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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/14 20060101AFI20220405BHJP
【FI】
C02F1/14 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017209912
(22)【出願日】2017-10-31
(65)【公開番号】P2019081143
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】509172402
【氏名又は名称】株式会社ワンワールド
(73)【特許権者】
【識別番号】512049971
【氏名又は名称】伊藤 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100101708
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 信宏
(74)【代理人】
【識別番号】100194777
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 憲治
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智章
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-002385(JP,A)
【文献】米国特許第04172767(US,A)
【文献】特開昭61-101286(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143848(WO,A1)
【文献】特開昭61-291093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/14
C02F 1/04
B01B 1/00 - 1/08
B01D 1/00 - 8/00
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川、沼、池、湖又は海等の水領域の原料水を処理するための水処理装置において、
太陽熱集熱手段を備え、前記水領域から供給された原料水を前記太陽熱で加熱する加熱部と、
前記加熱部から供給された加熱後の原料水を収容し、空気を気する第一気口と、当該原料水から気化した水蒸気を排出する第一排気口を備えた蒸発槽と、
前記水領域の水中に設置され、前記第一排気口から排出された水蒸気を給気する第二給気口と、当該水蒸気が凝結して落滴した後、空気を排出する第二排気口とを備えた冷却槽と、
前記第一排気口及び第二給気口を連通させ、蒸発槽で気化した水蒸気を冷却槽に供給する第一導通管と、
前記第二排気口及び第一給気口を連通させ、冷却槽から排出された空気を蒸発槽に供給する第二導通管と、
前記水蒸気及び空気を前記蒸発槽及び冷却槽の間で循環させる送風手段と
を備え、
前記蒸発槽は、前記貯蔵液内に下端部が浸漬された一又は複数の第一吸水基材が吊設され、
前記冷却槽は、当該水蒸気を上端部側で吸着するとともに凝結させ、凝結した水滴が下端部側から落滴するようにした一又は複数の第二吸水基材が吊設され、
前記冷却槽の一又は複数の第二吸水基材は、前記水蒸気の流通経路が冷却槽内で蛇行状となるように配設されていることを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
前記冷却槽の一又は複数の第二吸水基材は、当該冷却槽の上方から吊設されて冷却槽内の上部を仕切り、前記水蒸気が第二給気口から供給されて第二排気口から空気が排出されるまでの間に、当該冷却槽内の上部を水平方向に複数回往復可能となる一方通行の流通経路を形成していることを特徴とする請求項1に記載の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川、沼、池、湖又は海等の水領域の原料水を処理するための水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、河川、沼、池又は湖にある水を浄化する方法、或いは、海水を淡水化する方法は、種々開示されており、例えば、これら水領域の原料水を濾過器を通して不純物を除去する方法のほか、当該原料水を加熱して蒸発させ、その後冷却して真水を得る蒸発凝縮方法などがある。当該蒸発凝縮方法においては、以下のような技術が提供されている。
