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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】吸着材集合体及びその製法並びに吸着法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/28 20060101AFI20220405BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20220405BHJP
   B01J 39/05 20170101ALI20220405BHJP
   B01J 39/07 20170101ALI20220405BHJP
   B01J 41/07 20170101ALI20220405BHJP
   B01J 45/00 20060101ALI20220405BHJP
   B01J 47/018 20170101ALI20220405BHJP
   B01J 47/127 20170101ALI20220405BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20220405BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
B01J20/28 A
B01J20/26 Z
B01J39/05
B01J39/07
B01J41/07
B01J45/00
B01J47/018
B01J47/127
C02F1/28 B
C02F1/42 D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017109819
(22)【出願日】2017-06-02
(65)【公開番号】P2018202317
(43)【公開日】2018-12-27
【審査請求日】2020-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000229818
【氏名又は名称】日本フイルコン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】309014001
【氏名又は名称】株式会社 染谷製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100220711
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 朗
(74)【代理人】
【識別番号】100082049
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敬一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敏文
(72)【発明者】
【氏名】染谷 周
(72)【発明者】
【氏名】染谷 拓
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-301732(JP,A)
【文献】特表2001-524017(JP,A)
【文献】特開昭54-155642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00 - 20/28
B01J 20/30 - 20/34
C02F 1/42
B01J 39/00 - 49/90
C02F 1/28
B01D 53/02 - 53/12
B01J 20/281
C08J 9/22
A23F 3/38
A23F 5/22
C22B 30/04
C22B 13/06
C22B 47/00
C22B 23/06
C22B 61/00
C22B 3/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状又は粉状の吸着材と、
吸着材を少なくとも部分的に包囲しかつポリエチレン樹脂が固化された三次元網目構造の樹脂構造体とを備え、
吸着材は、球形のエチレンジアミン含有キレート樹脂であり、
樹脂構造体は、流体が通過する間隙を有し表面が房状の区画壁と、区画壁により形成され、区画壁の房状表面に非接合又は非固着状態で吸着材が自由に遊動できる多数の可動領域とを備え、
球形の吸着材の径は、間隙の開口の径の最大値より大きいことを特徴とする吸着材集合体。
【請求項2】
粒状又は粉状の吸着材と、
吸着材を少なくとも部分的に包囲しかつポリエチレン樹脂が固化された三次元網目構造の樹脂構造体とを備え、
吸着材は、球形の陰イオン交換樹脂であり、
樹脂構造体は、流体が通過する間隙を有し表面が房状の区画壁と、区画壁により形成され、区画壁の房状表面に非接合又は非固着状態で吸着材が自由に遊動できる多数の可動領域とを備え、
球形の吸着材の径は、間隙の開口の径の最大値より大きいことを特徴とする吸着材集合体。
【請求項3】
吸着材の平均粒径は、20~200μmである請求項1又は2に記載の吸着材集合体。
【請求項4】
樹脂構造体は、多数の可動領域を形成する網状の区画壁を備え、
