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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】ターボ分子ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20220405BHJP
【FI】
F04D19/04 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019014470
(22)【出願日】2019-01-30
(65)【公開番号】P2020122429
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】二木 敬一
【審査官】小岩 智明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/038896(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/101699(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/136084(WO,A1)
【文献】特開2009-002233(JP,A)
【文献】特開2005-105851(JP,A)
【文献】特開2003-013880(JP,A)
【文献】特開平10-089284(JP,A)
【文献】特開平08-247084(JP,A)
【文献】特開平02-061387(JP,A)
【文献】特開昭58-098696(JP,A)
【文献】特公昭50-027204(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/00-19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ吸気口側からロータ翼、ステータ翼の順で複数段のロータ翼と複数段のステータ翼とが交互に配置され、
前記ロータ翼および前記ステータ翼の各々には、放射状に形成されて内径側翼角度と外径側翼角度とが異なるねじり翼形状のブレードが、周方向に複数設けられている、ターボ分子ポンプにおいて、
前記ブレードと周方向に隣接する他のブレードとの周方向間隔である翼間距離Sと、前記ブレードの傾斜面の幅方向寸法であるブレード長bとの比X=S/bに関して、前記ブレードの外径側端部における前記比Xの値をXout、前記ブレードの内径側端部における前記比Xの値をXin、前記外径側端部と前記内径側端部との中間位置における前記比Xの値をXcとしたときに、
前記複数段のロータ翼および前記複数段のステータ翼の少なくとも一方は、第1条件「Xout<Xc、かつ、Xin<Xc」、第2条件「α・Xc≧Xin>Xc>Xout ただしα=1.04」および第3条件「Xin<Xc<Xout≦β・Xc ただしβ=1.04」のいずれか一つを満足するように構成されている、ターボ分子ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、
前記複数段のステータ翼は、前記第1条件、前記第2条件および前記第3条件に加えて、第4条件「Xin<Xout<Xc」、第5条件「Xin≦Xout<Xc」および第6条件「Xout≦Xin<Xc」を含む6つの条件の内のいずれか一つを満足するように構成されている、ターボ分子ポンプ。
【請求項3】
ポンプ吸気口側からロータ翼、ステータ翼の順で複数段のロータ翼と複数段のステータ翼とが交互に配置され、
前記ロータ翼および前記ステータ翼の各々には、放射状に形成されて内径側翼角度と外径側翼角度とが異なるねじり翼形状のブレードが、周方向に複数設けられている、ターボ分子ポンプにおいて、
前記ブレードと周方向に隣接する他のブレードとの周方向間隔である翼間距離Sと、前記ブレードの傾斜面の幅方向寸法であるブレード長bとの比X=S/bに関して、前記ブレードの外径側端部における前記比Xの値をXout、前記ブレードの内径側端部における前記比Xの値をXin、前記外径側端部と前記内径側端部との中間位置における前記比Xの値をXcとしたときに、
前記複数段のロータ翼および前記複数段のステータ翼は、吸気段を構成するロータ翼およびステータ翼、中間段を構成するロータ翼およびステータ翼、排気段を構成するロータ翼およびステータ翼から成り、
前記複数段のステータ翼は、
前記吸気段が第1条件「Xin<Xc<Xout」を満足し、
前記中間段が第2条件「Xin<Xout<Xc」を満足し、
前記排気段が第3条件「α・Xc≧Xin>Xc>Xout ただしα=1.04」、第4条件「Xin≦Xout<Xc」および第5条件「Xout≦Xin<Xc」のいずれか一つを満足するように構成されている、ターボ分子ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ分子ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ分子ポンプは、複数段のステータ翼と、複数段のロータ翼が形成された回転体とを備えている。ステータ翼およびロータ翼には、放射状に形成されたブレードが周方向に複数設けられている。各ブレードは水平方向に対して傾斜しており、その傾斜角度は翼角度と呼ばれている。
【0003】
