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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/025 20060101AFI20220405BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20220405BHJP
   F01N 3/023 20060101ALI20220405BHJP
   F01N 3/033 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
F01N3/025 101
F02D43/00 301H
F02D43/00 301T
F01N3/023 A
F01N3/033 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018246919
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020106000
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樅野 博司
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-155531(JP,A)
【文献】特開2005-171837(JP,A)
【文献】特開2012-72686(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0114688(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/025
F02D 41/04
F02D 41/10
F02D 41/38
F02D 45/00
F02D 43/00
F01N 3/023
F01N 3/033
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状物質を捕集するフィルタと、前記フィルタの上流側に配置される酸化触媒と、を内燃機関の排気経路に有する内燃機関システムにおける内燃機関の制御装置であって、
前記制御装置は、
前記内燃機関の運転状態を検出し、検出した前記運転状態に応じた量の燃料を前記内燃機関のシリンダ内に噴射するメイン噴射を行って前記内燃機関を制御するとともに、予め設定された最高回転数以下となるように前記内燃機関を制御し、
前記制御装置には、
前記内燃機関の上限回転数である前記最高回転数、または、前記最高回転数に対応する前記メイン噴射の上限噴射量である最大噴射量、が設定されており、
アイドリング回転数を上昇させるとともに排気温度を上昇させて前記フィルタ内に堆積している粒子状物質を燃焼焼却させて前記フィルタを再生する手動再生を開始してから前記フィルタ内に残っている粒子状物質が再生終了量以下となるまでの目標とする時間である目標再生時間に基づいた、手動再生最高回転数または手動再生最大噴射量、が設定されており、
前記制御装置は、
運転者から前記手動再生の指示が入力されて前記手動再生を開始した場合に、アイドリング回転数を、前記目標再生時間に基づいて設定されている手動再生下限回転数へと上昇させる、アイドリング回転数上昇手段と、
前記手動再生を開始した場合に、前記酸化触媒内で排気温度を上昇させて前記フィルタ内に堆積している粒子状物質を燃焼焼却させるための燃料を前記シリンダ内に噴射するポスト噴射を、前記メイン噴射の後に噴射する、ポスト噴射実行手段と、
前記手動再生を開始した場合に、前記内燃機関の上限回転数を、前記最高回転数よりも低く設定された前記手動再生最高回転数に変更する、または、前記シリンダ内への前記メイン噴射の上限噴射量を、前記最大噴射量よりも低く設定された前記手動再生最大噴射量に変更する、上限回転制限手段と、
を有する、
内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記手動再生の際に行われる前記ポスト噴射の噴射量は、
前記内燃機関の回転数に応じた噴射量に設定されているとともに、前記内燃機関の回転数が、予め設定されたポスト噴射制限開始回転数を超えた場合では、前記内燃機関の回転数の上昇に伴って減量するように設定されており、
前記手動再生最高回転数または前記手動再生最大噴射量は、
前記ポスト噴射の噴射量と、前記目標再生時間とに基づいて設定されている、
内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記手動再生最高回転数は、
