IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 礎電線株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-エナメル線の製造方法 図1
  • 特許-エナメル線の製造方法 図2
  • 特許-エナメル線の製造方法 図3
  • 特許-エナメル線の製造方法 図4
  • 特許-エナメル線の製造方法 図5
  • 特許-エナメル線の製造方法 図6
  • 特許-エナメル線の製造方法 図7
  • 特許-エナメル線の製造方法 図8
  • 特許-エナメル線の製造方法 図9
  • 特許-エナメル線の製造方法 図10
  • 特許-エナメル線の製造方法 図11
  • 特許-エナメル線の製造方法 図12
  • 特許-エナメル線の製造方法 図13
  • 特許-エナメル線の製造方法 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】エナメル線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20220405BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20220405BHJP
   B32B 1/00 20060101ALI20220405BHJP
   B05D 7/20 20060101ALI20220405BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20220405BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20220405BHJP
   H01B 5/08 20060101ALI20220405BHJP
   H01B 1/04 20060101ALI20220405BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
H01B7/00 303
B32B9/00 A
B32B1/00 Z
B05D7/20
B05D7/00 C
H01B7/02 A
H01B5/08
H01B1/04
H01B13/00 517
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018192322
(22)【出願日】2018-10-11
(65)【公開番号】P2020061289
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2018-10-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591091146
【氏名又は名称】礎電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】戸田 泰行
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-133296(JP,A)
【文献】特開2014-169521(JP,A)
【文献】実開昭56-117429(JP,U)
【文献】国際公開第2015/011768(WO,A1)
【文献】特開2016-141778(JP,A)
【文献】特開2005-209378(JP,A)
【文献】特開2015-230773(JP,A)
【文献】特開平09-282948(JP,A)
【文献】特開2015-185502(JP,A)
【文献】特開2002-140935(JP,A)
【文献】特開2019-179728(JP,A)
【文献】特開2009-199749(JP,A)
【文献】金山賢治 ほか,カーボンナノチューブを用いた新規導電繊維の性能評価と製品開発,愛知県産業技術研究所 研究報告2010,あいち産業科学技術総合センター,2010年,http://www.aichi-inst.jp/owari/research/report/903.pdf
【文献】銅の100倍まで電流を流せるカーボンナノチューブ銅複合材料,研究成果2013年,国立研究開発法人産業技術総合研究所,2013年07月23日,https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2013/pr20130723_2/pr20130723_2.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
B32B 9/00
B32B 1/00
B05D 7/20
B05D 7/00
H01B 7/02
H01B 5/08
H01B 1/04
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカーボンナノチューブの集合体である導体をボビンから引き出し、前記導体の真円度を調整する成型工程と、
