(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】積層電池モジュール
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20220405BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220405BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20220405BHJP
H01M 50/20 20210101ALI20220405BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0587
H01M50/20
(21)【出願番号】P 2017075300
(22)【出願日】2017-04-05
【審査請求日】2018-09-21
【審判番号】
【審判請求日】2020-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000142115
【氏名又は名称】株式会社協豊製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】北浦 誠之
(72)【発明者】
【氏名】藤嶋 正剛
(72)【発明者】
【氏名】磯谷 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】小寺 将徳
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】祢屋 健太郎
【審判官】平塚 政宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-39023(JP,A)
【文献】特開2016-72039(JP,A)
【文献】特開2016-91916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極集電体層、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、及び正極集電体層をこの順に有する単位電池を1個以上含む電池積層体、
前記積層体の積層方向両端部に位置する一対のエンドプレートと、前記一対のエンドプレートを互いに締結するテンション保持部材とを含む拘束部材、並びに
前記積層体中で隣接する2つの前記単位電池の間、及び/又は前記電池積層体の端部と前記一対のエンドプレートのうちの1枚との間に位置する弾性部材と
を含む積層電池モジュールであって、
前記弾性部材が、-30℃から80℃まで温度の上昇に伴って弾性係数が低下する材料から構成
され、かつ-30℃における最低拘束荷重は、1MPa以上である、
積層電池モジュール。
【請求項2】
前記電池積層体が充電率15%のときに、80℃における拘束荷重が、-30℃における拘束荷重以上である、請求項1に記載の積層電池モジュール。
【請求項3】
前記電池積層体が充電率90%のときに、80℃における拘束荷重が、-30℃における拘束荷重以下である、請求項1又は2に記載の積層電池モジュール。
【請求項4】
前記弾性部材の-30℃における弾性係数が100MPa以上であり、且つ80℃における弾性係数が-30℃における弾性係数の75%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層電池モジュール。
【請求項5】
前記弾性部材の-30℃における弾性係数が200MPa以上であり、且つ80℃における弾性係数が-30℃における弾性係数の65%以下である、請求項4に記載の積層電池モジュール。
【請求項6】
前記弾性部材の80℃における弾性係数が200MPa以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層電池モジュール。
【請求項7】
前記弾性部材が、ポリエステルエラストマーで構成される、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層電池モジュール。
【請求項8】
前記電池積層体が、複数のラミネート電池を含む電池積層体であり、且つこれらのラミネート電池のそれぞれは、前記単位電池1個以上が外装体内に封入されている、
請求項1~7のいずれか一項に記載の積層電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
電池単位を1個以上含む電池積層体を、金属プレート等の拘束部材により挟み込み、所定の荷重で拘束した積層電池モジュールが知られている。
【0003】
