(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】引戸用上枠及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
E06B 1/34 20060101AFI20220405BHJP
E06B 1/06 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
E06B1/34 A
E06B1/06
(21)【出願番号】P 2018102578
(22)【出願日】2018-05-29
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390030340
【氏名又は名称】株式会社ノダ
(74)【代理人】
【識別番号】100085589
【氏名又は名称】▲桑▼原 史生
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 徹
【審査官】野尻 悠平
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3132891(JP,U)
【文献】特開2017-057657(JP,A)
【文献】特開2017-210789(JP,A)
【文献】特開2000-027537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 1/06
1/32
1/34
1/52
3/04-3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質基板からなる上枠本体の見込方向両端に下方に突出する突出部が形成され、これら突出部の間に凹溝が設けられて全体が断面略コ字状に形成された引戸用上枠であって、上枠本体の少なくとも一方の見付面には長手方向に沿って補強材が設けられ、
上枠本体の上面の一部から、補強材が貼着された見付面および突出部の下面および内面を覆って、上枠本体の下面の一部に至るように化粧シートが連続して貼着されることを特徴とする引戸用上枠。
【請求項2】
前記補強材が樹脂含浸紙からなることを特徴とする、請求項1記載の引戸用上枠。
【請求項3】
上枠本体の両見付面に樹脂含浸紙を貼着する第一工程と、上枠本体の下方部分を切削して見込方向両端に突出部を形成すると共にこれら突出部間に凹溝を形成する第二工程と、上枠本体の上面の一部から、樹脂含浸紙が貼着された見付面および突出部の下面および内面を覆って、さらに上枠本体の下面の一部に至るまで連続して化粧シートを貼着する第三工程と、を有してなることを特徴とする引戸用上枠の製造方法。
【請求項4】
上枠本体の下方部分を切削して見込方向両端に突出部を形成すると共にこれら突出部間に凹溝を形成する第一工程と、上枠本体の両見付面に樹脂含浸紙を貼着する第二工程と、上枠本体の上面の一部から、樹脂含浸紙が貼着された見付面および突出部の下面および内面を覆って、さらに上枠本体の下面の一部に至るまで連続して化粧シートを貼着する第三工程と、を有してなることを特徴とする引戸用上枠の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引戸用の上枠およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木質基板からなる上枠本体の見込方向両端に下方に突出する突出部が形成され、これら突出部の間に凹溝が設けられて全体が断面略コ字状に形成された引戸用上枠は公知であり、特許文献1,2などに示されている。凹溝には、一枚または複数枚の引戸を開閉自在に収容する上レールが嵌着される。特許文献1の
図1~
図7および
図9,
図10に示される上枠(鴨居材1)は片引きの引戸用に一つの上レール収容凹溝6が形成され、
図8には引き違いの引戸用に2つの上レール収容凹溝6,6が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-152628号公報
【文献】特開2014-177748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、開口部の奥行寸法と引戸上端レールの幅寸法との関係において、上枠の見込寸法に対して凹溝幅が相対的に大きくなると、特許文献1の
図4,
図6,
