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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】異なる材料を有する注射器
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/34 20060101AFI20220405BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20220405BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
A61M5/34 510
A61M5/34 530
A61L31/04 110
A61L31/06
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017247822
(22)【出願日】2017-12-25
(65)【公開番号】P2018108363
(43)【公開日】2018-07-12
【審査請求日】2019-01-31
【審判番号】
【審判請求日】2021-01-07
(31)【優先権主張番号】10 2017 200 007.4
(32)【優先日】2017-01-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100156812
【弁理士】
【氏名又は名称】篠 良一
(72)【発明者】
【氏名】ユーディト アウアーバッハ
(72)【発明者】
【氏名】バスティアン フィッシャー
(72)【発明者】
【氏名】ヘレナ デアクセン
【合議体】
【審判長】内藤 真徳
【審判官】井上 哲男
【審判官】栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/144026(WO,A1)
【文献】特開昭59-11869(JP,A)
【文献】特開平8-215307(JP,A)
【文献】特開平10-272183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射筒(1,101,201)と、
遠位開口部(5)を含む注射先端(3,103,203)と、前記注射先端の領域に配置された接続部(10,100,200)と、を備え、
前記注射筒(1,101,201)は、第一の材料からなり、かつ前記接続部(10,100,200)は、第二の材料からなり、前記第一の材料は前記第二の材料とは異なり、かつ前記第二の材料は、前記第一の材料よりも軟質の材料であり、
前記第一の材料は、シクロオレフィンコポリマー(COC)またはシクロオレフィンポリマー(COP)である、注射器であって、
前記注射筒(1,101,201)は、前記注射器の第一の部材を構成し、かつ前記接続部(10,100,200)は、第二の部材を構成し、かつ前記第一の部材と前記第二の部材とは、互いに溶接結合されており、前記第二の材料のノッチ付き衝撃強さが、2kJ/m2より大きいことを特徴とする、注射器。
【請求項2】
前記接続部(10,100,200)は、ねじ(12,112,212)であり、かつ、前記第二の材料からなることを特徴とする、請求項1記載の注射器。
【請求項3】
前記第一の材料は、所定の弾性率を有し、かつ前記第二の材料は、前記第一の材料の弾性率よりも10~60%低い弾性率を有することを特徴とする、請求項1または2記載の注射器。
【請求項4】
前記第一の材料の弾性率は、2500超~3500MPaの範囲にあり、かつ前記第二の材料の弾性率は、1200~2500MPaであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の注射器。
【請求項5】
前記第一の材料の弾性率は、2700~3200MPaであり、かつ前記第二の材料の弾性率は、1500~1800MPaであることを特徴とする、請求項4記載の注射器。
【請求項6】
前記第二の材料は、熱可塑性エラストマー(TPE)、エラストマー、ポリプロピレン(PP)、ポリカルボナート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)またはCOC-Eであることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の注射器。
【請求項7】
