(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】眼に関連するパラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値の特定方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/10 20060101AFI20220405BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
G02C7/10
G02B5/20
(21)【出願番号】P 2018545957
(86)(22)【出願日】2017-03-03
(86)【国際出願番号】 EP2017055054
(87)【国際公開番号】W WO2017149140
(87)【国際公開日】2017-09-08
【審査請求日】2020-02-12
(32)【優先日】2016-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】598142955
【氏名又は名称】エシロール アンテルナショナル
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL
【住所又は居所原語表記】147,rue de Paris,F-94277 Charenton-le-Pont,France
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】コラリー バロー
【審査官】中村 和正
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-513818(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0200847(US,A1)
【文献】特開2015-097638(JP,A)
【文献】特表2015-520412(JP,A)
【文献】国際公開第2009/017104(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
G02B 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼に関連するパラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値を特定する方法であって、この光学フィルタは所定の波長範囲の光の透過を少なくとも部分的に遮断するような方法において、
a)前記所定の波長範囲内の少なくとも1つの波長での前記光学フィルタの透過率に関する前記光学フィルタの少なくとも1つのスペクトル特徴が提供されるステップと、
b)前記パラメータに対する前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値が、ステップa)で提供された前記光学フィルタの前記少なくとも1つのスペクトル特徴の関数として計算されるステップと、
を含み、
この関数の特定が、検討中の基準光学フィルタの対応するスペクトル特徴に関連付けられる基準フィルタ群の基準フィルタの効果を定量化する測定値群を含む実験データに、その曲線がフィットする数学関数を特定することを含
み、
前記パラメータは、網膜色素上皮細胞のアポトーシスの割合に関する生物学的パラメータであり、前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値は、青色光曝露に関連する眼の細胞のアポトーシスの割合の低下を定量化する、方法。
【請求項2】
ステップa)で、提供される前記少なくとも1つのスペクトル特徴は、前記所定の波長範囲全体にわたる及び/又は前記所定の波長範囲の特定の波長を中心とする縮小された波長範囲にわたる平均透過率、及び/又は前記所定の波長範囲全体にわたる及び/又は前記所定の波長範囲の特定の波長を中心とする縮小された波長範囲にわたる加重平均透過率を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップa)で、前記光学フィルタの複数のスペクトル特徴が提供され、これは少なくとも、前記所定の波長範囲全体にわたる平均透過率、及び前記所定の波長範囲の異なる波長を中心とする縮小された波長範囲にわたる平均透過率を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)で、提供される前記少なくとも1つのスペクトル特徴は、前記所定の波長範囲全体にわたる、又は前記所定の波長範囲の特定の波長を中心とする縮小された波長範囲にわたる加重平均透過率を含み、ある波長における前記光学フィルタの透過率の各数値は、前記眼に関連する前記パラメータに関する光の作用スペクトルの同じ波長における対応する数値で重み付けされる、請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記光学フィルタの前記効果は、前記眼に関連する前記パラメータに対する青色光の負の作用に対する前記光学フィルタの光防護効果であり、前記波長範囲は380~500ナノメートルである、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値は、前記眼の青色光に対する反応を定量化する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップa)で、提供される前記少なくとも1つのスペクトル特徴は加重平均透過率であり、ある波長での前記フィルタの透過率の各数値は、このある波長での青色光障害関数の数値として特定された係数により重み付けされるこの加重平均において考慮される、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
ステップb)で、前記眼に関連する前記パラメータに対する前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値は、前記眼に関連する前記パラメータを前記眼への光の透過に関する光学パラメータに関連付ける所定の関数を使って計算される、請求項1~7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
ステップb)で
、前記所定の関数では、眼の細胞に対するin vitroで、又は動物の眼に対するin vivoで、光と細胞との間に光学フィルタを設置することによって異なる波長範囲を含む光でこの眼を照明した後に測定される前記生物学的パラメータの数値を含む実験データ群が考慮される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップa)で、前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値は青色光に対する前記眼の反応に関し、ステップb)で、前記所定の関数は少なくとも2次の多項式を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記所定の関数は、前記実験データをフィットさせることによって特定された複数の数学関数の平均又は加重平均を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ステップa)で、提供される前記少なくとも1つのスペクトル特徴は、第一の所定の波長範囲にわたる平均透過率と第二の所定の波長範囲にわたる加重平均透過率を含み、ステップb)で、前記所定の関数は2つの数学関数の平均又は加重平均を含み、各々が前記眼に関連する前記パラメータを前記第一の所定の波長範囲にわたる前記平均透過率と前記第二の所定の波長範囲にわたる前記加重平均のうちの一方に関連付ける、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
検討中の基準光学フィルタの対応するスペクトル特徴に関連付けられる基準フィルタ群の基準フィルタの効果を定量化する測定値群を含む実験データに、その曲線がフィットする数学関数を特定することが、以下のステップ:
- 前記所定の波長範囲にわたる光の透過を少なくとも部分的に遮断する基準フィルタ群の各基準フィルタの効果を定量化する前記数値を、各基準フィルタを通して照明された場合と、フィルタを一切用いずに直接照明された場合の、前記眼の前記パラメータに対する光の負の作用を比較することによって測定するステップと、
- 各基準フィルタについて、前記所定の波長範囲内の少なくとも1つの波長でのその透過率に関するこの基準フィルタの1つ又は複数のスペクトル特徴を特定するステップと、
- 前記数学関数を、その曲線が、基準フィルタの効果を定量化する測定値に、対応する基準フィルタのスペクトル特徴の関数としてフィットするものとして、特定するステップと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
眼に関連するパラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値を特定するための装置であって、
前記パラメータは、網膜色素上皮細胞のアポトーシスの割合に関する生物学的パラメータであり、前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値は、青色光曝露に関連する眼の細胞のアポトーシスの割合の低下を定量化するものであり、この光学フィルタは所定の波長範囲にわたる光の透過を少なくとも部分的に遮断するような装置において、
