(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】摩擦力計測装置
(51)【国際特許分類】
G01L 5/00 20060101AFI20220405BHJP
G01M 15/02 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
G01L5/00 G
G01M15/02
(21)【出願番号】P 2018116388
(22)【出願日】2018-06-19
【審査請求日】2021-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】本田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健了
(72)【発明者】
【氏名】戸田 翔大
(72)【発明者】
【氏名】小原 圭太
(72)【発明者】
【氏名】藤本 雅大
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-156298(JP,A)
【文献】特開平09-280974(JP,A)
【文献】特開2009-236562(JP,A)
【文献】特開昭59-206740(JP,A)
【文献】特表2016-535247(JP,A)
【文献】特開平05-332886(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0482590(KR,B1)
【文献】特開2016-078179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00-5/28,
G01M 15/00-15/14,
F02F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダライナのスラスト側及びシリンダライナの反スラスト側にそれぞれ設置されると共に、前記シリンダライナに作用する荷重を検出する、複数の荷重センサと、
前記シリンダライナの振動を検出する、ライナ振動センサと、
前記複数の荷重センサを前記シリンダライナに固定しているセンサ固定部材の振動を検出する、固定部材振動センサと、を備え、
前記ライナ振動センサの検出値及び前記固定部材振動センサの検出値を用いて前記複数の荷重センサの検出値を補正し、前記シリンダライナと前記シリンダライナの内周面を摺動可能なピストンとの間に作用する摩擦力を計測する、摩擦力計測装置。
【請求項2】
前記計測された摩擦力の計測データを、順方向でローパスフィルタに通す第1のフィルタ処理を行った後に、逆方向でローパスフィルタに通す第2のフィルタ処理を行う、
請求項1に記載の摩擦力計測装置。
【請求項3】
前記シリンダライナの振動に起因する慣性力の算出に利用されるライナ質量係数M
in
の値が、装置全体の振動に起因する慣性力の算出に利用される計測装置質量係数M
out
の値より大きく設定されている、
請求項1又は請求項2に記載の摩擦力計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦力計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用エンジンのシリンダライナとピストンとの間に作用する摩擦力を計測する装置として、シリンダライナに作用する荷重を検出する装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、シリンダライナに作用する荷重を検出する荷重センサと、シリンダライナの振動を検出する振動センサと、を備える摩擦力計測装置が開示されている。特許文献1に開示されている技術では、振動センサの検出値を用いて荷重センサの検出値を補正することによって摩擦力を計測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリンダライナのスラスト側及びシリンダライナの反スラスト側にそれぞれ荷重センサを設置することがある。シリンダライナのスラスト側及びシリンダライナの反スラスト側にそれぞれ荷重センサを設置することによって、シリンダライナの支持剛性を向上させることができる。しかしながら、シリンダライナのスラスト側及びシリンダライナの反スラスト側にそれぞれ荷重センサを設置すると、摩擦力計測装置全体の振動が大きくなる。摩擦力計測装置全体の振動が大きくなると、荷重センサに作用する慣性力が大きくなる。
【0006】