前記第一の材料および前記第二の材料は、100℃の温度で滅菌可能である材料を含むことを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の注射器。
【請求項8】
前記第一の材料および前記第二の材料は、最大180℃の温度で滅菌可能である材料を含むことを特徴とする、請求項7記載の注射器。
【請求項9】
前記接続部(10,100,200)は、所定の外部幾何学形状を有し、かつ前記外部幾何学形状は、ルアーロックアダプターの外部幾何学形状に相当することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の注射器。
【請求項10】
次の工程:
第一の材料からなる注射筒(1,101,201)および
前記第一の材料より軟質の第二の材料からなる接続部(10,100,200)を準備し、ここで、前記第二の材料は、前記第一の材料の弾性率よりも10~60%低い弾性率を有し、前記第一の材料は、シクロオレフィンコポリマー(COC)またはシクロオレフィンポリマー(COP)であること、
前記接続部(10,100,200)と前記注射筒(1,101,201)とを互いに溶接により結合することにより得ること
を含む、請求項1に記載の注射器の製造方法。
【請求項11】
前記接続部(10,100,200)は、ねじ(12,112,212)を含むことを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
次の工程:
第一の材料からなる注射筒(1,101,201)および
前記第一の材料より軟質の第二の材料の1つからなる接続部(10,100,200)である、ねじ(12,112,212)を準備し、ここで、前記第二の材料は、前記第一の材料の弾性率よりも10~60%低い弾性率を有し、前記第一の材料は、シクロオレフィンコポリマー(COC)またはシクロオレフィンポリマー(COP)であること、
前記接続部(10,100,200)と前記注射筒(1,101,201)とを溶接により互いに結合すること
を含む、請求項1に記載の注射器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射筒および注射先端を備え、注射先端は遠位開口部を含み、かつ注射先端の領域に配置された、特にねじの形で接続部を含み、注射筒は、第一の材料からなり、かつ接続部は、第二の材料からなる注射器に関する。
【0002】
多数の特許から、注射器の先端に手動で取り付けられる多様なコネクタ用の接続部を有する注射器は公知である。
【0003】
この種の注射器を、例えば米国特許出願公開第2013/079276号明細書が提示している。米国特許出願公開第2013/079276号明細書から、注射先端の上方のねじ内へ、輸送キャップ、静脈内ポート、または注射針を螺挿することができる注射筒は公知となっている。例えば輸送キャップがねじに螺挿される場合、注射先端を保護することができる。
【0004】
独国実用新案第20215807号明細書から、ルアーロック接続部の領域にねじを備えた注射器は公知となっていて、この場合、ねじは注射筒の一部である。独国実用新案第20215807号明細書によるルアーロック接続部は雌ねじを有し、この雌ねじは、注射先端の領域に配置されている。
【0005】
DE69226166T2は、同様にプラスチック注射器を提示していて、この場合、針接続部分は、ルアーコーンと、内側の周壁の周囲にねじ山を備えた外壁とを備えた標準通りのルアーロック接続部の形状を有する。
【0006】
類似の配置は、欧州特許出願公開第1080742号明細書または欧州特許出願公開第1410819号明細書からも公知となっている。欧州特許出願公開第1080742号明細書においても、欧州特許出願公開第1410819号明細書においても、コネクタ用の接続部として利用するねじは、ルアーコーンの一部である。ルアーコーンの一部に、コネクタまたは注射針などのための接続部の雌ねじが取り付けられている類似のシステムを、欧州特許出願公開第1923086号明細書および欧州特許出願公開第3042689号明細書が提示する。
【0007】
国際公開第2012/116790号から、注射シリンダと、注射シリンダの遠位端部に設けられた針取付部とを備えていて、注射器が閉鎖部を有し、この閉鎖部は針取付部を密に閉鎖する閉鎖キャップと安全キャップとを有し、この安全キャップは閉鎖キャップを把持し、かつ保持リングを介して針取付部に固定されている注射器が公知となっている。この注射器は、少なくとも安全キャップと閉鎖キャップとが一体式に構成されていることにより特徴付けられる。
