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特許7052837車載装置、時刻同期方法および時刻同期プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】車載装置、時刻同期方法および時刻同期プログラム
(51)【国際特許分類】
   G04G 5/00 20130101AFI20220405BHJP
   G04G 21/00 20100101ALI20220405BHJP
【FI】
G04G5/00 J
G04G21/00 K
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020134524
(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公開番号】P2022030461
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2021-12-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000682
【氏名又は名称】特許業務法人ワンディーIPパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】北川 和樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 真
(72)【発明者】
【氏名】陶山 洋次郎
(72)【発明者】
【氏名】岩田 章人
(72)【発明者】
【氏名】山根 遼
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/171669(WO,A1)
【文献】特開2016-017806(JP,A)
【文献】特開2019-212015(JP,A)
【文献】特開2000-242618(JP,A)
【文献】特開2003-344572(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109327899(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104168641(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04G 5/00
G04G 21/00
H04L 12/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載装置であって、
他の車載装置である他装置と自己の前記車載装置である自装置との間のデータの伝搬遅延時間に基づいて、前記他装置との間における時刻同期を行い、
前記伝搬遅延時間の更新イベントの発生を検知する処理部を備え、
前記処理部は、前記更新イベントの発生を検知した場合、前記伝搬遅延時間の更新に用いられる時刻情報を前記他装置に要求し、
前記処理部は、前記更新イベントとして、前記自装置が搭載された車両内の温度が所定条件を満たすことを検知する、車載装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記更新イベントとして、前記自装置を含む車載ネットワークの構成が変更されたことを検知する、請求項1に記載の車載装置
【請求項3】
前記車両内の温度は、前記自装置と前記他装置との間の通信線の温度である、請求項1または請求項2に記載の車載装置。
【請求項4】
車載装置であって、
他の車載装置である他装置と自己の前記車載装置である自装置との間のデータの伝搬遅延時間に基づいて、前記他装置との間における時刻同期を行い、
前記伝搬遅延時間の更新イベントの発生を検知する処理部を備え、
前記処理部は、前記更新イベントの発生を検知した場合、前記伝搬遅延時間の更新に用いられる時刻情報を前記他装置に要求し、
前記車載装置は、さらに、
前記他装置である第1の他装置および第2の他装置間のデータを中継する中継部を備え、
前記第1の他装置は、前記自装置と自己との間のデータの伝搬遅延時間の更新に用いられる第1の時刻情報、を要求するための第1の時刻情報要求を前記自装置へ送信し、
前記中継部は、前記第1の他装置から前記第1の時刻情報要求を受信し、受信した前記第1の時刻情報要求を前記処理部へ出力し、
前記処理部は、前記中継部から前記第1の時刻情報要求を受けると、前記第2の他装置と前記自装置との間のデータの伝搬遅延時間の更新に用いられる第2の時刻情報、を要求するための第2の時刻情報要求を前記中継部へ出力し、
前記中継部は、前記処理部から受けた前記第2の時刻情報要求を前記第2の他装置へ送信する、車載装置。
【請求項5】
車載装置における時刻同期方法であって、
他の車載装置である他装置と自己の前記車載装置である自装置との間のデータの伝搬遅延時間の更新に関する更新イベントの発生を検知するステップと、
前記更新イベントの発生を検知した場合、前記伝搬遅延時間の更新に用いられる時刻情報を前記他装置に要求するステップと、
前記他装置から受信した前記時刻情報に基づいて、前記伝搬遅延時間を更新するステップと、
更新後の前記伝搬遅延時間に基づいて、前記他装置との間における時刻同期を行うステップとを含み、
前記更新イベントの発生を検知するステップにおいては、前記更新イベントとして、前記自装置が搭載された車両内の温度が所定条件を満たすことを検知する、時刻同期方法。
【請求項6】
車載装置における時刻同期方法であって、
他の車載装置である他装置と自己の前記車載装置である自装置との間のデータの伝搬遅延時間の更新に関する更新イベントの発生を検知するステップと、
前記更新イベントの発生を検知した場合、前記伝搬遅延時間の更新に用いられる時刻情報を前記他装置に要求するステップと、
前記他装置から受信した前記時刻情報に基づいて、前記伝搬遅延時間を更新するステップと、
更新後の前記伝搬遅延時間に基づいて、前記他装置との間における時刻同期を行うステップとを含み、
前記自装置は、前記他装置である第1の他装置および第2の他装置間のデータを中継し、
前記自装置と前記第1の他装置との間のデータの伝搬遅延時間の更新に用いられる第1の時刻情報、を要求するための第1の時刻情報要求を前記第1の他装置から受信して、前記第2の他装置と前記自装置との間のデータの伝搬遅延時間の更新に用いられる第2の時刻情報、を要求するための第2の時刻情報要求を前記第2の他装置へ送信するステップを含む、時刻同期方法。
【請求項7】
車載装置において用いられる時刻同期プログラムであって、
コンピュータを、
他の車載装置である他装置と自己の前記車載装置である自装置との間のデータの伝搬遅延時間に基づいて、前記他装置との間における時刻同期を行い、
前記伝搬遅延時間の更新イベントの発生を検知する処理部、
として機能させるためのプログラムであり、
前記処理部は、前記更新イベントの発生を検知した場合、前記伝搬遅延時間の更新に用いられる時刻情報を前記他装置に要求し、

前記処理部は、前記更新イベントとして、前記自装置が搭載された車両内の温度が所定条件を満たすことを検知する、時刻同期プログラム。
【請求項8】
車載装置において用いられる時刻同期プログラムであって、
コンピュータを、
