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特許7053085還元型酸化グラフェン(RGO)ベースのバイオセンサ及びその製造方法、並びにバイオ物質の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】還元型酸化グラフェン(RGO)ベースのバイオセンサ及びその製造方法、並びにバイオ物質の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/414 20060101AFI20220405BHJP
【FI】
G01N27/414 301V
G01N27/414 301U
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021517172
(86)(22)【出願日】2019-05-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-30
(86)【国際出願番号】 KR2019006414
(87)【国際公開番号】W WO2019231224
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】10-2018-0062487
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520471841
【氏名又は名称】エックスワイジ プラットホーム インク
【氏名又は名称原語表記】XYZ PLATFORM INC.
【住所又は居所原語表記】254ho, 2F, 10, Yeonmujang 11-gil, Seongdong-gu Seoul 04783 (KR)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ファン、キョソン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ミョンシック
(72)【発明者】
【氏名】パク、ドンソン
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ヨンキョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ジェヒョン
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0306934(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0117945(KR,A)
【文献】特開2014-227304(JP,A)
【文献】特開2011-061046(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0085320(KR,A)
【文献】特表2017-512747(JP,A)
【文献】Guangfu Wu et al.,Graphene Field-Effect Transistors for the Sensitive and Selective Detection of Escherichia coli Using Pyrene-Tagged DNA Aptamer,ADVANCED HEALTHCARE MATERIALS,2017年,Vol.6,,p.1700736,Supporting Information pp.1-21
【文献】Il-Yung Sohn et al.,pH sensing characteristics and biosensing application of solution-gated reduced graphene oxide field-effect transistors,Biosensors and Bioelectronics,Vol.45,2013年,pp.70-76
【文献】Rong Xiang He et al.,Solution-Gated Graphene Field Effect Transistors Integrated in Microfluidic Systems and Used for Flow Velocity Detection,NANO LETTERS,2012年,Vol.12,pp.1404-1409
【文献】Ciril Reiner-Rozman et al.,Graphene-based liquid-gated field effect transistor for biosensing: Theory and ecperiments,Biosensors and Bioelectronics,2015年,Vol.70,pp.21-27
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
H01L 29/78
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にソース電極とドレイン電極を形成する第1ステップ;