【0008】
確かに、国際公開第2012/116790号では、保持リングを、閉鎖キャップと安全リングと同様に、熱可塑性エラストマー(TPE)またはポリプロピレンから作製することができることが述べられている。他の頁では、針取付部は好ましくはガラスを有するかまたはガラスからなる。シクロオレフィンコポリマー(COC)またはシクロオレフィンポリマー(COP)を含む硬質プラスチック材料からなる針取付部および注射器の実施態様を、国際公開第2012/116790号は提示していない。
【0009】
注射器シリンダ用の材料としてCOCまたはCOPを使用する場合に、接続部もしくはねじと、このねじ内へ螺挿された、コネクタに所属する対応ねじとの間の機械応力が、注射筒の材料内に亀裂を生じさせることがあり、これによりこの注射器の機能が損なわれるという問題が生じる。最悪の場合には、この種の機械応力が、注射器自体の損傷または注射器の漏れを引き起こす。これは、例えば、注射筒の材料として、COC(シクロオレフィンコポリマー)またはCOP(シクロオレフィンポリマー)を選択する場合に当てはまる。
【0010】
確かに、米国特許第8,038,182号明細書および欧州特許出願公開第0838229号明細書は、COCからなる注射筒も提示している。COCからなる注射筒の損傷を避けるために、米国特許第8,038,182号明細書は、ルアーロックのねじ内へ螺挿される接続部の手間のかかる構造を提案していて、このルアーロックの場合、接続部ねじ内での上方または下方に向かう力により、接続部がフリースペース内に拡がり、かつ破壊を引き起こしかねない注射筒への半径方向の力が避けられることが生じる。欧州特許出願公開第0838229号明細書の場合には、保持エレメントの取り付けにより破壊が避けられる。
【0011】
先行技術による全体の実施態様の欠点は、接続部分、例えばルアーロックのねじが、注射器自体と同じ材料を有することであった。このことは、接続部、例えばねじと、ねじ内へ螺挿されたコネクタに所属する対応ねじとの間の機械応力が、注射筒の材料内で亀裂を生じさせ、それにより注射器の機能は損なわれる。最悪の場合には、この種の機械応力が、注射器自体の損傷および注射器の漏れを引き起こしかねない。これは、特に、注射筒の材料が、硬質材料、例えばCOC(シクロオレフィンコポリマー)またはCOP(シクロオレフィンポリマー)からなり、かつコネクタが、PC(ポリカルボナート)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PE(ポリエチレン)またはPA(ポリアミド)からなる場合に当てはまる。
【0012】
亀裂の問題を避けるために、全体の注射筒が軟質プラスチック材料からなる場合、確かにポリプロピレン(PP)からなる注射筒は、コネクタによる応力を材料特性により補償することができるが、ポリプロピレン(PP)からなる注射筒内での製剤学的媒体は拡散挙動に基づき数ヶ月を超えて貯蔵することができないという問題が生じる。
【0013】
他の問題は、例えばルアーロックのねじ内へ螺挿されるべきコネクタは、ルアーロックのねじの材料と結合するPC、PVC、ポリエチレン(PE)のような多数の異なる材料を有することにある。目下のコネクタの他の問題は、コネクタを一般に手動でねじ内へねじ込み、かつこのトルクは例えば12Ncm~56Ncm、好ましくは12Ncm~80Ncmの広い範囲にわたって変動することがあることに見ることができる。この応力は、ねじまたはコネクタに亀裂が生じることを引き起こす。最悪の場合には、それどころか、この応力に基づき破壊が生じることがある。
【0014】
したがって、本発明の課題は、先行技術の欠点を克服すること、および、特に、注射筒の材料に欠陥を生じさせずに、多様なコネクタの取り付け、もしくは接続が可能である注射器を提供することである。
【0015】
本発明の場合に、この課題は、請求項1の特徴を有する注射器により解決される。
【0016】
