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▶ ロンドン スクール オブ ハイジーン アンド トロピカル メディシンの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-04
(45)【発行日】2022-04-12
(54)【発明の名称】レオウイルス科ワクチン
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/46 20060101AFI20220405BHJP
   C12N 7/04 20060101ALI20220405BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220405BHJP
   A61K 39/15 20060101ALI20220405BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20220405BHJP
【FI】
C12N15/46 ZNA
C12N7/04
C12N5/10
A61K39/15
A61P31/12 171
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2018555111
(86)(22)【出願日】2017-04-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-06
(86)【国際出願番号】 GB2017050994
(87)【国際公開番号】W WO2017187131
(87)【国際公開日】2017-11-02
【審査請求日】2020-03-25
(31)【優先権主張番号】1607196.1
(32)【優先日】2016-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】510144742
【氏名又は名称】ロンドン スクール オブ ハイジーン アンド トロピカル メディシン
【氏名又は名称原語表記】LONDON SCHOOL OF HYGIENE & TROPICAL MEDICINE
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】ロイ,ポリー
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-504367(JP,A)
【文献】特表平09-504941(JP,A)
【文献】特表2003-503039(JP,A)
【文献】特表2014-527799(JP,A)
【文献】特表2015-525076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アフリカ馬疫ウイルス(AHSV)のゲノムに由来する単離ウイルスssRNAであって、ssRNAが前記ウイルスのS9セグメントの少なくとも一部を含み、その中に前記ウイルスのS9セグメント内の複数の変異を有し、さらに、それぞれの変異が、少なくとも前記ssRNAに導入された後に、S9セグメント内の少なくとも1つの必須遺伝子の機能を破壊する終止コドンを提供またはコードする、単離ウイルスssRNA。
【請求項2】
前記少なくとも1つの必須遺伝子がVP6およびNS4からなる群から選択される、請求項1に記載の単離ウイルスssRNA。
【請求項3】
前記変異が少なくともVP6およびNS4の機能を破壊する、請求項1または2に記載の単離ウイルスssRNA。
【請求項4】
前記変異が図11にAHSV1 S9配列として示す野生型S9セグメントのヌクレオチド288~877にまたはその間に挿入される、請求項1から3のいずれか一項に記載の単離ウイルスssRNA。
【請求項5】
前記変異が、図11にAHSV1 S9配列として示す野生型S9セグメントの288~304;377~386;590~608;および872~877からなる群から選択される1つまたは複数のヌクレオチド部位にまたはその間に導入される、請求項1から4のいずれか一項に記載の単離ウイルスssRNA。
【請求項6】
少なくとも1つの変異がそれぞれのヌクレオチド部位に導入される、請求項5に記載の単離ウイルスssRNA。
【請求項7】
少なくとも以下の変異が図11にAHSV1 S9配列として示す野生型S9セグメントのそれぞれのヌクレオチド部位に導入される、請求項5に記載の単離ウイルスssRNA:
a.288~304にまたはその間における少なくとも3つの変異;
b.377~386にまたはその間における少なくとも3つの変異;
c.590~608にまたはその間における少なくとも3つの変異;
d.872~877にまたはその間における少なくとも2つの変異。
【請求項8】
さらなるフレームシフト変異が、図11にAHSV1 S9配列として示す野生型S9セグメントの部位288~304にまたはその間に導入され、これが、少なくとも前記ssRNAに導入された後に、NS4の機能を破壊する終止コドンをコードする、請求項7に記載の単離ウイルスssRNA。
【請求項9】
AHSVのS9セグメントの少なくとも1つの必須遺伝子を発現し、請求項1から8のいずれか一項に記載のssRNA中の変異した前記必須遺伝子を相補する細胞であって、それにより、ssRNAに感染した場合に、細胞におけるワクチン用ウイルス株の複製が可能であり、さらに請求項1から8のいずれか一項に記載のssRNAに感染した、細胞。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載の単離ウイルスssRNAを含む、ワクチン用ウイルス株。
【請求項11】
ワクチン用ウイルス株が血清型特異的であり、そのため、AHSV1、AHSV2、AHSV3、AHSV4、AHSV5、AHSV6、AHSV7、AHSV8およびAHSV9のいずれか1つを含む、請求項10に記載のワクチン用ウイルス株。
【請求項12】
AHSV1~9の任意の組み合わせを含み、AHSV1~9のすべてを含む、複数の前記血清型を含む、請求項11に記載のワクチン用ウイルス株。
【請求項13】
治療において使用するための、請求項10から12のいずれか一項に記載のワクチン用ウイルス株。
【請求項14】
治療において使用するための、請求項1から8のいずれか一項に記載の単離ウイルスssRNA。
【請求項15】
AHSVに対する非ヒト動物のワクチン接種において使用するための、請求項10から12のいずれか一項に記載のワクチン用ウイルス株。
【請求項16】
AHSVに対する非ヒト動物のワクチン接種において使用するための、請求項1から8のいずれか一項に記載の単離ウイルスssRNA。
【請求項17】
非ヒト動物がウマ、ポニー、ラバ、ロバまたはシマウマからなる群から選択される、請求項15に記載のワクチン用ウイルス株または請求項16に記載の単離ウイルスssRNA。
【請求項18】
請求項10から12のいずれか一項に記載のワクチン用ウイルス株を、薬学的に許容される担体、アジュバントまたはビヒクルと組み合わせて含む、医薬組成物。
【請求項19】
請求項1から8のいずれか一項に記載の単離ウイルスssRNAを、薬学的に許容される担体、アジュバントまたはビヒクルと組み合わせて含む、医薬組成物。
【請求項20】
請求項18または19に記載の医薬組成物および1種または複数の追加の抗ウイルス剤(複数可)を含む、組み合わせ治療薬。
【請求項21】
AHSVに対する非ヒト動物のワクチン接種方法であって、請求項10から12のいずれか一項に記載のワクチン用ウイルス株または請求項18または19に記載の医薬組成物の有効量を非ヒト動物に送達または投与することを含む、方法。
【請求項22】
AHSVに対する非ヒト動物のワクチン接種方法であって、請求項1から8のいずれか一項に記載の単離ウイルスssRNAまたは請求項18または19に記載の医薬組成物の有効量を非ヒト動物に送達または投与することを含む、方法。
【請求項23】
前記非ヒト動物がウマ、ポニー、ラバ、ロバまたはシマウマからなる群から選択される、請求項21または22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
請求項1から8のいずれか一項に記載の単離ssRNAと、AHSVのS9セグメントの少なくとも1つの必須遺伝子を発現し、請求項1から8のいずれか一項に記載のssRNA中の変異した前記必須遺伝子を相補し、それにより、ssRNAに感染した場合に、細胞におけるワクチン用ウイルス株の複製が可能となる細胞とを含む、キット。
【請求項25】
所与の血清型の欠損AHSVウイルスの生成方法であって、
a)それぞれが少なくともssRNAに導入された後に終止コドンを提供またはコードする複数の変異を、前記ウイルスのS9セグメントに導入し、それにより、前記S9セグメントがS9セグメント内の少なくとも1つの必須遺伝子の機能を破壊する終止コドンを複数含む、導入することと、
b)以下の選択されたセグメントS2+S6;S2+S6+S7;S2+S6+S7+S3;またはS2+S6+S7+S3+S10を再集合または交換して、以下の血清型def-AHSV8およびdef-AHSV9血清型;def-AHSV3およびdef-AHSV4;def-AHSV5、def-AHSV6およびdef-AHSV7;ならびにdef-AHSV2をそれぞれ生成することと
を含む、方法。
【請求項26】
所与の血清型の欠損AHSVウイルスの生成方法であって、
a)それぞれが少なくともssRNAに導入された後に終止コドンを提供またはコードする複数の変異を、前記ウイルスのS9セグメントに導入し、それにより、前記S9セグメントがS9セグメント内の少なくとも1つの必須遺伝子の機能を破壊する終止コドンを複数含む、導入することと、
b)また、以下の選択されたセグメントを再集合または交換して、以下の血清型を生成することと:
外殻タンパク質VP2およびVP5をコードする2つのセグメント(S2+S6)を再集合してdef-AHSV8およびdef-AHSV9血清型を生成すること;ならびに/または
外殻タンパク質VP2およびVP5をコードする2つのセグメント(S2+S6)と中間コアタンパク質VP7をコードするセグメント(S7)を再集合してdef-AHSV3およびdef-AHSV4を生成すること;ならびに/または
外殻タンパク質VP2およびVP5をコードする2つのセグメント(S2+S6)と中間コアタンパク質VP7をコードするセグメント(S7)と中間コアタンパク質VP3をコードするセグメント(S3)を再集合してdef-AHSV5、def-AHSV6およびdef-AHSV7を生成すること;ならびに/または
外殻タンパク質VP2およびVP5をコードする2つのセグメント(S2+S6)と中間コアタンパク質VP7をコードするセグメント(S7)と中間コアタンパク質VP3をコードするセグメント(S3)とNS3/NS3Aをコードするセグメント(S10)を再集合してdef-AHSV2を生成すること
