(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】伸長可能フィルム及び表面コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
B32B 27/40 20060101AFI20220405BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20220405BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20220405BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220405BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20220405BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20220405BHJP
C09D 101/10 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
B32B27/40
B32B27/20 Z
C08L75/04
C08K3/36
C09D175/04
C09D183/04
C09D101/10
(21)【出願番号】P 2017200975
(22)【出願日】2017-10-17
【審査請求日】2020-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】杉山 直大
(72)【発明者】
【氏名】近藤 紳介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 辰也
(72)【発明者】
【氏名】武田 良彦
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-027399(JP,A)
【文献】特開2013-142119(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0013452(KR,A)
【文献】特開平07-242839(JP,A)
【文献】国際公開第2016/039546(WO,A1)
【文献】特開2013-040259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 5/00- 5/24
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン樹脂を含むバインダーと、
4μm以上、20μm以下の平均粒径を有するウレタン樹脂ビーズと、
ナノシリカ粒子と
を含む表面層を有する伸長可能フィルムであって、
表面光沢度が60度で5GU以下である、伸長可能フィルム
であって、前記表面層が、前記バインダー100質量部を基準として、前記ウレタン樹脂ビーズを100質量部以上、240質量部以下含む、伸長可能フィルム。
【請求項2】
前記ナノシリカ粒子の平均粒径が10nm以上、100nm以下である、請求項1に記載の伸長可能フィルム。
【請求項3】
前記表面層が、前記バインダー100質量部を基準として、前記ナノシリカ粒子を5質量部以上、120質量部以下含む、請求項1又は2のいずれかに記載の伸長可能フィルム。
【請求項4】
前記伸長可能フィルムの伸長前の明度をL
*
1、150%伸長後の明度をL
*
2、明度差をΔL
*=L
*
2-L
*
1としたときに、明度差ΔL
*が3以下である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の伸長可能フィルム。
【請求項5】
前記伸長可能フィルムの表面光沢度が、60度で0.7GU以下である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の伸長可能フィルム。
【請求項6】
前記伸長可能フィルムの表面光沢度が、20度で0.2GU以下、60度で0.7GU以下、85度で5.0GU以下である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の伸長可能フィルム。
【請求項7】
前記バインダーがセルロースエステルをさらに含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の伸長可能フィルム。
【請求項8】
前記ウレタン樹脂が2液型ウレタン樹脂組成物の硬化物を含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載の伸長可能フィルム。
【請求項9】
前記表面層がイソシアネート又は水酸基と反応可能な官能基を有するシリコーン変性ポリマーをさらに含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の伸長可能フィルム。
【請求項10】
伸長可能な基材層をさらに含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載の伸長可能フィルム。
【請求項11】
前記基材層が、有色又は無色であり、不透明、半透明又は透明であり、略平滑な表面又は構造化表面を有する、請求項
10に記載の伸長可能フィルム。
【請求項12】
前記基材層が、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル-酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、及びフッ素樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂層を含む、請求項
