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特許7052774熱硬化性コーティング剤、硬化物及びフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】熱硬化性コーティング剤、硬化物及びフィルム
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20220405BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20220405BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20220405BHJP
   C08G 18/78 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D183/04
C09D175/04
C08G18/78 037
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019112523
(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公開番号】P2020007540
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2018122457
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久米 啓太
(72)【発明者】
【氏名】橋本 祐希
(72)【発明者】
【氏名】山崎 彰寛
(72)【発明者】
【氏名】東本 徹
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-107101(JP,A)
【文献】特開2017-218490(JP,A)
【文献】特開2016-108347(JP,A)
【文献】国際公開第2015/037280(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/033624(WO,A1)
【文献】特表2014-523454(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098771(WO,A1)
【文献】長岡 毅 他,自己修復塗料用硬化剤の開発,東ソー研究・技術報告,2016年,第60巻,p.29-37,https://www.tosoh.co.jp/technology/assets/2016_2_5.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C08G 18/00-18/87
71/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ガラス転移温度が-20℃未満、水酸基価が50mgKOH/g以上である水酸基含有(メタ)アクリル樹脂、
(B)水酸基含有有機変性シリコーン、並びに
(C)ポリイソシアネートのアロファネート体及び/又は、ビウレット体
を含む、熱硬化性コーティング剤。
【請求項2】
(D)水酸基価が200mgKOH/g以上であり、かつ、分子量が500以下であるジオールを含む、請求項1に記載の熱硬化性コーティング剤。
【請求項3】
(E)硬化触媒を含む、請求項1又は2に記載の熱硬化性コーティング剤。
【請求項4】
(F)有機溶媒を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱硬化性コーティング剤。
【請求項5】
自己修復性コーティング剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱硬化性コーティング剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の熱硬化性コーティング剤の硬化物。
【請求項7】
請求項6に記載の硬化物を含む、フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱硬化性コーティング剤、硬化物及びフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器、自動車用部品等の各種工業製品には、ABS、ポリカーボネート等のプラスチック基材が用いられている。このようなプラスチック基材を保護するためにコーティング剤により表面処理が行われる。
【0003】
ハードコーティング剤を用いて表面保護を行った場合、ひび割れが生じたり、曲面の保護に適さないといった課題がある。
【0004】
一方、自己修復コーティング剤を用いて表面保護を行った場合、外力を受けて変形しても元の形状に復元できる塗膜を形成することができ、また、柔軟性が高いことからひび割れが生じ難い。
【0005】
特許文献1には、3~6官能アクリレート系単量体及びカプロラクトン基を含む多官能アクリレート系化合物の共重合体、及び無機微粒子を含むコーティング剤が記載されている。
【0006】
特許文献2には、アロファネート基を2つ以上含む多価イソシアネート系化合物を用いるウレタンアクリレートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6114413号公報
【文献】特開2015-124265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の場合、自己修復性の発現には硬化後の膜厚が約50μm~150μm必要であり、必要なコーティング剤の量が多く、その結果、硬化に必要なエネルギーは多くなるため生産性が悪いといった問題がある。さらに、特許文献1のような光重合型コーティング剤や無機粒子を含むコーティング剤は塗膜に割れが生じやすいといった問題がある。
【0009】
また、特許文献2の場合、外力を受けて変形して元の形状に戻るまでに熱と長時間を必要とするという問題があった。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、硬化物の自己修復性、耐摩耗性、防汚性、引張特性が良好となるコーティング剤を提供することとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の成分を含むコーティング剤により、上記課題が解決されることを見出した。
【0012】
本開示により以下の項目が提供される。
(項目1)
(A)ガラス転移温度が-20℃未満である水酸基含有(メタ)アクリル樹脂、
(B)水酸基含有有機変性シリコーン、並びに
(C)ポリイソシアネートのアロファネート体及び/又は、ビウレット体
を含む、熱硬化性コーティング剤。
(項目2)
(D)水酸基価が200mgKOH/g以上であり、かつ、分子量が500以下であるジオールを含む、上記項目に記載の熱硬化性コーティング剤。
(項目3)
(E)硬化触媒を含む、上記項目のいずれか1項に記載の熱硬化性コーティング剤。
(項目4)
(F)有機溶媒を含む、上記項目のいずれか1項に記載の熱硬化性コーティング剤。
(項目5)
自己修復性コーティング剤である、上記項目のいずれか1項に記載の熱硬化性コーティング剤。
(項目6)
上記項目のいずれか1項に記載の熱硬化性コーティング剤の硬化物。
(項目7)
上記項目に記載の硬化物を含む、フィルム。
【0013】
