(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】定量的PCRによってヒトの糞便試料から大腸癌を診断する方法、プライマー及びキット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/689 20180101AFI20220405BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20220405BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220405BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C12Q1/689 Z
C12N15/11 Z ZNA
C12Q1/686 Z
G01N33/50 P
(21)【出願番号】P 2016555535
(86)(22)【出願日】2015-03-03
(86)【国際出願番号】 EP2015054451
(87)【国際公開番号】W WO2015132273
(87)【国際公開日】2015-09-11
【審査請求日】2018-02-13
【審判番号】
【審判請求日】2020-05-27
(32)【優先日】2014-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516262103
【氏名又は名称】フンダシオ インスティトゥート ディンベスティガシオ ビオメディカ デ ジローナ ドクトル ジュゼップ トルエタ
(73)【特許権者】
【識別番号】516262114
【氏名又は名称】ウニベルシタ デ ジローナ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】セラ パジェス マリオナ
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア-ヒル ヘスス
(72)【発明者】
【氏名】マス デ ササルス テレサ
(72)【発明者】
【氏名】アルデゲール ハビエル
【合議体】
【審判長】中島 庸子
【審判官】平林 由利子
【審判官】福井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/057695(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/010914(WO,A1)
【文献】TERESA MAS DE XAXARS RIVERO,Universitat de Girona,2012,Ch.2,pp.119-143
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
Q01N 33/48-33/98
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPlus/BIOSIS/EMBASE/WPIDS/MEDLINE(STN)
REGISTRY(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト被験体において大腸癌(CRC)発症リスクを検出する方法であって
、
i)前記被験体に由来する糞便試料から、配列番号1、配列番号7、及び配列番号10からなる群より選択される少なくとも1つの16S rDNA細菌配列、又はそれらの相補的なrRNA配列を有する核酸を定量することと、
ii)工程i)で得られた被験体試料における前記核酸の量を、それぞれの配列についての対照試料における該核酸の量と比較することと、
iii)工程i)で得られた前記核酸の量において、対照試料における該核酸の量からの存在量の減少がある場合に、リンチ症候群に関連するCRC発症リスクがあると判定するこ
と
を含む方法。
【請求項2】
ヒト被験体において大腸癌(CRC)をスクリーニングする方法であって、
i)前記被験体に由来する糞便試料から、配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA細菌配列、又はそれらの相補的なrRNA配列を有する核酸を定量することと、
ii)工程i)で得られた被験体試料における前記核酸の量を、それぞれの配列についての対照試料における該核酸の量と比較することと、
iii)工程i)で得られた前記核酸の量において、対照試料における該核酸の量からの存在量の減少がある場合に、前記被験体においてCRCが発症若しくは再発していると判定すること、又は前記被験体において大腸内視鏡検査を行うべきであると判定することと、
を含む、方法。
【請求項3】
工程i)において、2つ、3つ、又は全ての前記細菌配列のいずれか1つを有する核酸を定量することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細菌配列の定量に先立って、任意の手段による前記試料の物理的破壊及びシリカ膜カラム上でのDNA精製を含む糞便試料からのDNAの抽出を行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記細菌配列の定量が定量的PCRによって行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ヒト被験体においてCRC発症リスクを検出する請求項1に記載の方法であって、
i. 配列番号1、配列番号7、及び配列番号10からなる群より選択される少なくとも1つの16S rDNA細菌配列を有する核酸の濃度を前記被験体の糞便試料から定量的PCRによって特定することと、ここで、該濃度はCt値で表わされ、
ii. 前記i.で特定された前記被験体試料における少なくとも1つの16S rDNA細菌配列を有する核酸の量のCt値をカットオフCt値と比較することと、
iii. 前記i.で特定された前記被験体試料における少なくとも1つの16S rDNA細菌配列を有する核酸の量のCt値において、カットオフCt値と比較して上昇がある場合に、該被験体においてCRC発症リスクがあると判定することと、
を含む、方法。
【請求項7】
ヒト被験体においてCRCをスクリーニングする請求項2に記載の方法であって、
i. 配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる群より選択される少なくとも1つの16S rDNA細菌配列を有する核酸の濃度を前記被験体の糞便試料から定量的PCRによって特定することと、ここで、該濃度はCt値で表わされ、
ii. 前記i.で特定された前記被験体試料における少なくとも1つの16S rDNA細菌配列を有する核酸の量のCt値をカットオフCt値と比較することと、
iii. 前記i.で特定された前記被験体試料における少なくとも1つの16S rDNA細菌配列を有する核酸のCt値において、カットオフCt値と比較して上昇がある場合に、該被験体においてCRCが発症若しくは再発していると判定すること、又は該被験体において大腸内視鏡検査を行うべきであると判定することと、
を含む、方法。
【請求項8】
配列番号1を有する核酸の量が配列番号2及び配列番号13に関して少なくとも90%の同一性を有する一組のプライマーを使用して特定され、配列番号4を有する核酸の量が配列番号5及び配列番号6に関して少なくとも90%の同一性を有する一組のプライマーを使用して特定され、配列番号7を有する核酸の量が配列番号8及び配列番号9に関して少なくとも90%の同一性を有する一組のプライマーを使用して特定され、配列番号10を有する核酸の量が配列番号11及び配列番号12に関して少なくとも90%の同一性を有する一組のプライマーを使用して特定される、
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
配列番号1を有する核酸の量が配列番号2及び配列番号13の配列を有する一組のプライマーを使用して特定され、配列番号4を有する核酸の量が配列番号5及び配列番号6の配列を有する一組のプライマーを使用して特定され、配列番号7を有する核酸の量が配列番号8及び配列番号9の配列を有する一組のプライマーを使用して特定され、配列番号10を有する核酸の量が配列番号11及び配列番号12の配列を有する一組のプライマーを使用して特定される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
CRCの指標として知られている1種又は複数種の分子バイオマーカーを検出すること及び/又は定量することを更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
コンピュータ可読媒体に前記方法の結果を保存することを更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法によりヒト被験体において大腸癌(CRC)発症リスクがあると判定することのためのバイオマーカーとしての、配列番号1、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA細菌配列、又はそれらの相補的なrRNA配列を有する核酸の定量の使用。
【請求項13】
キットであって、
a.
i.配列番号1、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA配列、若しくはそれらの相補的なrRNA配列と特異的にハイブリダイズすることができる核酸プローブ、又は、
ii.配列番号1、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA配列を特異的に増幅することができる一対の核酸プライマー、
からなる群より選択される試薬
を備え、
請求項1に記載の方法のために用いられる、キット。
【請求項14】
i.の前記核酸プローブ、又はii.の前記核酸プライマーが、
(a)配列番号1を有する核酸の定量のために用いられる配列番号2及び配列番号13、配列番号7を有する核酸の定量のために用いられる配列番号8及び配列番号9、並びに配列番号10を有する核酸の定量のために用いられる配列番号11、及び配列番号12;及び (b)前記(a)の配列と少なくとも90%の同一性を有する核酸配列
のそれぞれを有するポリヌクレオチドからなる群より選択される、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
請求項2に記載の方法によりヒト被験体において大腸癌(CRC)をスクリーニングするためのバイオマーカーとしての、配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA細菌配列、又はそれらの相補的なrRNA配列を有する核酸の定量の使用。
【請求項16】
キットであって、
a.
i.配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA配列、又はそれらの相補的なrRNA配列と特異的にハイブリダイズすることができる核酸プローブ、又は、
ii.配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA配列を特異的に増幅することができる一対の核酸プライマー、
からなる群より選択される試薬
を備え、
請求項2に記載の方法のために用いられる、キット。
【請求項17】
i.の前記核酸プローブ、又はii.の前記核酸プライマーが、
(a)配列番号1を有する核酸の定量のために用いられる配列番号2及び配列番号13、配列番号7を有する核酸の定量のために用いられる配列番号8及び配列番号9、並びに配列番号10を有する核酸の定量のために用いられる配列番号11、及び配列番号12;及び
(b)前記(a)の配列と少なくとも90%の同一性を有する核酸配列
のそれぞれを有するポリヌクレオチドからなる群より選択される、請求項16に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸癌(CRC)の検出の分野に関する。具体的には、本発明は、糞便中の1種又は複数種の16S rDNA細菌配列の定量に基づいてヒト被験体におけるCRC及び/又は腺腫性ポリープの早期検出、リスクスクリーニング及びモニタリングをする方法に関する。さらに、本発明は、大腸癌及び/又は腺腫性ポリープのバイオマーカーとしての上記細菌配列の使用、上記細菌配列の定量のための試薬及び指示書を備えるキット、並びに上記16S rDNA細菌配列の定量のための核酸に関する。
【背景技術】
【0002】
大腸癌(CRC)は、ヨーロッパ及びアメリカ合衆国において癌による死亡原因の第2位であってヨーロッパにおいて最も頻繁に診断される癌であり、2008年には400000を超える新たな症例があり、200000名が死亡した。これらのデータは、予防手段をとらなければならないことを反映している。
【0003】
CRCの発症及び死亡率を減少するための最も効果的で経済的な手段は、CRCリスクのスクリーニング検査及びモニタリング検査である。スクリーニング検査は、早期に一次的に癌を検出するものと、早期に癌を検出することができ、また腺腫性ポリープを検出することができるものとに分類され、それによりポリープ切除(すなわち、ポリープの除去)による予防に対してより大きな可能性を提供する。非特許文献1、非特許文献2を参照されたい。平均的なリスクの人々、及びリスクの増した又は高リスクの人々に適用される種々のスクリーニングガイドライン(http://www.cancer.org/cancer/colonandrectumcancer/moreinformation/colonandrectumcancerearlydetection/colorectal-cancer-early-detection-acs-recommendations)。
【0004】
現在、CRCを一次的に検出する検査は糞便検査であり、i)糞便の血液検査:便潜血検査(fecal occult blood test:FOBT)及び便免疫化学検査(fecal immunochemical test:FIT)、並びにii)便DNA(stool DNA)(sDNA)検査が挙げられる(http://www.cancer.org/cancer/colonandrectumcancer/moreinformation/colonandrectumcancerearlydetection/colorectal-cancer-early-detection-screening-tests-usedを参照されたい)。
