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7053002熱交換用配管を備えた熱交換システム、及び熱交換用マットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】熱交換用配管を備えた熱交換システム、及び熱交換用マットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 7/10 20060101AFI20220405BHJP
   F28F 13/18 20060101ALI20220405BHJP
   F28F 23/00 20060101ALI20220405BHJP
   F28F 21/06 20060101ALI20220405BHJP
   F25B 27/00 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
F28D7/10 Z
F28F13/18 Z
F28F23/00 Z
F28F21/06
F25B27/00 P
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018017499
(22)【出願日】2018-02-02
(65)【公開番号】P2019132573
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】595053777
【氏名又は名称】吉佳エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】大岡 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大岡 伸吉
(72)【発明者】
【氏名】張 満良
(72)【発明者】
【氏名】田熊 章
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-525729(JP,A)
【文献】特開2013-252522(JP,A)
【文献】特開2013-100935(JP,A)
【文献】特表2008-520953(JP,A)
【文献】特開2006-322667(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0211899(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0151005(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 7/10
F28F 13/18
F28F 23/00
F28F 21/06
F25B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された既設管と、
該既設管の内壁に固定された熱交換用配管と、を備え、
前記既設管内を流れる流体と前記熱交換用配管内を流れる熱交換媒体との間で熱交換を行う熱交換システムにおいて、
前記熱交換用配管を複数並列してマット状に形成した熱交換用マットと、
前記熱交換用マットを前記既設管の内壁に押し付けて固定する固定部材と、を備え、
前記熱交換用マットは、前記既設管の伸長方向に流路が形成されるように断面略円形状の前記熱交換用配管が複数並列され、幅方向に円弧形状が連なる凹凸状の表面を有しており、前記熱交換用配管は、少なくとも前記流体が流通する側の表面に、前記熱交換媒体と前記流体との間の伝熱性能を高め、且つ前記熱交換媒体の流路と異なる材料で構成されたコーティング層を有し、
前記コーティング層は、前記熱交換用配管よりも熱伝達率の高い材料からなり、前記熱交換用配管の円弧形状の表面に沿って断面略円弧形状に形成され、
前記固定部材は、前記コーティング層を介して前記熱交換用マットを構成する各熱交換用配管の頂部と当接された状態で取り付けられたことを特徴とする熱交換システム。
【請求項2】
複数の熱交換用配管を並列配置してマット状に形成した熱交換用マットであって、地中に埋設された既設管の内壁に固定されて、前記熱交換用配管を流れる熱交換媒体と前記既設管を流れる流体との間で熱交換を行う熱交換システムに用いられる熱交換用マットの製造方法であって、
並列する複数の熱交換用配管を連結した樹脂材料からなる配管束を形成する配管束形成工程と、
該配管束形成工程後の高温の前記配管束を所定の温度まで一次冷却する一次冷却工程と、
該配管束の表面に、前記樹脂材料よりも熱吸収率及び/又は熱伝達率の高い塗料を塗布してコーティング層を形成するコーティング層形成工程と、
前記コーティング層が形成された前記配管束を二次冷却して硬化させる硬化工程と、
を含み、
