(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】オイルリング
(51)【国際特許分類】
F16J 9/20 20060101AFI20220405BHJP
F16J 9/26 20060101ALI20220405BHJP
F16J 9/06 20060101ALI20220405BHJP
F02F 5/00 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
F16J9/20
F16J9/26 C
F16J9/06 A
F02F5/00 301A
F02F5/00 B
(21)【出願番号】P 2018008387
(22)【出願日】2018-01-22
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100174931
【氏名又は名称】阿部 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】岡田 嘉夫
(72)【発明者】
【氏名】安達 充洋
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-528757(JP,A)
【文献】特表2010-530045(JP,A)
【文献】国際公開第2015/125832(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/040174(WO,A1)
【文献】特開平09-144881(JP,A)
【文献】特開2006-194272(JP,A)
【文献】実開昭57-063951(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F5/00
11/00
F16J1/00-1/24
7/00-10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向外側に向けて突出するランドが設けられたオイルリング本体と、前記オイルリング本体の径方向内側部分に装着されて前記オイルリング本体を径方向外側に向けて付勢するコイルエキスパンダーと、を有するオイルリングであって、
前記ランドは、
軸方向の一方を向く上面と、
軸方向と平行な円筒面からなり、径方向の最も外側で径方向外側を向く最外周面と、
軸方向の前記一方側から軸方向の他方側に向けて拡径する円錐面の一部からなり、前記上面と前記最外周面との間に位置するテーパ面と、を有し、
前記テーパ面が軸方向に対してなす角度が、17°を超えて27°未満であ
り、
前記テーパ面の表面粗さが、前記最外周面の表面粗さより大きいことを特徴とするオイルリング。
【請求項2】
前記上面は、前記オイルリングの中心軸を含む平面に沿う断面視で、直線状であり、
前記断面視で、前記上面に沿う直線と前記最外周面に沿う直線との交点を第1地点とし、前記最外周面における前記一方側の端を前記最外周面の上端とし、前記最外周面における他方側の端を前記最外周面の下端とするとき、前記第1地点から前記下端までの距離に対する、前記上端から前記下端までの距離の比が、0.76以下であることを特徴とする、請求項1に記載のオイルリング。
【請求項3】
前記断面視で、前記第1地点から前記下端までの距離が、0.15mmを超えて0.30mm以下であることを特徴とする、請求項2に記載のオイルリング。
【請求項4】
前記断面視で、前記上面に沿う直線と前記テーパ面に沿う直線との交点を第2地点とするとき、前記最外周面が、前記第2地点から径方向外側に0.015mm以上突出していることを特徴とする、請求項2又は3に記載のオイルリング。
【請求項5】
前記断面視で、前記上端から前記下端までの距離が、0.15mm以下であることを特徴とする、請求項2から4のいずれか一項に記載のオイルリング。
【請求項6】
前記上面は、前記オイルリングの中心軸を含む平面に沿う断面視で、直線状であり、
前記ランドは、径方向内側で前記上面に連なり、かつ、径方向外側で前記テーパ面に連なる、表面側に凸となるように湾曲した第1湾曲面を更に有し、
前記第1湾曲面は、前記断面視で、前記上面に沿う直線及び前記テーパ面に沿う直線のいずれとも交差していないことを特徴とする、請求項1から
5のいずれか一項に記載のオイルリング。
【請求項7】
前記第1湾曲面は、前記断面視で、半径を0.005mm以上とする円弧状であることを特徴とする、請求項
6に記載のオイルリング。
【請求項8】
前記上面は、前記オイルリングの中心軸を含む平面に沿う断面視で、直線状であり、
前記ランドは、径方向内側で前記テーパ面に連なり、かつ、径方向外側で前記最外周面に連なる、表面側に凸となるように湾曲した第2湾曲面を更に有し、
