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特許7053343Fe-Mn合金およびFe-Mn合金の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】Fe-Mn合金およびFe-Mn合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220405BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20220405BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20220405BHJP
   C21D 8/00 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C22C38/00 302A
C22C38/38
C22C38/58
C21D8/00 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018066894
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178352
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】特許業務法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 資昭
(72)【発明者】
【氏名】東海 栄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】山中 謙太
(72)【発明者】
【氏名】千葉 晶彦
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特表平03-500306(JP,A)
【文献】特開2009-299083(JP,A)
【文献】特開2002-180205(JP,A)
【文献】特開2008-045201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分組成として、20.0質量%以上30.0質量%以下のMn、5.0質量%以上10.0質量%以下のAl、0.5質量%以上1.5質量%以下のC、および5.0質量%以上10.0質量%以下のCrを含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなるか、または、
成分組成として、20.0質量%以上30.0質量%以下のMn、5.0質量%以上10.0質量%以下のAl、0.5質量%以上1.5質量%以下のC、5.0質量%以上10.0質量%以下のCr、および2.5質量%以上10.0質量%以下のNiを含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
金属組織として、β-Mn相およびα相を含
β-Mn相およびα相の面積分率の合計を100%としたときに、β-Mn相の面積分率が60%以上90%以下であり、α相の面積分率が10%以上40%以下である、Fe-Mn合金。
【請求項2】
インゴットを熱間加工して熱間加工物を得る熱間加工工程と、
前記熱間加工工程で得られた前記熱間加工物を冷間鍛造して冷間鍛造物を得る冷間鍛造工程と、
前記冷間鍛造工程で得られた前記冷間鍛造物を硬化熱処理してFe-Mn合金を得る硬化熱処理工程とを含み、
前記インゴットは、成分組成として、20.0質量%以上30.0質量%以下のMn、5.0質量%以上10.0質量%以下のAl、0.5質量%以上1.5質量%以下のC、および5.0質量%以上10.0質量%以下のCrを含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなるか、または、成分組成として、20.0質量%以上30.0質量%以下のMn、5.0質量%以上10.0質量%以下のAl、0.5質量%以上1.5質量%以下のC、5.0質量%以上10.0質量%以下のCr、および2.5質量%以上10.0質量%以下のNiを含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、金属組織として、γ相およびα相を含み、
前記Fe-Mn合金は、成分組成として、20.0質量%以上30.0質量%以下のMn、5.0質量%以上10.0質量%以下のAl、0.5質量%以上1.5質量%以下のC、および5.0質量%以上10.0質量%以下のCrを含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなるか、または、成分組成として、20.0質量%以上30.0質量%以下のMn、5.0質量%以上10.0質量%以下のAl、0.5質量%以上1.5質量%以下のC、5.0質量%以上10.0質量%以下のCr、および2.5質量%以上10.0質量%以下のNiを含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、金属組織として、β-Mn相およびα相を含
前記熱間加工物は、γ相およびα相の面積分率の合計を100%としたときに、γ相の面積分率が60%以上90%以下であり、α相の面積分率が10%以上40%以下であり、
前記Fe-Mn合金は、β-Mn相およびα相の面積分率の合計を100%としたときに、β-Mn相の面積分率が60%以上90%であり、α相の面積分率が10%以上40%以下である、Fe-Mn合金の製造方法。
【請求項3】
前記冷間鍛造工程は、加工率20%以上80%以下で前記熱間加工物を冷間鍛造する、請求項に記載のFe-Mn合金の製造方法。
【請求項4】
前記硬化熱処理工程は、550℃以上800℃以下で前記冷間鍛造物を硬化熱処理する、請求項またはに記載のFe-Mn合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fe-Mn合金およびFe-Mn合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、低比重鉄合金が記載されている。この低比重鉄合金は、Mn:15.0~45.0質量%、Al:8.0~20.0質量%、C:0.01~2.5質量%、Si:0.01~5.0質量%、Cr:0.01~10.0質量%、B:0.001~1.5質量%、N:0.01~1.5質量%、残部Feおよび不可避的不純物からなる。また、上記低比重鉄合金は、α相分率10~95%であるγ+αの2相を備えた鉄合金からなる。また、非特許文献1には、FeMnAl合金が記載されている。このFeMnAl合金は、Fe-29.5Mn-9.2Al-0.94Cの組成を有する。上記FeMnAl合金について、550℃で104分間以上の時効処理を行うと、β-Mnが析出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-325387号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Ryan A. Howel,“Microstructural influence on dynamic properties of age hardenable FeMnAl Allоys”,Doctoral Dissertations,Missouri University of Science and Technology,Summer 2009,p.27-28
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の低比重鉄合金および非特許文献1のFeMnAl合金は、硬度が低い。
【0006】
