(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】建築物における緊急脱出避難装置
(51)【国際特許分類】
A62B 1/20 20060101AFI20220405BHJP
【FI】
A62B1/20 F
(21)【出願番号】P 2018114164
(22)【出願日】2018-06-15
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】518214647
【氏名又は名称】竹内 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100083655
【氏名又は名称】内藤 哲寛
(72)【発明者】
【氏名】竹内 徹
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-116040(JP,U)
【文献】実開昭62-12365(JP,U)
【文献】特開昭52-75099(JP,A)
【文献】登録実用新案第3024457(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 1/00-5/00
A62B 35/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震、火災等の災害発生時に、建築物の内部の避難者が、当該建築物の窓、非常口等の建物開口を通して脱出避難するための緊急脱出避難装置であって、
非災害発生時には、前記建築物の壁面に近接状態で固定保持され、災害発生時には、回動・停止機構により、90°以内の角度だけ回動して、当該壁面から張出形態で片持ち支持され、建物内部から脱出した避難者の落下衝撃を緩和可能な衝撃緩和平面部を有する張出安全枠体と、
当該張出安全枠体の衝撃緩和平面部に設けられた脱出開口に、下方に垂れ下がって設けられた脱出シュートと、を備え、
非災害時には、前記衝撃緩和平面部及び前記脱出シュートは、収納ケース内に畳まれて収容可能であることを特徴とする建築物における緊急脱出避難装置。
【請求項2】
前記衝撃緩和平面部は、ネットで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の建築物における緊急脱出避難装置。
【請求項3】
前記張出安全枠体の周縁部には、当該張出安全枠体の回動動作と連動して、又は起立駆動手段により起立させられる柵体が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の建築物における緊急脱出避難装置。
【請求項4】
前記脱出シュートは、内部の滑走路が螺旋状に形成されたものであって、垂直又はこれに近い姿勢に配置されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の建築物における緊急脱出避難装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震、火災等の災害発生時に、建築物の内部の避難者が、当該建築物の窓、非常口等の建物開口を通して脱出避難するための建築物における緊急脱出避難装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、上記の目的に使用される防災装置が開示されている。しかし、本件防災装置は、非災害時に張出部材を収容しておく凹部を建築物の壁面に臨んで形成しておくことが必要である。このため、既存の建築物に対しては、適用が難しい。
【0003】
また、建築物がビルの場合には、各階毎に防災装置を設置して、直下の階には、避難梯子を用いて下る構成であるため、全体の装置としては、大掛かりなものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、数階に対して1台を設置する程度で、災害発生時に、建築物の内部の避難者が、当該建築物の窓、非常口等の建物開口を通して脱出避難可能とすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための請求項1の発明は、地震、火災等の災害発生時に、建築物の内部の避難者が、当該建築物の窓、非常口等の建物開口を通して脱出避難するための緊急脱出避難装置であって、
非災害発生時には、前記建築物の壁面に近接状態で固定保持され、災害発生時には、回動・停止機構により、90°以内の角度だけ回動して、当該壁面から張出形態で片持ち支持され、建物内部から脱出した避難者の落下衝撃を緩和可能な衝撃緩和平面部を有する張出安全枠体と、
