(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】ゴム組成物、加硫ゴム及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20220405BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20220405BHJP
C08L 9/06 20060101ALI20220405BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220405BHJP
C08L 57/02 20060101ALI20220405BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220405BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20220405BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220405BHJP
C08J 9/06 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08L9/06
C08K3/36
C08L57/02
C08K3/04
C08K7/02
B60C1/00 A
C08J9/06 CEQ
(21)【出願番号】P 2018073323
(22)【出願日】2018-04-05
【審査請求日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2017240809
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】岸本 祥子
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-125017(JP,A)
【文献】特開昭63-099250(JP,A)
【文献】特開2010-111753(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126629(WO,A1)
【文献】特開2016-108379(JP,A)
【文献】特開2015-157879(JP,A)
【文献】特開2016-094561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B60C 1/00-19/12
C08J 9/00-9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムと、ポリブタジエンゴムと、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムとを含むゴム成分と、
樹脂とを含有し、
前記ゴム成分100質量部に対し、シリカを含む50~90質量部の充填剤と、
を含有し、
前記ゴム成分中の前記天然ゴムの質量n
(質量%)が40質量%以上であり、前記質量n、前記ポリブタジエンゴムの質量b
(質量%)、及び前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量s
(質量%)が、s≦b≦n(ただし、n=bのとき、s<b)の関係にあり、
前記ポリブタジエンゴム及び前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含む相に、前記シリカの50質量%以上が含まれ
、
前記シリカの質量si(質量部)に対する前記樹脂の質量rs(質量部)の割合(rs/si)が、0.1~1.2である、タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記質量sに対する前記質量bの割合(b/s)が1.0~2.0であり、
前記ゴム成分の含有量a
(質量部)に対する前記ゴム成分のビニル結合量vi(%)の割合〔vi/a〕が8以上である請求項1に記載の
タイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記質量sに対する前記ゴム成分のスチレン結合量st(%)の割合(st/s)が1.0以下である請求項1又は2に記載の
タイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ポリブタジエンゴム及び前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴムが、それぞれシラン変性されている請求項1~3のいずれか1項に記載の
タイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
前記充填剤が更にカーボンブラックを含み、前記カーボンブラックの質量cb
(質量部)に対する前記シリカの質量siの割合(si/cb)が、0.1~1.2である請求項1~
4のいずれか1項に記載の
タイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
更に、発泡剤を含有する請求項1~
5のいずれか1項に記載の
タイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
更に、親水性短繊維を含有する請求項1~
6のいずれか1項に記載の
タイヤ用ゴム組成物。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の
タイヤ用ゴム組成物を加硫した加硫ゴム。
【請求項9】
発泡孔を有する請求項
8に記載の加硫した加硫ゴム。
【請求項10】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の
タイヤ用ゴム組成物を用いたタイヤ。
【請求項11】
発泡孔を有する請求項
10に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、加硫ゴム及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面上でタイヤを走行させると、路面とタイヤとの間にできる水膜によりタイヤがスリップし、ブレーキ性能が低下することから、スタッドレスタイヤにおいては、氷雪路面上でもグリップが効き、車両を制動し易くなるといった氷上性能の向上が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ウェット性能および耐摩耗性と、雪上性能とのバランスを従来レベル以上に向上するようにしたタイヤトレッド用ゴム組成物を提供することを目的として、イヤトレッド用ゴム組成物を、末端変性スチレンブタジエンゴムを40重量%以上、天然ゴムを8~35重量%、ブタジエンゴムを15~40重量%含むジエン系ゴム100重量部に対し、シリカを50重量%以上含む充填剤を66~110重量部配合したゴム組成物であって、前記末端変性スチレンブタジエンゴムが、その末端の官能基がシラノール基と反応する化合物に由来し、そのスチレン単位含有量が38~48重量%、その油展オイルの含有量が30重量%未満であり、前記天然ゴム(NR)に対するブタジエンゴム(BR)の配合量の比(BR/NR)が1.0を超え2.5以下であると共に、前記ゴム組成物の脆化温度が-45℃以下である内容とすることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、作業性と生産性を損なうことなく、氷雪路面上での制動性や駆動性を向上させた重荷重用スタッドレスタイヤを提供すること目的として、重荷重用スタッドレスタイヤを、ブロックパターンを有し、少なくとも1つの陸部列において、該陸部の総数と、トレッド幅方向成分長さが陸部平均半幅以上であるサイプの総数と、の和を全周長さで除した値が、60個/m以上である重荷重用スタッドレスタイヤであって、トレッドのゴム組成物が、SBRを10~30重量部と、加硫時に最高温度に達するまでの間に粘度がゴムマトリックスの粘度よりも低くなる熱可塑樹脂短繊維を2~6重量部配合してなり、加硫後の発泡率が5~20%であり、かつ、25℃、2%歪での動的弾性率(E′)が14MPa以上である内容とすることが開示されている。
【0005】
特許文献3には、ウェット性能を向上させ、スノー性能と両立させたタイヤのトレッド用ゴム組成物及び該組成物を適用したタイヤを提供することを目的として、タイヤのトレッド用ゴム組成物を、ゴム成分が、(1)0~30重量部の天然ゴム(NR)と、(2)0~30重量部のポリブタジエンゴム(BR)と、(3)40~90重量部の結合スチレン量15~45重量%のスチレンーブタジエンゴム(SBR)と、の内少なくとも2種以上をブレンドしてなり、該ゴム成分中のスチレン含有量が15~30重量%であって、かつ、該ゴム成分100重量部に対して、0.5~10重量部の短繊維を少なくとも含有してなる内容とすることが開示されている。
【0006】
特許文献4には、タイヤの氷上性能を大幅に向上させることが可能なゴム組成物を提供することを目的として、ゴム組成物を、互いに非相溶な複数のポリマー相を形成する少なくとも三種のジエン系重合体と、シリカと、を含み、前記ジエン系重合体の少なくとも三種は、各配合量が前記ジエン系重合体の総量の10質量%以上であり、前記配合量が前記ジエン系重合体の総量の10質量%以上であるジエン系重合体の中でガラス転移温度(Tg)が最も低いジエン系重合体(A)の配合量は、該ジエン系重合体(A)以外の前記ジエン系重合体の中で、配合量が最も多いジエン系重合体の配合量の85質量%以上であり、前記配合量が前記ジエン系重合体の総量の10質量%以上であるジェン系重合体の中で、ガラス転移温度(Tg)が最も高いジエン系重合体(C)よりはガラス転移温度(Tg)が低い、前記ジエン系重合体(A)以外のジエン系重合体(B)は、ケイ素原子を含む化合物により変性されており、前記ジエン系重合体(B)は、共役ジエン化合物とスチレンとの共重合体であって、式(i)(St+Vi/2≦33;式中、Stはジエン系重合体(B)の結合スチレン含量(質量%)であり、Viはジエン系重合体(B)の共役ジエン化合物部分のビニル結合量(質量%)である)の関係を満たし、前記シリ力の配合量が、前記ジエン系重合体の合計100質量部に対して25質量部以上である内容とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-229701号公報
【文献】特開2002-127714号公報
【文献】特開2002-69239号公報
【文献】国際公開2017/126629号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
タイヤの氷上性能を向上するには、タイヤを柔らかくしてグリップ力を向上することができるが、タイヤが柔らかくなると摩耗し易くなるため、耐摩耗性は低下する傾向にある。しかしながら、特許文献1~4に示される手法では、低温(例えば-20℃)におけるタイヤのヒステリシスロス(tanδ)が不足し、氷上ブレーキ性能と耐摩耗性のバランスに改善の余地があった。
【0009】
本発明は、低温(-20℃)における低弾性率と、低温における高ヒステリシスロスを両立し、氷上でのブレーキ性能に優れるタイヤが得られる加硫ゴム及びゴム組成物、並びに低温(-20℃)における低弾性率と、低温における高ヒステリシスロスを両立し、氷上でのブレーキ性能に優れるタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
<1> 天然ゴムと、ポリブタジエンゴムと、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムとを含むゴム成分と、