このような積層電池モジュールにおける電池積層体は、例えば、充放電、温度変化等に伴って体積が膨張及び収縮する。このような電池積層体の膨張及び収縮による拘束部材の破損を防止する等の目的で、例えば、電池積層体と金属プレートとの間に弾性部材を介在させることがある。
【0004】
例えば特許文献1には、
所定の方向に沿って積層された複数の電池セル(単位電池)を含む積層体と、
前記所定の方向における前記積層体の一端及び他端のそれぞれに配置された一対のエンドプレートを含み、前記エンドプレート同士を互いに締結することにより前記所定の方向に沿って前記電池セルに拘束荷重を付加する拘束部材と、
前記電池セルと共に前記拘束部材により前記拘束荷重が付加され、前記電池セルの膨張に伴って圧縮される弾性部材と、
前記弾性部材が圧縮されたときに前記弾性部材の一部を陥入させて逃す空間部を含む逃がし機構と、
を備える電池モジュールが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電池積層体の膨張及び収縮は、充放電に伴う体積変化、及び温度に伴う体積変化の双方に起因する。拘束部材は、電池積層体が最も収縮した、低温且つ低充電率の状態において最低限必要な拘束荷重を与えることができるとともに、電池積層体が最も膨張した、高温且つ高充電率の状態における荷重に耐えるように設計する必要がある。
【0007】
従来技術の積層電池モジュールにおいて、上記の要請を充足するためには、拘束部材を大型化する必要がある。特に、特許文献1の具体的な実施態様によると、拘束部材としてエンドプレートの他にミドルプレートを要するため、拘束部材の大型化の程度は著しい。
【0008】
本発明は、従来技術における上記の事情に鑑みてなされた。従って、本発明の目的は、拘束部材を大型化することなく、低温且つ低充電率の電池積層体に最低限必要な拘束荷重を与えることができるとともに、高温且つ高充電率の電池積層体の荷重に耐え得る、積層電池モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のとおりである。
【0010】
[1] 負極集電体層、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、及び正極集電体層をこの順に有する単位電池を1個以上含む電池積層体、
前記積層体の積層方向両端部に位置する一対のエンドプレートと、前記一対のエンドプレートを互いに締結するテンション保持部材とを含む拘束部材、並びに
前記一対のエンドプレート間に位置する弾性部材と
を含む積層電池モジュールであって、
前記弾性部材が、-30℃から80℃まで温度の上昇に伴って弾性係数が低下する材料から構成される、
前記積層電池モジュール。
[2] 前記電池積層体が充電率15%のときに、80℃における拘束荷重が、-30℃における拘束荷重以上である、[1]に記載の積層電池モジュール。
[3] 前記電池積層体が充電率90%のときに、80℃における拘束荷重が、-30℃における拘束荷重以下である、[1]又は[2]に記載の積層電池モジュール。
[4] 前記弾性部材の-30℃における弾性係数が100MPa以上であり、且つ80℃における弾性係数が-30℃における弾性係数の75%以下である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の積層電池モジュール。
[5] 前記弾性部材の-30℃における弾性係数が200MPa以上であり、且つ80℃における弾性係数が-30℃における弾性係数の65%以下である、[4]に記載の積層電池モジュール。
[6] 前記弾性部材の80℃における弾性係数が200MPa以下である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の積層電池モジュール。
[7] 前記弾性部材が、ポリエステルエラストマーで構成される、[1]~[6]のいずれか一項に記載の積層電池モジュール。
[8] 前記電池積層体が、複数のラミネート電池を含む電池積層体であり、且つこれらのラミネート電池のそれぞれは、前記単位電池1個以上が外装体内に封入されている、
[1]~[7]のいずれか一項に記載の積層電池モジュール。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、拘束部材を大型化することなく、低温且つ低充電率の電池積層体に最低限必要な拘束荷重を与えることができるとともに、高温且つ高充電率の電池積層体の荷重に耐え得る、積層電池モジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の積層電池モジュールの一例の構造を説明するための概略図である。
