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特許7053460溶融スピネル-ジルコニア粒子、及びこの粒子から得られる耐火材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】溶融スピネル-ジルコニア粒子、及びこの粒子から得られる耐火材料
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/484 20060101AFI20220405BHJP
   F27D 1/04 20060101ALI20220405BHJP
   B22D 41/02 20060101ALI20220405BHJP
   B22D 41/32 20060101ALI20220405BHJP
   B22D 41/54 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C04B35/484
F27D1/04 Z
B22D41/02 A
B22D41/32
B22D41/54
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018520143
(86)(22)【出願日】2016-10-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-12-13
(86)【国際出願番号】 FR2016052700
(87)【国際公開番号】W WO2017068283
(87)【国際公開日】2017-04-27
【審査請求日】2019-08-15
(31)【優先権主張番号】1559926
(32)【優先日】2015-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(31)【優先権主張番号】1559925
(32)【優先日】2015-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】310009890
【氏名又は名称】サン-ゴバン サントル ドゥ ルシェルシェ エ デトゥードゥ ユーロペン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】ステファーヌ ラフィー
(72)【発明者】
【氏名】ナビル ナハース
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特公昭49-002233(JP,B1)
【文献】特開昭62-192480(JP,A)
【文献】国際公開第2013/005253(WO,A1)
【文献】特表2002-531641(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1546421(CN,A)
【文献】特表2016-527083(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101786889(CN,A)
【文献】特表2012-504088(JP,A)
【文献】Nitani Nら,Thermophysical properties of rock-like oxide fuel with spinel-yttria stabilized zirconia system,JOURNAL OF NUCLEAR MATERIALS,1999年,Vol.274,P.15-22
【文献】Non-stoichiometry and defect structures in rapidly solidified MgO-Al2O3-ZrO2 ternary eutectics,MATERIALS SCIENCE AND ENGINEERING,1997年,A231,P.90-97
【文献】Thermal Stability and Microstructural Development of Fine-grained (Y,Mg)-PSZ/MgAl2O4 Ceramics,JOURNAL OF THE EUROPEAN CERAMIC SOCIETY,Vol.18,1998年,P.647-651
【文献】Yttria-magnesia partially stabilized zirconia reinforced with MgAl2O4 spinel particles,MATERIALS SCIENCE AND TECHNOLOGY,1998年,Vol.14,P.139-142,奥付
【文献】Effects of in-situ formation of magnesium aluminate spinel on performance of modified sizing nozzle,ADVANCED MATERIALS RESEARCH,Vols750-752,2014年,pp1130-1136
