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特許7053294綾巻きパッケージを製造する繊維機械の作業ユニットの糸スプライシング装置用のスプライシング角柱体およびスプライシング角柱体用の挿入部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】綾巻きパッケージを製造する繊維機械の作業ユニットの糸スプライシング装置用のスプライシング角柱体およびスプライシング角柱体用の挿入部材
(51)【国際特許分類】
   B65H 69/06 20060101AFI20220405BHJP
【FI】
B65H69/06
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018019988
(22)【出願日】2018-02-07
(65)【公開番号】P2018127363
(43)【公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-11-04
(31)【優先権主張番号】10 2017 102 432.8
(32)【優先日】2017-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513209338
【氏名又は名称】ザウラー ジャーマニー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Saurer Germany GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Leverkuser Strasse 65, D-42897 Remscheid, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ズィークフリート シャットン
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-168923(JP,A)
【文献】特開2015-174764(JP,A)
【文献】特開2009-143718(JP,A)
【文献】特開昭57-121567(JP,A)
【文献】特開昭54-077742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 69/00-69/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
綾巻きパッケージを製造する繊維機械の作業ユニット(2)において2つの糸端部を結節部なしに糸継ぎする糸スプライシング装置(10)用のスプライシング角柱体(23)であって、当該スプライシング角柱体(23)は、2つのスプライシング通路室(17,18)を備えた空気力供給可能なスプライシング通路(41)を有しており、前記スプライシング通路室(17,18)の軸線(26,27)は、軸線方向において互いにずらされて配置されている、スプライシング角柱体(23)において、
当該スプライシング角柱体(23)は、前記スプライシング通路室(17,18)の間に配置された収容間隙(19)を有しており、該収容間隙(19)内に挿入部材(30)が、位置決め可能であるかまたは位置決めされており、該挿入部材(30)は、丸み付けされた縁部を備えた糸挿入スリット(34)を有しており、当該糸挿入スリット(34)は、前記挿入部材(30)を前記収容間隙(19)内に取付けたときに、前記スプライシング通路室(17,18)の間で、前記スプライシング通路(41)の一部を構成する位置に形成されており、前記丸み付けされた縁部は、前記挿入部材(30)の取付け状態において、前記スプライシング通路室(17,18)の間において生じ、かつ、前記スプライシング通路室(17,18)のそれぞれの側壁に面一に隣接する突合せ縁を形成することを特徴とする、糸スプライシング装置(10)用のスプライシング角柱体(23)。
【請求項2】
前記収容間隙(19)は、前記スプライシング通路(41)に対して垂直に配置されている、請求項1記載のスプライシング角柱体(23)。
【請求項3】
前記収容間隙(19)内に配置可能なもしくは配置された、容易に交換可能な前記挿入部材(30)は、取付け状態において、破壊なしに解離可能な係止装置(35)によって固定されている、請求項1記載のスプライシング角柱体(23)。