前記ポスト噴射制限開始回転数以上、かつ、前記最高回転数未満、の回転数に設定されている、
あるいは、
前記手動再生最大噴射量は、
前記ポスト噴射制限開始回転数に対応する噴射量であるポスト制限開始噴射量以上、かつ、前記最大噴射量未満、の噴射量に設定されている、
内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記制御装置は、
少なくとも前記手動再生を行っていない場合に、前記フィルタ内に堆積している粒子状物質の量を推定する、堆積量推定手段と、
前記手動再生を行っている場合に、燃焼焼却によって減量した前記フィルタ内の粒子状物質の残存量を推定する、残存量推定手段と、
前記手動再生を開始してからの経過時間と、前記残存量と、前記目標再生時間とに基づいて、前記手動再生最高回転数または前記手動再生最大噴射量を変更する、上限回転制限変更手段と、
を有する、
内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にディーゼルエンジン(内燃機関)では、排気ガスに含まれる粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集するフィルタが排気通路に設けられ、粒子状物質の大気中への放出を抑制している。このフィルタにおいて、捕集されたPMの堆積量が多くなると、フィルタの圧力損失が増大し、ディーゼルエンジンの出力の低下、燃費の悪化を招く可能性がある。
【0003】
特許文献1に記載の車載ディーゼルエンジンの排気浄化装置は、アイドリング状態において、ポスト噴射により噴射させた燃料を酸化触媒で反応させて排気ガスを昇温している。そして、昇温した排気ガスをフィルタに導き、フィルタ内に堆積した粒子状物質を燃焼除去する再生処理(手動再生処理)を実行する。フィルタに流入する排気ガスの温度をより上昇させ粒子状物質をより早く燃焼させることで、フィルタの再生処理を早く終了できることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-202573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ポスト噴射により噴射される燃料が多いと、シリンダ内に付着した燃料の一部が潤滑油とともにオイルパン内の潤滑油に混入することがある。このような燃料の混入により潤滑油の希釈が進行すると、潤滑油の潤滑作用や冷却作用が低下し、内燃機関各部の焼付きや摩耗を招く可能性がある。
【0006】
また、特許文献1に記載の車載ディーゼルエンジンの排気浄化装置は、アクセルの操作を行わないことを手動再生処理の実施の要件としているが、手動再生中にアクセルの操作を行うことができる内燃機関もある。この場合、運転者は、再生処理を早く終了させようと、アクセルを開けて内燃機関の回転数を上昇させる。
【0007】
しかし、アクセルを開け内燃機関の回転数を上昇させすぎるとポスト噴射量が増え過ぎ、ポスト噴射に伴う燃料の一部が潤滑油を希釈させる可能性がある。これを防ぐため、所定の回転数以上になると、ポスト噴射量を減量させ(ポスト噴射量制限)、フィルタに流入する排気ガスの温度が期待通りには上昇せず結果的に再生処理に要する時間が、再生処理を終了させる目標となる時間である目標再生時間より長くなる場合がある。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、フィルタに堆積している粒子状物質を、ポスト噴射を用いて燃焼焼却する手動再生処理において、アクセルを踏み込む等を行ってポスト噴射量が減量される回転数に上昇させた場合であっても、目標再生時間内に手動再生処理を終了できる内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、第1の発明は、粒子状物質を捕集するフィルタと、前記フィルタの上流側に配置される酸化触媒と、を内燃機関の排気経路に有する内燃機関システムにおける内燃機関の制御装置であって、前記制御装置は、前記内燃機関の運転状態を検出し、検出した前記運転状態に応じた量の燃料を前記内燃機関のシリンダ内に噴射するメイン噴射を行って前記内燃機関を制御するとともに、予め設定された最高回転数以下となるように前記内燃機関を制御し、前記制御装置には、前記内燃機関の上限回転数である前記最高回転数、または、前記最高回転数に対応する前記メイン噴射の上限噴射量である最大噴射量、が設定されており、アイドリング回転数を上昇させるとともに排気温度を上昇させて前記フィルタ内に堆積している粒子状物質を燃焼焼却させて前記フィルタを再生する手動再生を開始してから前記フィルタ内に残っている粒子