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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】紡糸用パックおよび繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01D 4/08 20060101AFI20220405BHJP
   D01D 4/06 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
D01D4/08 A
D01D4/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018531679
(86)(22)【出願日】2018-06-13
(86)【国際出願番号】 JP2018022614
(87)【国際公開番号】W WO2019003925
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2017125813
(32)【優先日】2017-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兼森 康宜
(72)【発明者】
【氏名】船越 祥二
(72)【発明者】
【氏名】坂田 昌哉
(72)【発明者】
【氏名】松浦 知彦
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-066560(JP,A)
【文献】特開平09-268418(JP,A)
【文献】実開昭57-125776(JP,U)
【文献】特開平04-158003(JP,A)
【文献】特開平07-026420(JP,A)
【文献】特公昭50-024379(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2009/0295028(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D1/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の製造工程に用いられ、口金の上に混練部が配置される紡糸用パックであって、
前記混練部は、
溶融したポリマを導入する複数の第1の導入孔を有する導入板と、
前記第1の導入孔より導入されたポリマが流入する独立した複数の供給溝、および前記供給溝にそれぞれ設けられている1以上の供給孔を有する供給板、ならびに前記供給孔より供給されたポリマが流入する複数の溝が交差した複数の合流溝、および前記合流溝にそれぞれ設けられている複数の第2の導入孔を有する合流板からなる複数の混練ユニットと、
を備え、
前記混練部は、上流側端から下流側端までポリマ紡出経路方向と平行に、ポリマ紡出経路方向に垂直な面において等面積な仮想領域に分割したとき、
前記導入板を貫通する複数の前記第1の導入孔は、分割された前記仮想領域のそれぞれに形成されており、
前記供給溝の第1の端部は、前記第1の導入孔または前記第2の導入孔の直下にそれぞれ配置され、前記供給溝の第2の端部は、前記第1の端部と異なる仮想領域にそれぞれ配置されるとともに、前記供給孔がそれぞれ形成されており、
前記合流溝は、分割された前記仮想領域のそれぞれに配置され、前記合流溝を構成する前記溝の第1の端部は、前記供給孔の直下にそれぞれ配置されるとともに、前記溝の第2の端部に前記第2の導入孔がそれぞれ形成されており、
前記合流溝を介して連通する上流側の前記供給溝と下流側の前記供給溝とに注目した際、下流側の少なくとも1つの前記供給溝の前記第2の端部は、上流側の複数の前記供給溝の前記第1の端部が配置される仮想領域のいずれとも異なる仮想領域に配置されている紡糸用パック。
【請求項2】
前記供給溝の前記第1の端部が配置された前記仮想領域は、前記第2の端部が配置された前記仮想領域と隣接している、請求項1に記載の紡糸用パック。
【請求項3】
前記仮想領域の分割数R、1つの前記仮想領域内に形成されている前記第1の導入孔および前記第2の導入孔の個数D、前記混練ユニットの構成数nにより下記式で定義される混練度Mが、0.6以上である請求項1または2に記載の紡糸用パック。
・M=(1-1/D)×(1-1/R)
