(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】繊維構造体及び繊維強化複合材
(51)【国際特許分類】
D03D 11/00 20060101AFI20220405BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20220405BHJP
D03D 25/00 20060101ALI20220405BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20220405BHJP
B29B 15/10 20060101ALN20220405BHJP
B29K 105/10 20060101ALN20220405BHJP
【FI】
D03D11/00 Z
D03D1/00 A
D03D25/00
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
B29B15/10
B29K105:10
(21)【出願番号】P 2019014413
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-04-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、次世代構造部材創製・加工技術開発、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆太
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-073176(JP,A)
【文献】特開平01-111038(JP,A)
【文献】特開平01-314750(JP,A)
【文献】特表2015-501890(JP,A)
【文献】特開昭62-117843(JP,A)
【文献】特開昭57-176232(JP,A)
【文献】国際公開第2019/208176(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18、
B29B11/16、15/08-15/14、C08J5/04-5/10、5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1糸からなる第1糸層と、前記第1糸と交差する第2糸からなる第2糸層と、を有するとともに、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なり、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なった積層方向に前記第1糸層及び前記第2糸層が拘束糸によって拘束された多層織物であり、
前記多層織物の全ての糸層が前記拘束糸によって拘束された本体部と、
前記第1糸の糸主軸方向に沿って前記本体部に連続し、かつ前記第2糸の糸主軸方向の全体に亘って設けられ、前記多層織物の糸層を前記積層方向一端側の第1形成部と積層方向他端側の第2形成部に分岐させた分岐部とを有する繊維構造体であって、
前記分岐部において前記第1形成部と前記第2形成部に分岐する部分に沿って延びる分岐境界線を有し、
前記分岐部は、前記分岐境界線が湾曲した形状であり、
前記分岐境界線に対し、前記本体部の前記第2糸のうち前記分岐境界線に最も近い前記第2糸の糸主軸が平行曲線であることを特徴とする繊維構造体。
【請求項2】
繊維構造体を強化基材とし、該強化基材がマトリックス中に複合化された繊維強化複合材であって、前記繊維構造体が請求項1に記載の繊維構造体であることを特徴とする繊維強化複合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐部を有する繊維構造体、及び繊維強化複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量、高強度の材料として繊維強化複合材が使用されている。繊維強化複合材は、強化繊維(強化基材)が樹脂、セラミックス等のマトリックス中に複合化されることにより、マトリックス自体に比べて力学的特性(機械的特性)が向上するため、構造部品として好ましい。