ブレードの形状としては翼角度が内径側から外径側まで一定の平板翼が知られているが、特許文献1に記載のターボ分子ポンプでは、高効率の排気性能を得る目的で、ブレードの翼角度を、内径部において最大で外径になるに従い連続的若しくは断続的に小さくなるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-110771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来は、アルゴンガスや窒素ガスにおいて十分な排気性能が得られるように最適設計されているため、分子量の小さな水素ガス等に関して十分な排気性能が得られないという問題があった。特に、高温下条件、さらには高温下で大流量・高背圧という条件において、水素ガス等に関する排気性能が著しく低下するという欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の好ましい態様によるターボ分子ポンプは、ポンプ吸気口側からロータ翼、ステータ翼の順で複数段のロータ翼と複数段のステータ翼とが交互に配置され、前記ロータ翼および前記ステータ翼の各々には、放射状に形成されて内径側翼角度と外径側翼角度とが異なるねじり翼形状のブレードが、周方向に複数設けられている、ターボ分子ポンプにおいて、前記ブレードと周方向に隣接する他のブレードとの周方向間隔である翼間距離Sと、前記ブレードの傾斜面の幅方向寸法であるブレード長bとの比X=S/bに関して、前記ブレードの外径側端部における前記比Xの値をXout、前記ブレードの内径側端部における前記比Xの値をXin、前記外径側端部と前記内径側端部との中間位置における前記比Xの値をXcとしたときに、前記複数段のロータ翼および前記複数段のステータ翼の少なくとも一方は、第1条件「Xout<Xc、かつ、Xin<Xc」、第2条件「α・Xc≧Xin>Xc>Xout ただしα=1.04」および第3条件「Xin<Xc<Xout≦β・Xc ただしβ=1.04」のいずれか一つを満たすように構成されている。
さらに好ましい態様では、前記複数段のステータ翼は、前記第1~第3条件に加えて第4条件「Xin<Xout<Xc」、第5条件「Xin≦Xout<Xc」および第6条件「Xout≦Xin<Xc」を含む6つの条件の内のいずれか一つを満足するように構成されている。
本発明の好ましい態様によるターボ分子ポンプは、ポンプ吸気口側からロータ翼、ステータ翼の順で複数段のロータ翼と複数段のステータ翼とが交互に配置され、前記ロータ翼および前記ステータ翼の各々には、放射状に形成されて内径側翼角度と外径側翼角度とが異なるねじり翼形状のブレードが、周方向に複数設けられている、ターボ分子ポンプにおいて、前記ブレードと周方向に隣接する他のブレードとの周方向間隔である翼間距離Sと、前記ブレードの傾斜面の幅方向寸法であるブレード長bとの比X=S/bに関して、前記ブレードの外径側端部における前記比Xの値をXout、前記ブレードの内径側端部における前記比Xの値をXin、前記外径側端部と前記内径側端部との中間位置における前記比Xの値をXcとしたときに、前記複数段のロータ翼および前記複数段のステータ翼は、吸気段を構成するロータ翼およびステータ翼、中間段を構成するロータ翼およびステータ翼、排気段を構成するロータ翼およびステータ翼から成り、前記複数段のステータ翼は、前記吸気段が第1条件「Xin<Xc<Xout」を満足し、前記中間段が第2条件「Xin<Xout<Xc」を満足し、前記排気段が第3条件「α・Xc≧Xin>Xc>Xout ただしα=1.04」、第4条件「Xin≦Xout<Xc」および第5条件「Xout≦Xin<Xc」のいずれか一つを満足するように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、分子量の小さな水素ガス等に関する排気性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、ターボ分子ポンプの一例を示す断面図である。
図2図2は、1段目のロータ翼をポンプ吸気口側から見た図である。
図3図3は、翼設計パラメータを説明する模式図である。
図4図4は、比較例および実施例における翼角度と翼枚数の一例を示す図である。
図5図5は、実施例における無次元パラメータXin、Xc、Xoutの一例を示す図である。
図6図6は、排気性の計算結果の一部を示す図である。
図7図7は、翼枚数を38枚とし、外径側の翼角度θoutおよび内径側の翼角度θinを変化させた場合の性能向上率を示す図である。
図8図8は、背圧5Paにおける基準翼および最適解の体積流量Qvと圧力比Prとの関係を示す図である。
図9図9は、背圧2Paにおける基準翼および最適解の体積流量Qvと圧力比Prとの関係を示す図である。
図10図10は、無次元パラメータXin、Xc、Xoutの一例を示す図である。
図11図11は、最適解、最適解候補A,Bおよび準候補F,Gに関する無次元パラメータXの変化を示す図である。
図12図12は、最適解候補C,D,Eおよび準候補Hに関する無次元パラメータXの変化を示す図である。
図13図13は、準候補I,J,Kに関する無次元パラメータXの変化を示す図である。
図14図14は、吸気段、中間段および排気段のそれぞれの最適解について、ステータ翼単段での水素ガスの性能向上率を示す図である。
図15図15は、ステータ翼全段に最適解を適用した場合の水素ガスの性能向上率を示す図である。
図16図16は、ロータ翼単段のアルゴンガスの性能向上率を示す図である。
図17図17は、第2実施の形態の構成および第3の実施の形態の構成の場合の排気性能のシミュレーション結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
-第1の実施の形態-
図1は、ターボ分子ポンプ1の一例を示す断面図である。なお、本実施の形態では磁気軸受式のターボ分子ポンプを例に説明するが、本発明は磁気軸受式に限らず種々のターボ分子ポンプに適用可能である。ターボ分子ポンプ1は、ステータ翼30とロータ翼40とで構成されるターボポンプ段と、円筒部41とステータ31とで構成されるネジ溝ポンプ段とを有している。
【0010】
図1に示す例では、ターボポンプ段は8段のステータ翼30と9段のロータ翼40とで構成されている。ネジ溝ポンプ段においては、ステータ31または円筒部41にネジ溝が形成されている。ロータ翼40および円筒部41はポンプロータ4aに形成されている。ポンプロータ4aは、複数のボルト50によりロータ軸であるシャフト4bに締結されている。ポンプロータ4aとシャフト4bとをボルト50で締結して一体とすることで、回転体4が形成される。