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一つに記載の紡糸用パックを用いて繊維を製造する、繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紡糸用パックと、その紡糸用パックを用いた繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に熱可塑性ポリマを溶融紡糸する繊維の製造に関しては、原料であるチップを押出機で溶融し、押出した後、加熱ボックス内に設置されたポリマ用の配管を通じて紡糸用パックにポリマを導く。その後、導入したポリマを紡糸用パック内に配置された濾材・フィルターを通すことでポリマ中にある異物を除去し、多孔板にて分配し、ポリマを口金の吐出孔から紡糸してフィラメントとして巻き取る。
【0003】
通常、紡糸用パックは、ポリマの溶融状態を維持するために加熱ボックス内に設置され、高温で加熱されている。加熱ボックス内での加温では、加熱ボックスに接している紡糸用パックの外層部に比べ内層部の温度が低くなり、紡糸用パック内部の内外層にて温度差が生じる。この結果、紡糸用パックの内層および外層を通過するポリマ間で熱履歴差による粘度ムラが生じ、不均一なポリマになることで、各口金孔間から紡出された単糸間で物性差が発生することになる。
そこで、紡糸用パックの内層および外層を通過するポリマ間で熱履歴差によって生じる粘度ムラを均一化し、品質差を抑制するために、紡糸用パックに関しては従来から種々の検討がなされてきている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ポリマを紡糸用パックの中心部で縮流させながら一箇所に合流させる合流流路と、前記合流部の終端の出口部から下流方向に末広がりに等間隔で円周配列された複数の円管状流路と、円周上に等配に穿設された吐出孔群のポリマが流入する始端開口部と前記円管状流路の終端開口部とを円環状に連結するために形成された環状流路を構成することで、紡糸用パック中心にポリマを合流させ均一化を図り、単糸間の形状や物性などの品質斑を低減させる技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ポリマの流れ方向を変化させるチャンネルと、ポリマが次のプレートに流れるための出口孔とを有した混合プレートが積層され、チャンネルがポリマの流れを分割して主方向にほぼ垂直な2以上の方向に分割するように交差し、隣接するプレートの出口孔の位置をそれぞれずらすように流路を構成することで、ポリマの合流と分配の繰り返しを図り、ポリマの流れを均一化する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-111977号公報
【文献】特開平4-272210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の紡糸用パックは、ポリマを一箇所に合流し分配するだけであり、ポリマの混練回数が少ないため、十分なポリマ混練効果が得られない。特に、粘度が高いポリマは層流状態となっているため、その混練効果は、より低減する。そのため、内外層の熱履歴差によって生じるポリマ間の粘度ムラの均一化が足りず、単糸間での品質差を解消するには至らない場合がある。
【0008】
また、特許文献2に記載の紡糸用パックは、ポリマの合流と分配とを繰り返しているものの、流路はポリマの流れを分割して主方向にほぼ垂直な2以上の方向に分割すると記載されるのみである。一方、流路孔に着目した場合、隣接する混合プレートの流路孔は位置をずらすことが必要であるが、隣接しない混合プレートの流路孔は、位置をずらす必要はないと記載されている。実際、図1の静的混合装置では、1つの混合プレートの上流側の混合プレートの流路孔と、下流側の混合プレートの流路孔とは同一の位置となっている。しかしながら、本発明者らの知見によると、ポリマは単に合流・分配しただけでは混練効果が低いため、前記の通り上流側と下流側の流路孔の位置が同じであれば、混練度の低いポリマが同一の位置に戻るだけであり、これを繰り返しても十分なポリマ混練効果が得られない場合がある。特に、粘度が高いポリマは層流状態となっているため、その混練効果は、より低減する。