- 前記所定の波長範囲内の少なくとも1つの波長での前記光学フィルタの透過率に関する前記光学フィルタの少なくとも1つのスペクトル特徴を提供する装置と、
- 前記パラメータに対する前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値を、ステップa)で提供された前記光学フィルタの前記少なくとも1つのスペクトル特徴の関数としてそれを計算することにより特定するようにプログラムされた計算ユニットと、
を含み、この関数の特定が、検討中の基準光学フィルタの対応するスペクトル特徴に関連付けられる基準フィルタ群の基準フィルタの効果を定量化する測定値群を含む実験データに、その曲線がフィットする数学関数を特定することを含む、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼に関連するパラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値の特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁スペクトルは広い波長範囲をカバーし、その中には380ナノメートル~780ナノメートル(nm)という人間の目に見える波長が含まれ、これを以下、可視スペクトルと呼ぶ。
【0003】
多くの研究が、電子スペクトルの波長の中には眼に対して有益な効果を有するものがある一方で、可視スペクトルの一部の波長等、眼に対する有害な効果を有するものもあることを示している。
【0004】
特に、研究から、可視光、より詳しくは青色スペクトルの一部への眼の曝露は、先進国における失明の主要原因の1つである加齢黄斑変性症(以下、ARMD:Age-Related Macular Degeneration)の発症リスク上昇に関係することが明らかにされてきた。これらの研究のいくつかは例えば、2013年8月23日に査読済み雑誌PlosOne(plosone.orgのウェブサイト)において発表された著者Arnault,Barrau et al.による“Phototoxic Action Spectrum on a retinal Pigment Epithelium model of Age-Related macular Degeneration Exposed to Sunlight Normalized Conditions”と題する論文に記載されている。
【0005】
その結果、電磁スペクトルの一部の波長の有害な効果を防止するための、眼への光の透過を少なくとも部分的に遮断する光学フィルタが実験的に研究されてきた。
【0006】
しかしながら、このような光フィルタの効果を定量化する信頼性の高い数値を取得するために必要な実験試験は複雑で、時間とコストがかかり、生物学的反復実験が必要となることも多い。この方法は、数多くの光学フィルタを試験しなければならない場合、実施しにくそうである。
【0007】
特に、上述のような実験試験のすべてを行うことなく、市販の眼科用レンズ、特に青色光を部分的に遮断する(又は青色光をカットする)フィルタを含むものの眼に対する効果を比較し、区別することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の1つの目的は、眼に対する光学フィルタの効果を簡単かつ迅速に特定するための、評価対象のフィルタのひとつひとつに実験試験を実行する必要のない、新しい方法を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、選択波長範囲内でバンドストッププロファイル及び/又は高及び低レベルのカットプロファイルを持つフィルタ、又はそれと反対に、連続的に増大又は減少するカットプロファイルを持つフィルタ等、評価対象フィルタの光カットプロファイル(特に青色カットプロファイル)が大きく異なる場合でも使用可能で信頼性の高い、フィルタの効果を特定する新しい方法を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、平均透過率プロファイルの点で極めて類似したフィルタの効果を細かく定量化できるようにすることである。
【0011】
本発明の他の目的は、その平均青色光フィルタリングレートが400~455nmの所定の波長範囲で50%以下、好ましくは40%、35%、30%、25%以下であり、波長可視範囲全体にわたって高いレベルの透過率Tvを有する青色光カットレンズ、例えば、その透過率レベルが95%以上、好ましくは96%、よりよくは97%であるレンズに適用可能な方法を提供することである。可視範囲における相対透過率と呼ばれる係数Tvは、国際的標準定義(ISO 13666:1998規格)によって定義されるように理解すべきであり、ISO 8980-3規格にしたがって測定される。これは、380~780nmの波長範囲で定義される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的は、眼に関連するパラメータに関連付けられる数値を、入力パラメータとして光学フィルタの透過率に関する特定のスペクトル特徴を使って計算することにより達成できる。
【0013】
より正確には、上述の目的は、本発明によれば、眼に関連するパラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値を特定する方法を提供することによって個別に、又は一緒に達成され、この光学フィルタは所定の波長範囲の光の透過を少なくとも部分的に遮断し、その方法は、
a)前記所定の波長範囲内の少なくとも1つの波長での前記光学フィルタの透過率に関する前記光学フィルタの少なくとも1つのスペクトル特徴が提供されるステップと、
b)前記パラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値が、ステップa)で提供された光学フィルタの前記少なくとも1つのスペクトル特徴の関数として計算されるステップと、
を含む。
【0014】
それゆえ、本発明による方法のおかげで、求められる数値の特定が簡単、迅速となり、それは、光学フィルタの、容易に測定又は事前決定可能な1つのスペクトル特徴を提供するだけでよいからである。
【0015】
これは特に、眼の細胞でのin vitro試験又は動物の眼でのin vivo試験の代わりとなる。
【0016】
眼に関連する前記パラメータに対する光学フィルタの効果は、したがって、フィルタのみに基づいて効率的かつ迅速に特定されてよい。
【0017】
本発明の方法において、眼に関連するパラメータは好ましくは、生物学的パラメータである。
【0018】
本発明の他の実施形態において、眼に関連するパラメータは生理学的パラメータである。
【0019】
本願の以下の部分では、本発明は、非限定的な方法で眼に関連する生物学的パラメータに関して説明される。
【0020】
眼に関連する前記パラメータに対するある光学フィルタの効果を定量化する数値は、この光学フィルタに対するin-vitro又はin-vivo試験を一切行わずに特定される。
【0021】
本発明による方法のその他の有利な非限定手的な特徴には以下が含まれる:
- ステップa)で、提供される前記少なくとも1つのスペクトル特徴は、所定の波長範囲全体にわたる、若しくは前記所定の波長範囲の特定の波長を中心とする縮小された波長範囲にわたる平均透過率、又は所定の波長範囲全体にわたる、若しくは前記所定の波長範囲の特定の波長を中心とする縮小された波長範囲にわたる加重平均透過率を含むこと、
- 特定の実施形態において、ステップa)で、設定された特定の波長でのいくつかの透過率の値を含む複数のスペクトル特徴が提供されること、
- ステップa)で、前記光学フィルタの複数のスペクトル特徴が提供され、これは少なくとも、所定の波長範囲全体にわたる平均透過率、及び前記所定の波長範囲の異なる波長を中心とする縮小された波長範囲にわたるいくつかの平均透過率を含むこと、
- ステップa)で、提供される少なくとも1つのスペクトル特徴は、所定の波長範囲全体にわたる、又は前記所定の波長範囲の特定の波長を中心とする縮小された波長範囲にわたる加重平均透過率を含み、ある波長における光学フィルタの透過率の各数値は、青色光障害関数B(λ)等、眼に関連するパラメータに関する光の作用スペクトルの同じ波長における対応する数値で重み付けされること、
- 前記光学フィルタの前記効果は、眼に関連するパラメータに対する青色光の負の作用に対する光学フィルタの光防護効果であり、前記波長範囲は380~500ナノメートル、好ましくは400~455ナノメートル、好ましくは400~450ナノメートル、好ましくは415~455ナノメートル、好ましくは420~450ナノメートルであること、
- 前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値は、眼、特に網膜の青色光に対する反応を定量化すること、
- ステップa)で、提供される前記少なくとも1つのスペクトル特徴は加重平均透過率を含み、ある波長での光学フィルタの透過率の各数値は、同じある波長での青色光障害関数の対応する数値により重み付けされること、
- ステップb)で、眼に関連する前記パラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値は、眼に関連する前記パラメータを光学フィルタを通る前記眼への光の透過に関する光学パラメータに関連付ける所定の関数を使って計算されること、
- 前記パラメータは生物学的パラメータであり、ステップb)で、前記所定の関数では、眼の細胞に対するin vitroで、又は動物の眼に対するin vivoで、光と眼の細胞との間に光学フィルタを設置することによって異なる波長範囲を含む光で照明した後に測定される前記パラメータの数値を含む実験データ群が考慮されること、