【0003】
例えば、蒸留水を生成する蒸留水器であって、ボイラータンク内に供給された原料水がヒーターで加熱されて蒸発し、その水蒸気が原料水で満たされた冷却タンク内で蛇行して形成された放熱管を流通することで冷却され、また、場合によっては放熱管に対して冷却ファンによる送風を行って冷却され、蒸留水となる蒸留水器が提供されている。(特許文献1)。
【0004】
また、海水を吸い上げて加熱器において太陽熱により加熱し、当該加熱した海水を蒸発器で蒸発させ、海水が蛇行して流通する凝結管を内蔵した凝結器に前記水蒸気を送り込み、当該水蒸気を凝結させて淡水化を図る太陽熱により海水から真水を抽出する方法が提供されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-154691号公報
【文献】特開昭53-002385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、原料水を加熱する加熱手段がヒーターであるため、常時、原料水を蒸発させるには継続的に電力を供給しなければならず、多大な電力コストが掛かるという問題があった。また、当該水蒸気を冷却するための冷却タンクでは、当該冷却タンクに満たした原料水による冷却効果には限度があり、所定の間隔で新しい原料水をポンプ等で吸い上げて供給しなければならず、また、場合によっては放熱管に対して送風ファンを稼働させる必要があるため、水蒸気を冷却する場面においても多大な電力コストが掛かるという問題もあった。一方で、当該冷却タンク内の原料水は、前記放熱管内を流通する水蒸気によってある温度までは加温されたのち、前記ボイラータンク内に供給されるが、当該原料水を蒸発させて水蒸気を生成するには矢張りヒーターによる加熱が必要であり、継続的な電力コストが発生するという問題に変わりはない。
【0007】
また、前記特許文献2に記載の技術では、太陽熱を利用して原料水を加熱しているため、原料水を加熱するための電力コストを要せず、また、水蒸気を冷却する場面においても、凝結器に内蔵した蛇行状の凝結管内にポンプ等で吸い上げた原料水を流通させるだけでよく、多大な電力コストを要するものではない。しかしながら、当該方法では、わざわざ凝結器内に蛇行状の冷却管を設け、且つ、原料水をポンプ等で吸い上げて当該冷却管内に流通させなければならす、また、当該冷却管内を流通する原料水の水量では、前記水蒸気を十分に冷却させることができず、効率的に水蒸気を凝結させることができない可能性があった。
【0008】
そこで、本発明は、従来のような多量の消費電力を要せず、簡易な構成で、且つ、省電力で効率的に処理水を得ることができる水処理装置を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は次のように構成した。すなわち、本発明に係る水処理装置は、河川、沼、池、湖又は海等の水領域の原料水を処理するための水処理装置において、太陽熱集熱手段を備え、前記水領域から供給された原料水を前記太陽熱で加熱する加熱部と、前記加熱部から供給された加熱後の原料水を収容し、空気を気する第一気口と、当該原料水から気化した水蒸気を排出する第一排気口を備えた蒸発槽と、前記水領域の水中に設置され、前記第一排気口から排出された水蒸気を給気する第二給気口と、当該水蒸気が凝結して落滴した後、空気を排出する第二排気口とを備えた冷却槽と、前記第一排気口及び第二給気口を連通させ、蒸発槽で気化した水蒸気を冷却槽に供給する第一導通管と、前記第二排気口及び第一給気口を連通させ、冷却槽から排出された空気を蒸発槽に供給する第二導通管と、前記水蒸気及び空気を前記蒸発槽及び冷却槽の間で循環させる送風手段とを備え、前記蒸発槽は、前記貯蔵液内に下端部が浸漬された一又は複数の第一吸水基材が吊設され、前記冷却槽は、当該水蒸気を上端部側で吸着するとともに凝結させ、凝結した水滴が下端部側から落滴するようにした一又は複数の第二吸水基材が吊設され、前記冷却槽の一又は複数の第二吸水基材は、前記水蒸気の流通経路が冷却槽内で蛇行状となるように配設されていることを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る水処理装置は、請求項1に記載の構成において、前記冷却槽の一又は複数の第二吸水基材が、当該冷却槽の上方から吊設されて冷却槽内の上部を仕切り、前記水蒸気が第二給気口から供給されて第二排気口から空気が排出されるまでの間に、当該冷却槽内の上部を水平方向に複数回往復可能となる一方通行の流通経路を形成していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る水処理装置によれば、河川等の水領域から供給された原料水を前記蒸発槽で気化させ、当該水蒸気を送風手段によって冷却槽まで流通させるとともに、当該冷却槽で前記水蒸気を凝結させて浄水させる上で、前記加熱部に太陽熱集熱手段を備えたことにより、太陽熱によって電力を要さず原料水を加熱でき、また、冷却槽を前記水領域の水中に設置したことにより、水領域の多量の原料水をそのまま利用して効率的に水蒸気の凝結を促して処理水を得ることができる。