区画壁は、可動領域の外部から内部に流体を導入する間隙を備える請求項1又は2に記載の吸着材集合体。
【請求項5】
焼結体で形成される請求項1又は2に記載の吸着材集合体。
【請求項6】
吸着材に吸着される金属は、ヒ素、モリブデン、チタン、鉛、マンガン及びニッケルから選択される請求項1に記載の吸着材集合体。
【請求項7】
吸着材に吸着される物質は、カフェイン及びアセトアミノフェンから選択される請求項2に記載の吸着材集合体。
【請求項8】
球形のエチレンジアミン含有キレート樹脂又は陰イオン交換樹脂から選択される粒状又は粉状の複数の吸着材を、アルコール溶液に浸漬し膨張させた後、粉状、粒状又はペレット状の複数の熱可塑性樹脂としてのポリエチレン樹脂と混合して、吸着材混合物を形成する工程と、
熱可塑性樹脂の軟化点より高くかつ吸着材の融点より低い温度で吸着材混合物を加熱し、複数の熱可塑性樹脂を三次元的網目状に融着して、吸着材を少なくとも部分的に包囲する樹脂構造体を形成する工程と、
樹脂構造体を冷却固化する工程とを含み、
冷却固化された樹脂構造体は、流体が通過する間隙を有し表面が房状の区画壁と、区画壁により形成され、区画壁の房状表面に非接合又は非固着状態で吸着材が自由に遊動できる多数の可動領域とを備え、
球形の吸着材の径は、間隙の開口の径の最大値より大きいことを特徴とする吸着材集合体の製法。
【請求項9】
樹脂構造体を形成する工程は、熱可塑性樹脂の軟化点より高くかつ吸着材の融点より低い温度で吸着材混合物を加熱して、吸着材が収縮する工程を含む請求項8に記載の吸着材集合体の製法。
【請求項10】
樹脂構造体を形成する工程は、
吸着材混合物を型に挿入する工程と、
型内で吸着材混合物を90~180℃に加熱し熱可塑性樹脂を溶融し、焼結する工程とを含む請求項8に記載の吸着材集合体の製法。
【請求項11】
請求項1~7の何れか1項に記載の吸着材集合体を準備する過程と、
吸着材集合体の樹脂構造体の区画壁に設けられた間隙を通じて、可動領域の外部から内部に流入する流体が可動領域に動作可能に収容された吸着材の表面全体に接触する過程と、
流体に接触した吸着材が流体中の被処理物質を吸着する過程と、
可動領域の流体が間隙を通じて可動領域の内部から外部に流出する過程とを含むことを特徴とする吸着法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理流体中に含まれる有価物質及び有害物質を吸着する吸着材集合体及びその製法並びに吸着法に関連する。
【背景技術】
【0002】
近年、レアメタルのリサイクル技術が注目を集めている。稀有金属又は希少金属とも呼ばれるレアメタルは、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、パラジウム(Pd)、インジウム(In)等の非鉄金属及びランタン(La)、セリウム(Ce)等の希土類元素を指称する。レアメタルを産出できない国では、外国からの輸入に頼らざるを得ず、効率良く回収して再利用する技術の開発が急務である。
【0003】
メッキ工場、電子部品製造工場、金属精錬工場等の廃液中に溶解し又は含まれる金(Au)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等の有価金属の回収と再利用は、循環型社会の構築、持続可能な環境の実現に必要不可欠である。また、工場排水中に有害金属として含まれるヒ素(As)、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)等は水質汚濁防止法により排除基準値が定められており、適正な処理なしには排水を河川に放流できない。排水中に溶解する特定の貴金属、有価金属及び有害金属を効率よく除去しかつ回収して、除去回収作用の寿命が持続する金属捕捉技術が望まれる。
【0004】
溶液中に溶媒和する金属及び/又は錯体を形成して溶解する金属の回収及び除去技術として、例えばイオン交換樹脂、キレート樹脂等の金属吸着材に金属含有被処理液を通液して金属を捕捉させる技術が知られる。溶媒和とは、金属が電離した金属イオンと溶媒分子とが静電気力又は水素結合により結合し、金属が溶媒中に拡散した状態である。金属吸着材は、多数の微細孔を有する表面位置で吸着するか、又は金属吸着材内部に配合した吸着性物質により被処理液中の特定金属を吸着する。
【0005】
他方、粒状又は粉状のキレート樹脂及びイオン交換樹脂は、液体処理用途だけでなく、気体中の特定物質吸着除去にも使用できる。例えば、大気汚染原因物質の窒素酸化物、硫黄酸化物、ホルムアルデヒド等の除去、建材由来の揮発性有機化合物、ホルマリン、ホルムアルデヒド等の有害物質除去、工場排気中の有害又は有臭成分除去、防臭又は防毒マスクフィルタによる有害物質除去等、様々な用途に使用される。
【0006】
粒状又は粉状のキレート樹脂及びイオン交換樹脂は、被処理流体の処理量及び用途並びに処理装置の設置環境に応じて、容器充填によりあらゆる形状に変形して利用できる。また、粒径及び充填量を選択し、被処理物質の吸着率及び吸着速度を調整できる。
【0007】