状物質が再生終了量以下となるまでの目標とする時間である目標再生時間に基づいた、手動再生最高回転数または手動再生最大噴射量、が設定されており、前記制御装置は、運転者から前記手動再生の指示が入力されて前記手動再生を開始した場合に、アイドリング回転数を、前記目標再生時間に基づいて設定されている手動再生下限回転数へと上昇させる、アイドリング回転数上昇手段と、前記手動再生を開始した場合に、前記酸化触媒内で排気温度を上昇させて前記フィルタ内に堆積している粒子状物質を燃焼焼却させるための燃料を前記シリンダ内に噴射するポスト噴射を、前記メイン噴射の後に噴射する、ポスト噴射実行手段と、前記手動再生を開始した場合に、前記内燃機関の上限回転数を、前記最高回転数よりも低く設定された前記手動再生最高回転数に変更する、または、前記シリンダ内への前記メイン噴射の上限噴射量を、前記最大噴射量よりも低く設定された前記手動再生最大噴射量に変更する、上限回転制限手段と、を有する、内燃機関の制御装置である。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明に係る内燃機関の制御装置であって、前記手動再生の際に行われる前記ポスト噴射の噴射量は、前記内燃機関の回転数に応じた噴射量に設定されているとともに、前記内燃機関の回転数が、予め設定されたポスト噴射制限開始回転数を超えた場合では、前記内燃機関の回転数の上昇に伴って減量するように設定されており、前記手動再生最高回転数または前記手動再生最大噴射量は、前記ポスト噴射の噴射量と、前記目標再生時間とに基づいて設定されている、内燃機関の制御装置である。
【0011】
第3の発明は、上記第2の発明に係る内燃機関の制御装置であって、前記手動再生最高回転数は、前記ポスト噴射制限開始回転数以上、かつ、前記最高回転数未満、の回転数に設定されている、あるいは、前記手動再生最大噴射量は、前記ポスト噴射制限開始回転数に対応する噴射量であるポスト制限開始噴射量以上、かつ、前記最大噴射量未満、の噴射量に設定されている、内燃機関の制御装置である。
【0012】
第4の発明は、上記第2又は第3の発明に係る内燃機関の制御装置であって、前記制御装置は、少なくとも前記手動再生を行っていない場合に、前記フィルタ内に堆積している粒子状物質の量を推定する、堆積量推定手段と、前記手動再生を行っている場合に、燃焼焼却によって減量した前記フィルタ内の粒子状物質の残存量を推定する、残存量推定手段と、前記手動再生を開始してからの経過時間と、前記残存量と、前記目標再生時間とに基づいて、前記手動再生最高回転数または前記手動再生最大噴射量を変更する、上限回転制限変更手段と、を有する、内燃機関の制御装置である。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、運転者による手動再生処理において、再生処理を目標再生時間内に終了させることができる。
【0014】
第2の発明によれば、運転者による手動再生処理において、再生処理を目標再生時間内に終了させることができるとともに、ポスト噴射における噴射量を減量し潤滑油の希釈を防ぐことができる。
【0015】
第3の発明によれば、アクセル操作を行った場合でも、確実に再生処理を目標再生時間内に終了させることができる。
【0016】
第4の発明によれば、フィルタ内の粒子状物質(PM)の残存量に基づいて手動再生最高回転数または手動再生最大噴射量を最適化し再生処理を行うため、再生時間をより短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る内燃機関(エンジン)の制御装置を適用した構成の一例を説明する図である。
図2】再生処理(運転者のアクセル操作無し)とフィルタのPM堆積量の関係を説明する図である。
図3】再生処理(運転者のアクセル操作有り)とフィルタのPM堆積量の関係を説明する図である。
図4】実施の形態の再生処理の手順を説明するフローチャートである。
図5】アイドリング制御処理の手順を説明するフローチャートである。
図6】上限回転数制御処理の手順を説明するフローチャートである。
図7】上限噴射量制御処理の手順を説明するフローチャートである。
図8】フィルタ堆積量推定処理の手順を説明するフローチャートである。
図9】ポスト噴射制御処理の手順を説明するフローチャートである。
図10】エンジン回転数と再生処理との関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
●[実施形態に係る内燃機関の制御装置を適用した全体構成(図1)]