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
F27D 1/04
B22D 41/02,41/32,41/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融粒子であって、
-前記溶融粒子が、ジルコニア-スピネル共晶のマトリックス、及び前記マトリックスの内部にある内包物を含有しており、前記内包物が、ジルコニア相で構成されており、
-前記溶融粒子が、酸化物の形態において示した重量百分率としての次の全体の化学組成を示しており:
45.0%超95.0%未満のZrO
3.0%超40.0%未満のAl
1.0%超20.0%未満のMgO、
ZrO、Al及びMgOが合計で、前記溶融粒子の重量の少なくとも95.0%に相当し、かつ
内包物のジルコニア相の50重量%超は、立方晶の形態である、
溶融粒子。
【請求項2】
前記溶融粒子の化学組成が、68重量%超のZrOを含有している、請求項1に記載の溶融粒子。
【請求項3】
前記溶融粒子の化学組成が、25重量%未満のAlを含有している、請求項1又は2に記載の溶融粒子。
【請求項4】
Al/MgO重量比が1.0~5.0であり、好ましくは1.5~3である、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶融粒子。
【請求項5】
を追加的に含有しており、前記Yの含有率が、前記溶融粒子の0.2重量%超4重量%未満である、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶融粒子。
【請求項6】
CaOを追加的に含有しており、前記CaOの含有率が、前記溶融粒子の0.2重量%超4重量%未満である、請求項1~5のいずれか一項に記載の溶融粒子。
【請求項7】
ZrO、Al及びMgOが合計で、前記溶融粒子の重量の98.0%超に相当する、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶融粒子。
【請求項8】
前記内包物の50%超が、500μm未満の長径を示すジルコニア相で構成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶融粒子。
【請求項9】
記溶融粒子の5重量%~50重量%に相当するスピネル相を含有しており、
前記スピネル相は、前記内包物中にスピネルが存在ない場合には前記共晶中に存在しているスピネル相であり、スピネル相で構成されている内包物が存在する場合には、前記共晶中に存在しているスピネル相と前記スピネル相で構成されている内包物中に存在しているスピネル相との合計である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の溶融粒子。
【請求項10】
前記ジルコニア-スピネル共晶が、前記溶融粒子の10体積%~80体積%に相当する、
請求項1~9のいずれか一項に記載の溶融粒子。
【請求項11】
耐火材料の製造のための、請求項1~10のいずれか一項に記載の溶融粒子の使用であって、
-前記溶融粒子が、ジルコニア-スピネル共晶のマトリックス、及び前記マトリックスの内部にある内包物を含有しており、前記内包物が、ジルコニア相で構成されており、
-前記溶融粒子が、酸化物の形態において示した重量百分率としての次の全体の化学組成を示しており:
45.0%超95.0%未満のZrO
3.0%超40.0%未満のAl
1.0%超20.0%未満のMgO、
ZrO、Al及びMgOが合計で、前記溶融粒子の重量の少なくとも95.0%に相当し、かつ
内包物のジルコニア相の50重量%超は、立方晶の形態である、
溶融粒子の使用。
【請求項12】
冶金用耐火材料の製造のための、請求項11に記載の溶融粒子の使用。
【請求項13】
耐火材料の製造のための、請求項11又は12に記載の溶融粒子の使用であって、前記溶融粒子を含有している出発物質、又は前記溶融粒子からなる出発物質を焼結することにより、前記耐火材料を得る、溶融粒子の使用。
【請求項14】
耐火材料の製造のための、請求項11~13のいずれか一項に記載の溶融粒子の使用であって、前記溶融粒子を含有している出発物質、又は前記溶融粒子からなる出発物質を固結することにより、前記耐火材料を得る、溶融粒子の使用。
【請求項15】
