IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ タタ、スティール、ユーケー、リミテッドの特許一覧

特許7053483電池ケース用の鋼板の製造方法、およびその方法により製造される電池ケース
<>
  • 特許-電池ケース用の鋼板の製造方法、およびその方法により製造される電池ケース 図1
  • 特許-電池ケース用の鋼板の製造方法、およびその方法により製造される電池ケース 図2
  • 特許-電池ケース用の鋼板の製造方法、およびその方法により製造される電池ケース 図3
  • 特許-電池ケース用の鋼板の製造方法、およびその方法により製造される電池ケース 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】電池ケース用の鋼板の製造方法、およびその方法により製造される電池ケース
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/124 20210101AFI20220405BHJP
   H01M 50/119 20210101ALI20220405BHJP
   H01M 50/117 20210101ALI20220405BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20220405BHJP
   C23C 16/26 20060101ALI20220405BHJP
   H01M 6/04 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
H01M50/124
H01M50/119
H01M50/117
C23C28/00 B
C23C16/26
H01M6/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018546813
(86)(22)【出願日】2017-03-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 EP2017054932
(87)【国際公開番号】W WO2017153254
(87)【国際公開日】2017-09-14
【審査請求日】2020-02-28
(31)【優先権主張番号】16158865.2
(32)【優先日】2016-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】598019897
【氏名又は名称】タタ、スティール、ユーケー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL UK LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】サイ、シバレディ
(72)【発明者】
【氏名】シバサンブ、ベーム
(72)【発明者】
【氏名】サムソン、パトール
(72)【発明者】
【氏名】ディグビジャイ、バグワン、タクール
(72)【発明者】
【氏名】ダムス、ハンス、ファン、デア、ウェイデ
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/074752(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0083820(KR,A)
【文献】国際公開第2012/147843(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/005774(WO,A1)
【文献】特表2015-517034(JP,A)
【文献】特開2006-257533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10-50/198
C23C 28/00
C23C 16/26
H01M 6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niめっき鋼板または鋼帯を準備すること、
前記Niめっき鋼板または鋼帯上に、
前記Niめっき鋼板または鋼帯を筐体内に入れ、
前記筐体の内容物を加熱し、
前記筐体へグラフェン前駆体を供給する、
ことを含む化学気相蒸着により、グラフェン系被覆を適用すること、
前記鋼板または鋼帯を冷却すること、
前記鋼板または鋼帯から、プレートまたはディスクを切り出すこと、および
前記プレートまたはディスクの引抜き操作を、前記鋼板もしくは前記鋼帯、またはそこから切り出した前記プレートおよび/もしくはディスク上へ、引抜き潤滑剤を適用せずに実施することを含む、電池ケースの製造方法であって、
