IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キングス カレッジ ロンドンの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】治療薬
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20220405BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220405BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220405BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20220405BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220405BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20220405BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N5/0783
A61K35/17 Z
A61P35/00
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2018503642
(86)(22)【出願日】2016-07-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-08-09
(86)【国際出願番号】 GB2016052324
(87)【国際公開番号】W WO2017021701
(87)【国際公開日】2017-02-09
【審査請求日】2019-07-12
(31)【優先権主張番号】1513540.3
(32)【優先日】2015-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500532757
【氏名又は名称】キングス カレッジ ロンドン
【氏名又は名称原語表記】KINGS COLLEGE LONDON
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】マーハー,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】アチコヴァ,ダニエラ ヨルダノヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ワイルディング,リンジー メイ
(72)【発明者】
【氏名】ドレイパー,ベンジャミン オーウェン
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/055668(WO,A1)
【文献】特表2009-509562(JP,A)
【文献】特表2015-535689(JP,A)
【文献】国際公開第2016/011210(WO,A1)
【文献】J.Immunol.(2013)Vol.191, p.4589-4598
【文献】Mol Med.(2012)Vol.18, p.565-576
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C12N 1/00-5/28
C12Q 1/00-3/00
C07K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/WPIDS/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫応答細胞であって、
(i)第二世代キメラ抗原受容体であって、
(a)シグナル伝達領域;
(b)共刺激シグナル伝達領域;
(c)膜貫通ドメイン;および
(d)標的抗原上の第1のエピトープと特異的に相互作用する結合エレメント
を含む第二世代キメラ抗原受容体と、
(ii)キメラ共刺激受容体であって、
(e)(b)の共刺激シグナル伝達領域と異なる共刺激シグナル伝達領域;
(f)膜貫通ドメイン;および
(g)標的抗原上の第2のエピトープと特異的に相互作用する結合エレメント
を含むキメラ共刺激受容体と
を発現し、
(b)または(e)の共刺激シグナル伝達領域の一方がCD28であり、他方の共刺激シグナル伝達領域が4-1BB、CD27、またはOX40であり、
前記免疫応答細胞が、T細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞から選択される
ことを特徴とする免疫応答細胞。
【請求項2】
請求項1に記載の免疫応答細胞において、細胞傷害性T細胞またはヘルパーT細胞であることを特徴とする免疫応答細胞。
【請求項3】
請求項1または2に記載の免疫応答細胞において、前記シグナル伝達領域(a)は、ヒトCD3[ゼータ]鎖の細胞内ドメインまたはその変異体を含むことを特徴とする免疫応答細胞。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の免疫応答細胞において、(b)はCD28であることを特徴とする免疫応答細胞。
【請求項5】
請求項4に記載の免疫応答細胞において、(e)は4-1BBまたはCD27であることを特徴とする免疫応答細胞。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の免疫応答細胞において、(c)および(f)の前記膜貫通ドメインは、CD8α膜貫通ドメインおよびCD28膜貫通ドメインから選択されることを特徴とする免疫応答細胞。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の免疫応答細胞において、前記第1および第2のエピトープは、同一の受容体または抗原と関連付けられていることを特徴とする免疫応答細胞。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の免疫応答細胞において、キメラサイトカイン受容体を共発現することを特徴とする免疫応答細胞。
【請求項9】
請求項8に記載の免疫応答細胞において、前記キメラサイトカイン受容体は4αβであることを特徴とする免疫応答細胞。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の免疫応答細胞において、結合エレメント(d)または結合エレメント(g)の少なくとも1つは、ErbB2量体のリガンド、コロニー刺激因子-1の受容体(CSF-1R)またはαvβ6インテグリン特異的結合剤であることを特徴とする免疫応答細胞。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の免疫応答細胞において、結合エレメント(d)はCSF-1を含み、結合エレメント(g)はIL-34を含むことを特徴とする免疫応答細胞。
【請求項12】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の免疫応答細胞において、結合エレメント(d)は、αvβ6インテグリン特異的結合剤であって、配列モチーフ
RGDLXL(配列番号7)、または
RGDLXI(配列番号8)
を含むペプチドであり、LXLまたはLXIは、αヘリックス構造内に含まれ、XおよびXはヘリックス促進残基である、αvβ6インテグリン特異的結合剤であり、結合エレメント(g)はTIEペプチドであることを特徴とする免疫応答細胞。
【請求項13】
請求項1乃至12の何れか1項に記載の免疫応答細胞において、結合エレメント(d)の結合親和性は結合エレメント(g)の結合親和性より低いことを特徴とする免疫応答細胞。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れか1項に記載の免疫応答細胞を調製するための方法であって、請求項1に定義された構造(i)のCARをコードする第1の核酸および請求項1に定義された構造(ii)のCCRをコードする第2の核酸を細胞に形質導入するステップを備えることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、前記免疫応答細胞はキメラサイトカイン受容体を含み、増殖ステップは、サイトカインの存在下で行われることを特徴とする方法。
