(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】消耗電極式アーク溶接方法、及び消耗電極式アーク溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20220405BHJP
【FI】
B23K9/095 501A
B23K9/095 505B
B23K9/095 501B
B23K9/095 501C
(21)【出願番号】P 2018080641
(22)【出願日】2018-04-19
【審査請求日】2020-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】田中 利幸
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢人
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-131243(JP,A)
【文献】特開昭63-130270(JP,A)
【文献】国際公開第2012/035718(WO,A1)
【文献】特開2010-064096(JP,A)
【文献】特開2004-148367(JP,A)
【文献】特開平05-318118(JP,A)
【文献】特開2011-183400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00、9/06 - 9/133、10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力電力Mrを出力する電力出力部と、単位時間当たりの電極供給量Wmを供給する電極供給部を有し、
前記出力電力Mrと前記電極供給量Wmとがバランスする状態であって、前記出力電力Mrが前記電極供給量Wmを含む相関関数f(Wm)により決定される消耗電極式アーク溶接方法において、
前記出力電力Mrと前記電極供給量Wmとのバランスする状態が入熱調整係数Imを用いてMr=Im・f(Wm)によって示されるとともに、溶接部への入熱量を調整する入熱調整係数Imに基づいて、
Mr=Im・f(Wm)を保ちつつ入熱調整係数Imの変化に応じて、単位時間当たりの電極供給量Wm、
又は出力電力Mrのいずれかを決定する
ことを特徴とする消耗電極式アーク溶接方法。
【請求項2】
請求項1の前記電極供給部において、前記出力電力Mrが導通する消耗電極の電極供給量である導通電極供給量を供給する導通電極供給部と、前記出力電力Mrが導通しない消耗電極の電極供給量である非導通電極供給量を供給する非導通電極供給部とを有し、
前記電極供給量Wmは、前記導通電極供給量と、前記非導通電極供給量との総和である
ことを特徴とする請求項1に記載の消耗電極式アーク溶接方法。
【請求項3】
前記出力電力Mrを変更せずに、前記単位時間当たりの電極供給量Wmを決定する
ことを特徴とする請求項1、又は2に記載の消耗電極式アーク溶接方法。
【請求項4】
溶接回数n回目のときの出力電力Mr(n)と、単位時間当たりの電極供給量Wm(n)と、入熱調整係数Im(n)とが、Mr(n)=Im(n)・f(Wm(n))の関係を有し、
Mr(n)、Wm(n)、及び前記入熱調整係数Im(n)によって溶接した後の溶接結果Rs(n)に基づいて、溶接回数n+1回目のIm(n+1)を決定し、
溶接回数n+1回目のMr(n+1)が、Mr(n+1)=Mr(n)となるように前記入熱調整係数Wm(n+1)を決定する
ことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の消耗電極式アーク溶接方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の消耗電極式アーク溶接方法を実施する消耗電極式アーク溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力電力Mrを出力する電力出力部と、単位時間当たりの電極供給量Wmを供給する電極供給部を有し、前記出力電力Mrが前記電極供給量Wmを含む相関関数f(Wm)により決定される消耗電極式アーク溶接方法、及び消耗電極式アーク溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消耗電極式アーク溶接を行う上で、溶接電流、溶接電圧、送給速度等の溶接条件を決定する作業は、溶接作業者、溶接技術者の勘や経験に基づいて行われるため、難しい作業の一つである。溶接条件を決定する作業を容易にするための方法として、特許文献1に示す方法が知られている。特許文献1では、溶接作業を実施する前に溶接対象に関する情報とアーク溶接法に関する情報とから、アーク熱量を計算し、アーク熱量から溶接電流、溶接電圧、送給速度等の溶接条件を決定する方法である。
【0003】
また、消耗電極式アーク溶接の一つに、特許文献2に示すような複数の消耗電極を用いる溶接方法がある。特許文献2の溶接方法は、消耗電極に溶接電流を導通させ、消耗電極と母材との間にアークを発生させて母材に溶融池を形成し、その溶融池にフィラワイヤと呼ばれる非導通の消耗電極を挿入して溶融させる方法である。特許文献2の溶接方法を、以下ではコールドタンデム溶接法と称する。
【0004】
コールドタンデム溶接法は、発生したアーク熱量が母材入熱と、アーク放電している消耗電極の溶融と、非導通の消耗電極の溶融とに分散する。そのため、一般的な単電極の消耗電極式アーク溶接に比べて、相対的に溶着量を増加し、母材入熱が減少する。そのため、高速溶接や薄板の溶接に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】再公表WO2012-035718号公報
【文献】特開2015-120186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
消耗電極式アーク溶接を行う上で、溶接作業を一度行った後に溶接結果を鑑みて溶接条件を変更することは、必須作業である。従来では、溶接作業者、溶接技術者の勘や経験に基づいて、溶接電流、溶接電圧を調整する難しい作業であり、特許文献1に示す方法でも同様である。そのため、変更する変数を減らし、容易に調整する方法が求められる。
【0007】
また、コールドタンデム溶接法において、溶接条件を決定する作業は一般的な単電極の消耗電極式アーク溶接に比べてさらに難しい。それは、溶接条件にフィラワイヤの送給速度が加わって、調整する変数が増えるためである。さらに、コールドタンデム溶接法は、発生したアーク熱量が母材入熱と、アーク放電している消耗電極の溶融と、非導通の消耗電極の溶融とに分散するため、母材入熱はアーク熱量とフィラワイヤの送給速度との影響を受けて変化する。したがって、溶接条件の選択の幅が増えて、溶接条件が定まらない。
【0008】
特許文献1において、アーク熱量は母材の板厚との相関関数であるとされており、母材の板厚に対して溶け落ちしないアーク熱量が設定されるとある。すなわち、母材入熱に応じてアーク熱量が設定されるとある。しかし、コールドタンデム溶接法では母材入熱とアーク熱量との相関関係が小さいため、アーク熱量だけでは溶接電流、溶接電圧、送給速度等の溶接条件を決定することが難しい。
【0009】
特許文献2において、フィラワイヤの送給速度を決定する方法が提案されている。しかし、一度溶接した後に溶接条件を調整するとき、溶接条件を調整するための指針がなく、従来と同様に溶接作業者、溶接技術者の勘や経験に基づいて行われる。よって、特許文献2をもってしても、溶接条件の決定は難しい作業である。
【0010】
上述したこれらの問題は、コールドタンデム溶接法に限らず多電極の消耗電極式アーク溶接方法において顕在する問題であり、溶接条件を統合的に決定する方法が求められる。
【0011】