そのため、送風手段にかかる電力のみで原料水を浄化でき、電力コストを従来に比べ大幅に削減することができる。また、簡易な構成であるため、その設置コストも軽減することができ、発展途上国、砂漠又は秘境等であっても容易に設置が可能であり、太陽光パネル又は風車等の自然エネルギー発電装置を併設すれば、その場で効率的に処理水を得ることができる。
【0019】
さらに、前記送風手段による送風は、前記冷却槽を経ることで乾燥し、第二導通管から蒸発槽の第一給気口へと還流されるため、すなわち、当該還流された空気は、当該循環サイクルを経る前よりも乾燥した空気として蒸発槽へ送風されるため、前回よりも蒸発槽内の原料水に対して気化現象を一層促進することができ、それゆえ、冷却槽での処理水の発生を促進することができる。
【0024】
そして、前記第一吸水基材及び第二吸水基材を設けたことにより、第一吸水基材の下端部が蒸発槽に貯蔵された原料水に浸漬されており、当該第一吸水素材内部に原料水から水分のみが瞬時に浸透し、当該水分が前記送風手段の送風によって気化し、水蒸気となって前記冷却槽へと送り出される。当該水蒸気は、第二吸水基材の第二吸水基材内部に吸着され、当該第二吸水素材内部を下方に浸透していくうちに熱を放出して凝結し、その下端部から処理水の水滴となって冷却槽内に落滴し、冷却槽に処理水を貯留することができる。
【0026】
さらに、前記冷却槽の複数の第二吸水基材を前記水蒸気の流通経路が蛇行状になるように並べたことにより、当該複数の第二吸水基材の間で水蒸気をより長い経路で流通させて効率的に吸着させることができ、処理水の生成をより促進させることができる。
【0027】
或いは、冷却槽の内部を前記第二吸水基材で仕切り、水蒸気が冷却槽内で複数回往復するようにその流通経路を形成することにより、大型化せずとも冷却槽の内部スペースを有効に利用し、簡素な構成で、より一層効率的に処理水を生成することができる。また、水蒸気の流通経路を一方通行に形成することにより、当該水蒸気を冷却槽3内でスムーズに流通させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る水処理装置の構成を示す概略図である。
図2】冷却槽の内部構成を示す平面図である。
図3】他の第一導通管の構造を示す図である。
図4】他の第一導通管の構造を示す図である。
図5】複数の蒸発槽の構成を示す図である。
図6】複数の蒸発槽の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面に基づいて本発明を具体的に説明する。まず、図1は、本発明に係る水処理装置1の構成を示す概略図である。水処理装置1は、基本的な構成として、水領域Wから原料水Xを給水する給水手段2と、当該原料水Xを加熱する加熱部3と、前記原料水Xが貯蔵される蒸発槽4と、前記原料水Xから気化した水蒸気を凝結させて処理水Yを得る冷却槽5と、前記原料水Xから気化した水蒸気を冷却槽5へと流通させる第一導通管6及び水蒸気凝結後の空気を冷却槽5から蒸発槽4へと流通させる第二導通管7と、当該水蒸気及び空気を循環させる送風手段8によって構成されており、前記蒸発槽4には第一吸水基材41が吊設され、前記冷却槽5には第二吸水基材51が吊設されている。なお、図中の符号Sは、太陽を示す。
【0030】
また、前記給水手段2と加熱部3の間には、前記原料水に含まれる汚泥物を沈殿させる沈殿槽9が設けられている。さらに、前記第二導通管7には、第二導通管7内を流通する空気を加熱するための加熱部10が設けられている。
【0031】
給水手段2は、河川、池、沼、湖又は海等の水領域Wから原料水Xを当該水処理装置1へと供給するためのポンプである。給水手段2により吸い上げられた原料水Xは、本実施例においては、前記沈殿槽9へと流通される。なお、当該給水手段2は、前記水処理装置1へと原料水Xを供給できればどのようなものであってもよく、河川の水流や海の海流の勢い等を利用して原料水Xを配管内に流し込むように水処理装置Xへ供給できれば、そもそも給水手段2を設けなくともよい。