【0011】
ポンプロータ4aの軸方向に配置された複数段のロータ翼40に対して、複数段のステータ翼30が交互に配置されている。各ステータ翼30は、スペーサリング33を介してポンプ軸方向に積層されている。シャフト4bは、ベース3に設けられた磁気軸受34,35,36によって非接触支持される。詳細な図示は省略したが、各磁気軸受34~36は電磁石と変位センサとを備えている。変位センサによりシャフト4bの浮上位置が検出される。
【0012】
ポンプロータ4aとシャフト4bとをボルト締結した回転体4は、モータ10により回転駆動される。磁気軸受が作動していない時には、シャフト4bは非常用のメカニカルベアリング37a,37bによって支持される。回転体4をモータ10により高速回転すると、ポンプ吸気口側のガスは、ターボポンプ段(ロータ翼40、ステータ翼30)およびネジ溝ポンプ段(円筒部41、ステータ31)により順に排気され、排気ポート38から排出される。排気ポート38にはバックポンプが接続される。
【0013】
図2はロータ翼40の翼形状の一例を示す模式図であり、1段目のロータ翼40をポンプ吸気口側から見た図である。ロータ翼40のそれぞれは、釣り鐘形状のポンプロータ4aの外周面から放射状に形成された複数のブレード400を備えている。一般に、ブレード400の形状としては、翼角度がブレード400の内径側から外径側まで一定の平板翼、翼角度がブレード400の径方向位置によって異なるねじり翼、ブレード幅が先端に近づくにつれて細くなる先細翼などがある。本実施の形態では、ねじり翼が採用されている。
【0014】
一点鎖線401で示すラインはブレード400の先端を通る円であり、一点鎖線402で示すラインはブレード400の内径側(根元付近)を通る円である。また、一点鎖線403で示すラインは、ブレード400の先端と内径側との中間位置(平均位置)を通る円である。なお、図示は省略するが、複数段のステータ翼30のそれぞれについても、ロータ翼40の場合と同様に放射状に形成された複数のブレード300を備えている。
【0015】
図3は、ステータ翼30およびロータ翼40の翼設計パラメータを説明する模式図であり、ロータ翼40に設けられた隣接する2つのブレード400の周方向断面(例えば、図2の一点鎖線403に沿った断面図)を示したものである。
【0016】
翼設計パラメータとしては、ブレード400の周方向の間隔(翼間距離)であるスペースSと、ブレード400の斜面の吸気側端部から排気側端部までの長さ(以下では、ブレード長と呼ぶ)bと、ブレード400のロータ軸方向の高さである翼高さHと、ブレード400の厚さである翼厚さtと、ロータ軸直交面に対するブレード400の傾き角度である翼角度θと、ブレード400のロータ軸方向端面の周方向幅である翼上面幅Wとがある。これらの翼設計パラメータに関して、最も排気性能に影響を与えるパラメータは、スペースSとブレード長bとの比である無次元パラメータX=S/b(スペーシングコード比とも呼ばれる)である。
【0017】
ステータ翼30およびロータ翼40に用いられる翼形状としては、上述したような平板翼、先細翼およびねじり翼などがある。平板翼の場合、放射状に設けられたブレードは、ブレード長bが内径側から外径側まで一定に設定されている。そのため、図2の一点鎖線402に沿った断面における内径側の無次元パラメータXin、一点鎖線403に沿った断面における平均位置(内径側と外径側との中間位置)の無次元パラメータXcおよび一点鎖線401に沿った断面における外径側の無次元パラメータXoutは、条件(1)のような大小関係となっている。
Xin<Xc<Xout …条件(1)
【0018】
一般的に、ターボ分子ポンプではアルゴンガスや窒素ガスの排気性能が最適化(最大化)されるように翼設計パラメータが設定される。そのような場合、内径側と外径側とで翼角度の異なるねじり翼においても、上述した条件(1)のようにブレードの内径側から外径側に近づくに従って無次元パラメータX=S/bが大きくなるような設定となる。
【0019】
しかしながら、アルゴンガスや窒素ガスの排気性能が最適化されるように設定されたターボ分子ポンプでは、水素ガス等の分子量の小さなガスに関して十分な排気性能が得られないという問題がある。特に、高温下条件、さらには高温下で大流量・高背圧という条件において、水素ガス等に関する排気性能が著しく低下するという問題がある。
【0020】
本実施の形態では、上述した条件(1)に代えて、ステータ翼30およびロータ翼40の無次元パラメータXを以下に説明するような条件に設定することで、水素ガス等の分子量の小さなガスの排気性能をより向上させることが可能となった。以下では、分子量の小さなガスとして水素ガスを例に説明する。
【0021】
本実施の形態におけるステータ翼30およびロータ翼40の最適化に際して、まず、アルゴンガスや窒素ガスの排気性能が最適化されるようにステータ翼およびロータ翼の翼設計パラメータを設定する。この設定されたステータ翼およびロータ翼を、以下では基準翼と呼ぶことにする。そして、基準翼の翼設計パラメータを変更して、水素ガスの排気性能が向上するように翼設計パラメータの最適化を行う。すなわち、基準翼をベースとして、水素ガス配意性能が向上するように翼設計パラメータの最適化を図る。
【0022】
そのため、翼設計パラメータ以外で排気性能に影響を及ぼす以下の構成は、基準翼のターボ分子ポンプと同一条件とした。すなわち、ロータ回転数、ロータ外径、ターボポンプ段の全体高さ、ロータ翼段数およびステータ翼段数については、比較対象である基準翼のターボ分子ポンプと同一条件とした。また、翼の強度に影響する翼厚さtについても同一条件とした。
【0023】
このような前提条件の下においては、パラメータ間にH/b=sinθ、t/W=sinθ等の関係(図3を参照)があることも考慮すると、無次元パラメータX=S/bの変更は翼角度θおよび翼枚数nを変化させることにより行われる。