前記塗料は、フレーム処理若しくはプラズマ処理された前記配管束の表面、又は前記所定の温度に加熱された状態にある前記配管束の表面に対して塗布されることを特徴とする熱交換用マットの製造方法。
【請求項3】
前記コーティング層形成工程において、
前記塗料は、シリコンカーバイド及び/又はカーボンナノチューブを含む粉末体と溶材とを混合したものであり、該塗料をブラッシング、スプレー又は浸漬塗装によって前記配管束の表面に塗布することを特徴とする請求項に記載の熱交換マットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋設された既設管内を流れる流体との間で熱交換を行う熱交換媒体を流す熱交換用配管を備えた熱交換システム、及び熱交換用配管を備えた熱交換用マットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設された既設管(例えば、下水管、上水道管、農業用水路管、工業用水路管等)を流れる流体は、外気温度に対して季節変動が少ないことから、近年、この流体と地上の流体(例えば、外気温度に近い温度の水等)との温度差を利用して熱交換を行い、熱エネルギーを利用する熱交換システムが開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、地中に埋設された下水管の外周面上に管軸方向に伸長する採熱管を配置し、下水管内を流れる下水と採熱管を流れる熱交換媒体との間で熱交換を行うことで下水熱を利用する下水熱利用システムが記載されている。この下水熱利用システムでは、採熱管が下水に直接接触することがないため、メンテナンスが不要で維持コストが低減できるという効果がある。
【0004】
しかしながら、採熱管を流れる熱交換媒体は、下水管を介して下水と熱交換を行うため、熱交換率が低いものとなってしまう。
【0005】
熱交換率を向上するために、採熱管を下水管の内部に配設した熱交換システムが開発されている。例えば、特許文献2には、下水管の内周を覆う更生材の内部に複数の熱交換流路を設けた下水熱利用システムが記載されている。この下水熱利用システムにおいて、更生材及び熱交換流路は樹脂材料によって一体的に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-241226号公報
【文献】特開2013-148314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の下水熱利用システムでは、熱交換流路や更生材を金属材料に比して可撓性のある樹脂材料で形成することにより、施工性や耐久性に優れた構造とすることができる。
【0008】
しかしながら、樹脂材料は金属材料に比べて熱伝導率が低くなるという問題がある。それ故、熱交換流路に樹脂材料等、比較的熱伝導率が低い材料を用いた場合であっても、熱交換率を高めることが可能な構造が求められていた。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、熱交換媒体の流路が、比較的熱伝導率が低い材料で構成されていても、熱交換媒体と既設管を流れる流体との間の熱交換率を向上することが可能な熱交換用配管を備えた熱交換システム、及び熱交換用配管を備えた熱交換用マットの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために、請求項に記載の熱交換システムは、
地中に埋設された既設管と、
該既設管の内壁に固定された熱交換用配管と、を備え、
前記既設管内を流れる流体と前記熱交換用配管内を流れる熱交換媒体との間で熱交換を行う熱交換システムにおいて、
前記熱交換用配管を複数並列してマット状に形成した熱交換用マットと、
前記熱交換用マットを前記既設管の内壁に押し付けて固定する固定部材と、を備え、
前記熱交換用マットは、前記既設管の伸長方向に流路が形成されるように断面略円形状の前記熱交換用配管が複数並列され、幅方向に円弧形状が連なる凹凸状の表面を有しており、前記熱交換用配管は、少なくとも前記流体が流通する側の表面に、前記熱交換媒体と前記流体との間の伝熱性能を高め、且つ前記熱交換媒体の流路と異なる材料で構成されたコーティング層を有し、
前記コーティング層は、前記熱交換用配管よりも熱伝達率の高い材料からなり、前記熱交換用配管の円弧形状の表面に沿って断面略円弧形状に形成され、
前記固定部材は、前記コーティング層を介して前記熱交換用マットを構成する各熱交換用配管の頂部と当接された状態で取り付けられたことを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、熱交換用マットの表面に形成されたコーティング層によって、熱交換用配管を流れる熱交換媒体と既設管を流れる流体との間の伝熱性能を高めることができる。また、複数の熱交換用配管を並列してマット状に形成した熱交換用マットを用いているので熱交換率が高く、個別に複数の熱交換用配管を配設するものに比して施工性に優れた熱交換システムとすることができる。