図8のように、上枠の幅方向一端または両端の突出部の見込寸法が小さくなり、化粧材の貼着時や施工時に、該突出部が破損ないし折損してしまうという問題があった。特に上枠本体がMDFで形成される場合、一般に、MDF製造時の加圧面が、上下枠についてはその上下面となるように用いられ(平使い)、左右縦枠についてはその内外面となるように用いられる(縦使い)ため、上枠本体では加圧により潰れた繊維層が垂直方向に複数積層されたような状態となり、上からの垂直方向の衝撃には強いものの、横からの水平方向の衝撃には弱くなることから、上記の問題が顕在化していた。
【0005】
特許文献2に記載されるように、1枚の板材の一面の所定箇所にVカット加工を施して複数の折曲溝部を形成し、これら折曲溝部で折り曲げて上枠を形成する(段落0030~0039,
図2)ようにすれば、突出部に大きな強度を持たせることができるが、Vカット加工時の加工精度が低いと所望形状(
図2(a))を得ることができず、安定した生産が困難である。
【0006】
MDFからなる上枠本体であっても、MDFを縦使いにして使用すれば、見付面に衝撃が加わった場合に突出部が破損ないし折損する問題をある程度解決することが可能であるが、MDFを縦使いで使用するためには、上枠本体の見込寸法以上の厚さのMDFを製造する必要があり、実際上困難である。製造可能な厚さのMDFを複数枚積層させた状態で縦使いしたり、見付面に位置する両端部のみにMDFを縦使いし、これを中央部の平使いのMDFに接合して上枠本体とすることも考えられるが、製造手間がかかり、コスト上昇を招くので、現実的ではない。
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、引戸用上枠の突出部に化粧材の貼着時や施工時にも破損ないし折損しない強度を与えることである。また、表面に傷が付きにくい引戸用上枠を安定して且つ低コストで提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に係る本発明は、木質基板からなる上枠本体の見込方向両端に下方に突出する突出部が形成され、これら突出部の間に凹溝が設けられて全体が断面略コ字状に形成された引戸用上枠であって、上枠本体の少なくとも一方の見付面には長手方向に沿って補強材が設けられ、上枠本体の上面の一部から、補強材が貼着された見付面および突出部の下面および内面を覆って、上枠本体の下面の一部に至るように化粧シートが連続して貼着されることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載の引戸用上枠において、補強材が樹脂含浸紙からなることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る本発明は、上枠本体の両見付面に樹脂含浸紙を貼着する第一工程と、上枠本体の下方部分を切削して見込方向両端に突出部を形成すると共にこれら突出部間に凹溝を形成する第二工程と、上枠本体の上面の一部から、樹脂含浸紙が貼着された見付面および突出部の下面および内面を覆って、さらに上枠本体の下面の一部に至るまで連続して化粧シートを貼着する第三工程と、を有してなることを特徴とする引戸用上枠の製造方法である。
【0011】
請求項4に係る本発明は、上枠本体の下方部分を切削して見込方向両端に突出部を形成すると共にこれら突出部間に凹溝を形成する第一工程と、上枠本体の両見付面に樹脂含浸紙を貼着する第二工程と、上枠本体の上面の一部から、樹脂含浸紙が貼着された見付面および突出部の下面および内面を覆って、さらに上枠本体の下面の一部に至るまで連続して化粧シートを貼着する第三工程と、を有してなることを特徴とする引戸用上枠の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る本発明によれば、上枠本体の見付面に補強材が設けられているので、化粧シート貼着時や施工時などに見込面に衝撃が加わっても傷が付きにくく、また、突出部の見込寸法が小さく形成されている場合であっても、突出部が補強材によって補強されているので、突出部の破損ないし折損を効果的に防止することができる。さらに、化粧シートが上枠本体の上面の一部から、補強材が貼着された見付面および突出部の下面および内面を覆って、上枠本体の下面の一部にまで至るまで連続して貼着されているので、突出部の破損ないし折損を防止する効果がより増大する。
【0015】
また、補強材は化粧シートで被覆されて露出しないので、その材質にかかわらず、外観を損なわないことに加えて、化粧シートの色に合わせた部材を個別に用意する必要がないので、製造コストを抑えることができる。
