シャフト12は、金属で構成されており、例えば、鉄又は鉄の合金で構成されている。
【0021】
遠心圧縮機10は、低速側シャフト11、高速側シャフト12、電動モータ13、及び増速機60の一部を構成する増速機構61が収容されるハウジング20を備えている。ハウジング20は、筒状である。ハウジング20は、遠心圧縮機10の外郭を構成する。
【0022】
ハウジング20は、電動モータ13が収容されたモータハウジング21と、増速機構61が収容された増速機ハウジング23と、空気が吸入される吸入口50aが形成されたコンプレッサハウジング50とを備えている。吸入口50aは、ハウジング20の軸線方向の一端面20aに設けられている。吸入口50aから見てハウジング20の軸線方向に、コンプレッサハウジング50、増速機ハウジング23及びモータハウジング21の順に配列されている。本実施形態では、増速機構61と、増速機ハウジング23によって増速機60が構成されている。
【0023】
モータハウジング21は、底部22を有する筒状である。モータハウジング21の底部22の外面は、ハウジング20の軸線方向の両端面20a,20bのうち、吸入口50aがある一端面20aとは反対側の他端面20bを構成している。増速機ハウジング23は、底部24を有する筒状である本体部25と、本体部25の軸線方向において底部24とは反対側に設けられた閉塞部26と、を備えている。閉塞部26は、底部26aを有する筒状である。
【0024】
モータハウジング21と増速機ハウジング23とは、モータハウジング21の開口端が本体部25の底部24に突き合わさった状態で連結されている。モータハウジング21の内面と、本体部25の底部24におけるモータハウジング21側の底面24aとによって、電動モータ13を収容するモータ室S1が形成されている。モータ室S1には、低速側シャフト11の回転軸線方向とハウジング20の軸線方向とが一致する状態で、低速側シャフト11が収容されている。
【0025】
低速側シャフト11は、回転可能な状態でハウジング20に支持されている。遠心圧縮機10は、第1軸受31を備えている。第1軸受31は、モータハウジング21の底部22に設けられており、低速側シャフト11の第1端部11aは、第1軸受31に回転可能に支持されている。
【0026】
本体部25の底部24には、低速側シャフト11の第1端部11aとは反対側の第2端部11bが挿通されるシャフト挿通孔27が形成されている。そして、低速側シャフト11の一部は、シャフト挿通孔27を通過して増速機ハウジング23内に突出している。シャフト挿通孔27は、低速側シャフト11の第2端部11bよりも一回り大きく形成されている。シャフト挿通孔27内には、低速側シャフト11の第2端部11bを回転可能に支持するベアリングとしての第2軸受32、及びシャフト挿通孔27と低速側シャフト11の第2端部11bとの間をシールするシール部材としての第1シール部材33が設けられている。第1シール部材33は、第2軸受32よりもモータ室S1側に位置している。第1シール部材33は、増速機ハウジング23内に存在するオイルがモータ室S1に流れるのを規制している。
【0027】
電動モータ13は、低速側シャフト11に固定されたロータ41と、ロータ41の外側に配置されるとともにモータハウジング21の内周面に固定されたステータ42と、を備えている。ステータ42は、円筒形状のステータコア43と、ステータコア43に巻回されたコイル44と、を備えている。そして、コイル44に電流が流れることによって、ロータ41と低速側シャフト11とが一体的に回転する。
【0028】
増速機ハウジング23は、本体部25の開口端と閉塞部26の開口端とが突き合わさった状態で組み付けられている。これにより、閉塞部26の内面と本体部25の内面とによって、増速機構61が収容されるとともにオイルが貯留される増速機室S2が形成されている。したがって、本体部25の底部24は、増速機室S2とモータ室S1とを仕切る仕切壁として機能している。
【0029】
閉塞部26の底部26aには、増速機構61の一部を構成する高速側シャフト12を挿通可能な閉塞部貫通孔28が形成されている。高速側シャフト12の一部は、閉塞部貫通孔28を介してコンプレッサハウジング50内に突出している。閉塞部貫通孔28内には、第2シール部材34が設けられている。第2シール部材34は、増速機ハウジング23内のオイルがコンプレッサハウジング50内に流出するのを規制する。
【0030】
コンプレッサハウジング50は、筒状である。コンプレッサハウジング50は、コンプレッサハウジング50の軸線方向に貫通したコンプ貫通孔51を有している。コンプレッサハウジング50の軸線方向の一端面50bは、ハウジング20の軸線方向の一端面20aを構成している。そして、コンプ貫通孔51におけるコンプレッサハウジング50の一端面50b側にある開口が吸入口50aとして機能する。
【0031】
