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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】製紙用織物
(51)【国際特許分類】
   D21F 1/10 20060101AFI20220405BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20220405BHJP
   D03D 11/00 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
D21F1/10
D03D1/00 Z
D03D11/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018181849
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020050994
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000229852
【氏名又は名称】日本フエルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安野 正徳
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-107157(JP,A)
【文献】特開2003-342889(JP,A)
【文献】特開2013-224507(JP,A)
【文献】特開2017-053067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21F 1/00-13/12
D03D 1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙面側織物層と、経自接結糸によって前記製紙面側織物層に接結された走行面側織物層とを有する製紙用織物であって、
前記製紙面側織物層の組織は、上緯糸、前記上緯糸に織り込まれた上経糸、及び前記上緯糸に織り込まれた前記経自接結糸を有し、
前記走行面側織物層の組織は、下緯糸、及び前記下緯糸に織り込まれた前記経自接結糸を有し、
互いに隣接する3本の前記経自接結糸と、該3本の前記経自接結糸に隣接する1本の前記上経糸と、複数の前記上緯糸と、複数の前記下緯糸とによってサブユニットが形成され、
前記上経糸は、1本の前記上緯糸の上を通った後、2本以上の前記上緯糸の下を通る繰り返し単位で前記上緯糸に織り込まれ、
各々の前記サブユニットにおける3本の前記経自接結糸は、経方向に沿って交代で前記製紙面側織物層の組織を形成することにより、1本の前記上経糸のように前記上緯糸を織り込み、
各々の前記サブユニットにおいて、1本の前記経自接結糸が前記上緯糸を織り込む経方向の範囲では、他の2本の前記経自接結糸は共通の前記下緯糸を織り込み、3本の前記経自接結糸は、それぞれ、前記上緯糸を非連続で互いに2回以上の同じ回数で織り込んだ後、前記走行面側織物層に移動することを特徴とする製紙用織物。
【請求項2】
前記製紙面側織物層の組織は、前記上緯糸、前記上経糸及び前記経自接結糸のみからなり、前記走行面側織物層の組織は、前記下緯糸及び前記経自接結糸のみからなることを特徴とする請求項1に記載の製紙用織物。
【請求項3】
前記経自接結糸は、前記上緯糸を非連続で3回~5回の回数で織り込んだ後、前記走行面側織物層に移動することを特徴とする請求項1又は2に記載の製紙用織物。
【請求項4】
前記サブユニットにおける前記経自接結糸は、第1経自接結糸、第2経自接結糸及び第3経自接結糸からなり、前記第1経自接結糸、前記第2経自接結糸及び前記第3経自接結糸の順に繰り返し前記上緯糸に織り込まれることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の製紙用織物。
【請求項5】
前記サブユニットにおける前記経自接結糸は、第1経自接結糸、第2経自接結糸及び第3経自接結糸からなり、前記第1経自接結糸、前記第2経自接結糸、前記第3経自接結糸及び前記第2経自接結糸の順に繰り返し前記上緯糸に織り込まれ、前記第2経自接結糸が前記第1及び第3経自接結糸よりも多く前記上緯糸に織り込まれることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の製紙用織物。
【請求項6】