【
図2】
図2は、実施例1で得られた、拘束荷重とモジュール全長との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、比較例1で作製した積層電池モジュールの構造を説明するための概略図である。
【
図4】
図4は、比較例1で得られた、拘束荷重とモジュール全長との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、弾性部材(厚さ:30mm)を構成する材料の、80℃における弾性係数と-30℃における弾性係数との関係の好ましい範囲を示すグラフである。
【
図6】
図6は、弾性部材(厚さ:40mm)を構成する材料の、80℃における弾性係数と-30℃における弾性係数との関係の好ましい範囲を示すグラフである。
【
図7】
図7は、弾性部材(厚さ:50mm)を構成する材料の、80℃における弾性係数と-30℃における弾性係数との関係の好ましい範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<積層電池モジュール>
本発明の積層電池モジュールは、
負極集電体層、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、及び正極集電体層をこの順に有する単位電池を1個以上含む電池積層体、
電池積層体の積層方向両端部に位置する一対のエンドプレートと、一対のエンドプレートを互いに締結するテンション保持部材とを含む拘束部材、並びに
一対のエンドプレート間に位置する弾性部材と
を含み、
弾性部材が、-30℃から80℃まで温度の上昇に伴って弾性係数が低下する材料から構成される、
積層電池モジュールである。
【0014】
本発明の積層電池モジュールにおいて、
電池積層体の充電率が15%のときに、80℃における拘束荷重は、-30℃における拘束荷重以上であってよく、
電池積層体の充電率が90%のときに、80℃における拘束荷重は、-30℃における拘束荷重以下であってよい。
【0015】
本明細書中で、以下、充電率15%のときの電池積層体の拘束荷重を「最低拘束荷重」といい、充電率90%のときの電池積層体の拘束荷重を「最大拘束荷重」という。最低拘束荷重は、充電率15%、10%、5%、又は0%のときの電池積層体の拘束荷重であってよい。最大拘束荷重は、充電率90%、95%、又は100%のときの電池積層体の拘束荷重であってよい。また、-30℃から80℃の温度範囲とは、本明細書が積層電池モジュールの使用環境として想定する温度範囲である。
【0016】
80℃における電池積層体の最低拘束荷重を、-30℃における最低拘束荷重以上とすることにより、通常想定される使用範囲において電池積層体が最も縮小した場合であっても、電池積層体に最低限必要な拘束荷重を与えることができる。-30℃における最低拘束荷重は、例えば、1MPa以上、2MPa以上、4MPa以上、6MPa以上、8MPa以上、10MPa以上、12MPa以上、又は15MPa以上であってよい。
【0017】
一方で、80℃における電池積層体の最大拘束荷重を、-30℃における最大拘束荷重以下とすることにより、通常想定される使用範囲において電池積層体が最も膨張した場合の最大拘束荷重が抑制されるから、拘束部材を過度に大型化しなくても、電池積層体の拘束荷重に耐えることができる。80℃における最大拘束荷重は、例えば、100MPa以下、75MPa以下、50MPa以下、40MPa以下、30MPa以下、又は25MPa以下であってよい。
【0018】
従来知られている積層電池モジュールは、例えば、80℃における電池積層体の最低拘束荷重を-30℃における最低拘束荷重以上に設定すると、80℃における電池積層体の最大拘束荷重が-30℃における最大拘束荷重を超えることとなっていた。そうすると、電池積層体が最も縮小したときに最低限必要な拘束荷重を与えることは可能であるが、電池積層体が最も膨張したときの拘束荷重の抑制ができないから、拘束部材の大型化を要する。
【0019】
従来知られている積層電池モジュールは、一方で、例えば、80℃における電池積層体の最大拘束荷重を-30℃における最大拘束荷重以下に設定すると、80℃における電池積層体の最低拘束荷重が-30℃における最低拘束荷重未満となっていた。そうすると、電池積層体が最も膨張したときの拘束荷重は抑制されるから、拘束部材を大型化する必要はないが、電池積層体が最も縮小したときに、最低限必要な拘束荷重を与えることができず、電池性能の低下を招いていた。
【0020】