前記ソース電極とドレイン電極が形成された基板上に還元型酸化グラフェン層を形成する第2ステップ;
前記還元型酸化グラフェン層の上に第1保護層を形成する第3ステップ;
パターニング工程を行い、前記ソース電極とドレイン電極との間に還元型酸化グラフェンチャネルを形成する第4ステップ;
前記ソース電極とドレイン電極を含めて前記還元型酸化グラフェンチャネルの周囲を取り囲むパッシベーション層を形成する第5ステップ;及び
前記第1保護層を除去する第6ステップ;
を含む、還元型酸化グラフェンベースのバイオセンサの製造方法。
【請求項2】
前記ソース電極とドレイン電極は、20nm/100nmの厚さのCr/Auからなり、
前記第1保護層は、50nmの厚さのAlからなることを特徴とする、請求項1に記載の還元型酸化グラフェンベースのバイオセンサ製造方法。
【請求項3】
前記第6ステップにおいて、前記第1保護層は、180℃に加熱されたウェットエッチング液環境から除去されることを特徴とする、請求項2に記載の還元型酸化グラフェンベースのバイオセンサの製造方法。
【請求項4】
前記基板は、Si/SiO基板であり、
前記第2ステップは、
5%の3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を前記基板上に固定するステップ;
酸化グラフェン(GO)を蒸留水で3mg/mLの濃度に希釈した溶液を、スピンコーティング方式により前記基板上にコーティングするステップ;および
前記コーティングされた酸化グラフェン薄膜を80℃のヨウ化水素酸(HI)蒸気に所定時間さらして還元反応を起こすステップ;を含むことを特徴とする、請求項1に記載の還元型酸化グラフェンベースのバイオセンサの製造方法。
【請求項5】
前記スピンコーティングは、4,000rpmで30秒間行い、
前記酸化グラフェン薄膜を80℃のHI蒸気にさらす時間は、3時間であることを特徴とする、請求項4に記載の還元型酸化グラフェンベースのバイオセンサの製造方法。
【請求項6】
前記第4ステップは、前記第1保護層の上にフォトレジストを用いて前記還元型酸化グラフェンチャネルをパターニングした後、ドライエッチング方法で処理することを特徴とする、請求項1に記載の還元型酸化グラフェンベースのバイオセンサの製造方法。
【請求項7】
前記パッシベーション層は、SU-8フォトレジストからなることを特徴とする、請求項1に記載の還元型酸化グラフェンベースのバイオセンサの製造方法。
【請求項8】
前記還元型酸化グラフェンチャネルに反応溶液を供給するためのPDMSチップを前記パッシベーション層上に貼り付けるステップをさらに含む、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の還元型酸化グラフェンベースのバイオセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元型酸化グラフェン(RGO)ベースのバイオセンサに係り、さらに詳しくは、還元型酸化グラフェン(RGO)チャネルが形成された電界効果トランジスタ(FET)を用いてバイオ物質を検出できるバイオセンサ及びその製造方法、並びにこのようなバイオセンサを用いてバイオ物質を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェン(Graphene)は、優れた特性を有するナノ物質であり、電気的素子及びセンサへの応用のための経済性と性能を確保するために、様々な研究が行われている。しかしながら、最高の電気的および物理的特性を有する純粋な単層グラフェン(monolayer graphene)を得るためには、複雑なプロセス及び高価な装備が必要であるため、大量生産による素子製造が困難であり経済性が劣る。このような欠点を克服し、バイオセンサに応用するために、酸化グラフェン(GO:graphene oxideGO)をベースにした還元型酸化グラフェン(RGO:reduced graphene oxide)が研究されている。
【0003】
グラファイト(graphite)を化学処理して得られる酸化グラフェン(GO)は、酸素官能基を有するため、水等の極性溶媒には容易に溶け、酸化グラフェン溶液を用いてソリューションプロセス(solution process)をベースにして低コストの様々な蒸着技術を適用することができる。
【0004】
酸素官能基を有する酸化グラフェン薄膜は、純粋なグラフェンとは異なり絶縁体であるが、化学的還元反応により還元して得られる還元型酸化グラフェン(RGO)は、電気伝導性(導電性)を確保できるため、電気素子への応用が可能である。
【0005】
一方、ほとんどの生化学反応は液相で起こるので、標的物質をリアルタイムで検出するためには、液相で駆動できるバイオセンサを開発する必要がある。
【0006】
特に、電界効果トランジスタ(FET:Field effect transistor)型バイオセンサは、感度が高く、構造が単純であるため、バイオセンサとして広く研究されている。しかしながら、電界効果トランジスタは、一般に、ゲート物質(gate material)としてhigh-k物質を有するバックゲート(back-gated)FET構造を有し、このため、高い駆動電圧を必要とするという欠点がある。