【0005】
i)糞便の血液検査
FOBT及びFITはいずれも糞便試料中の血液の量を検出することによってCRCをスクリーニングする。該検査は、新生物の組織、特に悪性の組織は典型的な粘膜よりも出血し、出血量はポリープの大きさ及び癌のステージと共に増加するという前提に基づく。間欠性出血のため複数の検査が推奨される。糞便の血液検査が下部結腸における幾つかの初期のステージの腫瘍を検出し得るのに対し、(i)血液はいずれも代謝されるため上部結腸におけるCRC、及び/又は(ii)より小さい腺腫性ポリープを検出することができず、偽陰性をもたらす。痔、裂溝、炎症性障害(潰瘍性大腸炎、クローン病)、感染性疾患、さらには長距離ランニングによるあらゆる胃腸の出血が疑陽性をもたらす(非特許文献3)。現在のACSガイドライン(非特許文献2)は、年齢50歳以上の平均的なリスクの成人に対してグアヤックによる便潜血検査(Guaiac-based fecal occult blood test:gFOBT)を使用する年に一度のスクリーニングを推奨している。FOBTは、欧州連合で唯一推奨される検査である(非特許文献4)。いずれのガイドラインもいかなる陽性FOBT検査も大腸内視鏡検査によりフォローアップすべきことを推奨している。
【0006】
ii)便DNA(sDNA)検査
sDNA検査は、糞便試料に由来する多様なDNAマーカーを測定する。Exact Sciences Corp.(ワイオミング州マディソン)製の現在入手可能なCologuar(商標)のsDNA検査は、K-ras、APC、及びP53の遺伝子における別々の点突然変異を含む複数のマーカーパネル、BAT-26に対するプローブ、DNA完全性(DIA)に対するマーカー、及びビメンチン遺伝子のメチル化を測定する(非特許文献2)。sDNA検査を推奨するガイドラインもあるが、より保守的であり、sDNA検査を推奨しないガイドラインもある。或る研究ではあるバージョンのsDNA検査はFOBTよりも優れていたが、依然として進行した腺腫の15%を検出したに過ぎなかった(非特許文献5)。
【0007】
腺腫性ポリープ及び癌を検出することができるとしてACSガイドラインに示される検査は構造検査であり、(i)大腸内視鏡検査、(ii)軟性S状結腸鏡検査(FSIG)、(iii)二重造影注腸(DCBE)、及び(iv)CTコロノグラフィー(CTC、仮想大腸内視鏡検査)が挙げられる。これらの方法は全て、視覚化を補助するための患者の腸のパージング(purging)及び結腸への空気の注入をする必要がある。現在のガイドラインは、リソース(resorces)が利用可能であり、患者が侵襲的な検査を経ることを望む場合に早期の癌及び腺腫性ポリープの両方を検出するように設計された検査の使用を勧める。
【0008】
大腸内視鏡検査は、1つのセッションで結腸及び直腸のポリープの全ての粘膜採取生検(mucosal extraction biopsies)の直接的な精査及び切除を可能とする侵襲的な技術である。大腸内視鏡検査は、大腸癌の進行を改善するのみならず、該疾患を予防する。しかしながら、この技術に関連する主な不利益は、訓練された人物を必要とすることから費用が高いこと、麻酔関連死のリスク、及び腸管穿孔のリスクである(非特許文献6)。
【0009】
経験豊富な専門家の手による大腸内視鏡検査は100%の感度であり、100%の特異度であるが、大腸内視鏡検査のリスク及び費用のため、大腸内視鏡検査の前に、糞便中の血液の検出に関する上に言及された糞便検査等の非侵襲性検査、すなわちgFOBT又はFITを使用するリスク集団のスクリーニングを行うことが必要とされるが、上に言及されるように重大な数の疑陽性の結果を導くため、同数の不要な大腸内視鏡検査をもたらす。これは、効果的な非侵襲性のCRCスクリーニング手段に対する必要性を反映する。現在の効率的なCRCスクリーニング手段の欠如により、大腸内視鏡検査の待ち時間が長くなり(6週間超)、誤って指示された大腸内視鏡検査に対して高額な経済的資源が割り当てられている。この状況は、公的及び私的な健康の両方について著しい支出を表し、結果的にシステムの飽和をもたらす(非特許文献7)。
【0010】
したがって、CRC及び/又は腺腫性ポリープの早期検出及びモニタリングのため実際の方法の感度、特異度、非侵襲性及び/又は対費用効果の改善が必要とされている。
【0011】
CRCの遺伝的基礎及び自然経過(natural history)ははっきりと定義されており、5%未満のCRCが遺伝性であって大半は散発性、すなわち結腸新生物の個人歴又は家族歴のない患者において診断されると考えられている。この疾患の病因はいまだに不明であるが、内因性及び外因性の因子が腫瘍の発生に積極的に関与する多因子の起源が疑われる。これらの因子は、年齢、煙草、炎症性腸疾患の個人歴、食事、生活様式、及び細菌叢である。
【0012】
最近では、CRC患者の結腸粘膜における細菌群が健康な個体と異なることが示され、CRCの発症及びそのステージに沿った進行における判定物質として腸内細菌叢が提案された(非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11)。
【0013】
特許文献1は、細菌性のサインを使用して腺腫及び大腸癌を検出する方法に言及している。粘膜生検に由来する接着性細菌群を特性評価するため、16rRNA遺伝子のピロシークエンシングを行った。腺腫の被験体と非腺腫の被験体との間の相対的存在量を計算し、腺腫の発生が腸管粘膜に存在する様々な細菌分類群の相対的存在量の変化と関連すると結論づけた。具体的には、16S rRNA遺伝子(16sDNA)のqPCR定量によって腺腫を有する又は有しない被験体の正常な直腸粘膜におけるフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacteriumnucleatum)の存在量を特定し、存在量は対照と比較して腺腫の場合でより多いと結論付けた。上記データによれば、結腸直腸の発癌のバイオマーカーとしてのF.ヌクレアタムの使用が示唆される。
【0014】
また、CRCのステージを通してその発症及び進展における物質としての腸細菌叢の重要性が粘膜生検試料において本発明者らの一人によって行われた研究で確認され、大腸癌を有する患者におけるフィルミクテス(firmicutes)、アクチノバクテリア(actinobacteria)、及びエシェリキア・コリ(Escherichia coli)の存在量と、健康な被験体におけるフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイの存在量との関連を示す(非特許文献12、http://hdl.handle.net/10803/94513)。
【0015】
しかしながら、当該技術分野では、粘膜生検及び糞便試料における微生物叢の組成には差があることはよく知られている。Lepage et al.(非特許文献13)は、所与の個体において、粘膜関連細菌叢と糞便細菌叢とで優占種が異なることを示す。同様に、Eckburg et al.(非特許文献14)は、粘膜及び糞便の試料に見られる系統発生学上の系統間の統計学的有意差を報告し、糞便細菌叢は脱落した(shed)粘膜細菌及び別々の非接着性管腔集団の組合せを表すと主張している。
【0016】
Nechvatal et al.(非特許文献15)は、糞便DNAが腸内細菌及びヒト癌マーカーの疫学調査の供給源として使用され得ることを示した。特に、非特許文献15には、ヒト糞便に由来するDNA抽出物中の細菌及びヒトの配列のリアルタイム定量的PCRによる定量が記載されている。Balamurugan et al.(非特許文献16)には、大腸癌を有する患者の糞便中に、保護効果を有すること(すなわち、ブチレート産生細菌であるユーバクテリウム・レクタレ(Eubacterium rectale)及びフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(Faecalibacterium prausnitzii))、又は毒性若しくは発癌性であること(すなわち、デスルホビブリオ(Desulfovibrio(硫酸還元細菌)及びエンテロコッカス・フェカリス(細胞外スーパーオキシドを産生する))が知られている代謝産物を伴う特定の細菌のリアルタイム定量的PCRによる定量が記載されている。しかしながら、いずれの文献もCRCに対するバイオマーカーとしてのかかる細菌配列の診断値又は予測値の特定に対しては、何ら記載していない。
【0017】
特許文献2においてWang et al.は、CRC患者及び対照のヒト糞便からqPCRによってF.ヌクレアタム(F.nucleatum:FNN)のnusG遺伝子の定量を含み、感度57%及び特異度89.5%でCRCを検出する、CRC検出の方法を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】国際公開第2012/170478号
【文献】米国特許出願公開第2014/0024036号
【非特許文献】
【0019】
【文献】American Cancer Society (ACS) 2008 screening and surveillance guidelines
【文献】Levin et al. (CA Cancer J Clinicians, 2008;58(3)130-160)
【文献】Beg et al., J Indian AcadClin Med, 2002;3(2)153-158
【文献】Segnan N. et al., 2010, European guidelines for quality assurance in colorectal cancer screening and diagnosis. Luxembourg: Office for Official Publications of the European Communities
【文献】Imperiale et al., N Engl J Med, 2004;351:2704-2714
【文献】Garborg K. et al., Ann Oncol., 2013;24(8):1963-72
【文献】Allison J. et al., Practical Gastroenterology, 2007, 3: 21-32
【文献】Chen W et al., PLoS One, 2012;7(6):e39743
【文献】Zhu Q et al., Tumour Biol., 2013;34(3):1285-300
【文献】Ahn J et al., J Natl Cancer Inst., 2013;105(24):1907-11
【文献】Na wu et al., Microbial ecology, 2013;66(2):462-470
【文献】Mas de Xaxars T., 2012, Diposit legal: GI. 1664-2012
【文献】Inflamm Bowel Dis., 2005;11(5):473-80
【文献】Science, 2005;308(5728):1635-1638
【文献】J Microbiol Methods., 2008;72(2):124-32
【文献】J GastroenterolHepatol., 2008;23:1298-303
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
糞便中のCRCに対するDNAバイオマーカーの検出及び/又は定量の方法が記載されているが、依然として糞便試料からヒト被験体におけるCRCの早期診断、リスクスクリーニング、又は患者モニタリングの信頼できる方法が必要とされている。かかる方法の利用可能性は、早期検出により効果的にCRCを予防することができ、また最近では、CRC検出に対して現在標準的なスクリーニング方法であるFOBT検査及びFIT検査の精度の低さから必要以上に頻繁にCRCが疑われる個体において行われている、大腸内視鏡検査等の不必要な構造を調べる検査の数を減らすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の第1の態様は、ヒト被験体において大腸癌(CRC)及び/又は腺腫性ポリープをスクリーニングする方法であって、
i.前記被験体に由来する糞便試料から、配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA細菌配列、又はそれらの相補的な16S rRNA配列を定量することと、
ii.ヒト被験体においてCRC及び/又はポリープを診断、早期検出、再発の判定、発症リスクの判定若しくは予測をすること、又は前記ヒト被験体において大腸内視鏡検査を行うべきかどうかを判定すること、又は前記ヒト被験体がCRC及び/又はポリープを有すると診断される患者である場合の予後を判定すること、又は少なくとも1つの前記配列の定量レベルからCRC及び/又はポリープを有する患者における治療をガイドすることと、
を含む、方法に関する。
【0022】
第2の態様では、本発明は、ヒト被験体においてCRC及び/又はポリープを診断、早期検出、再発の判定、発症リスクの判定若しくは予測をすること、又は前記ヒト被験体において大腸内視鏡検査を行うべきかどうかを判定すること、又は前記ヒト被験体がCRC及び/又はポリープを有すると診断される患者である場合に予後を判定すること、又はCRC及び/又はポリープを有する患者における治療をガイドすることに対するバイオマーカーとして配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA細菌配列、又はそれらの相補的な16S rRNA配列の使用であって、前記細菌配列が前記ヒト被験体の糞便試料から定量される、使用に関する。
【0023】
第3の態様では、本発明は、キットであって、
a.
