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  • 特許-製紙用フェルト 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】製紙用フェルト
(51)【国際特許分類】
   D21F 7/08 20060101AFI20220405BHJP
   D06M 17/00 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
D21F7/08 Z
D06M17/00 J
D06M17/00 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018171190
(22)【出願日】2018-09-13
(65)【公開番号】P2020041245
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000229852
【氏名又は名称】日本フエルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富宇加 剛広
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-186705(JP,A)
【文献】特開2008-063673(JP,A)
【文献】国際公開第2009/066697(WO,A1)
【文献】特開2011-219902(JP,A)
【文献】特表2008-507635(JP,A)
【文献】特開昭62-257452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21F 7/08
D03D 1/00-27/18
D06M 17/00-17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布と、短繊維が絡むように前記基布に積層されたバット繊維層とを有する製紙用フェルトであって、
前記基布は、経糸及び緯糸の一方を構成する第1糸、並びに、経糸及び緯糸の他方を構成して前記第1糸に織り込まれた第2糸を有する織布層と、前記第2糸に略平行に配置された第3糸を有して、前記織布層に積層されて接着部によって接着された糸条列層とを有し、
前記接着部は、前記第2糸及び/若しくは前記第3糸、又は、前記織布層及び/若しくは前記糸条列層に対して加工された後に熱溶融された前記第1~第3糸よりも融点の低い低融点樹脂を含み、
前記第2糸は、3本の前記第1糸の前記糸条列層側を通過した後、1本の前記第1糸の前記糸条列層とは反対側を通過する繰り返し単位で前記第1糸に織り込まれたことを特徴とする製紙用フェルト。
【請求項2】
前記糸条列層は、前記織布層よりも製紙面側に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の製紙用フェルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基布が織布層と糸条列層とを有する製紙用フェルトに関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用フェルトは、抄紙機のプレスパートで使用され、搾水される湿紙を運搬する。フェルトは、基布と、基布に短繊維シートをニードルパンチングして形成したバット繊維層とを有する。基布として、経糸と緯糸とが互いに織り込まれた織布層と、互いに平行な方向に延在する複数の糸同士を固定した層とを積層したものを用いることがある。両層をバット繊維層の短繊維を絡ませることにより互いに接結した場合、使用とともに走行面側のバット繊維層の短繊維が欠落するため、短繊維による両層の接結の効果が低下して、両層間に隙間が生じるおそれがある。
【0003】
特許文献1には、経糸(MD糸材)及び緯糸(CMD糸材)が平織りされた第1層と、第1層の走行面側に配置されて経糸(MD糸材)のみからなる第2層とが積層された基布を有する製紙用フェルトが記載されている。この製紙用フェルトでは、第1層の緯糸と第2層の経糸とが低融点糸を含み、両糸が互いに熱溶融によって接着されることにより、第1層と第2層との互いの接結が強化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-63673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では第1層の緯糸と第2層の経糸との交点でのみ接着しているため、接着性は不十分であった。また、特許文献1では糸自体を熱溶融させているため、糸の強度(基布の強度)が不十分であった。そのため、織布層と互いに平行な糸からなる層との互いに接結をさらに強化することが望まれているが、単に両層の接着面積を増やすと、基布の曲げ剛性が高くなって掛け入れ性(フェルトの抄紙機への取り付け易さ)が低下し、また、空隙率が低下して通気性が低下するおそれがある。