【0027】
この構成によれば、既設管を流れる流体から固定部材及びコーティング層を介して熱交換用配管に伝達される熱を熱交換用配管の頂部のみならず、断面円弧状のコーティング層によって熱交換用配管の表面広域に素早く伝達することができ、その結果、流体と熱交換媒体との間の熱交換率を向上させることができる。
【0028】
また、請求項に記載の熱交換用マットの製造方法は、
複数の熱交換用配管を並列配置してマット状に形成した熱交換用マットであって、地中に埋設された既設管の内壁に固定されて、前記熱交換用配管を流れる熱交換媒体と前記既設管を流れる流体との間で熱交換を行う熱交換システムに用いられる熱交換用マットの製造方法であって、
並列する複数の熱交換用配管を連結した樹脂材料からなる配管束を形成する配管束形成工程と、
該配管束形成工程後の高温の前記配管束を所定の温度まで一次冷却する一次冷却工程と、
該配管束の表面に、前記樹脂材料よりも熱吸収率及び/又は熱伝達率の高い塗料を塗布してコーティング層を形成するコーティング層形成工程と、
前記コーティング層が形成された前記配管束を二次冷却して硬化させる硬化工程と、
を含み、
前記塗料は、フレーム処理若しくはプラズマ処理された前記配管束の表面、又は前記所定の温度に加熱された状態にある前記配管束の表面に対して塗布されることを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、樹脂材料からなる配管束を加熱した状態で表面にコーティング層を形成する塗料を塗布することにより、配管束に対するコーティング層の付着性を向上することができる。
【0031】
この構成によれば、配管束を一体成形した後、一次冷却によって所定の加熱状態にしてから配管束に対して塗料を塗布してコーティング層を形成し、その後に二次冷却によって成形品を硬化させるので、コーティング層形成のために、別途、加熱装置を設ける必要がなく、配管束を一体成形して硬化させる工程の間にコーティング層を形成することができるので、製造コストを抑制することができる。
【0032】
また、請求項に記載の発明は、請求項に記載の熱交換用マットの製造方法において、
前記コーティング層形成工程において、
前記塗料は、シリコンカーバイド及び/又はカーボンナノチューブ材を含む粉末体と溶材とを混合したものであり、該塗料をブラッシング、スプレー、又は浸漬塗装によって前記配管束の表面に塗布することを特徴とする。
【0033】
この構成によれば、熱交換用マットの熱吸収性能を向上して、既設管を流れる流体と、熱交換用マット内を流通する熱交換媒体との間の熱交換率を向上することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、熱交換率の高い熱交換用配管、熱交換用配管を備えた熱交換用マット、熱交換用配管を備えた熱交換システム、及び熱交換用マットの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の第1の実施形態である熱交換システムを模式的に示す概略図。
図2】(a)は、図1のII-II線断面図。(b)は、図2(a)のbで囲む領域の拡大断面図。
図3】本発明の第2の実施形態である熱交換システムを模式的に示す図2と同様の断面図。
図4】熱交換用マットを管周方向に展開した模式図。
図5図4のV-V線断面図。
図6】熱交換用マットの製造工程の説明図。
図7】熱交換用マットの製造工程の説明図。
図8】熱交換用マットの変形例1を示す図2(a)と同様の断面図。
図9】熱交換用マットの変形例2を示す図2(a)と同様の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態である熱交換システムを模式的に示す概略図である。熱交換システム10は、地中に埋設された既設管である下水管70に適用される。下水管70は2つのマンホール72,74の間に配設され、この2つのマンホール72,74を連通している。熱交換システム10は、複数の熱交換用配管20と、熱交換用配管20を下水管70に固定する固定部材となる更生管30と、ヒートポンプユニット40とを備える。なお、図1では下水管70及びマンホール72,74内の下水78の記載を省略している。
【0037】
熱交換用配管20は、下水管70の管軸方向に伸長し、下水管70の周方向に並んで複数配設される。図2に示すように、熱交換用配管20は、中空の流路管22と、流路管22の表面に形成されたコーティング層25とを有する。
【0038】
流路管22は熱交換媒体が流通可能な筒状体であり、その断面形状は、円形、楕円形、多角形等、適宜設定することができる。流路管22の太さや材質は特に限定されないが、可撓性を有し、内圧及び外圧に耐え得る強度や耐久性を有する材料、例えば、PP樹脂、PBT樹脂、PET樹脂、PE樹脂やゴム材料等の樹脂材料が好適に用いられる。
