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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】新規環化物及び新規環化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 35/17 20060101AFI20220405BHJP
   C12P 7/02 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C07C35/17 CSP
C12P7/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018147647
(22)【出願日】2018-08-06
(65)【公開番号】P2020023445
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】浅野 真菜
(72)【発明者】
【氏名】久野 斉
(72)【発明者】
【氏名】星野 力
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】特許第6429243(JP,B2)
【文献】特開2018-199666(JP,A)
【文献】特開2013-170230(JP,A)
【文献】特表2013-533735(JP,A)
【文献】国際公開第2010/042208(WO,A2)
【文献】Takahashi, Kazunari et al.,Squalene-Hopene Cyclase: On the Polycyclization Reactions of Squalene Analogues Bearing Ethyl Groups at Positions C-6, C-10, C-15, and C-19,European Journal of Organic Chemistry,2018年,(12),1477-1490
【文献】Cheng, Jun et al.,Cyclization cascade of the C33-bisnorheptaprenoid catalyzed by recombinant squalene cyclase,Organic & Biomolecular Chemistry,2009年,7(8),1689-1699
【文献】Sato, Tsutomu et al.,Functional analyses of Tyr420 and Leu607 of Alicyclobacillus acidocaldarius squalene-hopene cyclase. Neoachillapentaene, a novel triterpene with the 1,5,6-trimethylcyclohexene moiety produced through folding of the constrained boat structure,Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2002年,66(8),1660-1670
【文献】Yang, Yanlong et al.,Identification and characterization of a membrane-bound sesterterpene cyclase from Streptomyces somaliensis,Journal of Natural Products,2018年,81(4),1089-1092
【文献】Tatli, Mehmet et al.,Raman spectra and DFT calculations for botryococcene and methylsqualene hydrocarbons from the B race of the green microalga Botryococcus braunii,Journal of Molecular Structure,2017年,1147,427-437
【文献】Lodeiro, Silvia et al.,An Oxidosqualene Cyclase Makes Numerous Products by Diverse Mechanisms: A Challenge to Prevailing Concepts of Triterpene Biosynthesis,Journal of the American Chemical Society,2007年,129(36),11213-11222
【文献】Hoshino, Tsutomu et al.,Deletion of the Gly600 residue of Alicyclobacillus acidocaldarius squalene cyclase alters the substrate specificity into that of the eukaryotic-type cyclase specific to (3S)-2,3-oxidosqualene,Angewandte Chemie, International Edition (2004), 43(48), 6700-6703,2004年,43(48),6700-6703