本発明は、織布層と互いに平行な糸からなる糸条列層とが積層された基布を有する製紙用フェルトにおいて、掛け入れ性や通気性の低下を抑制しつつ、糸の強度を低下させずに、織布層と糸条列層との互いの接着性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、基布(11)と、短繊維が絡むように前記基布に積層されたバット繊維層(12,13)とを有する製紙用フェルト(10)であって、前記基布は、経糸及び緯糸の一方を構成する第1糸(14)、並びに、経糸及び緯糸の他方を構成して前記第1糸に織り込まれた第2糸(15)を有する織布層(16)と、前記第2糸に略平行に配置された第3糸(17)を有して、前記織布層に積層されて接着部(19)によって接着された糸条列層(18)とを有し、前記接着部は、前記第2糸及び/若しくは前記第3糸、又は、前記織布層及び/若しくは前記糸条列層に対して加工された後に熱溶融された前記第1~第3糸よりも融点の低い低融点樹脂を含み、前記第2糸は、3本の前記第1糸の前記糸条列層側を通過した後、1本の前記第1糸の前記糸条列層とは反対側を通過する繰り返し単位で前記第1糸に織り込まれたことを特徴とする。ここで第3糸が第2糸に対して「略平行」とは、製造の都合上、わずかに傾斜している場合も含む。例えば、糸条列層は複数本の第3糸を1束にして螺旋状に巻くことによって形成する場合、第3糸は、第2糸に対して、基布の周長に対して複数本の第3糸の幅だけ傾斜しているが、このような場合は「略平行」に含まれる。
【0007】
この構成によれば、第2糸における第1糸に対して糸条列層側を通る部分が第3糸に接着するが、この接着用クリンプは、第1糸3本分の長さで繰り返されているため、その長さが長すぎないため、掛け入れ性や通気性の低下が抑制され、また、その長さが短すぎないため織布層と糸条列層との互いの接着性が向上している。また、接着部は、糸に加工した低融点樹脂が接着部となるため、糸自体に低融点樹脂を含む糸に比べて、糸の強度が低下しない。
【0008】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、上記構成において、前記糸条列層は、前記織布層よりも製紙面側に配置されたことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、織布層に比べて凹凸の少ない糸条列層が製紙面側に配置されるため、製紙用フェルトの製紙面側の表面が滑らかになり、製造される紙にマークが付きにくく、紙面性が向上する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、織布層と糸条列層とが積層された基布を有する製紙用フェルトにおいて、掛け入れ性や通気性の低下を抑制しつつ、糸の強度を低下させずに、織布層と糸条列層との互いの接着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】製紙用フェルトの模式的断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施形態について説明する。図1は、実施形態に係る製紙用フェルト(以下、「フェルト」と記す)10の模式的断面図である。
【0013】
フェルト10は、基布11と、基布11の製紙面側に積層された製紙面側バット繊維層12と、基布11の走行面側に積層された走行面側バット繊維層13とを備える。
【0014】
基布11は、緯糸である第1糸14、及び第1糸14に織り込まれた経糸である第2糸15を有する織布層16と、第2糸15に略平行な第3糸17を有して織布層16の製紙面側に積層された糸条列層18とを有する。糸条列層18は互いに平行に配置された複数本の第3糸17を1束にして螺旋状に巻くことによって形成されるため、第3糸17は、第2糸15に対してわずかに傾斜している。なお、第3糸17を第2糸15に対して全く傾斜しないようにしてもよい。例えば、第2糸15に対して傾斜した第3糸17からなる糸条列層18を切断し、傾斜させずに並び替えて接合することで、第3糸17を第2糸15に対して全く傾斜しないように配置できる。また、糸条列層18は、第3糸17を2本のロール間でワインディングした(巻いた)後に、低融点繊維を有するバット繊維の薄い層を熱溶融させ第3糸17と一体化することにより形成される。そのため、糸条列層18は、一側にバット繊維の薄い層を有する。なお、このバット繊維の薄い層については、最終製品段階では、殆ど溶融して繊維形態としては残らない。
【0015】
織布層16の組織は、3/1クズシであり、第2糸15は、3本の第1糸14の製紙面側を通過した後、1本の第1糸14の走行面側を通過するという繰り返し単位で第1糸14に織り込まれる。すなわち、織布層16における第2糸15が3本の連続する第1糸14の一側を通過する面に、糸条列層18は積層される。
【0016】
織布層16と糸条列層18との間には、両者を互いに接着させる接着部19が形成されている。接着部19は、第2糸15における連続する第1糸14の製紙面側を通過する部分(接着用クリンプ)と、この部分に略平行に重なる第3糸17との間に形成されている。接着部19は、第2糸15及び/又は第3糸17に対して第1~第3糸14,15,17よりも融点の低い低融点樹脂を加工し、これを熱溶融させることにより形成される。樹脂加工される低融点樹脂の融点は、130~170℃であり、糸自体を溶融させない温度130~180℃の熱をかけることで、低融点樹脂のみ溶融させ接着部19を形成させる。予め、第2糸15及び/又は第3糸17に対して樹脂加工してから織布層16及び/又は糸条列層18を形成してもよく、織布層16及び/又は糸条列層18を形成した後に、織布層16及び/又は糸条列層18に対して樹脂加工してもよい。織布層16と糸条列層18とを互いに接着させるための熱溶融を行う工程は、ナイロン等の合成繊維からなる短繊維シートを基布11にニードルパンチングして製紙面側バット繊維層12及び走行面側バット繊維層13を形成する工程の前に行う方が好ましいが、後に行ってもよい。
【0017】