本開示において、上述した1又は複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱硬化性コーティング剤の硬化物の自己修復性、耐摩耗性、防汚性、及び引張特性は良好である。そのため、本発明の熱硬化性コーティング剤を用いることにより、良好な自己修復性、耐摩耗性、防汚性、及び引張特性を有するフィルムが製造され得る。また、加飾フィルムへのコーティング等にも応用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の全体にわたり、各物性値、含有量等の数値の範囲は、適宜(例えば下記の各項目に記載の上限及び下限の値から選択して)設定され得る。具体的には、数値αについて、数値αの上限がA1、A2、A3等が例示され、数値αの下限がB1、B2、B3等が例示される場合、数値αの範囲は、A1以下、A2以下、A3以下、B1以上、B2以上、B3以上、B1~A1、B2~A1、B3~A1、B1~A2、B2~A2、B3~A2、B1~A3、B2~A3、B3~A3等が例示される。
【0016】
[熱硬化性コーティング剤:コーティング剤ともいう]
本開示は、(A)ガラス転移温度が-20℃未満である水酸基含有(メタ)アクリル樹脂、(B)水酸基含有有機変性シリコーン、並びに(C)ポリイソシアネートのアロファネート体及び/又は、ビウレット体を含む、熱硬化性コーティング剤を提供する。
【0017】
<(A)成分:水酸基含有(メタ)アクリル樹脂>
(A)成分:水酸基含有(メタ)アクリル樹脂は、水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位及び水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含む共重合体等が例示される。水酸基含有(メタ)アクリル樹脂は、単独又は2種以上で使用され得る。
【0018】
本開示において「(メタ)アクリル」は「アクリル及びメタクリルからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。同様に「(メタ)アクリレート」は「アクリレート及びメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。また「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル及びメタクリロイルからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。
【0019】
(水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート)
水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレートは、
【化1】
(式中、Ra1は水素原子、又はメチル基であり、Ra2はアルキル基である。)
で表わされる。水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレートは、単独又は2種以上で使用され得る。
【0020】
アルキル基は、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、シクロアルキル基等が例示される。
【0021】
直鎖アルキル基は、-C2n+1(nは1以上の整数)の構造式で表される。直鎖アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デカメチル基等が例示される。
【0022】
分岐アルキル基は、直鎖アルキル基の少なくとも1つの水素がアルキル基によって置換された基である。分岐アルキル基は、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ジエチルペンチル基、トリメチルブチル基、トリメチルペンチル基、トリメチルヘキシル基等が例示される。
【0023】
シクロアルキル基は、単環シクロアルキル基、架橋環シクロアルキル基、縮合環シクロアルキル基等が例示される。
【0024】
単環シクロアルキル基は、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロデシル基、3,5,5-トリメチルシクロヘキシル基等が例示される。
【0025】
架橋環シクロアルキル基は、トリシクロデシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基等が例示される。
【0026】
縮合環シクロアルキル基は、ビシクロデシル基等が例示される。
【0027】
水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレートは、水酸基非含有直鎖アルキル(メタ)アクリレート、水酸基非含有分岐アルキル(メタ)アクリレート、水酸基非含有シクロアルキル(メタ)アクリレート等が例示される。
【0028】
水酸基非含有直鎖アルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸イコシル、(メタ)アクリル酸ドコシル等が例示される。
【0029】
水酸基非含有分岐アルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が例示される。
【0030】
水酸基非含有シクロアルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等が例示される。
【0031】
これらの中でも、コーティング剤において耐摩耗性、レベリング性、密着性に寄与することから、アルキル基の炭素数が1~20程度の水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレートが好ましい。また、アルキル基の炭素数が異なる水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレートを併用することによって、水酸基含有(メタ)アクリル樹脂のガラス転移温度等の物性が調節可能となる。
【0032】
(A)成分中の全構成単位100モル%に占める水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位の含有量の上限は、98、95、90、85、80、75、70、65モル%等が例示され、下限は、95、90、85、80、75、70、65、62モル%等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分中の全構成単位100モル%に占める水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位の含有量の範囲は自己修復性、及び耐摩耗性の観点より、62~98モル%程度が好ましい。
【0033】
(A)成分中の全構成単位100質量%に占める水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位の含有量の上限は、98、95、90、85、80、75、70質量%等が例示され、下限は、95、90、85、80、75、70、65質量%等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分中の全構成単位100質量%に占める水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位の含有量の範囲は自己修復性、及び耐摩耗性の観点より、65~98質量%程度が好ましい。
【0034】
(水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート)
水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートは、下記構造式
【化2】
(式中、Ra3は水素原子、又はメチル基であり、Ra4は直鎖アルキレン基、分岐アルキレン基、又はシクロアルキレン基である。)
で表わされる。水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートは、単独又は2種以上で使用され得る。直鎖アルキレン基、分岐アルキレン基、シクロアルキレン基は後述の基等が例示される。
【0035】