前記成型工程後に、前記導体を有機溶剤で洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程後の前記導体を加熱して前記導体に付着した有機溶剤を除去するアニール工程と、
前記アニール工程後の前記導体に塗料を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で前記導体に塗布された塗料の焼き付けを行う焼き付け工程と、
を含み、
前記導体は、複数のカーボンナノチューブの紡績糸を撚った撚糸、複数の前記撚糸の束または前記撚糸もしくは前記束の外面に金属めっきを施したものであり、
前記導体に対して前記成型工程から前記焼き付け工程までボビンに巻き付けられることなく各工程が実行され、
前記成型工程は、前記導体の外面の一部が円形の断面を有するダイス孔の内面及び対向する少なくとも2つのローラの湾曲した溝に接触すると共に、前記導体の外面から突出している部分が前記ダイス孔の前記内面及び前記ローラの前記溝に押圧されて変形することで、前記導体の真円度を1.0以上1.25以下に調整し、
前記成型工程における前記導体に対する引張応力は200MPa以上2000MPa以下であり、
前記塗布工程における塗料の粘度は、0.5dPa・s以上50dPa・s以下であることを特徴とする、エナメル線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを含むエナメル線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは軽量でありながら機械的強度が高く、導電材料として一般的に使われている銅よりも高い導電性を有している。そのため、導電材料としての用途で注目されている。
【0003】
一方、エナメル線は、モータ、変圧器、偏向ヨークなどの電気機器のコイル用電線として広く用いられている(例えば特許文献1)。エナメル線は、導体に天然樹脂又は合成樹脂絶縁塗料を焼き付けた電線である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-185716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カーボンナノチューブを用いたエナメル線は未だに実用化されていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0011】
]本発明に係るエナメル線の製造方法は、
複数のカーボンナノチューブの集合体である導体をボビンから引き出し、前記導体の真円度を調整する成型工程と、
前記成型工程後に、前記導体を有機溶剤で洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程後の前記導体を加熱して前記導体に付着した有機溶剤を除去するアニール工程と、
前記アニール工程後の前記導体に塗料を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程で前記導体に塗布された塗料の焼き付けを行う焼き付け工程と、
を含み、
前記導体は、複数のカーボンナノチューブの紡績糸を撚った撚糸、複数の前記撚糸の束または前記撚糸もしくは前記束の外面に金属めっきを施したものであり、
前記導体に対して前記成型工程から前記焼き付け工程までボビンに巻き付けられることなく各工程が実行され、
前記成型工程は、前記導体の外面の一部が円形の断面を有するダイス孔の内面及び対向する少なくとも2つのローラの湾曲した溝に接触すると共に、前記導体の外面から突出している部分が前記ダイス孔の前記内面及び前記ローラの前記溝に押圧されて変形することで、前記導体の真円度を1.0以上1.25以下に調整し、
前記成型工程における前記導体に対する引張応力は200MPa以上2000MPa以下であり、
前記塗布工程における塗料の粘度は、0.5dPa・s以上50dPa・s以下であることを特徴とすることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係るエナメル線の一部を断面で示す図である。
図2】本実施形態に係るエナメル線の製造方法を実施するための製造装置の一例の模式図である。
図3】本実施形態に係るエナメル線の製造方法に用いるダイスの断面図である。
図4】本実施形態に係るエナメル線の製造方法に用いるローラの斜視図である。
図5】実施例1の導体を500倍で撮影した写真である。
図6】実施例1のエナメル線を500倍で撮影した写真である。
図7】実施例1のエナメル線の切断面を1000倍で撮影した写真である。
図8】実施例2の導体を500倍で撮影した写真である。
図9】実施例2のエナメル線を500倍で撮影した写真である。
図10】実施例2のエナメル線の切断面を500倍で撮影した写真である。
図11】比較例1のエナメル線を500倍で撮影した写真である。
図12】比較例1のエナメル線の断面を500倍で撮影した写真である。
図13】実施例及び比較例の電気抵抗と温度との関係を示すグラフである。