【0007】
さらに、バイオセンサを、生化学反応が起こる液相で駆動させて現場で適用するには、様々な問題が発生する可能性がある。例えば、還元型酸化グラフェン(RGO)パターンのみを反応溶液にさらすことは容易ではなく、還元型酸化グラフェンパターンに合わせてマイクロチャネルを貼り付けることも困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は、上記問題を解決するために案出されたものであり、その目的は、実際に適用できる電界効果トランジスタ(FET)構造を持ちながら、ゲート電圧を反応溶液に直接印加して低電圧駆動が可能なRGOベースのバイオセンサを提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、上記のようなRGOベースのバイオセンサを製造できる方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、上記のようなRGOベースのバイオセンサを用いて標的バイオ物質を検出する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る液相中のバイオ物質検出のためのRGOベースのバイオセンサは、基板;前記基板上に形成されたソース電極とドレイン電極;前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に形成される還元型酸化グラフェンチャネル;前記還元型酸化グラフェンチャネルに反応溶液を供給するポリジメチルシロキサン(PDMS)チップ;前記PDMSチップを介して供給される反応溶液が前記ソース電極とドレイン電極に接触しないように密閉させるパッシベーション層;及び前記PDMSチップを介して供給され、前記還元型酸化グラフェンチャネルに接触した反応溶液に電気的に接続されるゲート電極;を含んでなる。
【0012】
前記パッシベーション層はSU-8フォトレジストからなり、前記ゲート電極は前記反応溶液に直接接触する。
【0013】
本発明に係るRGOベースのバイオセンサの製造方法は、基板上にソース電極とドレイン電極を形成する第1ステップ;前記ソース電極とドレイン電極が形成された基板上に還元型酸化グラフェン層を形成する第2ステップ;前記還元型酸化グラフェン層の上に第1保護層を形成する第3ステップ;パターニング工程を行い、前記ソース電極とドレイン電極との間に還元型酸化グラフェンチャネルを形成する第4ステップ;前記ソース電極とドレイン電極を含めて前記還元型酸化グラフェンチャネルの周囲を取り囲むパッシベーション層を形成する第5ステップ;及び前記第1保護層を除去する第6ステップ;を含んでなる。
【0014】
前記RGOベースのバイオセンサの製造方法は、前記還元型酸化グラフェンチャネルに反応溶液を供給するためのPDMSチップを前記パッシベーション層上に貼り付けるステップをさらに含んでいてもよい。
【0015】
本発明に係るバイオ物質の検出方法は、RGOチャネルに生体物質を固定するステップ;前記固定された生体物質に反応溶液を供給するステップ;前記ドレイン電極とソース電極との間に流れる電流とゲート電圧を測定してディラック点を求めるステップ;及び前記ディラック点に基づいて、前記反応溶液に含まれている標的物質の検出有無および濃度の少なくとも一方を判定するステップ;を含む。
【0016】
このとき、前記ゲート電圧は、前記RGOチャネルに反応溶液が接触した状態で、前記反応溶液に直接印加される。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るバイオセンサは、パッシベーション層を備え、このパッシベーション層は、PDMSチップを介して還元型酸化グラフェン(RGO)チャネルに供給される反応溶液がソース電極およびドレイン電極などの外部に流出しないように密閉させる。したがって、エラーなしで正確にバイオ物質を検出することができる
【0018】
特に、パッシベーション層は、SU-8フォトレジストからなってもよいが、SU-8フォトレジストは、一般的なフォトレジスト(PR)ポリマーとは異なり、硬化時に生体親和性があり、極性溶媒や酸/塩基などにも耐火性があるため、生化学反応のための溶液露出に適した物性を有している。
【0019】
また、ゲート電圧は、還元型酸化グラフェン(RGO)チャネルに反応溶液が接触した状態で、反応溶液に直接印加される。これにより、約-1.0V~1.0Vのゲート電圧で駆動可能な高感度を有する電界効果トランジスタ(FET)型バイオセンサを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係るRGOベースのバイオセンサの一実施形態である。
図2】本発明に係るRGOベースのバイオセンサを製造する方法の実施形態である。
図3】RGOベースのバイオセンサを製造する各プロセスを説明する例である。
図4】RGO薄膜のXPS分析の例である。
図5】本発明に係るRGOベースのバイオセンサの実物製品の例である。