前記第2湾曲面は、前記断面視で、前記テーパ面に沿う直線及び前記最外周面に沿う直線のいずれとも交差していないことを特徴とする、請求項1から
7のいずれか一項に記載のオイルリング。
【請求項9】
前記第2湾曲面は、前記断面視で、半径を0.005mm以上とする円弧状であることを特徴とする、請求項
8に記載のオイルリング。
【請求項10】
前記オイルリング本体の軸方向に沿う幅が、2.5mm以上であることを特徴とする、請求項1から
9のいずれか一項に記載のオイルリング。
【請求項11】
前記最外周面は、前記ランドの表層を構成する硬質被膜層の表面であることを特徴とする、請求項1から
10のいずれか一項に記載のオイルリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レシプロエンジン(往復動内燃機関)のピストンに用いられるオイルリングに関し、特に、オイルリング本体の径方向内側部分にコイルエキスパンダーが装着されてなる2ピースタイプの組合せオイルリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レシプロエンジンのピストンには、燃焼ガスをシールするためのコンプレッションリングに加えて、潤滑用のオイルをシールするためのオイルリングが装着されている。
【0003】
オイルリングには、主としてガソリンエンジンに用いられる3ピースタイプのものと、主としてディーゼルエンジンに用いられる2ピースタイプのものとがある。低燃費化等の要請から、ガソリンエンジンにおいても、より軸方向幅を薄型化することが可能な2ピースタイプのオイルリングが用いられるようになってきている。
【0004】
このような2ピースタイプのオイルリングとしては、通油孔を有するウェブ部とこのウェブ部の軸方向両側(上下)に一体に設けられる一対のレール部とを有するオイルリング本体と、このオイルリング本体の径方向内側部分に装着されてオイルリング本体を径方向外側に向けて付勢するコイルエキスパンダーと、の2つのパーツで構成されたものが知られている。このような2ピースタイプのオイルリングでは、オイルリング本体は合口部を備えた割りリング形状に形成され、コイルエキスパンダーにより径方向外側に向けて付勢されることで拡張(拡径)できるようになっている。そして、オイルリング本体がコイルエキスパンダーにより付勢されて拡張し、各レール部の径方向外側を向く外周面がシリンダの内周面に一定の接触圧力(面圧)で接触することにより、ピストンが往復動したときに、一対のレール部の間に滞留するオイルをシリンダの内周面に塗布するとともに余分なオイルをレール部により掻き下げつつ通油孔を通してクランク室へ戻し、シリンダの内周面に適切な厚みの油膜を形成するようになっている。
【0005】
近年、低燃費や低オイル消費などの市場要求による内燃機関用エンジンの性能向上に伴い、オイルリングにも、ピストン上昇行程時のオイル掻き上げ作用の抑制や、ピストン下降工程時のオイル掻き下げ作用の増幅により、シリンダの内周面に対するフリクションを低減させつつオイル消費量を低減させ得る性能を有したものが求められている。このような要求に対応するために、径方向外側を向く外周面を種々の形状としたオイルリングが提案されている。
【0006】
例えば特許文献1には、上下のレール部の外周面を、シリンダの内周面に摺動する摺動面と、摺動面の燃焼室側(オイルリングの上面側)に配置され該燃焼室側に向けて徐々に縮径するテーパ面と、を有するように構成したオイルリングが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されたオイルリングのように、テーパ面を設けることで、シリンダの内周面に摺動する摺動面の面積を小さくすることが可能となる。これにより、当該摺動面がシリンダの内周面に与える接触面圧が高まり、ピストン下降行程時にオイルを掻き下げる作用が得られる。また、ピストン上昇行程時には、テーパ面とシリンダの内周面との間で油膜が形成され、摺動面が油膜の上に乗り上げることで、オイルを掻き上げることが抑制される。このように、特許文献1に記載されたオイルリングのようにテーパ面を設けたオイルリングが、オイル消費量の低減に有効であることが知られている。
【0009】
ところで、エンジン組み立ての一工程として、オイルリングを装着したピストンをシリンダへ挿入する工程がある。当該工程では、通常、ピストンは、ピストンのスカート側(下側)からシリンダ内に挿入される。一方、例えば大型ディーゼルエンジン等では、ピストンは、ピストンの冠面側(上側)からシリンダ内に挿入される場合がある。
【0010】
