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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】有機化合物の生分解処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20060101AFI20220405BHJP
   C02F 3/00 20060101ALI20220405BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20220405BHJP
   B09C 1/10 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C02F3/34 Z
C02F3/00 D
C12N1/20 D
C12N1/20 F ZAB
B09C1/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017119725
(22)【出願日】2017-06-19
(65)【公開番号】P2019000831
(43)【公開日】2019-01-10
【審査請求日】2020-05-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム「難分解性化学物質1,4-ジオキサン含有排水の効率的生物処理技術の確立」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02032
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲史
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 祐二
(72)【発明者】
【氏名】瀧 寛則
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/181802(WO,A1)
【文献】特表2016-504911(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0326031(US,A1)
【文献】特開2016-077284(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102433272(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102168038(CN,A)
【文献】特開2017-042097(JP,A)
【文献】特開2013-179897(JP,A)
【文献】SEI Kazunari et al.,Isolation and characterization of bacterial strains that have high ability to degrade 1,4-dioxane as,Biodegradation,2013年,Vol.24, No.5,p.665-674
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00-34、11/00-20
B09B 1/00-5/00
B09C 1/00-10
C12N 1/20
Japio-GPG/FX
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH3.以上5.5以下の条件下において、受託番号NITE BP-02032として寄託された構成型1,4-ジオキサン分解菌であるN23株により、1,4-ジオキサンを含む有機化合物を、pH7.0における1,4-ジオキサン分解活性に対して、8割以上の1,4-ジオキサン分解活性を維持して生分解処理することを特徴とする生分解処理方法。
【請求項2】
前記有機化合物が、さらに、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールのいずれか1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の生分解処理方法。
【請求項3】
エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-ジオキサンのいずれか1種以上を炭素源として加えることを特徴とする請求項1または2に記載の生分解処理方法。
【請求項4】
フェッドバッチプロセスであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の生分解処理方法。
【請求項5】
連続プロセスであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の生分解処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成型1,4-ジオキサン分解菌N23株を利用した有機化合物の生分解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,4-ジオキサンは、下記式(1)で表される環状エーテルである。1,4-ジオキサンは、水や有機溶媒との相溶性に優れており、主に有機合成の反応溶剤として使用されている。
【0003】
【化1】
【0004】
2010年度の日本国における1,4-ジオキサンの製造・輸入量は、約4500t/年であり、約300t/年が環境中へ放出されたと推測される。1,4-ジオキサンは、水溶性であるため、水環境中へ放出されると広域に拡散してしまう。また、揮発性、固体への吸着性、光分解性、加水分解性、生分解性がいずれも低いため、水中からの除去が困難である。1,4-ジオキサンは急性毒性及び慢性毒性を有する上、発がん性も指摘されていることから、1,4-ジオキサンによる水環境の汚染は、人や動植物に悪影響を及ぼすことが懸念されている。そのため、日本国では、水道水質基準(0.05mg/L以下)、環境基準(0.05mg/L以下)及び排水基準(0.5mg/L以下)により、1,4-ジオキサンの規制がなされている。
【0005】