【請求項4】
前記スプライシング通路室(17,18)のそれぞれは、それぞれ斜め上から前記スプライシング通路室(17;18)内に開口するスプライシング空気ノズル(37)を有している、請求項1記載のスプライシング角柱体(23)。
【請求項5】
前記各スプライシング空気ノズル(37)は、空気分配系(38)を介して、前記糸スプライシング装置(10)の空気通路(39)に接続可能であり、該空気通路(39)を介して当該スプライシング角柱体(23)に、必要な場合に、圧縮空気が供給可能である、請求項4記載のスプライシング角柱体(23)。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載のスプライシング角柱体(23)用の挿入部材(30)であって、当該挿入部材(30)は、スプライシング通路室(17,18)の間に配置された収容間隙(19)内に位置決め可能であるように形成されており、当該挿入部材(30)は、丸み付けされた縁部を備えた糸挿入スリット(34)を有しており、前記丸み付けされた縁部は、前記挿入部材(30)の取付け状態において、前記スプライシング通路室(17,18)の間において生じ、かつ、前記スプライシング通路室(17,18)のそれぞれの側壁に面一に隣接する突合せ縁を形成することを特徴とする、スプライシング角柱体(23)用の挿入部材(30)。
【請求項7】
当該挿入部材(30)は、打抜き部材として製造されていて、金属製材料から成っている、請求項6記載の挿入部材(30)。
【請求項8】
当該挿入部材(30)の糸挿入スリット(34)の少なくとも前記縁部が、研磨によって丸み付けされている、請求項7記載の挿入部材(30)。
【請求項9】
当該挿入部材(30)は、工業用セラミックスから製造されている、請求項6記載の挿入部材(30)。
【請求項10】
綾巻きパッケージを製造する繊維機械の作業ユニット(2)において2つの糸端部を結節部なしに糸継ぎする糸スプライシング装置(10)用のスプライシング角柱体(23)を使用する方法であって、
請求項1から5までのいずれか1項記載のスプライシング角柱体(23)と、請求項6から9までのいずれか1項記載の挿入部材(30)を準備し、該挿入部材(30)を、スプライシング通路室(17,18)が糸挿入スリット(34)を介して糸を収容するために互いに接続されているように、収容間隙(19)内に配置し、このとき前記糸挿入スリット(34)の丸み付けされた縁部が、前記スプライシング通路室(17,18)の間において生じ、かつ、前記スプライシング通路室(17,18)のそれぞれの側壁に面一に隣接する突合せ縁を形成することを特徴とする、糸スプライシング装置(10)用のスプライシング角柱体(23)を使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、綾巻きパッケージを製造する繊維機械の作業ユニットにおいて2つの糸端部を結節部なしに糸継ぎする糸スプライシング装置用のスプライシング角柱体であって、このときスプライシング角柱体は、2つのスプライシング通路室を備えた空気力供給可能なスプライシング通路を有しており、スプライシング通路室の軸線は、軸線方向において互いにずらされて配置されている、スプライシング角柱体に関する。
【0002】
繊維工業において、2つの糸端部を結節部なしに糸継ぎする糸スプライシング装置は、以前から従来技術の1つである。
【0003】
特に自動綾巻きワインダの作業ユニットとの関連において公知のこのような糸継ぎ装置は、空気力による2つの糸端部の渦動によって、本来の糸にほぼ等しい糸継ぎ部の形成を可能にし、このような糸継ぎ部は、糸に似た強度を有するのみならず、可能な限り糸と同じ外観をも有している。
【0004】
自動綾巻きワインダの作業ユニットにおいては、巻取りプロセス中に作業ユニットのうちの1つにおいて糸切れが生じた場合、または作業ユニットのうちの1つにおいて糸欠陥に基づいて確定されたクリアリング切断が実施された場合に、切り離された糸の糸端部をまず、特殊な空気力装置によって糸スプライシング装置の領域に呼び戻すことが公知である。
【0005】