そこで、本発明では、溶接条件の決定を容易にする消耗電極式アーク溶接方法及び消耗電極式アーク溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、出力電力Mrを出力する電力出力部と、単位時間当たりの電極供給量Wmを供給する電極供給部を有し、前記出力電力Mrと前記電極供給量Wmとがバランスする状態であって、前記出力電力Mrが前記電極供給量Wmを含む相関関数f(Wm)により決定される消耗電極式アーク溶接方法において、前記出力電力Mrと前記電極供給量Wmとのバランスする状態が入熱調整係数Imを用いてMr=Im・f(Wm)によって示されるとともに、溶接部への入熱量を調整する入熱調整係数Imに基づいて、Mr=Im・f(Wm)を保ちつつ入熱調整係数Imの変化に応じて、単位時間当たりの電極供給量Wm、又は出力電力Mrのいずれかを決定することを特徴とする消耗電極式アーク溶接方法である。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1の前記電極供給部において、前記出力電力Mrが導通する消耗電極の電極供給量である導通電極供給量を供給する導通電極供給部と、前記出力電力Mrが導通しない消耗電極の電極供給量である非導通電極供給量を供給する非導通電極供給部とを有し、前記電極供給量Wmは、前記導通電極供給量と、前記非導通電極供給量との総和であることを特徴とする請求項1に記載の消耗電極式アーク溶接方法である。
【0014】
請求項3の発明は、前記出力電力Mrを変更せずに、前記単位時間当たりの電極供給量Wmを決定することを特徴とする請求項1、又は2に記載の消耗電極式アーク溶接方法である。
【0015】
請求項4の発明は、溶接回数n回目のときの出力電力Mr(n)と、単位時間当たりの電極供給量Wm(n)と、入熱調整係数Im(n)とが、Mr(n)=Im(n)・f(Wm(n))の関係を有し、Mr(n)、Wm(n)、及び前記入熱調整係数Im(n)によって溶接した後の溶接結果Rs(n)に基づいて、溶接回数n+1回目のIm(n+1)を決定し、溶接回数n+1回目のMr(n+1)が、Mr(n+1)=Mr(n)となるように前記入熱調整係数Wm(n+1)を決定することを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の消耗電極式アーク溶接方法である。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1から4の何れかに記載の消耗電極式アーク溶接方法を実施する消耗電極式アーク溶接装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、容易に溶接条件を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る消耗電極式アーク溶接装置のブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態1における出力電力Mrと電極供給量Wmの関係のグラフである。
【
図3】本発明の実施の形態2に係る消耗電極式アーク溶接装置のブロック図である。
【
図4】本発明の実施の形態2における出力電力Mrと電極供給量Wmの関係のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
[実施の形態1]
実施の形態1の発明は、出力電力Mrを出力する電力出力部と、単位時間当たりの電極供給量Wmを供給する電極供給部を有し、前記出力電力Mrが前記電極供給量Wmを含む相関関数f(Wm)により決定される消耗電極式アーク溶接方法において、溶接部への入熱量を調整する入熱調整係数Imに基づいて、単位時間当たりの電極供給量Wmを決定する消耗電極式アーク溶接方法である。
【0021】
図1は実施の形態1に係る消耗電極式アーク溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して、各ブロックについて説明する。
【0022】