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の変異を含む単離アフリカ馬疫ウイルス(AHSV)ssRNA;前記ssRNAからワクチン用ウイルス株を複製するための相補細胞;前記ssRNAに由来するワクチン用ウイルス株;AHSVによる感染に対する動物のワクチン接種における前記ワクチン用ウイルス株および/または単離ssRNAの使用;それらを含むワクチン接種の方法;ならびに前記ワクチン用ウイルス株および/または前記単離ssRNAを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ブルータングウイルス(BTV)、流行性出血熱ウイルス(EHDV)およびアフリカ馬疫ウイルス(AHSV)などの密接に関連するオルビウイルス(レオウイルス科(Reoviridae)ファミリー)のうち、最後のウイルスは感染した動物において最も重篤な罹病率および死亡率を引き起こすことが知られている。感染しやすいウマにおいて、AHSVは、軽度の発熱から、死亡率が95~100%に達する急性発熱に及ぶ様々な形態の疾患を引き起こし得る。AHSVはサハラ以南のアフリカでの地域流行病であるが、北アフリカ、パキスタン、インド、スペインおよびポルトガルでも時折発生が報告されており、これらの発生は重大な社会的および経済的影響を与えてきた。上記3種のオルビウイルスは、ヨーロッパおよび米国全土にわたって確認されているクリコイデス(Culicoides)属のユスリカによって伝染されるので、実際、BTVおよびEHDVについて報告されているように、AHSV発生の地理的リスクの可能性が増大している。
【0003】
AHSVのゲノム配列は、BTVおよびEHDVとは異なる。AHSVウイルスの9種の血清型、AHSV1~AHSV9だけが同定されている。現在、アフリカでは、弱毒化多価生AHSVワクチン(LAV)によるワクチン接種を使用して疾患をコントロールしている。しかし、このワクチンは、有害な副作用のため安全ではないと考えられている。このワクチンはウイルス血症を引き起こし、また、野生分離株と再集合する可能性もあることから、新しいウイルス血清型に未感作の地理的場所に導入することにはリスクがある。
【0004】
したがって、合理的に設計された安全なAHSVワクチンが必要とされている。困難なことには、安全なワクチンの開発において見込まれる課題はこの特性に不可欠なものであり、安全で効果的なワクチンの調製が必要であるだけでなく、ワクチンは次のようでなければならない:(i)技術的にシンプルで再現可能である、これは生産のスケールアップにおいて重要である;(ii)コスト効率が良い、これは、細胞1個当たりで産生されるウイルス様粒子(VLP)の数、ワクチンの異種性、ならびに後処理プロセスの容易性に直接依存する。残念なことに、精製されたタンパク質に基づくサブユニットワクチンは、一般に、十分かつ長期間の防御は提供せず、さらに生産するのにコストがかかる。
【0005】
AHSVは、10個の二本鎖RNA(dsRNA)セグメント(S1~S10)を含有する非エンベロープウイルスである。外殻は、2つの主要な構造タンパク質VP2およびVP5を含有してなる。血清型決定VP2は、最も可変性のウイルスタンパク質であり、防御免疫応答の主要な標的である。コア粒子は、2つの同心円状の層:表面VP7層および内部VP3層からなり、これらは10個のdsRNAならびに複製酵素VP1、VP4およびVP6の複合体を封入している。BTV10のカプシドタンパク質VP2、VP3、VP5およびVP7の配列とEHDV1およびAHSV4の配列とを比較することによって、これらのウイルス間の密接な関係が明らかになった。内部コアタンパク質VP3およびVP7は最も保存されているが、最も外側のタンパク質VP2およびVP5は最も可変性であった。BTVに関するこれまでの構造研究ではBTV粒子組織体の詳細が明らかにされているが、現在、AHSVについてはVP7の(トップ)ドメインの構造しか報告されておらず、したがって、AHSVウイルス機能の解析およびその後の合理的な構造をベースとしたワクチン設計はAHSVについてはできていない。
【0006】
過去10年間、逆遺伝学(RG)技術は、ウイルスの複製および病原性の理解に革新をもたらし、ワクチン技術の開発に大いに寄与した。しかし、野生型AHSV株に対するRG技術は開発されてきたが、レスキューウイルス産生の効率を増大させるためにはかなりの改善が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書において、本発明者らは、変異した、複製能力があり増殖不可能なウイルス粒子の作製を開示する。特に、相補細胞株における継代は、任意の変異ORFを復元する、変異セグメントにおける変化を示さなかった。さらに、複製効率は野生型(wt)AHSVに近かったため、ワクチン開発における実質的なタンパク質レベルが得られた。したがって、これは、安定性があり優れた効率的なワクチン療法である。
【0008】
原理の証拠として、IFNAR-/-のマウスに前記ワクチンを接種し、AHSVの2つの毒性株でチャレンジしたところ、同種感染に対する効率的な防御を示した。さらに、AHSV天然宿主のワクチン接種、例えば、単一血清型(ECRA.A4)ワクチンと1つの多価カクテル(ECRA.A1/4/6/8)ワクチンを接種したポニーは、毒性AHSV4に対する防御を示した。さらに、多価カクテルワクチン接種したポニーは、カクテル中に存在するすべての血清型に対する中和抗体を産生し、治験中に誕生した仔ウマは健康であり、ウイルス血症もみられなかった。これらの結果は、AHSVに対するワクチンとしての技術の適合性を証明している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の記述
本発明の第1の態様によれば、アフリカ馬病ウイルス(AHSVウイルス)のゲノムに由来する単離ウイルスssRNAであって、ssRNAが前記ウイルスのS9セグメントの少なくとも一部を含み、その中に前記ウイルスのS9セグメント内の複数の変異を有し、それぞれの変異が、少なくとも前記ssRNAに導入された後に、終止コドンを提供またはコードする、単離ウイルスssRNAを提供する。
【0010】
多くのウイルスが多数の異なる血清型を有する。例えば、AHSVは、9種の異なる血清型を有する。異なる血清型はわずかに異なる表面タンパク質を有し得る。またそれらのそれぞれのゲノムに含有されている遺伝子の数がさらに異なることもあり得る。さらに、今後、まだ未発見の血清型が発見されると思われる。したがって、本発明は、AHSVの任意の可能性のある血清型を包含するものとする。さらに、本発明は、AHSV血清型の任意の可能性のある組み合わせも包含するものとする。
【0011】
当業者には理解されるように、本明細書における終止コドンの言及は、メッセンジャーRNA内のヌクレオチドトリプレットであって、前記RNAのアミノ酸配列によってコードされているタンパク質の翻訳の終止をシグナル伝達するヌクレオチドトリプレットを意味する。限定されるものではないが、これには、RNAの周知の終止コドン、すなわちUAG、UAAまたはUGAが包含される。したがって、S9セグメントのssRNA中のいずれか1つのそのような終止コドンの産生によって、翻訳とそれによりコードされているタンパク質の産生が終止する。あるいは、当業者には知られているように、終止コドンは、フレームシフト変異の結果として導入することができ、その場合、1または2個のヌクレオチドの導入/欠失によってssRNAのリーディングフレームにシフトが起こり、結果として、その後終止コドンが生じる。
【0012】
またさらなる好ましい実施形態において、前記変異は、少なくとも1つの必須遺伝子の機能を破壊する。
【0013】
本明細書における用語「必須遺伝子」の言及は、ウイルスが病原性であるために必須である遺伝子を意味し、必須遺伝子の機能が破壊されるような場合、得られるワクチン用ウイルス株は非病原性である。これはワクチン生成における必要な要件である。変異が任意の必須遺伝子中にあってもよく、前記変異が導入された後、非病原性表現型に変換されているウイルスがもたらされる。
【0014】
好ましくは、変異は、酵素タンパク質、例えば、ウイルスのポリメラーゼ、ヘリカーゼまたはキャッピング酵素に導入される。あるいは、任意の非構造タンパク質を不活性化することができる。この場合、必須遺伝子は、好ましくはS9セグメントによってコードされているもの、例えば限定するものではないがVP6およびNS4などである。
【0015】
さらに好ましい実施形態において、変異は、1つ以上の必須遺伝子の機能が破壊されるようなものである。これは、ウイルスが病原性表現型に戻ることがないようにするのに役立つ。最も好ましくは、前記変異は、少なくともVP6およびNS4の機能を破壊する。
【0016】
またさらなる好ましい実施形態において、前記変異は、S9セグメントのヌクレオチド288~877にまたはその間に導入される。好ましくは、前記変異は、288~304;377~386;590~608;および872~877を含む群またはそれからなる群から選択されるヌクレオチド部位の1つもしくは複数にまたはその間に導入される。より理想的には、少なくとも1つの変異が前記ヌクレオチド部位のそれぞれに導入され、理想的には、複数の変異が前記ヌクレオチド部位のそれぞれに導入される。またより理想的には、少なくとも以下の変異が前記ヌクレオチド部位に導入される:
a.部位288~304にまたはその間における少なくとも3つの変異;
b.部位377~386にまたはその間における少なくとも3つの変異;
c.部位590~608にまたはその間における少なくとも3つの変異;および、
d.部位872~877にまたはその間における少なくとも2つの変異。
【0017】
より理想的には、追加的または代替的に、フレームシフト変異が、NS4の機能を破壊する、部位288~304にまたはその間に導入される。
【0018】
図11に示したように、本発明者らは以下の置換を使用した:
289でのCからA;
294でのGからT;
295でのGからA;
300でのGからT;
301でのGからA;
378でのGからT;
381でのGからT;
382でのGからA;
384でのCからT;
386でのGからA;
591でのGからT;
598でのCからG;
600でのAからT;
606でのGからT;
607でのAからG;
608でのGからA;
873でのAからT;
874でのTからA;
875でのGからA;
876でのAからT;および、
877でのTからA。
【0019】
したがって、好ましい実施形態において、本発明は、複数の終止コドンを生じる上記の複数の終止変異の、すべての組み合わせおよび任意の組み合わせを含む、いずれか1つまたは複数の使用に関する。当業者であれば、同様の技術的効果を有する他の置換もまた本発明の実施に使用できることは理解されよう。
【0020】