図1を用いて本発明を実施するための形態の全体構成を説明する。図1は、実施形態に係る内燃機関の制御装置を適用した構成の一例を説明する図である。内燃機関10は、ディーゼルエンジン(以下、エンジンとする)である。なお、以下の説明において、DPF43は、粒子状物質除去フィルタ(Diesel Particulate Filter)(フィルタに相当)である。また、DPF43よりも下流側の排気通路に配置されて窒素酸化物(NOx)を無害化する選択還元触媒等については、記載を省略している。
【0019】
図1に示すように、内燃機関10の排気通路(排気経路に相当)12には、排気ガス浄化装置41が設けられている。また、排気ガス浄化装置41の内部には、上流側から、酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)42、DPF43が設けられている。排気ガス浄化装置41は、排気ガス通路を構成し、上流側から下流側に排気ガスが通過する間に、排気ガスに含まれる有害物質を除去するものである。ここで、内燃機関10は、燃料を燃焼し、粒子状物質(PM)、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等の有害物質を、排気ガスと一緒に排出する。
【0020】
酸化触媒42は、セラミック製の円柱状等に形成されたセル状筒体からなり、その軸方向には多数の貫通孔が形成され、内面に白金(Pt)等の貴金属がコーティングされている。そして、酸化触媒42は、所定の温度下で多数の貫通孔に排気ガスを通すことにより、排気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等を酸化して除去する。
【0021】
DPF43は、セラミックス材料等からなる多孔質な部材によって円柱状等に形成され、軸方向に多数の小孔が設けられたハニカム構造のセル状筒体をなし、各小孔は、隣同士で交互に異なる端部が目封じ部材によって閉塞されている。そして、DPF43は、上流側から各小孔に流入する排気ガスを多孔質材料に通すことで粒子状物質(PM)を捕集し、排気ガスのみを隣の小孔を通じて下流側へと流出させる。
【0022】
酸化触媒42の上流側(排気ガス浄化装置41の上流側)には、排気温度検出装置36A(例えば、排気温度センサ)が設けられている。酸化触媒42の下流側、かつ、DPF43の上流側には、排気温度検出装置36B(例えば、排気温度センサ)が設けられている。
【0023】
DPF43の下流側には、排気温度検出装置36C(例えば、排気温度センサ)が設けられている。また、排気ガス浄化装置41内における、酸化触媒42の下流側、かつ、DPF43の上流側の排気圧力(排気管内圧力に相当)と、DPF43の下流側の排気管内圧力と、の差圧(圧力差)を検出する差圧検出装置35(例えば、差圧センサ)が設けられている。
【0024】
制御装置50は、CPU(図示省略)と、記憶手段40と、アイドリング回転数上昇手段52と、ポスト噴射実行手段54と、上限回転制限手段56と、上限回転制限変更手段58と、堆積量推定手段60と、残存量推定手段62と、を備えている。CPUは、記憶手段40に記憶された各種プログラム等に基づいて、種々の演算処理を実行する。また、記憶手段40は、各処理に用いられる所定の値、及びCPUでの演算結果や各検出装置から入力されたデータ等を一時的に記憶し、内燃機関10の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する。
【0025】
制御装置50には、吸気通路11に設けられた吸入空気流量検出装置31(例えば、エアフローメーター)の検出信号、アクセル開度検出装置33の検出信号、回転検出装置34の検出信号、のそれぞれが入力されている。
【0026】
制御装置50は、これらの検出装置からの検出信号に基づいて内燃機関10の運転状態を検出することができる。また、制御装置50は、検出した内燃機関10の運転状態や、アクセル開度検出装置33からの検出信号に基づいた運転者からの要求に応じて、各インジェクタ14A~14Dから内燃機関10のシリンダ内に噴射する燃料量を制御する制御信号を出力する。そして、制御装置50は、各インジェクタ14A~14Dから噴射した毎秒当たりの燃料噴射量(g/s)を算出して、記憶手段40に記憶する。
【0027】
吸入空気流量検出装置31(例えば、吸気流量センサ)は、内燃機関10の吸気通路11に設けられて内燃機関10が吸入した空気の流量に応じた検出信号を制御装置50に出力する。アクセル開度検出装置33(例えば、アクセル開度センサ)は、運転者が操作するアクセルの開度(すなわち、運転者の要求負荷)に応じた検出信号を制御装置50に出力する。回転検出装置34(例えば、回転センサ)は、例えば、内燃機関10のクランクシャフトの回転数(すなわち、エンジン回転数)に応じた検出信号を制御装置50に出力する。