遠位開口部を有する注射先端と、注射先端の領域内に配置された接続部とを備えた本発明による注射筒の場合、接続部と注射筒との材料は異なる。この場合、注射筒は第一の材料からなり、かつ接続部、特にねじは、少なくとも部分的に第二の材料からなる。本発明の場合に、第二の材料は、第一の材料よりも軟質の材料である。第二の材料は、熱可塑性エラストマー(TPE)、エラストマーまたはポリプロピレン(PP)、ポリカルボナート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、または比較的高いノッチ付き衝撃強さおよび/または比較的低い弾性率を有することにより特徴付けられるCOC-Eであることができる。この第二の軟質材料は、好ましくは、例えばコネクタを接続部に螺挿する際に高い力が生じる箇所で使用される。この場合、高い力の箇所に部分的な形成も可能である。
【0017】
本出願において、より軟質な材料とは、弾性率が、硬質材料の弾性率よりも10~60%低い材料であると解釈される。好ましくは、第一の硬質材料の弾性率は、2500超~3500MPa、好ましくは2700~3200MPaの範囲にあり、かつより軟質な第二の材料は、1200~2500MPa、好ましくは1500~1800MPaの範囲にある。
【0018】
さらに、第二の軟質材料は、2kJ/m2より大きな高いノッチ付き衝撃強さにより特徴付けられる。
【0019】
ノッチ付き衝撃強さとは、衝撃的な(動的な)応力に対する素材の耐久性についての程度であると解釈される。単位は、単位面積当たりのジュール[J/cm2]で表される破壊面に対して行われたノッチ付き衝撃仕事である。一般に、軟質材料は、高いノッチ付き衝撃強さを有するが、それに対して硬質材料は、低いノッチ付き衝撃強さを有する材料である。COCのような脆性の材料は、2kJ/m2未満のノッチ付き衝撃強さを有する。
【0020】
接続部、つまり特にねじの領域内に、注射筒自体のための材料よりも軟質の材料を使用することにより、コネクタまたはアダプタをねじ内へ螺挿する際に生じることがある荷重および力の頂点を、このより軟質な材料が吸収し、かつこれらを注射筒に伝えないことも可能になる。軟質プラスチック材料を使用することにより、例えば力の頂点、トルクなどのような多様な荷重を補償することが可能である。好ましくは、接続部の幾何学形状は、ルアーロックアダプタ(LLA)の幾何学形状を有する。これは、多種多様な接続エレメント、特にコネクタおよびアダプタと協働することができる標準注射器を提供することを保証する。
【0021】
接続部、特にねじの領域内のより軟質な材料は、確かに機械的荷重が発生することを抑制することができないが、このより軟質な材料は、例えばコネクタをねじ込む場合の力の頂点を受け止めかつ注射筒に一様に分配するために、緩衝材として用いられる。この軟質材料は、したがって、一種の緩衝材である。この軟質材料は、ねじの幾何学形状であることも、コネクタのねじと、接続部として利用される注射筒のねじとの間で緩衝材として導入されることも可能である。
【0022】
注射筒の第一の硬質材料は、好ましくは、シクロオレフィンコポリマー(COC)またはシクロオレフィンポリマー(COP)である。シクロオレフィンコポリマーまたはシクロオレフィンポリマーを使用する利点は、これらの材料が、液体、特に液状の医薬品を、数年であることができる比較的長い期間にわたり、体積損失なしで、または極めて低い体積損失で貯蔵することを可能にする高い水蒸気遮断性を示すことである。
【0023】
発明者は、COCおよびCOPを注射筒用の材料として使用する際に、コネクタ用の接続部、例えばルアーロックが、注射筒よりも軟質の材料から作製されている場合に、亀裂形成の問題を回避することができることを見出した。より軟質な材料を使用することにより、高いトルクの場合であっても、ねじまたはコネクタの応力、およびそれにより、注射器内のこの応力に基づく破壊を回避することを達成することができる。
【0024】
より軟質な第二の材料として、好ましくはエラストマー、特に熱可塑性エラストマー(TPE)またはCOC-Eを使用する。他の可能なポリマーは、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリカルボナート(PC)、ポリアミド(PA)であることもできる。
【0025】
製剤学的製品の範囲内で注射器を使用することができるために、注射筒の第一の材料も、接続部の第二の材料も、>100℃、特に>121℃、特に最大180℃の温度で滅菌可能である材料を含むことが必要である。この種の材料の例は、注射筒用にはCOCまたはCOPであり、かつコネクタ用にはCOC-E、TPE、PP、PE、PCまたはPAである。
【0026】