水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートは、水酸基含有直鎖アルキル(メタ)アクリレート、水酸基含有分岐アルキル(メタ)アクリレート、水酸基含有シクロアルキル(メタ)アクリレート等が例示される。
【0036】
水酸基含有直鎖アルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が例示される。
【0037】
水酸基含有分岐アルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル等が例示される。
【0038】
水酸基含有シクロアルキル(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリル酸ヒドロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4-(ヒドロキシメチル)シクロヘキシルメチル等が例示される。
【0039】
水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートは、コーティング剤の硬化性、ポットライフ等の観点から、ヒドロキシアルキル基の炭素数が1~4程度のものが好ましい。
【0040】
(A)成分中の全構成単位100モル%に占める水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位の含有量の上限は、38、35、30、25、20、15、10、5、2.5モル%等が例示され、下限は、35、30、25、20、15、10、5、2.5、1.5モル%等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分中の全構成単位100モル%に占める水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位の含有量の範囲は自己修復性、耐摩耗性、塗膜外観、及びポットライフの観点より、1.5~38モル%程度が好ましい。
【0041】
(A)成分中の全構成単位100質量%に占める水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位の含有量の上限は、35、30、25、20、15、10、5、2.5質量%等が例示され、下限は、30、25、20、15、10、5、2.5、2質量%等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分中の全構成単位100質量%に占める水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位の含有量の範囲は自己修復性、耐摩耗性、塗膜外観、及びポットライフの観点より、2~35質量%程度が好ましい。
【0042】
(A)成分中の水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位と水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位との物質量比(水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレートmol/水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートmol)の上限は、65、60、50、40、30、20、10、5、2等が例示され、下限は、60、50、40、30、20、10、5、2、1.6等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分中の水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位と水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位との物質量比(水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレートmol/水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートmol)は自己修復性、耐摩耗性、塗膜外観、及びポットライフの観点より、1.6~65程度が好ましい。
【0043】
(A)成分中の水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位と水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位との質量比(水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレートmass/水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートmass)の上限は、49、40、30、20、10、5、2等が例示され、下限は、45、40、30、20、10、5、2、1.8等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分中の水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位と水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位との質量比(水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレートmass/水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートmass)は自己修復性、耐摩耗性、塗膜外観、及びポットライフの観点より、1.8~49程度が好ましい。
【0044】
(水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレートでも水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートでもないモノマー:その他のモノマーともいう)
水酸基含有(メタ)アクリル樹脂を製造する際には、水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート及び水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートのいずれにも該当しないモノマーを用いてもよい。その他のモノマーは、単独又は2種以上で使用され得る。
【0045】
その他のモノマーは、(メタ)アクリル酸、α,β-不飽和カルボン酸、スチレン類、α-オレフィン、不飽和アルコール及びそれらの塩、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド及びそれらの塩、連鎖移動性モノマー、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド類、ビニルアミン、ビス(メタ)アクリルアミド、ジ(メタ)アクリルエステル、ジビニルエステル、上記以外の二官能性モノマー、三官能性モノマー、四官能性モノマー等が例示される。
【0046】
(A)成分中の全構成単位100モル%に占めるその他のモノマー由来の構成単位の含有量の上限は、13、10、9、5、4、1モル%等が例示され、下限は、12、10、9、5、4、1、0モル%等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分中の全構成単位100モル%に占めるその他のモノマー由来の構成単位の含有量の範囲は自己修復性、及び耐摩耗性の観点より、0~13モル%程度が好ましい。
【0047】
(A)成分中の全構成単位100質量%に占めるその他のモノマー由来の構成単位の含有量の上限は、10、9、5、4、1質量%等が例示され、下限は、9、5、4、1、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分中の全構成単位100質量%に占めるその他のモノマー由来の構成単位の含有量の範囲は自己修復性、及び耐摩耗性の観点より、0~10質量%程度が好ましい。