当該張出安全枠体の衝撃緩和平面部に設けられた脱出開口に、下方に垂れ下がって設けられた脱出シュートと、を備え、
非災害時には、前記衝撃緩和平面部及び前記脱出シュートは、収納ケース内に畳まれて収容可能であることを特徴としている。
【0007】
請求項1の発明によれば、張出安全枠体は、非使用時(非災害発生時)には、建築物の壁面に近接状態で固定保持され、地震、火災等の災害発生時に、当該張出安全枠体のロック装置を解除すると、当該張出安全枠体は、回動・停止機構により、90°以内の角度だけ回動して、当該壁面から張出形態で片持ち支持されることで、当該張出安全枠体の内部に衝撃緩和平面部が形成されて、当該張出安全枠体の衝撃緩和平面部の脱出開口には、脱出シュートが下方に垂れ下がって配置される。
【0008】
このため、請求項1の発明に係る緊急脱出避難装置は、数階に1台の割合で設置しても、当該緊急脱出避難装置の設置階を含んで、当該設置階よりも上階の避難者は、窓、非常口等の建物開口から飛び下りることで、当該緊急脱出避難装置の衝撃緩和平面部で、落下衝撃が緩和されて、身体が損傷されることなく、安全に受け止められる。その後に、衝撃緩和平面部上において脱出シュートの配置位置まで移動して、当該位置に配置された開口を通して脱出シュート内に入り込むことで、下方の階又は地上まで安全に移送される。
【0009】
なお、非使用時(非災害発生時)には、衝撃緩和平面部及び脱出シュートは、収納ケース内に畳まれて収納された状態で、当該張出安全枠体は、建築物の壁面に近接状態で固定される。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記衝撃緩和平面部は、ネットで構成されていることを特徴としている。
【0011】
請求項2の発明によれば、張出安全枠体の衝撃緩和平面部をネットで構成することで、落下避難者を安全に受け止められると共に、当該張出安全枠体の回動動作と連動して、当該ネットの巻出し・巻取りを行える。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記張出安全枠体の周縁部には、当該張出安全枠体の回動動作と連動して、又は起立駆動手段により起立させられる柵体が設けられていることを特徴としている。
【0013】
請求項3の発明によれば、張出安全枠体の周縁部には、当該張出安全枠体の回動動作と連動して、又は起立駆動手段により起立させられる柵体が設けられることで、避難者の落下時における安全性が高められる。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記脱出シュートは、内部の滑走路が螺旋状に形成されたものであって、垂直又はこれに近い姿勢に配置されることを特徴としている。
【0015】
請求項4の発明によれば、内部の滑走路が螺旋状に形成された脱出シュートを使用することで、当該脱出シュートを垂直又はこれに近い姿勢に配置できて、脱出シュートの長さを含む配置スペースが小さくなると共に、配置自体が容易となって、緊急脱出用に適する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、数階に1台の割合で設置しても、当該緊急脱出避難装置の設置階を含んで、当該設置階よりも上階の避難者は、窓、非常口等の建物開口から飛び下りることで、当該緊急脱出避難装置の衝撃緩和平面部で、落下衝撃が緩和されて、身体が損傷されることなく、安全に受け止められる。その後に、衝撃緩和平面部上において脱出シュートの配置位置まで移動して、当該位置に配置された開口を通して脱出シュート内に入り込むことで、下方の階又は地上まで安全に移送される。なお、張出安全枠体の非使用時には、衝撃緩和平面部及び脱出シュートは、収納ケース内に畳まれて収容された状態で、当該張出安全枠体は、建築物の壁面に近接状態で固定される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ビルBの壁面Kに設置された本発明の実施例1の緊急脱出避難装置A
1 の使用状態の斜視図である。
【
図5】緊急脱出避難装置A
1 の非使用状態を維持するロック装置Rの部分断面図である。
【
図6】(a),(b)は、それぞれ緊急脱出避難装置A
1 の非使用状態、及び回動途中の状態の模式的断面図である。
【
図7】緊急脱出避難装置A