したがって、本発明者らは、VP6およびNS4のORFは破壊するが、得られたS9 multistopの長さは保持しているため、欠損AHSV、理想的には株AHSV1のレスキューおよび複製に対する遺伝的圧力を最小限にする、S9遺伝子全体にわたる複数の(典型的に11個の)終止コドン(典型的にはTAAまたはTGA)の導入または提供を行った。本発明は、本明細書においては、11個の終止コドンを使用して実施されているが、当業者には、より多数もしくは少数で使用することができること、また、本発明者らはTAAおよびTGAを理想的に使用したが、終止コドンは任意のタイプであり得ることが理解されよう。
【0021】
実際、最も好ましい態様であるのは、本発明が、配列番号1を有するssRNA、または優先順位の低い順にそれらと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有する配列を含むことである。
【0022】
【化1】
【0023】
本発明の第2の態様によれば、AHSVのS9セグメントの少なくとも1つの必須遺伝子を発現し、本明細書に記載されているssRNA中の変異した前記必須遺伝子(複数可)を相補する細胞であって、それにより、ssRNAに感染させた場合に、細胞におけるワクチン用ウイルス株の複製が可能である、細胞が提供される。
【0024】
最も好ましくは、前記細胞は、前記変異(複数可)を有する前記必須ウイルス遺伝子(複数可)の機能を相補することによって、ワクチン用ウイルス株が細胞内で複製され得る。当業者には理解されるように、ssRNAは、前記必須遺伝子(複数可)の機能が破壊されるように変異している。前記必須ウイルス遺伝子(複数可)の機能を相補する細胞を有することにより、前記必須遺伝子(複数可)によって産生されるタンパク質は、ウイルスのssRNAからではなく、細胞mRNAから発現され、それでこの遺伝子の機能は細胞によって相補される。このことによって、ウイルスの複製または繁殖に必要なすべての必須タンパク質が細胞内に存在することが確実となる。したがって、ワクチン用ウイルス株は、細胞内で自由に複製することが可能である。しかし、ワクチン用ウイルス株が相補細胞以外の細胞に感染した場合には、前記必須遺伝子(複数可)のタンパク質産物は存在せず、そのため、ワクチン用ウイルス株は繁殖できない。ワクチン用ウイルス株は、例えば、ワクチン接種した宿主において、一回の複製サイクルを経る。
【0025】
好ましい実施形態において、前記細胞は、ssRNAをトランスフェクトされ、ウイルス株を培養するのに適した任意の細胞であってよい。細胞は、ウイルス許容細胞である。好ましくは、細胞は、BHK21細胞、Vero細胞、293T細胞、BSR細胞(特定のBHK21細胞のクローン)、HeLa細胞、C6/36細胞(ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)由来の蚊の細胞株)、またはKC細胞(天然昆虫ベクター、クリコイデス・ソノレンシス(Culicoides sonorensis)由来のユスリカ細胞株)である。より好ましくは、細胞はBSR細胞である。
【0026】
本明細書における用語「ワクチン用ウイルス株」の言及は、通常、野生型ウイルスに罹患する宿主を免疫するためのワクチンに使用するのに適したウイルス株を意味する。ワクチン用ウイルス株は、非病原性であり感染を引き起こすことができないものである。したがって、これは、野生型ウイルスに通常伴う疾患を引き起こさない。ワクチン用ウイルス株の概念は、当業者に周知である。例えば、野生型ウイルスは、弱毒化または不活化ウイルスで免疫された宿主において、悪化した感染を引き起こすことなく免疫応答を生じるように、弱毒化または不活化され得る。これによって、その後、宿主が野生型ウイルスに曝露されたとしても、宿主は効果的な免疫応答を獲得することができる。
【0027】
したがって、本明細書で開示されているssRNAに感染した細胞も提供する。
【0028】
本発明の第3の態様によれば、本明細書に開示されている単離ssRNAを含むワクチン用ウイルス株が提供される。
【0029】
より好ましくは、前記ワクチン用ウイルス株は血清型特異的であり、そのため、ASHV1、AHSV2、AHSV3、AHSV4、AHSV5、AHSV6、AHSV7、AHSV8およびAHSV9のいずれか1つを含む。より理想的には、前記ワクチン用ウイルス株は、AHSV1~9の任意の組み合わせを含み、AHSV1~9のすべてを含む、複数の前記血清型を含む。
【0030】
当業者には、異なる血清型を使用することにより、本発明のワクチンがそれぞれのウイルス株に対して最大限の防御を提供することができることは理解されよう。そのウイルス株の毒性は変化し得る。例えば、AHSV4は、AHSV1よりもマウスモデルにおいて毒性がより高く、そのため、AHSV4株は、本発明のワクチンにおいてAHSV1などよりもより好ましい可能性がある。
【0031】
したがって、本発明者らの技術を使用し、本発明者らは、すべてのAHSV血清型由来のカプシドタンパク質を用いて複製能力があり繁殖不可能なウイルス粒子を創製した。さらに、本発明者らは、相補細胞株において高力価のこれらの粒子を産生した。特に、相補細胞株における継代は、任意の変異ORFを復元する変異S9における変化は示さなかった。さらに、複製効率は野生型AHSVに近かったため、ワクチンを開発するための実質的なタンパク質レベルが得られた。したがって、これは、安定性があり優れた効果的なワクチン療法である。
【0032】
本発明の第4の態様によれば、治療において使用するための、本明細書に開示されている単離ssRNA、または単離ssRNAを含むワクチン用ウイルス株が提供される。より好ましくは、前記単離ssRNAまたはワクチン用ウイルス株は、非ヒト動物にAHSVに対するワクチン接種をするために使用される。
【0033】
本発明の第4の態様の好ましい実施形態において、前記非ヒト動物は、ウマ、ポニー、ラバ、ロバまたはシマウマを含む群またはそれらからなる群から選択される。
【0034】
本発明の第5の態様によれば、本明細書に開示されている単離ウイルスssRNAまたは単離ssRNAを含むワクチン用ウイルス株を、薬学的に許容される担体、アジュバントまたはビヒクルと組み合わせて含む、医薬組成物を提供する。
【0035】
組成物は、理想的には滅菌されており、治療有効量の単離ssRNAまたはワクチン用ウイルス株を対象への投与に適した重量単位または容量単位で含有していなければならない。用語「薬学的に許容される」とは、活性成分の生物学的活性の有効性を妨げない非毒性物質を意味する。用語「生理学的に許容される」とは、生物系、例えば、細胞、細胞培養物、組織または生物などと適合する非毒性物質を意味する。
【0036】
投与用の製剤としては、経口投与、直腸内適用、経鼻投与、気管支(吸入)投与、局所投与(目薬、頬側投与および舌下投与を含む)、膣内投与または非経口投与(皮下投与、筋内投与、腹腔内投与、静脈内投与および皮内投与を含む)に適したものが挙げられ、薬学の分野において周知の任意の方法によって調製することができる。
【0037】
好ましい投与経路は、静脈内投与、非経口投与、経口投与、経鼻投与、気管支投与または局所投与用に処方された治療薬を意味する。
【0038】
組成物は、本発明の単離ssRNAまたはワクチン用ウイルス株と担体とを会合させることにより調製することができる。一般に製剤は、活性剤を、液体担体または細かく粉砕した固体担体またはその両方と均一かつ密接に会合させ、次いで必要に応じ、生成物を成形することによって調製する。本発明は、本発明の単離ssRNAまたはワクチン用ウイルス株を、薬学的にまたは獣医学的に許容される担体またはビヒクルと組み合わせてまたは会合させることを含む、医薬組成物の調製方法に及ぶ。
【0039】
本発明における経口投与用の製剤は、それぞれ所定量の活性薬剤を含有するカプセル、サッシェもしくは錠剤などの個別単位として;粉末もしくは顆粒として;水性液体もしくは非水性液体中の活性剤の溶液もしくは懸濁液として;または水中油型液体エマルジョンもしくは油中水型液体エマルジョンとして;またはボーラスなどとして調製することができる。
【0040】
経口投与用の組成物(例えば、錠剤およびカプセル剤)に関して、用語「許容される担体」としては、一般的な賦形剤などのビヒクル、例えば結合剤、例えばシロップ、アカシア、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、スクロースおよびデンプン;充填剤および担体、例えばコーンスターチ、ゼラチン、ラクトース、スクロース、微結晶セルロース、カオリン、マンニトール、リン酸二カルシウム、塩化ナトリウムおよびアルギン酸;ならびに滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウムおよび他の金属ステアリン酸塩、ステアリン酸グリセロール、ステアリン酸、シリコーン流体、タルクワックス、油ならびにコロイド状シリカが挙げられる。香味剤、例えばペパーミント、ウィンターグリーン油、チェリー香料なども使用することができる。投薬剤形を容易に識別できるように、着色剤を添加することが望ましい場合がある。また錠剤は、当技術分野で周知の方法によってコーティングされていてもよい。
【0041】
錠剤は、圧縮または成形により、任意選択で1種または複数の副成分とともに製造することができる。圧縮錠剤は、粉末剤または顆粒剤などの自由流動形態の活性剤を、任意選択で結合剤、滑沢剤、不活性希釈剤、防腐剤、界面活性剤または分散剤と混合して、適切な機械で圧縮することによって調製することができる。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末状化合物の混合物を適切な機械で成形することによって製造することができる。錠剤は、任意選択でコーティングしても刻み目を入れてもよく、活性剤の徐放または制御放出を提供するように製剤化することができる。
【0042】
経口投与に適した他の製剤としては、香味基剤、通常はスクロースおよびアカシアまたはトラガカント中に活性剤を含むロゼンジ;不活性基剤、例えばゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースおよびアカシア中に活性剤を含む香錠;ならびに適切な液体担体中に活性剤を含むうがい薬が挙げられる。
【0043】
皮膚への局所適用については、製剤は、クリーム、軟膏、ゼリー、溶液または懸濁液などを製造することができる。薬物に使用することができるクリーム剤または軟膏剤は、British Pharmacopoeiaのような医薬品の標準的な教科書に記載されているような、当技術分野で周知の従来の製剤である。
【0044】