前記ゴム成分100質量部に対し、シリカを含む50~90質量部の充填剤と、
を含有し、
前記ゴム成分中の前記天然ゴムの質量nが40質量%以上であり、前記質量n、前記ポリブタジエンゴムの質量b、及び前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sが、s≦b≦n(ただし、n=bのとき、s<b)の関係にあり、
前記ポリブタジエンゴム及び前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含む相に、前記シリカの50質量%以上が含まれるゴム組成物。
【0011】
<2> 前記質量sに対する前記質量bの割合(b/s)が1.0~2.0であり、
前記ゴム成分の含有量aに対する前記ゴム成分のビニル結合量vi(%)の割合〔vi/a〕が8以上である<1>に記載のゴム組成物。
<3> 前記質量sに対する前記ゴム成分のスチレン結合量st(%)の割合(st/s)が1.0以下である<1>又は<2>に記載のゴム組成物。
【0012】
<4> 前記ポリブタジエンゴム及び前記スチレン-ブタジエン共重合体ゴムが、それぞれシラン変性されている<1>~<3>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
<5> 更に樹脂を含有し、前記シリカの質量siに対する前記樹脂の質量rsの割合(rs/si)が、0.1~1.2である<1>~<4>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【0013】
<6> 前記充填剤が更にカーボンブラックを含み、前記カーボンブラックの質量cbに対する前記シリカの質量siの割合(si/cb)が、0.1~1.2である<1>~<5>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
<7> 更に、発泡剤を含有する<1>~<6>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
<8> 更に、親水性短繊維を含有する<1>~<7>のいずれか1つに記載のゴム組成物。
【0014】
<9> <1>~<8>のいずれか1つに記載のゴム組成物を加硫した加硫ゴム。
<10> 発泡孔を有する<9>に記載の加硫ゴム。
【0015】
<11> <1>~<8>のいずれか1つに記載のゴム組成物を用いたタイヤ。
<12> 発泡孔を有する<11>に記載のタイヤ。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低温(-20℃)における低弾性率と、低温における高ヒステリシスロスを両立し、氷上でのブレーキ性能に優れるタイヤが得られる加硫ゴム及びゴム組成物、並びに低温(-20℃)における低弾性率と、低温における高ヒステリシスロスを両立し、氷上でのブレーキ性能に優れるタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】シリカの粒子における内心方向断面概略図(部分拡大図)である。
【
図2】水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定による、シリカの水銀の圧入排出曲線(概略図)であり、縦軸は、水銀の圧入曲線Cでは微分水銀圧入量(-dV/d(log d))を示し、水銀の排出曲線Dでは微分水銀排出量(-dV/d(log d))を示し、Vは、水銀の圧入曲線Cでは水銀圧入量(cc)、水銀の排出曲線Dでは水銀排出量(cc)を意味し、dはシリカの細孔における開口部の直径(nm)を意味し、横軸はこのd(nm)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明をその実施形態に基づき詳細に例示説明する。
なお、以下の説明において、数値範囲を示す「A~B」の記載は、端点であるA及びBを含む数値範囲を表し、「A以上B以下」(A<Bの場合)、又は「A以下B以上」(B<Aの場合)を表す。
また、質量部及び質量%は、それぞれ、重量部及び重量%と同義である。
【0019】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、天然ゴムと、ポリブタジエンゴムと、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムとを含むゴム成分と、ゴム成分100質量部に対し、シリカを含む50~90質量部の充填剤とを含有し、ゴム成分中の天然ゴムの質量nが40質量%以上であり、質量n、ポリブタジエンゴムの質量b、及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sが、s≦b≦n(ただし、n=bのとき、s<b)の関係にあり、ポリブタジエンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含む相に、シリカの50質量%以上が含まれる。
ゴム組成物が上記構成であることで、本発明のゴム組成物から得られるタイヤは、低温における低弾性率と、低温における高ヒステリシスロスを両立し、氷上でのブレーキ性能に優れる。
かかる理由は定かではないが、次の理由によるものと推察される。
【0020】
スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)とポリブタジエンゴム(BR)はブタジエン由来の構造により相溶し易く、SBR及びBRと、天然ゴム(NR)とは分離し易い傾向にある。従って、本発明のゴム成分は、NRを含む相(NR相という)と、SBR及びBRを含む相(SB相という)とに相分離し易いと考えられる。
SB相は、SBRよりも低弾性のBRと、BRよりも高弾性のSBRとを含み、SBRがBRよりも多くならない構成(s≦b)であるため、タイヤの低温(-20℃)での弾性率を低下し、タイヤが変形し易くなるので低温でのヒステリシスロスを高めることができ、ブレーキも効き易いと考えられる。
ゴム成分中、NRの含有量が40%以上であり、BRよりも少なくならない(b≦n)ので、タイヤの低温での弾性率を低下し、タイヤが変形し易くなるので低温でのヒステリシスロスを高めることができ、ブレーキも効き易いと考えられる。
更に、シリカを含む充填剤がゴム成分100質量部に対し、50~90質量部含まれ、全シリカのうち50%以上のシリカがSB相に含まれることで、タイヤの低温での弾性率を低下し、タイヤが変形し易くなるので低温でのヒステリシスロスを高めることができ、ブレーキも効き易い。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
〔ゴム成分〕
本発明のゴム組成物は、天然ゴム(NR)と、ポリブタジエンゴム(BR)と、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)とを含むゴム成分を含有する。
既述のように、SBRとBRはブタジエン由来の構造により相溶し易く、SBR及びBRと、NRとは分離し易いことから、ゴム成分は、NRを含む相(NR相)と、SBR及びBRを含む相(SB相)とに相分離し易い。SBRは剛直なスチレン由来の構造を有するため、SBRを含むSB相はNR相よりも硬く、更に、SB相は全シリカの50質量%を含むため、ゴム成分はNR相とSB相とで、柔-硬の相構造をなしていると考えられる。本発明のゴム組成物に含まれるゴム成分がかかる相構造を有することにより、本発明のゴム組成物から得られるタイヤは、低温時の弾性率が低く、ヒステリシスロスが高くなると考えられる。
【0022】
ゴム成分は、未変性でもよいし、変性されていてもよいが、SB相にシリカをより多く分配する観点から、SB相を構成するゴム成分であるポリブタジエンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムのいずれか一方又は両方が、シリカに親和性のある変性官能基によって変性されていることが好ましい。
【0023】
[変性官能基]
変性官能基としては、シリカを含む充填剤に対して親和性のある官能基であれば特に制限はないが、窒素原子、ケイ素原子、酸素原子、及びスズ原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子を含むことが好ましい。
例えば、窒素原子を含む変性官能基、ケイ素原子を含む変性官能基、酸素原子を含む変性官能基、スズ原子を含む変性官能基等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、窒素原子を含む変性官能基、ケイ素原子を含む変性官能基および酸素原子を含む変性官能基が、シリカ、カーボンブラック等の充填剤と強く相互作用する点で好ましい。
【0024】
ゴム成分への変性官能基の導入方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、官能基含有重合開始剤を用いる方法、官能基含有モノマーをその他化合物と共重合させる方法、ゴム成分の重合末端に変性剤を反応させる方法等が挙げられる。これらは、1種単独の方法で行ってもよいし、2種以上を合わせて行ってもよい。
【0025】
-窒素原子を含む変性官能基-
窒素原子を含む変性官能基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(I)で表される置換アミノ基、下記一般式(II)で表される環状アミノ基等が挙げられる。
【0026】
【0027】
式中、R1は、1~12個の炭素原子を有する、アルキル基、シクロアルキル基、又はアラルキル基である。ここで、アルキル基としては、メチル基、エチル基、ブチル基、オクチル基、又はイソブチル基が好ましく、シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基が好ましく、アラルキル基としては、3-フェニル-1-プロピル基が好ましい。各々のR1は、同種のものであっても異種のものであってもよい。
【0028】
【0029】
式中、R2基は、3~16個のメチレン基を有する、アルキレン基、置換アルキレン基、オキシ-アルキレン基又はN-アルキルアミノ-アルキレン基である。ここで、置換アルキレン基は、一置換から八置換されたアルキレン基を含み、置換基の例としては、1~12個の炭素原子を有する、直鎖若しくは分岐鎖アルキル基、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、アリール基、又はアラルキル基が挙げられる。ここで、アルキレン基としては、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、及びドデカメチレン基が好ましく、置換アルキレン基としては、ヘキサデカメチレン基が好ましく、オキシアルキレン基としては、オキシジエチレン基が好ましく、N-アルキルアミノ-アルキレン基としては、N-アルキルアザジエチレン基が好ましい。
【0030】