また、非特許文献1には、1,4-ジオキサンを含む産業廃水には、1,4-ジオキサンの他に1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソランといった環状エーテルが含まれていることが報告されている。特に1,3-ジオキソランは、急性毒性等の毒性が確認されており、1,3-ジオキソランを含む汚染水等は適切に処理しなければならない。
【0006】
従来の活性汚泥法や活性炭吸着法等の処理方法では、水中から1,4-ジオキサン等の環状エーテルを十分に除去することができない。例えば、1,4-ジオキサンは、過酸化水素を添加してのオゾン処理(O/H)、紫外線照射下でのオゾン処理(O/UV)、放射線や超音波照射下でのオゾン処理等、複数の物理化学的な酸化方法を併用する促進酸化法においてのみ、処理の有効性が確認されている。しかし、促進酸化法はイニシャルコスト及びランニングコストが高いことから普及に至っていない。また、非特許文献2には、1,4-ジオキサン以外の有機物が存在すると、促進酸化法による1,4-ジオキサンの処理効率が低下することが報告されている。
【0007】
低コストかつ安定的に1,4-ジオキサン等の環状エーテルを含む水を処理する方法が求められており、特許文献1、非特許文献3では、1,4-ジオキサン分解菌による1,4-ジオキサン処理が提案されている。1,4-ジオキサン分解菌は、1,4-ジオキサンを単一炭素源として分解する菌(資化菌)と、テトラヒドロフラン等の特定の基質の存在下にて1,4-ジオキサンを分解できる菌(共代謝菌)の2種類に大別される。そのため、地下水や廃水等に含まれる1,4-ジオキサンを1,4-ジオキサン分解菌で処理す
る場合、特定の基質を添加する必要がない資化菌を活用する方が効率的である。
【0008】
資化菌は、さらに1,4-ジオキサン分解酵素の誘導の有無によって、誘導型と構成型に分けられる。非特許文献4に記載されているように、誘導型1,4-ジオキサン分解菌は、1,4-ジオキサンなどの誘導物質が存在することで分解酵素の生産・分泌がされるため、1,4-ジオキサン処理に用いる前に予め馴養する必要がある。一方、構成型1,4-ジオキサン分解菌は、常時、分解酵素を生産しているため、馴養することなく、直ちに1,4-ジオキサン処理に用いることができる。
【0009】
ここで、1,4-ジオキサン分解菌は増殖が極めて遅く、他の微生物が混入していると他の微生物が優先的に増殖してしまう。そのため、1,4-ジオキサン分解菌を培養するには、他の微生物が混入しないように、事前に培養装置や培地を十分に滅菌する必要がある。滅菌処理には、オートクレーブを用いる蒸気滅菌、オーブン等で加熱する乾熱滅菌、ガンマ線を用いる放射線滅菌、エチレンオキサイドガスを用いる化学滅菌等の方法がある。しかし、滅菌のための設備が大規模になりすぎる、エネルギーコストがかかりすぎる、使用する薬品量が膨大となりコスト・安全性の点で問題がある等、いずれの滅菌方法も、大規模スケールで行うことは困難である。
【0010】
本願発明者らは、特許文献2において、ジエチレングリコールを含む培地を用いて1,4-ジオキサン分解菌を増やす1,4-ジオキサン分解菌の培養方法を提案した。1,4-ジオキサン分解菌は、他の微生物と比較してジエチレングリコールを炭素源として利用する能力に優れているため、ジエチレングリコールを含有する培地を用いることにより、滅菌処理を行うことなく、他の微生物が生息している条件下でも優先的に増殖することができる。
【0011】
さらに、本発明者らは、特許文献3において、構成型1,4-ジオキサン分解菌であるN23株を報告している。N23株は、これまでに報告されている構成型1,4-ジオキサン分解菌の中で、最も高い1,4-ジオキサン最大比分解速度を示し、1,4-ジオキサンを始めとする環状エーテルの生分解に非常に有望である。
N23株は、1,4-ジオキサン分解能を有さない微生物と比較して、1,4-ジオキサン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールを炭素源として利用する能力に優れている。また、上記したN23株が炭素源として利用しやすい有機物の中で、エチレングリコールは、pH5.0以下の酸性環境下においてほとんど生分解されないことが報告されている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2008-306939号公報
【文献】特許第5877918号公報
【文献】特許第6117450号公報
【0013】
【文献】CD. Adams, PA. Scanlan and ND. Secrist: Oxidation and biodegradability enhancement of 1,4-dioxane using hydrogen peroxide and ozone, Environ. Sci. Technol., 28(11), pp.1812-1818, 1994.
【文献】K. KOSAKA, H. YAMADA, S. MATSUI, and K. SHISHIDA: The effects of the co-existing compounds on the decomposition of micropollutants using the ozone/hydrogen peroxide process, Water Sci. Technol., 42, pp.353-361, 2000.
【文献】清和成、池道彦:1,4-ジオキサン分解菌を用いた汚染地下水の生物処理・浄化の可能性,用水と廃水,Vol.53, No.7, pp.555-560, 2011.
【文献】K. Sei, K. Miyagaki, T. Kakinoki, K. Fukugasako, D. Inoue and M. Ike: Isolation and characterization of bacterial strains that have high ability to degrade 1,4-dioxane as a sole carbon and energy source, Biodegradation, 24, 5, pp.665-674, 2012.