本発明の組成物は、例えば、薬理学的活性成分を粉末の形態で、または溶液もしくは懸濁液の点滴形態で分散させることが可能なエアロゾルもしくはスプレーの鼻、気管支もしくは頬側投与による気道の処置に使用することができる。粉末分散特性を有する医薬組成物は、通常、活性成分に加えて、沸点が室温より低い液体噴射剤、また所望により補助剤、例えば液体もしくは固体の非イオン性もしくはアニオン性界面活性剤および/または希釈剤などを含有する。薬理学的有効成分が溶液中にある医薬組成物は、これに加えて、適切な噴射剤、さらには、必要に応じて、追加の溶媒および/または安定剤を含有する。噴射剤の代わりに圧縮空気を使用することも可能であり、必要に応じて適切な圧縮および膨張デバイスによってこれを製造することができる。
【0045】
非経口製剤は、一般に滅菌される。
【0046】
治療的に有効な本発明の単離ssRNAまたはワクチン用ウイルス株の正確な量、およびそれが最良で投与される経路は、ワクチンの組織レベルを、治療効果を有するのに必要とされる濃度と比較することにより当業者によって容易に決定される。
【0047】
本発明の第6の態様によれば、本発明による医薬組成物および1つまたは複数の異なる追加の抗ウイルス剤を含む、組み合わせ治療薬が提供される。
【0048】
追加の抗ウイルス剤は従来から知られていることは、当業者には理解されよう。
【0049】
本発明の第7の態様によれば、AHSVに対する非ヒト動物のワクチン接種方法であって、本明細書において定義されている単離ssRNAまたは前記単離ssRNAを含むワクチンウイルス株の有効量を非ヒト動物に送達または投与することを含む、方法が提供される。
【0050】
本発明の好ましい方法において、前記非ヒト動物は、ウマ、ポニー、ラバ、ロバまたはシマウマを含む群またはそれらからなる群から選択される。
【0051】
本発明の第8の態様によれば、本明細書において開示されている単離ssRNA、およびssRNA中の変異した前記必須遺伝子(複数可)を相補する細胞を含むキットを提供する。
【0052】
本明細書の記載および特許請求の範囲の全体を通して、用語「含む(comprise)」および「含有する(contain)」およびそれらの用語の変形、例えば「含む(comprising)」および「含む(comprises)」は、「含むがこれに限定されない」ことを意味し、また他の部分、付加物、成分、整数または工程を排除するものではない。本明細書の記載および特許請求の範囲の全体を通して、文脈に別段の要求がない限り、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、文脈に別段の要求がない限り、明細書は、複数形ならびに単数形を考慮するものとして理解されたい。
【0053】
本明細書に引用されているあらゆる特許または特許出願を含むすべての参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。いかなる参考文献も先行技術を構成すると認めるものでない。さらに、いずれかの先行技術が当技術分野における通常の一般的知識の一部を構成することを認めるものでない。
【0054】
本発明のそれぞれの態様の好ましい特徴は、いずれかの他の態様と関連して記載されたものであり得る。
【0055】
本発明の他の特徴は、以下の実施例から明白になるであろう。一般的に言えば、本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲および図面を含む)に開示されている特徴の任意の新規なものまたは任意の新規な組み合わせにまで及ぶ。したがって、本発明の特定の態様、実施形態または実施例に関連して記載されている特徴、整数、特性、化合物または化学的部分は、それらと矛盾しない限り、本明細書に記載されている任意の他の態様、実施形態または実施例に適用可能であると理解されたい。
【0056】
さらに、別段の記載のない限り、本明細書で開示されている任意の特徴は、同一目的または類似目的を果たす代替の特徴によって置き換えることができる。
【0057】
ここで本発明を、以下の図面および表を参照しながら、単なる例示として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】AHSV血清型の遺伝学的分析および表現型分析を示す図である。上図は、BSR細胞の感染によって得られ48時間インキュベートされたプラーク形態の分析を示す。下図は、大きなプラークの表現型、高力価および最小の遺伝的変異性を有する複製の良好なAHSV血清型を選択して逆遺伝学のバックボーンとして活用する戦略を示す。
図2】AHSV1に関する逆遺伝学の確立を示す図である。(A)AHSV1の一次複製のための最小要件。BSR細胞を、1行目に示した発現プラスミドのセットにより3つ組でトランスフェクトし、続いて、2行目に示した10個のキャップドAHSV1 T7-RNA転写物(S1~S10)による2回目のトランスフェクションを行った。推定感染力は、2回目のトランスフェクションの48時間後に、総T7 RNAの1μg当たりのPFUとして示している。一番下の図は、上記のそれぞれの実験において、二度のトランスフェクションによって得られたプラークの代表的な写真である。(B)感染後48時間でのBSR細胞に対する野生型(wt)およびレスキューされたrecAHSV1ストックのプラークアッセイ。感染力価は、独立した5継代実験(wt AHSV1の場合)またはレスキュー実験(recAHSV1の場合)から得られた範囲として示されている。(C)wtAHSV1およびrecAHSV1に感染したBSR細胞から精製したゲノムdsRNAのパターンを9%非変性PAGEで分析した。ゲノムdsRNAセグメントの位置は右側に示している。
図3】VP6を発現する安定的な細胞株は、VP6/NS4欠損AHSV1を相補することを示す図である。(A)AHSV1 VP6を発現する相補細胞株は、BSR細胞のエレクトロポレーションおよびVP6発現コロニーの選択によって作製した。選択したクローンを1:20希釈で30継代し、示した継代の同量の細胞を、VP6特異的抗体を使用するイムノブロッティングにより分析した。(B)相補介在型欠損AHSV1レスキューの概略図。BSR-VP6細胞に5個の発現プラスミドのセット(VP1、VP3、VP4、VP6およびNS2)をトランスフェクトし、続いて10個のAHSV1 T7 RNA転写物をトランスフェクションしたが、この場合、S9はVP6/NS4発現が欠損しているS9multistopで置き換えられている。VP6はトランスで相補され、一度は複製されるが繁殖しない欠損ウイルスが生じた。(C)BSR-VP6細胞に5個の発現プラスミド(それぞれ80ng)のセットをトランスフェクトし、続いて、10個のキャップドAHSV1 T7-RNA転写物の合計50ngの2回目トランスフェクションを行ったが、この場合、S9は、VP6/NS4発現が欠損しているS9multistopで置き換えられている。トランスフェクションしたウェルを固定し、2回目のトランスフェクションの56時間後に染色した。モックおよびrecAHSV1レスキューは、def-AHSV1と同一条件での対照として使用する。
図4】異なるセグメントの組み合わせによって得られた、VP6相補された複製の良好な欠損再集合体AHSVバリアントを示す図である。(A)選択したAHSV2~9の欠損再集合体の概略図。上図は、BSR-VP6細胞株において高力価および大きなプラークの表現型を達成するために交換されたセグメントを示す。欠損AHSV粒子の描写は、AHSV1(青色)または他の血清型(赤色)として、4つの主要な構造タンパク質の起源を示す。赤色のdsRNAセグメントは、交換されたセグメント(S2、S3、S6、S7およびS10)を示す。それぞれの再集合体群について得られた血清型を下図に示している。(B)wtAHSV1、recAHSV1および欠損AHSVバリアント(BSR-VP6細胞株にMOI 0.1で5回継代)を感染させたBSR-VP6細胞株から精製したゲノムdsRNAのパターンを9%非変性PAGEで分析した。ゲノムdsRNAセグメントの位置は右側に示している。wt-S9dsRNAの位置は左側に示しており、欠損AHSVバリアントのS9multistop dsRNAは赤色で示し、ゲル上に赤色アスタリスク(*)でマークしている。ゲル上の赤色の矢印は、欠損AHSVバリアントのレスキューに使用されている交換されたセグメントに対応する。
図5】VP6/NS4欠損ウイルスは、相補しているBSR-VP6細胞株において増殖することができるが、正常BSR細胞、昆虫KC細胞またはウマE.Derm細胞においては増殖することができないことを示す図である。(A)相補しているBSR-VP6細胞株におけるウイルス増殖動態。BSR-VP6細胞をMOI 0.1で提示のウイルスのセットにより感染させ、感染の0、24、48および72時間後、BSR-VP6細胞に対するプラークアッセイによって分析した。それぞれのウイルスの最終力価は右図に示している。(B)正常BSR細胞、昆虫KC細胞およびウマE.Derm細胞におけるウイルス増殖動態。3つの細胞株を、MOI 5(BSR)、2.5(KC)および10(E.Derm)で感染させ、2回洗浄し、感染の0、24、48および72時間後に、BSR-VP6細胞に対するプラークアッセイによって分析した。
図6】wt AHSV1ウイルスおよびwt AHSV4ウイルスによる同種チャレンジ感染からのdef-AHSV1およびdef-AHSV4によるIFNAR-/-マウスの防御を示す図である。(A)106PFUのdef-AHSV1およびdef-AHSV4で免疫化し、同種wt AHSV株の105TCID50でチャレンジした成体IFNAR-/-マウス(1群当たり6匹)の生存プロット。動物の提示群における血液(B)および臓器(脾臓、肝臓、脳)(C)中のRNAemiaはRT-qPCRにより取得したCt値の反転グラフとして示した。40を超えるCt値は陰性と考えられた。各ドットは、分析した1つの動物試料に対応する。
図7】ワクチン接種動物における臨床徴候およびウイルス複製を示す図である。動物に、0日目および21日目(追加免疫)に2回ワクチン接種した。(A)臨床徴候は体温、呼吸リズム、心拍数などに基づいてスコア化した。4頭の動物にECRA.A4(A群;上図)、4頭にECRA.A1/4/6/8のカクテル(B群;下図)をワクチン接種し、2頭の動物(C1およびC2)を対照として使用した。(B)血清中のAHSVゲノムRNAをRT-PCRにより決定し、Ct値として表示した。ウイルス負荷は、緑色(ND:非検出)から赤色(Ctが25未満)までの色勾配によって示されている。
図8】ワクチン接種後の動物のセロコンバージョンを示す図である。ワクチン接種した動物の免疫応答を、VP7群特異的競合ELISAによってモニターした。A群の動物(左図)およびB群の動物(右図)に、ECRA.A4またはECRA.A1/4/6/8をそれぞれ2回、21日間隔で接種し、C群(モックワクチン接種動物)と比較した。
図9】毒性ウイルスチャレンジ後のワクチン接種したポニーにおける臨床上の防御を示す図である。36日以降、臨床徴候をモニターした。(A)ワクチン接種A群およびB群(18日まで)および対照群(10日まで)について臨床徴候をスコア化した(それぞれ、上図、中央図および下図)。(B)両対照動物においてチャレンジした後の重篤な臨床徴候は、眼瞼および眼窩上窩(左)および結膜炎(右)の浮腫として明白であった。