【0048】
(A)成分中のその他のモノマー由来の構成単位と水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位との物質量比(その他のモノマーmol/水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレートmol)の上限は、0.22、0.20、0.15、0.10、0.05等が例示され、下限は、0.20、0.15、0.10、0.05、0等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分中のその他のモノマー由来の構成単位と水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位との物質量比(その他のモノマーmol/水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレートmol)は自己修復性、及び耐摩耗性の観点より、0~0.22程度が好ましい。
【0049】
(A)成分中のその他のモノマー由来の構成単位と水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位との質量比(その他のモノマーmass/水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレートmass)の上限は、0.19、0.15、0.10、0.05等が例示され、下限は、0.15、0.10、0.05、0等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分中のその他のモノマー由来の構成単位と水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位との質量比(その他のモノマーmass/水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレートmass)は自己修復性、及び耐摩耗性の観点より、0~0.19程度が好ましい。
【0050】
(A)成分中その他のモノマー由来の構成単位と水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位との物質量比(その他のモノマーmol/水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートmol)の上限は、8.0、7.0、6.0、5.0、4.0、3.0、2.0、1.0、0.5等が例示され、下限は、7.5、7.0、6.0、5.0、4.0、3.0、2.0、1.0、0.5、0等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分中のその他のモノマー由来の構成単位と水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位との物質量比(その他のモノマーmol/水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートmol)は自己修復性、及び耐摩耗性の観点より、0~8.0程度が好ましい。
【0051】
(A)成分中のその他のモノマー由来の構成単位と水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位との質量比(その他のモノマーmass/水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートmass)の上限は、5.0、4.0、3.0、2.0、1.0、0.5等が例示され、下限は、4.5、4.0、3.0、2.0、1.0、0.5、0等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分中のその他のモノマー由来の構成単位と水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位との質量比(その他のモノマーmass/水酸基含有アルキル(メタ)アクリレートmass)は自己修復性、及び耐摩耗性の観点より、0~5.0程度が好ましい。
【0052】
<水酸基含有(メタ)アクリル樹脂の物性等>
(A)成分のガラス転移温度の上限は、-20、-20.1、-21、-23、-25、-30、-31、-35、-39℃等が例示され、下限は、-20.1、-21、-23、-25、-30、-31、-35、-39、-40℃等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分のガラス転移温度は自己修復性、耐摩耗性、及び引張特性の観点より、-20℃未満が好ましく、-40℃以上-20℃未満がより好ましい。
【0053】
ガラス転移温度はFoxの式より算出される。
Foxの式:1/Tg=(Wa/Tga)+(Wb/Tgb)+・・・+(Wn/Tgn)
Tg:コポリマーのガラス転移温度(K)
Wa:モノマーAの質量%
Tga:モノマーAのホモポリマーのガラス転移温度(K)
Wb:モノマーBの質量%
Tgb:モノマーBのホモポリマーのガラス転移温度(K)
Wn:モノマーNの質量%
Tgn:モノマーNのホモポリマーのガラス転移温度(K)
【0054】
(A)成分の水酸基当量の上限は、2.7、2.5、2.0、1.8、1.5、1.0、0.5、0.25meq/g等が例示され、下限は、2.5、2.0、1.8、1.5、1.0、0.5、0.25、0.17meq/g等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分の水酸基当量は自己修復性、耐摩耗性、塗膜外観、及びポットライフの観点より、0.17~2.7meq/g程度が好ましく、0.5~1.8meq/g程度がより好ましい。
【0055】
本開示において、水酸基当量は固形1g中に存在する水酸基の物質量である。
【0056】
(A)成分の水酸基価(固形分換算)の上限は、150、140、130、120、110、100、90、80、70、60、50、40、30、20、15mgKOH/g等が例示され、下限は、140、130、120、110、100、90、80、70、60、50、40、30、20、15、10mgKOH/g等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分の水酸基価(固形分換算)は自己修復性、耐摩耗性、塗膜外観、及びポットライフの観点より、10~150mgKOH/g程度が好ましい。
【0057】
水酸基価はJIS K1557-1に準拠する方法(アセチル法)により測定される。
【0058】
(A)成分の酸価の上限は、10、5、1、0.1mgKOH/g等が例示され、下限は、5、1、0.1、0mgKOH/g等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分の酸価は、特に硬化性を考慮すると、0~10mgKOH/g程度が好ましく、0~1mgKOH/g程度がより好ましい。
【0059】
酸価はJIS K0070に準拠する方法により測定される。
【0060】
(A)成分の重量平均分子量(Mw)の上限は、300000、200000、100000、90000、80000、70000、60000、50000、40000、30000、20000等が例示され、下限は、200000、100000、90000、80000、70000、60000、50000、40000、30000、20000、10000等が例示される。1つの実施形態において、コーティング剤の自己修復性、耐摩耗性、引張特性、及び防汚性の観点より、(A)成分の重量平均分子量(Mw)は、10000~300000程度が好ましく、50000~300000程度がより好ましい。