織布層16を構成する第1糸14と第2糸15の材質としては、ポリアミド,ポリエステルなどの種々の素材が挙げられるが、柔軟性や圧縮回復性の面でポリアミドが好ましい。第1糸14と第2糸15の形態としては、モノフィラメント単糸や撚糸を用いることができるが、接着部を広くする接着面の関係でモノフィラメント単糸が好ましい。また、第1糸14及び第2糸15の太さは、0.10~0.60mmが好ましく、特に0.20~0.50mmが好ましい。また、糸条列層18を構成する第3糸17の材質や形態としては、ポリアミド,ポリエステル,天然素材などが挙げられ、形態としては、モノフィラメント糸と紡績糸との撚糸、またはマルチフィラメント糸と紡績糸の撚糸が好ましく、特にポリアミドモノフィラメント糸と紡績糸との撚糸が好ましい。第3糸17の太さとしては、0.50~1.50mmが好ましく、特に0.70~1.30mmが好ましい。さらに、第1糸14、第2糸15及び第3糸17の糸の融点は、200~270℃である。第2糸15と第3糸17との互いの接着性を高めるため、第3糸17は、第2糸15と太さが異なることが好ましく、第3糸17が第2糸15よりも2~4倍太いことが更に好ましい。
【0018】
第3糸17に接着する第2糸15が、第3糸17に略平行であるため、互いに直交する糸同士を接着する場合に比べて接着面積が大きくなり、接着性が向上する。また、接着用クリンプが短いと、接着性が低下する。一方、接着用クリンプが長いと、曲げ剛性が高くなって掛け入れ性が低下し、また、空隙率が低下して通気性が低下する。接着用クリンプを3本分の第1糸14の幅とすることにより、接着性と、掛け入れ性及び通気性とのバランスが最適となる。また、接着部19を構成する低融点樹脂は、第2糸15及び/又は第3糸17自体に含まれていたものではないため、低融点樹脂を熱溶融しても、糸の太さ(形態)や物性は維持でき、第2糸15及び/又は第3糸17の強度は低下しない。また、基布11の製紙面側に凹凸の少ない糸条列層18を配置したため、フェルト10の製紙面側の表面が滑らかになり、製造される紙にマークが付きにくく紙面性がよい。
【実施例
【0019】
織布層の組織を平織り(第1糸1本分のクリンプ)、3/1クズシ(本発明の実施例に相当。第1糸3本分のクリンプ)、5/1クズシ(第2糸が、5本の第1糸の製紙面側を通った後、1本の第1糸の走行面側を通る組織。第1糸5本分のクリンプ)としたものについて、最大剥離強度、通気性、及び曲げ剛性の測定を行った。
【0020】
織布層の第1糸(緯糸)として、直径0.25mmの6ナイロン繊維のモノフィラメントを使用した。織布層の第2糸(経糸)として、直径0.20mmの6-10ナイロン繊維を2本撚りした撚糸(直径0.40mm)を使用した。糸条列層の第3糸(経糸)として、直径0.21mmの6ナイロン繊維を2本撚りした撚糸3本と紡績糸1本を合わせて撚ったもの(直径1.00mm)を使用した。試料は、糸条列層に樹脂溶液を散布して乾燥機で加熱した後、織布層と糸条列層とを圧をかけないように互いに重ねて、熱プレス機で加熱して作成した。
【0021】
最大剥離強度は、各組織について4つの試料を測定した。測定は、織布層と糸条列層との間を裂くようにして経方向に両層を引っ張り、両層が剥離したときの力を最大剥離強度とした。通気性については、接着部となる低融点樹脂の量を変えて、それぞれ、3つの試料を測定した。なお、比較のため、低融点樹脂の量が0の場合も測定した。曲げ剛性については、一辺が10cmの正方形の試料に対して接着部となる低融点樹脂の量を変えて、それぞれ、1回測定し、比較のため低融点樹脂の量が0の場合も測定した。
【0022】
表1は、最大剥離強度の測定結果を示す。3/1クズシの組織は、平織りの組織に比べて、最大剥離強度が平均して0.22N増加し、5/1クズシの組織は、3/1クズシの組織に比べて、最大剥離強度が平均して0.09N増加した。クリンプの長さを第1糸3本分から5本分に変更しても、クリンプの長さを第1糸1本分から3本分に変更したときほどは、最大剥離強度は上昇しなかった。
【0023】
【表1】
【0024】
表2は通気性の測定結果を示す。低融点樹脂を用いず、織布層の第2糸と、糸条列層の第3糸とを互いに接着させない場合、平織り、3/1クズシ及び5/1クズシの組織間で通気性に大差はなかった。織布層の第2糸と、糸条列層の第3糸とを互いに接着させた場合、樹脂量に関わらず、5/1クズシの組織は、平織りや3/1クズシの組織に比べて通気性の低下が極端に大きかった。
【0025】
【表2】
【0026】
表3は曲げ剛性の測定結果を示す。曲げ剛性が低く、柔らかい方が掛け入れ性がよい。曲げ剛性は、クリンプの長さが長くなるほど大きくなり、また、低融点樹脂の量が増えるほど大きくなった。低融点樹脂が100g/mの場合は、3/1クズシから5/1クズシになるところで曲げ剛性が急激に上昇した。
【0027】
【表3】
【0028】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。第1糸を経糸とし、第2糸を緯糸とし、第3糸を略緯方向に沿って配置してもよい。また、基布層を製紙面側に配置し、糸条列層を走行面側に配置してもよく、この場合、第2糸は、3本の第1糸の走行面側を通った後、1本の第1糸の製紙面側を通る繰り返し単位で第1糸に織り込まれる。
【符号の説明】
【0029】
10:製紙用フェルト
11:基布
12:製紙面側バット繊維層
13:走行面側バット繊維層
14:第1糸
15:第2糸
16:織布層
17:第3糸
18:糸条列層
19:接着部
図1