図10】ワクチン接種動物におけるウイルス複製の欠如を示す図である。血液試料中のウイルス血症は、RT-PCRによって決定した。Ct値は、低~高ウイルス負荷に対応する緑色(高)から赤色(低)への色勾配で示している。40を超える値は非検出とみなした(ND)。C群の対照動物(C1およびC2)は、重篤なAHS症状のため(黒色)、チャレンジ後それぞれ11日目および10日目に安楽死させた。
図11図7図10のデータを生成するために使用したECRAワクチン株(A群、ECRA.A4ウイルスおよびB群、ECRA.A1/4/6/8のカクテル)で使用されているセグメント9中の複数の変異の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
表1。ワクチン接種後のポニーにおける血清中和活性。血清中の中和活性は、示したAHSV血清型1、4、6および8に対して35日目(チャレンジの1日前)にプラーク減少アッセイによって決定した。力価は、プラーク数の50%を減少させる血清の最大希釈として表した。非測定(nd)および非検出(-)を表している。
【0060】
表2。毒性ウイルスチャレンジ後のポニーにおける血清中和活性。ワクチン接種した動物血清の中和抗体力価は、血清型AHSV1、4、5、6および8に対する44日目および60日目(チャレンジの8日後および24日後)のSNアッセイによって決定した。力価は、完全中和される血清の最高希釈の逆数として表した。SNアッセイは、44日目の対照動物血清については実施しなかった。C1およびC2の両ポニーは、重篤なAHS症状のため、チャレンジ後の11日目および10日目にそれぞれ安楽死させた。非測定(nd)および非検出(-)を表している。
【0061】
方法および材料
細胞およびウイルス
BSR細胞(BHK-21サブクローン)を、5%ウシ胎児血清(FBS、Invitrogen)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Sigma)中で維持した。安定的な細胞株BSR-VP6を、7.5μg/mlのピューロマイシン(Sigma)を補充したDMEM-5%FBS中で増殖させた。ウマ皮膚(E.Derm)細胞(NBL-6、ATCC CCL-57)を、10%FBSおよび1%非必須アミノ酸を補充した最小必須培地イーグル(MEM、Sigma)中で培養した。哺乳動物細胞株を、5% CO2加湿雰囲気中、37℃で培養した。クリコイデス属(Culicoides)(24)に由来する昆虫KC細胞を、10%FBSを補充したSchneider昆虫培地中、28℃で維持した。
【0062】
ASHV血清型1~9は、Zientara博士(ANSES France)のご厚意により提供されたものである。すべてのAHSV血清型をBSR細胞で1回継代し、滴定し、その後の実験に使用した。
【0063】
プラスミド
AHSV1のRG系において、対応するセグメントのコード領域を、AflII制限部位およびPacI制限部位を使用して、pCAG-PMベクター(18)に挿入した。対応する発現プラスミドをpCAG-AHSV1VP1、pCAG-AHSV1VP3、pCAG-AHSV1VP4、pCAG-AHSV1VP6、pCAG-AHSV1VP7、pCAG-AHSV1NS1およびpCAG-AHSV1NS2と命名し、配列決定により確認した。AHSV転写物用のT7プラスミドを、先に記載されているような配列非依存的クローニングシステム(17)を使用して生成した。簡単に説明すると、濃縮ウイルスから精製されたdsRNAを、アダプタープライマーとのRT-PCR増幅の前に、自己アニーリングプライマーに連結させた。AHSVセグメントから増幅されたそれぞれのcDNAをpUC19ベクターにクローニングし、配列決定した。
【0064】
AHSV1 S9multistop変異体を遺伝子アセンブリにより作製し、288~304位(3終止コドン+NS4フレームシフト)、377~386位(3終止コドン)、590~608位(3終止コドン)および872~877位(2終止コドン)に変異が導入された。この配列を確認し、必要な際に利用可能であった。
【0065】
AHSV1 VP6を恒常的に発現するBSR-VP6細胞株の開発
AHSV1 VP6を発現する相補細胞株のBSR-VP6は、先に記載されているとおり(18)、いくつかの改変を含めて生成した。簡単に説明すると、AHSV1-VP6発現ベクターのpCAG-AHSV1VP6を用いて、240Vおよび975μFでエレクトロポレーションを行うことによりBSR細胞をトランスフェクトした。エレクトロポレーション後、細胞懸濁液を150mm培養プレート上に播種し、VP6発現コロニーを7.5μg/mlのピューロマイシンの存在下で選択した。生存クローンをイムノブロット分析により試験し、最適発現クローンをVP6欠損ウイルスのレスキューに使用した。AHSV1 VP6の発現は、SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングによりAHSV6 VP6に対して生じさせたポリクローナルモルモット抗血清を使用して評価した。
【0066】
T7 RNAからのwt AHSV1ウイルスの回収。T7プロモーターおよび正確な3’末端含有DNAを鋳型として等モル比で使用し、製造業者の指示に従ってmMESSAGE mMACHINE T7 Ultraキット(Ambion)を用い、10個のAHSV1用のキャップドT7 RNAの混合物を製造した。recAHSV1のレスキューについては、12ウェルプレート中の50%コンフルエンスのBSR細胞に、AHSV1 VP1、VP3、VP4、VP6、VP7、NS1およびNS2をコードする発現プラスミドのセットを異なる組み合わせでトランスフェクションした(各ウェル当たりそれぞれ80ngのプラスミド)。トランスフェクションの16時間後、トランスフェクトされた単層を、合計500ngの10個全部のキャップドRNA転写物で再度トランスフェクトした。RNA感染性を評価するため、2回目のトランスフェクションの4時間後に、1%FBSを含有するMEMの1.5%寒天で単層を覆い、35℃で2~3日間、プラークが形成されるまでインキュベートした。あるいは、レスキューされたウイルスを回収するため、1%FBSを含有するDMEMでトランスフェクション培地を交換し、CPEが出現するまで2~3日間インキュベートした。
【0067】
T7 RNAからのdef-AHSVの回収
def-AHSV1のレスキューについては、12ウェルプレート中の50%コンフルエンスのBSR-VP6細胞を、VP1、VP3、VP4、VP6およびNS2をコードする5個のpCAGプラスミド(各80ng)でトランスフェクトした。トランスフェクションの16時間後、BSR-VP6単層を、合計500ngの10個のキャップドAHSV1 RNA転写物、S1~8、S10およびS9multistopでトランスフェクトした。再集合体def-AHSVを得るため、いくつかのセグメントを使用して親AHSV1を置き換えた。それぞれの欠損ウイルスをプラーク精製し、BSR-VP6細胞に対して滴定した。安定性を評価するため、それぞれの欠損ウイルスを0.1のMOIでBSR-VP6細胞において少なくとも5回継代した。dsRNAプロファイルの分析およびRT-PCR/シークエンシングを使用し、導入されたAHSVセグメントの完全性を確認した。
【0068】
AHSVのin vitroでの増殖動態
wt AHSVおよび欠損ウイルスのin vitroでの増殖動態を、それぞれ、0.1、5、2.5および10のMOIで1.5時間感染させた後にBSR-VP6細胞、BSR細胞、KC細胞およびE.Derm細胞において決定した。感染後、接種材料を除去し、1%FBSを補充した培地で細胞を2回洗浄した。感染の0、24、48および72時間後に、上清を採取し、BSR-VP6細胞に対するプラークアッセイによって力価を決定した。それぞれの実験は3つ組で実施し、2回繰り返した。
【0069】
マウス
C57BL/6遺伝的バックグラウンドの30匹のIFNAR-/-マウスを、FLIの特異的病原体フリーの繁殖ユニットから取得し、5つの群に割り当てた。オスおよびメス動物を等しく分配した。6匹の各マウスに、106PFU(100μl)のdef-AHSV1およびdef-AHSV4ウイルスを3週間間隔で2回ワクチン接種し、2回目の免疫化の21日後に、100μl中のAHSV血清型1(def-AHSV1群)または4(def-AHSV4群)のいずれかで105 50%組織培養感染用量(TCID50)により感染させた。12匹のマウスに、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)でモックワクチン接種し、そのうちの6匹をAHSV1に感染させ、6匹をAHSV4に感染させた。さらに6匹のマウスを対照として飼育した。
【0070】
すべてのマウスを、ワクチン接種および感染後の10日間、毎日体重測定し、臨床徴候について調べ、重症症状を示す動物については直ちに安楽死させ、チャレンジ感染の2週間後の感染動物および3週間後の未処置対照動物はすべて残っていた。すべてのマウスについて、感染の3、7および10日後に採血した。剖検では、血液、脾臓、肝臓および脳の試料を取り、臓器試料を1mlの無血清MEM中でホモジナイズした。20μlの血液または100μlの組織ホモジェネート由来のRNAは、MagAttract Virus Mini M48キット(Qiagen、Hilden、Germany)と組み合わせたKing Fisher 96 Flex(Thermo Scientific、Braunschweig、Germany)を製造業者の指示に従って使用して抽出し、ハウスキーピングベータ-アクチン遺伝子(26)を標的とする内部制御系と組み合わせたVP7ベースのリアルタイムRT-PCRアッセイ(25)により分析した。
【0071】
ポニー
図11は、セグメント9に導入され、ポニーのその後のワクチン接種に使用された多重終止コドンの詳細を示しており、初期継代したECRA.AHSVストック(BSR-VP6細胞における1~2継代)は、BSR-VP6細胞においてMOI 0.1で抗生物質非含有培地にて培養した。得られたECRA.AHSVストックに10%トレハロース(Sigma)を補充し、アリコートし、液体窒素中で凍結し、ワクチン接種まで-80℃で保存した。凍結ストックのアリコートをBSR-VP6細胞に対して滴定し、典型的な細胞変性効果(CPE)の不存在の視覚化とRT-PCRによる確認によって、少なくとも3回の盲検継代でナイーブBSR細胞における複製の不存在について試験した。モックワクチン用量は、超音波処理による溶解によって、等量のBSR-VP6細胞から調製した。ワクチン安定性は、異なる保存条件、より詳細には異なる温度(+4℃、-20℃および-80℃)、直接凍結または10%最終濃度でのトレハロース(Sigma)の補充有無の液体窒素中凍結後に試験した。