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、物性差のない均一な品質のフィラメントを得ることが可能な紡糸用パックおよび繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の紡糸用パックは、繊維の製造工程に用いられ、口金の上に混練部が配置される紡糸用パックであって、前記混練部は、溶融したポリマを導入する複数の第1の導入孔を有する導入板と、前記第1の導入孔より導入されたポリマが流入する独立した複数の供給溝、および前記供給溝にそれぞれ設けられている1以上の供給孔を有する供給板、ならびに前記供給孔より供給されたポリマが流入する複数の溝が交差した複数の合流溝、および前記合流溝にそれぞれ設けられている複数の第2の導入孔を有する合流板からなる複数の混練ユニットと、を備え、前記混練部は、上流側端から下流側端までポリマ紡出経路方向と平行に、ポリマ紡出経路方向に垂直な面において等面積な仮想領域に分割したとき、前記導入板を貫通する複数の前記第1の導入孔は、分割された前記仮想領域のそれぞれに形成されており、前記供給溝の第1の端部は、前記第1の導入孔または前記第2の導入孔の直下にそれぞれ配置され、前記供給溝の第2の端部は、前記第1の端部と異なる仮想領域にそれぞれ配置されるとともに、前記供給孔がそれぞれ形成されており、前記合流溝は、分割された前記仮想領域のそれぞれに配置され、前記合流溝を構成する前記溝の第1の端部は、前記供給孔の直下にそれぞれ配置されるとともに、前記溝の第2の端部に前記第2の導入孔がそれぞれ形成されており、前記合流溝を介して連通する上流側の前記供給溝と下流側の前記供給溝とに注目した際、下流側の少なくとも1つの前記供給溝の前記第2の端部は、上流側の複数の前記供給溝の前記第1の端部が配置される仮想領域のいずれとも異なる仮想領域に配置されている。
【0011】
また、本発明の好ましい形態の紡糸用パックは、上記発明において、前記供給溝の前記第1の端部が配置された前記仮想領域は、前記第2の端部が配置された前記仮想領域と隣接している。
【0012】
また、本発明の好ましい形態の紡糸用パックは、上記発明において、前記仮想領域の分割数R、1つの前記仮想領域内に形成されている前記第1の導入孔および前記第2の導入孔の個数D、前記混練ユニットの構成数nにより下記式で定義される混練度Mが、0.6以上である。
・M=(1-1/D)×(1-1/R)
【0013】
また、本発明の繊維の製造方法は、上記のいずれか一つに記載の紡糸用パックを用いて繊維を製造する。
【0014】
本発明における各用語の意味を以下に列記する。
「ポリマ紡出経路方向」とは、混練部から口金の吐出孔までのポリマが流れる主方向である。
「上」とは、ポリマ紡出経路方向の上流側へ向かう方向であり、「下」とは、ポリマ紡出経路方向の下流側へ向かう方向である。
「仮想領域」とは、ポリマの紡出経路方向に垂直な面において、複数の第1の導入孔、供給孔、第2の導入孔を内包し、かつそれぞれの面積が等しくなるようにポリマの紡出経路方向と平行に分割された領域である。
「供給溝」とは、ポリマの紡出経路方向に垂直な方向に、ポリマを分配する役割を果たす溝である。
「合流溝」とは、合流板の上流側に配設された複数の供給孔と、下流側に配設された複数の供給孔とに連通し、ポリマの紡出経路方向に垂直な方向に、異なる供給孔から供給されたポリマを合流した後、分配する役割を果たすものをいう。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱可塑性ポリマの紡糸において、ポリマが紡糸用パックを流れる際に、紡糸用パック内外層の熱履歴差によって生じるポリマの粘度ムラを均一化し、物性差のない均一な品質のフィラメントを得ることが可能になる。また、紡糸用パックを口金直上に配置することで、混練後、口金から吐出されるまでに受ける熱影響を極小化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の紡糸用パックを模式的に例示した概略正断面図である。
図2図2は、本発明の円形紡糸用パックにおける、(a)導入板、(b)供給板、および(c)合流板のそれぞれ概略平面図である。
図3図3は、本発明の紡糸用パック、冷却装置周辺の概略断面図である。
図4図4は、本発明の紡糸用パックにおける仮想領域の例を示した図である。
図5図5は、本発明の矩形紡糸用パックにおける、(a)導入板、(b)供給板、および(c)合流板のそれぞれ概略平面図である。
図6図6は、本発明の長尺紡糸用パックにおける供給板の概略平面図である。