前記筐体中の雰囲気は、不活性ガス、または窒素ガス、または水素ガスおよび窒素ガスの混合物、または水素ガスおよび不活性ガスの混合物を含み、
前記グラフェン系被覆層を、前記筐体内において、0.7~2barの大気圧に近い圧力範囲内の圧力で適用する、電池ケースの製造方法
【請求項2】
前記グラフェン前駆体は固体または気体を含む炭素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グラフェン前駆体は、アセチレン、メタンおよびエチレンガスからなる群から選択される一種以上の気体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記Niめっき鋼板または鋼帯を、400~750℃の範囲の温度まで前記筐体内で加熱する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
水素および/またはアセチレンの濃度レベルは、1.0%~5.0%の水素および/または0.5%~2.5%のアセチレンの範囲に維持される、請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記鋼板または鋼帯上の前記グラフェン被覆層についての化学気相蒸着成長時間は、5~900秒の範囲である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記グラフェン系被覆層を、焼鈍炉で前記Niめっき鋼板または鋼帯へ適用する、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記焼鈍炉は連続焼鈍炉である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、前記グラフェン系被覆層の蒸着の後、調質圧延工程を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記Niめっき鋼板または鋼帯が、前記電池ケースの内側表面に対応する前記鋼板または鋼帯の面第1のNi被覆層を備え、前記電池ケースの内側表面に対応する前記鋼板または鋼帯の面とは反対の前記鋼板または鋼帯の面上第2のNi被覆層を備える、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記Niめっき鋼板または鋼帯が、前記電池ケースの内側表面に対応する前記鋼板または鋼帯の面上に、前記第1のNi被覆層と、前記第1のNi被覆層上に設けられたCo被覆層とを備える、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池ケース用の鋼板の製造方法、およびその方法により製造される電池ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルめっき鋼帯は、一次電池および二次電池の電池ケースの製造に広く使用されている。ニッケルは、典型的には、連続プロセスにより軟鋼帯上に電気めっきされ、次に焼鈍され、調質圧延されて、電池に適用するための所望の機械的および電気的特性を得る。ニッケルめっきされた電池は集電体電極として機能することができるため、電気的特性が重要である。場合によっては、コバルトおよびグラファイトを電気めっきまたは共蒸着して、下層にある低炭素鋼の腐食を防止する良好な電気化学的安定性とともに、電池の抵抗を低減することにより、性能を向上させる。
【0003】
しかしながら、これらのコーティングについていくつかの問題、即ち、
ニッケルは、一次アルカリ電池中に存在するアルカリ性溶液の存在下で、ニッケルの導電性を低下させる酸化ニッケル層(β-Ni(OH)、すなわち絶縁性酸化ニッケルを形成する傾向があり、またこの絶縁層の存在は、一次アルカリ電池の「時効」を引き起こすこと、
ニッケル被覆鋼にコバルトなどの一部の遷移金属を添加すると、酸化コバルトはより安定であり、ニッケル酸化物をより多く伝導するため、導電性が向上し、内部抵抗が低減し、時効効果が低減する。しかし、これらの金属は高価であり、また毒性がある場合があること、そして毒性の金属イオンが高濃度で存在する場合には、電池の廃棄時に特別な注意が必要であること、
電池の加工には、深絞り加工を行う必要があり、この加工には、湿式潤滑剤が必要不可欠であること。深絞りの後に、電池ケースをアルカリ溶液で洗浄して、使用した潤滑剤を除去する必要があり、これは更なるコストをもたらす余分な工程であること、
という問題が存在する。
【0004】
電池の内部抵抗を低減させる別の解決策は、電池缶を作製した後に導電性グラファイトを塗布することである。缶に塗布されたグラファイトは、電池内の地金の電極よりも、金属集電体へ良好な界面を提供することができる。