【0072】
ポニーにおける単一血清型とカクテルECRA.AHSVのワクチン接種
4頭の動物の2つの群にECRAワクチン株を皮下接種し、A群にはECRA.A4ウイルス(1×10PFU/動物、A群)を、B群にはECRA.A1/4/6/8のカクテル(1×10PFUの各血清型/動物)を0日目に接種した。さらに、2頭の動物に、非感染細胞溶解物をモックワクチン接種した(C群)。最初のワクチン接種の21日後に、追加免疫注射を行った。追加免疫ワクチン接種の36日後または2週間後に、すべての動物にAHSV4の毒性単離物(Morocco 1990)を2×10TCID50で静脈内にチャレンジした。チャレンジしたウイルスストックは、AHSV4感染ウマ由来の脾臓抽出物のVero細胞での5継代およびVero細胞またはKC細胞での追加の一継代後に得られた。各ウマに、Vero細胞で得られた10TCID50およびKC細胞から回収された10TCID50でチャレンジした。すべての動物の全血試料および血清試料を、ワクチン接種およびチャレンジの前後に、規則的間隔で取った。この研究は、動物実験および保護に関するフランスのガイドラインおよび推奨に厳密に従って実施した。プロトコルは、ANSES/ENVA/UPEC動物倫理委員会の承認を受けた。
【0073】
RNA抽出およびRT-PCR。
RNAは、10%w/vのPBS中でホモジナイズした血液試料および臓器(脾臓、肺および心臓)からQIAampウイルスRNAキットおよびQiacubeロボット(QIAGEN)を用いて抽出した。ゲノム二本鎖RNA抽出物は、RT-PCR反応混合物に添加する前に熱処理した(10%DMSOの添加および95℃で5分間の加熱)。S1セグメントを標的とするリアルタイムAHSV RT-PCRは、RT-PCRキット(Superscript III/Platinum Taq One-Step qRT-PCRキットの代わりにAgPath-ID(商標)One-Step RT-PCRキット(ThermoFisher Scientific))に対して、またStepOneまたはAB7300サーモサイクラーのサイクル条件:45℃で10分間、95℃で10分間、続いて95℃で10秒間、55℃で30秒間および72℃で30秒間の45サイクルに対して必要な変更をして、3つの複製で2回実施した。サイクル閾値(Ct)の値を測定し、閾値40を超える値を陰性とみなした。
【0074】
単一血清型ECRA.A4およびカクテルECRA.A1/4/6/8試験の血清学。
血清試料を、市販の競合ELISA AHSV VP7抗体試験キット(ELISA Ingezim AHSV Compaq)により製造業者の指示に従って分析した。血清学的状態は、陽性(≧50%)、疑わしい(>45%および<50%)または陰性(≦45%)として定義した。
【0075】
中和抗体応答を検出するため、標準血清中和(SN)アッセイまたはプラーク減少アッセイを使用した。標準SNアッセイについては、血清試料ならびに陽性および陰性対照血清を96ウェルプレートに連続希釈し、100個の感染性AHSV粒子(AHSV1、4、5、6または8)と37℃で60分間混合した。1ウェル当たり10個のVero細胞を添加した後、プレートを37℃、5%COで7日間インキュベートし、4%PFAで固定し、メチレンブルー0.5%で染色した。中和力価は、細胞培養物の完全防御を付与する血清の最高希釈度として定義した。プラーク減少アッセイについては、血清試料を96ウェルプレートで連続希釈し、約25個の感染性AHSV粒子を各ウェルに添加した。すべての希釈は3つ組で実施した。血清-ウイルス混合物を振盪機で2時間、室温にてインキュベートし、12ウェルプレート中のコンフルエントな単層のBSR細胞に1時間添加した。インキュベーション後、感染した細胞をMEM中の0.6%Avicel(IMCD LTD)で覆い、3日間インキュベートした。中和力価は、対照(FBSおよび対照動物由来の血清)と比較した各ウェルで観察されたプラーク数から算出したウイルスプラークの50%減少を示す血清の最高希釈として定義した。
【0076】
臨床モニタリング
ポニーは、ワクチン接種後の8日間およびチャレンジ後の3週間、AHSV臨床徴候の発症について毎日モニターした。一般的な徴候(行動変化、高熱、心拍数および呼吸リズム、発汗)、ならびに浮腫、異常出血(点状出血)、呼吸困難、鼻汁および結膜炎の兆候を記録し、以下の基準に従って採点した。
行動:正常-0ポイント、無関心-1ポイント、うつ状態-2ポイント、全身衰弱-3ポイント
一般的なパラメータ:直腸温度(T)=正常-0ポイント、39℃≦T≦40℃-1ポイント、40℃<T-3ポイント;心拍数=正常-0ポイント、>50-2ポイント;呼吸リズム=正常-0ポイント、>25-2ポイント
特定の徴候:浮腫-部位(眼瞼、上眼窩、唇、頭部、頚部、躯幹または散在性)当たり-1ポイント、鼻汁-分泌の種類(漿液性、粘液性、化膿性、出血性)当たり-1ポイント、点状出血病変-部位(結膜炎、口腔、皮膚)当たり-1ポイント、呼吸困難-1ポイント、咳-1ポイント、結膜炎-1ポイント、異常発汗-1ポイント、疝痛-1ポイント。
【0077】
結果
ASHVの逆遺伝学の確立
効果的かつ迅速なウイルス逆遺伝学(RG)は、ウイルスゲノムを操作することによって分子メカニズムを理解するための鍵である。これまでに公表されたAHSV RGは、混合血清型トランスフェクション、すなわちAHSV6の6個の発現プラスミド、続いてAHSV4の10個のT7-RNA転写物に対して構成されていた(23)。この組み合わせは、レスキュー効率が低く、組換えウイルス力価が不十分であるため(<106PFU/ml)、分子操作には不十分であることが判明した。したがって、本発明者らは、効果的なRG系のバックボーンとして使用することができる、均一で大きなプラークを形成する複製が良好なAHSV株を発見することを第1の目的とした。最初に、9つすべてのAHSV血清型をBSR細胞で試験し、感染力価およびプラークの表現型を評価した(図1)。AHSV血清型の次の2つの個別の群が観察された:大きく明瞭なプラークの表現型および高力価(AHSV1、3、5、6)と、小さく/明瞭でないプラークの表現型(AHSV2、4、7、8、9)で低力価(AHSV7)。4つの複製が良好なAHSV血清型(AHSV1、3、5、6)を、いくつかのプラーク精製単離物を配列決定することにより遺伝的安定性について試験した。分析した血清型の3つ(AHSV3、5、6)は、遺伝的多様性が高く単一ゲノム由来RG系の開発を複雑にする可能性があるので、この時点で排除された。最も有望なRG候補として1つのプラーク精製AHSV1を選択したが、その理由は、この株は高力価(5×108PFU/ml)で、大きく均一なプラークの表現型と、10個すべてのセグメントの配列決定により明らかにされた単一表現性クローンの両方を示したからである。
【0078】
10個のAHSV1 RNAセグメントの完全コピーの回収は、配列に依存しない方法により実施した。各セグメントについて、正確な3’末端を有するT7プロモーター由来のプラスミドを生成し、10個のキャップドT7 RNA転写物を産生した。VP1、-3、-4、-6、-7およびNS1、-2のタンパク質コード配列を使用して、pCAGプロモーターの制御下で発現プラスミドを生成した。関連のBTVについては、VP1、-3、-4、-6、NS1および-2のセットによるトランスフェクション、続いて翌日の10個のT7RNA転写物のトランスフェクションが効果的なBTVレスキューを得るために十分であったことが実証されている。ASHV1の回収については、本発明者らは、一次複製複合体のプリフォームを模倣するいくつかの条件を試験した。まず、図2Aに示したように、3~7個の発現プラスミドのトランスフェクションを実施した。10個のキャップドT7-RNA転写物による第2回目のトランスフェクション後、寒天で重層したBSR単層を使用して、AHSV1レスキューの効率を評価した。最初のトランスフェクションにおける発現プラスミドの異なる組み合わせにより5個のプラスミド(VP1、-3、-4、-6およびNS2)の十分なセットが明らかになり、これをその後のすべての実験全体にわたって使用した(図2A)。培地で重層したBSR単層をCPEについてモニターし、組換えASHV1(recAHSV1)を採取した。レスキューされたウイルスをナイーブBSR細胞において増幅し、力価は4×108PFU/mlに達した。プラーク形態は、AHSV1親ウイルスと類似していた(図2B)。天然のポリアクリルアミドゲル上で抽出されたdsRNAの分析からは、典型的なAHSV1ゲノムdsRNAプロファイルが示された(図2C)。まとめると、効果的AHSV1 RG系では、5個の発現プラスミドのトランスフェクション、続いて10個のAHSV1 T7-RNAランオフ転写物のトランスフェクションが必要であった。
【0079】
VP6/NS4欠損AHSVを相補するAHSV1 VP6を発現する安定的な細胞株
次に、本発明者らは、ウイルスベースの実験を低レベルの封じ込めレベルに移し、機能的および構造的研究を実施するための欠損AHSVプラットフォームを開発することとした。関連のBTVからのVP6のトランス相補能力により、相補細胞株では複製可能であるが、親BSR細胞または昆虫KC細胞では複製不可能なVP6欠損変異ウイルスが開発された。本発明者らは、さらにこの技術を開発し、BSR細胞をpCAG-AHSV1VP6でエレクトロポレーションし、続いてピューロマイシン選択することにより、AHSV1 VP6発現BSR細胞株(BSR-VP6)を作製した。選択したクローンは、低希釈で30継代の間、VP6を安定的に発現していた(図3A)。VP6欠損AHSVの設計は、NS4 ORFの破壊を相補していた。NS4の発現は、BSR細胞におけるBTV複製に必須でないことが明らかであった。これがAHSVの場合であれば、NS4の欠失はさらなる減弱段階を示す。VP6/NS4欠損AHSV1(def-AHSV1)を構築するため、本発明者らは、AHSV1のS9に複数のヌクレオチド変化を導入した。VP6欠損BTVウイルスについて報告されている欠失の代わりに、本発明者らは、VP6およびNS4のORFを破壊するが、得られたS9multistopの長さは保持しているため、欠損AHSV1のレスキューおよび複製に対する遺伝的圧力を最小限にする、S9遺伝子全体にわたる11個の終止コドン(TAAまたはTGA)の導入を行った。def-AHSV1におけるVP6の不存在は、相補細胞株によって相補されることが予想された。
【0080】