注射筒が注射の第一の部材であり、かつ接続部、特にねじおよび場合によっては先端が第二の部材である場合が特に好ましい。第一の部材と第二の部材とは、個別の部材であり、これらは、例えば溶接により結合しなければならない。しかしながら、第一の部材と第二の部材との結合は、多様な方法様式で行うことができる。機械的結合、および/または素材結合式に、および/または摩擦結合式におよび/または形状結合式の結合が可能である。
【0027】
注射筒と接続部との間の結合は、第一の部材が第二の部材と結合しているが、この結合は予め決まった力で解除することができ、つまり第一の部材は第二の部材と限定的に解除可能に結合されているように構成されている場合が特に好ましい。この種の構造の場合に、一義的な過荷重の際に、視認することができない重大な箇所、例えば封止箇所の代わりに、定義された箇所で目に見える破壊が起きる。
【0028】
本発明による注射器の製造の際に、多様な可能性が考慮できる。第一の方法は、注射筒が第一の材料からなり、かつ接続部、特にねじが第二の材料からなり、第二の材料は、第一の材料よりも軟質であり、かつ第一の材料と第二の材料とは別々に使用されることにより特徴付けられる。さらなる製造工程において、接続部と注射筒とを互いに結合し、それも材料結合式に、および/または摩擦結合式に、および/または形状結合式に、および/または素材結合式に結合する。素材結合式の結合の際に、注射筒と接続部とを溶接、特に超音波溶接により結合する場合が特に好ましい。
【0029】
各構成要素を個別に製造するという最初に挙げた製造方法とは異なり、全体の部材、つまり注射筒と接続部とを備えた注射器を、多成分射出成形により製造することも可能である。多成分射出成形の場合に、2種以上の異なるプラスチックからなる射出成形品が得られる。多成分射出成形の場合に、多様な方法が考えられる。多成分射出成形用の射出成形機は、2つ以上の射出ユニットと1つだけの閉鎖ユニットとを含む。さらに、インサート成形のために、金型内に予め射出成形された部分が挿入されていてもよい。多成分射出成形の場合に、相応する部材を低コストで、1つだけの金型を用いて1つの作業工程で製造することができる。さらに、多成分射出成形により、組み立ての場合よりも僅かな位置公差を達成することができる。
【0030】
多成分射出成形を用いて、硬質材料に軟質材料が付着するように射出成形することも、またはその逆に射出成形することも可能である。これは、組み立ての工程を省き、硬質材料と軟質材料との間の物理的結合を引き起こす。多成分射出成形の場合に、接続部が注射筒に解除可能に取り付けられるように、軟質材料と硬質材料との間で結合を調節することが可能である。
【0031】
より軟質な材料が高められた摩擦係数を有する場合、この摩擦係数により、ねじが回転されすぎることがなくなることが特に好ましい。第一の材料を第二の材料と結合する際に、両方の材料のできる限り大きな表面接触がこの結合の安定性を保証するように結合面が構成可能であることが好ましい。
【0032】
本発明を、次に図面を用いてして例示的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1a】注射筒への接続部の機械的固定の第一のバージョン。
図1b】注射筒への接続部の機械的固定の第一のバージョン。
図1c】注射筒への接続部の機械的固定の第一のバージョン。
図2a】注射筒への接続部の機械的固定の第二のバージョン。
図2b】注射筒への接続部の機械的固定の第二のバージョン。
図2c】注射筒への接続部の機械的固定の第二のバージョン。
図3a】個別部材として注射筒と接続部とを備え、これらの個別部材が超音波溶接されているバージョン。
図3b】個別部材として注射筒と接続部とを備え、これらの個別部材が超音波溶接されているバージョン。
図3c】個別部材として注射筒と接続部とを備え、これらの個別部材が超音波溶接されているバージョン。
図4a】多成分射出成形を用いて製造された接続部および注射筒の第一の実施形態。
図4b】多成分射出成形を用いて製造された接続部および注射筒の第一の実施形態。
図5a】多成分射出成形を用いて製造された接続部および注射筒の第二の実施形態。
図5b】多成分射出成形を用いて製造された接続部および注射筒の第二の実施形態。
図5c】多成分射出成形を用いて製造された接続部および注射筒の第二の実施形態。
図5d】多成分射出成形を用いて製造された接続部および注射筒の第二の実施形態。
【0034】
