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特許7053172固形分を含む溶液の精製方法及びその装置
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  • 特許-固形分を含む溶液の精製方法及びその装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】固形分を含む溶液の精製方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20220405BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20220405BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20220405BHJP
   A23L 2/72 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
A23L2/00 A
A23L2/02 E
A23L2/02 A
A23L2/38 J
A23L2/72
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017117877
(22)【出願日】2017-06-15
(65)【公開番号】P2019000042
(43)【公開日】2019-01-10
【審査請求日】2020-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000176752
【氏名又は名称】三菱化工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 翔
(72)【発明者】
【氏名】小要 広行
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信行
(72)【発明者】
【氏名】西 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】澤田 隆郁
(72)【発明者】
【氏名】大森 一樹
(72)【発明者】
【氏名】作田 周哉
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-086653(JP,A)
【文献】米国特許第06534107(US,B1)
【文献】特開昭61-111673(JP,A)
【文献】特開平11-225720(JP,A)
【文献】特表2010-520743(JP,A)
【文献】特開平10-271980(JP,A)
【文献】特表平06-503480(JP,A)
【文献】特表平08-506733(JP,A)
【文献】特開平02-156875(JP,A)
【文献】特開2011-045332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分を含む溶液の精製装置であって、
前記固形分を含む溶液が、野菜飲料、果汁飲料及び穀物搾汁よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記固形分を含む溶液を、固形分の多い濃縮液とろ液とに分離する分離手段、
前記ろ液に、活性炭を用いて、精製処理を施す精製手段、及び
前記精製処理が施されたろ液と前記濃縮液とを混合する混合手段
を備え、
一般式1:濃縮比率=(回収したろ液質量+濃縮液質量)÷濃縮液質量
で計算した場合、前記分離手段において生成される濃縮液において、固形分の濃縮比率が4以上である、精製装置。
【請求項2】
精製された固形分を含む溶液の製造方法であって、
前記固形分を含む溶液が、野菜飲料、果汁飲料及び穀物搾汁よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記固形分を含む溶液を、固形分の多い濃縮液とろ液とに分離する分離工程、
前記ろ液に、活性炭を用いて、精製処理を施す精製工程、及び
前記精製処理が施されたろ液と前記濃縮液とを混合する混合工程
を備え、
一般式1:濃縮比率=(回収したろ液質量+濃縮液質量)÷濃縮液質量
で計算した場合、前記分離工程において生成される濃縮液において、固形分の濃縮比率が4以上である、製造方法。
【請求項3】
固形分を含む溶液の精製方法であって、
前記固形分を含む溶液が、野菜飲料、果汁飲料及び穀物搾汁よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記固形分を含む溶液を、固形分の多い濃縮液とろ液とに分離する分離工程、
前記ろ液に、活性炭を用いて、精製処理を施す精製工程、及び
前記精製処理が施されたろ液と前記濃縮液とを混合する混合工程
を備え、
一般式1:濃縮比率=(回収したろ液質量+濃縮液質量)÷濃縮液質量
で計算した場合、前記分離工程において生成される濃縮液において、固形分の濃縮比率が4以上である、精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形分を含む溶液の精製方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康に対する関心の高まりから食物繊維の摂取に対する関心が高まっており、果汁飲料、野菜飲料においても清澄していないタイプの製品が多くなってきている。
【0003】
ところで、飲料の原料となる果汁や野菜には、本来の呈味、香気成分、ビタミン等の有用成分だけでなく、青臭さや刺激臭等好ましくない臭気や、カフェイン等の過剰に摂取することが好ましくない成分(不要成分)、不純物等が含まれており、これらを除去した製品化が必要とされている。また、場合によっては色等の低減も必要となることがある。液相中の臭いや夾雑成分、色の除去のためには、通常活性炭や活性白土、シリカゲル、イオン交換樹脂、脱色樹脂等の吸着剤が使用されるが、粉末状の吸着剤を使用する場合はろ過工程が必要となり、その際、飲料中の懸濁成分(有用成分)も同時に除かれてしまい、清澄な製品しか得られなくなる。また、破砕状、球状、ペレット状といった粒状の吸着剤を用いると、通液中に懸濁物質(有用成分)が粒子間に目詰まりしてしまい、処理の継続が困難になるという課題があった。このため、果汁飲料、野菜飲料から、実質的に有用成分を除去せずに臭気、不要成分、不純物のみを除去することは、本質的に困難であった。