10又は
11のいずれかに記載の伸長可能フィルム。
【請求項13】
前記基材層が、透明ポリ塩化ビニル樹脂層と、有色ポリ塩化ビニル樹脂層とを含む請求項
10~
12のいずれか一項に記載の伸長可能フィルム。
【請求項14】
建造物又は車両の内装材又は外装材に貼り付けられる、請求項1~
13のいずれか一項に記載の伸長可能フィルム。
【請求項15】
ウレタン樹脂組成物を含むバインダー前駆体と、4μm以上、20μm以下の平均粒径を有するウレタン樹脂ビーズと、ナノシリカ粒子とを含む、表面コーティング組成物
であって、前記バインダー前駆体100質量部を基準として、前記ウレタン樹脂ビーズを100質量部以上、240質量部以下含む、表面コーティング組成物。
【請求項16】
前記ナノシリカ粒子の平均粒径が10nm以上、100nm以下である、請求項
15に記載の表面コーティング組成物。
【請求項17】
前記バインダー前駆体100質量部を基準として、前記ナノシリカ粒子を5質量部以上、120質量部以下含む、請求項
15又は
16のいずれかに記載の表面コーティング組成物。
【請求項18】
前記バインダー前駆体がセルロースエステルをさらに含む、請求項
15~
17のいずれか一項に記載の表面コーティング組成物。
【請求項19】
前記ウレタン樹脂組成物が2液型ウレタン樹脂組成物を含む、請求項
15~
18のいずれか一項に記載の表面コーティング組成物。
【請求項20】
イソシアネート又は水酸基と反応可能な官能基を有するシリコーン変性ポリマーをさらに含む、請求項
15~
19のいずれか一項に記載の表面コーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、装飾などの用途に用いることができる伸長可能なフィルム、及び表面コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物、車両などの内外装の加飾を目的として装飾フィルムが使用されている。例えば、印刷層を備えたポリ塩化ビニルフィルムと透明ポリ塩化ビニルフィルムとが積層され、エンボス加工が施された装飾フィルムが知られている。積層及びエンボス加工の様々な組み合わせにより、木目調、金属、布帛、マーブルなどの様々な材料のテクスチャを表現することができる。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2011-255552号公報)には「化粧シートの表面にエンボス加工が施されてなるエンボス化粧シートにおいて、該化粧シート表面側に合成樹脂ビーズを含有した硬化型樹脂からなる表面保護層を設けてなり、前記エンボス加工が平均振幅15~50μmであり、前記合成樹脂ビーズが平均粒径8~20μmの合成樹脂ビーズであることを特徴とするエンボス化粧シート」が記載されている。
【0004】
特許文献2(国際公開第2008/129667号)には、「印刷シートに設けた印刷層の表面に、透明な樹脂成分を主成分とする保護層が設けられてなる化粧シートにおいて、前記保護層が、印刷シートの印刷層上に設けられた第1保護層と、透明又は半透明の球状粒子を含有し前記第1保護層上の所定部分に設けられた第2保護層とからなり、第1保護層の突出した表面の艶が第2保護層表面の艶より低くなっていることを特徴とする化粧シート」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-255552号公報
【文献】国際公開第2008/129667号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、乾燥仕上げ木材、マット塗装などの表面を再現することができる、より低光沢な外観を持つ伸長可能フィルムが求められている。
【0007】
表面層として微粒子又はビーズを含む樹脂をコーティングすることで、表面が低光沢である外観を持つ装飾フィルムを形成する方法は知られている。これらの装飾フィルムは、建築外装又は内装、車両内装、家具、物品表装等に使用することが可能であり、多くの場合、貼り付ける物品の形状に追従させるため、フィルムの伸長が必要となる。しかしながら、フィルムを伸長すると表面構造が変化し光沢値が上昇するため、伸長可能な低光沢外観を持つフィルムを形成することは極めて困難である。
【0008】
本開示は、低光沢外観を有し、かつ、伸長させた際にも、その低光沢外観が変化しにくい伸長可能フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施態様によれば、ウレタン樹脂を含むバインダーと、4μm以上、20μm以下の平均粒径を有するウレタン樹脂ビーズと、ナノシリカ粒子とを含む表面層を有する伸長可能フィルムであって、表面光沢度が60度で5GU以下である、伸長可能フィルムが提供される。
【0010】
別の実施態様によれば、ウレタン樹脂組成物を含むバインダー前駆体と、4μm以上、20μm以下の平均粒径を有するウレタン樹脂ビーズと、ナノシリカ粒子とを含む、表面コーティング組成物が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示の伸長可能フィルムは低光沢外観を有し、伸長させてもその低光沢外観が変化しにくいことから、建造物、車両などの内外装に好適に使用することができる。また、本開示の表面コーティング組成物を用いることで、基材表面に低光沢で伸長させても低光沢外観が変化しにくい伸長可能な表面層を形成することができる。
【0012】
なお、上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の一実施態様の伸長可能フィルムの概略断面図である。
【
図2A】上から順に例1、比較例1及び比較例2の伸長可能フィルムの伸長前の外観を示す写真である。
