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特許7053473mRNAの機能状態を変化させてその選択的かつ特異的な認識を可能にする方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】mRNAの機能状態を変化させてその選択的かつ特異的な認識を可能にする方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20220405BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20220405BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220405BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20220405BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/113 Z ZNA
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018539222
(86)(22)【出願日】2016-10-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 SK2016060002
(87)【国際公開番号】W WO2017065696
(87)【国際公開日】2017-04-20
【審査請求日】2019-07-25
(31)【優先権主張番号】PP50065-2015
(32)【優先日】2015-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SK
(73)【特許権者】
【識別番号】519094455
【氏名又は名称】ラツガ、フィリップ
(73)【特許権者】
【識別番号】519094466
【氏名又は名称】ネメトヴァ、ヴェロニカ
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラツガ、フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ネメトヴァ、ヴェロニカ
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-506724(JP,A)
【文献】特表平10-509595(JP,A)
【文献】特開2003-116559(JP,A)
【文献】特表平06-501610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸を構築物と接触させてヘテロ二本鎖を形成する方法であって、
標的核酸が、標的mRNAであり、
該構築物は、1つの連結部分を介して相互接続された2つの配列特異的一本鎖オリゴヌクレオチドを含み、
該配列特異的な一本鎖オリゴヌクレオチドの各々は、該標的核酸の標的配列に結合してヘテロ二本鎖を形成し、
該配列特異的一本鎖オリゴヌクレオチドが、10乃至25ヌクレオチドを含み、
該構築物は該標的核酸に特異的に結合し、
該連結部分は、該配列特異的一本鎖オリゴヌクレオチドが該標的核酸の標的配列に結合してヘテロ二本鎖を形成することを可能にする長さを含み、そして
該連結部分は、以下から選択される
a)無塩基の糖リン酸骨格、無塩基の化学的に修飾された糖リン酸骨格、またはそれらの組み合わせ;
b)ポリペプチド;
c)多糖;
d)炭素原子数2乃至40の飽和または不飽和炭化水素;
e)ポリ(メタ)アクリレート、変性ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(オキサゾリン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(アルキレンオキシド)、ラクトンベースのポリマー、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ラクチド酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(プロピレン)、ポリ(スチレン)、ポリ(オレフィン)、ポリ(アミド)、ポリ(シアノアクリレート)、ポリ(イミド)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ポリ(ウレタン)またはそれらの組み合わせを含む非ヌクレオチドポリマー;または
f)a)乃至e)のいずれか1つの組み合わせ、
を含む、方法。
【請求項2】
前記標的mRNAが融合mRNAである、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記標的配列が、融合切断点部位から100ヌクレオチド以下に局在化する、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記構築物が、連結部分を介して相互接続される少なくとも3つの配列特異的一本鎖オリゴヌクレオチドを含み、そして該配列特異的一本鎖オリゴヌクレオチドのそれぞれが該標的核酸の標的配列に結合する、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記連結部分の長さが、5乃至1000オングストロームの間の範囲である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記連結部分が、一つの配列特異的一本鎖オリゴヌクレオチドの5’末端および別の配列特異的一本鎖オリゴヌクレオチドの3’末