(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】電子楽器、共鳴信号生成方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G10H 1/00 20060101AFI20220405BHJP
【FI】
G10H1/00 C
(21)【出願番号】P 2020210245
(22)【出願日】2020-12-18
(62)【分割の表示】P 2017007120の分割
【原出願日】2017-01-18
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123881
【氏名又は名称】大澤 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100080931
【氏名又は名称】大澤 敬
(72)【発明者】
【氏名】劉 恩彩
(72)【発明者】
【氏名】仲田 昌史
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-107898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の第1音高の第1共鳴信号が循環する第1ループ部と、前記第1ループ部に第1励起信号を入力する第1励起入力部と、
特定の第2音高の第2共鳴信号が循環する第2ループ部と、前記第2ループ部に第2励起信号を入力する第2励起入力部と、
前記第1共鳴信号及び前記第2共鳴信号を出力する出力部とを備え、
前記第1励起信号及び前記第2励起信号は、共通の演奏操作に基づき生成された信号であり、
前記第1音高は、ピアノのある有効弦の共鳴周波数の音高であり、前記第2音高は、前記ピアノのいずれの有効弦の共鳴周波数とも異な
り、かつ前記第1音高よりも高く、
前記第2共鳴信号が、前記ある有効弦と対応する前方弦及び/又は後方弦による共鳴音を模擬した信号である電子楽器。
【請求項2】
特定の第1音高の第1共鳴信号が循環する第1ループ部と、前記第1ループ部に第1励起信号を入力する第1励起入力部と、
特定の第2音高の第2共鳴信号が循環する第2ループ部と、前記第2ループ部に第2励起信号を入力する第2励起入力部と、
前記第1共鳴信号及び前記第2共鳴信号を出力する出力部
と、
前記第1共鳴信号と前記第2共鳴信号とを加算し減衰させて、前記第1ループ部及び前記第2ループ部にそれぞれ入力する伝播入力部とを備え、
前記第1励起信号及び前記第2励起信号は、共通の演奏操作に基づき生成された信号であり、
前記第1音高は、ピアノのある有効弦の共鳴周波数の音高であり、前記第2音高は、前記ピアノのいずれの有効弦の共鳴周波数とも異なる電子楽器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子楽器であって、
前記第1ループ部及び前記第1励起入力部を備える第1共鳴信号生成部と、前記第2ループ部及び前記第2励起入力部を備える第2共鳴信号生成部との組を、ピアノの複数の有効弦とそれぞれ対応するように複数組備え、
前記各組の第2共鳴信号生成部における第2音高はいずれも、前記ピアノのいずれの有効弦の共鳴周波数とも異なる電子楽器。
【請求項4】
請求項3に記載の電子楽器であって、
前記第1共鳴信号生成部と前記第2共鳴信号生成部との組を、ピアノの高音側から所定数の有効弦とそれぞれ対応するように複数組備え、該所定数の有効弦よりも低音側の各有効弦と対応する前記第1共鳴信号生成部を備え、該低音側の各有効弦と対応する前記第2共鳴信号生成部を備えないか又は該低音側の各有効弦と対応する前記第2共鳴信号生成部の機能が無効化されている電子楽器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電子楽器であって、
前記第2励起信号は、前記第1励起信号と同じ信号であるか又は前記第1励起信号を加工して生成した信号である電子楽器。
【請求項6】
請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の電子楽器であって、
検出した演奏操作に応じて予め定められた音色の演奏音を示す音信号を生成する音信号生成部と、
前記音信号生成部が生成した音信号を前記第1励起信号として前記第1ループ部に供給すると共に、該生成した音信号そのものあるいは該生成した音信号を加工して得た信号を、前記第2励起信号として前記第2ループ部に供給する供給部と、
前記音信号生成部が生成した音信号と前記出力部から出力される音信号とを加算して出力する音信号出力部とを備えた電子楽器。
【請求項7】
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の電子楽器であって、
前記第1ループ部が、前記第1共鳴信号を前記第1音高に応じた時間だけ遅延する第1遅延部と、前記第1共鳴信号を減衰する第1減衰部とを含み、
前記第2ループ部が、前記第2共鳴信号を前記第2音高に応じた時間だけ遅延する第2遅延部と、前記第2共鳴信号を減衰する第2減衰部とを含む電子楽器。
【請求項8】
特定の第1音高の第1共鳴信号が循環する第1ループ回路と、前記第1ループ回路に第1励起信号を入力する第1励起入力回路と、
特定の第2音高の第2共鳴信号が循環する第2ループ回路と、前記第2ループ回路に第2励起信号を入力する第2励起入力回路と、
前記第1ループ回路を循環する第1共鳴信号及び前記第2ループ回路を循環する第2共鳴信号を出力する出力回路とを備え、
前記第1音高は、ピアノのある有効弦の共鳴周波数の音高であり、前記第2音高は、前記ピアノのいずれの有効弦の共鳴周波数とも異な
り、かつ前記第1音高よりも高く、
前記第2共鳴信号が、前記ある有効弦と対応する前方弦及び/又は後方弦による共鳴音を模擬した信号である電子楽器。
【請求項9】
第1ループ処理に第1励起信号を入力して、前記第1ループ処理を循環する特定の第1音高の第1共鳴信号を生成する手順と、
第2ループ処理に第2励起信号を入力して、前記第2ループ処理を循環する特定の第2音高の第2共鳴信号を生成する手順とを備え、
前記第1励起信号及び前記第2励起信号は、共通の演奏操作に基づき生成された信号であり、
前記第1音高は、ピアノのある有効弦の共鳴周波数の音高であり、前記第2音高は、前記ピアノのいずれの有効弦の共鳴周波数とも異な
り、かつ前記第1音高よりも高く、
前記第2共鳴信号が、前記ある有効弦と対応する前方弦及び/又は後方弦による共鳴音を模擬した信号である共鳴信号生成方法。
【請求項10】
コンピュータに、
第1ループ処理に第1励起信号を入力して特定の第1音高の第1共鳴信号を生成する手順と、
第2ループ処理に第2励起信号を入力して特定の第2音高の第2共鳴信号を生成する手順とを実行させるためのプログラムであって、
前記第1励起信号及び前記第2励起信号は、共通の演奏操作に基づき生成された信号であり、
前記第1音高は、ピアノのある有効弦の共鳴周波数の音高であり、前記第2音高は、前記ピアノのいずれの有効弦の共鳴周波数とも異な
り、かつ前記第1音高よりも高く、
前記第2共鳴信号が、前記ある有効弦と対応する前方弦及び/又は後方弦による共鳴音を模擬した信号であるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入力される励起信号に基づき弦の共鳴を模した共鳴信号を生成する電子楽器あるいは共鳴信号生成方法と、コンピュータに上記の共鳴信号生成方法を実行させるためのプログラムとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自然楽器の挙動をシミュレートすることにより、自然楽器の発する音を電子的に再現しようとする試みが行われている。