【0039】
コーティング層25は、流路管22の外周面22aであって少なくとも下水78が流通する側の表面に形成されており、本実施の形態では、熱交換用配管20の外周全域がコーティング層25で覆われている。
【0040】
コーティング層25は、流路管22よりも熱吸収率(すなわち、熱輻射に対する吸収率)及び/又は熱伝導率の高い材料で構成される。本実施の形態では、樹脂製の流路管22に比して熱吸収率及び熱伝導率の両方が高くなるように、コーティング層25が、シリコンカーバイド及びカーボンナノチューブのうちの少なくとも一つを含む材料で構成されている。さらに、熱吸収性能を高めるため、コーティング層25の色は熱反射性の低い色、特に黒色であることが好ましい。さらに、本実施の形態のコーティング層25は、流路管22に対するバインダ樹脂(例えば、ポリオレフィン系樹脂等)を含んでいる。コーティング層25の厚さは、約0.8~45μmとすることが好ましく、約5~15μmとすることがより好ましい。一般的に表面塗装の層厚は20μm以上であるが、これよりも薄い層厚にすることで、熱伝導性の低下を抑制しながら高い熱吸収性能を得ることができる。なお、図示していないが、熱交換用配管20とコーティング層25との間に、コーティング層25の付着性や密着性を高めるためのシーラー(下塗り塗装)を設けてもよい。
【0041】
本実施の形態では、熱交換媒体の往路及び復路をそれぞれ4本の熱交換用配管20により形成しているが、熱交換用配管20の数はこれに限られず、適宜選択することができる。図示していないが、往路となる各熱交換用配管20Aは、連結用配管を介して復路となる各熱交換用配管20Bに連結されている。具体的には、往路となる熱交換用配管20Aの先端(すなわち、マンホール74側の端部)が、U字状の連結用配管の一端に連結され、該連結用配管の他端が、復路となる熱交換用配管20Bの先端(マンホール74側の端部)に連結される。なお、連結用配管を用いずに、一連の熱交換用配管20によって往路と復路とが形成されるように、熱交換用配管を曲線的に折り返してもよい。
【0042】
熱交換用配管20は、下水管70の内周面を覆う更生管30によって、下水管70の内壁面側に押し付けられて固定される。図2に示す例では、並列する複数の熱交換用配管20が熱可塑性樹脂等の合成樹脂製のマット材28に内包されて熱交換用マットを構成している。各熱交換用配管20は、マット材28から一部が露出した状態、具体的には、下水78が流れる側の表面が露出した状態であって、この露出部29が更生管30と接触している。なお、コーティング層25は、マット材28よりも熱吸収率及び/又は熱伝導率の高い材料となっている。また、本発明において、マット材28は省略することができる。
【0043】
熱交換用配管20内を流れる熱交換媒体は特に限定されないが、例えば、水、或いは水とアルコール又はエチレングリコールの混合物(不凍液)を用いることができる。
【0044】
更生管30は、下水管70の内周面の全域に亘って設けられた管状体であって、既設管の更生するライニング材により形成される。ライニング材は、従来から使用されているもの、例えば、繊維基材(例として、ガラス繊維マットやフェルト等の不織布)に硬化性樹脂組成物を含浸した管状の硬化性樹脂体からなるライニング材を用いることができる。このライニング材は、例えば、未硬化状態で下水管70内に引き込まれ、これを圧縮空気により下水管70の内壁に押し当てて管状にし、この状態で光硬化性樹脂組成物の場合は光照射、熱硬化性樹脂組成物の場合は加熱することにより硬化させて更生管30を形成することができる。なお、ライニング材は、必要に応じてその管状物の内面及び外面を保護するインナーフィルム及びアウターフィルムを有するものを用いることができる。インナーフィルム及びアウターフィルムとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等を用いることができる。インナーフィルムはライニング材を硬化した後に剥離されてもよい。
【0045】
各熱交換用配管20の基端部は、図示していない連結部材を介して配管45と連結される。具体的には、往路となる熱交換用配管20の基端部は、連結部材を介して配管45の一端に連結され、復路となる熱交換用配管20の基端部は、連結部材を介して配管45の他端に連結される。配管45は、ヒートポンプユニット40の第1熱交換器41を通過するように配設される。
【0046】