図1は、遠位開口部5を有する注射先端3を含む注射筒1の断面図を示す。全体の注射筒1の内で、注射先端3の領域の注射器の上側部分だけが示されている。注射筒1は、好ましくは硬質プラスチック、例えばシクロオレフィンコポリマー(COC)またはシクロオレフィンポリマー(COP)からなる。注射先端3の周囲に、コネクタ、例えば注射器のアタッチメント用の接続部10が配置されている。この接続部10は、ここでは、雌ねじ12を備えたアタッチメントであるが、これに限定されるものではない。この接続部10は、ここでは、注射筒3に対して自立した部材として構成されている。第一の部材としての注射筒と、第二の部材として接続部とは、図1により図示された実施形態の場合には、互いに機械的に結合しているだけであり、例えば接続部10は、注射筒に嵌め込まれていて、かつアンダーカット部14内で噛み合っている、つまりこの接続部は、形状結合式に保持されている。この個別の部材10は、アンダーカット部14内へねじ込まれているかまたは押し込まれていてもよい。この部材10を注射筒1上で良好に保持するために、接続部の領域は、例えばプラスチックを用いてインサート成形されることを予定することができる。インサート成形により部材10の接続部は、注射筒に固定される。接続部10の材料は、本発明により、注射筒の材料よりも軟質である。好ましくは、硬質材料からなる注射筒の弾性率は、2500~3500MPaであり、軟質材料からなる接続部の弾性率は、1200~2500MPaである。一般に、接続部10のより軟質な材料の弾性率は、注射筒の硬質材料の弾性率よりも10~60%低い。注射筒の材料としてシクロオレフィンコポリマーまたはシクロオレフィンポリマーが使用されるが、接続部の軟質材料は、熱可塑性エラストマー(TPE)またはエラストマーまたはポリプロピレン(PP)またはポリエチレン(PE)である。2kJ/m2より高いノッチ付き衝撃強さ(Charpy notched impact strength)は、記載された軟質材料を特徴付ける。図1cは、注射筒1を上から見た図である。図1a~1bにおいて同じ部材には、同じ符号が付されている。シクロオレフィンポリマー(COP)またはシクロオレフィンコポリマー(COC)のような硬質材料は、2kJ/m2未満の低いノッチ付き衝撃強さを有する。
【0035】
図2a~2cには、注射筒101上での接続部100の機械的結合の別の実施形態が示されている。この場合、図2aは、雌ねじ112を備えた接続部分100を示す。この接続部分100は、COCまたはCOPの注射筒の硬質材料と比べてより軟質な材料、例えば熱可塑性エラストマー、エラストマー、ポリカルボナート、ポリプロピレンまたはポリエチレンなどからなる。接続部分100は、雌ねじ112の他に、空間116を備えた環状のアタッチメント114を有し、この場合、空間116内に、注射筒101の突出部または隆起部110を嵌め込むことができる。接続部の圧縮により、この接続部は、空間116を介して注射筒101上に保持することができる。注射筒の接続部分100の詳細な実施態様は、図2aに示されている。図2bに示されているような注射筒101は、硬質材料、例えばCOCからなり、かつ遠位開口部105を備えた注射先端103を有する。注射先端103の他に、この注射筒101は、環状の隆起部110を有している。この環状の隆起部110内に、図2aによる接続部分100の空間116が嵌まり込み、かつ例えば接続部分の取り付け後に隆起部110に圧入することにより保持される。図2bは、取り付けられた接続部分100を備えた完全な注射筒101を示す。図2aと同じ部材には、同じ符号が付されている。これは、図2cによる上から見た図にも当てはまる。
【0036】
図3a1~3cは、材料結合、例えば溶接による、接続部と注射筒との結合を示す。図3a1は、注射筒201に取り付けられた接続部分210を備えた、本発明による注射筒201の外観図である。図3aの注射筒は、硬質材料、例えばシクロオレフィンコポリマー(COC)またはシクロオレフィンポリマー(COP)からなるプラスチック注射器である。注射筒201は、また、遠位開口部205を備えた遠位先端203を有する。遠位先端203の周囲に、コネクタの螺挿のための雌ねじ212を備えた接続部分210が配置されている。先行する実施形態と同様に、接続部分210は、例えばポリエチレンまたはポリプロピレンまたはCOC-Eからなる注射筒201よりも軟質の材料からなる。軟質の材料は、部分的に使用されていてもよい。この場合、コネクタの螺挿の際に高い力が生じる箇所に使用される。