制御部CNTは、溶接部に供給する前記出力電力Mrと前記電極供給量Wmとを制御する機能を有し、後述する上位装置MM、後述する入熱決定回路PC、後述する電流電圧変換回路CMR、後述する電極供給量変換回路CWM、後述する出力電力教示回路MRT、後述する電極供給制御部FC、及び後述する入熱調整係数設定回路IMSから構成される。
【0023】
上位装置MMは、溶接環境信号Mmsを出力する。溶接環境信号Mmsには、溶接法、消耗電極の材質、消耗電極の断面積、シールドガスの組成、溶接開始信号、溶接終了信号などの、後述する電力出力部PS、後述する電流電圧変換回路CMR、後述する電極供給量変換回路CWM、及び後述する入熱決定回路PCの動作を設定する上で必要な信号が含まれる。
【0024】
出力電力教示回路MRTは、出力電力教示信号Mrtを出力する。入熱調整係数設定回路IMSは、入熱調整設定信号Imsを出力する。入熱決定回路PCは、前記出力電力教示信号Mrt、前記入熱調整設定信号Ims、及び前記溶接環境信号Mmsを入力とし、出力電力設定信号Mrs、及び電極供給量設定信号Wmsを出力する。入熱決定回路PCでは、前記溶接環境信号Mmsによって指定される相関関数fを用いて、後述の通り、前記入熱調整設定信号Ims、及び前記出力電力教示信号Mrtから出力電力設定信号Mrs、及び電極供給量設定信号Wmsを決定する。
【0025】
電極供給量変換回路CWMは、前記溶接環境信号Mms、及び前記電極供給量設定信号Wmsを入力とし、電極供給速度設定信号Fsを出力する。電極供給速度設定信号Fsは、前記溶接環境信号Mmsに含まれる導通消耗電極の断面積の情報を元に、前記電極供給量設定信号Wmsから算出される。
【0026】
電極供給制御部FCは、前記電極供給速度設定信号Fsを入力とし、電極供給速度制御信号Fcを出力する。電極供給装置FDは、前記電極供給速度制御信号Fcを入力とし、導通消耗電極1を後述する溶接トーチ4に向けて、前記電極供給速度制御信号Fcにて決定される送給速度Fwで送り込む。導通消耗電極1は、一般的には断面が円形のワイヤであるが、断面が楕円や多角形のワイヤでも構わない。
【0027】
電流電圧変換回路CMRは、前記出力電力設定信号Mrs、前記電極供給速度制御信号Fs、及び前記溶接環境信号Mmsを入力とし、溶接電流設定信号Iset、及び溶接電圧設定信号Vsetを出力する。溶接電流設定信号Isetは、前記溶接環境信号Mmsに含まれる溶接法、シールドガスの組成、及び導通消耗電極の断面積の情報を元に、前記電極供給速度設定信号Fsから算出する。溶接電圧設定信号Vsetは、前記出力電力設定信号Mrsと溶接電流設定信号Isetとから算出する。
【0028】
電力出力部PSは、前記溶接電圧設定信号Vset、前記溶接電流設定信号Iset、及び前記溶接環境信号Mmsを入力とし、後述する溶接トーチ4及び母材2に対して、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを出力する。電力出力部PSの内部には、図示しないが変圧回路、インバータ回路、極性切替回路、直流リアクトル等の前記溶接環境信号Mmsに含まれる溶接法を実現するのに必要な回路で構成される。溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの挙動は、前記溶接環境信号Mmsに含まれる溶接法、シールドガスの組成、導通消耗電極の断面積等の情報、前記溶接電圧設定信号Vset、及び前記溶接電流設定信号Isetにより規定される。
【0029】
溶接トーチ4に向かって送り出された導通消耗電極1は、溶接トーチ4の中にある給電チップを挿通して、前記溶接電圧Vwが印加される。これにより、導通消耗電極1と母材2の間にアーク3が発生し、溶接電流Iwが通電される。発生したアーク熱によって、母材2と導通消耗電極1とが溶融し、溶融池2aが形成される。
【0030】
図2に、前記入熱決定回路PCにて用いられる前記出力電力Mrと前記電極供給量Wmの関係のグラフを示す。