i.配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA配列、若しくはそれらの相補的な16S rRNA配列と特異的にハイブリダイズすることができる核酸プローブ、又は、
ii.配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA配列を特異的に増幅することができる一対の核酸プライマー、
からなる群より選択される試薬と、
b.本発明の方法に従ってヒト糞便試料から1種又は複数種の前記配列のレベルを定量するための指示書と、
を備える、キットに関する。
【0024】
第4の態様では、本発明は、配列番号2、配列番号13、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号11、及び配列番号12からなる群より選択されるか、又はそれらと少なくとも90%の同一性を有する核酸配列に関する。
【0025】
第5の態様では、本発明は、本発明のスクリーニング方法における、配列番号2、配列番号13、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号11、及び配列番号12からなる群より選択される核酸配列、又はそれらと少なくとも90%の同一性を有する核酸配列の使用に関する。
【0026】
図1~
図7において下記の意味で以下の記号を使用する。
-*は、統計学的有意性がp=0.05であることを意味する。
-**は、統計学的有意性がp=0.01であることを意味する。
-***は、統計学的有意製がp=0.005であることを意味する。
-
図8~
図26の統計学的有意性は*によって表され、p値は対応する表に見られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】2つの配列、配列番号10/配列番号4に対するCt値の比を示す図である。CRCは大腸癌患者の糞便試料から得られた値を表し、Cは健康な患者から得られた対照値を表す。
【
図2】2つの配列、配列番号7/配列番号4に対するCt値の比を示す図である。CRCは大腸癌患者の糞便試料から得られた値を表し、Cは健康な患者から得られた対照値を表す。
【
図3】2つの配列、配列番号4/配列番号1に対するCt値の比を示す図である。CRCは大腸癌患者の糞便試料から得られた値を表し、Cは健康な患者から得られた対照値を表す。
【
図4】配列番号4の配列に対する絶対Ct値を示す図である。CRCは大腸癌患者の糞便試料から得られた値を表し、Cは健康な患者から得られた対照値を表す。
【
図5】配列番号7の配列に対する絶対Ct値を示す図である。CRCは大腸癌患者の糞便試料から得られた値を表し、Cは健康な患者から得られた対照値を表す。
【
図6】2つの配列、配列番号4/配列番号1に対するCt値の比を示す図である。CRCは癌大腸癌の糞便試料から得られた値を表し、高リスクは直近の大腸内視鏡検査でポリープがあり、大腸癌を発症するリスクが増したリンチ症候群の個体から得られた値を表し、低リスクは直近の大腸内視鏡検査でポリープがなかったリンチ症候群の個体から得られた値を表す。
【
図7】配列番号4の配列に対する絶対Ct値を示す図である。CRCは癌大腸癌の糞便試料から得られた値を表し、高リスクは直近の大腸内視鏡検査でポリープがあり、大腸癌を発症するリスクが増したリンチ症候群の個体から得られた値を表し、低リスクは直近の大腸内視鏡検査でポリープがなかったリンチ症候群の個体から得られた値を表す。
【
図8a】B3の増幅に対するプライマーの検証を示す増幅プロットである。
【
図8b】B3の増幅に対するプライマーの検証を示す解離曲線である。
【
図9a】B10の増幅に対するプライマーの検証を示す増幅プロットである。
【
図9b】B10の増幅に対するプライマーの検証を示す解離曲線である。
【
図10a】B41の増幅に対するプライマーの検証を示す増幅プロットである。
【
図10b】B41の増幅に対するプライマーの検証を示す解離曲線である。
【
図11a】B46の増幅に対するプライマーの検証を示す増幅プロットである。
【
図11b】B46の増幅に対するプライマーの検証を示す解離曲線である。
【
図12a】B48の増幅に対するプライマーの検証を示す増幅プロットである。
【
図12b】B48の増幅に対するプライマーの検証を示す解離曲線である。
【
図13a】B50の増幅に対するプライマーの検証を示す増幅プロットである。
【
図13b】B50の増幅に対するプライマーの検証を示す解離曲線である。
【
図14】CRC群及びC群におけるB3に対する絶対Ct値を示す図である。
【
図15】CRC群及びC群におけるB48に対する絶対Ct値を示す図である。
【
図16】CRC群及びC群におけるB10に対する絶対Ct値を示す図である。
【
図17】CRC群及びC群におけるB46に対する絶対Ct値を示す図である。
【
図18】CRC群、L群、及びC群におけるB3に対する絶対Ct値を示す図である。
【
図19】CRC群、L群、及びC群におけるB48に対する絶対Ct値を示す図である。
【
図20】CRC群、L群、及びC群におけるB10に対する絶対Ct値を示す図である。
【
図21】CRC群、L群及びC群におけるB46に対する絶対Ct値を示す図である。
【
図22】CRC+L対CにおけるB3、B10、B46、及びB48に対する絶対Ct値を示す図である。
【
図23】CRC群、高リスクL群、低リスクL群、及びC群における絶対Ct値のB48/B10比を示す図である。
【
図24】CRC群、高リスクL群、低リスクL群、及びC群における絶対Ct値のB3/B10比を示す図である。
【
図25】CRC群、高リスクL群、低リスクL群、及びC群における絶対Ct値のB46/B10比を示す図である。
【
図26】CRC群、高リスクL群、低リスクL群、及びC群における絶対Ct値のB3/B48比を示す図である。
【
図27】健康対CRC分析におけるB3、B10、B46及びB48に対するROC曲線を示す図である。
【
図28】健康対リンチ分析におけるB3、B10、B46及びB48に対するROC曲線を示す図である。
【
図29】健康対CRC+リンチ分析におけるB3、B10、B46及びB48に対するROC曲線を示す図である。
【
図30】CRC対リンチ分析におけるB3、B10、B46及びB48に対するROC曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明では、CRC及び/又は腺腫性ポリープの診断、早期検出、リスクスクリーニング、及びモニタリングに関連する特定の細菌配列が同定された。
【0029】
本発明の第1の態様は、ヒト被験体において大腸癌(CRC)及び/又は腺腫性ポリープをスクリーニングする方法であって、
i.前記被験体の糞便試料から、配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA細菌配列、又はそれらの相補的なrRNA配列を定量することと、
ii.ヒト被験体においてCRC及び/又はポリープを診断、早期検出、再発の判定、発症リスクの判定若しくは予測をすること、又は前記ヒト被験体において大腸内視鏡検査を行うべきかどうかを判定すること、又は前記ヒト被験体がCRC及び/又はポリープを有すると診断される患者である場合の予後を判定すること、又は少なくとも1つの前記配列の定量レベルからCRC及び/又はポリープを有する患者における治療をガイドすることと、
を含む、方法に関する。
【0030】
本出願では、配列番号1によって識別される配列は「B3」とも識別される。同様に、配列番号4は「B10」とも識別され、配列番号7は「B46」とも識別され、配列番号10は「B48」とも識別され、これらの名称は互換的に使用される。B3、B10、B46及びB48は、本発明を想到するため行われた全ての実験の実施の間、その配列を識別するために本出願の発明者らによって使用された名称であった。配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10によって識別される配列は、以下のアクセッション番号GQ411111.1(配列番号1)、GQ411118.1(配列番号4)、GQ411150.1(配列番号7)、GQ411152.1(配列番号10)によりEMBL-EBIの公的配列データベースにおいて利用可能である。
【0031】
B3、B10、B46及びB48の配列は、非培養細菌単離物から予め単離された変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)ゲルバンドに対応する。対応する細菌種を同定する目的でBLAST分析を行った。
【0032】
B3 16S rDNAに対するベストマッチBLAST:コリンゼラ・アエロファシエンス(Collinsella aerofaciens)、
B10 16S rDNAに対するベストマッチBLAST:フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(Faecalibacterium prausnitzii)、
B46 16S rDNAに対するベストマッチBLAST:フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ、サブドリグラヌルム・バリアビレ、
B48 16S rDNAに対するベストマッチBLAST:ルミノコッカス(Ruminococcus)、ロゼブリア(Roseburia)、コプロコッカス(Coprococcus)。
【0033】
本明細書で使用される「大腸癌」、「CCR」又は「CRC」の用語は、結腸又は直腸において始まる癌に対して使用される。また、これらの癌は、どこで始まるかによって結腸癌又は直腸癌と別々に指す場合がある。結腸癌及び直腸癌は多くの共通する特徴を持つ。
【0034】
ACSによれば、幾つかの種類の癌が結腸又は直腸で開始し得る。95%超の大腸癌は腺癌として知られる種類の癌である。これらの癌は、結腸及び直腸の内部を滑らかにするため粘液を作製する腺を形成する細胞において始まる。また、他のあまり一般的でない種類の腫瘍も結腸及び直腸において始まる場合がある。これらとして、カルチノイド腫瘍、消化管間葉系腫瘍(GIST)、リンパ腫及び肉腫が挙げられる。
【0035】
癌スクリーニングの目標は、進行した疾患の発症の減少により死亡率を減少することである。そのため、最新のCRCスクリーニングは、初期ステージの腺癌の検出、並びに一般的に絶対的ではない前癌病変(nonobligate precursor lesion)とされる腺腫性ポリープの検出及び除去によってこの目標を達成することができる。
【0036】
「腺腫性ポリープの」は、結腸等の臓器の内壁における異常な腺細胞の非癌性の増殖物(growth)である。例えば、結腸で増殖し得るこれらの種類の腺腫性ポリープは、管状腺腫、絨毛腺腫、及び管状絨毛腺腫である。腺腫性ポリープは50歳超の成人に一般的であるが、大半のポリープは腺癌にはならず、組織像及び大きさが臨床上の重要性を決定づける。
【0037】
ACSによれば、ポリープを見つけ、除去することで一部の人々を大腸癌にならないようにすることから、ポリープ及び癌の両方を見つける可能性が最も高い検査が好まれる。本発明の方法は、CRC及び腺腫性ポリープをスクリーニングする方法であることが好ましい。
【0038】
特定の実施形態では、本発明の方法は、CRC及び/又は腺腫性ポリープの診断又は検出に対する、好ましくはCRC及び/又は腺腫性ポリープの早期検出に対するスクリーニング方法である。「早期検出」の表現は、臨床兆候が存在する前の検出を指す。「検出」及び「診断」の用語は、本出願において互換的に使用される。本発明の方法は、早期ステージの疾患診断により大腸癌を予防する強力な手段であることがわかる。
【0039】
特定の実施形態では、本発明のスクリーニング方法を50歳以上の被験体において行う。50歳以上の平均的なリスクの男女は、大腸癌のスクリーニング検査に従うように勧められる(引用することにより本明細書の一部をなす、非特許文献2の表2を参照されたい)。