そこで、本発明の目的は、高い硬度を有するFe-Mn合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るFe-Mn合金は、成分組成として、20.0~30.0質量%のMn、5.0~10.0質量%のAl、0.5~1.5質量%のC、および5.0~10.0質量%のCrを含み、残部がFeおよび不可避的不純物であり、金属組織として、β-Mn相およびα相を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るFe-Mn合金は、高い硬度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、Fe-Mn合金試料について、加工率に対するビッカース硬さの変化を示した図である。
図2図2は、Fe-Mn合金試料について、硬化熱処理温度に対するビッカース硬さの変化を示した図である。
図3図3は、Fe-Mn合金試料について、加工率に対するビッカース硬さの変化を示した図である。
図4図4は、Fe-Mn合金試料について、硬化熱処理温度に対するビッカース硬さの変化を示した図である。
図5図5はFe-Mn合金試料について、加工率に対するビッカース硬さの変化を示した図である。
図6図6は、Fe-Mn合金試料について、硬化熱処理温度に対するビッカース硬さの変化を示した図である。
図7図7は、Fe-Mn合金試料について、SEM像を示した図である。
図8図8は、Fe-Mn合金試料について、SEM像を示した図である。
図9図9は、Fe-Mn合金試料について、SEM像を示した図である。
図10図10は、Fe-Mn合金試料のX線回折パターンを示した図である。
図11A図11Aは、Fe-Mn合金試料のHAADF-STEM像を示した図である。
図11B図11Bは、図11AのHAADF-STEM像の一部を拡大した図である。
図12A図12Aは、Fe-Mn合金試料について、STEM-EDSによるマッピングの結果を示した図である。
図12B図12Bは、図12Aのマッピングの一部を拡大した図である。
図13A図13Aは、Fe-Mn合金試料のHAADF-STEM像を示した図である。
図13B図13Bは、図13AのHAADF-STEM像の一部を拡大した図である。
図14A図14Aは、Fe-Mn合金試料について、STEM-EDSによるマッピングの結果を示した図である。
図14B図14Bは、図14Aのマッピングの一部を拡大した図である。
図15A図15Aは、Fe-Mn合金試料のHAADF-STEM像を示した図である。
図15B図15Bは、図15AのHAADF-STEM像の一部を拡大した図である。
図16A図16Aは、Fe-Mn合金試料について、STEM-EDSによるマッピングの結果を示した図である。
図16B図16Bは、図16Aのマッピングの一部を拡大した図である。
図17A図17Aは、Fe-Mn合金試料のHAADF-STEM像を示した図である。
図17B図17Bは、Fe-Mn合金試料の電子回折図形を示した図である。
図17C図17Cは、Fe-Mn合金試料のHAADF-STEM像を示した図である。
図18図18は、Fe-Mn合金試料の電子回折図形を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0011】
<Fe-Mn合金>
実施形態に係るFe(鉄)-Mn(マンガン)合金は、成分組成として、20.0質量%以上30.0質量%以下のMn、5.0質量%以上10.0質量%以下のAl(アルミニウム)、0.5質量%以上1.5質量%以下のC(炭素)、および5.0質量%以上10.0質量%以下のCr(クロム)を含み、残部がFeおよび不可避的不純物である。また、実施形態に係るFe-Mn合金は、金属組織として、β-Mn相およびα相(フェライト相、bcc構造)を含む。β-Mn相は、立方晶系(cubic)であり、a=b=c=6.34Åであり、単位胞中の原子数は20個である。
【0012】
このように、実施形態に係るFe-Mn合金は、特定の成分組成を有し、かつ金属組織としてβ-Mn相を有する。したがって、実施形態に係るFe-Mn合金は、硬度が高く、耐傷性、耐打痕性に優れる。また、実施形態に係るFe-Mn合金は、α相も含むため、加工性にも優れる。
【0013】
一方、特許文献1に記載された低比重鉄合金は、γ相(オーステナイト相、fcc構造)およびα相を備える。このため、硬度が低いと考えられる。また、非特許文献1に記載されたFeMnAl合金は、上記Fe-Mn合金とは異なる成分組成を有する。さらに、非特許文献1では、このFeMnAl合金について、550℃での時効処理が行われている。ここで、104分間以上の時効処理でβ-Mnが析出している。しかしながら、β-Mnは析出物として出現するに過ぎないため、上記FeMnAl合金は、硬度が低いと考えられる。
【0014】
以下では、実施形態に係るFe-Mn合金について、より詳しく説明する。実施形態に係るFe-Mn合金は、20.0質量%以上30.0質量%以下のMnを含む。Mnを上記の量で含むため、金属組織としてβ-Mn相が得られる。したがって、上記Fe-Mn合金の硬度を高くできる。
【0015】
上記Fe-Mn合金は、5.0質量%以上10.0質量%以下のAlを含む。Alを上記の量で含むため、金属組織としてβ-Mn相とともにα相が得られる。また、上記Fe-Mn合金の加工性も向上できる。
【0016】
上記Fe-Mn合金は、0.5質量%以上1.5質量%以下のCを含む。Cを上記の量で含むため、金属組織としてβ-Mn相とともにα相が得られる。また、上記Fe-Mn合金の加工性も向上できる。Cは、1.5質量%よりも多すぎると、M3C(MはFeまたはMnである。)等の炭化物として析出することがある。
【0017】
上記Fe-Mn合金は、5.0質量%以上10.0質量%以下のCrを含む。Crを上記の量で含むため、金属組織としてβ-Mn相が得られる。また、Crは、主に、炭化物としてβ-Mn相とα相との境界に存在し、上記Fe-Mn合金の硬度の改善に寄与できる。
【0018】
上記Fe-Mn合金において、残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物は原料などから不可避的に混入する。不可避的不純物としては、Si(ケイ素)、P(リン)、S(硫黄)が挙げられる。通常、それぞれ0.01質量%未満の量で含まれる。この量であれば、実施形態の効果を妨げないと考えられる。
【0019】
実施形態に係るFe-Mn合金は、成分組成として、さらに2.5質量%以上10.0質量%以下のNiを含むことが好ましい。すなわち、実施形態に係るFe-Mn合金は、成分組成として、20.0質量%以上30.0質量%以下のMn、5.0質量%以上10.0質量%以下のAl、0.5質量%以上1.5質量%以下のC、5.0質量%以上10.0質量%以下のCr、および2.5質量%以上10.0質量%以下のNiを含み、残部がFeおよび不可避的不純物であってもよい。Niを上記の量で含んでいると、金属組織としてα相がより好適に得られるとともに、熱間および/または冷間の鍛造加工性が向上する。また、上記Fe-Mn合金の加工性を向上できる。したがって、上記Fe-Mn合金の硬度と強度とのバランスが向上できる。
【0020】
また、実施形態に係るFe-Mn合金は、金属組織として、β-Mn相およびα相を含む。β-Mn相は硬度が高い。したがって、このようなβ-Mn相を含む上記Fe-Mn合金は硬度が高い。また、α相も含むため、上記Fe-Mn合金は加工性にも優れる。具体的には、上記Fe-Mn合金に含まれるβ-Mn相は、少なくとも一部は、SEM像において、面積が1μm2以上の連続した相として観察される。いいかえると、上記Fe-Mn合金に含まれるβ-Mn相は、少なくとも一部は、微細な析出物としてではなく、上記のように連続した相として存在している。
【0021】