BSR-VP6相補細胞株を使用し、5個の発現プラスミドのトランスフェクション、続いて10個のキャップドT7 RNA転写物のトランスフェクションによりdef-ASHV1を回収したが、この場合、S9はS9multistopにより置き換えられていた(図3B)。2回目のトランスフェクション後、寒天を重層したBSR単層を使用し、RNA感染性を評価したが、これはT7 RNAのAHSV1 wtセットに匹敵した(図3C)。培地を重層したBSR単層をCPEについてモニターし、組換えdef-ASHV1を採取した。レスキューされたウイルスは、BSR-VP6細胞株を使用してプラーク精製し、1回の増幅により8×107PFU/mlの力価(相補BSR-VP6細胞株で滴定)に達した。プラーク形態および天然ポリアクリルアミドゲルでの抽出されたdsRNAの分析は、予想されるdsRNAプロファイルを示した(図3Cおよび図4B)。これらの結果から、AHSV VP6がトランスで効率的に相補され得ること、NS4がBSR細胞におけるAHSV複製に必須ではないことが確認された。
【0081】
キメラAHSV粒子の効率的なアセンブリはいくつかのセグメントの再集合を必要とする
再集合するオルビウイルスの能力により、保存されたレプリカーゼまたは内部コアをリコートすることが可能となり、その結果、血清型特異的粒子が生じる。そのような粒子は、ワクチン候補または構造研究および分子研究用の安全なプラットフォームなどの幅広い適用スペクトルを有し得る。これまでに、AHSV VP2を交換すると再集合体ウイルス力価が最大3ログに低減し、複製の低下および/または粒子の不安定性が起こることが実証されている。したがって、本発明者らは、他の8個すべてのAHSV血清型(2~9)について複製の良好な候補を得るために、他の血清型とは異なるセグメントの組み合わせを使用してdef-ASHV1をリコートすることとした。
【0082】
まず、AHSV血清型2~9の正確なコピーセグメントS2(VP2)、S6(VP5)、S7(VP7)、S3(VP3)およびS10(NS3/NS3A)を、配列非依存的方法を使用してクローニングした。9個のAHSV血清型の主要構造タンパク質のアミノ酸配列分析は、予想したオーダーの保存の増加を示した:最下位保存のVP2(同一性13~71%、類似性27~84%)、続いてVP5(同一性75~99%、類似性90~99%)、続いてVP7およびVP3(同一性>98%、類似性>99%)。
【0083】
AHSV1と同様に、T7プロモーターおよび正確な3’末端DNAを生成し、T7 RNA転写物を産生した。欠損ウイルス回収のため、BSR-VP6細胞にAHSV1の10個のT7 RNAをトランスフェクトし、S9をS9multistopで置き換え、血清型に応じて、S2+S6、S2+S6+S7、S2+S6+S7+S3またはS2+S6+S7+S3+S10を使用してdef-AHSV1の類似セグメントを置き換えた。得られた欠損ウイルスの最終評価は、BSR-VP6細胞株(107PFU/ml以上、wt参照株として)に対して実施したプラーク精製ウイルスのプラークサイズ(35℃で2~3日間インキュベーションした後の透明なプラーク)および最終力価について選択した。これらの要件は、改変dsRNAゲノムの組換えおよび不安定性を回避するよう可能なかぎり圧力を最小限にするように選択した。選択基準を満たすのに、AHSV血清型2~9は異なる要件を実証した(図4A)。複製が良好なdef-AHSV8およびdef-AHSV9を開発するには、外殻タンパク質VP2およびVP5をコードする2個のセグメントのみによる再集合が必要であった(S2+S6)。def-AHSV3およびdef-AHSV4の開発は、中間コアタンパク質VP7を含めた3個のセグメント(S2+S6+S7)の再集合により可能であった。さらなる3個の血清型が、4個のセグメント(S2+S6+S7+S3)を用いる再集合によって作製され、def-AHSV5、def-AHSV6およびdef-AHSV7が得られた。このセットは、主要な構造タンパク質殻を完全に置き換えることによって作製された。最後に、血清型2に対する複製の良好な再集合体欠損ウイルスを開発するため、5個のセグメント(S2+S6+S7+S3+S10)を置き換えて相補BSR-VP6細胞株での高い力価を達成する必要があり、それによりdef-AHSV2が得られた。これらの欠損ウイルス(AHSV2、3、4、5、6、7)については、レスキュー効率が低く、プラークの表現型が小さく、104~106PFU/mlの範囲の力価が観察され、上記で示したものより小さいセグメントが再集合で使用される場合は、したがって、これらはその後の試験から除外した。選択したすべての欠損ウイルスの概略図を図4Aに要約する。9個すべての欠損ウイルスを、相補BSR-VP6細胞株においてMOI 0.1で5回継代し、各段階で、試験したストックのいずれもがナイーブBSR細胞で複製できないことを確認した。最初にレスキューされたウイルスストックおよび最終の5回継代ウイルスストックを使用してdsRNAを抽出し、再集合欠損ウイルスの安定性および完全性を評価した。分析したすべてのウイルスは、正確なdsRNAモビリティを実証した(図4B)。さらに、RT-PCRおよびシークエンシングによっても、9個のdef-AHSVすべてにおいてセグメントの確実性が確認された。
【0084】
欠損AHSVはAHSV感受性細胞株においては増殖しないが相補細胞株では高力価に達する
相補BSR-VP6細胞における作製した欠損ウイルスのパネルの増殖動態を決定するため、本発明者らは、低MOIでBSR-VP6細胞を感染させ、感染の24、48および72時間後に力価を測定した。wt AHSV1ウイルスと同様に、9個すべての欠損ウイルスは、相補BSR-VP6細胞における複製が可能であり、107~108PFU/mlの範囲の力価に達し、感染の2~3日後にプラークを形成した(図5A)。
【0085】
親def-ASHV1と8個の再集合ウイルスの両方が正常細胞において増殖することができないことを確認するため、高MOIで3つの細胞株(BSR、KCおよびE.Derm)を感染させ、感染の24、48および72時間後にウイルス力価を測定することによって、それぞれの無効化ウイルスの増殖動態を評価した。得られた結果からは、これらの無効化ウイルスがBSR、KC(昆虫)およびE.Derm(ウマ)の細胞株において増殖できなかったことが実証された(図5B図5D)。遅延複製がないことを確認するため、すべてのdef-AHSV感染細胞(BSR、KCおよびE.Derm)をさらに7日間インキュベートしたが、感染の徴候は検出されなかった。この実験においては、3つのwt AHSV1株:recAHSV1(正確なコピーT7-RNAからRGにより取得したもの)、wtAHSV1(元のAHSV1ストックからの第2BSR継代)、およびAHSVKC(MOI 0.1でKC細胞において2回継代したもの)を使用した。3つのAHSVストックはすべて同様の結果を示したので(データは示さず)、1つだけ(recAHSV1)示す(図5)。要約すると、本発明者らは、9個のすべての欠損ウイルスが相補細胞株において高力価(107~108PFU/mlの間)まで増殖するが、BSR、KCおよびE.Derm細胞においては粒子を産生しないとの結論を出した。これらのin vitroでの結果は、これらの欠損ウイルスが将来的なAHSVワクチン候補として使用される可能性が大きいことを実証している。
【0086】
欠損AHSV1およびAHSV4はIFNAR-/-マウスを同種感染から効率的に防御する
原理の証明として、def-AHSV1および再集合体def-AHSV4を使用し、マウスモデルにおいてAHSV感染に対する防御効率を実証した。これについて、成体IFNAR-/-マウスを、106PFUのdef-AHSV1およびdef-AHSV4で2回免疫化した。ワクチン接種の後、有害な副作用は観察されず、体重は免疫動物と対照動物との間に有意差は認められなかった(すべての群において最大10%変動)。2回目の免疫化の3週間後、免疫動物および対照動物にAHSV1およびAHSV4を皮下チャレンジした。ワクチン接種せずAHSV-4に感染させたマウスは、チャレンジ感染の3日後または4日後に体重が減少し始め、4匹の動物を感染の7日後に安楽死させ(重度の体重減少、粗い体毛、無反応)、2匹の残りのマウスは8日目に安楽死させた。他のすべての群マウスには臨床的徴候は認められなかった(図6A)。
【0087】
RNAemiaのレベルを、すべてのマウスに対して感染の3日後、7日後および10日後に測定した。モック感染マウスではAHSV特異的RNAは検出されなかった。AHSV4に感染したマウスは、AHSV1に感染したマウスを比較すると有意に高いAHSV RNAレベルを有していた(図6B)。このデータはマウスの生存時間と相関しており(図6A)、AHSV1が毒性の低い血清型であることが示唆されている。免疫した動物群において、RNAemiaのレベルは有意に低下した(図6B)。AHSV特異的RNAの分析は、収集したすべての血液試料(Ct26~32)中に存在するハウスキーピングベータアクチン遺伝子を標的とする内部制御系と組み合わせた。
【0088】
RNA抽出および定量用の脾臓、肝臓および脳の組織試料は、材料および方法にて記載されているようにして取得した。前述のデータ(図6A図6B)と一致して、AHSV4感染マウスについてはサンプリングされたすべての臓器で高負荷のAHSV RNAが測定されたが、AHSV1感染群では分析した臓器でAHSV RNAのレベルが低レベル~無レベルであることを実証した。同種AHSVチャレンジ前のdef-AHSV1およびdef-AHSV4によるワクチン接種は、マウス臓器においてAHSV RNAレベルが有意に低下した(図6C)。
【0089】
この研究において使用した防御指標には、体重測定、生存時間、血液および組織のRNAemiaが含まれた。AHSV1およびAHSV4に感染した非免疫化マウスは、検出可能なレベルのRNAemiaを示したが、AHSV1感染マウスは、AHSV4とは対照的に死亡率および体重減少を示さなかった。このため、ワクチン候補の効力を分析する主要な保防御指標としてRNAemiaを選択した。
【0090】
ポニーにおける単一血清型およびカクテルワクチン接種
本発明者らは、AHSV天然宿主、例えばポニーにおけるこれらの欠損ウイルスの防御有効性を評価した。血清型AHSV4(ECRA.A4)ワクチンについては、正式にはDISCとして知られている1つの単一血清型Entry Competent Replication-Abortive(ECRA)ウイルス株、および血清型1、4、6および8については1つの多価カクテル(ECRA.A1/4/6/8)ワクチンを試験し、毒性AHSV4でポニーをチャレンジした。S9における複数の終止コドンの詳細を図11に示す。
【0091】
ウマにおけるAHSV4感染に対するECRA.AHSV株の防御有効性を評価するため、2つの群(AおよびB)のポニーを、1×10PFU(ECRA.A4、A群)またはカクテル用の合計4×10PFU(ECRA.A1/4/6/8、B群)で、それぞれ1×10PFUのdef-AHSVとともに、2回免疫化した。対照動物には非感染細胞溶解物を接種した(C群)。動物数の制限のため(ポニー10頭)、この研究においては1つのカクテルしか試験しなかった。0日目に最初のワクチン接種を行い(「初回」)、21日目に追加免疫ワクチン接種のために同じ用量を接種し(「追加」)、次いで、36日目に動物を毒性AHSV4でチャレンジした。血液試料を定期的に収集し、C群(対照動物)については0日目から44~46日目まで、動物A4およびB4を除くすべてのワクチン接種動物については0日目から60日目まで、ウイルス負荷および中和抗体産生をモニターした。両動物は、102日目まで、できる限り長くウイルス血症についてモニターした。試験中に妊娠したポニーB4は、仔ウマの誕生までウイルス複製をモニターした。