【文献】日本農芸化学会誌,2002年,76(12),1187-1190
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 35/17
C12P 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)により表される新規環化物。
【化1】
【請求項2】
化学式(2)により表される新規環化物。
【化2】
【請求項3】
SHC酵素を用い、ボトリオコッセンから化学式(1)で表される新規環化物を製造する新規環化物の製造方法。
【化1】
【請求項4】
SHC酵素を用い、ボトリオコッセンから化学式(2)で表される新規環化物を製造する新規環化物の製造方法。
【化2】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は新規環化物及び新規環化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボトリオコッセンは、バイオ燃料等の様々な用途への利用が研究されている。ボトリオコッセンは、化学合成が困難な天然化合物である。非特許文献1には、ボトリオコッセンの合成に関する遺伝子を酵母に導入することによってボトリオコッセンを合成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Tom D. Niehausら、「Identification of unique mechanisms for triterpene biosynthesis in Botryococcus braunii」、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、2011年、第108巻、p.12260-12265
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボトリオコッセンのような化合物を、トラクション機構用のトラクション油として用いることが考えられる。従来のトラクション油よりも、トラクション係数がさらに大きいトラクション油が求められている。本開示は、トラクション係数が大きい新規環化物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一局面は、化学式(1)により表される新規環化物である。
【0006】
【化1】
本開示の一局面である新規環化物は、トラクション油として使用した場合、トラクション係数が大きい。
【0007】
本開示の別の局面は、化学式(2)により表される新規環化物である。
【0008】
【化2】
本開示の別の局面である新規環化物は、トラクション油として使用した場合、トラクション係数が大きい。
【0009】
本開示の別の局面は、SHC酵素を用い、ボトリオコッセンから化学式(1)で表される新規環化物を製造する新規環化物の製造方法である。本開示の別の局面である新規環化物の製造方法によれば、トラクション油として使用した場合、トラクション係数が大きい新規環化物を製造できる。
【0010】
本開示の別の局面は、SHC酵素を用い、ボトリオコッセンから化学式(2)で表される新規環化物を製造する新規環化物の製造方法である。本開示の別の局面である新規環化物の製造方法によれば、トラクション油として使用した場合、トラクション係数が大きい新規環化物を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】n-デカン及びブチルシクロヘキサンのトラクション係数を表すグラフである。
図2】n-トリデカン及び片環ノルボルナンのトラクション係数を表すグラフである。
図3】化学式(1)により表される新規環化物のNMRの測定結果を表す説明図である。
図4】化学式(2)により表される新規環化物のGC/MSの測定結果を表す説明図である。
図5】化学式(2)により表される新規環化物のNMRの測定結果を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
1.新規環化物
新規環化物として、化学式(1)~(8)により表される新規環化物がある。
【0013】
【化1】
【0014】
【化2】
【0015】
【化3】
【0016】
【化4】
【0017】
【化5】
【0018】
【化6】
【0019】
【化7】
【0020】
【化8】
化学式(1)~(8)により表される新規環化物は、例えば、トラクション油等として使用できる。
【0021】
2.新規環化物の製造方法
化学式(1)~(8)により表される新規環化物は、例えば、ボトリオコッセンを原料とし、SHC(スクアレンホペンサイクラーゼ、Squalene hopene cyclase)酵素を用いて製造することができる。
3.新規環化物が奏する効果