【請求項16】
組み合わせであって、請求項1に定義された(i)のCARをコードする第1の核酸と、請求項1に定義された(ii)のCCRをコードする第2の核酸との組み合わせであることを特徴とする組み合わせ。
【請求項17】
ベクターまたはベクターの組み合わせであって、請求項16に記載の組み合わせを含むことを特徴とするベクターまたはベクターの組み合わせ。
【請求項18】
キットであって、請求項16または17に記載の組み合わせを含むことを特徴とするキット。
【請求項19】
標的細胞集団に対するT細胞性免疫応答の刺激を、それを必要とする患者において行うための、請求項1乃至13の何れか1項に記載の免疫応答細胞であって、前記結合エレメント(d)および(g)は標的細胞に特異的であることを特徴とする免疫応答細胞。
【請求項20】
標的細胞集団に対するT細胞性免疫応答を刺激するための医薬の調製における、請求項1乃至13の何れか1項に記載の免疫応答細胞の使用であって、前記結合エレメント(d)および(g)は前記標的細胞に特異的であることを特徴とする使用。
【請求項21】
必要とする患者に療法を提供するための医薬の調製における、請求項1乃至13の何れか1項に記載の免疫応答細胞の使用。
【請求項22】
癌の治療のための医薬の調製における、請求項1乃至13の何れか1項に記載の免疫応答細胞の使用。
【請求項23】
必要とする患者の療法に用いるための、請求項1乃至13の何れか1項に記載の免疫応答細胞。
【請求項24】
必要とする患者の癌の治療に用いるための、請求項1乃至13の何れか1項に記載の免疫応答細胞。
【請求項25】
求項24に記載の免疫応答細胞において、前記癌は、前立腺癌、乳癌、神経芽細胞腫、メラノーマ、小細胞または非小細胞性肺癌、肉腫、および脳腫瘍からなる群から選択されることを特徴とする免疫応答細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸ならびにCAR自体、核酸を組み込んだ細胞および治療におけるそれらの使用、特に選択された標的に対するT細胞応答を促進するためにそれらが使用される方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工T細胞受容体、キメラT細胞受容体(TCR)またはキメラ免疫受容体と称されることもあるキメラ抗原受容体(CAR)は操作された受容体であり、当該技術分野において周知である。キメラ抗原受容体(CAR)は、特定の特異性を有する免疫エフェクター細胞、特にT細胞を得るために、そうした細胞を形質転換するのに主に使用される。キメラ抗原受容体(CAR)は、特に養子細胞移入などの技術にキメラ抗原受容体(CAR)を使用できる癌免疫療法の分野で研究中である。これらの治療では、T細胞を患者から採取し、特定の癌の形態に見られる抗原に特異的な受容体を発現するように改変する。その後、癌細胞を認識して殺すことができるこのT細胞を患者に再導入する。
【0003】
第一世代CARは、最も一般的にはCD3ゼータ(z)を用いてTCR様シグナルを与えることで殺腫瘍機能を引き出す。しかしながら、CD3z鎖融合受容体の関与は、同時に起こる共刺激シグナルの非存在下では、実質的なIL-2分泌および/または増殖を引き出すのに十分でないことがある。生理的なT細胞応答の場合、最適なリンパ球活性化には、CD28または4-1BBなどの1つまたは複数の共刺激受容体(シグナル2)の関与が不可欠である。したがって、T細胞は、腫瘍抗原依存性に共刺激シグナルを受け取るようにさらに操作されている。
【0004】
これに関連した重要な発展は、ヒトプライマリーT細胞において機能的な抗原依存性共刺激シグナルを伝達し、殺腫瘍活性に加えてT細胞増殖を可能にした「第二世代CAR」の設計の成功であった。第二世代CARは、最も一般的にはCD28または4-1BBに由来するモジュールを用いて共刺激を与える。共刺激とCD3ゼータシグナルとを組み合わせた送達により、第二世代CARは、その第1世代のカウンターパート(CD3zシグナル単独)と比較して機能の点で明らかに優れている。第二世代CARの例は、米国特許第7,446,190号明細書で確認される。
【0005】
最近になって、いわゆる「第三世代CAR」が調製された。これは、CD28+4-1BB+CD3zまたはCD28+OX40+CD3zなどの複数のシグナル伝達ドメインを組み合わせて効力をさらに増大させたものである。第三世代CARの場合、シグナル伝達ドメインは、CAR細胞内ドメインに直列に並べられ、CD3zの上流に置かれる。
【0006】
しかし、残念ながら、一般にこの第三世代CARにより得られる結果は、第二世代の立体配置に対してわずかな改善のみを示している。
【0007】
複数のコンストラクトで形質転換させた細胞の使用も提案されてきた。たとえば、Kloss et al.Nature Biotechnology 2012,doi:10.1038/nbt.2459には、第1の抗原を標的とするシグナル活性化領域(CD3ゼータ鎖)と、CD28および4-1BBの共刺激領域の両方を含み、第2の抗原を標的とするキメラ共刺激受容体(CCR)とを含むCARのT細胞への形質導入が記載されている。2つのコンストラクトは、異なる結合親和性でそれらそれぞれの抗原に結合し、これにより、副作用を減らすために治療の特異性を高め得る「腫瘍センシング」効果が生じる。
【0008】
抗原を発現する腫瘍標的細胞により複数回繰り返される刺激を経て、T細胞が成長しサイトカインを産生して死滅シグナルを送達できる状態にT細胞を維持できるシステムを開発することが望ましい。T細胞は、最適でない共刺激を受けると、再刺激時にこれらのエフェクター機能を急速に失い、「アネルギー」と呼ばれる状態に入る。CAR T細胞は、in vitroで連続的に再刺激されると、徐々にエフェクター特性(たとえば、IL-2産生、増殖能力)を失い、分化してよりエフェクター様になり、換言すれば共刺激の効果が現れにくくなる。これは、癌免疫療法にとって望ましくない。より分化した細胞は腫瘍微小環境において繰り返し刺激されると、寿命が短くなり、さらなる成長/活性化を行う能力が低下する傾向があるためである。
【発明の概要】
【0009】
本出願人らは、複数の共刺激領域を異なるコンストラクトに配置したコンストラクトの組み合わせを使用して、効果的なT細胞応答を惹起し得ることを見出した。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、免疫応答細胞であって、
(i)第二世代キメラ抗原受容体であって、
(a)シグナル伝達領域;
(b)共刺激シグナル伝達領域;
(c)膜貫通ドメイン;および
(d)標的抗原上の第1のエピトープと特異的に相互作用する結合エレメント
を含む第二世代キメラ抗原受容体と、
(ii)キメラ共刺激受容体であって、
(e)(b)の共刺激シグナル伝達領域と異なる共刺激シグナル伝達領域;
(f)膜貫通ドメイン;および
(g)標的抗原上の第2のエピトープと特異的に相互作用する結合エレメント
を含むキメラ共刺激受容体と
を発現する免疫応答細胞を提供する。
【0011】
本出願人らは、この系の有効性が優れており、特に類似のエレメントを有する従来の第三世代CARを用いて達成される有効性より優れている可能性があることを見出した。本発明のタイプのコンストラクトは、「並列キメラ活性化受容体」または「pCAR」と呼ばれ得る。
【0012】
さらに、細胞の増殖、その細胞傷害能を維持しかつIL-2を放出するその能力も、抗原を発現する腫瘍細胞による多数回繰り返される刺激を通して維持される。
【0013】