他の車載装置である他装置と自己の前記車載装置である自装置との間のデータの伝搬遅延時間に基づいて、前記他装置との間における時刻同期を行い、
前記伝搬遅延時間の更新イベントの発生を検知する処理部、
として機能させるためのプログラムであり、
前記処理部は、前記更新イベントの発生を検知した場合、前記伝搬遅延時間の更新に用いられる時刻情報を前記他装置に要求し、
前記時刻同期プログラムは、さらに、コンピュータを、
前記他装置である第1の他装置および第2の他装置間のデータを中継する中継部、
として機能させるためのプログラムであり、
前記第1の他装置は、前記自装置と自己との間のデータの伝搬遅延時間の更新に用いられる第1の時刻情報、を要求するための第1の時刻情報要求を前記自装置へ送信し、
前記中継部は、前記第1の他装置から前記第1の時刻情報要求を受信し、受信した前記第1の時刻情報要求を前記処理部へ出力し、
前記処理部は、前記中継部から前記第1の時刻情報要求を受けると、前記第2の他装置と前記自装置との間のデータの伝搬遅延時間の更新に用いられる第2の時刻情報、を要求するための第2の時刻情報要求を前記中継部へ出力し、
前記中継部は、前記処理部から受けた前記第2の時刻情報要求を前記第2の他装置へ送信する、時刻同期プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車載装置、時刻同期方法および時刻同期プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の車載装置を備える車載ネットワークに関する技術が開発されている。たとえば、特開2013-168865号公報(特許文献1)には、以下のような車載ネットワークシステムが開示されている。すなわち、車載ネットワークシステムは、車載ネットワーク上で用いられる通信規約のうち前記車載ネットワーク上における実装に依拠する部分を定義する定義データを格納するメモリを備えた車載制御装置と、前記車載制御装置に対して前記定義データを発行する通信規約発行装置とを備える。前記通信規約発行装置は、前記車載制御装置を前記車載ネットワークに参加させる登録装置から、前記車載制御装置を前記車載ネットワークに参加させるよう要求する登録要求を受け取ると、前記登録装置に対する認証を実施した上で、前記車載ネットワークに上における実装に準拠した前記定義データを作成して前記登録装置に返信する。前記登録装置は、前記通信規約発行装置が送信した前記定義データを受け取り、受け取った前記定義データを前記メモリ上に格納するよう前記車載制御装置に対して要求する。そして、前記車載制御装置は、前記登録装置から定義データを受け取って前記メモリ上に格納し、前記定義データが定義する前記部分にしたがって、前記通信規約に準拠して前記車載ネットワークを用いて通信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-168865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車載ネットワークにおける各車載装置は、たとえば、IEEE 802.1などの規格により規定されるプロトコルに従い、車載装置間におけるデータの伝搬遅延時間を定期的に更新し、更新後の伝搬遅延時間を用いて車載装置間の時刻同期を行う。
【0005】
しかしながら、データの伝搬遅延時間の更新を行う場合、更新処理によって処理負荷が大きくなり、車両の運転制御に関する処理等の他の処理が円滑に行われない可能性がある。
【0006】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、車載装置間におけるデータの伝搬遅延時間を用いて時刻同期を円滑に行うとともに、更新処理の負荷を低減することができる車載装置、時刻同期方法および時刻同期プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の車載装置は、他の車載装置である他装置と自己の前記車載装置である自装置との間のデータの伝搬遅延時間に基づいて、前記他装置との間における時刻同期を行い、前記伝搬遅延時間の更新イベントの発生を検知する処理部を備え、前記処理部は、前記更新イベントの発生を検知した場合、前記伝搬遅延時間の更新に用いられる時刻情報を前記他装置に要求する。
【0008】
本開示の時刻同期方法は、他の車載装置である他装置と自己の前記車載装置である自装置との間のデータの伝搬遅延時間の更新に関する更新イベントの発生を検知するステップと、前記更新イベントの発生を検知した場合、前記伝搬遅延時間の更新に用いられる時刻情報を前記他装置に要求するステップと、前記他装置から受信した前記時刻情報に基づいて、前記伝搬遅延時間を更新するステップと、更新後の前記伝搬遅延時間に基づいて、前記他装置との間における時刻同期を行うステップとを含む。
【0009】
本開示の時刻同期プログラムは、車載装置において用いられる時刻同期プログラムであって、コンピュータを、他の車載装置である他装置と自己の前記車載装置である自装置との間のデータの伝搬遅延時間に基づいて、前記他装置との間における時刻同期を行い、前記伝搬遅延時間の更新イベントの発生を検知する処理部、として機能させるためのプログラムであり、前記処理部は、前記更新イベントの発生を検知した場合、前記伝搬遅延時間の更新に用いられる時刻情報を前記他装置に要求する。
【0010】
本開示は、車載装置の一部または全部を実現する半導体集積回路として実現され得たり、車載装置を含む車載ネットワークシステムとして実現され得る。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、車載装置間におけるデータの伝搬遅延時間を用いて時刻同期を円滑に行うとともに、更新処理の負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本開示の実施の形態に係る車載ネットワークシステムの構成を示す図である。
図2図2は、本開示の実施の形態に係るスイッチ装置の構成を示す図である。
図3図3は、本開示の実施の形態に係るスイッチ装置による伝搬遅延時間の更新方法を説明するための図である。
図4図4は、本開示の実施の形態に係るスレーブ側の機能部の構成を示す図である。
図5図5は、本開示の実施の形態に係る機能部による伝搬遅延時間の更新方法を説明するための図である。
図6図6は、本開示の実施の形態に係る車載ネットワークシステムの構成が変更された状態を示す図である。
図7図7は、本開示の実施の形態に係る車載ネットワークシステムが温度センサを備える構成を示す図である。
図8図8は、本開示の実施の形態に係る車載ネットワークシステムにおける複数の車載装置による、伝搬遅延時間の更新および時刻の補正のシーケンス(例1)を示す図である。
図9図9は、本開示の実施の形態に係る車載ネットワークシステムにおける複数の車載装置による、伝搬遅延時間の更新および時刻の補正のシーケンス(例2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本開示の実施の形態に係る車載装置は、他の車載装置である他装置と自己の前記車載装置である自装置との間のデータの伝搬遅延時間に基づいて、前記他装置との間における時刻同期を行い、前記伝搬遅延時間の更新イベントの発生を検知する処理部を備え、前記処理部は、前記更新イベントの発生を検知した場合、前記伝搬遅延時間の更新に用いられる時刻情報を前記他装置に要求する。