冶金の分野における耐火材料又は耐火物品の製造のための、請求項11~14のいずれか一項に記載の溶融粒子の使用であって、前記耐火材料又は前記耐火物品を、ZrO の粉末及び前記溶融粒子の粉末を含有している出発物質を焼結又は固結することにより得、前記ZrO の粉末及び前記溶融粒子の粉末が合計で、前記出発物質の90重量%超に相当する、溶融粒子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニア及びスピネルで過半が構成されている、セラミック用途のための溶融粒子に関する。また、本発明は、かかる粒子の製造方法にも関し、更にはかかる粒子から形成されるか、又はかかる粒子を含有しているセラミック材料及び/又はセラミック物品にも関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、特に、これに限られないが、冶金の分野において用いられる耐火物品の製造のための、特に金属又は金属合金を製造するため又は変態させるための耐火成分の製造のための、溶融粒子の使用にも関する。また、溶融粒子は、金属成分のための被覆として、又はセラミック成分と金属とが接触する場合にも、用いることができる。
【0003】
したがって、本発明による溶融粒子は、耐火物品及び耐火材料、特に冶金において用いられるこれらのタイプの製造のために役立つ。
【0004】
一連の本明細書において、便法のため、セラミックの分野における通常の慣行に従い、元素Al、Mg及びZr(又はその他の元素)を含有している上記の酸化物は、対応する単純な酸化物、すなわちAl、MgO及びZrOに関して記載する。したがって、以下に続く記載においては、特に言及しない限り、本発明による粒子の全体の化学組成における異なる元素の割合は、これらが単純な酸化物での形態で上記の粒子中に必ずしも存在していないとしても、対応する単純な酸化物の重量を参照して与え、上記の粒子中に存在する混合酸化物に対する重量百分率として報告するものである。対照的に、本開示においては、上記の粒子における酸化物の実際に存在する組成を、「相」又は「酸化物相」と示す。
【0005】
一連の本明細書において、これに限定されないが、冶金において、すなわち金属又は金属合金の作製において、特に注出ノズルのための、又はスライドゲートにおけるインサートとしてのカラーの作製において用いられる耐火物品の特定の分野における、本発明による粒子の使用及び利点について、より詳細に記載している。しかしながら、かかる粒子は、それが与える利点により、セラミックの分野における多くの他の用途において、特に高い熱安定性及び腐食、特に1000℃超の温度での腐食に対する耐性が求められる随意の分野において、有利に用いられることが明らかに理解できる。
【0006】
特に、金属又はこれらの合金の処理のための炉の多くの領域で、高温に対する耐性を有する耐火物品の使用が必要とされている。
【0007】
例えば、スライドゲートは、スライディングノズルを通じてインゴット鋳型と流体連通して、取鍋の分配器又は排出オリフィスを、鋼の連続的な鋳込の間に開閉するために用いられる。
【0008】
注出ノズル及びスライドゲートは、ジルコニア、一般的には部分安定化ジルコニアからなる部品を現在では具備している。
【0009】
特許文献1は、例えば、12~87%のジルコニア、10~85%のマグネシウム-アルミニウムスピネル、及び3~15%のコランダム、ジルコン、ムライト、又はこれらの混合物から選択される追加の材料を、有機バインダーとともに含有している煉瓦から形成されたノズルを記載している。
【0010】
個々の煉瓦は、1400℃超の温度で、スピネルの初期混合物、94%超の純度を有する酸化ジルコニウム、及び既に記載した追加の材料を焼結することにより得られる。
【0011】
しかしながら、出願人会社で実施されている研究は、かかる物品が、その使用中に、温度耐性の初期性能を損ない、特に交換を必要とする亀裂を生じる可能性があることを示している。
【0012】
非常に具体的には、出願人会社で評価された調査研究によれば、この耐久性の低減は、耐火物を構成する材料の構造的変態、より具体的には、部分的に安定化されていても、この材料がさらされる連続的な温度サイクルの間に生じる、酸化ジルコニウムの結晶学的変態に直接的に関連しているようである。特に、出願人の国では、ジルコニアの立方晶又は正方晶形態の進行性の変態が、ジルコニアが部分的に安定化されていても、単斜形態へと進むことが出願人会社によって見出されている。
【0013】
公知の様式で、マルテンサイト型のかかる変態は、成分粒子の微小亀裂をもたらし、その結果、より低い温度に戻している間の材料の劣化をもたらす。
【0014】
したがって、作製後において、上記の耐火材料の熱安定性を向上させることを可能とする、かかる耐火材料の製造のための出発物質(特に粒子の形態の出発物質)に対する必要性が、特に冶金の分野において、未だ現在存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】中国特許出願公告第101786889号明細書
【文献】米国特許第3993119号明細書