図6】本発明に係るRGOベースのバイオセンサを用いてバイオ物質を検出する方法の実施形態である。
図7】ディラック点を説明する例である。
図8】アルツハイマー病を診断するためのバイオマーカーであるAβタンパク質を定量的に検出する実験の例である。
図9】RGOバイオセンサを用いたイオン感度を観察する実験例である。
図10】RGOバイオセンサを用いたアセチルコリンエステラーゼ(AChE)酵素反応を検出する実験の例である。
図11】AChE阻害剤による薬物効果を観察する実験の例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、様々な変換を加えることができ、色々な実施形態を有することができるところ、特定の実施形態を図面に例示して詳細な説明において詳細に説明する。
【0022】
しかし、これは本発明を特定の実施形態について限定するものではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれるすべての変換、均等物ないし代替物を含むものと理解されるべきである。本発明を説明するにあたって、関連する公知技術に対する具体的な説明が本発明の要旨を曖昧にする可能性があると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0023】
本出願で使用した用語は、単に特定の実施形態を説明するために使用されたもので、本発明を限定する意図はない。単数の表現は、文脈上明らかに異なるものを意味しない限り、複数の表現を含む。
【0024】
本出願において、「含む」または「有する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、ステップ、動作、構成要素、部品、またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、ステップ、動作、構成要素、部品、またはこれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないものと理解されるべきである。
【0025】
第1、第2などの用語は、様々な構成要素を説明するために使用することができるが、前記構成要素は、前記用語によって限定されてはならない。前記用語は、一つの構成要素を他の構成要素から区別するためにのみ使用される。
【0026】
図1を参照すると、本発明に係るRGOベースのバイオセンサ100は基板110に形成され、基板110には、ソース(source)電極121とドレイン(drain)電極122とが形成され、ソース電極121とドレイン電極122との間には、還元型酸化グラフェン(reduced graphene oxide、RGO)チャネル130が形成される。
【0027】
基板110は、様々な材質で構成されてもよい。具体例としては、シリコン(Si)基板上にSiOが蒸着された基板を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0028】
ソース電極121およびドレイン電極122は、様々な材質で構成されてもよく、クロム及び金(Cr/Au)で構成されてもよいが、これらに限定されるものではない。
【0029】
ソース電極121、ドレイン電極122およびRGOチャネル130の上にはパッシベーション(passivation)層141が形成される。パッシベーション層141は、PDMSチップ150を介して供給される反応溶液がソース電極121およびドレイン電極122に接触しないようにする役割を果たす。すなわち、パッシベーション層141は、反応溶液と接触しなければならない還元型酸化グラフェンチャネル130部分を取り囲む領域を密閉させることで、反応溶液の外部への流出を防止する。
【0030】
このために、パッシベーション層141は、密閉機能だけでなく、PDMS(ポリジメチルシロキサン、Polydimethylsiloxane)チップ150の貼り付け機能をも考慮して構成されることが好ましい。パッシベーション層141を構成する1つの好ましい実施形態は、SU-8フォトレジストから構成することである。
【0031】
SU-8フォトレジストを用いてパッシベーション層141を構成すれば、PDMSチップ150を接着するための別途の手段がなくてもファンデルワールス(Van der Waals)力によってPDMSチップ150と接着され得る。そして、このような単純な接着状態でも、反応溶液の注入や液相での測定時に漏れや分離が発生しない程度の接着力を確保することができる。
【0032】
PDMSチップ150は、還元型酸化グラフェンチャネル130に反応溶液を供給するためのものであり、内部には反応溶液を供給するための空間(マイクロチャネル、151が形成される。このようなマイクロチャネル151は、多様に構成可能であり、反応溶液を入れる入口と、反応溶液が抜けていく出口とを備えてもよい。
【0033】
パッシベーション層141の上部にPDMSチップ150が貼り付けられると、反応溶液が、PDMSチップ150の内部に形成されているマイクロチャネル151を介して供給され、この反応溶液は、還元型酸化グラフェンチャネル130に接触する状態になる。