しかし、キレート樹脂及びイオン交換樹脂の微細な粒状体又は粉状体は、容器充填の際、激しく舞い上がり飛散し、作業者は、粒状体又は粉状体を吸引し又は目に入れるおそれがある。また、容器充填後は、自己荷重、搬送時の振動、使用時の流体の流動又は圧力により、充填した粒状体又は粉状体の空隙が詰まり充填物全体が圧縮する。圧縮すると、流体の透過性が低下し処理量が著しく減少し、長時間使用により、目詰り及び閉塞が早期に生じる。更に、容器に充填した多数の粒状体又は粉状体は、互いに固定されていないため、処理流体と共に容器外部に流出し吸着特性が低下する。このため、粒状体又は粉状体充填物の圧縮防止のため、充填後は、運搬時の振動等、十分注意して取り扱う必要があった。また、処理速度を下げて粒状体又は粉状体の離脱流出を防止する必要があった。
【0008】
これに対し、吸着材粒子を熱可塑性樹脂粉体に融着固定した金属吸着性焼結体が知られる(引用文献1)。また、ポリマー系吸着剤と多孔質バインダとを備える成型体による気体有機物除去技術が知られる(引用文献2)。何れも吸着材をバインダ樹脂に融着固定するため高強度であり、空隙を製造時の状態に維持できる。このため、振動、圧力又は長期使用によっても吸着材間の空隙容積が縮小しない。
【0009】
図11は、ほぼ球形の多数の吸着材51を固定した従来の吸着材集合体60を概略示する。吸着材集合体60は、被処理流体中の金属等の特定物質を吸着する吸着材51と、吸着材51を固定する樹脂構造体52と、樹脂構造体52間に形成されかつ被処理流体が通過する空間53とを備える。樹脂構造体52には、複数の空間53同士を流体接続する間隙52aを備え、間隙52aを通り流体が空間53に導入され吸着材51と接触する。
【0010】
図11の吸着材集合体60の製法では、最初に、ほぼ球形のキレート樹脂又はイオン交換樹脂吸製の吸着材51と熱可塑性のバインダ樹脂とを混合する。吸着材51は乾燥状態である。次に、その混合物をバインダ樹脂が十分溶解する温度で加熱し、吸着材51と樹脂構造体52とを接合部51aを通じて強固に融着する。
【0011】
図11の吸着材集合体60は、吸着材51を樹脂構造体52に完全に固定するため、被処理流体を高速処理しても吸着材51が吸着材集合体60から処理流体と共に離脱しない。しかし、吸着材集合体60の吸着材51は、樹脂構造体52との接合部51aを有する。接合部51aは、吸着の損失となるデッドスペース(無吸着領域)を形成し、流体との接触面積を著しく減少するため、図11の吸着材集合体60では吸着性能が明らかに低下する。
【0012】
これに対し、図12の吸着材集合体60’のように、吸着材51を増量し空間53に吸着材51を高密充填して固定すれば、接触面積減少の前記課題を改善できる。この場合、使用初期は高吸着能を維持するが、次第に圧力損失が増加し、目詰まりが早期に生じて処理速度が急激に低下する。従って、吸着材と樹脂構造体との接合部に起因する吸着能低下が発生せずかつ処理速度を安定的に維持できる新たな吸着材集合体が望まれる。
【0013】
また、図11及び図12に示す吸着材51が樹脂構造体52に固着された吸着材集合体60,60’では、吸着材51が接合部51aを通じて固定状態を維持するため、再利用前に、洗浄流体を逆方向に高速流動しても、吸着材51細部に侵入して吸着した有価又は有害物質の脱着が困難である。また、図12の吸着材集合体60’では、複数の吸着材51間の間隙や細部に、酸又はアルカリ洗浄液が十分に浸透せず、十分な量の有価金属を回収できないおそれもある。この場合、吸着材集合体60,60’の焼却が唯一の有価金属回収手段となり、焼却工程及び新たな吸着材集合体購入のコストが増加する。従って、有害及び有価物質の脱着が容易で再利用可能な吸着材集合体の開発が望まれる。
【0014】
更に、図11及び図12の吸着材集合体60,60’では、吸着材51と樹脂構造体52とが固着が不十分であると、長期間の使用により、吸着材51が間隙52aから樹脂構造体52間を離脱流出55するおそれがある。吸着材51が離脱流出55すると吸着性能が低下すると共に、処理流体に吸着材51が混入し好ましくない。また、処理流体には、吸着材51と共に、吸着材51に吸着された有害金属が流出するおそれもある。従って、吸着材が樹脂構造体から離脱流出しない吸着材集合体を形成する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2010-254841公報