この分野の技術として、例えば特許文献1には、指定された音名に対応した音信号を、複数の音名に対応した各音高周波数と各々整数倍関係にある複数の周波数位置に各々共振峰を有する残響効果付与手段を介して出力する技術が記載されている。この技術によれば、音信号に、ピアノの弦のような複数の発音振動体による共鳴の効果をシミュレートした残響効果を付与し、自然楽器の音を模倣した音信号を発生させることができる。
【0003】
また、特許文献2及び特許文献3には、ピアノの弦の音を模擬した共鳴音を表す音信号を生成する共鳴音生成回路において、1サンプル単位で遅延長を設定可能な遅延回路での遅延時間と、1サンプル単位よりも細かく遅延長を設定可能なオールパスフィルタとを組み合わせて、柔軟な共鳴周波数の設定を可能とする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭63-267999号公報
【文献】特開2015-143763号公報
【文献】特開2015-143764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来知られている手法では、各音高の弦が発する共鳴音を模擬するために、該音高(及びその倍音)が強調されるように、共鳴音生成回路のループ処理における遅延量を設定していた。しかし、この手法では、有効弦が発する共鳴音しか模擬できない。
【0006】
一方、一般的なアコースティックピアノ(以下単に「ピアノ」といった場合にはこれを指す)においては、弦には、対応する音高の共鳴周波数を持つように張られた有効弦の部分の他、前方弦及び後方弦と呼ばれる部分も有する(
図4参照)。前方弦及び後方弦は、有効弦に比べると短いものの、振動可能なように張られ、実際に、フレームや駒を通じて有効弦あるいは周辺の弦の振動エネルギーが伝わり、それによって振動して音を発するものである。
【0007】
特に、スタッカート奏法でピアノを演奏した場合、打鍵が終わってダンパが弦に当たっている状態でも、高音の残響が残る。そして、この残響には、前方弦及び後方弦の振動が寄与している。
しかし、従来の共鳴音の生成手法では、このような前方弦や後方弦が寄与する残響を再現することはできないという問題があった。
【0008】
この発明は、このような問題を解決し、ピアノを模した演奏音あるいはその音信号を生成する場合に、より実際のピアノに近い弦の共鳴音あるいはその音信号を生成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、この発明の電子楽器は、特定の第1音高の第1共鳴信号が循環する第1ループ部と、上記第1ループ部に第1励起信号を入力する第1励起入力部と、特定の第2音高の第2共鳴信号が循環する第2ループ部と、上記第2ループ部に第2励起信号を入力する第2励起入力部と、上記第1共鳴信号及び上記第2共鳴信号を出力する出力部とを備え、上記第1励起信号及び上記第2励起信号は、共通の演奏操作に基づき生成された信号であり、上記第1音高は、ピアノのある有効弦の共鳴周波数の音高であり、上記第2音高は、上記ピアノのいずれの有効弦の共鳴周波数とも異なり、かつ上記第1音高よりも高く、上記第2共鳴信号が、上記ある有効弦と対応する前方弦及び/又は後方弦による共鳴音を模擬した信号である電子楽器である。
【0010】
また、この発明の別の電子楽器は、特定の第1音高の第1共鳴信号が循環する第1ループ部と、上記第1ループ部に第1励起信号を入力する第1励起入力部と、特定の第2音高の第2共鳴信号が循環する第2ループ部と、上記第2ループ部に第2励起信号を入力する第2励起入力部と、上記第1共鳴信号及び上記第2共鳴信号を出力する出力部と、上記第1共鳴信号と上記第2共鳴信号とを加算し減衰させて、上記第1ループ部及び上記第2ループ部にそれぞれ入力する伝播入力部とを備え、上記第1励起信号及び上記第2励起信号は、共通の演奏操作に基づき生成された信号であり、上記第1音高は、ピアノのある有効弦の共鳴周波数の音高であり、上記第2音高は、上記ピアノのいずれの有効弦の共鳴周波数とも異なる電子楽器である。
上記の各電子楽器において、上記第1ループ部及び上記第1励起入力部を備える第1共鳴信号生成部と、上記第2ループ部及び上記第2励起入力部を備える第2共鳴信号生成部との組を、ピアノの複数の有効弦とそれぞれ対応するように複数組設け、上記各組の第2共鳴信号生成部における第2音高はいずれも、上記ピアノのいずれの有効弦の共鳴周波数とも異なるとよい。
さらに、上記第1共鳴信号生成部と上記第2共鳴信号生成部との組を、ピアノの高音側から所定数の有効弦とそれぞれ対応するように複数組設け、その所定数の有効弦よりも低音側の各有効弦と対応する上記第1共鳴信号生成部を設け、その低音側の各有効弦と対応する上記第2共鳴信号生成部を備えないか又はその低音側の各有効弦と対応する上記第2共鳴信号生成部の機能を無効化するとよい。
【0011】
さらに、上記第2励起信号が、上記第1励起信号と同じ信号であるか又は上記第1励起信号を加工して生成した信号であるとよい。
さらに、検出した演奏操作に応じて予め定められた音色の演奏音を示す音信号を生成する音信号生成部と、上記音信号生成部が生成した音信号を上記第1励起信号として上記第1ループ部に供給すると共に、その生成した音信号そのものあるいはその生成した音信号を加工して得た信号を、上記第2励起信号として上記第2ループ部に供給する供給部と、上記音信号生成部が生成した音信号と上記出力部から出力される音信号とを加算して出力する音信号出力部とを設けるとよい。
さらに、上記第1ループ部が、上記第1共鳴信号を上記第1音高に応じた時間だけ遅延する第1遅延部と、上記第1共鳴信号を減衰する第1減衰部とを含み、上記第2ループ部が、上記第2共鳴信号を上記第2音高に応じた時間だけ遅延する第2遅延部と、上記第2共鳴信号を減衰する第2減衰部とを含んでもよい。
【0012】
また、この発明の別の電子楽器は、特定の第1音高の第1共鳴信号が循環する第1ループ回路と、上記第1ループ回路に第1励起信号を入力する第1励起入力回路と、特定の第2音高の第2共鳴信号が循環する第2ループ回路と、上記第2ループ回路に第2励起信号を入力する第2励起入力回路と、上記第1ループ回路を循環する第1共鳴信号及び上記第2ループ回路を循環する第2共鳴信号を出力する出力回路とを備え、上記第1音高が、ピアノのある有効弦の共鳴周波数の音高であり、上記第2音高が、上記ピアノのいずれの有効弦の共鳴周波数とも異なり、かつ上記第1音高よりも高く、上記第2共鳴信号が、上記ある有効弦と対応する前方弦及び/又は後方弦による共鳴音を模擬した信号である電子楽器である。
【0013】
この発明は、上記のように装置として実施する他、方法、システム、プログラム、プログラムを記録した媒体など、任意の形態で実施可能である。
【発明の効果】
【0014】
以上のようなこの発明の構成によれば、ピアノを模した演奏音あるいはその音信号を生成する場合に、より実際のピアノに近い弦の共鳴音あるいはその音信号を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の一実施形態である共鳴信号生成装置を備えた電子音楽装置の一実施形態である電子楽器のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示した共鳴信号生成装置20の概略的な機能構成を示す図である。