【0028】
また、図1に示す例では、制御装置50は、運転者にDPF43(フィルタ)の手動再生処理の実行を促す警告ランプ15と、運転者が手動再生の開始を指示するための手動再生スイッチSWと、を備えている。また、手動再生スイッチSWは、例えば運転者が押している間のみ動作し、ON/OFFに応じた信号を制御装置50に出力する。警告ランプ15と手動再生スイッチSWは、例えば、車両のインスツルメントパネル内に設けられている。
【0029】
制御装置50は、検出した運転状態に応じた量の燃料を内燃機関のシリンダ内の各インジェクタ14A~14Dから噴射するメイン噴射を行って内燃機関10を制御するとともに、予め設定された最高回転数以下となるように内燃機関10を制御する。
【0030】
制御装置50には、内燃機関10の上限回転数である最高回転数、及び最高回転数に対応するメイン噴射の上限噴射量である最大噴射量、が設定されており、アイドリング回転数を上昇させるとともに排気温度を上昇させてDPF43内に堆積している粒子状物質(PM)を燃焼焼却させてDPF43(フィルタ)を再生する手動再生を開始してからフィルタ内に残っている粒子状物質が再生終了量以下となるまでの目標とする時間である目標再生時間に基づいた、手動再生最高回転数及び手動再生最大噴射量、が設定されている。なお、目標再生時間は、予め設定された所定の再生時間であり、記憶手段40に記憶されている。
【0031】
アイドリング回転数上昇手段52は、運転者から手動再生の指示が入力されて手動再生を開始した場合に、アイドリング回転数を、目標再生時間に基づいて設定されている手動再生下限回転数へと上昇させる。なお、手動再生下限回転数は、予め設定された回転数であり、記憶手段40に記憶されている。
【0032】
ポスト噴射実行手段54は、手動再生を開始した場合に、酸化触媒42内で排気温度を上昇させてフィルタ内に堆積している粒子状物質を燃焼焼却させるための燃料をシリンダ内に噴射するポスト噴射を、メイン噴射の後に噴射する。
【0033】
ポスト噴射において、各インジェクタ14A~14Dからから噴射された燃料は、酸化触媒42によって排気ガス中に残った酸素との酸化反応が生じて燃焼し、その発熱により排気ガス温度が上昇する。この高温になった排気ガスによりDPF43の温度が上昇して、所定温度以上(例えば、600℃以上)になると、DPF43内に堆積した粒子状物質(PM)が燃焼焼却される。このような状態を所定の時間、維持することによってDPF43内に堆積した粒子状物質を燃焼させて除去し、排気ガス中の粒子状物質(PM)を捕集するというDPF43の捕集機能を回復(再生)させることができる。
【0034】
上限回転制限手段56は、手動再生を開始した場合に、内燃機関の上限回転数を、最高回転数よりも低く設定された手動再生最高回転数に変更する、または、シリンダ(図示省略)内へのメイン噴射の上限噴射量を、最大噴射量よりも低く設定された手動再生最大噴射量に変更する。なお、最高回転数及び最大噴射量は、予め設定された所定の値であり、記憶手段40に記憶されている。
【0035】
上限回転制限変更手段58は、手動再生を開始してからの経過時間と、DPF43(フィルタ)の粒子状物質(PM)の残存量と、目標再生時間とに基づいて、手動再生最高回転数及び手動再生最大噴射量を変更する。
【0036】
堆積量推定手段60は、少なくとも手動再生を行っていない場合に、DPF43(フィルタ)内に堆積している粒子状物質の量を推定し、推定した堆積量をフィルタPM堆積量(g)として記憶手段40に記憶する。残存量推定手段62は、手動再生を行っている場合に、燃焼焼却によって減量したDPF43内の粒子状物質の残存量を推定する。
【0037】
●[DPF43(フィルタ)の手動再生処理(図2図8)]
図2図8を用いて、DPF43(フィルタ)の手動再生処理の説明をする。図2は、再生処理(運転者のアクセル操作無し)とフィルタのPM堆積量の関係を説明する図である。図3は、再生処理(運転者のアクセル操作有り)とフィルタのPM堆積量の関係を説明する図である。図4は、実施の形態の再生処理の手順を説明するフローチャートである。
【0038】
図2図3の上部において示された図は、DPF43(フィルタ)に堆積したフィルタPM堆積量と再生処理における時間との関係を示している。手動再生上限堆積量は、DPF43がフィルタとして機能を維持できる許容できる最大のフィルタPM堆積量を示している。
【0039】