【0061】
(A)成分の数平均分子量(Mn)の上限は、100000、90000、80000、70000、60000、50000、40000、30000、20000、10000等が例示され、下限は、90000、80000、70000、60000、50000、40000、30000、20000、10000、5000等が例示される。1つの実施形態において、コーティング剤の自己修復性、耐摩耗性、引張特性、及び防汚性の観点より、(A)成分の数平均分子量(Mn)は、5000~100000程度が好ましく、10000~100000程度がより好ましい。
【0062】
(A)成分の分子量分布(Mw/Mn)の上限は、10、7.5、5、2.5、2等が例示され、下限は、9.5、7.5、5、2.5、2、1.5等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分の分子量分布(Mw/Mn)は自己修復性、耐摩耗性、引張特性、及び防汚性の観点より、1.5~10程度が好ましい。
【0063】
(A)成分は、各種公知の方法で製造され得る。水酸基含有(メタ)アクリル樹脂の製造方法は、水酸基非含有アルキル(メタ)アクリレート及び水酸基含有アルキル(メタ)アクリレート、並びに必要に応じてその他のモノマーを、無溶媒下又は有機溶媒中で、通常は重合開始剤の存在下、70~180℃程度において、1~10時間程度共重合反応させる方法等が例示される。水酸基含有(メタ)アクリル樹脂を製造する際に用いられる有機溶媒は後述のものが例示される。重合開始剤は、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等のアゾ系開始剤等が例示される。
【0064】
上記コーティング剤中の(A)成分の含有量(固形分換算)の上限は、90、80、70、60、50、40、30、20質量%等が例示され、下限は、80、70、60、50、40、30、20、10質量%等が例示される。1つの実施形態において、上記コーティング剤中の(A)成分の含有量(固形分換算)は自己修復性、耐摩耗性、引張特性、及び防汚性の観点より、10~90質量%が好ましい。
【0065】
<(B)成分:水酸基含有有機変性シリコーン>
本開示において、「水酸基含有有機変性シリコーン」は、例えば、水酸基含有有機基を有するシリコーンを意味する。(B)成分:水酸基含有有機変性シリコーンは、単独又は2種以上で使用され得る。水酸基を含有することにより、ポリイソシアネートと反応し硬化物中に固定されるため、防汚性が長期において持続する。(B)成分は、アクリルポリマー変性水酸基含有有機変性シリコーン、ポリエステル変性水酸基含有有機変性シリコーン、ポリエーテル変性水酸基含有有機変性シリコーン、カルビノール変性水酸基含有有機変性シリコーン等が例示される。なお、上記変性部位は、シリコーン鎖の片末端、両末端、及び側鎖のいずれかに導入されていればよい。
【0066】
アクリルポリマー変性水酸基含有有機変性シリコーンの市販品は、ZX-028-G((株)T&K TOKA製)、BYK-SILCLEAN3700(ビックケミー・ジャパン(株)製)、サイマックUS-270(東亞合成(株)製)等が例示される。
【0067】
ポリエーテル変性水酸基含有有機変性シリコーン又はポリエステル変性水酸基含有有機変性シリコーンの市販品は、BYK-370、BYK-375、BYK-377、BYK-SILCLEAN3720(ビックケミー・ジャパン(株)製)、X-22-4952、KF-6123(信越化学工業(株)製)等が例示される。
【0068】
カルビノール変性水酸基含有有機変性シリコーンの市販品は、X-22-4039、X-22-4015、X-22-4952、X-22-4272、X-22-170BX、X-22-170DX、KF-6000、KF-6001、KF-6002、KF-6003、KF-6123、X-22-176F(信越化学工業(株)製)、サイラプレーンFM-4411、サイラプレーンFM-4421、サイラプレーンFM-4425、サイラプレーンFM-0411、サイラプレーンFM-0421、サイラプレーンFM-DA11、サイラプレーンFM-DA21、サイラプレーンFM-DA26(JNC(株)製)等が例示される。
【0069】
上記コーティング剤中の(B)成分の含有量(固形分換算)の上限は、5、4、3、2、1、0.9、0.5、0.2質量%等が例示され、下限は、4、3、2、1、0.9、0.5、0.2、0.1質量%等が例示される。1つの実施形態において、上記コーティング剤中の(B)成分の含有量(固形分換算)は防汚性の観点より、0.1~5.0質量%が好ましい。
【0070】
<(C)成分:ポリイソシアネートのアロファネート体及び/又は、ビウレット体>
(C)成分:ポリイソシアネートのアロファネート体及び/又は、ビウレット体は、単独又は2種以上で使用され得る。本開示において、「ポリイソシアネート」は、2個以上のイソシアネート基(-N=C=O)を有する化合物である。ポリイソシアネートのアロファネート体又はビウレット体を製造する際、ポリイソシアネートは単独又は2種以上で使用され得る。
【0071】
ポリイソシアネートは、脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート等が例示される。
【0072】
脂肪族ポリイソシアネートは、直鎖脂肪族ポリイソシアネート、分岐脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート等が例示される。
【0073】
直鎖脂肪族基は、直鎖アルキレン基等が例示される。直鎖アルキレン基は-(CH-(nは1以上の整数)の構造式で表現でき、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、n-ブチレン基、n-ペンチレン基、n-ヘキシレン基、n-ヘプチレン基、n-オクチレン基、n-ノニレン基、n-デカメチレン基等が例示される。
【0074】
直鎖脂肪族ポリイソシアネートは、メチレンジイソシアネート、ジメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘプタメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、ノナメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート等が例示される。
【0075】
分岐脂肪族基は、分岐アルキレン基等が例示される。分岐アルキレン基は、直鎖アルキレン基の少なくとも1つの水素がアルキル基によって置換された基であり、具体的な例は、ジエチルペンチレン基、トリメチルブチレン基、トリメチルペンチレン基、トリメチルヘキシレン基(トリメチルヘキサメチレン基)等が例示される。
【0076】
分岐脂肪族ポリイソシアネートは、ジエチルペンチレンジイソシアネート、トリメチルブチレンジイソシアネート、トリメチルペンチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が例示される。
【0077】
脂環族基は、単環脂環族基、架橋環脂環族基、縮合環脂環族基等が例示される。またシクロアルキレン基は、1つ以上の水素が直鎖又は分岐アルキル基によって置換されていてもよい。
【0078】
本開示において、単環は、炭素の共有結合により形成された内部に橋かけ構造を有しない環状構造を意味する。また、縮合環は、2つ以上の単環が2個の原子を共有している(すなわち、それぞれの環の辺を互いに1つだけ共有(縮合)している)環状構造を意味する。架橋環は、2つ以上の単環が3個以上の原子を共有している環状構造を意味する。
【0079】
単環脂環族基は、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロデシレン基、3,5,5-トリメチルシクロヘキシレン基等が例示される。
【0080】