端に結合している、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記連結部分がポリマー連結部分である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記変性ポリ(メタ)アクリレートが、ポリ(エチレンオキシ)、2(N,N-ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、またはそれらの組み合わせを含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記それぞれの配列特異的一本鎖オリゴヌクレオチドの長さが、少なくとも3ヌクレオチドであり、且つ、該配列特異的一本鎖オリゴヌクレオチドがDNA、RNA、ヌクレオチド誘導体、ヌクレオチド類似体、又は二種又はそれ以上のDNA、RNA、ヌクレオチド誘導体、もしくはヌクレオチド類似体の組み合わせを含む、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記DNA、RNA、ヌクレオチド誘導体、ヌクレオチド類似体、又は二種又はそれ以上のDNA、RNA、ヌクレオチド誘導体、もしくはヌクレオチド類似体の組み合わせが、特異的な化学修飾を有するオリゴヌクレオチドのブロックとして、または異なる修飾ヌクレオチドからなる個々のオリゴヌクレオチドとして、相互に組み合わされる、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記配列特異的一本鎖オリゴヌクレオチドが、DNA、RNA、2’-O-(2-メトキシエチル)-RNA、2’-O-メチル-RNA、2’-フルオロ-RNA、LNA、PNA、モルホリノ、INA、FANA、ANA、UNA、HNA、またはそれらの組み合わせを含む、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意の核酸の機能状態を変化させて、その特異的かつ選択的な認識およびその後の選択的操作を可能にすることに関する。本解決策は、バイオテクノロジー、分子生物学、ウイルス学、医学などの分野で完全に普遍的であり、利用可能である。本発明は、最も好ましくは、腫瘍学の分野に直接的に適用可能であり広い治療可能性を有するが、この特定の領域に限定されない。
【背景技術】
【0002】
現在の技術水準の観点では、本発明に記載の解決策は、他の化学的に類似した構築物と異なり、まったく反対の異なる目的で設計される。
【0003】
国際公開第2011/117353号(Moeller、Udesen、2011)に記載の二価系は、連結された複数のオリゴヌクレオチドと2つの別個の標的核酸とを同時に相互作用させて、それらの結合部位を飽和させ、それらの生物学的機能を調節するための多機能構築物を提示する。各オリゴヌクレオチドは異なる標的核酸分子を認識するため、構築物自体は原則として(個々の標的核酸分子に関して)標準アンチセンスオリゴヌクレオチドと同じ方法で機能し、決して標的核酸分子の認識の選択性を増加させない。
【0004】
同様に、国際公開第2011/031520号(Agrawalら、2011)に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチドのコンジュゲートは、2つの(同一または異なる)核酸分子を認識するように設計されており、国際公開第2011/117353号(Moeller、Udesen、2011)と同様に、標的核酸分子を個々に(すなわち、単一のアンチセンスオリゴヌクレオチドを介して)認識する。したがって、上記文献は標的核酸分子の選択的認識の問題を取り扱うものではない。
【0005】
国際公開第2009/023819号(Kandimallaら、2009)、国際公開第2005/111238号(Epsteinら、2005)、国際公開第2005/078096号(Zamoreら、2005)、国際公開第2004/064782号(Agrawalら、2004)に記載の他の化学的に類似した構築物は、それぞれ、それらの細胞取り込み、miRNA動員および免疫刺激目的を強化するために、免疫調節のために設計された。しかし、いずれも標的核酸分子の選択的認識の問題を解決するものではない。
【0006】
いずれの場合も、記載された構築物は、相互作用する分子の一種の「優れた」多価形態のみを表し、さらに、本解決策とは無関係のまったく反対の異なる問題を解決するように設計されている。したがって、基本的な相違点は、既存の構築物はアンチセンスオリゴヌクレオチドの無差別性を解決しないが、本発明はこの問題に対する解決策を提供するという事実にある。
【0007】
この分野での現在の科学的知見は腫瘍学的疾患の治療に向けられているが、腫瘍細胞に独特な特徴を有する融合遺伝子(fusion genes)は多くの腫瘍疾患(白血病、リンパ腫、肉腫など)の原因であり、抗癌療法の有望な標的と確実に考えられることに留意することが重要である。融合核酸の独自の配列は、健常細胞に対する治療介入を伴わず、腫瘍細胞の特異的かつ選択的な標的化を可能にする。したがって、治療剤の核酸への干渉に基づく抗癌療法は、原因となる融合核酸に対して向けられ、それによって腫瘍細胞に対してのみ治療効果を達成することができる。アンチセンス戦略という観点から、それは、融合mRNAとの干渉を介した融合遺伝子の標的サイレンシングと、それによって原因となる融合タンパク質の合成を妨げることとを意味する。
【0008】