また、Tmaxは、フィルタPM堆積量が手動再生上限堆積から再生終了量に到達するまでの時間であり、再生処理を終了する目標となる処理時間である目標再生時間を示している。なお、再生終了量は、記憶手段40(図1参照)に予め記憶されており、制御装置50が手動再生処理を完了したと判定するフィルタPM堆積量である。
【0040】
以下、図4図8を用いて、手動再生処理の手順を説明する。制御装置50(図1参照)は、起動された場合、所定時間間隔(例えば数[ms]間隔)にて、図4図8における各処理(再生処理、アイドリング制御処理、上限回転数制御処理、上限噴射量制御処理、フィルタ堆積量推定処理)を逐次実行する。以下、図4の各ステップについて詳細に説明する。
【0041】
ステップS005において、制御装置50は、フィルタPM堆積量が警告判定値より大きいと判定した場合(Yes)は、ステップS010に処理を進め、フィルタPM堆積量が警告判定値より大きくないと判定した場合(No)は、ステップS065に処理を進める。なお、警告判定値は、運転者へ手動再生処理を促すフィルタPM堆積量における閾値であり、予め設定された所定の堆積量であり、記憶手段40に記憶されている。
【0042】
ステップS010において、制御装置50は、警告ランプ15(図1参照)を点灯(ON)させ、ステップS015に処理を進める。
【0043】
ステップS015において、制御装置50は、再生処理実行フラグがONであると判定した場合(Yes)は、ステップS020に処理を進め、再生処理実行フラグがONでないと判定した場合(No)は、ステップS060に処理を進める。なお、再生処理実行フラグは、再生処理が実行されているか否かを示すフラグであり、再生処理が実行されている場合にONに設定され、再生処理が実行されていない場合にOFFに設定される。
【0044】
ステップS020において、制御装置50は、再生解除条件が充足されていると判定した場合(Yes)は、ステップS070に処理を進め、再生解除条件が充足されていないと判定した場合(No)は、ステップS025に処理を進める。なお、制御装置50は、例えば、内燃機関(エンジン)が停止していること、車両が走行中であること、シフトレバー(図示省略)の位置が非走行位置(例えば停車位置「P」又は中立位置「N」)でないこと、等の条件のいずれか一つでも充足する場合、再生解除条件が充足されていると判定する。
【0045】
ステップS060において、制御装置50は、手動再生スイッチSW(図1参照)がONであると判定した場合(Yes)は、ステップS020に処理を進め、手動再生スイッチSWがONでないと判定した場合(No)は、処理を終了する。
【0046】
ステップS025において、制御装置50は、PM焼却量を算出し、ステップS030に処理を進める。なお、制御装置50は、ポスト噴射量とエンジン回転数に基づいてPM焼却量を算出する。ポスト噴射量は、予め設定された所定のポスト噴射の燃料の噴射量であり、記憶手段40に記憶されている。なお、ポスト噴射は、後述するSUB500(ポスト噴射制御処理)により実行される。
【0047】
ステップS030において、制御装置50は、残存量推定手段62により、残存量(フィルタPM堆積量-PM焼却量)を推定し、新たなフィルタPM堆積量として記憶手段40に記憶し、ステップS035に処理を進める。
【0048】
ステップS035において、制御装置50は、アイドリング回転数を手動再生下限回転数に設定し、ステップS040に処理を進める。なお、エンジン回転数は、後述するSUB100(アイドリング制御処理)により、手動再生下限回転数になるように制御される。手動再生下限回転数は、図2で示すように例えば1200rpmである。
【0049】
ステップS040において、制御装置50は、手動再生最高回転数を算出・設定(更新)し、ステップS045に処理を進める。なお、エンジン回転数は、後述するSUB200(上限回転数設定処理)により、上限回転数が手動再生最高回転数以下になるように制御される。
【0050】
ステップS045において、制御装置50は、手動再生最高回転数に基づいて、手動再生上限噴射量を算出・設定(更新)し、ステップS050に処理を進める。なお、燃料の噴射量は、後述するSUB300(上限噴射量制御処理)により、目標上限噴射量になるように制御される。
【0051】
ステップS050において、制御装置50は、更新されたフィルタPM堆積量が再生終了量より小さいと判定した場合(Yes)は、ステップS070に処理を進め、フィルタPM堆積量が再生終了量より小さくないと判定した場合(No)は、ステップS055に処理を進める。
【0052】
ステップS055において、制御装置50は、再生処理実行フラグをONに設定し、処理を終了する。