すなわち吸込みノズルが、いわゆる上糸の、綾巻きパッケージの表面に巻き上げられた糸端部を呼び戻し、この糸端部を、場合によっては糸欠陥のクリアリング除去後に、糸スプライシング装置のスプライシング角柱体のスプライシング通路内に挿入する。
【0006】
このとき上糸の糸端部は、さらにスプライシング角柱体の上に配置された糸クランプ装置内に挿通され、かつスプライシング角柱体の下に位置決めされた糸切断装置内に挿通される。相応に、いわゆる下糸の糸端部も、つまり繰出し箇所に位置決めされている供給ボビンから延びていて巻取り中断後に通常糸テンショナにおいて固定されている、下糸の糸端部も、負圧供給可能なグリッパ管を用いて、スプライシング角柱体のスプライシング通路内に挿入される。このとき下糸の糸端部はさらに、スプライシング角柱体の下に配置された糸クランプ装置内に挿通され、かつスプライシング角柱体の上に配置された糸切断装置内に挿通される。
【0007】
次いで糸端部は、糸切断装置によって所定長さに切断され、いわゆる保持兼解撚管内に吸い込まれ、そこで後続のスプライシングプロセスのために準備される。すなわち糸端部は、保持兼解撚管内においてまず十分に糸撚りを解消され、その後で、糸寄せ器によってスプライシング角柱体のスプライシング通路内に引き戻され、これにより糸端部はスプライシング通路内において、互いに逆向きに方向付けられて、並んで位置するようになり、そしてそこで最後に空気力によって渦動させられることができる。
【0008】
数多くの特許出願書類に詳しく記載された公知の糸スプライシング装置は、通常、確かに空気力供給可能なスプライシング通路を備えたスプライシング角柱体を有しているが、しかしながらそのさらなる構成に関しては、しばしば著しく異なっている。
【0009】
例えば独国特許出願公開第3906354号明細書(DE 3906354 A1)に記載されているように、糸スプライシング装置は、スプライシング角柱体のスプライシング通路をスプライシング過程中に上方に向かって閉鎖するカバーエレメントを備えていてもよいし、または例えば欧州特許出願公開第1522517号明細書(EP 1522517 A1)に記載されているように、糸スプライシング装置は、このようなカバーエレメントが不要であるように形成されていてもよい。
【0010】
このような場合、スプライシング角柱体のスプライシング通路および所属の糸挿入スリットは、しばしば特別に、処理すべき糸材料に合わせられており、つまり細い糸材料の処理時には、しばしば、比較的細い糸挿入スリットを有するスプライシング角柱体が使用される。
【0011】
しかしながら、公知の糸スプライシング装置には、スプライシング角柱体のスプライシング通路内に位置決めされた糸端部が、スプライシング空気ノズルを介してスプライシング通路内に吹き込まれるスプライシング空気によってしばしば不都合な影響を及ぼされるという欠点がある。
【0012】
すなわち、独国特許出願公開第3906354号明細書に記載されているように、スプライシング角柱体のスプライシング通路が、スプライシング過程中に、カバーエレメントによって閉鎖されている糸スプライシング装置では、吹き込まれたスプライシング空気は、軸方向においてスプライシング通路から逃げ、つまりスプライシング通路内に配置された糸端部に対して平行に逃げる。
【0013】
スプライシング通路出口に向かって発生するこのような空気流は、スプライシング通路内に位置決めされた糸端部に対して、糸端部のオーバラップ長さが減じられるような力を加えることになり、このことは、特に最小オーバラップ長さを下回る場合には、スプライシング部の強度および外観に対して不都合な影響を及ぼす。
【0014】
このような最小オーバラップ長さを保証できるようにするために、カバーエレメントを備えて作業するスプライシング角柱体は、通常、比較的大きなスプライシング通路長さを有している。
【0015】
例えば欧州特許出願公開第1522517号明細書に記載されているように、カバーエレメントの使用が省かれる糸スプライシング装置では、これに対して、糸端部がスプライシング空気によって完全にまたは部分的に上方に向かってスプライシング角柱体のスプライシング通路から吹き出されるおそれがあるのみならず、さらに、糸端部が空気流によって軸方向において移動させられるおそれもある。このような場合には、糸継ぎ部は、そもそもそれが形成されたとしても、しばしば使用不能である。