図7図7は、本発明の円形紡糸用パックの他の形態における、(a)導入板、(b)供給板、および(c)合流板のそれぞれ概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の紡糸用パックを模式的に例示した概略正断面図である。また、図2は本発明の紡糸用パック1内に設置されている混練部2の構成を模式的に例示した概略平面図であり、図3は、本発明の紡糸用パック、冷却装置周辺の概略断面図である。また、図4は、本発明の紡糸用パックにおける仮想領域の例を示した図である。なお、これらは、本発明の要点を正確に伝えるための概念図であり、図を簡略化している。
【0018】
図1および3を参照する。本発明の紡糸用パック1は、図1で矢印X方向として示すポリマ紡出経路方向の下流側に向かい、濾材8、フィルター9、多孔板7、混練部2および口金3で構成されている。紡糸装置内で、紡糸用パック1は加熱ボックス5の中に固定されており、口金3の直下には冷却装置6が配置される。紡糸用パック1に導かれたポリマは、濾材8、フィルター9を通過し、多孔板7、混練部2を通過して、口金3の吐出孔4から紡出される。その後、冷却装置6により吹き出される気流により冷却され、油剤を付与された後に、繊維として巻き取られる。なお、図3では、環状内向きに気流を吹き出す環状の冷却装置6を採用しているが、一方向から気流を吹き出す冷却装置6を用いてもよい。また、紡糸用パック1の上流側に装備する部材に関しては、既存の紡糸用パックにて使用された流路等を用いればよく、本発明の紡糸用パック1のために特別に専用のものを準備する必要は無い。
【0019】
混練部2は、ポリマ紡出経路方向の下流側に向かい順に、導入板10と複数の混練ユニット15とで構成されている。それぞれの混練ユニット15は、ポリマの紡出経路方向の下流側に向かい順に、供給板20と合流板30とで構成されている。
【0020】
図2を参照する。図2は、混練部2を構成する導入板10、ならびに1つの混練ユニット15を構成する供給板20および合流板30を、模式的に例示した概略平面図である。図2(a)が導入板10、図2(b)が供給板20、そして図2(c)が合流板30である。混練部2は、上流側端から下流側端までポリマ紡出経路方向と平行に、ポリマ紡出経路方向に垂直な面において等面積な仮想領域R1~R6に分割されている。図2においては、仮想領域R1~R6の境界を破線で図示している。それぞれの仮想領域R1~R6は、ポリマ紡出経路方向に混練部2を貫いているので、図2の(a)~(c)で図示するように、導入板10、供給板20および合流板30は、同じ大きさおよび配置の仮想領域R1~R6に分割されている。
【0021】
図2では、外部を4等分する仮想領域R1、R2、R4、R5、および内部を2等分する仮想領域R3、R6に分割しているが、仮想領域の分割はこれに限定するものではない。例えば、図4(b)、(c)に示すように仮想領域を分割してもよい。
【0022】
図2(a)に図示するように、導入板10には、仮想領域R1~R6のそれぞれに導入板10を貫通する2つの第1の導入孔11が形成されている。図2(a)では、1つの仮想領域に2つの第1の導入孔11を形成した例で説明しているが、これに限定するものではなく、複数であればよい。
【0023】
図2(b)に図示するように、供給板20には、ポリマ紡出経路方向の上流側の面に開口し、異なる仮想領域にまたがる複数の供給溝21が形成されている。それぞれの供給溝21は、供給溝21の第1の端部23が、導入板10に形成された第1の導入孔11の1つの直下にくるように形成されている。合流板30の下流に配置されている供給板20では、第1の端部23は合流板30に形成された第2の導入孔32の1つの直下にくるように形成されている。供給溝21の他方の端部である第2の端部24には、供給溝21からポリマ紡出経路方向の下流側の面までを貫通する供給孔22が形成されている。
【0024】
図2(c)に図示するように、合流板30には、仮想領域R1~R6のそれぞれにポリマ紡出経路方向の上流側の面に開口する合流溝31が形成されており、合流溝31は2つの溝が合流した形状となっている。合流溝31は、合流溝31を構成する溝の第1の端部33が、それぞれ供給板20に形成された供給孔22の1つの直下にくるように形成されている。合流溝31を構成する溝の残りの端部である第2の端部34には、合流溝31からポリマ紡出経路方向の下流側の面までを貫通する第2の導入孔32が形成されている。図2(c)では、合流溝31は、2つの溝が合流した形状を示しているが、複数の溝が合流したものであればよい。
【0025】