【0005】
電池はグラファイト塗料により、それが存在しない場合よりも良好に機能するが、電池缶内部のグラファイト被覆は、内側表面上では均一に被覆されていない。これは、電池缶の円筒形状のために缶の底面に噴霧が到達しないという、噴霧処理の性質によるものである。この処理はまた、電池缶の外側への漏出や、塗料中に存在するグラファイト粒子の噴霧ノズルの目詰まりによるダウンタイムのため、使用されるグラファイト材料の量に関してそこまで効果的ではない。
【0006】
グラファイトベースの被覆系は、そのような導電性被覆の鋼表面への接着性が乏しいという問題のため、良好に機能しない。そのようなグラファイト樹脂被覆鋼帯の接着性を改善するために、クロム酸塩ベースのプライマーを使用する必要がある。グラファイトによる被覆は、そこまで均一ではなく、このような粗い被覆は、溶接に問題をもたらし得る。クロムはまた、健康および環境に悪影響を及ぼし、現在の規制下では欧州でクロムの使用は禁止されている。グラファイト被覆の他の問題は、それらが腐食に対して害を及ぼすことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、改善された導電性を有する、電池ケース用の鋼板または鋼帯を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、低減された接触抵抗を有する、電池ケース用の鋼板または鋼帯を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、改善された耐腐食性を有する、電池ケース用の鋼板または鋼帯を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、低減された厚さの被覆を有する、電池ケース用の鋼板または鋼帯を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、必要とされるNiの量が低減された、電池ケース用の鋼板または鋼帯を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、コバルトやグラファイト被覆層などのいかなる追加の被覆層がもはや必要としない、電池ケース用の鋼板または鋼帯を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、電池缶またはケーシングの内側へのグラファイト塗料の噴霧という余分な工程の削除が達成された、電池ケース用の鋼板または鋼帯を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、フルハードスチールおよび/または焼鈍された鋼板または鋼帯の複合焼鈍と、鋼板または鋼帯上のグラフェン被覆の成長とが得られる、電池ケース用の鋼板または鋼帯を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、引抜き操作のための潤滑剤をもはや必要としない十分な潤滑特性を有する被覆を備える、電池ケース用の鋼板または鋼帯を提供することである。
【0016】
本発明の更に別の目的は、鋼板または鋼帯上へグラフェン系被覆をコスト効率良く適用する方法を提供することである。
【発明の詳細な説明】
【0017】
本発明の第一の態様によると、本発明の一以上の目的は、以下の工程、
Niめっき鋼板または鋼帯を準備すること、
Niめっき鋼板または鋼帯上にグラフェン系被覆を適用すること、
を含む、電池ケース用の鋼板または鋼帯の製造方法を提供することにより実現される。
【0018】
グラフェン系被覆中のグラフェンは、一層以上の層グラフェン、好ましくは20層以下の層グラフェンを含み、グラフェン系被覆は、非晶質もしくは結晶性sp2混成炭素、またはそれらの混合物を更に含んでいてもよい。
【0019】
グラフェンは、アルカリ性環境において電気化学的に安定であり、また酸化ニッケルの形成を防ぐニッケル表面の不動態化も提供する。これは、アルカリ電池において、グラファイトおよび酸化マンガンの混合物であるカソードミックスとの低い接触抵抗を提供する。ニッケルめっき鋼上のグラフェン層はまた、良好な固体状潤滑剤であり、したがって、ニッケルめっき鋼の表面に、深絞りなどの加工(引抜き、再引抜きおよびウォールアイロニング(wall ironing))および成形のための自己潤滑を提供する。
【0020】
溶媒系グラフェン被覆層は、コイル塗装、噴霧、バー塗布などの方法により適用することができる。この目的のために、グラフェン系被覆層は、グラフェンと、鋼板または鋼帯とを結合するためのカップリング剤を含む。そのようなカップリング剤は、例えば、有機官能性シランまたは有機官能性シロキサンである。