【0016】
したがって欧州特許出願公開第1522517号明細書においては、スプライシング角柱体のスプライシング通路に、追加的な空気逃がし装置を設けることが、つまり空気逃がしスリットを設けることが提案されており、このような空気逃がしスリットは、スプライシング通路に対して垂直に配置されていて、追加的にスプライシング空気の横方向への排出を可能にする。
【0017】
このような追加的な空気逃がし装置によって、確かにしばしば、スプライシング糸継ぎ部の強度が改善されるが、しかしながらこのような公知の糸スプライシング装置では、スプライシング糸継ぎ部の真ん中に、空気逃がし装置の位置に相応して、美しくない肉厚部もしくは不所望の毛羽立ち部が発生するおそれがある。
【0018】
独国特許発明第3612229号明細書(DE 3612229 C2)において、さらに記載された糸スプライシング装置では、カバーエレメントの使用が省かれ、糸スプライシング装置のスプライシング角柱体は、2部分から成るスプライシング通路を有している。すなわち、この公知の糸スプライシング装置では、スプライシング角柱体のスプライシング通路は、半径方向において互いに幾分ずらされて配置された2つのスプライシング通路室に分割されていて、両方のスプライシング通路室はそれぞれ、接線方向に開口する固有のスプライシング空気ノズルを有している。
【0019】
スプライシング過程中にスプライシング空気ノズルを介して流入するスプライシング空気は、このときスプライシング通路室内において互いに逆向きに方向付けられた渦流を生ぜしめる。
【0020】
スプライシング通路が互いに幾分ずらされて配置された2つのスプライシング通路室を有するスプライシング角柱体を備えた、このような糸スプライシング装置は、スプライシング過程中に、確かに、スプライシング通路内における糸端部の比較的確実な位置決めを保証するが、しかしながら、このようなスプライシング角柱体の製造が比較的面倒であり、ひいてはかなりのコストが掛かるという、かなり大きな欠点を有している。
【0021】
すなわちスプライシング通路室の、スプライシング通路室の間において生じる向かい合った突合せ縁は、スプライシング過程中に糸端部における損傷を回避するために、注意深く加工されねばならず、つまり手間を掛けかつ苦労して平滑にされねばならず、これは、スプライシング通路の内部におけるその位置に基づいて、簡単ではない。
【0022】
上に述べた形式の糸スプライシング装置を出発点として、本発明の根底を成す課題は、安価に製造可能であり、カバーエレメントの使用が省略されるにもかかわらず、常に、スプライシング角柱体のスプライシング通路内における糸端部の確実かつ整然とした位置決めが保証される、糸スプライシング装置を提供することである。
【0023】
この課題を解決するスプライシング角柱体は、スプライシング通路室の間に配置された収容間隙を有しており、該収容間隙内に挿入部材が、位置決め可能であるかまたは位置決めされており、該挿入部材は、丸み付けされた縁部を備えた糸挿入スリットを有しており、丸み付けされた縁部は、挿入部材の取付け状態において、スプライシング通路室の間において生じる突合せ縁を形成する。さらに課題は、このようなスプライシング角柱体のための挿入部材によって解決される。
【0024】
本発明の有利な構成は、従属請求項の対象である。
【0025】
上において既に示唆したように、スプライシング角柱体が空気力供給可能なスプライシング通路を備えていて、このスプライシング通路が半径方向において互いにずらされて配置された2つのスプライシング通路室に分割されている糸スプライシング装置には、2つのスプライシング通路室の接触箇所の領域に狭窄部が発生し、この狭窄部によって、スプライシング過程中に、糸継ぎすべき糸端部の軸方向運動を阻止するある一定の抵抗が生じるという利点がある。この効果は、両方のスプライシング通路室の接触箇所の領域に配置された突合せ縁の曲率半径が小さければ小さいほど、大きくなる。すなわち小さいが鋭くない突合せ縁を得るために、スプライシング角柱体のスプライシング通路室の突合せ縁を、糸スプライシング装置内への取付け前に可能な限り綺麗に研磨することが有利である。
【0026】