1 の使用状態の模式的断面図である。
【
図8】緊急脱出避難装置A
1 の衝撃緩和平面部を構成する緩衝ネットNの巻出し・巻取りを説明するための部分斜視図である。
【
図9】(a)~(c)は、それぞれ緩衝ネットN及び脱出シュートS
1 が巻き取られる状態を示す模式的平面図である。
【
図10】(a),(b)は、それぞれ張出安全枠体F
1 の周縁の第1及び第2の各柵体G
1 ,G
2 を構成する柵バー22,25が起立させられる状態を示す模式的平面図及び正面図である。
【
図11】(a),(b)は、ビルBの壁面Kに設置された本発明の実施例2の緊急脱出避難装置A
2 の非使用状態、及び使用状態の斜視図である。
【
図12】(a),(b)は、実施例2の緊急脱出避難装置A
2 の張出安全枠体F
2 の収縮時及び伸長時の断面図である。
【
図13】ビルBの壁面Kに設置された本発明の実施例3の緊急脱出避難装置A
3 の使用状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、複数の実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1~
図4に示されるように、ビルBの多数の窓51が設けられた正面側の壁面Kには、本発明に係る緊急脱出避難装置(以下、単に「避難装置」と略す)A
1 が、垂直な固定位置と、ほぼ水平な張出し位置との間で回動・固定支持可能に配置されている。即ち、災害発生時には、避難装置A
1 を構成する張出安全枠体F
1 は、壁面Kに近接した基端よりも、自由端である先端が僅かに高くなるように、緩やかに傾斜した状態で、上下階の窓51の間に配置され、通常時、即ち、非災害発生時には、張出安全枠体F
1 は、当該張出安全枠体F
1 を構成していて、緩衝ネットNが巻取り状態で収納される第1枠体バー1に緩衝ネットNが巻き取られた状態で、前記壁面Kに密着した垂直状態に固定配置される。
【0020】
図1、
図6~
図10に示されるように、張出安全枠体F
1 は、ビルBの壁面Kに対して平行に配置される前記第1枠体バー1と、当該第1枠体バー1の長手方向の両端部に、当該第1枠体バー1に対して直交し、しかも互いに平行に配置される角筒状の一対の第2枠体バー2とが一体に連結されて、平面視でコの字状をなしている。張出安全枠体F
1 を構成する一対の第2枠体バー2の基端部(第1枠体バー1との連結部の反対側の端部)は、ヒンジHを介してビルBの壁面Kに、垂直面内で回動・固定可能に支持されている。即ち、一対の第2枠体バー2の基端部は、ヒンジHを介して壁面Kに対して連結されることで、張出安全枠体F
1 は、壁面Kに対して回動・固定支持可能に配置されている。ヒンジHは、壁面Kに固定される第1ヒンジ板3と、第2枠体バー2の基端面に固定される第2ヒンジ板4とがヒンジピン5で連結されている。
【0021】
前記第1枠体バー1は、緩衝ネットNを収容する収納ケースとしての機能を有していて、一対の第2枠体バー2と一体に連結された状態で、内方が開口した横断面がコの字状をなしていて、
図6~
図9に示されるように、当該第1枠体バー1の長手方向に沿った対向する各側板部1aに緩衝ネットNの巻取り軸7が支持され、当該巻取り軸7には、当該第1枠体バー1に内装された巻取り付勢手段(図示せず)により、常に巻取り方向に付勢された状態で、緩衝ネットNが巻回されている。
【0022】
また、
図1、
図6~
図8に示されるように、張出安全枠体F
1 を構成する一対の第2枠体バー2と、ビルBの壁面Kにおける当該第2枠体バー2の配置部分には、前記ヒンジHのヒンジピン5を中心にして、当該張出安全枠体F
1 を回動・停止させるための回動・停止機構Dが設けられている。ビルBの壁面Kにおける当該第2枠体バー2の配置部分には、ワイヤーロープWの一部を垂直方向に沿って支持するための複数のロープガイド11a~11cが固定されていると共に、第2枠体バー2の基端部の内側面には、別のロープガイド11dが固定され、各ロープガイド11a~11dにガイドされたワイヤーロープWの一端部は、緩衝ネットNの巻出し端に設けられた先端バー12に連結されていると共に、その他端部は、第1枠体バー1の側板部1aに連結されている。よって、前記回動・停止機構Dは、前記各ロープガイド11a~11dと、当該各ロープガイド11a~11dにガイドされて、両端部が前記先端バー12及び前記巻取り軸7に連結されたワイヤーロープWと、張出安全枠体F