理論に束縛されるものではないが、pCARのエレメントの配置が活性を促進し得る。たとえば、定義によれば、第三世代CARの共刺激モジュールの1つは、形質膜の内側に近いその自然な位置から離して置かなければならない。これにより、必須の膜結合パートナー分子へのアクセスが妨げられるため、共刺激モジュールが正常にシグナル伝達しないことがある。あるいは、第三世代CARの2つの共刺激シグナル伝達モジュールの近接により、立体上の問題が生じ、1つまたは複数の下流シグナル伝達経路の十分な関与を妨げる可能性がある。これらの問題の両方が本発明の配置で回避される。シグナル伝達部分(b)および(e)の両方が膜貫通ドメインに直接融合して、その両方が細胞内の形質膜に隣接することを確実にし得る。さらに、シグナル伝達部分(b)および(e)は、立体的に互いに相互作用しないように、細胞内の異なる部位で間隔を置いて配置してもよい。
【0014】
本発明の第1の態様に使用するのに好適な免疫応答細胞は、細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞または制御性T細胞などのT細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞を含む。特に、免疫応答細胞はT細胞である。
【0015】
好適な上記のエレメント(a)は、たとえば、Love et al.Cold Spring Harbor Perspect.Biol 2010 2(6)l a002485により概説されている免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含む任意の領域を含む任意の好適なシグナル伝達領域を含んでもよい。特定の実施形態では、シグナル伝達領域は、たとえば、米国特許第7,446,190号明細書に記載されているようなヒトCD3[ゼータ]鎖の細胞内ドメインまたはその変異体を含む。
【0016】
特に、これは、全長ヒトCD3ゼータ鎖のアミノ酸残基52~163にわたるドメインを含む。このドメインは、それぞれ配列番号1および2として示したいくつかの多形(たとえば、配列番号gb|AAF34793.1およびgb|AAA60394.1)を有する。
【0017】
本明細書で使用する場合、「変異体」という用語は、天然に存在する塩基配列の多形および鎖内の1つまたは複数のアミノ酸が挿入、除去または置換されている合成変異体であるポリペプチド配列を指す。しかしながら、変異体は、その塩基配列の生物学的作用と同様の生物学的作用を発揮する。たとえば、上述の変異体は、ヒトCD3[ゼータ]鎖の細胞内ドメインの生物学的作用と同様に作用する。アミノ酸置換は、アミノ酸が、概ね類似した特性を有する同じクラスの別のアミノ酸で置換されている「保存的」置換と見なすことができる。非保存的置換は、アミノ酸が異なるタイプまたはクラスのアミノ酸で置換されている置換である。
【0018】
アミノ酸のクラスは、以下の通り定義される。
【0019】
当業者によく知られているように、保存的置換によりペプチドの一次構造を変化させてもそのペプチドの活性を大きく変化させることはできない。配列に挿入されるアミノ酸の側鎖は、置換されたアミノ酸の側鎖と同様の結合および接点を形成でき得るためである。これは、置換がペプチドのコンフォメーションの決定に重要な領域におけるときでもそうである。
【0020】
非保存的置換が上記のようなポリペプチドの機能を妨害しない場合、非保存的置換も可能であり得る。大まかに言えば、ポリペプチドの生物活性を変化させなければ、比較的少ない非保存的置換は可能である。
【0021】
一般に、変異体は塩基配列、たとえば配列番号1または配列番号2と少なくとも70%、たとえば少なくとも71%、75%、79%、81%、84%、87%、90%、93%、95%、96%または98%同一のアミノ酸配列を有する。これに関連して、同一性は、塩基配列としての配列番号2またはフラグメント、特に下記のようなフラグメントを用いてBLASTPコンピュータープログラムを用いて決定することができる。BLASTソフトウェアは、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi(2009年3月12日にアクセス可能)で一般に入手可能である。
【0022】
共刺激シグナル配列(b)は、好適には、膜貫通ドメイン(c)とシグナル伝達領域(a)との間に位置し、結合エレメント(d)から遠い。同様に共刺激シグナル配列(e)は、好適には、膜貫通ドメイン(f)に隣接して位置し、結合エレメント(g)から遠い。
【0023】
上記のエレメント(b)および(e)として使用するのに好適な共刺激シグナル伝達領域も当該技術分野において周知であり、B7/CD28ファミリーのメンバー、たとえばB7-1、B7-2、B7-H1、B7-H2、B7-H3、B7-H4、B7-H6、B7-H7、BTLA、CD28、CTLA-4、Gi24、ICOS、PD-1、PD-L2もしくはPDCD6;またはILT/CD85ファミリータンパク質、たとえばLILRA3、LILRA4、LILRB1、LILRB2、LILRB3もしくはLILRB4;または腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリーメンバー、たとえば4-1BB、BAFF、BAFF R、CD27、CD30、CD40、DR3、GITR、HVEM、LIGHT、リンホトキシン-α、OX40、RELT、TACI、TL1A、TNF-αもしくはTNF RII;またはSLAMファミリーのメンバー、たとえば2B4、BLAME、CD2、CD2F-10、CD48、CD58、CD84、CD229、CRACC、NTB-AもしくはSLAM;またはTIMファミリーのメンバー、たとえばTIM-1、TIM-3もしくはTIM-4;または他の共刺激分子、たとえばCD7、CD96、CD160、CD200、CD300a、CRTAM、DAP12、Dectin-1、DPPIV、EphB6、インテグリンα4β1、インテグリンα4β7/LPAM-1、LAG-3もしくはTSLP Rが挙げられる。
【0024】
共刺激シグナル伝達領域の選択は、形質転換細胞の個々の使用目的に応じて選択され得る。特に、上記の(b)および(e)で選択される共刺激シグナル伝達領域は、共に協同的または相乗的に作用し得るものである。たとえば、(b)および(e)の共刺激シグナル伝達領域は、CD28、CD27、ICOS、4-1BB、OX40、CD30、GITR、HVEM、DR3またはCD40から選択され得る。
【0025】
特定の実施形態では、(b)または(e)の一方はCD28であり、および他方は4-1BBまたはOX40である。
【0026】
特定の実施形態では、(b)はCD28である。
【0027】
別の特定の実施形態では(e)は4-1BBまたはOX40であり、特に4-1BBである。別の実施形態では、(e)はCD27である。
【0028】
上記の(c)および(f)の膜貫通ドメインは同一でもまたは異なってもよいが、特に細胞表面上の各コンストラクトの分離を確保するために異なっている。さらに異なる膜貫通ドメインの選択によりベクターの安定性が高まることがある。ウイルスベクターにダイレクトリピート核酸配列が含まれると、ベクターが再構成を起こしやすく、ダイレクトリピート間の配列が欠失するためである。ただし、(c)および(f)の膜貫通ドメインが同じである場合、同じタンパク質配列をコードするように選択されたコドンを改変するかまたは「ゆらぎを生じさせる(wobbling)」ことにより、このリスクを低下させることができる。
【0029】
好適な膜貫通ドメインは当該技術分野において公知であり、たとえば、CD8α、CD28、CD4またはCD3zの膜貫通ドメインが挙げられる。
【0030】
共刺激シグナル伝達領域が上記のようにCD28を含む場合、CD28膜貫通ドメインが好適な選択肢の代表例である。全長CD28タンパク質は、配列番号3
の220アミノ酸のタンパク質であり、膜貫通ドメインを太字で示す。
【0031】