ヒートポンプユニット40は、冷媒を圧縮するコンプレッサと、第1熱交換器41と、冷媒を膨張させる膨張弁と、第2熱交換器42と、これらを循環する冷媒が流通する冷媒管43とを備える。さらに、ヒートポンプユニット40は、冷媒の循環方向を切替えて、加熱(暖房)と冷却(冷房)との切替えを行う切替スイッチを備える。冷媒は、ヒートポンプユニット40において閉ループを構成する冷媒管43を循環することで、蒸発、圧縮、凝縮、膨張の熱サイクルを受ける。配管45は第1熱交換器41内を通り、第1熱交換器41では、配管45を通る熱交換媒体と、冷媒との間で熱交換が行われる。第2熱交換器42は、例えば、エアコンの室内機等を構成し、冷媒と室内空気との間で熱交換を行う。
【0047】
上述した熱交換システム10では、熱交換媒体が、第1熱交換器41を通る配管45から、往路用の熱交換用配管20A、U字状の連結用配管及び復路用の熱交換用配管20Bを経て、再び配管45に戻る循環管路を流通するとともに、熱交換用配管20A,20Bにおいて、熱交換媒体が下水熱を採取する。
【0048】
特に、本実施の形態の熱交換システム10では、熱交換用配管20の表面に熱吸収率及び熱伝導率の高いコーティング層25を設けたことにより、流路管22が金属に比して熱伝導率の低い樹脂材料で構成されていても下水78からの熱エネルギーを大量に吸収して熱交換用配管20の表面に素早く伝達させることができ、その結果、下水78と熱交換媒体との間の伝熱性能を高めて熱交換率を向上させることができる。さらに、コーティング層25は、流路管22よりも熱伝導率の高い材料で構成されているため、更生管30を介して熱交換用配管20に伝達される熱エネルギーを流路管22の表面全体に素早く伝達させて下水78と熱交換媒体との間の熱交換率をより向上させることができる。
【0049】
また、マット材28によって複数の熱交換用配管20を一体化させているので、個別に複数の熱交換用配管20を下水管70内に配設するものに比して施工性に優れている。また、更生管30によって熱交換用配管20を延在方向の全域に亘って下水管70の内壁に固定しているので固定状態が安定する。さらに、熱交換用配管20が下水78と直接的に接触することがないため、メンテナンスを無くし、維持コストを低減することができる。
【0050】
(第2の実施の形態)
図3図5を用いて、本発明の第2の実施の形態である熱交換システム10について説明する。図3は、本発明の第2の実施の形態である熱交換システム10を模式的に示す、図2と同様の断面図である。図3図5において、第1の実施の形態と対応する部位には同一符号を付している。以下に説明する第2の実施の形態において、第1の実施の形態と同一の構成については詳細な説明を省略する。
【0051】
本実施の形態では、下水管70内に熱交換用マット50を敷設している。熱交換用マット50は、並列する複数の熱交換用配管52を幅方向に連結してマット状に形成したものである。具体的には、図4及び図5に示すように、熱交換媒体の往路を構成する熱交換用配管52Aと、継手部材58を介して熱交換媒体の復路を構成する熱交換用配管52Bとを備えており、これらの熱交換用配管52は同一の材料で一体成形され、全体として可撓性を有する厚みのある長尺平板状に形成されている。また、図3及び図5に示すように、熱交換用マット50は、少なくとも下水管70内に設置された状態において、下水と対向する側の表面にコーティング層55を有する。
【0052】
熱交換用配管52は、例えば、PP樹脂、PBT樹脂、PET樹脂、PE樹脂やゴム材料等により形成される。本実施の形態では、熱交換媒体の往路及び復路をそれぞれ9本の熱交換用配管52により形成しているが、本数はこれに限られず、往路及び復路のそれぞれが1本以上、すなわち、往路及び復路を合わせて2本以上の熱交換用配管52によって構成されていればよい。また、図示例では熱交換用配管52の断面は、円形のものに限られず、楕円形、多角形等、熱交換媒体を流通可能な筒状体であればよい。なお、熱交換用マット50の表面積を広くするために、下水と対向する側の表面が凹凸状に形成されていることが好ましく、本実施の形態では、幅方向に複数連なる円弧形状に形成されている。
【0053】
コーティング層55は、熱交換用配管52よりも熱伝導率及び/又は熱吸収率(すなわち、熱輻射に対する吸収率)の高い材料によって熱交換用マット50の表面に形成された薄膜である。図5に示すように、コーティング層55は、断面略円形状の熱交換用配管20の表面に沿って、断面略円弧形状に形成されている。コーティング層55の厚さは、約0.8~45μmとすることが好ましく、約5~15μmとすることがより好ましい。コーティング層55の厚さは、一様であってもよいが、円弧状の頂部の厚さd1よりも円弧状の凹部の厚さd2の方が大きくなるように形成されることが好ましい。
【0054】