【文献】特開平11-147983公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで本発明は、被処理流体中に含有する被処理物質を効率良く吸着し、吸着性能を長期間持続する吸着材集合体及びその製法並びに吸着法を提供することを目的とする。また、樹脂構造体の可動領域に遊動可能に吸着材を収容する構造により、吸着性能及び処理速度を向上しかつ維持する吸着材集合体及びその製法並びに吸着法を提供することを目的とする。また、吸着材が樹脂構造体から離脱しない吸着材集合体及びその製法並びに吸着法を提供することを目的とする。更に、本発明は、吸着材から容易に吸着物質を分離する再利用可能な吸着材集合体及びその製法並びに吸着法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の吸着材集合体(10)は、粒状又は粉状の吸着材(1)と、吸着材(1)を少なくとも部分的に包囲しかつポリエチレン樹脂が固化された三次元網目構造の樹脂構造体(2)とを備える。吸着材(1)は、球形のエチレンジアミン含有キレート樹脂、又は球形の陰イオン交換樹脂であり、樹脂構造体(2)は、流体が通過する間隙(2a)を有し表面(2c)が房状の区画壁(4)と、区画壁(4)により形成され、区画壁(4)の房状表面(2c)に非接合又は非固着状態で吸着材(1)が自由に遊動できる多数の可動領域(3)とを備える。球形の吸着材(1)の径(1d)は、間隙(2a)の開口(2b)の径(1d)の最大値より大きい。
【0018】
吸着材集合体(10)の樹脂構造体(2)は、三次元網目構造を形成し、吸着材(1)は、樹脂構造体(2)に固定されずに遊動可能に可動領域(3)に収容される。即ち、吸着材(1)は、可動領域(3)を自由に遊動できるため、被処理流体を吸着材集合体(10)に通液又は通気すると、樹脂構造体(2)に固定されない吸着材(1)は、球状の全吸着面で被処理流体に接触するので、接合部(51a)を有する従来の吸着材集合体(60,60’)に比べ、無吸着領域が無く格段に吸着面積が増加し吸着効率を向上できる。
【0019】
可動領域(3)では、従来の吸着材集合体(60’)と異なり、吸着材(1)を緊密充填せず、比較的大きい自由空間にて吸着材(1)が流動できるため、吸着材集合体(10)に流体が通過するとき、圧力損失が増加せず、樹脂構造体(2)の間隙(2a)の目詰り及び可動領域(3)の目詰りが発生し難く、長期間継続的に流体中の被吸着物質を吸着できる。更に、吸着材(1)が可動領域(3)を自由に流動するため、吸着材(1)が捕捉した有価物質の脱着が容易である。吸着及び脱着を繰り返し使用しても劣化せず、高吸着能を有する吸着材集合体(10)を何度も再利用できる。吸着材(1)は、可動領域(3)を自由に流動するが、樹脂構造体(2)により包囲されるため、吸着材(1)の外部への流出を防止できる。
【0020】
本発明の吸着材集合体(10)の製法は、球形のエチレンジアミン含有キレート樹脂又は陰イオン交換樹脂から選択される粒状又は粉状の複数の吸着材(1)を、アルコール溶液に浸漬し膨張させた後、粉状、粒状又はペレット状の複数の熱可塑性樹脂(2)としてのポリエチレン樹脂と混合して、吸着材混合物を形成する工程と、熱可塑性樹脂(2)の軟化点より高くかつ吸着材(1)の融点より低い温度で吸着材混合物を加熱し、複数の熱可塑性樹脂(2)を三次元的網目状に融着して、吸着材(1)を少なくとも部分的に包囲する樹脂構造体(2)を形成する工程と、樹脂構造体(2)を冷却固化する工程とを含む。冷却固化された樹脂構造体(2)は、流体が通過する間隙(2a)を有し表面(2c)が房状の区画壁(4)と、区画壁(4)により形成され、区画壁(4)の房状表面(2c)に非接合又は非固着状態で吸着材(1)が自由に遊動できる多数の可動領域(3)とを備え、球形の吸着材(1)の径(1d)は、間隙(2a)の開口(2b)の径(2d)の最大値より大きい。
【0021】
熱可塑性樹脂の軟化点より高温かつ吸着材(1)の融点より低温により、吸着材混合物を加熱するため、熱可塑性樹脂のみ溶融し、吸着材(1)は溶融しない。これにより、粉状、粒状又はペレット状の熱可塑性樹脂同士が三次元的に融着し、吸着材(1)を収容する可動領域(3)を備える樹脂構造体(2)を形成できる。
【0022】
本発明の吸着法は、前記吸着材集合体(10)を準備する過程と、吸着材集合体(10)の樹脂構造体(2)の区画壁(4)に設けられた間隙(2a)を通じて、可動領域(3)の外部から内部に流入する流体が可動領域(3)に動作可能に収容された吸着材(1)の表面全体に接触する過程と、流体に接触した吸着材(1)が流体中の被処理物質を吸着する過程と、可動領域(3)の流体が間隙(2a)を通じて可動領域(3)の内部から外部に流出する過程とを含む。本発明では、前記流入、接触、吸着及び流出の各過程を可動領域(3)にて実行した後、他の可動領域(3)でも流入、接触、吸着及び流出の各過程を同様に繰り返す。これにより、流体と動作可能な吸着材(1)とは、複数の可動領域(3)で何度も接触し、流体中の被処理物質を大量かつ高効率に吸着捕捉できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、吸着材が樹脂構造体との接合部を有さないため、充填した吸着材が被処理物質を効率良く吸着し吸着性能を長期間持続できる。また、吸着材が遊動するため、圧力損失が上昇せず所定の処理速度を維持でき、安定的かつ連続的な処理運転を可能にする。有価物質又は有害物質を吸着材から容易かつ安価に脱着でき、何度も再利用できるため吸着材交換を必要とせず、処理コストを大幅に低減できる。更に、高速処理しても吸着材が流出せず、常に安全な処理流体が安定的に得られ、高吸着性能を長期間維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明による吸着材集合体を示す部分概略断面図