【文献】今枝孝夫、徳弘健郎、平井正名:LLCの微生物分解システム,豊田中央研究所,Vol.34,No.3,pp.23-30,1999.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
構成型1,4-ジオキサン分解菌N23株による効率的な有機化合物の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
1.pH3.0以上5.5以下の条件下において、受託番号NITE BP-02032として寄託された構成型1,4-ジオキサン分解菌であるN23株により、有機化合物を生分解処理することを特徴とする生分解処理方法。
2.前記有機化合物が、環状エーテルを含むことを特徴とする1.に記載の生分解処理方法。
3.前記有機化合物が、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフランのいずれか1種以上を含むことを特徴とする1.または2.に記載の生分解処理方法。
4.エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-ジオキサンのいずれか1種以上を炭素源として加えることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の生分解処理方法。
5.前記有機化合物が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールのいずれか1種以上を含むことを特徴とする1.に記載の生分解処理方法。
6.フェッドバッチプロセスであることを特徴とする1.~5.のいずれかに記載の生分解処理方法。
7.連続プロセスであることを特徴とする1.~5.のいずれかに記載の生分解処理方法。
【発明の効果】
【0016】
pHが3.0以上5.5以下の酸性環境下では、他の微生物の活動が抑制されるため、N23株による有機化合物の生分解処理を効率的に行うことができる。N23株は、構成型1,4-ジオキサン分解菌であり、常時、分解酵素を生産している。N23株は、馴化、誘導等することなく、環状エーテルを分解することができるため、効率的に環状エーテルの処理を行うことができる。また、N23株は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールの生分解処理にも用いることができる。N23株は、pH3.0以上5.5以下という広い酸性領域内で活動可能であるため、処理時のpHを厳密に調整する必要がなく、管理が容易である。
【0017】
高い濃度の有機化合物を処理する場合は、N23株は、処理対象である有機化合物を炭素源として活動することにより、生分解処理を行うことができる。低い濃度の有機化合物を処理する場合は、炭素源として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-ジオキサンのいずれか1種以上を加えることにより、N23株の菌体濃度を高く維持することができるため、有機化合物の生分解処理を効率的に行うことができる。
汚染水の処理を、フェッドバッチプロセスで行うと、プロセスを繰り返す毎にN23株量が増加するため、1回のプロセスに必要な時間を徐々に短くすることができる。また、フェッドバッチプロセスは、汚染物の初期濃度が高く、N23株による分解活性を高く維持することができるため、汚染物を短時間で分解することができる。汚染水の処理を、連
続プロセスで行うと、既設の浄化設備をそのまま用いることができるため低コストであり、また、生分解処理プロセスを迅速、かつ容易に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】N23株のSEM画像。
図2】N23株の初期1,4-ジオキサン濃度に対する比分解速度を示す図。
図3】実験1における初期pHと環状エーテル分解速度との関係を示す図。
図4】実験2の実施例1と比較例1における1,4-ジオキサン濃度の経時変化を示す図。
図5】実験3における異なる炭素源での初期pHと菌体濃度増加量との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を詳細に説明する。
「N23株」
本発明で使用する構成型1,4-ジオキサン分解菌N23株(以下、N23株という。)は、受託番号NITE BP-02032として、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818))に、2015年4月10日付で国際寄託されている。N23株のSEM画像を図1に示す。N23株は、グラム染色性が陽性、カタラーゼ反応が陽性である。
【0020】
N23株は、構成型1,4-ジオキサン分解菌であり、常時、分解酵素を生産している。一般に、構成型1,4-ジオキサン分解菌は、誘導型1,4-ジオキサン分解菌と比較して低い1,4-ジオキサン最大比分解速度を示すことが知られている。N23株の初期1,4-ジオキサン濃度に対する比分解速度を図2に示す。
【0021】
N23株は、これまでに報告されている構成型1,4-ジオキサン分解菌の中で最も高い1,4-ジオキサン最大比分解速度を有し、その値は誘導型1,4-ジオキサン分解菌と同等以上である。また、N23株は、1,4-ジオキサンを0.017mg/L以下の極低濃度まで分解することができ、約5200mg/Lという高濃度の1,4-ジオキサンを処理することができる。