コンプレッサハウジング50と閉塞部26とは、コンプレッサハウジング50の軸線方向の一端面50bとは反対側の他端面50cと、閉塞部26における開口端とは反対側の端面26cとが突き合わさった状態で組み付けられている。これにより、コンプ貫通孔51の内面と閉塞部26の端面26cとによって、インペラ52が収容されたインペラ室S3が形成されている。吸入口50aとインペラ室S3とは連通している。コンプ貫通孔51は、吸入口50aから軸線方向の途中位置までは一定の径であり、上記途中位置から閉塞部26に向かうに従って徐々に拡径した略円錐台形状となっている。このため、コンプ貫通孔51の内面によって区画されるインペラ室S3は、略円錐台形状となっている。
【0032】
インペラ52は、基端面52aから先端面52bに向かうに従って徐々に縮径した筒状である。インペラ52は、インペラ52の回転軸線方向に延び、且つ、高速側シャフト12を挿通可能な挿通孔52cを有している。インペラ52は、高速側シャフト12におけるコンプ貫通孔51内に突出している部分が挿通孔52cに挿通された状態で、高速側シャフト12と一体回転するように高速側シャフト12に取り付けられている。これにより、高速側シャフト12が回転することによってインペラ52が回転して、吸入口50aから吸入された空気が圧縮される。
【0033】
また、遠心圧縮機10は、インペラ52によって圧縮された空気が流入するディフューザ流路53と、ディフューザ流路53を通過した空気が流入する吐出室54と、を有している。ディフューザ流路53は、コンプレッサハウジング50における閉塞部26側の開口端と連続し、且つ閉塞部26の端面26cと対向する面と、閉塞部26の端面26cとによって区画された流路である。ディフューザ流路53は、インペラ室S3よりも高速側シャフト12の径方向外側に配置されており、インペラ52(インペラ室S3)を囲むように環状に形成されている。吐出室54は、ディフューザ流路53よりも高速側シャフト12の径方向外側に配置された環状である。インペラ室S3と吐出室54とはディフューザ流路53を介して連通している。インペラ52によって圧縮された空気は、ディフューザ流路53を通過することによって、更に圧縮されて吐出室54に流れ、吐出室54から吐出される。
【0034】
次に、増速機60について説明する。本実施形態の増速機60は、所謂トラクションドライブ式(摩擦ローラ式)である。
図2に示すように、増速機60の増速機構61は、低速側シャフト11の第2端部11bに連結されたリング部材62を備えている。リング部材62は、低速側シャフト11の第2端部11bに連結された円板状のベース63と、ベース63から低速側シャフト11とは反対側に向けて延びる円環状の環状部64と、を有している。環状部64の内径は、低速側シャフト11の第2端部11bの直径よりも長く設定されている。
【0035】
環状部64は、一対の挿入孔64hを有している。一対の挿入孔64hは、環状部64の径方向両側に位置する両部位にそれぞれ形成されている。一対の挿入孔64hは、環状部64におけるベース63側の端部において、環状部64の厚み方向に貫通する貫通孔である。一対の挿入孔64hは、環状部64の周方向において互いに180度離れた位置に配置されている。ベース63は、一対の挿入孔64hにそれぞれ挿入される一対の挿入部63fを有している。そして、一対の挿入部63fが一対の挿入孔64hにそれぞれ挿入されることによりベース63が環状部64に係合されている。
【0036】
リング部材62は、ベース63の回転軸線方向(リング部材62の回転軸線方向)と低速側シャフト11の回転軸線方向とが一致するように低速側シャフト11に連結されている。したがって、ベース63は、低速側シャフト11と一体的に回転する。なお、環状部64の回転軸線方向も低速側シャフト11の回転軸線方向と一致している。環状部64は、ベース63の一対の挿入部63fが一対の挿入孔64hにそれぞれ挿入されることにより、ベース63と一体的に回転する。したがって、リング部材62は、低速側シャフト11の回転に伴って回転する。
【0037】
高速側シャフト12の一部は、環状部64の内側に配置されている。増速機構61は、環状部64と高速側シャフト12との間に設けられるとともに環状部64及び高速側シャフト12の双方に当接する3つのローラ71を備えている。3つのローラ71は同一形状である。各ローラ71は、円柱状のローラ部72と、ローラ部72の回転軸線方向の第1端面72aから突出する円柱状の第1突起73と、ローラ部72の回転軸線方向の第2端面72bから突出する円柱状の第2突起74と、を有している。ローラ部72の回転軸線方向、第1突起73の回転軸線方向、及び、第2突起74の回転軸線方向は一致している。
【0038】
図3に示すように、ローラ部72の直径は高速側シャフト12の直径よりも長く設定されている。ローラ部72の回転軸線方向と高速側シャフト12の回転軸線方向とは一致している。複数のローラ71は、高速側シャフト12の周方向に間隔を隔てて並んで配置されている。各ローラ71は、金属で構成されており、例えば、高速側シャフト12と同一金属である鉄又は鉄の合金で構成されている。
【0039】