図2】原料樹脂を示す電子顕微鏡写真
図3】本発明による吸着材集合体の製法を示す概略断面図
図4】本発明による吸着材集合体の製法を示す概略断面図
図5】本発明による吸着材集合体を示す電子顕微鏡写真
図6】本発明による吸着材集合体を拡大した電子顕微鏡写真
図7】吸着試験装置を示す概略図
図8】吸着材が遊動する状態を示す概略断面図
図9】吸着材が遊動する状態を示す概略断面図
図10】通液試験による金属吸着率の結果を示すグラフ
図11】従来の吸着材集合体を示す部分概略断面図
図12】従来の吸着材集合体を示す部分概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明による吸着材集合体及びその製法並びに吸着法の実施の形態を図1図10について以下説明する。図1図3図4図8及び図9は、発明の理解を容易にするため、各構成要素を概略的にかつ簡略化して本発明の吸着材集合体(10)を示す。
【0026】
図1に示す本発明による吸着材集合体(10)は、粒状又は粉状材料で形成されたほぼ球形の吸着材(1)と、吸着材(1)を少なくとも部分的に包囲する樹脂構造体(2)とを備える。吸着材(1)は、液体又は気体中に含まれる特定の被吸着物質を選択的に吸着捕捉でき、エチレンアミンを含有するキレート樹脂、並びにアミン、スルホン酸及びカルボン酸を少なくとも1種含有するイオン交換樹脂の1又は2以上から選択される。吸着材(1)のエチレンアミン、アミン、スルホン酸及びカルボン酸は、親水基であるため、疎水性の樹脂構造体(2)の樹脂とは融着が比較的困難である。吸着材(1)により吸着可能な金属は、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ヒ素、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、ハフニウム、タングステン、レニウム、白金、金、鉛、ランタノイド系列及びアクチノイド系列から選択される1又は2以上の金属である。
【0027】
キレート樹脂のエチレンアミンは、エチレンジアミン(H2NC24NH2)、ジエチレントリアミン(H(NHC24)2NH2)、トリエチレンテトラミン(H(NHC24)3NH2)、テトラエチレンペンタミン(H(NHC24)4NH2)、ペンタエチレンヘキサミン(H(NHC24)5NH2)、テトラエチレントリアミン(C8173)及びエチレンイミン(第二級アミン)(NHCH2CH2)並びにその誘導体の1又は2以上から選択される。アミン、スルホン酸及びカルボン酸を少なくとも1種含有するイオン交換樹脂は、強酸性、弱酸性、強塩基性及び弱塩基性のイオン交換樹脂の1又は2以上を含み、具体的には、エチレンジアミン、ジメチルアミノエタノール((CH3)2NCH2CH2OH)、コハク酸(HOOC(CH2)2COOH)、酢酸、硫酸及びそれらの官能基の1又は2以上を含む。
【0028】
樹脂構造体(2)は、網状に形成された区画壁(4)により、吸着材(1)を遊動可能に収容し又は封入する多数の可動領域(3)を形成する。図1の実施の形態では、各可動領域(3)に1個及び2個の吸着材(1)を収容するが、遊動できる限り、3個以上の吸着材(1)を各可動領域(3)に収容してもよい。樹脂構造体(2)は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びエチレン酢酸ビニル(EVA)共重合体から選択される1又は2以上の熱可塑性樹脂を含む。熱可塑性樹脂を使用するため、加熱により、用途に応じて吸着材集合体(10)の形状を容易に変形できる。
【0029】
樹脂構造体(2)は、多数の可動領域(3)同士を流体接続しかつ被処理流体が通過する間隙(2a)を区画壁(4)に備える。間隙(2a)は、複数樹脂同士が融着していない隙間又は空間であり、図1では、区画壁(4)を貫通するほぼ直線形状の複数の間隙(2a)を概略示する。間隙(2a)により被処理流体の通液性及び通気性を向上すると共に、樹脂構造体(2)間の可動領域(3)に存在する吸着材(1)に被処理流体が効率良く接触して、被処理物質を有効に吸着できる。また、間隙(2a)は、樹脂構造体(2)の区画壁(4)に形成された多数の貫通孔でもよい。
【0030】
吸着材(1)は、間隙(2a)の開口(2b)の径(2d)の最大値より大きい粒径(1d)を有する。流体は樹脂構造体(2)の間隙(2a)を通過するが、吸着材(1)は開口(2b)の径(2d)を通過できない。このため、被処理流体を吸着材集合体(10)に通すとき、吸着材(1)は、可動領域(3)で自由に遊動しても、可動領域(3)内に保持され、他の可動領域(3)又は吸着材集合体(10)外部に流出しない。吸着材(1)が流出しないため、長期間使用しても吸着材集合体(10)の吸着能は低下しない。また、吸着材(1)に吸着した有害又は有価金属が吸着材(1)と共に可動領域(3)から流出することを防止できる。
【0031】