N23株は、1,4-ジオキサン等を用いて馴養する必要がない。また、N23株は、高い1,4-ジオキサン最大比分解速度を有し、1,4-ジオキサンを極低濃度まで分解することができ、高濃度の1,4-ジオキサンを処理することができる。そのため、N23株は、1,4-ジオキサンの処理に好適に利用することができる。
【0022】
N23株は、1,4-ジオキサンだけでなく、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン等の環状エーテルを効率よく分解することができる。また、複数の環状エーテルを同時に処理することもできる。さらに、N23株は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールの分解性にも優れている。そのため、N23株は、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールの生分解処理に好適に利用することができる。
【0023】
N23株は、pH3.0以上5.5以下の酸性環境下であっても、ほとんど活動性が低下しない。すなわち、N23株は、pH7.0付近で最も高い1,4-ジオキサン分解活性を示すが、pH7.0における分解活性に対して、pH5.0で9割以上、pH3.8で8割以上の分解活性を維持する。それに対し、多くの微生物は、pH6.0~8.0程
度の中性環境下が至適pHである。例えば、N23株が炭素源として利用する能力に長けている有機物の中で、エチレングリコールは、中性環境下(pH6~8)が生分解の至適pHであり、pH5.0以下の酸性環境下では、ほとんど生分解されないことが報告されている(非特許文献5)。また、酸性環境下において高い1,4-ジオキサン分解活性を発揮するジオキサン分解菌は、これまでに報告されておらず、例えば、構成型1,4-ジオキサン分解菌であるD17株(受託番号NITE BP-01927)は、pH8.0において最も高い分解活性を示し、pH5.0における分解活性はpH8.0における分解活性の5割程度にすぎない(非特許文献4)。
【0024】
「生分解処理方法」
本発明の生分解処理方法は、pH3.0以上5.5以下の酸性環境下において、N23株により、有機化合物を生分解処理することを特徴とする。
生分解処理対象としては、有機化合物を含む地下水、工場排水等の汚染水、不法廃棄サイトの汚染土壌等が挙げられる。汚染水、汚染土壌等には、多種多様な微生物(以下、雑菌という)が生息している。上記したように、一般的な雑菌は、中性環境下が至適pHであるため、pH3.0以上5.5以下の酸性環境下では、雑菌の活動は抑制される。pH3.0以上5.5以下の酸性環境下では雑菌の活動・増殖が抑えられ、N23株が優先的に活動するため、N23株による有機化合物の生分解処理を効率的に行うことができる。なお、本発明の生分解処理は、酸性環境下で行うため、生分解処理後に中性に戻す必要がある。土壌の中性化作業は大規模設備が必要であるため、汚染土壌を浄化する場合も、土壌を予め水で洗浄し、処理対象である有機化合物を水相に移行させて汚染水として処理することが好ましい。
【0025】
N23株を用いた汚染水中の有機化合物の生分解方法は特に制限されないが、(1)汚染水のN23株による生分解処理工程、(2)N23株を含む活性汚泥や担体等を沈殿させ、処理後の上澄みを排水する排水工程、(3)新たな汚染水を投入する汚染水投入工程を、(1)→(2)→(3)→(1)→・・・と、この順で繰り返す、いわゆるフェッドバッチプロセス、上流での汚染水の投入と下流での処理水の排水とを同量で連続的に行う連続プロセス等により行うことができる。フェッドバッチプロセスは、曝気槽での初期汚染物濃度が高いため、生分解処理速度を高く保つことができる。また、排水時にN23株はほとんど流出せず、プロセスを繰り返す毎にN23株量が増加するため、1回のプロセスに必要な時間を徐々に短くすることができる。連続プロセスは、既設の排水処理設備をそのまま用いることができる。
【0026】
生分解処理する有機化合物としては、N23株が分解できる、すなわち、炭素源として利用できるものであれば特に制限されない。例えば、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール等が挙げられる。これらの中で、N23株が常時分解酵素を分泌している環状エーテルが特に好適である。
【0027】
以下、汚染水の場合を例にして説明する。
汚染水中に含まれる処理対象である有機化合物(以下、処理有機化合物という。)濃度が高い場合、N23株は、汚染水に含まれる処理有機化合物を炭素源として利用し、菌体量を維持しながら、効率的に生分解処理することができる。
汚染水中の処理有機化合物濃度が低い場合は、N23株の菌体濃度が低くなり、生分解処理の効率が低下してしまう場合がある。そのため、処理有機化合物濃度が低い場合は、炭素源としてエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-ジオキサンのいずれか1種以上を汚染水中に加えることが好ましい。これらは、単独、または混合して加えることができる。これらの中で、エチレングリコールが、酸性環境下では雑菌が利用しにくく雑菌の繁殖が抑制されること、および、仮に外部へ流出した
としても中性環境下では速やかに生分解されること等から好ましい。
【0028】