- ステップb)で、前記所定の関数は、その曲線が前記実験データにフィットする数学関数を特定することにより定義されること、
- ステップa)で、前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値は青色光に対する眼の反応に関し、ステップb)で、前記所定の関数は少なくとも2次の多項式を含むこと、
- 前記所定の関数は、複数の数学関数の平均又は加重平均を含み、それらの各々が光学フィルタの物理パラメータに依存し、実験データのフィッティングにより特定されること、
- ステップa)で、提供される前記少なくとも1つのスペクトル特徴は、第一の所定の波長範囲にわたる平均透過率と第二の所定の波長範囲にわたる加重平均透過率を含み、ステップb)で、前記所定の関数は2つの数学関数の平均又は加重平均を含み、各々が眼に関連する前記パラメータを第一の所定の波長範囲にわたる平均透過率と第二の所定の波長範囲にわたる加重平均のうちの一方に関連付けること、
- 前記生物学的パラメータは、網膜色素上皮細胞のアポトーシスの割合に関係し、前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値は、青色光曝露に関連する網膜細胞のアポトーシスの割合の低下を定量化すること。
【0022】
本発明はまた、眼に関連するパラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値を特定するための関数をこの光学フィルタの少なくとも1つのスペクトル特徴に基づいて特定する方法も提供し、この光学フィルタは所定の波長範囲にわたる光の透過を少なくとも部分的に遮断し、この方法は、
- 前記所定の波長範囲にわたる光の透過を少なくとも部分的に遮断する基準フィルタ群の各基準フィルタの効果を定量化する前記数値を、各基準フィルタを通して照明された場合と、フィルタを一切用いずに直接照明された場合の、前記眼に関連する前記パラメータに対する光の負の作用を比較することによって測定するステップと、
- 各基準フィルタについて、前記所定の波長範囲内の少なくとも1つの波長でのその透過率に関するこの基準フィルタの1つ又は複数のスペクトル特徴を特定するステップと、
- 前記関数を、その曲線が基準フィルタの効果を定量化する測定値にフィットする数学関数を、対応する基準フィルタのスペクトル特徴の関数として特定することにより、又は複数の数学関数の平均若しくは加重平均を含む数学関数を特定することによって特定するステップであって、その各々が眼に関連する前記パラメータに関連する物理的パラメータに依存し、実験データのフィッティングにより特定されるステップと、
を含む。
【0023】
本発明は最後に、眼に関連するパラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値を特定するための装置に関し、この光学フィルタは所定の波長範囲にわたる光の透過を少なくとも部分的に遮断し、この装置は、
- 前記所定の波長範囲内の少なくとも1つの波長での前記光学フィルタの透過率に関する前記光学フィルタの少なくとも1つのスペクトル特徴を提供する装置と、
- 前記パラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値を、ステップa)で提供された光学フィルタの前記少なくとも1つのスペクトル特徴の関数としてそれを計算することにより特定するようにプログラムされた計算ユニットと、
を含む。
【0024】
以下の説明は、非限定的な例として解釈すべき添付の図面によってよりわかりやすくなり、本発明を理解し、それをどのように実現できるかを明らかにするのに役立つ。
【0025】
説明中、特にことわりがないかぎり、透過率の数値、吸収率の数値、及び光防護能PPはパーセンテージで表現される(数値は0%~100%の範囲)。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】入射光の波長に関する光学フィルタA、B、C、D、E、Fの3つのサンプルの透過率の曲線CA、CB、CC、CD、CE、及びCFを示すグラフである。
【
図2】本発明による方法において考慮に入れることのできる異なる青色光障害関数の曲線を示すグラフである。
【
図3】基準光学フィルタ群の前記生物学的パラメータに対する効果を定量化する数値を、420~450nmにわたるこれらのフィルタの平均透過率100%-AvT_tot(420~450nm)に関連するこれらの光学フィルタの、ここでは100-Tmb1として記されている第一のスペクトル特徴に対してプロットされた実験的in vitro手順を通じた測定値(点)として示し、またこれらの数値を特定するための関数の曲線(線)を示すグラフである。
【
図4】基準光学フィルタ群の前記生物学的パラメータに対する効果を定量化する数値を、400~450nmにわたるこれらのフィルタの加重透過率に関連するこれらの光学フィルタの第二のスペクトル特徴BVC(400-450nm)に対してプロットされた実験的in vitro手順を通じた測定値(点)として示し、またこれらの数値を特定するための関数の曲線(線)を示すグラフである。
【
図5】基準光学フィルタ群の前記生物学的パラメータに対する効果を定量化する数値を、設定された特定の波長410nmでのこれらのフィルタの透過率に関連するこれらの光学フィルタの第三のスペクトル特徴に対してプロットされた実験的in vitro手順を通じた測定値(点)として示し、また、限定されたフィルタリングレベルでのこの特定の波長に関してこれらの数値を特定するための関数の曲線(線)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明による方法によって、眼に関連する生物学的パラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値を特定できる。
【0028】
導入部で説明したように、眼が受け取る光は、自然光でも人工光でも、眼に対して負の影響を与えるかもしれない。より正確には、紫外波長、例えば280~380ナノメートルの範囲の光は眼に損傷を与えるかもしれないことが知られるようになって久しい。
【0029】
より近年では、380~500ナノメートルの範囲の波長の青色光は、加齢黄斑変性症(以下、ARMD:Age-Related Macular Degeneration)の高リスク化に関連があり得ることが明らかにされた。
【0030】
光学フィルタは、所定の波長範囲、例えばUV範囲又は上述の青色光範囲にわたる光の透過を少なくとも部分的に遮断するために使用されてよい。
【0031】
これらの光学フィルタは例えば、眼鏡に含められてもよい。
【0032】
これらの光学フィルタのおかげで、フィルタにより遮断される範囲内のある波長の光の強度は、それが眼に届くときには弱められる。これらの波長の光は、それが眼に到達する前に完全に遮断されることさえある。
【0033】
したがって、眼が受けるこれらの遮断された波長の光の量は減り、又はこれらの遮断された波長の光をまったく受けない。
【0034】
遮断された波長の光の有害な効果はそれゆえ、低減されるか、さらには除去されるかもしれない。
【0035】
特定の光学フィルタの効果を評価するか、又は2つの光学フィルタの効果を比較して、どちらが眼を光の有害な効果から保護するのにより効率的であるかを判断することができるようにするために、眼の生物学的パラメータに対する各光学フィルタの効果を定量化する数値を特定することが可能である。
【0036】
本発明はしたがって、眼に関連するパラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値を決定するための方法を提供し、この光学フィルタは所定の波長範囲にわたる光の透過を少なくとも部分的に遮断し、この方法は、
a)前記所定の波長範囲内の少なくとも1つの波長でこの光学フィルタの透過率に関する光学フィルタの少なくとも1つのスペクトル特徴が提供されるステップと、
b)前記生物学的パラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値は、ステップa)で提供された光学フィルタの前記少なくとも1つのスペクトル特徴の関数として計算されるステップと、
を含む。
【0037】
光学フィルタの効果を定量化する数値は一般に、眼に対する前記所定の波長範囲内の光の有害な効果の低減化に関する。
【0038】
実際には、眼に関連するパラメータは生物学的パラメータである。
【0039】
それは、眼の細胞(in vitro)又は動物の眼(in vivo)を前記所定の波長範囲内の波長の光で、検討中の光学フィルタを通じて照明した後に観察される眼に関連する前記生物学的パラメータの数値と、これらの眼の細胞(in vitro)又は動物の眼を同じ波長の光でいずれの光学フィルタも用いずに照明した後に観察された眼の同じ生物学的パラメータの対応する数値との間の比として表現されてもよい。
【0040】
あるいは、これは、眼に関連する前記生物学的パラメータの、前記眼の細胞(in vitro)又は動物の眼(in vivo)を前記所定の波長範囲内の波長の光で、いずれの光学フィルタも用いずに照明した後に観察された数値と、前記眼に関連するこの生物学的パラメータの、前記所定の波長範囲の波長の光で光学フィルタを通じて照明した後に観察された数値との差を、この眼を同じ波長の光でいかなる光学フィルタも用いずに照明した後に観察された、眼に関連する生物学的パラメータのこの数値で割ったものとして表現されてもよい。