特に、共刺激シグナル伝達領域の1つは、CD28のヒンジ領域、好適にはさらに膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインに基づく。特に、配列番号4として下記に示した配列番号3のアミノ酸114~220を含む。
【0032】
特定の実施形態では、上記の共刺激シグナル伝達領域(b)または(e)の1つは、配列番号5のc-mycタグを含む配列番号4の改変形態である。
【0033】
c-mycタグはよく知られており、配列番号5
EQKLISEEDL(配列番号5)
のタグである。
【0034】
c-mycタグは、細胞外ドメインへの挿入または細胞外ドメインの領域の置き換えにより共刺激シグナル伝達領域(b)または(e)に加えることができ、したがって配列番号3のアミノ酸1~152の領域内にある。
【0035】
特に好ましい実施形態では、c-mycタグはCD28配列のMYPPPYモチーフに置き換わっている。このモチーフは、潜在的に有害な配列である。このモチーフは、CD28とその天然リガンドCD80およびCD86との間の相互作用を担っており、したがってCAR T細胞がこれらのリガンドの何れかを発現する標的細胞に遭遇した際、オフターゲット毒性が生じる可能性がある。上記のようにこのモチーフをタグ配列で置き換えることで、望ましくない副作用の可能性が低下する。
【0036】
したがって、特定の実施形態では、コンストラクトの共刺激シグナル伝達領域(b)は、配列番号6
の領域である。
【0037】
さらに、c-mycエピトープが含まれることは、モノクローナル抗体を用いたCAR T細胞の検出が容易になることを意味する。一部の入手可能な抗体を使用した際にフローサイトメトリー検出が信頼できないことが立証されているため、これは非常に有用である。
【0038】
さらに、c-mycエピトープタグを付けると、たとえば溶液中のまたは固相(たとえば、バッグ)に固定化した適切なモノクローナル抗体を用いたCARの架橋結合により、標的化CAR T細胞の抗原非依存性増殖(expansion)が促進され得る。
【0039】
加えて、TCRの可変領域内の抗-ヒトc-myc抗体9e10のエピトープの発現は、in vitroおよびin vivoの両方で抗体および補体による細胞毒性を与えるのに十分であることが既に示されている(Kieback et al.(2008)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,105(2)623-8)。したがって、そうしたエピトープタグを付けると「自殺システム」として使用することもでき、毒性が生じた場合に抗体を用いてin vivoでCAR T細胞を枯渇させることができる。
【0040】
結合エレメント(d)および(g)は異なり、同一エピトープ、重複エピトープまたは異なるエピトープに結合する。特定の実施形態では、第1および第2のエピトープは、同一の受容体または抗原と関連付けられている。したがって、上記のような第1および第2のエピトープは、場合により同一でもまたは重複していてもよく、したがって結合エレメント(d)および(g)は、それらの結合において競合することになる。あるいは、第1および第2のエピトープは異なっており、想定される特定の治療に応じて同一の抗原と関連付けられていてもまたは異なる抗原と関連付けられていてもよい。一実施形態では、抗原は異なるものの、特定の同一の癌などの同一の疾患と関連付けられていてもよい。
【0041】
本明細書で使用する場合、「抗原」という用語は、結合エレメントに結合する特異的結合対の任意のメンバーである。したがって、この用語は標的細胞上の受容体を含む。
【0042】
したがって、好適な結合エレメント(d)および(g)は、関心のある標的を認識する能力をpCARに与える任意のエレメントでよい。本発明のpCARを向かわせる標的は、T細胞応答を誘発することが望ましいと考えられ、臨床的に関心のある任意の標的でよい。これは、たとえば、1つもしくは複数のErbB受容体またはαβインテグリンを含む様々なタイプの癌に関連するマーカー、前立腺癌(たとえば、前立腺特異的膜抗原(PSMA)に結合する結合エレメントを使用する)、乳癌(たとえば、Her-2(ErbB2とも呼ばれる)を標的とする結合エレメントを使用する)および神経芽細胞腫(たとえば、GD2を標的とする結合エレメントを使用する)に関連するマーカー、メラノーマ、小細胞または非小細胞性肺癌、肉腫ならびに脳腫瘍を含む。特定の実施形態では、標的は、上記のような1つもしくは複数のErbB2量体またはコロニー刺激因子-1の受容体(CSF-1R)あるいはαβインテグリンであり、これらはすべていくつかの固形腫瘍に関与している。
【0043】
本発明のpCARに使用される結合エレメントは、選択された標的を認識する抗体を含んでもよい。便宜上、結合エレメントとして使用される抗体は、好ましくはラクダ科、ヒトまたは他の種由来の一本鎖抗体(scFv)または単一ドメイン抗体である。一本鎖抗体は、所望の標的に特異的なハイブリドーマのV領域遺伝子からクローニングしてもよい。そうしたハイブリドーマの作製は日常的なものになっており、その手順はここで繰り返さない。可変領域重鎖(VH)および可変領域軽鎖(VL)のクローニングに使用することができる技術は、Orlandi et al.,Proc.Natl Acad.Sci.(USA)86:3833-3837(1989)に記載されている。簡単に説明すると、mRNAをハイブリドーマ細胞株から単離し、たとえば逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)キットを用いて相補DNA(cDNA)に逆転写する。VHおよびVL遺伝子の配列に対応する配列特異的プライマーを使用する。クローニングした産物の配列解析、ならびにVHおよびVL遺伝子の既知の配列との比較を用いて、クローニングしたVH遺伝子が期待に合ったことを示すことができる。次いで、VHおよびVL遺伝子を、たとえば(gly4-ser)3リンカーをコードするオリゴヌクレオチドを用いて一緒に結合する。
【0044】
あるいは、pCARの結合エレメントは、T1Eペプチド(ErbBホモおよびヘテロ2量体に結合する)、コロニー刺激因子-1(CSF-1)またはIL-34(両方ともCSF-1受容体に結合する)などのリガンドを含んでもよい。T1Eペプチドは、成熟ヒトTGF-αタンパク質の最N末端の7アミノ酸(pro-トランスフォーミング成長因子αアイソフォーム1(NP_003227.1)のアミノ酸40~46)で置き換えられた最N末端の5アミノ酸(pro-上皮成長因子前駆体(NP_001954.2)のアミノ酸971~975)を除く、全成熟ヒトEGFタンパク質からなるキメラ融合タンパク質である。
【0045】
別の実施形態では、pCARの結合エレメントは、αβインテグリン特異的結合剤を含む。インテグリンαvβ6は、現在、多くのタイプの癌で強く上方制御されることが分かっているため、癌の標的と見なされている。αβは、ウイルスカプシドタンパク質、VP1のRGDモチーフを介した結合により、in vitroで口蹄疫ウイルス(FMDV)の受容体として同定された。そのため、たとえば米国特許第8,383,593号明細書に記載されているように、FMDVに由来する一定範囲のペプチド、特にFMDVのVP1タンパク質に由来しかつRGDモチーフを含むペプチドは、結合能および結合特異性の増加を示した。特に、これらのペプチドは、配列モチーフ
RGDLXL(配列番号7)、または
RGDLXI(配列番号8)
を含み、LXLまたはLXIは、αヘリックス構造内に含まれ、XおよびXは、[α]-ヘリックスの中央に見られるために1.0より大きい配座優先性を有するヘリックス促進残基である(Creighton,1993 and Pace C.N.and Scholtz J.M.(1998),Biophysical Journal,Vol.75,pages 422-427から)。特に、そうした残基は、独立に、Glu、Ala、Leu、Met、Gln、Lys、Arg、Val、Ile、Trp、PheおよびAspからなる群から選択される。