また、実施形態に係るFe-Mn合金は、β-Mn相およびα相の面積分率の合計を100%としたときに、β-Mn相の面積分率が60%以上90%以下であり、α相の面積分率が10%以上40%以下であることが好ましい。また、β-Mn相の面積分率が70%以上90%以下であり、α相の面積分率が10%以上30%以下であることがより好ましい。面積分率が上記範囲にあると、硬度と加工性とのバランスが向上できる。面積分率は、SEM像観察において、特定の大きさの領域(たとえば100μm×100μmの領域)中のβ-Mn相およびα相の面積を測定し、得られた測定値から求められる。
【0022】
また、上記特定の大きさの領域において、β-Mn相およびα相以外の領域の面積分率(β-Mn相およびα相以外の炭化物(たとえばCr炭化物)、残存γ相などの合計の面積分率)は、通常5%以下である。β-Mn相およびα相以外の領域の面積分率が、上記範囲にあれば、実施形態の効果を妨げないと考えられる。
【0023】
実施形態に係るFe-Mn合金について、結晶粒の大きさは、通常10μm以下である。硬度の観点から結晶粒が上記範囲にあることが好ましい。
【0024】
実施形態に係るFe-Mn合金について、ビッカース硬さ(HV)は、通常400以上であり、好ましくは500以上である。ビッカース硬さが上記範囲にあると、耐傷性、耐打痕性が求められる用途に好適に用いられる。
【0025】
<Fe-Mn合金の製造方法>
実施形態に係るFe-Mn合金の製造方法は、熱間加工工程と、冷間鍛造工程と、硬化熱処理工程とを含む。上記Fe-Mn合金の製造方法において、熱間加工工程では、熱間加工物を製造する。冷間鍛造工程では、熱間加工物を冷間鍛造して、転位が導入された金属結晶を有する冷間鍛造物を製造する。この冷間鍛造物は、金属組織としてγ相およびα相を含む。硬化熱処理工程では、冷間鍛造物を硬化熱処理して、Fe-Mn合金を製造する。このFe-Mn合金は、金属組織としてβ-Mn相およびα相を含む。硬化熱処理中に、γ相がβ-Mn相に変態すると考えられる。すなわち、冷間鍛造によって金属結晶中に転位を導入しておくと、続く硬化熱処理で、γ相からβ-Mn相への変態が起こると考えられる。なお、熱間加工物をそのまま硬化熱処理した場合は、γ相からβ-Mn相への変態は起こらない。
【0026】
熱間加工工程は、インゴットを熱間加工して熱間加工物を得る工程である。
【0027】
インゴットは、成分組成として、20.0質量%以上30.0質量%以下のMn、5.0質量%以上10.0質量%以下のAl、0.5質量%以上1.5質量%以下のC、および5.0質量%以上10.0質量%以下のCrを含み、残部がFeおよび不可避的不純物である。インゴットが上記成分組成を有していると、β-Mn相を有するFe-Mn合金が製造できる。すなわち、硬度が高いFe-Mn合金が製造できる。インゴットは、成分組成として、さらに2.5質量%以上10.0質量%以下のNiを含んでいてもよい。インゴットがNiを上記の量で含んでいると、製造されたFe-Mn合金の加工性を向上できる。
【0028】
また、インゴットは、金属組織として、γ相およびα相を含む。インゴットは、γ相およびα相の面積分率の合計を100%としたときに、γ相の面積分率が60%以上90%以下であり、α相の面積分率が10%以上40%以下であることが好ましい。また、γ相の面積分率が70%以上90%以下であり、α相の面積分率が10%以上30%以下であることがより好ましい。面積分率が上記範囲にあると、硬化熱処理でのβ-Mn相への変態が起こりやすい。
【0029】
上記インゴットは、たとえば、上記成分組成となるように原料を秤量し、溶解させた後、鋳型へ傾注して製造する。
【0030】
熱間加工として、具体的には鍛造および溝ロール圧延が挙げられ、これにより、熱間加工物として棒材が得られる。熱間加工は、通常1100℃以上1250℃以下で行う。なお、熱間加工後は、通常水冷する。
【0031】
熱間加工による加工率は、好ましくは45%以上80%以下である。本明細書において、加工率とは断面積の減少率をいう。具体的には、インゴットの断面積に対する、得られた棒材の断面積の減少率をいう。
【0032】
上記熱間加工物において、成分組成および金属組織の種類、割合は、好ましい範囲およびその理由も含め、インゴットの場合と同じである。また、上記熱間加工物について、結晶粒の大きさは、通常10μm以下である。最終的に製造されるFe-Mn合金の硬度の観点から結晶粒が上記範囲にあることが好ましい。
【0033】
冷間鍛造工程は、上記熱間加工工程で得られた上記熱間加工物を冷間鍛造して冷間鍛造物を得る工程である。冷間鍛造により、冷間鍛造物の金属結晶には転位が導入される。
【0034】
冷間鍛造として、具体的にはスエージング加工が挙げられ、これにより、冷間鍛造物として、外径がより絞られた棒材が得られる。
【0035】
冷間鍛造による加工率は、好ましくは20%以上80%以下であり、より好ましくは40%以上80%以下である。加工率が上記範囲にあると、金属結晶に好適な量で転位が導入できる。したがって、硬化熱処理により、β-Mn相への変態が起こり、最終的に製造されるFe-Mn合金の硬度を高くできる。
【0036】
上記冷間鍛造物において、成分組成および金属組織の種類、割合は、好ましい範囲およびその理由も含め、インゴットおよび熱間加工物の場合と同じである。また、上記冷間鍛造物について、結晶粒の大きさは、通常10μm以下である。最終的に製造されるFe-Mn合金の硬度の観点から結晶粒が上記範囲にあることが好ましい。
【0037】
硬化熱処理工程は、上記冷間鍛造工程で得られた上記冷間鍛造物を硬化熱処理してFe-Mn合金を得る工程である。硬化熱処理により、γ相からβ-Mn相への変態が起こる。これにより、具体的にはFe-Mn合金の棒材が得られる。
【0038】
硬化熱処理は、好ましくは550℃以上800℃以下で、より好ましくは600℃以上700℃以下で行う。硬化熱処理の温度が上記範囲にあると、最終的に製造されるFe-Mn合金の硬度を高くできる。硬化熱処理の温度が高すぎると、最終的に製造されるFe-Mn合金の硬度が低くなる場合がある。さらに、コストがかかる場合がある。また、硬化熱処理は、好ましくは10分以上12時間以下行う。硬化熱処理の時間が上記範囲にあると、最終的に製造されるFe-Mn合金の硬度を高くできる。硬化熱処理の時間が長すぎると、最終的に製造されるFe-Mn合金の強度が小さくなる場合がある。さらに、コストがかかる場合がある。なお、硬化熱処理後は、通常空冷する。
【0039】
得られたFe-Mn合金は、成分組成として、20.0質量%以上30.0質量%以下のMn、5.0質量%以上10.0質量%以下のAl、0.5質量%以上1.5質量%以下のC、および5.0質量%以上10.0質量%以下のCrを含み、残部がFeおよび不可避的不純物である。上記Fe-Mn合金は、成分組成として、さらに2.5質量%以上10.0質量%以下のNiを含んでいてもよい。なお、Fe-Mn合金では、通常、インゴットの成分組成がほぼ保たれる。また、上記Fe-Mn合金は、金属組織として、β-Mn相およびα相を含む。このように、製造されたFe-Mn合金は、特定の成分組成を有し、かつ金属組織としてβ-Mn相を有する。したがって、上記Fe-Mn合金は、硬度が高く、耐傷性、耐打痕性に優れる。また、上記Fe-Mn合金は、α相も含むため、加工性にも優れる。
【0040】
また、上記Fe-Mn合金は、β-Mn相およびα相の面積分率の合計を100%としたときに、β-Mn相の面積分率が60%以上90%以下であり、α相の面積分率が10%以上40%以下であることが好ましい。また、β-Mn相の面積分率が70%以上90%以下であり、α相の面積分率が10%以上30%以下であることがより好ましい。面積分率が上記範囲にあると、硬度と加工性とのバランスが向上できる。
【0041】
また、上記Fe-Mn合金について、結晶粒の大きさは、通常10μm以下である。上記Fe-Mn合金の硬度の観点から結晶粒が上記範囲にあることが好ましい。