【0041】
本願で言及される実験データはまた、眼に関連するパラメータの測定が人間の眼にいかなる悪影響も持たないかぎり、人間の眼でも得ることができる。眼の細胞に対するin vitroでの測定又は動物の眼に対するin vivoでの測定が好ましい。
【0042】
照明は必ずしも、眼に対するその影響が調査される関心対象のスペクトル範囲の光に限定されるとは限らない。照明(又は光への曝露)は、関心対象のスペクトル範囲を包含する、より広い波長範囲の光で行うこともできる。
【0043】
ある実施形態において、前記生物学的パラメータは、眼の細胞に対する光誘導酸化ストレスに関する。より正確には、生物学的パラメータは、
- 光誘導による眼の細胞に対する酸化ストレスの生成、又は
- 光誘導による眼の細胞の酸化ストレスに対する防護機構の低下
- 光誘導による、アポトーシス又はネクローシスによる細胞死
の何れかに関していてもよい。
【0044】
すると、求められる数値は、眼の細胞に対する酸化ストレスの軽減、又は酸化ストレスに対する防護機構の低下、又は細胞死の減少の何れかを定量化する。
【0045】
本明細書に記載する例において、光の調査対象の有害な効果は、網膜に対する、より具体的には網膜色素上皮(RPE:retinal pigment epithelium)細胞と視覚光受容細胞(杆体と錐体)の外節からなる網膜外層に対する、より正確には網膜色素上皮細胞(RPE)に対する青色光の効果である。光学フィルタの前記効果は、眼に関連する生物学的パラメータに対する青色光の負の作用に対する光防護効果である。
【0046】
所定の波長範囲はしたがって、380~500ナノメートル、好ましくは400~500ナノメートル、好ましくは400~455ナノメートル、好ましくは400~450ナノメートル、より好ましくは420~450ナノメートルの間隔内に含まれる。
【0047】
前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値は、ここでは、前記所定の波長範囲に含まれる波長の青色光に対する網膜外層の反応を定量化する。
【0048】
本明細書に記載されている例において、生物学的パラメータは網膜色素上皮細胞のアポトーシスの割合に関する。より正確には、これは、以下により詳しく説明するように、青色光曝露又は可視光曝露に関連する網膜細胞のアポトーシスの割合の低下を定量化する。
【0049】
以下の例において、本発明による方法によって、6つの光学フィルタA、B、C、D、E、Fに対応する、求められる数値をどのように決定できるかを示す。
【0050】
図1は、これら6つの光学フィルタA~Fの透過率曲線を示し、380~500ナノメートルに含まれる前記所定の波長範囲の入射光の波長に対してプロットされている。これらの曲線を以下、光学フィルタA~Fの透過率スペクトルと呼ぶ。
【0051】
図1からわかるように、光学フィルタA、C、及びEはロングパスフィルタであるのに対し、光学フィルタB、D、及びFはバンドストップフィルタであり、それぞれ424(B及びD)と440(F)ナノメートルを中心とし、平均半値全幅(FWHM)が15~25ナノメートルの特定の波長バンドをカットする。
【0052】
ある波長λでの各フィルタの透過率T(λ)は、フィルタに到達する入射光の強度と、この波長で光学フィルタにより透過させられた光、すなわちフィルタを通って出た光の強度との比として定義される。したがって、それはパーセンテージとして表され、0%はフィルタが波長λの光のすべてを遮断する場合に対応し、100%はフィルタが波長λの光のすべてを通過させる場合に対応する。
【0053】
この透過率曲線は、分光計を用いる従来の方法を通じて測定されても、又は事前に決定されてもよい。
【0054】
第一の場合、ステップa)は、従来の分光計を使って各光学フィルタA~Fの透過率スペクトルを測定するステップを含む。
【0055】
第二の場合、ステップa)は、データベースから各光学フィルタの透過率スペクトルを呼び出すステップを含む。
【0056】
本発明によれば、ステップa)で、提供される前記少なくとも1つのスペクトル特徴は、所定の波長範囲全体にわたる、若しくは前記所定の波長範囲の特定の波長を中心とする縮小された波長範囲にわたる平均透過率又は、所定の波長範囲全体にわたる、若しくは前記所定の波長範囲の特定の波長を中心とする縮小された波長範囲にわたる、BVCと呼ばれる加重平均透過率である。
【0057】
実際に、スペクトル特徴は、対応する光学フィルタの透過率スペクトルから推測される。
【0058】
例えば、所定の波長範囲全体にわたる平均透過率AvT_totは、測定された透過率曲線に基づいて積分により特定されてもよい。
【0059】
平均透過率は例えば、400~455nm、415~455ナノメートル、より好ましくは420~450ナノメートルの範囲について特定されてもよい。この各種の平均を以下、AvT_tot(400-455nm)、AvT_tot(415-455nm)、及びAvT_tot(420-450nm)という。
【0060】
前記所定の波長範囲の波長λmを中心とする縮小された波長範囲にわたる平均透過率AvT(λm)は例えば、400nm、410nm、420nm、430nm、440nm、及び450nmを中心とする10ナノメートルの範囲について特定され、又は1nmの所定の波長範囲の各中心波長について特定されてもよい。
【0061】
2つの波長の数値λ1とλ2の間に含まれるある波長範囲[λ1;λ2]にわたる、[λ1;λ2]が400~455nm、又は415~455nm、又は420~450nmの範囲内である光学フィルタの平均透過率AvT_tot(λ1-λ2nm)、又は2つの波長の数値λ3とλ4の間に含まれる波長λmを中心とする、ある狭い波長範囲[λ3;λ4]にわたる、[λ3;λ4]が400~455nm、又は400~450nm、又は415~455nm、又は420~450nmの範囲内である光学フィルタの平均透過率AvT(λm)(λ3-λ4nm)はここで、積分値として特定され、これは曲線の下の面積に対応する。
【0062】
より正確には、これは以下の計算を通じて得られる:
【数1】
ただし、T(λ)は波長λでの光学フィルタの透過率、λmは、範囲[λ
3;λ
4]の中心がある波長である。[λ
3;λ
4]は狭い波長範囲、例えば波長範囲[λ1;λ2]より狭く、これはより大きい波長範囲[λ
1;λ
2]の中に含まれてもよい。
【0063】
光学フィルタのスペクトル特徴は例えば、以下の例において使用される420~450nmの波長範囲全体にわたる光学フィルタの平均透過率AvT_tot(420-450nm)及び/又は次の波長λm、すなわち400、410、420、430、440、450nmについての、λmを中心とする10ナノメートルにわたる光学フィルタの1つ又は複数の平均透過率AvT(λm)を含む。その例において使用される具体的な実施形態において、AvT(λm)は1つの波長λmについて定義される。この場合、光学フィルタの平均透過率AvT(λm)はλmを中心とする1ナノメートルの範囲で積分される。
【0064】
各光学フィルタのスペクトル特徴はまた、100パーセントから平均透過率を差し引いたものとして特定されてもよく、100%-AvT_tot(λ1-λ2nm)又は100%-AvT(λm)として計算され、これは光学フィルタによる所定の波長範囲内の光のカットを表す。
【0065】
所定の波長範囲全体にわたる、又は前記所定の波長範囲の特定の波長を中心とする縮小された波長範囲にわたる加重平均透過率は、例えば、ある波長での光学フィルタの透過率の各数値を、眼に関連するパラメータに関する、青色光障害関数B(λ)等の光の作用スペクトルの対応する数値により重み付けすることにより計算されてもよい。
【0066】
ここに記載の例において、眼に関連する生物学的パラメータに関する光の作用スペクトルの数値は、青色光障害関数Bから得られてもよく、これは以下において青色光障害関数と呼ぶ。
【0067】
青色光障害関数は、青光光障害に対する人間の眼の相対的スペクトル感度を表す。これは光学放射が網膜の光化学障害を誘導する相対的スペクトル有効性に基づく。
【0068】
青色光障害関数は、青色光網膜傷害に関する相対的スペクトル有効性の重み関数である。この青色光障害関数のための第一の案B1(λ)は、ICNIRP(International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection:国際非電磁放射線防護委員会)により定義されており、これはNature(1976),Vol.260,5547,153-155ページにおいてHam et al.により“Retinal sensitivity to damage from short wavelength light”のタイトルで発表された、サルの無水晶体眼に対する急性障害に関するHam et al.の独創的研究から導き出された。
【0069】
その曲線が
図2に示されている第一の青色光障害関数B1(λ)は、Ham et al.の研究によるスペクトル数値に人間の水晶体のスペクトル透過率を乗じることによって定義された。
【0070】
青色光障害関数の第二の案B2(λ)は、査読済み雑誌PlosOne(plosone.orgのウェブサイト)の中で2013年8月23日に発表されたArnault,Barrau et alによる“Phototoxic Action Spectrum on a Retinal Pigment Epithelium Model of Age-Related Macular Degeneration Exposed to Sunlight Normalized Conditions”の中で発表されているような、より最近の研究から導き出されてもよい。この第二の青色光障害関数B2(λ)も