【
図3】
図2に示した共鳴信号生成部30及び伝播部40の機能構成をより詳細に示す図である。
【
図4】実施形態で想定しているピアノの弦の構成を模式的に示す図である。
【
図5】
図3に示した後方弦入力生成部328の機能構成をより詳細に示す図である。
【
図6】
図2に示した共鳴設定部60が共鳴信号生成装置20の起動時に実行する処理のフローチャートである。
【
図7】共鳴設定部60が演奏操作を検出した場合に実行する処理のフローチャートである。
【
図8】変形例の構成を示す、
図2と対応する図である。
【
図9】別の変形例における、1つの音高と対応する共鳴信号生成部30及び伝播部40の機能構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を実施するための形態を図面に基づいて具体的に説明する。
まず、この発明の一実施形態である共鳴信号生成装置を備えた電子音楽装置の一実施形態である電子楽器について説明する。
図1は、その電子楽器のハードウェア構成を示す図である。
【0017】
この図に示すように、電子楽器10は、CPU11、ROM12、RAM13、MIDI(Musical Instrument Digital Interface:登録商標)_I/F(インタフェース)14、パネルスイッチ15、パネル表示器16、演奏操作子17、音源回路18、共鳴信号生成装置20、DAC(デジタルアナログ変換部)21をシステムバス23により接続して設けると共に、サウンドシステム22を設けている。
【0018】
これらのうちCPU11は、電子楽器10全体を制御する制御部であり、ROM12に記憶された所要の制御プログラムを実行することにより、パネルスイッチ15及び演奏操作子17の操作検出、パネル表示器16における表示の制御、MIDI_I/F14を介した通信の制御、音源回路18及び共鳴信号生成装置20による音信号生成の制御、及びDAC21におけるDA変換の制御等の制御動作を行う。
【0019】
ROM12は、CPU11が実行する制御プログラムや、パネル表示器16に表示させる画面の内容を示す画面データ、音源回路18や共鳴信号生成装置20に設定する各種パラメータのデータ等、あまり頻繁に変更する必要のないデータを記憶する、フラッシュメモリ等による書き換え可能な不揮発性の記憶部である。
RAM13は、CPU11のワークメモリとして使用する記憶部である。
MIDI_I/F14は、演奏操作や音色の指定等の演奏内容を示す演奏データを提供するMIDIシーケンサ等の外部装置との間でMIDIデータの入出力を行うためのインタフェースである。
【0020】
パネルスイッチ15は、電子楽器10の操作パネル上に設けた、ボタン、ノブ、スライダ、タッチパネル等の操作子であり、パラメータの設定や、画面や動作モードの切り替え等、ユーザからの種々の指示を受け付けるための操作子である。
パネル表示器16は、液晶ディスプレイ(LCD)や発光ダイオード(LED)ランプ等によって構成され、電子楽器10の動作状態や設定内容あるいはユーザへのメッセージ、ユーザからの指示を受け付けるためのグラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI)等を表示するための表示部である。
【0021】
演奏操作子17は、ユーザから演奏操作を受け付けるための操作子であり、ここではピアノにあるような鍵盤とペダルを備えるものとする。
音源回路18は、検出した演奏操作子17の操作に応じてCPU11が生成するか又はMIDI_I/F14から受信したMIDIイベントに応じて、予め定められた音色(例えばピアノの音色)の演奏音を示す音信号(デジタル波形データ)を生成する音信号生成部である。
【0022】
例えば、音源回路18は、NoteONイベントの検出に応じて、NoteONイベントのあった音高の鍵の打鍵により発生する楽音のデジタル波形データを生成することができる。ピアノの音色の場合、このデジタル波形データの生成には、実際のピアノを1鍵ずつ打鍵して、打鍵により発生する音をPCM(Pulse Code Modulation)方式でデジタル波形データとして記録し、所定の波形メモリに予め記憶させておいたものを用いることができる。
【0023】
このようなデジタル波形データを、各鍵の音高(及び打鍵のベロシティ)と対応させて記憶させておき、NoteONイベントがあった場合に、音源回路18がそのイベントに係る音高(及びベロシティ)と対応する波形データを波形メモリから読み出し、ベロシティに応じたエンベロープ処理等を行って出力することにより、打鍵に応じた波形データを生成することができる。使用する音色は複数の候補から選択可能である。候補には、複数種類の楽器の音色が含まれていてもよいし、機種の違う複数の同種楽器(例えばピアノ)の音色が含まれていてもよい。
【0024】
また、音源回路18は生成した音信号を、共鳴信号生成装置20とDAC21を介してサウンドシステム22へ出力する。なお、CPU11からの設定により、音源回路18が生成した音信号の全部又は一部を、共鳴信号生成装置20を通さずに出力できるようにしてもよい。
【0025】
共鳴信号生成装置20は、この発明の共鳴信号生成装置の一実施形態であり、音源回路18から入力する音信号に基づき、
図2及び
図3等を用いて説明する処理を行うことにより、当該入力する音信号により励起される弦の共鳴を模した共鳴信号を生成する。また、共鳴信号生成装置20は、音源回路18から入力する音信号にこの共鳴信号を付加してDAC21へ出力する。
【0026】
DAC21は、共鳴信号生成装置20が出力するデジタルの音信号をアナログ信号に変換して、サウンドシステム22を構成するスピーカを駆動する。なお、サウンドシステム22は、電子楽器10を音声でなく音信号を出力するように構成する場合には、不要である。DAC21も、アナログではなくデジタルの波形データを出力するように構成する場合には、不要である。
【0027】
以上の電子楽器10は、演奏操作子17により検出したユーザの演奏操作あるいはMIDI_I/F14により外部機器から受信した演奏データに基づき、その演奏に沿った音信号を、弦の共鳴を模した共鳴音が付加された状態で生成し、音声として出力することができる。
この電子楽器10において特徴的な点の一つは共鳴信号生成装置20の構成及び動作であるので、次にこの点について説明する。
【0028】
まず
図2に、共鳴信号生成装置20の概略的な機能構成を示す。
図2に示す各部の機能は、専用の回路によって実現しても、プロセッサにソフトウェアを実行させることによって実現しても、その組み合わせでもよい。
図3及び以後の対応する図面に示す各部の機能についても同様である。
【0029】
図2に示す共鳴信号生成装置20は、88鍵のピアノにおける弦の共鳴を模すように構成した例であり、最も低い音高のA0(1番目)から最も高い音高の(C8)(88番目)までの各音高に対応する共鳴信号生成部30を備える。なお、「30-1」の符号のうち、ハイフンの後ろの数字は、何番目の音高に対応する構成かを示すものであるが、個体を区別する必要がない場合には、これを省略し、「30」等の符号を用いるものとする。以降に説明する、ハイフンの後ろの数字を持つ他の符号も同様である。
また、共鳴信号生成装置20は、共鳴信号生成部30の他、伝播部40、出力加算部50L,50R、加算部51L,51R、共鳴設定部60を備える。
【0030】