これらのアンチセンス戦略の(mRNAの標的配列に対する治療剤の結合特異性、標的mRNAへのそれらの結合親和性および標的mRNAとの結合エネルギーの点での)不十分な特異性という問題は、主に、リボースおよび/またはホスホジエステル骨格の化学修飾などによる治療剤の化学修飾によって解決されている(Pirollo、Raitら、2003;Stahel、Zangmeister-Wittke、2003;Jansen、Zangemeister-Wittke、2002)。これにもかかわらず、修飾治療剤は十分に特異的かつ選択的ではなく、治療標的外遺伝子のサイレンシングを引き起こすため、最終的な解決策はいまだ特定されていない(Burnett、Rossi、2012)。結果として、これが非標的タンパク質の発現に影響を与え、重篤な臨床的副作用をもたらし、患者のQOLに悪影響を及ぼす。
【0009】
標的mRNA認識の原理に関して、標的mRNAの特異的領域に結合する単一の治療用配列特異的オリゴヌクレオチドの適用は、アンチセンス戦略の一般的に使用される標準である。融合mRNAの場合、この特異的領域は、最も一般的には、2つの個々の融合パートナーの直接融合の部位である(Diakosら、2007;Rangatia、Bonnet、2006;Rapozziら、2006;Scherrら、2005;Scherrら、2003;Tanakaら、1997)。しかし、公開されたデータは、アンチセンス治療剤の物理化学的特性の有意な改善にもかかわらず、単一の干渉オリゴヌクレオチドの適用が、想定外のmRNA分子へのアンチセンスオリゴヌクレオチドの非特異的結合の問題に対して必要とされる進展をこれまでに解決していないという事実を明白に示している(Summertonら、2007)。
【0010】
このため、現在の技術水準は、依然として、一次標的のみに対する治療効果の特異性および選択性という基本的な課題に直面している。したがって、抗癌戦略の実際の進歩とは、本質的に新たな治療剤の開発にあるのではなく、選択的治療作用を可能にする系の開発にある。
【0011】
核酸への干渉に基づく任意の治療戦略の普遍的な解決策を表す本発明によって、抗癌戦略の不十分な特異性および選択性の限界が解決される。本発明を抗癌アンチセンス戦略に直接的に導入して、原因となる融合遺伝子への標的化された干渉を介した選択的作用の原理とともに標的核酸の特異的かつ選択的な認識の原理が記載および説明される。
【0012】
言及された特許および刊行物ではいずれも、用語「特異性」は、オリゴヌクレオチドと核酸の標的配列との相補的塩基対形成を厳密に指し、すなわち特異性=相補性である。一方、本発明では、用語「特異性」は、相補的認識および唯一の規定された標的核酸への結合を指し、すなわち特異性=標的核酸の選択的認識である。
【0013】
したがって、本発明は、核酸の制御された介入のために設計された既存のアンチセンス系とは明らかに異なる。換言すれば、本発明は、主に革新的な解決策を表す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際公開第2011/117353号
【文献】国際公開第2011/031520号
【文献】国際公開第2009/023819号
【文献】国際公開第2005/111238号
【文献】国際公開第2005/078096号
【文献】国際公開第2004/064782号
【発明の概要】
【0015】
標的核酸、例えば標的mRNAに対する配列相同性に起因する不十分な特異性は、標的mRNAの機能状態を変化させて、その選択的かつ特異的な認識ならびにその後の選択的介入、操作、検出、定量、標識、事前標的化および選別を可能にすることによってに効果的に対処されるが、mRNAは、その長さがそれらの相互距離を規定するサイズ特異的ポリマー部分によって相互接続された少なくとも2つの配列特異的オリゴヌクレオチドを含む構築物によって標的化され、各配列特異的オリゴヌクレオチドは、mRNAの予め規定された標的配列を標的として安定なヘテロ二本鎖を生じ、この変化によって、このmRNAが選択的かつ特異的に認識される。核酸の特異的かつ選択的な認識は、その後、核酸によってコードされた遺伝情報の伝達が中断された際の選択的治療介入のため、または診断および研究目的に使用され得る。
【0016】
この変化によって、核酸の規定された配列が特異的に認識されるが、これらの配列は互いに正確に規定された距離になければならない。互いに規定された距離で規定された配列(複数)を同時に認識する場合、標的配列の特定の空間分布のために設計された干渉系は、標的核酸との熱力学的に好ましく、エネルギー的に安定な結合を形成する。この認識の原理は、非特異的相互作用および想定外の核酸への安定な結合の可能性を最小限に抑え、したがって、一次標的以外の核酸との望ましくない干渉が劇的に減少する。
【0017】
記載された核酸認識の原理は、単一の特定の選択され規定された核酸との干渉の特異性および選択性を劇的に増加させる。記載された原理は、完全に普遍的であり、2つの配列特異的オリゴヌクレオチドの相互接続のみに限定されず、すなわち、対応する数の非干渉性ポリマー連結部分(n≧1)による任意の数のオリゴヌクレオチド(n≧2)の意図的な相互接続を可能にし、これらはいずれも最終的な出願意図と関連している。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、標的mRNAが融合mRNAである場合、特定された配列のそれぞれがそれぞれの融合パートナー上に位置し、干渉系は、融合核酸に対してのみ標的化され、腫瘍細胞のみに対する選択的治療作用を直接的に保証する。さらに、アンチセンス系は、標的mRNAを含むあらゆる細胞に対して効果を発揮することができるため、本発明は、その実施により腫瘍幹細胞の選択的治療標的化を可能にするため、治癒療法の見込みをもたらす。言い換えると、記載された技術革新は、腫瘍学的障害の完全かつ永久的な治癒の希望をもたらす。