80℃における電池積層体の最低拘束荷重が-30℃における最低拘束荷重以上であり、且つ80℃における電池積層体の最大拘束荷重が-30℃における最大拘束荷重以下である積層電池モジュールは、従来知られていない。
【0021】
本発明の積層電池モジュールは、上記の要件を同時に満たしてよい。従って、本発明の積層電池モジュールは、拘束部材を大型化することなく、低温且つ低充電率の電池積層体に最低限必要な拘束荷重を与えることができるとともに、高温且つ高充電率の電池積層体の荷重に耐え得るものであってよい。
【0022】
以下、本発明の積層電池モジュールを構成する各部について、好ましい実施形態(以下、「本実施形態」という。)を例として説明する。しかし本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0023】
<電池積層体>
本実施形態の積層電池モジュールにおける電池積層体は、負極集電体層、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、及び正極集電体層をこの順に有する単位電池を1個以上含む。
【0024】
電池積層体において、隣接する単位電池は、負極集電体層若しくは正極集電体層又はこれらの双方を共有する構成であってよい。電池積層体は、例えば、負極集電体層、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層の積層順で、正極集電体層を共有して表裏が逆転する2種類の単位電池を有していてもよい。
【0025】
電池積層体は、全固体電池積層体であってよい。
【0026】
電池積層体は、複数のラミネート電池を含む電池積層体であってよい。ラミネート電池のそれぞれは、単位電池1個以上が外装体内に封入されていてよい。外装体は、例えばアルミニウムラミネートフィルム等から構成されていてよい。
【0027】
<拘束部材>
本実施形態の積層電池モジュールにおける拘束部材は、電池積層体の積層方向両端部に位置する一対のエンドプレートと、一対のエンドプレートを互いに締結するテンション保持部材とを含む。
【0028】
エンドプレートは、例えば、矩形平板状であってよい。エンドプレートの矩形の大きさは、電気積層体の面方向の面積よりも大きくてよい。
【0029】
エンドプレートは、少なくとも電池積層体と接する領域には、貫通孔又は凹没部を有さないことが好ましい。エンドプレートがこのような形状を有することにより、例えば-30℃以上80℃以下の広い温度範囲において、電池積層体に対して後述の弾性部材の弾性を有効に作用させることができる。これにより、低温且つ低充電率の電池積層体に最低限必要な拘束荷重を与えることができるとともに、高温且つ高充電率の電池積層体の荷重に耐え得ることとなり、好ましい。
【0030】
また、エンドプレートが少なくとも電池積層体と接する領域に貫通孔又は凹没部を有さないことにより、電池積層体に均等な拘束荷重を加えるための別の部材、例えばミドルプレートを配置する必要がない。これにより、拘束部材の大型化を回避することができ、好ましい。
【0031】
テンション保持部材は、例えば、長尺のボルトと、このボルトに螺合可能なナットとから構成されてよい。
【0032】
ボルトは、例えば、エンドプレートの外延部分においてエンドプレートに挿通されてよい。そして、挿通されたボルトの両端に対し、エンドプレートの外側からナットを螺合することにより、電池積層体に拘束荷重を加えてよい。
【0033】
<弾性部材>
弾性部材は、-30℃から80℃まで温度上昇に伴って弾性係数が低下する材料から構成される。本明細書において、弾性係数とは、JIS K7181に準拠して、後述の実施例における条件下で測定した圧縮弾性係数を意味する。
【0034】
弾性部材が、上記のような温度依存性の弾性係数を示す材料から構成されることにより、80℃における電池積層体の最低拘束荷重を、-30℃における電池積層体の最低拘束荷重以上に設定することができる。
【0035】
上記の効果を有効に発現する観点から、弾性部材を構成する材料の80℃における弾性係数は、-30℃における弾性係数の75%以下又は65%以下であってよい。
【0036】
更に、積層電池モジュールのサイズの増大を抑制しつつ、環境温度及び充電状態によらずに電池積層体に最低限必要な拘束荷重を与えるために、弾性部材を構成する材料の-30℃における弾性係数は、例えば、100MPa以上、150MPa以上、200MPa以上、又は250MPa以上であってよい。同様の理由から、弾性部材を構成する材料の80℃における弾性係数は、例えば、25MPa以上、50MPa以上、75MPa以上、又は100MPa以上であってよい。
【0037】