【0003】
また、繊維強化複合材として、平面視円弧状といった湾曲部を有し、その湾曲部を繊維強化複合材の厚さ方向に二つに分岐させたものがある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示の三次元繊維構造体は、長手方向と直交する断面形状がI形の断面形状であり、長手方向に沿って湾曲形成されている。三次元繊維構造体は、扇面板状部と、扇面板状部の上端及び下端において扇面板状部と直角を成すように両側に形成された板状部とを有する。各板状部は、扇面板状部の長手方向に沿って湾曲形成されている。
【0004】
扇面板状部は、円弧状に配列された0度配列糸からなる糸層と、90度配列糸からなる糸層と、±45度配列糸からなる糸層と、が厚さ方向糸で結合されて形成されている。板状部は、扇面板状部において、厚さ方向糸により結合されなかった円弧状周縁部を、扇面板状部に対し直角となるように、積層糸群を厚さ方向に二つに分岐させて、厚さ方向の両側に折り曲げることにより形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1において、扇面板状部の上端及び下端に設けられた板状部は、厚さ方向糸により結合されなかった円弧状周縁部を厚さ方向に二つに分岐させて形成されている。このため、分岐された二つの糸群の根本は湾曲しており、しかも厚さ方向糸による結合力(拘束力)が弱く、積層糸群の層間剥離が発生しやい。
【0007】
本発明は、湾曲した分岐部における層間剥離を抑制できる繊維構造体及び繊維強化複合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するための繊維構造体は、第1糸からなる第1糸層と、前記第1糸と交差する第2糸からなる第2糸層と、を有するとともに、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なり、前記第1糸層と前記第2糸層とが積み重なった積層方向に前記第1糸層及び前記第2糸層が拘束糸によって拘束された多層織物であり、前記多層織物の全ての糸層が前記拘束糸によって拘束された本体部と、前記第1糸の糸主軸方向に沿って前記本体部に連続し、かつ前記第2糸の糸主軸方向の全体に亘って設けられ、前記多層織物の糸層を前記積層方向一端側の第1形成部と積層方向他端側の第2形成部に分岐させた分岐部とを有する繊維構造体であって、前記分岐部において前記第1形成部と前記第2形成部に分岐する部分に沿って延びる分岐境界線を有し、前記分岐部は、前記分岐境界線が湾曲した形状であり、前記分岐境界線に対し、前記本体部の前記第2糸のうち前記分岐境界線に最も近い前記第2糸の糸主軸が平行曲線であることを要旨とする。
【0009】
これによれば、本体部及び分岐部を有する繊維構造体においては、第1形成部と第2形成部が分岐する位置、すなわち湾曲した分岐境界線の位置から、その分岐境界線に最も近い本体部の第2糸までは、本体部において積層方向への拘束が弱い部分である。しかし、その第2糸を湾曲させ、分岐境界線に対し平行曲線とすることで、第2糸と分岐境界線との距離を、第1糸の糸主軸方向に沿って一定にでき、積層方向への拘束力の大小が無くなり、分岐部の層間剥離を抑制できる。
【0010】
上記問題点を解決するための繊維強化複合材は、繊維構造体を強化基材とし、該強化基材がマトリックス中に複合化された繊維強化複合材であって、前記繊維構造体が請求項1に記載の繊維構造体であることを要旨とする。
【0011】
これによれば、本体部及び分岐部を有する繊維構造体においては、第1形成部と第2形成部が分岐する位置、すなわち分岐境界線の位置から、その分岐境界線に最も近い本体部の第2糸までは、本体部において積層方向への拘束が弱い部分である。しかし、その第2糸を分岐境界線に対し平行曲線とすることで、第2糸と分岐境界線との距離を、第1糸の糸主軸方向に沿って一定にでき、積層方向への拘束力の大小が無くなり、分岐部の層間剥離を抑制できる。よって、繊維強化複合材においても、本体部における分岐部との境界付近の強度の大小を無くすことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、湾曲した分岐部における層間剥離を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1繊維強化複合材及び第2繊維強化複合材を示す斜視図。