【0046】
そうした配列の具体的な例として、配列番号9~11
YTASARGDLAHLTTTHARHL(配列番号9)
GFTTGRRGDLATIHGMNRPF(配列番号10)、もしくは
NAVPNLRGDLQVLAQKVART(配列番号11)
またはそれらの変異体が挙げられる。
【0047】
これらのペプチドは、本出願のCARの結合エレメントの特定の基を形成してもよい。
【0048】
ホジキンリンパ腫および一部の乳癌などの選択された悪性腫瘍では、2つの天然リガンドとしてCSF-1およびIL-34があり、これらは(d)および(g)の特に好適な結合エレメントを形成する。しかしながら、これらは異なる親和性で結合する。結合の親和性は、観察される活性に影響を与え得る。この場合、結合親和性が低い方の結合エレメントを結合エレメント(d)として使用し、結合親和性の高い方を結合エレメント(g)として使用すると有益であり得る。特に、一実施形態では、第二世代CAR(i)の、それに対応する標的に対する相対親和性は、パートナーであるTNFRを用いたキメラ共刺激受容体(ii)の相対親和性より低い。これは、こうした相対的な親和関係が維持されるのであれば、高親和性標的化部分または低親和性標的化部分のそれぞれの位置における使用を妨げるものではない。したがって、本発明の場合、特定の実施形態では、結合エレメント(d)は、相対的に低い結合親和性を有するCSF-1である一方、結合エレメント(g)は、より高い結合親和性を有するIL-34を含む。
【0049】
好適には、結合エレメントは、細胞表面上の発現を促進するリーダー配列と関連付けられている。多くのリーダー配列が当該技術分野において公知であり、それらとして、マクロファージコロニー刺激因子受容体(FMS)リーダー配列またはCD124リーダー配列が挙げられる。
【0050】
さらなる実施形態では、pCARを発現する細胞は、キメラサイトカイン受容体、特に4αβキメラサイトカイン受容体を共発現するように操作される。4αβの場合、IL-4受容体α鎖の細胞外ドメインがIL-2/15受容体βの膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインに連結される。これにより、好適な支持培地中でこれらの細胞を培養することで、ex vivoでの遺伝子操作T細胞の選択的増殖および富化が可能になる。4αβの場合、この好適な支持培地は唯一のサイトカイン添加物としてIL-4を含むと考えられる。同様に、この系は、IL-4受容体α鎖の細胞外ドメインが、やはり共通γ鎖に結合するサイトカインが自然に結合する別の受容体の膜貫通および細胞内ドメインに連結したキメラサイトカイン受容体と共に使用してもよい。
【0051】
論じたように、これらの細胞は、標的細胞集団に対するT細胞性免疫応答を刺激するための治療において有用である。したがって、本発明の第2の態様は、標的細胞集団に対するT細胞性免疫応答の刺激を、それを必要とする患者において行うための方法であって、上記のような免疫応答細胞の集団を患者に投与することを含み、結合エレメント(d)および(g)が標的細胞に特異的である、方法を提供する。
【0052】
本発明の第3の態様では、先行する請求項の何れか1項に記載の免疫応答細胞を調製するための方法であって、上記で定義された構造(i)のCARをコードする第1の核酸およびまた上記で定義された構造(ii)のCARをコードする第2の核酸を細胞に形質導入することを含む方法を提供する。
【0053】
特に、本方法では、患者由来のリンパ球に(i)および(ii)のCARをコードする核酸を形質導入する。特に、T細胞に、たとえばレトロウイルスによる形質導入により遺伝子改変を行い、核酸をコードするCARを宿主T細胞ゲノムに導入することで安定なCAR発現を可能にする。次いで、T細胞を、任意選択的に増殖後、患者に再導入して有益な治療効果を得ることができる。T細胞などの細胞が4αβなどのキメラサイトカイン受容体を共発現するように操作されている場合、増殖ステップは、サイトカインを含む培地、たとえば4αβの場合には唯一のサイトカイン添加物としてIL-4を含む培地中のex vivoでの培養ステップを含んでもよい。あるいは、キメラサイトカイン受容体は、IL-7などの異なる特性を有する共通γサイトカインに使用される細胞内ドメインに連結した、IL-4受容体α鎖の細胞外ドメインを含んでもよい。この設定では、IL-4を用いた細胞の増殖により細胞分化が低下し、IL-7の本来の能力を十分に生かしてこの効果を達成することができる。このように、所望の分化状態にある遺伝子操作T細胞の選択的増殖および富化を確実なものにできる。
【0054】
本発明の第4の態様では、上記の(i)のCARをコードする第1の核酸と、上記の(ii)のCCRをコードする第2の核酸との組み合わせを提供する。前に示したように、この組み合わせはpCARと称される。核酸の好適な配列は当業者に明らかになるであろう。配列は、必要とされる免疫応答細胞に使用できるように最適化してもよい。しかしながら、場合により、上記で論じたように、コドンは、反復配列を避けるために最適条件から異なっていてもよく、または「ゆらぎがあって」もよい。そうした核酸の特定の例は、上述の好ましい実施形態をコードする。
【0055】
形質導入を達成するため、本発明の第4の態様の核酸は、好適には、プラスミドまたはレトロウイルスベクターなどのベクターに導入される。プラスミドベクターを含むそうしたベクターまたはそれらを含む細胞株は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0056】
第1および第2の核酸またはそれらを含むベクターは、本発明の第1の態様の免疫応答細胞をin situで産生するために供給されるキットに含めてもよい。
【0057】
上述の核酸によりコードされた並列キメラ活性化受容体(pCAR)は、本発明のさらなる態様を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
次に、例示としてかつ以下の図を参照しながら本発明が詳細に記載される。
【0059】
図1図1は、本発明を実施した一連のCARおよびpCAR(C34Bおよび34CBと命名される)を示す概略図である。CARおよびpCARのすべては、IL-4受容体α細胞外ドメインがIL-2受容体βの膜貫通および細胞内ドメインと融合されたキメラサイトカイン受容体4αβと共にSFGレトロウイルスベクター中で共発現させた。4αβを使用すると、それがガンマc(γc)鎖をリクルートするため、IL-4を用いた培養により遺伝子改変T細胞の選択的富化および増殖が可能になる。
図2図2は、図1に示すCARを用いた実験の結果を示す。これらのCARおよびpCAR(または対照としての、形質導入していない(UT))を発現するT細胞(1×10細胞)を、対応する標的抗原(コロニー刺激因子-1受容体(CSF-1R)、c-fmsによりコードされる)を発現する(T47D-FMS)または欠いている(T47D)T47D腫瘍細胞と24時間in vitroで共培養した。次いで、MTTアッセイにより残存生腫瘍細胞を定量した。
図3図3は、図1のCARおよびpCARを発現するT細胞(または対照としての形質導入していないT細胞)を、外来性サイトカインの非存在下で連続回のAg刺激に供した代表的な実験を示す。刺激はT47D FMS単層に週間培養により与え、T細胞数を表記の間隔で数え上げた。
図4図4は、図3に示した実験に類似した7回の反復実験をプールしたデータを示し、各刺激サイクル後の1週間で生じたCAR T細胞の増殖倍数を示した。
図5図5は、図3に示す実験刺激サイクル2、6、9および12の時点で行った例示的細胞毒性アッセイを示す。これは、各再刺激サイクル時から24時間後のT47D FMS単相および改変していないT47D単層を殺す能力についてT細胞を試験(MTTアッセイ)した結果である。