一般式(II)で表される環状アミノ基の例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、2-(2-エチルヘキシル)ピロリジン、3-(2-プロピル)ピロリジン、3,5-ビス(2-エチルヘキシル)ピペリジン、4-フェニルピペリジン、7-デシル-1-アザシクロトリデカン、3,3-ジメチル-1-アザシクロテトラデカン、4-ドデシル-1-アザシクロオクタン、4-(2-フェニルブチル)-1-アザシクロオクタン、3-エチル-5-シクロヘキシル-1-アザシクロヘプタン、4-ヘキシル-1-アザシクロヘプタン、9-イソアミル-1-アザシクロヘプタデカン、2-メチル-1-アザシクロヘプタデセ-9-エン、3-イソブチル-1-アザシクロドデカン、2-メチル-7-t-ブチル-1-アザシクロドデカン、5-ノニル-1-アザシクロドデカン、8-(4’-メチルフェニル)-5-ペンチル-3-アザビシクロ[5.4.0]ウンデカン、1-ブチル-6-アザビシクロ[3.2.1]オクタン、8-エチル-3-アザビシクロ[3.2.1]オクタン、1-プロピル-3-アザビシクロ[3.2.2]ノナン、3-(t-ブチル)-7-アザビシクロ[4.3.0]ノナン、1,5,5-トリメチル-3-アザビシクロ[4.4.0]デカン等から、窒素原子に結合した水素原子を1つ取り除いた基が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
-ケイ素原子を含む変性官能基-
ケイ素原子を含む変性官能基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(III)で表されるカップリング剤を用いて形成される、ケイ素-炭素結合を有する変性官能基等が挙げられる。
SB相を構成するゴム成分と、ケイ素とを、ケイ素-炭素結合を介して化学的に結合させることにより、SB相と充填剤との親和性を高め、SB相により多くの充填剤を分配することができる点で好ましい。
一般的に、ケイ素は、単にゴム組成物中に混合された場合、ゴム成分との親和性の低さに起因して、ゴム組成物の補強性等は低いが、SB相を構成するゴム成分とケイ素とを、ケイ素-炭素結合を介して化学的に結合させることにより、SB相を構成するゴム成分と充填剤との親和性を高め、タイヤのヒステリシスロスをより高めることができる。
【0032】
【0033】
式中、Zはケイ素であり、R3はそれぞれ独立して、1~20個の炭素原子を有するアルキル基、3~20個の炭素原子を有するシクロアルキル基、6~20個の炭素原子を有するアリール基、及び7~20個の炭素原子を有するアラルキル基からなる群から選択され、R4はそれぞれ独立して塩素又は臭素であり、aは0~3であり、bは1~4であり、且つa+b=4である。ここで、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-ブチル基、n-オクチル基、及び2-エチルヘキシルが好ましく、シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基が好ましく、アリール基としては、フェニル基が好ましく、アラルキル基としては、ネオフィル基が好ましい。各々のR3は、同種ものであっても異種のものであってもよい。各々のR4は、同種ものであっても異種のものであってもよい。
【0034】
変性ゴムのシリカとの相互作用を高めることを目的とした場合には、以下の一般式(III-1)で示される化合物及び一般式(III-2)で示される化合物の少なくとも一種を有する変性剤が挙げられる。
【0035】
【0036】
一般(III-1)式中、R1及びR2は、それぞれ独立に炭素数1~20の一価の脂肪族炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基を示し、aは0~2の整数であり、OR2が複数ある場合、複数のOR2は互いに同一でも異なっていても良く、また分子中には活性プロトンは含まれない。
【0037】
ここで、一般式(III-1)で表される化合物(アルコキシシラン化合物)の具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ-n-プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ-n-ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ-sec-ブトキシシラン、テトラ-tert-ブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメトキシジメチルシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン等を挙げることができるが、これらの中で、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン及びジメチルジエトキシシランが好適である。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせても用いてもよい。
【0038】
【0039】
一般式(III-2)中、A1はエポキシ、グリシジルオキシ、イソシアネート、イミン、カルボン酸エステル、カルボン酸無水物、環状三級アミン、非環状三級アミン、ピリジン、シラザン及ジスルフィドからなる群より選択される少なくとも一種の官能基を有する一価の基であり、R3は単結合又は二価の炭化水素基であり、R4及びR5は、それぞれ独立に炭素数1~20の一価の脂肪族炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、bは0~2の整数であり、OR5が複数ある場合、複数のOR5は互いに同一であっても異なっていても良く、また分子中には活性プロトンは含まれない。
【0040】
一般式(III-2)で表される化合物の具体例としては、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物、例えば、2-グリシジルオキシエチルトリメトキシシラン、2-グリシジルオキシエチルトリエトキシシラン、(2-グリシジルオキシエチル)メチルジメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、(3-グリシジルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル(メチル)ジメトキシシラン等を挙げることができる。これらの中で、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランを好適に用いることができる。
【0041】
ケイ素を用いたカップリング剤の例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒドロカルビルオキシシラン化合物、SiCl4(四塩化ケイ素)、(Ra)SiCl3、(Ra)2SiCl2、(Ra)3SiCl等が挙げられる。なお、Raは、各々独立に1~20個の炭素原子を有するアルキル基、3~20個の炭素原子を有するシクロアルキル基、6~20個の炭素原子を有するアリール基、又は7~20個の炭素原子を有するアラルキル基を表す。
これらの中でも、ヒドロカルビルオキシシラン化合物は、シリカに対して高い親和性を有する観点から好ましい。
【0042】
(ヒドロカルビルオキシシラン化合物)
ヒドロカルビルオキシシラン化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(IV)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物を挙げることができる。
【0043】
【0044】
式中、n1+n2+n3+n4=4(但し、n2は1~4の整数であり、n1、n3及びn4は0~3の整数である)であり、A1は、飽和環状3級アミン化合物残基、不飽
和環状3級アミン化合物残基、ケチミン残基、ニトリル基、(チオ)イソシアナート基(イソシアナート基又はチオイソシアナート基を示す。以下、同様)、(チオ)エポキシ基、イソシアヌル酸トリヒドロカルビルエステル基、炭酸ジヒドロカルビルエステル基、ニトリル基、ピリジン基、(チオ)ケトン基、(チオ)アルデヒド基、アミド基、(チオ)カルボン酸エステル基、(チオ)カルボン酸エステルの金属塩、カルボン酸無水物残基、カルボン酸ハロゲン化合物残基、並びに加水分解性基を有する第一もしくは第二アミノ基又はメルカプト基の中から選択される少なくとも1種の官能基であり、n4が2以上の場合には同一でも異なっていてもよく、A1は、Siと結合して環状構造を形成する二価の基であっても良く、R21は、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、n1が2以上の場合には同一でも異なっていてもよく、R23は、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基、炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基又はハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)であり、n3が2以上の場合には同一でも異なっていてもよく、R22は、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、いずれも窒素原子及び/又はケイ素原子を含有していてもよく、n2が2以上の場合には、互いに同一もしくは異なっていてもよく、或いは、一緒になって環を形成しており、R24は、炭素数1~20の二価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、n4が2以上の場合には同一でも異なっていてもよい。加水分解性基を有する第一もしくは第二アミノ基又は加水分解性基を有するメルカプト基における加水分解性基として、トリメチルシリル基又はtert-ブチルジメチルシリル基が好ましく、トリメチルシリル基が特に好ましい。なお、本明細書において、「炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基」は、「炭素数1~20の一価の脂肪族炭化水素基もしくは炭素数3~20の一価の脂環式炭化水素基」を意味する。二価の炭化水素基の場合も同様である。
【0045】
さらに、一般式(IV)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物は、下記一般式(V)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物であることがより好ましい。
【0046】
【0047】
式中、p1+p2+p3=2(但し、p2は1~2の整数であり、p1及びp3は0~1の整数である)であり、A2は、NRa(Raは、一価の炭化水素基、加水分解性基又は含窒素有機基である。加水分解性基として、トリメチルシリル基又はtert-ブチルジメチルシリル基が好ましく、トリメチルシリル基が特に好ましい。)、或いは、硫黄であり、R25は、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、R27は、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基、炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基又はハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)であり、R26は、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基、炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基又は含窒素有機基であり、いずれも窒素原子及び/又はケイ素原子を含有していてもよく、p2が2の場合には、互いに同一もしくは異なり、或いは、一緒になって環を形成しており、R28は、炭素数1~20の二価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基である。