ピストンを、シリンダの内周面を構成するライナーの上端側からシリンダ内に挿入する場合、すなわち、ピストンを、ピストンの下側からシリンダ内に挿入する場合、オイルリングは下面側からシリンダ内に挿入される。このとき、上述のテーパ面を設けたオイルリングを用いると、摺動面がテーパ面よりも先に挿入される。摺動面がシリンダの内周面に接触すると、コイルエキスパンダーからの付勢によって摺動面全体がシリンダの内周面に押し付けられて、オイルリングの軸方向とシリンダの軸方向とが一致した状態で安定し、その状態を保ったまま挿入されていく。従って、オイルリングは安定的にエンジンに組み込まれやすい。
【0011】
一方、ピストンを、ライナーの下端側からシリンダ内に挿入する場合、すなわち、ピストンを、ピストンの上側からシリンダ内に挿入する場合、オイルリングは上面側からシリンダ内に挿入される。このとき、上述のテーパ面を設けたオイルリングを用いると、摺動面よりも先にテーパ面が挿入される。ここで、テーパ面は摺動面よりも径が小さいため、テーパ面が挿入されてから摺動面が挿入されるまでの間、通常、テーパ面がシリンダの内周面に接触しない状態で挿入されていく。このとき、オイルリングの位置はシリンダに対して径方向に不安定であるため、テーパ面がシリンダの内周面に接触し、例えばオイルリングの一部が欠ける等の損傷が発生する可能性がある。また、オイルリングの軸方向とシリンダの軸方向とが一致しない状態のまま、ピストンがシリンダに無理に押し込まれると、オイルリングが変形する可能性がある。この問題は、ピストンやコネクティングロッドの重量が比較的大きい大型ディーゼルエンジンでは、特に顕著となる。
【0012】
本発明は、このような点を解決することを課題とするものであり、その目的は、オイル消費量を低減させつつ、エンジン組み立て時における損傷の可能性を低減できるオイルリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のオイルリングは、径方向外側に向けて突出するランドが設けられたオイルリング本体と、前記オイルリング本体の径方向内側部分に装着されて前記オイルリング本体を径方向外側に向けて付勢するコイルエキスパンダーと、を有するオイルリングであって、前記ランドは、軸方向の一方を向く上面と、軸方向と平行な円筒面からなり、径方向の最も外側で径方向外側を向く最外周面と、軸方向の前記一方側から軸方向の他方側に向けて拡径する円錐面の一部からなり、前記上面と前記最外周面との間に位置するテーパ面と、を有し、前記テーパ面が軸方向に対してなす角度が、17°を超えて27°未満であることを特徴とする。
【0014】
本発明は、上記構成において、前記上面は、前記オイルリングの中心軸を含む平面に沿う断面視で、直線状であり、前記断面視で、前記上面に沿う直線と前記最外周面に沿う直線との交点を第1地点とし、前記最外周面における前記一方側の端を前記最外周面の上端とし、前記最外周面における他方側の端を前記最外周面の下端とするとき、前記第1地点から前記下端までの距離に対する、前記上端から前記下端までの距離の比が、0.76以下であることが好ましい。
【0015】
本発明は、上記構成において、前記断面視で、前記第1地点から前記下端までの距離が、0.15mmを超えて0.30mm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明は、上記構成において、前記断面視で、前記上面に沿う直線と前記テーパ面に沿う直線との交点を第2地点とするとき、前記最外周面が、前記第2地点から径方向外側に0.015mm以上突出していることが好ましい。
【0017】
本発明は、上記構成において、前記断面視で、前記上端から前記下端までの距離が、0.15mm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明は、上記構成において、前記テーパ面の表面粗さが、前記最外周面の表面粗さより大きいことが好ましい。
【0019】
本発明は、上記構成において、前記上面は、前記オイルリングの中心軸を含む平面に沿う断面視で、直線状であり、前記ランドは、径方向内側で前記上面に連なり、かつ、径方向外側で前記テーパ面に連なる、表面側に凸となるように湾曲した第1湾曲面を更に有し、前記第1湾曲面は、前記断面視で、前記上面に沿う直線及び前記テーパ面に沿う直線のいずれとも交差していないことが好ましい。
【0020】
本発明は、上記構成において、前記第1湾曲面は、前記断面視で、半径を0.005mm以上とする円弧状であることが好ましい。
【0021】
本発明は、上記構成において、前記上面は、前記オイルリングの中心軸を含む平面に沿う断面視で、直線状であり、前記ランドは、径方向内側で前記テーパ面に連なり、かつ、径方向外側で前記最外周面に連なる、表面側に凸となるように湾曲した第2湾曲面を更に有し、前記第2湾曲面は、前記断面視で、前記テーパ面に沿う直線及び前記最外周面に沿う直線のいずれとも交差していないことが好ましい。