【0004】
そこで、飲料の原料に他の成分を添加することにより風味、臭気を改善する(まぎらわせる)方法が提案されている。たとえば、エリスリトールを共存させることによる臭気のマスキング方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特に子供向けの菓子類に有臭野菜汁を利用するため、有香果実の果汁を加えてマスキングすることで嗜好性を改善する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。さらに青汁においては、特定品種の六条大麦の葉を用いて呈色性や風味を改善する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平09-224588号公報
【文献】特開2003-310168号公報
【文献】特開2014-230520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、提案されている方法ではマスキングのために別成分を添加することから本来の栄養バランス、風味が本来の組成と変わる可能性があるし、特許文献3に記載のような特定の材料を用いる呈色性、風味改善では検討のために多くの組合せによる検討が必要であり、せっかくの有用な飲料がなかなか商品として成立しえないという課題もあった。
【0007】
このため、本発明は、栄養バランス、風味等を損なわないために別成分を添加せずとも、固形分を含む溶液から臭気、不要成分、不純物等を取り除くための精製方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究を重ねてきた。その結果、固形分を含む溶液を、あらかじめ固形分の多い濃縮液とろ液とに分離し、ろ液を精製した後、精製したろ液と固形分の多い濃縮液とを混合することで、原料本来の固形分濃度を維持したまま、風味、嗜好性を改善した飲料製品を製造できることを見出した。本発明は、このような知見に基づきさらに研究を重ね完成させたものである。すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
項1.固形分を含む溶液の精製装置であって、
前記固形分を含む溶液を、固形分の多い濃縮液とろ液とに分離する分離手段、
前記ろ液に精製処理を施す精製手段、及び
前記精製処理が施されたろ液と前記濃縮液とを混合する混合手段
を備える、精製装置。
項2.一般式1:濃縮比率=(回収したろ液質量+濃縮液質量)÷濃縮液質量
で計算した場合、前記分離手段において生成される濃縮液において、固形分の濃縮比率が4以上である、項1に記載の精製装置。
項3.前記固形分を含む溶液が、野菜飲料、果汁飲料及び穀物搾汁よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1又は2に記載の精製装置。
項4.精製された固形分を含む溶液の製造方法であって、
前記固形分を含む溶液を、固形分の多い濃縮液とろ液とに分離する分離工程、
前記ろ液に精製処理を施す精製工程、及び
前記精製処理が施されたろ液と前記濃縮液とを混合する混合工程
を備える、製造方法。
項5.一般式1:濃縮比率=(回収したろ液質量+濃縮液質量)÷濃縮液質量
で計算した場合、前記分離手段において生成される濃縮液において、固形分の濃縮比率が4以上である、項4に記載の製造方法。
項6.前記固形分を含む溶液が、野菜飲料、果汁飲料及び穀物搾汁よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項4又は5に記載の製造方法。
項7.固形分を含む溶液の精製方法であって、
前記固形分を含む溶液を、固形分の多い濃縮液とろ液とに分離する分離工程、
前記ろ液に精製処理を施す精製工程、及び
前記精製処理が施されたろ液と前記濃縮液とを混合する混合工程
を備える、精製方法。
項8.一般式1:濃縮比率=(回収したろ液質量+濃縮液質量)÷濃縮液質量
で計算した場合、前記分離手段において生成される濃縮液において、固形分の濃縮比率が4以上である、項7に記載の精製方法。
項9.前記固形分を含む溶液が、野菜飲料、果汁飲料及び穀物搾汁よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項7又は8に記載の精製方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、栄養バランス、風味等を損なわないために別成分を添加せずとも、固形分を含む溶液中から、有用成分を除去することなく臭気、不要成分、不純物等を除去することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の処理フローの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明においては、
固形分を含む溶液を、固形分の多い濃縮液とろ液とに分離する分離工程、
前記ろ液に精製処理を施す精製工程、及び
前記精製処理が施されたろ液と前記濃縮液とを混合する混合工程
を施すことにより、栄養バランス、風味等を損なわないために別成分を添加せずとも、固形分を含む溶液中から、有用成分を除去することなく臭気、不要成分、不純物等を除去することができる。
【0012】
本発明において、原料として使用する固形分を含む溶液としては、様々な溶液が適用できるが、野菜飲料、果汁飲料、穀物搾汁等のように、飲用溶液に特に適している。野菜飲料の原料野菜としてはケール等の青菜類、トマト等の実、にんじん等の根菜類が挙げられ、果汁の原料果実としては、りんご、なし、みかん、パイナップル等が挙げられ、穀物搾汁の原料穀物としては稲、麦、小麦、トウモロコシ等が挙げられる。これらの溶液は、単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。これらの溶液の固形分含有量は特に限定されず、固形分を構成する粒子の大きさも、本発明の方法が、濃縮液とろ液を分離後ろ液を精製し濃縮液と混合する方法であることから限定されることはない。