【文献】国際公開第2012/045302号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、かかる必要性を満足すること、すなわち、その使用、特に金属の鋳込によりさらされる温度変化に対する向上した耐性、及び更にはより長い寿命を示す材料を、その作製の後で得ることを可能とする、粒子の形態の出発物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、溶融粒子、特に分離された形態又は粉末の形態の溶融粒子であって、
- 前記溶融粒子が、ジルコニア相又はスピネル相で本質的に構成されている内包物を被覆している、ジルコニア-スピネル共晶のマトリックスを含有しており、
- 前記溶融粒子が、酸化物の形態において示した重量百分率としての次の全体の化学組成を示しており:
45.0%超95.0%未満のZrO
3.0%超40.0%未満のAl
1.0%超20.0%未満のMgO、
ZrO、Al及びMgOが合計で、前記溶融粒子の重量の少なくとも95.0%に相当する、
溶融粒子に関する。
【0018】
本開示においては、特に明確に指定しない限り、すべての百分率は重量で示している。
【0019】
本発明による溶融粒子の、適切な場合に互いに当然に組み合わせることができる幾つかの好ましい実施態様によれば、
- 前記溶融粒子は、ジルコニア相及びスピネル構造のマグネシウム・アルミニウム酸化物で本質的に構成されている。
- 化学組成は、68重量%超のZrOを含有している。
- 前記化学組成は、25重量%未満のAlを含有している。
- Al/MgO重量比は、1.0~5.0であり、好ましくは1.5~3である。
- ZrO、Al及びMgOが合計で、前記溶融粒子の重量の98.0%超に相当する。
- 本発明による溶融粒子は、酸化物に基づいて、0.2重量%超のYを追加的に含有している。
- 本発明による溶融粒子は、酸化物に基づいて、4重量%未満のYを追加的に含有している。
- 本発明による溶融粒子は、酸化物に基づいて、0.2重量%超のCaOを追加的に含有している。
- 本発明による溶融粒子は、酸化物に基づいて、4重量%未満のCaOを追加的に含有している。
- 内包物の50%超は、500μm未満の長径を示す酸化ジルコニウムで本質的に構成されている。
- 本発明による溶融粒子は、5重量%未満、好ましくは3重量%未満の追加のアルミナ相を含有している。
- 本発明による溶融粒子は、5重量%未満、好ましくは3重量%未満の追加のマグネシア相を含有している。
- 1又は複数のスピネル相が、前記溶融粒子の5重量%~50重量%に相当する。
- ZrO-スピネル共晶が、前記溶融粒子の10体積%~80体積%、例えば前記溶融粒子の20~70体積%に相当する。
- 前記溶融粒子は、ジルコニア相で本質的に構成されている内包物を被覆している、ジルコニア-スピネル共晶のマトリックスを含有している。
- 溶融粒子の化学組成は、92%未満のZrO、より好ましくは90%未満のZrOを含有している。
- 溶融粒子の化学組成は、70%超のZrO、より好ましくは72%超のZrO、実際には75%超、実際には80%超のZrO、実際には85%超のZrOを含有している。
- 溶融粒子の化学組成は、20%未満のAl、実際には18%未満、実に15%未満、又は12%未満のAlを含有している。
- 溶融粒子の化学組成は、7%超のAl、実際には10%超のAlを含有している。
- 溶融粒子の化学組成は、13%未満のMgO、実際には12%未満のMgO、実際には10%未満のMgOを含有している。
- 溶融粒子の化学組成は、2%超のMgO、実際には4%超、実際には5%超、又は7%超のMgOを含有している。
- 本発明による溶融粒子の化学組成は、0.2%超、実際には0.5%超、実際には1.0%超のYを追加的に含有している。
- 本発明による溶融粒子の化学組成は、4.0%未満、実際には3.0%未満、実際には2.0%未満のYを追加的に含有している。
- 本発明による溶融粒子の化学組成は、0.2%超、実際には0.5%超、実際には1.0%超のCaOを追加的に含有している。
- 本発明による溶融粒子の化学組成は、4.0%未満、実際には3.0%未満、実際には2.0%未満のCaOを追加的に含有している。
- 本発明による溶融粒子の化学組成は、2.0%未満、実際には1.5%未満、実際には1.0%未満、実際には0.5%未満、実際には0.4%未満のシリカSiOを追加的に含有している。
- 溶融粒子は、ジルコニア相及びスピネル相を含有しており、これら2種の相が合計で、本発明による粒子の重量の80%超、好ましくは90%超、実際には95%超に相当する。
- 1又は複数のジルコニア相は、90重量%超のZrO当量を含有しており、実に95%超のZrO、又は98%超のZrOを含有している。「ジルコニア相」は、少なくとも内包物中に存在しているジルコニア及び共晶中に存在しているジルコニアの合計を意味するものと理解される。