しかしながらスプライシング通路室の突合せ縁は、接近することが比較的困難であるので、スプライシング通路室の突合せ縁の研磨は、かなり面倒であり、かつかなりのコストが掛かる。
【0027】
本発明による実施形態では、スプライシング通路室の突合せ縁の比較的困難な研磨を回避するために、スプライシング通路室の間に配置された収容間隙を有するスプライシング角柱体が使用され、収容間隙内に挿入部材が位置決め可能であり、この挿入部材は、スプライシング通路室を接続していて丸み付けされた縁部を備えた糸挿入スリットを有しており、このような縁部は、挿入部材の取付け状態において、スプライシング通路室の間に生じる突合せ縁を形成している。このように構成されていると、挿入部材の取付け状態において、互いにずらされて配置されたスプライシング通路室内に挿入可能な糸のための糸走路が、丸み付けされた突合せ縁を介して一方のスプライシング通路室から他方のスプライシング通路室へ到ることを可能にすることができる。このとき糸挿入スリットは、好ましくは、スプライシング通路室に相応して形成された深さを、糸の挿入方向において有し、かつさらに好ましくは、それぞれのスプライシング通路室から糸挿入スリット内への可能な限り縁部のない移行部を保証することができるように、糸走行方向に対して横方向に形成された幅を有している。言い換えれば、挿入部材の取付け状態において、糸挿入スリットの底部と、糸挿入スリットの、底部に隣接する側壁とは、糸走行方向において、それぞれの底部および対応配置されたスプライシング通路室のそれぞれの側壁に、面一に隣接している。
【0028】
すなわち、スプライシング角柱体の、上において記載した好適に形成された実施形態の使用によって、スプライシング過程中にスプライシング空気の流れ成分によって、スプライシング角柱体のスプライシング通路内に配置された糸端部が軸方向移動するおそれが、大幅に減じられるのみならず、スプライシング角柱体はさらに、該スプライシング角柱体を極めて安価に製造することができるという大きな利点を有する。
【0029】
好適な実施形態では、収容間隙は、スプライシング通路に対して垂直に配置されている。収容間隙のこのような配置形態によって、収容間隙内に配置された挿入部材の形成および加工に関して大きな利点が得られる。すなわち収容間隙の垂直な配置形態に基づいて、好ましくはプレート状に形成された挿入部材は、単に画一的な直角の突合せ縁を有しており、このような突合せ縁はすべて自由に接近可能であり、ひいては比較的問題なく加工することができる。
【0030】
容易に交換可能に収容間隙内に配置可能なもしくは配置されている挿入部材は、好ましくは、取付け状態において、破壊なしに解離可能な係止装置によって固定されており、この係止装置の構造は比較的単純であってよい。
【0031】
挿入部材は、例えば、スプライシング角柱体の相応の孔と対応する孔を備えていることができる。これらの孔には、挿入部材の取付け状態において固定手段が支持されている。このとき固定手段としては、例えば、ねじボルト、緊締ピンまたはこれに類した部材を使用することができる。
【0032】
挿入部材の正確な構成もしくは製造に関しても、種々様々な可能性を想起することができる。
【0033】
挿入部材は、好適な実施形態によれば、打抜き部材として製造することができ、かつこのような場合には、好ましくは、金属製材料、例えば工具鋼から成っている。しかしながら択一的な好適な実施形態では、挿入部材を工業用セラミックスから製造するということも想起することができる。
【0034】
このとき挿入部材を金属製材料から成る打抜き部材の形態で製造することには、特にかなり多くの個品数を製造する必要がある場合に、このような打抜き部材の製造が、個品数が多くなればなるほど、より安価になるという利点がある。すなわち相応の打抜き工具を調製した後では、このような金属製材料の製造コストは、大部分が材料コストに制限される。
【0035】
打抜き部材として製造されたこのような挿入部材の突合せ縁の、次いで行われる丸み付けもまた、研磨工具によって比較的簡単にかつ問題なく実施することができる。すなわち、金属製材料から製造された打抜き部材は、相応の個品数の場合、比較的安価に製造することができる。
【0036】