【0019】
融合遺伝子の介入に向けられた抗癌アンチセンス戦略という観点から、この原理は、さらに互いに正確に規定された距離にある個々の融合パートナーの相補的配列の両方が認識された場合にのみ、標的融合mRNAのみとの安定な干渉を可能にする。この手段により、干渉の特異性および選択性が有意に増加しながら、特に相同な配列との非特異的な安定な相互作用の可能性は排除される。相補的配列の両方の同時認識がない場合、すなわち、想定外のmRNAとの望ましくない相互作用の場合、非標的mRNAとのそのような系の部分的相互作用はエネルギー的に不安定であり、自発的な切断がもたらされる(Dias、Stein、2002)。
【0020】
医学に対する本発明の適用は、原因となる融合遺伝子の選択的介入という第一の目的を有する抗癌療法のために設計されたアンチセンス系によって実証される。融合遺伝子の存在を特徴とする腫瘍学的疾患という観点から、それは、完全に革命的な方法によって障害細胞のみを選択的に標的化して、一次標的に対する治療介入を最大にすることを意味する。腫瘍学の分野では、本発明は、腫瘍細胞のみに介入する(すなわち、健康な細胞に介入することのない)革命的ツールを表す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
任意のmRNAの機能状態を変化させてその選択的かつ特異的な認識ならびにこのmRNAのその後の選択的介入、操作、検出、定量、標識、事前標的化および選別を可能にする方法である本発明の解決策は、特定の核酸の標的化の特異性および選択性を増加させるために提案されており、特定の適用分野(例えば、原因となる融合遺伝子の制御された阻害、核酸の存在の検出および定量、核酸の標識、核酸の事前標的化および選別)と合わせて、発明の主題を明確に定義する本発明の不可欠かつ分離不可能な部分を形成する。したがって、本発明の主題は、その2つ(またはそれ以上)の特定された(さらに互いに事前に規定された特定の距離になければならない)配列の同時認識による任意の特定の核酸の特異的かつ選択的な標的化を含む。
【0022】
革新性の観点から、本発明は、標的核酸認識の選択性および特異性を増加させて、その選択的介入、操作、検出、定量、標識、事前標的化および選別を可能にする革新的なツールを提供する。
【0023】
記載された方法での特定の核酸(好ましくはmRNA)の選択的認識は、その機能状態が変化してコードされた遺伝情報の伝達を妨げた際に、その天然の生物学的機能の選択的治療介入のために続いて利用され得る。このようにして、核酸からタンパク質への遺伝情報の伝達機構が中断され、融合mRNAの場合には、原因となる融合腫瘍性タンパク質の発現の直接抑制を可能にする。
【0024】
同様に、記載された方法で特定の核酸(好ましくはmRNA)を選択的に認識して、その機能状態の変化をもたらし、続いて、様々な診断または研究目的に使用することができる。
・配列特異的オリゴヌクレオチドの一次構造に、FITC、RITC、同位体P32などの検出可能な部分を意図的に組み込むことによって、認識された核酸(好ましくはmRNA)の直接検出、可視化、局在化および定量を行う。標識された配列特異的オリゴヌクレオチドの使用は、in situ、in vitro、in vivoおよびex vivoで分析された試料中の認識されたmRNAの定量を可能にする。
・処理された試料中に存在する他の核酸から、認識されたmRNAを精製および選別する。
・配列特異的オリゴヌクレオチドの一次構造に光不安定官能基(photo-labile functional group)を意図的に組み込んで、認識されたmRNAの機能状態の可逆的変化を可能にすることによって、特定の遺伝子の機能解析を行う。
【0025】
用語および定義
アンチセンス系。標的mRNAの制御された抑制のために現在使用されているアンチセンス系とは異なり(Guoら、2013;Burnett、Rossi、2012;Vaishnawら、2010;Missalidis、2008;Wangら、2003;Clark、2000)、本発明は、一次標的認識の不十分な特異性および選択性(すなわち、アンチセンスオリゴヌクレオチドの無差別性)というそれらの最も重要な欠点を排除する。アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さと密接に関連している標準的なアンチセンス系の無差別性は、互いに正確に規定された距離をおいて局在化された標的配列を相補的に認識する2つ(またはそれ以上)のアンチセンスオリゴヌクレオチドの同時干渉によって効果的に解決される。抗癌療法の分野では、特に原因となる融合遺伝子の制御された抑制のために、本発明は、標的mRNA認識のその設計および機構を介して、試験的な(これまでに適用されていない)アンチセンス系を表す。
【0026】
構築物。記載された構築物は、サイズ特異的ポリマー連結部分を介して互いに相互接続された2つ(またはそれ以上)の配列特異的オリゴヌクレオチドを含む。
【0027】
配列特異的オリゴヌクレオチド。オリゴヌクレオチドは、標的核酸(好ましくはmRNA)または核酸誘導体に相補的な配列を表す。標的核酸は、好ましくはヒト起源である。
【0028】
オリゴヌクレオチドは、任意のヌクレオチド、場合により、化学的誘導体/類似体、例えば、DNA、RNA、2’-O-(2-メトキシエチル)-RNA、2’-O-メチル-RNA、2’-フルオロ-RNA、LNA、PNA、モルホリノ、INA、FANA、ANA、UNA、HNAなどによって形成されてもよく、本発明の範囲内では、それらは、特異的な化学修飾を有するオリゴヌクレオチドのブロックとして、または異なる修飾ヌ