混練ユニット15を形成する供給板20と合流板30は、図1~3に示すように分割されていてもよいが、供給板20と合流板30とが一体成形体であってもよい。また、図1~3に示すように、混練部2は、導入板10と複数個の混練ユニット15から構成されていてもよいが、複数の混練ユニット15を一体成形体としてもよい。また、混練部2は、導入板10と複数の混練ユニット15とを、一体成形体としてもよい。
【0026】
ここで、本発明の重要なポイントである、紡糸用パック1の内外層の熱履歴差よって生じる粘度ムラを均一化できる原理を、図2を用いて説明する。なお説明には、仮想領域R1の第1の導入孔11aから導入されるポリマの流れについて着目して説明する。
(1)混練部2に流れてきたポリマは、導入板10により複数の仮想領域R1~R6に分割される。ポリマは、その中の1つの仮想領域R1に配設された第1の導入孔11aに導かれた後、供給板20へと流過する。
(2)第1の導入孔11aから供給板20に供給されたポリマは、供給溝21aを通じて、図中の破線矢印で示すように、第1の導入孔11aが形成された仮想領域R1とは別の仮想領域R2に形成されている供給孔22aに流れ、合流板30へと流過する。
(3)合流板30に供給されたポリマは、図2(c)に示すように、合流溝31aの第1の端部33から溝の交差部分へ流れ、他の供給孔22から流れてきたポリマと一旦合流した後、再び分配されて第2の端部34へ向かって流れて第2の導入孔32a、32bからさらに下流側へ流過する。
【0027】
(4)混練ユニット15の下流側にさらに図2(b)および図2(c)に示す供給板20および合流板30からなる別の混練ユニット15が配置されている場合、合流板30の第2の導入孔32aから流れ出たポリマは、供給板20の供給溝21bに流れこんで(図2(b)参照)、第2の導入孔32aが形成された仮想領域R2とは別の仮想領域R5に形成されている供給孔22bに流れ、合流板30へと流過する。合流溝31bに供給されたポリマは、合流溝31bの第1の端部33から溝の交差部分へ流れ、他の供給孔22から流れてきたポリマと一旦合流した後、再び分配されて第2の端部34へ向かって流れて第2の導入孔32c、32dからさらに下流側へ流過する。
(5)最下流の混練ユニット15を構成する合流板30の第2の導入孔32から流れ出たポリマは、そのまま口金3に流過し、他の第2の導入孔32から流れ出たポリマと合流する。
【0028】
このように、供給板20と合流板30とを混練ユニット15とし、複数個の混練ユニット15を重ねて配置することで、合流板30の第2の導入孔32と、供給板20の供給溝21とが連通し、ポリマの分配と合流が繰り返される。
【0029】
つまり、混練部2は、ポリマを複数の仮想領域に分配する流路が形成された導入板10の下流に、ポリマを別の仮想領域に流過させる供給板20と、複数の仮想領域から流過してきたポリマを合流させた後、分配する合流板30との組み合わせである混練ユニット15が繰り返し複数重なって構成されている。このような構成とすることにより、混練部2の上部の1つの仮想領域に流入するポリマが、混練部2の下部の仮想領域から流出する時点では、他の仮想領域から供給されるポリマと合流、分配、即ち混練がなされている。それにより、ポリマが混練部2を通過する際に、内層部と外層部で異なる熱履歴をもつ複数の仮想領域から流れてきたポリマが、合流溝31内で合流した後、分配されることで、熱履歴の差が徐々に低減される。
【0030】
混練部2は、供給板20と合流板30とを積層して混練を繰り返すにあたり、さらに好適な混練効果を得るために、次のような構成となっている。まず合流板30の任意の合流溝31(以下、便宜的に合流溝31’とする)を介して、ポリマ紡出経路方向の上流側で連通する複数の供給溝21(以下、便宜的に供給溝21’とする)と、ポリマ紡出経路方向の下流側で連通する複数の供給溝21(以下、便宜的に供給溝21’’とする)に着目する。上流側で連通する複数の供給溝21’のそれぞれの第1の端部23は、いずれも合流溝31’が配置された仮想領域とは異なる仮想領域に配置されている。下流側で連通する複数の供給溝21’’のそれぞれの第2の端部24も、いずれも合流溝31’が配置された仮想領域とは異なる仮想領域に配置されている。そして、下流側の少なくとも1つの供給溝21’’の第2の端部24の配置されている仮想領域が、上流側のそれぞれの供給溝21’の第2の端部24が配置されているいずれの仮想領域とも異なっていることが重要な点である。このような構成とするため、上流側のそれぞれの供給溝21’の第1の端部23から流入し、供給溝21’を経て合流溝31’で合流したポリマは、再び合流溝31’で分配され、その分配されたポリマの少なくとも一部は、供給溝21’’を経て、もともと流入してきた仮想領域とは異なる仮想領域に配置されている第2の端部24から流出する。そして、合流溝31を介してポリマ紡出経路方向の上流側と下流側とで連通するいずれの供給溝21についても、同じ構成となっている。