- 内包物の1又は複数のジルコニア相は、1%超、実際には2%超、実際には3重量%超のMgOを追加的に含有している。
- 内包物の1又は複数のジルコニア相は、過半が、実際には大部分が、立方晶の形態である。「過半」は、50重量%超、実際には60重量%超を意味するものと理解される。「大部分」は、80重量%超、実際には90重量%超を意味するものと理解される。
- 1又は複数の前記ジルコニア相は、本発明による粒子の重量の68%超、実際には70%超、実際には80%超、実際には85%超、実際には90%超に相当する。上記のように、「ジルコニア相」は、少なくとも内包物中に存在しているジルコニア及び共晶中に存在しているジルコニアの合計を意味するものと理解される。
- 1又は複数の前記ジルコニア相は、本発明による粒子の重量の95%未満、実に92%未満、実際には90%未満に相当し、実際には本発明による粒子の重量の85%未満又は80%未満に相当する。
- 1又は複数のスピネル相は、本発明による粒子の重量の5%超、実際には7%超、実際には10%超、実際には15%超、実際には20%超に相当する。「スピネル相」は、少なくとも共晶中に存在しているスピネル、及び適切な場合に内包物中に存在しているスピネルの合計を意味するものと理解される。
- 1又は複数のスピネル相は、本発明による粒子の重量の50%未満、実際には45%未満、実際には40%未満に相当する。
- 追加のアルミナ相が存在しており、かつ本発明による粒子の重量の5%未満、実際には3%未満、実際には1%未満に相当する。
- 追加の酸化マグネシウム相が存在しており、かつ本発明による粒子の10%未満、実際には5%未満、実際には3%未満に相当する。
【0020】
本発明による溶融粒子において存在している異なる結晶相、特に(異なる形態の)ジルコニア、及びスピネルの上記の重量百分率は、X線回折及びリートベルト解析により、従来法で測定することができる。
【0021】
また、本発明は、次の段階、すなわち、
(a)出発物質を混合して、出発原料を作製すること、
(b)溶融液が得られるまで、出発原料を融解させること、
(c)上記の溶融液を冷却して、固形物が得られるまで溶融液を完全に凝固させるようにすること、
(d)上記の固形物を、特に摩砕によって分離して、粒子の混合物を得ること。
を含む、上記の溶融粒子の製造方法にも関する。
【0022】
本発明に従い、上記の段階(c)及び(d)は、必ずしもこの順で行う必要はない。段階(c)及び(d)の順番は、粒子を得るために用いた技術に特に依存する。例えば、特許文献2に記載されているように、例えばCS鋳型を用いて段階(c)をまず実施し、次いで段階(d)を実施する。この場合、溶融物の分離は、摩砕からなる。代替的には、段階(d)をまず実施し、次いで段階(c)を実施する。この場合、溶融物の分離は、鋳型法、例えば特許文献3に記載されている鋳型法等からなる。
【0023】
本発明に従い、出発物質は、最終的に得られる粒子が本発明に従うようにして、段階(a)において選択する。
【0024】
出発原料の組成で、本発明による粒子の組成に従う組成を示す粒子を得ることが可能となる限り、溶融粒子の製造のための随意の従来の方法を採用することができる。
【0025】
段階(b)においては、電気アーク炉を用いることが好ましいが、出発原料を完全に溶融させることを可能とする限り、例えば誘導電気炉又はプラズマ炉等の全ての公知の炉を想定することができる。点火は、好ましくは中立条件下、例えばアルゴン下、又は酸化条件下で、好ましくは大気圧で実施する。
【0026】
段階(c)においては、固形物が得られるまで、例えば1時間~数時間にわたって溶融液を好ましくはゆっくりと冷却する。
【0027】
段階(d)においては、その後の用途に適した粒径が得られるまで、従来技術に従って固形物を摩砕する。
【0028】
また、上記の出発原料は、不可避な不純物を含有していてよい。
【0029】
「不純物」は、出発物質とともに必然的に導入されるか、出発物質の成分との反応によりもたらされる不可避な成分を意味するものと理解される。不純物は、溶融粒子の製造の準備段階の間に特に導入され得る。不純物は、必須の成分ではないが、単に許容される成分である。2%未満、好ましくは1%未満の不純物の全含有量であれば、得られる結果を実質的に変化させないと考えられる。
【0030】
本発明は、本発明による溶融粒子を含有しているか、又は本発明による溶融粒子からなる出発物質の焼結又は固結により得ることができる、耐火物品、特に冶金の分野において用いられる耐火物品にも関する。
【0031】