【0032】
また、沈殿槽9は、河川等の水領域Wの汚染度に応じて設置するものであって、汚泥物Zを含まない比較的きれいな水領域Wの原料水Xを水処理する場合には、特段設けなくともよい。一方、汚泥物Zを多く含んだ汚染度の高い水領域Wでは、当該沈殿槽9を設け、前記加熱部3に原料水Xを供給する前に当該沈殿槽9で汚泥物Zを沈殿させて除去することにより、当該加熱部3で原料水Xを効率的に加熱することができる。
【0033】
前記加熱部3は、太陽熱を使用して原料水Xを加熱するものであって、太陽熱集熱手段を備えている。当該太陽熱集熱手段は、特に具体的には図示しないが、複数の反射板を傾斜させて設置し、当該反射板によって前記原料水Xが流通する管に太陽熱を集熱させるとともに、当該管の表面を黒色に着色したものである。当該太陽光集熱手段は、これに限られるものではなく、流通する原料水Xを太陽熱で十分に加熱することができれば、どのような構成であってもよい。また、当該加熱部3において、前記原料水Xが流通する管は、図示のように蛇行状に形成されており、原料水Xが当該蛇行状の管内を流通する間に十分に加熱される構成となっている。当該加熱部3は、原料水Xを前記蒸発槽4で気化させることを考慮すると、当該原料水Yの温度が約70℃まで加熱するように構成することが好ましい。
【0034】
前記蒸発槽4は、開閉を可能とし、閉鎖時には密閉された筐体であって、内部に前記加熱部3から供給された原料水Xが蒸発槽4の下方に設けられた流入口44から流し込まれて、わずかに温度が低下した約60℃で貯留される。当該蒸発槽4の内部では、複数の第一吸水基材41が吊設されており、その下端部が原料水Xに浸漬されている。なお、当該下端部が原料水Xに浸漬可能に構成できれば、蒸発槽4の上方から吊設したり、下方に載置したりすることも可能である。また、蒸発槽4は、前記送風手段8によって送風された空気が供給される第一給気口42と蒸発槽4の原料水Xから第一吸水基材41を介して気化した水蒸気を排出する第一排出口43が形成されている。なお、図示はしないが、当該蒸発槽4には、原料水Xが気化した後の残渣を取り出すための排出口が開閉可能に設けられている。
【0035】
前記第一吸水基材41は、本出願人が開発した800~2000℃の高温範囲で1℃刻みに加熱できる特別に構成された焼成炉を使用し、厳密な温度制御の下に長時間焼成することにより、多孔質構造の各孔径が水分子と同径に形成された合成ゼオライトでできており、貯蔵液Xに浸漬されると、この多孔部分で水分子だけを瞬時に吸着できるように機能し、水蒸気を吸着した場合には、水蒸気を凝結させて蒸留水として抽出できる機能を発揮できるものである。同じ機能を発揮する吸水素材としては、ナノカーボン材を使用したり、水分子径に織り込まれた布地などを用いて構成することもできる。また、他にも、吸水性に優れた布地やシリカゲル等の吸水性の素材を用いて板状の第一吸水基材41としてもよく、吸水性に優れて前記原料水Xを吸い上げて気化を促すものであれば特に限定されるものではなく、その表面積が広くなる程に気化する水蒸気の量も増加する。本実施例では、蒸発槽4に第一吸水基材41を設けて水蒸気の気化を促進させたが、当該第一吸水基材41を設けずとも、前記加熱部3で加熱された原料水Xは、蒸発槽4において水蒸気に気化するのであって、そのため、当該蒸発槽4の内部に第一吸水基材41を設けない構成とすることも可能である。
【0036】
冷却槽5は、開閉を可能とし、閉鎖時には密閉された筐体であって、前記水領域Wの水中に設置されている。また、冷却槽5の内部には、上方から凝結用基材として複数の第二吸水基材51が吊設されている。当該第二吸水基材51は、前記第一吸水基材41と同じものであり、前記蒸発槽4から第一導通管6を介して流通された水蒸気を当該第二吸水基材51に吸着させ、その内部を下方に浸透しながら熱を下げて順次凝結させ、第二吸水基材51の下端部から下方に落滴し、処理水Yが冷却槽5に貯留するように構成されている。また、冷却槽5には、前記蒸発槽4からの水蒸気を給気する第二給気口52と、水蒸気を失った空気を排出する第二排出口53が形成されている。また、冷却槽5は、水領域Wの水中に設置されているため、当該水領域Wの多量の原料水Xを用い、且つ、前記水蒸気に比して低温の前記水領域Wの水温によって効率的に水蒸気の凝結を促すことができ、前記第二吸水基材51を設けずとも水蒸気を凝結させることは可能であって、そのため、当該冷却槽4の内部に第二吸水基材51を設けない構成とすることも可能である。なお、第二吸水基材51は、前記第一吸水基材41と同様のものであり、吸水性に優れた布地やシリカゲル等の吸水性の素材を用いて板状の第二吸水基材51としてもよく、吸水性に優れてその表面に水蒸気を付着させて凝結を促すものであれば特に限定されるものではなく、その表面積が広くなる程に凝結する水蒸気の量も増加する。また、冷却槽5は、本実施例の図示においては、上端側の一部が水面から露出した状態で設置されているが、一部だけでなく冷却槽5全体を水中に設置してもよい。