【0034】
このとき、ゲート電極123は、還元型酸化グラフェンチャネル130に接触している反応溶液に電気的に接続される。
【0035】
すなわち、ゲート電極123は、反応溶液に直接接触して液相駆動が行われる。このために、PDMSチップ150は、ゲート電極123が反応溶液と直接接触するように構成してもよい。
【0036】
図2は、本発明に係るRGOベースのバイオセンサの製造方法の一実施形態であり、図3は、バイオセンサの製造プロセスを概略的に示すものである。
【0037】
図2及び図3を参照して、本発明に係るRGOベースのバイオセンサを製造する方法を具体的に説明する。
【0038】
第1ステップ:基板上にソース電極とドレイン電極を形成する(ステップ211)。
【0039】
ステップ211は、還元型酸化グラフェン薄膜を形成する前に行うことが好ましい。そうすると、以降の工程において還元型酸化グラフェン薄膜がフォトレジストや有機物などにより汚染されることを防ぐことができる。
【0040】
ステップ211においてソース電極とドレイン電極を形成する方法は、様々に構成されてもよい。
【0041】
具体例としては、ソース電極とドレイン電極は、フォトレジスト(photoresist)を用いてパターニングした後、電子ビーム蒸着装置(e-beam evaporator)で前面に厚さ20nm/100nmのCr/Auを蒸着し、アセトン(acetone)に浸してフォトレジストを除去するリフトオフ(lift-off)方式で形成してもよい。図3(a)は、ステップ211が行われた基板の例を示すものである。
【0042】
第2ステップ:ソース電極とドレイン電極上に還元型酸化グラフェン層を形成する(ステップ212)
【0043】
還元型酸化グラフェン(RGO)薄膜をコーティングするためには、まず、グラフェンパウダー(graphite powder)を「ハマーズ法(Hummers'method)」により酸化して酸化グラフェン(graphene oxide、GO)を形成する。酸化グラフェン(GO)は、水などの極性溶媒に凝集することなく、溶液の形で分散することが可能である。
【0044】
ステップ212では、グラフェン薄膜とSiO表面との間の結合力を向上させるために、蒸着前に5%の3-アミノプロピルトリエトキシシラン(3-aminopropyltriethoxysilane:APTES)をSiO上に2時間固定化することができる。そうすると、グラフェンの酸素官能基をAPTESのアミン(amine、-NH)反応基により共有結合させて接着力を向上させることができる。
【0045】
酸化グラフェン(GO)を蒸留水で3mg/mLの濃度に希釈して酸化グラフェン溶液を形成し、スピンコーティング(spin coating)を「4000rpm」で約「30秒」行うことにより、4インチのSiOウェハにコーティングする。
【0046】
コーティングされた酸化グラフェン薄膜は、電気伝導性(導電性)を持たないため、還元反応により酸素官能基を除去することにより、導電性物質である還元型酸化グラフェン(RGO)を形成することができる(図3(b))。具体例として、還元反応は、酸化グラフェン薄膜を80℃で3時間ヨウ化水素酸(HI:hydroiodic acid)蒸気にさらすことによって達成することができる。
【0047】
第3ステップ:還元型酸化グラフェン層の上に第1保護層を形成する(ステップ213)。
【0048】
第1保護層は、還元型酸化グラフェン(RGO)をパターニングする際に発生する可能性のある汚染などの問題を防止するためのものであり、第2ステップでコーティングされた還元型酸化グラフェン薄膜のすぐ上に形成される。
【0049】
具体例として、第1保護層はAlから構成されてもよく、Al層は、RFスパッタ(sputter)を用いて約50nmの厚さに形成されてもよい。
【0050】
第4ステップ:パターニング工程を行い、ソース電極とドレイン電極との間に還元型酸化グラフェンチャネルを形成する(ステップ214)。
【0051】
ステップ214は、RGOアクティブチャネル(active channel)をパターニングするプロセスである。
【0052】
具体例として、ステップ214では、蒸着されたRGO/Al薄膜上にフォトレジストを用いてパターニングを行い、その後、誘導結合プラズマ反応性イオンエッチング(inductively coupled plasma reactive ion etching、ICP-RIE)およびRIE装置をそれぞれ用いたドライエッチング方法により還元型酸化グラフェンチャネルを形成することができる(図3(c))。
【0053】
第5ステップ:ソース電極とドレイン電極を含めて還元型酸化グラフェンチャネルの周囲を取り囲むパッシベーション層を形成する(ステップ215)。
【0054】
