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  • 特許-ねじ切り加工方法及び工作機械 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】ねじ切り加工方法及び工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23G 3/00 20060101AFI20220405BHJP
   G05B 19/4093 20060101ALI20220405BHJP
   B23B 1/00 20060101ALI20220405BHJP
   B23B 5/46 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
B23G3/00 B
G05B19/4093 L
B23B1/00 Z
B23B5/46
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018085496
(22)【出願日】2018-04-26
(65)【公開番号】P2019188554
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩平
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-120903(JP,A)
【文献】特開2009-214218(JP,A)
【文献】特開2009-297820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23G 1/02、 3/00
G05B 19/4093
B23B 1/00
B23B 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを所定の回転速度で回転させながら刃具を径方向に切り込ませ、回転軸方向に送ってねじ部の加工を行った後、前記刃具を前記径方向へ逃がすというパスを1サイクルとして複数回繰り返すことにより、ねじ切り加工を行う方法であって、
仕上げ加工の少なくとも1パス前の加工において、前記刃具を2つ用いて、一方の前記刃具では片刃切込みにより、他方の前記刃具では逆片刃切込みによって互いに異なるフランクの加工を同時に行った後、
前記仕上げ加工では、前記刃具を1つ用いて直角切込みでの加工を行うことで、前記1パス前の前記片刃切込みの再生効果と前記逆片刃切込みの再生効果とを相殺させることを特徴とするねじ切り加工方法。
【請求項2】
前記仕上げ加工前の加工で用いる2つの前記刃具は、前記ワークの回転中心軸周りに180°となる配置に対し、何れか一方を前記回転中心軸周りで鋭角となる所定の角度だけずらせた配置とすることを特徴とする請求項1に記載のねじ切り加工方法。
【請求項3】
前記仕上げ加工前の加工で用いる2つの前記刃具は、前記ワークの回転中心軸周りに0°となる配置に対し、何れか一方を前記回転中心軸周りで鋭角となる所定の角度だけずらせた配置とすることを特徴とする請求項1に記載のねじ切り加工方法。
【請求項4】
ワークを所定の回転角度で回転させながら、前記ワークに対して刃具を径方向に切り込ませ、回転軸方向に送ってねじ部を加工を行った後、前記刃具を前記径方向へ逃がすというパスを1サイクルとして複数回繰り返すことにより、ねじ切り加工を実行可能な工作機械であって、
請求項1乃至3の何れかに記載のねじ切り加工方法を実行可能であることを特徴とする工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、びびり振動を抑制することができるねじ切り加工方法と、当該方法を実行可能な工作機械とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
旋削加工で2つの刃具を使用し、2つの刃具の回転中心軸周りの配置を、対向180°のバランス配置に対して相対的にずらすことにより、各刃先で生じる再生効果をキャンセルすることにより再生びびり振動を抑制する技術が知られている(特許文献1参照)。
一方、ねじ切り加工では、刃具の切れ刃の2つの稜線の内、1つの稜線のみを被削材に切り込むねじ切り加工方法が知られている(片刃切込み、逆片刃切込み)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-127960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の旋削加工方法によれば、丸削りにおいて第1刃具と第2刃具の再生効果を相殺することでびびり振動を抑制することができる。しかしながら、ねじ切り加工においては、再生効果が第1刃具については1パス前の加工面、第2刃具については現在の第1刃具が生成した加工面に存在するため、効果的に再生効果を相殺することができない。