【0024】
(最適条件の導出)
図1に示すターボ分子ポンプ1においては、ターボポンプ段は8段のステータ翼30と9段のロータ翼40とで構成されている。ターボポンプ段は、吸気口側から吸気段、中間段および排気段という構成になっており、段毎に翼設計パラメータが異なっている。具体的には、吸気口側から数えて1~2段目(ロータ翼40の1段目、ステータ翼30の1段目)は吸気段であり、3~6段目(ロータ翼40の2~3段目、ステータ翼30の2~3段目)は中間段であり、7~17段目(ロータ翼40の4~9段目、ステータ翼30の4~8段目)は排気段である。なお、実施例における基準翼のポンプロータのロータ外径は304mmであり、VG300(JIS規格)のターボ分子ポンプのポンプロータに相当する。
【0025】
図4(a)は、アルゴンガスの排気性能が最適化されるように翼設計パラメータを設定した基準翼の場合の、ステータ翼30およびロータ翼40の翼角度(内径側翼角度、外径側翼角度)と翼枚数(ブレードの枚数)の一例を示したものである。翼形状はねじり翼であって、内径側の翼角度が外径側の翼角度よりも大きく設定されている。なお、翼角度θは、径方向に沿って一定の割合で変化するように設定されている。吸気段、中間段および排気段の翼角度および翼枚数は、それぞれの段に応じた値に設定されている。
【0026】
例えば、中間段を構成するロータ翼40の2~3段目およびステータ翼30の2~3段目は、翼枚数が36枚で、内径側の翼角度θinは50deg、外径側の翼角度θoutは30degに設定されている。図4(a)では記載されていないが、上述したように、翼角度θは径方向に沿って一定の割合で変化するように設定されているので、内径側と外径側との中間位置である平均位置の翼角度θは、40deg(=(50deg+30deg)/2)のように設定されている。
【0027】
一方、図4(b)は、本実施の形態におけるねじり翼の翼角度と翼枚数を示したものである。吸気段では、翼枚数を基準翼の16枚から14枚に減らし、内径側および外径側の両方の翼角度を基準翼の場合よりも小さくしている。中間段においては、翼枚数を36枚から38枚へと増加させ、翼角度は基準翼と同一に設定している。排気段においては、翼枚数を34枚から38枚へと増加させると共に、内径側の翼角度を基準翼よりも大きくしている。外径側の翼角度は基準翼と同一である。
【0028】
図5は、翼角度および翼枚数を図4(b)のように設定した場合の無次元パラメータXin、Xc、Xoutを示したものである。図4(b)に示すように、吸気段では、翼枚数を16枚から14枚に減らすことでスペースSが大きくなるように調整し、かつ、翼角度θを小さくすることでブレード長bが大きくなるように調整している。それによって、吸気段における無次元パラメータXin、Xc、Xoutの値を図4(a)の吸気段と異なる値に変化させている。
【0029】
中間段においては、翼枚数を36枚から38枚へと増加させているが、翼角度θは図4(a)の場合と同一に設定しているので、翼枚数の増加によりスペースSが小さくなる。その結果、無次元パラメータXin、Xc、Xoutの値は図4(a)の中間段の場合よりも減少する。
【0030】
排気段においては、図4(b)に示すように、翼枚数を34枚から38枚へと増加させると共に内径側の翼角度θinを図4(a)の場合よりも大きくしている。この場合、外径側においては、ブレード長bは変化せずスペースSが小さくなる。そのため、無次元パラメータXout(=S/b)は図4(a)の場合よりも小さくなる。内径側においては、翼角度θinが20degから23degへと大きくなっているので、スペースSが小さくなるとともにブレード長bも小さくなる。
【0031】
図4(b)に示す各段の翼設計パラメータ(翼枚数および翼角度)は、図4(a)に示す対応する段の翼設計パラメータを基準に翼角度および翼枚数を変更し、排気性能が基準翼(図4(a)の場合)の排気性能よりも向上する最適解の探索によって得られたものである。以下では、一例として、排気段のステータ翼30の翼設計パラメータの探索結果について説明する。
【0032】
翼設計パラメータの変更によるステータ翼30単段の排気性能をシミュレーションにより評価する場合には、変更されたステータ翼30と、そのステータ翼30の吸気側に配置されるロータ翼40と排気側に配置されるロータ翼40とを含む三段分を用いて排気性能を計算する。ステータ翼30の吸気側および排気側に配置されるロータ翼40の翼設計パラメータには、基準翼である図4(a)に記載の翼設計パラメータが用いられる。それにより、ステータ翼30を最適化した場合の、基準翼に対する性能向上を評価することができる。なお、高温条件下における翼温度はステータ翼温度80℃、ロータ翼温度100℃が仕様となっている。そのため、排気性をシミュレーション計算する場合、ステータ翼30の場合には温度=80℃で計算を行い、ロータ翼の場合には温度=100℃で計算を行う。
【0033】
図6は排気段のステータ翼に関する排気性能の計算結果の一部を示す図であり、縦軸は圧力比Pr、横軸は背圧[Pa]である。排気性能は、排気側圧力と吸気側圧力との比(排気側圧力Pout/吸気側圧力Pin)である圧力比Prを用いて評価した。なお、排気する水素ガスの流量は300sccm(standard cc/min、1atm)で一定とし、背圧(三段分の排気側の圧力)については想定される動作圧力範囲2~8Paの中の3ポイント(3Pa、5Pa、8Pa)において排気性能を求めた。
【0034】
図6では、各ラインの翼設計パラメータθout,θinおよび翼枚数を(15-20、34枚)のように表示した。(15-20、34枚)は、外径側の翼角度θoutが15deg、内径側の翼角度θinが20deg、翼枚数が34枚であることを表している。ライン(15-20、34枚)は、図4(a)の排気段に記載する翼設計パラメータ(翼角度および翼枚数)の場合の圧力比Prを示したものであり、このラインが最適解を探索する際の基準となる。