これらのうち各共鳴信号生成部30は、音源回路18から供給される音信号を励起信号として入力し、その音信号に基づき、対応する音高の弦において当該励起信号により励起される共鳴を模した共鳴信号を生成する機能を備える。ここでは、各共鳴信号生成部30は、LR2chの音信号を入力する一方、後述のように第1共鳴信号生成部310及び第2共鳴信号生成部320からそれぞれLR2chの共鳴信号を出力する。従って、各共鳴信号生成部30が出力する共鳴信号は、第1共鳴信号生成部310が出力するものをLna,Rna、第2共鳴信号生成部320が出力するものをLnb,Rnbと表記することにする(nは音高を示す数字)。また、ここでいう「対応する音高の弦」には、有効弦の他、前方弦と後方弦も含まれる。
【0031】
伝播部40は、複数の弦を張る駒が弦間で振動エネルギーを伝播させる様子を模擬した演算を行う機能を備える。各共鳴信号生成部30は、この伝播部40との間で信号を授受しながら共鳴信号の生成を行うが、共鳴信号生成部30及び伝播部40の機能については
図3を用いて後に詳述する。
出力加算部50Lは、各共鳴信号生成部30が出力するL系統の共鳴信号L1a~L88aとL1b~L88bを全て加算して、共鳴信号生成装置20の出力としてのL系統の共鳴信号を生成する機能を備える。出力加算部50Rは、同様に共鳴信号R1a~R88aとR1b~R88bを加算してR系統の共鳴信号を生成する機能を備える。
【0032】
加算部51L,51Rは、音信号出力部であり、それぞれ音源回路18から供給される音信号に、出力加算部50L,50Rが生成した共鳴信号を加算してDAC21へ出力する機能を備える。加算部51LはL系統の音信号を、加算部51RはR系統の音信号を取り扱う。
共鳴設定部60は、共鳴信号生成装置20の起動時や、その後CPU11から供給される演奏データに応じて、共鳴信号生成装置20の各部に必要なパラメータを設定する機能を備える。共鳴設定部60が設定するパラメータについては、
図6及び
図7を用いて後に詳述する。
【0033】
次に、
図3に、
図2に示した共鳴信号生成部30及び伝播部40の機能構成をより詳細に示す。
図3には、共鳴信号生成部30は、1番目及び88番目の音高に対応するもののみを代表として示している。そして、各共鳴信号生成部30は、第1共鳴信号生成部310と第2共鳴信号生成部320の組を備える。
これらのうち第1共鳴信号生成部310は、第1遅延部311、加算部312、第1減衰部313及び加算部314を含む第1ループ部を備える。さらに、加算部315と、レベル調整部317L,317R,318L,318Rとを備える。
【0034】
このうち第1遅延部311は、入力する音信号の各サンプルを、共鳴設定部60により設定された遅延量DLが示す時間だけ保持した後で出力することにより、音信号を遅延させる機能を備える。この第1遅延部311は、出力タイミングを音信号のサンプリング周期単位で設定可能なバッファメモリや、出力箇所を選択可能なように直接に複数接続した遅延素子により構成することができる。また、サンプリング周期単位よりも細かく遅延量を設定したい場合には、サンプリング周期単位の遅延を行う回路に加え、特開2015-143763号公報に記載のような、一次のオールパスフィルタを用いた遅延回路を設けてもよい。
【0035】
また、第1遅延部311は、入力し保持した音信号を出力する機能も備える。この出力は、レベル調整部317L,317Rによりそれぞれレベル調整され、第1共鳴信号生成部310が出力するL系統及びR系統の共鳴信号として、
図2の出力加算部50L,50Rに入力される。
【0036】
加算部312は、第1遅延部311が出力する音信号と、伝播部40から供給される音信号とを、サンプル毎に加算する機能を備える。すなわち、伝播部40から供給される音信号分のエネルギーを、第1ループ部に入力する機能を備える。なお、駒での波形の反射を模擬するため、伝播部40から供給される音信号の入力は、減算(正負反転して加算)で入力する。
【0037】
第1減衰部313は、加算部312から供給される音信号を、共鳴設定部60により設定されたゲイン値に従って減衰させる機能を備える。共鳴設定部60は、後述するように、弦と対応するダンパの状態を模擬したゲイン値を第1減衰部313に設定する。ダンパが当たっている弦についてはゲイン値0を設定して弦振動の急速停止を模擬し、ダンパが離れている弦については1に近い1未満のゲイン値を設定して、信号のレベルを徐々に減衰させ、弦振動の減衰を模擬する。
【0038】
加算部314は、音源回路18から供給される励起信号と、第1減衰部313が出力する音信号とを加算することにより、第1ループ部に第1励起信号を入力する第1励起入力部の機能を備える。
この実施形態では、音源回路18は、生成した音信号をLとRの2系統にミキシングして共鳴信号生成装置20へ供給する。従って、複数の鍵が同時に押鍵され、複数の音高の音信号が同時に音源回路18で生成される場合には、それらが混合された音信号が共鳴信号生成装置20へ供給される。そして、第1共鳴信号生成部310は、レベル調整部318L,318RによりそれぞれL系統及びR系統の音信号のレベルを調整し、励起信号として加算部314を介して第1ループ部へ入力する。これらのレベル調整部318L,318Rと加算部314が、第1共鳴信号生成部310側の供給部に該当する。
【0039】
例えば、レベル調整部318L,318Rに設定されるゲイン値が共に1であれば、第1共鳴信号生成部310に入力する励起信号は、音源回路18から供給されたL系統とR系統の音信号を単に加算して得た音信号となる。しかし、L系統とR系統とで個別にレベル調整を行えるようにすることも妨げられない。
【0040】
以上の第1共鳴信号生成部310において、x番目の音高と対応するものを例とすると、第1遅延部311-xに設定される遅延量DL1(x)は、第1ループ部の処理1周に要する時間が、x番目の音高(第1音高)の音の1周期(x番目の音高の弦の共鳴周波数の逆数)となるような値とする。このことにより、第1励起信号の中の共鳴周波数の成分(及びその倍音の成分)が、第1遅延部311による遅延後の信号と次の周期の第1励起信号とで加算される形で強調され、第1共鳴信号生成部310-xにおいて、第1ループ部に、x番目の音高の有効弦の共鳴周波数を持つ第1共鳴信号が循環する(当該音信号が第1ループ部内でループ処理に供される)ことになる。このことにより、第1共鳴信号生成部310は、x番目の音高の有効弦による共鳴を模擬することができる。
すなわち、第1共鳴信号生成部310は、x番目の音高に応じた時間だけの第1遅延と、第1減衰とを含む第1ループ処理に、第1励起信号を入力して、上記第1ループ処理を循環するx番目の音高の第1共鳴信号を生成する第1共鳴信号生成手順を実行することができる。
【0041】
なお、伝播部40から加算部312を介して入力される音信号も、第1ループ部に形成される共鳴信号に影響を与える点では、加算部314から入力される励起信号と同じであるが、後述するように共鳴信号に急激な影響は与えない(そうなるように伝播減衰部411のゲイン値を設定する)ので、励起信号には含めないものとする。
なお、第1共鳴信号生成部310は、上記の他、加算部315を介して、第1遅延部311の出力(第1共鳴信号)を伝播部40に供給する機能も備える。
【0042】
一方、第2共鳴信号生成部320は、第2遅延部321、加算部322、第2減衰部323、加算部324を含む第2ループ部を備える。第2遅延部321は、第1遅延部311と同様、入力し保持した音信号を出力する機能も備える。この出力は、レベル調整部327L,327Rによりそれぞれレベル調整され、第2共鳴信号生成部310が出力するL系統及びR系統の共鳴信号として、