前記上経糸及び前記経自接結糸が、緯方向の一方に向かって、1本の前記上経糸及び3本の前記経自接結糸の順に繰り返し配置されたことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の製紙用織物。
【請求項7】
前記上経糸及び前記経自接結糸が、緯方向の一方に向かって、1本の前記上経糸、6本の前記経自接結糸及び1本の前記上経糸の順に繰り返し配置されたことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の製紙用織物。
【請求項8】
前記上経糸は、3本の前記上緯糸の下を通った後、1本の前記上緯糸の上を通るように、前記上緯糸に織り込まれたことを特徴とする請求項1~7の何れか一項に記載の製紙用織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、製紙面側織物層と、経自接結糸によって走行面側織物層に接結された走行面側織物層とを有する製紙用織物に関する。
【背景技術】
【0002】
経糸及び緯糸を製織することによって構成した製紙用織物は、抄紙用のワイヤーやプレスフェルト、プレスベルト、ドライヤーカンバス等の多くの用途に使用されている。抄紙機のワイヤーパートにおいて使用される抄紙用ワイヤーは、製造される紙の品質向上や、製造速度の高速化による生産効率向上の要請に応えるため、皺なく蛇行せずに安定して走行する走行性、原料液から水をより多く除去する脱水性(通気性)、表面の凹凸が転写して紙に残ることを抑制する表面性(紙面性)、目詰まりや粘着成分の付着を抑制する防汚性、摩耗に耐える耐摩耗性等が求められている。
【0003】
ワイヤーとして経緯2層織物を使用すると、製紙面側織物層は表面性を重視した構造とし、走行面側織物層は耐摩耗性を重視した構造とすることにより、両特性を併せ持つワイヤーとなる。製紙面側織物層と走行面側織物層と接結するため、両層を接結するとともに、両層の一方又は双方の組織を構成する自接結糸が用いられることがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、互いに隣接する4本の経自接結糸(経糸)と複数の緯糸によってサブユニットを形成し(図4(A)参照)、各々のサブユニットにおいて、2本の経自接結糸が共通の下緯糸を織り込んでナックル部を形成し、各々の経自接結糸が互いに異なる上緯糸を織り込んでナックル部を形成することにより、走行安定性や寸法安定性を向上させた製紙用織物が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、上緯糸、上経糸及び経自接結糸(経地糸接結糸)によって組織が構成される製紙面側織物層と、下緯糸、下経糸及び経自接結糸によって組織が構成される走行面側織物層とを有する製紙用織物が記載されている。特許文献2に記載の製紙用織物では、1本の上経糸、互いに隣接する3本の経自接結糸、複数の上緯糸及び複数の下緯糸でサブユニットを形成した部分と、複数の上経糸、複数の下経糸、複数の上緯糸及び複数の下緯糸で形成された部分とで形成されている(図4(B)参照)。経自接結糸を含むサブユニットではランダムな方向での上方斜めから下方斜めに抜ける斜め方向のろ水空間を形成してろ水性に優れたものとするべく、3本の経自接結糸が交代で上緯糸を上経糸のように織り込み、1本の経自接結糸が上緯糸を織り込む範囲では、他の2本の経自接結糸、又は、経自接結糸及び下経糸で下緯糸を織り込んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5814330号公報
【文献】特許第4739903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の製紙用織物は、接結部を有さない上経糸がなく、2本の経自接結糸が入れ替わる構成のため、製紙面側に位置する経糸の間隔が均一でない事から脱水性が不均一になり易い。特許文献2に記載の製紙用織物は、下経糸が存在するので厚さが薄くなり難く、3本の経自接結糸は製紙面側だけで寄り合わせて上経糸1本分にしている為、基布内部や走行面側での脱水性が不十分であった。