特に、本発明は、本発明による溶融粒子を含有しているか、又は本発明による溶融粒子からなる出発物質の焼結又は固結により得られる耐火物品であって、溶融粒子が、特に煉瓦の形態で、合わせて焼結又は固結されて、上記の耐火材料を構成している、耐火物品に関する。
【0032】
特に、本発明による耐火材料又は耐火物品の使用は、したがって、より具体的には冶金の分野においてその用途が見出される。ここで、上記の耐火物品又は耐火材料が、上記の溶融粒子を含有しているか、上記の溶融粒子からなる出発物質を焼結又は固結することにより有利に得ることが可能である。
【0033】
本発明は、溶融粒子の上記の使用から得られる出発物質を焼結することにより得ることができる耐火物品、及び冶金の分野におけるその使用にも関する。
【0034】
本発明の代替的な実施態様において、本発明は、ジルコニアの粉末及び本発明による溶融粒子の粉末を含有している出発物質であって、前記ジルコニアの粉末及び前記溶融粒子の粉末が合計で、前記出発物質の90重量%超、実際には95重量%超に相当する、出発物質を焼結又は固結することにより得られる、耐火物品、及び特に冶金の分野におけるそれらの使用に関する。
【0035】
次に定義を示す。
【0036】
耐火材料は、規格ISO 836:2001(point 107)に従い、化学的及び物理的性質によって、高温環境において採用することが可能となっている、非金属材料又は非金属物品(しかしながら、一定比率の金属を含有している材料又は製品を除くものではない)を意味するものと理解される。例えば、かかる高温は、600℃超、特に800℃超、実際には1000℃超であってよい。
【0037】
「ジルコニア」は、酸化ジルコニウムZrOに一般に言及するものである;ジルコニアは、ジルコニアの全量の2%までの量であることが可能である不可避な不純物の形態で、少量の酸化ハフ二ウムHfOを一般に含有している。本発明による粒子の全体の化学組成においては、特に既に記載したように、「ZrO」の百分率は、特に酸化ジルコニウム及び不可避な不純物HfOを合計した量に特に対応する百分率である。
【0038】
対称的に、「ジルコニア相」又は「酸化ジルコニウム相」は、ジルコニアからなる相(不可避な不純物、特にHfOを含む)、又は、特にマグネシウム又はイットリウムによって、部分的に若しくは完全に安定化されたジルコニアからなる相を言及するものである。
【0039】
「スピネル」は、酸化マグネシウムとアルミナとの間の反応から生成する化合物に言及するものであり、MgAl形態としばしば称される。スピネルの結晶構造は、O2-イオンの立方晶型の積重体として記述することができ、この積重体では、8面体のサイトの半分が、Alカチオンで占められており、4面体のサイトの4分の1が、Mgカチオンで占められている。かかる結晶構造は、本発明の意味における「スピネル」化合物を維持しつつ、過剰のAl又はMgカチオンを固溶体中に受け入れることができる。
【0040】
換言すれば、本発明による溶融粒子におけるスピネル相は、従来のスピネル配合MgAl、すなわちAlのMgOに対するモル比1:1の化学量から実質的に逸脱していてよい。
【0041】
「ジルコニア-スピネル共晶」は、ZrO/MgAl擬三元状態図において、59mol%のジルコニア及び41mol%のスピネルMgAlの領域における組成を有する点に対応する、共晶点から得られる微細構造に言及するものである。ジルコニア-スピネル共晶の融点は、1830℃(液体から固体への反応が完全となる、相図の不変点)付近にある。
【0042】
かかる共晶の結晶構造は、図1及び2において示す2つの電子顕微鏡法による画像において視認できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1図1は、本発明による溶融粒子の微細構造の第一の電子顕微鏡法による画画像である。
図2図2は、より高倍率の図1と同じ溶融粒子の微細構造の第一の電子顕微鏡法による画像である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
非常に高い倍率では(図2)、上記の共晶組成で作られており、かつジルコニア相がスピネル相中で短いロッド又は繊維の形態で、非常に緻密に分散している、結晶構造を示しているマトリックスが観察される。かかる構造は、2つの結晶型から得られる共晶相の特徴である。
【0045】
「溶融粒子」は、少なくとも溶融段階、凝固段階、及び分離段階、特に摩砕、モールディング、又は任意の他の公知の同等な手段による分離段階を含む製造方法により得られる粒子を言及するものである。
【0046】
本発明による粉末は、本発明による粒子のアセンブリであり、この粉末の粒径は、特定の用途に適している。
【0047】
換言すれば、本発明による使用は、一般に、既に言及した粒子のアセンブリからなる粉末から出発して実施するものであり、この粉末の粒径は、上記の耐火材料の製造に適している。