【
図5】分岐部及び本体部の繊維構造を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、繊維構造体及び繊維強化複合材を具体化した一実施形態を
図1~
図7にしたがって説明する。
図1又は
図2に示すように、板部材10は、第1繊維強化複合材11と第2繊維強化複合材110とを凹凸の係合によって連結して構成されている。第1繊維強化複合材11は、マトリックス樹脂(ドットハッチングで示す)中に、繊維構造体20を強化基材として複合化して形成されている。また、第2繊維強化複合材110は、マトリックス樹脂(ドットハッチングで示す)中に、繊維構造体120を強化基材として複合化して形成されている。なお、第1繊維強化複合材11及び第2繊維強化複合材110は、マトリックス樹脂の代わりにマトリックス金属やセラミックスに繊維構造体20,120を複合化して形成してもよい。
【0015】
第1繊維強化複合材11及び第2繊維強化複合材110は、それぞれ平面視が略矩形状であり、厚さを有する。第1繊維強化複合材11は、平面視における一つの縁が凹むように湾曲した形状であり、第1繊維強化複合材11は、湾曲した一つ縁に沿って連結凹部12を有する。第2繊維強化複合材110は、平面視における一つの縁が膨らむように湾曲した形状であり、第2繊維強化複合材110は、湾曲した一つの縁に沿って連結凸部112を有する。第1繊維強化複合材11の連結凹部12に、第2繊維強化複合材110の連結凸部112を嵌合することにより、第1繊維強化複合材11と第2繊維強化複合材110が連結され、平面視矩形状の板部材10が構成されている。なお、平面視とは、第1繊維強化複合材11及び第2繊維強化複合材110を厚さ方向に沿って外側から見ることである。
【0016】
次に、第1繊維強化複合材11の繊維構造体20について詳細に説明する。
繊維構造体20は、板状の本体部21と、本体部21に連続する分岐部22とを有する。本実施形態において、本体部21と分岐部22とが連続する方向を第1方向Xとする。第1方向Xは、繊維構造体20の一対の短縁部の延びる方向と一致する。また、本実施形態において、第1方向Xに直交する方向を第2方向Yとする。第2方向Yは、繊維構造体20の長縁部の延びる方向と一致する。
【0017】
図3に示すように、分岐部22は、厚さ方向に二股に分岐した形状である。分岐部22は、繊維構造体20の厚さ方向の一端側に位置する第1形成部23と、厚さ方向の他端側に位置する第2形成部24とを有する。
【0018】
繊維構造体20は、第1形成部23と第2形成部24の対向面同士が交差する位置に分岐境界線F1を有し、この分岐境界線F1を境にして第1形成部23と第2形成部24が二股に分岐している。また、繊維構造体20は、第1形成部23及び第2形成部24が本体部21の外面に対し折れ曲がる部分に沿って稜線F2を有する。第1形成部23及び第2形成部24は、稜線F2から本体部21に対し折り曲がっている。分岐境界線F1及び稜線F2はそれぞれ平面視が弧状に湾曲している。分岐境界線F1及び稜線F2の延びる方向は、繊維構造体20の第2方向Y(長手方向)である。第1方向Xに沿った分岐境界線F1と稜線F2との距離は、第2方向Yに一定である。
【0019】
図1又は
図2に示すように、第1形成部23は、弧状に延びることで平面視で湾曲した形状となる第1先端縁23aを有し、第2形成部24は、弧状に延びることで平面視で湾曲した第2先端縁24aを有する。第1先端縁23a及び第2先端縁24aは、繊維構造体20における第1方向Xの一端に位置する。繊維構造体20は、第1方向Xの他端に基端縁20aを有する。
【0020】