このような問題に鑑み、本発明は、製紙面側織物層と、経自接結糸によって走行面側織物層に接結された走行面側織物層とを有する製紙用織物において、脱水性(通気性)及び表面性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る製紙用織物(1,11,21,31,41)は、製紙面側織物層(2,12)と、経自接結糸(4,14,34,44)によって前記製紙面側織物層に接結された走行面側織物層(3,13)とを有する製紙用織物であって、前記製紙面側織物層の組織は、上緯糸(5)、前記上緯糸に織り込まれた上経糸(6)、及び前記上緯糸に織り込まれた前記経自接結糸を有し、前記走行面側織物層の組織は、下緯糸(7)、及び前記下緯糸に織り込まれた前記経自接結糸を有し、互いに隣接する3本の前記経自接結糸と、該3本の前記経自接結糸に隣接する1本の前記上経糸と、複数の前記上緯糸と、複数の前記下緯糸とによってサブユニットが形成され、前記上経糸は、1本の前記上緯糸の上を通った後、2本以上の前記上緯糸の下を通る繰り返し単位で前記上緯糸に織り込まれ、各々の前記サブユニットにおける3本の前記経自接結糸は、経方向に沿って交代で前記製紙面側織物層の組織を形成することにより、1本の前記上経糸のように前記上緯糸を織り込み、各々の前記サブユニットにおいて、1本の前記経自接結糸が前記上緯糸を織り込む経方向の範囲では、他の2本の前記経自接結糸は共通の前記下緯糸を織り込み、3本の前記経自接結糸は、それぞれ、前記上緯糸を非連続で互いに2回以上の同じ回数で織り込んだ後、前記走行面側織物層に移動することを特徴とする。ここで、経自接結糸が上緯糸を「非連続」に織り込むとは、経自接結糸が1本の上緯糸の上を通る場合、その経自接結糸はその上緯糸の両隣の上緯糸の下を通っていることを意味する。
【0009】
この構成によれば、3本の経自接結糸が上緯糸を非連続で互いに2回以上の同じ回数で織り込むため、経自接結糸が2つの層の間を移動する入れ替わり部分の割合が減るとともに、入れ替わり部分が均等に配置されるため、脱水性が向上する。また、サブユニットに接結部を有さない上経糸が配置されるため、表面性が向上する。
【0010】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る製紙用織物は、上記構成において、前記製紙面側織物層の組織は、前記上緯糸、前記上経糸及び前記経自接結糸のみからなり、前記走行面側織物層の組織は、前記下緯糸及び前記経自接結糸のみからなることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、下経糸がないため、構造を簡素にし、製紙用織物を薄くすることができる。
【0012】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る製紙用織物(1,11,21,41)は、上記構成の何れかにおいて、前記経自接結糸は、前記上緯糸を非連続で3回~5回の回数で織り込んだ後、前記走行面側織物層に移動することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、自接結糸が2つの層の間を移動する入れ替わり部分の割合を更に減らし、脱水性を向上させるとともに、製紙面側織物層と走行面側織物層との密着性を確保することができる。
【0014】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る製紙用織物(1,21,31,41)は、上記構成の何れかにおいて、前記サブユニットにおける前記経自接結糸(4,34,44)は、第1経自接結糸(例えば、No.1´)、第2経自接結糸(例えば、No.2´)及び第3経自接結糸(例えば、No.3´)からなり、前記第1経自接結糸、前記第2経自接結糸及び前記第3経自接結糸の順に繰り返し前記上緯糸に織り込まれることを特徴とする。また、本発明の少なくともいくつかの他の実施形態に係る製紙用織物(11)は、上記構成の何れかにおいて、前記サブユニットにおける前記経自接結糸(14)は、第1経自接結糸(例えば、No.1´)、第2経自接結糸(例えば、No.2´)及び第3経自接結糸(例えば、No.3´)からなり、前記第1経自接結糸、前記第2経自接結糸、前記第3経自接結糸及び前記第2経自接結糸の順に繰り返し前記上緯糸に織り込まれ、前記第2経自接結糸が前記第1及び第3経自接結糸よりも多く前記上緯糸に織り込まれることを特徴とする。
【0015】
これらの構成によれば、織物組織を比較的簡素にすることができる。
【0016】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る製紙用織物(1,11,31,41)は、上記構成の何れかにおいて、前記上経糸及び前記経自接結糸が、緯方向の一方に向かって、1本の前記上経糸及び3本の前記経自接結糸の順に繰り返し配置されたことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、サブユニット中の3本の経自接結糸が、走行面側に2本密集して並びその上側の製紙面側に1本という、概ね正三角形上に配置されるため、製紙用織物の厚さを薄くすることができる。