クレオチドを含む個々のオリゴヌクレオチドとして相互に組み合わされ得る。核酸塩基および糖リン酸骨格の両方を化学的に修飾してもよい。
【化1】
【0029】
RNA誘導体の例
A:糖部分の修飾、B:リン酸結合の修飾、C:糖リン酸骨格の修飾。
【0030】
本発明では、第1のオリゴヌクレオチド、第2のオリゴヌクレオチド、場合により他のオリゴヌクレオチドは、標的核酸(好ましくはmRNA)の相補的配列と塩基対合することができる少なくとも3つのヌクレオチドの連続した配列を含み、ここで、
・ヌクレオチドは、A、I、U、T、C、Gまたはそれらの誘導体であってよく、
・オリゴヌクレオチドは、ヌクレオチドまたはそれらの誘導体の任意の相互の組合せを含んでもよい。
【0031】
オリゴヌクレオチドの他の好ましい配列は、少なくとも4ヌクレオチド、少なくとも5ヌクレオチド、少なくとも6ヌクレオチド、少なくとも7ヌクレオチド、少なくとも8ヌクレオチド、少なくとも9ヌクレオチド、少なくとも10ヌクレオチド、少なくとも11ヌクレオチド、少なくとも12ヌクレオチド、少なくとも13ヌクレオチド、少なくとも14ヌクレオチド、少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも16ヌクレオチド、少なくとも17ヌクレオチド、少なくとも18ヌクレオチド、少なくとも19ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも21ヌクレオチド、少なくとも22ヌクレオチド、少なくとも23ヌクレオチド、少なくとも24ヌクレオチド、少なくとも25ヌクレオチド、少なくとも26ヌクレオチド、少なくとも27ヌクレオチド、少なくとも28ヌクレオチド、少なくとも29ヌクレオチド、少なくとも30ヌクレオチド、30ヌクレオチド以下、29ヌクレオチド以下、28ヌクレオチド以下、27ヌクレオチド以下、26ヌクレオチド以下、25ヌクレオチド以下、24ヌクレオチド以下、23ヌクレオチド以下、22ヌクレオチド以下、21ヌクレオチド以下、20ヌクレオチド以下、19ヌクレオチド以下、18ヌクレオチド以下、17ヌクレオチド以下、16ヌクレオチド以下、15ヌクレオチド以下、14ヌクレオチド以下、13ヌクレオチド以下、12ヌクレオチド以下、11ヌクレオチド以下、10ヌクレオチド以下、9ヌクレオチド以下、8ヌクレオチド以下、7ヌクレオチド以下、6ヌクレオチド以下、5ヌクレオチド以下、4ヌクレオチド以下、3ヌクレオチド以下の長さである。
【0032】
オリゴヌクレオチドの好ましい長さ(個々に)は10~25ヌクレオチドである。
【0033】
1つの構築物内のオリゴヌクレオチドの各々が、任意であるが単一の規定された標的核酸(好ましくはmRNA)の異なる相補的配列を認識する。
【0034】
1つの本構築物内のオリゴヌクレオチドの長さは、特定の用途に関して変化してもよい。オリゴヌクレオチドの長さを延長することによって、標的核酸とのさらに強力な相互作用を達成してもよい。一方、オリゴヌクレオチドの延長は、それらの生物学的利用能および細胞内在化を損なう可能性がある。しかし、本発明は2つ(またはそれ以上)のオリゴヌクレオチドを組み合わせて(標的核酸への共同した同時の結合)含むため、好ましくは17未満のヌクレオチドからなる比較的短いオリゴヌクレオチドを使用することが可能である。
【0035】
サイズ特異的ポリマー連結部分。配列特異的オリゴヌクレオチドは、サイズ特異的ポリマー連結部分を介して共有結合によって相互接続され、連続して相互接続されたあらゆるオリゴヌクレオチドの5’から3’の向きを維持する。ポリマー連結部分は、第1のオリゴヌクレオチドの5’末端および第2のオリゴヌクレオチドの3’末端に結合しており、オリゴヌクレオチドは前記ポリマー連結部分によって連結されている。
【0036】
ポリマー連結部分は、任意の配列および数のヌクレオチド(またはヌクレオチド誘導体/類似体)、好ましくは(それらの任意の組合せの)3~50ヌクレオチドからなってもよい。ポリマー連結部分は、脱塩基単位からなっていてもよく、その場合、連結部分は、高分子糖リン酸または化学修飾された骨格である。
【0037】
ポリマー連結部分は、オリゴヌクレオチドの核酸塩基または糖リン酸骨格に共有結合していてもよい。
【0038】
ポリマー連結部分は、例えば、ポリペプチド、多糖、飽和または不飽和炭化水素(C2-C40)、好ましくは水溶性天然または合成ポリマーであってよい。
【0039】
好ましい実施形態では、ポリマー連結部分は、非ヌクレオチドポリマー、例えば、ポリ(メタ)アクリレートまたは変性ポリ(メタ)アクリレート(好ましくはポリ(エチレンオキシ)および2(N,N-ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(オキサゾリン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(アルキレンオキシド)、ラクトン系ポリマー、ポリ(アクリル酸)、ポリ(ラクチド酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(プロピレン)、ポリ(スチレン)、ポリ(オレフィン)、ポリ(アミド)、ポリ(シアノアクリレート)、ポリ(イミド)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ポリ(ウレタン)、ならびにこれらの相互の組合せまたは他の天然または合成ポリマーの組合せ(Kadajji、Betageri、2011)を含む。
【0040】