化学式(1)~(8)により表される新規環化物は、環状構造を有することにより、トラクション油として使用した場合、トラクション係数が大きくなる。環状構造を有することにより、トラクション係数が大きくなることは、以下の試験結果による裏付けられる。
【0022】
n-デカン、ブチルシクロヘキサン、n-トリデカン、及び片環ノルボルナンについて、トラクション係数を測定した。n-デカンとブチルシクロヘキサンとを対比すると、1分子当たりの炭素数は同じである。n-デカンは環状構造を有さず、ブチルシクロヘキサンは環状構造を有する。
【0023】
n-トリデカンと片環ノルボルナンとを対比すると、1分子当たりの炭素数は同じである。n-トリデカンは環状構造を有さず、片環ノルボルナンは環状構造を有する。トラクション係数の測定条件は以下のとおりとした。
【0024】
温度:25℃
周速:0.5m/s
すべり率:15%
荷重:30N
面圧:1.1GPa
測定結果を図1及び図2に示す。図1に示すように、ブチルシクロヘキサンのトラクション係数は、n-デカンのトラクション係数の3.8倍であった。また、図2に示すように、片環ノルボルナンのトラクション係数は、n-トリデカンのトラクション係数の2.4倍であった。
【0025】
この実験結果から、環状構造を有する化学式(1)~(8)により表される新規環化物をトラクション油として使用した場合、トラクション係数が大きくなることが確認できた。
4.実施例
(4-1)新規環化物の製造
以下の方法で新規環化物を製造した。
【0026】
A.SHC発現大腸菌の作成
A.acidocaldarius由来のSHCの塩基配列は、Ochsらによって1992年に報告されている。SHCの塩基配列は、Genbank AB007002に登録されている。A.acidocaldariusからSHC遺伝子を、PCR法を用いた増幅によって単離した。単離したSHC遺伝子を、発現ベクターpET3aに挿入した。この発現ベクターpET3aを、大腸菌BL21(DE3)へ形質転換することで、SHC発現大腸菌pET3a-SHC(BL21(DE3))を作成した。
【0027】
B.SHC発現大腸菌の培養
(b-1)純水を用い、LB培地を調製した。LB培地は、1%のハイポリペプトン(日本製薬製)と、0.5%のイーストエキストラクト(関東科学製)と、0.5%のNaClとを含む。
【0028】
(b-2)前記(b-1)で調製したLB培地を、121℃で20分間滅菌した。
(b-3)LB培地が十分に冷めてから、クリーンベンチ内で、濃度50mg/mLのアンピシリン酸ナトリウム溶液をLB培地に加えた。アンピシリン酸ナトリウム溶液の添加量は、LB培地500mLにつき、500μLとした。以上の工程により調製された培地を、本培養培地とした。
【0029】
(b-4)濃度50mg/LのLB+アンピシリン5mLを、クリーンベンチ内で15mLチューブに入れた。
(b-5)さらに、15mLチューブに、SHC発現大腸菌pET3a-SHC(BL21(DE3))の20%グリセロースストックを50μL加えた。その後、37℃の下、150rpmの条件で4時間振盪培養した。振盪培養後の培地を、以下では前培養液とする。
【0030】
(b-6)前記(b-1)~(b-3)で調製した本培養培地に、前培養液2.5mLを加えた。その後、30℃の下、20時間振盪培養した。
C.酵素液の調製
(c-1)前記(b-6)の後、本培養培地から、遠心により、SHC発現大腸菌pET3a-SHC(BL21(DE3))を集菌した。遠心の条件は、6000rpm、10分間、4℃とした。
(c-2)集菌したSHC発現大腸菌pET3a-SHC(BL21(DE3))に、50mM Tris-HCl(pH 7.5)を加え懸濁した。50mM Tris-HCl(pH 7.5)の添加量は、本培養培地500mLにつき30mLとした。
【0031】
(c-3)前記(c-2)で生じた懸濁液を50mLチューブに移した。その後、6000rpm、10分間、4℃の条件で遠心し、SHC発現大腸菌pET3a-SHC(BL21(DE3))を集菌した。
(c-4)前記(c-2)及び前記(c-3)をもう一度繰り返した。
【0032】
(c-5)集菌したSHC発現大腸菌pET3a-SHC(BL21(DE3))に、1% TritonX-100(w/v) 50mM Tris-HCl(pH8.0)を加えた。添加量は、本培養培地500mLにつき5mLとした。
(c-6)前記(c-5)の後、SHC発現大腸菌pET3a-SHC(BL21(DE3))を、使用するまで-80℃で保存した。
【0033】
(c-7)前記(c-6)で保存したSHC発現大腸菌pET3a-SHC(BL21(DE3))を、氷水中で融解した。
(c-8)前記(c-7)で融解したSHC発現大腸菌pET3a-SHC(BL21(DE3))に対し、1% TritonX-100(w/v) 50mM Tris-HCl(pH8.0)を加えた。1% TritonX-100(w/v) 50mM Tris-HCl(pH8.0)の添加量は、本培養培地500mLにつき20mLとした。前記(c-5)での1% TritonX-100(w/v) 50mM Tris-HCl(pH8.0)の添加量と、この(c-8)での1% TritonX-100(w/v) 50mM Tris-HCl(pH8.0)の添加量との合計は、本培養培地500mLにつき25mLとなった。その後、SHC発現大腸菌pET3a-SHC(BL21(DE3))を含む液を懸濁した。