【0018】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る製紙用織物(21)は、上記構成に代えて、前記上経糸及び前記経自接結糸が、緯方向の一方に向かって、1本の前記上経糸、6本の前記経自接結糸及び1本の前記上経糸の順に繰り返し配置されたことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、経自接結糸が密集するため、製紙面側織物層と走行面側織物層との密着性を高め、また、排水性を向上できる。
【0020】
本発明の少なくともいくつかの実施形態に係る製紙用織物(1,11,21,31,41)は、上記構成の何れかにおいて、前記上経糸は、3本の前記上緯糸の下を通った後、1本の前記上緯糸の上を通るように、前記上緯糸に織り込まれたことを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、表面性と耐久性とのバランスが好適となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、製紙面側織物層と、経自接結糸によって走行面側織物層に接結された走行面側織物層とを有する製紙用織物において、脱水性(通気性)及び表面性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態に係る製紙用織物の完全組織を示す図
図2】第1実施形態に係る製紙用織物の緯方向に直交する面における断面図
図3】第1実施形態に係る製紙用織物の写真(上:製紙面側、中:緯方向に直交する断面、下:走行面側)
図4】経糸及び経自接結糸の断面図の一例(A:比較例1、B:比較例2C:第1実施形態、D:第3実施形態)
図5】第2実施形態に係る製紙用織物の完全組織を示す図
図6】第2実施形態に係る製紙用織物の緯方向に直交する面における断面図
図7】第3実施形態に係る製紙用織物の完全組織を示す図
図8】第4実施形態に係る製紙用織物の完全組織を示す図
図9】第5実施形態に係る製紙用織物の完全組織を示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1図3及び図4(C)は、第1実施形態に係る製紙用織物1を示す。製紙用織物1は、抄紙機のワイヤーパート(ウェットパート)において、紙料(液)から湿紙を形成するためのワイヤーとして使用される。製紙用織物1は、抄紙機のロールに掛け渡され、ロールの回転に応じて走行する。製紙用織物1の紙料及び湿紙と接触する面を製紙面、製紙面と相反する側の面を走行面という。製紙用織物1の製紙面上には、紙料が載せられ、脱水によって湿紙が形成される。抄紙機に取り付けられた製紙用織物1は、無端のベルト状の形状となるが、以下の説明においては、便宜上、製紙面側を上方、走行面側を下方という。また、「経」及び「緯」の方向は、それぞれ、抄紙機の機械方向(製紙用織物1の丈方向)及び機械横断方向(製紙用織物1の幅方向)を意味する。
【0025】
製紙用織物1は、経1重緯2重織の構造をなし、製紙面側織物層2と、走行面側織物層3とを有する。製紙面側織物層2と走行面側織物層3とは、経自接結糸4によって互いに接結される。製紙面側織物層2の組織は、上緯糸5、上緯糸5に織り込まれた上経糸6、及び上緯糸5に織り込まれた経自接結糸4からなる。走行面側織物層3の組織は、下緯糸7、及び下緯糸7に織り込まれた経自接結糸4からなる。なお、走行面側織物層3の組織には、上緯糸5を織り込まずに下緯糸7のみを織り込む下経糸は設けられていない。以下、経自接結糸4及び上経糸6の両方を指すときは、単に「経糸」と記し、上緯糸5及び下緯糸7の両方を指すときは、単に「緯糸」と記す。
【0026】
製紙用織物1の組織は、完全組織を基礎としてその繰り返しによって構成されるが、その完全組織は、48本の上緯糸5と、24本の下緯糸7と、4本の上経糸6と、12本の経自接結糸4とによって構成される。図1において、上緯糸No.が奇数の上緯糸5の下方に下緯糸7が配置され、経糸No.4´、8´、12´及び16´の経糸(丸付き数字で示した経糸)が上経糸6であり、その他の経糸が経自接結糸4である。組織図において、「×」印を付した箇所は、経自接結糸4又は上経糸6が上緯糸5を織り込む箇所、すなわち、経自接結糸4又は上経糸6が上緯糸5の上を通る箇所を示し、「□」印を付した箇所は、経自接結糸4が下緯糸7を織り込む箇所、すなわち、経自接結糸4が下緯糸7の下方を通る箇所を示す。また、ドットパターンで示した部分は、経自接結糸4が製紙面側織物層2及び走行面側織物層3の間を移動する部分を示す。