図2に示されている。
【0071】
図2に示されている第一及び第二の青色光障害関数B1及びB2は、約430nmで略同じ最大値を持つ同様の上昇プロファイルを有する。しかしながら、より最近の研究から導き出される第二の青色光障害関数B2は、明確に異なる、より狭い下降プロファイルを有する。
【0072】
他の実施形態において、青色光障害関数B1又はB2は光源のスペクトル分布により重み付けできる。光源は、日光又は人工光源を含むいずれの光源とすることもできる。
【0073】
ステップa)で、次に、前記加重平均透過率BVCは、ある波長でのフィルタの透過率の各数値を青色光障害関数の対応する数値により重み付けすることによって得られる。
【0074】
フィルタの透過率の各数値を重み付けするために考慮される青色光障害関数B(λ)は、上述の第一の青色光障害関数B1又は第二の青色光障害関数B2と一致していてもよい。
【0075】
所定の波長範囲全体にわたる、又は前記所定の波長範囲の特定の波長を中心とする縮小された波長範囲にわたる、すなわち、2つの波長の数値λ’1及びλ’2間に含まれる波長範囲[λ’1;λ’2]であり、[λ’1;λ’2]が400~455nm、又は400~450nm、又は415~455nm、又は420~450nmの範囲内である加重平均透過率BVCは、例えば、曲線より下の面積に対応する積分値として特定される。
【0076】
より正確には、波長範囲[λ’
1;λ’
2]にわたる加重平均透過率BVC(λ’
1-λ’
2nm)は次式で計算されてよい:
【数2】
【0077】
以下に詳しく説明する例の中で使用される実施形態において、数値λ’1=400nm、λ’2=450nmと上で定義した青色光障害関数B2が加重平均透過率BVC(400-450nm)の計算に使用される。
【0078】
有利な点として、ステップa)で、少なくとも以下の2つのスペクトル特徴を含む前記光学フィルタの複数のスペクトル特徴が提供される:
- 所定の波長範囲[λ1;λ2]全体にわたる平均透過率AvT_tot(λ1-λ2nm)及び
- 前記所定の波長範囲の異なる波長λmを中心とする縮小された波長範囲[λ3;λ4]にわたる平均透過率AvT(λm)又は所定の波長範囲[λ’1;λ’2]にわたる加重平均透過率BVC(λ’1-λ’2nm)
【0079】
2つの特徴BVC(λ’1-λ’2nm)と100%-AvT_tot(λ1-λ2nm)、特にBVC(400-450nm)と100%-AvT_tot(420-450nm)を使用することは、好ましい実施形態の1つである。
【0080】
それは、所定の波長範囲全体にわたる、及び/又は前記所定の波長範囲の異なる波長を中心とする縮小された波長範囲にわたる平均加重透過率BVC(λ’1-λ’2nm)も含んでいてよい。
【0081】
例えば、フィルタA~Fについて、各光学フィルタのスペクトル特徴は、下表において分類された情報のうちの1つ又は複数を含んでいてもよい。
【0082】
【0083】
ステップb)で、前記生物学的パラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値は、眼に関連する前記生物学的パラメータを、フィルタを光と眼の細胞との間に設置することによる前記眼への光の透過に関する光学パラメータに関連付けることによって計算される。
【0084】
この光学パラメータは、ステップa)で特定されたスペクトル特性に対応する。より正確には、ステップa)で特定されたスペクトル特徴は、検討中の光学フィルタについて特定された光学パラメータの数値である。
【0085】
それゆえ、光学フィルタのスペクトル特徴が特定されると、光学フィルタの効果を定量化する、前記求められる数値は、in-vitro又はin-vivo実験を行わずに、計算を通じて特定される。
【0086】
前記特定された関数では、網膜細胞の中で、これらの細胞を異なる波長範囲を含む光により照明した後に測定される前記生物学的パラメータの数値を含む実験データ群が考慮される。
【0087】
より正確には、後でより詳しく説明するように、前記所定の関数は、その曲線が対応する光学パラメータに対してプロットされた前記実験データにフィットする少なくとも1つの数学関数を特定することによって特定される。
【0088】
数学関数は、例えば最小二乗法を使った回帰分析により特定される。このような数学関数の例は、
図3、4、及び5に示されている。これらの図の各々は、基準光学フィルタ群(後述)の異なる光学フィルタについて測定され、異なるスペクトル特徴に対応する3種類の光学パラメータに対してプロットされた実験データ(点)のグラフを示す。
【0089】
実験データは、検討中の光学フィルタの対応するスペクトル特徴に関連付けられる、眼に対する光学フィルタの効果を定量化する測定値群を含む。
【0090】
ここに記載の例では、前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値は、青色光への曝露に関連する網膜細胞のアポトーシスの割合の低下を定量化しており、これについては以下により詳しく説明する。
【0091】
より正確には、実験データ群は、ここでは、アポトーシスの細胞死に関するフィルタにより誘導される利益として定義される光防護能PPの測定値、すなわちフィルタを用いない場合と比較した、フィルタにより誘導されたアポトーシス現象の測定値を含む。
【0092】
この光防護能PPはここでは、フィルタを用いない場合の光誘導によるアポトーシスの割合ANFとフィルタを用いたときの光誘導によるアポトーシスの割合AFの差を、フィルタを用いない場合の光誘導によるアポトーシスの割合ANFで割ったものとして特定される:
PP=(ANF-AF)/ANF
【0093】
光防護能PPの測定値は、対応する基準光学フィルタの対応するスペクトル特徴に対してプロットされる。
【0094】
例えば、
図3は、基準フィルタのスペクトル特徴100-AvT_tot(420-450nm)(AvT_tot(420-450nm)は420~450nmの範囲にわたる基準光学フィルタの平均透過率)に対してプロットされた光防護能PP測定値(点)と、実験データをフィットさせることによって特定された対応する数学関数の曲線(線)を示すグラフである。
【0095】
図4は、基準光学フィルタの400~450nmの範囲にわたる平均加重透過率BVC(400-450nm)に対してプロットされた光防護効能PPの測定値(点)と、実験データをフィットさせることによって特定された対応する数学関数の曲線(線)を示すグラフである。
【0096】
図5は、基準光学フィルタの410nmでの透過率AvT(410nm)に対してプロットされた光防護能PPの測定値(点)と、実験データをフィットさせることによって特定された対応する数学関数の曲線(線)を示すグラフである。
【0097】
同様のグラフが、それぞれ400、420、430、440、及び450nmでの透過率AvT(400nm)、AvT(420nm)、AvT(430nm)、AvT(440nm)、及びAvT(450nm)について作成された。
【0098】
数学関数は、例えば最小二乗法を使った回帰分析により特定される。最小二乗法は、データへの最良適合線を特定する手順である。
【0099】
ここで説明する例において、前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値は、青色光に対する網膜外層の反応に関し、前記特定された関数は少なくとも2次の多項式を含む。
【0100】
より正確には、その曲線が
図3及び4に示されている数学関数は3次多項式であり、その曲線が
図5に示されている数学関数は2次多項式である。
【0101】
図3でプロットされたデータに基づいて特定される数学関数PP1は以下のとおりである:
PP1=PP(100%-AvT_tot(420-450nm))=4.0309x
3-4.9443x
2+2.3583x、決定係数R
2=0.98(xはここでは100%-AvT_tot(420-450nm)である。)
【0102】
このようなデータは、後述のようにホワイトライトボックスで測定されている。
【0103】
図4でプロットされたデータに基づいて特定される数学関数PP2は次のとおりである:
PP2=PP(BVC(400-450nm))=6.5008x
3-6.3084x
2+2.3115x、決定係数R
2=0.92(xはここではBVC(400-450nm)である。)
【0104】
このようなデータは、後述のようにホワイトライトボックスで測定されている。
【0105】
図5でプロットされたデータに基づいて特定される数学関数PP3は次のとおりである:
PP3=PP
410nm=PP(AvT(410nm))=-0.6719x
2-0.2811x+0.9818、決定係数R
2=0.98(xはここではAvT(410nm)である。)
【0106】
このようなデータは後述のようにブルーライトボックスで測定されている。
【0107】
この関数PP3は、ここでは、対応する波長410nmで35%より高い、好ましくは50%より高い透過率の数値について得られる。
【0108】
数学関数PP4、PP5、PP6、PP7、及びPP8もまた、後述のようにブルーライトボックスの中での測定により得られた400、420、430、440、及び450nmの平均透過率についての同様のグラフに基づいて特定されている。
【0109】