一方で、環境温度及び充電状態によらずに電池積層体に過度の拘束荷重が印加されないように、弾性部材を構成する材料の80℃における弾性係数は、200MPa以下、180MPa以下、又は150MPa以下であってよい。同様の理由から、弾性部材を構成する材料の-30℃における弾性係数は、例えば、1,000MPa以下、900MPa以下、800MPa以下、700MPa以下、又は600MPa以上であってよい。
【0038】
弾性部材を構成する材料は、好ましくは例えば、
-30℃における弾性係数が100MPa以上であり、且つ80℃における弾性係数が-30℃における弾性係数の75%以下であってよく、又は
-30℃における弾性係数が200MPa以上であり、且つ80℃における弾性係数が-30℃における弾性係数の65%以下であってよい。
【0039】
弾性部材の弾性係数は、具体的には例えば、電池積層体のサイズ、膨張収縮の程度、弾性部材の厚さ等に応じて、適宜に設定されてよい。-30℃において特定の弾性係数を示す材料が、80℃においてどのような範囲の弾性係数を示せば、本実施形態における弾性部材として好適であるかは、例えば、以下の考察によって知ることができる。
【0040】
例えば、特定の構成を有する放電状態の電池積層体、及び特定の厚さを有する弾性部材から成る積層体が、拘束部材によって拘束されて、-30℃において最低限必要な拘束荷重が印加されている積層電池モジュールを想定する。このときの弾性部材の、-30℃における弾性係数は、具体的な数値を想定する。そして、積層体の温度を放電状態のまま-30℃から80℃まで上昇させた場合の拘束荷重が、-30℃における拘束荷重と等しくなるような、弾性部材の弾性係数を求める。この値を、この積層電池モジュールに使用される弾性部材について、-30℃における弾性係数を上記の特定の値としたときの80℃における弾性係数の好適な下限値としてよい。
【0041】
次に、上記の積層電池モジュールについて、-30℃において充電状態としたときの積層体の拘束荷重を求める。そして、この積層体の温度を充電状態のまま-30℃から80℃まで上昇させた場合の拘束荷重が、-30℃における拘束荷重と等しくなるような、弾性部材の弾性係数を求める。この値を、この積層電池モジュールに使用される弾性部材について、-30℃における弾性係数を上記の特定の値としたときの80℃における弾性係数の好適な上限値としてよい。
【0042】
-30℃の弾性係数としての特定の値を少しずつ変化させながら、以上の計算を繰り返して行うことにより、特定の積層電池モジュールにおける特定厚さの弾性部材について、-30℃における弾性係数と、80℃における弾性係数との関係、即ち、-30℃における弾性係数に対する80℃における弾性係数の範囲(上限及び下限)を知ることができる。
【0043】
弾性部材は、例えば、ウレタン、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、クロロプレンゴム、シリコンゴム、ポリエステルエラストマー等から、-30℃から80℃まで温度の上昇に伴って弾性係数が低下する材料のうち、80℃における電池積層体の最低拘束荷重を-30℃における最低拘束荷重以上とすることができる材料から選択されてよく、更に、80℃における電池積層体の最大拘束荷重を-30℃における最大拘束荷重以下とすることができる材料から選択されてよい。特に好ましくはポリエステルエラストマーである。ポリエステルエラストマーは、例えば、ハードセグメント(例えば結晶相)とソフトセグメント(例えば非晶相)とを有していてよい。このようなポリエステルエラストマーの市販品としては、例えば、東レ・デュポン(株)製の品名「ハイトレル」等を例示できる。
【0044】
弾性部材は、気泡を内包しない中実体であってよい。
【0045】
弾性部材は、例えば、矩形平板状であってよい。弾性部材の矩形の大きさは、電気積層体の面方向の面積と同等であってよく、又はこれよりも大きくてよい。
【0046】
弾性部材は、一対のエンドプレート間に位置する。
【0047】
弾性部材は、例えば、電池積層体の中間位置、即ち例えば、電池積層体中で隣接する2つの単位電池の間に配置してもよく、電池積層体の端部とエンドプレートのうちの1枚との間に配置してもよい。更に、これらのうちの複数の箇所に、分割して配置してもよい。
【0048】
図1に、本実施形態の積層電池モジュールの一例の構造を示した。
【0049】
図1の積層電池モジュールは、
複数のラミネート電池11を含む電池積層体15、
電池積層体15の積層方向両端部に位置する一対のエンドプレート21と、一対のエンドプレート21を互いに締結するテンション保持部材22とを含む拘束部材20、及び