【
図2B】上から順に例1、比較例1及び比較例2の伸長可能フィルムの150%伸長後の外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0015】
本開示において、「透明」とは、ある材料又は物品の波長範囲400~700nmにおける全光線透過率が約85%以上であることを意味し、「半透明」とは、ある材料又は物品の波長範囲400~700nmにおける全光線透過率が約20%以上、約85%未満であることを意味し、「不透明」とは、ある材料又は物品の波長範囲400~700nmにおける全光線透過率が約20%未満であることを意味する。全光線透過率はJIS K 7361-1:1997(ISO 13468-1:1996)に準拠して決定される。
【0016】
一実施態様において、伸長可能フィルムは、ウレタン樹脂を含むバインダーと、4μm以上、20μm以下の平均粒径を有するウレタン樹脂ビーズと、ナノシリカ粒子とを含む表面層を有する。伸長可能フィルムの表面光沢度は60度で約5GU以下である。表面層が上記範囲の平均粒径を有するウレタン樹脂ビーズとナノシリカ粒子とを含むことで、低光沢と伸長後の外観維持を伸長可能フィルムに付与できる。
【0017】
本開示の伸長可能フィルムの概略断面図を
図1に示す。
図1の伸長可能フィルム100は、表面層10、及び任意の構成要素である基材層20を含む。伸長可能フィルム100は表面層10のみから形成される、すなわち表面層10自体が伸長可能フィルムであってもよい。表面層10は、ウレタン樹脂を含むバインダー12と、4μm以上、20μm以下の平均粒径を有するウレタン樹脂ビーズ14と、ナノシリカ粒子16とを含む。
【0018】
バインダーはウレタン樹脂を含む。ウレタン樹脂として公知の様々なウレタン樹脂を使用することができる。ウレタン樹脂はウレタン樹脂組成物を乾燥又は硬化して得ることができる。ウレタン樹脂組成物は水系であってもよく非水系であってもよい。ウレタン樹脂は2液型ウレタン樹脂組成物の硬化物であることが有利である。2液型ウレタン樹脂組成物は一般に非水系ウレタン樹脂組成物である。2液型ウレタン樹脂組成物を用いることで、表面層の形成時に表面層の他の成分、例えばウレタン樹脂ビーズ、ナノシリカ粒子などがウレタン樹脂と化学結合を形成して、表面層からこれら粒子の脱落、成分のブリードアウトを防止又は抑制することができる。
【0019】
2液型ウレタン樹脂組成物は、一般に主剤としてポリオール及び硬化剤として多官能イソシアネートを含み、必要に応じて触媒及び/又は溶剤を含む。
【0020】
ポリオールとして、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオールなどのポリエステルポリオール;シクロヘキサンジメタノールカーボネート、1,6-ヘキサンジオールカーボネートなどのポリカーボネートポリオール、及びそれらの組み合わせを使用することができる。これらのポリオールは透明性、耐候性、強度、耐薬品性などを表面層に付与することができる。特に、ポリカーボネートポリオールは高い透明性及び耐薬品性を有する表面層を形成することができる。過度の架橋構造を形成せずに表面層に伸長性を付与する観点から、ポリオールはジオールであることが望ましく、ポリエステルジオール及びポリカーボネートジオール、特にポリカーボネートジオールを有利に使用することができる。
【0021】
ポリオールのOH値は、一般に約10mg/KOH以上、約20mg/KOH以上、又は約30mg/KOH以上、約150mg/KOH以下、約130mg/KOH以下、又は約120mg/KOH以下であってもよい。
【0022】
多官能イソシアネートとして、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネートなど、及びこれらのポリイソシアネートの多量体(ダイマー、トリマーなど)、ビウレット変性体、アロファネート変性体、ポリオール変性体、オキサジアジントリオン変性体、カルボジイミド変性体などが挙げられる。過度の架橋構造を形成せずに表面層に伸長性を付与する観点から、多官能イソシアネートはジイソシアネートであることが望ましい。そのようなジイソシアネートとして、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などの脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、trans,trans-、trans,cis-、及びcis,cis-ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート及びこれらの混合物(水添MDI)などの脂環式ジイソシアネート;2,4-トリレンジイソシアネート及び2,6-トリレンジイソシアネート、並びにこれらトリレンジイソシアネートの異性体混合物(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート及び2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、並びにこれらジフェニルメタンジイソシアネートの異性体混合物(MDI)などの芳香族ジイソシアネート;1,3-若しくは1,4-キシリレンジイソシアネート又はその混合物(XDI)、1,3-若しくは1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネート又はその混合物(TMXDI)などの芳香脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。
【0023】