【0014】
このように、更新イベントの発生を検知した場合に、時刻情報を要求して当該時刻情報を用いた伝搬遅延時間の更新処理を行う構成により、更新処理を定期的に行う場合と比較して、更新処理の頻度を低く抑えることができる。したがって、車載装置間におけるデータの伝搬遅延時間を用いて時刻同期を円滑に行うとともに、更新処理の負荷を低減することができる。
【0015】
(2)好ましくは、前記処理部は、前記更新イベントとして、前記自装置が搭載された車両のイグニッションスイッチがオンに切り替わったことを検知する。
【0016】
車両のイグニッションスイッチがオンに切り替わった場合、当該車両における車載装置が起動して、車載装置間におけるデータの伝搬遅延時間が変化する可能性がある。これに着目した、伝搬遅延時間が変化する可能性があるイベントを検知可能な構成により、伝搬遅延時間の更新処理をより適切なタイミングで行うことができる。
【0017】
(3)好ましくは、前記処理部は、前記更新イベントとして、前記自装置を含む車載ネットワークの構成が変更されたことを検知する。
【0018】
たとえば、車載ネットワークに新たな車載装置が追加されることにより、車載装置間におけるデータの伝搬遅延時間が変化する可能性がある。これに着目した、伝搬遅延時間が変化する可能性があるイベントを検知可能な構成により、伝搬遅延時間の更新処理をより適切なタイミングで行うことができる。
【0019】
(4)好ましくは、前記処理部は、前記更新イベントとして、前記自装置が搭載された車両内の温度が所定条件を満たすことを検知する。
【0020】
車両内の温度の変化に伴い、車載装置間におけるデータの伝搬遅延時間が変化する可能性がある。これに着目した、伝搬遅延時間が変化する可能性があるイベントを検知可能な構成により、伝搬遅延時間の更新処理をより適切なタイミングで行うことができる。
【0021】
(5)より好ましくは、前記車両内の温度は、前記自装置と前記他装置との間の通信線の温度である。
【0022】
このような構成により、データの伝搬遅延時間が変化する可能性があるイベントとして、より適切なイベントを検知することができる。
【0023】
(6)好ましくは、前記車載装置は、さらに、前記他装置である第1の他装置および第2の他装置間のデータを中継するスイッチ部を備え、前記第1の他装置は、前記車載装置と自己との間のデータの伝搬遅延時間の更新に用いられる第1の時刻情報、を要求するための第1の時刻情報要求を前記車載装置へ送信し、前記スイッチ部は、前記第1の他装置から前記第1の時刻情報要求を受信し、受信した前記第1の時刻情報要求を前記処理部へ出力し、前記処理部は、前記スイッチ部から前記第1の時刻情報要求を受けると、前記第2の他装置と前記自装置との間のデータの伝搬遅延時間の更新に用いられる第2の時刻情報、を要求するための第2の時刻情報要求を前記スイッチ部へ出力し、前記スイッチ部は、前記処理部から受けた前記第2の時刻情報要求を前記第2の他装置へ送信する。
【0024】
このように、第1の他の車載装置からの時刻情報の要求を受信した場合に、第2の他の車載装置への時刻情報の要求を行う構成により、スイッチ部を備える車載装置により検知されない更新イベントが発生した場合であっても、当該車載装置において伝搬遅延時間の更新処理を行うことができる。
【0025】
(7)本開示の実施の形態に係る時刻同期方法は、車載装置における時刻同期方法であって、他の車載装置である他装置と自己の前記車載装置である自装置との間のデータの伝搬遅延時間の更新に関する更新イベントの発生を検知するステップと、前記更新イベントの発生を検知した場合、前記伝搬遅延時間の更新に用いられる時刻情報を前記他装置に要求するステップと、前記他装置から受信した前記時刻情報に基づいて、前記伝搬遅延時間を更新するステップと、更新後の前記伝搬遅延時間に基づいて、前記他装置との間における時刻同期を行うステップとを含む。
【0026】
このように、更新イベントの発生を検知した場合に、時刻情報を要求して当該時刻情報を用いた伝搬遅延時間の更新処理を行う方法により、更新処理を定期的に行う場合と比較して、更新処理の頻度を低く抑えることができる。したがって、車載装置間におけるデータの伝搬遅延時間を用いて時刻同期を円滑に行うとともに、更新処理の負荷を低減することができる。
【0027】
(8)本開示の実施の形態に係る時刻同期プログラムは、車載装置において用いられる時刻同期プログラムであって、コンピュータを、他の車載装置である他装置と自己の前記車載装置である自装置との間のデータの伝搬遅延時間に基づいて、前記他装置との間における時刻同期を行い、前記伝搬遅延時間の更新イベントの発生を検知する処理部、として機能させるためのプログラムであり、前記処理部は、前記更新イベントの発生を検知した場合、前記伝搬遅延時間の更新に用いられる時刻情報を前記他装置に要求する。
【0028】
このように、更新イベントの発生を検知した場合に、時刻情報を要求して当該時刻情報を用いた伝搬遅延時間の更新処理を行う構成により、更新処理を定期的に行う場合と比較して、更新処理の頻度を低く抑えることができる。したがって、車載装置間におけるデータの伝搬遅延時間を用いて時刻同期を円滑に行うとともに、更新処理の負荷を低減することができる。
【0029】
以下、本開示の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。また、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0030】
<構成および基本動作>
[全体構成]
図1は、本開示の実施の形態に係る車載ネットワークシステムの構成を示す図である。図1を参照して、車載ネットワークシステム301は、車両1に搭載され、スイッチ装置101と、複数の機能部111とを備える。図1では、一例として、機能部111である2つの機能部111A,111Bを示している。スイッチ装置101および各機能部111は、車載装置であり、たとえばECU(Electronic Control Unit)である。
【0031】
スイッチ装置101は、たとえばイーサネット(登録商標)ケーブル10により複数の機能部111と接続されており、自己に接続された複数の機能部111と通信を行うことが可能である。
【0032】
具体的には、スイッチ装置101は、機能部111からのデータを他の機能部111へ中継する中継処理を行う。スイッチ装置101および機能部111間では、たとえば、IPパケットが格納されたイーサネットフレームを用いて情報のやり取りが行われる。
【0033】
機能部111は、車外通信ECU、センサ、カメラ、ナビゲーション装置、自動運転処理ECU、エンジン制御デバイス、AT(Automatic Transmission)制御デバイス、HEV(Hybrid Electric Vehicle)制御デバイス、ブレーキ制御デバイス、シャーシ制御デバイス、ステアリング制御デバイスおよび計器表示制御デバイス等である。
【0034】
[スイッチ装置]