【0031】
混練部2がこのような構成となっていることで、ポリマの少なくとも一部は特定の仮想領域間を往復するのではなく、確実に別の仮想領域に流れ、都度、合流と分配されることにより混練がなされる。そのため、混練を繰り返すことにより擬似的に分割した全ての仮想領域から流れてきたポリマの集合体となり、高い混練効果を得ることができる。なお、ポリマは単に合流・分配しただけでは混練効果が低いため、合流溝31を介して連通する、上流側の供給溝21の第1の端部23の配置された仮想領域と、下流側の供給溝21の第2の端部24の配置された仮想領域が全て同じ場合には、ポリマが単に往復する流路のみが実質的に形成されてしまい、混練度の低いポリマが同一の位置に戻るだけとなってしまうため、これを繰り返しても十分なポリマ混練効果を得られない場合がある。
【0032】
上記で説明したポリマの流れは、紡糸用パックの形状によらず形成可能なため、図2に示すような円形の紡糸用パック1に限らず、図5に示すような矩形紡糸用パックでも同様の混練効果を得ることができる。図5は、本発明の矩形紡糸用パックにおける、(a)導入板、(b)供給板、および(c)合流板のそれぞれ概略平面図である。
【0033】
また、特に長尺の紡糸用パックにおいて、ポリマの移動距離が長くなるため、全ての仮想領域からポリマを集合させることは難しくなる場合がある。そのような場合、全ての仮想領域からポリマを集合させるのではなく、図6に示すように、特定の仮想領域の集合体41を複数形成し、各仮想領域の集合体41の中でポリマを混練させることで、各々の仮想領域の集合体41において、高い混練効果を得て、最終的に物性差のない均一な品質のフィラメントを得ることが出来る。図6は、本発明の長尺紡糸用パックにおける供給板の概略平面図である。本発明の長尺紡糸用パックにおいて、特定の仮想領域の集合体41は、長辺方向に長くなりすぎると混練効果が低くなる場合があるため、仮想領域の集合体41の面積は、全領域の2割以下の面積とすることが好ましい。更に、仮想領域の集合体41の長辺方向と短辺方向との長さの比であるアスペクト比が3以下になるように形成することが好ましい。
【0034】
本発明の紡糸用パック1を適用することで、より粘度ムラのない均一なポリマを吐出することができる。また、物性斑の小さい均一な品質のフィラメントを得ることができる。また、ポリマの合流と分配を複数回行うため、粘度の高い層流状態のポリマでも確実に混練させることができる。
【0035】
紡糸用パック1は、供給溝21でポリマを別の仮想領域に流過させるに当たり、その供給溝21の第1の端部23が配置された仮想領域と第2の端部24が配置された仮想領域とが隣接していることが好ましい。このような構成とすることにより、ポリマ紡出経路方向に垂直な方向のポリマ流路長が短くなるため、混練部2内で受ける熱履歴差が少なくなり、より物性斑の小さい均一な品質のフィラメントを得ることができるとともに、滞留時間が少なくなり、熱劣化を抑制し、良好な製糸性を得ることができる。
【0036】
紡糸用パック1は、第1の導入孔11および第2の導入孔32が、各仮想領域にD個ずつ形成されており、仮想領域の分割数をR、混練ユニット15の構成数をn、第1の導入孔11および第2の導入孔32の数をDとしたとき、下記式で定義される混練度Mが、0.6以上であることが好ましい。混練度Mが、0.6以上であることにより、より高い混練効果を得ることができる。
M=(1-1/D)×(1-1/R)
【0037】
また、分割した全ての仮想領域で同様の混練効果を得るため、第1の導入孔11、第2の導入孔32、および供給孔22を通過するポリマの流量がそれぞれ等しくなるように、流路圧損が等しい流路を形成することが好ましい。
【0038】
本発明の紡糸用パック1に用いる混練部2の製作方法としては、各流路を混練部2の横断面方向に分割し、その分割した各流路を加工したプレートである導入板10、供給板20、合流板30、それぞれを個別に製作し、それらを積層させることで形成できる。
【0039】