【0048】
前駆体又は酸化物の混合物を「溶融する」とは、混合物のすべての成分が、溶融した(液体の)状態で発見されるのに十分に高い温度での熱処理を言及するものである。
【0049】
従来、セラミックの分野において、粒子のアセンブリを「焼結する」とは、規格ISO 836:2001(point 120)に示されている意味の範囲内で、粒子内又は粒子間で原子を運動させ、粒子の接触界面の結合及び成長を可能とする、熱処理を言及するものである。
【0050】
本発明によれば、溶融粒子の焼結温度は、通常は1100℃~1500℃、特に1300℃~1500℃である。
【0051】
別法として、固結(consolidation)は、より緩やかな温度での粒子の熱処理であり、強固な接着なしにセラミック成分を単純に成形するのに適した熱処理を意味するものと理解される。しかしながら、粒子の界面においては、既に言及した焼結処理とは対照的に、結合がバインダー、例えばフェノール樹脂により与えられる可能性がある。
【0052】
本発明によれば、溶融粒子の固結温度は、通常は500℃~1100℃、特に600℃~1000℃である。
【0053】
粒子の粒径は、20μmまではレーザー粒度測定の周知技術に従って測定し、次いで従来の篩分け技術により20μm超を測定する。
【0054】
以下に続く非限定的な例を見ることにより、本発明及びその利点がより良く理解できよう。例においては、すべての百分率は重量で示している。
【実施例
【0055】
比較例1は、酸化マグネシウムにより部分安定化させたジルコニアの粉末である。この例は、特に鋼の鋳込のための、冶金の分野における耐火部材の製造のために今日用いられている出発物質の特徴である。
【0056】
比較例2は、例1で用いた部分安定化ジルコニア粉末と、約72%のAl及び28%のMgOを含有しているスピネル粉末との、追加の熱処理を施していない混合物である。
【0057】
本発明による実施例3及び4を、必要な比率の次の出発物質から作製する。
- Alcanにより販売されている、98%超のAlを含有しているAlumina AR75、
- Altichem社により販売されている、98%超のMgOを含有しているMgO、
- 純度98%超であるジルコニア。
【0058】
実施例3及び4に従ってこのように得られた初期反応体の混合物を、電気アーク炉により、空気中で電気的に溶融させる。溶融混合物を、インゴットとして注ぐ。得られた冷却インゴットを、摩砕及び篩分けして、比較例1及び2において用いた粉末の粒径と近似した粒径を有する、溶融粒子の粉末を得る。
【0059】
その後に、例1~4によるサンプルを分析する。酸化物に基づいて、重量百分率で示した溶融粒子の全体の化学組成を、蛍光X線で測定した。結果を以下の表1にまとめる。
【0060】
【表1】
【0061】
例1~4に従う溶融粒子中に存在している相の定性を、X線回折によって決定する。結果を以下の表2にまとめる。
【0062】
【表2】
【0063】
温度に関する耐性は、例1~4のサンプルを、1400℃で1時間、すなわち特許文献1の段落0012に記載されている最小の焼結温度よりも低い温度で静置した前後に検出された相を比較することにより評価する。
【0064】
かかる条件もまた、冶金における耐火成分としてのその使用の間に、異なる粒子から生成した材料によりさらされる条件の典型であると思われる。
【0065】
既に示したように、上記の材料の温度に対する耐性は、昇温及び降温を含むサイクルの間における、立方晶又は正方晶形態から単斜形態へのジルコニア相の変態の程度に関連しており、この変態は、公知の方法において、材料の成分粒子の微細亀裂をもたらし、そしてその結果、既に言及したように、材料の巨視的性能の劣化をもたらす。
【0066】
より具体的には、それぞれの例について、単斜ジルコニアの含有率を、試験の前後にX線回折によって測定する。結果を以下の表3にまとめる。
【0067】
【表3】
【0068】
表3に与える結果は、本発明による溶融粒子が、比較例に対してより向上した安定性を示していることを明らかにしている。相の変化、特に立方晶又は正方晶ジルコニアから単斜ジルコニアへの変化を低減させることにより、関連する寸法変化が抑制され、その結果、この溶融粒子を含有しているか、又はこの溶融粒子からなる耐火物品に亀裂が生じる危険性が抑制される。
【0069】
例4に従って得た粒子の微細構造を、電子顕微鏡法によって観察した。
【0070】
粒子を構成している異なる相の組成は、波長分光分析(Castaing EPMAマイクロプローブ)によって得ることができる。この測定は、目視観察を確実にすること、並びに図1及び2の電子顕微鏡法による画像から観察された異なる相及び内包物の組成を特定することを可能にする。
【0071】