1 の第1枠体バー1に収納されて、巻取り付勢手段の付勢力に抗して巻き出される緩衝ネットNとから成る。
【0023】
また、
図3、
図4及び
図6(a)に示されるように、非使用時(非災害発生時)には、緩衝ネットNの全てが巻取り軸7に巻回されることで、張出安全枠体F
1 がヒンジHを中心に回動して、第1枠体バー1が最上部に配置されることで、壁面Kに密着した状態で、張出安全枠体F
1 がほぼ垂直に配置されて、後述のロック装置Rにより、当該状態が保持される。
【0024】
一方、
図6(b)及び
図7に示されるように、災害発生時には、ロック装置Rを解除すると、張出安全枠体F
1 の自重により、ヒンジHを中心にして壁面Kから離れる方向に回動して、第1枠体バー1と、壁面Kに固定された最上段のロープガイド11aとの間に配置されるワイヤーロープWの長さが長くなることで、巻取り軸7に設けられた巻取り付勢手段(図示せず)の巻取り付勢力に抗して、当該巻取り軸7から緩衝ネットNが巻き出されて、第2ヒンジ板4が第1ヒンジ板3に当接することで、当該張出安全枠体F
1 は、90°よりも僅かに小さな角度だけ回動して停止される。この状態では、
図7に示されるように、張出安全枠体F
1 の枠体開口13(
図3参照)に、緩衝ネットNが巻き出されて、当該枠体開口13の全てが覆われる。なお、張出安全枠体F
1 と壁面Kとのなす角度は、90°よりも僅かに小さくなっていることで、当該緩衝ネットNで受け止められる避難者の安全を確保している。
【0025】
また、
図1及び
図9に示されるように、巻取り軸7から巻き出されて平面状となった緩衝ネットNには、方形状の脱出開口14が形成され、当該脱出開口14には、下方に垂れ下がった状態で脱出シュートS
1 が配置される。当該脱出シュートS
1 は、巻き出されることで平面状となる緩衝ネットNの裏面側に二つ折り状態で配置されて、当該緩衝ネットNと一緒に巻取り軸7に巻き取られていて、当該緩衝ネットNが巻き出されることで、脱出開口14の部分において、下方にほぼ垂直に垂れ下がるようになっている。当該脱出シュートS
1 は、内部に螺旋状の滑走路が設けられた構成であるため、垂直配置されても、避難者の脱出が可能である。なお、
図6、
図8及び
図9において、N
0 は、緩衝ネットNの全部又は一部が巻取り軸7に巻き取られて巻回状態になっているものを示す。
【0026】
また、非使用時(非災害発生時)に張出安全枠体F
1 をビルBの壁面Kに密着した状態で固定するための前記ロック装置Rは、
図5及び
図10に示されるように、第1枠体バー1の正面板部1bの長手方向の両端部に、それぞれ固定保持ピン15が当該正面板部1bに対して垂直に設けられ、前記張出安全枠体F
1 を垂直配置して壁面Kに密着させることで、前記固定保持ピン15の先端部は、前記壁面Kに部分的に設けられた壁面凹部16に挿入され、当該固定保持ピン15の先端部に設けられた嵌合孔15aに、非常用の電磁石17のロックピン18が嵌合されることで、前記張出安全枠体F
1 の垂直姿勢が保持される構成となっている。なお、ロック装置Rを構成する固定保持ピン15は、
図5及び
図10に示されるのみであって、他の図面では、図示を略してある。
【0027】
また、
図1~
図4及び
図10に示されるように、張出安全枠体F
1 の周縁部、即ち、第1及び第2の各枠体バー1,2の部分には、第1柵体G
1 が起立・倒伏できるように設けられている。即ち、第1枠体バー1の正面板部1bには、前後方向(壁面Kに対して垂直方向)の配置位置を僅かにずらして、長手方向に沿って二列の第1柵体G
1 がそれぞれ配置されている。二列の各第1柵体G
1 は、第1枠体バー1を長手方向に沿って二分したそれぞれの部分に配置されている。各第1柵体G
1 は、第1枠体バー1の正面板部1bに固定された下辺バー21に対して多数本の柵バー22に一定間隔をおいて配置されて、各柵バー22は、当該下辺バー21に対して回動可能に連結されていると共に、各柵バー22の上端部は、上辺バー23に回動可能に連結されている。
【0028】
全く、同様に、各第2枠体バー2の正面板部にも、第2柵体G2 がそれぞれ配置されている。第2柵体G2 は、前記第1柵体G1 と同様に、下辺バー24に複数の柵バー25が回動可能に連結されて、各柵バー25の上端部が上辺バー26に回動可能に連結された構成である。
【0029】
このため、第1及び第2の各柵体G
1 ,G
2 は、いずれも上辺バー23,26を、その長手方向に沿って引っ張ることで、
図1、