図14】実施例及び比較例のインピーダンスと周波数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0017】
1.エナメル線
図1を用いて本発明の一実施形態に係るエナメル線10について説明する。図1は本実施形態に係るエナメル線10の一部を断面で示す図である。図1では真円度及び偏心度を説明するために大きく変形した形状を示している。
【0018】
エナメル線10は、複数のカーボンナノチューブの集合体である導体20と、導体20を被覆する絶縁被膜30と、を含む。
【0019】
エナメル線10は、導体20である素線に塗料を焼き付けて導体を被覆する絶縁被膜30を形成した電線である。エナメル線10は、導体20である素線に絶縁被膜30を直接被覆したものに限らず、導体20の外面に金属めっきを施した素線に絶縁被膜30を被覆したものも含む。
【0020】
導体20は、複数のカーボンナノチューブの集合体(以下「CNT集合体」という)である。CNT集合体は、カーボンナノチューブが複数本集合して一本の糸のようになったものをいう。CNT集合体は、湿式紡績または乾式紡績により紡績されたカーボンナノチューブの紡績糸を撚った撚糸であってもよいし、複数の撚糸を束にしたものであってもよい。CNT集合体はカーボンナノチューブ間のファンデルワールス力により集合している。CNT集合体は、撚糸の外層に金属めっきを施したものでもよいし、複数の撚糸の束の外面に金属めっきを施したものでもよい。金属めっきとしてはカーボンナノチューブにおいて公知のもの例えば銅めっき等を採用できる。CNT集合体としては、例えば日立造船社のCNT撚糸やCNT撚糸を金属被覆したCNTワイヤー、村田機械社のCNT撚糸等を採用することができる。
【0021】
カーボンナノチューブは電気伝導性に優れた金属型のものを用いることができる。カーボンナノチューブの層構造は特に限定されず、単層及び多層(2層以上)のカーボンナノチューブを含むことができ、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブのいずれか一方のみから構成されてもよい。カーボンナノチューブの製造方法は、特に限定されず、例えば気相成長法など公知の方法で製造したものを用いることができる。
【0022】
導体20の直径(線径)は、例えば30μm以上200μm以下であることができる。導体20の直径が30μm以上であればエナメル線として実用化可能であり、200μm以下であればCNT集合体として入手が可能である。本明細書において「線径」とは、レーザマイクロメータ(例えばキーエンス社製LS9500)によりCNT集合体の長手方向に沿って1m間隔で3箇所以上の直径を測定し、その算術平均値をいう。
【0023】
導体20は、真円度が1.0以上1.5以下である。図1に示すように、真円度は、導体20の長さ方向の任意の位置における導体20の直径をマイクロスコープで測定し、その最大径D1と最小径D2との比(D1/D2)である。CNT集合体は、複数のカーボンナノチューブがファンデルワールス力で束になっているだけなので、そのままでは表面の凹凸が大きい。しかも、カーボンナノチューブは疎水性でエナメル線の塗料と濡れにくい。そのため、真円度が1.5を超えるような導体20に塗料を塗布すると微細な欠陥(例えばピンホール)が生じる恐れがある。導体20は、真円度が1.0以上1.2以下であることがさらに好ましい。
【0024】
導体20がCNT集合体を銅等の金属めっきで被覆したものである場合、導体20の表面(銅めっきの表面)が平滑であり最大高さ(Rz)が5μm以下であることが好ましい。導体20の表面に凹凸が少ないことにより、絶縁被膜30を良好に形成することができる。「最大高さ」はJIS B0601に規定する輪郭曲線の「最大山高さ」と「最大谷深さ」の和(山頂点と谷底点の間隔)のことをいい、マイクロスコープ(キーエンス社製「VHX-5000」)で撮影した写真を形状測定ソフト(キーエンス社製「VHX-H4M」)で分析して求めることができる。また例えば、500倍から1000倍程度の拡大写真を撮影して、定規を用いて輪郭の高さと深さを計測してもよい。
【0025】
絶縁被膜30は、導体20を被覆する絶縁の被膜である。絶縁被膜30の材質としては、ポリウレタン、ポリビニルホルマール、ポリウレタンナイロン、ポリエステル、ポリエステルナイロン、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド/ポリア
ミドイミド、ポリイミド等を用いることができる。
【0026】
絶縁被膜30の偏肉度は、1.0以上2.0以下であることができる。図1に示すように、偏肉度は、絶縁被膜30の偏心の度合いである。具体的には、偏肉度は、エナメル線10の中心Oを通る仮想線上の絶縁被膜30の肉厚をマイクロスコープで測定し、最も厚い肉厚T1と最も薄い肉厚T2との比(T1/T2)である。偏肉度が2.0以下であれば、被膜が導体円周上を均一に覆うことになり、エナメル線の絶縁性能を確保することができる。この範囲から外れると肉厚の薄い部分に欠陥を生じ、絶縁性低下のおそれがある。