図6図6は、IL-2およびIFN-γ含量について、各刺激サイクル後の翌日培養物から採取した上清をELISAにより試験した結果を示す。
図7図7は、その後のCARおよびpCAR操作T細胞の抗腫瘍活性試験を可能にした、CSF-1Rを発現する未分化大細胞リンパ腫の異種移植モデルのin vivoでの確立を図示する。このモデルは、ホタルルシフェラーゼ(luc)および赤色蛍光タンパク質(RFP)を発現するように操作されたK299細胞を用いて確立した。図7Aは、表記の用量のK299 luc細胞の静脈内注射後、生物発光イメージング(BLI)により定量した腫瘍形成を示す。図7Bは、2百万個の腫瘍細胞を投与したマウスの代表的なBLI画像を示す。図7Cは、表記の組織におけるRFP腫瘍細胞の発現を示し、本モデルでは腫瘍がリンパ節のみに形成されたことを図示する。図7Dは、5個の代表的なリンパ節腫瘍上のCSF-1Rの発現を示す。
図8図8は、K299 luc細胞をSCID Beigeマウス(各群n=9、3回以上の別の実験に分けた)に静脈内注射した治療研究の結果を示す。5日後、マウスをCAR T細胞で処置した。図8Aは、腫瘍からのプールした生物発光の光を示す。図8Bは、各マウス由来の生物発光の光を示す。図8Cは、マウスの生存率を示す。
図9図9は、治療研究に使用した動物の一定期間における体重を示す。
図10図10は、本発明の二重CAR(C34B)発現T細胞の「疲弊マーカー」発現の解析結果であり、PD1解析の結果を示す。
図11図11は、本発明の二重CAR(C34B)発現T細胞の「疲弊マーカー」発現の解析結果であり、TIM3解析の結果を示す。
図12図12は、本発明の二重CAR(C34B)発現T細胞の「疲弊マーカー」発現の解析結果であり、LAG3解析の結果を示す。
図13図13は、本発明の二重CAR(C34B)発現T細胞の「疲弊マーカー」発現の解析結果であり、2B4解析の結果を示す。
図14図14は、本発明を実施するpCAR(SFG TIE-41BB/A20-28zと命名される)を含む、インテグリンαvβ6を標的とする調製した一連のCARおよびコンストラクトの概略図である。A20-28zは、口蹄疫ウイルスに由来するA20ペプチドを用いて標的化した第二世代CARである。A20は、αvβ6に高親和性であり、他のRGD結合インテグリンに85~1000倍低い親和性で結合する。C20-28zは、A20の重要要素がインテグリン結合活性を阻害するように変異させた適合対照である。CARは、すべて図1に記載されているように4αβと共発現させた。
図15図15は、A375 puro細胞およびPanc1細胞のフローサイトメトリーにより得られた、インテグリン発現を図示する一連のヒストグラムである。細胞は抗β6(Biogen Idec)、続いて二次抗マウスPE、抗αvβ3または抗αvβ5(両方ともAPCコンジュゲート、Bio-Techne)で染色した。ゲートは、二次抗体単独またはアイソタイプ対照に基づき設定した。
図16図16は、αvβ6を標的とする本発明のpCARを含むCARの細胞毒性を図示する一連のグラフである。表記のCARおよびpCARを発現するT細胞をαvβ6陰性(Panc1およびA375 puro)またはαvβ6陽性(Bxpc3およびA375 puro β6)腫瘍細胞と共培養した。データは、2~7回の独立した実験の平均値±SEMを示し、各実験を3回繰り返して行った。p<0.05;**p<0.01;***p<0.001。
図17図17は、本発明のpCARを含む、αvβ6を標的とするCARによるIFN-γの産生を示す一連のグラフである。表記のCARおよびpCARを発現するT細胞をαvβ6陰性(Panc1およびA375 puro)またはαvβ6陽性(Bxpc3およびA375 puro β6)腫瘍細胞と共培養した。データは、5~6回の独立した実験の平均値±SEMを示し、各実験を2回繰り返して行った。p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;ns-有意差なし。
図18図18は、上述のCARおよびpCAR操作したT細胞を用いた再刺激実験の結果を示し、A20-28z/T1E-41BB pCAR T細胞が、T細胞の増殖およびαvβ6インテグリンを発現する(Bxpc3)またはしない(Panc1)標的細胞の破壊を伴って、繰り返し抗原刺激を行う能力を示す。
図19図19は、A20-28zをT1E-41BB、T1E-CD27またはT1E-CD40と共発現させ、TNF受容体ファミリーの追加メンバーによる共刺激の比較評価を可能にしたpCAR操作T細胞を用いた再刺激実験の結果を示す。対照T細胞に形質導入しなかった(NT)一方、CARは切断(tr)細胞内ドメインを含んでいた。αvβ6インテグリンを発現する(Bxpc3)またはしない(Panc1)標的細胞上でT細胞を再刺激して、刺激していないT細胞との比較を行った。Bxpc3細胞の場合、細胞障害活性の持続(図19B)を伴う優れた増殖(図19A)がA20-28z/T1E-CD27T細胞で観察された。一方、Panc1細胞の場合、細胞障害活性の持続(図19B)を伴う優れた増殖(図19A)がA20-28z/T1E-CD27T細胞で観察された。これらのデータから、TNF受容体ファミリーの追加メンバーもpCAR形式を用いた共刺激を伝達できることが証明される。
【発明を実施するための形態】
【0060】
実施例1
ホジキンリンパ腫、未分化大細胞リンパ腫、およびたとえばトリプルネガティブ乳癌などの一部の固形腫瘍に過剰発現するCSF-1受容体(c-FMSによりコードされる)を標的とする一連のCARを調製した。これらを概略的に図1に示す。これらの一連のCARは、標的化部分として2つの天然リガンドCSF-1またはIL-34の何れかを有する第二世代および第三世代CARの両方を含んでいた。CSF-1およびIL-34の両方がCSF-1受容体に結合するが、IL-34の方がかなり高い親和性(CSF-1より34倍高い)で結合する。
【0061】
コンストラクトSFG C28ζおよびSFG CTrをSFG レトロウイルスベクターにNcoI/XhoIフラグメントとしてクローニングし、その開始コドンは、除去したenv遺伝子が以前にあった、天然に存在するNcoI部位にあるようにする。遺伝子発現は、プロモーター活性を有するモロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)末端反復配列(LTR)から達成され、RNAのウイルスパッケージングは、スプライス供与部位とスプライス受容部位とに挟まれたMoMLV Ψパッケージングシグナルにより確保される。
【0062】
他のコンストラクトは、すべてポリメラーゼ不完全プライマー伸長(PIPE)クローニング法を用いて設計およびクローニングした。PIPEクローニング法は、従来の制限酵素およびライゲーションに依存したクローニング法に代わるPCRを用いたクローニング法である。PIPEクローニング法では、追加の不要な残基を発現タンパク質にコードする可能性がある制限部位を組み込む必要がない。PIPE法は、おそらくdNTPの利用率の低下によると考えられる、PCR反応の最終サイクルにおける増幅プロセスの非効率性に依存しており、その結果、5’末端オーバーハングを有する一部一本鎖(PIPE)PCR産物が生成される。1組のベクター特異的プライマーを使用してPCRベクターを線状化し、次いで5’ベクター末端の重複配列を有するもう1組のプライマーを使用してインサートを増幅し、PIPEにより不完全な伸長産物を得た。次のステップでPIPE産物を混合し、一本鎖重複配列がアニールし、完全なSFG CARコンストラクトとしてアセンブルされた。クローニングの成功は、診断制限消化(diagnostic restriction digestion)により確認した。DNAシーケンシングをすべてのコンストラクトについて行って、予想されたコード配列が存在し、PCRによる変異がまったくないことを確認した(Source Bioscience,UK)。
【0063】