図4に示すように、第1先端縁23a及び第2先端縁24aは、平面視で分岐境界線F1及び稜線F2に対し、平行曲線となっている。つまり、平面視において、第1先端縁23a及び第2先端縁24aは、分岐境界線F1又は稜線F2上のすべての点で、同じ長さの法線を共有しており、分岐境界線F1又は稜線F2と第1先端縁23aとの距離は一定であり、分岐境界線F1又は稜線F2と第2先端縁24aとの距離は第2方向Yに一定である。なお、本実施形態において、分岐境界線F1又は稜線F2と第1先端縁23aとの距離、及び分岐境界線F1又は稜線F2と第2先端縁24aとの距離は、第2方向Yに一定である、とは繊維構造体20の製造公差及び製造誤差を含み、距離が同一であることに限られない。第1形成部23及び第1形成部23は、それぞれ平面視扇形状の板状である。
【0021】
繊維構造体20は多層織物である。繊維構造体20は、糸主軸方向L1が、直線状に延びる状態で互いに平行に配列された複数の第1糸としての経糸31と、糸主軸方向L2が、経糸31と交差する方向に延びる状態で配列された複数の第2糸としての緯糸32とを有する織物である。経糸31の糸主軸方向L1は、繊維構造体20の第1方向Xに直線状に延び、緯糸32の糸主軸方向L2は、繊維構造体20の第2方向Yに直線状又は湾曲して延びる。
【0022】
経糸31及び緯糸32は、強化繊維を束ねて形成された繊維束である。強化繊維としては有機繊維や無機繊維を使用してもよいし、異なる種類の有機繊維、異なる種類の無機繊維、又は有機繊維と無機繊維を混繊した混繊繊維を使用してもよい。有機繊維の種類としては、アラミド繊維、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等が挙げられ、無機繊維の種類としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維等が挙げられる。
【0023】
図5に示すように、繊維構造体20は、複数の糸層が積層されて構成されている。なお、糸層が積み重なった方向を繊維構造体20の積層方向Zとする。積層方向Zは、第1繊維強化複合材11の厚み方向と一致する。なお、
図5では、経糸31と緯糸32との位置関係を分かり易くするため、隣り合う経糸31同士や緯糸32同士が離れた状態に図示しているが、実際は隣り合う経糸31の端部同士や緯糸32の端部同士が重なった状態に配列されている。
【0024】
繊維構造体20の本体部21は、複数本の経糸31が第2方向Yに並んで形成された経糸層を複数有する。経糸層としては、第1経糸層41と、積層方向Zにおいて、第1経糸層41より下方に配置された第2経糸層42とを有する。第1経糸層41及び第2経糸層42は、第1糸層を構成する。
【0025】
また、繊維構造体20の本体部21は、複数本の緯糸32が第1方向Xに並んで形成された緯糸層を複数有する。緯糸層としては、第1緯糸層51と、積層方向Zにおける第1緯糸層51より下方に配置された第2緯糸層52と、積層方向Zにおける第2緯糸層52より下方に配置された第3緯糸層53と、積層方向Zにおける第3緯糸層53より下方に配置された第4緯糸層54とを有する。第1緯糸層51、第2緯糸層52、第3緯糸層53及び第4緯糸層54は第2糸層を構成する。
【0026】
繊維構造体20の本体部21は、積層方向Zの一端から他端(上から下)へ第1緯糸層51、第1経糸層41、第2緯糸層52、第3緯糸層53、第2経糸層42及び第4緯糸層54の順番で積層されている。これら第1緯糸層51、第1経糸層41、第2緯糸層52、第3緯糸層53、第2経糸層42及び第4緯糸層54、すなわち本体部21の全ての糸層は、複数の拘束糸25により積層方向Zに拘束されている。
【0027】
複数の拘束糸25は、第2方向Yに並んでいる。各拘束糸25は、繊維構造体20の形状保持用であり、強化繊維の繊維束である。強化繊維としては有機繊維や無機繊維を使用してもよいし、異なる種類の有機繊維、異なる種類の無機繊維、又は有機繊維と無機繊維を混繊した混繊繊維を使用してもよい。複数本の拘束糸25は、各経糸31と略平行に配列されるとともに、繊維構造体20の本体部21を構成する最上層の第1緯糸層51の緯糸32の外面を通って折り返すように配置されている。また、各拘束糸25は、本体部21を積層方向Zに貫通し、最下層の第4緯糸層54の緯糸32の外面を通って折り返すように配置されている。よって、拘束糸25は、積層方向Z両端の第1緯糸層51及び第4緯糸層54の緯糸32に係合している。