【0040】
別の実施形態では、本発明のスクリーニング方法は、リスクの増した及び/又は高リスクの被験体において行われる。具体的なガイドラインは、リスクの増した又は高リスクの患者に対する適用である。
【0041】
ACSによれば(引用することにより本明細書の一部をなす、非特許文献2の表3を参照されたい)、リスクの増した及び高リスクの被験体として以下が挙げられる。
【0042】
リスクの増した
-先の大腸内視鏡検査でポリープの病歴のある被験体
-大腸癌の被験体、及び、
-大腸癌又は腺腫性ポリープの家族歴のある被験体。
【0043】
高リスク
-遺伝子検査によって家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)と診断された、又は遺伝子検査によらずFAPと疑われる被験体、
-遺伝性非ポリポーシス直腸癌(hereditary non-polyposis colon cancer)(HNPCC又はリンチ症候群)の、又は遺伝子検査によらず家族歴に基づいてHNPCCのリスクが増した被験体、及び、
-慢性潰瘍性大腸炎及びクローン病等の炎症性腸疾患の被験体。
【0044】
本発明の一つの目標は、予備診断の手段を提供することである。具体的には、本発明は、CRC及び/又は腺腫性ポリープを発症する素因又はリスクを有する被験体を同定することによって臨床兆候がある前に大腸癌を診断する方法を提供する。
【0045】
特定の実施形態では、本発明のスクリーニング方法は、ヒト被験体におけるCRC及び/又は腺腫性ポリープの発症リスクを判定する方法であって、
i.上記被験体の糞便試料から配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA細菌配列、又はそれらの相補的な16S rRNA配列を定量することと、
ii.少なくとも1つの上記配列の定量レベルからCRC及び/又は腺腫性ポリープの発症リスクを判定することと、
を含む、方法である。
【0046】
好ましい実施形態では、本発明のスクリーニング方法は、リスクの増した及び/又は高リスクの被験体において、好ましくはリンチ症候群キャリアにおいてCRC及び/又は腺腫性ポリープの発症リスクを判定する方法である。
【0047】
「リンチ症候群」の用語は、ヒトの大腸癌、また子宮の内壁の癌(子宮内膜癌)、卵巣癌、及び幾つかの他の癌に対するリスクを大きく増大する遺伝性の病態である遺伝性非ポリポーシス大腸癌、すなわちHNPCCを指す。この病態の人々は、しばしば最初に多くのポリープを有さずに若くして癌を発症する傾向がある。
【0048】
本発明のスクリーニング方法は、実施例4において(表3及び表4)、ポリープを有するリンチ症候群患者(高リスク集団)とポリープを有しないリンチ症候群患者(低リスク集団)とを統計学的に有意に識別する能力を示した。配列番号4(B10)の定量及び配列番号7(B46)/配列番号4(B10)の比の決定は、実施例4の結果によれば良好な指標となるようである。したがって、配列番号4(B10)及び配列番号7(B46)/配列番号4(B10)の比は、ポリープの存在をスクリーニングする本発明の方法における使用のために好ましいバイオマーカーである。
【0049】
先の大腸内視鏡検査でポリープの病歴のある、又は癌切除後の大腸癌の病歴のある被験体では、モニタリング又はサーベイランスの目的で、すなわちそのヒト被験体における癌及び/又は腺腫性ポリープの再発を検出するためスクリーニング検査を行う。
【0050】
更に特定の実施形態では、本発明のスクリーニング方法は、ポリープ及び/又は大腸癌の既往歴のあるヒト被験体において大腸癌(CRC)及び/又は腺腫性ポリープの検出をモニタリングする方法であって、
i.上記被験体の糞便試料から配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA細菌配列、又はそれらの相補的な16S rRNA配列を定量することと、
ii.少なくとも1つの前記配列の定量レベルからCRC及び/又は腺腫性ポリープの再発を判定することと、
を含む、方法である。
【0051】
本発明のスクリーニング方法は、実施例8(表8)において、CRCの既往歴があり、直近の大腸内視鏡検査でポリープがあったリンチ患者(高リスク集団)と、CRCの既往歴がなく、直近の大腸内視鏡検査でポリープがなかったリンチ患者(低リスク集団)とを統計学的に有意に識別する能力を示した。配列番号1/配列番号4(B3/B10)、配列番号4/配列番号7(B10/B46)、配列番号1/配列番号10(B3/B48)、及び配列番号10/配列番号4(B48/B10)の比を定量することにより、特に優れた結果が得られる。
【0052】
したがって、配列番号1/配列番号4(B3/B10)、配列番号4/配列番号7(B10/B46)、配列番号1/配列番号10(B3/B48)、及び配列番号10/配列番号4(B48/B10)の比は、好ましくはCRCの病歴のあるリンチ患者等のリスクの増した又は高リスクの患者においてポリープの存在をスクリーニング/モニタリングする本発明の方法における使用に好ましいバイオマーカーである。
【0053】
更に特定の実施形態では、本発明のスクリーニング方法は、ヒト被験体において大腸内視鏡検査を行うべきかどうかを判定する方法であって、
i.上記被験体の糞便試料から配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA細菌配列、又はそれらの相補的な16S rRNA配列を定量することと、
ii.少なくとも1つの上記配列の定量レベルから上記ヒト被験体において大腸内視鏡検査を行うべきかどうかを判定することと、
を含む、方法である。
【0054】
当業者は、本発明の細菌マーカーの定量及び分析のための幾つかの方法及びデバイスを知っている。「定量する」の用語は、試料中の特定の核酸配列の量を定量する能力を指す。標的核酸配列の量を測定する分子生物学的方法が当該技術分野でよく知られている。これらの方法として、限定されないが、エンドポイントPCR、競合的PCR、逆転写酵素-PCR(RT-PCR)、定量的PCR(qPCR)、逆転写酵素qPCR(RT-qPCR)、PCR-ELISA、DNAマイクロアレイ、ドットブロット又は蛍光in situハイブリダイゼーションアッセイ(FISH)等のin situハイブリダイゼーション、分岐鎖DNA(Nolte, Adv. Clin. Chem., 1998, 33:201-235)及び上記方法の複合バージョン(例えば、Andoh et al., Current Pharmaceutical Design, 2009;15, 2066-2073を参照されたい)が挙げられる。好ましいプライマー及び/又はプローブは、典型的には、細菌核酸配列の量の増加に対して直接的な線形応答を提供することによって、予測可能に反応する。適切な標準を作製すること及びそれに対して比較することによって、試料中の所与の核酸配列の量を容易に定量することができる。
【0055】
上記核酸配列は、配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される16S rDNA配列である。
【0056】
或る一つの特に好ましい定量方法は、個々の細菌配列の直接的な定量のためプローブハイブリダイゼーションと蛍光顕微鏡検査、共焦点レーザー顕微鏡検査、又はフローサイトメトリーとを組み合せた、FISHである。FISHの方法論の総説については、例えばHarmsen et al., Appl Environ Microbiol, 2002;68 2982-2990、Kalliomaki et al., J Allerg Clin Immunol, 2001;107 129-134、Tkachuk et al., Genet. Anal. Tech. Appl., 1991;8: 67-74、Trask et al., Trends Genet., 1991;7 (5): 149-154、及びWeier et al., Expert Rev. Mol. Diagn., 2002, 2(2):109-119、並びに米国特許第6,174,681号を参照されたい。
【0057】
別の特に好ましい定量方法は、リアルタイムPCRとしても知られる定量的PCR(qPCR)である。PCRのプロセスは当該技術分野でよく知られているため、本明細書において詳述しない。q-PCR技術の大要及びプロトコルは、SYBR Green qPCRアプリケーションについてSigma-Aldrich等の販売業者から入手可能であり、例えばhttp://www.sigmaaldrich.com/technical-documents/protocols/biology/sybr-green-qpcr.html、又はhttp://www.sigmaaldrich.com/life-science/molecular-biology/pcr/quantitative-pcr/qpcr-technical-guide.htmlを参照されたい。細菌遺伝子マーカーの存在量及び発現を定量するためのqPCR法の総説については、例えばSmith CJ and Osborn AM., FEMS Microbiol Ecol., 2009;67(1):6-20を参照されたい。
【0058】
「定量レベル」の用語は、濃度(容量単位当たりのDNA量)、細胞数当たりのDNA量、サイクル閾値(Ct値)又はそれらの任意の数学的変換であってもよい。好ましい実施形態では、上記細菌配列の定量はqPCRによって行われる。より好ましい実施形態では、上記細菌配列の定量はqPCRによって行われ、定量レベルはCt値である。Ct(サイクル閾値)値は蛍光シグナルがその閾値を超えるのに必要なqPCRサイクルの数として定義される。Ctレベルは、試料中の標的核酸の量に反比例する(すなわち、Ctレベルが低くなると試料中の標的核酸の量が増大する)。
【0059】
糞便試料中の標的核酸配列(例えば配列番号1)の存在量の定量は、絶対であっても相対であってもよい。相対定量は、ユニバーサルプライマーを使用し、真正細菌の割合(例えば、配列番号1/真正細菌の比)として標的核酸配列の存在量を表す総細菌(真正細菌)の特定等、1種又は複数種の内部参照遺伝子(すなわち参照株に由来する16S rRNA)に基づく。絶対定量は、DNA鎖との比較によって標的分子の正確な数を与える。
【0060】
特定の実施形態では、本発明の方法は、工程i)の後に被験体の試料レベルを対照試料におけるレベルと比較することを更に含み、対照試料中の各配列(複数種の場合がある)のレベルからの配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される1種又は複数種の配列のレベルの偏差(好ましくは、統計学的に有意な偏差)が存在することがCRC及び/又は腺腫性ポリープの指標である。例えば、定量レベルが中央(カットオフ)値プラス(+)/マイナス(-)対照試料中で測定された各レベル(複数種の場合がある)の標準偏差からの偏差を呈することは、CRC及び/又は腺腫性ポリープの指標である。
【0061】
好ましい実施形態では、上記被験体試料中の1種又は複数種の上記配列の濃度レベルが中央(カットオフ)値マイナス対照試料中で測定された各配列(複数種の場合がある)のレベルの標準偏差よりも低いことは、CRC及び/又は腺腫性ポリープの指標である。別の実施形態では、上記被験体試料中の1種又は複数種の上記配列のCtレベルが中央(カットオフ)値プラス対照試料中で測定された各配列(複数種の場合がある)のレベルの標準偏差よりも高いことは、CRC及び/又は腺腫性ポリープの指標である。
【0062】
「対照試料」の用語は、参照集団の対照試料の収集物を指す場合があり、例えば、対照試料は、健康な被験体に由来する試料、腺腫性ポリープを有しない被験体に由来する試料、腺腫性ポリープ及び/又は大腸癌の既往歴のない被験体に由来する試料、並びにそれらの組合せであってもよい。
【0063】