【0053】
ステップS065において、制御装置50は、再生処理実行フラグがONであると判定した場合(Yes)は、ステップS010に処理を進め、再生処理実行フラグがONでないと判定した場合(No)は、ステップS070に処理を進める。
【0054】
ステップS070において、制御装置50は、警告ランプ15を消灯(OFF)させ、ステップS075に処理を進める。
【0055】
ステップS075において、制御装置50は、再生処理実行フラグをOFFに設定し、ポスト噴射(再生処理)を停止し、処理を終了する。
【0056】
●[アイドリング制御処理(SUB100)(図5)]
図5は、アイドリング制御処理の手順を説明するフローチャートである。以下、各ステップについて詳細に説明する。なお、本処理は、アイドリング回転数上昇手段に相当する。なお、(既存の処理)とは、内燃機関の既存の制御において実行される処理を意味する。
【0057】
ステップSUB110において、制御装置50は、再生処理実行フラグがONであると判定した場合(Yes)は、ステップSUB130に処理を進め、再生処理実行フラグがONでないと判定した場合(No)は、ステップSUB120に処理を進める。
【0058】
ステップSUB120において、制御装置50は、(既存の処理)目標アイドリング回転数を通常アイドリング回転数に設定し、ステップSUB140に処理を進める。なお、通常アイドリング回転数は、再生処理を行っていない場合のエンジンのアイドリング回転数であり、図2で示すように例えば700rpmである。
【0059】
ステップSUB130において、制御装置50は、目標アイドリング回転数を手動再生下限回転数に設定し、ステップSUB140に処理を進める。なお、手動再生下限回転数は、図2で示すように例えば1200rpmである。
【0060】
ステップSUB140において、制御装置50は、(既存の処理)アイドリング回転数が目標アイドリング回転数となるように内燃機関の回転数を制御し、処理を終了する。
【0061】
●[上限回転数制御処理(SUB200)(図6)]
図6は、上限回転数制御処理の手順を説明するフローチャートである。以下、各ステップについて詳細に説明する。なお、本処理は、上限回転制限変更手段に相当する。
【0062】
ステップSUB210において、制御装置50は、再生処理実行フラグがONであると判定した場合(Yes)は、ステップSUB230に処理を進め、再生処理実行フラグがONでないと判定した場合(No)は、ステップSUB220に処理を進める。
【0063】
ステップSUB220において、制御装置50は、(既存の処理)目標上限回転数を最高回転数に設定し、ステップSUB240に処理を進める。なお、最高回転数は、再生処理を行っていない場合の予め設定されたエンジンの上限回転数であり、記憶手段40に記憶されている。最高回転数は、図2で示すように例えば2500rpmである。
【0064】
ステップSUB230において、制御装置50は、目標上限回転数を手動再生最高回転数に設定し、ステップSUB240に処理を進める。なお、手動再生最高回転数は、変更可能であり、予め初期値が設定された上限回転数であり、記憶手段40に記憶されている。手動再生最高回転数の初期値は、図2で示すように例えば1800rpmである。
【0065】
ステップSUB240において、制御装置50は、(既存の処理)上限回転数が、目標上限回転数となるように内燃機関の回転数を制御し、処理を終了する。
【0066】
●[上限噴射量制御処理(SUB300)(図7)]
図7は、上限噴射量制御処理の手順を説明するフローチャートである。以下、各ステップについて詳細に説明する。なお、本処理は、上限回転制限変更手段に相当する。
【0067】
ステップSUB310において、制御装置50は、再生処理実行フラグがONであると判定した場合(Yes)は、ステップSUB330に処理を進め、再生処理実行フラグがONでないと判定した場合(No)は、ステップSUB320に処理を進める。
【0068】
ステップSUB320において、制御装置50は、(既存の処理)目標上限噴射量を最大噴射量に設定し、処理を終了する。なお、最大噴射量は、再生処理を行っていない場合のエンジンの上限噴射量であり、記憶手段40に記憶されている。最大噴射量は、図2で示すように例えば2500rpmに相当する上限噴射量である。
【0069】
ステップSUB330において、制御装置50は、目標上限噴射量を手動再生最大噴射量に設定し、処理を終了する。なお、手動再生最大噴射量は、手動再生最高回転数に基づいて求められ、予め初期値が設定された上限噴射量であり、記憶手段40に記憶されている。手動再生最大噴射量の初期値は、図2で示すように例えば1800rpmに相当する上限噴射量である。