【0048】
さらに、一般式(IV)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物は、下記一般式(VI)又は(VII)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物であることがより好ましい。
【0049】
【0050】
式中、q1+q2=3(但し、q1は0~2の整数であり、q2は1~3の整数である)であり、R31は炭素数1~20の二価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、R32及びR33はそれぞれ独立して加水分解性基、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、R34は炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、q1が2の場合には同一でも異なっていてもよく、R35は炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、q2が2以上の場合には同一でも異なってもよい。
【0051】
【0052】
式中、r1+r2=3(但し、r1は1~3の整数であり、r2は0~2の整数である)であり、R36は炭素数1~20の二価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、R37はジメチルアミノメチル基、ジメチルアミノエチル基、ジエチルアミノメチル基、ジエチルアミノエチル基、メチルシリル(メチル)アミノメチル基、メチルシリル(メチル)アミノエチル基、メチルシリル(エチル)アミノメチル基、メチルシリル(エチル)アミノエチル基、ジメチルシリルアミノメチル基、ジメチルシリルアミノエチル基、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、r1が2以上の場合には同一でも異なっていてもよく、R38は炭素数1~20のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、r2が2の場合には同一でも異なっていてもよい。
【0053】
また、一般式(IV)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物が、下記一般式(VIII)又は(IX)で表される2つ以上の窒素原子を有することが好ましい。
【0054】
【0055】
式中、TMSはトリメチルシリル基であり、R40はトリメチルシリル基、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、R41は炭素数1~20のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、R42は炭素数1~20の二価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基である。
【0056】
【0057】
式中、TMSはトリメチルシリル基であり、R43及びR44はそれぞれ独立して炭素数1~20の二価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、R45は炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、複数のR45は、同一でも異なっていてもよい。
【0058】
また、一般式(IV)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物が、下記一般式(X)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物であることも好ましい。
【0059】
【0060】
式中、r1+r2=3(但し、r1は0~2の整数であり、r2は1~3の整数である。)であり、TMSはトリメチルシリル基であり、R46は炭素数1~20の二価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、R47及びR48はそれぞれ独立して炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基である。複数のR47又はR48は、同一でも異なっていてもよい。
【0061】
さらに、一般式(IV)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物が、下記一般式(XI)で表される化合物であることが好ましい。
【0062】
【0063】
式中、Yはハロゲン原子であり、R49は炭素数1~20の二価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、R50及びR51はそれぞれ独立して加水分解性基又は炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であるか、或いは、R50及びR51は結合して二価の有機基を形成しており、R52及びR53はそれぞれ独立してハロゲン原子、ヒドロカルビルオキシ基、炭素数1~20の一価の脂肪族もしくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基である。R50及びR51としては、加水分解性基であることが好ましく、加水分解性基として、トリメチルシリル基又はtert-ブチルジメチルシリル基が好ましく、トリメチルシリル基が特に好ましい。
【0064】
以上の一般式(IV)~(XI)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物は、変性ゴム成分がアニオン重合により製造される場合に用いられることが好ましい。
また、一般式(IV)~(XI)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物は、アルコキシシラン化合物であることが好ましい。
【0065】
アニオン重合によってジエン系重合体を変性する場合に好適な変性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、3,4-ビス(トリメチルシリルオキシ)-1-ビニルベンゼン、3,4-ビス(トリメチルシリルオキシ)ベンズアルデヒド、3,4-ビス(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)ベンズアルデヒド、2-シアノピリジン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1―メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
ヒドロカルビルオキシシラン化合物は、アニオン重合における重合開始剤として用いられるリチウムアミド化合物のアミド部分であることが好ましい。
リチウムアミド化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、リチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピぺリジド、リチウムへプタメチレンイミド、リチウムドデカメチレンイミド、リチウムジメチルアミド、リチウムジエチルアミド、リチウムジブチルアミド、リチウムジプロピルアミド、リチウムジへプチルアミド、リチウムジへキシルアミド、リチウムジオクチルアミド、リチウムジ-2-エチルへキシルアミド、リチウムジデシルアミド、リチウム-N-メチルピベラジド、リチウムエチルプロピルアミド、リチウムエチルブチルアミド、リチウムエチルベンジルアミド、リチウムメチルフェネチルアミド等が挙げられる。例えば、リチウムヘキサメチレンイミドのアミド部分となる変性剤はヘキサメチレンイミンであり、リチウムピロリジドのアミド部分となる変性剤はピロリジンであり、リチウムピぺリジドのアミド部分となる変性剤はピぺリジンである。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0067】
-酸素原子を含む変性官能基-
酸素原子を含む変性官能基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブドキシ基、t-ブトキシ基等のアルコキシ基;メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等のアルコキシアルキル基;メトキシフェニル基、エトキシフェニル基等のアルコキシアリール基;エポキシ基、テトラヒドロフラニル基等のアルキレンオキシド基;トリメチルシリロキシ基、トリエチルシリロキシ基、t-ブチルジメチルシリロキシ基等のトリアルキルシリロキシ基等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0068】
SB相により多くの充填剤を含ませる観点から、ポリブタジエンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムは、それぞれシラン変性されていることが好ましい。具体的には、ポリブタジエンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムが、それぞれ、既述の一般式(IV)~(XI)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物で変性されたゴム成分であることが好ましい。
【0069】
ゴム成分は、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴム以外のゴム(他のゴムと称する)を含有していてもよい。
他の合成ゴムとしては、合成イソプレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体ゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム等が例示される。これらの合成ジエン系ゴムは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
ゴム成分中の天然ゴムの質量nは40質量%以上であり、質量n、ポリブタジエンゴムの質量b、及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sが、s≦b≦n(ただし、n=bのとき、s<b)の関係にある。
なお、質量n、質量b、質量sの単位は「質量%」である。
天然ゴムの質量nとポリブタジエンゴムの質量bとは同じであってもよいが、同時にポリブタジエンゴムの質量bとスチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sとが同じになることはない。
ゴム成分中の天然ゴムの質量nが40質量%未満であると、得られるタイヤが低温において硬くなり、タイヤが変形しにくくなるため、低温における低弾性率と、低温における高ヒステリシスロスを両立することができず、ひいては氷上でのブレーキ性能を十分に実現することができない。
【0071】
タイヤの氷上ブレーキ性能をより向上する観点から、ゴム成分中の天然ゴムの質量nは、45質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、55質量%以上であることが更に好ましい。
【0072】
スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sに対するポリブタジエンゴムの質量bの割合(b/s)は1.0~2.0であることが好ましい。スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの量sがポリブタジエンゴムの量bと同等か、より少ないことで、SB相の弾性率が高くなりすぎることを抑制し、低温環境下におけるタイヤの弾性率を下げ易い。
ゴム成分中のスチレン-ブタジエン共重合体ゴムの量sは、10~30質量%であることが好ましく、15~25質量%であることがより好ましい。
【0073】
ゴム成分の含有量a(質量部)に対するゴム成分のビニル結合量vi(%)の割合〔vi/a〕は8以上であることが好ましい。
ゴム成分の含有量aの単位は「質量部」である。〔vi/a〕は、下記式により算出される。
[(ab×vib)+(asb×visb)]/a
式中、
abは、ポリブタジエンゴムの含有量(質量部)、
vibは、ポリブタジエンゴムのビニル結合量(%)、
asbは、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの含有量(質量部)、
visbは、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムのビニル結合量(%)である。
含有量ab、asbの単位は「質量部」である。
vi/aが8以上であることで、タイヤの低温での弾性率がより低下し、タイヤが変形し易くなるので低温でのヒステリシスロスを高めることができ、ブレーキも効き易い。
更に、本発明の効果をより達成し易くする観点から、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sに対するポリブタジエンゴムの質量bの割合(b/s)が1.0~2.0であり、かつ、ゴム成分の含有量aに対するゴム成分のビニル結合量vi(%)の割合〔vi/a〕が8以上であることが好ましい。
ゴム成分のビニル結合量vi(%)は、赤外法(モレロ法)で求めることができる。
【0074】
スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの質量sに対するゴム成分のスチレン結合量st(%)の割合(st/s)は1.0以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましく、0.6以下であることが更に好ましい。
st/sが1.0以下であることで、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムの剛直性が和らぐことから、低温環境下におけるタイヤの弾性率をより低くすることができ、氷上ブレーキ性能を向上し易い。
ゴム成分のスチレン結合量st(%)は、赤外法(モレロ法)で求めることができる。
【0075】
〔充填剤〕
本発明のゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、シリカを含む50~90質量部の充填剤を含有する。
ゴム組成物中の充填剤含有量は、ゴム成分100質量部に対し、55質量部以上であることが好ましく、65質量部以上であることがより好ましく、また、85質量部以下であることが好ましく、75質量部以下であることがより好ましい。
【0076】
更に、全シリカ含有量の50質量%以上が、ポリブタジエンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含む相(SB相)に含まれる。
SB相に含まれるシリカの量が、全シリカの50質量%未満であると、NR相に過半数以上のシリカが分配されることになり、NR相を柔軟にすることができないため、タイヤの低温時の弾性率を下げることができない。
SB相に含まれるシリカの量は、50質量%を超えることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
SB相に含まれるシリカを含む充填剤の量(充填剤分配率)は、次の方法により測定することができる。
なお、ゴム組成物中の充填剤分配率は、加硫ゴム中の充填剤分配率に近似し、ゴム組成物を加硫した加硫ゴムを測定試料として、充填剤分配率を測定することができる。
【0077】
例えば、試料の上面に対し角度38°をなす方向に試料を切削した後、切削により形成された該試料の平滑面を、該平滑面に対し垂直な方向から、走査型電子顕微鏡(SEM)〔例えば、Carl Zeiss社製、商品名「Ultra55」〕により、集束イオンビームを用いて、加速電圧1.8~2.2Vで撮影する。得られたSEM画像を画像処理し、解析することで、充填剤分配率を測定することができる。解析手法はいくつかあるが、例えば本発明では下記のような解析法を適用することができる。
本発明のNR相とSB相のように、ゴム成分が2相に分かれた系を測定する場合には、得られたSEM画像をヒストグラムにより2種のゴム成分と充填剤部分に3値化像に変換して得られた3値化像に基づき、画像解析することが手段の一つとして考えられる。その場合、2種の各ゴム成分の相に含まれる充填剤周囲長を求め、測定面積内の充填剤総量から一方のゴム成分の相に存在する充填剤の割合を算出する。充填剤が2種のゴム成分の境界面にある場合は、各ゴム成分と充填剤の3つが接している2点を結び、充填剤の周囲長を分割する。なお、20ピクセル以下の粒子は、ノイズと見做しカウントしない。また、充填剤の存在率測定法や画像解析方法は上記内容に限定されない。
【0078】
充填剤は、シリカを含めば特に制限されず、例えば、ゴム組成物を補強する補強性充填剤が用いられる。シリカ以外の補強性充填剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等のシリカ以外の白色充填剤;カーボンブラック等が挙げられる。充填剤として、シリカのみを単独で用いてもよいし、シリカ及びカーボンブラックの両方を用いてもよい。
【0079】
(カーボンブラック)
カーボンブラックは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。カーボンブラックは、例えば、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFグレードのものが好ましく、HAF、ISAF、SAFグレードのものがより好ましい。
【0080】
(シリカ)
シリカの種類は特に限定されず、一般グレードのシリカ、シランカップリング剤などで表面処理を施した特殊シリカなど、用途に応じて使用することができる。
シリカは、CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)比表面積、好ましくは150m2/g以上、より好ましくは180m2/g以上、更に好ましくは190m2g以上、より一層好ましくは195m2/g以上、特に好ましくは197m2/g以上である。また、シリカのCTAB比表面積は、好ましくは600m2/g以下、より好ましくは300m2/g以下、特に好ましくは250m2/g以下である。シリカのCTAB比表面積が180m2/g以上の場合、耐摩耗性が更に向上し、また、シリカのCTAB比表面積が600m2/g以下の場合、転がり抵抗が小さくなる。
シリカとしては、特に制限はなく、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、湿式シリカが好ましい。これらシリカは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0081】
本発明のゴム組成物は、シリカとして、CTAB比表面積(m2/g)〔式(Y)中では、単に「CTAB」と表示〕とインクボトル状細孔指数(IB)とが、下記式(Y):
IB≦-0.36×CTAB+86.8 (Y)
の関係を満たすシリカを使用してもよい。
【0082】
ここで、CTAB比表面積(m2/g)とは、ASTM D3765-92に準拠して測定された値を意味する。ただし、ASTM D3765-92はカーボンブラックのCTABを測定する方法であるため、本発明では、標準品であるIRB#3(83.0m2/g)の代わりに、別途セチルトリメチルアンモニウムブロミド(以下、CE-TRABと略記する)標準液を調製し、これによってシリカOT(ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)溶液の標定を行い、上記シリカ表面に対するCE-TRAB1分子当たりの吸着断面積を0.35nm2として、CE-TRABの吸着量から算出される比表面積(m2/g)をCTABの値とする。これは、カーボンブラックとシリカとでは表面が異なるので、同一表面積でもCE-TRABの吸着量に違いがあると考えられるためである。
【0083】
また、インクボトル状細孔指数(IB)とは、直径1.2×105nm~6nmの範囲にある開口部を外表面に具えた細孔を有するシリカに対し、水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定において、圧力を1PSIから32000PSIまで上昇させた際における水銀圧入量の最大値を示す開口部の直径(M1)(nm)、及び圧力を32000PSIから1PSIまで下降させた際における水銀排出量の最大値を示す開口部の直径(M2)(nm)により、下記式(Z):
IB=M2-M1 ・・・(Z)
で求められる値を意味する。水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定は、従来より細孔の形態を評価するのに多く採用される電子顕微鏡を用いた測定よりも簡便であり、かつ定量性に優れるので、有用な方法である。
【0084】
一般に、シリカの粒子は、その外表面に開口部を具えた凹状を呈した細孔を多数有している。
図1に、シリカの粒子における内心方向断面でのこれら細孔の形状を模した概略図を示す。粒子における内心方向断面でかかる凹状を呈した細孔は、様々な形状を呈しており、粒子の外表面における開口部の直径Maと粒子内部における細孔径(内径)Raとが略同一の形状、すなわち粒子の内心方向断面において略円筒状を呈する細孔Aもあれば、粒子内部における細孔径(内径)Rbよりも粒子の外表面における開口部の直径Mbの方が狭小である形状、すなわち粒子の内心方向断面においてインクボトル状を呈する細孔Bもある。しかしながら、粒子の内心方向断面においてインクボトル状を呈する細孔Bであると、粒子の外表面から内部へとゴム分子鎖が侵入しにくいため、シリカをゴム成分に配合した際にゴム分子鎖がシリカを充分に吸着することができない。したがって、かかるインクボトル状を呈する細孔B数を低減し、粒子の内心方向断面において略円筒状を呈する細孔A数を増大させれば、ゴム分子鎖の侵入を効率的に促進することができ、tanδを増大させることなく、充分な補強性を発揮して、タイヤの操縦安定性の向上に寄与することが可能となる。
【0085】
上記観点から、本発明では、ゴム成分に配合するシリカに関し、粒子の内心方向断面においてインクボトル状を呈する細孔B数を低減すべく、上記インクボトル状細孔指数(IB)を規定する。上述のように、水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定において圧力を上昇させた際、略円筒状を呈する細孔Aは外表面の開口部が開放的であるために細孔内部に水銀が圧入されやすいが、インクボトル状を呈する細孔Bは外表面の開口部が閉鎖的であるために細孔内部に水銀が圧入されにくい。一方、圧力を下降させた際には、同様の理由により、略円筒状を呈する細孔Aは細孔内部から細孔外部へ水銀が排出されやすいが、インクボトル状を呈する細孔Bは細孔内部から細孔外部へ水銀がほとんど排出されない。
【0086】