ポリオールとポリイソシアネートとの当量比は、一般に、ポリオール1当量に対して、ポリイソシアネートが約0.6当量以上、約0.7当量以上、約2当量以下、又は約1.2当量以下であってもよい。
【0024】
触媒としてウレタン樹脂形成に一般に使用されるもの、例えばジ-n-ブチルスズジラウレート、ナフテン酸亜鉛、オクテン酸亜鉛、トリエチレンジアミンなどを用いることができる。触媒の使用量は、一般に2液型ウレタン樹脂組成物100質量部を基準として、約0.005質量部以上、又は約0.01質量部以上、約0.5質量部以下又は約0.2質量部以下であってもよい。
【0025】
バインダーはセルロースエステルをさらに含んでもよい。セルロースエステルをバインダーに含有させることで、乾燥過程でのバインダーの粘度を上げ、表面流動性を下げることができるため、ウレタン樹脂ビーズを含むバインダー前駆体を均一に塗布することが可能になる。セルロースエステルとして、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどが挙げられる。
【0026】
セルロースエステルの分子量は、溶剤への溶解性を考慮して、一般に約12000以上、約16000以上又は約20000以上、約110000以下、約100000以下又は約90000以下としてよい。
【0027】
セルロースエステルのガラス転移温度(Tg)は、使用温度での形状維持性を考慮して、一般に約85℃以上、約96℃以上又は約101℃以上、約190℃以下、約180℃以下又は約160℃以下としてよい。
【0028】
いくつかの実施態様では、セルロースエステルは、バインダー100質量部を基準として、約5質量部以上、約10質量部以上又は約15質量部以上、約35質量部以下、約30質量部以下又は約25質量部以下の量でバインダーに含まれてもよい。セルロースエステルの配合量を上記範囲とすることで、ウレタン樹脂ビーズを表面層により均一に分散させて均一な低光沢外観を表面層に付与することができる。
【0029】
本実施形態の表面層はウレタン樹脂ビーズを含む。ウレタン樹脂ビーズは、フィルム表面にビーズの存在による微細な凹凸を形成し、フィルム表面に低光沢構造を形成することができる。さらに、ウレタン樹脂ビーズはウレタン樹脂を含むバインダーとの親和性が良いため、バインダーとの密着性が高い。その結果、フィルムを伸長又は変形した場合にバインダーからのウレタン樹脂ビーズの脱離を抑制することができる。
【0030】
ウレタン樹脂ビーズとして、懸濁重合、シード重合、乳化重合などにより得られる架橋ポリウレタン微粒子を用いることができる。ウレタン樹脂ビーズは柔軟性、強靭性、耐擦傷性などに優れており、これらの特性を表面層に付与することができる。
【0031】
ウレタン樹脂ビーズの平均粒径は約4μm以上、約20μm以下であることが好ましい。いくつかの実施態様では、ウレタン樹脂ビーズの平均粒径は、約6μm以上、又は約10μm以上であってもよく、約10μm以下、又は約15μm以下であってもよい。ウレタン樹脂ビーズの平均粒径が約4μm未満の場合は、光の散乱によるフィルム表面の白化を生じやすくなる。ウレタン樹脂ビーズの平均粒径が約20μmを超えると、光沢が生じやすくなり、低光沢性が得られにくくなる。上記範囲の平均粒径を有するウレタン樹脂ビーズは、表面層に入射した光を適度に散乱することで、表面層に明度の低い、すなわち白みの少ない低光沢性を付与することができる。
【0032】
いくつかの実施態様では、ウレタン樹脂ビーズは、表面層において、バインダー100質量部を基準として約70質量部以上、約80質量部以上、又は約100質量部以上、約240質量部以下、約230質量部以下、又は約200質量部以下の量で含まれてもよい。ウレタン樹脂ビーズの配合量が約70質量部未満であると、低光沢性が得られにくく、約240質量部を超えると、白化しやすくなる。ウレタン樹脂ビーズの配合量を上記範囲とすることで、幅広い視角、例えば20度~85度にわたって低光沢を示す表面層を得ることができる。
【0033】
本実施態様の表面層は、ナノシリカ粒子をさらに含む。ナノシリカ粒子がバインダー中に存在することで、ウレタン樹脂ビーズのみではフィルムを延伸した場合に生じやすい低光沢性の変化を抑制し、フィルムの白化を効果的に防止することができる。
【0034】
ナノシリカ粒子として、例えば水ガラス(ケイ酸ナトリウム溶液)を出発原料として得られるシリカゾルを使用することができる。ナノシリカ粒子は、シラン、アルコール、アミン、カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸、チタネートなどの表面処理剤を用いてその表面が改質されていてもよい。
【0035】
いくつかの実施態様では、ナノシリカ粒子の平均粒径は約10nm以上、約20nm以上、又は約30nm以上、約100nm以下、約75nm以下、又は約45nm以下である。このように、微小なサイズのナノシリカ粒子を使用することで、ナノシリカ粒子を表面層中に高度に分散させることができる。フィルムを伸長した場合にも、微小なナノシリカ粒子は延伸部に分散して残留するので、低光沢性の消失が抑えられ、フィルムの白化を効果的に防止することができる。ウレタン樹脂ビーズに隣接して存在するナノシリカ粒子が、ウレタン樹脂ビーズとバインダー間のある種の物理的架橋点として働く可能性もある。このような物理的架橋点として作用しうるナノシリカ粒子の存在により、フィルムを伸長した際のウレタンビーズの脱落が抑制され、フィルムの白化を効果的に防止することができる。
【0036】
いくつかの実施態様では、ナノシリカ粒子は、表面層において、バインダー100質量部を基準として約5質量部以上、約10質量部以上、又は約20質量部以上、約120質量部以下、約110質量部以下、又は約100質量部以下の量で含まれてよい。ナノシリカ粒子の配合量を上記範囲とすることで、伸長可能フィルムの伸長時にも低光沢の外観を維持し、例えば150%伸長時に、明度の上昇すなわち白化を防止又は抑制することもできる。また、ナノシリカ粒子の配合量を上記範囲とすることで表面層に優れた耐擦傷性を付与することができる。