参照の上述の集団の1つにおけるヒト被験体の分類を大腸内視鏡検査による調査によって行う。例えば、「健康な被験体」は、先の大腸内視鏡検査で腺腫性ポリープ又は大腸癌のいずれも呈していない者である。
【0064】
本発明の方法は、配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される2つ、3つ又は4つの配列、好ましくは4つ全ての配列を定量することを含むことが好ましい。
【0065】
一つの特定の実施形態では、本発明の方法は、配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも2つの配列を定量し、少なくとも2つの該配列間の関係を判定することを含む。2つ、3つ又は4つの上記配列間の関係(例えば、比、多変量解析等)が判定されることが好ましい。
【0066】
好ましい実施形態では、これらの少なくとも2つの配列間の比は、第1の配列の定量レベルを第2の配列の定量レベルで除することによって得られる。例えば、配列番号10/配列番号4の配列の濃度の比は、配列番号10の配列の濃度を配列番号4の配列の濃度で除することによって得られる。また、配列番号10/配列番号4の比は、配列番号10によって同定された配列のCt値を配列番号4によって同定された配列のCt値で除することによっても得ることができる。
【0067】
本発明の方法の更なる実施形態では、少なくも2つの上記細菌配列を工程i)で定量し、被験体試料中の上記配列の少なくとも1つのレベルの比を特定し、上記被験体における少なくとも1つの上記比を対照試料中の各比(複数種の場合がある)と比較することを更に含み、上記対照試料中の比からの偏差(好ましくは統計学的に有意な偏差)がCRC及び/又は腺腫性ポリープの指標である。例えば、1種又は複数種の上記比が中央(カットオフ)値プラス(+)/マイナス(-)対照試料において測定された各比(複数種の場合がある)の標準偏差からの偏差を呈することは、CRC及び/又は腺腫性ポリープの指標である。
【0068】
検査試料と対照試料との差を指す場合、「統計学的に有意」の用語は、適切な統計学的分析を使用する場合、群が同じである確率が5%未満、例えばp<0.05の条件に関する。換言すれば、完全に無作為ベースで同じ結果を得る確率が100の試行のうち5未満である。当業者は、どのようにして適切な統計学的分析を選択するか知っている。典型的には、適切な統計学的分析は、例えばコルモゴロフ-スミノルフの検定を使用して研究の変数が正規分布をしているかどうかに基づいて決定される。正規分布がある場合では、好ましくは、t検定又はANOVA検定等のパラメトリックモデルを使用してもよく、正規分布がない場合であればマン-ホイットニーU検定又はクラスカル-ワリス検定等のノンパラメトリックモデルを使用してもよい。
【0069】
特定の実施形態では、感度、特異度、精度、ROC分析の結果又はそれらの組合せを使用して、本発明のスクリーニング方法を説明する。特に、該方法がどれくらい優れていて信頼性が高いかを定量するためにそれらを使用する。
【0070】
感度、特異度及び精度の説明と共に一般的に使用される幾つかの用語が存在する。それらの用語は、真陽性(TP)、真陰性(TN)、偽陰性(FN)、及び偽陽性(FP)である。患者において疾患が存在すると証明され、所与のスクリーニング検査も疾患の存在を示す場合、該検査結果は真陽性である。同様に、患者において疾患が存在しないと証明され、該スクリーニング検査も疾患の不在を示唆する場合、該検査結果は真陰性(TN)である。真陽性及び真陰性はいずれもスクリーニング検査と証明された状態(真基準)との間で一貫する結果を示唆する。しかしながら、医学的検査は完全ではない。スクリーニング検査が、かかる疾患を実際に有しない患者において疾患の存在を示す場合、その検査結果は疑陽性(FP)である。同様に、スクリーニング検査の結果が確実に疾患を有する患者に対してその疾患が存在しないことを示唆する場合、該検査結果は偽陰性(FN)である。疑陽性及び偽陰性はいずれも検査結果が実際の状態と逆であることを示す。
【0071】
感度、特異度及び精度をTP、TN、FN及びFPの用語で説明する。
【0072】
感度=TP/(TP+FN)=(真陽性と判断される数)/(全ての陽性と判断される数)
【0073】
特異度=TN/(TN+FP)=(真陰性と判断される数)/(全ての陰性と判断される数)
【0074】
精度=(TN+TP)/(TN+TP+FN+FP)=(正しい判断の数)/全ての判断の数
【0075】
好ましい実施形態では、本発明のスクリーニング方法は、統計学的に有意に少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は好ましくは100%の感度及び/又は特異度で、ヒト被験体においてCRC及び/又はポリープを診断、早期検出、再発の判定、発症リスクの判定、若しくは予測をするか、又は上記ヒト被験体において大腸内視鏡検査を行うべきかどうかを判定するか、又は上記ヒト被験体がCRC及び/又はポリープを有すると診断された場合の予後を判定するか、又はCRC及び/又はポリープを有する患者における治療をガイドする。
【0076】
上の等式によって示唆されるように、本明細書で使用される「感度」の用語は、スクリーニング検査によって正しく同定される真陽性の割合を指す。「感度」の用語は、該検査がどれほど疾患の検出に優れているかを示す。感度(「sens」)は、0(0%)<sens<1(100%)の範囲にあってもよく、理想的には、ゼロに等しい又はゼロに近い偽陰性の数及び1(100%)又は1(100%)に近い感度であってもよい。70%~90%、75%~95%、80%~95%、85%~100%、又は90%~100%の感度を有することが好ましい。本発明の方法は、少なくとも85%、例えば約86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の感度値を有することがより好ましい。
【0077】
本明細書で使用される「特異度」の用語は、スクリーニング検査によって正しく同定される真陰性の割合を指す。「特異度」の用語は、該検査がどれほど正常(陰性)の状態を同定するのに優れているかを示唆する。特異度(「spec」)は、0(0%)<spec<1(100%)の範囲にあってもよく、理想的には、ゼロに等しい又はゼロに近い偽陽性の数及び1(100%)又は1(100%)に近い特異度であってもよい。70%~90%、75%~95%、80%~95%、85%~100%、又は90%~100%の特異度を有することが好ましい。本発明の方法は、少なくとも85%、例えば約86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の特異度値を有することがより好ましい。
【0078】
本明細書で言及される「精度」の用語は、或る集団における真陽性又は真陰性のいずれかの真結果の割合である。「精度」は、或る状態に対するスクリーニング検査の正確性の程度、すなわち、所与の状態の判定及び除外がどれほど正確であるかを測る。精度(「acc」)は、0(0%)<acc<1(100%)の範囲にあってもよく、理想的には、ゼロに等しい又はゼロに近い偽陽性の数及び1(100%)又は1(100%)に近い精度であってもよい。本発明の方法の精度は、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は好ましくは100%が好ましい。好ましい実施形態では、本発明の方法は、70%~90%、75%~95%、80%~95%、85%~100%、又は90%~100%の精度を有する。本発明の方法は、少なくとも85%、例えば約86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の精度値を有することが好ましい。
【0079】
「ROC曲線」は、感度及び特異度の両方の関係のグラフ表示であり、スクリーニング検査に対する最善の閾値(最適カットポイント)の決定により最適なモデルを決定することを補助する。ROC曲線下面積(AUC)は、スクリーニング検査の精度を測定するための方法を提供する。本発明の方法のAUCの範囲の値は、好ましくは0.6~1、より好ましくは0.7~1であり、より好ましい値は0.8~1、より好ましくは0.9~1の範囲である。特定の実施形態では、AUCは0.6~0.8、例えば0.6~0.75又は0.65~0.75である。
【0080】
さらに、感度、特異度及び精度は割合であるため、それによる信頼区間は当該技術分野でよく知られている割合に関する標準的な方法を使用して計算することができる。割合について2種類の95%信頼区間が一般的に定義される。正確な信頼区間は、正確な推定を達成するように二項分布を使用して定義される。試料分布を正規近似と仮定して漸近信頼区間を計算する。当業者は、どのようにして適切な信頼区間を定義するかを知っているであろう。1又は別の種類の信頼区間の選択は、典型的には、試料の割合が正規分布に対してよく近似するかどうかに依存する。
【0081】
本発明の方法の特定の実施形態では、上記細菌配列の定量に先立って、糞便試料からDNAを抽出する。糞便試料からのDNA抽出方法が幾つか知られており、これらの方法はいずれも化学的若しくは機械的な破壊、洗浄剤を使用する溶解、又はこれらのアプローチの組合せによる(Kennedy A. et al., PLoS One, 2014;9(2):e88982)。糞便試料中の細菌DNAの抽出方法は、例えば、M Corist et al., Journal of Microbiological Methods, 2002; 50(2):131-139、Whitney D et al., Journal of Molecular Diagnostics, American Society for Investigative Pathology, 2004;6(4):386-395、及び国際公開第2003/068788号により知られている。
【0082】
方法は、高速ビーズビーティング抽出(high speed bead beating extraction)等の機械的な破壊、化学的溶解、及び好ましくは商業的に入手可能なDNA抽出キット、「MobioPowerSoil(商標) DNA extraction procedure」(Mo-Bio Laboratories Inc.,)、土壌処理用FastDNA(商標) SPIN Kit(MP biomedicals)及びNucleoSpin(商標) Soil(Macherey-Nagel Gmbh& Co. KG)に含まれるもの等のシリカ膜カラムを使用する最終精製工程の組合せを使用することが好ましい。ビリルビン、胆汁酸塩及び複合多糖等の糞便試料に由来するDNA抽出物中のPCR阻害物質の存在は、糞便からのDNA抽出物中のDNAバイオマーカーの特定で直面する困難の1つである(Fleckna et al., Mol Cell Probes, 2007;21(4):282-7)。好ましいDNA抽出方法は、少量、例えば5%未満、好ましくは2%未満、より好ましくは1%未満、更に好ましくは0.5%未満、例えば0.25%未満、0.1%未満、0.05%未満又は0.01%未満のPCR阻害物質を含む糞便抽出物を提供するものである。
【0083】
特定の実施形態では、本発明の方法は、
(a)配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる群より選択される少なくとも1つの16S rDNA細菌配列のレベルを前記ヒト糞便試料から定量的PCRによって特定することであって、配列番号1のレベルが配列番号2-配列番号13に関して少なくとも90%の同一性を有するプライマーを使用して特定され、配列番号4のレベルが配列番号5-配列番号6に関して少なくとも90%の同一性を有するプライマーを使用して特定され、配列番号7のレベルが配列番号8-配列番号9に関して少なくとも90%の同一性を有するプライマーを使用して特定され、配列番号10のレベルが配列番号11-配列番号12に関して少なくとも90%の同一性を有するプライマーを使用して特定されること、及び/又は、