【0022】
本発明は、上記構成において、前記第2湾曲面は、前記断面視で、半径を0.005mm以上とする円弧状であることが好ましい。
【0023】
本発明は上記構成において、前記オイルリング本体の軸方向に沿う幅が、2.5mm以上であることが好ましい。
【0024】
本発明は、上記構成において、前記最外周面は、前記ランドの表層を構成する硬質被膜層の表面であることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、オイル消費量を低減させつつ、エンジン組み立て時における損傷の可能性を低減できるオイルリングを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態としてのオイルリングの平面図である。
【
図2】
図1に示すオイルリングの使用状態を示す正面断面図である。
【
図3】
図1に示すオイルリングのランド部分を拡大して示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。各図において共通の構成には、同一の符号を付している。本明細書において、軸方向は、オイルリング1の中心軸O(
図1参照)に沿う方向を意味する。また、軸方向の一方側は、オイルリング1の使用状態での燃焼室側(
図2及び
図3における上側)を意味する。また、軸方向の他方側は、軸方向の一方側の反対側であり、オイルリング1の使用状態でのクランク室側(
図2及び
図3における下側)を意味する。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態としてのオイルリング1の平面図である。
図1に示すオイルリング1はオイルコントロールリングとも呼ばれる。オイルリング1は、例えばディーゼルエンジンのピストンの外周面に形成されたリング溝に装着されて使用される。このオイルリング1は2ピースタイプとなっており、オイルリング本体10とコイルエキスパンダー20とを有している。
【0029】
図1に示すように、オイルリング本体10は、合口部10aを備えた割リング形状に形成されている。つまり、オイルリング本体10は、周方向の一部分が切断されて当該切断部分が合口部10aとなったC字形状に形成されている。オイルリング本体10は、例えばスチール(鋼材)製とすることができる。オイルリング本体10は、合口部10aが形成されることにより、この合口部10aを周方向に近接及び離間させることで、径方向に弾性変形できる。また、オイルリング本体10は、ピストンP(
図2参照)に装着された状態でシリンダC(
図2参照)内に配置されると、合口部10aが閉じた略円環状になると共に、コイルエキスパンダー20により径方向外側に付勢される。これにより、オイルリング本体10とシリンダC(
図2参照)の内周面101(
図2参照)とが、ピストンPの全周に亘って密着し、オイルをシールすることができる。
【0030】
図2は、オイルリング1の使用状態を示す正面断面図である。詳細には、
図2は、オイルリング1の中心軸O(
図1参照)を含む平面に沿う断面図であり、このことは
図3も同様である。
図2に示すように、オイルリング本体10はウェブ部11と一対のレール部12とを有し、その断面は略M字形状となっている。
【0031】
ウェブ部11は薄肉の円筒状に形成され、その軸方向の中央位置には、このウェブ部11を径方向に貫通する複数の通油孔13が周方向に間隔を空けて並べて設けられている。これらの通油孔13は、例えば長孔や円形孔に形成することができる。
【0032】
一対のレール部12は、それぞれウェブ部11の軸方向の一方側および他方側に該ウェブ部11と一体に設けられている。それぞれのレール部12は、その径方向厚み寸法がウェブ部11の径方向厚み寸法よりも大きくされており、ウェブ部11は各レール部12の径方向中間部位において当該レール部12に連ねられている。
【0033】
オイルリング本体10の径方向内側部分(内周面)には、コイルエキスパンダー20を装着するための装着溝14が設けられている。この装着溝14は、ウェブ部11から両レール部12にまで達する半円形の凹断面を有し、周方向に沿ってオイルリング本体10の全周に亘って延びている。
【0034】
図1においては簡略化して示すが、コイルエキスパンダー20は、鋼材等により形成された線材をコイル状に巻いたものを、その両端を接続して円環状に形成して構成されている。このコイルエキスパンダー20は径方向内外方向に向けて弾性変形自在となっており、その自然状態における外径寸法はオイルリング本体10の内径寸法よりも大きくなっている。そして、コイルエキスパンダー20は、