【0035】
図6(a)には、基準翼のライン(15-20、34枚)と、翼設計パラメータを変更したライン(14-21、34枚)、ライン(14-24、38枚)、ライン(15-20、36枚)、ライン(16-23、38枚)およびライン(14-23、38枚)とを示した。図6(b)には、基準翼のライン(15-20、34枚)と、翼設計パラメータを変更したライン(16-24、38枚)、ライン(15-24、38枚)およびライン(15-23、38枚)とを示した。
【0036】
図7は、翼枚数を38枚とし、外径側の翼角度θoutおよび内径側の翼角度θinを種々の値に変化させた場合の性能向上率を示したものである。性能向上率とは、基準翼のライン(15-20、34枚)と比較して、圧力比Prが何パーセント向上したかを示したものである。図7において、翼角度θoutおよび翼角度θinの場合を翼角度(θout-θin)と表現すると、例えば、翼角度(12-23)の欄には1.3~7.7と記載されている。これは、基準翼のライン(15-20、34枚)と比較して性能向上率が最も小さいところで1.3%であり、最も大きいところで7.7%であることを示している。
【0037】
図7では、翼枚数38において、図6に示した翼角度(θout-θin)以外の組み合わせに関する性能向上率についても記載した。後述するように、翼角度(15-23)が、基準翼に対する圧力比の向上率(すなわち性能向上率)が最も大きくなる最適解となる。以下では、符号A~Eを付した翼角度(θout-θin)を最適解近傍の最適解候補と呼び、さらに符号F~Kを付した翼角度(θout-θin)を最適解候補A~Eの周辺に存在する準候補と呼ぶことにする。
【0038】
なお、ダイカストによりステータ翼を形成する場合、ステータ翼の内径側の翼角度θinは任意に設定できるわけではなく、ステータ翼の内径寸法に依存する。ステータ翼の内径寸法はロータ径にも依存しているので、ロータ径が小さくステータ翼の内径寸法が小さくなるほど加工可能な内径側の翼角度θinが大きくなる。基準翼の場合と同一の翼内径および翼外径を有する本実施例におけるステータ翼の場合には、翼枚数が38枚のときには、内径側の翼角度θinがθin≦22degの翼形状をダイカストにより加工するのは難しい。しかしながら、加工困難な翼形状であってもシミュレーション計算は可能なので、図7ではθin≦22degの翼形状についても参考として性能向上率を記載した。
【0039】
図6,7を参照して、まず、翼角度θを変えずに翼枚数nのみを変化させた場合の圧力比Prを比較する。翼角度θout,θinが基準翼(15-20、34枚)と同じ場合の圧力比Prを比較すると、翼枚数を基準翼の翼枚数34よりも多い36枚および38枚に増やした方が、すなわち、X=S/bのスペースSを小さくした方が、圧力比Prが大きいことが分かる。そして、図6において翼枚数36枚および38枚の場合の性能向上率を比較すると、38枚の場合の方が顕著に向上している。
【0040】
また、図7の性能向上率を見ると、翼角度(θout-θin)が(14-21)、(14-22)、(15-22)の付近では、性能向上率の最小値は3よりも大きく最大値も8.5~9.0%のように大きくなっている。一方、翼枚数が34の場合も、翼角度(15-20)の場合よりも翼角度(14-21)の場合の方が大きくなっていることが図6から分かり、性能向上率は(1%~3%)程度となっている。このように、翼枚数を変えた場合でも、同じような翼角度(θout-θin)付近において排気性能のピークが現れるものと推測される。ただし、ピーク付近における排気性能は翼枚数34よりも38枚の方が高くなっている。なお、本実施例のステータ翼の場合には、ステータ翼内径との関係から翼枚数を40枚へとさらに増やすと翼加工が困難となるので、ここでは翼枚数の上限を38枚とする。
【0041】
以上のことから、図7に示す翼枚数38枚に場合において最適解が得られることが分かる。なお、ダイカストによりステータ翼を形成する場合、上述したように、本実施例におけるステータ翼の場合には、ステータ翼内径寸法の関係から翼枚数38枚において翼角度θinを22deg以下で加工するのは難しい。そのため、ここでは加工が可能なθin≧23degの翼角度θinについて最適解を探索した。その結果、θout=15deg、θin=23deg、翼枚数38枚の場合が最適解として得られた。なお、性能向上率は最適解よりも若干小さいが、最適解の近傍の翼設計パラメータ(翼角度よび翼枚数)についても十分な性能向上率が得られている。
【0042】
なお、図7に示す例では、加工可能なθin≧23degの範囲内で最適解をθout=15deg、θin=23degとしているが、例えば、加工可能な範囲がθin≧22degである場合には、θout=15degでθin=22degの場合、または、θout=14degでθin=22degの場合が最適解となる。その場合も、以下で説明する探索方法を適用することができる。
【0043】
図8,9は、基準翼(15-20、34枚)の場合と最適解(15-23、38枚)の場合における、体積流量Qvと圧力比Prとの関係を示したものである。図8(a)は背圧を5Paに固定して、流量を100sccm~500sccmの間で変化させたときの圧力比Prの変化を示したものであり、図8(b)はその場合のPr(max)およびQv(max)を示したものである。また、図9(a)は背圧を2Paに固定して、流量を100sccm~500sccmの間で変化させたときの圧力比Prの変化を示したものであり、図9(b)はその場合のPr(max)およびQv(max)を示したものである。
【0044】