N23株は、酸性条件下において、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-ジオキサンを炭素源として増殖することができる。そのため、処理有機化合物濃度が低い場合でも、汚染水中にこれらの1種以上を炭素源として加えることにより、N23株の菌体濃度を高く維持することができ、N23株による低濃度の処理有機化合物処理を効率的に行うことができる。汚染水中に炭素源を加える目安としては、処理有機化合物濃度が400mg/L以下程度である。また、汚染水に加える炭素源の総濃度は、10mg/L以上100g/L以下が好ましく、100mg/L以上10g/L以下がより好ましく、200mg/L以上5g/L以下がさらに好ましい。
【実施例
【0029】
「N23株」
N23株は、MGY培地(Malt Extract:10g/L、グルコース:4g/L、Yeast Extract:4g/L、pH7.3)を用いて2週間培養した。この培養液を、10000×g、4℃、3分間遠心分離して集菌し、無機塩培地(培地組成:KHPO:1g/L、(NHSO:1g/L、NaCl:50mg/L、MgSO・7HO:200mg/L、FeCl:10mg/L、CaCl:50mg/L、pH:7.3)を用いて二回洗浄した菌体を用いた。
【0030】
「実験1」
pHの環状エーテル分解活性への影響
100mL容量のバッフル付三角フラスコに、液体培地(組成:500mg/L 1,4-ジオキサン、1g/L KHPO、1g/L (NHSO、50mg/L NaCl、200mg/L MgSO・7HO、10mg/L FeCl、50mg/L CaCl)を19mL添加し、N23株の菌体濃縮液を1mL加え(菌体終濃度:200mg-cell/L)、28℃にて回転振盪培養(120rpm)を行った(n=3)。液体培地のpHは塩酸溶液及び水酸化ナトリウム溶液を用いてpH3.8、5.0、5.9、7.0、8.2に調整した。
【0031】
培養開始2.5時間後、10時間後及び12時間後にサンプリングを行い、溶液中の1,4-ジオキサン濃度をヘッドスペースガスクロマトグラフ質量分析計(島津製作所:GC/MS-QP2010 PLUS、TURBOMATRIX HS40 以下、ヘッドスペースGC/MSという。)を用いて測定した。各時間ごとの1,4-ジオキサン濃度の減少速度に直線性があることを確認し、1,4-ジオキサン分解速度を算出した。また、培養前後における溶液中のpHを測定した。図3に初期pHと分解速度の関係を、表1に培養前後のpHを示す。
【0032】
【表1】
【0033】
N23株は、pH7.0で最も高い1,4-ジオキサン分解速度を示した。また、N23株は、酸性環境下において、500mg/L濃度の1,4-ジオキサンを生分解できることが確かめられた。N23株は、pH7.0における分解活性に対して、pH5.9、5.0で9割以上、pH3.8で8割以上の分解活性を維持していることが確認できた。
また、培養後にpHが低下していることが確認できた。これは、1,4-ジオキサンの分解により、中間代謝物であるグリオキシル酸が生じたためであると考えられる。
【0034】
「実験2」
環状エーテルのフェッドバッチプロセスによる生分解処理
実施例1
容量1.2Lの液槽に、1,4-ジオキサンを含む模擬廃水0.9Lと栄養剤(組成の終濃度:1g/L KHPO、1g/L (NHSO、200mg/L MgSO・7HO、10mg/L FeCl、50mg/L CaCl)を加え、N23株を菌体濃度が970mg-cell/Lとなるように加え液量を1Lとした。
この廃水を、pHコントローラーを用いてpH5.0とし、1L/minのエアレーションを行いながら24時間、30℃にて生分解処理を行った。24時間の生分解処理後、エアレーションを停止して、N23株を含む活性汚泥を沈殿させ、上澄みを0.9L排水した。その後、新たに模擬廃水0.9Lと栄養剤を加え、同様の生分解処理を繰り返すフェッドバッチプロセスを8日間行った。
【0035】
比較例1
pHを7.0とした以外は、上記実施例1と同様にフェッドバッチプロセスを行った。
【0036】
「環状エーテル濃度」
実施例1、比較例1において、液槽中の水の1,4-ジオキサン濃度をヘッドスペースGC/MSにて測定した。1,4-ジオキサン濃度の測定結果を、図4に示す。
実施例1、比較例1のいずれも、8日間の実験期間を通じて、フェッドバッチプロセスにより1,4-ジオキサンを安定的に分解することができた。すなわち、N23株は、pH5.0の酸性環境下において、pH7.0の中性環境下と同様に、環状エーテルである1,4-ジオキサンの生分解処理が可能であることが確かめられた。また、実施例1、比較例1のいずれも、プロセスを経る毎に菌体量が増加したため、処理能力が向上した。
【0037】
「実験3」
有機化合物の生分解処理
300ml容量のフラスコに、pH3.6~7.9に調整した栄養塩培地(組成:0.5g/L KHPO、5g/L 酵母エキス)を加えた後、炭素源を4g/Lになるように添加し、液量を100mLとした。その後、N23株を70mg-cell/Lになるように添加し、28℃、120rpmにて、回転振盪培養を行った(n=1)。炭素源としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールを用いた。図5に、7日間の培養により増加した菌体濃度を示す。
【0038】
N23株が、4g/L濃度のエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオールを炭素源として、pH3.0~5.0の酸性環境下で増殖できることが確かめられた。そして、N23株は、構成型1,4-ジオキサン分解菌であり、常時、分解酵素を生産しているため、これらを炭素源とすることにより、N23株による環状エーテルの生分解処理ができることが確かめられた。
図1
図2
図3
図4
図5