図2に示すように、縮径方向に弾性変形した状態でオイルリング本体10の装着溝14に装着され、オイルリング本体10を径方向外側に向けて付勢する。
【0035】
なお、
図2に示すように、コイルエキスパンダー20の周方向に垂直な方向から見た半径は、オイルリング本体10の装着溝14の半径よりも僅かに小さくなっている。
【0036】
一対のレール部12の径方向外側を向く外周端には、それぞれランド30が一体に設けられている。これらのランド30は、それぞれ対応するレール部12の、全周に亘って径方向外側に突出する外周端を構成している。
【0037】
次に、
図3に基づいて、ランド30の詳細について説明する。
図3は、オイルリング1のランド30部分を拡大して示す正面断面図である。なお、上側のレール部12に設けられるランド30と下側のレール部12に設けられるランド30は、基本的に同一の形状を有しているので、以下では、上側のレール部12に設けられたランド30に基づいて説明する。
【0038】
図3に示すように、ランド30の外壁は、上面31と、下面32と、最外周面34と、テーパ面33と、を有する。
【0039】
ランド30の上面31は、軸方向の一方側を向く面である。本実施形態では、上面31は、
図3に示す断面視で、直線状である。
図3に示す例では、上面31は、軸方向の一方側から軸方向の他方側に向かうに連れて徐々に拡径する円錐面の一部からなる。
【0040】
ランド30の下面32は、軸方向の他方側を向く面である。本実施形態では、下面32は、
図3に示す断面視で、直線状である。
図3に示す例では、下面32は、軸方向の他方側から軸方向の一方側に向かうに連れて徐々に拡径する円錐面の一部からなる。
【0041】
最外周面34は、オイルリング1の径方向の最も外側に位置し、径方向外側を向く面である。最外周面34は、軸方向と平行な円筒面からなる。最外周面34は、下面32とテーパ面33との間に位置する。より具体的に、最外周面34は、
図3に示す断面視でのランド30の外壁に沿う外壁方向において、下面32とテーパ面33との間に位置する。以下、最外周面34における一方側の端を最外周面34の上端41とし、最外周面34における他方側の端を最外周面34の下端42とする。
【0042】
図3に示すように、テーパ面33は、軸方向の一方側から軸方向の他方側に向かうに連れて徐々に拡径する。換言すれば、テーパ面33は、軸方向に対して傾斜する円錐面の一部からなる。テーパ面33は、上面31と最外周面34との間に位置する。より具体的に、テーパ面33は、
図3に示す断面視でのランド30の外壁に沿う外壁方向において、上面31と最外周面34との間に位置する。
図3に示すように、テーパ面33が軸方向に対してなす角度αは、上面31が軸方向に対してなす角度よりも小さい。具体的に、角度αは、17°を超えて27°未満である。角度αが17°超であることで、エンジン組み立ての一工程としての、オイルリング1を装着したピストンP(
図2参照)をシリンダC(
図2参照)に挿入する工程(以下、適宜「エンジン組み立て時」とも記載する。)において、テーパ面33がシリンダCの内周面101(
図2参照)に接触しにくく、オイルリング1の損傷の可能性を低減させることができる。また、角度αが27°未満であることで、ピストンPの上昇行程時にテーパ面33とシリンダCの内周面101との間に油膜が十分に形成され、最外周面34が油膜の上に乗り上げることで、オイルを掻き上げることが抑制されるので、オイル消費量を低減させることができる。上記効果をより高める観点では、角度αは18°以上26°以下であることが好ましい。
【0043】
図3に示す断面視で、ランド30の上面31に沿う直線と最外周面34に沿う直線との交点を第1地点43とする。また、
図3に示す断面視で、第1地点43から最外周面34の下端42までの距離をランド幅Lとする。また、
図3に示す断面視で、最外周面34の上端41から下端42までの距離を最外周面幅L1とする。このとき、ランド幅Lに対する最外周面幅L1の比、すなわちL1/Lは、0.76以下であることが好ましい。L1/Lが0.76以下であれば、テーパ面33の面積が十分に確保されるため、テーパ面33を設けることによるオイル消費量の低減等の効果が長期間維持される。
【0044】
ランド幅Lは、0.15mmを超えて0.30mm以下であることが好ましい。ランド幅Lが0.15mm以下であると、ランド30の剛性が不十分となり、エンジン組み立て時にランド30が変形しやすくなる。
【0045】
図3に示す断面視で、ランド30の上面31に沿う直線とテーパ面33に沿う直線との交点を第2地点44とする。また、