【0028】
第2方向Yに隣り合う拘束糸25同士は、第1緯糸層51又は第4緯糸層54で折り返される緯糸32の位置が第1方向Xにずれている。そして、拘束糸25が各緯糸32に係合することで、第1~第4緯糸層51~54が積層方向Zに拘束され、積層方向Zに隣り合う第1緯糸層51と第2緯糸層52の間に第1経糸層41が拘束され、第3緯糸層53と第4緯糸層54の間に第2経糸層42が拘束されている。
【0029】
分岐部22では、第1形成部23は、第1緯糸層51、第1経糸層41及び第2緯糸層52が拘束糸25によって積層方向Zに拘束されている。拘束糸25は、第1形成部23の積層方向Z両端の第1緯糸層51及び第2緯糸層52の緯糸32に係合している。第2形成部24は、第3緯糸層53、第2経糸層42及び第4緯糸層54が拘束糸25によって積層方向Zに拘束されている。拘束糸25は、第2形成部24の積層方向Z両端の第3緯糸層53及び第4緯糸層54の緯糸32に係合している。第1形成部23と第2形成部24とは拘束糸25によって積層方向Zに拘束されていない。したがって、分岐部22において、第1形成部23は、多層織物における積層方向Zの一端側に位置し、第2形成部24は、多層織物における積層方向Zの他端側に位置する。
【0030】
図4に示すように、上記繊維構造体20において、緯糸32の糸主軸方向L2は、繊維構造体20の基端縁20aでは直線状に延びる。そして、緯糸32のうち、基端縁20aに位置する緯糸32から分岐境界線F1の手前に至る緯糸32までは、その糸主軸方向L2が第2方向Yに直線状に延びる。そして、緯糸32のうち、分岐境界線F1よりも基端縁20a寄りの緯糸32から第1先端縁23a及び第2先端縁24aに至る緯糸32まで、その糸主軸方向L2が全て同じ曲率で湾曲している。
【0031】
図5に示すように、上記構成の繊維構造体20において、分岐部22の分岐境界線F1に対し、第1方向Xに沿って最も近い緯糸32を最短緯糸32aとする。本実施形態では、最短緯糸32aは、第1方向Xに沿って分岐境界線F1に隣り合う積層方向Z全ての緯糸32である。よって、最短緯糸32aは、第1緯糸層51と、第2緯糸層52と、第3緯糸層53と、第4緯糸層54に存在している。
【0032】
全ての最短緯糸32aは分岐境界線F1に対して平行曲線となっている。つまり、最短緯糸32aは、分岐境界線F1のすべての点で、同じ長さの法線を共有しており、分岐境界線F1と最短緯糸32aとの距離は第2方向Yに一定である。なお、本実施形態において、分岐境界線F1と最短緯糸32aとの距離が第2方向Yに一定である、とは繊維構造体20の製造公差及び製造誤差を含み、距離が同一であることに限られない。
【0033】
第1形成部23と第2形成部24が分岐する位置で、拘束糸25が交差しているが、それら拘束糸25は、その交差する位置に対し第1方向Xに隣り合う最短緯糸32aのうち、第1緯糸層51及び第4緯糸層54の最短緯糸32aに係合して積層方向Zに本体部21を拘束している。
【0034】
第1形成部23を拘束する拘束糸25のうち、最短緯糸32aに隣り合う第2緯糸層52の緯糸32に係合した拘束糸25は、第1緯糸層51の最短緯糸32aに係合している。また、第1形成部23を拘束する拘束糸25のうち、最短緯糸32aに隣り合う第1緯糸層51の緯糸32に係合した拘束糸25は、第4緯糸層54の最短緯糸32aに係合している。
【0035】
また、第2形成部24を拘束する拘束糸25のうち、最短緯糸32aに隣り合う第4緯糸層54の緯糸32に係合した拘束糸25は、第1緯糸層51の最短緯糸32aに係合している。第2形成部24を拘束する拘束糸25のうち、最短緯糸32aに隣り合う第3緯糸層53の緯糸32に係合した拘束糸25は、第4緯糸層54の最短緯糸32aに係合している。
【0036】