図2の縦軸は出力電力Mr[J/s]を示し、横軸は前記電極供給量Wm[mm^3/s]を示す。前記出力電力Mrは、前記電極供給量Wm、前記入熱調整係数Im、及び前記相関関数fを用いて、Mr=Im・f(Wm)で示される。
図2を用いて、前記入熱決定回路PCにおける、前記電極供給量設定信号Wmsと前記出力電力設定信号Mrsの決定の流れを示す。
【0031】
図2において、前記出力電力教示信号Mrtによって第1出力電力Mr1が、前記入熱調整設定信号Imsによって第1入熱調整係数Im1が定められたとき、Mr1=Im1・f(Wm1)という関係から、第1電極供給量Wm1が得られる。このとき、前記入熱調整設定信号Imsの内容が変更され、入熱調整係数Imが第1入熱調整係数Im1から第2入熱調整係数Im2に変更されるとする。ただし、第1入熱調整係数Im1>第2入熱調整係数Im2である。
【0032】
前記第2入熱調整係数Im2、及び前記第1出力電力Mr1により、第2電極供給量Wm2はMr1=Im2・f(Wm2)から求められ、第2電極供給量Wm2に相当する前記電極供給量設定信号Wmsが出力される。したがって、第2電極供給量Wm2>第1電極供給量Wm1となり、前記設定電流Isetは増加し、前記出力電力設定信号Mrsは変更しないため前記設定電圧Vsetが下がる。
【0033】
上述の挙動において、前記出力電力Mr、前記電極供給量Wm、前記入熱調整係数Imのいずれかが変化すれば、Mr=Im・f(Wm)を保つように他の変数も変化する。例えば、前記出力電力教示信号Mrtの内容が変更されて、前記出力電力Mrを増減すれば、前記電極供給量Wmが増減し、前記溶接電流Isetが増減する。
【0034】
Mr=Im・f(Wm)が指し示すことは、溶接部に供給される消耗電極の量(すなわち前記電極供給量Wm)と、溶接部に供給されるエネルギー(すなわち前記出力電力Mr)とがバランスする状態(すなわち相関関数fを有すること)において、前記入熱調整係数Imによって、入熱のバランスを調整することである。したがって、前記溶融池2aに対して、前記出力電力Mrに示すエネルギーを供給し、前記電極供給量Wmに示す消耗電極を供給することを担保すれば、多電極の溶接装置でも同様に制御できる。すなわち、前記電力出力部PS、前記電極供給制御部FC、前記電極供給装置FD、前記溶接トーチ4、及び前記導通消耗電極1は複数あってもよい。また、複数の前記導通消耗電極1において、各々の断面形状や断面積が異なってもよい。
【0035】
次に、上述した本発明の実施の形態1に係る消耗電極式アーク溶接装置の作用効果について説明する。上述において、溶接電流、溶接電圧を個々に調整せずとも、入熱調整係数Imの調整によって溶接電流、溶接電圧を調整できることを示した。また、多電極の溶接装置であっても、入熱調整係数Imの調整によって条件調整できることを示した。これにより、溶接作業者及び溶接技術者は、溶接結果を見つつ入熱調整係数Imのみを調整することで、単電極の溶接装置と多電極の溶接装置とのいずれであっても容易に溶接条件が決定できる。
【0036】
また、上述した本発明の実施の形態1を応用して、前記電極供給量Wmを固定して、前記出力電力Mrを変化させることもできる。例えば、
図2より、前記第2入熱調整係数Im2、及び前記第1電極供給量Wm1により、第2出力電力Mr2=Im2・f(Wm1)が得られ、第2出力電力Mr2に相当する前記出力電力設定信号Mrsが出力される。したがって、第1出力電力Mr1>第2出力電力Mr2となり、前記電極供給量Wmを変更しないことから前記設定電流Isetは変更されず、前記設定電圧Vsetが下がる。ただし、溶接施工管理においては前記出力電力Mrを用いて管理することが多いことから、前記出力電力Mrを固定して前記電極供給量Wmを調整する方が望ましい。
【0037】
[実施の形態2]
実施の形態2の発明は、コールドタンデム溶接法に代表される溶接電流が導通する導通消耗電極と、溶接電流が導通しない非導通消耗電極を用いた溶接装置において、溶接結果Rsによって前記入熱調整係数Imを調整することで溶接条件を決定するアーク溶接装置である。