【0027】
製紙面側織物層2の組織は1/3斜であり、走行面側織物層3の組織は2/2平である。上経糸6は、1本の上緯糸5の上を通った後、3本の上緯糸5の下を通る繰り返し単位で、上緯糸5に織り込まれる。経自接結糸4は、完全組織において、1本の上緯糸5の上を通った後、3本の上緯糸5の下を通ることを4回繰り返し、その後、1本の下緯糸7の下を通った後、1本の下緯糸7の上を通ることを8回繰り返す。
【0028】
互いに隣接する3本の経自接結糸4(No.(4n+1)´、(4n+2)´及び(4n+3)´の経糸、nは0~3の整数)と、1本の上経糸6(No.(4n+4)´の経糸)と、48本の上緯糸5と、24本の下緯糸7とは、サブユニットを形成する。
【0029】
各々のサブユニットにおける3本の経自接結糸4は、交代で上緯糸5を織り込むことによって、1本の上経糸6のように上緯糸5を織り込んでいる。例えば、No.1´~4´の経糸を含むサブユニットを見ると、No.1´、No.2´及びNo.3´の経自接結糸4が、それぞれ、No.1、5、9及び13の上緯糸5、No.17、21、25及び29の上緯糸5、並びにNo.33、37、41及び45の上緯糸5を織り込み、全体として1本の上経糸6のように上緯糸5を織り込んでいる。このように、3本の経自接結糸は、それぞれ、上緯糸5を非連続で4回織り込んだ後、走行面側織物層3に移動し、サブユニットにおける3本の経自接結糸4は、No.1´の経自接結糸4、No.2´の経自接結糸4、No.3´の経自接結糸4の順に繰り返し上緯糸5に織り込まれる。
【0030】
また、各々のサブユニットにおいて、1本の経自接結糸4が上緯糸5を織り込む範囲では、他の2本の経自接結糸4は共通の下緯糸7を織り込む。例えば、No.1´~4´の経糸を含むサブユニットを見ると、No.1´の経自接結糸4が上緯糸5を織り込む範囲では、No.2´及び3´の経自接結糸4は、No.1´の経自接結糸4に織り込まれた上緯糸5(No.1、5、9及び13)の下方にある共通の下緯糸7を織り込んでいる。同様に、No.2´の経自接結糸4が上緯糸5を織り込む範囲では、No.1´及び3´の経自接結糸4は、No.2´の経自接結糸4に織り込まれた上緯糸5(No.17、21、25及び29)の下方にある共通の下緯糸7を織り込んでおり、No.3´の経自接結糸4が上緯糸5を織り込む範囲では、No.1´及び2´の経自接結糸4は、No.3´の経自接結糸4に織り込まれた上緯糸5(No.33、37、41及び45)の下方にある共通の下緯糸7を織り込んでいる。
【0031】
No.5´~No.8´の経糸を含むサブユニット、No.9´~12´の経糸を含むサブユニット、及びNo.13´~16´の経糸を含むサブユニットは、それぞれ、No.1´~No.4´の経糸を含むサブユニットに対して、上緯糸5の14本分、24本分、及び38本分ずれた位置に配置される。
【0032】
なお、経自接結糸4、上緯糸5、上経糸6及び下緯糸7の形態は特に限定されないが、モノフィラメントの単糸及び撚糸を用いることができ、特に単糸を用いることが好ましい。更に、各糸は捲縮加工や嵩高加工等を施した加工糸でもよく、非加工糸であってもよい。これらの中では非加工糸が好ましい。
【0033】
経自接結糸4、上緯糸5、上経糸6及び下緯糸7を構成する材料は特に限定されないが、ポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂が好ましい。ポリアミド系樹脂は、脂肪族ポリアミド樹脂が好ましく、更には、ナイロンが好ましい。ナイロンとしては、66ナイロン、6ナイロン、12ナイロン、11ナイロン、610ナイロン、612ナイロン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸とグリコールとからなるポリエステルであれば特にその種類に限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等であってよい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、経自接結糸4、上緯糸5、上経糸6及び下緯糸7は、互いに同一材料から構成されても、異なる材料から構成されてもよい。また、各糸は、各々単一材質で構成されていてもよく、材質が異なる2種以上の材質で構成されていてもよい。更に、各糸には、無機フィラー及び/又は有機フィラーが含有されていてもよい。耐摩耗性に影響する下緯糸7は、表面性に影響する上緯糸5よりも太いことが好ましい。