【0016】
請求項2に係る本発明によれば、温度変化による変形が生じにくく且つ軽量である樹脂含浸紙からなる補強材が見込面に設けられるので、前記の効果に加えて、温度変化による変形を抑制して経年劣化を防ぎ、また、施工作業などを楽に行うことができる効果が得られる。
【0018】
請求項3または請求項4に係る本発明によれば、引戸用上枠を製造するための好適な方法が提供される。いずれの製造方法によっても、化粧材を貼着する際には、既に上枠本体の見付面が樹脂含浸紙に被覆されており、これによって突出部が補強されているので、化粧材貼着の際に見付面に圧力や衝撃が加えられても、突出部が破損ないし折損しにくい引戸用上枠を製造することができる。さらに、上枠本体の上面の一部から、樹脂含浸紙が貼着された見付面および突出部の下面および内面を覆って、上枠本体の下面の一部にまで至るように巻き込んで化粧シートを貼着するので、突出部がより破損ないし折損しにくい引戸用上枠を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態(実施例1)による引戸用上枠の断面図である。
【
図2】この引戸用上枠の製造工程を示す断面図である。
【
図3】この引戸用上枠の他の製造工程を示す断面図である。
【
図4】この引戸用上枠の凹溝に引戸の上レールを嵌合させた状態の断面図である。
【
図5】本発明の他実施形態(実施例2)による引戸用上枠の断面図である。
【
図6】本発明の他実施形態(実施例3)による引戸用上枠の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
図1ないし
図6において、一または対応する部材ないし要素には同一の符号が付されている。
【実施例1】
【0022】
本発明の一実施形態(実施例1)による引戸用上枠(以下、単に「上枠」という。)10が
図1に示されている。この上枠10は、上枠本体11の見込方向両端に下方に突出する突出部12,12が形成され、これら突出部12,12の間に上レール嵌合部13(凹溝)が設けられて全体が断面略コ字状に形成されている。この引戸用上枠10は、引き違いの引戸に用いられるものであり、
図4に示すように、見込方向中央に下方に突出する突出片21を有する上レール20が嵌着され、突出片21で区画された各凹部22,22に引戸(図示せず)の上端部が収容されて、引戸の下端部を支持するために床面に固定される敷居レール(図示せず)などと協働して、引戸を開閉自在にしている。
【0023】
上枠本体11は、MDFやハードボードなどの木質繊維板、合板、LVL、無垢材、集成材、それらの複合板などの木質基材からなるが、表面平滑性に優れ、また切削加工がしやすいことから、MDFが好適に用いられる。この実施例では、1枚のMDFを、その製造時の加圧面が上枠10の上下面となるように用いて(平使い)、上枠本体1を形成している。
【0024】
上枠本体11の両見付面の下端には斜めに面取り16,16が施されている。これは必ずしも必須の構成ではないが、突出部12,12の先端部が外部と接触したときなどの角潰れを目立たなくして意匠性を保持する上で好ましい。なお、
図1からは必ずしも明らかではないが、この実施例においては、上枠本体11の見付面の上端にも円弧状の面取り(符号なし)が施されている。
【0025】
この実施例による上枠10の各部の寸法(補強材14,14および化粧シート15,15を含めた寸法)は、一例として、上枠本体11は見込寸法が85mm、見付寸法が1591mm、厚さ寸法が30.4mmであり、各突出部12は、根元部からの下方突出寸法が14.5mm、見込寸法(幅)が5mmである。
【0026】
上枠本体11の見付面(両側面)には、突出部12,12の下端に至るまで、補強材14,14が貼着されている。補強材14,14は、見付面に衝撃が加えられたときに突出部12,12が破損ないし折損することを防止すると共に、見付面の傷付きを防止する。このため、木質基材より硬く、剛性があるものであればその材質を問わず、樹脂成形板や金属板なども使用可能であるが、温度変化による変形が生じにくいことや、比較的軽量で取り回しが楽であることなどにおいて、樹脂含浸紙が好適に用いられる。樹脂含浸紙としては、たとえば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ダップ樹脂などを紙に含浸または塗布したものを用いることができる。