(b)工程a)に記載される配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる群より選択される少なくとも2つの16S rDNA細菌配列のレベルを前記ヒト糞便試料から定量的PCRによって特定し、配列番号10/配列番号4、配列番号7/配列番号4、配列番号4/配列番号1、配列番号7/配列番号1、配列番号7/配列番号10、及び配列番号10/配列番号1からなる群より選択される少なくとも1つの比を特定すること、
を含む。
【0084】
一つの好ましい実施形態では、本発明のヒト糞便試料からCRC及び/又は腺腫性ポリープをスクリーニングする方法は、
(a)配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる群より選択される少なくとも1つの16S rDNA細菌配列の濃度を上記ヒト糞便試料から定量的PCRによって特定することであって、配列番号1の濃度が配列番号2-配列番号13に関して少なくとも90%の同一性を有するプライマーを使用して特定され、配列番号4の濃度が配列番号5-配列番号6に関して少なくとも90%の同一性を有するプライマーを使用して特定され、配列番号7の濃度が配列番号8-配列番号9に関して少なくとも90%の同一性を有するプライマーを使用して特定され、配列番号10の濃度が配列番号11-配列番号12に関して少なくとも90%の同一性を有するプライマーを使用して特定されることと、
(b)任意に、工程a)に記載される配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる群より選択される少なくとも2つの16S rDNA細菌配列のレベルを前記ヒト糞便試料から定量的PCRによって特定するとともに、配列番号10/配列番号4、配列番号7/配列番号4、配列番号4/配列番号1、配列番号7/配列番号1、配列番号7/配列番号10、及び配列番号10/配列番号1からなる群より選択される少なくとも1つの濃度の比を特定することと、
(c)工程(a)の少なくとも1つの配列の濃度及び/又は工程(b)で得られた少なくとも1つの比の値からCRC及び/又は腺腫性ポリープの診断、リスクの判定又は再発の判定をすることと、
を含む。
【0085】
本発明の方法の別の実施形態では、配列番号2-配列番号13に関して少なくとも90%の同一性を有する上記プライマーは配列番号2-配列番号13に関して少なくとも95%の同一性を有するプライマーであり、配列番号5-配列番号6に関して少なくとも90%の同一性を有する上記プライマーは配列番号5-配列番号6に関して少なくとも95%の同一性を有するプライマーであり、配列番号8-配列番号9に関して少なくとも90%の同一性を有する上記プライマーは配列番号8-配列番号9に関して少なくとも95%の同一性を有するプライマーであり、配列番号11-配列番号12に関して少なくとも90%の同一性を有する上記プライマーは配列番号11-配列番号12に関して少なくとも95%の同一性を有するプライマーである。
【0086】
特に好ましい実施形態では、配列番号2-配列番号13に関して少なくとも95%の同一性を有する上記プライマーは、配列番号2-配列番号13によって識別されるプライマーであり、配列番号5-配列番号6に関して少なくとも95%の同一性を有する上記プライマーは配列番号5-配列番号6によって識別されるプライマーであり、配列番号8-配列番号9に関して少なくとも95%の同一性を有する上記プライマーは配列番号8-配列番号9によって識別されるプライマーであり、配列番号11-配列番号12に関して少なくとも95%の同一性を有する上記プライマーは配列番号11-配列番号12によって識別されるプライマーである。
【0087】
本出願では、問題の配列は、問題の配列の95%の残基が特定される配列の残基と同一である場合、特定される配列に関して95%同一性を有する。
【0088】
好ましい実施形態では、本発明の方法は大腸癌の診断方法であり、大腸癌は工程(c)で配列番号1のCt値がカットオフCt値37.2を上回る場合、又は配列番号4のCt値がカットオフCt値16.56を上回る場合、又は配列番号7のCt値がカットオフCt値22.97を上回る場合、又は配列番号10のCt値がカットオフCt値19.24を上回る場合、又は配列番号10/配列番号4の比の値がカットオフ値1.16を下回る場合、又は配列番号7/配列番号4の比の値がカットオフ値1.40を下回る場合、又は配列番号4/配列番号1の比の値がカットオフ値0.44を上回る場合、又は配列番号7/配列番号1の比の値がカットオフ値0.62を上回る場合、又は配列番号10/配列番号1の比の値がカットオフ値0.52を上回る場合、又は配列番号10/配列番号7の比の値がカットオフ値1.2を上回る場合に診断される。
【0089】
別の好ましい実施形態では、本発明の方法は、大腸癌の発症リスクを診断する方法であり、大腸癌の発症リスクは、工程(c)で配列番号1のCt値がカットオフCt値36.45を上回る場合、又は配列番号4のCt値がカットオフCt値14.02を上回る場合、又は配列番号7のCt値がカットオフCt値24.76を上回る場合、又は配列番号10のCt値がカットオフCt値21.42を上回る場合、又は配列番号10/配列番号4の比の値がカットオフ値1.56を下回る場合、又は配列番号7/配列番号4の比の値がカットオフ値1.78を下回る場合、又は配列番号4/配列番号1の比の値がカットオフ値0.38を上回る場合、又は配列番号7/配列番号1の比の値がカットオフ値0.68を上回る場合、又は配列番号10/配列番号の1の比の値がカットオフ値0.59を上回る場合、又は配列番号10/配列番号7の比の値がカットオフ値1.16を上回る場合である。
【0090】
別の実施形態では、本発明の方法は、CRCの指標として知られている1種又は複数種の分子バイオマーカーの検出及び/又は定量を更に含む。多重マーカーパネルを使用することが好ましい。該多重マーカーパネルは、1種又は複数種の以下の遺伝子:APC、K-ras、BRAF、p53、NRAS、PIK3CA、CDK8、CMYC、CCNE1、CTNNB1、NEU(HER2)、MYB、FBXW7、PTEN、SMAD4、SMAD2、SMAD3、TGFβllR、TCF7L2、ACVR2及びBAX(Fearon, E. R., Annu. Rev. Pathol. Mech. Dis., 2011;6:479-507)に存在する点突然変異の特定を含んでもよい。測定され得る他の既知のCRCマーカーは、CpGアイランドメチル化、便単位重量当たりのヒトDNAの量、及び便単位重量当たりの総DNAの量である。
【0091】
更なる実施形態では、本発明の方法は、コンピュータ可読媒体に判定結果を保存することを更に含む。本明細書で使用される「コンピュータ可読媒体」は、本発明の方法の判定結果を含み、保存し、通信し、伝搬し、又は輸送し得る任意の装置であってもよい。該媒体は、電子、磁気、光学、電磁気、赤外線、又は半導体のシステム(又は装置若しくはデバイス)、又は伝搬媒体であってもよい。
【0092】
第2の態様では、本発明は、ヒト被験体においてCRC及び/又はポリープを診断、早期検出、再発の判定、発症リスクの判定若しくは予測をすること、又は前記ヒト被験体において大腸内視鏡検査を行うべきかどうかを判定すること、又は前記ヒト被験体がCRC及び/又はポリープを有すると診断される患者である場合に予後を判定すること、又はCRC及び/又はポリープを有する患者における治療をガイドすることのためのバイオマーカーとしての、配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA細菌配列、又はそれらの相補的なrRNA配列の使用であって、前記細菌配列が前記ヒト被験体の糞便試料から定量される、使用に関する。
【0093】
上記核酸配列は、配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される16S rDNA配列であることが好ましい。
【0094】
本明細書で使用される「バイオマーカー」の用語は、容易に測定可能な身体試料に典型的にみられる物質である、疾患のマーカーを指す。測定量は、CRC及び/又はポリープの有無、又は将来のCRC及び/又はポリープの可能性等の潜在的な疾患の病態生理と相関し得る。それらの状態について治療を受けている患者では、測定量は治療に対する反応性にも相関する。
【0095】
第3の態様では、本発明は、キットであって、
a.
i.配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA配列、若しくはそれらの相補的なrRNA配列と特異的にハイブリダイズすることができる核酸プローブ、又は、
ii.配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される少なくとも1つの16S rDNA配列を特異的に増幅することができる一対の核酸プライマー、
からなる群より選択される試薬と、
b.本発明の方法に従ってヒト糞便試料から1種又は複数種の前記配列のレベルを定量するための指示書と、
を備える、キットに関する。
【0096】
本明細書で使用される「プローブ」の用語は、標的核酸配列に対する所定の条件下で特異的及び優先的なハイブリダイゼーションを可能とする特異的なヌクレオチド配列を含有し、また任意に検出に対する又はアッセイ性能の増強に対する部分を含有する、長さ10塩基対~285塩基対の合成の又は生物学的に産生された核酸を指す。統計学的に特異度を得るため、また安定なハイブリダイゼーション産物を形成するため、最低限10のヌクレオチドが一般的に必要であり、一般的に、最大で285のヌクレオチドが、反応パラメーターがミスマッチ配列及び優先的なハイブリダイゼーションを特定するため容易に調整され得る長さの上限を表す。プローブは、任意に、或る特定のアッセイ条件下で正しい又は最適な機能に寄与する或る特定の構成成分を含有してもよい。例えば、ヌクレアーゼ分解に対する抵抗性を改善するため(例えば、エンドキャッピングにより)、検出リガンド(例えば、フルオレセイン)を保有するため、又は固体支持体への捕捉を促進するため(例えば、ポリデオキシアデノシン「テイル」)、プローブを修飾してもよい。
【0097】
本明細書で使用される「プライマー」の用語は、ヌクレオチド配列を増幅するためポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の増幅方法で使用され得るオリゴヌクレオチドを指す。プライマーは、特定の標的配列、例えば、1つの特異的な16S rDNA配列のポリヌクレオチド配列に基づいて設計される。
【0098】
プライマー及びプローブの設計及び検証は当該技術分野でよく知られている。定量的リアルタイムPCR法については、例えばRodriguez A et al.(Methods Mol Biol., 2015, 1275:31-56)を参照されたい。
【0099】
本明細書で使用される「特異的」は、アッセイ条件下で或るヌクレオチド配列が所定の標的配列にハイブリダイズし/所定の標的配列を増幅し、実質的に非標的配列にハイブリダイズしない/非標的配列を増幅しないことを意味し、一般的にストリンジェントな条件が使用される。
【0100】
本明細書で使用される「ハイブリダイゼーション」は、所定の反応条件下で、核酸塩基が互いに対をなし得る明確なルールに従って、2つの部分的又は完全な核酸の相補鎖を逆平衡の様式で集合させて、特異的で安定な水素結合を有する二本鎖核酸を形成するプロセスを指す。
【0101】
「実質的なハイブリダイゼーション」は、観察されるハイブリダイゼーションの量が、その結果を観察する者が陽性対照及び陰性対照のハイブリダイゼーションデータに関してその結果を陽性とし得るような量となることを意味する。「バックグラウンドノイズ」とされるデータは実質的なハイブリダイゼーションではない。