【0037】
図3a2には、図3a1からの、個別の接続部分210と注射筒201との間の結合を示す領域が詳細に記述されている。この結合は、点状で、または全体の接触面を介して行うことができる。軟質材料からなる個別の接続部分210は、注射筒の突出部212に当接している。個別の接続部分210を注射筒に取り付けた後、この接続部分210は注射筒と素材結合式に、つまり材料結合式に、例えば溶接により、特に超音波溶接により結合される。超音波溶接のために、接続部分210または注射筒201は、ソノトロードによって振動させかつそれにより溶融させられる材料突起220を有する。超音波溶接は、点状または面状に行うことができる。材料突起220を用いて作業する場合、溶接は点状で行われる。加熱された超音波溶接の場合に、材料の選択、特にその組み合わせは重要である。融点が互いに離れている場合には、異なる材料の結合はもはや不可能である。
【0038】
図3bには、再度、超音波溶接された接続部分210を備えた全体の注射筒210が極めて詳細に示されている。図3cは、図3a1~3a2による実施態様の上から見た図を示す。同じ部材には、同じ符号が付けられている。
【0039】
本発明の別の実施態様の場合に、溶接、特に超音波溶接により接続部分を注射筒に結合する代わりに、接続部分を備えた完全な注射筒を、多成分射出成形法により製造することができる。これは、第一の実施形態については図4a~4bに、かつ第二の実施形態については図5a~5dに示されている。
【0040】
図4aは、多成分射出成形を用いて製造された注射筒301を示す。注射筒301は、また、注射先端303の領域に、注射筒301よりも軟質の材料からなる、雌ねじ312を備えた接続部分310を含む。このより軟質な材料は、予め弾性率によって表して特徴付けられている。
【0041】
図4bは、図4aからの注射器の全体図を示す。注射筒301の材料は、硬質プラスチック材料の、例えばCOCまたはCOPであり、それに対して接続部分310の材料は、軟質材料の、例えばポリプロピレンまたはポリエチレンまたはCOC-Eである。図4aでは、接続部分312の雌ねじも良好に認識できる。図4aと同じ部材には、図4bでは同じ符号が付されている。
【0042】
図5a~5dには、多成分射出成形で製造された注射筒401の第二の実施形態が示されている。注射筒401の領域の接続部分410は、ここでもまた、より軟質な材料からなる。このより軟質な材料は、注射筒401が、注射筒のカバー421の領域に環状の収容部420を有する第二の実施形態についての特徴に関して、注射筒の硬質材料よりも10~60%低い弾性率を有する。軟質材料からなる接続部分は、この収容部内に係合している。図5a~5dによるバリエーションでは、互いの材料のより良好な付着を許容するより大きな接触面が提供される。さらに、この実施態様は、先端領域で生じる力の頂点の低減を引き起こす先端領域での軟質材料の結合も示す。さらに、接続部分の軟質材料は、注射器400の注射先端403を外壁405に接するように取り囲む。ねじ412も良好に認識することができる。図5bは、接続部分410を備えた全体の注射器を示し、図5cは、上から見た図を示し、かつ図5dは、三次元的な外観図を示す。図5aと同じ部材には、同じ符号が付されている。
【0043】
多成分射出成形の場合に、2つの異なるプラスチックからなる全体の射出成形品が製造される。このため、射出成形機は、2つの射出ユニットを含むが、1つの閉鎖ユニットが必要とされるだけである。多成分射出成形法を用いて製造された図4a~5dの部材は、低コストに、1つの金型だけで、1つの作業工程だけで製造することができる。さらに、組み立ての場合に不可能であった幾何学形状は変更可能である。
【0044】
本発明によって、多数の異なるコネクタを接続部分と結合することが可能である注射筒が初めて提供され、この場合、ねじが機械荷重を注射筒に伝えずかつそこで漏れを引き起こさずに、トルクを広い範囲で変動することができる。
【0045】
さらに、全体の材料は、注射筒も接続部分も蒸気滅菌可能であることが好ましい。
【0046】
さらに、これらの材料は、製剤学的媒体との接触において変化しないように選択される。接続部分のより軟質な材料により、コネクタと注射器との間の摩擦係数は、ねじが回転されすぎることがないように実現される。
【0047】
文章