一方、片刃切込み、逆片刃切込みによれば、全ての切れ刃稜線を切り込ませる直角切込みに比べて切削幅が小さくなるため、びびり振動を抑制することができる。しかしながら、仕上げ加工においては、ねじ形状を高精度に加工するため、直角切込みを行いたい場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、仕上げ加工を含むねじ切り加工において効果的にびびり振動を抑制することができるねじ切り加工方法及び工作機械を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ワークを所定の回転速度で回転させながら刃具を径方向に切り込ませ、回転軸方向に送ってねじ部の加工を行った後、刃具を径方向へ逃がすというパスを1サイクルとして複数回繰り返すことにより、ねじ切り加工を行う方法であって、
仕上げ加工の少なくとも1パス前の加工において、刃具を2つ用いて、一方の刃具では片刃切込みにより、他方の刃具では逆片刃切込みによって互いに異なるフランクの加工を同時に行った後、仕上げ加工では、刃具を1つ用いて直角切込みでの加工を行うことで、1パス前の片刃切込みの再生効果と逆片刃切込みの再生効果とを相殺させることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、仕上げ加工前の加工で用いる2つの刃具は、ワークの回転中心軸周りに180°となる配置に対し、何れか一方を回転中心軸周りで鋭角となる所定の角度だけずらせた配置とすることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1の構成において、仕上げ加工前の加工で用いる2つの刃具は、ワークの回転中心軸周りに0°となる配置に対し、何れか一方を回転中心軸周りで鋭角となる所定の角度だけずらせた配置とすることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、ワークを所定の回転角度で回転させながら、ワークに対して刃具を径方向に切り込ませ、回転軸方向に送ってねじ部を加工を行った後、刃具を径方向へ逃がすというパスを1サイクルとして複数回繰り返すことにより、ねじ切り加工を実行可能な工作機械であって、
請求項1乃至3の何れかに記載のねじ切り加工方法を実行可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ねじ切りの仕上げ加工の少なくとも1パス前に、2つの刃具を使用し、一方の刃具では片刃切込みでの加工を、他方の刃具では逆片刃切込みでの加工を同時に実施して互いに異なるフランクを加工するので、仕上げパスの直角切込みによる加工では、1パス前の片刃切込みの再生効果と逆片刃切込みの再生効果とを相殺することができる。よって、仕上げ加工を含むねじ切り加工において効果的にびびり振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】従来のねじ切り加工の説明図で、(A)はワークを側面から、(B)はワークを軸方向からそれぞれ見た状態を示す。
図2】仕上げ加工の1パス前のねじ切り加工の説明図で、(A)はワークを側面から、(B)はワークを軸方向からそれぞれ見た状態を示す。
図3】ねじ切り加工を実施するNC旋盤の説明図で、(A)は図2の加工を、(B)は図5の加工をそれぞれ行う場合を示す。
図4】仕上げ加工の説明図で、(A)はワークを側面から、(B)はワークを軸方向からそれぞれ見た状態を示す。
図5】刃具の配置の変更例をワークの軸方向から示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
まず図1は、先に挙げた特許文献1の旋削加工方法をねじ切り加工で実施した場合の一例であり、2つの刃具を対向180°のバランス配置に対して相対的に所定の角φだけオフセットしてねじ切り加工を行う様子を示す。Wはワーク、10は第1刃具、20は第2刃具で、11は第1刃具10による1パス前の加工面、21は第2刃具20による1/2回転前の第1刃具10の加工面、ハッチングで示す23,23は加工による除去部である。矢印Aはワークの回転方向である。
一般的にねじ切り加工では、1パス前の加工面が再生効果を持つが、図1の加工では第1刃具10が加工する1パス前の加工面11だけでなく、第2刃具20が加工する1/2回転前の第1刃具10の加工面21も再生効果を持つ。ここで、ピッチ角θ1、θ2を特許文献1に記載のように設定して再生効果をキャンセルしようとしても、1パス前の加工面起伏を小さくすることはできないため、びびり振動を効果的に抑制することができない。