【0042】
上記Fe-Mn合金の製造方法において、熱間加工は、所望の形状が得られればよく、熱間圧延で行ってもよい。また、冷間鍛造の代わりに冷間圧延を行ってもよい。金属結晶中に転位が導入できる冷間加工であればよい。
【0043】
上記Fe-Mn合金の製造方法において、熱間加工の前に、インゴットを均質化熱処理する均質化熱処理工程を行ってもよい。均質化熱処理は、たとえば1000℃以上1200℃以下で0.5時間以上3時間以下行う。これにより、インゴットの組織を均一にできる。なお、この場合、熱間加工工程では、均質化熱処理されたインゴットを熱間加工して熱間加工物を得る。
【0044】
上記Fe-Mn合金の製造方法において、熱間加工の後に、上記熱間加工工程で得られた上記熱間加工物を焼鈍する焼鈍工程を行ってもよい。焼鈍は、たとえば1000℃以上1200℃以下で0.5時間以上3時間以下行う。これにより、熱間加工物の組織を均一にできる。なお、この場合、冷間鍛造工程では、焼鈍された上記熱間加工物を冷間鍛造して冷間鍛造物を得る。
【0045】
上記Fe-Mn合金の製造方法においては、Fe-Mn合金の棒材を得る場合について説明したが、これに限らない。Fe-Mn合金の線材、板材を製造してもよい。この場合は、たとえば熱間加工および冷間鍛造において線材、板材が得られるような加工を行う。
【0046】
なお、上述した特定の成分組成および金属組織を有するFe-Mn合金は、上述したFe-Mn合金の製造方法以外の製造方法で製造してもよい。すなわち、上述した特定の成分組成および金属組織を有するFe-Mn合金が得られる限り、製造方法は限定されない。
【0047】
<Fe-Mn合金の用途>
上記Fe-Mn合金は、時計の部材(たとえば外装)に好適に用いられる。さらに、上記Fe-Mn合金は、自動車、船舶、航空機等の輸送機、機械、電気製品、建築、構造物、光学機器、器物、および装身具の部材(たとえば外装)にも好適に用いられる。上記Fe-Mn合金の有する高い硬度を生かし、耐摺動性、耐傷性、耐打痕性が必要とされる用途に好適に用いられる。
【0048】
以上より、本発明は以下に関する。
【0049】
[1] 成分組成として、20.0質量%以上30.0質量%以下のMn、5.0質量%以上10.0質量%以下のAl、0.5質量%以上1.5質量%以下のC、および5.0質量%以上10.0質量%以下のCrを含み、残部がFeおよび不可避的不純物であり、金属組織として、β-Mn相およびα相を含む、Fe-Mn合金。
上記Fe-Mn合金は、高い硬度を有する。
[2] β-Mn相およびα相の面積分率の合計を100%としたときに、β-Mn相の面積分率が60%以上90%以下であり、α相の面積分率が10%以上40%以下である、上記[1]に記載のFe-Mn合金。
面積分率が上記範囲にあると、Fe-Mn合金は、硬度と加工性とのバランスが向上できる。
[3] 上記成分組成として、さらに2.5質量%以上10.0質量%以下のNiを含む、上記[1]または[2]に記載のFe-Mn合金。
Niを上記の量で含んでいると、上記Fe-Mn合金の硬度と強度とのバランスが向上できる。
[4] インゴットを熱間加工して熱間加工物を得る熱間加工工程と、上記熱間加工工程で得られた上記熱間加工物を冷間鍛造して冷間鍛造物を得る冷間鍛造工程と、上記冷間鍛造工程で得られた上記冷間鍛造物を硬化熱処理してFe-Mn合金を得る硬化熱処理工程とを含み、上記インゴットは、成分組成として、20.0質量%以上30.0質量%以下のMn、5.0質量%以上10.0質量%以下のAl、0.5質量%以上1.5質量%以下のC、および5.0質量%以上10.0質量%以下のCrを含み、残部がFeおよび不可避的不純物であり、金属組織として、γ相およびα相を含み、上記Fe-Mn合金は、成分組成として、20.0質量%以上30.0質量%以下のMn、5.0質量%以上10.0質量%以下のAl、0.5質量%以上1.5質量%以下のC、および5.0質量%以上10.0質量%以下のCrを含み、残部がFeおよび不可避的不純物であり、金属組織として、β-Mn相およびα相を含む、Fe-Mn合金の製造方法。
上記Fe-Mn合金の製造方法によれば、高い硬度を有するFe-Mn合金を製造できる。
[5] 上記熱間加工物は、γ相およびα相の面積分率の合計を100%としたときに、γ相の面積分率が60%以上90%以下であり、α相の面積分率が10%以上40%以下であり、上記Fe-Mn合金は、β-Mn相およびα相の面積分率の合計を100%としたときに、β-Mn相の面積分率が60%以上90%であり、α相の面積分率が10%以上40%以下である、上記[4]に記載のFe-Mn合金の製造方法。
面積分率が上記範囲にあると、得られたFe-Mn合金において、硬度と加工性とのバランスが向上できる。
[6] 上記冷間鍛造工程は、加工率20%以上80%以下で上記熱間加工物を冷間鍛造する、上記[4]または[5]に記載のFe-Mn合金の製造方法。
加工率が上記範囲にあると、最終的に製造されるFe-Mn合金の硬度を高くできる。
[7] 上記硬化熱処理工程は、550℃以上800℃以下で上記冷間鍛造物を硬化熱処理する、[4]~[6]のいずれか1つに記載のFe-Mn合金の製造方法。
硬化熱処理の温度が上記範囲にあると、最終的に製造されるFe-Mn合金の硬度を高くできる。
【0050】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例]
[実験例1-1]
質量%で、30%Mn、8%Al、1%C、10%Cr、5%Ni、残部はFeとなる組成比で材料を秤量した。次に、これらの材料を高周波真空溶解装置を用いて坩堝溶解させた後、銅製の鋳型へ傾注し、直径28mm、長さ110mmの鋳造インゴットを得た。
このインゴットに1150℃、3時間の均質化熱処理を行い、熱間のハンマー鍛造、続いて熱間の溝ロール圧延加工を行った。この熱間加工により、元のインゴットに対して加工率(断面積の減少率)が70%となる棒材を得た。次に、棒材に1150℃、30分の焼鈍熱処理を行い、水冷した。
水冷後の棒材に冷間のスエージング鍛造を行った。この冷間鍛造により、加工前の棒材に対して加工率(断面積の減少率)が80%となる棒材を得た。
続いて、加工率80%の棒材に、大気炉にて600℃、12時間の硬化熱処理を行い、空冷した。この硬化熱処理により、Fe-Mn合金の棒材を得た。
【0052】
[実験例1-2~1-5]
実験例1-1の冷間鍛造を行わなかった以外は、実験例1-1と同様にして、棒材を得た(実験例1-2)。すなわち、実験例1-2では、熱間加工に続いて硬化熱処理を行って棒材を得た。実験例1-1の冷間鍛造における加工率を20%、40%および60%に変更した以外は、実験例1-1と同様に行い、棒材を得た(実験例1-3~1-5)。
【0053】
[実験例1-6~1-10]
実験例1-1の硬化熱処理における硬化熱処理時間を6時間に変更した以外は、実験例1-1と同様に行い、棒材を得た(実験例1-6)。
実験例1-6の冷間鍛造を行わなかった以外は、実験例1-6と同様にして、棒材を得た(実験例1-7)。すなわち、実験例1-7では、熱間加工に続いて硬化熱処理を行って棒材を得た。実験例1-6の冷間鍛造における加工率を20%、40%および60%に変更した以外は、実験例1-6と同様に行い、棒材を得た(実験例1-8~1-10)。
【0054】
[実験例1-11~1-15]
実験例1-1の硬化熱処理における硬化熱処理時間を1時間に変更した以外は、実験例1-1と同様に行い、棒材を得た(実験例1-11)。
実験例1-11の冷間鍛造を行わなかった以外は、実験例1-11と同様にして、棒材を得た(実験例1-12)。すなわち、実験例1-12では、熱間加工に続いて硬化熱処理を行って棒材を得た。実験例1-11の冷間鍛造における加工率を20%、40%および60%に変更した以外は、実験例1-11と同様に行い、棒材を得た(実験例1-13~1-15)。