【0037】
表面層は、イソシアネート又は水酸基と反応可能な官能基を有するシリコーン変性ポリマーをさらに含んでもよい。低光沢の表面に指脂が付着するとその痕跡は容易に観察される。イソシアネート又は水酸基と反応可能な官能基を有するシリコーン変性ポリマーを表面層に含ませることで、表面層の耐指紋性を高めることができる。シリコーン変性ポリマーは、表面層の摩擦係数を低下させて滑りによる耐擦傷性を表面層に付与することもできる。シリコーン変性ポリマーのイソシアネート又は水酸基が、バインダー中のウレタン樹脂又はウレタン樹脂ビーズの水酸基又はイソシアネート基と反応してシリコーン変性ポリマーがウレタン樹脂又はウレタン樹脂ビーズに結合していてもよい。この実施態様ではシリコーン変性ポリマーの表面層からのブリードアウトを防止又は抑制することができる。
【0038】
イソシアネート又は水酸基と反応可能な官能基を有するシリコーン変性ポリマーとして、ポリエーテル変性シリコーン、ポリエステル変性シリコーン、アラルキル変性シリコーン、アクリル変性シリコーン、シリコーン変性ポリアクリレート、ウレタン変性シリコーンなどのシリコーン変性ポリマーを使用することができる。シリコーン変性ポリマーのイソシアネート又は水酸基と反応可能な官能基として、水酸基、活性水素を有するアミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、酸無水物基などが挙げられる。耐指紋性に特に優れることから、シリコーン変性ポリマーは、シリコーン変性ポリアクリレートであることが有利である。シリコーン変性ポリマーは、イソシアネート又は水酸基との反応性が高い水酸基又はイソシアネート基、特に水酸基を有することが望ましい。
【0039】
いくつかの実施態様では、イソシアネート又は水酸基と反応可能な官能基を有するシリコーン変性ポリマー、例えばシリコーン変性ポリアクリレートは、表面層において、バインダー100質量部を基準として約0.1質量部以上、約0.5質量部以上、又は約1.0質量部以上、約15質量部以下、約12質量部以下、又は約10質量部以下の量で含まれてよい。シリコーン変性ポリマーの配合量を上記範囲とすることで、表面層の耐指紋性及び/又は耐擦傷性をより高めることができる。
【0040】
表面層は、その他の任意成分として、ウレタン樹脂ビーズ及びナノシリカ粒子以外のフィラー、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、分散剤、可塑剤、フロー向上剤、レベリング剤などの添加剤を含んでもよい。これらの添加剤の個々の及び合計の配合量は、表面層に必要な特性を損なわない範囲で決定することができる。
【0041】
表面層は、上記ウレタン樹脂組成物を含むバインダー前駆体と、4μm以上、20μm以下の平均粒径を有するウレタン樹脂ビーズと、ナノシリカ粒子とを含む、表面コーティング組成物を用いて形成することができる。
【0042】
バインダー前駆体は、ウレタン樹脂組成物に加えて、バインダーに関して上述したセルロースエステルを含んでもよい。セルロースエステルは、表面コーティング組成物に速乾性、指触乾燥性、フロー性、又はレベリング性などを付与することができる。セルロースエステルを、表面コーティング組成物の粘度調整を目的として使用することもできる。
【0043】
表面コーティング組成物は、上述したイソシアネート又は水酸基と反応可能な官能基を有するシリコーン変性ポリマーをさらに含んでもよい。シリコーン変性ポリマーのイソシアネート又は水酸基は、ウレタン樹脂組成物又はウレタン樹脂ビーズの水酸基又はイソシアネート基と反応することで、シリコーン変性ポリマーをウレタン樹脂又はウレタン樹脂ビーズに結合させることができる。これにより、シリコーン変性ポリマーの表面層からのブリードアウトを防止又は抑制することができる。シリコーン変性ポリマーを用いる場合、反応性の観点からウレタン樹脂組成物は2液型ウレタン樹脂組成物であることが有利である。
【0044】
表面コーティング組成物の配合は表面層について説明したとおりである。セルロースエステル、ウレタン樹脂ビーズ、ナノシリカ粒子、及びイソシアネート又は水酸基と反応可能な官能基を有するシリコーン変性ポリマーの配合量は、基準としてバインダー100質量部をバインダー前駆体100質量部に読み替えて適用される。
【0045】
表面コーティング組成物は、作業性、塗工性などを改善するために、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトンなどのケトン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル、テトラヒドロフラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(1-メトキシ-2-プロピルアセテート)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエーテルなどの溶剤をさらに含んでもよい。表面コーティング組成物中の溶剤の配合量は、一般にバインダー前駆体100質量部を基準として、約20質量部以上、又は約30質量部以上、約60質量部以下又は約50質量部以下である。
【0046】
表面コーティング組成物の粘度は、一般に約20mPa・s以上、約50mPa・s以上、又は約100mPa・s以上、約1000mPa・s以下、約800mPa・s以下、又は約600mPa・s以下である。表面コーティング組成物の粘度はB型粘度計を用い、適当なスピンドルを選択して回転数60rpmで測定される。