【0010】
これに対して本発明では、図2に示すように、仕上げ加工の1パス前に2つの刃具10,20を180°の配置に対して鋭角である所定の角αだけオフセットするのは同様であるが、第1刃具10は、切れ刃の2つの稜線の内、1つの稜線のみをワークWに切り込む片刃切込みにより、第2刃具20は、切れ刃の2つの稜線の内、第1刃具10と逆側の稜線のみをワークWに切り込む逆片刃切込みによって、互いに異なるフランク(ねじ山の斜面)の加工を行う点が異なっている。
ここで、適切なオフセット角αは、下記式(1)で求めるα’付近の値である。なお、式(1)で用いるびびり振動周波数は、振動センサやマイクロフォンなどにより加工中に測定することができる。
【0011】
【数1】
【0012】
図3(A)に、図2の加工を行う工作機械の一例を示す。ここではNC旋盤50を例示しており、ベッド51上の主軸台52には、モータ53によって回転駆動する主軸54が設けられて、端部に設けたチャック55によってワークWを把持して回転することで、第1刃物台56及び第2刃物台57に設けた刃具により旋削加工が可能となっている。58はチャック55の爪、59は主軸54の回転検出用のエンコーダである。
このNC旋盤50では、第1刃具10を第1刃物台56に取り付けてワークWの上方に、第2刃具20を第2刃物台57に取り付けてワークWの下方にそれぞれ移動させ、ワークWを所定の回転速度で回転させながら図2のように径方向に切り込ませ、回転軸方向に送ってそれぞれ片刃切込みと逆片刃切込みとで異なるフランクの加工を行った後に、各刃具10,20を径方向へ逃がすというパスを1サイクルとし、これを複数回繰り返すことにより、ねじ切り加工を行う。但し、第1刃具10及び第2刃具20はワークWの上下からでなく左右から切り込ませてねじ切り加工を行ってもよい。
【0013】
次に、仕上げ加工を行う。図4は、1つの刃具30を使用し直角切込みでねじ切り加工を行う様子を示す。ここでは同図(A)のように、刃具30は、1パス前の第1刃具10の加工面12と、1パス前の第2刃具20の加工面22とを同時に切削する。1パス前に式(1)に基づいて刃具30を配置することで、第1刃具10と第2刃具20との加工面12,22の起伏は、同図(B)のように逆位相となりキャンセルするため、仕上げの最終パスでは再生びびり振動を生じることなく加工することができる。なお、刃具30は、第1刃具10又は第2刃具20の何れかであってもよい。
【0014】
このように、上記形態のねじ切り加工方法及びNC旋盤50によれば、仕上げ加工の1パス前の加工において、刃具10,20を2つ用いて、一方の第1刃具10では片刃切込みにより、他方の第2刃具20では逆片刃切込みによって互いに異なるフランクの加工を同時に行った後、仕上げ加工では、刃具30を1つ用いて直角切込みでの加工を行うので、仕上げパスの直角切込みによる加工では、1パス前の片刃切込みの再生効果と逆片刃切込みの再生効果とを相殺することができる。よって、仕上げ加工を含むねじ切り加工において効果的にびびり振動を抑制することができる。
【0015】
なお、上記形態では、2つの刃具10,20を180°の配置に対して少しの角度だけオフセットする場合について述べたが、図5に示すように、0°の配置に対して鋭角となる少しの角度だけオフセットする場合でも実施することができる。この場合のNC旋盤50は、図3(B)に示すように、第1刃具10を取り付けた第1刃物台56と、第2刃具20を取り付けた第2刃物台57とをそれぞれワークWの上方から下向きに切り込んで片刃切込みと逆片刃切込みとを行い、ねじ切り加工を行うことになる。但し、第1刃具10と第2刃具20とはワークWの下方から切り込ませてもよいし、ワークWの側方から切り込ませてもよい。
また、図5の場合、適切なオフセット角βは、下記式(2)で求める値β’付近の値となる。
【0016】
【数2】
【0017】
一方、工作機械としてはNC旋盤に限らず、上述のねじ切り加工方法を実行可能であれば、複合加工機やマシニングセンタ等であってもよい。また、仕上げ加工前の加工では、複数パス前から2つの刃具を用いて互いに異なるフランクを加工する場合に限らず、仕上げ加工の1パス前の加工でのみ2つの刃具を用いて互いに異なるフランクを加工してもよい。
【符号の説明】
【0018】
10・・第1刃具、12・・第1刃具による1パス前の加工面、20・・第2刃具、22・・第2刃具による1パス前の加工面、30・・刃具、23・・除去部、50・・NC旋盤、52・・主軸台、54・・主軸、55・・チャック、56・・第1刃物台、57・・第2刃物台、W・・ワーク、α,β・・オフセット角。
図1
図2
図3
図4
図5