【0027】
さらに、上枠本体上面11aの一部から、補強材14,14が貼着された見付面、突出部12,12の下面および内側面を全面的に覆い、さらに上レール嵌合部13に臨む上枠本体下面11bの一部にかけて、化粧シート15,15が連続して貼着されている。
【0028】
この上枠10の製造工程の一例が
図2に示されている。まず、上枠本体11となる木質基材(MDF)11’を用意する(
図2(a))。木質基材11’は、最終製品としての上枠10の上枠本体11の見付寸法(84.6mm)×見込寸法(1591mm)×厚さ寸法(30mm)を有するものとして用意され、MDFを平使いで用いる。
【0029】
この木質基材11’の見付面に補強材14,14を貼着する(
図2(b))。
【0030】
次いで、切削加工機(モルダー)で木質基材11’の下方部分を切削して、上レール嵌合部13を形成すると共に、突出部12,12の下端外側に面取り16,16など形成して、所定形状の上枠本体11を得る(
図2(c))。
【0031】
この切削加工後、上枠本体上面11aの一部から、補強材14,14が貼着された見付面、突出部12,12の下面および内側面を全面的に覆い、さらに上レール嵌合部13に臨む上枠本体下面11bの一部にかけて、化粧シート15,15を連続して貼着する(
図2(d))。これにより、
図1の上枠10が得られ、上レール嵌合部13に上レール20を嵌着して
図4に示す状態として、実際の使用に供される。
【0032】
上記製造工程において、補強材貼着工程(b)と切削加工工程(c)は順序を入れ替えて実施しても良い。すなわち、この場合の上枠10の製造は、
図3に示すように、木質基材準備工程(a)、切削加工工程(b)、補強材貼着工程(c)、化粧シート貼着工程(d)の順に実施されることになる。各工程は、
図2を参照して上述したと同様であるので、説明を省略する。
【0033】
このようにして得られる上枠10においては、上枠本体11となる木質基材(MDF)11’の見付面が補強材14,14で覆われて補強されているので、突出部12,12の強度が上がる。したがって、見込寸法が小さい突出部12,12であっても、化粧シート貼着時や施工時に見付面に加えられた衝撃によって破損ないし折損することが防止または大幅に抑制される。また、見付面に傷が付きにくくなるので、化粧シート15,15による美観を長期に亘って維持することができる。
【実施例2】
【0034】
本発明の他実施形態(実施例2)による上枠10が
図5に示されている。この上枠10は、上枠本体11となる木質基板として2枚のMDFの積層板が用いられている点において、実施例1の上枠10と相違している。この相違点以外は実施例1の上枠10と同じであるので、説明を省略する。
【実施例3】
【0035】
本発明の他実施形態(実施例3)による上枠10が
図6に示されている。この上枠10は、片引きの引戸用に引戸1枚分の上レール嵌合部13が上枠本体11の見込方向一端側に形成されており、該一端側の突出部12aは実施例1と同様に小さな見込寸法を有するが、他端側の突出部12bは大きな見込寸法を有する点において、実施例1の上枠10と相違している。この相違点以外は実施例1の上枠10と同じであるので、説明を省略する。本発明は、このような片引きの引戸に用いられる上枠としても実施可能である。
【0036】
なお、この実施例においては、突出部12a,12bの両方の見付面を覆うように補強材14a,14bが貼着されているが、大きな見込寸法を有する突出部12bは衝撃を受けても破損や折損を生ずる恐れが比較的小さいので、小さな見込寸法を有する突出部12aの見込面のみに補強材14aを貼着し、補強時14bは省略しても良い。
【0037】
以上において本発明を幾つかの実施例を参照して詳述したが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基いて画定される発明の範囲内において多種多様に変形ないし変更して実施可能である。当業者には自明のことであるが、本発明は、実施例として挙げた引き違いおよび片引きの引戸だけでなく、3枚またはより多数枚の引戸に用いる上枠としても実施可能である。
【符号の説明】
【0038】
10 引戸用上枠(上枠)11 上枠本体11’ 木質基材11a 上面11b 下面12,12a,12b 突出部13 上レール嵌合部14,14a,14b 補強材15 化粧シート16 面取り20 上レール21 突出片22 凹部