【0047】
表面層は、表面コーティング組成物を、ナイフコート、バーコート、ブレードコート、ドクターコート、ロールコート、キャストコートなどによって基材上にコーティングし、必要に応じて約80℃~150℃に加熱して乾燥及び/又は硬化することによって形成することができる。
【0048】
表面層の厚みは、例えば約3μm以上、約5μm以上、又は約10μm以上、約50μm以下、約30μm以下、又は約20μm以下とすることができる。本開示における表面層の厚みとは、最も厚い部分の厚み、すなわち最大厚みを意味する。
【0049】
いくつかの実施態様では、表面層は透明又は半透明である。これらの実施態様において、表面層の波長範囲400~700nmにおける全光線透過率は、約80%以上、約85%以上、又は約90%以上であってもよい。これらの実施態様では基材に付与された印刷などの装飾を、表面層を通して視認することができる。
【0050】
伸長可能フィルムは、基材として伸長可能な基材層をさらに含んでもよい。伸長可能な基材層として、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル-酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、及びフッ素樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂層を用いることができる。
【0051】
伸長可能な基材層は有色であってもよく無色であってもよい。伸長可能な基材層は、不透明、半透明又は透明であってよい。伸長可能な基材層は、略平滑な表面を有してもよく、エンボスなどの表面加工により形成することのできる構造化表面を有してもよい。伸長可能な基材層の外観又は形状を上記のとおりとすることで、多様な装飾性を伸長可能フィルムに付与することができる。
【0052】
一実施態様では、伸長可能な基材層は透明ポリ塩化ビニル樹脂層と、有色ポリ塩化ビニル樹脂層とを含む。この実施態様の伸長可能フィルムでは、透明ポリ塩化ビニル樹脂層により有色ポリ塩化ビニル樹脂層が支持又は保護されて、伸長可能フィルムの装飾性に耐久性を付与することができる。この実施態様の伸長可能フィルムは、例えば建造物又は車両の内装材又は外装材に貼り付ける用途に好適に使用することができる。
【0053】
伸長可能な基材層の厚みは、例えば約25μm以上、約50μm以上、又は約80μm以上、約5mm以下、約1mm以下、又は約0.5mm以下とすることができる。
【0054】
いくつかの実施態様において、伸長可能な基材層の引張伸長率は、約10%以上、約20%以上、又は約30%以上、約400%以下、約350%以下、又は約300%以下である。伸長可能な基材層の引張伸長率は、幅25mm、長さ150mmのサンプルを用意し、引張試験機を用いて、温度20℃、引張速度300mm/分、チャック間隔100mmでサンプルを破断するまで伸長したときの、[破断時のチャック間隔(mm)-伸長前のチャック間隔(mm)(=100mm)]/伸長前のチャック間隔(mm)(=100mm)×100(%)で計算される値である。
【0055】
伸長可能な基材層は、表面層とは反対側に接着層を有してもよい。接着層として、一般に使用されるアクリル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ゴム系などの、溶剤型、エマルジョン型、感圧型、感熱型、熱硬化型又は紫外線硬化型の接着剤を使用することができる。接着層の厚さは、一般に、約5μm以上、約10μm以上、又は約20μm以上、約100μm以下、約80μm以下、又は約50μm以下とすることができる。
【0056】
接着層の表面にライナーが付与されていてもよい。ライナーとして、例えば、紙;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、酢酸セルロースなどのプラスチック材料;このようなプラスチック材料で被覆された紙などを挙げることができる。これらのライナーは、シリコーンなどにより剥離処理した表面を有してもよい。ライナーの厚さは、一般に、約5μm以上、約15μm以上又は約25μm以上、約500μm以下、約300μm以下又は約250μm以下である。
【0057】
一実施態様では、伸長可能フィルムの表面光沢度は、測定角を60度としたときに約5GU以下である。いくつかの実施態様では、伸長可能フィルムの表面光沢度は、60度で約0.7GU以下、約0.5GU以下、又は約0.3GU以下である。
【0058】
一実施態様では、伸長可能フィルムの表面光沢度は、20度で約0.2GU以下、60度で約0.7GU以下、85度で約5.0GU以下である。いくつかの実施態様では、伸長可能フィルムの表面光沢度は、20度で約0.2GU以下、60度で約0.5GU以下、85度で約4.5GU以下であるか、20度で約0.1GU以下、60度で約0.3GU以下、85度で約4.0GU以下である。伸長可能フィルムの表面光沢度が上記範囲の組み合わせであることにより、伸長可能フィルムに様々な角度で入射する光の反射を抑制し、幅広い視角から伸長可能フィルムの装飾を認識することができる。
【0059】
いくつかの実施態様では、伸長可能フィルムの明度L*は、分光測色計を用いて光源D65/10°、正反射処理SCI、UV反射0%にて測定したときに、約23以下、約22.5以下、又は約22.0以下である。
【0060】
いくつかの実施態様では、伸長可能フィルムの伸長前の明度をL*
1、150%伸長後の明度をL*
2、明度差をΔL*=L*
2-L*