本実施の形態では、熱交換用配管52に比して熱吸収率及び熱伝導率の両方が高くなるように、コーティング層55が、シリコンカーバイド及びカーボンナノチューブのうちの少なくとも一つを含む材料で構成されている。さらに、熱吸収性能を高めるため、コーティング層55の色は熱反射性の低い色、特に黒色であることが好ましい。さらに、本実施の形態のコーティング層55は、熱交換用配管52に対するバインダ(結合剤)を含んでいる。バインダの例として樹脂材料からなるバインダ樹脂、一例として、ポリエチレン樹脂製の熱交換用配管52に対し、同系のポリオレフィン系樹脂を用いることができる。なお、必要に応じて、熱交換用配管52とコーティング層55との間にシーラー(下塗り塗装)を設けてもよい。また、コーティング層55は、板状の熱交換用マット50の両面に形成されていてもよい。
【0055】
本実施の形態の熱交換用マット50において、並列する複数の熱交換用配管52は、熱可塑性の樹脂材料によって一体形成されている。なお、複数の熱交換用配管52は、一体形成のものに限られず、例えば、熱交換用配管52と別体若しくは一体の連結手段により各熱交換用配管52を互いに接続固定する、又は接着剤で互いに接着する等により、並列状態が維持されるように接続してもよい。また、複数の熱交換用配管52は、図3(a)に示すように、設置状態において管周方向に一列に並ぶように構成されることが好ましい。
【0056】
図4に示すように、往路となる熱交換用配管52Aの先端は、それぞれ、継手材58を介してU字状の連結用配管59の一端に連結されており、復路となる熱交換用配管52Bの先端は、それぞれ、継手材58を介して連結用配管59の他端に連結される。なお、連結用配管59の形状は、図示例のものに限られず、往路用の熱交換用配管52Aと復路用の熱交換用配管52Bとを繋ぐ管路形状のものであればよい。さらに、熱交換用マット50は、一連の熱交換用配管52によって往路と復路とが形成されるように、熱交換用マット50の先端部において各熱交換用チューブ52を曲線的に折り返したものであってもよい。
【0057】
熱交換用マット50は、更生管30によって、下水管70内壁へ押し付けられ固定される。さらに、熱交換用マット50の基端部は、図示していない連結部材を介して配管45と連結される。具体的には、往路用の熱交換用配管52Aの基端部は、連結部材を介して配管45の一端に連結され、復路用の熱交換用配管52Bの基端部は、連結部材を介して配管45の他端に連結される。配管45は、図1に示すように、ヒートポンプユニット40の第1熱交換器41を通過するように配設される。
【0058】
本実施の形態の熱交換システム10では、熱交換媒体が熱交換用マット50を通過する際に下水78との間で熱交換が行われる。特に、本実施の形態の熱交換用マット50は、下水78が流通する側の表面に熱吸収率及び熱伝達率の高いコーティング層55が形成されているため、熱交換用配管52が比較的熱伝導率の低い材料で構成されていたり、熱交換用配管52と下水78とが非接触状態であった場合であっても、下水78からの熱エネルギーを大量に吸収して熱交換用配管52の表面に素早く伝達させることができ、その結果、下水78と熱交換媒体との間の伝熱性能を高めて熱交換率を向上させることができる。
【0059】
また、コーティング層55は、熱交換用配管52よりも熱伝導率の高い材料で構成されているため、図3(b)に示すように、更生管30を介してコーティング層55の凸部55aに伝達された熱エネルギーを更生管30と非接触状態にあるコーティング層55の凹部55b,55cまで素早く伝達させることができる。これにより、更生管30及びコーティング層55を介して熱交換用配管52に伝達される熱エネルギーを、熱交換配管52の頂部51のみならず、熱交換用配管52の表面広域に素早く伝達することができ、その結果、下水78と熱交換媒体との間の熱交換率が向上する。
【0060】
さらに、熱交換用マット50の凹凸状の表面の凹部において、コーティング層55の層厚d2は、凸部の層厚d1よりも厚くなっているので、下水78との離間距離が大きくなる熱交換用マット50の凹部において、熱伝導性や熱吸収性を高めることができる。
【0061】
また、下水管70内で熱交換用配管52を1本ずつ束状に纏める必要がないので、下水道管70内の施工時間を短縮することができる。さらに、熱交換用マット50は、隣接する熱交換用配管52の間の凹部において、剛性が低くなり、湾曲しやすくなるため、下水管70の内壁面に沿って円弧状に湾曲させやすく、設置が容易である。
【0062】
次に、図6を用いて上述した熱交換用マット50の製造方法について説明する。
【0063】
まず、図6(a)に示すように、液状の樹脂材料を並列した束状の配管を形成する成形型80内に注入し、成形型で溶融樹脂を冷却することにより、並列状態にある複数の配管束90を一体形成する(配管束形成工程)。成形後、高温状態にある配管束90を冷却装置81によって配管束90を冷却して硬化させ、配管束90を完成させる(硬化工程)。