挿入部材が工業用セラミックスから製造される場合には、焼結材料用の収容型を、製造すべき部材が焼成後に既に丸み付けされた突合せ縁を有するように形成することが有利である。
【0037】
工業用セラミックスから製造された挿入部材は、その製造に関して、工具鋼製の同等の打抜き部材に比べて、確かに高価であるが、しかしながらこのような部材の耐用寿命は、その高い摩耗強度に基づいて極めて長いという利点を有している。
【0038】
別の好適な実施形態によれば、スプライシング通路室のそれぞれは、それぞれ斜め上からスプライシング通路室内に開口するスプライシング空気ノズルを有している。
【0039】
このときスプライシング空気ノズルは、好ましくは、上からスプライシング通路内に延びる糸導入スリットの直ぐ近傍においてかつ接線方向でスプライシング通路内に開口している。すなわちスプライシング空気は、スプライシング通路室内への吹込み時に、スプライシング通路室の壁に沿って渦流を生ぜしめ、この渦流によって、糸継ぎすべき糸端部の繊維は緊密に混合させられ、かつ撚り合わせられる。
【0040】
したがって、スプライシング通路室およびスプライシング空気ノズルの位置の適宜な幾何学形状によって、スプライシング空気がその吹込み直後にまず糸端部に衝突し、かつこれらの糸端部を混合させるということを達成することができる。次いで糸端部は、回転流によって、渦動され、かつこのとき整然と互いに撚り合わせられる。
【0041】
好適な実施形態によれば、さらに、各スプライシング空気ノズルは、空気分配系を介して、糸スプライシング装置の空気通路に接続可能であり、該空気通路を介してスプライシング角柱体に、必要な場合に、圧縮空気が供給可能である。
【0042】
空気通路に接続可能である空気分配系によって、両方のスプライシング通路室内に配置されたスプライシング空気ノズルを1つの共通の圧縮空気源に接続するという可能性が簡単に得られる。すなわち、スプライシング角柱体のスプライシング通路が軸方向において2つのスプライシング通路室に分割され、かつ両方のスプライシング通路室が半径方向においてずらされているにもかかわらず、空気分配系によってスプライシング空気ノズルの確実な連結が与えられており、ひいてはスプライシング通路室内において互いに逆向きの渦流を発生させることが保証されている。
【0043】
本発明の別の態様によれば、前記課題は、綾巻きパッケージを製造する繊維機械の作業ユニットにおいて2つの糸端部を結節部なしに糸継ぎする糸スプライシング装置用のスプライシング角柱体を製造する方法によって解決される。そのためにはまず、上に記載した好適な実施形態のうちの1つに記載のスプライシング角柱体と、上に記載した好適な実施形態のうちの1つに記載の挿入部材とが準備される。次いで挿入部材は、スプライシング通路室が糸挿入スリットを介して糸を収容するために互いに接続されているように、収容間隙内に配置され、このとき糸挿入スリットの丸み付けされた縁部が、スプライシング通路室の間において生じる突合せ縁を形成する。これによって、上に記載した利点を有する糸スプライシング装置を得ることができる。
【0044】
次に、図面に示した実施形態を参照しながら、本発明を詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】1実施形態によるスプライシング角柱体を有する糸スプライシング装置を備えた自動綾巻きワインダの作業ユニットを概略的に示す側面図である。
図2】空気分配体上に配置されかつスプライシング通路を備えた、スプライシング角柱体であって、スプライシング通路が、互いにずらされて配置された2つのスプライシング通路室と、両スプライシング通路室の間に配置された、挿入部材用の1つの収容間隙とを有している、スプライシング角柱体を示す斜視図である。
図3図2に示されたスプライシング角柱体を部分的に断面して示す平面図である。
図4図3のIII-III線に沿って断面してスプライシング角柱体を示す正面図である。
図5】スプライシング通路室の間に配置された1実施形態による挿入部材を、斜め前から見て示す斜視図である。
【0046】
図1には、自動綾巻きワインダ1の実施形態における、綾巻きパッケージを製造する繊維機械の作業ユニット2が、側面図で略示されている。
【0047】
このような自動綾巻きワインダ1は、互いに列を成して配置されていて多くの場合同じ形式で形成された複数のこのような作業ユニット2を有している。