PP4=PP400nm=PP(AvT(400nm))=-1.2718x2+0.3225x+1.0065、決定係数R2=0.82(xはここではAvT(400nm)である。)
PP5=PP420nm=PP(AvT(420nm))=-0.3334x2-0.6093x+1.0438、決定係数R2=0.93(xはここではAvT(420nm)である。)
PP6=PP430nm=PP(AvT(430nm))=-1.4849x2+0.1921x+0.9982、決定係数R2=0.91(xはここではAvT(430nm)である。)
PP7=PP440nm=PP(AvT(440nm))=-0.3178x2-0.6689x+1.0091、決定係数R2=0.96(xはここではAvT(440nm)である。)
PP8=PP450nm+PP(AvT(450nm))=-0.2978x2-0.8089x+1.0000、決定係数R2=0.80(xはここではAvT(450nm)である。)
【0110】
最後に、400、410、420,430、440、及び450nmでの平均透過率に依存する光防護能の加重平均関数PPWSを、各波長でのフィルタの透過率に依存する光防護能PP(AvT(λ))を特定するために計算された数学関数の加重平均に基づいて以下のように計算する。
【数3】
【0111】
重み係数はここでは、検討中の波長における、例B1又はB2について先に定義した青色光障害関数の1つの数値である。
【0112】
PP3~PP8からの関数PP(AvT(λ))とPP1及び/又はPP2を組み合わせて使用することにより、異なるスペクトルプロファイル、例えばバンドストップ対ロングパスであるが、波長範囲420~450nmの全体にわたる平均透過率AvT_tot(420-450nm)及び/又は波長範囲400~450nmにわたる加重平均透過率BVC(400-450nm)については同じ数値を有するフィルタの光防護能を区別できることがわかった。
【0113】
他の例では、光防護能の測定値は、基準フィルタのスペクトル特徴100%-AvT_tot(400-455nm)に対してプロットされる。
【0114】
すると、特定される数学関数は、PP9=PP(100%-AvT_tot(400-455nm))=9.2793x3-8.4903x2+2.8067xとなる(xはここでは100%-AvT_tot(400-455nm))。
【0115】
以下でより詳しく説明するように、前記所定の関数は、実験データをフィットさせることによって特定された複数の数学関数の平均又は加重平均を含んでいてもよい。
【0116】
例えば、数学関数は、上で定義したPP1、PP2、及びPPWSの数学関数のうちの少なくとも2つの平均、好ましくは加重平均と定義されてもよい。
【0117】
例えば、420~450nmの範囲にわたる平均透過率と400~450nmの範囲にわたる加重平均透過率を考慮した数学関数は次のように表現できる:
PP10=PP(100%-AvT_tot(420-450nm),BVC(400-450nm))=mean(PP(100%-Avt_tot(420-450nm));PP(BVC(400-450nm)))
【0118】
それはまた、これら2つの数学関数の加重平均であってもよく、例えば、最小二乗方式による最良適合を利用して:
PP11=PP(100%-AvT_tot(420-450nm),BVC(400-450nm))=0.16*PP(BVC(400-450nm))+0.84*PP(100%-AvT_tot(420-450nm))
となる。
【0119】
この関数は、0~100%に含まれるすべての平均透過率における、青紫範囲でフィルタリングレートが大きく異なる数多くのフィルタサンプルについて、良好かつロバストな結果をもたらすことがわかった。
【0120】
420~450nmの範囲にわたる平均透過率、400~450nmの範囲にわたる加重平均透過率、及び400、410、420、430、440、450nmの波長を中心とする1nmバンドにわたる平均透過率の1つ又は複数を考慮したPP数学関数について、重み付けPP数学関数の例は、最小二乗方式による最良適合を利用して:
PP12=PP[BVC(400-450nm),100%-AvT_tot(420-450nm),Av_T((λm),λm=400,410,420,430,440,450nm)]=
0.20*PP(100%-AvT_tot(420-450nm))+
0.10*PP(BVC(400-450nm)+
0.70*PPWS(AvT(λm),λm=400,410,420,430,440,450nm))
となる。
【0121】
この関数は、バンドストップフィルタとロングパスフィルタを区別又は比較するために特に有益であることがわかった。実際には、フィルタA(ロングパス)及びB(バンドストップ)等の2種類の光学フィルタは、ある波長範囲にわたり同じ平均透過率(重み付けされるか否かを問わない)、すなわち、加重平均透過率BVC及び/又は平均透過率AvT_totを示すが、それでもそれらの光防護能は異なる。
【0122】
例えば、フィルタA及びBを比較すると、これらは同じ平均透過率AvT_tot(420-450nm)=84%と同じBVC(400-450nm)=19%を有するが、異なる光防護能が測定され、フィルタAが23%であるのに対し、フィルタBは30%である(下表参照)。
【0123】
これらの関数のおかげで、本発明によれば、いずれのフィルタの光防護能の数値でも、これらの関数のうちの1つと、このフィルタについて特定された対応するスペクトル特徴に基づいて計算することによって定量化できる。
【0124】
最後に、420~450nmの範囲にわたる平均透過率で得られる光防護能と、それぞれ400、410、420、430、440、450nmの波長での1つの透過率で得られる光防護能のうちの1つの加重平均を使用することも可能であり、この場合、重み付けPP数学関数の一例は次のとおり:
PP13=PP(100%-AvT_tot(420-450nm),AvT((λm),λm=400,410,420,430,440,450nm))=0.48*PP(100%-AvT_tot(420-450nm))+0.52*PPWS(AvT(λm),λm=400,410,420,430,440,450nm)
【0125】
この関数では、青色範囲400~450nm及び/又は420~450nmにおける50%より高い平均透過率について良好な結果が得られる。
【0126】
異なる透過率範囲には異なる関数も使用されてよい。
【0127】
求められる光防護能PPの数値は、光学パラメータが特定されたスペクトル特徴と等しいときの関数の数値である。
【0128】
実際に、例えば、フィルタの平均透過率を、求められるスペクトル範囲、例えば420~450nmの範囲にわたるその透過率を測定し、それを積分することによって簡単に特定することが可能である。
【0129】
求められる光防護能PPの数値は、横座標100%-AvT_tot(420-450nm)での関数PP(100%-AvT_tot(420-450nm))の数値である。
【0130】
測定された光防護能は閾値現象を有する生物学的効果であるため、フィルタリングレートが0%よりわずかに高い場合にPP測定値=0%を得ることができる。測定された光防護能は飽和現象を有する生物学的効果であるため、フィルタリングレートが100%より低い場合にPP測定値=100%を得ることができる。それゆえ、例として上述した式はすべて、0%~100%のPP計算値が得られるフィルタリングレートについて有効である。得られるPPの数値が[0%;100%]の範囲外となるフィルタリングレートについて、計算のための属性(attributed)PP値は、負の結果を持つPP計算値については0%、100%より大きいPPの計算値については100%となる。
【0131】
所定の波長でのフィルタのフィルタリングレートは、100%からこの波長でのそのフィルタの透過率の数値を引いたものと定義される。
【0132】
例えば、下表にまとめられているように、以下の結果がフィルタA~Fについて得られる。これらは、後述のように実験的なin vitro試験により得られた、光防護能測定値と比較されることになる。
【0133】
【0134】
それゆえ、関数で得られる光防護能の計算値は、測定値に非常に近い。これらの理論値のほとんどにより、光防護能に関する光学フィルタA~Fを効率的に比較できる。
【0135】
それゆえ、フィルタA~Fのようないずれのフィルタの光防護能も、本発明による方法のおかげで非常に簡単かつ迅速に特定されるかもしれない。
【0136】
驚くべきことに、関心対象の青色範囲の平均透過率AvT、及び特にAvT_tot(420-450nm)を唯一のパラメータとして使用する方法では、BVCパラメータを使用する場合より、BVCパラメータが青色光障害係数によって重み付けされていたとしても、(PP測定値に関する)よりよい全体的結果が得られる。
【0137】
AvT_tot(420-450nm)を使った計算はロバストな方法であり、その透過率曲線/対波長に関係なく、多数のフィルタに使用できる。
【0138】
AvT_tot(420-450nm)、BVC(400-450nm)、及びAvT(λm)を使ったモデル(検討中の青色範囲内の特定の具体的な波長に関する透過率の数値又は重み付けされた透過率の数値を使用)(上で定義)は、好ましいことに、青色波長範囲において低いフィルタリングレベル((AvT_tot(420-450nm)が50%未満)で使用できることがわかった。この種の計算は、青色範囲でのフィルタリングが低く(青色光に対する保護のため)、永久的装用に使用できる眼科用レンズの光防護能を特定するために特に適応され、これは装用者の視認にほとんど影響を与えず、それはこれらの透過率レベルが高く、黄色度が低い(CIE(1976)L*a*b*国際表色系で定義される表色係数b*がレンズ系全体を透過する光について4以下)からである。