【0021】
しかしながら、本発明の好ましい態様によると、グラフェン系被覆層は、化学蒸着(CVD)により適用される。CVDを用いると、ファンデルワールス相互作用により、グラフェン系被覆層と、鋼板または鋼帯との間の良好な接着が得られる。グラフェン系被覆層の蒸着のためにCVDを用いる利点は、0.1~10mohm.cmのオーダーの、非常に低い接触抵抗が得られることである。そのような低い接触抵抗は、溶媒系グラフェン被覆が鋼板または鋼帯へ適用される場合には、得られない。
【0022】
本発明の更なる態様によると、該方法は以下の工程、
Niめっき鋼板または鋼帯を筐体内に入れること、
前記筐体の内容物を加熱すること、
前記筐体へグラフェン前駆体を供給すること、
を含む。
【0023】
該方法に使用されるグラフェン前駆体は、固体または気体を含む炭素である。固体を使用する場合には、該固体を最初に溶媒へ溶解させ、該固体の溶液を筐体へ注入するか、または最初に気化させて、その後筐体へ注入する。
【0024】
気体を使用する場合には、直接筐体へ注入するか、または搬送ガスを用いて筐体へ注入することができる。搬送ガスとしては、アルゴンまたはその他の不活性ガスを使用することができる。気体状グラフェン前駆体としては、アセチレン、メタンおよびエチレンガスからなる群から選択される一種以上の気体を使用する。代替的に、メタンおよびエチレンを含む、コークス炉ガスを使用することができる。
【0025】
本発明の更なる態様によると、焼鈍炉により、グラフェン系被覆層をNiめっき鋼板または鋼帯へ適用する。Niめっき鋼板または鋼帯は、焼鈍工程へ供して、所望の電気特性、すなわち、低い内部抵抗のための、Fe-Ni拡散層を得る必要がある。焼鈍炉がCVD処理の筐体として機能する、Niめっき鋼板または鋼帯の焼鈍の間に、CVDによりグラフェン系層を適用することができることが見出された。
【0026】
Niめっき鋼板または鋼帯を、筐体内で、400~750℃の範囲、好ましくは500~750℃の範囲、より好ましくは600~750℃の範囲の温度へ加熱する。これらの温度範囲は、焼鈍処理およびCVD処理の両方に適している。
【0027】
Niめっき鋼板または鋼帯の酸化を防止するために、筐体中の雰囲気は、不活性ガスまたは、窒素ガスまたは、水素ガスおよび窒素ガスの混合物、または水素ガスおよび不活性ガスの混合物を含むことを条件とする。
【0028】
多くのCVD処理は、望ましくない気相反応を低減し、蒸着層の均一性を改善するために、真空条件下で行われる。真空は、低真空範囲であっても、特定の真空ポンプシステムおよび真空封止を必要とし、これは該方法を相当な程度に複雑にし、経済的に実行可能ではないものとしかねない。しかしながら、非常に良好な結果が、0.7~2barの大気圧範囲に近い圧力で、筐体内でグラフェン系被覆層を適用することにより実現された。そのような大気圧に近い圧力範囲を用いると、該方法を、既存の焼鈍炉と容易に統合することができる。鋼板または鋼帯へのグラフェン被覆のCVDに用いられる反応ガスの濃度は、非常に低いレベル、すなわち、1.0%~5.0%の範囲の水素および/または0.5%~2.5%のアセチレン、典型的には1.3%~3.5%の水素および/または0.65~1.7%のアセチレンに維持されている。これらの濃度レベルを用いると、反応性気体の混合物は、爆発限界以下に維持される。高品質グラフェン被覆は、これらの濃度レベル下で蒸着した。これはまた、低レベルの消耗品において、グラフェン被覆された鋼板または鋼帯の連続的製造を支持する。
【0029】
Niめっき鋼板または鋼帯の焼鈍を、バッチ法または連続法として実施することができる。後者の方法において、焼鈍炉は連続焼鈍炉である。
【0030】
鋼板または鋼帯上へのグラフェン被覆層の化学気相蒸着成長時間は、5秒~900秒の範囲、好ましくは5~400秒の範囲、より好ましくは5~100秒の範囲、さらにより好ましくは5~20秒の範囲である。成長時間は、鋼板または鋼帯が筐体内にあり、反応性ガスと接触する滞留時間を意味する。比較的長い成長時間を使用することができるが、比較的短い成長時間により、連続焼鈍を可能にし、結果的に鋼板または鋼帯上のグラフェン合成の連続製造を可能にする。本発明の別の態様において、焼鈍し、同時にグラフェン被覆を蒸着できる、フルハード鋼板または鋼帯の使用が可能である。
【0031】
本発明の別の態様によると、該方法は、グラフェン系被覆層の蒸着後に、調質圧延工程を含む。筐体である焼鈍炉中の温度は、グラフェン系被覆のCVD、および鋼板または鋼帯の焼鈍の両方のために十分に高い温度、すなわち400℃超の温度である必要があるため、鋼板または鋼帯を調質圧延する必要がある。