図2に示すように、環状部64は、環状部64の内周面から3つのローラ71に向けて突出する円環状の凸部64fを有している。凸部64fは、環状部64の回転軸線方向に対して環状部64の径方向内側に凸となる弧状に湾曲する断面半円状である。図3に示すように、3つのローラ71は、環状部64の凸部64f及び高速側シャフト12の外周面の双方に当接する。
【0040】
図2に示すように、環状部64における凸部64fに対応する部位は、その他の部位よりも肉厚である環状の肉厚部64dになっており、その他の部位よりも剛性が高くなっている。したがって、凸部64fが3つのローラ71に当接することによる3つのローラ71から環状部64に作用する反力によって、環状部64が径方向外側に変形してしまうことが抑制されている。肉厚部64dは、閉塞部26の内周面の内側に位置している。
【0041】
図2及び図3に示すように、増速機構61は、閉塞部26と協働して各ローラ71を回転可能に支持する支持部材80を備えている。支持部材80は、環状部64内に配置されている。支持部材80は、環状部64よりも一回り小さく形成された円板状の支持ベース81と、支持ベース81から起立した柱状の3つの柱状部材82と、を有している。支持ベース81は、閉塞部26の底部26aに対して、ローラ部72の回転軸線方向に対向配置されている。3つの柱状部材82は、支持ベース81における閉塞部26の底部26aと対向する対向面81aから閉塞部26の底部26aに向けて起立しており、環状部64の内周面と、隣り合う2つのローラ部72の外周面とによって区画された3つの空間を埋めるように形成されている。
【0042】
各柱状部材82には、ボルト83が挿通可能なネジ挿通孔84が形成されている。閉塞部26の底部26aには、ネジ挿通孔84に対応させて、ネジ挿通孔84と連通するネジ穴85が形成されている。各柱状部材82は、ネジ挿通孔84とネジ穴85とが連通し、且つ各柱状部材82の先端面が閉塞部26の底部26aに突き合わさった位置に配置されており、その状態でネジ挿通孔84とネジ穴85とに跨るようにボルト83がネジ穴85に螺合されることによって閉塞部26に固定されている。
【0043】
図2に示すように、増速機60は、ローラ71を回転可能な状態で支持する第1ローラ軸受76と第2ローラ軸受77とを備えている。第1ローラ軸受76は、閉塞部26に配置されている。第2ローラ軸受77は、支持ベース81に配置されている。ローラ71は、第1ローラ軸受76と第2ローラ軸受77に支持されることで、閉塞部26と支持ベース81との間に配置されている。
【0044】
図3に示すように、ローラ71とリング部材62と高速側シャフト12とは、ローラ部72と高速側シャフト12及び環状部64とが互いに押し付けあっている状態でユニット化されており、高速側シャフト12は、3つのローラ部72によって回転可能に支持されている。ローラ部72の外周面と環状部64の凸部64fとの当接箇所であるリング側当接箇所Pa、及びローラ部72の外周面と高速側シャフト12の外周面との当接箇所であるシャフト側当接箇所Pbには、押し付け荷重が付与されている。各当接箇所Pa,Pbは、ローラ部72の回転軸線方向に延びている。
【0045】
なお、図1に示すように、高速側シャフト12は、高速側シャフト12の回転軸線方向に離間して対向配置された一対のフランジ部12aを有している。ローラ部72は、一対のフランジ部12aによって挟持されている。これにより、高速側シャフト12の回転軸線方向における高速側シャフト12とローラ部72との位置ずれが抑制されている。増速機室S2は、リング部材62、3つのローラ71、及び高速側シャフト12の一部を収容する。
【0046】
図2及び図3に示すように、本体部25の内周面の大部分は、環状部64の外周面に沿う円弧面251になっており、本体部25の内周面における円弧面251以外の部位は、円弧面251から外方へ膨出する膨出面252になっている。また、閉塞部26の内周面の大部分は、閉塞部26を軸線方向から見たとき、環状部64の外周面に沿う円弧面261になっており、閉塞部26の内周面における円弧面261以外の部位は、円弧面261から外方へ膨出する膨出面262になっている。閉塞部26の円弧面261における閉塞部26の開口側の端縁は、本体部25の円弧面251に沿って延びている。また、閉塞部26の膨出面262における閉塞部26の開口側の端縁は、本体部25の膨出面252に沿って延びている。
【0047】
図2に示すように、増速機60を閉塞部26に固定した状態で、環状部64の開口端側の端面64aと、閉塞部26の底部26aとの間には排出路65が区画されている。排出路65は、環状部64の内外を連通させている。
【0048】
図1に示すように、遠心圧縮機10は、増速機構61にオイルを供給するためのオイル供給機構100を備える。オイル供給機構100は、ポンプ101と、オイル流路102と、を備え、ポンプ101の駆動によりオイル流路102を通じて増速機室S2にオイルを循環させる。
【0049】