1としたときに、明度差ΔL*が約3以下、約2.5以下、又は約2.0以下である。この実施態様では、伸長可能フィルムを伸長したときの白化が抑制されている。そのため、伸長可能フィルムを曲げたり伸ばしたりして表面に適用したときに、屈曲部又は伸長部においても伸長可能フィルムの装飾性を維持することができる。
【0061】
本開示の伸長可能フィルムの用途は特に限定されない。例えば、本開示の伸長可能フィルムは、ビル、マンション、住宅等の建造物の壁、階段、天井、柱、仕切り等の内装材、又は外壁等の外装材として使用できる。また、鉄道車両、船舶、飛行機、二輪、四輪を含む自動車等の各種交通車両の内装又は外装として使用できる。さらに、道路標識、看板、家具、電化製品等あらゆる物品の表装材として使用することも可能である。
【実施例】
【0062】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。数値は本質的に測定原理及び測定装置に起因する誤差を含む。数値は通常の丸め処理が行われた有効数字で示される。
【0063】
本実施例で使用した材料、試薬等を表1に示す。
【0064】
【0065】
透明樹脂基材層
厚み80μmのポリ塩化ビニルフィルムにポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを予め加熱ラミネートし、透明樹脂基材層を得た。ポリ塩化ビニルフィルムの組成は、ポリ塩化ビニル/エステル系可塑剤/有機系安定剤(アクリル樹脂、ステアリン酸亜鉛等)=72/16/12(質量比)であった。PETフィルムはテイジン(登録商標)テトロン(登録商標)フィルムG2 50μm厚(帝人フィルムソリューション株式会社、日本国東京都千代田区)であった。
【0066】
例1
表2に示す組成の混合液を自公転型遠心撹拌機THINKY AR-250(株式会社シンキー、日本国東京都千代田区)を用いて3.5分間撹拌して表面コーティング組成物を得た。表面コーティング組成物を、透明樹脂基材層のポリ塩化ビニルフィルム上にナイフコーターを用いギャップを40μmとして塗布し、温度65℃のオーブンで2分間、温度120℃のオーブンで5分間乾燥及び熱硬化させて、乾燥厚み約12μmの表面層を形成した。得られたフィルムからPETフィルムを剥離し、厚み80μmの黒色ポリ塩化ビニルフィルム(ポリ塩化ビニル/エステル系可塑剤/有機系安定剤、顔料等(アクリル樹脂、ステアリン酸亜鉛等)=72/16/12(質量比))と積層し、加熱加工ロールによりライン速度7m/分、ニップ圧力0.2MPa、温度60℃の条件で押圧して伸長可能フィルムを得た。
【0067】
例2~5
ナノシリカ粒子及びウレタン樹脂ビーズの配合量を表2に記載のとおり変更した以外は例1と同様にして表面コーティング組成物を調製し、伸長可能フィルムを得た。
【0068】
例6~8
ナノシリカ粒子の種類を変えたこと以外は例1と同様にして表面コーティング組成物を調製し、伸長可能フィルムを得た。
【0069】
比較例1
表面層を形成しなかった以外は例1と同様にして伸長可能フィルムを得た。
【0070】
比較例2
市販のマット調装飾フィルム(商品名:ダイノック(登録商標)フィルムPS-1183MT(スリーエムジャパン株式会社、日本国東京都品川区))をそのまま伸長可能フィルムとして用いた。
【0071】
比較例3
ナノシリカ粒子を使用せず、ウレタン樹脂ビーズの配合量を表2に記載のとおり変更した以外は例1と同様にして表面コーティング組成物を調製し、伸長可能フィルムを得た。
比較例4
ウレタン樹脂ビーズをアクリル樹脂ビーズに変更し、配合量を表2に記載のとおり変更した以外は例1と同様にして表面コーティング組成物を調製し、伸長可能フィルムを得た。
【0072】
【0073】
表面光沢度
例1~8、比較例1~4、及び参考例1~15について、携帯型光沢計BYKガードナー・マイクロ-トリ-グロス(ビックケミー・ジャパン株式会社、日本国東京都新宿区)を用いて、表面光沢を測定角20°/60°/85°にて測定した。表面光沢度が60°で5GU以下である場合、実用的な低光沢条件を充たすと評価できる。また、測定角20°で0.2GU以下、60°で0.7GU以下、85°で5.0GU以下の3つを満たす場合、極めて良好な低光沢表面外観を示すと評価できる。
【0074】
表面測色
例1~8、比較例1~4、及び参考例1~15について、分光測色計CM-3700d(コニカミノルタジャパン株式会社、日本国東京都港区)を用いて光源D65/10°、正反射処理SCI、UV反射0%にて明度L*値の測定を行った。明度L*値が23以下の場合、低光沢で、良好な明度と評価できる。
【0075】
150%伸長後の明度L*
例1~8、及び比較例1~4について、150mm×15mmに予めカットしたサンプルを、テンシロン万能試験機RTC-1210A(株式会社エー・アンド・デイ、日本国東京都豊島区)を用いて温度20℃、相対湿度60%の環境下で100mm/分の速度で150%伸長した。伸長後のサンプルの表面測色を行った。伸長可能フィルムの伸長前の明度をL*
1、150%伸長後の明度をL*
2、明度差をΔL*=L*
2-L*
1としたときの明度差ΔL*を計算した。明度差ΔL*が3以下である場合、伸長による低光沢性の変化が少ないと評価できる。
【0076】
耐指紋性
例1について、表面層の耐指紋性を人工指脂液により評価した。人工指脂液を表面に滴下し、綿棒で100往復、表面に擦りつけた。その後、溶液を乾燥した又は湿潤した紙ウエスで拭き取った。表面の色変化がほとんどなく、良好な耐指紋性を示した。
【0077】
耐擦傷性
例1について、表面層の耐擦傷性をスチールウール摩擦試験により評価した。直径7.6cm(3インチ)のヘッド面積を有する#0000スチールウールを用い、荷重500グラムで10往復、表面層を擦った。その後、試料を水で洗浄してスチールウールのゴミを除去し、残った水を紙ウエスで拭き取った後、表面層を目視で観察した。目視で確認できるひっかき傷跡はなく、良好な耐擦傷性を示した。