本発明の実施の形態では、樹脂構造体(2)の吸着材(1)と対向する表面(2c)は、房状、凹凸状又は起伏状に形成される。即ち、平面状に形成されない。これにより、樹脂構造体(2)は、吸着材(1)に対し面接触ではなく点接触するため、樹脂構造体(2)と吸着材(1)との密着又は固定を防止すると共に、可動領域(3)での吸着材(1)の自由な遊動、回転又は振動を促進する。樹脂構造体(2)の表面(2c)を多孔質状に形成してもよい。
【0032】
吸着材集合体(10)を焼成体又は焼結体として形成できる。これにより、吸着材集合体(10)を高強度に維持できる。また、振動及び圧力を受けて長期間使用しても、樹脂構造体(2)が損壊せず、可動領域(3)を崩壊又は縮小せずに製造時の形状及び空間容積を維持するので、通気性又は通液性を長期間安定的に維持できる。
【0033】
次に、本発明による吸着材集合体(10)の製法の実施の形態を図2図6を参照して説明する。
【0034】
最初に、キレート樹脂又はイオン交換樹脂から成るほぼ球形の吸着材原料をアルコールに浸漬し十分に膨潤させ、-30kPa以下で減圧濾過し余分なアルコールを除去する。次に、風乾等により乾燥減量が10%以下となるように吸着材(1)を調製する(膨潤度は1より大きい)。調製した粒状又は粉状のほぼ球形の複数の吸着材(1)と、粉状、粒状又はペレット状の複数の熱可塑性樹脂とをほぼ均一になるまで混合し吸着材混合物を形成する。吸着材(1)は、平均粒径20~200μmの範囲に分級して使用される。平均粒径が20μm未満では、樹脂構造体(2)の間隙(2a)から吸着材(1)が流出する。平均粒径が小さ過ぎると、取扱いが困難であると共に、通液及び通気抵抗が増加し処理効率が早期に悪化する。平均粒径が200μmを超えると、被処理流体との接触面積が減少し処理効率が低下する。本実施の形態に使用する粉状熱可塑性樹脂のポリエチレン表面を電子顕微鏡写真により示す(図2)。ポリエチレン樹脂の表面(2c)は、図2の通り、複数の房状物の集合体である。
【0035】
次に、吸着材混合物を、例えば型に挿入し、熱可塑性樹脂の軟化点より高くかつ吸着材(1)の融点より低い温度で加熱する。具体的には、吸着材混合物を90~180℃に加熱し、熱可塑性樹脂のみ溶融して焼結する。吸着材(1)の融点は、熱可塑性樹脂の軟化点より20℃以上高温であるため、吸着材(1)は溶融しない。このとき、熱可塑性樹脂は内部まで完全には溶融せず、表面のみ溶融し、吸着材(1)を包囲した状態で複数の熱可塑性樹脂を三次元的網目状に融着固定する。これにより、吸着材(1)が自由に動く可動領域(3)を備えた樹脂構造体(2)が形成される。また、図2の通り、熱可塑性樹脂は、房状表面を有するため、加熱溶融の際、面結合せず、互いに点結合して、樹脂間を結合する結合部と結合の無い空隙部とが複雑に絡み合う三次元的な融着形状を形成する。この空隙部は、最終的に、流体が通過する樹脂構造体(2)の間隙(2a)となる。
【0036】
吸着材(1)の膨潤度は1より大きく2以下であり、好ましくは、1.1~1.8である。膨潤度とは、物質が液体を吸収する前後の体積の変化率で表される物質固有の値である。熱可塑性樹脂の軟化点より高くかつ吸着材(1)の融点より低い温度で吸着材混合物を加熱すると、熱可塑性樹脂が溶融して樹脂構造体(2)の区画壁(4)が吸着材(1)に接近して形成される(図3)。接近するが、区画壁(4)の表面(2c)と吸着材(1)とは固着していない。区画壁(4)に接近して配置された例えば膨潤度1.8で水又はアルコールを含有する吸着材(1)は、加熱により徐々に水分又はアルコール分を失い膨潤度1の体積まで収縮(S)するまで徐々に区画壁(4)から離間する。最終的には、収縮(S)して小型化した吸着材(1)と区画壁(4)との距離(L)がある程度有し、吸着材(1)が遊動できる隙間として可動領域(3)を形成する(図4)。即ち、吸着材(1)は、加熱による自己収縮(S)により、自らが動く空間を確保する。また、吸着材(1)を加熱したとき、水又はアルコールを含有する吸着材(1)は水分又はアルコール分を蒸発するため、吸着材(1)の表面温度が加熱温度に比べ低下し、対向する熱可塑性樹脂の近接部分(2f)の表面温度も低下して、熱可塑性樹脂の近接部分(2f)の溶融を阻害し、これにより吸着材(1)との固着も阻害する。また、親水性の吸着材(1)と疎水性の熱可塑性樹脂とは、その低親和性及び低結合性により、互いに結合の相性が悪く反発し合い結着しない。従って、吸着材(1)と樹脂構造体(2)とは、互いに固着せず分離する。
【0037】
最後に、樹脂構造体(2)を冷却固化し、図5及び図6の電子顕微鏡写真に示す本発明の吸着材集合体(10)が得られる。図6の拡大写真より、球状の吸着材(1)は、溶融せずに原形を維持して白色房状の樹脂構造体(2)間の可動領域(3)に動作可能に収容される。また、樹脂構造体(2)の房状表面(2c)と吸着材(1)とは、非接合状態であることが図6から分かる。更に、複数の房状表面(2c)の樹脂構造体(2)は、流体が通過する間隙(2a)を有しながら互いに融着し、吸着材(1)を少なくとも部分的に包囲する樹脂構造体(2)の区画壁(4)を形成する。図6の房状区画壁(4)間に球形吸着材(1)が配置された図6の写真の暗い部分は、可動領域(3)を表す。以上の構成より、本発明の吸着材集合体(10)は、吸着材(1)の吸着能力を損なわず、低圧力損失で通液及び通気できる作用効果が得られる。