ポンプ101は、モータハウジング21の底部22に設けられている。本実施形態のポンプ101は、容積型である。ポンプ101は、底部22に設けられた収容部103と、回転体104とを備える。回転体104には、低速側シャフト11の第1端部11aが連結されている。
【0050】
モータハウジング21には、オイル流路102の一部となる第1油路111及び第2油路112が形成されている。第1油路111の一端は収容部103に開口しており、第1油路111の他端はモータハウジング21の開口端側の端面21aのうち、底面24aに接している箇所に開口している。第2油路112の一端は収容部103に開口しており、第2油路112の他端はモータハウジング21の端面21aのうち、底面24aに接している箇所に開口している。
【0051】
本体部25には、オイル流路102の一部となる第3油路113及び第4油路114が形成されている。第3油路113及び第4油路114は、本体部25の軸線方向の両端面に開口している。第3油路113の一端は、本体部25の端面のうち第1油路111に向かい合う位置に開口しており、第1油路111に連通している。第4油路114の一端は、本体部25の端面のうち第2油路112に向かい合う位置に開口しており、第2油路112に連通している。
【0052】
閉塞部26には、オイル流路102の一部となる第5油路115が形成されている。第5油路115の一端は、閉塞部26の開口端面のうち第3油路113に向かい合う位置に開口しており、第3油路113に連通している。第5油路115の他端は、底部26aのうち、柱状部材82に向かい合う位置に連通している。
【0053】
柱状部材82には、オイル流路102の一部となる第6油路116が形成されている。第6油路116の一端は、柱状部材82の端面のうち、第5油路115に向かい合う位置に開口しており、第5油路115に連通している。第6油路116の他端は、柱状部材82の外周面のうちローラ部72に向かい合う位置に開口している。なお、図示は省略するが、第5油路115及び第6油路116は、第3油路113から分岐するように2つ設けられている。そして、3つの柱状部材82のうち、2つの柱状部材82に設けられた第6油路116からリング部材62内にオイルは供給される。
【0054】
閉塞部26には、オイル流路102の一部となる第7油路117が形成されている。第7油路117の一端は、閉塞部26の開口端面のうち第4油路114に向かい合う位置に開口しており、第7油路117の他端は、閉塞部26の膨出面262に開口するとともに増速機室S2内のオイルを増速機室S2外へ排出するオイル排出孔117aになっている。したがって、ハウジング20の内周面には、増速機室S2内のオイルを増速機室S2外へ排出するオイル排出孔117aが形成されている。
【0055】
図2に示すように、遠心圧縮機10は、増速機ハウジング23における第7油路117の連通する箇所が鉛直方向下方に位置する態様で使用される。したがって、本体部25の膨出面252及び閉塞部26の膨出面262は、鉛直方向下方に位置している。オイル排出孔117aは鉛直方向上方を向く。増速機室S2内においては、オイル排出孔117aが連通する箇所に重力によってオイルが貯留されることになる。
【0056】
また、本体部25の底部24には、第3油路113から分岐されるとともにシャフト挿通孔27内における第1シール部材33と第2軸受32との間にオイルを供給するオイル供給通路118が形成されている。オイル供給通路118の一端は、第3油路113に開口しており、オイル供給通路118の他端は、シャフト挿通孔27内における第1シール部材33と第2軸受32との間に開口している。
【0057】
ポンプ101が駆動されると、第7油路117→第4油路114→第2油路112→収容部103→第1油路111→第3油路113→第5油路115→第6油路116の経路でオイルが流れる。第6油路116に流れたオイルは、リング部材62内に供給され、各ローラ71の潤滑を行う。そして、リング部材62内のオイルは、排出路65からリング部材62外に排出される。リング部材62外に排出されたオイルは、増速機室S2内に貯留される。
【0058】
また、第3油路113を流れるオイルの一部は、オイル供給通路118に流れ込む。そして、オイル供給通路118を流れるオイルは、オイル供給通路118からシャフト挿通孔27内における第1シール部材33と第2軸受32との間に供給され、第1シール部材33及び第2軸受32を潤滑する。
【0059】
ローラ71が回転すると、リング側当接箇所Pa及びシャフト側当接箇所Pbにて、固化されたオイルの薄膜(弾性流体潤滑膜(EHL))が形成される。そして、ローラ部72の外周面と環状部64の内周面とがオイルの薄膜を介して接するとともに、高速側シャフト12の外周面とローラ部72の外周面とが固化されたオイルの薄膜を介して接する。そして、ローラ71の回転力が、高速側シャフト12の外周面とローラ部72の外周面との間に形成された固化されたオイルの薄膜を介して高速側シャフト12に伝達され、その結果、高速側シャフト12が回転する。環状部64は、低速側シャフト11と同一速度で回転し、各ローラ71は低速側シャフト11よりも高速で回転する。さらに、ローラ部72よりも径が短い高速側シャフト12は、ローラ部72よりも高速で回転する。以上のことから、増速機60によって、高速側シャフト12が低速側シャフト11よりも高速で回転する。