図3に示す断面視で、最外周面34が第2地点44から径方向外側に突出する距離を突出長Hとする。このとき、突出長Hは、0.015mm以上であることが好ましい。突出長Hが0.015mm以上であることで、上面31とシリンダCの内周面101との間の距離を十分に保持できるので、エンジン組み立て時におけるオイルリング1の損傷の可能性を低減させることができる。
【0046】
最外周面幅L1は、0.15mm以下であることが好ましい。最外周面幅L1が0.15mm以下であることで、最外周面34がシリンダCの内周面101に与える接触面圧が高まり、ピストン下降行程時にオイルを掻き下げる作用が向上する。
【0047】
テーパ面33の表面粗さは、最外周面34の表面粗さよりも大きいことが好ましい。テーパ面33の表面粗さを最外周面34の表面粗さよりも大きくすることで、テーパ面33に形成された凹部にオイルが保持されやすくなり、燃焼室側(
図3の上側)へオイルが飛散することが抑制される。上記効果をより高める観点では、テーパ面33の表面粗さは、2μm以上10μm以下であることがより好ましい。テーパ面33及び最外周面34の表面粗さは、触針をテーパ面33及び最外周面34それぞれの表面に接触させた状態で、オイルリング1の周方向に沿ってオイルリング1に対して相対的に移動させることで、測定できる。具体的には、テーパ面33及び最外周面34の表面粗さは、表面粗さ・輪郭形状測定機(株式会社東京精密製、サーフコム1800D)を用いて、JIS B 0601 2001に記載される手法に基づいて測定できる。表面粗さの測定条件として、カットオフ値を0.8mm、評価長さを4.0mm、測定速度を0.3mm/sとし、触針として先端半径が2μmの60°円錐型の触針を用いることができる。
【0048】
オイルリング本体10(
図2参照)の軸方向に沿う幅は、2.5mm以上であることが好ましい。オイルリング本体10の軸方向に沿う幅が2.5mm以上であれば、オイルリング本体10の剛性が低下しにくくなり、加工時及びエンジン組立時の変形を防止できる。さらに、上記効果をより発揮できる点で、オイルリング本体10の軸方向に沿う幅は、3.0mm以上であることがより好ましい。また、オイルリング本体10の軸方向に沿う幅に対する、最外周面幅L1の比は、0.01以上0.06以下であることが好ましい。オイルリング本体10の軸方向に沿う幅に対する最外周面幅L1の比が0.01以上0.06以下であれば、オイル掻き性能がより安定する。
【0049】
オイルリング本体10のランド30の最外周面34側の表層は、硬質被膜層で構成されることが好ましい。すなわち、最外周面34は、ランド30の表層を構成する硬質被膜層の表面であることが好ましい。硬質被膜層としては、例えば、窒化処理層、PVD処理層、硬質クロムめっき処理層およびDLC層のうち少なくともいずれか1つの層を備えた構成を採用することができる。このような硬質被膜層を設けることにより、最外周面34の摩耗による消失を長期間に亘って防止して、長期間に亘ってオイル消費量を低減させることができる。
【0050】
なお、「PVD処理層」とは「物理気相成長(Physical Vapor Deposition)により形成された層」を意味し、「DLC(Diamond Like Carbon)層」とは主として炭化水素や炭素の同素体から成る非晶質の硬質炭素膜を意味する。
【0051】
図3に示すように、ランド30の外壁は、第1湾曲面35と、第2湾曲面36と、第3湾曲面37と、を更に有する。
【0052】
第1湾曲面35は、径方向内側でランド30の上面31に連なり、かつ、径方向外側でテーパ面33に連なっている。第1湾曲面35は、上面31とテーパ面33とを滑らかに連ねる、表面側に凸な湾曲面である。第1湾曲面35は、
図3に示す断面視で、上面31に沿う直線、及びテーパ面33に沿う直線のいずれとも交差していない。このように、上面31とテーパ面33との間を滑らかに連ねる第1湾曲面35を有することで、エンジン組み立て時におけるオイルリング1の損傷の可能性を更に低減させることができる。第1湾曲面35は、
図3に示す断面視で、円弧状であってもよい。この場合、上記効果を高める観点では、
図3に示す断面視で、第1湾曲面35の半径が0.005mm以上であることが好ましい。
【0053】
第2湾曲面36は、径方向内側でテーパ面33に連なり、かつ、径方向外側で最外周面34に連なっている。第2湾曲面36は、テーパ面33と最外周面34とを滑らかに連ねる、表面側に凸な湾曲面である。第2湾曲面36は、
図3に示す断面視で、テーパ面33に沿う直線及び最外周面34に沿う直線のいずれとも交差していない。このように、テーパ面33と最外周面34とを滑らかに連ねる第2湾曲面36を有することで、エンジン組み立て時におけるオイルリング1の損傷の可能性を更に低減させることができる。第2湾曲面36は、