図2は、本開示の実施の形態に係るスイッチ装置の構成を示す図である。図2を参照して、スイッチ装置101は、処理部50と、中継部51と、記憶部53と、複数の通信ポート54とを備える。中継部51は、スイッチ部61と、制御部62とを含む。処理部50は、検知部52と、時刻同期処理部55とを含む。処理部50および中継部51は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)およびDSP(Digital Signal Processor)等のプロセッサにより実現される。
【0035】
(中継処理)
通信ポート54は、たとえばイーサネットケーブル10を接続可能な端子である。なお、通信ポート54は、集積回路の端子であってもよい。複数の通信ポート54の各々は、イーサネットケーブル10を介して複数の機能部111のうちのいずれか1つに接続されている。この例では、通信ポート54Aが機能部111Aに接続され、通信ポート54Bが機能部111Bに接続されている。
【0036】
記憶部53は、たとえば不揮発性メモリである。記憶部53には、通信ポート54のポート番号と接続先装置のMAC(Media Access Control)アドレスとの対応関係を示すアドレステーブルTa1が保存されている。
【0037】
スイッチ部61は、他の車載装置間のデータを中継する。すなわち、スイッチ部61は、機能部111から送信されたイーサネットフレームを、当該機能部111に対応する通信ポート54経由で受信すると、受信したイーサネットフレームに対して中継処理を行う。
【0038】
より詳細には、スイッチ部61は、記憶部53に保存されているアドレステーブルTa1を参照し、受信したイーサネットフレームに含まれる送信先MACアドレスに対応するポート番号を特定する。そして、スイッチ部61は、受信したイーサネットフレームを、特定したポート番号の通信ポート54から送信する。
【0039】
(マスター側の機能部およびスイッチ装置間のデータの伝搬遅延時間の更新)
スイッチ装置101は、マスター側の機能部111と、自己のスイッチ装置101との間のデータの伝搬遅延時間Td1を更新する。ここでは、機能部111Aがマスター側の機能部111であり、機能部111Bがスレーブ側の機能部111であるとする。機能部111Aは、車載ネットワークシステム301における基準時刻を保持している。
【0040】
図3は、本開示の実施の形態に係るスイッチ装置による伝搬遅延時間の更新方法を説明するための図である。
【0041】
より詳細には、図2および図3を参照して、検知部52は、伝搬遅延時間Td1の更新イベントの発生を検知する。たとえば、検知部52は、更新イベントとして、車載ネットワークシステム301が起動したこと、すなわち車両1のイグニッションスイッチがオンに切り替わったことを検知する。そして、検知部52は、更新イベントの発生を検知した旨を時刻同期処理部55に通知する。
【0042】
時刻同期処理部55は、更新イベントの発生の通知を検知部52から受けると、機能部111Aおよびスイッチ装置101間のデータの伝搬遅延時間Td1の更新を行う。より詳細には、時刻同期処理部55は、伝搬遅延時間Td1の更新に用いられる時刻情報を要求するための時刻情報要求(Pdelay_Req)を、中継部51および通信ポート54A経由で機能部111Aへ送信する。以下、時刻情報要求を、「要求メッセージ」とも称する。
【0043】
機能部111Aは、スイッチ装置101から送信された要求メッセージを受信すると、当該要求メッセージに対する時刻情報(Pdelay_Resp)を、スイッチ装置101へ送信する。このとき、機能部111Aは、時刻情報に、要求メッセージの受信時刻t2を含めて送信する。以下、時刻情報を、「応答メッセージ」とも称する。
【0044】
また、機能部111Aは、応答メッセージの送信後、当該応答メッセージの送信時刻t3を含めたフォローアップメッセージ(Pdelay_Resp_Follow_Up)をスイッチ装置101へ送信する。
【0045】
スイッチ装置101における制御部62は、機能部111Aから送信された応答メッセージおよびフォローアップメッセージを通信ポート54A経由で受信する。そして、制御部62は、当該応答メッセージに含まれる時刻t2、および当該フォローアップメッセージに含まれる時刻t3を時刻同期処理部55に通知する。また、制御部62は、要求メッセージの送信時刻t1および応答メッセージの受信時刻t4を、時刻同期処理部55に通知する。
【0046】
時刻同期処理部55は、制御部62から通知された時刻t1,t2,t3,t4に基づいて、機能部111Aおよびスイッチ装置101間のデータの伝搬遅延時間Td1を算出する。具体的には、時刻同期処理部55は、伝搬遅延時間Td1=((t4-t1)-(t3-t2))/2を算出する。そして、時刻同期処理部55は記憶部53に保存されている伝搬遅延時間Td1を、新たに算出した伝搬遅延時間Td1に更新する。
【0047】
(スイッチ装置における時刻の補正)
マスター側の機能部111Aは、定期的または不定期に、スイッチ装置101へSyncメッセージを送信する。また、機能部111Aは、Syncメッセージの送信後、当該Syncメッセージの送信時刻tmを含めたフォローアップメッセージ(Follow_Up)を、スイッチ装置101へ送信する。
【0048】
スイッチ装置101における制御部62は、機能部111Aから送信されたSyncメッセージおよびフォローアップメッセージを通信ポート54A経由で受信する。そして、制御部62は、フォローアップメッセージに含まれる時刻tm、およびSyncメッセージの受信時刻txを時刻同期処理部55に通知する。
【0049】
時刻同期処理部55は、制御部62から通知された時刻tm,tx、および記憶部53に保存されている伝搬遅延時間Td1に基づいて、機能部111Aとの間における時刻同期を行う。より詳細には、時刻同期処理部55は、時刻tm,txおよび伝搬遅延時間Td1に基づいて、機能部111Aの時刻とスイッチ装置101の時刻との差である時刻差Tx1=tm-Td1-txを算出する。
【0050】
そして、時刻同期処理部55は、算出した時刻差Tx1を用いて、自己のスイッチ装置101における時刻を補正する。これにより、機能部111Aとスイッチ装置101との時刻同期が確立する。
【0051】
[スレーブ側の機能部]
図4は、本開示の実施の形態に係るスレーブ側の機能部の構成を示す図である。図4を参照して、スレーブ側の機能部111Bは、処理部80と、通信部81と、通信ポート84と、記憶部85とを備える。処理部80は、検知部82と、時刻同期処理部83とを含む。処理部80および通信部81は、たとえば、CPUおよびDSP等のプロセッサにより実現される。記憶部85は、たとえば不揮発性メモリである。
【0052】
通信ポート84は、たとえばイーサネットケーブル10を接続可能な端子である。なお、通信ポート84は、集積回路の端子等であってもよい。通信ポート84は、イーサネットケーブル10を介してスイッチ装置101に接続されている。
【0053】
(スイッチ装置およびスレーブ側の機能部間のデータの伝搬遅延時間の更新)
機能部111Bは、スイッチ装置101と自己との間のデータの伝搬遅延時間Td2を更新する。
【0054】
図5は、本開示の実施の形態に係る機能部による伝搬遅延時間の更新方法を説明するための図である。
【0055】