なお、図8(a)、図9(a)における横軸の体積流量Qvは、圧力が吸気側圧力と同一の気体の流量を表す。圧力比Prが異なるとその場合の吸気側圧力は異なるので、体積流量Qvの値が同一であっても圧力比Prが異なると流量単位sccmで測った流量は異なっている。図8(a)、図9(a)では、流量100sccmを示すライン、流量200sccmを示すラインおよび流量500sccmを示すラインもそれぞれ示した。
【0045】
ここで、1sccm=1.69×10-3(Pa・m/s)であるので、γ=1.69×10-3とすればysccmはy×γ(Pa・m/s)と変換される。吸気側圧力をPin(Pa)と表せば、流量はQv×Pin(Pa・m/s)である。この流量がysccmに等しいとすると、等式Qv×Pin=y×γが成り立つ。Pr=Pout/Pinであるから、体積流量QvはQv=y・γ・(Pr/Pout)となる。よって、ysccmを示すラインは、図8(a)、図9(a)においてはPr=(Pout/yγ)Qvという直線で表される。
【0046】
背圧5Pa(=Pout)の場合、100sccmのラインは、Pr=(Pout/yγ)Qv=(5/0.169)Qv=29.6Qvという式で表される。同様に、200sccmのラインはPr=14.8Qvと表され、500sccmのラインはPr=5.92Qvと表される。また背圧2Paの場合は、100sccmを示すラインはPr=(Pout/yγ)Qv=(2/0.169)Qv=11.8Qvと表され、200sccmを示すラインはPr=5.92Qvと表され、500sccmを示すラインはPr=2.37Qvと表される。
【0047】
図8(a)、図9(a)において、ラインL21,L31は基準翼の計算データから推測されるQv-Prラインであり、ラインL22,L32は最適解の計算データから推測されるQv-Prラインである。ラインL21~L32と縦軸とが交わる点の圧力比Prは体積流量Qvがゼロの場合の圧力比であって、圧力比の最大値Pr(max)を表している。一方、ラインL21~L32が横軸と交わる点の体積流量Qvは圧力比が1の場合における流量であって、体積流量Qvの最大値Qv(max)を表している。
【0048】
図8に示す背圧5Paの場合には、ラインL21で示す基準翼ではPr(max)=2.44、Qv(max)=1.01であり、ラインL22で示す最適解ではPr(max)=2.60、Qv(max)=0.99である。また、図9に示す背圧2Paの場合には、ラインL31で示す基準翼ではPr(max)=2.85、Qv(max)=1.09であり、ラインL32で示す最適解ではPr(max)=3.12、Qv(max)=1.06である。
【0049】
背圧が5Paの場合、Pr(max)については最適解の方が基準翼よりも10%程度大きく、Qv(max)については基準翼の方が最適解の場合よりも若干大きな値を示す。実際の動作点の流量100sccm~200sccmにおいては、最適解の方が基準翼よりも6%程度性能が良いことが分かる。また、背圧が2Paの場合、動作点の流量100sccm~200sccmにおいては最適解の方が基準翼よりも7%程度性能が良い。また、流量100sccm~500sccmの範囲で比較した場合でも、背圧が5Paおよび2Paのいずれにおいても、最適解の翼形状の方が基準翼の性能を上回っている。
【0050】
図10は、翼設計パラメータが基準翼(15-20、34枚)、図7に示す最適解(15-23、38枚)、最適解候補A~Eおよび準候補F~Kの場合における無次元パラメータXin、Xc、Xoutを示したものである。
【0051】
また、図11~13は、翼径方向に沿った無次元パラメータXの変化の様子を示す図であり、縦軸は無次元パラメータX(Xin、Xc、Xout)を表し横軸は翼径方向位置を表している。図11は、内径側の翼角度θinが23degである最適解(ラインL0)、最適解候補A,B(ラインLA,LB)および準候補F,G(ラインLF,LG)に関する無次元パラメータXの変化を示したものである。図12は、内径側の翼角度θinが24degである最適解候補C,D,E(ラインLC,LD,LE)および準候補H(ラインLH)に関する無次元パラメータXの変化を示したものである。図13は、内径側の翼角度θinが25degである準候補I,J,K(ラインLI,LJ,LK)に関する無次元パラメータXの変化を示したものである。
【0052】
図11の最適解(15-23、38枚)を示すラインL0においては、無次元パラメータXin、Xc、Xoutの大小関係は、「Xin<Xc、かつ、Xout<Xc」となっている。すなわち、ラインL0の形状は、平均位置が高くその両側の内径側および外径側は平均位置よりも低くなっている山形のライン形状になっている。
【0053】
これに対して、内径側の翼角度θinが最適解と同じ23degである最適解候補Aは、最適解(15-23、38枚)における外径側の翼角度θoutを15degから14degに変更したものである。翼角度が減少するとブレード長bが増加するので、この場合、外径側および平均位置におけるブレード長bが増加し、無次元パラメータXout,Xcが減少する。その結果、ラインL0と比較すると、ラインLAの平均位置から外径側までの傾きはより大きくなり、平均位置から内径側までの傾きはより小さくなる。そして、θout=13degのラインLFのように翼角度θoutをさらに小さくすると、無次元パラメータXの大小関係はXin>Xc>Xoutのようになる。
【0054】
逆に、ラインLBのように外径側の翼角度θoutを15degから16degへと増加させると、平均位置から外径側までのラインの傾きはより小さくなり、平均位置から内径側までのラインの傾きはより大きくなる。さらに、翼角度θoutを増加させてラインLGのようにθout=17degとすると、無次元パラメータXの大小関係はθout=13degとした場合(ラインLFの場合)とは逆にXin<Xc<Xoutのようになる。
【0055】