図3に示す断面視で、円弧状であってもよい。この場合、上記効果を高める観点では、
図3に示す断面視で、第2湾曲面36の半径が0.005mm以上であることが好ましい。
【0054】
第3湾曲面37は、径方向内側でランド30の下面32に連なり、かつ、径方向外側で最外周面34に連なっている。第3湾曲面37は、下面32と最外周面34とを滑らかに連ねる、表面側に凸な湾曲面である。第3湾曲面37は、
図3に示す断面視で、下面32に沿う直線及び最外周面34に沿う直線のいずれとも交差していない。このように、下面32と最外周面34とを滑らかに連ねる第3湾曲面37を有することで、エンジン組み立て時におけるオイルリング1の損傷の可能性を更に低減させることができる。第3湾曲面37は、
図3に示す断面視で、円弧状であってもよい。この場合、上記効果を高める観点では、
図3に示す断面視で、第3湾曲面37の半径が0.005mm以上であることが好ましい。
【実施例】
【0055】
本発明の効果を確認するために、本発明の実施例1~10のオイルリングと、本発明との比較のための比較例のオイルリング1~12とを用意し、これらのオイルリングについて、オイルリングの損傷の評価と、オイル消費量の評価とを行った。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
以下の手順で、実施例1のオイルリング本体を作製した。まず、JIS SWRH77B相当の硬鋼線に、圧延ロール成形及び引き抜き成形を施した。このとき、成形品の呼称径を100mm、軸方向に沿う幅を2.5mm、径方向に沿う厚さを2.5mmとした。次に、側面加工及び合口加工を行った。最後に、内径100mmの真円スリーブを用いて外周ラップ加工を行い、オイルリング本体を作製した。
【0057】
実施例1のオイルリングは、
図1~
図3に示す形状において、一対のレール部それぞれについて、ランド幅Lが0.25mm、最外周面幅L1が0.15mm、突出長Hが0.036mm、テーパ面の角度αが19.80°であった。
【0058】
(実施例2)
実施例1と同様の手順で、実施例2のオイルリング本体を作製した。実施例2のオイルリングは、
図1~
図3に示す形状において、一対のレール部それぞれについて、ランド幅Lが0.23mm、最外周面幅L1が0.15mm、突出長Hが0.025mm、テーパ面の角度αが17.35°であった。
【0059】
(実施例3)
実施例1と同様の手順で、実施例3のオイルリング本体を作製した。実施例3のオイルリングは、
図1~
図3に示す形状において、一対のレール部それぞれについて、ランド幅Lが0.17mm、最外周面幅L1が0.13mm、突出長Hが0.015mm、テーパ面の角度αが20.56°であった。
【0060】
(実施例4)
実施例1と同様の手順で、実施例4のオイルリング本体を作製した。実施例4のオイルリングは、
図1~
図3に示す形状において、一対のレール部それぞれについて、ランド幅Lが0.30mm、最外周面幅L1が0.05mm、突出長Hが0.100mm、テーパ面の角度αが21.80°であった。
【0061】
(実施例5)
実施例1と同様の手順で、実施例5のオイルリング本体を作製した。実施例5のオイルリングは、
図1~
図3に示す形状において、一対のレール部それぞれについて、ランド幅Lが0.30mm、最外周面幅L1が0.15mm、突出長Hが0.064mm、テーパ面の角度αが23.11°であった。
【0062】
(実施例6)
実施例1と同様の手順で、実施例6のオイルリング本体を作製した。実施例6のオイルリングは、
図1~
図3に示す形状において、一対のレール部それぞれについて、ランド幅Lが0.25mm、最外周面幅L1が0.12mm、突出長Hが0.055mm、テーパ面の角度αが22.93°であった。
【0063】
(実施例7)
実施例1と同様の手順で、実施例7のオイルリング本体を作製した。実施例7のオイルリングは、
図1~
図3に示す形状において、一対のレール部それぞれについて、ランド幅Lが0.27mm、最外周面幅L1が0.12mm、突出長Hが0.049mm、テーパ面の角度αが18.09°であった。
【0064】
(実施例8)
実施例1と同様の手順で、実施例8のオイルリング本体を作製した。実施例8のオイルリングは、
図1~
図3に示す形状において、一対のレール部それぞれについて、ランド幅Lが0.30mm、最外周面幅L1が0.10mm、突出長Hが0.099mm、テーパ面の角度αが26.34°であった。
【0065】
(実施例9)