【0139】
そのPPが国際表色系CIE L*a*b*で測定されている光学製品の表色係数は、標準光D 65と標準視野10°を考慮して、380~780nmの間で計算される。
【0140】
ここで、関数をどのように特定できるかをより詳しく説明する。本発明によれば、眼に関連するパラメータ、好ましくは生物学的パラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値を特定するための関数を、この光学フィルタの少なくとも1つのスペクトル特徴に基づいて特定する方法は、
- 前記所定の波長範囲にわたる光の透過を少なくとも部分的に遮断する基準フィルタ群の各基準フィルタの効果を定量化する前記数値を、各基準フィルタを通して照明された場合といずれのフィルタも用いずに直接照明された場合の眼に関連する前記パラメータ(好ましくは生物学的)に対する光の負の作用を比較することによって測定するステップと、
- 各基準フィルタについて、前記所定の波長範囲内の少なくとも1つの波長でのその透過率に関するこの基準フィルタの1つ又は複数のスペクトル特徴を特定するステップと、
- 前記関数を、その曲線が、対応する基準フィルタのスペクトル特徴に対してプロットされる基準フィルタの効果を定量化する測定値にフィットする数学関数として特定するステップと、
を含む。
【0141】
上述の例において、各基準フィルタの光防護能PPは、網膜光老化の、又はARMDのin vitroモデルでの、フィルタを用いない場合と比較した光学フィルタで得られるアポトーシスによる細胞死の減少として特定される。
【0142】
このin vitroモデルはA2Eを蓄積させた網膜色素上皮細胞を含み、これは査読済み科学雑誌PlosOne(plosone.orgウェブサイトで入手可能)の中で2013年8月23日に発表された、著者Arnault,Barrau et al.による“Phototoxic Action Spectrum on a retinal Pigment Epithelium model of Age-Related macular Degeneration Exposed to Sunlight Normalized Conditions”と題する論文の中に詳しく記載されている。
【0143】
A2Eは、視覚色素の化学的な感光誘導体である。A2Eは、N-レチニリデン-N-レチジルエタノールアミンである。
【0144】
先に引用したArnault et al.の論文に記載されているように、豚の網膜色素上皮細胞の初代培養を異なるA2E濃度で6時間培養し、適度な放射照度の照明に18時間曝露させた。
【0145】
これらを、基準フィルタ(400、410、420、430、440、450nm)のうちの1つを用いて、又は用いずに、10nm間隔で400~450nmを中心とする10nm幅の照明バンドのうちの1つか、又は基準フィルタのうちの1つを用いて、又は用いずに広帯域の可視光スペクトルで照明した。すべての実験において、いくつかの細胞をネガティブコントロールとして暗いまま保持した。
【0146】
これらの培養を細胞培養用ウェルプレートのウェルにセットする。
【0147】
この細胞培養用ウェルプレートの各区画を、光ファイバのおかげで、10nm幅のバンドの白色光で同時に照明するか、暗いままとする。
【0148】
基準光学フィルタは、ファイバから出る光の光路に、それが細胞の到達する前に固定することができる。
【0149】
光への曝露の後、6時間暗所に放置してからすべての細胞を調べる。
【0150】
それらのアポトーシスは、Apotox-Glo Triplexと称する民生用アッセイを使って評価する。
【0151】
2つの細胞照明系を使って細胞を照明する。
【0152】
第一の系は、ホワイトライトボックスと呼ばれ、可視範囲内の調節可能でプログラム可能な照明系である。この系は、プログラム可能な可変的スペクトル(狭帯域又は広帯域)と可視範囲内の放射照度を生成するようになされている。細胞照明系は、可視範囲内のいずれの所望のスペクトルでも提供するようになされる。それゆえ、昼光スペクトルを模倣できるだけでなく、warm-white又はcold-white LEDスペクトル、又は蛍光、白熱光スペクトル、さらには準単色光も模倣できる。ここで、ホワイトライトボックスは、例えば、400~600nm内の広帯域可視光に使用される。
【0153】
光源は例えば、1000W(Cermax)の高出力キセノンランプ光源である。光源は、可視範囲で106Wを発する。赤外放射を除去するために、市販の液体フィルタ及びホットミラー(Edmund Optics,)が使用される。液体フィルタには、フィルタの外側チャンバに取り付けるためのホースフィッティングが含められる。蒸留水により吸収されるエネルギーを除去するために、外部冷却が必要である。外部冷却には、水道水又は循環冷却器からの水を使用できる(AMS Technologies)。
【0154】
集光光学系(Edmund Optics)は光源からの光をスリットに集束させる。
【0155】
分光的に分散させる要素及び市販の調節可能なデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)(Texas Instruments)を使用することにより、可視範囲内のあらゆる所望のスペクトル、スリットサイズ(300μm~2mm)に応じて2~15nmの範囲で異なるスペクトル分解能を有する狭帯域及び広帯域を模倣できる。集光光学系は、すべてのスペクトル要素を開口数NA=0.56の液体ライトガイド(Thorlabs)の中に集光し、これは約70°の角円錐の強力な発散光ビームを生じさせる。
【0156】
照明系はまた、液体ライトガイドから射出した光をコリメートするための連続的なコリメート手段(Edmund Optics)と、液体ライトガイド(Thorlabs)で構成される4~5の異なるファイバ経路に光を分離するための所定の反射/透過係数を持つビームスプリッタ(Edmund Optics)も含む。
【0157】
最後に、液体ライトガイドは、光を市販のシリカ製強度均一化ロッド(Edmund Optics)の中へと広げ、これは96ウェルプレートの照明区画上の光を均一化する。
【0158】
細胞の入った96ウェルプレートは、いくつかの区画(6~9区画、35×17mm2、すなわち8ウェル又は35×35mm2、すなわち1区画あたり16ウェル)に分割される。
【0159】
広帯域可視光についてホワイトライトボックス内で光防護能PPを測定するために、96ウェルプレートの、1つを除くすべての区画を18時間にわたり400~600nm内の同じ広帯域網膜太陽スペクトルに曝露させる。1つの区画は暗いままとする(ネガティブコントロール)。基準光学フィルタを照明された区画のうちのいくつかの正面の、細胞と光との間に固定する。少なくとも1つの照明区画は、いずれのフィルタも使用しないままとする(ポジティブコントロール)。
【0160】
第二の系は青色光照明系であり、ブルーライトボックスと呼ばれ、査読済み科学雑誌PlosOne(plosone.orgのウェブサイトで入手可能)の中で2013年8月23日に発表された著者Arnault,Barrau et al.による“Phototoxic Action Spectrum on a retinal Pigment Epithelium model of Age-Related macular Degeneration Exposed to Sunlight Normalized Conditions”と題する論文の中に記載されている。ブルーライトボックスは、10nm単位の青緑スペクトル範囲390~520nm内の狭帯域(10nm幅)に細胞を曝露させるようになされている。
【0161】
10nm幅の青色照明バンドについて、ブルーライトボックス内で光防護能PPを測定するために、96ウェルプレートのいくつかの区画を18時間にわたり400~450nmの中の10nm照明バンドの1つに、基準光学フィルタを使用して、又は使用せずに同時に曝露させる。
【0162】
基準光学フィルタの光防護効果PPはまず、実際の生活のような多色光条件を模倣するためにホワイトライトボックスで測定した。得られたデータを使って、ホワイトライトボックス内で測定されたPPと、異なる波長範囲についての光学フィルタの平均透過率の数値、BVC及び100%-AvT_totとの間の数学関数を確立させた。
【0163】
BVC(400-450nm)及び/又は100%-AvT_tot(420-450nm)平均フィルタリング速度が50%より低く、BVC及び100%-AvT_tot(420-450nm)は非常に近いか等しいが、スペクトルプロファイルは異なるフィルタ(フィルタBとAのようにバンドストップ対ロングパス)に関して、ブルーライトボックスで光防護効果PPを測定し、400~450nm内の狭い青色照明バンドの各々の光防護効果を特定することができ、それゆえ、光防護力が近い光学フィルタを区別できるようにした。この場合、有利な点として、特定の波長での透過率AvT(λm)等、新しいパラメータをモデルに追加できる。
【0164】
各基準フィルタについて、細胞内のA2E濃度を一定として、以下を測定した:
- 基準フィルタを用いた場合のアポトーシスによる細胞死の割合A1(いくつかのウェル、少なくとも3つのウェルの平均)、
- いずれのフィルタも用いない場合のアポトーシスの割合A2(同じく、いくつかのウェル、少なくとも3つのウェルの平均)。
