IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エーケー スティール プロパティ−ズ、インク.の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】高マンガン第3世代先進高張力鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220405BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20220405BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20220405BHJP
【FI】
C22C38/00 302A
C22C38/58
C21D9/46 P
C21D9/46 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017560599
(86)(22)【出願日】2016-05-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-07-12
(86)【国際出願番号】 US2016033610
(87)【国際公開番号】W WO2016187577
(87)【国際公開日】2016-11-24
【審査請求日】2018-07-03
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-06
(31)【優先権主張番号】62/164,643
(32)【優先日】2015-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503404132
【氏名又は名称】クリーブランド-クリフス スティール プロパティーズ、インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】ガーザ-マルティネズ、ルイス、ゴンザロ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス、グラント、アーロン
(72)【発明者】
【氏名】ギル、アマリンダー、シン
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-532584(JP,A)
【文献】特公昭49-34566(JP,B1)
【文献】特開2010-185109(JP,A)
【文献】特表2015-503023(JP,A)
【文献】特開2013-185242(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0083774(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102471821(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高張力鋼であって、0.22~0.25重量%のC、1.89~2.0重量%のSi、0.003~2.0重量%のCr、11.58~14重量%のMn、及び0.0以上~0.5重量%未満のNi、残余Feおよび不可避的不純物を有し、前記高張力鋼は50℃未満のM温度を有し、
前記高張力鋼は、1000MPa以上の抗張力及び15%以上の総伸長を有し、
前記M 温度は、実験式 M =607.8-363.2 [C]-26.7 [Mn]-18.1 [Cr]-38.6 [Si]-962.6 ([C]-0.188) によって算出される、高張力鋼。
【請求項2】
請求項1記載の高張力鋼であって、さらに、3.25重量%以下のAlを有する、高張力鋼。
【請求項3】
請求項2記載の高張力鋼であって、2.0重量%以下のAlを有する、高張力鋼。
【請求項4】
請求項1記載の高張力鋼であって、1.75~3.25重量%のAlを有する、高張力鋼。
【請求項5】
請求項1記載の高張力鋼であって、さらに、0.5重量%以下のMoを有する、高張力鋼。
【請求項6】
請求項1記載の高張力鋼において、前記鋼は、熱間圧延後に、少なくとも1000MPaの抗張力および少なくとも25%の総伸長を有する、高張力鋼。
【請求項7】
請求項1記載の高張力鋼において、前記鋼は、熱間圧延後に、少なくとも1200MPaの抗張力および少なくとも20%の総伸長を有する、高張力鋼。
【請求項8】
請求項1記載の高張力鋼において、前記鋼は、熱間圧延および焼鈍後に、少なくとも1000MPaの抗張力および少なくとも25%の総伸長を有する、高張力鋼。
【請求項9】
請求項1記載の高張力鋼において、前記鋼は、熱間圧延および焼鈍後に、少なくとも1200MPaの抗張力および少なくとも20%の総伸長を有する、高張力鋼。
【請求項10】
請求項1記載の高張力鋼において、前記鋼は、冷間圧延および焼鈍後に、少なくとも1000MPaの抗張力および少なくとも25%の総伸長を有する、高張力鋼。
【請求項11】
請求項1記載の高張力鋼において、前記鋼は、冷間圧延および焼鈍後に、少なくとも1200MPaの抗張力および少なくとも20%の総伸長を有する、高張力鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願では、「高マンガンオーステナイトの第3世代先進高張力鋼」と題し、2015年5月21日に提出された米国仮特許出願第62/164,643号の優先権を主張し、この参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
自動車産業は、燃料効率の高い車両を得るために、より軽く、耐衝突性を高めるためにより強いが、成形可能である、費用対効果の高い鋼を求めている。第3世代先進高張力鋼(AHSS)は、現在利用可能な高張力鋼よりも高い抗張力および/またはより高い総伸長を有するものである。それらの性質は、高張力を提供する一方で、鋼を複雑な形状に形成することも可能である。本願の鋼は、1000MPa以上の高い抗張力および15%以上~50%以下、またはそれより高い総伸長を有する理想的な第3世代先進高張力鋼の機械的性質を提供する。
【0003】