荷重センサの検出値には、荷重センサに作用する慣性力に起因するノイズが含まれている。荷重センサに作用する慣性力は、シリンダライナの振動及び摩擦力計測装置全体の振動によって起こる。したがって、シリンダライナのスラスト側及びシリンダライナの反スラスト側にそれぞれ荷重センサを設置した場合、シリンダライナの振動を検出する振動センサの検出値を用いて荷重センサの検出値を補正しても、荷重センサに作用する慣性力を十分に除去することができない。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、シリンダライナの支持剛性を高めると共にシリンダライナに作用する慣性力に起因するノイズを十分に除去することができる摩擦力計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する一態様は、摩擦力計測装置であって、シリンダライナのスラスト側及びシリンダライナの反スラスト側にそれぞれ設置されると共に、前記シリンダライナに作用する荷重を検出する、複数の荷重センサと、前記シリンダライナの振動を検出する、ライナ振動センサと、前記複数の荷重センサを前記シリンダライナに固定しているセンサ固定部材の振動を検出する、固定部材振動センサと、を備え、前記ライナ振動センサの検出値及び前記固定部材振動センサの検出値を用いて前記複数の荷重センサの検出値を補正し、前記シリンダライナと前記シリンダライナの内周面を摺動可能なピストンとの間に作用する摩擦力を計測する。
【0009】
本発明に係る摩擦力計測装置は、シリンダライナのスラスト側及びシリンダライナの反スラスト側にそれぞれ設置される複数の荷重センサを備える。シリンダライナは、スラスト側及び反スラスト側の両方から支持されているため、支持剛性が高い。さらに、本発明に係る摩擦力計測装置は、シリンダライナの振動を検出する、ライナ振動センサと、複数の荷重センサを前記シリンダライナに固定しているセンサ固定部材の振動を検出する、固定部材振動センサと、を備えている。本発明に係る摩擦力計測装置では、ライナ振動センサの検出値及び固定部材振動センサの検出値を用いて複数の荷重センサの検出値を補正することによって、シリンダライナに作用する慣性力に起因するノイズを除去している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シリンダライナの支持剛性を高めると共にシリンダライナに作用する慣性力に起因するノイズを十分に除去することができる摩擦力計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施の形態に係る摩擦力計測装置の全体図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿う断面図である。
【
図5】摩擦力計測装置を用いて計測された摩擦力とクランク角との関係を示すグラフである。
【
図6】ローパスフィルタ処理方法のフローチャートである。
【
図7】ローパスフィルタ処理後の摩擦力とクランク角との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0013】
まず、
図1~4を参照して、本実施の形態に係る摩擦力計測装置の構成について説明する。
図1は、本実施の形態に係る摩擦力計測装置の全体図である。摩擦力計測装置11は、
図1に示すように、シリンダライナ1、複数の荷重センサ3、センサ固定部材4、プレート5、シリンダヘッド部材6a、ベースボックス6b、ヘッド固定部材7、ライナ振動センサ8a、固定部材振動センサ8b、記録部10a、及び演算部10bを備える。シリンダライナ1は、
図1に示すように、インナーライナ1a及びアウターライナ1bを備える。
【0014】
なお、当然のことながら、
図1及びその他の図面に示した右手系xyz直交座標は、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものである。通常、z軸正方向が鉛直上向き、xy平面が水平面であり、図面間で共通である。
【0015】
図2は、
図1のII-II線に沿う断面図である。摩擦力計測装置11は、
図1に示す構成に加えて、ピストン2を備える。シリンダライナ1には、
図2に示すように、冷媒循環路1cが設けられている。
図3は、
図2のIII-III線に沿う断面図である。摩擦力計測装置11は、
図1及び
図2に示す構成に加えて、コネクティングロッド2aを備える。
図4は、
図1のIV-IV線に沿う断面図である。
図4は、シリンダライナ1の一例を示す。シリンダライナ1には、
図4に示すように、センサ冷媒路9が設けられていてもよい。なお、
図2~4では、
図1に示した記録部10a及び演算部10bを不図示としている。
【0016】
シリンダライナ1は、
図1に示すように、インナーライナ1a及びアウターライナ1bを備える。インナーライナ1aは、
図2及び
図3に示すように、断面円形状の筒状部材である。アウターライナ1bは、
図2及び
図3に示すように、断面円形状の筒状部材である。インナーライナ1aは、アウターライナ1bの内側に配置されている。インナーライナ1a及びアウターライナ1bは、