【0038】
図3は実施の形態2に係る消耗電極式アーク溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して、各ブロックについて説明する。同図において、
図1と同一のブロックには同一符号を付して、それらの説明は省略する。同図は、
図1の前記制御部CNTに溶接条件記録回路REG、溶接結果判定回路RSJ、及び非導通電極供給制御部FC2を追加するとともに、
図1の電極供給部FDを導通電極供給部FD1と非導通電極供給部FD2とに拡張し、
図1に電圧検出回路VD、電流検出回路ID、非導通消耗電極12、及びフィラガイド5を追加し、前記電極供給量変換回路CWMを第2電極供給量変換回路CWM2に、前記入熱調整係数設定回路IMSを第2入熱調整係数設定回路IMS2に、前記電極供給制御部FCは導通電極供給制御部FC1に、及び導通消耗電極1を導通消耗電極11に置換したものである。
【0039】
電圧検出回路VDは、溶接電圧Vwを検出して電圧検出信号Vdを出力する。電流検出回路IDは、溶接電流Iwを検出して電流検出信号Idを出力する。
【0040】
溶接結果判定回路RSJは、前記電圧検出信号Vd及び前記電流検出信号Idを入力として、溶接結果設定信号Rssを出力する。溶接結果判定回路RSJでは、前記電圧検出信号Vd及び前記電流検出信号Idより溶接開始及び溶接終了を検出し、溶接中の前記電圧検出信号Vd及び前記電流検出信号Idを解析して前記溶接結果Rsを生成し、溶接結果設定信号Rssとして出力する。
【0041】
前記溶接結果判定回路RSJでは少なくとも、一つの溶接作業の溶接結果Rsを生成して、前記溶接結果設定信号Rssを出力する機能を有すればよい。したがって、溶接結果Rsの生成方法や、溶接結果Rsのフォーマットなどは、その都度適切なものが選択される。溶接結果Rsの生成方法は、溶接中の前記電圧検出信号Vd及び前記電流検出信号Idの平均値、分散、標準偏差等の統計解析や、複数の条件判定を組み合わせたルールベースの生成方法や、強化学習やニューラスネットワークなどの学習モデルを用いた生成方法でもよい。溶接結果Rsは、定性値でも定量値でもよい。例えば、「入熱過多」、「入熱不足」、「磁気吹き」などの溶接欠陥の名称で示される定性値、溶接品質を百分率で表現した定量値である。さらに、前記電圧検出信号Vd及び前記電流検出信号Idに加えて、溶接中のアークや溶融池の状況を撮像した画像を入力してもよいし、溶接後のビード外観や溶接部の溶け込み形状の画像を入力してもよい。
【0042】
溶接条件記録回路REGは、前記出力電力設定信号Mrs、前記電極供給量設定信号Wms、前記入熱調整設定信号Ims、及び前記溶接結果設定信号Rssを入力とし、溶接結果出力信号Regを出力する。溶接結果出力信号Regは、出力電力Mrと、電極供給量Wmと、入熱調整係数Imと、出力電力Mr、電極供給量Wm、及び入熱調整係数Imを用いて溶接した結果である溶接結果Rsとから構成され、溶接条件記録回路REGに含まれる記憶装置に記録される。
【0043】
前記溶接結果出力信号Regにおいて、溶接回数n回目の溶接結果出力信号Reg(n)は、溶接回数n回目の出力電力Mr(n)と、溶接回数n回目の電極供給量Wm(n)と、溶接回数n回目の入熱調整係数Im(n)と、出力電力Mr(n)、電極供給量Wm(n)、及び入熱調整係数Im(n)を用いて溶接した結果である溶接結果Rs(n)とから構成される。溶接結果出力信号Reg(n)は、溶接結果Rs(n)の入力をトリガにして、前記溶接条件記録回路REGの内部の記録装置に記憶されるとともに外部へ出力される。
【0044】