【0013】
本発明において、まず、分離工程として、固形分の多い濃縮液とろ液とに分離する。この分離方法は、特に制限されず、ろ過機により、固形分の多い濃縮液とろ液とに分離することができる。
【0014】
分離工程において使用できるろ過機としては、単板式ろ過機、多段ろ過機、遠心ろ過機、遠心分離機(ろ過機以外の手段)、ディスク式回転ろ過機等が挙げられる。濃縮液の排出及びろ過効率の観点から、連続式のろ過機が好ましく、遠心ろ過機、ディスク式回転ろ過機等が好ましく、特に目詰まりを起こし難く、ろ過効率が高いことからディスク式回転ろ過機がより好ましい。
【0015】
本発明において、分離工程において使用できるろ過機の濃縮性能としては、特に制限されない。ただし、本発明によれば、ろ液のみを精製するため、より確実に臭気、不要成分、不純物等を除去する観点からは濃縮液中に残存する液体成分は少ない方が好ましい。このような観点から、
一般式1:濃縮比率=(回収したろ液質量+濃縮液質量)÷濃縮液質量
で計算した場合、分離手段において精製される濃縮液において、固形分の濃縮比率は4以上が好ましく、6以上がより好ましい。なお、固形分の濃縮比率の上限値は特に制限はないが、通常20である。
【0016】
このようにして濃縮液とろ液とに分離した後、ろ液に精製処理を施す(精製工程)。濃縮液は、有効成分濃度が高められており、また、溶液が少ないために臭気、不要成分、不純物量は少ない。一方、ろ液中には、臭気、不要成分、不純物等が相当程度含まれているため、ろ液を精製することにより、臭気、不要成分、不純物等を除去することができる。このような臭気、不要成分、不純物等の除去工程は連続式であってもよいし、装置内にタンクを設置してバッチ式に処理してもよい。
【0017】
ろ液を精製する方法としては、特に制限はなく、例えば、吸着剤によりろ液中の臭気、不要成分、不純物等を吸着することが挙げられる。この際使用できる吸着剤としては、特に制限はなく、種々様々な吸着剤を使用することができ、例えば、活性炭、活性白土、シリカゲル、アルミナ、脱色樹脂、イオン交換樹脂等通常用いられる吸着剤が挙げられる。これらの吸着剤は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。なかでも、脱臭及び不要成分の除去能力の観点からは活性炭が好ましい。吸着剤の形状は、粒状、粉末状及び繊維状のいずれも採用できる。たとえば、本発明の吸着剤が活性炭からなる場合、粒状活性炭、粉末状活性炭及び繊維状活性炭のいずれも採用できる。また、吸着剤のサイズも特に制限されず、除去しようとする臭気、不要成分、不純物等の大きさによって適宜調整することができる。また、フィルター状等に成形した吸着剤を使用することも可能である。ろ液に吸着剤を接触させる温度は特に制限はなく、冷却下、常温下及び加温下のいずれも採用でき、10~50℃等が採用でき、通常は常温とすることができる。また、ろ液に吸着剤を接触させる時間も特に制限はなく、1分~24時間程度とすることができる。この精製処理は、1回のみ行うこともできるし、複数回繰り返すことも可能である。処理後は、必要に応じてろ液から吸着剤を除去することにより、精製されたろ液を得ることができる。
【0018】
このようにしてろ液を精製した後、分離工程で得た濃縮液と混合することにより、精製した溶液を得ることができる。混合方法は特に制限されず、常法にしたがうことができる。
【0019】
以上のようにして、固形分を含む溶液に別成分を添加せずとも、有効成分を除去することなく臭気、不要成分、不純物等を除去することが可能である。上記した分離工程、精製工程及び混合工程は、それぞれ1回のみ行うこともできるし、分離工程、精製工程及び混合工程を1セットとして複数回繰り返すことも可能である。
【実施例
【0020】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【0021】
実施例1
市販のにんじんジュース(固形分約8%)1200kLを三菱化工機(株)製ディスク式回転ろ過機にかけ、清澄なろ液900mL、固形分濃度30%の濃縮液300mLを得た(濃縮比率4)。得られたろ液のうち、ろ液500mLに対して活性炭(大阪ガスケミカル(株)製、白鷺WP-Z:白鷺WP-L = 1: 1)0.3gを添加し、1時間接触させたのち、活性炭を除去して得られたろ液と濃縮液を元の割合で混合した。処理前と処理後のにんじんジュースを5名の評価者が官能試験した結果、処理後のにんじんジュースはにんじん由来の青臭さが低減されており、飲み心地についても処理前よりも向上していた。結果を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
実施例2
ケール搾汁を主成分とする市販の青汁(固形分約4%)2000mLを三菱化工機(株)製ディスク式回転ろ過機にかけ、清澄なろ液1700mL、固形分濃度7%の濃縮液290mLを得た(濃縮比率6.9)。得られたろ液のうち、ろ液100mLに対して活性炭(大阪ガスケミカル(株)製、白鷺WP-L)1.0gを添加し、2時間接触させたのち活性炭を除去して得られたろ液と濃縮液を元の割合で混合した。処理前と処理後の青汁をGC-MS(Agilent製、7890B)で分析したところ、表2に示すように青汁由来の臭気物質であるジメチルジスルフィド、アクリル酸等は活性炭処理後に低減していた。また、処理前と処理後の青汁を5名の評価者が官能試験した。なお、官能試験は、におい及び味について、対照サンプル(原料の青汁)と比較した評価を行い、表3に示すように5点満点で点数付けを行い、その合計点から表4に示すように◎、○又は×と評価した。この結果、表5に示すように、飲み心地についても処理前より向上した。
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
【表4】
【0027】
【表5】
図1