実施例1と同様の手順で、実施例9のオイルリング本体を作製した。実施例9のオイルリングは、
図1~
図3に示す形状において、一対のレール部それぞれについて、ランド幅Lが0.29mm、最外周面幅L1が0.03mm、突出長Hが0.125mm、テーパ面の角度αが25.68°であった。
【0066】
(実施例10)
実施例1と同様の手順で、実施例10のオイルリング本体を作製した。実施例10のオイルリングは、
図1~
図3に示す形状において、一対のレール部それぞれについて、ランド幅Lが0.30mm、最外周面幅L1が0.08mm、突出長Hが0.090mm、テーパ面の角度αが22.25°であった。
【0067】
(比較例1~12)
実施例1と同様の手順で、比較例1~12のオイルリング本体を作製した。比較例1~12のオイルリングの各寸法は、下記表1に示すとおりである。なお、比較例1のオイルリングは、テーパ面を有さない。
【0068】
(オイルリングの損傷の評価)
各実施例及び各比較例のオイルリングを装着したピストンをそれぞれ用意し、各ピストンを、シリンダの内周面を構成するライナーの下端側から、シリンダ内に挿入した。すなわち、各ピストンを、ピストンの上側(オイルリングの上面側)から、シリンダ内に挿入した。その後、オイルリングの損傷の程度として、テーパ面における欠けの発生の有無を評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0069】
(オイル消費量の評価)
各実施例及び各比較例のオイルリングを、それぞれディーゼルエンジンのピストンに装着し、1800rpm×4/4の負荷で所定の時間運転した場合におけるオイル消費量の測定をそれぞれ行った。各実施例及び各比較例において、オイルリングの張力を同じにするため、同一仕様のコイルエキスパンダーを用いた。また、各実施例及び各比較例において、トップリング及びセカンドリングは、共通のものを用いた。オイル消費量は、エンジン運転前に収容されていたオイル量と、エンジン運転後に収容されていたオイル量とをそれぞれ測定することによって算出した。比較例1のオイル消費量を100%とした場合の、各実施例及び各比較例のオイル消費量の割合(%)を、下記表1に示す。
【0070】
【0071】
表1から、テーパ面の角度αが17°を超えて27°未満である実施例1~10では、欠けが発生しにくいことが分かった。また、実施例1~10では、テーパ面の角度αが17°以下又は27°以上である比較例1~12に比べて、オイル消費量を低減できることが分かった。
【0072】
また、テーパ面の角度αが18°以上26°以下である実施例1、3~7、9、10では、オイル消費量を更に低減できることが分かった。
【0073】
突出長Hが0.015mm以上である実施例1~10、比較例2~4、8、9、11、12では欠けが発生しなかったのに対し、突出長Hが0.015mm未満である比較例5、6、7、10では欠けが発生したことが分かった。
【0074】
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0075】
例えば、前記実施形態においては、本発明のオイルリング1をディーゼルエンジンのピストンに装着されるものとして説明しているが、これに限らず、ガソリンエンジンのピストンに装着されるオイルリングに本発明を適用することもできる。
【0076】
また、オイルリング本体10の材質は鋼材に限らず他の材質とすることもできる。
【0077】
ランド30は、第1湾曲面35、第2湾曲面36、及び第3湾曲面37のうち、いずれか1つ以上を有していなくてもよい。しかしながら、ランド30が、第1湾曲面35、第2湾曲面36、及び第3湾曲面37を有していれば、エンジン組み立て時におけるオイルリング1の損傷の可能性を低減できる点で好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、レシプロエンジン(往復動内燃機関)のピストンに用いられるオイルリングに関し、特に、オイルリング本体の径方向内側部分にコイルエキスパンダーが装着されてなる2ピースタイプの組合せオイルリングに関する。
【符号の説明】
【0079】
1:オイルリング
10:オイルリング本体
10a:合口部
11:ウェブ部
12:レール部
13:通油孔
14:装着溝
20:コイルエキスパンダー
30:ランド
31:ランドの上面
32:ランドの下面
33:テーパ面
34:最外周面
35:第1湾曲面
36:第2湾曲面
37:第3湾曲面
41:最外周面の上端
42:最外周面の下端
43:第1地点
44:第2地点
101:シリンダの内周面
C:シリンダ
P:ピストン
O:オイルリングの中心軸
L:ランド幅
L1:最外周面幅
H:突出長
α:テーパ面の角度