図2に示すように、上部及び下部において固定されている。インナーライナ1a及びアウターライナ1bは、上下の固定部分にOリングをそれぞれ挟持していることが好ましい。Oリングを挟持することによって、固定部分を封止することができる。
【0017】
インナーライナ1aとアウターライナ1bとの間隙には、
図2に示すように、冷媒循環路1cが設けられている。冷媒循環路1cに冷媒を流すことによって、シリンダライナ1が所定以上の温度になることを抑制することができる。冷媒は、シリンダライナ1を冷却することができる液体であれば特に限定されない。冷媒は、例えば、エチレングリコールや水である。
【0018】
インナーライナ1aの内側には、
図2に示すように、ピストン2が配置されている。ピストン2は、
図3に示すように、断面円形状の部材である。ピストン2の縁部は、
図2及び
図3に示すように、インナーライナ1aの内周面に常に接触している。ピストン2の下方には
図2に示すように、コネクティングロッド2aが接続されている。摩擦力計測装置11は、点火プラグ、燃料噴射弁、及び吸排気バルブ(いずれも不図示)を有する。ピストン2は、シリンダライナ1内において燃料を火花点火させた際の燃焼圧によって駆動する。なお、ピストン2は、クランクシャフト等を介してコネクティングロッド2aに接続されたテスト用モータを用いて駆動されてもよい。
【0019】
ピストン2は、コネクティングロッド2aの作動によって、インナーライナ1aの内周面に沿って摺動する。ピストン2及びインナーライナ1aの内周面が接触しているため、インナーライナ1aは、ピストン2の上下動によって摩擦力を受ける。インナーライナ1aは、摩擦力を受けると、上下動する。したがって、インナーライナ1aの上下方向に作用する荷重を計測することによって、ピストン2とインナーライナ1aとの摩擦力を計測することができる。
【0020】
アウターライナ1bの外周面には、
図2に示すように、複数の荷重センサ3が接触している。複数の荷重センサ3は、
図2に示すように、シリンダライナのスラスト側及びシリンダライナの反スラスト側にそれぞれ少なくとも1つ配置されている。複数の荷重センサ3は、アウターライナ1bに作用するz軸方向の荷重を検出することができる。
【0021】
複数の荷重センサ3は、シリンダライナ1のスラスト側及びシリンダライナ1の反スラスト側に設けられたセンサ固定部材4を用いて支持されている。つまり、シリンダライナ1は、シリンダライナ1のスラスト側及びシリンダライナ1の反スラスト側の両方から支持されている。そのため、シリンダライナ1は、荷重センサやセンサ固定部材が1箇所のみに設けられた場合に比較して、支持剛性が高くなる。シリンダライナ1の支持剛性が高いため、エンジン駆動時におけるシリンダライナ1の振動が抑制される。そのため、摩擦力計測装置11は、シリンダライナ1の振動に起因するノイズが抑制される。
【0022】
アウターライナ1bは、インナーライナ1aに固定されている。そのため、アウターライナ1bは、インナーライナ1aと共に上下動する。つまり、アウターライナ1bに作用するz軸方向の荷重を検出することによって、インナーライナ1aに作用するz軸方向の荷重を検出することができる。したがって、複数の荷重センサ3は、インナーライナ1aに作用するz軸方向の荷重を検出することができる。
【0023】
複数の荷重センサ3は、
図1に示すように、記録部10aに接続されている。複数の荷重センサ3において検出された検出値は、記録部10aに記録される。演算部10bは、
図1に示すように、記録部10aに接続されている。詳細は後述するが、記録部10aに記録された複数の荷重センサ3の検出値は、演算部10bにおいて補正され、ローパスフィルタ処理される。また、演算部10bは、記録部10aに無線接続されていてもよい。演算部10bを記録部10aに無線で接続する場合、例えば、記録部10aに送信手段を設け、無線送信によって複数の荷重センサ3の検出値を演算部10bに送信する。
【0024】
複数の荷重センサ3は、
図3に示すように、センサ固定部材4を用いてアウターライナ1bに固定されている。Fアウターライナ1bには、
図4に示すように、複数の荷重センサ3の近傍にセンサ冷媒路9が設けられていてもよい。センサ冷媒路9に冷媒を通すことによって、複数の荷重センサ3を冷却することができる。複数の荷重センサ3を冷却することによって、複数の荷重センサ3の温度ドリフトを抑制し、検出精度を向上させることができる。
【0025】
センサ固定部材4は、
図2に示すように、プレート5の上面に固定されている。プレート5には、貫通孔が設けられている。プレート5の貫通孔には、
図2に示すように、シリンダライナ1が貫通している。プレート5は、ベースボックス6bに固定されている。ベースボックス6bは、シリンダヘッド部材6aやプレート5等と組み合わせられてエンジンの実働状態を模する部材である。ベースボックス6bには、