還元型酸化グラフェン-電界効果トランジスタ(RGO-FET)が液相でスムーズに駆動するために、RGOパターンのみが溶液にさらされ、ソース電極とドレイン電極が絶縁されている必要がある。万が一、ソース電極とドレイン電極が反応溶液にさらされると、ゲートバイアス(gate bias)が印加されたときにゲート-ドレインに漏れ電流(current leakage)が発生するため、通常の電界効果トランジスタ(FET)動作が不可能になるからである。
【0055】
パッシベーション層は、絶縁体であり、生体適合性(biocompatibility)があると知られているネガ型フォトレジスト(negative photoresist)であるSU-8(SU8-2005)を使用して形成されてもよい。
【0056】
SU-8フォトレジストは、一般的なフォトレジストポリマーとは異なり、硬化時に生体親和性があり、極性溶媒や酸/塩基などにも耐火性があるため、生化学反応のための溶液露出に適した物性を有している。
【0057】
パッシベーション層を形成する具体例としては、ソース電極、ドレイン電極、RGO/Alのパターンが形成されているウェハの全面にSU-8をスピンコートにより塗布し、フォトリソグラフィ(photolithography)によってパターニングすることができる(図3(d))。
【0058】
第6ステップ:第1保護層を除去する(ステップ216)。
【0059】
すなわち、還元型酸化グラフェン(RGO)チャネルのみを反応溶液にさらすために、第1保護層(Al)を除去する。
【0060】
第1保護層の除去は、様々に構成されてもよい。具体例としては、Alの除去は、選択性の高いウェットエッチング液(wet etchant:ceramic etchant A,sigma-aldrich)を180℃に加熱する環境で行うことができる。これによりAlのみを選択的に除去することができ、図4に示すように、XPSによりグラフェン中に残留Alが残っていないことが確認できる。
【0061】
第7ステップ:還元型酸化グラフェンチャネルに反応溶液を供給するためのPDMSチップをパッシベーション層上に貼り付ける(ステップ217)。
【0062】
パッシベーション層がSU-8フォトレジストを用いて構成されると、PDMSチップを接着するための別途の手段を必要とせずにファンデルワールス(Van der Waals)力によってPDMSチップをパッシベーション層上に貼り付けることができる(図3(e))。
【0063】
図5は、前記第1ステップから第7ステップを経て製造されたバイオセンサ101の例を示すものである。
【0064】
バイオセンサ101は、検査用治具102に取り付けられて使用可能であり、基準電極(reference electrode)103がPDMSチップを介して反応溶液に直接接触してゲートを駆動することにより、液相での検査が可能になる。
【0065】
すなわち、第7ステップ(ステップ217)を介してPDMSチップと結合された還元型酸化グラフェン電界効果トランジスタ(RGO FET)型バイオセンサに反応溶液を注入し、駆動のためのゲートとして活用する。
【0066】
図6を参照して、本発明に係るRGOベースのバイオセンサを用いてバイオ物質を検出する方法について説明する。
【0067】
まず、図1を参照して説明したRGOベースのバイオセンサ100、または、本発明に係るRGOベースのバイオセンサの製造方法によって製造されたRGOベースのバイオセンサにおいて、還元型酸化グラフェンチャネルに生体物質を固定する(ステップ231)。
【0068】
ここで、生体物質は、標的物質を検出するためのリンカーとして機能するバイオ物質をいう。
【0069】
次いで、ステップ231で固定された生体物質に反応溶液を供給する(ステップ232)。
【0070】
ステップ232における反応溶液の供給は、PDMSチップに形成されたマイクロチャネルを介して行われてもよい。反応溶液は、還元型酸化グラフェン(RGO)チャネルに供給されるが、パッシベーション層とPDMSチップとの密着により外部に流出せず、ドレイン電極及びソース電極には接触しない。
【0071】
ドレイン電極とソース電極との間に流れる電流とゲート電圧を測定してディラック点(Dirac point)を求める(ステップ233)。この際、ゲート電圧は、還元型酸化グラフェンチャネルに反応溶液が接触した状態で、反応溶液に直接印加される。
【0072】
そして、ステップ233で得られたディラック点に基づいて標的物質の検出有無や濃度などを判定する(ステップ234)。
【0073】
図7に示すように、グラフェンはバンドギャップがゼロの導電性物質であるため、両極性(ambipolar)の特性が現れる。
【0074】
すなわち、電界効果を印加したとき、電荷中性点(charge neutral point)であるディラック点(Dirac point)を有する。このようなディラック点は、グラフェンの表面で発生する生化学反応により増減する様相を示すので、バイオセンサに応用すると、ディラック点(VDirac)に基づいて生化学反応を判定することができる。
【0075】
一方、従来のhigh-k物質をゲート構造として使用する場合には、駆動には高いゲート電圧とソース-ドレイン電圧を必要とする(図7(a))。
【0076】