【0034】
製紙用織物1の作用効果について説明する。一般的に、経自接結糸4が製紙面側織物層2及び走行面側織物層3の間を移動する入れ替え部分では、製紙用織物1の内部に経自接結糸4が多くなるため、入れ替わりのない部分に比べて、製紙面側から走行面側へと流れる脱水方向が多方向(ランダムな脱水)となる。製紙用織物1は、経自接結糸4が、上緯糸5を非連続で4回織り込むことにより、経自接結糸の入れ替わり部分の割合を減らし、一様で安定して脱水する部分の割合を増やしている。従って、製紙用織物1の脱水性(通気性)が向上する。
【0035】
図4(A)は、特許文献1に記載の発明におけるサブユニット中の経自接結糸4'の一例を示し、図4(B)は、特許文献2に記載の発明における上経糸6"と経自接結糸4"と下経糸8"の一例(同文献の図14参照)を示し、図4(C)は、本実施形態に係る製紙用織物1におけるサブユニット中の経自接結糸4及び上経糸6の一例を示す。4本の経糸を含むサブユニットにおいて、その内の互いに隣接する3本を経自接結糸4とし、1本を上経糸6とすること、すなわち、接結部を持たない経糸を製紙面側織物層2に配置することにより、製紙用織物1は、図4(A)に示す比較例1の構成のものよりも均一性が増す事で表面性が向上する。また、図4(B)に示す比較例2の構成では、経自接結糸4"が製紙面側で寄り合って上緯糸(図示せず)を織込んでいるが走行面側に決まりはなく、下経糸8"がある事で脱水は遅くなる。また、経自接結糸4"の入れ替え部分ではランダムな脱水は図れるが一様とはなりづらく、均一な脱水は得られ難い。本実施形態では、サブユニット内の1本の経自接結糸4が、上緯糸5を複数回織り込みながら順次入れ替わるため、図4(C)の様に走行面側にある他の2本の経自接結糸4の上に位置し易い事から一様になり易い。製紙面側に位置する経自接結糸4と上経糸6との距離も一定に近づくため、均一な表面を形成し易く、差が少ない安定した脱水性が得られる。
【0036】
また、経自接結糸4が下緯糸7を織り込む構成を、サブユニットにおける3本の経自接結糸4が、入れ替わりながら2本1組となって共通の下緯糸7を織り込む構成としたため、図3に示すように、走行面側織物層3でのサブユニット内の2本の経自接結糸4が互いに密着し、その分互いに隣接するサブユニット間では空間が生じ、安定した脱水性を得られる。
【0037】
入れ替わり部分で区切られた経方向に延びる各々の区間で、サブユニットにおける3本の経自接結糸4が一組となって、1本が上経糸6として機能し、他の2本が下経糸として機能する。このため、製紙面側織物層2だけでなく走行面側織物層3においても密集性が高まり、製紙面側に1本、走行面側に2本の経糸が常に配置された状態に近づく。これにより、均一となって安定性も増すため、脱水性、表面性及び寸法安定性が向上する。また、図4(B)に示す比較例2の構成では、接結部がない上経糸6"と下経糸8"の組があり、この組では製紙面側と走行面側の密着性は図れない。これに比べ、本実施形態では下経糸がなく、すべてのサブユニット内に経自接結糸4があるため、製紙面側と走行面側を密着させる事が可能である。これにより、内部摩耗の抑制が図れると共に、網厚を一様に薄くできる事から、シートの水分をワイヤーを通して均一にすばやく排出する事が可能となる。
【0038】
次に、図5及び図6を参照して、本発明に係る第2実施形態に係る製紙用織物11を説明する。説明に当たって、第1実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付す。第2実施形態に係る製紙用織物11は、経自接結糸14の構成が第1実施形態と相違する。
【0039】
製紙用織物11は、製紙面側織物層12と、経自接結糸14によって製紙面側織物層12に接結された走行面側織物層13とを有する。製紙面側織物層12の組織は、上緯糸5、上緯糸5に織り込まれた上経糸6、及び上緯糸5に織り込まれた経自接結糸14からなる。走行面側織物層13の組織は、下緯糸7、及び下緯糸7に織り込まれた経自接結糸14からなる。
【0040】