ポリマー連結部分の長さは、構築物の特定の用途に従って調節してもよい。ポリマー連結部分の長さは、標的核酸、好ましくはmRNAの標的配列間の相互距離に応じて好ましくは調節される。相補的配列が互いに20ヌクレオチドまで離れている場合、サイズ特異的ポリマー連結部分の最終的な長さは、直鎖の完全に伸長した核酸内のヌクレオチド間の距離に基づいて10~100オングストロームであり得る。ポリマー連結部分の長さは限定されず、最終用途に従って自由に調節することができる。ポリマー連結部分は、1000オングストローム以下の長さ、900、800、700、600、500、400、300、200または100オングストローム以下の長さであることが一般に好ましい。また、ポリマー連結部分は、少なくとも5オングストロームの長さ、例えば、10、15、20、25、30、35、40または45オングストロームの長さであることが好ましい。
【0041】
サイズ特異的ポリマー連結部分の好ましい範囲は、5~1000オングストローム、10~800オングストローム、20~500オングストローム、20~200オングストローム、10~1000オングストロームおよび20~80オングストロームである。
【0042】
合成
配列特異的オリゴヌクレオチド。配列特異的オリゴヌクレオチドの化学合成は、ホスホロアミダイト法を用いた固体支持体を用いて、すなわち保護された2’-デオキシヌクレオシド(dA、dC、dG、dT)、リボヌクレオシド(A、C、G、U)または他の化学的に修飾されたヌクレオシド由来の個々のモノマーの連続オリゴマー化を介して行われるが、それらの特定の選択および配列の順序は最終用途に応じて決まる。合成サイクルは、標的核酸(好ましくはmRNA)に相補的な配列に対応する順序で、個々のヌクレオシドの成長オリゴマーへの段階的コンジュゲーションを含む。完了すると、配列特異的オリゴヌクレオチドが固体支持体から溶液に放出され、ポリマー連結部分とのコンジュゲーションのために調製される。
【0043】
RNA、DNAオリゴヌクレオチドの合成。
合成サイクル。サイズ特異的オリゴヌクレオチドの合成は、所望の配列が得られるまで、合成サイクルあたり1個のヌクレオチドが成長オリゴマーに加えられると、3’から5’方向に段階的に進行する(Greco、Tor、2007)。
【化2】
【0044】
工程1:脱トリチル化(保護基の除去)
不活性溶媒(ジクロロメタンまたはトルエン)中、酸、例えば2%トリクロロ酢酸または3%ジクロロ酢酸の溶液によって、ジメトキシトリチル(DMT)保護基を除去する。
【0045】
工程2および3:活性化およびカップリング(オリゴヌクレオシドのコンジュゲーション)
酸性アゾール触媒、すなわち1H-テトラゾール、2-エチルチオテトラゾール、2-ベンジルチオテトラゾール、4,5-ジシアノイミダゾールまたは他の類似した化合物の0.2~0.7M溶液によって、アセトニトリル中のヌクレオシドホスホルアミダイトの0.02~0.2M溶液を活性化させる(Wei、2013)。次いで、支持体結合オリゴヌクレオチドに対して1.5~2.0倍過剰の活性化ホスホルアミダイトと、出発固体支持体(第1のカップリング)または支持体結合オリゴヌクレオチド前駆体(カップリング後)とを反応させる。5’-ヒドロキシ基は、入ってくるヌクレオシドホスホルアミダイトの活性化ホスホルアミダイト部分と反応して亜リン酸トリエステル結合を形成する。カップリング反応の完了時に、未結合の試薬および副生成物を洗浄によって除去する。
【0046】
工程4:酸化
続いて、弱塩基(ピリジン、ルチジンまたはコリジン)の存在下でヨウ素および水を用いて、新たに形成された三配位亜リン酸トリエステル結合を四配位リン酸トリエステルに酸化させる。酸化は、tert-ブチルヒドロペルオキシド(Alulら、1991)を用いて、または最終的に(1S)-(+)-(10-カンファースルホニル)-オキサジリジン(Manoharanら、2000)を用いて、無水条件下で行ってもよい。
【0047】
工程5:キャッピング
無水酢酸と1-メチルイミダゾールとの混合物を用いて、固体支持体結合材料を処理する。
【0048】
カップリングおよび酸化反応の終了後、少量の固体支持体結合5’-OH基(0.1~1%)は未反応のままであり、(n-1)ショートマーと一般的に呼ばれる内部塩基欠失を有するオリゴヌクレオチドの形成を防ぐために、例えばアセチル化によって永久的にブロックする必要がある。
【0049】
工程6:切断
固体支持体からのオリゴヌクレオチドの切断と、脱保護とは、濃水酸化アンモニウムを用いて行う。
【0050】
ホスホロチオエート骨格を有するRNA、DNAオリゴヌクレオチドの合成
一般的なRNAおよびDNAオリゴヌクレオチドと同様に、ホスホジエステル骨格中の酸素原子の1つが硫黄原子に置換されている修飾オリゴヌクレオチドを合成する(詳細については、合成サイクルの項を参照のこと)。相違点は、酸化工程を硫化に置き換えることにある。
【0051】
LNAオリゴヌクレオチドの合成
Obikaら(1997)およびKoshkinら(1998)に従って、リボースが2’-Oおよび4’-C原子間の共有結合架橋によって修飾されている修飾オリゴヌクレオチドを合成する。
【0052】
PNAオリゴヌクレオチドの合成
Nielsenら(1991)に従って、ペプチド様結合を介して相互に連結されたN-(2-アミノエチル)-グリシン単位を繰り返すことによって糖リン酸骨格が形成されている修飾オリゴヌクレオチドを合成する。
【0053】
モルホリノオリゴヌクレオチドの合成
SummertonおよびWeller(1991、1993b、1997)に従って、核酸塩基がモルホリン環に連結され、ホスホロジアミデート結合を介して相互接続されている修飾オリゴヌクレオチドを合成する。