架橋環脂環族基は、トリシクロデシレン基、アダマンチレン基、ノルボルニレン基等が例示される。
【0081】
縮合環脂環族基は、ビシクロデシレン基等が例示される。
【0082】
脂環族ポリイソシアネートは、単環脂環族ポリイソシアネート、架橋環脂環族ポリイソシアネート、縮合環脂環族ポリイソシアネート等が例示される。
【0083】
単環脂環族ポリイソシアネートは、水添キシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、シクロヘプチレンジイソシアネート、シクロデシレンジイソシアネート、3,5,5-トリメチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が例示される。
【0084】
架橋環脂環族ポリイソシアネートは、トリシクロデシレンジイソシアネート、アダマンタンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等が例示される。
【0085】
縮合環脂環族ポリイソシアネートは、ビシクロデシレンジイソシアネート等が例示される。
【0086】
脂肪族基の炭素数は、特に限定されないが、その上限は、30、29、25、20、16、15、12、10、9、8、7、6、5、4、3、2等が例示され、下限は、29、25、20、15、12、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1等が例示される。1つの実施形態において、脂肪族基の炭素数は自己修復性、耐摩耗性、及び引張特性の観点より、1~30が好ましく、1~20がより好ましく、1~16がさらに好ましく、1~12が特に好ましい。
【0087】
芳香族基は、フェニレン基、ナフチレン基等が例示される。
【0088】
芳香族ポリイソシアネートは、キシレンジイソシアネート等が例示される。
【0089】
ポリイソシアネートのアロファネート体は、
下記構造式:
【化3】
[式中、nは、0以上の整数であり、Rは、アルキル基又はアリール基であり、R~Rはそれぞれ独立に、アルキレン基又はアリーレン基であり、Rα~Rγはそれぞれ独立に、イソシアネート基又は
【化4】
(n1は、0以上の整数であり、R~Rはそれぞれ独立に、アルキレン基又はアリーレン基であり、R’~R’’’はそれぞれ独立に、イソシアネート基又はRα~Rγ自身の基である。R~R、R’~R’’は、各構成単位ごとに基が異なっていてもよい。)である。R~R、Rα~Rβは、各構成単位ごとに基が異なっていてもよい。]で表される化合物等が例示される。
【0090】
ポリイソシアネートのアロファネート体の市販品は、コロネート2793(東ソー(株)製)、タケネートD-178N(三井化学(株)製)等が例示される。
【0091】
ポリイソシアネートのビウレット体は、
下記構造式:
【化5】
[式中、nは、1以上の整数であり、RbA~RbEはそれぞれ独立に、アルキレン基又はアリーレン基であり、Rbα~Rbβはそれぞれ独立に、イソシアネート基又は
【化6】
(nb1は、0以上の整数であり、Rb1~Rb5はそれぞれ独立に、アルキレン基又はアリーレン基であり、R’~R''はそれぞれ独立に、イソシアネート基又はRbα~Rbβ自身の基である。Rb4~Rb5、R''は、各構成単位ごとに基が異なっていてもよい。)である。RbD~RbE、Rbβは、各構成単位ごとに基が異なっていてもよい。]で表される化合物等が例示される。
【0092】
ポリイソシアネートのビウレット体は、デュラネート24A-100、デュラネート22A-75P、デュラネート21S-75E(以上旭化成(株)製)、デスモジュールN3200A(ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体)(以上住友バイエルウレタン(株)製)等が例示される。
【0093】
(C)成分のNCO含有率(固形分中のNCO%)の上限の例は30、25、20、15質量%等が挙げられ、下限の例は、25、20、15、10質量%等が挙げられる。1つの実施形態において、(C)成分のNCO含有率(固形分中のNCO%)は自己修復性、耐摩耗性、及び引張特性の観点より、10~30質量%が好ましい。
【0094】
上記コーティング剤中の(C)成分の含有量(固形分換算)の上限は、80、70、60、50、40、30、20、15質量%等が例示され、下限は、70、60、50、40、30、20、15、10質量%等が例示される。1つの実施形態において、上記コーティング剤中の(C)成分の含有量(固形分換算)は自己修復性、耐摩耗性、及び引張特性の観点より、10~80質量%が好ましい。
【0095】
上記コーティング剤中の(A)成分と(C)成分との質量比((A)成分/(C)成分)の上限は、5、4、3、2、1、0.9、0.5、0.3等が例示され、下限は、4、3、2、1、0.9、0.5、0.3、0.2等が例示される。1つの実施形態において、上記コーティング剤中の(A)成分と(C)成分との質量比((A)成分/(C)成分)は自己修復性、耐摩耗性、引張特性の観点より、0.2~5.0が好ましい。
【0096】
<(D)成分:水酸基価が200mgKOH/g以上であり、かつ、分子量が500以下であるジオール>
1つの実施形態において、上記コーティング剤は、(D)水酸基価が200mgKOH/g以上であり、かつ、分子量が500以下であるジオールを含み得る。(D)成分を含むことにより自己修復性、耐摩耗性、及び引張特性が向上する。(D)成分は単独又は2種以上で使用され得る。
【0097】
本開示において、単に「分子量」と記載する場合、式量又は数平均分子量のどちらかを意味する。特定の化学式で一義的に化合物の構造を表現できる(すなわち分子量分布が1である)場合、上記分子量は式量を意味する。一方、特定の化学式で一義的に化合物の構造を表現できない(すなわち分子量分布が1より大きい)場合、上記分子量は数平均分子量を意味する。
【0098】
(D)成分は、アルキレンジオール、ポリエーテルジオール等が例示される。アルキレンジオールは、直鎖アルキレンジオール、分岐アルキレンジオール、シクロアルキレンジオール等が例示される。
【0099】
直鎖アルキレンジオールは、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール等が例示される。
【0100】
分岐アルキレンジオールは、ネオペンチルグリコール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジブチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1-メチルエチレングリコール、1-エチルエチレングリコール等が例示される。
【0101】
シクロアルキレンジオールは、単環シクロアルキレンジオール、架橋環シクロアルキレンジオール等が例示される。
【0102】
単環シクロアルキレンジオールは、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2’-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等が例示される。
【0103】
架橋環シクロアルキレンジオールは、トリシクロデカンジメタノール等が例示される。
【0104】
ポリエーテルジオールは、ジエチレングリコール、トリエチレングルコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が例示される。
【0105】
上記コーティング剤中の(D)成分の含有量(固形分換算)の上限は、20、19、15、10、9、5、3、1質量%等が例示され、下限は、19、15、10、9、5、3、1、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、上記コーティング剤中の(D)成分の含有量(固形分換算)は、0~20質量%が好ましい。