【0038】
前記実施の形態では、粒状又は粉状材料のほぼ球形の吸着材(1)を例示したが、繊維状の吸着材も使用できる。
【0039】
以下、被処理液中に溶媒和する金属及び/又は錯体形成して溶解する金属の吸着に本発明の吸着法を適用した実施の形態を図7図9により説明する。
【0040】
図7では、吸着材集合体(10)を内部に配置した筒状の吸着試験装置(20)を示す。例えば、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ヒ素、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、ハフニウム、タングステン、レニウム、白金、金、鉛、ランタノイド系列、アクチノイド系列から選択される1又は2以上の金属成分を含有する被処理液(15)を空間速度5~500h-1で吸着試験装置(20)に通液する。吸着材集合体(10)により金属を吸着し、吸着後の液体を処理液(16)とする。吸着材集合体(10)の吸着材(1)として、エチレンアミンを含むキレート樹脂を用いる。
【0041】
通液された被処理液体(15)は、図8に示す吸着材集合体(10)の区画壁(4)に設けられた間隙(2a)を通り、可動領域(3)の外部から内部に流入したとき、可動領域(3)に収容された吸着材(1)と接触してキレート樹脂により金属成分を吸着する。吸着材(1)は、被処理液体(15)により若干膨潤するが、樹脂構造体(2)に非固着状態で可動領域(3)を自由に動くため、被処理液体(15)は、吸着材(1)の球面全体と均等に接触する。
【0042】
吸着材(1)が間隙(2a)の開口(2b)を閉塞しそうな状況(図8)でも、吸着材(1)は、可動領域(3)を自由に移動するため、被処理液体(15)の流れにより、例えば図9のように吸着材(1)は移動可能(17)である。即ち、吸着材(1)は、樹脂構造体(2)に固定されていないため、一定の場所に留まらず、開口(2b)を閉塞せずに間隙(2a)の流路を確保する。また、吸着材(1)が間隙(2a)付近に配置されて間隙(2a)の開口(2b)から流出しそうな状況でも、吸着材(1)の径(1d)は、間隙(2a)の開口(2b)の径(2d)の最大値より大きいため、吸着材(1)が可動領域(3)から間隙(2a)を通り離脱することは無い。
【0043】
可動領域(3)の被処理液体(15)は、間隙(2a)を通じて可動領域(3)の内部から外部に流出する。被処理液体(15)が可動領域(3)に流入する限り、図8及び図9の通り、吸着材(1)は停止せず流動するため、吸着材(1)に金属を吸着しても、可動領域(3)及び間隙(2a)を閉塞せず、吸着材集合体(10)の圧力損失が上昇しない。本発明の吸着材集合体(10)では、比表面積を十分確保して吸着性能を低下せずに連続運転でき、十分な量の金属を吸着材(1)の全表面に吸着できる。吸着した金属は、吸着材(1)の遊動により、全表面から酸等の洗浄剤で容易に脱着して、有価金属を回収できる。また、吸着材(1)表面に吸着した有害金属を同様に除去できる。
【0044】
前記実施の形態では、被処理液中に溶媒和する金属及び/又は錯体形成して溶解する金属の吸着法の実施の形態を示したが、液体の金属処理に限定されず、例えば、被処理気体中の有害物質除去にも本発明による吸着法を適用できる。
【実施例
【0045】
本発明の吸着材集合体(10)について通液試験を行った実施例を以下説明する。吸着材(1)としてエチレンジアミン含有キレート樹脂を用いた(第1の実施例)。
【0046】
<第1の実施例>
[吸着材集合体(10)焼結体(実施例1)の製造]
最初に、エチレンジアミン含有キレート樹脂30部をアルコール溶液に浸漬し約1.2倍に膨潤させた後、熱可塑性樹脂として粉状ポリエチレン樹脂(重合度:約18万)70部と混合し吸着材混合物を形成した。吸着材混合物を型に挿入し約125℃で加熱しポリエチレン樹脂を溶融した。更に冷却固化し本発明の吸着材集合体(10)の焼結体(実施例1)を製造した(図5及び図6)。
【0047】
[吸着材集合体(60)焼結体(比較例1)の製造]
乾燥したエチレンジアミン含有キレート樹脂30部と粉状ポリエチレン樹脂(重合度:約18万)70部とを混合し吸着材混合物を形成した。吸着材混合物を型に挿入し約125℃で加熱しポリエチレン樹脂を溶融した。更に冷却固化し従来技術の吸着材集合体(60)の焼結体(比較例1)を製造した。
【0048】
[通液試験の方法]
得られた吸着材集合体(10)の焼結体(実施例1)を図7の吸着試験装置(20)に充填し、空間速度約300h-1に調整して、既知の金属濃度[mg/l]の被処理液体(15)100mlの通液試験を行った。被処理液体(15)のpH値を2、3、4、5、6、7、8及び9として一金属につき8回通液試験を行い、通液後の処理液体(16)の金属濃度[mg/l]を各々測定した。
【0049】