【0092】
ワクチン接種したポニーを0日目から35日目まで日常的にモニターしたところ、予想したとおり、対照動物とは対照的に、AHSV臨床反応を示さなかった(図7Aおよび図7B)。したがって、ECRA.AHSVワクチン株は、動物において有害な作用を引き起こさなかった。またウイルス複製も、動物の血液試料のRT-PCRによってモニターした。図7Bに示したように、0日目から35日目まで、ウイルスRNAは、両群のワクチン接種動物において全く検出できないか、非常に低いレベルで存在しており、対照動物と等しかった。データは、ウイルス複製が2回のワクチン接種後に存在しないことを示した。
【0093】
ポニーにおけるECRA.AHSV株の抗体応答の発生は、まず、標準的なAHSV群特異的VP7抗原ELISA試験によってモニターした。初回のワクチン接種後であっても、ワクチンは動物において免疫応答を誘発し、2回目のワクチン接種後はさらに増強された(図8)。予想したとおり、2つの対照動物C1およびC2の血清はVP7抗体を有していなかったが、A群およびB群のワクチン接種を受けたすべての動物は血清転換され、VP7に対する抗体は、それぞれ、追加免疫注射の7日後および14日後の28日目および35日目に検出することができた(図8)。
【0094】
さらに免疫応答を、ワクチン接種した動物の対照動物に対する中和抗体力価を測定することにより分析した(表1)。ワクチン製剤に含まれるすべての血清型に対する中和は、35日目(チャレンジ前)にプラーク減少アッセイにより試験した。21日目に収集した血清試料は、いずれの血清型に対しても中和抗体(NA)力価が検出された場合、非常に低かった(データは示さず)。しかし、すべてのECRA.A4一価ワクチン接種動物の35日目(追加免疫ワクチン接種の2週間後)に収集された血清は、AHSV4に対してNA力価(16~64)を有していた(表1)。カクテルワクチンでワクチン接種したB群のすべての動物は、ワクチンカクテル中に存在していた4つの血清型すべてに対するNAを有していた。ほとんどが強いNA力価(16~64)を有していたが、数頭のポニーは、いくつかの血清型(例えば、AHSV6および8)に対して128の高いNA力価を生じた(表1)。
【0095】
したがって、新たに開発されたワクチンは、ワクチン接種した宿主において複製されず、効率的な中和抗体応答を生じさせることができる。さらに、カクテルワクチン接種は、4つの血清型すべてに対する中和抗体を産生させ得る。
【0096】
チャレンジ後の中和抗体産生および臨床防御
ワクチンの防御有効性を決定するため、追加免疫ワクチン接種の2週間後、最も病原性が高いと考えられていることから、毒性AHSV4をわずか2×10TCID50で対照動物およびワクチン接種動物をチャレンジした。各動物の免疫応答および臨床徴候をモニターした。AHSV4に対する中和抗体の高力価は、SNアッセイにより、A群およびB群の両方の動物では44日目(チャレンジ後8日目)に検出され、3頭のポニーでは最大256で検出された(表2)。また32までの中和抗体力価も、AHSV6に対してB群の2頭のポニーで、およびAHSV8に対しては3頭のポニーで検出された。チャレンジの24日後(60日目)、AHSV4に対する高力価の中和抗体は両群のすべての動物において依然として検出可能であったが、これはおそらく、チャレンジしたウイルスによって引き起こされた記憶応答によるものである。またAHSV6およびAHSV8に対する中和抗体を誘発したB群のポニーも、60日目に中和抗体産生を維持しており(表2)、このことは、単独で、または混合物として使用された場合の天然宿主におけるワクチン株の強い免疫応答を示している。
【0097】
中和抗体は、対照動物C1およびC2においては検出されなかった(表2)。予想したとおり、両対照動物は、毒性ウイルスによるチャレンジの直後(6~7日)に臨床徴候を、アパシー、高体温および呼吸困難、眼瞼および眼窩上窩の浮腫、ならびに鼻汁を伴って示すようになった。これらの動物は、チャレンジの10日後(C2)および11日後(C1)にそれぞれ安楽死させた(図9B)。両対照動物に対して実施した剖検では、顕著な肺水腫ならびにAHSV感染と一致する心膜および胸膜滲出液が注目された。対照的に、A群およびB群のワクチン接種動物は臨床徴候を示さなかった(それぞれ、図9Aの上図および中央図)。ワクチン接種した1頭の動物A2のみが、わずか2日で(チャレンジの6~8日後)、軽度の循環症状(眼瞼の浮腫、鼻汁および中度の呼吸困難)ならびに呼吸器症状を示した(図9A、上図)。これはおそらく、中和抗体力価が低いためと思われる(表2)。
【0098】
ウイルス複製は、チャレンジ後の血液試料においてRT-PCRによりモニターした。対照群の両動物は、チャレンジの4日後に高いウイルス負荷を示し(Ctが26.9および27.1)、チャレンジ後8日まで増加した(Ctが17.5および15.6)(図10)。これらのデータは、臨床モニタリング中に観察された重篤な症状と一致していた(図9Aの下図、および図9B)。死後動物のRT-PCR分析では、C1およびC2ポニーの心臓、脾臓および肝臓におけるAHSV4 RNAの存在が検出された(Ctは14.85~20.37、データは示さず)。対照的に、A群およびB群のすべてのワクチン接種動物は、毒性ウイルス株でチャレンジした2~8日後、非常に低レベルのAHSV4を示した(Ctは31.4~37.2)。特定の動物のA4、B2およびB4については、チャレンジの12日後、血液試料中にウイルスRNAが検出されたが(Ctは30.1~38.1、図10)、Vero細胞において4回継代した後であってもCPEは観察されなかった(データは示さず)。B4動物は妊娠していたため、他のウイルスと比較した場合、より長期間、その動物血液中のウイルスRNAの存在を説明することができた可能性がある(Ctは最大で36、図10)。しかし、仔ウマは、RT-PCRによって検出され得るウイルスRNAを示さなかった。仔ウマは、最初のワクチン接種後の59日目、おそらく345日(±7日間)の妊娠期間後に誕生した。毒性ウイルスチャレンジが妊娠の322日目(第1のワクチン接種後36日目)に実施され、第1および第2のワクチンがそれぞれ妊娠の286日目および307日目に接種されたことに注目されたい。誕生した仔ウマは、初回ワクチン接種の60日後に検出されたAHSV母体抗体を有し、完全に正常で健康であり、いかなるAHS疾患の兆候もなかった。このデータは、チャレンジした毒性ウイルスが胎盤を通過しなかったことを示唆している。チャレンジの14日後、AHSV4 RNAがA群の4頭の動物のうち1頭(A4)で検出された(図10)。しかし、臨床症状はみられなかった(図9A、上図)。さらに、A4ポニーの血清は、AHSV4に対する中和抗体力価のレベルが、44日目(チャレンジ8日後)の64から、60日目(チャレンジの24日後)の256まで増加した(表2)。まとめると、これらのデータは、ECRA.A4およびECRA.A1/4/6/8ワクチン接種の両方の安全性、および毒性AHSV4に対してワクチン接種動物に付与された臨床上の防御を実証している。
【0099】
概要
アフリカ馬疫ウイルス(AHSV)は、4つの主要な構造タンパク質:外殻タンパク質VP2およびVP5、中間コアVP7およびサブコアVP3を発現する。ウイルス粒子形成におけるこれらタンパク質の役割を研究する効率的な逆遺伝学(RG)系を生成するため、本発明者らは、トランスでのVP6欠損ウイルス相補のための異種VP6を発現する細胞株を開発した。AHSVのセグメント9における、必須複製酵素VP6のORFならびにまだそれほど研究されていないNS4タンパク質のオーバーラッピングORFを、複数の終止コドンを導入することによって破壊した。
【0100】
S9遺伝子の全体にわたって11個の終止コドン(TAAまたはTGA)を導入することによって、本発明者らはVP6およびNS4のORFを破壊したが、得られたS9multistopの長さは保持され、有利には、欠損AHSVのレスキューおよび複製の遺伝的圧力が最小限にされた。
【0101】
並行して、AHSV VP6を発現する細胞株を樹立し、multistop無効化ウイルスのレスキュー時に機能性遺伝子産物の相補を提供した。最終的に、無効化ウイルスプラットフォームの繁殖欠損表現型を確認した後、異なる血清型決定カプシドタンパク質をコードするウイルスRNAセグメントを交換し、AHSVの抗原スペースの大部分をカバーする血清型またはキメラを取得した。
【0102】
したがって、(欠損タンパク質の)相補は、ウイルス毒性の回復に向けての遺伝的圧力を最小限にする安全なAHSVワクチンプラットフォームを表している。特に、複数の終止コドンを導入して(例えば、VP6およびNS4をコードする)AHSVセグメント9のORFを破壊することにより、相補細胞株における継代で、いずれかの突然変異ORFを回復する突然変異S9における変化は示されなかった。また、本発明者らの結果は、9つのすべてのASHV無効化ウイルスが、相補細胞株においてwt AHSVに近い力価で複製され得ることを実証した。同時に、すべての欠損ウイルスは、哺乳動物起源および昆虫起源の他の試験細胞株において無効化された。
【0103】
したがって、本発明者らのアプローチおよび生成した単離ssRNA/ワクチン株は、優れた安全かつ効率的なAHSVワクチンを提供する。実際、本発明者らは、AHSV天然宿主、例えばポニーにおけるこれら欠損ウイルスの防御有効性を評価した。1つの単一血清型(ECRA.A4)ワクチンおよび1つの多価カクテル(ECRA.A1/4/6/8)ワクチンを試験し、ポニーを毒性AHSV4でチャレンジした。ワクチン接種したすべてのポニーは防御され、AHSの重度の臨床症状を発症することはなかった。さらに、多価カクテルをワクチン接種したポニーは、カクテル中に存在するすべての血清型に対する中和抗体を産生し、治験中に誕生した仔ウマは健康であり、ウイルス血症もみられなかった。これらの結果は、これらのECRA株のAHSVに対する新世代ワクチンとしての適合性を証明している。
【0104】
引用文献
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【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10
図11-1】
図11-2】
【配列表】
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