図12は、内径側の翼角度θinを23degから24degに増加させた場合である。その場合、内径側の翼角度θinの増加に伴って内径側および平均位置におけるブレード長bが減少し、無次元パラメータXin,Xcが大きくなる。すなわち、θout=14degが同一である図11のラインLAとを比較した場合、翼角度θinがより大きいラインLDの無次元パラメータXin,XcはラインLAの無次元パラメータXin,Xcよりも大きくなる。ラインLC,LE,LHの場合も、外径側の翼角度θoutが同一である図11のL0,LB,LGと比較して、無次元パラメータXin,Xcがより大きくなっている。そのため、図11のラインLGではXin<Xc<Xoutであるが、図12のラインLHでは、Xin<Xc、Xc>Xoutのように大小関係が変化している。
【0056】
さらに、図13のラインLI,LJ,LKのように内径側の翼角度θinを25degに増加させると、対応する図10のラインLC,LE,LHと比べて内径側および平均位置における無次元パラメータXin,Xcがより大きくなっている。
【0057】
上述したように、図11~13に示したラインL0,LA~LKの翼角度θin,θoutと無次元パラメータXin,Xc,Xoutとの関係から、以下のように解釈することができる。すなわち、図7に示す表の最適解(15-23、38枚)から表の上側へと翼角度θoutを14deg、13degのように減少させると、図11に示すように無次元パラメータXin,Xc,Xoutの大小関係は、θout=14degの場合にはθout=15degの場合と同様に「Xin<Xc、かつ、Xout<Xc」であるが、θout=13degの場合には「Xin>Xc>Xout」へと変化する。逆に、最適解(15-23)から図7の表の下側へと翼角度θoutを16deg、17degのように増加させると、無次元パラメータXin,Xc,Xoutの大小関係は、θout=16degの場合にはθout=15degの場合と同様に「Xin<Xc、かつ、Xout<Xc」であるが、θout=17degの場合には「Xin<Xc<Xout」へと変化する。
【0058】
また、内径側の翼角度θinを23degから24degへと大きくした場合の、図11のラインL0,LBと図12のラインLC,LEを比較する。ラインL0,LBの場合もラインLC,LEの場合も「Xin<Xc、かつ、Xout<Xc」となっているが、翼角度θinのより大きなラインLC,LEの方がXcとXinとの差がより小さく、XcとXoutとの差がより大きい。そして、θout=17degのラインLGとラインLHを比較すると、θinを23degから24degへと大きくしたことにより、Xin,Xc,Xoutの大小関係が「Xin<Xc<Xout」から「Xin<Xc、かつ、Xout<Xc」へと変化している。θout=14degのラインLAとラインLDとを比較すると、θinが大きくなることによりXin,Xc,Xoutの大小関係が「Xin<Xc、かつ、Xout<Xc」から「Xin=Xc>Xout」へと変化している。
【0059】
ところで、図7に示すように、最適解から周辺(表の上下方向または左右方向)に離れるほど性能向上率は小さくなることがわかる。例えば、θin=23degの条件で最適解候補A~Gの性能向上率を比較すると、最適解候補A~Eでは性能向上率の最小値は3程度であるが、それらの外周側に隣接する最適解候補F,Gでは性能向上率の最小値は2程度となる。θout=12degおよび18degでは最小値が1程度まで減少している。
【0060】
ここで、ステータ翼やロータ翼のブレード加工の際の加工誤差を考慮すると、加工誤差によって性能向上率の最小値が1以下とならないようにするためには、最小値としては2程度の大きさが必要となる。翼角度θin、θoutと無次元パラメータXin,Xc,Xoutとの間には図11~13に示すような関係があるので、図11のラインLFのように「Xin>Xc>Xout」となる場合のXinの上限は、図7に示す翼角度(13-23)の場合のXinとなる。そのときのXinをXin=α・Xcと表した場合、無次元パラメータXin,Xc,Xoutの大小関係は「α・Xc>Xc>Xout」のように表される。
【0061】
また、図11のラインLGのように「Xin<Xc<Xout」となる場合のXoutの上限は、図7に示す翼角度(17-23)の場合のXoutとなる。そのときのXoutをXout=β・Xcと表した場合、無次元パラメータXin,Xc,Xoutの大小関係は「Xin<Xc<β・Xc」のように表される。なお、図7に示した排気段の例ではαおよびβは1.03~1.04程度となる。
【0062】
以上をまとめると、性能向上率の最小値が2以上となる最適解候補(上述した最適解および最適解候補A~Eを含む)は、以下の条件(2)、(3)、(4)を満たしている。すなわち、条件(2)、(3)、(4)を満足するように無次元パラメータXin,Xc,Xoutを設定することで、水素ガスの排気性能に優れたターボ分子ポンプを得ることができる。なお、最適解に関しては、翼加工が可能か否かも考慮して設定される。例えば、図7に示す例では、翼角度(14-21)、(14-22)の方が最適解に選定した翼角度(14-23)よりも性能向上率が上回っているが、本実施例のステータ翼の場には翼加工困難として除外される。
「Xin<Xc、かつ、Xout<Xc」 …条件(2)
「Xin<Xc<Xout≦β・Xc ただしβ=1.04」 …条件(3)
「α・Xc≧Xin>Xc>Xout ただしα=1.04」 …条件(4)
【0063】
上述した図6から図13までの説明では、排気段のステータ翼の最適化について説明した。さらに、吸気段および中間段のステータ翼に対しても、排気段の場合と同様の処理で最適解を探索することができる。そして、吸気段および中間段のステータ翼についても、条件(2)~(4)で表される条件を満たすように無次元パラメータXin,Xc,Xoutを設定することで、水素ガス等の分子量の小さなガスに関して排気性能に優れたターボ分子ポンプを得ることができる。なお、吸気段、中間段および排気段の各ステータ翼において条件(2)~(4)のいずれを適用するかは、各段の翼高さや圧力条件等を考慮して適宜選択するのが好ましい。