【0048】
これらの作業ユニット2において、例えばリング精紡機において製造された紡績コップ9であって、比較的僅かな糸材料を有する紡績コップ9である繰出しボビンが、大きな体積の綾巻きパッケージ15に巻き返され、これらの綾巻きパッケージ15は、その製造後に、機械長さの綾巻きパッケージ搬送装置21上に移送され、この綾巻きパッケージ搬送装置21から、機械端部側に配置されたパッケージチャージステーションに搬送される。
【0049】
実施形態では、自動綾巻きワインダ1は、さらに、紡績コップ・空管搬送システム3として形成された機械固有の補給装置を備えており、この補給装置のうち、図1には単に、コップ供給区間4、可逆式に駆動可能な貯え区間5、巻取りユニット2に通じる横搬送区間6、および巻管戻し区間7だけが示されている。
【0050】
巻取り運転中、この紡績コップ・空管搬送システム3において、紡績コップ9もしくは空管は、鉛直方向に方向付けられた状態で搬送皿8上に位置決めされて、循環する。
【0051】
コップ供給区間4を介して供給されかつまずは貯え区間5において中間貯蔵された紡績コップ9は、このとき、それぞれ横搬送区間6の領域において作業ユニット2の高さに位置している繰出し箇所ASにおいて位置決めされ、次いで、大きな体積の綾巻きパッケージ15に巻き返され、このとき走行する糸は、巻取りプロセス中に同時に糸欠陥を監視され、糸欠陥は、場合によっては直ちにクリアリング除去される。
【0052】
個々の作業ユニット2はそのために、公知のようにゆえに単に略示されているように、これらの作業ユニット2の整然とした運転を保証する種々様々な装置を有している。
【0053】
このような作業ユニット2は、例えばそれぞれ、糸テンショナ、糸切断装置が接続された糸クリアラ、パラフィン処理装置、糸張力センサおよび下糸センサのような糸処理もしくは糸取扱い装置を備えている。
【0054】
このような自動綾巻きワインダ1の作業ユニット2は、さらにそれぞれ、吸込みノズル12、グリッパ管25および糸スプライシング装置10を有している。さらにこのような自動綾巻きワインダ1は、通常しばしば、中央制御ユニット11を有しており、この中央制御ユニット11は、例えば機械バス16を介して、個々の作業ユニット2の作業ユニットコンピュータ29に接続されている。
【0055】
図1から分かるように、作業ユニット2は綾巻きパッケージ15を巻成するために、さらにそれぞれ巻取り装置24を有しており、この巻取り装置24は特に、パッケージフレーム28を有しており、このパッケージフレーム28は、旋回軸線22を中心にして可動に支持されていて、かつ綾巻きパッケージ15の巻管を回転可能に保持するための装置を備えている。
【0056】
巻取りプロセス中に、パッケージフレーム28に自由回転可能に保持された綾巻きパッケージ15の表面は、例えばいわゆる糸ガイドドラム14に載置されていて、この糸ガイドドラム14により摩擦によって一緒に回転させられる。
【0057】
このような糸ガイドドラム14は、公知のようにいわゆる糸ガイド溝を有しているので、巻き上げられる糸は巻取りプロセス中にさらに案内され、糸が、綾振りされた巻成位置において巻取りパッケージに巻き上げられるようになっている。
【0058】
しかしながら糸ガイドドラムの代わりに、溝のないパッケージ駆動ローラを使用することも可能であり、このパッケージ駆動ローラは、巻取りプロセス中に綾巻きパッケージを単に摩擦によって回転させるだけである。
【0059】
このような場合には、綾巻きパッケージ15に巻き上げられる糸の綾振りは、例えばフィンガ糸ガイドを備えた別体の糸綾振り装置を用いて行われる。
【0060】
旋回軸線13を中心にして制限されて回転可能に支持された吸込みノズル12は、巻取り中断後に上糸31の、綾巻きパッケージ15の表面に巻き上げられた糸端部を、収容して糸スプライシング装置10に引き渡したい場合に、使用される。
【0061】
同様に、旋回軸線20を中心にして制限されて回転可能なグリッパ管25によって、巻取り中断後に、紡績コップ9に接続された下糸32の糸端部が取り扱われる。すなわちグリッパ管25は、糸テンショナにおいて固定された下糸32の糸端部を引き受け、そして下糸32を同様に糸スプライシング装置10に引き渡す。