したがって、
図2に示すように、水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定では、水銀の圧入排出曲線C-Dにヒステリシスが生じる。すなわち、比較的低圧力下では略円筒状を呈する細孔A内に徐々に水銀が圧入されるが、ある圧力に達した時点で、それまで水銀が侵入しにくかったインクボトル状を呈する細孔Bを含む、略円筒状を呈する細孔以外の細孔内にも一気に水銀が圧入され、急激に圧入量が増大して、縦軸を微分水銀圧入量(-dV/d(log d))、横軸をシリカの細孔における開口部の直径d(nm)とした場合に水銀の圧入曲線Cを描くこととなる。一方、圧力を充分に上昇させた後に圧力を下降させていくと、比較的高圧力下では水銀が排出されにくい状態が継続するものの、ある圧力に達した時点で、細孔内に圧入されていた水銀が細孔外に一気に排出され、急激に排出量が増大して、縦軸を微分水銀排出量(-dV/d(log d))、横軸をシリカの細孔における開口部の直径M(nm)とした場合に水銀の排出曲線Dを描くこととなる。一旦細孔内に圧入された水銀は、圧力の下降時には細孔外に排出されにくい傾向にあるため、圧力の下降時では上昇時における圧入量の増大を示す直径(M1)の位置よりも大きい値を示す直径(M2)の位置で排出量の増大が見られ、これらの直径の差(M2-M1)が
図2のIBに相当する。特にインクボトル状を呈する細孔Bにおいては、圧入された水銀が排出されにくい傾向が顕著であり、圧力上昇時には細孔B内に水銀が圧入されるものの、圧力下降時には細孔B外に水銀がほとんど排出されない。
【0087】
こうした測定方法を採用し、細孔の性質に起因して描かれる水銀圧入排出曲線C-Dを活用して、上記式(Z)に従い、水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定において圧力を1PSIから32000PSIまで上昇させた際に水銀圧入量の最大値を示す開口部の直径(M1)(nm)と、圧力を32000PSIから1PSIまで下降させた際における水銀排出量の最大値を示す開口部の直径(M2)(nm)との差IBを求めれば、かかる値が見かけ上はこれらの直径の差(長さ:nm)を示すものの、実質的にはシリカに存在するインクボトル状を呈する細孔Bの存在割合を示す細孔指数を意味することとなる。すなわち、充分に狭小な開口部を有するインクボトル状を呈する細孔Bの占める存在割合が小さいほど、水銀圧入量と水銀排出量とがほぼ同量に近づき、水銀圧入量の最大値を示す開口部の直径(M1)と水銀排出量の最大値を示す開口部の直径(M2)との差が短縮してIB値が小さくなる。一方、インクボトル状を呈する細孔Bの占める存在割合が大きいほど、水銀圧入量よりも水銀排出量が減少し、水銀圧入量の最大値を示す開口部の直径(M1)と水銀排出量の最大値を示す開口部の直径(M2)との差が拡大してIB値が大きくなる。
【0088】
こうしたIBは、上記CTABの値によっても変動し得る性質を有しており、CTABが増大するにつれ、IB値が低下する傾向にある。したがって、本発明で用いるシリカは、上記式(Y)〔IB≦-0.36×CTAB+86.8〕を満たすのが好ましい。IB及びCTABが式(Y)を満たすシリカであると、狭小な開口部を有するインクボトル状を呈する細孔B数が有効に低減され、略円筒状を呈する細孔Aが占める存在割合が増大するため、ゴム分子鎖を充分に侵入させて吸着させることができ、充分な補強性を発揮して、タイヤの転がり抵抗を増大させることなく、操縦安定性の向上を図ることが可能となる。
【0089】
式(Y)を満たすシリカは、CTAB比表面積が、好ましくは150m2/g以上であり、より好ましくは150~300m2/g、より一層好ましくは150~250m2/g、特に好ましくは150~220m2/gである。CTAB比表面積が150m2/g以上であれば、ゴム組成物の貯蔵弾性率が更に向上し、該ゴム組成物を適用したタイヤの操縦安定性を更に向上させることができる。また、CTAB比表面積が300m2/g以下であれば、シリカをゴム成分中で良好に分散させることができ、ゴム組成物の加工性が向上する。
【0090】
本発明のゴム組成物は、更に、シランカップリング剤を含有してもよい。シランカップリング剤としては、ゴム工業で通常使用されているシランカップリング剤を用いることができる。
【0091】
充填剤として、例えば、カーボンブラックを含む場合、全カーボンブラック中のSB相へのカーボンブラック分配率(以下、「CB分配率」と称する)は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、96.2質量%以上であることが更に好ましい。
また、充填剤として、例えば、シリカを含む場合、全シリカ中のSB相へのシリカ分配率(以下、「Si分配率」と称する)は、56質量%以上であることが好ましく、57質量%以上であることがより好ましく、57.5質量%以上であることが更に好ましい。
CB分配率及びSi分配率は、実施例に示す方法により測定することができる。
更に、カーボンブラックの質量cbに対するシリカの質量siの割合(si/cb)は、0.1~1.2であることが好ましい。
【0092】
〔樹脂〕
本発明のゴム組成物は、樹脂を含有することが好ましい。
本発明のゴム組成物が樹脂を含有することで、得られる加硫ゴム及びタイヤの低温での弾性率をより低下することができ、氷上で硬くなりがちなタイヤを路面の凹凸に適応させ易くなるため、氷上でのブレーキ性能をより高めることができる。
樹脂としては、C5系樹脂、C5/C9系樹脂、C9系樹脂、フェノール樹脂、テルペン系樹脂、テルペン-芳香族化合物系樹脂、液状ポリイソプレン等が挙げられる。これら樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0093】
C5系樹脂としては、脂肪族炭化水素樹脂及び脂環式炭化水素樹脂が挙げられる。
脂肪族炭化水素樹脂としては、C5系の石油留分を重合して製造された石油樹脂が挙げられる。高純度の1,3-ペンタジエンを主原料に製造された石油樹脂としては、日本ゼオン(株)製の商品名「クイントン100」シリーズ(A100、B170、K100、M100、R100、N295、U190、S100、D100、U185、P195N等)が挙げられる。また、他のC5系の石油留分を重合して製造された石油樹脂としてはエクソンモビール社製の商品名「エスコレッツ」シリーズ(1102、1202(U)、1304、1310、1315、1395等)、三井化学(株)製の商品名「ハイレッツ」シリーズ(G-100X、-T-100X、-C-110X、-R-100X等)が挙げられる。
脂環式炭化水素樹脂としては、C5留分から抽出されたシクロペンタジエンを主原料に製造されたシクロペンタジエン系石油樹脂やC5留分中のジシクロペンタジエンを主原料として製造されたジシクロペンタジエン系石油樹脂が挙げられる。例えば、高純度のシクロペンタジエンを主原料に製造されたシクロペンタジエン系石油樹脂としては、日本ゼオン(株)製の商品名「クイントン1000」シリーズ(1325、1345等)が挙げられる。また、ジシクロペンタジエン系石油樹脂としては、丸善石油化学(株)の商品名「マルカレッツM」シリーズ(M-890A、M-845A、M-990A等)が挙げられる。
【0094】
C5/C9系樹脂としては、C5/C9系合成石油樹脂が挙げられ、具体的には、例えば、石油由来のC5~C11留分を、AlCl3、BF3などのフリーデルクラフツ触媒を用いて重合して得られる固体重合体が挙げられ、より具体的には、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、インデンなどを主成分とする共重合体等が挙げられる。C5/C9系樹脂は、C9以上の成分の少ない樹脂が、ジエン系重合体との相溶性の観点から好ましい。ここで、「C9以上の成分が少ない」とは、樹脂全量中のC9以上の成分が50質量%未満、好ましくは40質量%以下であることを言うものとする。C5/C9系樹脂は、市販品を利用することができ、例えば、商品名「クイントン(登録商標)G100B」(日本ゼオン株式会社製)、商品名「ECR213」(エクソンモービルケミカル社製)等が挙げられる。
【0095】
C9系樹脂としては、C9系合成石油樹脂が挙げられ、C9留分をAlCl3、BF3などのフリーデルクラフツ型触媒を用い、重合して得られた固体重合体であり、インデン、メチルインデン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどを主成分とする共重合体等が挙げられる。
フェノール樹脂としては、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン-ホルムアルデヒド樹脂、クレゾール-ホルムアルデヒド樹脂などが好ましく、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂が特に好ましい。
【0096】
テルペン系樹脂は、天然由来のテレピン油又はオレンジ油を主原料に製造された樹脂をいい、ヤスハラケミカル(株)製の商品名「YSレジン」シリーズ(PX-1250、TR-105等)、ハーキュリーズ社製の商品名「ピコライト」シリーズ(A115、S115等)が挙げられる。
テルペン-芳香族化合物系樹脂としては、例えば、テルペンフェノール樹脂が挙げられ、具体的には、ヤスハラケミカル(株)製の商品名「YSポリスター」シリーズ(U-130、U-115等のUシリーズ、T-115、T-130、T-145等のT-シリーズ、)、荒川化学工業(株)製の商品名「タマノル901」等が挙げられる。
【0097】
液状ポリイソプレンとしては、重量平均分子量50,000以下のものであれば特に制限されいないが、天然ゴムに対する親和性の観点から、イソプレン骨格を主骨格とするイソプレンの単独重合体であることが好ましい。液状ポリイソプレンの重量平均分子量は8,000~40,000であることが好ましい。
【0098】
NR相をより柔軟化し、低温でのタイヤの弾性率をより下げる観点から、樹脂はNR相に含まれることが好ましい。また、NR相に樹脂を分配易くする観点から、樹脂は、イソプレン骨格を主骨格として有する樹脂を用いることが好ましい。具体的には、C5系樹脂、テルペン系樹脂、及び、重量平均分子量50,000以下の液状ポリイソプレンからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。以上の中でも、C5系樹脂が好ましい。
【0099】
樹脂のゴム組成物中の含有量は、特に限定されるものではないが、ゴム成分100質量部に対して1~30質量部が好ましく、5~25質量部がより好ましい。
また、低温における低弾性率と、低温における高ヒステリシスロスを両立する観点、及び、ゴム組成物をトレッドに適用した際に、タイヤの氷上性能と耐摩耗性を更に向上する観点から、シリカの質量si(質量部)に対する樹脂の質量rs(質量部)の割合(rs/si)は、0.1~1.2であることが好ましい。
【0100】
〔発泡剤〕
本発明のゴム組成物は、発泡剤を含有することが好ましい。
ゴム組成物が発泡剤を含有することにより、ゴム組成物の加硫中に、発泡剤によって加硫ゴムに気泡が生じ、加硫ゴムを発泡ゴムとすることができる。発泡ゴムは柔軟性を有するため、加硫ゴムを用いたタイヤ表面は、氷路面に密着し易くなる。また、気泡により加硫ゴム表面及びタイヤ表面に気泡由来の穴(発泡孔)が生じ、水を排水する水路として機能する。
【0101】