【0064】
図14は、吸気段、中間段および排気段のそれぞれの最適解について、ステータ翼単段での水素ガスの性能向上率を示したものである。なお、高温条件下を想定し、ステータ翼の温度は80℃とした。図14から分かるように、水素ガスの流量がより大きな200sccmの方が性能向上率が大きくなっている。
【0065】
図14では、ステータ翼単段についての性能向上率を示したが、吸気段、中間段および排気段の各々の全段に、それぞれの段の最適解を適用することによって、さらなる性能向上を図ることができる。図15は、ステータ翼全段に最適解を適用した場合の水素ガスの性能向上率を示したものである。流量がより大きいほど性能向上率が大きくなっている。なお、ステータ翼の温度は80℃で計算を行った。
【0066】
上述した説明では、最適解のステータ翼の上下に基準翼のロータ翼を配置した場合の性能向上について説明したが、ロータ翼を最適解の翼形状としステータ翼を基準翼の翼形状とした場合も、無次元パラメータXin,Xc,Xoutを条件(2)~(4)の条件を満足するように設定することで、水素ガス排気性能の向上を図ることができる。
【0067】
ロータ翼に最適解を適用した場合、水素ガスに限らずアルゴンガスにおいても性能向上が見られた。図16は、ロータ翼単段(最適解のロータ翼の上下に基準翼のステータ翼を配置した3段構成でシミュレーションする)のアルゴンガスの性能向上率を示したものである。なお、ロータ翼の場合には温度を100℃として計算を行った。
【0068】
以上説明した第1の実施の形態では、複数段のロータ翼および複数段のステータ翼の少なくとも一方を、上述した条件(2)、(3)および(4)のいずれか一つを満足するように構成したことにより、従来のように条件(1)の平板翼やねじり翼で構成されるターボ分子ポンプに比べ、水素ガス排気時の大流量および高背圧条件下における排気性能の向上を図ることができる。
【0069】
-第2の実施の形態-
上述した第1の実施の形態では、水素ガスの排気特性の向上を図れる無次元パラメータX=S/bの条件として前述したような条件(2)~(4)が見出されたことを記載した。第2の実施の形態では、複数段のロータ翼40よび複数段のステータ翼30の少なくとも一方は、条件(2)~(4)に加えて以下に示す条件(5)~(7)を含めた6つの条件の内のいずれか一つを満足するように構成される。
Xin<Xout<Xc …条件(5)
Xin≦Xout<Xc …条件(6)
Xout≦Xin<Xc …条件(7)
【0070】
このような構成とすることにより、水素ガス排気時の大流量および高背圧条件下における排気性能の向上をさらに図ることができ、第1の実施の形態の場合よりもステータ翼30およびロータ翼40の段数をより少なくすることで、ターボ分子ポンプをより小型化することができる。
【0071】
-第3の実施の形態-
第3の実施の形態では、複数段のロータ翼40および複数段のステータ翼30は、吸気段を構成するロータ翼40およびステータ翼30、中間段を構成するロータ翼40およびステータ翼30、排気段を構成するロータ翼40およびステータ翼30から成り、複数段のロータ翼40および前記複数段のステータ翼30の少なくとも一方は、吸気段が従来の条件(1)を満足し、中間段が条件(5)を満足し、排気段が条件(4)、条件(6)および条件(7)のいずれか一つを満足するように構成されている。
Xin<Xc<Xout …条件(1)
Xin<Xout<Xc …条件(5)
「α・Xc≧Xin>Xc>Xout ただしα=1.04」 …条件(4)
Xin≦Xout<Xc …条件(6)
Xout≦Xin<Xc …条件(7)
【0072】
このように吸気段、中間段および排気段の3つに区分し、それぞれの段に応じて最適な条件に設定することで、上述した第2の実施の形態と比較してさらに大流量および高背圧条件下における水素ガス排気性能の向上を図ることができる。図17は、第2実施の形態の構成および第3の実施の形態の構成の場合の排気性能のシミュレーション結果を示したものであり、水素ガス流量=1500sccmの条件における吸気口圧および圧縮比を、従来の平板翼の排気性能を1とした比で示したものである。シミュレーションでは、ステータ翼が14段でロータ翼が15段、合計29段の構成について排気性能を算出したが、他の段数においても同様に性能向上が図れる。
【0073】
図17に示すように、吸気高圧に関しては、第2の実施の形態では21.0%の低圧化が図れ、第3の実施の形態では24.7%の低圧化が図れている。また、圧縮比に関しては、第2の実施の形態では1.171倍に、第3の実施の形態では1.229倍に向上している。
【0074】
第2の実施の形態および第3の実施の形態の場合も、上述した第1の実施の形態の場合と同様に、ステータ翼30に代えてロータ翼40に対して、無次元パラメータXin,Xc,Xoutに関する上記条件を適用した場合も、水素ガス排気性能の向上を図ることができる。さらに、ステータ翼とロータ翼の全段に上述した条件を適用した場合も、水素ガスに対する性能向上を図ることができる。
【0075】
なお、本発明は上述した内容に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。例えば、上述した実施の形態では磁気軸受式でネジ溝ポンプ段を有するターボ分子ポンプを例に説明したが、本発明は磁気軸受式に限らず適用できるとともに、ネジ溝ポンプ段を有さないターボポンプ段のみのターボ分子ポンプにも適用できる。
【符号の説明】
【0076】
1…ターボ分子ポンプ、4a…ポンプロータ、30…ステータ翼、40…ロータ翼、300,400…ブレード、b…ブレード長、S…スペース、X,Xin,Xc、Xout…無次元パラメータ、θ,θin,θout…翼角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17