混練部2の厚みは、2mmから60mmの間にて必要となる混練数を満たせる範囲内で、なるべく薄く形成されていることが好ましい。このような構成とすることにより、ポリマ流路長が短くなるため、ポリマを僅かなスペースで合流させることで、滞留時間が少なくなり、熱劣化を抑制し、良好な製糸性を得ることができる。また、混練部2が薄く設置に必要なスペースが少ないため、既存のパックに追加で組み込む場合でも、他の部材の変更が少なく、容易に組み込みやすいといった利点も兼ね備えている。
【0040】
本発明の紡糸用パック1によって、単糸繊度が6~30dtexの細繊度品種、フィラメント数が少ない品種でより顕著な効果を得られる。これは、細繊度品種やフィラメント数が少ない品種は、ポリマの吐出量が少なくなるため、紡糸用パック1内にポリマによって持ち込まれる熱量が低くなり、パック内層部と外層部で異なる熱履歴を持つポリマの温度ムラが大きくなりやすく、粘度ムラの影響が出やすいためである。
【0041】
本発明に用いられるポリマとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリエチレンナフタレート、などに代表されるポリエステル、ナイロン6、ナイロン66などに代表されるポリアミドなどを例示することができるが、特に限定されるものではない。
【0042】
また、本発明の紡糸用パック1は、単一成分ポリマの均質化だけに限定されるものではない。たとえば、2種類以上のポリマを用いた複合ポリマに適用した場合、合流と分配を繰り返すことでポリマ同士の混練が可能となる。また、混練ユニットの積層数を変えることにより混練回数を変化させることが可能であるため、ポリマの混練度を容易にコントロールすることが可能となる。
【0043】
本発明の紡糸用パックは、上記したように、円形紡糸用パックや、矩形紡糸用パックだけでなく、長尺の紡糸用パックにも適用することが可能である。また、仮想領域の数、ポリマの分配数、第1の導入孔、第2の導入孔、供給溝および合流溝の数ならびにその寸法比などは実施の形態に合わせて適宜変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、一般的な溶融紡糸法に用いられる紡糸用パックに限らず、溶液紡糸法に用いられる紡糸用パックにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【実施例
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお実施例における特性値の測定法等は次のとおりである。
【0046】
(1)繊度
1.125m/周の検尺器に繊維試料をセットし、400回転させて、ループ状かせを作成し、熱風乾燥機にて乾燥後(105±2℃×60分)、天秤にてかせ質量を量り、公定水分率を乗じた値から繊度を算出した。なお、公定水分率は4.5%とした。
【0047】
(2)繊度差
1つの口金から得られる糸条それぞれの繊度を(1)に従い測定し、最大繊度値と最小繊度値の差を繊度差とした。基準繊度に対して2%以下を○、2%を超えると×として評価した。
【0048】
[実施例1]
硫酸相対粘度2.73のナイロン6チップを285℃で溶融し、22.5g/分の吐出量で、濾材8、フィルター9、多孔板7、下記の混練部2を通過して、口金3の吐出孔4から紡出した。その後、冷却装置6により吹き出される気流により冷却し、油剤を付与した後に、繊維として巻き取り、基準繊度11dtexのナイロン6マルチフィラメント、6糸条を得た。
用いた混練部2は、図7に示す導入板10と、供給板20および合流板30からなる複数の混練ユニット15で構成されている。1つの混練ユニット15で、ポリマは分配と合流により混練される。混練ユニット15の構成数を「混練回数」として定義する。実施例1の混練回数は3である。また、混練ユニット15を構成する流路のうち、合流板30の合流溝31を介してポリマ紡出経路方向の下流側で連通する供給溝21の第2の端部24が配置された仮想領域と、ポリマ紡出経路方向の上流側で連通する複数の供給溝21の第1の端部23が配置された仮想領域のうちの少なくとも1つとが同じである流路の割合を「往復流路率」と定義する。実施例1の往復流路率は0.5である。供給板20の供給溝21を通過して第1の端部23から第2の端部24にポリマを流すにあたり、第1の端部23の配置された仮想領域と第2の端部24の配置された仮想領域が隣接している割合を、「隣接率」として定義する。実施例1の隣接率は0.5である。導入孔数Dは2であり、仮想領域の分割数Rは4である。実施例1の混練度Mは0.66となる。