【0060】
図4に示すように、遠心圧縮機10は、増速機室S2内におけるリング部材62と本体部25の底部24との間に配置される隔壁90を備えている。隔壁90は、薄板円板状の隔壁本体91と、隔壁本体91の一端面911の外周部の一部分から突出する薄板状の突起92と、を有している。突起92における隔壁本体91からの突出方向は、隔壁本体91の厚み方向に一致している。
【0061】
隔壁本体91の中央部には、円孔状の挿通孔91aが形成されている。挿通孔91aの内側には、シャフト挿通孔27を通過して増速機ハウジング23内に突出する低速側シャフト11の端部が挿通されている。隔壁本体91の一端面911における挿通孔91aの周囲には、ネジ収容凹部91bが二つ形成されている。各ネジ収容凹部91bは、突起92における隔壁本体91からの突出方向とは反対方向に凹んでいる。したがって、各ネジ収容凹部91bは、隔壁本体91の一端面911から凹んでおり、隔壁本体91の一端面911とは反対側の他端面912における挿通孔91aの周囲であって、各ネジ収容凹部91bと対応する部位は、各ネジ収容凹部91bが一端面911から凹んでいる分だけ突出している。各ネジ収容凹部91bの底面には、ネジ貫通孔91cが形成されている。
【0062】
図2に示すように、本体部25の底部24におけるシャフト挿通孔27の周囲には、各ネジ貫通孔91cを貫通するボルト93がねじ込まれる円筒状のボス部94がそれぞれ突設されている。そして、各ネジ貫通孔91cを貫通する各ボルト93が各ボス部94にそれぞれねじ込まれることにより、隔壁90が本体部25の底部24に取り付けられている。隔壁本体91は、本体部25の軸線方向に対して直交する方向に延びている。そして、突起92における隔壁本体91からの突出方向は、本体部25の軸線方向に一致している。
【0063】
図4に示すように、隔壁本体91の外周面91dは、本体部25の円弧面251に沿って延びる第1円弧面911d及び第2円弧面912dを有している。第1円弧面911d及び第2円弧面912dは、本体部25の円弧面251に接触している。第1円弧面911dにおける隔壁本体91の周方向の長さは、第2円弧面912dにおける隔壁本体91の周方向の長さよりも長い。具体的には、第1円弧面911dにおける隔壁本体91の周方向の長さは、第2円弧面912dにおける隔壁本体91の周方向の長さの2倍以上である。突起92は、隔壁本体91の周方向において、第1円弧面911dと第2円弧面912dとの間に配置されている。
【0064】
隔壁本体91の外周面91dは、第1接続面913d及び第2接続面914dを有している。第1接続面913dは、第1円弧面911dにおける隔壁本体91の周方向の一端縁と突起92とを接続している。第2接続面914dは、第2円弧面912dにおける隔壁本体91の周方向の一端縁と突起92とを接続している。
【0065】
隔壁本体91の外周部の一部分には、切り欠き95が形成されている。切り欠き95は、第1切欠面95a、第2切欠面95b、及び第3切欠面95cにより形成されている。第1切欠面95aは、第1円弧面911dにおける隔壁本体91の周方向の他端縁から隔壁本体91の径方向内側に延びている。第2切欠面95bは、第2円弧面912dにおける隔壁本体91の周方向の他端縁から隔壁本体91の径方向内側に延びている。第3切欠面95cは、第1切欠面95aにおける第1円弧面911dとは反対側の端縁と第2切欠面95bにおける第2円弧面912dとは反対側の端縁とを接続するとともに本体部25の円弧面251に沿って延びている。
【0066】
第3切欠面95cにおける隔壁本体91の周方向の長さは、第1円弧面911dにおける隔壁本体91の周方向の長さとほぼ同じである。したがって、第3切欠面95cにおける隔壁本体91の周方向の長さは、第2円弧面912dにおける隔壁本体91の周方向の長さよりも長く、第2円弧面912dにおける隔壁本体91の周方向の長さの2倍以上である。第3切欠面95cは、本体部25の円弧面251から離間している。切り欠き95の第3切欠面95cは、隔壁本体91の径方向において、挿通孔91aを挟んで突起92とは反対側に位置している。
【0067】
突起92は、環状部64の径方向における本体部25の膨出面252及び閉塞部26の膨出面262と環状部64との間に配置されている。したがって、切り欠き95は、本体部25の膨出面252に対して、突起92よりも遠い位置に配置されており、突起92よりも鉛直方向上方に位置している。
【0068】
突起92は、湾曲板状の第1板部92aと、平板状の第2板部92bと、から構成されている。第1板部92aは、第1接続面913dに連続している。第2板部92bは、第2接続面914dに連続している。第1板部92aにおける第1接続面913dとは反対側の端部は、第2板部92bにおける第2接続面914dとは反対側の端部に連続している。第1板部92aにおける隔壁本体91からの突出方向の長さと、第2板部92bにおける隔壁本体91からの突出方向の長さとは同じである。第1板部92aの厚みと第2板部92bの厚みとは同じである。