【0037】
このようにして貯留した処理水Yは、冷却槽5の下方に設けられた排出口54からポンプ11によって吸い上げて排出され、飲料水等として利用したり、元の水領域Wに戻されて当該水領域Wの水質向上に利用したりすることができる。なお、当該処理水Yを水領域Wの水中に排出する等、当該処理水Yを吸い上げる必要がなければ、ポンプ11を設けなくともよい。
【0038】
前記第一導通管6は、前記蒸発槽4の第一排気口43と冷却槽5の第二給気口52を連通し、蒸発槽4で気化した水蒸気を冷却槽5へと流通させるものである。第一導通管6は、前記冷却槽4へと水蒸気を流通させる前に、水領域Wの水中で蛇行状に形成されている。当該水蒸気は、水領域Wの水中で蛇行状に形成された第一導通管6内を、水領域Wの水温によってその温度を低下させながら流通し、冷却槽5へと送り込まれる。
【0039】
このようにして、冷却槽5及び第一導通管6が水領域Wの水中に設置されていることにより、水冷却槽5内の温度は、約20℃にまで低下し、冷却槽5において、より一層水蒸気の気化を促進できるため、効率的に処理水Yを得ることができる。
【0040】
前記第二導通管7は、前記冷却槽5の第一排気口53と蒸発槽4の第一給気口42を連通し、冷却槽5で水蒸気を失った空気を蒸発槽4へと還流させるものである。当該空気は、水分を失った乾燥した空気であるため、蒸発槽4へと還流させると、より一層蒸発槽4での水蒸気の気化を促すことができる。また、第二導通管7には、前記加熱部3と同じ構成の加熱部10が設けられている。これにより、当該空気は、第二導通管7内を流通しながら加熱された温かい空気となって蒸発槽4へと還流される。これにより、より一層蒸発槽4での水蒸気の気化を促すことができるようになる。
【0041】
前記送風手段8は、送風ファンであって、蒸発槽4近傍の第二導通管7内に設置されており、当該送風手段8の送風によって蒸発槽4で気化した水蒸気を第一導通管6へと送り出すものである。当該送風手段8は、本実施例では第二導通管7に設けて前記水蒸気を第一導通管6へと送り出すように構成したが、これを第一導通管6内に設けて前記水蒸気を第一導通管6へと吸い込むように構成してもよく、また、その両方に設けてもよく、さらに、第一導通管6又は第二導通管7の任意の箇所に適宜設けてもよい。
【0042】
このように構成された水処理装置1の循環サイクルは、以下の通りである。まず、水領域Wの原料水Xは、給水手段2によって沈殿槽9に供給され、当該沈殿槽9で汚泥物Z等を沈殿させて除去される。その後、加熱部3で約70℃にまで温められた原料水Xは、蒸発槽4へと送り込まれる。蒸発槽4に貯留された原料水Xは、前記加熱部3で温められたことによって当該蒸発槽4で気化して水蒸気となり、また、その水分子だけが瞬時に前記第一吸水基材21に吸着され、蒸発槽4の内部で気化して水蒸気となる。そして、当該水蒸気は、送風手段8の送風によって第一排出口42から排出され、水領域Wの水中に設置された蛇行状の第一導通管6を流通して冷却されながら、冷却槽5へと送り込まれる。
【0043】
このようにして冷却槽4内へと送り込まれた水蒸気は、水領域Wの水中に設置された冷却槽5内で冷やされ、凝結して冷却槽5内に貯留されていく。また、冷却槽5内の第二吸水基材51に水蒸気が吸着し、第二吸水基材51の内部を下方に浸透ながら熱を放出して凝結し、第二吸水基材51の下端部から水滴となって落下し、冷却槽5内に貯留されていく。そして、水蒸気を失って乾燥した空気は、第二排出口53から排出されたのち、加熱部10で加熱され、温度が高く乾燥した空気として蒸発槽4へと還流される。このように、一度還流した空気は、当該還流サイクルを経る前よりも温度が高く乾燥しているため、より一層原料水Xの気化現象を促すことができる。
【0044】
最後に、冷却槽5に貯留された処理水Yは、排出口54から排出され、飲料水等として利用したり、元の水領域Wに戻されて当該水領域Wの水質向上に利用したりすることができる。