【0106】
上記コーティング剤中の(D)成分と(A)成分との質量比((D)成分/(A)成分)の上限は、1.0、0.9、0.7、0.5、0.4、0.2、0.1等が例示され、下限は、0.9、0.7、0.5、0.4、0.2、0.1、0等が例示される。1つの実施形態において、上記コーティング剤中の(D)成分と(A)成分との質量比((D)成分/(A)成分)は自己修復性、耐摩耗性及びレベリング性の観点より、0~1.0が好ましい。
【0107】
上記コーティング剤中の(D)成分と(C)成分との質量比((D)成分/(C)成分)の上限は、0.5、0.4、0.2、0.1等が例示され、下限は、0.4、0.2、0.1、0等が例示される。1つの実施形態において、上記コーティング剤中の(D)成分と(C)成分との質量比((D)成分/(C)成分)は、0~0.5が好ましい。
【0108】
(A)成分、(B)成分、(D)成分及びその他の成分のイソシアネート基と(C)成分の水酸基のモル比(NCO/OH)の上限は、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1.5、1、0.8、0.6、0.4、0.1等が例示され、下限は、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.5、0.1、0.05等が例示される。上記モル比(NCO/OH)の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、(A)成分、(B)成分、(D)成分及びその他の成分のイソシアネート基と(C)成分の水酸基のモル比(NCO/OH)は自己修復性、耐摩耗性、防汚性、及び引張特性の観点より、0.05~10程度が好ましい。
【0109】
(D)成分の水酸基価の上限は、1600、1500、1250、1100、1090、1080、1070、1060、1050、1000、990、975、950、900、750、500、250mgKOH/g等が例示され、下限は、1500、1250、1100、1090、1080、1070、1060、1050、1000、990、975、950、900、750、500、250、200mgKOH/g等が例示される。1つの実施形態において、(D)成分の水酸基価は、200~1600mgKOH/gが好ましい。
【0110】
(D)成分の分子量の上限は、500、490、450、400、350、300、250、200、150、120、119、115、110、109、105、100、75等が例示され、下限は、490、450、400、350、300、250、200、150、120、119、115、110、109、105、100、75、50等が例示される。1つの実施形態において、(D)成分の分子量は、50~500が好ましい。
【0111】
<(E)成分:硬化触媒>
1つの実施形態において、上記コーティング剤は、(E)成分:硬化触媒を含み得る。(E)成分は単独又は2種以上で使用され得る。
【0112】
(E)成分は、有機金属触媒、有機アミン触媒等が例示される。
【0113】
有機金属触媒は、有機典型金属触媒、有機遷移金属触媒等が例示される。
【0114】
有機典型金属触媒は、有機錫触媒、有機ビスマス触媒等が例示される。
【0115】
有機錫触媒は、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート等が例示される。
【0116】
有機ビスマス触媒は、オクチル酸ビスマス等が例示される。
【0117】
有機遷移金属触媒は、有機チタン触媒、有機ジルコニウム触媒、有機鉄触媒等が例示される。
【0118】
有機チタン触媒は、チタンエチルアセトアセテート等が例示される。
【0119】
有機ジルコニウム触媒は、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等が例示される。
【0120】
有機鉄触媒は、鉄アセチルアセトネート等が例示される。
【0121】
有機アミン触媒は、ジアザビシクロオクタン、ジメチルシクロヘキシルアミン、テトラメチルプロピレンジアミン、エチルモルホリン、ジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン及びトリエチレンジアミン等が例示される。
【0122】
上記コーティング剤中の(E)成分の含有量(固形分換算)の上限は、1、0.9、0.75、0.5、0.25、0.1、0.09、0.05、0.02質量%等が例示され、下限は、0.9、0.75、0.5、0.25、0.1、0.09、0.05、0.02、0.01、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、上記コーティング剤中の(E)成分の含有量(固形分換算)は硬化性、ポットライフの観点より、0~1質量%程度が好ましい。
【0123】
<(F)成分:有機溶媒>
1つの実施形態において、上記コーティング剤は、(F)成分:有機溶媒を含み得る。(F)成分は単独又は2種以上で使用され得る。(F)成分は、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、メチルイソブチルケトン及びシクロヘキサノン等のケトン溶媒;トルエン及びキシレン等の芳香族溶媒;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール及びブタノール等のアルコール溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルセロソルブアセテート及びセロソルブアセテート等のエステル溶媒;ソルベッソ#100及びソルベッソ#150(いずれも商品名。エクソンモービル社製。)等の石油系溶媒;クロロホルム等のハロアルカン溶媒;ジメチルホルムアミド等のアミド溶媒等が例示される。これらの中でも本発明のコーティング剤のポットライフの観点よりケトン溶媒が好ましく、ケトン溶媒の中でもアセチルアセトンが好ましい。
【0124】
上記コーティング剤に有機溶媒が含まれる場合、上記コーティング剤中の(F)成分の含有量の上限は、90、80、70、60、55質量%等が例示され、下限は、85、80、70、60、55、50質量%等が例示される。1つの実施形態において、上記コーティング剤に(F)成分が含まれる場合、上記コーティング剤中の(F)成分の含有量は、ポットライフの観点より50~90質量%程度が好ましい。なお上記コーティング剤に含まれる(F)成分には、上記(A)成分、上記(B)成分、上記(C)成分、上記(E)成分に含まれる有機溶媒が含まれていてもよい。
【0125】
<添加剤>
上記熱硬化性コーティング剤は、上記(A)成分、上記(B)成分、上記(C)成分、上記(D)成分、上記(E)成分、上記(F)成分以外の剤を添加剤として含み得る。添加剤は、トリオール、テトラオール、重合禁止剤、酸化防止剤、光安定剤、消泡剤、表面調整剤、顔料、帯電防止剤、金属酸化物微粒子分散体、有機微粒子分散体等が例示される。1つの実施形態において、添加剤の含有量は、上記コーティング剤の0.1~10質量%程度、10質量%未満程度、5質量%未満程度、1質量%未満程度、0.1質量%未満程度、0.01質量%未満程度、0質量%程度等(固形分換算)が例示される。
【0126】
上記熱硬化性コーティング剤は、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分、並びに必要に応じて、(D)成分、(E)成分、(F)成分及び/又は添加剤等を各種公知の手段で混合する工程を含む方法等により得られる。
【0127】
上記熱硬化性コーティング剤は、自己修復性熱硬化性コーティング剤、加飾フィルム用熱硬化性コーティング剤として使用され得る。
【0128】
[硬化物]
本開示は、上記熱硬化性コーティング剤の硬化物を提供する。上記硬化物を製造する際の条件は後述のもの等が例示される。
【0129】
[フィルム]