【0165】
測定された各割合に関して、暗い場合のアポトーシスの割合AD(ネガティブコントロール)を差し引く。
【0166】
このようにして、各基準フィルタを用いた場合の光誘導によるアポトーシスの割合が得られるAF=A1-AD。
【0167】
いずれのフィルタも用いない場合の光誘導によるアポトーシスの割合ANF=A2-ADも得られる。
【0168】
すると、光防護能はPP=(ANF-AF)/ANFとして計算される。
【0169】
本発明による方法で特定された光防護能と比較するために、フィルタA~Fの光防護能の測定値もまた、この方法により特定してよい。
【0170】
本発明による、眼に関連するパラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値を特定する装置であって、この光学フィルタは所定の波長範囲にわたる光の透過を少なくとも部分的に遮断し、この装置は、
- 前記所定の波長範囲内の少なくとも1つの波長でのこの光学フィルタの透過率に関する光学フィルタの少なくとも1つのスペクトル特徴を提供するための装置と、
- 前記パラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値を、それをステップa)で提供された光学フィルタの前記少なくとも1つのスペクトル特徴の関数として計算することにより特定するようにプログラムされた計算ユニットと、
を含む。
【0171】
この装置は、前述のように、本発明による方法を実行するようになされる。
【0172】
上述のように、スペクトル特徴を提供する装置は、フィルタの透過率スペクトルを測定するための分光計と、この測定スペクトルから、又は対応する透過率スペクトルをメモリ内に有するデータベースから推測するようにプログラムされたコンピュータ手段を含んでいてもよく、コンピュータ手段はこの記憶されたスペクトルからスペクトル特徴を推測するようにプログラムされる。スペクトル特徴を提供する装置はまた、求められるスペクトル特徴も含んでいてよい。
【0173】
計算ユニットは、前記パラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値を、それを前述の方法の実施形態の1つによりステップa)で提供される光学フィルタの前記少なくとも1つのスペクトル特徴の関数として計算することによって特定するようにプログラムされたコンピュータ手段を含む。
本開示には以下に例示する実施形態も開示される。
[実施形態1]
眼に関連するパラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値を特定する方法であって、この光学フィルタは所定の波長範囲の光の透過を少なくとも部分的に遮断するような方法において、
a)前記所定の波長範囲内の少なくとも1つの波長での前記光学フィルタの透過率に関する前記光学フィルタの少なくとも1つのスペクトル特徴が提供されるステップと、
b)前記パラメータに対する前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値が、ステップa)で提供された前記光学フィルタの前記少なくとも1つのスペクトル特徴の関数として計算されるステップと、
を含む方法。
[実施形態2]
ステップa)で、提供される前記少なくとも1つのスペクトル特徴は、前記所定の波長範囲全体にわたる及び/又は前記所定の波長範囲の特定の波長を中心とする縮小された波長範囲にわたる平均透過率、及び/又は前記所定の波長範囲全体にわたる及び/又は前記所定の波長範囲の特定の波長を中心とする縮小された波長範囲にわたる加重平均透過率を含む、実施形態1に記載の方法。
[実施形態3]
ステップa)で、前記光学フィルタの複数のスペクトル特徴が提供され、これは少なくとも、前記所定の波長範囲全体にわたる平均透過率、及び前記所定の波長範囲の異なる波長を中心とする縮小された波長範囲にわたる平均透過率を含む、実施形態1又は2に記載の方法。
[実施形態4]
ステップa)で、提供される前記少なくとも1つのスペクトル特徴は、前記所定の波長範囲全体にわたる、又は前記所定の波長範囲の特定の波長を中心とする縮小された波長範囲にわたる加重平均透過率を含み、ある波長における前記光学フィルタの透過率の各数値は、前記眼に関連する前記パラメータに関する光の作用スペクトルの同じ波長における対応する数値で重み付けされる、実施形態1~3の何れか1項に記載の方法。
[実施形態5]
前記光学フィルタの前記効果は、前記眼に関連する前記パラメータに対する青色光の負の作用に対する前記光学フィルタの光防護効果であり、前記波長範囲は380~500ナノメートル、好ましくは400~455ナノメートル、好ましくは400~450ナノメートル、好ましくは415~455ナノメートル、好ましくは420~450ナノメートルである、実施形態1~4の何れか1項に記載の方法。
[実施形態6]
前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値は、前記眼の青色光に対する反応を定量化する、実施形態5に記載の方法。
[実施形態7]
ステップa)で、提供される前記少なくとも1つのスペクトル特徴は加重平均透過率であり、ある波長での前記フィルタの透過率の各数値は、このある波長での青色光障害関数の数値として特定された係数により重み付けされるこの加重平均において考慮される、実施形態5又は6に記載の方法。
[実施形態8]
ステップb)で、前記眼に関連する前記パラメータに対する前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値は、前記眼に関連する前記パラメータを前記眼への光の透過に関する光学パラメータに関連付ける所定の関数を使って計算される、実施形態1~7の何れか1項に記載の方法。
[実施形態9]
ステップb)で、前記パラメータは生物学的パラメータであり、前記所定の関数では、眼の細胞に対するin vitroで、又は動物の眼に対するin vivoで、光と細胞との間に光学フィルタを設置することによって異なる波長範囲を含む光でこの眼を照明した後に測定される前記生物学的パラメータの数値を含む実験データ群が考慮される、実施形態8に記載の方法。
[実施形態10]
ステップb)で、前記所定の関数は、その曲線が前記実験データにフィットする数学関数を特定することにより特定される、実施形態8又は9に記載の方法。
[実施形態11]
ステップa)で、前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値は青色光に対する前記眼の反応に関し、ステップb)で、前記所定の関数は少なくとも2次の多項式を含む、実施形態10に記載の方法。
[実施形態12]
前記所定の関数は、前記実験データをフィットさせることによって特定された複数の数学関数の平均又は加重平均を含む、実施形態11に記載の方法。
[実施形態13]
ステップa)で、提供される前記少なくとも1つのスペクトル特徴は、第一の所定の波長範囲にわたる平均透過率と第二の所定の波長範囲にわたる加重平均透過率を含み、ステップb)で、前記所定の関数は2つの数学関数の平均又は加重平均を含み、各々が前記眼に関連する前記パラメータを前記第一の所定の波長範囲にわたる前記平均透過率と前記第二の所定の波長範囲にわたる前記加重平均のうちの一方に関連付ける、実施形態12に記載の方法。
[実施形態14]
前記パラメータは、網膜色素上皮細胞のアポトーシスの割合に関する生物学的パラメータであり、前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値は、青色光曝露に関連する眼の細胞のアポトーシスの割合の低下を定量化する、実施形態1~13の何れか1項に記載の方法。
[実施形態15]
眼に関連するパラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値を特定するための関数をこの光学フィルタの少なくとも1つのスペクトル特徴に基づいて特定する方法であって、この光学フィルタは所定の波長範囲にわたる光の透過を少なくとも部分的に遮断するような方法において、
- 前記所定の波長範囲にわたる光の透過を少なくとも部分的に遮断する基準フィルタ群の各基準フィルタの効果を定量化する前記数値を、各基準フィルタを通して照明された場合と、フィルタを一切用いずに直接照明された場合の、前記眼の前記パラメータに対する光の負の作用を比較することによって測定するステップと、
- 各基準フィルタについて、前記所定の波長範囲内の少なくとも1つの波長でのその透過率に関するこの基準フィルタの1つ又は複数のスペクトル特徴を特定するステップと、
- 前記関数を、その曲線が前記基準フィルタの効果を定量化する測定値にフィットする数学関数を、対応する前記基準フィルタの前記スペクトル特徴の関数として特定することによって特定するステップと、
を含む方法。
[実施形態16]
眼に関連するパラメータに対する光学フィルタの効果を定量化する数値を特定するための装置であって、この光学フィルタは所定の波長範囲にわたる光の透過を少なくとも部分的に遮断するような装置において、
- 前記所定の波長範囲内の少なくとも1つの波長での前記光学フィルタの透過率に関する前記光学フィルタの少なくとも1つのスペクトル特徴を提供する装置と、
- 前記パラメータに対する前記光学フィルタの効果を定量化する前記数値を、ステップa)で提供された前記光学フィルタの前記少なくとも1つのスペクトル特徴の関数としてそれを計算することにより特定するようにプログラムされた計算ユニットと、
を含む装置。