【0069】
図2に示すように、第2板部92bにおける隔壁本体91とは反対側の端部は、環状部64の径方向でオイル排出孔117aと重なる位置に配置されている。したがって、突起92は、環状部64の径方向における増速機ハウジング23の内周面と環状部64との間であって、且つオイル排出孔117aに対して環状部64の径方向で対向する位置に配置されている。
【0070】
増速機室S2内において、隔壁本体91よりも環状部64の軸線方向でリング部材62側であって、且つ突起92よりも環状部64の径方向でリング部材62側に位置する領域を撹拌領域96とする。また、増速機室S2内において、隔壁本体91よりも環状部64の軸線方向で本体部25の底部24側に位置する領域、及び突起92よりも環状部64の径方向で増速機ハウジング23の内周面側に位置する領域を貯留領域97とする。
【0071】
撹拌領域96と貯留領域97における隔壁本体91よりも環状部64の軸線方向で本体部25の底部24側に位置する領域とは、切り欠き95と本体部25の円弧面251との間を介して連通している。したがって、切り欠き95と本体部25の円弧面251との間は、撹拌領域96のオイルを、貯留領域97における隔壁本体91よりも環状部64の軸線方向で本体部25の底部24側に位置する領域に導く導入路98を形成している。
【0072】
閉塞部26の円弧面261は、隔壁本体91に向かうにつれて環状部64に対して環状部64の径方向外側に向けて離間していく傾斜面になっている。閉塞部26の円弧面261は、増速機ハウジング23の内周面における撹拌領域96を形成する部分である。そして、閉塞部26の円弧面261の一部分は、導入路98に対して増速機ハウジング23の軸線方向で対向している。なお、閉塞部26の円弧面261の傾斜角度は、閉塞部26を金型で製造する際に必要となる抜き勾配よりも大きい角度である。
【0073】
図2及び図3に示すように、増速機ハウジング23は、閉塞部26の円弧面261から環状部64に向けて突出する堰き止め突起99を有している。堰き止め突起99は、導入路98に対して増速機ハウジング23の軸線方向で対向している。図2に示すように、堰き止め突起99における円弧面261からの突出方向の先端に位置する先端面は、隔壁本体91に向かうにつれて環状部64に対して環状部64の径方向外側に向けて離間している。堰き止め突起99の先端面は、平坦面状である。堰き止め突起99における円弧面261の周方向両側に位置する両側面は、平坦面状であるとともに互いに平行に延びている。堰き止め突起99は、環状部64の肉厚部64dに対して環状部64の径方向外側に位置している。
【0074】
次に、本実施形態の作用について説明する。
リング部材62が回転すると、環状部64によって増速機室S2内における撹拌領域96のオイルが掻き上げられ、撹拌領域96のオイルが撹拌される。リング部材62の回転によって撹拌領域96のオイルが撹拌されると、このオイルは、リング部材62の遠心力によって環状部64の径方向外側に向けて飛散し、増速機ハウジング23の内周面に衝突する。特に、環状部64の肉厚部64dでは、環状部64の肉厚部64d以外の部分に比べて、撹拌領域96のオイルを掻き上げる量が多いため、閉塞部26の円弧面261に衝突するオイルの量が多くなる。
【0075】
このとき、閉塞部26の円弧面261が、隔壁本体91に向かうにつれて環状部64に対して環状部64の径方向外側に向けて離間していく傾斜面になっているため、閉塞部26の円弧面261に付着したオイルが、閉塞部26の円弧面261によって隔壁本体91に向けて案内される。そして、閉塞部26の円弧面261によって隔壁本体91に向けて案内されたオイルは、本体部25の円弧面251を伝って流れるとともに導入路98を介して貯留領域97における隔壁本体91よりも環状部64の軸線方向で本体部25の底部24側に位置する領域に導かれ、貯留領域97に貯留される。貯留領域97に貯留されたオイルは、リング部材62の回転によって撹拌され難いため、リング部材62によって撹拌されるオイルの絶対量が少なくなる。その結果、リング部材62の回転時の撹拌抵抗が低減される。
【0076】
また、リング部材62の回転によって撹拌領域96で撹拌されて、リング部材62の遠心力によって環状部64の径方向外側に向けて飛散したオイルの一部は、リング部材62の回転によって環状部64の径方向外側で環状部64と連れ回る。具体的には、オイルは、環状部64の外周面と本体部25の円弧面251及び閉塞部26の円弧面261との間で、環状部64と連れ回る。そして、環状部64の径方向外側で環状部と連れ回るオイルは、図3において矢印R1で示すように、本体部25の膨出面252及び閉塞部26の膨出面262に向けて流れて、閉塞部26の膨出面262におけるオイル排出孔117aの周囲に衝突する場合がある。
【0077】