【0032】
また、更に、電池ケースの内側表面に対応する鋼板の面上にNi被覆層および所望により該Ni被覆層上にCo被覆層を備え、反対の面上にNi被覆層を備える、Niめっき鋼板または鋼帯を提供する。所望によるCo被覆層が無い場合、Ni系被覆層およびCo被覆層の間よりも良好な、グラフェン系被覆およびNi被覆層の間の内部抵抗を実現することができる。
【0033】
本発明はまた、少なくとも電池ケースの内側表面に対応する鋼板の面で、鋼板にグラフェン系被覆層が施されている、電池ケース用のNiめっき鋼板にも関する。鋼板の両側のグラフェン層からもたらされる潤滑性は深絞り加工に有用であるため、Niめっき鋼板の両側にグラフェン系被覆を有することが好ましい。更に、両側のグラフェン系被覆はまた、ニッケルめっき鋳鋼、すなわち一次電池の集電体電極の性能の改善にも有用である。
【0034】
別の実施形態によると、電池ケースの内側表面に対応する鋼板の面にNi被覆層を有し、反対の面上にNi被覆層および該Ni被覆層上に所望によりCo被覆層を有する、Niめっき鋼板または鋼帯を提供する。所望によるCo被覆層が無い場合、Ni系被覆層およびCo被覆層の間よりも良好な、グラフェン系被覆層およびNi被覆層の間の内部抵抗を実現することができる。
【0035】
電池ケースの製造方法は、以下の工程、
Niめっき鋼板または鋼帯を準備すること、
Niめっき鋼板または鋼帯を筐体内に入れること、
前記筐体の内容物を加熱すること、
前記筐体へグラフェン前駆体を供給すること、
前記鋼板または鋼帯を冷却すること、
前記鋼板または鋼帯から、プレートまたはディスクを切り出すこと、
を含み、前記プレートまたは前記ディスクの引抜き操作は、引抜き潤滑剤を前記鋼板もしくは前記鋼帯、またはそこから切り出した前記プレートおよび/もしくはディスク上へ適用せずに、実施する。
【0036】
更なる態様によると、該方法は、グラフェン系被覆層の蒸着の後に調質圧延工程を含み、所望により、前記調質圧延後に別の焼鈍工程を実施することもできる。
【0037】
更なる態様によると、該方法において、筐体内の圧力は、0.7~2barの大気圧に近い圧力範囲に維持される。
【0038】
更なる態様によると、該筐体は、焼鈍炉または連続焼鈍炉である。
【0039】
電池缶のために用いられる鋼板または鋼帯の厚さは、0.1~0.5mmの範囲であり、Ni被覆層は、0.1~50μmの範囲の厚さで適用される。ニッケルめっき鋼板または鋼帯は、フルハードまたは焼鈍鋼帯である。
【実施例
【0040】
実施例は、CVD反応器を使用するCVD処理による、AA電池275μmゲージについての、Ni-Coめっき軟鋼およびNiめっき軟鋼という二つの異なる基板上におけるグラフェンの成長に関する。CVD処理後、514.5cm-1のレーザー波長でスペクトロメーターを用いて、ラマン分光法により試料を特徴付けた。表面の走査電子顕微鏡画像を、電界放出型走査型電子顕微鏡を用いて得た。めっき鋼基板上のグラフェンを、次に、その潤滑および成形性について手動操作式のドーム状機器を使用して試験した。その後に、電池缶を得るための試料について多段階深絞り試験を行った。
【0041】
平面試料もまた、標準燃料電池界面接触抵抗(ICR)測定セットアップを用いて、それらの接触抵抗について試験した。CVD処理を、2:1の比の水素およびアセチレンとともに、搬送ガスとしてアルゴンおよび/または窒素を使用して、700mbarの圧力および600~750℃の温度で行った。アセチレン流を止め、炉を10℃/分で室温まで冷却した。全ての試料についての成長時間は、5~900秒の範囲であった。
【0042】
試験の測定結果を、図を基にして説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1図1は、750℃での鋼基板上のグラフェン系被覆のラマンスペクトルを示す。
図2図2は、750℃でのグラフェン系被覆が適用されたNiめっき鋼表面のトポグラフィーのSEM画像を示す。
図3図3は、グラフェン被覆試料について実施した機械的試験の結果を示す。
図4図4は、様々なグラフェン系被覆試料の接触抵抗を示す。
【0044】