したがって、第1形成部23と第2形成部24の交差する位置から最短緯糸32aが積層方向Zに拘束された部分までは、本体部21の、最短緯糸32a以外の緯糸32が拘束糸25で拘束された部分よりも、拘束糸25による拘束力が小さくなっている。第1方向Xに沿った分岐境界線F1から最短緯糸32aまでの距離が大きいほど、拘束糸25による本体部21の拘束力が弱くなる。そして、第1方向Xに沿った分岐境界線F1から最短緯糸32aまでの距離に大小が生じると、拘束糸25による拘束力に大小が生じてしまう。しかし、本実施形態では、最短緯糸32aを湾曲させ、分岐境界線F1に対する平行曲線とすることで、第1方向Xに沿った分岐境界線F1から各最短緯糸32aまでの距離を、第2方向Yに沿って全て同じとしたため、分岐部22と本体部21の境界付近において、拘束糸25による拘束力の差を無くしている。
【0037】
次に繊維構造体20の製造方法を説明する。
図6又は
図7に示すように、繊維構造体20を製織する織機は、複数対(
図6及び
図7では一対のみ図示)の綜絖枠61と、筬62a又は変形筬62bと、引取機構63と、緯入れ機構64と、経糸供給機構65とを備える織機により製織される。対をなす綜絖枠61は、それぞれ、各経糸31に対応するヘルドを備え、図示しない綜絖枠駆動機構を介して交互に上下動されることにより、経糸31を開口させる。経糸31は、それぞれ、所定の張力を加えながら、図示しないクリールまたはビームから引き出される。
【0038】
筬62a又は変形筬62bは、綜絖枠61と引取機構63との間に配設されている。筬62a又は変形筬62bは、筬羽を各経糸31が通過し、経糸31に沿って、緯入れ機構64より後方に後退する後退位置と、緯入れ機構64によって緯入れされる緯糸32を織前Fに打ち込む前進位置との間を前後動する。直線状の筬62aは、本体部21において、緯糸32の糸主軸方向L2が直線状に延びるように筬打ちするときに用いられる。弧状に湾曲する変形筬62bは、本体部21の一部及び分岐部22において、緯糸32の糸主軸方向L2が湾曲するように筬打ちするときに用いられる。
【0039】
緯入れ機構64は、緯糸供給ボビン66から供給される緯糸32を、後退位置に後退した筬62a又は変形筬62bと織前Fとの間において、開口された経糸31間に緯入れする。緯入れ機構64としては、レピア機構が使用され、その前面には、カッタ64aが配設されている。カッタ64aは、緯入れごとに、緯入れされた緯糸32の後端部を切断する。引取機構63は、織前Fの直近前方に配設されており、織製された繊維構造体20を引き取る。
【0040】
繊維構造体20を製造する場合、まず、本体部21を形成する。
図6に示すように、引取機構63に経糸31の端部を固定し、経糸供給機構65から引取機構63によって経糸31を引取り(巻取り)ながら、緯入れ機構64によって緯糸32を挿入する。このとき、経糸31は、その糸主軸方向L1が直線状に延びるように引取機構63に引き取られるとともに、経糸31の糸主軸方向L1に対し、緯糸32の糸主軸方向L2は直交する状態に挿入される。そして、緯入れ機構64から緯入れされた緯糸32は、筬62aによって糸主軸方向L2が直線状に延びるように筬打ちされる。
【0041】
そして、本体部21における分岐部22寄りまで筬打ちされると、筬62aから変形筬62bに取り換える。その後、
図7に示すように、経糸供給機構65から引取機構63によって経糸31を引取り(巻取り)ながら、緯入れ機構64によって緯糸32を挿入し、緯入れされた緯糸32は、変形筬62bによって糸主軸方向L2が湾曲するように筬打ちされる。
【0042】
すると、第1緯糸層51、第1経糸層41、第2緯糸層52、第3緯糸層53、第2経糸層42、及び第4緯糸層54が形成されるとともに、拘束糸25によってそれらが拘束されて本体部21が形成される。
【0043】
次に、分岐部22が製造される。このとき、図示しない治具を使用する。治具を挟んで第1形成部23及び第2形成部24が製織される。治具を配置した状態で、その治具の厚さ方向の両側に経糸31が配置されており、緯糸供給ボビン66から緯入れされた緯糸32は、変形筬62bによって筬打ちされることにより、所定の曲率に湾曲される。なお、図示しないが拘束糸25も織機によって織り込まれる。すると、第1形成部23及び第2形成部24が治具を挟んで製織される。そして、分岐部22が形成された後、治具を除去する。