このとき、環状部64の径方向における本体部25の膨出面252及び閉塞部26の膨出面262と環状部64との間であって、且つオイル排出孔117aに対して環状部64の径方向で対向する位置に突起92が配置されている。このため、閉塞部26の膨出面262におけるオイル排出孔117aの周囲に衝突したオイルは、図3において矢印R1で示すように、閉塞部26の膨出面262におけるオイル排出孔117aの周囲ではね返った後、突起92に衝突して、オイル排出孔117aから増速機室S2外へ排出される。したがって、閉塞部26の膨出面262におけるオイル排出孔117aの周囲に衝突したオイルが、再び環状部64の径方向外側で環状部64と連れ回ることが抑制されるため、リング部材62によって撹拌されるオイルの絶対量が少なくなり、リング部材62の回転時の撹拌抵抗がさらに低減される。
【0078】
さらに、閉塞部26の円弧面261から環状部64に向けて堰き止め突起99が突出している。よって、リング部材62の回転によって環状部64の径方向外側で環状部64と連れ回るオイルが堰き止め突起99に衝突することで、堰き止め突起99に衝突したオイルの一部が、隔壁本体91に向かって流れて導入路98を介して貯留領域97における隔壁本体91よりも環状部64の軸線方向で本体部25の底部24側に位置する領域に導かれる。したがって、リング部材62によって撹拌されるオイルの絶対量がさらに少なくなり、リング部材62の回転時の撹拌抵抗がさらに低減される。
【0079】
オイル供給通路118からシャフト挿通孔27内における第1シール部材33と第2軸受32との間に供給されたオイルは、第1シール部材33及び第2軸受32を潤滑し、その後、第2軸受32と低速側シャフト11との間を介して貯留領域97に流出する。したがって、第1シール部材33及び第2軸受32の潤滑に寄与して増速機室S2内に流出するオイルが、撹拌領域96へ流出されないため、リング部材62によって撹拌されるオイルの絶対量が多くなってしまうことが抑制され、リング部材62の回転時の撹拌抵抗が低減される。
【0080】
上記実施形態では以下の効果を得ることができる。
(1)増速機室S2内におけるリング部材62と本体部25の底部24との間には、隔壁90が配置されている。さらに、遠心圧縮機10は、増速機室S2内における隔壁90よりもリング部材62側に位置する領域である撹拌領域96のオイルを、増速機室S2内における隔壁90よりも本体部25の底部24側に位置する領域である貯留領域97に導く導入路98を備えている。リング部材62の回転によって撹拌領域96のオイルが撹拌されると、このオイルは、リング部材62の遠心力によって環状部64の径方向外側に向けて飛散し、増速機ハウジング23の内周面に衝突する。そして、増速機ハウジング23の内周面に衝突したオイルの一部は、隔壁90に向かって流れて導入路98を介して貯留領域97に導かれる。貯留領域97に貯留されたオイルは、リング部材62の回転によって撹拌され難いため、リング部材62によって撹拌されるオイルの絶対量が少なくなる。その結果、リング部材62の回転時の撹拌抵抗を低減させることができる。
【0081】
(2)リング部材62の回転によって撹拌領域96で撹拌されて、リング部材62の遠心力によって環状部64の径方向外側に向けて飛散したオイルの一部は、リング部材62の回転によって環状部64の径方向外側で環状部64と連れ回る。そして、環状部64の径方向外側で環状部64と連れ回るオイルが、増速機ハウジング23の内周面におけるオイル排出孔117aの周囲に衝突する場合がある。このとき、環状部64の径方向における増速機ハウジング23の内周面と環状部64との間であって、且つオイル排出孔117aに対して環状部64の径方向で対向する位置に突起92が配置されている。このため、増速機ハウジング23の内周面におけるオイル排出孔117aの周囲に衝突したオイルは、増速機ハウジング23の内周面におけるオイル排出孔117aの周囲ではね返った後、突起92に衝突して、オイル排出孔117aから増速機室S2外へ排出される。したがって、増速機ハウジング23の内周面におけるオイル排出孔117aの周囲に衝突したオイルが、再び環状部64の径方向外側で環状部64と連れ回ることが抑制されるため、リング部材62によって撹拌されるオイルの絶対量を少なくすることができ、リング部材62の回転時の撹拌抵抗をさらに低減させることができる。
【0082】
(3)増速機ハウジング23の内周面における撹拌領域96を形成する部分である閉塞部26の円弧面261は、隔壁本体91に向かうにつれて環状部64に対して環状部64の径方向外側に向けて離間するとともに導入路98に対して増速機ハウジング23の軸線方向で対向する傾斜面になっている。これによれば、リング部材62の回転によって撹拌領域96で撹拌されて、リング部材62の遠心力によって環状部64の径方向外側に向けて飛散したオイルが円弧面261に衝突すると、円弧面261に付着したオイルが円弧面261によって隔壁90に向けて案内される。このため、撹拌領域96のオイルが導入路98を介して貯留領域97に導かれ易くなる。したがって、リング部材62によって撹拌されるオイルの絶対量をさらに少なくすることができ、リング部材62の回転時の撹拌抵抗をさらに低減させることができる。