より詳細には、図4および図5を参照して、検知部82は、図2に示すスイッチ装置101における検知部52と同様に、伝搬遅延時間Td2の更新イベントの発生を検知し、更新イベントの発生を時刻同期処理部83に通知する。
【0056】
時刻同期処理部83は、図2に示すスイッチ装置101における時刻同期処理部55と同様に、更新イベントの発生の通知を検知部82から受けると、スイッチ装置101および自己の機能部111B間のデータの伝搬遅延時間Td2の更新を行う。より詳細には、時刻同期処理部83は、伝搬遅延時間Td2の更新に用いられる時刻情報を要求するための要求メッセージを、通信部81および通信ポート84経由でスイッチ装置101へ送信する。
【0057】
スイッチ装置101における制御部62は、機能部111Bから送信された要求メッセージを通信ポート54B経由で受信すると、当該要求メッセージを時刻同期処理部55へ出力する。
【0058】
時刻同期処理部55は、制御部62から要求メッセージを受けると、当該要求メッセージに対する応答メッセージを、中継部51および通信ポート54B経由で機能部111Bへ送信する。このとき、時刻同期処理部55は、応答メッセージに、要求メッセージの受信時刻t12を含めて送信する。
【0059】
また、時刻同期処理部55は、応答メッセージの送信後、当該応答メッセージの送信時刻t13を含めたフォローアップメッセージを、中継部51および通信ポート54B経由で機能部111Bへ送信する。
【0060】
機能部111Bにおける通信部81は、スイッチ装置101から送信された応答メッセージおよびフォローアップメッセージを通信ポート84経由で受信する。そして、通信部81は、当該応答メッセージに含まれる時刻t12、および当該フォローアップメッセージに含まれる時刻t13を時刻同期処理部83に通知する。また、通信部81は、要求メッセージの送信時刻t11および応答メッセージの受信時刻t14を時刻同期処理部83に通知する。
【0061】
時刻同期処理部83は、通信部81から通知された時刻t11,t12,t13,t14に基づいて、スイッチ装置101および機能部111B間のデータの伝搬遅延時間Td2を算出する。具体的には、時刻同期処理部83は、伝搬遅延時間Td2=((t14-t11)-(t13-t12))/2を算出する。そして、時刻同期処理部83は、記憶部85に保存されている伝搬遅延時間Td2を、新たに算出した伝搬遅延時間Td2に更新する。
【0062】
(スレーブ側の機能部における時刻の補正)
スイッチ装置101における時刻同期処理部55は、定期的または不定期に、Syncメッセージをスレーブ側の機能部111Bへ送信する。また、時刻同期処理部55は、Syncメッセージの送信後、当該Syncメッセージの送信時刻tyを含めたフォローアップメッセージを、機能部111Bへ送信する。
【0063】
機能部111Bにおける通信部81は、スイッチ装置101から送信されたSyncメッセージおよびフォローアップメッセージを通信ポート84経由で受信する。そして、通信部81は、当該フォローアップメッセージに含まれる時刻ty、およびSyncメッセージの受信時刻tsを時刻同期処理部83に通知する。
【0064】
時刻同期処理部83は、通信部81から通知された時刻ty,ts、および記憶部85に保存されている伝搬遅延時間Td2に基づいて、スイッチ装置101との間における時刻同期を行う。より詳細には、時刻同期処理部83は、スイッチ装置101の時刻と機能部111Bの時刻との差である時刻差Tx2=ty-Td2-tsを算出する。そして、時刻同期処理部83は、算出した時刻差Tx2を用いて、自己の機能部111Bにおける時刻を補正する。
【0065】
ここで、マスター側の機能部111Aとスイッチ装置101との時刻同期が確立されている場合、スイッチ装置101から機能部111Bへ送信されるフォローアップメッセージに含まれる時刻tyは、機能部111Aに同期した時刻である。このため、機能部111Bにおける時刻同期処理部83が時刻補正を行うことにより、機能部111Bとスイッチ装置101との時刻同期が確立し、その結果、機能部111Bと機能部111Aとの時刻同期が確立する。
【0066】
[スイッチ装置の変形例]
スイッチ装置101における時刻同期処理部55は、検知部52により更新イベントの発生の通知を受けた場合だけでなく、さらに、機能部111Bからの要求メッセージを受信した場合、機能部111Aへの要求メッセージの送信を行う構成であってもよい。
【0067】
すなわち、時刻同期処理部55は、伝搬遅延時間Td2の更新に用いられる時刻情報を要求するための要求メッセージを機能部111Bから受信した場合、応答メッセージおよびフォローアップメッセージを機能部111Bへ送信し、さらに、伝搬遅延時間Td1の更新に用いられる時刻情報を要求するための要求メッセージを機能部111Aへ送信する。
【0068】
[更新イベントの他の具体例]
スイッチ装置101の検知部52、および機能部111Bの検知部82の各々は、車両1のイグニッションスイッチがオンに切り替わったことを更新イベントとして検知する構成に限らず、伝搬遅延時間が変化する可能性のある他のイベントを更新イベントとして検知してもよい。
【0069】
(具体例1)
スイッチ装置101の検知部52、および機能部111Bの検知部82の各々は、更新イベントとして、自己の車載装置を含む車載ネットワークシステム301の構成が変更されたことを検知してもよい。
【0070】
図6は、本開示の実施の形態に係る車載ネットワークシステムの構成が変更された状態を示す図である。図6を参照して、ここでは、マスター側の機能部111A、スイッチ装置101であるスイッチ装置101A、およびスレーブ側の機能部111Bを備える車載ネットワークシステム301に、さらに、スイッチ装置101であるスイッチ装置101B、およびスレーブ側の機能部111Cが追加されたとする。
【0071】
たとえば、スイッチ装置101Bは、イーサネットケーブル10を介してスイッチ装置101Aに接続され、機能部111Cは、イーサネットケーブル10を介してスイッチ装置101Bに接続される。スイッチ装置101A,101Bの構成は、図2に示すスイッチ装置101の構成と同様である。また、機能部111Cの構成は、図4に示す機能部111Bの構成と同様である。
【0072】
機能部111Cにおける検知部82は、たとえば、自己の機能部111Cの電源がオンに切り替わったことを検知することにより、自己の機能部111Cが車載ネットワークシステム301に追加されたことを更新イベントとして検知する。そして、検知部82は、更新イベントの発生を時刻同期処理部83に通知する。
【0073】
機能部111Cにおける時刻同期処理部83は、更新イベントの発生の通知を検知部82から受けると、上述した機能部111Bにおける時刻同期処理部83と同様の動作を行う。すなわち、機能部111Cにおける時刻同期処理部83は、スイッチ装置101Bおよび機能部111C間のデータの伝搬遅延時間Td3の更新に用いられる時刻情報を要求するための要求メッセージを、通信部81経由でスイッチ装置101Bへ送信する。
【0074】
そして、時刻同期処理部83は、スイッチ装置101Bからの応答メッセージおよびフォローアップメッセージを受信し、当該応答メッセージおよび当該フォローアップメッセージに基づいて、伝搬遅延時間Td3の更新および自己の機能部111Cの時刻の補正を行う。