図2で実線、及び
図10で2点鎖線で示されるように、各柵バー22,25が起立されると共に、逆方向に引っ張ることで、
図4及び
図10でそれぞれ実線で示されるように、倒伏される。このため、張出安全枠体F
1 が壁面Kに対して張り出された状態において、一方の第1柵体G
1 の上辺バー23と、当該第1柵体G
1 に直交して接続する第2柵体G
2 の上辺バー26とを一本の柵ロープ(図示せず)で連結して、当該柵ロープをビルBの室内側に引っ張ることで、第1及び第2の各柵体G
1 ,G
2 の各柵バー22,25を同時に起立させられると共に、当該柵ロープを逆方向に引っ張ることで、各柵バー22,25を同時に倒伏させられる。
【0030】
よって、ロック装置Rが作動して、張出安全枠体F1 がヒンジHを中心に回動して、当該張出安全枠体F1 が壁面Kに対して張り出された状態において、前記柵ロープを所定方向に引っ張ることで、第1及び第2の各柵体G1 ,G2 の各柵バー22,25を起立させられる。当該柵ロープの引っ張りは、前記ワイヤーロープWの動きに連動させることで、自動的に行える。
【0031】
上記構成の避難装置A1 は、ビルBの各階ではなくて、数階に対して1台が設置されている。
【0032】
そして、地震・火災等の災害発生時には、ビル内の所定箇所に設けられている緊急避難スイッチ(図示せず)をONにすると、ロック装置Rの電磁石17の作動により、張出安全枠体F1 の第1枠体バー1に設けられた2本の各固定保持ピン15の嵌合孔15aに嵌合されているロックピン18が抜け出て、起立姿勢の張出安全枠体F1 の上端部のビルBの壁面Kに対する拘束が解除されることで、当該張出安全枠体F1 には、その自重により、ヒンジHを中心にして、壁面Kから離れる方向のモーメントが作用して、当該張出安全枠体F1 が回動し始める。
【0033】
これにより、
図6及び
図7に示されるように、第1枠体バー1と壁面Kとの距離を大きくすることで、当該部分に配置されたワイヤロープWの長さが長くなって、収納ケースを兼用した第1枠体バー1に収納されている巻回状態の緩衝ネットNが、張出安全枠体F
1 の枠体開口13に徐々に巻き出されて、
図7に示されるように、第1及び第2の各ヒンジ板3,4が互いに当接することで、張出安全枠体F
1 の回動は停止されて、壁面Kに対する張出安全枠体F
1 の張出し姿勢が確定される。張出安全枠体F
1 は、その上面側において壁面Kに対して90°よりも僅かに小さな角度を形成して停止することで、緩衝ネットNに対する避難者Mの緩衝落下時の安全を図っている。
【0034】
上記のようにして、張出安全枠体F
1 の枠体開口13に緩衝ネットNが巻き出されることで、当該緩衝ネットNと一緒に巻回されていた脱出シュートS
1 は、当該緩衝ネットNに形成された脱出開口14の部分から直下に垂れ下がって配置されて、当該脱出シュートS
1 の下端は、直下の別の避難装置A
1 の緩衝ネットNの部分に達する(
図1参照)。
【0035】
また、張出安全枠体F1 がビルBの壁面Kから張出し配置された後において、ビルBの室内から前記柵ロープを引っ張ることで、或いは当該柵ロープの引っ張りを前記ワイヤーロープWの動きに連動させることで、第1及び第2の各柵体G1 ,G2 の各柵バー22,25を手動により、又は自動的に起立される。
【0036】
そして、当該避難装置A1 よりも上階の避難者Mは、窓51から飛び下りることで、張出安全枠体F1 の枠体開口13に巻き出された緩衝ネットNにより落下衝撃が緩和されると共に、張出安全枠体F1 の周縁には、第1及び第2の各柵体G1 ,G2 の柵バー22,25が起立しているため、避難者Mは、緩衝ネットNに安全に受け止められる。
【0037】
また、途中階の避難装置A1 の緩衝ネットNに受け止められた避難者Mは、当該緩衝ネットNの脱出開口14に設けられた別の脱出シュートS1 で下方の階まで避難し、最終的に地上に降りる。これにより、災害発生時において、避難者Mは、ビルBの内部から地上に安全に脱出できる。
【0038】
あお、避難装置A1 は、その使用後には、張出安全枠体F1 を壁面Kに近接するように起立させることで、緩衝ネットN及び脱出シュートS1 を、収納ケースを兼用した第1枠体バー1に収納して、ロック装置Rにより、張出安全枠体F1 が回動しないようにしておく。
【実施例2】
【0039】
次に、
図11及び
図12を参照して、実施例2の避難装置A
2 について説明する。避難装置A
2 は、伸縮可能な張出安全枠体F