【0070】
●[フィルタ堆積量推定処理(SUB400)(図8)]
図8は、フィルタ堆積量推定処理の手順を説明するフローチャートである。以下、各ステップについて詳細に説明する。
【0071】
ステップSUB410において、制御装置50は、(既存の処理)内燃機関の運転状態に応じて、生成された粒子状物質量を推定(PM量の推定)し、堆積量に、推定した粒子状物質量を加算して、フィルタPM堆積量を更新し、処理を終了する。
【0072】
●[ポスト噴射制御処理(SUB500)(図9)]
図9は、ポスト噴射制御処理の手順を説明するフローチャートである。以下、各ステップについて詳細に説明する。
【0073】
ステップSUB510において、制御装置50は、再生処理実行フラグがONであると判定した場合(Yes)は、ステップSUB520に処理を進め、再生処理実行フラグがONでないと判定した場合(No)は、処理を終了する。
【0074】
ステップSUB520において、制御装置50は、(既存の処理)回転数に応じたポスト噴射量を算出し、算出したポスト噴射量にてポスト噴射を実行し、処理を終了する。
【0075】
●[運転者がアクセル操作をした場合の手動再生処理(図3)]
図3は、再生処理(運転者のアクセル操作有り)とフィルタのPM堆積量の関係を説明する図である。図10は、エンジン回転数と再生処理との関係を表す図である。なお、図3において、運転者がアクセルを操作し場合の各状態を太い実線で示す。また、図10において、実線で示された直線は、フィルタPM堆積量が手動再生上限堆積量である場合を示し、点線で示された直線は、フィルタPM堆積量が手動再生上限堆積量より少ない場合を示している。
【0076】
図10の上図において、縦軸は手動再生を開始してから終了するまでの時間である再生時間[t]を示し、横軸に内燃機関の回転数[rpm]を示している。また、下図において、縦軸はポスト噴射量[g]を示し、横軸に内燃機関の回転数[rpm]を示している。
【0077】
運転者がアクセル操作しエンジン回転数を上昇させると、ポスト噴射制限開始回転数までは(ポスト噴射量非制限領域)、ポスト噴射の頻度も上昇し、PM焼却量は増加する。これにより、図10の上図に示すように、再生処理時間は、ポスト噴射量非制限領域において、エンジン回転数の上昇に伴って短くなる。しかし、エンジン回転数がポスト噴射制限開始回転数を超えると(ポスト噴射量制限領域)、下図に示すように、ポスト噴射量が回転数の上昇に伴って減量させられるため、再生処理時間は長くなる。
【0078】
手動再生最高回転数は、再生時間が目標再生時間(Tmax)となる上限回転数である。したがって、手動再生上限堆積量から再生処理を開始すると、再生時間と回転数の関係は上図の実線で示すような直線になる。また、手動再生上限堆積量より少ないフィルタPM堆積量から再生処理を開始すると、ポスト噴射量が同じであるならば再生時間が目標再生時間に対して短くなるため、再生時間と回転数の関係は点線で示すような直線になる。
よって、フィルタPM堆積量が再生処理により手動再生上限堆積量より小さい場合、上限回転数を手動再生最高回転数は増加させることができる。
●[本願の効果]
【0079】
本願発明は、運転者による手動再生処理において、再生処理を目標再生時間内に終了させることができる。
【0080】
本発明の、内燃機関の制御装置は、本実施の形態で説明した構成、構造等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
【0081】
図10に示すように、再生処理時間は、エンジンの回転数がポスト噴射制限開始回転数である場合に最小になる。したがって、再生処理時間を最短にするため、手動再生処理において、手動再生下限回転数をポスト噴射制限開始回転数をとしても良い。
【符号の説明】
【0082】
10 内燃機関
11 吸気通路
12 排気通路(排気経路)
14A、14B、14C、14D インジェクタ
15 警告ランプ
33 アクセル開度検出装置
34 回転検出装置
36A、36B、36C 排気温度検出装置
35 差圧検出装置
40 記憶手段
41 排気ガス浄化装置
42 酸化触媒
43 DPF(粒子状物質除去フィルタ)
50 制御装置
52 アイドリング回転数上昇手段
54 ポスト噴射実行手段
56 上限回転制限手段
58 上限回転制限変更手段
60 堆積量推定手段
62 残存量推定手段
SW 手動再生スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10