パネルには、CSF-1またはIL-34が28zおよび4-1BBにまたはその逆に連結された2つの「二重標的化」キメラ活性化受容体(pCAR)が含まれていた。次いで、二重標的化pCAR組み合わせを、トーセア・アシグナ(Thosea Asigna)(T)2Aを含むレトロウイルスベクターを用いて同一のT細胞集団において化学量論的に共発現させた。これらのCARの一方を「C34B」(CSF1-28zプラスIL34-41BB)と命名し、他方を「34CB」(IL34-28zプラスCSF1-41BB)と命名した。
【0064】
これらの二重標的化CAR T細胞では、共刺激モチーフ(CD28/4-1BB)を膜に近いそれらの天然の位置に置き、物理的に相互に分離して、同一のT細胞内で共発現させる。
【0065】
CARのすべては、追加のT2Aエレメントを含むベクターを用いてIL-4応答性4αβ受容体と共発現させた。これによりIL-4を用いたT細胞の富化/増殖が可能になり、選択後のこれらの多様な細胞集団の機能が比較しやすくなる。
【0066】
本実験の主な焦点は、FMS/CSF-1受容体標的を発現するかまたは欠いている腫瘍標的細胞を用いて繰り返される再刺激に対するT細胞の挙動を試験することであった。各サイクルにおいて、100万個の表記のIL-4により増殖したCAR T細胞をRPMI+ヒトAB血清に懸濁し、抗原発現標的(T47D FMS)または抗原なし標的(T47D)のコンフルエントな単層(24ウェルディッシュ)で培養した。
【0067】
その後、CAR T細胞が生存し続けて単層を破壊した場合、100万個のT細胞を採取し、毎週同じ方法で再刺激した。総細胞数は、週1回のサイクルごとに起こったT細胞の増殖に応じて各時点で推定した。
【0068】
これらの実験のすべてを通して、IL-2またはIL-4などの任意の外来性サイトカインの非存在下でT細胞を培養したため、T細胞は、生存し続けて増殖するためにそれ自体のサイトカインを産生しなければならなかった。サイトカイン(IFN-γおよびIL-2)産生を、T細胞/腫瘍細胞共培養物から回収した上清においてELISAにより測定し、効果的な共刺激の第2のマーカーを得た。
【0069】
標的(FMSによりコードされるCSF-1受容体)を発現する腫瘍単層へのCARの最初の曝露で、殺すと予想されたCARはすべてそうすることが分かった(図2)(12回の実験をプールしたデータ)。対照はUT(形質導入していない)、P4(無関係な抗原、PSMAを標的とする)、および細胞内ドメインが切断されたCT4である。予想通り、CSF-1受容体を欠いている腫瘍細胞(T47D)を殺すCAR T細胞はない。
【0070】
代表的な再刺激実験を図3に示す。7回の実験をプールした再刺激データを図4に示す。この場合、第1のサイクルにおける増殖は大部分のコンストラクトで類似していたが、IL-34標的第二世代および第三世代コンストラクトはより少なかった。これは、IL-34標的化部分の親和性が高すぎるためであり得る。
【0071】
しかしながら、その後のサイクルでは、C34B二重pCAR組み合わせ(CSF-1標的28z第二世代CARがIL-34標的4-1BB共刺激モチーフと共発現したもの)の明確な優位性が一貫して明らかになった。
【0072】
図3に示す実験では、各再刺激サイクル時から24時間後に上清を集め、サイトカイン含量(IFN-γおよびIL-2)についてELISAにより解析した。残存腫瘍細胞生存率の割合をMTTアッセイにより測定した(代表的な例を図5に示す)。サイトカイン産生の結果を図6に示す。C34B CAR T細胞のみが各刺激サイクル全体を通してIL-2を作る能力を保持することが分かった。これは、最初のサイクル後、それ以外のCAR組み合わせのすべてで失われた。繰り返される再刺激を通してIL-2を作る能力が持続的に保持されることは、CAR T細胞では通常見られず、これは、こうした二重共刺激の伝達がin vitroでこれらの細胞の分化を基本的に変化させ、アネルギーの発生を遅延させることを示唆する。
【0073】
連続サイクルのAg刺激による単層破壊後の生存T細胞数もモニターし、結果を図5に示す。第2のサイクルの再刺激後、C34Bを除くすべてのCARが、CSF-1R依存性の腫瘍細胞殺傷を達成する能力を失い始める。一方、C34Bを発現するT細胞は、本細胞傷害性アッセイにおいて最大13の反復サイクルの再刺激で抗原依存性の潜在力を保持するが、改変していないT47D細胞に対してT細胞毒性を誘導しない。
【0074】
さらに、これらのT細胞上のいわゆる「疲弊マーカー」(PD1、TIM3、2B4およびLAG3)についてもフローサイトメトリーにより測定した。結果を図10~13に示す。予想通り、様々な疲弊マーカーを発現したT細胞の割合は、再刺激したT細胞で徐々に増加したものの、これが抗原刺激時のC34B細胞による増殖、腫瘍細胞破壊またはサイトカイン放出を遅らせることはなかった。これは、C34Bの優れた機能が疲弊マーカーのアップレギュレーションの遅延の結果でないことを示唆する。
【0075】
要約すると、本発明のpCARアプローチは、より多くのサイクルの再刺激を介して抗原に対する応答性を細胞が保持する状態に細胞を維持すると思われる。pCARアプローチは、制御された記憶状態を超える分化を遅らせ得る傾向があり、かつ細胞が活性化時にIL-2を作る能力を保持しながら、アネルギーの発生を遅延させるようである。
【0076】
実施例2
in vivoでの作用の解析
上記の実施例1に使用した一連のCARについて、CSF-1受容体標的を低レベルで発現し、かつ疾患がリンパ節全体に散在する、高悪性度in vivo異種移植モデルを用いて抗腫瘍活性を試験した(図7)。腫瘍細胞にホタルルシフェラーゼタグを付加し、疾患負荷の非侵襲的モニタリングを可能にした。
【0077】
SCID/Beigeマウスを6群に無作為に割り付け(3回以上の独立した実験を合わせて各群9匹)、200μLのPBSに再懸濁した2×10個のK299腫瘍細胞を静脈内に(IV)接種した。5日目、各群を下記に示した治療レジメン:
・C4B群:20×10個のC4B T細胞 IV
・C34B群:20×10個のC34B T細胞 IV
・43428Bz:20×10個の43428Bz T細胞 IV
・34CB群:20×10個の34CB T細胞 IV
・UT(形質導入していない)群:20×10個の形質導入していないT細胞 IV
・NT(無処置)群:200μL PBS IV
の1つで処置した。
【0078】
腫瘍成長は、本研究の期間中の適切な時点で生物発光イメージング(BLI)を用いてモニターした。
【0079】
結果を図8に示す。この場合も、最高の効果を発揮した系はpCAR、C34Bの系であり、BLI発光の平均値の低さ(図8A~B)、腫瘍進行の遅延または腫瘍退縮が見られ、マウスの生存の長期化につながった(図8C)。
【0080】
実験を通して動物の体重を測定したが、著しい毒性は示されかなった(図9)。
【0081】
実施例3
αvβ6依存性にT細胞活性化を誘導するpCARを操作するための標的化部分の選択
αvβ6インテグリンを単独または伸長(extended)ErbBファミリーと一緒に標的とする一連のCARを調製した。これらを図14に概略的に示す。この事例に使用した結合エレメントは、口蹄疫ウイルス(血清型01 BFS)由来のカプシドタンパク質VP1のGHループに由来するA20ペプチド(配列番号11)であった(米国特許第8,927,501号明細書)。これをCD124シグナルペプチドの下流に置き、CD28およびCD3ζ細胞内ドメインと融合して第二世代CAR、A20-28ζを形成した。同様のコンストラクトを含むが、重要なRGDLモチーフをAAAAで置き換えてスクランブルした標的化ペプチド(C20と命名される)を用いて対照(C20-28ζ)を調製した。第2の対照は、CD28切断細胞内ドメインと融合したA20(A20-Tr)を含んでいた。
【0082】