【0034】
(c-9)前記(c-8)で得られた懸濁液を、スターラーで混和し続け、氷上で冷却しながら、超音波破砕機を用いて、SHC発現大腸菌pET3a-SHC(BL21(DE3))を破砕した。超音波破砕機の条件は、出力1、50%であった。超音波破砕機による処理時間は、懸濁液50mL当たり60分間であった。
【0035】
(c-10)前記(c-9)の処理の後、懸濁液を、12000rpm、20分間、4℃の条件で遠心し、上清を回収した。回収した上清を酵素液とした。酵素液はSHC酵素を含む。
(c-11)使用するまで、酵素液を-80℃で保存した。
【0036】
D.ボトリオコッセンの可溶化
(d-1)炭素数30のボトリオコッセンを用意した。ボトリオコッセンは天然物であってもよいし、合成されたものであってもよい。ボトリオコッセンを合成する方法として、例えば、以下の文献に開示されている方法がある。
(文献)Tom D. Niehausら、「Identification of unique mechanisms for triterpene biosynthesis in Botryococcus braunii」、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、2011年、第108巻、p.12260-12265
この文献に記載の方法では、ボトリオコッセンの合成に関する遺伝子を酵母に導入することによって、ボトリオコッセンを合成する。具体的には、ファルネシル二リン酸を基質としてプレスクアレン二リン酸を合成する酵素をコードするプレスクアレン二リン酸合成酵素遺伝子と、プレスクアレン二リン酸を基質としてボトリオコッセンを合成する酵素をコードするボトリオコッセン合成酵素遺伝子と、を酵母に導入している。
【0037】
プレスクアレン二リン酸合成酵素遺伝子としては、squalene synthase-like 1遺伝子を用いている。ボトリオコッセン合成酵素遺伝子としては、squalene synthase-like 3遺伝子を用いている。
【0038】
(d-2)0.5mgのボトリオコッセンと、20mgのTritonX-100とを試験管に入れた。次に、2mLのアセトンを試験管に加えた。
(d-3)試験管にアルミホイルで蓋をし、10分間超音波処理をした。
【0039】
(d-4)Nガスを用いて試験管中の溶媒を飛ばした。その後、穴を開けたアルミホイルで試験管に蓋をし、30分間真空乾燥した。その後、再度、Nガスを用いて試験管中の溶媒を飛ばした。
【0040】
(d-5)試験管に1mLの蒸留水を加えた。その後、20分間超音波処理を行った。以上の工程により、ボトリオコッセンが可溶化した。以上の工程により得られた液を、可溶化済み基質液とする。
【0041】
E.酵素反応
(e-1)1mLの可溶化済み基質液と、5mLの酵素液と、2mLのクエン酸バッファーとを混合した。混合により生じた液を反応液とする。クエン酸バッファーの濃度は0.5Mである。クエン酸バッファーのpHは6.0である。
【0042】
(e-2)反応液において、60℃の下、72時間以上、反応を進行させた。反応のとき、振とう恒温器を用い、70rpmで反応液を攪拌した。
(e-3)9.6mLの15%KOH/MeOHを反応液に添加し、よく混合した。15%KOH/MeOHとは、メタノールに水酸化カリウムを溶解した溶液である。15%KOH/MeOHにおける水酸化カリウムの濃度は15質量%である。15%KOH/MeOHの添加量は、反応液の1.2倍量である。
【0043】
(e-4)前記(e-3)の後、反応液を30分間以上湯煎した。このとき、反応が停止し、けん化した。
F.酵素反応物の抽出
(f-1)前記(e-4)で得られた、反応停止した反応液8mLを50mLチューブに移した。その後、16mLのヘキサンを50mLチューブに加えた。ヘキサンの添加量は、反応液の2倍量である。
【0044】
(f-2)50mLチューブを10秒間程度ボルテックスした。その後、50mLチューブの内容物が2層に分離するまで、50mLチューブを静置した。なお、2層に分離しにくい場合は、少量のアセトンを50mLチューブにさらに加える。
【0045】
(f-3)50mLチューブの内容物のうち、分離した上層を、先端が尖っているナスフラスコに回収した。
(f-4)前記(f-1)~前記(f-3)の工程をさらに2回繰り返した。その結果、ナスフラスコに、酵素反応物を含む抽出液が得られた。
【0046】
(f-5)抽出液の溶媒をエバポレーターで飛ばした。ナスフラスコには酵素反応物が残った。
(f-6)酵素反応物を、少量のヘキサン/酢酸エチル混合液で希釈した。ヘキサン/酢酸エチル混合液における、ヘキサンと酢酸エチルとの体積比は、100:20である。
【0047】