【0064】
次に、図6(b)に示すように、完成した配管束90を塗装前処理装置83に搬送し、配管束90の表面の接着性を向上させるための処理を施す(塗装前処理工程)。塗装前処理装置83は、例えば、プラズマ放電によって表面処理を施すプラズマ処理装置、又はバーナー等を用いてフレーム(炎)によって表面処理を施すフレーム処理装置とすることができる。プラズマ処理やフレーム処理を行うことで、配管束90の表面の分子結合構造を変化させて、コーティング層55を形成する塗料92の接着性を向上させることができる。また、これらの処理装置に代えて、塗装前処理装置83は、配管束90全体を加熱する加熱装置とすることができる。加熱装置によって所定の温度(例えば、約190℃)に加熱された配管束90は、表面が軟化した状態になり、表面の接着性が向上する。
【0065】
塗装前処理工程の後、配管束90の表面に、コーティング層55を形成するための塗料92を塗布する(コーティング層形成工程)。なお、配管束90にプラズマ又はフレームによって表面処理を施した場合、コーティング層形成工程は、表面処理の後、一定の期間内に行われる。この場合、配管束90の温度は、加熱装置によって前処理を行うものよりも低い温度(すなわち、配管束90が軟化することのない温度。例えば、約50℃や室温等)とすることができる。
【0066】
塗料92は、熱交換率向上のための機能性材料であるシリコンカーバイド及び/又はカーボンナノチューブと結合剤であるバインダ樹脂とを含む粉末体と、溶媒(例えば、水などの水性系溶媒や有機溶剤)とを混合したものである。本実施の形態では溶媒として水を用いている。塗料92はスプレー又は刷毛などによるブラッシングによって配管束90の表面に塗布されることが好ましい。図6(b)に示す例では、塗装装置の噴射ノズル84から塗料92を噴出してコーティング層55をスプレー塗装している。その後、必要に応じて冷却装置及び/又は乾燥装置を用いて、コーティング層55及び配管束90を硬化させることにより、熱交換用マット50を完成させる。
【0067】
この製造方法では、樹脂材料からなる配管束90に塗装前処理を施した後、コーティング層55を形成する塗料92を塗布しているので、配管束90に対するコーティング層55の付着性を向上することができる。配管束90が、例えば架橋ポリエチレン等の樹脂材料で形成される場合、硬化後の表面は滑りやすく塗料92が付着し難い状態となるが、表面処理を施したり、加熱によって表面を軟化させたりした状態で塗料92を付着させることで、コーティング層55の付着性が高まり、剥離を防止することができる。
【0068】
また、塗料92を配管束90の表面に吹き付けることで、コーティング層55の表面が粗面状になり、その結果、表面積が大きくなって熱吸収率が高くなる。
【0069】
なお、コーティング層55は、スプレーやブラッシングによる塗装に代えて、図6(c)に示すように、塗装前処理装置83を経た後、塗料92の入った塗料槽87に配管束90を浸漬させる浸漬塗装によって形成してもよい。
【0070】
図7は、熱交換用マット50の別の製造方法を説明する図である。なお、図7において、図6に記載した装置と同一の構成のものについては、同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0071】
この製造方法では、まず、液状の樹脂材料を成形型80内に注入し、成形型で溶融樹脂を冷却することにより、並列状態にある複数の配管束90を一体形成する(配管束形成工程)。
【0072】
その後、成形された配管束90を冷却装置85によって所定の温度に一次冷却する(一次冷却工程)。一次冷却後の配管束90は所定の加熱状態にあり、完全硬化される前の軟化状態にある。なお、冷却温度は適宜設定することができ、一例として、約250℃の配管束90を第1の冷却装置81によって約190℃まで冷却する構成とすることができる。
【0073】
次に、軟化状態の配管束90の表面に、コーティング層55を形成するための塗料92を塗布する(コーティング層形成工程)。塗料92は、図6に示す例と同様に、スプレー又はブラッシングで配管束90の表面に塗布したり、浸漬塗装によって塗布したりすることができる。
【0074】
次に、コーティング層55が形成された配管束90を第2の冷却装置86によって二次冷却し、軟化状態にある配管束90を硬化させる(硬化工程)。これにより、熱交換用マット50が形成される。
【0075】
この製造方法では、加熱装置を設けることなく、樹脂製の配管束90を一体成形した後、冷却・硬化させるまでの間にコーティング層55を形成して熱交換用マット50を完成させることができるので、コーティング層55の付着性を確保しながら、製造時間を短縮し、製造コストを抑制することができる。なお、配管束90の加熱温度(図7の例では一次冷却温度)は、配管束90の表面が硬化せずに軟化状態となる温度であればよく、190℃に限られず適宜設定することがでる。また、本製造方法において、冷却装置85,86は必須の構成ではなく、例えば、これらの装置の一方又は両方を用いずに、自然冷却によって所定の温度まで冷却させたり、硬化させたりしてもよい。