【0055】
[実験例1-16~1-20]
実験例1-1の硬化熱処理における硬化熱処理時間を30分間に変更した以外は、実験例1-1と同様に行い、棒材を得た(実験例1-16)。
実験例1-16の冷間鍛造を行わなかった以外は、実験例1-16と同様にして、棒材を得た(実験例1-17)。すなわち、実験例1-17では、熱間加工に続いて硬化熱処理を行って棒材を得た。実験例1-16の冷間鍛造における加工率を20%、40%および60%に変更した以外は、実験例1-16と同様に行い、棒材を得た(実験例1-18~1-20)。
【0056】
[実験例1-21~1-25]
実験例1-1の硬化熱処理を行わなかった以外は、実験例1-1と同様にして、棒材を得た(実験例1-21)。すなわち、実験例1-21では、熱間加工および冷間鍛造を行って棒材を得た。
実験例1-21の冷間鍛造を行わなかった以外は、実験例1-21と同様にして、棒材を得た(実験例1-22)。すなわち、実験例1-22では、熱間加工を行って棒材を得た。実験例1-21の冷間鍛造における加工率を20%、40%および60%に変更した以外は、実験例1-21と同様に行い、棒材を得た(実験例1-23~1-25)。
【0057】
[実験例2-1~2-3]
実験例1-11の硬化熱処理における硬化熱処理温度を550℃、700℃および800℃に変更した以外は、実験例1-11と同様に行い、棒材を得た(実験例2-1~2-3)。
なお、実験例1-11では、冷間鍛造における加工率は80%であり、硬化熱処理における硬化熱処理温度は600℃であり、硬化熱処理時間は1時間である。
【0058】
[実験例2-4~2-6]
実験例1-12の硬化熱処理における硬化熱処理温度を550℃、700℃および800℃に変更した以外は、実験例1-12と同様に行い、棒材を得た(実験例2-4~2-6)。
なお、実験例1-12では、冷間鍛造を行っておらず、硬化熱処理における硬化熱処理温度は600℃であり、硬化熱処理時間は1時間である。
【0059】
[実験例2-7~2-9]
実験例1-13の硬化熱処理における硬化熱処理温度を550℃、700℃および800℃に変更した以外は、実験例1-13と同様に行い、棒材を得た(実験例2-7~2-9)。
なお、実験例1-13では、冷間鍛造における加工率は20%であり、硬化熱処理における硬化熱処理温度は600℃であり、硬化熱処理時間は1時間である。
【0060】
[実験例2-10~2-12]
実験例1-14の硬化熱処理における硬化熱処理温度を550℃、700℃および800℃に変更した以外は、実験例1-14と同様に行い、棒材を得た(実験例2-10~2-12)。
なお、実験例1-14では、冷間鍛造における加工率は40%であり、硬化熱処理における硬化熱処理温度は600℃であり、硬化熱処理時間は1時間である。
【0061】
[実験例2-13~2-15]
実験例1-15の硬化熱処理における硬化熱処理温度を550℃、700℃および800℃に変更した以外は、実験例1-15と同様に行い、棒材を得た(実験例2-13~2-15)。
なお、実験例1-15では、冷間鍛造における加工率は60%であり、硬化熱処理における硬化熱処理温度は600℃であり、硬化熱処理時間は1時間である。
【0062】
[実験例3-1]
質量%で、30%Mn、8%Al、1%C、10%Cr、10%Ni、残部はFeとなる組成比で材料を秤量した。次に、これらの材料を高周波真空溶解装置を用いて坩堝溶解させた後、銅製の鋳型へ傾注し、直径28mm、長さ110mmの鋳造インゴットを得た。
このインゴットに1150℃、3時間の均質化熱処理を行い、熱間のハンマー鍛造、続いて熱間の溝ロール圧延加工を行った。この熱間加工により、元のインゴットに対して加工率(断面積の減少率)が70%となる棒材を得た。次に、棒材に1150℃、30分の焼鈍熱処理を行い、水冷した。
水冷後の棒材に冷間のスエージング鍛造を行った。この冷間鍛造により、加工前の棒材に対して加工率(断面積の減少率)が80%となる棒材を得た。
続いて、加工率80%の棒材に、大気炉にて600℃、12時間の硬化熱処理を行い、空冷した。この硬化熱処理により、Fe-Mn合金の棒材を得た。
【0063】
[実験例3-2~3-5]
実験例3-1の冷間鍛造を行わなかった以外は、実験例3-1と同様にして、棒材を得た(実験例3-2)。すなわち、実験例3-2では、熱間加工に続いて硬化熱処理を行って棒材を得た。実験例3-1の冷間鍛造における加工率を20%、40%および60%に変更した以外は、実験例3-1と同様に行い、棒材を得た(実験例3-3~3-5)。
【0064】
[実験例3-6~3-10]
実験例3-1の硬化熱処理における硬化熱処理時間を6時間に変更した以外は、実験例3-1と同様に行い、棒材を得た(実験例3-6)。
実験例3-6の冷間鍛造を行わなかった以外は、実験例3-6と同様にして、棒材を得た(実験例3-7)。すなわち、実験例3-7では、熱間加工に続いて硬化熱処理を行って棒材を得た。実験例3-6の冷間鍛造における加工率を20%、40%および60%に変更した以外は、実験例3-6と同様に行い、棒材を得た(実験例3-8~3-10)。
【0065】
[実験例3-11~3-15]
実験例3-1の硬化熱処理における硬化熱処理時間を1時間に変更した以外は、実験例3-1と同様に行い、棒材を得た(実験例3-11)。
実験例3-11の冷間鍛造を行わなかった以外は、実験例3-11と同様にして、棒材を得た(実験例3-12)。すなわち、実験例3-12では、熱間加工に続いて硬化熱処理を行って棒材を得た。実験例3-11の冷間鍛造における加工率を20%、40%および60%に変更した以外は、実験例3-11と同様に行い、棒材を得た(実験例3-13~1-15)。
【0066】
[実験例3-16~3-20]
実験例3-1の硬化熱処理における硬化熱処理時間を30分間に変更した以外は、実験例3-1と同様に行い、棒材を得た(実験例3-16)。
実験例3-16の冷間鍛造を行わなかった以外は、実験例3-16と同様にして、棒材を得た(実験例3-17)。すなわち、実験例3-17では、熱間加工に続いて硬化熱処理を行って棒材を得た。実験例3-16の冷間鍛造における加工率を20%、40%および60%に変更した以外は、実験例3-16と同様に行い、棒材を得た(実験例3-18~3-20)。
【0067】
[実験例3-21~3-25]
実験例3-1の硬化熱処理を行わなかった以外は、実験例3-1と同様にして、棒材を得た(実験例3-21)。すなわち、実験例3-21では、熱間加工および冷間鍛造を行って棒材を得た。
実験例3-21の冷間鍛造を行わなかった以外は、実験例3-21と同様にして、棒材を得た(実験例3-22)。すなわち、実験例3-22では、熱間加工を行って棒材を得た。実験例3-21の冷間鍛造における加工率を20%、40%および60%に変更した以外は、実験例3-21と同様に行い、棒材を得た(実験例3-23~3-25)。
【0068】
[実験例4-1~4-3]
実験例3-11の硬化熱処理における硬化熱処理温度を550℃、700℃および800℃に変更した以外は、実験例3-11と同様に行い、棒材を得た(実験例4-1~4-3)。
なお、実験例3-11では、冷間鍛造における加工率は80%であり、硬化熱処理における硬化熱処理温度は600℃であり、硬化熱処理時間は1時間である。
【0069】
[実験例4-4~4-6]
実験例3-12の硬化熱処理における硬化熱処理温度を550℃、700℃および800℃に変更した以外は、実験例3-12と同様に行い、棒材を得た(実験例4-4~4-6)。
なお、実験例3-12では、冷間鍛造を行っておらず、硬化熱処理における硬化熱処理温度は600℃であり、硬化熱処理時間は1時間である。
【0070】
[実験例4-7~4-9]
実験例3-13の硬化熱処理における硬化熱処理温度を550℃、700℃および800℃に変更した以外は、実験例3-13と同様に行い、棒材を得た(実験例4-7~4-9)。