【0054】
GNAオリゴヌクレオチドの合成
Uedaら(1971)およびCookら(1995、1999)に従って、ホスホジエステル結合を介して相互接続されたグリコール部分を繰り返すことによって糖リン酸骨格が構成されている修飾オリゴヌクレオチドを合成する。
【0055】
TNAオリゴヌクレオチドの合成
ChaputおよびSzostak(2003)に従って、糖リン酸骨格がリボースの代わりにトレオースによって構成されている修飾オリゴヌクレオチドを合成する。
【0056】
サイズ特異的ポリマー連結部分。サイズ特異的ポリマー連結部分の化学合成は、有機化学およびポリマー化学の一般的な方法を用いて行われ、これにより、最終分子量、したがってポリマー鎖の最終的な長さ、例えば原子移動ラジカル重合(Matyjaszewski、Xia、2001)を制御することができる。サイズ特異的ポリマー連結部分は、最終的な5’→3’配向構築物への両配列特異的オリゴヌクレオチドのその後の結合を可能にするために、二官能性部分(すなわち、その両端で機能的に修飾されている)であってよい。
【0057】
二官能性サイズ特異的ポリマー連結部分は、ポリエチレングリコール(PEG)などの非ヌクレオチドポリマーによって好ましくは形成されるが、得られた構築物はこの特定のタイプのポリマー部分に限定されない(可能な構造変異の詳細な説明については、発明を実施するための形態の項を参照のこと)。ヌクレオチドのPEG化およびPEG化ヌクレオチドの調製方法は、以前にJaschkeら(1994)およびFischerら(2008)によって記載されている。
【0058】
あるいは、サイズ特異的ポリマー連結部分を直接合成しない場合には、市販のポリマー部分、例えば、17-O-DMT-ヘキサエチレンオキシド-1-O-ホスホルアミダイト、8-DMT-O-トリエチレンオキシド-1-O-ホスホルアミダイト、6-DMT-ヘキサンジオール-1-O-DMT-ホスホルアミダイトまたは1,3-プロパンジオール、ホスホルアミダイトなどを使用することが可能である。
【0059】
構築物。最終構築物の合成は、サイズ特異的ポリマー連結部分と第1の配列特異的オリゴヌクレオチドとの連続的なコンジュゲーションに続いて、例えば「クリック」化学を介して、得られた前駆体を第2の配列特異的オリゴヌクレオチドに結合させる(Presolskiら、2011;Besanceney-weblerら、2011;Bowman、Hoyle、2010)ことによって行われる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】サイズ特異的ポリマー連結部分によって相互接続された2つの配列特異的オリゴヌクレオチドを介した干渉系と核酸の標的配列との高度に特異的な相互作用の一般原理を示す。提案された原理は、対応する数の非干渉性サイズ特異的ポリマー連結部分(n≧1)を介して、任意の数の配列特異的オリゴヌクレオチド(n≧2)の意図的な相互接続を可能にするように、普遍的かつ調節可能である。
図2】サイズ特異的ポリマー連結部分によって相互接続された2つの配列特異的オリゴヌクレオチドを介した干渉系と融合mRNAの標的配列との高度に特異的な相互作用を示す。配列特異的オリゴヌクレオチドの各々は、融合パートナーの対応する配列に結合する。
【実施例
【0061】
本発明に記載の解決法は、任意の標的核酸、好ましくは融合mRNAの選択的かつ特異的な認識に普遍的に適用可能であると考えることができる。アンチセンス系という観点から、標的核酸が融合mRNAである場合(その存在は、健常な細胞からの腫瘍細胞の特性を明確に示し、腫瘍細胞と健常な細胞とを区別する)、本発明は、腫瘍細胞のみの選択的認識および標的化を可能にする。標的核酸、好ましくは融合mRNAのみの認識の選択性および特異性が向上した形態の革新は、標的融合遺伝子の制御された介入を可能にする。
【0062】
実施例1.慢性骨髄性白血病もしくはPh+急性リンパ芽球性白血病またはBCR-ABL融合mRNAが存在する他の腫瘍に対して本発明を用いたBCR-ABL融合mRNAの選択的かつ特異的な認識。
【0063】
第1の配列特異的オリゴヌクレオチドがBCRの配列を標的とし、第2のオリゴヌクレオチドがABLの配列を標的とする場合、提案された構築物が、BCR-ABL mRNAを選択的かつ特異的に認識するのに対して、両オリゴヌクレオチドはサイズ特異的ポリマー連結部分によって相互接続される。配列特異的オリゴヌクレオチドの各々がBCRまたはABLのいずれかを標的とする場合、2つ以上の配列特異的オリゴヌクレオチドを適用することも可能であり、ここで融合パートナーの各々が、少なくとも1つのオリゴヌクレオチドによって標的化される。配列特異的オリゴヌクレオチドは、対応する数のポリマー連結部分によって相互接続される。標的配列の各々が完全に認識され、さらにサイズ特異的ポリマー連結部分によって規定された一定の距離だけ互いから離間されている場合にのみ、構築物と標的化されたBCR-ABL mRNAとの間に安定な熱力学的およびエネルギー的に好ましい相補的相互作用が形成される。この手段により、部分的に相同なmRNAに対する構築物の安定な結合の可能性を最小限に抑えて、想定外のmRNA分子による安定な介入を妨げる。融合BCR-ABL mRNAは腫瘍細胞にのみ存在するという事実に関して、BCR-ABL mRNA認識の記載された原理は、腫瘍細胞のみに優先的かつ安定な介入をもたらし、それによって腫瘍細胞を選択的に認識し、標的化する。
【0064】