本発明のpCAR(TIE-41BB/A20-28zと命名される)を作製するため、A20-28zを、CD8α膜貫通ドメインおよび41BB細胞内ドメインと融合したpan-ErbB標的ペプチド(T1E)を含むキメラ共刺激受容体と共発現させた。
【0083】
記載がある場合、CARは、in vitroでのIL-4を介した富化を可能にするために4αβキメラサイトカイン受容体と共発現させた。IL-4受容体α細胞外ドメインをIL-2/15共有受容体βの膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインと融合したIL-4応答性4αβキメラサイトカイン受容体の等モル共発現は、トーセア・アシグナ(Thosea Asigna)(T)2Aリボソームスキップペプチドを用いて達成した。これらのキメラ分子をレトロウイルス遺伝子導入によりヒトT細胞で発現させた。
【0084】
癌細胞株A375のインテグリン発現パターンを、フローサイトメトリーを用いて評価し(図15)、これらをαvβ6陰性(Panc1およびA375 puro)またはαvβ6陽性(Bxpc3およびA375 puro β6)腫瘍細胞に分けた。これらの細胞をCAR T細胞と1:1のエフェクター:ターゲット比で24時間、28時間または72時間共培養し、その後、細胞毒性をMTTアッセイにより評価し、未処理腫瘍細胞と比較して示した。結果を図16に示す。
【0085】
これらのデータから、A20-28z CAR T細胞がαvβ6インテグリンを発現するすべての標的細胞(Bxpc3およびA375 β6 puro)を殺すが、このインテグリンを欠いている標的(Panc1およびA375 puro)を殺さないことが示される。第2に、本アッセイにおいて対照CAR C20~28zおよびA20-Trは不活性である。第3に、T1E-41BB/A20-28z pCARを発現するT細胞は、αvβ6インテグリンを発現する標的細胞(Bxpc3およびA375 β6 puro)の効果的殺傷を引き起こす。これらの結果はすべて予想通りである。一方、特記される点として、T1E-41BB/A20-28z pCARを発現するT細胞は、αvβ6を欠いている標的細胞(Panc1およびA375 puro)の殺傷も引き起こす。これは、pCARの立体配置内のA20ペプチドが低親和性の非αvβ6インテグリンに結合する能力が、これらの操作したT細胞の活性化を引き起こすのに十分であることの表れである。
【0086】
次いで、pCARおよび対照操作したT細胞のIFN-γの産生を評価した。αvβ6を欠いた(Panc1およびA375 puro)またはαvβ6を発現した(Bxpc3およびA375 puro β6)腫瘍細胞を、遺伝子操作T細胞と1:1のエフェクター:ターゲット比で共培養し、24時間、48時間または72時間後に上清を集めた。IFN-γのレベルをELISA(eBioscience)により定量した。結果を図17に示す。予想通り、対照が産生したIFN-γの量はわずかであった一方、A20-28z CAR T細胞は、αvβ6陽性(Bxpc3およびA375 puro β6)腫瘍細胞と培養した場合にIFN-γを放出した。特記される点として、本発明のpCAR、TIE-41BB/A20zを発現するT細胞は、αvβ6陽性(Bxpc3)腫瘍細胞と培養した場合、A20-28z T細胞より多くのIFN-γを産生する。さらに、TIE-41BB/A20zT細胞は、αvβ6陰性(Panc1およびA375 puro)腫瘍細胞と培養した場合もIFN-γを産生した。ここでもまた、このことから、pCARの立体配置内の非αvβ6インテグリンに対するA20ペプチドの低親和結合が、これらの操作したT細胞の活性化を引き起こすのに十分であることが立証される。
【0087】
次に、CAR T細胞集団をPanc1(αvβ6陰性)またはBxpc3(αvβ6陽性)腫瘍細胞上でIL-2添加物の非存在下、2週間に1回再刺激した。腫瘍細胞を、膵管腺癌(PDAC)の患者に由来するCAR T細胞と1:1のエフェクター:ターゲット比で共培養した(図18)。T細胞を最初に2×10細胞/ウェルで加え、共培養から72時間後にカウントして増殖を評価した(上図)。細胞毒性は、T細胞の添加後の72時間でMTTアッセイにより評価した(下図)。十分な数のT細胞(2×10)が存在した場合、T細胞を新鮮な腫瘍単層上で再刺激し、さらに72時間後にこのプロセスを繰り返した。
【0088】
結果を図18に示す。これらから、A20-28z/T1E-41BBT細胞がIL-2放出(データ示さず)およびαvβ6Bxpc3細胞の破壊を伴い数回の増殖を行うことが例証される。ここでもまた、A20-28z/T1E-41BBT細胞は、IL-2放出およびPanc1腫瘍細胞の破壊を伴う数回の増殖も行った。
【0089】
全体として、これらの結果から、A20-28z/T1E-41BBを含むpCARは、αvβ6を標的とする第二世代CARと比較してin vitroでの機能性の向上を示すことが明らかに示された。さらに、A20-28z/T1E-41BBT細胞は、このインテグリンを微小レベルから検出不可能なレベルで発現するPanc1またはA375 puro細胞によっても活性化を受ける。C34B pCAR(実施例1および2)を用いて得られた知見と合わせて考えると、これは、pCARの立体配置が、41BB CCRによる高親和性結合の相互作用が起こると同時に、28z第二世代CARによる低親和性の相互作用が起こると、連続的な再刺激時にT細胞活性化が起こることを可能にすることの表れである。
【0090】
実施例4
機能的pCARを操作するための代替のTNF受容体ファミリーメンバーCD27の使用
A20-28z/T1E-41BB pCARを出発材料として使用して、41BBモジュールをTNF受容体ファミリーの代替メンバー、すなわちCD27またはCD40で置き換えた別のpCARを操作した。細胞内ドメインを切断した(tr)対照pCARを操作した。αvβ6を発現する(Bxpc3)または欠いている(Panc1)標的細胞を24ウェルプレートの1ウェルあたり5×10細胞の密度で蒔いた。24時間後、5×10個のpCAR T細胞を、外来性サイトカイン添加物を用いずに標的細胞または空ウェル(「刺激していない」)に加えた。さらに72時間後、T細胞をウェルから回収し、カウントした(図19A)。MTTアッセイを行って残存標的細胞の生存割合を判定し、T細胞を添加せずに蒔いてあった対照標的細胞と比較した(図19B)。各刺激サイクル後にT細胞が増殖した場合、上記の通りに新鮮な標的細胞上で再刺激した。pCAR T細胞の増殖(図19A)およびMTTアッセイ(図19B)は、前の場合と同様に72時間後に行った。pCAR T細胞の反復再刺激および標的細胞殺傷の評価は、このように72時間の各サイクル期間にわたりT細胞がもはや増殖しなくなるまで継続した。
【0091】
これらのデータから、T細胞がPanc1標的細胞上で刺激されるときにT細胞増殖および腫瘍細胞殺傷の持続により示される、A20-28z/T1E-41BB pCARの優れた機能性がここでもまた確認される。このことから、非αvβ6インテグリンに対するA20ペプチドの低親和性結合は、これらの操作したT細胞の活性化を引き起こすのに十分であることもさらに確認される。一方、特記される点として、A20-28z/T1E-CD27 pCARは、αvβ6を発現するBxpc3細胞上で再刺激されると、最大レベルの増殖(図19A)および腫瘍細胞殺傷の持続(図19B)を達成した。一方、CD40を用いたpCARは、これらのアッセイにおいて中程度の機能を示した。総合すると、これらのデータから、CD27または41BBが例示されるいくつかのTNF受容体ファミリーメンバーを利用して、優れた機能性を示すpCARを操作できることが立証される。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15-1】
図15-2】
図16-1】
図16-2】
図17-1】
図17-2】
図18-1】
図18-2】
図19-1】
図19-2】
【配列表】
0007053037000001.app