【0044】
その結果、第1緯糸層51、第1経糸層41、及び第2緯糸層52を形成しつつ、第3緯糸層53、第2経糸層42、及び第4緯糸層54が形成され、拘束糸25によってそれらが拘束されて第1形成部23及び第2形成部24が形成される。
【0045】
第1方向Xに沿った分岐境界線F1と第1先端縁23aとの距離が一定の第1形成部23が形成されるとともに、分岐境界線F1と第2先端縁24aとの距離が一定の第2形成部24が形成される。また、分岐部22と本体部21が形成され、繊維構造体20が形成される。
【0046】
前記のように構成された繊維構造体20は、
図1に示すように、繊維構造体20の第1形成部23と第2形成部24の間に形成された連結凹部12に、繊維構造体120に形成された連結凸部112を嵌合し、矩形板状にする。そして、繊維構造体20及び繊維構造体120にマトリックス樹脂を含浸させると、繊維構造体20及び繊維構造体120を強化基材とし、樹脂をマトリックスとした第1繊維強化複合材11及び第2繊維強化複合材110が製造されるとともに、矩形平板状の板部材10が形成される。
【0047】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)繊維構造体20において、分岐部22の根本に位置する分岐境界線F1に対し、本体部21の各最短緯糸32aを平行曲線とした。このため、分岐境界線F1から各最短緯糸32aまでの距離を、第2方向Y全体に亘って一定にでき、分岐境界線F1付近において拘束糸25による拘束力の大小を無くすことができる。よって、本体部21と分岐部22の境界付近において層間剥離を抑制できる。繊維構造体20を強化基材とした第1繊維強化複合材11においても、本体部21と分岐部22との境界付近の強度の大小を無くすことができる。
【0048】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 本体部21において、分岐部22寄りの一部を除いて緯糸32の糸主軸方向L2を直線状に延びるようにしたが、
図8に示すように、本体部21の全ての緯糸32の糸主軸方向L2を、分岐境界線F1に対し平行曲線となるように湾曲させてもよい。
【0049】
○ 第1糸を緯糸32とし、第2糸を経糸31としてもよい。
○ 繊維構造体20は、第1方向Xに沿った本体部21の両側に分岐部22を備える構成であってもよい。
【0050】
○ 分岐部22及び本体部21を構成する糸層の数は変更してもよい。
○ 第1繊維強化複合材11の繊維構造体20は、分岐部22を、繊維構造体20の複数の縁に備えていてもよい。
【0051】
○ 繊維構造体20において、最短緯糸32aと分岐境界線F1が平行曲線であれば、最短緯糸32a以外の緯糸32は、分岐境界線F1に対し平行曲線とならない曲率であってもよい。
【0052】
○ 実施形態では、分岐境界線F1に対し平行曲線となる最短緯糸32aを第1~第4緯糸層51~54に設け、繊維構造体20の積層方向Z全体に最短緯糸32aを設けたが、これに限らない。分岐境界線F1に対し平行曲線となる最短緯糸32aは、第1緯糸層51及び第4緯糸層54のみに設けられていてもよいし、第2緯糸層52及び第3緯糸層53のみに設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0053】
F1…分岐境界線、L1…第1糸の糸主軸方向、L2…第2糸の糸主軸方向、11…第1繊維強化複合材、13…第1糸としての経糸、14…第2糸としての緯糸、20…繊維構造体、21…本体部、22…分岐部、23…第1形成部、24…第2形成部、25…拘束糸、41…第1糸層としての第1経糸層、42…第1糸層としての第2経糸層、51…第2糸層としての第1緯糸層、52…第2糸層としての第2緯糸層、53…第2糸層としての第3緯糸層、54…第2糸層としての第4緯糸層。