本開示は、上記硬化物を含むフィルムを提供する。
【0130】
基材は各種公知のものが採用される。基材はポリカーボネートフィルム、アクリルフィルム(ポリメチルメタクリレートフィルム等)、ポリスチレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、エポキシ樹脂フィルム、メラミン樹脂フィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ABSフィルム、ASフィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、環状オレフィンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)フィルム等が例示される。基材の厚みも特に限定されないが、20~300μm程度が好ましい。また、コーティング層の厚みは特に限定されないが、2~30μm程度が好ましい。
【0131】
上記フィルムは各種公知の方法で製造される。1つの実施形態において、フィルムの製造方法は、上記コーティング剤を基材の少なくとも片面に塗工する工程(塗工工程)、熱硬化してコーティング剤硬化物層を形成する工程(熱硬化工程)を含む。
【0132】
(塗工工程)
塗工方法は、バーコーター塗工、ワイヤーバー塗工、メイヤーバー塗工、エアナイフ塗工、グラビア塗工、リバースグラビア塗工、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷法等が例示される。
【0133】
塗工量は特に限定されない。塗工量は、乾燥後の質量が0.1~30g/m程度が好ましく、1~20g/m程度がより好ましい。
【0134】
(熱硬化工程)
乾燥方法は、循風乾燥機等による乾燥が例示される。乾燥条件は120℃で1分静置等が例示される。
【0135】
フィルムを製造する際、必要に応じて乾燥の後にエージング処理が行われる。一例として、40℃で24時間のエージング処理等が例示される。
【実施例
【0136】
以下、実施例及び比較例を通じて本発明を具体的に説明する。但し、上述の好ましい実施形態における説明及び以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供するものではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。また、各実施例及び比較例において、特に説明がない限り、部、%等の数値は質量基準である。
【0137】
<原料の調製>
〔(メタ)アクリル樹脂〕
[樹脂A]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素導入管を備えた反応容器に、メタクリル酸メチル(以下、MMAともいう)24.0質量部、アクリル酸n-ブチル(以下、BAともいう)59.0質量部、及びアクリル酸2-ヒドロキシエチル(以下、HEAともいう)17.0質量部、並びにメチルエチルケトン150質量部を仕込み、反応系を80℃に設定した。次いで、アゾビスイソブチロニトリル0.5質量部を仕込み、80℃付近で5時間保温した。次いで、アゾビスイソブチロニトリル1.0質量部を仕込み、反応系を同温度付近において更に4時間保温した。その後反応系を室温まで冷却することにより、表1に記載の物性を有する樹脂Aの溶液(不揮発分40%)を得た。
【0138】
[樹脂B、C]
原料を表1に記載のものに変更した以外は樹脂Aの調製と同様に行った。得られた樹脂B、Cの物性を表1に示す。また、樹脂A~Cの酸価はいずれも0mgKOH/gであった。
【0139】
【表1】
表中ガラス転移温度(Tg)はFoxの式に基づいて算出した値である。なお、樹脂Aについて、窒素気流下、昇温速度:10℃/分にて示差走査熱量測定(DSC)法にて測定したところ、ガラス転移温度は-23℃となった。
【0140】
<熱硬化性コーティング剤の調製>
実施例1
(A)成分として樹脂Aを47.17部、(B)成分としてBYK-SILCLEAN3700(ビックケミー・ジャパン(株)製;アクリルポリマー変性水酸基含有有機変性シリコーン)(固形分濃度25%)を1.03部、(C)成分としてコロネート2793(東ソー(株)製;ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート体)(固形分濃度100%)を6.85部、(E)成分としてジオクチルスズジラウレート(固形分濃度100% 以下、DOTDL)を0.03部、(F)成分としてメチルエチルケトン(以下、MEK)を41.06部、及びアセチルアセトン(以下、AcAc)を3.86部使用した。上記成分をよく混合することによって、固形分濃度26%のコーティング剤を調製した。
【0141】
実施例2~6及び比較例1~9
実施例1以外の実施例及び比較例の熱硬化性コーティング剤は、成分組成を下記表のように変更した以外は、実施例1と同様にして製造した。なお、コーティング剤の固形分濃度はいずれも26%とした。
【0142】
【表2-1】
【表2-2】

デュラネート24A-100:旭化成(株)製、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体(固形分濃度100%)
タケネートD-140N:三井化学(株)製、イソホロンジイソシアネートのアダクト体(固形分濃度75%)
タケネートD-120N:三井化学(株)製、水添キシリレンジイソシアネートのアダクト体(固形分濃度75%)
タケネートD-110N:三井化学(株)製、キシリレンジイソシアネートのアダクト体(固形分濃度75%)
タケネートD-204EA-1:三井化学(株)製、トルエンジイソシアネートのイソシアヌレート体(固形分濃度50%)
コロネートHX:東ソー(株)製、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(固形分濃度100%)
タケネートD-160N:三井化学(株)製、ヘキサメチレンジイソシアネートのアダクト体(固形分濃度75%)
アデカポリエーテルGM-30:(株)ADEKA製、エーテルトリオール、水酸基価535~565mgKOH/g
【0143】
<フィルムの作製>
得られた熱硬化性コーティング剤を、市販のポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名コスモシャインA4100、100μm厚)に、乾燥後の塗膜厚が10μmになるように塗工し、120℃で60秒間乾燥させることによって、熱硬化させた。
【0144】
<硬化物の自己修復性>
フィルム表面を真鍮ブラシで10往復し、傷が消えるまでの時間を計測した。
◎:1秒以内に復元
○:1分以内に復元
△:5分以内に復元
×:5分で復元しない
【0145】
<硬化物の耐摩耗性>
JIS K 7204 プラスチック-摩耗輪による摩耗試験方法に従って行うテーバー摩耗試験前後のヘイズ値を測定し((株)村上色彩技術研究所、HM-150)、試験前後のヘイズ値の差(ΔH)を算出した。テーバー摩耗試験は、テーバー摩耗試験機(テスター産業(株)製、AB-101テーバー式摩耗試験機)を用いて、荷重500g、回転数60rpm条件で、摩耗輪CS-10Fを100回転させた。
【0146】
<硬化物の防汚性>
フィルム表面に油性マーカー(ZEBRA(株)製、商品名マッキー(赤))で印を書き、当該印を乾燥した不織布(旭化成(株)製、商品名ベンコットM-3II)で拭き取ることにより評価した。評価基準は以下のとおりである。
○:拭き取ることが可能
×:ふき取れなかった
【0147】
<硬化物の破断伸度>
JIS K 7204 プラスチック-引張特性の試験方法-の試験条件に従い、硬化物単独の破断伸度の測定を実施した。硬化物の形状は、幅5mm、厚さ10μm、長さ25mmとし、試験速度は200mm/minとした。
破断伸度(%)= 100×(L-25)/25
L:硬化物破断時の硬化物長さ
【0148】
【表3】