オーステナイト鋼は典型的に高い総伸長と組み合わせてより高い最大抗張力を有する。オーステナイトの微細構造は延性があり、高い総抗張伸長を作り出す潜在力を有する。オーステナイトの微細構造はしばしば室温で安定せず(または準安定であり)、鋼が塑性変形する際に、オーステナイトはしばしばマルテンサイト(圧力/ひずみ誘起によるマルテンサイト)に移行する。マルテンサイトはより高い張力を有する微細構造であり、オーステナイトとマルテンサイトのような微細構造の混合を有することによる組み合わせの効果は全体の抗張力を高める。オーステナイトの安定性は、言い換えると、塑性変形の間、オーステナイトがマルテンサイトに移行する可能性は、大部分が合金成分による。C、Mn、Cr、Cu、Ni、N、およびCoのような成分は、特に、熱力学的にオーステナイトを安定させるために使用される。Cr、Mo、およびSiのような他の成分もまた、間接的な効果(動力学的な効果)を通してオーステナイトの安定性を高めるために使用される。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある(国際出願日以降国際段階で引用された文献及び他国に国内移行した際に引用された文献を含む)。
(先行技術文献)
(特許文献)
(特許文献1) 欧州特許出願公開第2738278号明細書
(特許文献2) 米国特許出願公開第2011/083774号明細書
(特許文献3) 欧州特許出願公開第2703512号明細書
(特許文献4) 特開2005―200694号公報
(特許文献5) 欧州特許出願公開第1707645号明細書
(特許文献6) 特開平07-062485号公報
(特許文献7) 欧州特許出願公開第2327810号明細書
(特許文献8) 欧州特許出願公開第0023398号明細書
(特許文献9) 特開平06-128631号公報
(特許文献10) 中国特許出願公開第103820735号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
高張力鋼は約0.25重量%以下のC、約2.0重量%以下のSi、約2.0重量%以下のCr、14重量%以下のMn、0.5重量%未満のNiを有する。高張力鋼は、さらに1またはそれ以上のMoおよびCuを有する。いくつかの実施形態では、それは50℃未満のM温度を有する。高張力鋼は、熱間圧延後、少なくとも1000MPaの抗張力および少なくとも約25%の総伸長を有しても良い。高張力鋼は、熱間圧延後、少なくとも1200MPaの抗張力および少なくとも約20%の総伸長を有しても良い。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本願の鋼は、実質的に室温でオーステナイトの微細構造を有する。オーステナイトは、高い伸長または延性が生じる比率で塑性変形された時にマルテンサイトに変形する。この変形を制御する主要な合金成分は、CおよびMn、Cr、およびSiである。
【0006】
Cの量は、マルテンサイトの力が炭素含有量に直接関係し、最終的な鋼の抗張力に影響を与える。1000MPa以上の鋼の力を維持するために、炭素は約0.25重量%以下の量で存在する。
【0007】
Siの特性は炭化物の形成を抑える能力であり、また個溶体強化剤でもある。シリコンはオーステナイト形成を行うが、しかしながらM温度を下げて、室温でオーステナイトを安定させることが知られている。シリコンは約2.0重量%以下の量が含まれる。
【0008】
フェライト形成であるが、マルテンサイト変形温度(M)を下げることによってオーステナイトを安定させる他の成分はCrである。クロミウムは個体化の間デルタ-フェライトを促進するような有益な特性を行う他の鋼を有し、鋼の鋳造を促進する。本願の鋼では、Crの量は約2.0重量%以下の量であるべきである。
【0009】
マンガンは、少なくともいくつかのオーステナイトを室温で安定化させるために、約14重量%以下で存在する。
【0010】
温度が室温に近い、またはそれ以下となるように合金の相互関係を設定することはオーステナイトを室温で確実に安定化させ得る一つの方法である。Mおよび合金成分の関係は以下の実験式で示す。
【0011】
=607.8-363.2[C]-26.7[Mn]-18.1[Cr]-38.6[Si]-962.6([C]-0.188)
式1
【0012】
オーステナイトを安定化させるのを補助すると考えられる他の成分は、Mo、Cu、およびNiのようなこれらの合金に加えられ得る。もしNiであれば、0.5重量%未満の量で加えられる。もしMoであれば、0.5重量%未満の量で加えられる。デルタ-フェライト固体化を促進するのを補助することで知られるAlが加えられるなら、それは鋳造を促し、Ae1およびAe3変形温度もまた拡大する。他の実施形態では、Alは約2.0重量%以下の量で加えられる。他の実施形態では、Alは約3.25重量%以下の量で加えられる。他の実施形態では、Alは約1.75~3.25重量%の量で加えられる。
【0013】
実施例1
本願の合金を次のように処理した。合金は典型的な実験方法に従い溶解し、鋳造した。合金の鋼の組成式を表1に示す。インゴットは熱間圧延前に1250℃の温度で熱した。インゴットは、最終温度を900℃とし、約8回で約3.3mmの厚さに熱間圧延した。ホットバンドをすぐに675℃に設定した加熱炉に入れ、続いて室温で約24時間冷却させ、コイル温度をシミュレートし、ホットバンドをコイル冷却させた。
【0014】
【表1】
【0015】
機械的抗張特性はホットバンドの横断方向で試験され、その性質は表2に示す。合金54、56、59のような第3世代AHSS抗張性質を示すいくつかのホットバンドは、約1000MPa以上の抗張力および約25%以上の総伸長を示した。
【0016】
すべての表について、YS=降伏強さ、YPE=降伏点伸長、UTS=最大抗張力、TE=総伸長である。YPEを示す場合、報告されたYS値は降伏点上限であるが、そうでない場合、連続的な降伏が起こると、オフセット降伏強さは0.2%と報告されている。
【0017】
【表2】
【0018】
冷却後、ホットバンドをビーズブラストし、酸化膜を取り除いた。それからホットバンド帯は、1100℃で焼鈍された合金58を除き、制御された環境であるチューブ炉に漬けることによって、900℃のオーステナイト温度で熱処理された。抗張検体は焼鈍された帯から加工され、機械的抗張特性は評価された。焼鈍されたホットバンドの抗張力性質は表3に示す。合金51、56、および59のように、室温に近い、より高いMnおよびM温度を有する合金は、高い抗張力および高い総伸長という例外的に素晴らしい性質を示した。
【0019】
【表3】
【0020】
14重量%Mn(合金51、54、56、および59)に近い量が含まれる合金のホットバンド帯は、その後、最終的な厚さが1.5mmになるまで約50%冷間圧延した。冷間圧延された帯は、制御された環境であるチューブ炉に漬けることによって、900℃のオーステナイト温度で熱処理された。抗張検体は焼鈍された帯から加工され、機械的抗張特性は評価し、表4に示す。
【0021】
【表4】
【0022】
熱処理されたサンプルは、合金51および56のような第3世代AHSS抗張性質を示し、1220MPaの最大抗張力および51.8%の総伸長を示した。