図2の出力加算部50L,50Rに入力される。
この第2ループ部を形成する各部の機能は、それぞれ第1ループ部を形成する第1遅延部311、加算部312、第1減衰部313、加算部314と概ね同じであるが、異なる点も多い。
【0043】
すなわち、x番目の音高と対応するものを例とすると、まず、共鳴設定部60が第2遅延部321-xに設定する遅延量DL2(x)は、第2ループ部の処理1周に要する時間が、x番目の音高の後方弦の共鳴周波数における1周期(共鳴周波数の逆数)となるような値とする。
第2減衰部323-xに設定するゲイン値も、その後方弦における振動減衰速度を示す値とする。
【0044】
また、加算部324-xは、音源回路18から供給される、第1共鳴信号生成部310に供給されるものと同じLR2系統の音信号に基づき後方弦入力生成部328-xが生成した第2励起信号と、第2減衰部323-xが出力する音信号とを加算することにより、第2ループ部に第2励起信号を入力する第2励起入力部の機能を備える。
【0045】
以上により、第2共鳴信号生成部320-xでは、第2励起信号の中の、x番目の音高の後方弦の共鳴周波数の成分(及びその倍音の成分)が強調され、第2ループ部に、x番目の音高の後方弦の共鳴周波数を持つ第2共鳴信号が循環する(当該音信号が第2ループ部内でループ処理に供される)ことになる。このことにより、第2共鳴信号生成部320は、x番目の音高の後方弦による共鳴を模擬することができる。
すなわち、第2共鳴信号生成部320は、x番目の音高に応じた時間だけの第2遅延と、第2減衰とを含む第2ループ処理に、第2励起信号を入力して、上記2ループ処理を循環する第2共鳴信号を生成する第2共鳴信号生成手順を実行することができる。
【0046】
ここで、
図4に、この実施形態で想定しているピアノにおける弦の構成を模式的に示す。
一般に、ピアノにおいて各音高の弦70は、針金枕71、駒72、ペアリング73及びアリコート74に張り渡される。これらのうちペアリング73とアリコート74は、いずれもフレームの一部である。弦70は、針金枕71とアリコート74に引っ張られて張力を与えられ、駒72及びペアリング73の部分でもこれらの部品に対して押さえつけられて振動が静止されるので、弦70は3つの部分に分かれて振動する。
【0047】
このうち駒72とペアリング73に挟まれた部分が有効弦75であり、ピアノは、この有効弦75の共鳴周波数が、演奏音として望ましい音高となるように調律される。また、ハンマ78はこの有効弦75を打弦して演奏音を発生させ、ダンパ79は有効弦75の振動を静止することにより、演奏音を停止させる。
【0048】
また、針金枕71と駒72とに挟まれた部分が後方弦76であり、ペアリング73とアリコート74に挟まれた部分が前方弦77である。後方弦76と前方弦77のいずれも、打弦されることも、ダンパにより振動を静止されることもなく、駒72やフレーム(ペアリング73とアリコート74)を介して伝播される、対応する有効弦75や他の弦の振動エネルギーにより振動し、音を発することができる。
一般に、後方弦76や前方弦77は有効弦75に比べて短く、張力や材質は弦70の全長に亘って均一であるので、後方弦76や前方弦77の共鳴周波数は有効弦75に比べて大きくなり、有効弦75に比べて高い音を発する。
【0049】
以上の通りであるので、x番目の音高の後方弦76と前方弦77とは、x番目の音高の有効弦75よりもかなり高い共鳴周波数を持つことで共通する。それらの共鳴周波数は必ずしも同じでないものの、後方弦76を模す第2共鳴信号生成部320により、x番目の音高よりもかなり高い音高(第2音高)の第2共鳴信号が生成される。さらに、後方弦76と前方弦77の共鳴周波数と有効弦75の音高との対応関係は、必ずしも一定ではなく、またよく知られているわけでもない。これらのため、聞き手によっては、第2共鳴信号が後方弦76による共鳴を模擬したものか前方弦77による共鳴を模擬したものかを区別できないことも考えられる。従って、第2共鳴信号を、前方弦77と後方弦76による共鳴音をまとめて模擬した信号であると捉えることもできる。もちろん、後述の変形例のように、前方弦77と後方弦76とを分けて模擬することも考えられる。この考え方に基づけば、第2音高は、必ずしも特定のピアノにおける前方弦77あるいは後方弦76の共鳴周波数と一致していなくても、前方弦77及び/又は後方弦76による共鳴音を模擬した信号を生成できることになる。
【0050】
なお、第2遅延部321-xに設定する遅延量DL2(x)は、有効弦の共鳴周波数及びその倍音の周波数を避けて設定する。すなわち、第2共鳴信号の音高が、有効弦のいずれの音高ともその倍音にもならないように設定する。これは、特定の第2共鳴信号生成部320における第2共鳴信号の音高が有効弦のいずれかの音高あるいはその倍音となってしまうと、その第2共鳴信号生成部320だけ、有効弦の振動に応じて強い共鳴信号を生成してしまい、これが耳障りとなる場合があるので、このような事態を防止するためである。また、有効弦の音高やその倍音を用いなくても、前方弦77及び/又は後方弦76による共鳴音を模擬することに支障はない。
【0051】
また、後方弦入力生成部328の機能構成は、
図5に示す通りである。
図5に示すように、後方弦入力生成部328は、レベル調整部341L,341Rと、加算部342と、エンベロープ制御部343とを備える。
これらのうちレベル調整部341L,341Rはそれぞれ、音源回路18から供給されるL及びRの音信号のレベルを調整する機能を備える。後方弦には(前方弦にも)ダンパがないため、これを反映して、第1共鳴信号生成部310のレベル調整部318L,318Rの場合と異なり、レベル調整部341L,341Rには常に一定の値が設定される。
【0052】
加算部342は、レベル調整部341L,341Rによるレベル調整後のLRの音信号を加算する。
エンベロープ制御部343は、加算部342による加算後の音信号に対し、その上側にグラフで示したような、アタック部を強調するエンベロープを乗じてアタック部を取り出し、第2励起信号を生成する機能を備える。エンベロープの形状は、
図5に示したものに限られず、より急峻にアタック部のみを切り出すものであってもよい。
【0053】
また、以上のような後方弦入力生成部328を設けるのがリソースの制約等により難しい場合には、第1励起信号と同じ信号を、第2励起信号として用いることも妨げられない。
また、第2共鳴信号生成部320は、上記の他、加算部315を介して、第2遅延部321の出力(第2共鳴信号)を伝播部40に供給する機能も備える。加算部315は、第1共鳴信号と第2共鳴信号とを加算して伝播部40に供給する。
【0054】
次に、伝播部40は、各共鳴信号生成部30と対応する伝播減衰部411と、2番目以降の各共鳴信号生成部30と対応する加算部412とを備える。そして、各共鳴信号生成部30の加算部315から供給される、第1共鳴信号と第2共鳴信号の和の音信号を入力し、対応する伝播減衰部411で減衰させた上で各加算部412によって加算する機能を備える。
【0055】
また、伝播部40は、加算部412-88による加算後の、全弦についての入力を加算した音信号を、各共鳴信号生成部30の第1共鳴信号生成部310と第2共鳴信号生成部320へ入力する機能を備える。より具体的には、加算部312を介して第1ループ部に、加算部322を介して第2ループ部に、それぞれ加算後の音信号を入力する。すなわち、伝播部40は、加算部312及び加算部322と合わせて、伝播入力部として機能する。