エンドプレート21のうちの1つと電池積層体15の積層方向両端部との間に位置する弾性部材30と
を含む。
【0050】
<電池積層体における各層の構成材料>
本実施形態の積層電池モジュールにおける電池積層体は、上記のとおり、負極集電体層、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、及び正極集電体層をこの順に有する単位電池を1個以上含む。これらの電池積層体を構成する各層は、それぞれ、公知の材料から構成されていてよい。以下に、電池積層体を構成する各層の構成材料についての非限定的な例を挙げる。
【0051】
[負極集電体層]
負極集電体層は、例えば、ステンレス(SUS)、Cu、Ni、Fe、Ti、Co、Zn等から成る箔であってよい。
【0052】
[負極活物質層]
負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含み、固体電解質、バインダー、導電材等を更に含有してよい。
【0053】
負極活物質層における負極活物質は、例えば、グラファイト、シリコン等の公知の負極活物質を適宜用いることができる。
【0054】
負極活物質層における固体電解質としては、硫化物系固体電解質を好適に使用することができ、具体的には例えば、Li2SとP2S5との混合物(混合質量比Li2S:P2S5=50:50~100:0、特に好ましくはLi2S:P2S5=70:30)を挙げることができる。
【0055】
負極活物質層におけるバインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)に代表されるフッ素原子含有樹脂等を使用することができる。
【0056】
負極活物質層における導電材としては、カーボンナノファイバー(例えば昭和電工(株)製のVGCF等)、アセチレンブラック等の公知の導電材を挙げることができる。
【0057】
[固体電解質層]
固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含み、好ましくは更にバインダーを含有してよい。
【0058】
固体電解質層における固体電解質としては、負極活物質層に使用できるものとして上述した材料を用いることができる。
【0059】
固体電解質層におけるバインダーとしてはブタジエンゴム(BR)が好適である。
【0060】
[正極活物質層]
正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含み、更に、固体電解質、バインダー、導電材等を含有してよい。
【0061】
正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム、三元系リチウム酸化物等の公知の正極活物質を適宜用いることができる。
【0062】
正極活物質層における固体電解質、バインダー及び導電材としては、それぞれ、負極活物質層に使用できるものとして上述した材料を適宜用いることができる。
【0063】
[正極集電体層]
正極集電体層を構成する材料としては、例えば、SUS、Ni、Cr、Au、Pt、Al、Fe、Ti、Zn等から成る箔を使用することができる。
【実施例】
【0064】
以下の実施例及び比較例において、各部材の弾性係数は、JIS K7181に準拠して、以下の条件にて測定した圧縮弾性係数である。
サンプル形状及びサイズ:50mm×50mm×10mmの矩形板状
測定荷重範囲:0MPa~25MPa
試験速度:0.06mm/分
【0065】
<実施例1>
正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、及び負極集電体層をこの順で有する全固体単位電池の複数を積層し、外装体内に封入して得られた、厚み8.54mmのラミネート電池を48個準備した。ラミネート電池の弾性係数、及びラミネート電池における各層の構成は以下のとおりである。
【0066】
[弾性係数]
充電率15%時
-30℃:1,790MPa
80℃:2,330MPa
充電率90%時
-30℃:1,790MPa
80℃:2,500MPa
【0067】
[各層の構成]
正極集電体層:Al箔
正極活物質層:三元系Li酸化物、固体電解質、及び導電助剤としての気相法炭素繊維を含む
固体電解質層:Li、P、及びSを含む
負極活物質層:炭素材料及び固体電解質を含む
負極集電体層:Cu箔
【0068】
厚み40mmの矩形板状の弾性部材を準備した。この弾性部材の材質としては、東レ・デュポン社製のポリエステルエラストマー「ハイトレル5557」を使用した。「ハイトレル5557」の弾性係数は、以下のとおりである。
-40℃:332MPa
-30℃:294MPa