第2入熱調整係数設定回路IMS2は、前記溶接結果出力信号Regを入力として、前記入熱調整設定信号Imsを出力する。第2入熱調整係数設定回路IMS2では、前記溶接結果出力信号Reg(n)に含まれる前記出力電力Mr(n)、前記電極供給量Wm(n)、前記入熱調整係数Im(n)と、前記溶接結果Rs(n)とを元に、溶接回数n+1回目の入熱調整係数Im(n+1)を決定し、入熱調整設定信号Imsを出力する。入熱調整係数Im(n+1)の決定方法は、複数の条件判定を組み合わせたルールベースの決定方法や、強化学習やニューラスネットワークなどの学習モデルを用いた決定方法でもよい。
【0045】
第2電極供給量変換回路CWM2は、前記溶接環境信号Mms、及び前記電極供給量設定信号Wmsを入力とし、導通電極供給速度設定信号Fs1、及び非導通電極供給速度設定信号Fs2を出力する。第2電極供給量変換回路CWM2において、前記溶接環境信号Mmsに含まれる各々の消耗電極の断面積の情報を元に、導通電極供給量と非導通電極供給量の総和が前記電極供給量設定信号Wmsになるように、導通電極供給速度設定信号Fs1、及び非導通電極供給速度設定信号Fs2を算出する。導通電極供給量と非導通電極供給量の比率は、固定しても可変してもよい。
【0046】
導通電極供給制御部FC1は、前記導通電極供給速度設定信号Fs1を入力とし、導通電極供給速度制御信号Fc1を出力する。導通電極供給部FD1は、前記導通電極供給速度制御信号Fc1を入力とし、導通消耗電極11を溶接トーチ4に向けて、前記導通電極供給速度制御信号Fc1にて決定される送給速度Fw1で送り込む。導通消耗電極11は、一般的には断面が円形のワイヤであるが、断面が楕円や多角形のワイヤでも構わない。
【0047】
非導通電極供給制御部FC2は、前記非導通電極供給速度設定信号Fs2を入力とし、非導通電極供給速度制御信号Fc2を出力する。非導通電極供給部FD2は、前記非導通電極供給速度制御信号Fc2を入力とし、非導通消耗電極12をフィラガイド5に向けて、前記非導通電極供給速度制御信号Fc2にて決定される送給速度Fw2で送り込む。
【0048】
非導通消耗電極12は、溶接電流が導通しない消耗電極を示す。すなわち、前記電力出力部PSから前記溶融池2aへ供給されるエネルギーの経路ではない消耗電極である。非導通消耗電極12は、前記溶融池2aに対する供給量が制御できる形態であれば、どのような形態であって構わない。すなわち、非導通消耗電極12は一般的には断面が円形のワイヤであるが、断面が楕円や多角形のワイヤ、又は粉体でもよい。また、複数の断面形状や断面積が異なる非導通消耗電極を用いてもよい。
【0049】
フィラガイド5は、前記非導通消耗電極12を前記溶融池2aに供給するためのガイドであり、前記溶融池2aに近い部分が金属または耐熱素材である円筒形の部品である。フィラガイドは、前記非導通消耗電極12に通電しなければ、溶接トーチ4と同様のものを用いてもよい。
【0050】
図4に、実施の形態2における前記出力電力Mrと前記電極供給量Wmの関係のグラフを示す。実施の形態2おける前記出力電力Mr、前記電極供給量Wmは、実施の形態1に示す方法と同様の方法で決定される。ただし
図4では、前記第1出力電力Mr1が前記出力電力Mr(n)、前記第1電極供給量Wm1が前記電極供給量Wm(n)、前記第1入熱調整係数Im1が前記入熱調整係数Im(n)に各々相当し、前記第2電極供給量Wm2が前記電極供給量Wm(n+1)、前記第2入熱調整係数Im2が前記入熱調整係数Im(n+1)に各々相当する。
【0051】
前記溶接結果判定回路RSJ、前記第2入熱調整係数設定回路IMS2、及び前記第2電極供給量変換回路CWM2が次の動作をするとして、実施の形態2の動作例を以下に示す。ただし、前記溶接結果判定回路RSJにて、前記電圧検出信号Vd及び前記電流検出信号Idを解析して短絡回数を算出して、算出した短絡回数を溶接結果Rsとする。前記第2入熱調整係数設定回路IMS2にて、短絡回数が閾値以下かつ0以上になるように、短絡回数が閾値を超えた場合は入熱調整係数Imを上げ、短絡回数が0になると下げるというルールベースの決定方法を用いる。前記第2電極供給量変換回路CWM2にて、前記導通電極供給速度設定信号Fs1を一定とし、前記電極供給量設定信号Wmsの変更に従って非導通電極供給速度設定信号Fs2を変更するとする。