【0102】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、およそ0.9モルのNaClの塩溶液中でおよそ35℃~65℃を意味する。また、ストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーション溶液中に存在するイオン種の濃度及び種類、存在する変性剤の種類及び濃度、並びにハイブリダイゼーションの温度等の反応パラメーターによって左右され得る。一般的には、ハイブリダイゼーション条件がよりストリンジェントになると、安定なハイブリッドが形成される場合はより長いプローブが好ましい。通例、ハイブリダイゼーションが起こる条件のストリンジェンシーは、採用される好ましいプローブの特定の特性を規定する。
【0103】
上記核酸配列は、配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧から選択される16S rDNA配列であることが好ましい。
【0104】
特定の実施形態では、上記キットをヒト被験体におけるCRC及び/又はポリープの診断、早期検出、再発の判定、発症リスクの判定、若しくは予測のため、又は上記ヒト被験体において大腸内視鏡検査を行うべきかどうかの判定のため、又はCRC及び/又はポリープと診断された患者の予後を判定するため、又はCRC及び/又はポリープを有する患者において治療をガイドするため使用する。好ましい実施形態では、上記キットは、DNA抽出手段、ハイブリダイゼーション及び/又は増幅を行う手段、検出手段、及び/又は生体試料を収集及び/又は保持するための1種若しくは複数種の容器を更に備えてもよい。
【0105】
特定の実施形態では、本発明は、配列番号2-配列番号13、配列番号5-配列番号6、配列番号8-配列番号9、及び配列番号11-配列番号12からなる群のプライマー対の群から選択される少なくとも一対のPCRプライマーを含む、ヒト糞便試料から大腸癌を診断するキットに関する。
【0106】
第4の態様では、本発明は、配列番号2、配列番号13、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号11、及び配列番号12からなる群より選択される核酸配列、又はそれらの少なくとも90%の同一性を有する、好ましくはそれらの95%の同一性を有する、より好ましくは96%、97%、98%、99%、若しくは100%の同一性を有する核酸配列に関する。配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10からなる一覧より選択される少なくとも1つの16S rDNA配列の定量のため、上記配列を増幅アッセイ(qPCR等)においてプライマーとして、又はハイブリダイゼーションアッセイにおいて核酸プローブとして使用することが好ましい。
【0107】
特定の実施形態では、上記核酸配列は、配列番号2-配列番号13、配列番号5-配列番号6、配列番号8-配列番号9、及び配列番号11-配列番号12からなる群より選択される一対のPCRプライマーである。別の特定の実施形態では、上記核酸配列は、核酸プローブとして配列番号2、配列番号13、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号11、及び配列番号12からなる群より選択される。
【0108】
第5の態様では、本発明は、本発明のスクリーニング方法における配列番号2、配列番号13、配列番号5、配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号11、及び配列番号12からなる群より選択される核酸配列、又はそれらと少なくとも90%の同一性を有する核酸配列の使用に関し、ここで、配列番号2及び/又は配列番号13を配列番号1の定量に使用し、配列番号5及び/又は配列番号6を配列番号4の定量に使用し、配列番号8及び/又は配列番号9を配列番号7の定量に使用し、配列番号11及び/又は配列番号12を配列番号10の定量に使用する。
【0109】
実施例に記載される特定の実施形態は解説として示されるのであって、本発明の限定として示されるものではないことが理解される。本発明の主な特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく様々な実施形態において採用され得る。当業者は、通常の程度の実験を使用して、本明細書に記載される具体的な手順に対する数多くの等価物を認識するか、又は確認することができる。かかる等価物は、本発明の範囲に含まれるとされ、特許請求の範囲によって包含される。
【0110】
本明細書において言及された全ての出版物及び特許出願は、本発明が属する技術分野の当業者の技術レベルの指標である。全ての出版物及び特許出願は、個々の出版物又は特許出願が各々具体的かつ個別に引用することにより本明細書の一部をなすことが示されるのと同じ程度に引用することにより本明細書の一部をなす。
【0111】
「a」又は「an」の文言の使用は「1つ(one)」を意味し得るが、「1又は複数」、「少なくとも1つ」、及び「1以上」の意味とも矛盾しない。
【0112】
本出願を通して、「約」の用語は、その値の指示値±5%、好ましくはその値の指示値±2%を意味し、最も好ましくは用語「約」は指示値ちょうど(±0%)を意味する。
【実施例】
【0113】
実施例1.-材料及び方法
1.生体試料
大腸癌(CRC)(0相~I相)と最近診断された患者27名、リンチ症候群キャリア(L)の患者24名、及び健康な個体(C)19名から糞便試料を得た。全ての患者は試料収集の少なくとも15日前に大腸内視鏡検査を行った。
【0114】
彼らは全員対応するインフォームドコンセントに署名した。除外基準は、研究前の1カ月以内の抗生物質による治療及び年齢18歳未満を含んだ。
【0115】
2.16S rDNA細菌配列
B3、B10、B41、B46、B48及びB50の配列は、無培養の細菌単離物から予め単離された変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)のゲルバンドに対応する。
-GQ411111.1でEMBL-EBI European Nucleotide Archive(ENA)データベースにおいて公開された16S rDNA細菌配列 配列番号1(B3)、
-GQ411118.1でEMBL-EBI European Nucleotide Archive(ENA)データベースにおいて公開された16S rDNA細菌配列 配列番号4(B10)、
-GQ411150.1でEMBL-EBI European Nucleotide Archive(ENA)データベースにおいて公開された16S rDNA細菌配列 配列番号7(B46)、
-GQ411152.1でEMBL-EBI European Nucleotide Archive(ENA)データベースにおいて公開された16S rDNA細菌配列 配列番号10(B48)、
-GQ411145.1でEMBL-EBI European Nucleotide Archive(ENA)データベースにおいて公開された16S rDNA細菌配列B41、及び、
-GQ411154.1でEMBL-EBI European Nucleotide Archive(ENA)データベースにおいて公開された16S rDNA細菌配列B50。
【0116】
3.試料収集、保護、及び保存
24時間からの糞便試料を糞便容器に収集し、ISO 9001の条件下にて-20℃で1カ月保存し、-80℃の冷凍庫に移した。
【0117】
4.試料の加工及びDNA抽出
糞便16s-DNA抽出NucleoSpin(商標)Soil(Macherey-Nagel)を使用した。バイオクラスII安全条件のもと、200mg~500mgの糞便試料をNucleospinビーズチューブに入れた。700μlのSL1及び150μlのEnhancer SXをビーズチューブに添加した。
【0118】
5.その後、製造業者による指示書に従ってDNAを抽出し、精製し、50UIの溶離バッファー又は10mMのTris HCl pH=7.4で溶離した。
【0119】
6.DNA濃度の計算
Quant-IT dsDNA Broad-Range Assay Kitを使用して、キュービット(Qubit)(登録商標) 2.0 Fluorometerカタログ番号Q32866による蛍光定量的分析によって上記抽出物のDNA濃度を特定した。この方法は、RNAに関してdsDNAに高選択性であり、2ng~1000ngの範囲内で正確な定量を与える。この範囲内で蛍光はDNA濃度と線形に関連する。上記抽出物5ulに対してDNA測定を行った。
【0120】
7.糞便試料から抽出したDNAの定量的リアルタイムPCR(qPCR)
糞便試料に由来するDNAを定量的リアルタイムPCRによって分析した。特に、本発明者らは、1つの試料当たり4つの細菌集団、すなわちB3、B10、B48及びB46の量を判断した。蛍光dsDNA染色により定量的リアルタイムPCRを使用して細菌配列を定量した。この作業において、本発明者らはPromega(米国マディソン)製のpre-mix BRYT(商標)使用した。Furet.et al.(FEMS Microbiol Ecol., 2009;68(3):351-62)によって記載される手順に従って真正細菌を増幅した。
【0121】
各試料について細菌の存在量を総DNA濃度に対して正規化したCtとして表した。
【0122】
Ct(サイクル閾値)を、蛍光シグナルが閾値を超えるのに必要なq-PCRサイクル数として定義する。Ctレベルは、試料中の標的核酸濃度の対数に反比例する(すなわち、Ctレベルが低くなると試料中の標的核酸の量が増大する)。リアルタイムアッセイは40サイクルの増幅を経る。
【0123】
8.統計学的分析の方法
データの統計学的な正規分布をコルモゴロフ-スミノルフの検定により分析した。データの統計学的正規分布が存在するか否かに応じて、以下の群を比較するための適切な統計的検定を使用した。
【0124】
分析した群は、CRC対健康、CRC対リンチ対健康、CRC+リンチ対健康、及びCRC対リンチ-高リスク対リンチ-低リスク対健康であった。
これらの群について、分析した変数は、
-Ctで表される4つの細菌配列の定量、
-4つの細菌の定量の比、
-重量、及び、
-DNA濃度、
であった。
【0125】
バイナリ回帰及びROC分析を使用して、健康とCRC条件とリスク(一群で(in outfit)及び2つのリスク条件に分離される)との間の細菌配列(複数種の場合がある)定量の相関、並びに検査の感度及び特異度を判定した。
【0126】
DNA及び重量において群間の差は観察されなかった。真正細菌(Eub)の量はリンチとCRC+リンチと健康なドナー(C)との間で異なることがわかったが、疾患の状態がより少ない数のDNAコピーを有する細菌を含む、系統発生コア(phylogenetic core)の変化を暗示することから、これは正常とされた。このことは総細菌の減少を暗示するものではない(例えば、Sobhani et al., PLoS One, 2011,27;6(1):e16393を参照されたい)。この理由で、Eub定量を正規化目的の内部参照として使用しなかった。
【0127】
実施例2.プライマー設計及び確認
生検における細菌マーカーB3、B10、B46、B48、B41及びB50の定量に対するプライマーを、バイオインフォマティックツールであるEuropean Bioinformatics Institute (www.ebi.ac.uk)製のClustalX、Netprimer(Premier Biosoft)及びPrimerExpress(Life Tecnologies-Thermo Fischer)を使用して系統発生学的な群から予め得られた配列との比較分析より設計した。
【0128】
選択された検出システムはSybrGreen(商標)であった。近い群に関して3カ所未満の相違を有するプライマーのセットを廃棄した。予測されるものと異なる解離曲線のTm値を有するプライマーのセットも廃棄した。プライマーの検証を生検試料及び糞便試料において行った。プライマーの性能を分析するため解離曲線を決定した。
【0129】
図8a~