本発明は、次の文章において書き記されている態様を含むが、この記載の部分は、審判部のJ15/88に合致して、特許請求の範囲ではない。
【0048】
1. 注射筒(1,101,201)と、遠位開口部(5)を含む注射先端(3,103,203)と、前記注射先端の領域に配置された接続部(10,100,200)、特にねじ(12,112,212)とを備え、前記注射筒(1,101,201)は第一の材料からなり、かつ前記接続部(10,100,200)、特にねじは、少なくとも部分的に、特に完全に、第二の材料からなる注射器において、
前記第一の材料は前記第二の材料とは異なり、かつ前記第二の材料は、前記第一の材料よりも軟質の材料であることを特徴とする、注射器。
【0049】
2. 前記第一の材料は、所定の弾性率を有し、かつ前記第二の材料は、前記第一の材料の弾性率よりも10~60%低い弾性率を有することを特徴とする、文章1記載の注射器。
【0050】
3. 前記第一の材料の弾性率は、2500~3500MPa、好ましくは2700~3200MPaの範囲にあり、かつ前記第二の材料の弾性率は、1200~2500MPa、好ましくは1500~1800MPaであることを特徴とする、文章1から2までのいずれか1記載の注射器。
【0051】
4. 前記第二の軟質材料のノッチ付き衝撃強さが、2kJ/m2より大きいことを特徴とする、文章1から3までのいずれか1記載の注射器。
【0052】
5. 前記第一の材料は、シクロオレフィンコポリマー(COC)またはシクロオレフィンポリマー(COP)であることを特徴とする、文章1から4までのいずれか1記載の注射器。
【0053】
6. 前記第二の材料は、熱可塑性エラストマー(TPE)、エラストマー、ポリプロピレン(PP)、ポリカルボナート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)またはCOC-Eであることを特徴とする、文章1から5までのいずれか1記載の注射器。
【0054】
7. 前記第一の材料および前記第二の材料は、>100℃、特に>121℃、特に最大180℃の温度で滅菌可能である材料を含むことを特徴とする、文章1から6までのいずれか1記載の注射器。
【0055】
8. 前記注射筒(1,101,201)は、前記注射器の第一の部材を構成し、かつ前記接続部(10,100,200)、特に前記ねじ(12,112,212)は、第二の部材を構成し、かつ前記第一の部材と前記第二の部材とは、機械的に、および/または素材結合式に、および/または摩擦結合式に、および/または形状結合式に、および/または互いに限定的に解除可能に結合されていることを特徴とする、文章1から7までのいずれか1記載の注射器。
【0056】
9. 前記接続部(10,100,200)は、所定の外部幾何学形状を有し、かつ前記外部幾何学形状は、ルアーロックアダプターの外部幾何学形状に相当することを特徴とする、文章1から8までのいずれか1記載の注射器。
【0057】
10. 次の工程:
- 第一の材料からなる注射筒(1,101,201)および
- 前記第一の材料より軟質の第二の材料からなる接続部(10,100,200)、特にねじ(12,112,212)を準備し、ここで、前記第二の材料は、前記第一の材料の弾性率よりも10~60%低い弾性率を有すること、
- 接続部(10,100,200)と注射筒(1,101,201)とを互いに材料結合式に、および/または摩擦結合式に、および/または形状結合式に、および/または素材結合式に結合する
を含む、注射器の製造方法。
【0058】
11. 注射筒と接続部とを互いに素材結合式に、溶接によって、特に超音波溶接によって結合することを特徴とする、文章10記載の方法。
【0059】
12. 第一の材料からなる注射筒と、前記第一の材料よりも軟質の第二の材料からなる接続部、特にねじとを備え、前記第二の材料は、前記第一の材料の弾性率よりも10~60%低い弾性率を有する、注射器の製造方法において、前記注射器は多成分射出成形により得られることを特徴とする、注射器の製造方法。
【0060】
13. 前記多成分射出成形は、少なくとも25Ncm、特に少なくとも35Ncmの荷重より、限定的に前記接続部が解除可能であるように調節されることを特徴とする、文章12記載の方法。
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図5a
図5b
図5c
図5d