【0076】
なお、コーティング層55を配管束90よりも熱伝導率の高い金属材料、例えばアルミニウム合金等によって形成する場合、コーティング層形成工程において、金属溶射を行って金属溶射皮膜を形成してもよい。
【0077】
(変形例1)
次に、図8を用いて熱交換用マット50の変形例1を説明する。変形例1の熱交換用マット50は、平板状の両面が凹凸のない平滑面状に形成されている。複数の熱交換用配管52は、断面略四角形状であって隣接する熱交換用配管52の側面が一体化されており、流路断面が略四角形状に形成されている。また、熱交換用マット50の更生管30側の表面には、熱交換用配管52よりも熱吸収率及び熱伝導率の高いコーティング層55が形成されている。
【0078】
変形例1のように、熱交換用マット50の表面、より具体的には、並列状態にある熱交換用配管52の表面は、凹凸のない平滑面状であってもよく、コーティング層55を有することで、輻射による熱吸収率が高まる。さらに、熱伝導率の高いコーティング層55によって吸収した熱エネルギーを素早く熱交換用配管52に伝達することができる。
【0079】
(変形例2)
次に、図9を用いて熱交換用マット50の変形例2を説明する。変形例1の熱交換用マット50は、下水管70の内壁と対向する外側表面50aが平面状であって、更生管30と対向する内側表面50bが幅方向に円弧形状が複数連なった凹凸状に形成されている。なお、図示例では、更生管30によって内側表面50bが押しつぶされて円弧状の頂部が平らに近い形状となっている。コーティング層55は、隣接する熱交換用配管52の間において、層厚が厚くなっている。
【0080】
変形例2のように、熱交換用マット50は、下水78が流れる側の表面50bのみを凹凸状に形成することにより、下水78からの採熱面積を大きくしながら、他方の表面50
からの放熱を抑制することができる。
【0081】
なお、変形例1,2の熱交換用マット50も、上述した熱交換用マット50の製造方法により製造することが可能である。
【0082】
各実施の形態及び変形例を示す各図では、熱交換用配管20,52及び熱交換用マット50の構成を理解しやすくするために、下水管70に対して熱交換用配管20,52を大きく示しているが、熱交換用配管20,52は、例えば、内径が約7~20mm、外径が約10~25mm、厚さが約1.5~3mmであり、下水管70は、例えば、内径が約1.5~3mであって、熱交換用配管20,52に比して十分に大きな径となっている。
【0083】
なお、本発明は上述した実施の形態や変形例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、熱交換システム10が設置される既設管は下水管70に限らず、上水道管、農業用水路管、工業用水路管等の既設管にも適用することができる。このような管路を流れる水の温度は一年を通して大きく変動することがなく、冬季では高温の熱源として、夏季では低温の熱源として活用することが可能である。また、例えば、熱交換媒体が流れる循環管路は、ヒートポンプユニット40から一方のマンホール72を経て下水管20内に入った後、熱交換配管20,52及び他方のマンホール74内に配設された配管を通って地上のヒートポンプユニット40へ再び戻る循環管路であってもよい。
【0084】
また、熱交換用配管20や熱交換用マット50は、更生管30以外の固定部材によって下水管70内に固定される構造であってもよい。例えば、固定部材は、下水管70の管軸方向に間隔をおいて複数配設された、下水管70の内壁面に沿うリング状又は円弧状の部材とすることができ、該固定部材によって熱交換用配管20や熱交換用マット50を部分的に下水管70の内側から下水管70の内壁に押し付けて固定する構造とすることができる。このような固定部材においては、隣り合う固定部材の間において、熱交換用配管20や熱交換マット50が露出し、下水と直接接触可能となることから、下水と熱交換媒体との間の熱交換率をより向上させることができる。
【0085】
また、コーティング層25,55の表面に、下水78に対する耐久性を向上させるための耐酸性塗料を塗布してもよい。
【符号の説明】
【0086】
10 熱交換システム
20,52 熱交換用配管
25,55 コーティング層
30 更生管(固定部材)
40 ヒートポンプユニット
50 熱交換用マット
70 下水管(既設管)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9