【0075】
また、スイッチ装置101Bにおける検知部52は、たとえば、自己のスイッチ装置101Bの電源がオンに切り替わったことを検知することにより、自己のスイッチ装置101Bが車載ネットワークシステム301に追加されたことを更新イベントとして検知する。そして、検知部52は、更新イベントの発生を時刻同期処理部55に通知する。
【0076】
スイッチ装置101Bにおける時刻同期処理部55は、更新イベントの発生の通知を検知部52から受けると、スイッチ装置101Aおよびスイッチ装置101B間のデータの伝搬遅延時間Td4の更新に用いられる時刻情報を要求するための要求メッセージを、中継部51経由でスイッチ装置101Aへ送信する。
【0077】
そして、時刻同期処理部55は、スイッチ装置101Aからの応答メッセージおよびフォローアップメッセージを受信し、当該応答メッセージおよび当該フォローアップメッセージに基づいて、伝搬遅延時間Td4の更新および自己のスイッチ装置101Bの時刻の補正を行う。
【0078】
なお、車載ネットワークシステム301の構成の変更とは、車載ネットワークシステム301に対してスイッチ装置101または機能部111である車載装置が物理的に追加された場合だけでなく、車載ネットワークシステム301に既に含まれている車載装置の電源がオフからオンに切り替えられた場合を含む。
【0079】
また、スイッチ装置101Bは、更新イベントの発生を検知した場合だけでなく、さらに、機能部111Cからの要求メッセージを受信した場合、スイッチ装置101Aへの要求メッセージの送信を行う構成であってもよい。
【0080】
(具体例2)
車載ネットワークシステム301は、温度センサを備える構成であってもよい。この場合、スイッチ装置101の検知部52、および機能部111Bの検知部82の各々は、更新イベントとして、車両1内の温度が所定条件を満たすことを検知してもよい。
【0081】
図7は、本開示の実施の形態に係る車載ネットワークシステムが温度センサを備える構成を示す図である。図7を参照して、ここでは、車載ネットワークシステム301は、2つの温度センサ151A,151Bを備えるとする。温度センサ151Aは、たとえば、スイッチ装置101の温度を計測し、計測結果を示す計測信号をスイッチ装置101における検知部52へ出力する。温度センサ151Bは、機能部111Bの温度を計測し、計測結果を示す計測信号を機能部111Bにおける検知部82へ出力する。なお、温度センサ151A,151Bの各々は、車両1内の温度として、たとえば、スイッチ装置101および機能部111B間の通信線の温度を計測してもよい。
【0082】
スイッチ装置101における検知部52は、温度センサ151Aから受けた計測信号に基づいて、車両1内の温度が所定条件を満たすか否かを判断する。たとえば、検知部52は、スイッチ装置101の温度が所定の閾値以上である場合、車両1内の温度が所定条件を満たすと判断し、更新イベントの発生を時刻同期処理部55に通知する。
【0083】
時刻同期処理部55は、更新イベントの発生の通知を検知部52から受けると、マスター側の機能部111Aへの要求メッセージの送信を行う。そして、時刻同期処理部55は、機能部111Aからの応答メッセージおよびフォローアップメッセージを受信し、当該応答メッセージおよび当該フォローアップメッセージに基づいて、自己のスイッチ装置101の時刻の補正を行う。
【0084】
また、機能部111Bにおける検知部82は、温度センサ151Bから受けた計測信号に基づいて、車両1内の温度が所定条件を満たすか否かを判断する。たとえば、検知部82は、自己の機能部111Bの温度が所定の閾値以上である場合、車両1内の温度が所定条件を満たすと判断し、更新イベントの発生を時刻同期処理部83に通知する。
【0085】
時刻同期処理部83は、更新イベントの発生の通知を検知部82から受けると、スイッチ装置101への要求メッセージの送信を行う。そして、時刻同期処理部83は、スイッチ装置101からの応答メッセージおよびフォローアップメッセージを受信し、当該応答メッセージおよび当該フォローアップメッセージに基づいて、自己の機能部111Bの時刻の補正を行う。
【0086】
なお、温度センサ151Aは、スイッチ装置101に内蔵されてもよい。また、温度センサ151Bは、機能部111Bに内蔵されてもよい。
【0087】
<動作の流れ>
次に、車載ネットワークシステム301において、マスター側の機能部111A、スイッチ装置101、およびスレーブ側の機能部111Bが、伝搬遅延時間の更新および時刻の補正を行う際の動作手順について図面を用いて説明する。
【0088】
車載ネットワークシステム301における各装置は、メモリを含むコンピュータを備え、当該コンピュータにおけるCPU等の演算処理部は、以下のシーケンスの各ステップの一部または全部を含むプログラムを当該メモリから読み出して実行する。これら複数の装置のプログラムは、それぞれ、外部からインストールすることができる。これら複数の装置のプログラムは、それぞれ、記録媒体に格納された状態で流通する。
【0089】
(例1)
図8は、本開示の実施の形態に係る車載ネットワークシステムにおける複数の車載装置による、伝搬遅延時間の更新および時刻の補正のシーケンス(例1)を示す図である。ここでは、スイッチ装置101が、更新イベントの発生を検知して、要求メッセージを機能部111Aへ送信する場合について説明する。
【0090】
図8を参照して、まず、車両1のイグニッションスイッチがオンに切り替わることにより、車載ネットワークシステム301が起動したとする(ステップS101)。
【0091】
次に、スイッチ装置101における検知部52は、更新イベントとして、車両1のイグニッションスイッチがオンに切り替わったことを検知し、更新イベントの発生を時刻同期処理部55に通知する(ステップS102)。
【0092】
また、機能部111Bにおける検知部82は、更新イベントとして、車両1のイグニッションスイッチがオンに切り替わったことを検知し、更新イベントの発生を時刻同期処理部83に通知する(ステップS103)。
【0093】
次に、スイッチ装置101における時刻同期処理部55は、更新イベントの発生の通知を検知部52から受けると、時刻情報を要求するための要求メッセージを、中継部51および通信ポート54A経由で機能部111Aへ送信する(ステップS104)。
【0094】
次に、機能部111Aは、スイッチ装置101から送信された要求メッセージに対する応答メッセージを、スイッチ装置101へ送信する。このとき、機能部111Aは、応答メッセージに、要求メッセージの受信時刻t2を含めて送信する(ステップS105)。
【0095】
次に、機能部111Aは、応答メッセージの送信後、当該応答メッセージの送信時刻t3を含めたフォローアップメッセージを、スイッチ装置101へ送信する(ステップS106)。
【0096】
次に、スイッチ装置101における制御部62は、機能部111Aから送信された応答メッセージおよびフォローアップメッセージを受信し、当該応答メッセージに含まれる時刻t2、および当該フォローアップメッセージに含まれる時刻t3を時刻同期処理部55に通知する。また、制御部62は、要求メッセージの送信時刻t1および応答メッセージの受信時刻t4を、時刻同期処理部55に通知する(ステップS107)。