なお、実験例3-13では、冷間鍛造における加工率は20%であり、硬化熱処理における硬化熱処理温度は600℃であり、硬化熱処理時間は1時間である。
【0071】
[実験例4-10~4-12]
実験例3-14の硬化熱処理における硬化熱処理温度を550℃、700℃および800℃に変更した以外は、実験例3-14と同様に行い、棒材を得た(実験例4-10~4-12)。
なお、実験例3-14では、冷間鍛造における加工率は40%であり、硬化熱処理における硬化熱処理温度は600℃であり、硬化熱処理時間は1時間である。
【0072】
[実験例4-13~4-15]
実験例3-15の硬化熱処理における硬化熱処理温度を550℃、700℃および800℃に変更した以外は、実験例3-15と同様に行い、棒材を得た(実験例4-13~4-15)。
なお、実験例3-15では、冷間鍛造における加工率は60%であり、硬化熱処理における硬化熱処理温度は600℃であり、硬化熱処理時間は1時間である。
【0073】
[実験例5-1]
質量%で、30%Mn、8%Al、0.5%C、10%Cr、残部はFeとなる組成比で材料を秤量した。次に、これらの材料を高周波真空溶解装置を用いて坩堝溶解させた後、銅製の鋳型へ傾注し、直径28mm、長さ110mmの鋳造インゴットを得た。
このインゴットに1150℃、3時間の均質化熱処理を行い、熱間のハンマー鍛造、続いて熱間の溝ロール圧延加工を行った。この熱間加工により、元のインゴットに対して加工率(断面積の減少率)が70%となる棒材を得た。次に、棒材に1150℃、30分の焼鈍熱処理を行い、水冷した。
水冷後の棒材に冷間のスエージング鍛造を行った。この冷間鍛造により、加工前の棒材に対して加工率(断面積の減少率)が80%となる棒材を得た。
続いて、加工率80%の棒材に、大気炉にて600℃、12時間の硬化熱処理を行い、空冷した。この硬化熱処理により、Fe-Mn合金の棒材を得た。
【0074】
[実験例5-2~5-5]
実験例5-1の冷間鍛造を行わなかった以外は、実験例5-1と同様にして、棒材を得た(実験例5-2)。すなわち、実験例5-2では、熱間加工に続いて硬化熱処理を行って棒材を得た。実験例5-1の冷間鍛造における加工率を20%、40%および60%に変更した以外は、実験例5-1と同様に行い、棒材を得た(実験例5-3~5-5)。
【0075】
[実験例5-6~5-10]
実験例5-1の硬化熱処理における硬化熱処理時間を6時間に変更した以外は、実験例5-1と同様に行い、棒材を得た(実験例5-6)。
実験例5-6の冷間鍛造を行わなかった以外は、実験例5-6と同様にして、棒材を得た(実験例5-7)。すなわち、実験例5-7では、熱間加工に続いて硬化熱処理を行って棒材を得た。実験例5-6の冷間鍛造における加工率を20%、40%および60%に変更した以外は、実験例5-6と同様に行い、棒材を得た(実験例5-8~5-10)。
【0076】
[実験例5-11~5-15]
実験例5-1の硬化熱処理における硬化熱処理時間を1時間に変更した以外は、実験例5-1と同様に行い、棒材を得た(実験例5-11)。
実験例5-11の冷間鍛造を行わなかった以外は、実験例5-11と同様にして、棒材を得た(実験例5-12)。すなわち、実験例5-12では、熱間加工に続いて硬化熱処理を行って棒材を得た。実験例5-11の冷間鍛造における加工率を20%、40%および60%に変更した以外は、実験例5-11と同様に行い、棒材を得た(実験例5-13~1-15)。
【0077】
[実験例5-16~5-20]
実験例5-1の硬化熱処理における硬化熱処理時間を30分間に変更した以外は、実験例5-1と同様に行い、棒材を得た(実験例5-16)。
実験例5-16の冷間鍛造を行わなかった以外は、実験例5-16と同様にして、棒材を得た(実験例5-17)。すなわち、実験例5-17では、熱間加工に続いて硬化熱処理を行って棒材を得た。実験例5-16の冷間鍛造における加工率を20%、40%および60%に変更した以外は、実験例5-16と同様に行い、棒材を得た(実験例5-18~5-20)。
【0078】
[実験例5-21~5-25]
実験例5-1の硬化熱処理を行わなかった以外は、実験例5-1と同様にして、棒材を得た(実験例5-21)。すなわち、実験例5-21では、熱間加工および冷間鍛造を行って棒材を得た。
実験例5-21の冷間鍛造を行わなかった以外は、実験例5-21と同様にして、棒材を得た(実験例5-22)。すなわち、実験例5-22では、熱間加工を行って棒材を得た。実験例5-21の冷間鍛造における加工率を20%、40%および60%に変更した以外は、実験例5-21と同様に行い、棒材を得た(実験例5-23~5-25)。
【0079】
[実験例6-1~6-3]
実験例5-11の硬化熱処理における硬化熱処理温度を550℃、700℃および800℃に変更した以外は、実験例5-11と同様に行い、棒材を得た(実験例6-1~6-3)。
なお、実験例5-11では、冷間鍛造における加工率は80%であり、硬化熱処理における硬化熱処理温度は600℃であり、硬化熱処理時間は1時間である。
【0080】
[実験例6-4~6-6]
実験例5-12の硬化熱処理における硬化熱処理温度を550℃、700℃および800℃に変更した以外は、実験例5-12と同様に行い、棒材を得た(実験例6-4~6-6)。
なお、実験例5-12では、冷間鍛造を行っておらず、硬化熱処理における硬化熱処理温度は600℃であり、硬化熱処理時間は1時間である。
【0081】
[実験例6-7~6-9]
実験例5-13の硬化熱処理における硬化熱処理温度を550℃、700℃および800℃に変更した以外は、実験例5-13と同様に行い、棒材を得た(実験例6-7~6-9)。
なお、実験例5-13では、冷間鍛造における加工率は20%であり、硬化熱処理における硬化熱処理温度は600℃であり、硬化熱処理時間は1時間である。
【0082】
[実験例6-10~6-12]
実験例5-14の硬化熱処理における硬化熱処理温度を550℃、700℃および800℃に変更した以外は、実験例5-14と同様に行い、棒材を得た(実験例6-10~6-12)。
なお、実験例5-14では、冷間鍛造における加工率は40%であり、硬化熱処理における硬化熱処理温度は600℃であり、硬化熱処理時間は1時間である。
【0083】
[実験例6-13~6-15]
実験例5-15の硬化熱処理における硬化熱処理温度を550℃、700℃および800℃に変更した以外は、実験例5-15と同様に行い、棒材を得た(実験例6-13~6-15)。
なお、実験例5-15では、冷間鍛造における加工率は60%であり、硬化熱処理における硬化熱処理温度は600℃であり、硬化熱処理時間は1時間である。
【0084】
なお、実施例に対応する実験例は、実験例1-1、1-3~1-5、1-6、1-8~1-10、1-11、1-13~1-15、1-16、1-18~1-20、実験例2-1~2-3、2-7~2-15、実験例3-1、3-3~3-5、3-6、3-8~3-10、3-11、3-13~3-15、3-16、3-18~3-20、実験例4-1~4-3、4-7~4-15、実験例5-1、5-3~5-5、5-6、5-8~5-10、5-11、5-13~5-15、5-16、5-18~5-20、実験例6-1~6-3、6-7~6-15である。
【0085】
[実験例7-1]
質量%で、30%Mn、8%Al、1%C、10%Cr、残部はFeとなる組成比で材料を秤量した。次に、これらの材料を高周波真空溶解装置を用いて坩堝溶解させた後、銅製の鋳型へ傾注し、直径28mm、長さ110mmの鋳造インゴットを得た。
このインゴットに1150℃、3時間の均質化熱処理を行い、熱間のハンマー鍛造、続いて熱間の溝ロール圧延加工を行った。この熱間加工により、元のインゴットに対して加工率(断面積の減少率)が70%となる棒材を得た。次に、棒材に1150℃、30分の焼鈍熱処理を行い、水冷した。