図2に示すように、コネクティングロッド2aが収容されている。
【0026】
シリンダヘッド部材6aは、エンジンのシリンダヘッドに対応する部材である。シリンダヘッド部材6aは、
図4に示すように、ヘッド固定部材7を用いて固定されている。ヘッド固定部材7は、プレート5に固定されている。ヘッド固定部材7が設けられる位置や個数は、特に限定されない。ヘッド固定部材7は、例えば
図3に示すように、シリンダライナ1を中心として対向配置される。
【0027】
複数の荷重センサ3は、アウターライナ1bに接触しているため、シリンダライナ1の振動に起因する慣性力を受ける。さらに、複数の荷重センサ3は、センサ固定部材4に接触しているため、センサ固定部材4の振動に起因する慣性力を受ける。したがって、複数の荷重センサ3の検出値には、シリンダライナ1の振動に起因する慣性力及びセンサ固定部材4の振動に起因する慣性力が含まれている。そこで、ライナ振動センサ8aの検出値及び固定部材振動センサ8bの検出値を用いて複数の荷重センサ3の検出値を補正する。
【0028】
ライナ振動センサ8aは、
図2に示す例では、アウターライナ1bに設置されている。ライナ振動センサ8aは、シリンダライナ1の振動を検出することができる。ライナ振動センサ8aが設置される位置は、シリンダライナ1の振動を検出することができる位置であれば、特に限定されない。ライナ振動センサ8aは、例えば、インナーライナ1aに設置されてもよい。ライナ振動センサ8aは、変位、速度、及び加速度のうち少なくとも1つを検出することによって振動を検出する。
【0029】
固定部材振動センサ8bは、
図2に示す例では、センサ固定部材4に設置されている。固定部材振動センサ8bは、センサ固定部材4の振動を検出することができる。固定部材振動センサ8bは、変位、速度、及び加速度のうち少なくとも1つを検出することによってセンサ固定部材4の振動を検出する。
【0030】
センサ固定部材4は、プレート5に固定されている。プレート5は、ベースボックス6bに固定されている。そのため、センサ固定部材4は、ベースボックス6bの振動に伴って振動する。ベースボックス6bは、摩擦力計測装置11全体の振動によって振動している。したがって、固定部材振動センサ8bは、摩擦力計測装置11全体の振動を検出することができる。
【0031】
ライナ振動センサ8aは、
図2に示すように、シリンダライナ1のスラスト側及びシリンダライナ1の反スラスト側にそれぞれ設置されている。シリンダライナ1の振動は、スラスト側と反スラスト側とで異なる。したがって、ライナ振動センサ8aをシリンダライナ1のスラスト側及びシリンダライナ1の反スラスト側にそれぞれ設置することによって、シリンダライナ1の振動のばらつきを抑制することができる。
【0032】
固定部材振動センサ8bは、
図2に示すように、シリンダライナ1のスラスト側及びシリンダライナ1の反スラスト側にそれぞれ設置されている。摩擦力計測装置11全体の振動は、シリンダライナ1のスラスト側とシリンダライナ1の反スラスト側とで異なる。したがって、固定部材振動センサ8bをシリンダライナ1のスラスト側及びシリンダライナ1の反スラスト側にそれぞれ設置することによって、摩擦力計測装置11全体の振動のばらつきを抑制することができる。
【0033】
スラスト側に設置されたライナ振動センサ8aと、スラスト側に設置された固定部材振動センサ8bと、は、スラスト側に設置された複数の荷重センサ3を中心として対向する位置に設置されていることが好ましい。反スラスト側に設置されたライナ振動センサ8aと、反スラスト側に設置された固定部材振動センサ8bと、は、反スラスト側に設置された複数の荷重センサ3を中心として対向する位置に設置されていることが好ましい。ライナ振動センサ8a及び固定部材振動センサ8bを複数の荷重センサ3を中心として対向する位置に設置すると、シリンダライナ1の振動と摩擦力計測装置11の振動との差分をより正確に検出することができる。
【0034】
ライナ振動センサ8aの検出値及び固定部材振動センサ8bの検出値を用いて複数の荷重センサ3の検出値を補正することによって、シリンダライナ1とピストン2との間に作用する摩擦力を精度良く計測することができる。シリンダライナ1とピストン2との間に作用する摩擦力は、以下の数式(1)に示すように複数の荷重センサ3の検出値を補正することによって算出される。
【数1】
【0035】
数式(1)において、Fは、シリンダライナ1とピストン2との間に作用する摩擦力である。Fxは、複数の荷重センサ3の検出値である。Fyは、複数の荷重センサ3に作用する慣性力である。慣性力Fyは、以下の数式(2)に示すように計算される。
【数2】
【0036】