【0027】
絶縁被膜30の肉厚は、5μm以上であることができる。肉厚は導体20の表面から絶縁被膜30の外表面までの厚さである。肉厚が5μm以上であることでエナメル線10の絶縁性能を確保することができる。また、絶縁被膜30の肉厚は、導体20の線径の5%以上であることが好ましい。肉厚が線径の5%以上であることでエナメル線10の絶縁性能を確保することができる。
【0028】
エナメル線10は、抵抗計で測定した0℃~200℃における電気抵抗が20℃における電気抵抗を100%としたときに90%以上110%以下であることができる。一般に金属導体のエナメル線は温度を上げると電気抵抗が大きくなるが、本実施形態に係るエナメル線は温度上昇に伴う電気抵抗の変化が少ない。このため、例えば、原子炉、宇宙開発用途に好適に採用し得る。
【0029】
エナメル線10は、インピーダンス測定装置で測定した0kHz~200kHzにおけるインピーダンスが0kHzにおけるインピーダンスを100%としたときに80%以上120%以下であることができる。一般に金属導体のエナメル線は周波数を上げるとインピーダンスが大きくなるが、本実施形態に係るエナメル線は周波数上昇に伴うインピーダンスの変化が少ない。このため、例えば、高周波コイルに好適に採用し得る。
【0030】
2.エナメル線の製造方法
本実施形態に係るエナメル線の製造方法は、複数のカーボンナノチューブの集合体である導体の真円度を調整する成型工程と、成型工程で得られた導体に塗料を塗布する塗布工程と、塗布工程で導体に塗布された塗料の焼き付けを行う焼き付け工程と、を含む。
【0031】
図2図4を用いて本発明の一実施形態に係るエナメル線10の製造方法について説明する。図2は本実施形態に係るエナメル線10の製造方法を実施するための製造装置100の一例の模式図であり、図3は本実施形態に係るエナメル線10の製造方法に用いるダイス600の断面図であり、図4は本実施形態に係るエナメル線10の製造方法に用いるローラ610の斜視図である。
【0032】
図2に示すように、製造装置100は、導体20が巻かれたボビン50と、ボビン50から引き出された導体20を成型する成型部60と、成型部60で成型された導体20に塗料を塗布する塗布部70と、塗料を焼き付ける焼付部80と、絶縁被覆されたエナメル線10を巻き取る巻取部90と、を有する。
【0033】
ボビン50に巻きつけられた導体20は、CNT集合体である。ボビン50から導体20を引きだし、成型部60に導入する。
【0034】
成型部60は、導体20に対し成型工程を実施する。成型工程は複数のカーボンナノチューブの集合体である導体20の真円度を調整する工程である。成型工程は、導体20の表面と成型部材とを接触させることにより導体20の表面の凹凸を減少させ、導体20の真円度を1.0に近づける。成型部60の成形部材としては例えば図3のダイス600及び図4のローラ610を採用することができる。成型部60は、導体20の真円度を徐々に1.0に近づけるためにダイス600及び/またはローラ610を複数直列に配置してもよい。
【0035】
図3に示すようにダイス600の出口604は入口602の直径より小さい。入口602及び出口604は円形であり、ダイス600は入口602から出口604に向かって徐々に細くなる円錐台形状のダイス孔606を有する。入口602の直径は導体20の最大径よりも大きく、例えば導体20の最大径の1.5倍程度である。出口604の直径は例えば導体20の最大径の1.0倍~1.5倍であり、特に導体20の最大径の1.2倍程度であることが好ましい。
【0036】
成型工程は、導体20の真円度を1.0以上1.5以下に調整する。導体20はダイス600から引き出されると円形の断面を有するダイス孔606に接触しながら真円に近い断面形状に成型される。導体20の外面の一部はダイス孔606の内面に接触し、特に導体20の突出している部分はダイス孔606の内面に押圧されて変形し、成型される。導体20は複数のカーボンナノチューブがファンデルワールス力で集合しただけであるのでダイス孔606との接触により容易に変形することができる。
【0037】
また、成型工程は、導体20の表面に金属めっき被膜を有する場合にも、表面の凹凸を減少させることができる。
【0038】
成型工程における導体20に対する引張応力は200MPa以上2000MPa以下であることが好ましい。導体20はCNT集合体であるので導体20に過度の引張応力がかかると破断してしまうため、導体20の送り速度を調整して成型工程における引張応力を比較的小さな値に維持する必要がある。一般的な導体線加工ダイスの場合には導体線に伸線加工が施されるが、本実施形態に係る導体20は伸線加工を施すのではない。導体20の外形を真円に近い形状に整えるために成型工程が行われる。
【0039】