各サブユニットにおける3本の経自接結糸14は、全体として、1本の上経糸6のように上緯糸5を織り込む点は、第1実施形態と同様であるが、各々の経自接結糸14が上緯糸5及び下緯糸7を織り込む態様は、第1実施形態と相違する。以下、No.1´~4´の経糸を含むサブユニットを例に説明する。No.1´、No.2´及びNo.3´の経自接結糸4が、それぞれ、No.1、5及び9の上緯糸5、No.13、17、21、37、41及び45の上緯糸5、並びにNo.25、29及び33の上緯糸5を織り込み、全体として1本の上経糸6のように上緯糸5を織り込んでいる。このように、3本の経自接結糸は、それぞれ、上緯糸5を非連続で3回織り込んだ後、走行面側織物層13に移動する。従って、サブユニットにおける3本の経自接結糸14は、No.1´の経自接結糸14、No.2´の経自接結糸14、No.3´の経自接結糸14、No.2´の経自接結糸14の順に繰り返し上緯糸5に織り込まれる。このように、No.1´及びNo.3´の経自接結糸14が、製紙面側織物層12及び走行面側織物層13の間を1回入れ替わるのに対して、No.2´の経自接結糸14は、製紙面側織物層12及び走行面側織物層13の間を2回入れ替わる。
【0041】
No.5´~No.8´の経糸を含むサブユニット、No.9´~12´の経糸を含むサブユニット、及びNo.13´~16´の経糸を含むサブユニットは、それぞれ、No.1´~No.4´の経糸を含むサブユニットに対して、上緯糸5の18本分、24本分、及び42本分ずれた位置に配置される。
【0042】
このような構成としても、第1実施形態と同様の作用効果を発揮する。
【0043】
次に、図4(D)及び図7を参照して、第3実施形態に係る製紙用織物21について説明する。説明に当たって、第1実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付す。第3実施形態は、緯方向に並んだ上経糸6と経自接結糸4の順番が第1実施形態と相違する。
【0044】
第1実施形態に係る製紙用織物1は、図1に示すように、上経糸6及び経自接結糸4が、緯方向の一方に向かって、1本の上経糸6及び3本の経自接結糸4の順に繰り返し配置される。すなわち、互いに隣接する2つのサブユニットにおいて、一方のサブユニットの上経糸6が他方のサブユニットの経自接結糸4と隣接している。しかし、第3実施形態に係る製紙用織物21は、上経糸6及び経自接結糸4が、緯方向の一方に向かって、1本の上経糸6、6本の経自接結糸4及び1本の上経糸の順に繰り返し配置される。すなわち、互いに隣接する2つのサブユニットにおいて、一方のサブユニットの上経糸6が、他方のサブユニットの上経糸6に隣接するか、又は、一方のサブユニットの経自接結糸4が、他方のサブユニットの経自接結糸4に隣接する。従って、図7において、No.4´、5´、12´及び13´の経糸が上経糸6であり、他の経糸が経自接結糸4となる。
【0045】
第1実施形態においては、図4(C)に示すように、経方向に直交する断面において、各々のサブユニットにおける3本の経自接結糸4を内接させる三角形を描くと、概ね、1つの辺が下辺となる正三角形となる。下側の2本の経自接結糸4の中間に上側の1本の経自接結糸4が配置されるため、製紙用織物1は比較的薄くなる。また、3本の経自接結糸4と、これに隣接する3本の経自接結糸4の間には、1本の上経糸6が配置されるため、走行面側に一定間隔の隙間ができる。
【0046】
一方、第3実施形態においては、図4(D)に示すように、経方向に直交する断面において、各々のサブユニットにおける3本の経自接結糸4を内接させる三角形を描くと、概ね、斜辺がサブユニット内の上経糸6を向いた直角二等辺三角形となる。各々のサブユニットにおいて、3本の経自接結糸4に1本の上経糸6を合わせると、その配置は、比較的、図4(A)に示す従来組織に近い配置となる。第3実施形態に係る製紙用織物21は、第1実施形態に比べて厚くなるが、脱水性(通気性)は向上する。また、6本の経自接結糸4が密集するため、製紙面側織物層2と走行面側織物層3との互いに密着性が高まる。
【0047】
図8及び図9を参照して、第4実施形態及び第5実施形態に係る製紙用織物31,41について説明する。説明に当たって、第1実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付す。第4実施形態及び第5実施形態は、サブユニットにおける3本の経自接結糸34,44が、それぞれ、非連続で上緯糸5を織り込む回数において第1実施形態と相違する。
【0048】