発泡剤としては、具体的には、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、ジニトロソペンタスチレンテトラミンやベンゼンスルホニルヒドラジド誘導体、p,p’-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、二酸化炭素を発生する重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、窒素を発生するニトロソスルホニルアゾ化合物、N,N’-ジメチル-N,N’-ジニトロソフタルアミド、トルエンスルホニルヒドラジド、p-トルエンスルホニルセミカルバジド、p,p’-オキシビスベンゼンスルホニルセミカルバジド等が挙げられる。なかでも、製造加工性の観点から、アゾジカルボンアミド(ADCA)、及びジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)が好ましい。これら発泡剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
また、発泡剤のゴム組成物中の含有量は、特に限定されるものではないが、ゴム成分100質量部に対して0.1~20質量部が好ましく、1~10質量部がより好ましい。
【0102】
ゴム組成物は、更に、発泡助剤として尿素、ステアリン酸亜鉛、ベンゼンスルフィン酸亜鉛、亜鉛華等を用いてもよい。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。発泡助剤を併用することにより、発泡反応を促進して反応の完結度を高め、経時的に不要な劣化を抑制することができる。
【0103】
発泡剤を含有するゴム組成物を加硫した後に得られる加硫ゴムにおいて、その発泡率は、通常1~50%、好ましくは5~40%である。発泡剤を配合した場合、発泡率が50%以下であることで、ゴム表面の空隙も大きくなり過ぎず、充分な接地面積を確保でき、排水溝として有効に機能する気泡の形成を確保しつつ、気泡の量を適度に保持できるので、耐久性を損なうおそれもない。ここで、加硫ゴムの発泡率とは、平均発泡率Vsを意味し、具体的には次式(1)により算出される値を意味する。
Vs=(ρ0/ρ1-1)×100(%) (1)
式(1)中、ρ1は加硫ゴム(発泡ゴム)の密度(g/cm3)を示し、ρ0は加硫ゴム(発泡ゴム)における固相部の密度(g/cm3)を示す。なお、加硫ゴムの密度及び加硫ゴムの固相部の密度は、エタノール中の質量と空気中の質量を測定し、これから算出される。また、発泡率は、発泡剤や発泡助剤の種類、量等により適宜変化させることができる。
【0104】
〔親水性短繊維〕
本発明のゴム組成物は、親水性短繊維を含有することが好ましい。
ゴム組成物が親水性短繊維を含有すると、ゴム組成物の加硫後、タイヤ(特にトレッド)中に長尺状の気泡が存在し、タイヤの摩耗によって長尺状の気泡がタイヤ表面に露出して空洞が形成され、効率的な排水を行う排水路として機能し易い。ここで、空洞は、穴状、窪み状及び溝状のいずれの形状であってもよい。
更に、短繊維が親水性であることで、タイヤ表面にできる短繊維由来の空洞が吸水し易くなる。
【0105】
ここで、親水性短繊維とは、水に対する接触角が5~80度である短繊維をいう。
親水性短繊維の水に対する接触角は、親水性短繊維を平滑な板状に成形した試験片を用意し、協和界面化学(株)製の自動接触角計DM-301を用い、25℃、相対湿度55%条件下で、試験片の表面に水を滴下して、その直後に真横から観察したときに、試験片表面が成す直線と水滴表面の接線とが成す角度を測定することにより求めることができる。
【0106】
親水性短繊維としては、分子内に親水性基を有する樹脂(親水性樹脂と称することがある)を用いることができ、具体的には、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子から選択される少なくとも1つを含む樹脂であることが好ましい。例えば、-OH、-COOH、-OCOR(Rはアルキル基)、-NH2、-NCO、及び-SHからなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基を含む樹脂が挙げられる。これらの置換基のなかでも、-OH、-COOH、-OCOR、-NH2、及び-NCOが好ましい。
【0107】
親水性樹脂は水に対する接触角が小さく、水に対して親和性があることが好ましいが、親水性樹脂は水に不溶であることが好ましい。
親水性樹脂が水に不溶であることで、加硫ゴム表面及びタイヤ表面に水が付着したときに、水に親水性樹脂が溶け込んでしまうことを防ぐことができ、短繊維由来の空洞の吸水力を保持することができる。
【0108】
以上のような、水に対する接触角が大きく、一方で、水に不溶である親水性樹脂としては、より具体的には、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ビニルアルコール単独重合体、ポリ(メタ)アクリル酸樹脂或いはそのエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレングリコール樹脂、カルボキシビニル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン樹脂、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体、メルカプトエタノール等が挙げられる。
なかでも、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ビニルアルコール単独重合体、ポリ(メタ)アクリル酸樹脂、ポリアミド樹脂、脂肪族ポリアミド系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、及びアクリル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、エチレン-ビニルアルコール共重合体がより好ましい。
【0109】
短繊維の形状は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、短繊維を含むゴム組成物を加硫して得られる加硫ゴム中に、ミクロな排水溝として機能し得る長尺状気泡を効率良く形成する観点から、短繊維100個の平均値として、長軸方向の長さが0.1~10mmであることが好ましく、0.5~5mmであることがより好ましい。また、同様の観点から短繊維の平均径(D)としては、短繊維100個の平均値として、10~200μmであることが好ましく、20~100μmであることがより好ましい
短繊維のゴム組成物中の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、0.2~20質量部であることが好ましく、1~10質量部であることがより好ましい。
【0110】
〔加硫剤〕
本発明のゴム組成物は、加硫剤を含有することが好ましい。
加硫剤は、特に制限はなく、通常、硫黄を用い、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等を挙げることができる。
本発明のゴム組成物においては、当該加硫剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましい。この含有量が0.1質量部以上であることで加硫を充分に進行させることができ、10質量部以下をとすることで、加硫ゴムの耐老化性を抑制することができる。
ゴム組成物中の加硫剤の含有量はゴム成分100質量部に対して、0.5~8質量部であることがより好ましく、1~6質量部であることが更に好ましい。
【0111】
〔他の成分〕
本発明のゴム組成物は、既述のゴム成分、充填剤、シランカップリング剤、樹脂、発泡剤、親水性短繊維、及び加硫剤に加え、他の成分を含有していてもよい。
他の成分としては、特に限定されず、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、亜鉛華、発泡助剤、加硫促進剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して含有していてもよい。
【0112】
<ゴム組成物の調製>
本発明のゴム組成物は、上述した各成分を配合して、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練り機を使用して混練りすることによって製造することができる。
ここで、ゴム成分、充填剤等の配合量は、ゴム成分中の含有量として既述した量と同じである。
各成分の混練は、全一段階で行ってもよく、二段階以上に分けて行ってもよい。二段階で成分を混練する方法としては、例えば、第一段階において、ゴム成分、充填剤、樹脂、シランカップリング剤、親水性短繊維、並びに、加硫剤及び発泡剤以外の他の配合成分を混練し、第二段階において、加硫剤及び発泡剤を混練する方法が挙げられる。
混練の第一段階の最高温度は、130~170℃とすることが好ましく、第二段階の最高温度は、90~120℃とすることが好ましい。
【0113】
<加硫ゴム、タイヤ>
本発明の加硫ゴム及びタイヤは、本発明のゴム組成物を用いてなる。
タイヤは、適用するタイヤの種類や部材に応じ、本発明のゴム組成物を用いて成形後に加硫して得てもよいし、予備加硫工程等を経て、一旦、ゴム組成物から半加硫ゴムを得た後、これを用いて成形後、さらに本加硫して得てもよい。
タイヤの各種部材の中でも、低温における低弾性率と、低温における高ヒステリシスロスを両立し、氷上でのブレーキ性能に優れる観点から、トレッド部材、特に、スタッドレスタイヤ用のトレッド部材に適用するのが好ましい。なお、タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0114】
本発明の加硫ゴム及びタイヤは、発泡孔を有することが好ましい。
加硫ゴム及びタイヤの発泡率は、通常1~50%であり、好ましくは5~40%である。発泡率が当該範囲であることで、タイヤ表面の発泡孔が大きくなり過ぎず、充分な接地面積を確保でき、排水溝として有効に機能する発泡孔の形成を確保しつつ、気泡の量を適度に保持できるので、耐久性を損なうおそれもない。ここで、タイヤの発泡率は、既述の式(1)により算出される。
【実施例】
【0115】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0116】
<ゴム組成物の調製>
表1及び2に示す配合処方にて、バンバリーミキサーを用いて、ゴム組成物の配合成分を混練し、サンプルとなるゴム組成物を調製する。なお、混練の最終段階において、加硫剤である硫黄、及び加硫促進剤を配合する。
【0117】
【0118】
表1中の成分の詳細は次のとおりである。
カーボンブラック:旭カーボン(株)製、商品名「カーボンN220」
シリカ:東ソーシリカ(株)製、商品名「NIPSIL AQ」
シランカップリング剤:Evonic社製、商品名「Si69」
樹脂:C5系樹脂、三井石油化学工業(株)製、商品名「HI-REZ G-100X」
ステアリン酸:新日本理化(株)製、商品名「ステアリン酸50S」
亜鉛華:ハクスイテック(株)製、商品名「3号亜鉛華」
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーDM」、ジ-2-ベンゾチアジルジスルフィド
加硫剤:鶴見化学(株)製、商品名「粉末硫黄」
老化防止剤:N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン
発泡剤:ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)