水冷後の棒材に冷間のスエージング鍛造を行った。この冷間鍛造により、加工前の棒材に対して加工率(断面積の減少率)が70%となる棒材を得た。
続いて、加工率70%の棒材に、大気炉にて600℃、1時間の硬化熱処理を行い、空冷した。この硬化熱処理により、Fe-Mn合金の棒材を得た。
【0086】
[実験例7-2、7-3]
実験例7-1の硬化熱処理における硬化熱処理温度を500℃および800℃に変更した以外は、実験例7-1と同様に行い、棒材を得た(実験例7-2、7-3)。
【0087】
[実験例8-1、8-2]
実験例2-2の冷間鍛造および硬化熱処理を行わなかった以外は、実験例2-2と同様にして、Fe-Mn合金の棒材を得た。すなわち、実験例2-2の焼鈍熱処理、水冷まで行って棒材を得た(実験例8-1)。
また、実験例2-2の硬化熱処理を行わなかった以外は、実験例2-2と同様にして、Fe-Mn合金の棒材を得た。すなわち、実験例2-2の冷間鍛造まで行って棒材を得た(実験例8-2)。
なお、実験例2-2では、冷間鍛造における加工率は80%であり、硬化熱処理における硬化熱処理温度は700℃であり、硬化熱処理時間は1時間である。
【0088】
[評価]
<ビッカース硬さ>
実験例1-1で最終的に得られた棒材を切断し、厚さ2mmの試験片を得て、ビッカース硬度計にて、ビッカース硬さを測定した。具体的には、測定点6点の平均値を求めた。実験例1-1の棒材は、HV958を示した。
実験例1-2~1-25、実験例2-1~2-15、実験例3-1~3-25、実験例4-1~4-15、実験例5-1~5-25、実験例6-1~6-15で最終的に得られた棒材についても同様に測定した。
【0089】
図1図6にビッカース硬さの測定結果を示す。
具体的には、図1は、Fe-Mn合金試料について、加工率に対するビッカース硬さの変化を示した図である。実験例1-1~1-25について、硬化熱処理時間別にグラフで示している。図2は、Fe-Mn合金試料について、硬化熱処理温度に対するビッカース硬さの変化を示した図である。実験例1-11~1-15、実験例2-1~2-15について、加工率別にグラフで示している。
図3は、Fe-Mn合金試料について、加工率に対するビッカース硬さの変化を示した図である。実験例3-1~3-25について、硬化熱処理時間別にグラフで示している。図4は、Fe-Mn合金試料について、硬化熱処理温度に対するビッカース硬さの変化を示した図である。実験例3-11~3-15、実験例4-1~4-15について、加工率別にグラフで示している。
図5は、Fe-Mn合金試料について、加工率に対するビッカース硬さの変化を示した図である。実験例5-1~5-25について、硬化熱処理時間別にグラフで示している。図6は、Fe-Mn合金試料について、硬化熱処理温度に対するビッカース硬さの変化を示した図である。実験例5-11~5-15、実験例6-1~6-15について、加工率別にグラフで示している。なお、図1図6の加工率は、冷間鍛造における加工率である。
【0090】
<SEM像観察>
実験例7-1で最終的に得られた棒材について、反射型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察を行った。
実験例7-2、7-3で最終的に得られた棒材についても同様に観察した。
【0091】
図7図8図9は、Fe-Mn合金試料について、SEM像を示した図である。すなわち、それぞれ、実験例7-1~7-3の棒材についてのSEM像である。グレー色の部分がβ-Mn相であり、黒色の部分がα相である。なお、この2相の同定は、後述する電子回折図形解析の結果から行った。すなわち、グレー色部分の電子回折図形のパターンは、β-Mn構造であるMn0.375Fe0.375Al0.25と一致した。また、黒色部分の電子回折図形のパターンは、α相構造であるα-Feのパターンと一致した。
【0092】
また、面積分率は、SEM像および/またはSEMに付属のEBSD(電子後方散乱回折法)により撮影したEBSD像を元に評価した。SEM像においては、β-Mn相とα相とのコントラスト差によりそれぞれの面積分率を求め、EBSD像においては、β-Mn相とα相とがカラーマップとして色分けされており、それぞれの面積分率を求めた。
β-Mn相およびα相の面積分率の合計を100%としたときに、実験例7-1では、β-Mn相の面積分率は85%、α相の面積分率は15%であった。実験例7-2では、β-Mn相の面積分率は60%、α相の面積分率は40%であった。実験例7-3では、β-Mn相の面積分率は75%、α相の面積分率は25%であった。
なお、実施例に対応する他の実験例においても、最終的に得られた棒材は、金属組織として、β-Mn相およびα相を含むと考えられる。また、β-Mn相およびα相の面積分率の合計を100%としたときに、β-Mn相の面積分率は60%以上90%以下であり、α相の面積分率は10%以上40%以下であると考えられる。
また、実験例7-1において、熱間加工後のFe-Mn合金試料では、γ相の面積分率は80%、α相の面積分率は20%であった。
【0093】
<X線回折測定>
実験例1-1で最終的に得られた棒材について、X線回折測定を行った。
【0094】
図10は、Fe-Mn合金試料のX線回折パターンを示した図である。すなわち、実験例1-1の棒材についてのX線回折パターンである。α-Fe相およびβ-Mn相の回折ピーク、ならびにCr炭化物の回折ピークが観測された。
【0095】
<TEM像観察>
実験例2-2で最終的に得られた棒材について、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察を行った。ここでは、STEM像の一種であるHAADF像(HAADF-STEM像)を得た。HAADF(High Angle Annular Dark-Field)像は、STEM(Scanning Transmission Electron Microscopy)像において、透過電子のうち高角に散乱したものを環状の検出器で検出することにより得られる。
実験例8-1、8-2で最終的に得られた棒材についても同様に観察した。
【0096】
TEM像観察の結果を図11A図16Bに示す。
具体的には、図11Aは、Fe-Mn合金試料のHAADF-STEM像を示した図である。図11Bは、図11AのHAADF-STEM像の一部を拡大した図である。図12Aは、Fe-Mn合金試料について、STEM-EDSによるマッピングの結果を示した図である。図12Bは、図12Aのマッピングの一部を拡大した図である。なお、図11B図12Bは、それぞれ図11A図12Aの四角形の枠内を拡大した図である。これらは、実験例2-2で最終的に得られた棒材についての結果である。
図13Aは、Fe-Mn合金試料のHAADF-STEM像を示した図である。図13Bは、図13AのHAADF-STEM像の一部を拡大した図である。図14Aは、Fe-Mn合金試料について、STEM-EDSによるマッピングの結果を示した図である。図14Bは、図14Aのマッピングの一部を拡大した図である。なお、図13B図14Bは、それぞれ図13A図14Aの四角形の枠内を拡大した図である。これらは、実験例8-1で最終的に得られた棒材についての結果である。
図15Aは、Fe-Mn合金試料のHAADF-STEM像を示した図である。図15Bは、図15AのHAADF-STEM像の一部を拡大した図である。図16Aは、Fe-Mn合金試料について、STEM-EDSによるマッピングの結果を示した図である。図16Bは、図16Aのマッピングの一部を拡大した図である。なお、図15B図16Bは、それぞれ図15A図15Aの四角形の枠内を拡大した図である。これらは、実験例8-2で最終的に得られた棒材についての結果である。
【0097】