【0083】
(4)増速機ハウジング23は、閉塞部26の円弧面261から環状部64に向けて突出するとともに、導入路98に対して増速機ハウジング23の軸線方向で対向する堰き止め突起99を有している。これによれば、リング部材62の回転によって環状部64の径方向外側で環状部64と連れ回るオイルが堰き止め突起99に衝突することで、堰き止め突起99に衝突したオイルの一部が、隔壁90に向かって流れて導入路98を介して貯留領域97に導かれる。したがって、リング部材62によって撹拌されるオイルの絶対量をさらに少なくすることができ、リング部材62の回転時の撹拌抵抗をさらに低減させることができる。
【0084】
(5)本体部25の底部24には、シャフト挿通孔27内における第1シール部材33と第2軸受32との間にオイルを供給するオイル供給通路118が形成されている。オイル供給通路118からシャフト挿通孔27内における第1シール部材33と第2軸受32との間に供給されたオイルは、第1シール部材33及び第2軸受32グを潤滑し、その後、第2軸受32と低速側シャフト11との間を介して増速機室S2内における隔壁90よりも本体部25の底部24側に位置する領域である貯留領域97に流出する。したがって、第1シール部材33及び第2軸受32の潤滑に寄与して増速機室S2内に流出するオイルが、撹拌領域96へ流出されないため、リング部材62によって撹拌されるオイルの絶対量が多くなってしまうことが抑制され、リング部材62の回転時の撹拌抵抗を低減させることができる。
【0085】
(6)リング部材62の回転時の撹拌抵抗を低減することができるため、増速機室S2内でオイルの撹拌が抑えられ、オイルが撹拌されることにより発生してオイル内に含まれる空気の量を抑えることができる。その結果、各ローラ71の潤滑に寄与するオイルの量を増加させることができる。
【0086】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0087】
○ 実施形態において、隔壁90が、突起92を有していない構成であってもよい。
○ 実施形態において、導入路98は、例えば、隔壁本体91を貫通する貫通孔であってもよい。
【0088】
○ 実施形態において、隔壁本体91の外周部に形成される切り欠き95における隔壁本体91の周方向での形成領域は、適宜変更してもよい。
○ 実施形態において、閉塞部26の円弧面261が傾斜面になっておらず、増速機ハウジング23の軸線方向に延びる内周面であってもよい。
【0089】
○ 実施形態において、突起92は、全体として環状部64の周方向に延びる湾曲板状に形成されていてもよい。
○ 実施形態において、突起92は、例えば、第1板部92aが湾曲板状ではなく、平板状であってもよい。
【0090】
○ 実施形態において、第1板部92aと第2板部92bとが互いに連続していなくてもよい。この場合、突起92は、互いに非連続である第1板部92a及び第2板部92bとから構成されている。
【0091】
○ 実施形態において、堰き止め突起99における円弧面261からの突出方向の先端に位置する先端面が、隔壁本体91に向かうにつれて環状部64に対して環状部64の径方向外側に向けて離間しておらず、増速機ハウジング23の軸線方向に延びる平坦面状であってもよい。
【0092】
○ 実施形態において、堰き止め突起99が円弧面261から突出していなくてもよく、増速機ハウジング23が堰き止め突起99を有していない構成であってもよい。
○ 実施形態において、ポンプ101は、遠心圧縮機10に内蔵されていなくてもよく、例えば、遠心圧縮機10の外部に設けられる外部ポンプを用いてもよい。
【0093】
○ 実施形態において、ローラ71の数は適宜変更してもよく、例えば、4つや5つにしてもよい。
○ 実施形態において、増速機60として、くさび作用を利用したものを用いてもよい。この場合、ローラのうち少なくとも1つは、リング部材62の回転により移動する可動ローラが用いられる。
【0094】
○ 実施形態において、遠心圧縮機10の適用対象及び圧縮対象の流体は任意である。例えば、遠心圧縮機10は空調装置に用いられていてもよく、圧縮対象の流体は冷媒であってもよい。また、遠心圧縮機10の搭載対象は、車両に限られず任意である。
【符号の説明】
【0095】
S1…モータ室、S2…増速機室、10…遠心圧縮機、11…低速側シャフト、12…高速側シャフト、13…電動モータ、20…ハウジング、24…仕切壁として機能する底部、27…シャフト挿通孔、32…ベアリングとしての第2軸受、33…シール部材としての第1シール部材、52…インペラ、62…リング部材、64…環状部、71…ローラ、90…隔壁、92…突起、96…撹拌領域、97…貯留領域、98…導入路、99…堰き止め突起、117a…オイル排出孔、118…オイル供給通路、261…傾斜面である円弧面。
図1
図2
図3
図4