【0056】
伝播減衰部411での減衰処理は、共鳴設定部60により設定されるゲイン値αに基づき行う。この伝播部40が模擬する振動エネルギーの伝播は、ゆっくりとしたものであるので、αの値も、これを反映して0に近い正の値とする。各音高の伝播減衰部411には、共通の値を設定してもよいし、音高毎に異なる値を設定してもよい。
【0057】
以上の伝播部40は、各共鳴信号生成部30から入力される音信号を加算し、その加算結果を全共鳴信号生成部30に戻すため、例えば、1本の弦の振動が駒を介して他の弦に伝播していく様子を模擬することができる。なお、駒が複数のパーツに分かれ、一様に振動しない様子を模擬する場合には、その各パーツと対応する伝播部40をそれぞれ設け、各パーツに張られた弦と対応する共鳴信号生成部30から入力される音信号を加算し、その加算結果を、入力元の全共鳴信号生成部30に戻すようにすればよい。
【0058】
次に、
図2に示した共鳴設定部60が実行する、共鳴信号生成装置20の各部にパラメータの値を設定する処理について説明する。
まず
図6に、共鳴設定部60が起動時に実行する初期設定処理のフローチャートを示す。
共鳴設定部60は、共鳴信号生成装置20が起動されると、
図6の処理を実行して、各部にパラメータの値を初期設定する。
図6の各ステップの処理は、1番目から88番目の音高それぞれについて行うため、x番目の音高に関する処理として一般化して説明する。
【0059】
図6の処理において、共鳴設定部60はまず、第1遅延部311-xの遅延量を、x番目の音高(の有効弦75の共鳴周波数)と対応する値DL1(x)に設定する(S11)。xの各値と対応するDL1(x)の値は、予め用意しておいても、各音高の周波数から計算で求めてもよい。
次に、共鳴設定部60は、第2遅延部321-xの遅延量を、x番目の音高の後方弦76の共鳴周波数と対応する値DL2(x)に設定する(S12)。xの各値と対応するDL2(x)の値は、値そのものを予め用意しておいても、各共鳴周波数の値から計算で求めてもよい。なお、当該後方弦76の共鳴周波数の値が、いずれの有効弦75の共鳴周波数ともその倍音の周波数とも重複しないように定められていることが望ましい点は、上述した通りである。
次に、共鳴設定部60は、伝播減衰部411-xのゲイン値を、予め保存された所定値α(x)に設定する(S13)。各α(x)は、上述のように0に近い正の値である。
【0060】
また、共鳴設定部60は、レベル調整部317L-x,317R-x及びレベル調整部327L-x,327R-xのゲイン値を、CPU11から供給されるパン及び共鳴信号レベルの設定に基づき設定する(S14)。CPU11は、音源回路18に供給しているものと同じパン(音像定位位置)の設定を共鳴設定部60にも供給する。さらに、ユーザの操作に応じてあるいは自動的に設定した、音源回路18が生成した音信号に付す共鳴信号のレベルを示す共鳴信号レベルの設定も、共鳴設定部60に供給する。レベル調整部317L-x,317R-x及びレベル調整部327L-x,327R-xのゲイン値は、LRバランスに応じたゲイン値に、共鳴信号レベルが示すゲイン値を乗算(指数値であれば加算)して求めることができる。共鳴信号レベルは、レベル調整部317L-x,317R-xの設定に用いるための値(有効弦用の設定)と、レベル調整部327L-x,327R-xの設定に用いるための値(前方弦及び/又は後方弦用の設定)とを、別々に設定できるようにしてもよい。
【0061】
共鳴設定部60はさらに、第1減衰部313-xのゲイン値を0に設定し(S15)、レベル調整部318L-x,318R-xのゲイン値も0に設定する(S16)。ステップS15及びS16の設定は、初期状態では全音高の有効弦75にダンパが当たっていることを模擬したものである。
共鳴設定部60はさらに、第2減衰部323-xのゲイン値を、予め保存された値FBG2(x)に設定し(S17)、レベル調整部341L-x,341R-xのゲイン値を、予め保存された値IG2に設定して(S18)、
図6の処理を終了する。ステップS17及びS18の設定は、後方弦76にはダンパがないため、初期状態でも共鳴信号を生成可能であることを模擬したものである。
【0062】
次に
図7に、共鳴設定部60が演奏操作を検出した場合に実行する処理のフローチャートを示す。
CPU11は、音源回路18に供給する演奏データのうち、少なくとも押鍵、離鍵及びダンパペダルの操作に関するデータを、同じタイミングで共鳴信号生成装置20にも供給する。共鳴設定部60は、初期設定が完了した後、この演奏データが供給された場合に、演奏操作を検出したとして
図7のフローチャートに示す処理を開始する。
【0063】
図7の処理において、共鳴設定部60は、検出した操作の種類を判定し(S21)、その種類に応じた処理を行う。
まず、n番目の音高(ノート)の押鍵操作を検出した場合、共鳴設定部60は、音高nのレベル調整部318L-n,318R-nのゲイン値を双方とも事前に決められた値に設定する(S22)と共に、n番目の音高の第1減衰部313-nのゲイン値を、予め保存された所定値FBG1(n)に設定する(S23)。
【0064】
ステップS22の設定により、音源回路18から供給される音信号が励起信号として音高nの第1共鳴信号生成部310-nに入力されることになる。また、FBG1(n)は、第1減衰部313の説明で述べた、弦振動の減衰を模擬する値として、n番目の音高に対応して用意された値である。これらの設定は、押鍵に応じてダンパが弦から離れたことを模擬するものであり、これらの設定により、n番目の音高の第1ループ部で第1共鳴信号が生成され得る状態となる。第2共鳴信号生成部320-nについては、常に第2ループ部で第2共鳴信号が生成され得る状態であるので、押鍵操作に応じて変更すべき設定はない。
【0065】
なお、ステップS22で設定するゲイン値は、例えば1でもよいが、CPU11から供給されるLRバランス及び共鳴信号レベルの設定に基づき予め算出しておいてもよい。また、レベル調整部318-Lx,318-Rxのゲイン値の設定に用いるLRバランスは、必ずしも音源回路18に供給されるもの(レベル調整部317L-x,317R-xのゲイン値の設定に用いるもの)と同じでなくてよく、共鳴音生成回路30への入力調整用に別途設定されたものであってもよい。音高毎、あるいは所定の音高毎に設定することができるようにしてもよい。
【0066】
次に、n番目の音高の離鍵操作を検出した場合、共鳴設定部60は、n番目の音高のレベル調整部318L-n,318R-nのゲイン値を双方とも0に設定する(S24)と共に、n番目の音高の第1減衰部313-nのゲイン値を0に設定する(S25)。
ステップS24の設定により、音高nの第1共鳴信号生成部310-nに励起信号が入力されなくなり、ステップS25の設定により、第1ループ部を循環していた共鳴信号が急速減衰され、第1共鳴信号生成部310-nからの共鳴信号の出力は実質的に行われなくなる。これらの設定は、離鍵に応じてダンパが弦に当たったことを模擬するものである。第2共鳴信号生成部320-nについては、後方弦76に当たるダンパがないことと対応して、離鍵操作に応じて変更すべき設定はない。
【0067】