(f-7)短いパスツールピペットの先端に少量の脱脂綿を詰めた。紙製のウエスをひも状にし、パスツールピペットの外周面に巻きつけた。パスツールピペットのうち、先端を含む一部を試験管に差し込んだ。このとき、パスツールピペットの外周面に巻きつけた紙製のウエスが試験管の開口端に当接し、パスツールピペットは、それ以上試験管内に進入しない。その結果、パスツールピペットは、試験管に引っ掛った状態となった。パスツールピペットの先端と、試験管の底とは離間した状態になった。
【0048】
空気を除いたシリカゲルを、ヘキサン/酢酸エチル混合液で懸濁した懸濁液を、パスツールピペットの半分程度まで詰めた。その結果、シリカゲルカラムが得られた。シリカゲルは、富士シリシア化学製のCHROMATOREX BW-200である。ヘキサン/酢酸エチル混合液における、ヘキサンと酢酸エチルとの体積比は100:20である。
【0049】
ヘキサン/酢酸エチル混合液を、パスツールピペットの最上部まで入れ、パスツールピペットの壁面に付着するシリカゲルを落とした。以降、精製が終了するまで、シリカゲルカラムが乾かないようにした。
【0050】
(f-8)前記(f-6)で得られた希釈液を、シリカゲルカラムにアプライした。このとき、シリカゲルが舞わないように慎重にアプライした。
(f-9)前記(f-6)で得られた希釈液が入っていたナスフラスコにパスツールピペットでひと吸い程度のヘキサン/酢酸エチル混合液を加え、ナスフラスコの内部をよく洗った。その後、洗液をシリカゲルカラムにアプライした。
【0051】
(f-10)前記(f-9)の工程をさらに2回行った。
(f-11)アプライした液の液面がシリカゲル層の上端まで下降する直前に、ヘキサン/酢酸エチル混合液をシリカゲルカラムにアプライした。このとき、ヘキサン/酢酸エチル混合液の液面がパスツールピペットの最上部に達するようにした。
【0052】
(f-12)前記(f-11)の工程をさらに2回繰り返し、酵素反応物を含む溶液をシリカゲルカラムから溶出させた。
(4-2)新規環化物の分析方法
前記(f-12)で得られた、酵素反応物を含む溶液から溶媒を除去した。その結果、約60mgの油状成分を得た。
【0053】
次に、60mgの油状成分を、10mLのMeOH/IPA混合溶液で希釈した。MeOH/IPA混合溶液において、メタノールとイソプロピルアルコールとの体積比は1:1である。
次に、希釈した油状成分をHPLCに注入し、分離操作を行った。HPLCの条件は以下のとおりである。
【0054】
カラム:YMC-Actus ProC18 RS 250mm×30mm
移動相:メタノールとイソプロピルアルコールとを体積比で82:18の比率で含む混合溶液
流速:15mL/min
検出:UV(検出波長:210nm)
次に、分離した成分を、GC/MSにより同定した。使用した装置は、ガスクロマトグラフ‐飛行時間型質量分析JMS-T200GCAccuTOFGCxである。測定条件は以下のとおりである。
【0055】
サンプルの条件:ヘキサン溶液
GCの条件
・GCカラム:DB-5MS UI, 15m x 0.25mm, 0.1μm
・オーブン温度:120℃→ 40℃/min → 300℃(15min)
・注入口:250℃,Split 1:5(EI)、Splitless(FI)
・He流量:1.1mL/min (Constant flow)
EI 条件
・イオン化法:EI+
・イオン化電圧/電流:70eV/ 300μA
・イオン源温度:250℃
MS条件
・質量範囲:m/z35-800
・スペクトル記録間隔:0.4sec
FI 条件
・イオン化法:FI+
・カソード電圧:-10kV
・エミッタ焼き出し:30mA/30msec
また、分離した成分を、NMRにより分析した。使用した測定装置は、Bruker DPX400である。測定溶媒は重ベンゼンである。
【0056】
(4-3)新規環化物の分析結果
分離した成分の一つのNMRの結果を図3に示す。この成分は、化学式(1)により表される新規環化物である。図3には、化学式(1)により表される新規環化物を構成する各原子のピークを示す。
【0057】
また、分離した別の成分のGC/MSの結果を図4に示し、NMRの結果を図5に示す。この成分は、化学式(2)により表される成分である。図5には、化学式(5)により表される新規環化物を構成する各原子のピークを示す。
【0058】
また、酵素反応物には、化学式(3)~(8)で表される新規環化物も含まれると推測される。
5.他の実施形態
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0059】
(1)化学式(1)~(8)により表される新規環化物は、トラクション油以外の用途に用いてもよい。他の用途として、例えば、飼料添加物、食品添加物等が挙げられる。
(2)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0060】
(3)上述した新規環化物の他、当該新規環化物を成分とする組成物、当該新規環化物を含むトラクション油等、種々の形態で本開示を実現することもできる。
図1
図2
図3
図4
図5