2 と、当該張出安全枠体F
2 の長手方向の両端部をビルBの壁面Kに対して支持する一対の支持リンクLaで構成される。
【0040】
張出安全枠体F2 は、前枠体31と後枠体32と伸縮可能な左右一対の側枠体33との間に折畳み可能な緩衝体34が配置されて、前枠体31と後枠体32の左右両端部は、伸縮リンクLbで連結されている。緩衝体34に形成された脱出開口14には、当該張出安全枠体F2 の伸長時に、脱出シュートS1 が直下に垂れ下がるように設けられている。伸縮リンクLbは、長手方向の中央部が第1連結ピン35で連結された一対で一組となった多数組の伸縮リンク単体Lb1 を第2連結ピン36で連結することで、伸長時には直線状に伸長されると共に、収縮時には、各組の伸縮リンク単体Lb1が起立状態となって折り畳まれる構成である。伸縮リンクLbを構成する基端と先端の各組の一対の伸縮リンク単体Lb1 の一方は、前枠体31及び後枠体32に上下方向に形成された案内溝37に可動ピン38a, 38bが案内されることで、伸縮リンクLbは、伸縮可能となっている。
【0041】
一対の支持リンクLaは、複数のリンクL1 ,L2 ,L3 が連結されることで、避難装置A2 の使用時には、傾斜姿勢で直線状となって、張出安全枠体F2 を支持すると共に、非使用時には、複数のリンクL1 ,L2 ,L3 が連結部で屈曲することで、最長のリンクL1 は、壁面Kに沿って垂直配置される。
【0042】
基端側の可動ピン38aは、駆動シリンダJにより、案内溝37に沿ってスライドすることで、伸縮リンクLbは伸縮され、これに対応して、支持リンクLaが直線状に伸長されて、傾斜姿勢に配置されたり、或いは支持リンクLaを構成する各リンクL1 ~L3 は、連結部で折り畳まれて、リンクL1 が壁面Kに沿って配置される。このため、可動ピン38aは、伸縮リンクLbに対しては「駆動ピン」として作用している。
【0043】
災害発生時には、前記駆動シリンダJにより、駆動ピンである可動ピン38aが下動されることで、
図1 1(a)及び
図12(a)に示されるように、折り畳まれている多数組の伸縮リンク単体Lb
1 が水平に延ばされて、全体が直線状となることで、
図1 1(b)及び
図12(b)に示されるように、張出安全枠体F
2 は、方形状に伸長されて、前枠体31の長手方向の両端部が一対の支持リンクLaで支持される。
【実施例3】
【0044】
次に、
図13及び
図14を参照して、実施例3の避難装置A
3 について説明する。実施例3の避難装置A
3 は、実施例1の避難装置A
1 に対して張出安全枠体F
3 の張出し長Uが相対的に長いのみであって、基本構成は、当該避難装置A
1 と同一又は同等であるので、同一又は同等部分には、同一符号又は同一符号に「’」を付して図示し、当該避難装置A
1 と異なる部分についてのみ説明する。
【0045】
張出安全枠体F3 の張出し長Uは、5m程度であり、このため、当該避難装置A3 よりも上階から避難者Mが飛び下りても、衝撃緩和平面部である緩衝ネットNに安全に着座できる。緩衝ネットNの脱出開口14には、当該緩衝ネットNの下方に傾斜配置される脱出シュートS2 が垂れ下げられる。緩衝ネットNの傾斜配置の確保は、緩衝ネットNに長さの異なる複数の吊紐39により、当該緩衝ネットNを吊り下げることで、実現できる。
【0046】
なお、脱出シュートS2 の数、及び設置位置に関しては、衝撃緩和平面部である緩衝ネットNの総面積が大きい場合には、大きく離れた位置に、複数の脱出シュートS2 を配置してもよい。
【0047】
また、上記各実施例1~3では、ビルBの正面壁に避難装置A1 ~A3 を設置したが、ビルBの正面以外の非常口等の建物開口が設けられている壁面であれば、いずれの壁面であってもよい。また、避難装置A1 ~A3 は、業務用のビルに限られず、学校、幼稚園等の校舎、園舎等に対しても設置でき、更に、3階建の鉄骨構造の住宅建築物に対しても設置可能である。
【0048】
また、本発明に係る避難装置は、新設の建築物のみならず、既設の建築物に対しても設置可能である。
【符号の説明】
【0049】
A1 ~A3 :緊急脱出避難装置
B:ビル(建築物)
D:回動・停止機構
F1 ~F3 :張出安全枠体
G1 :第1柵体
G2 :第2 柵体
H:ヒンジ
K:壁面
M:避難者
N:緩衝ネット(衝撃緩和平面部)
R:ロック装置
S1 ,S2 :脱出シュート
1:第1枠体バー(収納ケース)
14:脱出開口
51:窓(建物開口)