次に、ダンパペダルのオン操作を検出した場合、共鳴設定部60は、全音高のレベル調整部318L-1~88,318R-1~88のゲイン値を双方事前に決められた値に設定する(S26)と共に、全音高の第1減衰部313-1~88のゲイン値を、各音高と対応する予め保存された所定値FBG1(x)に設定する(S27)。これらの設定は、ダンパペダルの踏み込みにより全音高のダンパが弦から離れたことを模擬するものである。ここでも、第2共鳴信号生成部320-nについては変更すべき設定はない。
ステップS26で設定するゲイン値も、ステップS22の場合と同様、1でもよいし、LRバランス及び共鳴信号レベルの設定に基づいて予め算出しておいてもよい。
【0068】
次に、ダンパペダルのオフ操作を検出した場合、共鳴設定部60は、押鍵中の鍵と対応する音高以外の全音高のレベル調整部318L-1~88,318R-1~88のゲイン値を双方0に設定する(S28)と共に、押鍵中の鍵と対応する音高以外の全音高の第1減衰部313-1~88のゲイン値を、0に設定する(S29)。これらの設定は、ダンパペダルを離したことにより、押鍵中の鍵のものを除く全音高のダンパが弦に当たったことを模擬するものである。押鍵中の鍵の音高については、ダンパペダルの状態によらず、ダンパは弦から離れている。またここでも、第2共鳴信号生成部320-nについては変更すべき設定はない。
【0069】
共鳴設定部60が以上の
図6及び
図7の処理を行うことにより、共鳴信号生成装置20に、ピアノの鍵盤及びダンパペダルの操作に応じて、実際のピアノの動作を模した各弦による共鳴信号を生成させることができる。
この場合において、第1共鳴信号生成部310が生成する有効弦75と対応する第1共鳴信号は、離鍵後はステップS14,S15の設定に応じて直ちにゼロレベルになるのに対し、第2共鳴信号生成部320が生成する後方弦76と対応する第2共鳴信号は、離鍵後も減衰速度は変化しない。
【0070】
この第2共鳴信号による残響は、後方弦入力生成部328により励起信号のレベルを下げているため、普段は第1共鳴信号による残響よりも目立たない。しかし、例えばスタッカート奏法のように、押鍵操作後短時間で、押鍵により励起された第2共鳴信号があまり減衰しないうちに離鍵操作がなされ、かつ次の押鍵までに少し時間が空くような演奏がなされた場合には、離鍵から次の押鍵までの間、第2共鳴信号による高音の残響が目立つ状態となり、実際のピアノにおいて前方弦77や後方弦76が寄与する高音の残響を再現することができる。
このことにより、共鳴信号生成装置20は、第2共鳴信号生成部320がない場合と比べて、実際のピアノにより近い弦の共鳴音の音信号を生成することができる。
【0071】
なお、以上の処理の他、ダンパペダルがオンの状態とそうでない状態とで、レベル調整部317L,317Rのゲイン値を変えることも考えられる。ダンパペダルオンをトリガに全音高のレベル調整部317L-1~88,317R-1~88のゲイン値を第1設定値に設定し、ダンパペダルオフをトリガに全音高のレベル調整部317L-1~88,317R-1~88のゲイン値を第2設定値に設定する等である。レベル調整部327L,327Rのゲイン値についても同様である。
【0072】
以上で実施形態の説明を終了するが、装置の構成、具体的な処理や演算の内容及び手順、共鳴信号生成部の数等が上述の実施形態で説明したものに限られないことはもちろんである。
【0073】
例えば、上述した実施形態では、88弦のピアノと対応して、88個の共鳴信号生成部30を設ける例について説明した。しかし、共鳴信号生成部30の数は任意である。ピアノの音色を模擬するにしても、全弦と対応する共鳴信号生成部30を設けることは必須ではないし、88鍵以外のピアノを模すのであれば、該当のピアノの鍵数に応じた数の共鳴信号生成部30を設けることになる。
また、ピアノにおいて、1つの音高に対し、微妙に共鳴周波数を変えた複数の弦を設けることもある。これと対応し、1つの音高に対し、その各弦と対応する共鳴周波数の共鳴信号を生成する複数の共鳴信号生成部30を設けることも考えられる。
また、使用する音高は、平均律に従ったものに限られない。
【0074】
また、上述した実施形態では、全音高と対応する共鳴信号生成部30に、第1共鳴信号生成部310と第2共鳴信号生成部320とを設けていたが、これは必須ではない。一部の音高についてのみ第1共鳴信号生成部310と第2共鳴信号生成部320とを設け、他の音高では第1共鳴信号生成部310のみを設けてもよい。
【0075】
図8に、このような構成の例を示す。
図8は、1番目からx番目までの音高(xは1以上)については、共鳴信号生成部30′に第2共鳴信号生成部320を設けず、第1共鳴信号生成部310のみとした共鳴信号生成装置20の機能構成を示す、
図2と対応する図である。なお、第2共鳴信号生成部320を設けない場合、加算部315は不要である。
第2共鳴信号生成部320を設けるためには一定のリソースを要するので、第2共鳴信号の重要性が高い音高範囲に絞って設けることにより、リソースを節約することができる。この場合のリソースとは、回路であれば実装面積や部品点数、ソフトウェアであればプロセッサの処理能力等である。
【0076】
なお、ピアノの機種によっては、低音域の弦については後方弦76にフェルト等の振動抑制部材を当てて後方弦76をミュートしているものもある。このような機種のピアノを模擬する場合には、上記低音域の音高については、第2共鳴信号生成部320は不要である。ただし、前方弦77を模擬するために第2共鳴信号生成部320を用いる考え方を採ることもできる。
【0077】
また、後方弦76のミュート有りの機種とミュート無しの機種を選択的に模擬できるようにするため、使用しない第2共鳴信号生成部320について、第2減衰部323とレベル調整部341L,341Rのゲイン値をそれぞれ0に設定することにより、該当の第2共鳴信号生成部320の機能を実質的に無効化できるようにしてもよい。
また、上記の変形の他、伝播部40において、最終段の加算部412-88の後で、響板や駒の特性による振動の変化を模擬するためのローパスフィルタを設けてもよい。
【0078】
また、1つの共鳴信号生成部30に、第2共鳴信号生成部320を複数並列に設けることも考えられる。
図9に、第2共鳴信号生成部320を2つ設けた場合の、共鳴信号生成部30及び伝播部40の構成を示す。
図9には、1つの音高と対応する共鳴信号生成部30のみを示している。
【0079】
図9の構成においては、共鳴信号生成部30に、第2共鳴信号生成部320bと第2共鳴信号生成部320cとを設けている。これらは基本的に同じ構成であるが、例えば、第2共鳴信号生成部320bは後方弦76による共鳴を模擬するために用い、第2共鳴信号生成部320cは前方弦77による共鳴を模擬するために用いることが考えられる。
この場合、第2遅延部321b,321cには、それぞれの弦の共鳴周波数と対応する遅延量を設定し、第2減衰部323b,323cにも、それぞれの弦の特性と対応するゲイン値を設定する。前方弦入力生成部328cは、後方弦入力生成部328bと同様、
図5に示した構成であるが、レベル調整部341L,341Rのゲイン値や、エンベロープ制御部343が使用するエンベロープは、前方弦77の配置や特性に合った値を設定する。
【0080】
第2遅延部321bが保持する共鳴信号は、レベル調整部327bL,327bRによりそれぞれレベル調整され、第2遅延部321cが保持する共鳴信号は、レベル調整部327cL,327cRによりそれぞれレベル調整され、第2共鳴信号生成部320b,320cが出力するL系統及びR系統の共鳴信号として、
図2の出力加算部50L,50Rに入力される。
【0081】
また、第2共鳴信号生成部320bと第2共鳴信号生成部320は、