図8に示す第4実施形態に係る製紙用織物31では、サブユニットにおける3本の経自接結糸34が、それぞれ、非連続で上緯糸5を2回織り込んでいる。このため、完全組織を構成する緯糸の本数は第1実施形態よりも少なく、製紙用織物31の完全組織は、24本の上緯糸5と、12本の下緯糸7と、4本の上経糸6と、12本の経自接結糸34とによって構成される。
【0049】
例えば、No.1´~4´の経糸を含むサブユニットを見ると、No.1´、No.2´及びNo.3´の経自接結糸34が、それぞれ、No.1及び5の上緯糸5、No.9及び13の上緯糸5、並びにNo.17及び21の上緯糸5を織り込み、全体として1本の上経糸6のように上緯糸5を織り込んでいる。このように、3本の経自接結糸34は、それぞれ、上緯糸5を非連続で2回織り込んだ後、走行面側に移動し、サブユニットにおける3本の経自接結糸34は、No.1´の経自接結糸34、No.2´の経自接結糸34、No.3´の経自接結糸34の順に繰り返し上緯糸5に織り込まれる。
【0050】
No.5´~No.8´の経糸を含むサブユニット、No.9´~12´の経糸を含むサブユニット、及びNo.13´~16´の経糸を含むサブユニットは、それぞれ、No.1´~No.4´の経糸を含むサブユニットに対して、上緯糸5の14本分、4本分、及び18本分ずれた位置に配置される。
【0051】
図9に示す第5実施形態に係る製紙用織物41では、サブユニットにおける3本の経自接結糸44が、それぞれ、非連続で上緯糸5を5回織り込んでいる。このため、完全組織を構成する緯糸の本数は第1実施形態よりも多く、製紙用織物41の完全組織は、60本の上緯糸5と、30本の下緯糸7と、4本の上経糸6と、12本の経自接結糸44とによって構成される。
【0052】
例えば、No.1´~4´の経糸を含むサブユニットを見ると、No.1´、No.2´及びNo.3´の経自接結糸44が、それぞれ、No.1、5,9,13及び17の上緯糸5、No.21,25,29,33及び37の上緯糸5、並びにNo.41,45,49,53及び57の上緯糸5を織り込み、全体として1本の上経糸6のように上緯糸5を織り込んでいる。このように、3本の経自接結糸44は、それぞれ、上緯糸5を非連続で5回織り込んだ後、走行面側に移動し、サブユニットにおける3本の経自接結糸44は、No.1´の経自接結糸44、No.2´の経自接結糸44、No.3´の経自接結糸44の順に繰り返し上緯糸5に織り込まれる。
【0053】
No.5´~No.8´の経糸を含むサブユニット、No.9´~12´の経糸を含むサブユニット、及びNo.13´~16´の経糸を含むサブユニットは、それぞれ、No.1´~No.4´の経糸を含むサブユニットに対して、上緯糸5の6本分、20本分、及び46本分ずれた位置に配置される。
【0054】
第1~第5実施形態において、経自接結糸4,14,34,44が非連続で上緯糸5を織り込む回数は、それぞれ、4回、3回、4回、2回及び5回である。このように経自接結糸4,14,34,44が非連続で上緯糸5を織り込む回数を2回以上、好ましくは3回以上とすることにより、入れ替わり部分の割合が減り、脱水性が向上する。また、5回以下とすることにより、製紙面側織物層2,12と走行面側織物層3,13との密着性が確保される。
【0055】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。上経糸は、1本の前記上緯糸の上を通った後、2本又は4本以上の上緯糸の下を通る繰り返し単位で上緯糸に織り込まれてもよい。走行面側織物層の組織は、サブユニットにおける2本の経自接結糸が共通の下緯糸を織り込んでいれば、2/2平以外の組織でもよい。第3実施形態の経自接結糸と上経糸との緯方向の配置(経糸No.4、5、12及び13が上経糸となり、他の経糸が経自接結糸となる構成)を、第2、第4又は第5実施形態に適用してもよい。また、第2実施形態における経自接結糸の入れ替わりの構成(経糸No.2の経自接結糸が、経糸No.1及び3の経自接結糸よりも多く上緯糸に織り込まれる構成)を、第1及び第3~第5実施形態に適用してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1,11,21,31,41:製紙用織物
2,12:製紙面側織物層
3,13:走行面側織物層
4,14,34,44:経自接結糸
5:上緯糸
6:上経糸
7:下緯糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9