数式(2)において、Minは、ライナ質量係数である。Moutは、計測装置質量係数である。Gin_Thは、シリンダライナのスラスト側に設置されているライナ振動センサ8aの検出値である。Gout_Thは、シリンダライナのスラスト側に設置されている固定部材振動センサ8bの検出値である。Gin_Athは、シリンダライナの反スラスト側に設置されているライナ振動センサ8aの検出値である。Gout_Athは、シリンダライナの反スラスト側に設置されている固定部材振動センサ8bの検出値である。
【0037】
シリンダライナのスラスト側に設置されているライナ振動センサ8aの検出値Gin_Thにライナ質量係数Minを掛けることによって、シリンダライナのスラスト側におけるシリンダライナ1の振動に起因する慣性力を算出することができる。シリンダライナの反スラスト側に設置されているライナ振動センサ8aの検出値Gin_Athにライナ質量係数Minを掛けることによって、シリンダライナの反スラスト側におけるシリンダライナ1の振動に起因する慣性力を算出することができる。
【0038】
シリンダライナ1の振動は、スラスト側と反スラスト側とで異なる。そこで、数式(2)に示すように、スラスト側におけるシリンダライナ1の振動に起因する慣性力と反スラスト側におけるシリンダライナ1の振動に起因する慣性力との平均を取る。シリンダライナ1の振動に起因する慣性力の平均を取ることによって、シリンダライナ1の振動のばらつきを除去することができる。
【0039】
シリンダライナのスラスト側に設置されている固定部材振動センサ8bの検出値Gout_Thに計測装置質量係数Moutを掛けることによって、シリンダライナのスラスト側における摩擦力計測装置11全体の振動に起因する慣性力を算出することができる。シリンダライナの反スラスト側に設置されている固定部材振動センサ8bの検出値Gout_Athに計測装置質量係数Moutを掛けることによって、シリンダライナの反スラスト側における摩擦力計測装置11全体の振動に起因する慣性力を算出することができる。
【0040】
摩擦力計測装置11全体の振動は、スラスト側と反スラスト側とで異なる。そこで、数式(2)に示すように、スラスト側における摩擦力計測装置11全体の振動に起因する慣性力と反スラスト側における摩擦力計測装置11全体の振動に起因する慣性力との平均を取る。摩擦力計測装置11全体の振動に起因する慣性力の平均を取ることによって、摩擦力計測装置11全体の振動のばらつきを除去することができる。
【0041】
ライナ質量係数M
in及び計測装置質量係数M
outは、以下の数式(3)に示す関係を満たしていることが好ましい。
【数3】
【0042】
摩擦力計測装置11全体の振動は、複数の荷重センサ3だけでなく、センサ固定部材4にも作用する。したがって、摩擦力計測装置11全体の振動は、シリンダライナ1の振動よりも、複数の荷重センサ3に作用しにくい。ライナ質量係数Minを計測装置質量係数Moutよりも大きく設定することによって、摩擦力計測装置11全体の振動がシリンダライナ1の振動よりも複数の荷重センサ3に作用しにくいことを反映することができる。
【0043】
複数の荷重センサ3に作用する慣性力Fyは、数式(2)に示すように、シリンダライナ1の振動に起因する慣性力と摩擦力計測装置11全体の振動に起因する慣性力との差分に相当する。数式(1)に示すように、複数の荷重センサ3の検出値と複数の荷重センサ3に作用する慣性力Fyとの差分を取ることによって、シリンダライナ1に作用する摩擦力を算出することができる。摩擦力計測装置11は、上記の構成によって、摩擦力計測装置11全体の振動に起因する誤差を抑制すると共にシリンダライナに作用する慣性力に起因するノイズを十分に除去することができる。
【0044】
図5は、摩擦力計測装置11を用いて計測した摩擦力とクランク角との関係を示すグラフである。
図5上段において、濃い実線は、摩擦力計測装置11を用いて計測された摩擦力である。薄い実線は、複数の荷重センサ3の検出値である。
図5下段において、濃い実線は、固定部材振動センサ8bの検出値である。薄い実線は、ライナ振動センサ8aの検出値である。
【0045】
複数の荷重センサ3の検出値は、シリンダライナ1に作用する慣性力に起因するノイズを含む。そこで、数式(1)及び数式(2)において示したように複数の荷重センサ3の検出値を補正する。ライナ振動センサ8aの検出値及び固定部材振動センサ8bの検出値を用いて補正することによって、
図5に示すように、シリンダライナ1に作用する慣性力に起因するノイズを複数の荷重センサ3の検出値から除去することができる。
【0046】
次に、
図6及び
図7を参照して、ローパスフィルタ処理方法について説明する。
図6は、ローパスフィルタ処理方法を表すフローチャートである。
図7は、ローパスフィルタ処理後における摩擦力とクランク角との関係を示すグラフである。
図7上段は、摩擦力計測装置11を用いて計測した摩擦力とクランク角との関係を示すグラフである。
【0047】