【0097】
時刻同期処理部55は、制御部62から通知された、時刻t1,t2,t3,t4に基づいて、機能部111Aおよびスイッチ装置101間のデータの伝搬遅延時間Td1を更新する(ステップS108)。
【0098】
次に、機能部111Bにおける時刻同期処理部83は、更新イベントの発生の通知を検知部82から受けると、時刻情報を要求するための要求メッセージを、通信部81および通信ポート84経由でスイッチ装置101へ送信する(ステップS109)。
【0099】
次に、スイッチ装置101における時刻同期処理部55は、機能部111Bから送信された要求メッセージを通信ポート54Bおよび制御部62経由で受信すると、当該要求メッセージに対する応答メッセージを、中継部51および通信ポート54B経由で機能部111Bへ送信する。このとき、時刻同期処理部55は、応答メッセージに、要求メッセージの受信時刻t12を含めて送信する(ステップS110)。
【0100】
次に、時刻同期処理部55は、応答メッセージの送信後、応答メッセージの送信時刻t13を含めたフォローアップメッセージを、中継部51経由で機能部111Bへ送信する(ステップS111)。
【0101】
次に、機能部111Bにおける通信部81は、スイッチ装置101から送信された応答メッセージおよびフォローアップメッセージを通信ポート84経由で受信し、当該応答メッセージに含まれる時刻t12、および当該フォローアップメッセージに含まれる時刻t13を時刻同期処理部83に通知する。また、通信部81は、要求メッセージの送信時刻t11および応答メッセージの受信時刻t14を、時刻同期処理部83に通知する(ステップS112)。
【0102】
時刻同期処理部83は、通信部81から通知された、時刻t11,t12,t13,t14に基づいて、スイッチ装置101および機能部111B間のデータの伝搬遅延時間Td2を更新する(ステップS113)。
【0103】
次に、機能部111Aは、スイッチ装置101へSyncメッセージを送信する(ステップS114)。
【0104】
次に、機能部111Aは、Syncメッセージの送信時刻tmを含めたフォローアップメッセージをスイッチ装置101へ送信する(ステップS115)。
【0105】
次に、スイッチ装置101における制御部62は、機能部111Aから送信されたSyncメッセージおよびフォローアップメッセージを通信ポート54A経由で受信し、当該フォローアップメッセージに含まれる時刻tm、およびSyncメッセージの受信時刻txを時刻同期処理部55に通知する(ステップS116)。
【0106】
次に、時刻同期処理部55は、制御部62から通知された時刻tm,tx、および記憶部53に保存されている伝搬遅延時間Td1に基づいて、機能部111Aの時刻とスイッチ装置101の時刻との時刻差Tx1=tm-Td1-txを算出する。
【0107】
そして、時刻同期処理部55は、算出した時刻差Tx1を用いて、自己のスイッチ装置101における時刻を補正する。これにより、機能部111Aとスイッチ装置101との時刻同期が確立する(ステップS117)。
【0108】
次に、スイッチ装置101における時刻同期処理部55は、Syncメッセージを、通信ポート54B経由で機能部111Bへ送信する(ステップS118)。
【0109】
次に、時刻同期処理部55は、Syncメッセージの送信時刻tyを含めたフォローアップメッセージを、通信ポート54B経由で機能部111Bへ送信する(ステップS119)。
【0110】
次に、機能部111Bにおける通信部81は、スイッチ装置101から送信されたSyncメッセージおよびフォローアップメッセージを通信ポート84経由で受信し、当該フォローアップメッセージに含まれる時刻ty、およびSyncメッセージの受信時刻tsを時刻同期処理部83に通知する(ステップS120)。
【0111】
次に、時刻同期処理部83は、通信部81から通知された時刻ty,ts、および記憶部85に保存されている伝搬遅延時間Td2に基づいて、スイッチ装置101の時刻と機能部111Bの時刻との時刻差Tx2=ty-Td2-tsを算出する。
【0112】
そして、時刻同期処理部83は、算出した時刻差Tx2を用いて、自己の機能部111Bにおける時刻を補正する。これにより、機能部111Bとスイッチ装置101との時刻同期が確立し、その結果、機能部111Bと機能部111Aとの時刻同期が確立する(ステップS121)。
【0113】
なお、ステップS104~S108の動作は、ステップS109~S113の動作の後に行われてもよい。また、ステップS104~S108の動作と、ステップS109~S113の動作とが並行して行われてもよい。
【0114】
また、ステップS114~S117の動作は、ステップS118~S121の動作の後に行われてもよい。また、ステップS114~S117の動作と、ステップS118~S121の動作とが並行して行われてもよい。
【0115】
(例2)
図9は、本開示の実施の形態に係る車載ネットワークシステムにおける複数の車載装置による、伝搬遅延時間の更新および時刻の補正のシーケンス(例2)を示す図である。
【0116】
ここでは、スイッチ装置101が、機能部111Bから送信された要求メッセージを受信したことにより、機能部111Aへの要求メッセージの送信を行う場合について説明する。図9を参照して、まず、機能部111Bの電源がオンに切り替わることにより、車載ネットワークシステム301の構成が変更されたとする(ステップS201)。
【0117】
次に、機能部111Bにおける検知部82は、自己の機能部111Bの電源がオンに切り替わったことを検知し、更新イベントの発生を時刻同期処理部83に通知する(ステップS202)。
【0118】
次に、時刻同期処理部83は、更新イベントの発生の通知を検知部82から受けると、時刻情報を要求するための要求メッセージを、通信部81および通信ポート84経由でスイッチ装置101へ送信する(ステップS203)。
【0119】
次に、スイッチ装置101における時刻同期処理部55は、機能部111Bから送信された要求メッセージを通信ポート54Bおよび制御部62経由で受信すると、当該要求メッセージに対する時刻情報である応答メッセージを、中継部51および通信ポート54B経由で機能部111Bへ送信する。このとき、時刻同期処理部55は、応答メッセージに、要求メッセージの受信時刻t22を含めて送信する(ステップS204)。
【0120】
次に、時刻同期処理部55は、応答メッセージの送信後、当該応答メッセージの送信時刻t23を含めたフォローアップメッセージを、中継部51および通信ポート54B経由で機能部111Bへ送信する(ステップS205)。
【0121】
次に、機能部111Bにおける通信部81は、スイッチ装置101から送信された応答メッセージおよびフォローアップメッセージを受信し、当該応答メッセージに含まれる時刻t22、および当該フォローアップメッセージに含まれる時刻t23を時刻同期処理部83に通知する。また、通信部81は、要求メッセージの送信時刻t21および応答メッセージの受信時刻t24を時刻同期処理部83に通知する(ステップS206)。
【0122】
次に、時刻同期処理部83は、通信部81から通知された、時刻t21,t22,t23,t24に基づいて、スイッチ装置101および機能部111B間のデータの伝搬遅延時間Td2を更新する(ステップS207)。