親水性短繊維:ポリエチレン〔日本ポリエチレン(株)製、商品名「ノバテックHJ360」(MFR5.5、融点132℃)〕を混練機で混練りし、ダイから樹脂を押し出し、長さ3mmにカットして得られる直径32μmの樹脂
【0119】
また、表2に示した「ゴム成分1」~「ゴム成分3」の欄に示す成分の詳細は次のとおりである。
(1)ゴム成分1(天然ゴム)
NR:TSR20
【0120】
(2)ゴム成分2(未変性BR、変性BR)
未変性BR:宇部興産株式会社製、商品名「UBEPOL BR150L」
変性BR1:下記方法により製造した変性ポリブタジエンゴム
変性BR2:下記方法により製造した変性ポリブタジエンゴム
【0121】
〔変性BR1の製造方法〕
(1)触媒の調製
乾燥し、窒素置換された、ゴム詮付容積100ミリリットルのガラスびんに、以下の順番に、ブタジエンのシクロヘキサン溶液(15.2質量%)7.11g、ネオジムネオデカノエートのシクロヘキサン溶液(0.56モル/リットル)0.59ミリリットル、メチルアルミノキサンMAO(東ソーアクゾ株式会社製、商品名「PMAO」)のトルエン溶液(アルミニウム濃度として3.23モル/リットル)10.32ミリリットル、水素化ジイソブチルアルミニウム(関東化学株式会社製)のヘキサン溶液(0.90モル/リットル)7.77ミリリットルを投入し、室温で2分間熟成する。その後、塩素化ジエチルアルミニウム(関東化学株式会社製)のヘキサン溶液(0.95モル/リットル)1.45ミリリットルを加え室温で、時折攪拌しながら15分間熟成する。こうして得られる触媒溶液中のネオジムの濃度は、0.011モル/リットルである。
【0122】
(2)中間重合体の製造
約900ミリリットル容積のゴム栓付きガラスびんを乾燥し、窒素置換し、乾燥精製されたブタジエンのシクロヘキサン溶液および乾燥シクロヘキサンを各々投入し、ブタジエン12.5質量%のシクロヘキサン溶液が400g投入された状態とする。次に、前記(1)で調製した触媒溶液2.28ミリリットル(ネオジム換算0.025mmol)を投入し、50℃温水浴中で1.0時間重合を行い、中間重合体を製造する。得られる重合体のミクロ構造は、シス-1,4-結合量95.5%、トランス-1,4-結合含有量3.9%、ビニル結合含有量0.6%である。
【0123】
(3)変性処理
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラ濃度が1.0モル/リットルのヘキサン溶液を、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランがネオジムに対して23.5モル当量になるように、前記(2)で得た重合液に投入し、50℃にて60分間処理する。
次いで、ソルビタントリオレイン酸エステル(関東化学株式会社製)を1.2ミリリットル加えて、さらに60℃で1時間変性反応を行う。その後、重合系に老化防止剤2,2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)(NS-5)のイソプロパノール5質量%溶液2ミリリットルを加えて反応の停止を行い、さらに微量のNS-5を含むイソプロパノール中で再沈殿を行ない、ドラム乾燥することにより、変性ポリブタジエン(変性BR1)を得る。変性BR1には、マクロゲルは認められず、100℃ムーニー粘度(ML1+4:100℃)は59である。変性処理後のミクロ構造も上記中間重合体のミクロ構造と同様である。
【0124】
〔変性BR2の製造方法〕
(1)未変性ポリブタジエンの製造
窒素置換された5Lオートクレーブに、窒素下、シクロヘキサン1.4kg、1,3-ブタジエン250g、2,2-ジテトラヒドロフリルプロパン(0.285mmol)シクロヘキサン溶液として注入し、これに2.85mmolのn-ブチルリチウム(BuLi)を加える。その後、攪拌装置を備えた50℃温水浴中で4.5時間重合を行なう。1,3-ブタジエンの反応転化率は、ほぼ100%である。この重合体溶液の一部を、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール1.3gを含むメタノール溶液に抜き取り重合を停止させる。その後、スチームストリッピングにより脱溶媒し、110℃のロールで乾燥して、変性前のポリブタジエンを得る。得られる変性前のポリブタジエンについてミクロ構造(ビニル結合量)を測定する。その結果、ビニル結合量は30質量%である。
【0125】
(2)第1級アミン変性ポリブタジエン(変性BR2)の製造
上記(1)で得られる重合体溶液を、重合触媒を失活させることなく、温度50℃に保ち、第1級アミノ基が保護されたN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン1129mg(3.364mmol)を加えて、変性反応を15分間行う。
この後、縮合促進剤であるテトラキス(2-エチル-1,3-ヘキサンジオラト)チタン8.11gを加え、更に15分間攪拌する。
最後に反応後の重合体溶液に、金属ハロゲン化合物として四塩化ケイ素242mgを添加し、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを添加する。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒及び保護された第1級アミノ基の脱保護を行い、110℃に調温された熟ロールによりゴムを乾燥し、第1級アミン変性ポリブタジエン(変性BR2)を得る。得られる変性ポリブタジエンについてミクロ構造(ビニル結合量)を測定する。その結果、ビニル結合量は30質量%である。
【0126】
中間重合体、未変性ポリブタジエン及び変性ポリブタジエンのミクロ構造(ビニル結合量)は赤外法(モレロ法)により測定する。
【0127】
(3)ゴム成分3(未変性SBR、変性SBR)
未変性SBR:JSR株式会社製、商品名「SBR #1500」
変性SBR:下記方法により製造される変性スチレン-ブタジエン共重合体ゴム
【0128】
〔変性SBRの製造方法〕
乾燥し、窒素置換した800mLの耐圧ガラス容器に、1,3-ブタジエンのシクロヘキサン溶液およびスチレンのシクロヘキサン溶液を、1,3-ブタジエン67.5gおよびスチレン7.5gになるように加え、2,2-ジテトラヒドロフリルプロパン0.6mmolを加え、0.8mmolのn-ブチルリチウムを加える。その後、50℃で1.5時間重合を行う。この際の重合転化率がほぼ100%となる重合反応系に対し、変性剤としてN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシランを0.72mmol添加し、50℃で30分間変性反応を行う。その後、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)のイソプロパノール5質量%溶液2mLを加えて反応を停止させ、常法に従い乾燥して変性SBRを得る。得られる変性SBRのミクロ構造(ビニル結合量)をモレロ法で測定する。その結果、結合スチレン量が10質量%、ブタジエン部分のビニル結合量が40%である。
【0129】
重合体の結合スチレン量は1H-NMRスペクトルの積分比より求める。
また、ゴム成分の含有量a(質量部)に対するゴム成分のビニル結合量vi(%)の割合〔vi/a〕を、既述の式:[(ab×vib)+(asb×visb)]/aに基づいて算出し、表2の「〔vi/a〕」欄に示す。
【0130】
<充填剤のSB相への分配率測定>
全充填剤中の、ポリブタジエンゴム及びスチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含む相(SB相)〔比較例1~3においては、ポリブタジエンゴムを含む相(BR相)〕に含まれる充填剤の分配率は、次のようにして測定し、表2の「充填剤分配率」欄に示す。
同様にして、全カーボンブラック中のSB相またはBR相に含まれるカーボンブラックの分配率及び、全シリカ中のSB相またはBR相に含まれるシリカの分配率を、表2の「CB分配率」欄及び「Si分配率」欄に、それぞれ示す。
【0131】
SB相(SB相またはBR相)に存在する充填剤の分配率は、加硫して得られる各実施例と各比較例のゴムサンプルを剃刀で小さく切削した試料を用いて測定する。集束イオンビームを用いて、試料の上面に対し角度38°をなす方向に試料を切削する。その後、切削により形成された試料の平滑面を、平滑面に対し垂直な方向から、Carl Zeiss社製の走査型電子顕微鏡(SEM)、商品名「Ultra55」により、加速電圧1.8~2.2Vで撮影し、測定する。得られたSEM画像を画像処理し、解析することで、フィラー分配率を測定する。
【0132】
<ゴム組成物の加硫及び加硫ゴムの評価>
1.-20℃での貯蔵弾性率E’及び-20℃での損失正接tanδの測定
ゴム組成物を145℃で33分間加硫して得られる加硫ゴムに対して、貯蔵弾性率(E’)及び損失正接(tanδ)を、上島製作所製スペクトロメーターを用いて、温度-20℃、初期歪み2%、動歪み1%、周波数52Hzの条件で測定する。
比較例1の加硫ゴムの測定結果をコントロールとし、下記式に基づいて-20℃での貯蔵弾性率E’指数(-20℃ E’指数)と-20℃での損失正接tanδ指数(-20℃ tanδ指数)を算出し、表2に示す。
【0133】
-20℃ E’指数=(比較例1以外のE’/比較例1のE’)×100
-20℃ tanδ指数=(比較例1以外のtanδ/比較例1のtanδ)×100
-20℃ E’指数の指数値が100よりも小さい程、低温における弾性率が小さいことを示し、良好な性能を示す。また、-20℃ tanδ指数の指数値が100よりも大きい程、低温でのヒステリシスロスが高いことを示し、良好な性能と言える。
【0134】
2.氷上性能評価
上記のようにして得られるゴム組成物をトレッドに用いて、常法によって試験用のタイヤ(タイヤサイズ195/65R15)を作製する。
各実施例及び各比較例の試験用タイヤを排気量1600ccクラスの国産乗用車に4本を装着し、氷温-1℃の氷上制動性能を確認する。比較例1の試験用タイヤをコントロールとし、氷上性能指数=(比較例1以外の試験用タイヤの制動距離/比較例1の試験用タイヤの制動距離)×100として、指数表示する。
指数値が大きい程、氷上性能が優れていることを示す。
【0135】
【0136】
表2からわかるように、ゴム成分としてスチレン-ブタジエン共重合体ゴムを含まない比較例1~3とSB相に50質量%以上シリカが含まれていない比較例4のゴム組成物を用いて得られた加硫ゴムは、-20℃E’指数の指数値が100以上であるか、100未満であっても、-20℃tanδ指数の指数値が100未満となり、低温における低弾性率と、低温における高ヒステリシスロスを両立することができないことがわかる。
これに対し、実施例1~3のゴム組成物を用いて得られた加硫ゴムは、-20℃E’指数の指数値が100未満であり、かつ-20℃tanδ指数の指数値が100を大きく超えており、低温における低弾性率と、低温における高ヒステリシスロスを両立することができることがわかる。
更に、実施例1~3のゴム組成物を用いて得られたタイヤの氷上性能指数は、比較例1~4のゴム組成物を用いて得られたタイヤの氷上性能指数よりも格段に大きく、実施例1~3のタイヤは比較例1~4のタイヤよりも、氷上でのブレーキ性能に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明によれば、低温における低弾性率と、低温における高ヒステリシスロスを両立し、氷上でのブレーキ性能に優れるタイヤを提供するとができる。該タイヤは、氷雪路面での走行でもグリップ力が効き、車両の制動性に優れるため、スタッドレスタイヤに好適である。