図7上段において、実線は、ローパスフィルタ処理が行われたデータである。一点鎖線は、第1のフィルタ処理のみ行われたデータを示す。点線は、ローパスフィルタ処理が行われる前のデータである。
図7下段は、ライナ振動センサ8aの振動加速度と固定部材振動センサ8bの振動加速度との差分と、クランク角と、の関係を示すグラフである。
図7下段において、実線は、ローパスフィルタ処理が行われる前のデータである。点線は、第1のフィルタ処理が行われたデータである。
【0048】
図6に示すローパスフィルタ処理方法では、まず、第1のフィルタ処理(ステップS1)を行う。第1のフィルタ処理(ステップS1)では、摩擦力計測装置11を用いて計測された摩擦力等の計測データを、順方向でローパスフィルタに通す。第1のフィルタ処理(ステップS1)において用いられるローパスフィルタのカットオフ周波数は、計測データの周波数等に応じて適宜決定される。
【0049】
ローパスフィルタに通された計測データは、ローパスフィルタに通される前のデータに比較して、立ち上がりが遅れる。したがって、第1のフィルタ処理(ステップS1)が施された計測データは、
図7に示すように、第1のフィルタ処理(ステップS1)を施す前の計測データに比較して、位相が順方向に所定量ずれる。
【0050】
次に、第2のフィルタ処理(ステップS2)を行う。第2のフィルタ処理(ステップS2)では、第1のフィルタ処理が行われた計測データを、逆方向でローパスフィルタに通す。第2のフィルタ処理(ステップS2)において用いるローパスフィルタは、第1のフィルタ処理(ステップS1)において用いたローパスフィルタと同じものを用いる。
【0051】
第2のフィルタ処理(ステップS2)が行われた計測データは、第2のフィルタ処理(ステップS2)が行われる前の計測データに比較して、位相が逆方向にずれる。第2のフィルタ処理(ステップS2)によって起こる位相のずれは、ローパスフィルタの特性に依存する。そのため、第1のフィルタ処理(ステップS1)において起こる位相のずれと、及び第2のフィルタ処理(ステップS2)において起こる位相のずれと、は、同じ大きさかつ反対方向である。したがって、第2のフィルタ処理(ステップS2)が行われた計測データの位相は、第1のフィルタ処理(ステップS1)が行われる前の計測データの位相と同じになる。
【0052】
以上で説明したローパスフィルタ処理方法では、ローパスフィルタ処理が行われる前のデータと、ローパスフィルタ処理が行われたデータと、の間に、位相のずれが生じない。したがって、異なるローパスフィルタを用いてローパスフィルタ処理した計測データ同士を比較することができる。また、ローパスフィルタ処理後の計測データとローパスフィルタ未処理のデータとを比較することができる。
【0053】
図7に示す例では、シリンダライナ1とピストン2との間に作用する摩擦力と、ライナ振動センサ8aの振動加速度と固定部材振動センサ8bの振動加速度との差分と、を比較している。
図7に示す加速度は、
図7に示す摩擦力に比較して、周波数が高い。したがって、加速度の計測データに摩擦力に用いたローパスフィルタを用いてローパスフィルタ処理を行うと、
図7下段の点線に示すように、加速度の波形が大きく歪んでしまう。そこで、ローパスフィルタ処理が行われた摩擦力の計測データと、ローパスフィルタ処理が行われる前の加速度の計測データと、を、比較する。上記で説明したローパスフィルタ処理方法では、計測データの位相のずれが発生しない。したがって、ローパスフィルタ処理が行われた摩擦力の計測データと、ローパスフィルタ処理が行われる前の加速度の計測データと、を、比較することができる。
【0054】
以上で説明した本実施の形態に係る発明により、シリンダライナの支持剛性を高めると共にシリンダライナに作用する慣性力に起因するノイズを十分に除去することができる摩擦力計測装置を提供することができる。
【0055】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。上記の実施形態では、本発明を車載用エンジンのシリンダライナとピストンとの間に作用する摩擦力を計測する摩擦力計測装置に適用した場合について説明した。しかしながら、本発明は、摺動可能な部材同士の間に作用する摩擦力を計測する摩擦力計測装置であれば、どのような技術にも適用できる。本発明は、例えば、ダンパー用ピストンの摺動摩擦力を計測する装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 シリンダライナ
1a インナーライナ
1b アウターライナ
1c 冷媒循環路
2 ピストン
2a コネクティングロッド
3 荷重センサ
4 センサ固定部材
5 プレート
6a シリンダヘッド部材
6b ベースボックス
7 ヘッド固定部材
8a ライナ振動センサ
8b 固定部材振動センサ
9 センサ冷媒路
10a 記録部
10b 演算部
11 摩擦力計測装置