また、ダイス600に代えて、あるいはダイス600の前後に連続して、図4に示すローラ610を用いてもよい。ローラ610はボビン50から引き出された導体20を挟み込むように2つのローラ610を有する。2つの対向するローラ610は、わずかな間隔を隔てて配置され、導体20の送り出される方向に回転する。ローラ610は断面円弧状に湾曲した溝612を有する。互いに対向する溝612は導体20の最大径よりもわずかに大きな間隔を有して配置される。溝612は、ローラ610間を通る導体20に接触して真円に近い断面形状に導体20を成型する。図4では2つのローラ610を鉛直方向に間隔をあけて配置したが、2つのローラ610を水平方向に間隔をあけて配置してもよい。また、鉛直方向に配置したローラ610と水平方向に配置したローラ610を2組直列に並べて配置して導体20に対し2方向から接触してもよい。
【0040】
塗布部70は、成型工程で所定の真円度に成型された導体20に塗料を塗布する塗布工程を実行する。塗布部70で塗布する塗料は、上述した絶縁被膜30の樹脂を溶媒に溶解した塗料を用いる。
【0041】
塗布工程における塗料の粘度は、0.5dPa・s以上50dPa・s以下であることができる。塗料の粘度は、JIS C2103に準拠して例えばリオン株式会社のデジタル回転式粘度計(ビスコテスタ)を用いて、測定することができる。塗料の粘度が0.5dPa・s以下であれば焼付部80で焼成される前に塗料が液だれ状になり偏肉度不良の原因となるため好ましくなく、50dPa・s以上であれば導体に過度の応力がかかり破断の原因となるため好ましくない。
【0042】
焼付部80は、塗布工程で導体20に塗布された塗料の焼き付けを行う焼き付け工程を実行する。焼き付けを行う温度は塗料の種類に応じて適当な温度に設定する。
【0043】
塗布工程及び焼き付け工程を複数回繰り返すことにより、導体20に複数層からなる絶縁被膜30を形成することができる。複数回塗布することで絶縁被膜30の肉厚を均一化することができる。具体的には塗布部70及び焼付部80を通った導体20を再び塗布部70へ戻して塗布工程及び焼き付け工程を繰り返し行う。例えば、絶縁被膜30は5回以上の塗布工程及び焼き付け工程により形成することができる。
【0044】
成型工程後であって塗布工程前に、導体20を有機溶剤で洗浄する洗浄工程と、導体20を加熱して導体20に付着した有機溶剤を除去するアニール工程と、をさらに含んでもよい。洗浄工程は導体20に付着した不純物を洗い流すことができる。また、導体20が金属めっきで被覆されていない場合は洗浄工程で有機溶剤が導体20の内部の隙間に入り込み、アニール工程で有機溶剤が除去されることで導体20の内部にあった隙間が減少して空隙率が低くなる。導体20の空隙率が低くなれば、エナメル線10における電気抵抗を低く抑えることができる。また、導体20の空隙率が低くなれば、エナメル線10においける引張強さが向上する。
【0045】
アニール工程は、導体20に付着した有機溶剤を揮発させることができる温度に加熱する。
【0046】
有機溶剤としては導体20が金属めっきで被覆されていない場合はアセトンが好ましい。導体20がCNT集合体を銅等の金属めっきで被覆したものである場合は有機溶剤としてアセトンの他、例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール、二塩化エチレン或いはクロロホルムを用いてもよい。
【実施例
【0047】
(1)実施例のサンプルの作製
実施例1~実施例3として市販のCNT集合体を表1に記載の真円度に成型して、絶縁被膜を塗布して焼き付けして実施例1~実施例3のエナメル線のサンプルを得た。
【0048】
実施例1の「導体」は日立造船社製の線径50μmの「CNTワイヤー」であり、「塗料」は東特塗料社製の粘度0.5dPa・sを用いて5層のポリウレタンの絶縁被膜(平均肉厚7μm)を形成した。
【0049】
実施例2の「導体」は日立造船社製の線径40μm、銅めっき厚さ1μm(片側)の「CNTワイヤーCuめっきあり」であり、「塗料」は東特塗料社製の粘度0.5dPa・sを用いて5層のポリウレタンの絶縁被膜(平均肉厚8.5μm)を形成した。
【0050】
実施例3の「導体」は村田機械社製の線径100μmの「CNTヤーン」であり、「塗料」は東特塗料社製の粘度0.5dPa・sを用いて5層のポリウレタンの絶縁被膜(平均肉厚12μm)を形成した。
【0051】
(2)比較例のサンプルの作製
比較例1として「導体」は名城ナノカーボン社製の線径120μmのCNT集合体を用いて真円度を調整することなく有機溶剤による洗浄も行わず東特塗料社製の粘度0.5dPa・sの塗料を用いて5層のポリウレタンの絶縁被膜(平均肉厚5μm)を形成した。
【0052】
比較例2として線径30μmの銅線にポリウレタンの絶縁被膜(平均肉厚5μm)を形成した2種エナメル線を用いた。
【0053】
比較例3としてサカイ産業社の炭素繊維集合線(線径230μm)にポリウレタンの絶縁被膜(平均肉厚5μm)を形成した。
【0054】
(3)各種寸法の測定