図13bは、それぞれ、B3、B10、B46、B48、B41及びB50の増幅に対する設計されたプライマーの検証のための増幅プロット及び解離曲線を示す。適切な解離曲線(各プライマーセットに対して単一ピーク)を示すプライマーを、糞便試料中の16S rDNAの細菌定量に対して選択した。特に、B3、B10、B46及びB48を増幅するプライマーを選択し、これらは下記表9に明示される。特異度がない(融解曲線において各プライマーセットに対して複数のピーク)ためB51及びB40を処分した。
【0130】
【0131】
実施例3:大腸癌患者対健康な被験体における16S rDNAバイオマーカー分析
対照7名及び大腸癌患者9名の合計16の糞便試料を分析した。分析した糞便試料中の実施例1で引用される各細菌マーカー定量をCt値で表す。Ct(サイクル閾値)を、蛍光シグナルが閾値を超えるのに必要なq-PCRサイクルの数として定義する。Ctレベルは、試料中の標的核酸濃度の対数に反比例する(すなわち、Ctレベルが低くなるほど、試料中の標的核酸の量が増大する)。リアルタイムアッセイは、40サイクルの増幅を経る。得られた結果を下記表1及び表2に示す。表1はCt絶対値を表し、表2はCt比を表す。2標本t検定を適用した。
【0132】
【0133】
【0134】
大腸癌の診断の感度及び特異度は、配列番号10/配列番号4の比に対して75%及び71%であり、配列番号7/配列番号4の比に対してそれぞれ77%及び71%であり、配列番号4/配列番号1の比に対してそれぞれ100%及び100%であり、配列番号7/配列番号1の比に対してそれぞれ100%及び100%であり、配列番号10/配列番号1の比に対してそれぞれ75%及び75%である。
【0135】
図1、
図2及び
図3は、Ct値の比(配列番号10/配列番号4、配列番号7/配列番号4、及び配列番号4/配列番号1)のグラフ表示である。
【0136】
図4及び
図5はCt絶対値(配列番号4、配列番号7)のグラフ表示である。
【0137】
実施例4.リンチ症候群患者における16S rDNAバイオマーカー分析、CRC対高リスク(ポリープあり)対低リスク(ポリープなし)
この分析の目的は、臨床兆候の前に大腸癌のリスクを検出するためのバイオマーカー予測値を決定することである。
【0138】
リンチ症候群の(大腸癌発症の遺伝的リスクの増した)合計8名の個体を分析した。全ての個体は、糞便試料の収集前、最大1年の期間で大腸内視鏡検査を受けた。内視鏡による調査によれば、上記個体のうち4名が悪性のポリープを有し(高リスクと名付けた)、4名がポリープを有しなかった(低リスクと名付けた)。
【0139】
分析したヒト糞便試料中の実施例1において引用された各細菌マーカーの定量を、実施例2に記載されるプライマーを使用して特定し、Ct値で定量した。
【0140】
得られた結果を下記表3及び表4に示す。表3は、Ct絶対値を表し、表4はCt比を表す。2標本t検定を適用した。
【0141】
【0142】
【0143】
細菌学的な比のマーカーは、大腸癌の発症に対して高リスクの個体の群(リンチ症候群及びポリープを有する患者)を識別することができた。大腸癌高リスク集団の検出における感度及び特異度は、配列番号4に対して80%及び100%、配列番号4/配列番号1の比に対してそれぞれ75%及び75%、配列番号7/配列番号4の比に対してそれぞれ80%及び100%、配列番号7/配列番号1の比に対してそれぞれ75%及び75%、配列番号10/配列番号1に対してそれぞれ75%及び75%であった。
【0144】
図6は、Ct値の比(配列番号4/配列番号1)のグラフ表示であり、
図7はCt絶対値(配列番号4)のグラフ表示である。
【0145】
実施例5:大腸癌患者対健康な被験体における16S rDNAバイオマーカー分析
大腸癌(CRC)(0相~I相)と最近診断された患者27名、及び健康な個体(C)から糞便試料を得た。全ての患者は試料収集の少なくとも15日前に大腸内視鏡検査を受けた。
【0146】
彼らは全員、対応するインフォームドコンセントに署名した。除外基準は、本研究前1カ月以内の抗生物質による治療、及び年齢18歳未満を含んだ。
【0147】
表5では(下記を参照されたい)、4つの細菌配列の定量が、CRC患者の糞便において著しいCtの増加を呈したことを示す。この事実は、この群において上記4つの細菌の負荷がより低いことを意味する。
【0148】
これら4つの細菌の著しい負荷の減少は、CRC患者をスクリーニングするための強力な手段である可能性がある。本発明者らが別々に該細菌マーカーの成績を分析すると、最良の結果は特異度94%及び感度48%及び精度0.7でCRC患者を同定したB3、2番目に特異度84%及び感度61.5%及び精度0.698でB46によって得られたことがわかる。
【0149】
B48及びB10もまた、精度は0.69を示すが、それぞれ特異度100%及び感度36%、特異度57%及び感度89.5%を示す。
【0150】
細菌配列定量のCt間の比を計算した。統計学的な差は観察されないが、本発明者らは、増加した試料においてこの比を適用することは、CRCのスクリーニングを完了するための有用なアルゴリズムである可能性があると考える。この系統では、4つの配列の組合せも上記検査の感度及び特異度を増すと考えなくてはならない。
【0151】
【0152】
図14~
図17は、CRC群及び健康(C)群におけるB3、B10、B46及びB48に対する絶対Ct値のグラフ表示をそれぞれ提供する。
【0153】
図27は、健康対CRC分析におけるB3、B10、B46及びB48に対するROC曲線を提供する。
【0154】
実施例6:16S rDNAバイオマーカー分析 CRC対リンチ(臨床兆候なし)対健康な個体
この分析の目的は、臨床兆候の前に大腸癌リスクを検出するためのバイオマーカーの予測値を決定することである。
【0155】
大腸癌(CRC)(0相~I相)と最近診断された患者27名、リンチ症候群キャリア(L)24名、及び健康な個体(C)19名から糞便試料を得た。全ての患者は試料収集の少なくとも15日前に大腸内視鏡検査を受けた。
【0156】
彼らは全員対応するインフォームドコンセントに署名した。除外基準は、本研究の前1カ月以内の抗生物質による治療、及び年齢18歳未満を含んだ。
【0157】
本発明者らは、健康な個体、CRCと最近診断された患者及びリンチ症候群キャリアの糞便試料中の上記4つの細菌配列を定量した。リンチ症候群キャリアは、遺伝的に、癌、特に大腸癌を発症しやすい。この群は、大腸癌新生物及び臨床兆候がない個体によって構成され、大腸癌リスク群とされる。
【0158】
本発明者らは、リンチ症候群が健康な患者の群と比較してB3及びB48のCt値の著しい増加を呈することを観察した。したがって、リンチ群では、糞便試料中のB3及びB48の負荷がより低い。
【0159】
実際、リンチ群は、B10以外について、CRCと比較して細菌配列の定量でいかなる統計学的な差も示さない。これは、リンチ群における微生物学的プロファイルが、この群においては何らの臨床上の兆候も新生物も観察されないものの、CRCに類似することを暗示する。この事実は、これら4つの細菌配列のうちの1種又は複数種の検出がCRCリスクを有し、大腸内視鏡検査による調査を必要し得る人々をスクリーニングするための強力な手段であるかもしれないことを意味する。
【0160】
【0161】
図18~
図21は、それぞれ配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10の配列のCRC群、L群及びC群における絶対Ct値のグラフ表示を提供する。
【0162】
図28は、健康(C)対リンチ(L)分析におけるB3、B10、B46及びB48に対するROC曲線を提供する。
【0163】
図30は、CRC対リンチ分析におけるB3、B10、B46及びB48に対するROC曲線を提供する。
【0164】
実施例7:16S rDNAバイオマーカー分析 CRC+リンチ対健康な個体
実施例6の分析によれば、リンチ症候群キャリアは、糞便中にCRC患者に類似する微生物学的プロファイルを有する。したがって、本実験では、本発明者らは、大腸内視鏡検査による調査の前に、健康な個体及び大腸癌リスクの個体(CRC+L)における大腸癌リスク個体をスクリーニングするため上記4つの細菌配列の定量検出を使用することの潜在的な可能性を試験することを目的とする。
【0165】
表7では、本発明者らは、Ctで表された細菌配列の定量を表す。
【0166】
本発明者らは、B3、B48、及びB46が大腸癌リスク群(CRC+L)においてCt値を著しく増加することを観察している。したがって、糞便中のこれらの細菌のレベルは減少される。
【0167】
CRC+LにおけるB10もまた、より低いレベルを呈するが、統計学的な差は観察されない(p=0.137)。
【0168】
大腸癌の検出における細菌定量の成績を評価すると、B3及びB48が最も良い精度(0.7)を有することが示され、それぞれ、感度56.2%-特異度88.9%及び感度51%-特異度84%である。
【0169】
2番目に、B46は0.665の精度、及び感度94.7%-特異度23.12%を有する。最後に、B10は0.58の精度、及び感度44.9%-特異度89.5%を有する。
【0170】
細菌配列の定量のCt間の比を計算した。統計学的な差は観察されない(マン-ホイットニーU検定でB3/B46 p=0.061、2標本t検定分析でB10/B3 p=0.132、2標本t検定分析でB46/B10 p=0.127)が、本発明者らは、増加した試料にこの比を適用することはCRCのスクリーニングを完了するのに有用なアルゴリズムであるかもしれないことを考えなければならない。
【0171】
この系統では、上記検査の感度及び特異度を増すため、4つの配列の組合せも考慮しなければならない。
【0172】
【0173】
図22は、それぞれCRC+リンチ(L)群及び健康(C)群における配列番号1、配列番号4、配列番号7、及び配列番号10の配列の絶対Ct値のグラフ表示を提供する。
【0174】
図29は、健康対CCR+リンチ分析におけるB3、B10、B46及びB48に対するROC曲線を提供する。
【0175】
実施例8:16S rDNAバイオマーカー分析 CRC対L-高リスク対L-低リスク対健康な個体
本実施例において、本発明者らは、リンチ症候群キャリアにおける細菌配列の定量を使用して種々のグレードの大腸癌のリスクを定義することを目的とする。
【0176】
本発明者らは、リンチ症候群キャリアを、直近の大腸内視鏡検査における結腸直腸新生物バックグラウンド及び腺腫の存在に従って高リスク(L-高リスク)及び低リスク(L-低リスク)の大腸癌に分類した。本発明者らは、6名の高リスク個体及び18名の低リスク個体を有した。
【0177】
4つの細菌配列の定量を行ったところ、異なる群間で統計学的な有意差は観察されなかった。B3レベルに対してのみ、C対L-低リスク(p=0.088、Kruskal-Wallis検定)及びC対L-高リスク(p=0.143、クラスカル-ワリス検定)を比較するとCtの減少傾向があった。
【0178】
細菌配列定量のCt間の比を計算した。
【0179】
クラスカル-ワリス検定を適用し、B3/B10比及びB10/B46比は、CとL-低リスクとの間で有意差を呈する。B3/B48比は、C対L-高リスクを比較すると有意差を示す。B3/B10比及びB48/B10比はCRC対L-高リスクで有意差があった。
【0180】
試料サイズのためROC分析は行われなかったが、統計学的分析を考慮すると、本発明者らはL-低リスク群を区別できることから最良の比はB3/B10の可能性があると予測する。
【0181】
また、この系統では上記検定の能力を高めるために4つの配列の組合せを考慮しなくてはならず、多変量ロジスティック回帰分析を行わなくてはならないが、試料サイズの増加を必要とする。
【0182】
【0183】
図23~
図26は、それぞれCRC群、高リスクL群、低リスクL群及びC群において、以下の絶対Ct値比B48/B10、B3/B10、B46/B10及びB3/B48のグラフ表示を提供する。
【配列表】