図3に示した第2共鳴信号生成部320の構成に加え、レベル調整部326b,326cを備える。これは、後方弦76と前方弦77とで、伝播部40が模擬する駒72から受ける影響が異なることを模擬するために設けたものである。
図4からわかるように、後方弦76は駒72と接触している一方、前方弦77は駒72と離れている。このため、前方弦77には、駒72からの振動エネルギーの伝播は少ないと考えられる。従って、レベル調整部326bには1に近いゲインを設定する一方、レベル調整部326cには0に近いゲインを設定することにより、この違いを模擬することができる。
【0082】
また、後方弦76及び前方弦77から駒72への振動エネルギーの伝播にも同様な差があると考えられる。そこで、第2遅延部321bから加算部325への信号出力経路と、第2遅延部321cから加算部325への信号出力経路とにもそれぞれレベル調整部を設け、1に近いゲインを設定する一方、レベル調整部326cには0に近いゲインを設定することにより、この違いを模擬することも考えられる。
【0083】
以上の構成によれば、上述した実施形態のように1つのループ部を持つ第2共鳴信号生成部320で後方弦76と前方弦77の双方による共鳴を模擬する場合に比べ、より実際のピアノに近い弦の共鳴音の音信号を生成することができる。
また、この発明において、伝播部40は必須ではない。後方弦76あるいは前方弦77による共鳴を模した共鳴信号を得るだけであれば、伝播部40を設けず、第2共鳴信号生成部320に必要なパラメータ値を設定し、後方弦入力生成部328で、駒を介した振動の伝播も考慮したレベルの第2励起信号を生成するのみでも一応の機能は果たせる。
【0084】
また、以上の他、第2共鳴信号生成部320で生成する共鳴信号は、必ずしも対応する第1共鳴信号生成部310が模擬する弦と同じ弦を模擬したものでなくてよい。例えば、ピアノの機種によっては、有効弦と別の弦として、押鍵に応じて打弦されない、共鳴音生成用の弦を設けることもある。共鳴音生成用の弦の共鳴周波数の音高は、有効弦の音域より低音側でも高音側でもよく、有効弦の音域中に設けることもあり得る。第2共鳴信号生成部320を、このような共鳴音生成用の弦による共鳴を模擬するために用いることも考えられる。このような場合も考慮すると、第2共鳴信号生成部320が生成する共鳴信号の音高を、対応する第1共鳴信号生成部310が生成する共鳴信号の音高よりも低くすべき場合もある。
【0085】
また、上述の実施形態では、共鳴信号生成装置20を、電子楽器10に内蔵したユニットとして構成した例について説明した。しかし、共鳴信号生成装置20は独立した装置として、例えば、入力する音信号に基づき、該音信号により励起される弦の共鳴音を表す共鳴信号を生成する機能を備える装置として構成することもできる。この場合、共鳴信号生成装置20は、CPU、ROM、RAM等からなるコンピュータにより、
図2及び
図3に示した各部を制御するように構成することができる。あるいは、共鳴信号生成装置20は、コンピュータに所要のプログラムを実行させることにより、
図2及び
図3に示した各部の機能を実現させるように構成することもできる。この場合のプログラムは、この発明のプログラムの実施形態である。
【0086】
このようなプログラムは、はじめからコンピュータに備えるROMや他の不揮発性記憶媒体(フラッシュメモリ,EEPROM等)などに格納しておいてもよい。しかし、メモリカード、CD、DVD、ブルーレイディスク等の任意の不揮発性記録媒体に記録して提供することもできる。それらの記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータにインストールして実行させることにより、上述した各機能を実現させることができる。
さらに、ネットワークに接続され、プログラムを記録した記録媒体を備える外部装置あるいはプログラムを記憶手段に記憶した外部装置からダウンロードし、コンピュータにインストールして実行させることも可能である。
【0087】
また、この発明の電子音楽装置は、電子楽器10の他、演奏操作子17を備えず、外部から供給される演奏データに従って楽曲の音データを生成する音源装置として構成することもできる。また、音データの生成方式も、PCM方式に限らず、FM(Frequency Modulation方式)など、任意の方式を採用可能である。
【0088】
また、上述の実施形態では、第1励起信号として、音源回路18が生成した音信号をそのまま用いる例について説明したが、第2励起信号の場合と同様に、アタック部を抽出する等の加工を行った信号を、第1励起信号として用いてもよい。あるいは、リソースが許せば、1つの演奏操作に基づき、楽音の音信号と励起用の音信号とを異なる音色の音信号として別々に生成し、後者を第1励起信号及び第2励起信号として用いてもよい。また、リソースが許せば、さらに、第1励起信号と第2励起信号とを、異なる音色の音信号として別々に生成してもよい。
【0089】
また、共鳴信号生成装置20を、上述した実施形態のような、外部から入力する音信号に共鳴音の音信号を付加する構成ではなく、打弦のエネルギーを示す信号を励起信号として用い、各共鳴信号生成部30が、その打弦に応じて弦から発せられる打弦音の信号と共鳴音の信号の双方を生成する構成とすることもできる。この場合、各共鳴信号生成部30に入力する励起信号は、例えば、ピアノの音色を用いて生成した音源回路18が音信号から、打弦時点からごく短期間の信号を抽出して生成することができる。また、この場合の励起信号は、打弦のエネルギーを示すものであることから、上述した実施形態のように全音高と対応する共鳴信号生成部30に入力するのではなく、押鍵された音高の共鳴信号生成部30にのみ入力する。
【0090】
また、以上説明してきた各装置の機能を、複数の装置に分散させて設け、当該複数の装置を協働させて、以上説明してきた各装置と同様な機能を実現させることも可能である。
また、以上説明してきた各実施形態及び変形例の構成は、相互に矛盾しない限り任意に組み合わせて実施可能であることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上の説明から明らかなように、この発明によれば、ピアノを模した演奏音あるいはその音信号を生成する場合に、より実際のピアノに近い弦の共鳴音あるいはその音信号を生成することができるので、実際のピアノに近い音あるいはその音信号を出力する装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0092】
10…電子楽器、11…CPU、12…ROM、13…RAM、14…MIDI_I/F、15…パネルスイッチ、16…パネル表示器、17…演奏操作子、18…音源回路、20…共鳴信号生成装置、21…DAC、22…サウンドシステム、23…システムバス、30,30′,500…共鳴信号生成部、40…伝播部、50L,50R…出力加算部、51L,51R…加算部、60…共鳴設定部、70…弦、71…針金枕、72…駒、73…ペアリング、74…アリコート、75…有効弦、76…後方弦、77…前方弦、78…ハンマ、79…ダンパ、310…第1共鳴信号生成部、311…第1遅延部、312,314,315,322,324,342,412…加算部、313…第1減衰部、317L,317R,318L,318R,341L,341R…レベル調整部、320…第2共鳴信号生成部、321…第2遅延部、323…第2減衰部、343…エンベロープ制御部、411…伝播減衰部