表1に記載の通り、ナイロン6マルチフィラメント、6糸条の繊度を測定した結果、繊度差1.9%であった。すなわち、ナイロン6ポリマは、混練部内で分配と合流が3回繰り返され、均一化された状態で、直接吐出孔に配されるため、各口金吐出孔間から紡出された単糸間での品質差がないことがわかる。
【0049】
[実施例2]
供給板20の供給溝21を、往復流路が0.75、隣接率が1となるように変更した以外は実施例1と同じ混練部2を用いた。実施例1と同等のポリマ、同等の繊度、紡糸条件で紡糸し、マルチフィラメントを採取した。
表1に記載の通り、ナイロン6マルチフィラメント、6糸条の繊度を測定した結果、繊度差1.7%であった。混練部2を通過するポリマの流路長が短くなり、混練部2内での熱履歴差が少なくなったため、実施例1と比べて繊度差は小さくなった。
【0050】
[実施例3]
図2に示す導入板10と、供給板20および合流板30からなる複数の混練ユニット15を使用し、混練回数は6、導入孔数Dは2、仮想領域の分割数Rは6とすることで、混練度Mが0.82となるよう混練部2を構成した。往復流路率は0.5、隣接率は1であった。実施例1と同等のポリマ、同等の繊度、紡糸条件で紡糸し、マルチフィラメントを採取した。
表1に記載の通り、ナイロン6マルチフィラメント、6糸条の繊度を測定した結果、繊度差1.3%であった。混練回数、混練度Mが増加したことで、ポリマがより混練されたため、実施例2と比べて繊度差は小さくなった。
【0051】
[比較例1]
濾材・フィルター・多孔板・一穴混練部(混練回数1)・口金を順に配置した特許文献1に準じた構成の紡糸用パックを用いた以外は実施例1と同様に製糸し、基準繊度11dtexのナイロン6マルチフィラメント、6糸条を得た。
なお、一穴混練部は、濾材を通過したポリマを紡糸パックの中心部で縮流させながら一箇所に合流させる合流流路と、合流流路の終端の出口部から下流方向に末広がりに等間隔で円周配列された複数の円管状流路とで構成されている。一穴混練部を本発明の混練ユニットとみなすと、その構成数は1となるので、混練回数を1回とした。
表1に記載の通り、ナイロン6マルチフィラメント、6糸条の繊度を測定した結果、繊度差3%を超えた。すなわち、ナイロン6ポリマは、混練部内で1回合流された後に、それぞれの吐出孔に配されるため、ポリマの熱履歴差による粘度ムラが生じ、各口金孔間から紡出された単糸間での品質差が発生していると考えられる。
【0052】
[比較例2]
濾材・フィルター・多孔板・静止系混練素子(混練回数6、往復流路率1、隣接率1)・口金を順に配置した特許文献2に準じた構成の紡糸用パックを用いた以外は実施例3と同様に製糸し、基準繊度11dtexのナイロン6マルチフィラメント、6糸条を得た。
なお、静止系混練素子は混合プレートを重ね合わせて構成されており、この混合プレートを本発明の混練ユニットとみなす。実施例3と比較するため、混合プレートの構成数を6とし、混練回数を6回とした。それぞれの混合プレートには格子状にチャンネルが形成されており、格子点が1つずつ含まれるように分割した各領域を本発明の仮想領域とみなすと、仮想領域の数は6となった。チャンネルを本発明の供給溝とみなし、出口孔を本発明の合流溝とみなすと、往復流路率は1、隣接率は1となった。
表1に記載の通り、ナイロン6マルチフィラメント、6糸条の繊度を測定した結果、繊度差2%を超えた。すなわち、ナイロン6ポリマは、静止系混練素子により混練されるものの、静止系混練素子内の流路が全て往復流路となっており、同じ混練回数の実施例3と比較してその混練効果が小さい。そのため、静止系混練素子通過前の熱履歴差により生じた粘度ムラが、静止系混練素子通過後も改善されず、各口金孔間から紡出された単糸間での品質差が発生していると考えられる。
【0053】
【表1】
【符号の説明】
【0054】
1:紡糸用パック
2:混練部
3:口金
4:吐出孔
5:加熱ボックス
6:冷却装置
7:多孔板
8:濾材
9:フィルター
10:導入板
11:第1の導入孔
15:混練ユニット
20:供給板
21、21’、21’’:供給溝
22:供給孔
23:第1の端部
24:第2の端部
30:合流板
31、31’:合流溝
32:第2の導入孔
33:第1の端部
34:第2の端部
41:仮想領域の集合体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7