【0123】
次に、スイッチ装置101における時刻同期処理部55は、機能部111Bから送信された要求メッセージを通信ポート54Bおよび中継部51経由で受信すると、時刻情報を要求するための要求メッセージを、中継部51および通信ポート54B経由で機能部111Aへ送信する(ステップS208)。
【0124】
次に、機能部111Aは、スイッチ装置101から送信された要求メッセージに対する時刻情報である応答メッセージを、スイッチ装置101へ送信する。このとき、機能部111Aは、応答メッセージに、要求メッセージの受信時刻t32を含めて送信する(ステップS209)。
【0125】
次に、機能部111Aは、応答メッセージの送信後、当該応答メッセージの送信時刻t33を含めたフォローアップメッセージをスイッチ装置101へ送信する(ステップS210)。
【0126】
次に、スイッチ装置101における制御部62は、機能部111Aから送信された応答メッセージおよびフォローアップメッセージを受信し、当該応答メッセージに含まれる時刻t32、および当該フォローアップメッセージに含まれる時刻t33を時刻同期処理部55に通知する。また、制御部62は、要求メッセージの送信時刻t31および応答メッセージの受信時刻t34を時刻同期処理部55に通知する(ステップS211)。
【0127】
次に、時刻同期処理部55は、制御部62から通知された、時刻t31,t32,t33,t34に基づいて、機能部111Aおよびスイッチ装置101間のデータの伝搬遅延時間Td1を更新する(ステップS212)。
【0128】
次に、機能部111Aおよびスイッチ装置101間の時刻同期処理(ステップS213~S216)、ならびにスイッチ装置101および機能部111B間の時刻同期処理(ステップS217~S220)が行われる。ステップS213~S216の動作は、図8に示すステップS114~S117の動作と同様であり、ステップS217~S220の動作は、図8に示すステップS118~S121の動作と同様であるため、ここでは詳細な説明を繰り返さない。
【0129】
なお、ステップS204~S207の動作は、ステップS208~S212の動作の後に行われてもよい。また、ステップS204~S207の動作と、ステップS208~S212の動作とが並行して行われてもよい。
【0130】
ところで、車載ネットワークにおける各車載装置は、たとえば、IEEE 802.1などの規格により規定されるプロトコルに従い、車載装置間におけるデータの伝搬遅延時間を定期的に更新し、更新後の伝搬遅延時間を用いて車載装置間の時刻同期を行う。
【0131】
しかしながら、データの伝搬遅延時間の更新を行う場合、更新処理によって処理負荷が大きくなり、車両の運転制御に関する処理等の他の処理が円滑に行われない可能性がある。
【0132】
これに対して、本開示の実施の形態に係る車載装置であるスイッチ装置101では、時刻同期処理部55は、他の車載装置である他装置と自己のスイッチ装置101との間のデータの伝搬遅延時間に基づいて、他装置との間における時刻同期を行う。検知部52は、伝搬遅延時間の更新イベントの発生を検知する。また、時刻同期処理部55は、検知部52により更新イベントの発生が検知された場合、伝搬遅延時間の更新に用いられる時刻情報を他装置に要求する。
【0133】
また、本開示の実施の形態に係る車載装置である機能部111では、時刻同期処理部83は、他の車載装置である他装置と自己の機能部111との間のデータの伝搬遅延時間に基づいて、他装置との間における時刻同期を行う。検知部82は、伝搬遅延時間の更新イベントの発生を検知する。また、時刻同期処理部83は、検知部82により更新イベントの発生が検知された場合、伝搬遅延時間の更新に用いられる時刻情報を他装置に要求する。
【0134】
また、本開示の実施の形態に係るスイッチ装置101における時刻同期方法では、まず、検知部52は、他の車載装置である他装置と自己のスイッチ装置101との間のデータの伝搬遅延時間の更新に関する更新イベントの発生を検知する。次に、時刻同期処理部55は、検知部52により更新イベントの発生が検知された場合、伝搬遅延時間の更新に用いられる時刻情報を他装置に要求する。次に、時刻同期処理部55は、他装置から受信した時刻情報に基づいて、伝搬遅延時間を更新する。そして、時刻同期処理部55は、更新後の伝搬遅延時間に基づいて、他装置との間における時刻同期を行う。
【0135】
また、本開示の実施の形態に係る機能部111における時刻同期方法では、まず、検知部82は、他の車載装置である他装置と自己の機能部111との間のデータの伝搬遅延時間の更新に関する更新イベントの発生を検知する。次に、時刻同期処理部83は、検知部82により更新イベントの発生が検知された場合、伝搬遅延時間の更新に用いられる時刻情報を他装置に要求する。次に、時刻同期処理部83は、他装置から受信した時刻情報に基づいて、伝搬遅延時間を更新する。そして、時刻同期処理部83は、更新後の伝搬遅延時間に基づいて、他装置との間における時刻同期を行う。
【0136】
このように、更新イベントの発生を検知した場合に、時刻情報を要求して当該時刻情報を用いた伝搬遅延時間の更新処理を行う構成により、更新処理を定期的に行う場合と比較して、更新処理の頻度を低く抑えることができる。
【0137】
したがって、本開示の実施の形態に係る車載装置、時刻同期方法および時刻同期プログラムでは、車載装置間におけるデータの伝搬遅延時間を用いて時刻同期を円滑に行うとともに、更新処理の負荷を低減することができる。
【0138】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0139】
以上の説明は、以下に付記する特徴を含む。
[付記1]
車載装置であって、
他の車載装置である他装置と自己の前記車載装置である自装置との間のデータの伝搬遅延時間に基づいて、前記他装置との間における時刻同期を行い、
前記伝搬遅延時間の更新イベントの発生を検知する処理部を備え、
前記処理部は、前記更新イベントの発生を検知した場合、前記伝搬遅延時間の更新に用いられる時刻情報を前記他装置に要求し、前記他装置から受信した前記時刻情報に基づいて前記伝搬遅延時間を更新し、
前記更新イベントは、前記伝搬遅延時間が変化する可能性のあるイベントであり、
前記車載装置は、複数の前記他装置間のデータを中継するスイッチ装置である、車載装置。
【符号の説明】
【0140】
1 車両
10 イーサネットケーブル
50,80 処理部
51 中継部
52,82 検知部
53,85 記憶部
54,54A,54B,84 通信ポート
55,83 時刻同期処理部
61 スイッチ部
62 制御部
81 通信部
101,101A,101B スイッチ装置
111,111A,111B,111C 機能部
151A,151B 温度センサ
301 車載ネットワークシステム
図1
図2
図3
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図5
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図7
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図9