画像を図1及び2に示す。微細構造は、固体の状態における焼結により得られる、今日まで観察された微細構造とは非常に異なっており、顕微鏡により完全に観察可能な2つの非常に異なる領域を示している。
- 非常に薄い厚さの繊維又は短いロッドの形態の、ジルコニア相及びスピネル相の交互配列を示している、マトリックス(1)。この非常に緻密な微細構造は、2つの結晶型から得られた共晶相の特徴である。
- 共晶の上記のマトリックス中に被覆されている、ジルコニア相の閉塞物(2)。
【0072】
この説明を断定的なものと認めることができなくても、このように、見られたジルコニアの安定化は、既に言及した異なる酸化物で作られている全体の化学組成、及び特にジルコニア又はスピネルの、好ましくはジルコニアの閉塞物を包囲しているZrO-スピネル共晶相の存在のおかげで、得られたこの特定の微細構造に関連していよう。かかる微細構造のおかげで、非常に高い含有率のジルコニアを含有している材料を、非常に具体的には耐火材料の製造のため、用いることが可能となる。
本発明の実施態様の一部を以下の項目1~16に記載する。
〈項目1〉溶融粒子であって、
- 前記溶融粒子が、ジルコニア相又はスピネル相で本質的に構成されている内包物を被覆している、ジルコニア-スピネル共晶のマトリックスを含有しており、
- 前記溶融粒子が、酸化物の形態において示した重量百分率としての次の全体の化学組成を示しており:
45.0%超95.0%未満のZrO
3.0%超40.0%未満のAl
1.0%超20.0%未満のMgO、
ZrO 、Al 及びMgOが合計で、前記溶融粒子の重量の少なくとも95.0%に相当する、
溶融粒子。
〈項目2〉前記溶融粒子の化学組成が、68重量%超のZrO を含有している、項目1に記載の溶融粒子。
〈項目3〉前記溶融粒子の化学組成が、25重量%未満のAl を含有している、項目1又は2に記載の溶融粒子。
〈項目4〉Al /MgO重量比が1.0~5.0であり、好ましくは1.5~3である、項目1~3のいずれか一項に記載の溶融粒子。
〈項目5〉ZrO 、Al 及びMgOが合計で、前記溶融粒子の重量の98.0%超に相当する、項目1~4のいずれか一項に記載の溶融粒子。
〈項目6〉酸化物に基づいて、0.2重量%超4重量%未満のY を追加的に含有している、項目1~5のいずれか一項に記載の溶融粒子。
〈項目7〉酸化物に基づいて、0.2重量%超4重量%未満のCaOを追加的に含有している、項目1~6のいずれか一項に記載の溶融粒子。
〈項目8〉前記内包物の50%超が、500μm未満の長径を示す酸化ジルコニウムで本質的に構成されている、項目1~7のいずれか一項に記載の溶融粒子。
〈項目9〉前記スピネル相が、前記溶融粒子の5重量%~50重量%に相当する、項目1~8のいずれか一項に記載の溶融粒子。
〈項目10〉前記ZrO -スピネル共晶が、前記溶融粒子の10体積%~80体積%に相当する、項目1~9のいずれか一項に記載の溶融粒子。
〈項目11〉項目1~10のいずれか一項に記載の溶融粒子、又は項目1~10のいずれか一項に記載の溶融粒子を含有している出発物質の混合物を、焼結又は固結することにより得られる、耐火性セラミック材料又は物品。
〈項目12〉耐火材料の製造のための、項目1~10のいずれか一項に記載の溶融粒子の使用であって、
- 前記溶融粒子が、ジルコニア相又はスピネル相で本質的に構成されている内包物を被覆している、ジルコニア-スピネル共晶のマトリックスを含有しており、
- 前記溶融粒子が、酸化物の形態において示した重量百分率としての次の全体の化学組成を示しており:
45.0%超95.0%未満のZrO
3.0%超40.0%未満のAl
1.0%超20.0%未満のMgO、
ZrO 、Al 及びMgOが合計で、前記溶融粒子の重量の少なくとも95.0%に相当する、
溶融粒子の使用。
〈項目13〉冶金用耐火材料の製造のための、項目12に記載の溶融粒子の使用。
〈項目14〉耐火材料、特に冶金用耐火材料の製造のための、項目12又は13に記載の溶融粒子の使用であって、前記溶融粒子を含有している出発物質、又は前記溶融粒子からなる出発物質を焼結することにより、前記耐火材料を得る、溶融粒子の使用。
〈項目15〉耐火材料、特に冶金用耐火材料の製造のための、項目12~14のいずれか一項に記載の溶融粒子の使用であって、前記溶融粒子を含有している出発物質、又は前記溶融粒子からなる出発物質を固結することにより、前記耐火材料を得る、溶融粒子の使用。
〈項目16〉冶金の分野における耐火材料又は耐火物品の製造のための、項目12~15のいずれか一項に記載の溶融粒子の使用であって、前記耐火材料又は前記耐火物品を、ジルコニアの粉末及び前記溶融粒子の粉末を含有している出発物質を焼結又は固結することにより得、前記ジルコニアの粉末及び前記溶融粒子の粉末が合計で、前記出発物質の90重量%超に相当する、溶融粒子の使用。
図1
図2