他方、従来の吸着材集合体(60)の焼結体(比較例1)を図7の吸着試験装置(20)に充填し、空間速度約300h-1に調整して、既知の金属濃度[mg/l]の被処理液体(15)100mlの通液試験を行った。前記同様に、被処理液体(15)のpH値を2、3、4、5、6、7、8及び9として一金属につき8回通液試験を行い、通液後の処理液体(16)の金属濃度[mg/l]を各々測定した。
【0050】
実施例1及び比較例1について、ヒ素、モリブデン、チタン、鉛、マンガン及びニッケルの吸着率の結果をそれぞれ図10の(a)~(f)のグラフに示す。図10の横軸はpH値を示し、縦軸は吸着率[%]を示す。処理液体(16)の金属濃度を被処理液体(15)の金属濃度で除した値の百分率を吸着率[%]とした。
【0051】
図10(a)~(f)の各グラフに示す通り、全金属元素について、比較例1に比べ実施例1が高吸着率を示した。特に、モリブデン(b)及びチタン(c)は、pH2~9の広範囲で実施例1の吸着率が比較例1を大きく上回った。ヒ素(a)は、pH4~9の範囲で実施例1の吸着率が比較例1より高い。マンガン(e)は、pH2~7の範囲で実施例1の吸着率が比較例1より高い。また、pH3~9の範囲では、実施例1のマンガン吸着率がほぼ100%であった。鉛(d)及びニッケル(f)のpH2では、実施例1の吸着率が比較例1を大きく上回った。鉛(d)及びニッケル(f)に対する実施例1では、pH2~9の広範囲で高吸着率を示し、特に、実施例1による鉛(d)の吸収率は、ほぼ100%であった。
【0052】
以上より、本発明の吸着材集合体(10)の焼結体(実施例1)は、同一量のエチレンジアミン含有キレート樹脂を使用した従来の吸着材集合体(60)の焼結体(比較例1)に比べ、吸着能力を顕著に改善できた。即ち、本発明の吸着材集合体(10)は、吸着材(1)と樹脂構造体(2)とが結着せず(図5及び図6)、吸着材(1)の全表面により金属吸着するため、従来の吸着材集合体(60)に比べ、高い吸着性能を発揮できると確認できた。
【0053】
次に、吸着材(1)としてイオン交換樹脂を用いた第2の実施例を説明する。
【0054】
<第2の実施例>
[吸着材集合体(10)イオン交換樹脂焼結体(実施例2)の製造]
アルコール溶液に浸漬し約1.6倍に膨潤させた陰イオン交換樹脂(吸着材(1))25部と、熱可塑性樹脂として粉状ポリエチレン樹脂(重合度:約18万)25部とを混合した吸着材混合物を、振動する焼結用金型のキャビティに充填した。吸着材混合物を充填した金型を125℃の恒温槽中で加熱焼結した。恒温槽から金型を取り出し冷却固化し、円柱形状の吸着材集合体(10)のイオン交換樹脂焼結体(実施例2)を製造した。
【0055】
[比較例2の製造]
熱可塑性樹脂を含有せずかつ未焼結の陰イオン交換樹脂のみの比較例2を準備した。
【0056】
[流速試験方法及び結果]
実施例2のイオン交換樹脂焼結体と、それと同量の未焼結陰イオン交換樹脂(比較例2)とをそれぞれカートリッジに挿入し、-30kPaの減圧下、純水を通水し流速試験をした。この結果、実施例2及び比較例2では、それぞれ32ml/分及び31ml/分であった。本発明による実施例2は、未焼結の比較例2と比べ同等以上の流速で処理でき、イオン交換樹脂が樹脂に固着せず可動領域(3)を閉塞せず、液体流動領域の十分な確保を確認できた。
【0057】
[実施例2の吸着試験方法及び結果]
本発明の吸着材集合体(10)を用いたイオン交換樹脂焼結体(実施例2)を充填した図7の試験装置(カートリッジ)(20)に、酢酸アンモニウム溶液により希釈したカフェイン溶液(5μg/ml)(15)10mlを被処理液として流量5、10、20及び30ml/分で通液した。また、酢酸アンモニウム溶液により希釈したアセトアミノフェン溶液(5μg/ml)(15)10mlを被処理液として流量5、10、20及び30ml/分で通液した。通液後のカートリッジをメタノール溶出させカフェイン及びアセトアミノフェンの濃度をそれぞれ測定した。測定濃度を被処理液(15)濃度で除した値の百分率[%]を回収率とし、結果を下表に示す。尚、回収率100%を超える数値は、試験の誤差であり妥当な数値である。
【0058】
【表1】
【0059】
表1より、流量5~30ml/分の全流量範囲でカフェイン及びアセトアミノフェンの回収率が95%を超えた。即ち、吸着材(1)としてイオン交換樹脂を用いた本発明の吸着材集合体(10)でも、被吸着物質の高い吸着特性による高回収率を実現できた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の吸着材集合体及びその製法並びに吸着法は、レアメタル及び有価金属のリサイクル、工場排水処理、飲料水製造、純水製造、地下汚染水浄化、大気汚染浄化、工場排気処理、防臭又は防毒フィルタにも適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
(1)・・吸着材、 (2)・・樹脂構造体、 (2a)・・間隙、 (2b)・・開口、 (2c)・・表面(2c)、 (3)・・可動領域、 (10)・・吸着材集合体、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12