【0052】
溶接回数n回目の溶接作業実施後から溶接回数n+1回目の溶接条件の決定までの流れを以下に示す。
1)前記溶接結果判定回路RSJにて、前記結果Rs(n)が生成される。
2)前記溶接条件記録回路REGにて、前記出力電力Mr(n)、前記電極供給量Wm(n)、前記入熱調整係数Im(n)、及び前記結果Rs(n)を記録し、前記溶接結果出力信号Reg(n)を出力する。
3)前記第2入熱調整係数設定回路IMS2にて、前記結果Rs(n)に示される短絡回数に従って前記入熱調整係数Im(n)を増減させ、前記入熱調整係数Im(n+1)を決定する。
4)前記入熱決定回路PCにて、前記入熱調整係数Im(n+1)を元に、前記出力電力Mr(n+1)及び前記電極供給量Wm(n+1)を決定する。ただし、前記出力電力Mr(n+1)=Mr(n)である。
5)第2電極供給量変換回路CWM2にて、前記電極供給量Wm(n+1)に従って非導通電極供給速度設定信号Fs2のみを変更する。ただし、前記導通電極供給速度設定信号Fs1と、出力電力設定信号Mrsとは変更されないため、前記電流電圧変換回路CMRにおける前記設定電流Iset及び前記設定電圧Vsetは変更されない。
【0053】
コールドタンデム溶接法におけるフィラワイヤは、本実施の形態の非導通消耗電極に相当する。したがって、上述の溶接条件の決定までの流れに従うと、前記入熱調整係数Imに従って、フィラワイヤの送給速度たる前記送給速度Fw2が決定される。
【0054】
次に、上述した本発明の実施の形態2に係る消耗電極式アーク溶接装置及び溶接方法の作用効果について説明する。実施の形態2に基づくと、コールドタンデム溶接法に代表される導通消耗電極と非導通消耗電極とを用いる溶接装置においても、前記入熱調整係数Imを調整することにより、非導通電極供給量を調整することができる。前記溶接結果判定回路RSJ、前記溶接条件記録回路REG、及び前記第2入熱調整係数設定回路IMS2を溶接作業者及び溶接技術者に置き換えて考えると、溶接作業者及び溶接技術者が、前記入熱調整係数Imを官能的又は理論的に調整するだけで、溶接条件の決定を容易に行うことができる。望ましくは、溶接作業者及び溶接技術者が介在しなくとも、前記溶接結果判定回路RSJ、前記溶接条件記録回路REG、及び前記第2入熱調整係数設定回路IMS2により、自動で溶接条件を算出することである。
【符号の説明】
【0055】
1,11 導通消耗電極
12 非導通消耗電極
2 母材
2a 溶融池
3 アーク
4 溶接トーチ
5 フィラガイド
CNT 制御部
CMR 電流電圧変換回路
CWM 電極供給量変換回路
CWM2 第2電極供給量変換回路
FC 電極供給制御部
Fc 電極供給速度制御信号
FC1 導通電極供給制御部
Fc1 導通電極供給速度制御信号
FC2 非導通電極供給制御部
Fc2 非導通電極供給速度制御信号
FD 電極供給部
FD1 導通電極供給部
FD2 非導通電極供給部
Fs 電極供給速度設定信号
Fs1 導通電極供給速度設定信号
Fs2 非導通電極供給速度設定信号
Fw、Fw1、Fw2 送給速度
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
Im 入熱調整係数
IMS 入熱調整係数設定回路
Ims 入熱調整設定信号
IMS2 第2入熱調整係数設定回路
Iset 設定電流
Iw 溶接電流
MM 上位装置
Mms 溶接環境信号
Mr 出力電力
Mrs 出力電力設定信号
MRT 出力電力教示回路
Mrt 出力電力教示信号
PC 入熱決定回路
PS 電力出力部
REG 溶接条件記録回路
Reg 溶接結果出力信号
Rs 溶接結果
RSJ 溶接結果判定回路
Rss 溶接結果設定信号
VD 電圧検出回路
Vd 電圧検出信号
Vset 設定電圧
Vw 溶接電圧
Wm 電極供給量
Wms 電極供給量設定信号