-20℃:255MPa
0℃:207MPa
23℃:181MPa
80℃:118MPa
120℃:87MPa
【0069】
上記のラミネート電池及び弾性部材、並びにテンション保持部材を用いて
図1に示した構造の実施例用積層電池モジュール100を作製した。即ち、ラミネート電池11を48個積層して電池積層体15とし、その積層方向端部に弾性部材30を配置して得られた積層体を、2枚のエンドプレート21で挟んだ。これら2枚のエンドプレート21を、2本のテンション保持部材22のボルト連結によって積層体を挟んだ状態で固定して拘束部材20とし、充電率が60%のとき、25℃において20.0MPaの初期拘束荷重を印加した。得られた積層電池モジュール100における、弾性部材30とラミネート電池11との接触面積は15,900mm
2であった。エンドプレート21及びテンション保持部材22の材質は、それぞれ以下のとおりである。
エンドプレート:機械構造用炭素鋼S45C、厚み20mm
テンション保持部材:耐食Al合金A6061、直径9mm
【0070】
上記で作製した積層電池モジュール100について、温度-30℃~80℃、及び充電率15%~90%の範囲におけるモジュール全長及び拘束荷重の値を計算により求めた。これらの温度範囲及び充電率の範囲は、電池の通常の使用範囲を想定したものである。結果を
図2に示した。
【0071】
図2の四角形において、左下の点が-30℃及び充電率15%のとき、左上の点が-30℃及び充電率90%のとき、右下の点が80℃及び充電率15%のとき、並びに右上の点が80℃及び充電率90%のときを示す。
図2に示されたように、この積層電池モジュール100では、80℃における最低拘束荷重が-30℃における最低拘束荷重よりも大きく、且つ、80℃における最大拘束荷重が-30℃における最大拘束荷重よりも小さかった。
【0072】
<比較例1>
弾性部材を使用しなかった他は実施例1と同様にして、
図3に示した構造の比較例用積層電池モジュール110を作製した。
図3の積層電池モジュール110は、ラミネート電池11を48個積層して得られた電池積層体15を、2枚のエンドプレート21で挟み、これら2枚のエンドプレート21を、2本のテンション保持部材22のボルト連結によって連結して拘束部材20とし、この拘束部材20で電池積層体15を挟んだものである。
【0073】
初期拘束荷重は、充電率が60%、25℃において、24.0MPaとした。
【0074】
上記で作製した積層電池モジュール110について、温度-30℃~80℃、及び充電率15%~90%の範囲におけるモジュール全長及び拘束荷重の値を計算により求めた。結果を
図4に示した。
【0075】
図4に示されたように、この積層電池モジュール110では、80℃における最低拘束荷重が-30℃における最低拘束荷重よりも大きかったが、80℃における最大拘束荷重が-30℃における最大拘束荷重よりも大きかった。
【0076】
<実施例及び比較例の検討>
図4に示した比較例1の積層電池モジュールでは、80℃における最大拘束荷重が-30℃における最大拘束荷重よりも有意に大きく、この条件下で拘束部材に印加される荷重が過度に大きいことが分かった。
【0077】
これに対して、
図2に示した実施例1の積層電池モジュールでは、低温且つ低充電率の電池積層体に最低限必要な拘束荷重を与えることができるとともに、高温且つ高充電率のときの電池積層体の荷重が抑制されているから、大型の拘束部材を使用する必要なしに実用に供することができ、電池の小型化が可能であることが検証された。
【0078】
<参考例>
図5~
図7に、実施例1で使用した電池積層体について、弾性部材の厚さを変更した場合の、80℃における弾性係数と-30℃における弾性係数との好ましい関係の範囲をシミュレートした結果示すグラフを示した。
図5が弾性部材の厚さ30mmの場合、
図6が40mmの場合、及び
図7が50mmの場合である。
図5~7において、2つの実線で挟まれた領域が、-30℃における弾性係数と80℃における弾性係数との関係の好ましい範囲を示している。当業者は、これらの図を参照して、80℃における弾性係数及び-30℃における弾性係数を適宜に設定し、弾性部材を構成する材料を選択することができる。
【0079】
なお、弾性部材が複数の箇所に分割して配置されているとき、
図5~7における弾性部材の厚さは、分割配置された複数の弾性部材の厚さの合計値と考えてよい。
【符号の説明】
【0080】
11 ラミネート電池
15 全固体電池積層体
20 拘束部材
21 エンドプレート
22 テンション保持部材
30 弾性部材
100 積層電池モジュール
110 比較例1における積層電池モジュール