【0062】
糸スプライシング装置10は、好ましくは相応の(詳しくは示されていない)収容装置を介して、作業ユニット2のハウジング33に接続されていて、かつこのとき、このとき通常のように、正規の糸走路、つまり巻取りプロセス中に通常の糸走路に対して、幾分後退させられて配置されている。
【0063】
公知のように、糸スプライシング装置10の領域にはさらに(詳しくは示されていない)保持兼解撚管が配置されており、これらの保持兼解撚管を用いて糸端部はスプライシング過程のために準備される。
【0064】
さらに糸スプライシング装置10の領域には、図面を見易くする理由から同様に図示されていない、糸クランプ装置、糸切断装置および糸寄せ器のような追加的な糸取扱い装置が配置されている。
【0065】
カバーエレメントなしに作動する糸スプライシング装置10は、以下において図2図5を参照しながら詳説するように、空気分配体36に配置されたスプライシング角柱体23を有しており、このスプライシング角柱体23は、圧縮空気を供給可能なスプライシング通路41を有している。
【0066】
内部において上糸31の糸端部と下糸32の糸端部とを糸継ぎすることができる、スプライシング角柱体23のスプライシング通路41は、このとき、例えば独国特許発明第3612229号明細書によって公知でありかつ図2および図3に示されているように、2つのスプライシング通路室17,18を有しており、これらのスプライシング通路室17,18の軸線26,27は、互いに対して幾分ずらされて配置されている。
【0067】
スプライシング角柱体23はさらに、スプライシング通路室17,18の軸線26,27に対して垂直に配置された、糸挿入スリット34を有する挿入部材30を収容する収容間隙(Lagerspalt)19を有している。
【0068】
特に、取付け状態における糸スプライシング装置10のスプライシング角柱体23の斜視図を示す図2から、または断面されたスプライシング角柱体23の平面図が示されている図3から、良好に分かるように、収容間隙19内に配置されかつ例えば係止装置35を介して固定された挿入部材30は、スプライシング通路室17,18の間に配置されていて、スプライシング通路室17,18の突合せ縁(Stosskante)が覆われるようになっている。
【0069】
すなわち取付け状態において挿入部材30は、挿入部材30の糸挿入スリット34がスプライシング通路室17,18の間に配置されていて、かつスプライシング過程中にスプライシング空気流のための狭窄箇所を形成し、かつ上糸31および下糸32のスプライシングすべき糸端部のための係止箇所を形成するように、収容間隙19内において位置決めされかつ固定されている。
【0070】
図4には、空気分配体36に固定されたスプライシング角柱体23が断面図で示されている。
【0071】
図面から分かるように、各スプライシング通路室17;18内にはそれぞれ斜め上からスプライシング空気ノズル37が開口している。
【0072】
このときスプライシング空気ノズル37はそれ自体、空気分配系38を介して空気通路39に接続されており、この空気通路39を介して、スプライシング角柱体23のスプライシング通路41には、必要な場合に圧縮空気Dが供給可能である。
【0073】
図5には挿入部材30が斜視図で示されており、この挿入部材30は、例えば金属製の打抜き部材として形成されているか、または工業用セラミックスから製造されている。
【0074】
図面から分かるように、挿入部材30は糸挿入スリット34と係止装置35の一部とを有している。
【0075】
本実施形態では、係止装置35は例えば、取付け状態において図示された孔を貫通して係合する係止ねじによって形成される。
【0076】
挿入部材30が金属製の打抜き部材として形成されている場合には、糸挿入スリット34の向かい合った突合せ縁は、打抜き加工後に加工され、つまり研磨されて、縁部の鋭さが除去されるが、この工程は比較的簡単でかつ問題ない。
【0077】
工業用セラミックスから製造された挿入部材30の場合には、製造すべき部材の焼結材料を収容する型が、直ちに、焼結プロセス中に挿入部材30において鋭い突合せ縁が発生し得ることが回避されるように構成されている。
図1
図2
図3
図4
図5