実施例1~3及び比較例1~3の導体をマイクロスコープを用いて撮影し、画像計測ソフトで線径(「導体径」)を測定した。図5図8は実施例1と実施例2のCNT集合体の外観を500倍に拡大して撮影した写真である。図11は比較例1のCNT集合体の外観を500倍に拡大して撮影した写真である。実施例1~3の導体は成型工程後の寸法であり、比較例1~3は成型工程を行わない状態の寸法とした。各導体の長さ方向の同じ位置でエナメル線を回転して5箇所で線径を測定し、測定結果の最大径D1と最小径D2から真円度(D1/D2)を計算した。エナメル線の線径は「仕上径」として表2,3に示した。その真円度を各導体の長さ方向の10か所で算出し、その内の最も大きな真円度を表1~表3に示した。
【0055】
実施例1~3及び比較例1~3のエナメル線を切断した断面をマイクロスコープを用いて撮影し、画像計測ソフトで5箇所以上の肉厚を測定した。測定結果から最も厚い肉厚T1と最も薄い肉厚T2との比(T1/T2)を偏肉度として求めた。各導体の長さ方向の10か所で測定し、その内の最も大きな偏肉度を表1~表3に示した。
【0056】
(4)絶縁被膜の評価
図6は実施例1のエナメル線の外観を500倍に拡大して撮影した写真であり、図7は実施例1のエナメル線の切断面を1000倍に拡大して撮影した写真であり、図8は実施例2のエナメル線の外観を500倍に拡大して撮影した写真であり、図9は実施例2のエナメル線の切断面を1000倍に拡大して撮影した写真である。実施例1~3及び比較例2のエナメル線は、表2及び表3に示すように偏肉度が2.0以下であり、拡大写真を観察してもピンホールなどの欠陥は見当たらなかった。
【0057】
図12は比較例1のエナメル線の断面を500倍に拡大して撮影した写真である。図12に示すように比較例1は断面が扁平になり表面の凹凸も多く、それに付随して絶縁被膜の欠陥が各所にみられる。比較例1の導体の真円度は1.9であり、エナメル線の偏肉度は測定不能であった。
【0058】
(5)機械的特性
実施例1~3及び比較例1~3の導体及びエナメル線のサンプルについて、JIS C3202試験片について、株式会社オリエンテック社製の引張試験機を用いて、23±2℃、標準線間距離200mm、引張速度5±1mm/secでJIS C3216に基づいて引張試験を行い、引張強さ(N)、破断荷重(gf)を測定した。測定結果を表1~表3に示した。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
(6)線抵抗の測定及び評価
実施例1~3及び比較例2,3のエナメル線のサンプルについて、鶴賀電機社製の抵抗計を用いてJIS C3216に基づいて電気抵抗を測定し、その測定結果を図13に示した。図13では20℃における電気抵抗を100%としたときの0℃~200℃での電気抵抗の変化(抵抗比)を示した。図13によれば、比較例2のエナメル線の電気抵抗は温度の上昇と共に大きくなるのに対し、実施例1~3及び比較例3のエナメル線の電気抵抗は温度が0℃~200℃と変化しても±20%の変化はなかった。具体的には、0℃と200℃における各例の電気抵抗の変化は、実施例1が102%と86%、実施例2が101%と87%、実施例3が102%と84%であった。
【0063】
(7)インピーダンスの測定及び評価
実施例1~3及び比較例2,3のエナメル線のサンプルについて、GW Instek社製のインピーダンス測定器を用いてJIS C3216に基づいて電気抵抗を測定し、0kHz~200kHzにおけるインピーダンスを測定し、その測定結果を図14に示した。図14では0kHzにおけるインピーダンスを100%としたときの0kHz~200kHzにおけるインピーダンスの変化を示した。図14によれば、比較例2のエナメル線のインピーダンスは周波数が高くなると大きくなるのに対し、実施例1~3及び比較例3のエナメル線のインピーダンスは周波数が高くなるにつれ低くなり、200kHzになっても90%を下回らなかった。特に実施例1~3のエナメル線のインピーダンスはほぼ同じ傾向を示した。具体的には、0kHzと200kHzにおけるインピーダンスの変化は、実施例1が100%と99%、実施例2が100%と96%、実施例3が100%と92%であった。
【0064】
(8)有機溶剤による効果
村田機械社製の「CNTヤーン」をアセトンに浸漬したところ、線径が44.4μmから39.5μmにまで縮小した。導体が金属めっきで被覆されていない場合はアセトンによる洗浄と同時に空隙率が減少した。アセトンの代わりにエタノール、メタノール、イソプロパノール、二塩化エチレン及びクロロホルムで洗浄したが、空隙率の減少は見られな
かった。
【0065】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0066】
10…エナメル線、20…導体、30…絶縁被膜、50…ボビン、60…成型部、70…塗布部、80…焼付部、90…巻取部、100…製造装置、600…ダイス、602…入口、604…出口、606…ダイス孔、610…ローラ、612…溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14