【0078】
接着特性
例1について、接着特性をJIS K5600-5-6:1999に準拠してクロスカット法により評価した。1mm間隔で5×5のグリッドを形成し、851シリコーンテープ(スリーエムジャパン株式会社、日本国東京都品川区)を用いた。表面に層間剥離、剥がれ、及び割れが観察されず、良好な接着特性を示した。
【0079】
例1~8及び比較例1~4の伸長可能フィルムの評価結果を表3に示す。また、
図2Aに、上から順に、例1、比較例1及び比較例2の伸長可能フィルムの伸長前の外観を、
図2Bに、同じ順序で150%伸長後の外観をそれぞれ写真で示す。例1の伸長可能フィルムは低光沢であり伸長後も白化しなかった。比較例1の伸長可能フィルムは高光沢を示した。比較例2の伸長可能フィルムでは伸長後に白化が観察された。
【0080】
【0081】
参考例1~15
ウレタン樹脂ビーズの種類、平均粒径及び配合量、並びにバインダーの種類と、表面光沢度及び明度の関係を調べる目的で、表4に示す組成で例1と同様にして表面コーティング組成物を調製し、伸長可能フィルムを得た。これらの参考例の表面コーティング組成物はナノシリカ粒子を含まない。
【0082】
【0083】
【0084】
参考例1~15の伸長可能フィルムの評価結果を表5に示す。
【0085】
【表5】
本発明の実施態様の一部を以下の態様1~22に記載する。
[態様1]
ウレタン樹脂を含むバインダーと、
4μm以上、20μm以下の平均粒径を有するウレタン樹脂ビーズと、
ナノシリカ粒子と
を含む表面層を有する伸長可能フィルムであって、
表面光沢度が60度で5GU以下である、伸長可能フィルム。
[態様2]
前記ナノシリカ粒子の平均粒径が10nm以上、100nm以下である、態様1に記載の伸長可能フィルム。
[態様3]
前記表面層が、前記バインダー100質量部を基準として、前記ナノシリカ粒子を5質量部以上、120質量部以下含む、態様1又は2のいずれかに記載の伸長可能フィルム。
[態様4]
前記表面層が、前記バインダー100質量部を基準として、前記ウレタン樹脂ビーズを70質量部以上、240質量部以下含む、態様1~3のいずれかに記載の伸長可能フィルム。
[態様5]
前記伸長可能フィルムの伸長前の明度をL
*
1
、150%伸長後の明度をL
*
2
、明度差をΔL
*
=L
*
2
-L
*
1
としたときに、明度差ΔL
*
が3以下である、態様1~4のいずれかに記載の伸長可能フィルム。
[態様6]
前記伸長可能フィルムの表面光沢度が、60度で0.7GU以下である、態様1~5のいずれかに記載の伸長可能フィルム。
[態様7]
前記伸長可能フィルムの表面光沢度が、20度で0.2GU以下、60度で0.7GU以下、85度で5.0GU以下である、態様1~6のいずれかに記載の伸長可能フィルム。
[態様8]
前記バインダーがセルロースエステルをさらに含む、態様1~7のいずれかに記載の伸長可能フィルム。
[態様9]
前記ウレタン樹脂が2液型ウレタン樹脂組成物の硬化物を含む、態様1~8のいずれかに記載の伸長可能フィルム。
[態様10]
前記表面層がイソシアネート又は水酸基と反応可能な官能基を有するシリコーン変性ポリマーをさらに含む、態様1~9のいずれかに記載の伸長可能フィルム。
[態様11]
伸長可能な基材層をさらに含む、態様1~10のいずれかに記載の伸長可能フィルム。
[態様12]
前記基材層が、有色又は無色であり、不透明、半透明又は透明であり、略平滑な表面又は構造化表面を有する、態様11に記載の伸長可能フィルム。
[態様13]
前記基材層が、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル-酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、及びフッ素樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂層を含む、態様11又は12のいずれかに記載の伸長可能フィルム。
[態様14]
前記基材層が、透明ポリ塩化ビニル樹脂層と、有色ポリ塩化ビニル樹脂層とを含む態様11~13のいずれかに記載の伸長可能フィルム。
[態様15]
建造物又は車両の内装材又は外装材に貼り付けられる、態様1~14のいずれかに記載の伸長可能フィルム。
[態様16]
ウレタン樹脂組成物を含むバインダー前駆体と、4μm以上、20μm以下の平均粒径を有するウレタン樹脂ビーズと、ナノシリカ粒子とを含む、表面コーティング組成物。
[態様17]
前記ナノシリカ粒子の平均粒径が10nm以上、100nm以下である、態様16に記載の表面コーティング組成物。
[態様18]
前記バインダー前駆体100質量部を基準として、前記ナノシリカ粒子を5質量部以上、120質量部以下含む、態様16又は17のいずれかに記載の表面コーティング組成物。
[態様19]
前記バインダー前駆体100質量部を基準として、前記ウレタン樹脂ビーズを60質量部以上、180質量部以下含む、態様16~18のいずれかに記載の表面コーティング組成物。
[態様20]
前記バインダー前駆体がセルロースエステルをさらに含む、態様16~19のいずれかに記載の表面コーティング組成物。
[態様21]
前記ウレタン樹脂組成物が2液型ウレタン樹脂組成物を含む、態様16~20のいずれかに記載の表面コーティング組成物。
[態様22]
イソシアネート又は水酸基と反応可能な官能基を有するシリコーン変性ポリマーをさらに含む、態様16~21のいずれかに記載の表面コーティング組成物。
【符号の説明】
【0086】
100 伸長可能フィルム
10 表面層
12 バインダー
14 ウレタン樹脂ビーズ
16 ナノシリカ粒子
20 基材層