しかし、本発明のような液相駆動では、低いゲート電圧とソース-ドレイン電圧を必要とする(図7(b))。
【0077】
例えば、本発明による、電気駆動層として還元型酸化グラフェン薄膜を有する電界効果トランジスタ(FET)構造では、液相駆動時に、0.1VSD、V=±1Vで「V」字型の駆動挙動を示すことができる。しかし、従来の電界効果トランジスタの場合には、5VSD、V=±30V程度でスムーズな駆動が行われることが知られている。
【0078】
これは、液体の電気伝導性はhigh-kの電気伝導性よりも優れているため、ゲートバイアス(gate bias)によるRGOチャネルの電界効果(field-effect)現象がより低電圧環境でスムーズに発生するからである。
【0079】
図7に示すように、液相での駆動による生化学的変化を判定するための基準である「V」字形状の最低点(ディラック点)が詳細に観察されるため、より高い分解能を有する可能性がある。
【0080】
これにより、バイオセンサの消費電力を大幅に下げることができ、標的物質を含む反応溶液に直接電圧を印加することにより、結合親和性(binding affinity)による感度を向上させることができる。
【0081】
ここで、本発明に係るバイオセンサの還元型酸化グラフェン(RGO)チャネルに特定の生体物質を固定して、標的物質の特異的検出を行う実験について説明する。
【0082】
図8は、アルツハイマー病を診断するためのバイオマーカーであるAβタンパク質(protein)を定量的に検出した例である。
【0083】
Aβタンパク質を選択的に検出するために、還元型酸化グラフェン(RGO)チャネルの表面に6E10抗体を固定化し、1pg/mL~1ng/mLの濃度のAβタンパク質溶液をPDMSチップに注入して特異的反応を誘導した。
【0084】
図8(a)に示すように、ディラック点の変化が確認でき、これに基づいて、図8(b)に示すような定量曲線が確認できた。
【0085】
図9は、バイオセンサのイオン感度を示すものであり、pH4、pH6、pH8、pH10を有する反応溶液を注入して電界を印加し、2回のサイクルにわたってH+イオン濃度変化の反応再現性が観察できた。
【0086】
さらに、酵素反応を検出するために、バイオセンサにアセチルコリンエステラーゼ(AChE:Acetylcholinesterase)を固定化し、アセチルコリン(ACh:Acetylcholine)が定量的に検出できた。
【0087】
図10(a)は、何も処理されていないグラフェンの表面を示し、図10(b)は、非共有結合を使用してAChEを固定した還元型酸化グラフェン(RGO)チャネルの表面を示す。
【0088】
図10(c)は、ディラック点の変化を示し、図10(d)は、AChE酵素反応に関するグラフを示す。
【0089】
AChのダイナミックレンジ(dynamic range)は1μM~10mMであり、pH変化と同様に反応濃度の再現性が確認できた。AChE酵素反応により水素イオンが発生し、これにより、反応が発生するグラフェンの表面近くのイオン濃度に変化が発生するので、上記のpH変化を観察した結果と同じメカニズムで反応を観察することができた。
【0090】
図11は、AChE阻害剤による薬物効果観察実験の例であり、AD症状の緩和と関連する薬物反応を示す。
【0091】
一般に、ADを含む変性脳疾患における認知能力障害の症状は、AChなどの神経伝達物質の濃度を超えると発生することが知られている。したがって、通常、AChE阻害剤を用いてAD患者の体内の神経伝達物質の濃度を調節することで、症状を緩和する治療剤及び治療法が使用されている。
【0092】
代表的なAChE阻害剤であるドネペジル(donepezil)とリバスチグミン(rivastigmine)を用いて、通常のAChE活動阻害反応を観察した。
【0093】
また、AChEとは反応しないが、体内の他の神経伝達物質酵素の阻害剤として使用されているメマンチン(mementine)を用いて、ネガティブコントロール(negative control)実験を行った。
【0094】
以上で述べてように、RGOベースのFET型バイオセンサのRGOチャネルは、電気駆動層及び生化学的界面として同時に使用される。
【0095】
RGOチャネルの表面に非共有結合のリンカー(linker)を用いて生体物質を固定し、反応溶液にゲート電圧を印加して電界効果を誘導することにより、液体中で素子を電気的に駆動することができる。
【0096】
前記では本発明を特定の好ましい実施形態に関連して図示して説明したが、以下の特許請求の範囲によって用意される本発明の技術的特徴や分野を逸脱しない限度内で本発明が多様に改造及び変化できるということは、当業界において通常の知識を有する者にとっては明らかである。
【符号の説明】
【0097】
100 RGOベースのバイオセンサ
110 基板
121 ソース電極
122 ドレイン電極
123 ゲート電極
130 RGOチャネル
141 パッシベーション層
150 PDMSチップ
151 マイクロチャネル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11