図1は、試料のグラフェン系被覆のラマンスペクトルを示す。ラマン分光法は、グラフェンの存在を決定するために広く使用されている特性評価技法である。該スペクトルの最も一般的なピークは、1365cm-1周辺のDバンド、1584cm-1のGバンド、および2700cm-1周辺の2Dバンドである。一般的に、低いDバンドは、sp2混成炭素結晶構造の乱れ(disorder)が低いことを示す。Gバンドは、常に黒鉛状炭素(任意の結晶性sp2炭素または、結晶封入体を備える非晶質炭素)中に観察され、グラフェンの2Dバンドは、グラファイトと比較して、ピークの中心について対称である。CVDにより調製された全ての試料を、ラマン分光法により特徴付けた。焼鈍筐体中の温度、圧力およびガス比を変更することにより、示されたラマンスペクトルのDピークが低くなるように、成長方法を最適化した。最適な値は、600~700℃の温度範囲、0.7~2barの圧力範囲、および2:1水素対アセチレン比であることが分かった。ピーク幅>30cm-1の対称な2Dピークのここでの波数は、標準的なグラファイト層の間に見られるような標準的なファンデルワールス相互作用が無く、グラフェン層の多層による積層は無いことを示している。
【0045】
図2は、グラフェン系被覆層が適用された、Niめっき鋼表面のトポグラフィーのSEM画像を示す。SEM画像の倍率は25000である。SEM顕微鏡写真は、ニッケル-グラフェン表面の粒子の種類を示す。グラフェンは、均一な様式で表面に従って成長し、これは面内の等角な成長であることを示す。Niめっき表面の平均粗さは25~50nmであるが、ピーク粗さは100nm以上のオーダーである可能性がある。ナノメートル当たり3層のグラフェン層が存在すると仮定すると、5nm厚の多層グラフェン試料は、約15層を有することになる。表面粗さおよびCVDグラフェン系被覆の極薄な性質の結果として、層厚を測定することは容易ではない。
【0046】
図3は、グラフェン被覆試料に実施した機械的試験の結果を示す。成長した試料を有するドームを、手動操作のドーム状機器を用いて作製した。図3のドームは、左から右へそれぞれ、潤滑剤無し(左)、工業用潤滑剤有り(中央)、およびグラフェン系被覆有り(右)の試料から形成されている。グラフェン系被覆層有りの試料は、自己潤滑性である。この試験において、成形性の情報は、ドームが破断する前のドームの最大高さから得られ、潤滑性は、ボールと接触するドームの中心点までの破断距離から得られる。良好な潤滑性を有する理想的な二軸歪みシナリオにおいて、破断は中央で生じることが予測される。摩擦が大きいほど、ドームの中心点からの破断距離は大きくなる。この試験を実施して、電池製造の間の形成工程(深絞り)と同様に、高圧接触領域下で、グラフェン層の潤滑性の指標を得る。被覆されていない試料を、乾燥および潤滑状態の両方で試験し、グラフェン試料を乾燥状態で試験した。全ての試料は、厚さが約0.275mmであった。乾燥潤滑試験のために、用具をアセトンで洗浄した。試験後に以下の点を書き留めた。
潤滑剤有りの試料についての潤滑性は、亀裂がドームの厳密に頂上から形成しなかったため、最適ではなかった。
試料上の渦模様は、ボールの何らかの回転摩擦を示し、おそらく結果に影響する。
グラフェン試料の亀裂形成は、被覆無しで潤滑剤有りの試料よりも頂上に近くで生じ、高レベルの潤滑性(低い摩擦係数)を示している。
【0047】
ドームの中心からの破断点距離(mm)は、被覆無しの基板、工業用潤滑剤有りの基板、およびグラフェン系被覆層有りの基板試料のそれぞれについて、6.23、4.35および3.2であった。
【0048】
試料を600~750℃でグラフェン成長させた。750℃で成長させた試料は、ドームの最大高さに大きな差を示さず、更に高温で成長させても顕著に成形性を変化させないことを暗示している。更に、粒子分析は、試験した材料は典型的な焼鈍ニッケルめっき鋼と同様に再結晶し、CVD処理は電池ケースの深絞りに必要とされる鋼板または鋼帯の機械特性を維持していることを示した。いくつかのグラフェン被覆試料は、パッケージングに使用される標準的な工業用潤滑剤よりも良好な潤滑性を示すため、グラフェン被覆側においてはいかなる潤滑剤も用いずに深絞りを実施いた。他の面は、グラフェンを全く有していないため、いくらかの潤滑剤を塗布した。
【0049】
図4の曲線は、様々なグラフェン被覆試料の接触抵抗を示す。接触抵抗測定は、試料が、二つのカーボンシート(トレイ)の間に挟まれ、金で被覆された二つの平坦な接点を用いて両側を既知の圧力でプレスした、燃料電池バイポーラ板のための手順に従って実施した。カーボンシートの接触領域と、金電極との間の圧力が上昇すると、既知の電圧で電流を測定することにより接点の間の抵抗値が測定される。次に、比較のために、金めっきステンレス鋼について測定を行う。この設定は燃料電池バイポーラ板の測定のために設計されているが、(ニッケルめっき鋼で被覆された)電池における集電体と接触するカソードミックスを含むグラファイトと接触する場合の接触抵抗についても適用することができる。CVD被覆試料についての接触抵抗曲線は、1mOhm.cmと同程度に低く、場合によっては、下図に赤で示されている金めっきステンレス鋼よりも低い。
図1
図2
図3
図4