図11A図16Bより、冷間鍛造および硬化熱処理を経て得られた実験例2-2のFe-Mn合金は、β-Mn相およびα相を有する。熱間加工まで行って得られた実験例8-1の熱間加工物は、γ相およびα相を有する。このγ相およびα相の金属結晶には、転位が見られない。冷間鍛造まで行って得られた実験例8-2の冷間鍛造物は、γ相およびα相を有する。このγ相およびα相の金属結晶には、白いすじ状の転位が見られる。これらの結果から、冷間鍛造によって金属結晶に転位を導入すると、硬化熱処理中に、γ相からβ-Mn相への変態が起こると考えられる。
【0098】
また、図17Aは、Fe-Mn合金試料のHAADF-STEM像を示した図である。図17Bは、Fe-Mn合金試料の電子回折図形を示した図である。図17Cは、Fe-Mn合金試料のHAADF-STEM像を示した図である。なお、図17B図17Cは、それぞれ図17Aの点線で囲った部分の電子回折図形、HAADF-STEM像である。これらは、実験例2-2で最終的に得られた棒材についての結果である。
【0099】
図17A図17Cより、図17Aの点線で囲った部分は、β-Mn相であると同定できる。なお、その他のγ相、α相についても、電子回折図形から同定可能である。
【0100】
さらに、図18は、Fe-Mn合金試料の電子回折図形を示した図である。これは、実験例7-1で最終的に得られた棒材についての結果である。具体的には、図7のグレー色部分の電子回折図形である。電子回折図形による相解析の結果、図18(電子回折図形 Mn0.375Fe0.375Al0.25[011]面)に示すように、Fe-Mn合金は600℃の硬化熱処理後にβ-Mn相を含むことが確認された。
【0101】
[実験例9-1]
質量%で、30%Mn、8%Al、0.5%C、10%Cr、残部はFeとなる組成比で材料を秤量した。次に、これらの材料を高周波真空溶解装置を用いて坩堝溶解させた後、銅製の鋳型へ傾注し、直径28mm、長さ110mmの鋳造インゴットを得た。
このインゴットに1150℃、3時間の均質化熱処理を行い、熱間のハンマー鍛造、続いて熱間の溝ロール圧延加工を行った。この熱間加工により、元のインゴットに対して加工率(断面積の減少率)が70%となる棒材を得た。次に、棒材に1150℃、30分の焼鈍熱処理を行い、水冷した。
水冷後の棒材に冷間のスエージング鍛造を行った。この冷間鍛造により、加工前の棒材に対して加工率(断面積の減少率)が80%となる棒材を得た。
続いて、加工率80%の棒材に、大気炉にて550℃、12時間の硬化熱処理を行い、空冷した。この硬化熱処理により、Fe-Mn合金の棒材を得た。
【0102】
[実験例9-2]
下記のようにして得た鋳造インゴットを用いた以外は、実験例9-1と同様にして、Fe-Mn合金の棒材を得た。
質量%で、30%Mn、8%Al、1%C、10%Cr、5%Ni、残部はFeとなる組成比で材料を秤量した。次に、これらの材料を高周波真空溶解装置を用いて坩堝溶解させた後、銅製の鋳型へ傾注し、直径28mm、長さ110mmの鋳造インゴットを得た。
【0103】
[実験例9-3]
質量%で、30%Mn、8%Al、1%C、10%Cr、2.5%Ni、残部はFeとなる組成比で材料を秤量した。次に、これらの材料を高周波真空溶解装置を用いて坩堝溶解させた後、銅製の鋳型へ傾注し、直径28mm、長さ110mmの鋳造インゴットを得た。
このインゴットに1150℃、3時間の均質化熱処理を行い、熱間のハンマー鍛造、続いて熱間の溝ロール圧延加工を行った。この熱間加工により、元のインゴットに対して加工率(断面積の減少率)が70%となる棒材を得た。次に、棒材に1150℃、30分の焼鈍熱処理を行い、水冷した。
水冷後の棒材に冷間のスエージング鍛造を行った。この冷間鍛造により、加工前の棒材に対して加工率(断面積の減少率)が80%となる棒材を得た。
続いて、加工率80%の棒材に、大気炉にて600℃、12時間の硬化熱処理を行い、空冷した。この硬化熱処理により、Fe-Mn合金の棒材を得た。
【0104】
[実験例9-4]
下記のようにして得た鋳造インゴットを用いた以外は、実験例9-3と同様にして、Fe-Mn合金の棒材を得た。
質量%で、30%Mn、8%Al、1%C、10%Cr、7.5%Ni、残部はFeとなる組成比で材料を秤量した。次に、これらの材料を高周波真空溶解装置を用いて坩堝溶解させた後、銅製の鋳型へ傾注し、直径28mm、長さ110mmの鋳造インゴットを得た。
【0105】
[実験例9-5]
下記のようにして得た鋳造インゴットを用いた以外は、実験例9-3と同様にして、Fe-Mn合金の棒材を得た。
質量%で、25%Mn、8%Al、1%C、10%Cr、残部はFeとなる組成比で材料を秤量した。次に、これらの材料を高周波真空溶解装置を用いて坩堝溶解させた後、銅製の鋳型へ傾注し、直径28mm、長さ110mmの鋳造インゴットを得た。
【0106】
[実験例9-6]
下記のようにして得た鋳造インゴットを用いた以外は、実験例9-3と同様にして、Fe-Mn合金の棒材を得た。
質量%で、20%Mn、8%Al、1%C、10%Cr、5%Ni、残部はFeとなる組成比で材料を秤量した。次に、これらの材料を高周波真空溶解装置を用いて坩堝溶解させた後、銅製の鋳型へ傾注し、直径28mm、長さ110mmの鋳造インゴットを得た。
【0107】
[実験例9-7]
下記のようにして得た鋳造インゴットを用いた以外は、実験例9-3と同様にして、Fe-Mn合金の棒材を得た。
質量%で、30%Mn、8%Al、1.5%C、10%Cr、5%Ni、残部はFeとなる組成比で材料を秤量した。次に、これらの材料を高周波真空溶解装置を用いて坩堝溶解させた後、銅製の鋳型へ傾注し、直径28mm、長さ110mmの鋳造インゴットを得た。
【0108】
[実験例9-8]
下記のようにして得た鋳造インゴットを用いた以外は、実験例9-3と同様にして、Fe-Mn合金の棒材を得た。
質量%で、30%Mn、8%Al、1.5%C、5%Cr、5%Ni、残部はFeとなる組成比で材料を秤量した。次に、これらの材料を高周波真空溶解装置を用いて坩堝溶解させた後、銅製の鋳型へ傾注し、直径28mm、長さ110mmの鋳造インゴットを得た。
【0109】
[実験例9-9]
下記のようにして得た鋳造インゴットを用いた以外は、実験例9-3と同様にして、Fe-Mn合金の棒材を得た。
質量%で、30%Mn、10%Al、1%C、10%Cr、5%Ni、残部はFeとなる組成比で材料を秤量した。次に、これらの材料を高周波真空溶解装置を用いて坩堝溶解させた後、銅製の鋳型へ傾注し、直径28mm、長さ110mmの鋳造インゴットを得た。
【0110】
[実験例9-10]
下記のようにして得た鋳造インゴットを用いた以外は、実験例9-3と同様にして、Fe-Mn合金の棒材を得た。
質量%で、30%Mn、5%Al、1%C、10%Cr、5%Ni、残部はFeとなる組成比で材料を秤量した。次に、これらの材料を高周波真空溶解装置を用いて坩堝溶解させた後、銅製の鋳型へ傾注し、直径28mm、長さ110mmの鋳造インゴットを得た。
【0111】
[評価]
<ビッカース硬さ>
実験例9-1で最終的に得られた棒材を用いて、上述の方法により、ビッカース硬さを測定した。実験例9-2~9-10、実験例7-1で最終的に得られた棒材についても同様に測定した。
【0112】
表1に、実験例9-1~9-10について、ビッカース硬さの測定結果を示す。表1には、最終的に得られた棒材の成分組成、製造条件も合わせて示す。なお、実験例3-1、実験例7-1のビッカース硬さの測定結果などについても合わせて示す。
【0113】
【表1】


【0114】
<面積分率>
実験例9-2で最終的に得られた棒材について、上述の方法により、面積分率を求めた。実験例9-2では、β-Mn相の面積分率は85%、α相の面積分率は15%であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図17A
図17B
図17C
図18