構築物内の個々の配列特異的オリゴヌクレオチドの配列は、個々の融合パートナーBCR、ABLの標的配列に相補的である。BCR、ABLの標的配列は、融合BCR-ABL mRNAの一次配列に関して任意であり得るが、好ましい実施形態では、融合切断点部位からの標的配列の距離は、特定の融合BCR-ABL mRNA変異体に関わりなく、100ヌクレオチド以下である。
【0065】
実施例1と同様に、簡易形式の実施例2~7ならびに他の融合mRNAの一覧を以下に示す。
【0066】
実施例2.急性骨髄性白血病M2またはAML1-ETO融合mRNAが存在する他の腫瘍に対して本発明を用いたAML1-ETO融合mRNAの選択的かつ特異的な認識。
【0067】
実施例3.急性骨髄性白血病M4またはCBFB-MYH11融合mRNAが存在する他の腫瘍に対して本発明を用いたCBFB-MYH11融合mRNAの選択的および特異的な認識。
【0068】
実施例4.急性骨髄性白血病またはRBM15-MKL1融合mRNAが存在する他の腫瘍に対して本発明を用いたRBM15-MKL1融合mRNAの選択的かつ特異的な認識。
【0069】
実施例5.急性骨髄性白血病またはMOZ-CBP融合mRNAが存在する他の腫瘍に対して本発明を用いたMOZ-CBP融合mRNAの選択的かつ特異的な認識。
【0070】
実施例6.粘液型軟骨肉腫またはTAF2N-TEC融合mRNAが存在する他の腫瘍に対して本発明を用いたTAF2N-TEC融合mRNAの選択的かつ特異的な認識。
【0071】
実施例7.縦隔癌またはBRD4-NUT融合mRNAが存在する他の腫瘍に対して本発明を用いたBRD4-NUT融合mRNAの選択的かつ特異的な認識。
【0072】
同様に、以下の融合mRNAを選択的かつ特異的に認識することが可能である。
融合PML-RARA mRNA 融合BCM-IL2 mRNA
融合TEL-AML1 mRNA 融合CEV14-PDGFRB mRNA
融合TCR-RBTN2 mRNA 融合RBM15-MKL mRNA
融合TMPRSS2-ETS mRNA 融合ETV6-NTRK3 mRNA
融合NPM-ALK mRNA 融合TFE3-PRCC mRNA
融合PLZF-RARA mRNA 融合TFE3-ASPSCR1 mRNA
融合MLL-AF9 mRNA 融合PAX8-PPARG mRNA
融合DEK-CAN mRNA 融合TET1-TP53 mRNA
融合FUS-ERG mRNA 融合TFEB-ALPHA mRNA
融合AML1-MTG mRNA 融合TFE3-PSF mRNA
融合AML1-EAP mRNA 融合CHOP-EWS mRNA
融合NUP98-PMX1 mRNA 融合PAX3-FKHR mRNA
融合MLL-AFP1 mRNA 融合JAZF1-JJAZ1 mRNA
融合EA2-HLF mRNA 融合FUS-CREB312 mRNA
融合MOZ-P300 mRNA 融合TPM3-ALK mRNA
融合TEL-PDGFRB mRNA 融合CLTC-ALK mRNA
融合MLL-AFX1 mRNA 融合RPN1-EVI1 mRNA
融合E2A-PBX1 mRNA 融合EWS-FLI1 mRNA
融合MLL-AF6 mRNA 融合AML1-EVI-1 mRNA
融合NUP98-HOXA9 mRNA 融合ETV6-MN1 mRNA
融合MLL-AF4 mRNA 融合MLL-ENL mRNA
融合NUP98-RAP1GDS1 mRNA 融合CALM-AF10 mRNA
融合FUS-CHOP mRNA 融合PAX7-FKHR mRNA
融合SYT-SSX mRNA 融合EWS-CHN mRNA
融合TCF12-TEC mRNA 融合EWS-WT1 mRNA
融合ASPL-TFE3 mRNA 融合COL1A1-PDGFB mRNA
融合TPM4-ALK mRNA
【0073】
本発明の他の適用は、実施例8~11によって実証される。
【0074】
実施例8.本発明を適用し、認識されたmRNAの機能状態が変化した後に、このmRNAによってコードされた遺伝情報の伝達が妨げられた場合の任意のmRNAの天然の生物学的機能に対する選択的かつ特異的な治療介入。これにより、mRNAからタンパク質への遺伝情報の翻訳機構が中断され、実施例1~7のような融合mRNAの場合には、原因となる融合腫瘍性タンパク質の発現の直接抑制が生じる。
【0075】
実施例9.本発明を適用し、認識されたmRNAの機能状態が変化した後に、安定なヘテロ二本鎖に対応する検出可能なシグナルを放出するFITC、RITC、P32同位体などの組み込まれた検出可能な標識を配列特異的オリゴヌクレオチドが含有する場合の任意のmRNAの選択的かつ特異的な検出およびその後のそれらの定量。
【0076】
実施例10.本発明の適用が認識されたmRNAの機能状態の変化をもたらす場合、すなわち異なる電気泳動移動度を有する安定なヘテロ二本鎖が形成される場合の分析された試料中に存在する他の核酸からの選択的かつ特異的に認識されたmRNAの精製および選別。その結果、外部電場を印加することにより、認識されたmRNAを他の核酸から分離することが可能となる。同様に、一次抗体による配列特異的オリゴヌクレオチドの意図的な修飾によって、本発明の適用後に二次抗体とのその相互作用に基づいて、認識されたmRNAを選別することが可能である。
【0077】
実施例11.配列特異的オリゴヌクレオチドの一次構造が、組み込まれた光不安定官能基を含んで、認識されたmRNAの機能状態の可逆的変化を可能にする場合の個々の遺伝子の機能解析。本発明を適用し、認識されたmRNAの機能状態が変化した後に、必要な波長の放射線の照射によって、この効果を逆転させることが可能である。このようにして、in situおよびin vivo条件下で、遺伝子発現の抑制の効果を選択的かつ特異的に研究することが可能である。

図1
図2