【0045】
なお、当該循環サイクルにおいて、前記の通り、第一吸水基材41及び第二吸水基材51を設けずとも、太陽熱の加熱によって原料水Xを蒸発させたり、水領域Wの原料水Xの水温によって水蒸気を冷却して凝結させることは可能である。また、河川の水流等の水の勢いを利用して原料水Xを加熱器3に供給したり、または、水領域Wの水面よりも低い位置に水処理装置1を設置し、高低差を利用して高い位置の水領域Wから低い位置の水処理装置1へ原料水Xを流し込んだり、冷却槽5よりも低い位置に処理水Yを排出するようにしてもよい。その場合、給水手段2としてポンプ等又はポンプ11といった電力を要する装置を設ける必要がなく、送風手段8の電力のみによって水処理装置1で浄水を行うことができる。
【0046】
このような水処理装置1によれば、従来に比べてより低コストで、且つ、効率的に原料水Xから処理水Yを生成することができ、また、簡易な構成であるため、その設置コストも軽減することができる。特に、電力供給の安定しない発展途上国等において、当該水処理装置1は、給水手段2やポンプ11を要しない場合は、送風手段7に要する電力供給のみで運用可能であるため有用である。
【0047】
上記実施例では、前記第二吸水基材51は、冷却槽5内に吊設したが、これを水蒸気の流通経路が蛇行状になるように配置してもよい。図2は、冷却槽5内の第二吸水基材51を示す平面図である。具体的には、図2に示すように、複数の第二吸水基材51は、第二給気口52から供給された水蒸気が冷却槽5内で蛇行状に流通するように配置されている。
【0048】
また、蛇行状以外であっても、複数の第二吸水基材51は、前記水蒸気が第二給気口52から供給されて第二排気口53から空気が排出されるまでの間に、当該冷却槽5内の上部を水平方向に複数回往復可能となる一方通行の流通経路を形成するように配置してもよい。
【0049】
これにより、当該複数の第二吸水基材51の間で水蒸気を長い経路で流通させ、より効率的に第二吸水基材51に水蒸気を吸着させることができ、より多くの処理水Yを得ることができるとともに、冷却槽5の内部スペースを有効に利用することで、冷却槽5の小型化を図ることもできる。なお、当該第二吸水基材51の配置方法は、これに限られるものではなく、例えば、図3の平面図に示すように、水蒸気の流通経路として複数回に亘って冷却槽5内を往復させることができるものであってもよい。なお、図3に示した冷却槽5の第二給気口52及び第二排気口53は、当該冷却槽5の上面に設けられている。
【0050】
また、上記実施例では、水領域Wの水中に設置した第一導通管6を蛇行状に形成したが、図4に示すような螺旋状、あるいは、図5に示すような複数に分岐した構成とすることも可能であり、長い経路を通過させることにより水蒸気の温度を低下させることで、冷却槽5での水蒸気の凝結を促進させることができる。
【0051】
また、図6に示すように、前記蒸発槽4を二つ又は三つ以上で複数設けてもよく、加熱部3で加熱した原料水Xを各蒸発槽4に供給して気化させ、各蒸発槽4から第一導通管6を通じて水蒸気を冷却槽5へと送り込む。そして、冷却槽5で水分を失った乾燥した空気が冷却槽5から排出され、前記加熱部10で温められて前蒸発槽4へと還流される。また、図示においては、各蒸発槽4の第一給気口42側に送風手段8を夫々設置しているが、前記実施例と同様に、第一導通管6又は第二導通管7の少なくとも一方に送風手段8を設ければよい。このように、複数の蒸発槽4を設けたことで、前記原料水Xの気化をより促進でき、より多くの水蒸気を冷却槽5へ流通させることで、処理水Yの生成を増大させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係る水処理装置1は、簡易な構成且つ省電力で処理水Yを生成することができ、給水手段2やポンプ11に要する電力を除けば、送風手段8に要する電力供給のみで運用できるため、発展途上国、砂漠又は秘境等であっても、例えばわずかな太陽光パネル等を併設すれば、省電力且つ効率的に処理水Yを生成することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 水処理装置
2 給水手段
3 加熱部
4 蒸発槽
41 第一吸水基材
42 第一給気口
43 第一排気口
5 冷却槽
51 第二吸水基材
52 第二給気口
53 第二排気口
6 第一導通管
7 第二導通管
8 送風手段
9 沈殿槽
10 加熱部
X 原料水
Y 処理水
Z 汚泥物
図1
図2
図3
図4
図5
図6